エスパーコース2年生 後編

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「んー。ケイゴ、人妻の人形遊びって、結局どう?」

 マサトが、少し単調な声を出す。自分の感情を表さないように、出来るだけニュートラルに聞いているのは、優しさのつもりだ。

「ぶっちゃけ、俺はもう飽きたぞ。」

 リョースケはマサトの言いたいことを良く分かっている。

「いや、こっから、もう何段階か、深い世界があんだよ。」

 マサトの目からは、ケイゴは引くに引けなくなって、強がっているように見える。高級タワーマンションの28階は外の景色はとても良いが、室内はなかなかのカオスになりつつあった。

 もともとケイゴが目をつけて(前からマインドハックを繰り返して?)手懐けていた、セレブ奥様のカズヨさんは、タイミング良く、同じマンションの若奥様たちを呼んで、ホームパーティーを開いてくれていた。そこに割り込んだ悪ガキ5人組が、超能力というチートで奥様たちを瞬時にお人形に変える。若くて綺麗で、適度に熟しつつあるお姉さんたちを、意志の無い肉人形に変えて、服を脱がしたり抱き枕がわりに密着したり、同じポーズを取らせて体形を比較評価したり、好き勝手やっているうちは良かった。しかし、ヨーヘイが最初に単純な人形遊びには飽きてしまい、ただのダッチワイフ相手のようなセックスを始めると、リョースケもお相手の意識を目覚めさせて、自由のきかない体と困り果てる顔とのギャップを楽しみ始める。すぐにお洒落なリビングルームは、「単純に人妻を好き勝手に弄ぶ遊び場」に変わってしまった。

 部屋の持ち主のカズヨさんは今、ヒトキに囁かれるままに、自分自身のことをルンバだと思い込んで、作動音を立てながらフロア全体をオッパイとアンダーヘア、そして自分の舌で、掃除して回っている。壁に頭をぶつけたり、誰かにお尻をペチンと叩かれると方向転換するロボットのような存在。「カズヨ」と誰かに声をかけられると、動きは止まらないものの、意識が半分戻り、自分のやっていることを理解するようで、声の作動音が恥ずかしそうに曇る。「ルンバ」と声をかけられると、再び意識を失って完全な自動掃除ロボに戻るようで、声に張りが出る。いつもこうした、1アクセントを忘れないのがヒトキだ。

 ウェーブのかかった栗色の髪がゴージャスなレイカさんは、ソファーに両手をつくようにしてブリッジの姿勢。全裸で背筋を反ってアーチを作っているが、張りのあるオッパイはまだそのボリュームを主張している。ソファーの上、背もたれに体重を預けて立っているヨーヘイが、アゴを上に、髪の毛を下にしたレイカ奥様のブリッジフェラを堪能している。こちらはお相手の人形が意識があろうがなかろうが、どうでも良いらしく、アクロバチックな口内奉仕の感触だけを噛みしめている。ヨーヘイはいつもシンプルでスケベだ。そのレイカさんの反りかえって突き出された陰部に顔をつけているのが、上品そうな身だしなみ(をさっきまでしていたはず)のキョウコさん。アロマとお香の教室に通っているとのことだったので、鼻をレイカ奥様のアソコに深く突っ込ませている。キョウコさんが呼吸をちゃんと出来ていることは、レイカさんの陰毛のそよぎかたでわかるから安心だ。こちらはリョースケの仕業だろうか。体は全裸で四つん這いのまま金縛りにあっていても、意識は戻してあるらしく、体がプルプルと震えている。

 体の自由を取り戻して、普通にお喋りをしているのがチヒロさんとサトコさんだ。この2人は今、マサトが遊んでいる。

「ほら、こうやってグロスをベッタベタにつけると、チヒロさんの品のないイヤラシサが素直に表現できて、いいでしょ? オトコにもっと色目を使いやすくなるように、シャドーもどぎつい色にしよっか。」

「サトコさんはもっと田舎者っぽさを隠さずに出した方がいいと思うから、眉毛はお海苔みたいにぶっとくしましょうね。お鼻の下に・・・眉かきで鼻毛も描いちゃっていい? ・・・あ、すっごく自然。前からこうしてたみたい。サトコさん、良く似合うよ~。これからも毎日、この顔でお料理教室に行かれるのはどうかしら?」

 チヒロさんとサトコさんは、体の自由を取り戻しているが、周りのことは全く気にならない、2人だけの世界にいて、2人でお互いの顔にメイクを施し合っている。2人は表面上仲の良いお隣さんなのだが、マサトのマインドサーチによると、意識の底ではかなりドス黒い不満をお互いに抱えているようなので、この場を使って2人が無意識のうちにそれを発散するように仕向けている。仲良しの笑顔を見せあいつつ、2人のセレブ奥様たちはお互いの顔をキャンパスにして、かなりドギツい言葉を投げかけあい、互いの顔に落書きのようなメイクを塗りたくっている。タワーマンションに住むハイソな奥様たちも、裏では色々溜めこんでいるものもあるようで、2人とも心底楽しそうに、優雅な口調でけなしあいながら相手の顔をグチャグチャにしていた。化粧が服にかからないように、2人とも上半身は裸、パンツは膝上まで下ろさせてメイクをさせ合っているのだが、チヒロさんは床に散らばっているサトコさんのお洋服をさりげなく踏んでいる。このへん、意識があるのかないのか・・・。マサトにとっては、とても勉強になる教材だった。

 新婚で一番年下のユメコさんには、ヒトキがまとわりついて、耳元で色々囁いていている。ユメコさんは頷きながら、裸で床に女の子座りの体勢で自分のワンピースを手に取ってハサミを入れている。床にはカップの中央に綺麗にハサミで穴を空けられたブラジャーと、紐のように細く切られたショーツ。ワンピースも胸の部分にハサミが入れられているので、お嬢様っぽい雰囲気のユメコさんの日常ファッションを変えさせようと、ヒトキがあれこれ粘着質な指示を植え付けているのだろう。

「お前ら、やっぱ浅い。幸せな結婚生活を満喫してる奥様を、瞬時に意志のないお人形に変えて、自分の欲望のバケツみたいに弄ぶ。そして後からくる肉体的満足感と精神的な虚しさ、甘い罪悪感と戦う。これが、本物のわかる男の楽しみだよ。」

 ケイゴは強がっているのか、本当に開眼しつつあるのか、まだ辛抱強く、2体のお人形で遊んでいた。満面の笑顔でバンザイポーズをしているのは、お着換え中のチカコさん。服もカップ付キャミも、頭と両ヒジまでたくし上げられている。ワキの処理が少し甘くなっていて、白くて華奢な腕とスベスベしてそうな肩の下、脇の下が青くなっている。こんなところを曝け出す予定が全くなかったのだろう。

 隣で薄っすら微笑んでいる、ショートカットのミサさんは完全な全裸でモデルのような決めポーズ。均整のとれたプロポーションと美乳が際立つ。この素材は確かに、人形遊びも適しているような気がする。

「見てみ。」

 ケイゴがミサさんの右のオッパイを、包み込むように揉む。

「こんにちは、私、ミサちゃん。ミサのオッパイは87センチ、Cカップ。旦那様に触ってもらったのは、先週の金曜日なの。仲良く遊んでね。」

 可愛らしくも甲高い声で、ミサさんがモデルポーズのまま喋った。顔は薄っすらとした微笑みのままだ。

「ほら、ケイゴももう、おかず入れ始めてんじゃん。・・・やっぱ飽きてきてるんだろ?」

「うっせぇなぁ・・・・。人形のまま遊び続けるってのは、・・・やっぱ、主人公キャラが凄いヒロインに思い入れを持ってるか、作者の圧倒的な筆力が必要なんだよっ。」

 ケイゴが逆ギレのような口調で言い捨てる。そろそろ、遊びの趣向を少し変える時間のようだった。

「じゃあ、レイカさんに近所のレンタルビデオ屋で借りてきてもらったAVのディスクがこの袋の中にあるから、奥様たちは全員、順番に袋に手を入れて、DVDを一つだけ取り出してね。アンタとアンタは2人で一枚にしよっか。パッケージ見て、袋に戻したりしたら駄目だよ。・・・その後は、わかってるよね? 全員自分のうちに帰って、DVDを再生してね。時間あんまりないから、セックスシーンをサーチして、そこだけ見て。俺たちのうちの誰かがお宅を訪問するから、奥様たちはお客さんが家に入った瞬間に、今まで見てたAVの主演女優になりきって、AVの内容を再現しよう。逃げたり抵抗したり出来ないのは、わかってるよね? ・・・ま、やれると思ったら、出来るだけジタバタしても構わないけど。」

