僕の変性期 第3話

第3話

「ミーオちゃんっ。機嫌直してよ。そんなに嫌だったんなら、パンツの件は謝るからさ。」

 天井まで届く本棚に囲まれたテーブルで、拓海が甘えたような声を出す。澪は無視して分厚い郷土資料の本をめくり続けていた。別に研究課題に集中しているわけなんかではない。単に拓海に対して、言葉も交わしたくないほど怒っているのだ。

 この怒りは、単純にエロな悪戯をしかけられた女の子の怒りなんかじゃない。澪は本当はわかってほしかった。下着、特にショーツという、女の子のもっともプライベートな部分に対して拓海が遊び半分で悪戯をしてくることも許せないし、完全に自分が優位に立ったと思って、甘ったれた声をかけてくる男。そんなしょうもない男に、澪の幼馴染がわずか数日で変わってしまったことが許せなかった。

 澪のそんな気も知らずに、調子に乗った拓海はとまらない。浅くて薄っぺらな遊びの波状攻撃が始まってしまうのだった。

「・・・もう、澪ちゃん、思ったより固いよね。もっとオープンに、みんなでハイスクールライフをエンジョイしないと。ねぇ、みんな?」

 聞いていてこっちが恥ずかしくなるような、キャラに合わない台詞を音にした後で、拓海の口元が怪しげに動く。

「イエーイッ! ・・・あれ?」

 さっきまでこちらに背を向けて本を探していた、澪や拓海と同じ研究グループの生徒たちが、満面の笑顔で振り返りざまにVサインを向ける。全員その直後に正気にかえって、居心地悪そうに自分のポーズをゆっくり崩していくのだった。いつもおとなしい悠里などは、青春漫画のように大仰な自分のポーズを見ながら真っ赤になっている。クラスメイトたちも拓海の不思議な声には逆らえないらしい、澪はなんだか、自分の友人たちに申し訳ない気持ちになって顔を伏せた。そして、本を持つ自分の両手も、いつのまにかVサインになっていることに気がついて、いっそう腹が立った。

「こ、こらっ、拓海アンタ、これ以上、みんなまでアンタの玩具にするの、やめなさいよ。アンタそんな子じゃ、なかったでしょ?一応の幼馴染として、私、情けないよ!」

 澪が大きな声を出すと、一瞬、拓海がひるむ。何秒かだけ、以前の気の弱い拓海が戻ったように見えた。澪の視線から目をそらすように、拓海の目が自信なさ気にさまよう。それでもその目は、
 澪の手もとにピントがあった瞬間に、生気を取り戻してしまった。

(あっ・・・、しまった・・・。)

 澪が慌ててVサインを崩すけれど、もう拓海の顔は、にくらしいくらい明るい笑顔を見せていた。

「澪ちゃんだけそんな固いこと言わないで、みんな楽しめるんだからいいじゃん。ほら、ね?スミレちゃん?」

「イエィッ!」

 拓海が口元をボソボソと動かしながら右手をパーにして頭の上に上げると、優等生で大人っぽい顔立ちの中谷スミレが、アスリートのように爽やかに拓海とハイタッチした。

「柚月ちゃんも。」

「ハイッ!」

 童顔で背の低い柚月は、拓海の手の位置に届かせるために、懸命にジャンプした。プリーツの入った制服のスカートがフンワリとめくれあがって、少年みたいな太股を見せた。

「澪ちゃんは・・・。こんなのどう?」

 拓海は右手を下ろして、自分のジャケットを脱ぐと、ワイシャツの裾をズボンから引っ張り出しながら何かをつぶやいている。怪訝そうにそれを見ていた澪は、自分でも気がつかないうちに、立ち上がって同じように制服のシャツを掴んでいた。

「え・・・バカ。何やってんの?・・・ちょっと待ちなさいってば。」

 澪の声が恥ずかしさで上ずる。クラスメイトの駿と祐樹が、小さく口笛を吹いた。彼らはもともとこんなノリだっただろうか?