 ケイゴは準備良く、AVが何枚も入った袋を持ち出して、スラスラと遊びの内容を説明する。どう考えても、これは初めての試みではない。きっとケイゴ自身、前から単純な人形遊びではネタが尽きていたのだろう。人妻ナントカ日記という作品ほどの情熱、持久力と技術を持ち合わせていないと、こういうことになるようだ。

 全裸の奥様たちは、意識は戻したものの、エスパーたちに見入られると、抵抗することも逃げ出すことも出来ない。みんな渋々、自分の順番が来ると、袋に手を突っ込んで、恐る恐るDVDのパッケージを引っ張り出す。

「ヤッ・・・なにこれ・・・。」

「ひっ、ヒドイ・・・、こんなの・・・。」

 ノーブルな顔立ちが歪み、しかめられる。みんな、嫌悪感丸出しで、パッケージの女優さんの痴態から目を背ける。しかし30分後にはみんな、それぞれの自宅で、このパッケージの女優さんそのものに成りきって、エスパー高校生をお出迎えするのだ。パッケージに写っているのは未来の自分の姿。それがわかっているから、余計に寒気がするのかもしれない。

 じゃ、カズヨさんから順番に、自分の引いたエロビのタイトル教えて。

「わ、・・・私、進藤カズヨは、『人妻ソープ ノーNGのおもてなし in Tokyo』です。」

「西明寺レイカは・・・、『新人OL深夜残業中のイマラチオ』です。・・・・は、働いたこと、ないんですけど・・・。」

「清川キョウコです。私は・・・、『淫乱熟女の童貞踊り食い』・・・熟女って・・・。踊り食いって・・・。・・・最悪。」

「蔵池チヒロと賀川サトコは、『ハードコアレズSMシスターズ』のvol 26です。」

「どっちがS役なの? ・・・うわっ・・・交代交代なんだ・・・。」

「西森ユメコは、『ローションパラダイス2017』です。・・・おうち、今朝お掃除したばっかりなのに・・・。ぐすん。」

「三笠チカコは『メロンちゃんのファン感謝祭バスツアー』・・・なんですが、先に、ムダ毛の処理だけ、済ませてもいいですか?」

「経堂ミサは、『団地妻、汗まみれの痴情』です。・・・だ、団地・・なんですね・・。あと、痴情・・・。はぁ・・・。」

 全員、自分のオッパイや股間を隠したくて手がモゾモゾしているけれど、恥ずかしいところを隠すのは禁止しているので、所帯なさげに片手が体を彷徨っている。ご主人にだけ捧げるつもりの大切な部分を隠そうと、足がクロスしたり体をくねらせたりしながら、手にはどぎついDVDを持って、絶句したり困惑したり。ある程度、感情を自由にさせながら、行動や『やらなければいけない』ことの義務感、責任感、(ついでにやりがいも?)の方はしっかりマインドハックで縛ってあるから、人妻それぞれ、反応には個性が出るが、やることはみんな一致している。

「それじゃぁ、みなさん。30分後の変貌ぶり、全力のパフォーマンスを楽しみにしています。解散っ。」

「ハイッ。」

 個性豊かな奥様方の声がぴったりと揃う。服を抱え込んで、出来る範囲で体を隠しながら、美人妻たちの健康的なストリーキングダッシュ。全員、手にしたDVDを持ち帰って、30分後の自分の姿をTVでじっくり勉強する。中には、本職の女優さんを凌駕する絵面が出てくるかもしれない。

「・・・ケイゴ・・・。お前、ずいぶん手馴れてんな。・・・やっぱ、お人形遊びっていっても、お前には無理が・・・。」

「うっせぇな。色々試して成長すんのっ。お前らも、嫌なら遊ばせないけど。文句ない奴は、ここの名簿にさっきの奥さんたちの部屋番書いてあるから、ジャンケンして誰が、誰の部屋行くのか決めっぞ。」

「ハイッ。」

 こちらも綺麗に声が揃った。文句のありようがなかった。

。。。

 鍛冶屋マサトの超能力が発現したのは12歳の時。エスパーコースのクラスメイトも10歳から14歳までの間に目覚めたという例が7割くらいを占める。マサトの場合、最初それは静電気のように感じられた。下敷きで頭を何十回も擦ると、髪の毛が下敷きに吸いつく。その十倍くらいの静電気が、朝起きたばかりのマサト12歳の全身の肌から湧き出ている感覚があった。体中の産毛がピリピリとその静電気で毛羽立てられる感触。今でもマサトが一時的に超能力スランプになると、思い出そうとするのはその感触だ。夏なのに、マサト少年(12歳)の静電気は日増しに強くなっていった。同時に、友人とプロレスごっこをしたり肩を組んだりしていると、幻聴のように彼らの声が聞こえてくるように感じる。不意に『もうギブ、やめてくれよ』などと、強くマサトが強く思った時に、妙に級友たちが聞き分け良く、タイミング良く、従ってくれるようになってきた。なのでマサトが最初に超能力を行使した対象は、残念ながら可憐な美少女などではなくて、暑苦しくてうっとうしい、クラスのプロレスごっこ仲間たちだったということになる。

 初めて異性にその『力』を試したのは、2軒離れた白い家に住んでいたアヤカお姉ちゃんに対してだった。その時、アヤカお姉ちゃんは高校1年生。小学生のマサトと一緒に遊ぶことは、もうずいぶんと前から無くなっていた。(あの頃のアヤカお姉ちゃんの年齢を、マサトも、マサトのクラスメイトの女の子たちも超えているというのが、意外な気がする。マサトの初めての相手は、記憶の中で、いつもずいぶんと大人に感じられる。)全身をピリピリと覆う、奇妙な静電気と鼓膜をかすかにくすぐるような、シュワシュワという幻聴を気にしながら、マサトは夕方に帰宅してきて、下校中のアヤカお姉ちゃんと一緒になった。不意にこれまでになく、静電気が大量に吹き出してきた感覚。気がついたら、マサトはアヤカお姉ちゃんの上半身を自分の『静電気的なもの』で包み込んでいた。

 その時のアヤカお姉ちゃんの、ボンヤリと遠くを見るような虚ろな目。触れたらそのまま倒れてしまいそうな、力の抜けきった弱々しい立ち方は、今でもマサトの心をくすぐる、不思議と怪しげな魅力に満ちた記憶になっている。

『アヤカお姉ちゃん。・・・パンツ見せて。』

 近所の綺麗なお姉さんが最初に超能力を行使した異性であるということは、マサトにとって恥ずかしいことではない。しかし、異性へのマインドハックの初体験が『パンツ見せて』だったというのは、なかなかに恥ずかしい。クラスメイトの女子にも記憶探査の授業中に見つけ出されて以来、よくネタにされている。もっとも、異性へのマインドハック初体験は、こういった子供じみた、ちょいエロな指示だったというエスパーは少なくない(はずだ)。

 アヤカお姉ちゃんは、ボンヤリと遠くを見たまま、スカートの裾に手を伸ばして、ゆっくりと紺色のプリーツスカートを捲り上げて、パンツを見せてくれた。濃い赤のリボンを前にあしらった、白地のシンプルなショーツ。今では女性用の下着なんて見飽きていると自分では思っているが、このシンプルなパンツが深い紺の制服と白くて長い足の間から顔を出してきた光景は、なかなか鮮烈な記憶として、マサトの脳裏に焼きついている。喉がカラカラになっていた感覚。そして蝉の声に混じった、シュワシュワとうるさい精神波の聴覚干渉まで、その光景とワンパッケージになって覚えている。アヤカお姉ちゃんはポカンとした表情で、力なく口を少し開けていた。黒目だけが、ほんの少し震えていたような気がする。しばらくスカートをめくったままの姿勢で、ユラユラと立ち尽くしていたお姉ちゃんは、やがてマサトが心の中で指示すると手をスカートから離して、『気をつけ』の姿勢になる。右手を挙げたり、左手を挙げたり、両手を挙げたまま右足も上げたり、マサトが心で念じたままに動いてくれた。最後にマサトに近づいて、キスをしてくれた。今から思うと、唇同士を触れ合わせただけの、軽いキス。それでも、マサトにとっては特別なファーストキスの記憶だ。(そして記憶探査の実践授業の後では、クラスメイトの女子たちの定番のイジりネタだ。)マサトが興奮してキスの感触だけに意識を集中させていると、不意にアヤカお姉ちゃんの手に力がこもって、マサトの胸をドンッと押しのけた。お姉ちゃんは涼やかに整った顔を真っ赤にして、焦っていた。

「私、何してるんだろ。ゴメンッ、マサト君。」

 いつも落ち着いて、大人びた雰囲気だったアヤカお姉ちゃんが、その時はパニックになっていて、マサトに一言謝ると、ダッシュでお姉ちゃんのうちへ入っていった。後日、マサトはマインドハックしていた時に、アヤカお姉ちゃんに自分の口で告白させる。これはお姉ちゃんにとっても、ファーストキスだったのだ。

 翌日、クラスメイトの男子でもう少し『力』の使い方を試したうえで、マサトは夕方、アヤカお姉ちゃんにもう一度会いに行った。その時のアヤカお姉ちゃんの複雑な表情。居心地悪そうな、バツの悪そうな、そして恥ずかしそうな気持の入り混じった表情。それが3秒でダランとした無表情に変わる。マサトは発現から1週間で、マインドウェイブで相手を包み込んでマインドハックまでスムーズに繋げることが出来るようになっていた。相手の精神の二層目くらいに自分の意識を留めると、相手の感情や思考がこちらに流れ込んでくる。そこからさらに深く踏み込んで三層目まで行くと、こちらの思考だけを相手側に流し込むことが出来る。そこまで行った方が、何かをさせようとした時に、こちらの集中がノイズで妨げられることがない。そうしたコツを、誰に教えられることもなく、実践で体得していった。

『アヤカお姉ちゃん。僕にもう一度、しっかりパンツを見せて。』

 念じたマサトの前で、アヤカはおずおずとスカートを捲る。改めて凝視していると、なぜか不意に自分が恥ずかしくなって、マサトは「ごめんっ」と言って後ろを向く。すると、アヤカはわざわざマサトの前へと回り込んで、パンツを見せる。

「や、やめろってば」

 玄関先でマサトが照れ笑いを浮かべながら小走りに逃げると、アヤカは恥ずかしそうにしながら、両手はスカートの裾をめくったままで、マサトを追いかけてくる。門の外までその格好で出てしまう。

「私も、こんなのことしたくないの・・に・・・。でも、待ってよ、マサト君。」

 体を急に激しく動かすと、少し正気を取り戻すアヤカお姉ちゃん。それでも、マサトにパンツを見せようという動きは止められないでいる。結局、マサトが『もういいよ』と念じるまで、アヤカはマサトを追い回して、パンツを間近で見せるために七転八倒する羽目になった。

『じゃ、アヤカお姉ちゃん、僕をお姉ちゃんの部屋まで連れて行って。2人で久しぶりにお話しようよ。』

 家に着いたアヤカお姉ちゃんは、ふらふらと階段を上がって、マサトを自分の勉強部屋へと導いてくれた。それでも2人はドアの閉められた部屋でお話をすることはなかった。マサトが念じるままに、アヤカお姉ちゃんはこの近所の男の子目の前で、服を一枚一枚脱いでいって、下着を、そして裸を見せてくれた。小ぶりなオッパイを、マサトは鼻がつきそうなくらいの距離から、じっくりと見させてもらった。シュシュを解くと、ポニーテールの髪がファサッと広がる。シャンプーの匂いの奥に、頭にかいた汗の匂いがかすかに混じって部屋に充満する。裸のまま無表情で立ち尽くすお姉ちゃんの全身を、その周囲をグルグルまわりながらマサトは観察した。昨日以上に喉がカラカラになった。アヤカお姉ちゃんの白い体。細めの太腿の裏に、一つ、蚊に刺されて赤くなった跡があった。左膝の裏の少し上の部分。肌が白いので、赤さが際立っていた。プクっと膨れあがった虫刺されの跡。マサトはアヤカお姉ちゃんの肌色の乳首を見つめるのと同じくらいの時間、その虫刺されの跡を見ていた気がする。今、考えると、超能力を初めて性的な目的に使った時の記憶は、妙なものでもある。もっと踏み込んで女性の体を隅々まで観察しても良かったはずなのだが、マサトの記憶には、シャンプーのミント系の香りに混じったアヤカお姉ちゃんの汗の匂いや、どうでも良さそうな蚊に刺された跡の光景などが、強い印象に残っている。こうした記憶を呼び起こすと、今でも少し、喉が渇くような感触になる。

『思春期のホルモンバランスが原因なのか、超能力の目覚めと性の目覚めが同時に起こる、あるいは結びつくことは多い。』

 という話はエスパーコースに入学してから教科書で学んだ。もしかしたら、マサトのような後天的テレパス系のエスパーにはごく普通のことなのかもしれない。それでも、やはりすべてのエスパーにとって、自分の超能力初体験は、特別な思い出なのではないかと思う。

 アヤカお姉ちゃんはその日、1時間近くもマサトに裸を観察させてくれて、色んなところを触らせたりしてくれた後で、前日のキスの続きをマサトが飽きるまでさせてくれた。次の日にはアヤカお姉ちゃんのオバサンが帰ってくる前に、お姉ちゃんの部屋でマサトの童貞をもらってくれた。アヤカお姉ちゃんも処女だったが、2人でマサトのクラスメイトのお兄さんが持っていた裏ビデオを見ながら、見よう見まねで初体験を済ませた(裏ビデオはもちろん、マサトの『力』を使って無理やり快く貸してもらった)。その翌日もマサトとアヤカはセックスをした。2回目でもまだ、アヤカの大切なところからは少し血が出た。

 翌週には、マサトの指示通りに、アヤカは仲の良い友達のなかで見た目が可愛いと思われる友達を家に連れてきて、マサトの前で2人で裸になった。マサトも入れて3人でエッチをする。アヤカお姉ちゃんもミカコさんも、3Pやレズ行為は初めてだったが、マサトのマインドハックのせいで、無抵抗に従って、どんなことでもしてくれた。その日、予定よりも早く帰ってきたアヤカさんのオバサンも、最後はレズビアンショーに加わって娘と、娘のクラスメイトに舌で責められて潮を噴いた。女性が潮を噴いたのを初めて見たマサトは驚いて、オバサンがオシッコを漏らしてしまったのかと心配したが、オバサン(この時、38歳だった)に包み隠さずに説明してもらうと、12歳のマサト少年は潮噴きを面白がるようになる。翌週からはアヤカお姉ちゃんとオバサンとミカコさんとミカコさんの妹のミチルちゃんで、4人の潮噴き大会になる。アヤカお姉ちゃんのうちのリビングの床に水たまりが出来るほど、4人の女の人が腰が抜けて立てなくなるまで、全裸で潮を噴かせ合ってもらった。

 あとは、こう言ってはなんだが、お決まりのコースだった。一人ずつマインドハックの対象を広げる。マサトの周囲はすぐに、みんなマサトの指示通りに考え、行動する、ラジコンの兵隊のようになった。小学校の可愛いクラスメイトはみんなマサトに処女を捧げたし、美人の先生は喜んでマサトの性教育の教材になってくれた。可愛い下級生と綺麗な先生たちに屋上に裸で並んでもらって、4階建ての校舎の屋上から数十人のオシッコを、花壇で大の字になっている校長先生と教頭先生に目がけて放出してもらった時には、校舎に小さな虹がかかった。マサトの周りはみんな笑顔に溢れ、全員マサトが大好きになった。自分が急におかしな行動をとりたくなっても、近くにマサトがいる限り、安心してその衝動に従った。どんな異常事態を目にしても、マサトが近くにいる限り、慌てたり騒いだりしないようになった。