「研究課題は変更。新しい挨拶を考えるっていうのはどう?こんなふうに・・・。」

 頭の後ろの方で、シャリシャリとした音が聞こえたような気がする。澪は拓海と同じスピードで、シャツを鎖骨まで捲り上げて、図書室の一角で白いブラジャーをさらけ出してしまった。それでも彼女の震える指は容赦してくれない。中指が伸びて、ブラジャーの下のふちにかかると、ゆっくりとブラまで捲り上げてしまう。丸い胸が校舎の少し乾いた空気に直に触れる。背筋のあたりがかすかに震えた。

「おーっ、澪ちゃん。大胆。そんな挨拶あり?」

「園池の・・・、すごい。園池の・・・。」

 はしゃぐ笹尾駿と、一瞬我に返って生唾を飲み込む足立祐樹。拓海が自信満々の表情とやせっぽちの上半身を晒したおかしな出で立ちで一歩、二歩と前進すると、澪も胸を丸出しにした恥ずかしい格好のまま、拓海に近づいていく。二人は、ちょうど間にあった距離の真ん中ほどで、落ち合って胸をギュッと押し付けあった。

「乳首を合わせてご挨拶。どうかな?」

「馬鹿すぎ・・・。アンタ、死んだほうがいいかもよ。」

 拓海が少し体をずらすと、澪は二人の乳首を再びくっつけるために、慌てて追いかける。まるで澪の方がこんな仕草を求めているようだ。

「えへっ。口ではそんなこと言ってるけど、本当はどうなのかな?」

 悔しいけれど、澪の体の変化は拓海には丸わかりのようだ。それも当然。くっつけあっているうちに、澪の可愛らしかった乳首が、痛いほど大きく起立して色づいているのだ。澪は自分の体が簡単に拓海の思い通りになってしまうことが悔しくて歯噛みしたかった。異性の体と接触している乳首から、まるで電流のような快感が体に流れ込んでくる。

「これは・・・、私じゃないから・・。ハンッ。絶対アンタがやらせてることなんだから。」

 自分でもドキリとするほど色っぽい吐息を漏らしながら、美緒はいつの間にか体を少しずつずらしているのが自分の方だということに気がつく。自分の胸の先端を拓海の乳首に押し付けたまま、円を描くように上体を回す。乳首同士がこすれるたびに、澪は背筋をピンッと伸ばして快感に耐えるのだった。拓海の肩越しに、いつの間にかスミレと駿が制服を捲り上げて胸を直にくっつけ合っているのが見える。端正なスミレの顔は、明らかに戸惑いと快感がせめぎあっていた。左の方を見ると、祐樹と悠里が同じポーズで「挨拶をしている」。横から柚月も加わろうとしているのだが、背が足りなくて、シャツを肩まで捲り上げたまま、ピョンピョンと祐樹の胸めがけて跳ねているだけだった。

「澪ちゃん・・・。うちの学校、面白くなるよ、これから。」

「アンタの妄想の中だけでやってよ。あたしを巻き込まないで欲しいんだけど・・・。」

「澪ちゃんのいない、僕の妄想なんて存在しないんだもん。」

 拓海の意地悪な口が音もなく動くと、今までで一番強烈な快感電流がやってきて、澪は卒倒してしまう。倒れながら、自分の恥ずかしいパンツの中に、思いっきり何かを噴出してしまったことをかすかに感じた。悪夢みたいな日々が始まる・・・。

。。。

 クラスのみんな、いや、学校中のみんなが、拓海の思いつきのゲームやルールに疑いもなく、自分たちが操られてるとも思わずに従うようになると、澪をとりまく生活は、すっかり豹変してしまった。美緒たちの教室はまず、クラスのチームワークを高めるために、お互いの「育ち具合」を見せ合うことにした。ホームルームで、なんと澪がそのことを提案してしまい、満場一致でお互いの体を見せつけあい、確認しあうことに賛成した。男子も女子も、全員その場で素っ裸になって、隣の席の生徒と発育度合いを確認しあう。みんなで決めたクラスの活動だから、誰も拒否したりなんて出来ないけれど、まだおたがいに正気が残っている間は、緊張したりモジモジしたりしながら、ゆっくりと隣同士の「大人になり具合」を両手で直接確認した。

 中学3年にもなると、男子も女子も、ほとんど下の毛も生え揃っていて、体にはっきりと男女の特徴があらわれつつある。男子生徒は思う存分、普段隣で一緒に勉強している女子生徒の胸や尻の唇の感触を確かめ、下の毛に隠された秘密の場所を調べつくした。女子生徒たちは、急に自分の胸に沸いてきた好奇心や衝動のおもむくままに、男子の一番特徴的な部分を、自分の手や舌や、さっき荒っぽく調べられた割れ目を使って、大きくしたり小さくしたり、ニガくて粘っこい汁を出させたりして楽しんだ。

「今度は男の子たち、一つずつ、前の席にずれましょう。」

 全裸の男女の中で一人、成熟した大人の女性の体を拓海に弄ばれながら、吉尾洋美先生が指示を出すと、名残惜しそうに男子生徒が前の席に移動する。新しいパートナーとの発育チェックが始まる。股から血を出している女子も少なからずいたが、誰一人、痛みは感じていないようだった。みんな、だんだんと目が怪しく潤んでくる。全裸のままで四つん這いになったクラスメイトたちは、自分の舌と性器とで、おたがいの体をベトベトにしながら悦ばせあうことに没頭していく。3人目の確認が終わったころには、机を教室の後ろに下げて、みんなでフォークダンスのような輪になって順繰りに異性の体を貪るようになった。体は育っているとはいえ、まだ中学生の彼女たちが教室中であえぎ声を上げる。ここまで必死で正気を保ちながら体を重ねてきた澪も、ここまでくると発情しきった一匹の獣になりきって、媚びるように腰を振ることしか考えられなくなってしまった。

(あーっ、もうっ・・・。駄目っ。我慢できない。みんな・・・大好きっ!澪をもっと、気持ち良くしてーっ)

 これまで澪が、少し好感を持っていた男子、数学の試験結果を密かに競って、勝手にライバル視していた男子、ガサツな物言いに嫌っていた男子、不潔感が漂っていて内心避けていた男子。みんな平等に、心と体とで喜ばせてあげた。目が合ったら抱きしめあって、呼吸が続く限りキスをして、おチンチンをしゃぶりあげて、自分の大切な場所に迎え入れてあげた。頭の奥がシャリシャリと音を立てると、自分がこれまで想像もしない、聞いたこともないような、どぎつい体位やプレイが、自然に脳裏に浮かんでくる。戸惑うこともなく、浮かんできたそのイメージに従って男の精を搾り取った。

 どうも澪のことを好きらしい・・・。そんな噂がかつて流れた西野君が、ずれた眼鏡を放り投げて澪の体を責め立てる。もし交際を申し込まれたら絶対に断ろう。そう思いながら、執拗に澪のお尻を広げて、きれいではない穴を舐めまわす西野君に対して、今日だけは、されるがままにお尻を高く突き出した。

 いつの間にか、澪は自分が男子と接合したまま、体を抱え上げられて突き立てられていることに気がつく。

「駅弁スタイルです。今日のフィナーレは駅弁フェアで、みんなで盛り上がりましょう。」

「オーッ」

 男子たちが思いのほか、荒々しい雄たけびを上げる。

「ワッショイ、ワッショイッ!」

 応援するように、女子たちが、抱え上げられたまま声を出す。リズムに合わせて下から突き上げられながら、女子はヤケクソのように掛け声を出して快感を噛み締める。10組以上の駅弁ペアが輪を作って、少しずつ回り始める。髪や様々な大きさの胸をブンブンと揺すりながら、美少女たちは口の端から涎がたれるのもかまわずに、声を張り上げた。

「ワッショイ、ワッショイッ。」

 何度目の昇天だろうか?狂乱の喧騒の中で、澪は柔道部の男子にガクンガクンと突かれながら、また果てた。

 翌日の澪と拓海のクラスは朝から、お通夜のように重い空気だった。全員酷い筋肉痛に苦しめられている。澪は顔を上げる気にもならない。うっかり顔を上げて、男子と目でも合えば、すぐに昨日の彼の精液の味が口に戻ってきそうな気がする。おたがいの昨日の狂態を思い出すと、女子とも目を合わせたくない。教室の中でただ一人、溌剌としていたのは、澪のにっくき幼馴染だった。