 近所のお姉さんたち、綺麗なお母さんたちはみんな、マサトが通りがかった時のために脱ぎやすい服や下着を普段から心がけて身に着けるようになっていたし、私生活の中で新しい性技やエッチなサービスの方法を学ぶと、そのたびにマサトの家のチャイムを鳴らし、『王様』に晴れやかな顔で奉仕してみせた。

 マインドハックの痕跡を一切拭い取る操作もしないで対象を解放し、マインドウェイブを、力の続く限り、無制限に広げて好き勝手しているのだ。これは、今から考えると恥ずかしいくらいに無防備な「やんちゃ」だった。まるで巡回する地域ESPパトロールの人たちに、「ここに、そこそこ強力で無邪気なテレパスがいますよ」と大声で叫び続けているようなものだ。秋口にはマサトはパトロールの網に引っ掛かって、ちょっとしたお仕置きと指導を受けて、翌年から中等部エスパーコースのある学校への入学を指示された。マサトの両親も喜んでその判断を承諾した。(もっとも父さんと母さんはマサトのラジコン兵隊になっていた時から、完全無欠のイエスマンだったが)

 結局、マサトの能力発現からパトロールオジサンによる事態収拾完了まで、3ヶ月もかからなかった。マインドハックを受けたのは小学校1つとその学区内の住民1万人。一時的なハック被害は、街の広場で集団ストリーキングを実行したOLさんたちや、パートナーが数か月シャッフルされていたマンション。女湯側から壁が破壊された銭湯など、学区内に収まらない事例もあったが、人格のコアまで深刻な改造が進んでいたのはマサトの周辺に留まっていた。強力テレパス捕獲の事例としては小規模な方だと思う。今ではアヤカお姉さんやそのお友達たちも、自分が24時間発情中のセックスマシーンだった頃のことなど記憶も無い。マサトの母校も平穏を取り戻している。先生たちも、子豚ちゃんとして体育館で児童たちに飼育してもらっていた数週間など嘘のように、今では服を身に着け、愛している人としか交尾をしない生活に戻って授業を行っている。ご近所であれほど流行っていた、フンドシにマゲを結った「女力士ルック」も、ボディペインティングだけで全裸で出歩く「前衛アーティストルック」も、一瞬でブームの終焉を迎えた。(たまたま来日していたフィンランドの写真家が感銘を受けて撮影した動画が、今でも時々フリー動画サイトにアップされるが、心あるサイトではすぐに削除処理がされているそうだ)

 エスパーコースに入学した当初は、マサトは超能力のリスクや安易に「やんちゃ」することの社会的影響、倫理的問題を延々と叩き込まれた。高校生になったエスパーコースの生徒たちが、ある程度の悪戯を黙認されているのと比べると、この時の教育はずいぶんと極端だったと思う。それでも、大人も子供も超能力で操って、我が侭放題に生きることを覚えてしまった悪ガキたちの根性を叩き直すには、ある程度必要な荒療治だったのかもしれない。

 エスパーコースも入学して2学期にもなると、少しずつ規則が緩んできた。結局のところ、子供は遊びながら学ぶのが一番能力を伸ばすというのが、この国の超能力教育研究の出した結論だったようだ。エスパーじゃない一般人の人たちだって、想像くらいは出来るはずだ。白衣のお爺さんに囲まれた薄暗い実験室でスプーンを曲げたりトランプの絵札を当てたりを延々とやっているよりも、可愛い子のスカートをテレキネシスでめくったり、スッポンポンの姿を透視したりする方が、やる気が出る。テレパス系の学生たちだって同じことだ。

 マサトやシュンタ、そしてイチカは中等コースの1年目1学期からいる古株だが、今のクラスメイトの中には、途中で編入してきた生徒の方が多い。早くから覚醒しているから強力なエスパー、とばかりは言い切れないのが、面白いところだ。マサトの悪友のヨーヘイは、14歳で目覚めた。市民プールにいる時、急に何か我慢できない強烈な衝動が溜まってきて、まるで遠吠えするかのように、そのエネルギーを解放した。光の爆発のようなもので周りが真っ白になったあと、そのプールにいた全員が、水着を脱ぎ捨てて、盛りのついた獣みたいにまぐわい始めたそうだ。エロ馬鹿のヨーヘイも、その時は景色を楽しむ余裕もなかったらしい。両方の鼻の穴から濃い鼻血が垂れていて、水着の中では射精してしまっていた。プールの建物を飛び出して、裸で外を駆け回る人たちが騒動を起こして、ヨーヘイもそれを押さえこむ方法を知らなかったので、すぐに通報があって、警察、救急車、そしてESP地域パトロールのオジサンがやってきた。ヨーヘイ確保。そして編入。コントロールは悪いが、爆発的なマインドウェイブを放つ素質が見いだされたらしい。勉強の方は相当ヤバい成績であるということは、あとから発覚した。

 ヒトキの場合はもう少し込み入っていて(能力的にも性格的にも)、覚醒から捕捉されるまで2年もかかった珍しいタイプだった。小学校でも中学校でもいじめられっ子だったヒトキにとっては、超能力の発現は天から伸ばされた救いの手のようなものだった。でも普通、イジメられていたエスパーは、『力』を使ってその状況を覆して、いじめっ子を屈服させ、復讐をしてグループに君臨する。ヒトキの場合は、クラスメイトを全員、「力」の影響下に置いた後でも、表向きは全員に自分のことをイジメ続けさせた。校内で多少おかしなことが起きても、誰も、いじめられっ子のヒトキが仕組んでいることだとは思わなかった。近年のスクールカウンセラーはESP地域パトロールとも定期的に連絡を取り合っているが、この網に全くかからなかったのが、ヒトキのトリッキーなところだった。普通の子供は能力に気がついたら、派手に遊び始めるのに、ヒトキはネチネチといじめっ子たちの性格を弄ったり変えたり、また翌日戻して悩ませたりと、長期間にわたって少しずつ「力」を使って変化を作っていた。いじめっ子の男子たちは徐々に徐々に、毎日ゆっくりと同性愛に目覚めて、マゾヒスティックなゲイ行為に憧れを抱き始めて悩み苦しむ。いじめっ子の女子には、匂いフェチ、汚れフェチ、露出癖など、人に相談しづらい性癖や嗜好を植え付けて、密かに弄んだ。イジメを遠巻きに放置していたクラスメイト全員が、半年後にはアナルオナニーの虜になっていて、全員がアナル拡張を趣味にしていたのに、全員がそのことを秘密にして、個人個人で思い悩んでいた。担任の若い女性教諭は剃毛主義になってスキンヘッドを晒して野外アナルオナニーをしている自分をブログに毎日掲載していながらも、普段はウィグをつけ、何食わぬ顔で授業を続けていたため、こちらも発覚が遅れた。

 担任の先生の婚約者の男性が、長いお付き合いをしていた相手のあまりにも特殊な性生活への変貌ぶりに不信を抱いて、日曜も開いているエスパーお悩み相談窓口を訪れた日から3か月後。やっと全てはヒトキの仕業だと発覚した。ヒトキの『シップイン』という人格への干渉はテレパスとしても特殊な方法で、ESP粒子を相手の精神派とかなり同調させながら変化を馴染ませていくものらしい。そのせいでヒトキの「わるさ」は原状回復に相当骨が折れるものだったようだ。排尿・排泄を我慢する方法を「完全忘却」させられていたクラスメイトの女の子は、オムツが取れるまで数か月かかったそうだ。パトロールオジサンは仕方なく、彼女本人への処置だけでなく、彼女の周囲の人たちに「この子がオムツをつけているのは別に普通のこと」という考えを浸透させることでしばらく対処したらしい。

 編入してからも、ヒトキの性格の悪さにはエスパーコースの級友たちも閉口している。しかし、そこはエスパー同士だ。彼の「シップイン」の貫通力と効き目の長さにはみんな一目置いている。エスパーコースの誰もが(上級生も含めて)恐れる、エスパー生活指導の来島リョウカ先生。恐怖のクールビューティーに1週間も、語尾に「にゃん」と言ってしまうという口癖を植え付けて見せた時には、ヒトキはちょっとした英雄になった。