「みんな、筋肉痛は、動いて治す!若いって素晴らしいよね。」

 痛む腕の筋肉を気にしながら、澪が両手で自分の耳を塞ごうとする。それでも拓海の腹立つ声は、鼓膜を通り抜けて彼女の脳まで届いてくるようだった。

 『筋肉痛なんて気にしない。はやく下着姿になっちゃって、陽気にエアロビクスでも始めよう。』

 澪が心の底からそう決意した時、クラスメイトたちもほぼ同時に起き上がっていた。

。。。

 日常がガラリと変わったのは、澪のいる3組だけではなかった。

 1組は昨日から、女子の制服がピチピチのTシャツ一枚に変わっていたらしい。白地のシャツには胸元に黄色いカエルのプリントがついている。みぞおちから下は全員スッポンポンだが、拓海の好みのタイプっぽい女の子だけが、下の毛にリボンを括りつけていた。学級委員の冴島さんは器用にも、陰毛を何週か、三つ編みにして小さいリボンをつけている。1組の女子は全員、移動教室の時はカエルみたいに両手を廊下につけて、ピョコピョコと跳ねて移動した。膝を開いて跳ねる彼女たちの股間は完全に無防備に、他クラスの男子たちの目を釘付けにしていた。1組の時間割を自分のクラスの時間割りよりも真剣におぼえようとする男子までいた。

 2組の生徒たちは、ブルマー1つで生活するようになってしまった。しかし、上半身が全裸の状態で始終校舎をうろついていたら、若くしてバストのかたちが崩れてしまう。心配になった優しい男子たちとの相談の結果、2組の女子生徒は、ブルマー一丁で生活している間、極力長い時間、近くの男子たちに交代でオッパイを後ろから持ち上げておいてもらうことになった。移動中や放課時間、部活動の途中などは、後輩の男子にもお願いして、オッパイを支えてもらうことになった。根気の要る作業だったが、男子生徒たちからの不満はあまり聞こえなかった。

 4組の女子は急に乾燥肌を気にする子が増えた。特に乾燥が気になる股間の部分に、ローションや蜂蜜、男子生徒の唾液などをつけて湿らせていないと気がすまない女子で溢れ帰り、4組付近からは常にクンニを懇願する女の子たちの声が響いている。

 5組は逆に、アソコが湿って蒸れることを心配する女生徒だらけだ。みんな当然のように下の毛を剃ってツルツルにしているし、パンツをはくなんて論外。時間さえあれば、両足を広げてアソコを太陽に向けて、日向ぼっこにいそしんでいる。実家がお金持ちで有名な美少女、瀬野水穂ちゃんも、5組にいたばっかりに、お嬢様育ちには全然似合わない、ノーパン、ガニ股でスカートを腰までまくって廊下を歩いてる。彼女のこんな姿を初めて見る生徒はみんな、ポカンと口を開けて見守ることしか出来ないのだけれど、本人はいたって通気性の良さに満足気だ。

 偏差値が高く、良家の子供たちが通っていると評判だった私立中学が、3年生から順番に秩序を崩壊させていくようだった。拓海の力は学校中だけではなく、敷地の周囲にまで及んでいるのだろうか、明らかに異常な事態が起きているのに、近所で問題になるようなこともなかった。

。。。

「あの・・・、足立君・・・、ゴメンね。もうちょっと我慢できるかと思ったんだけど・・。」

「しょうがないよ・・・。園池も、我慢しすぎると体に毒だし・・・。」

 拓海と澪のいる、3年3組も、当然のごとく異常な習慣が定着していた。女子トイレが、運動場の朝礼台一つに限定されてしまったのだ。体育の授業の準備を始めている下級生たちの視線に気づかない振りをしながら、園池澪が朝礼台の端で脚をMの字に開いて、足立祐樹の号令を待った。

「じゃ・・・、言うよ。3年3組、園池澪、放尿5秒前です。4秒前、3秒前、・・・2、・・・1・・・、発射。」

「はっ・・・、ぁぁぁ・・・。」

 放物線を描いて、朝礼台の上から、運動場の砂の上にタタタタッと尿が落ちて飛沫を跳ね上げる。

「ジョー・・・、オシッコ、ジョーーーー。」

 濃い赤の色に染まっている澪の顔が、ほんの少し安堵に表情を緩ませる。口から思春期の乙女とは思えないような恥ずかしい言葉を出しているのだが、尿を我慢する苦しさから解放された安心感からか、さすがの澪もホッとした表情を見せている。

 何度手伝ってもらっても、このスタイルは澪には慣れない。女子トイレが朝礼台になっただけではない、3組の女子はみんな、3組の男子に号令と後始末をお願いしなければ下の用が済ませられない体質になってしまっていた。時々、準備もお願いもしていないのに、何人かの悪戯好きな男子は号令をかけてくる。授業で発表中の時でも、女子同士の会話に熱中している時でも、好きな男子と校内を散策している時でも、休日にレコードショップでバッタリ会った時でも、3組男子に名指しで号令をかけられると、条件反射のようにその場で放尿を始めてしまう。それも、情けないセリフを口にしながら・・・。そうなったらもう、男子と一緒に笑うしかなかった。
(大の方の号令じゃなくて、本当によかった。)
 そう思うしかない。

「ゴメンね、足立君。ありがと。」

 放尿後に、ティッシュで澪の股間をきれいに拭きあげてくれる祐樹。ここまでが男子の仕事。女性を労わりながら面倒見る、ジェントルマンになるためのクラスルールだ。

「いいよ・・・。その、またしたくなったら言ってよ。別に俺、大の方でも気にしないし。」

 ありがたいような、迷惑なような・・・。
 澪はため息をつきながら、あいまいに頷くと、足を開いたまま、朝礼台の上で立ち上がった。スカートの裾は胸もとまであげたままだ。

「・・・よいしょ、ほい、これでおしまい。」

 祐樹が、澪の左の足首を通させて、ショーツを上げてくれると、やっと澪はスカートの裾を下ろせる。

「ありがと。・・・じゃ、このあと英語、小テストだよね。・・・急ごっか。」

 さっきまでの異常な関係が嘘だったみたいに、二人のクラスメイトは少し距離を置いて走る。いつも、体も心も自由になってからが、一番恥ずかしくて微妙なタイミングなんだよね・・・。澪は思った。

。。。

 1週間も立たないうちに、美人で生徒たちの憧れだったはずの、先生たちまで、制服を着用するようになったり、異常な教育を実践するようになってきた。生徒指導担当だった高遠先生は、「生徒の非行の兆しは精液・愛液の味の変化に最初に現れる」という奇妙な信条を掲げて、ある日から校門の横で、通学してくる生徒たちをランダムに指定しては、フェラチオ、クンニリングスでチェックし始めるようになった。すぐに先生は年頃の男子生徒たちの相談相手として大人気の存在になった。

 控えめだけどおしとやかな性格で、隠れファンが多かった沙耶先生は、シースルーで淡いピンク色の長襦袢一枚だけが制服になってしまった。薄い布一枚の下に木目の細かい肌を透けさせながら、しずしずと教室に向かう、少し恥ずかしそうな先生の姿を、すれ違う男子も女子も、息を飲んで見送る。お尻の谷間もくっきりと見える後姿からは、中学校にはありえない、艶っぽい色気が漂ってくる。教室に入ると、金ダライに水をはって、思わせぶりに帯を解く沙耶先生。ハラリと肌着を脱ぎ捨てると、金ダライの中にチャプンと腰を下ろす。彼女の担当教科は「行水しながらの古文授業」。季節的に1時限まるまる水浴びしているのはちょっと辛そうだけど、情緒あふれる美人の行水姿を見ながらだと、生徒たちもわりとスンナリ、古典の世界に入っていける。生徒が教科書を音読している間は、沙耶先生は股間を洗う動作から、自分を喜ばせる動作に移る。せつなそうなあえぎ声を伴奏に、生徒たちの古文の音読は意外なまでに上達している。