 ケイゴは隣の県の古坂学院エスパーコースから編入してきたという変わり種。エスパーパトロール委員会が能力について誤った診断を出した、珍しい例だ。何しろケイゴ本人も、自分は予知能力者だと思っていた。小学校の頃から占いがよく当たる。評判の子供占い師になって、両親の推薦も受けて(!)予知能力者の育成で名高い古坂学院を受験した。そこで2学期まで勉強して、なんと予知能力ゼロのテレパスだったということが判明する。

 小学校の頃から、友達に頼まれて自己流の占いを披露しては、「君はあの子と付き合うよ」、「今日、川に落ちる気がするから気をつけて」、「テストで0点取っちゃうかも」、「君の彼女、僕と浮気するかも」、「運の悪いことが重なって、貴方は今日、近所のみんなに裸を見られます」と占いを次々と的中させてきた。ところが、いざ予知能力コースで無機物の動きなどを予知する授業を受けてみると、まったく当てられない。テストを繰り返すと、微量のESP粒子が周囲の人たちの精神波から検出された。ケイゴが無意識のうちに、思いついたビジョン通りに周囲の人たちの行動を操っていただけだったのだ。

 ケイゴがテレパスコースのある宮園学園に編入になったことを、ケイゴの両親は近所に内緒にしているようだ。「浮気するとか、10万落とすとか、運命の人に会って結婚するとか、近所の人たちに散々占ってきたのが、全部俺の無意識のマインドハックだったってバレたら、町内にいられないって、帰るたびにオカンが文句言うんだよ。俺も悪気があったわけじゃないのに。ひでぇだろ?」

 両親との関係がこじれてからか、それとも発現したのが希望する能力ではなかったからか、ケイゴはテレパス教育課程では少し不真面目。マサトの悪友の1人となっている。今でもケイゴのマインドハックには大きなムラがある。普段のケイゴの能力は悪ガキグループの中でも弱いほうなのだが、ケイゴが「必ずこうなる」というビジョンを得た時、上級生でもなかなか抵抗できない強力なマインドハックになって、そのビジョンを実現させる。

 最後がリョースケ。マサトにとってはエスパーコースの男子の成績トップクラスを争うライバルだ。リョースケは結構オールラウンドに色んな技を習得してきているし、今のところリョースケにしか出来ない、「メモリー・コピー&ペースト」という技を使える。マサトはまだ、一方的に相手の一定期間の記憶を消したり、捻じ曲げたり出来る程度だが、リョースケは他人が持っている記憶を、しばらく自分の手元にストックしておいて、さらに別の人に刷り込んだりも出来る。これはヨーヘイたちエロガキには喉から手が出るほど便利な技で、ヨーヘイはいつもリョースケにこの技を教えてもらいたがっている。しかし本来は高3でも上級者しか習得できないような技なので、馬鹿のヨーヘイには絶対無理だと、マサトは思っている。

「リョースケ、ベテラン風俗嬢のスペシャルテクニックの記憶とか写し取って、純真無垢なロリっ子に貼り付けちゃったり出来るんだろ? 超絶技巧のJS。・・・萌えるわ~。」

「いや、記憶って抜き出す時、凄い扱いに気をつけないといけないから、やたら集中力が要るんだよ。下手するとこっちにまで記憶が入ってくるからな。ヨーヘイが下手にこの技使えるようになって、風俗嬢の記憶をうっかり丸ごと吸い上げちゃってみ? オッサンに体でサービスしてきた長年の記憶が、お前のものとして染みついてくるぞ。」

「・・・おえっ。マジかよ・・・。」

「俺もそれが怖くて、すっごい集中してメモリーコピペするから、その間、ハッキリ言って全然勃たねえの。寂しいから、撮影だけしておいて、後からそれ見てシコッったりすんだぜ。」

「それ、AV見んのと、あんま変わんなくね?」

 マサトにツッコまれて、リョースケが渋い顔で肩をすくめる。マサトも思わず笑った。ヨーヘイはまだ、釈然としない様子で目の前の妄想にすがっている。マサトにとってはヨーヘイの目の前にマンガのような雲枠の吹き出しが見えるようだ。テレパスはいつも気を張っていないと、不意に他人の思考が流入してくる時がある。それでも今日のようにESP粒子の壁を作らないでいられるのは、心の底まで見透かし合った、仲間と一緒にいるからだ。

「おい、これもう、五木ひろしだろ? 俺の勝ちだよ。」

「いや、まだちょっとアイーンしてるって、志村けん要素は消えてない。ここから僕の巻き返しだよ。」

 ケイゴとヒトキがゲームに興じている。向かい側のベンチに座って読書していた美人のOLさんに、無意識のうちに顔マネをさせている。ケイゴとヒトキがそれぞれ違う人のモノマネを指示して、どちらの干渉力が強いか、勝負する。エスパーコースで頻繁に行うことを推奨されている、筋トレのようなゲームだ。マサトが見てみると、確かに黒髪のツヤツヤした綺麗なお姉さんは今、9割は五木ひろしだが、下アゴを突き出して、少しは志村けんの要素を残しているようだ。本人は何も気づかずに、小説の世界に没頭している。

「志村けぇぇぇん、出ていけっ!」

 ケイゴが汗をかきながら両手をかざすと、美人OLさんのアゴがスッと引っ込む。本を片手で持って、空いた方の手はコブシを作って振り始めた。顔はほぼ、完全に五木ひろしだ。

「勝負あったんじゃね? ・・・ケイゴ、強くなってきてるよな。」

 マサトが声をかけると、ケイゴがガッツポーズ。ヒトキは舌打ちをする。ヒトキが力を抜いた瞬間に綺麗なお姉さんは片手で持っていた本も放り投げ、立ち上がって「よこはま たそがれ」をコブシを振るいながら熱唱しはじめた。

「腹立つな~。このお姉さん、ちょっと性格弄るよ。愛読書はフランス書院。ただし人前で音読しないと頭に入ってこないようにするね。毎週3人は今までと違う男の精液を飲むのが習慣。特技はスイカの早食い。それから・・・変なオジサンダンス。披露するチャンスがあったら、絶対に仕掛けていくこと。」

「ヒトキ、まだ志村けんに引っ張ってんじゃん。どんだけ悔しがってんだよ。うける~。」

 ケイゴが勝ち誇って笑い転げる。マサトが落ち着かせるようにヒトキの肩に手を置いた。

「ただし、効果は1週間。・・・とかなんとか、限定つけろよ。補導の先生に見つけられて、教育的指導だぞ。」

 また舌打ちがなった。

「いちいち面倒くさいな~。来島先生が来たって、またオモシロ「シップイン」入れて、恥かかせてやるよ。」

「今度やったら、能封だって、言われてんだろ。落ち着けって。」

 頭に血が上っていたヒトキだったが、マサトに冷静に指摘されて、少し顔を青覚めさせた。期間を限定してではあるが、生徒指導の先生やパトロールオジサンには「能力封印」という武器がある。これをされると、授業でも実践練習などが滞ってしまう上に、私生活でも能力が使えない。ただ一般の人と同じ状態になるだけだが、普段から超能力の特別な力に頼って気ままに生活しているエスパーコースの生徒たちにとっては、自分の能力が封じ込められるというのはかなり本能的な恐怖だ。クラス内の悪戯にも完全に無防備になってしまうし、もし万が一、能力封印の処置がエスパーコース外にもバレたりしたら、いままで好き勝手に操ってきた一般コースの生徒たちにも、どんな仕返しを受けるかわからない。

「・・・じゃ・・・お姉さんのシップインは、10日間限定・・・。これでいいと思う?」

 マサトが少し考えた後で、首を縦に振る。

「・・・ま・・、もともと生命身体の危険に晒すって程でもないし、いいんじゃね? ・・・あ・・・念のために、10日後にヒトキに電話してくるようにさせて、そこで社会的にも致命的なダメージを受けてないことを確認するようにしたら? ・・・シップイン効果の校外学習してました。っていう言い訳にも出来るじゃん。」

「・・・もう、面倒くさい・・・。ちょっとした遊びなのに、どれだけ手間がかかるんだよ。」

「まぁまぁ、遊びは手間をかけたほうが楽しいって。な。」

 リョースケもフォローをする。やっとヒトキが溜息をついて、ベンチの端に腰かける。その間も、目鼻立ちの整った、綺麗なOLのお姉さんは、コブシを回しまくって、演歌の定番曲を全身全霊で歌い上げていた。

「俺ら・・・、流行りの曲とかほとんど知らないよな。」

 エスパーコースの寮にはテレビやPC、スマホが無いため、談話室に並べられた古いレコードやビデオテープが貴重なメディアなのだ。今をときめくアイドルたちがエスパー少年に悪戯される事件が相次いだ結果、全国のエスパーコース寮でテレビが禁じられてしまったのだった。

「ほんとエスパーは辛いよな。」

 ヨーヘイが、ベンチ裏の茂みから振り返って言う。ジョギング途中の可愛い子を気に入って、一緒に草むらに飛び込んでペッティングを始めたところだった。いつも通り、ヨーヘイが口にすると、どんな言葉も説得力を喪失する。これはこれで、一つの能力なのかもしれなかった。

。。。

「あれ? ・・・ハナちゃんだ・・。あっこにいんの、イチカたちのグループじゃね?」

「・・お、ホントだ。化粧してオシャレしてると、一瞬、わかんねぇな。」

 ケイゴとリョースケがクラスメイトの女子を見つけてはしゃぐ。大きな街ではないので、駅前に向けて歩いてくると、外出許可日に街で出会ってしまうことは珍しいことではない。イチカとユイとナルミとハナ。どこで「借りて」きたのか、ずいぶんと高そうな服とバッグ、靴を身に着けて、大人っぽいメイクで決めていた。

「おーい、おーい。そっちも楽しんでるかー。」

「・・・おい、やめとけよ。」

 ヨーヘイが無邪気に声をかけようとするのを、マサトがたしなめた。

 イチカからテレパシーが送られてこなくても、彼女たちの言いたいことはわかる。そっとしておいてくれ・・・だ。ちょっとだけ顔を赤らめたイチカがプイッとマサトたちのグループに背を向ける。イチカはロマンスグレーのナイスミドル紳士にエスコートされていた。そのオジサンと腕を組んだまま、観葉植物多めの店内がチラッと見える喫茶店に入っていく。エスパーコース女子たちも、たまの外出許可日にはオシャレをしてハメを外したいようだ。それにしてもイチカのオジサン趣味・・・。精神探査の授業以来、見聞きしてはいたが、マサトの想像をもう一回り超えていた。

 まぁ、賢いイチカたちのことだ。マサトたちのグループのような「やんちゃ」はしないで、一通り優雅な時間を楽しんだあとは、水を濁さず、綺麗に元通りにして門限までに寮に帰るのだろう。

 問題はヨーヘイにヒトキだ。

「駅前のロータリー、来たよ。どうする? 西部デパート? 映画館? ボーリング場?」

 ケイゴがテンション高めに悪ガキどもに行先をきく。

「モールの7階か8階で、美術展やってたよね? そこで気取ったキュレーターのお姉さんたちを展示物にしちゃうっていうのはどう?」

 ヒトキの提案は、いつも少しだけネジレている気がする。

「大人はシティホテルでハイソなお姉さん探してスイートルームでベッドインするんじゃないの?」

 リョースケの顔も普段よりニヤけている。

「おい、あれ聖フィガロ女子高の制服じゃね? 聖フィガの下校時刻と被ったんだ。もったいない。もうここで若い女、全員ひっぺがそうっ!」

 ヨーヘイが誰よりも大きな声で、唾を飛ばしながら叫ぶ。マサトは危険度上昇中のエスパーたちを必死になだめる。

「おい、駅前のロータリーで派手なことやったら、数千人規模だろ? 俺らで後始末無理じゃね? ・・・もうちょっと、何とか工夫しようぜ。」

「でも、聖フィガが・・・、バスに乗っちゃう。・・・行っちゃうよ~。」

 ヨーヘイがこうなると、なかなか全否定は難しい。マサトはリョースケと視線を交わした。無言で頷く。

「じゃ、さ。ヨーヘイ。こうしようぜ、駅前ロータリーの一般人全員、ここで誰かと服を交換して帰ること。この場で通りすがりの他人と、下着も靴下も交換すんの。そしたら一瞬だけど裸も見せてもらえるし、・・・一応服着せて帰るんだし、学校側にバレても、そんなおおごとには、ならないんじゃない?」

「僕、その案にノッた。誰にどんな服着せるか、チョイス次第で面白さが出てくるよね。なんなら、その手の服のフェティッシュにしてあげてもいいかも。」

 ヒトキがノッた。マサトとリョースケとヒトキが賛成すれば、空気を読むケイゴもOKを出す。そうなるとヨーヘイも少しは考える。この場でみんな裸にという要素は取り込んでもらえたんだし、まぁいいのか?

「ほら、ヨーヘイ。早く手を打たないと、聖フィガロのお嬢様女子高生たちが、バスに乗っちゃうぞ。」

 マサトが最後の一押し。もともと熟考が得意でないヨーヘイは、思い切るように首を縦に振った。

「うーぅぅ、よしっ。それでいこうっ。・・・・百歩神拳!!!」

 フボッと炸裂する光の球。駅前のロータリーからショッピングモール、商店街までが白い光に包まれた。いつものことながら、エロを求めるヨーヘイのショックウェイブは威力が凄まじい。宮園学園のエスパーの中でも指折りの破壊力なのではないだろうか。マサトたちは自分の人格コアをESP粒子のバリアーで守るのが精一杯だった。

 バス停に並んでいたお嬢様校の美少女たちが、お互いに不思議そうな顔をしながら、制服のリボン、ボタンに手をかけていく。暑い夏の一服の清涼剤。可愛い子ちゃんたちのお着替えショーだ。スルスルと衣擦れする音、ジッパーが下ろされる音。布地が地面に落ちる音。駅前のロータリーの四方八方で、服を脱いでいく音がする。景色の中で肌色が占める割合が少しずつ増えていく。

「どうせ下着も含めて、服を全部着替えるんだから、若い女の子限定じゃない方が面白いかなと思って、老若男女、街の一般人みんなに向けて力を出したぞ。」

「うげっ。だからあっちのオッサンも・・・。気をつけないと、見たくないものも目に入ってきちゃうな。」

 どうりで、バス停で全裸になった美少女の1人は、客待ち中のタクシーから降りてきた運転手さんと、服を交換している。きつそうな女子高生の制服に身を包もうとしている、運転手のオジサンはただの変態オヤジにしか見えない。けれど多少ブカブカでも運転手さんの制服に身を包む美少女というのは、なかなかどうして、グッとくる絵面だ。白い手袋と制帽を被ると、あどけない顔立ちとのギャップが、けっこう萌える。

「あの、即席運転手さん、結構イケてね?」

 マサトがリョースケに声をかける。

「確かに外見はカワカッコイイ・・・けど、その下には、さっきまでオッチャンが履いてた、働く男のブリーフとか靴下とか履かされてると思うと、ちょっと萎えるよな。」

「いや、そこがいいんじゃん。」

 リョースケとヒトキは興奮するポイントがいつも食い違う。それでいい。みんな違って、みんな良いのだ・・・。少なくともエスパー同士は好みがバッティングしすぎない方が、街も学校も平和でいられる。

「じゃ、そろそろ俺らも好き勝手やらせてもらいましょうか。30分後・・・、いや、切りのいいところで、あの時計台で5時になったら、もう一度集まろうか。」

 ケイゴがキョロキョロしながら提案する。好みの女の人を見つけたら、お気に入りのシティホテルに連れ込むつもりか。それとも最初からホテルのロビーやレストランでお相手を探すつもりなのだろうか。

「おう、じゃひとまず解散な。」

「諸君の健闘を祈る。」

 みんな好き勝手なことを言って別れるが、誰もお互いの言葉をきちんと聞いていたり、ツッコんだりはしない。高校男子として、駅前広場一杯に繰り広げられる脱衣ショーを冷静に見守っているのは、なかなか難しいのだ。各々が、気に入った子に近寄って、マインドハックをかけ、せっかく着替えかけた服を、また脱がせていく。