 サトミ先生の制服は「浅草サンバカーニバル」になっていた。金色のキラキラしたビキニ。ハイレグの後ろは伸びた輪ゴムみたいに細いTバック。優雅にピアノをひく姿が、品があってとても素敵だった音楽の先生が、今では大きめの胸やムッチリとしたお尻を放り出して、ブルンブルンと震わせながら、迫力のステップで運動場を練り歩いている。放課後は彼女が指導していた合奏部の生徒たちも一緒になって、肌もあらわな衣装で踊り歩く。陽気にホイッスルを吹き鳴らす先生も、少女から大人に変わる途中の華奢な体を見せびらかして踊る女生徒たちも、みんな満面の笑みで運動場を沸かしている。汗だくになるまで踊り狂った後は、男子生徒も交えて、性のカーニバルの開催へ・・・というのが、ここ一週間続くサトミ先生と合奏部のルーティーンだ。

 部活動もずいぶん様変わり。陸上部が「ストリーキング部」に看板を変えたのを皮切りに、次々と伝統の部活が変貌してしまった。茶道部は「荒縄亀甲縛り・浣腸責め部」に、英会話クラブが「洋モノ・ハードコアポルノ製作委員会」に、合唱部が「無料おっぱいパブ(本番あり)」に、テニス部が「ペニス部(ダブルス:前と後ろから)」へと変わってしまった。みんな活動は大きく変貌を遂げたが、大会に向けて全力で修練を積む情熱だけは変わらずにいた。澪は通学するたびに、朝練の光景が一つずつ、変態的に変わり果てていくのを、頭痛をこらえながらやり過ごした。それでも、部活に専念している生徒たちの、爽やかそうにかく汗は、今日も変わらず、朝日に輝くのだった。

「澪、オハヨッ!」

「お・・・おはよう。」

 トレンチコートの前をはだけて裸を見せながら、ストリーキング部のカズミが颯爽と走っていく。その後ろを「1、2、1、2」と声を合わせて、全裸や半裸の後輩たちが元気よく駆けていく。

「あ、澪ちゃん、おはよー。」

「お・・・は・・・よ・・・。」

 今度は旧茶道部の一行が澪を追い越していく。

 躾に厳しい家庭に育った、純和風美少女の柚月は茶道部のマスコット的存在だったはずなのに、今は可憐な裸を縛り上げられて、お尻にプラスチックの容器を差し込んだまま、ピョコピョコと飛び跳ねていく。茶室から教室へと移動している途中のようだ。両手を後ろで、さらには両足首まで荒縄で縛られているので、移動に時間がかかるようだ。朝練は早めに切り上げているらしい。柚月の後ろに何人かの後輩が、同じように飛び跳ねて校舎を目指していく。跳ぶたびに、お尻から不穏な破裂音を出していく子もいる。

 清楚な雰囲気と可憐な仕草で女子たちの憧れだった、茶道部が、澪の中でガラガラと崩れ落ちていくのも知らずに、柚月たちは充実の笑顔で教室へと跳ねる。澪は朝から頭が痛い。

「ねぇ聞いた?澪。今度、美術部が、ボディペインティング部になるんだって。どんどん前衛的なアートに挑戦していくみたいだよ。楽しみじゃない?」

 横を歩く拓海が、得意気に話す。
 澪は本当はそんなことしたくないのに、毎日拓海と手をつないだり腕を組んだりして、一緒に登校している。

「アンタはいつまでも楽しそうね。私はもう、学校がどんなにおかしくなっても、慣れちゃったよ。アンタもこんなこと、早く飽きて、みんなを元に戻し・・・。」

「あっ・・・さすが澪。僕の気持ちを全部お見通しみたいだね。」

 澪の話の途中に、拓海が屈託のないトーンで割り込んでくる。

「そろそろ、学校の中だけでふざけてるのも飽きちゃって・・・。
 しばらく二人で学校休んで、街でデートしない?
 僕がこんな力を持ってる、今の時期だけは、この街ももっともっと面白く出来ると思うんだ!」

 澪の視界が暗くなったような気がした。学校だけじゃないの?私の街が・・・、こんなエロガキ一人に、玩具にされちゃう・・・。

< 第4話につづく >

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