「君、かわうぃーね。サラリーマンのネクタイしめかけのところ、申し訳ないけれど、また全部脱いで、スッポンポンになろうか。」

 女子大生と思われる女の人に、マサトも呼びかけてみる。苦心しながらオジサンネクタイを首で結ぼうとしていたお姉さんはワイシャツと紺のブリーフ、そして締めかけのネクタイだけという姿。まだトラウザーを履いていないその姿が、妙にマサトのエロ心をくすぐったのだった。清楚で真面目そうなお姉さんだが、胸のボリュームはそこそこだ。白いワイシャツの下からも、形の良さそうな胸のフォルムがくっきり出ている。ブラジャーをつけずにこのフォルム。これは今日イチの拾い物かもしれない。

「・・・は・・い・・・。ワカバは、スッポンポンに・・なります。」

 虚ろな目と抑揚のない声。せっかく着かけた服をスルスル脱いでいくワカバちゃんの精神にマインドハックを深く深く突っ込ませる。早送りで彼女の感情や考え方、願望や記憶が360度のパノラマでうねっていく。ワカバちゃん自身も知らないかもしれない深層意識にまで入り込む。これもテレパスにとっては一つのセックスだ。いや、こっちのほうが本当の本番なのかもしれない。

『ワカバちゃんは僕の提案、指示、命令を全部受け入れる。ご褒美はこれまで経験したことがない快感。エッチなエッチなエクスタシーだよ。君はこの瞬間だけ何もかも忘れて、イヤラシイ自分を曝け出して、性的快感だけを追い求めるんだ。』

 充分に深いワカバちゃんの内部で、マサトが念じて作り上げた言葉の銛をズドンと打ち込む。マサトの意識が自分の体に戻ってくる。この間、数秒か。まだワカバちゃんはワイシャツを脱ぎきってすらいない。それでも効果ははっきりと彼女に現れる、ワイシャツの残りのボタンを引きちぎってしまった。隣のオジサン、ゴメンなさい。

 紺ブリーフも一気に引き下ろして、ワカバちゃんが自由になる。シャツの上から想像した通り、いやそれ以上のプロポーション。胸をユッサユッサ揺らしてマサトの体に飛び込んでくる。やや大きめの乳輪とサーモンピンクの乳首がマサトの視界を占領した。オッパイのエアバッグが顔面をプレスする。地面に彼女の背中を擦らないように気をつけながら、仰向けに寝転がらせる。ワカバちゃんの性格はさっき一通り確認させてもらっている。大学のゼミに気になる男の子がいるが、真面目な彼女は、その男の子の前の女友達関係が綺麗に清算されるまで待つつもりらしい。でも今はマサト専用のセックスアニマルだ。一切の我慢は無用。全身の毛穴からムワっとエッチなメスの匂いが湧きたっている。少しだけ恥ずかしそうな、はにかむような顔をしながらも、体がオスを求めている。太腿の間からツユがしたたっている。乳首が固く起き上がってマサトの舌での愛撫を心待ちにしている。

「いただきます。」

 両手を合わせて小声で拝むと、一気にワカバちゃんのハリのある体に圧し掛かった。片パイを揉みながらもう一つのオッパイを乳首中心に吸い上げる。右手でスベスベの太腿からムッチリと肉のあるお尻回り、そしてシトシトのアンダーヘアを掻き分けて指をワカバちゃんの秘密の場所に滑り込ませる。濡れながらもザラッとした感触を残したオンナの粘膜が、吸い上げるようにマサトの指を受け入れる。マサトが指を抜いて、自分のズボンのベルトを外す。ズボンとトランクスを同時に引き下げると、オチンチンが待ちわびていたかのようにブルッと飛び出した。それをさらに待ちかねたかのように、ワカバちゃんがブリッジのような体勢になって腰を突き出してくる。エッチなエッチなワカバちゃん。大学のゼミでどれだけ優等生ぶっていようと、今は理性を抑制して性的本能を剥き出しにしているから、セックスを求める動物的本性をまったく隠せない。経験人数は1人しかないようだが、今はそれも関係ない。一匹のセックスアニマルだ。オチンチンを突き入れるというよりも、向こうから下の口が咥えこんできた。

「んひっ・・・・。キモチいいっ!」

 目をシロクロさせながら、ワカバちゃんが快感に咽ぶ。マサトも悪い気はしないので、頑張って腰を振る。もっと頑張っているのは彼女だ。ブリッジのような体勢のままで腰を打ちつけ合う。ボリュームあるオッパイが下の方、彼女の鎖骨方向に寄っている。シタチチをこの角度から見ることが少ないので、面白い。彼女の腰を抱えている腕をわざと揺すってみる。この角度からユッサユッサ揺れるワカバちゃんのオッパイ。新鮮な動きだ。

「キモチいいの、もっとっ!」

 悶え転がりながら、ワカバちゃんが膣圧をさらに上げてくる。ピストンのたびにマサトの下半身にも快感が溜まってくる。もっと我慢すると、もっともっと気持ち良くなるかもしれない。それでもマサトはあまり射精を我慢しない。裸の美女は彼女一人ではないからだ。

「出すよ。」

「はっ・・・はいっ。」

 下半身が痺れるような疼き。後頭部が白くなるような、退行的な快楽。射精の快感は、初めてアヤカお姉ちゃんに出した時から、今も変わらない。それでも成長と、何百何千という性行為の経験によって、マサトにも多少の余裕は身についている。2回、ドクドクッとワカバちゃんの膣内で出した後、マサトはモノを引き抜いて、ワカバちゃんのオッパイと顔に残りの精を振りかけた。急にオチンチンを失ったワカバちゃんのヴァギナは、ものほしそうにヒクついた後で、愛液とマサトの精液の混ざったものをトロトロと垂らした。ワカバちゃんのアゴが上がる。無事2人ともイクことが出来たようだ。

「気持ち良かったよ。ワカバちゃん。大学の勉強も就職活動も、ボーイフレンドとの仲も、色々頑張ってね。」

 マサトが声をかけるけれど、コンクリートの畳の上に寝そべる女子大生は、まだ陶然としたまま、顔や胸についたザーメンを指で拭っては口に入れていた。無邪気な表情は、指をしゃぶる幼児のようだった。

「ありゃ、アイツらホント、好き勝手やってんな。」

 ヨーヘイは噴水で女子高生たちと戯れている。ロータリーの周りからも、どんどん女の人を引き寄せて、噴水に飛び込ませ、溢れかえった女体の海をバタフライで泳いでいるといったところだ。

 リョースケは割とこういったところが生真面目なのか、気に入った女の子を並ばせて、馬跳びの台のようにお尻を突き出した美少女の列を作っている。順番に一人ずつ、バックから犯している。一人当たり5回ずつ、腰を振っているところがなんだか流れ作業のようだ。

 ヒトキは相変わらず、歪んだプレイを楽しんでいる。ショッピングに来た様子の親子連れの性的嗜好を作り替えたようで、幼稚園児くらいの女の子が、スタイルの良い二十代後半くらいのお母さんのお顔を踏みつけている。お母さんは心底嬉しそうに涎を垂らして歓喜の喘ぎ声を上げている。裸の美人母娘がSMプレイに励んでいるのを眺めているヒトキは、駅前のシュークリーム屋さんのお姉さんを四つん這いにさせて、その上に座っている。お姉さんはシュークリーム屋の帽子以外は全裸なので、かろうじて帽子で職業がわかるという程度だ。

 マサトたちが目に止めて、遊びに付き合ってもらっている女の人以外は、ロータリーで堂々と服を脱いで、近くの人と下着も靴下もアクセサリーも交換して、別人の服装になってそれぞれの目的地を目指して歩いていく。颯爽としたビジネスウーマンが、汗まみれの作業服に黄色いヘルメットを身に着けて、次の営業先(現場?)へと歩いていく。小学生と服を交換した若奥様はピチTにマイクロミニ、キャラクターのプリントされたパンツが丸見えの状態で談笑しながら歩いている。反対方向に向かっているのは高そうなサマードレスをずるずる引きずっている、小3くらいの女の子だ。体形の合わない服を懸命に着こなして、みんないつもの自分とは一味違う着こなしにトライしてくれている。着ている人が違うだけで、服の存在感が意外と際立つ。街の景色が一変したようで、見ていて楽しい。

「マサト、やっぱりアンタたちだったのね。」

 怒りを抑制したような、静かな口調。聞き覚えのある声を耳にして、マサトは焦って振り返った。

「おっ・・・。イチカ。・・・ま、たまの外出日なんだから、見逃してよ。・・・お前らも楽しんでるんだろ?」

 はっちゃけている自分たちを見られた照れくささから、マサトはあえておどけた声を出して誤魔化そうとする。それでも、イチカたちを見て、事態をすぐに把握した。

「おっと・・・、そっか。パートナーのオジサマまで・・・。ありゃ、ハナちゃんも?」

 ロマンスグレーのオジサマ。さっきイチカをエスコートしていたダンディさんが、可愛らしいウェイトレスさんの制服に着替えてしまっている。そしてユイの後ろに隠れるようにしているハナちゃんは、コックさんの白い制服になっていた。これはこれで可愛いのだが、エスパーとしては、遠距離でもあっさりヨーヘイのマインドウェイブにかかっているのは、恥ずかしいところだろう。

「あたしたちのせっかくの優雅なティータイムを邪魔してくれておいて、自分たちだけ見逃してくれって、通ると思う? ・・・ちょっと話があるから、そのお粗末なモノしまったら?」

 イチカが微笑を浮かべながらもプルプル震えている。クラス委員は本当に怒らせると怖いのだ。

(粗末なモノって、・・・こないだ自分のアソコに入れて、アンアン言ってたじゃないか)

 マサトが一体化しているトランクスとズボンを拾い上げながら、無言で思う。側頭部に鋭いショックウェイブをくらった。

『思考がだだ漏れしてんのよっ。馬鹿マサトッ。それ、絶対秘密って言ってるでしょっ。今月分の記憶ごと飛ばしてあげようか?』

 イチカがテレパシーを飛ばしてくる。マサトは、しりもちをついた。このショックウェイブの強度からして、イチカは本気だ。ハナちゃんは数に入れないとしても、ユイとナルミ。そしてエスパーとしても優等生のイチカ。マサトが3人を同時に相手にするというのは、少し荷が重い。

「あっ・・・・おーーい。みんなー。一緒になんかするー?」

 最初に気づいてくれたのは、意外にもヨーヘイだった。イチカもハナちゃんもルックスはなかなかイケてるから、ヨーヘイの女子アンテナが作動したのかもしれない。こういうことがあるから、こいつのエロ馬鹿加減は侮れない。

「あれ? イチカ、臨戦態勢? ・・・なんだよ、やんの?」

 気がついて近づいてくれるのはリョースケ。さすがはマサトのライバルだ。ヒトキの方を見たが、美女たちにネチッこい人格改造にまだ集中しているようだ。こういう空気の読めないところが、ヒトキの・・・、いや、やめておこう。ケイゴにしたって、来ていない。・・・と、思ったが、ケイゴが駅前のシティホテルから駆け出してきた。ケイゴはリョースケの言葉の影響を受けたのか、シティホテルでゴージャスなファックを探していたようだった。

「おいおいっ。俺の予知通りだっ。みんな揃ってんじゃん。クラスメイトの女子も混ざって、俺たち今日、大乱交っていうビジョンが降りてきたんだよ。」

 嫌な予感がマサトの表情を硬くした。チラッとイチカの方を振り返ると、彼女も真っ青になっている。

『マサト、みんなで馬鹿ケイゴ抑え込むよっ。』

『いや、こういう連係、ヨーヘイとか出来ないって』

『授業で習ったばっかりでしょ? ・・・もう・・。だから馬鹿男子はヤなのよっ。』

「ほら、マサト、リョースケ。見ろよ。俺のビジョンがどんどん明確にっ。」

 居合わせたクラスメイトの男女でバリアを張った。いつも通り、ヨーヘイが出遅れる。ヒトキは他事に集中している。ハナちゃんはまだコックさんの制服の裾の長さを気にしている。残念ながら、連係はバラバラだった。何とか張ったバリアの周りに、ケイゴを中心に地面に光のひび割れが四方八方に走っていく。地面だけではない、空中にも青い光のひび割れ。天までひび割れて、その背後から、もう一つの駅前広場の景色が現れる。

「ヨーヘイ、バリア弱いっ。」

 つむじ風に巻き込まれて髪をなびかせながら、イチカが声を強める。

「いや・・・俺、よく考えたら、今回のケイゴのビジョン、別に嫌じゃないわ。」

「最っ低!」

 ヨーヘイが担当するべき部分のバリアが穴になって、そこから青い光のひびが走る。半球体の連係バリアが脆くもバラバラに壊れてしまった。ケイゴのビジョンが、駅前のすべての人に浸透していく。マサトやイチカといったエスパーたちも含めてだ。

「はぁ・・・なんか、優雅なティータイムとかいって、気取ってるのも、ちょっと飽きちゃった。なんか・・・もっと、私、・・・刺激が欲しいな。」

 ユイが一言漏らす。イチカが制するように視線を送ったが、ユイはイチカをエスコートしていたダンディオジサンの胸元にこめかみをこすりつけて、物欲しそうに手をつないだ。

「ちょっとユイっ。意識を集中させて、気を強く持ってよ。」

「そう。植え付けられたビジョンも、追い出すことは出来るぞ。」

 マサトがイチカの援護をする。思わぬサポートに少し気を良くしたイチカがマサトの横に立って指でマサトの手の甲をチョンと触った。・・・これはイチカの通常の行動だろうか?

「ユイもナルミも、気を確かにっ。ハナちゃんは・・・ちょっと無理っぽいから、みんなでハナちゃんを守ろうよ。」

「そうだ。ケイゴのインチキ予知なんかに付き合ってたら、門限守れなくなるぞ。」

「そうっ。今、マサトが良いこと言った。」

 チュッ。

 頬っぺたに一瞬、温かくて柔らかい感触。マサトは怪訝な顔でイチカを見る。今、イチカ。俺に同意したっていうサインで・・・、頬っぺたにキスしてきた?

「お、おい。イチカ、お前こそ大丈夫かよ?」

「は? ・・・あたしの心配してなくていいってば。マサトだってソコ・・・、あっさり反応してない?」

 イチカに指差された部分を俯いて確かめると、履いたばかりのズボンがパンパンに張っていた。

「あたしは1学期の総合成績、ケイゴよりもアンタよりも上だったんだよ。ケイゴのマインドハックくらい、抵抗出来るに決まってるじゃない。余裕よ。・・・こんなことしちゃって、ちょっと遊んじゃっても、全然大丈夫なくらい。」

 イチカが高そうなワンピースの裾を両手で持って、ペロンと捲り上げる。シルク地らしい、ゴージャスな下着が見えた。外出許可日に精一杯、お洒落しているのだろう。

「お・・・俺だって、ちょっとくらいケイゴのビジョンを遊ばせる余裕あるぞ、見てみろよ、ほらほら。」

 ワイシャツを第四ボタンまで外して胸元をアピールする。ここにジローラモ先生くらい胸毛が生えているとさらにセクシーなのだが、マサトの胸板はツルツルだった。

「アンタ、そんな程度で余裕見せてるつもり? ・・アタシを見なさいよ。こういうのが、有能エスパーの余裕っていうの。わかる?」

 イチカは背中のチャックをチーーーーっと下ろして、剥き出しの白い背中を曝け出す。肩を抜いて、上半身は光沢のあるシルクのブラジャーと銀のチョーカーだけという姿になった。腰を少しくねらせながら、ワンピースドレスを膝元まで下ろす。足を抜くと、完全なランジェリー姿になった。

「俺だって、そんくらい・・・。ほれっ、どうだっ。」

 2人で競い合うように下着を放り投げて、裸で向かい合う。

「アンタ相変わらずの粗チンよねっ。」

「お前の裸が子供っぽいから、この程度しか勃ってないんだっつうの。」

「アタシの体の魅力がわからないっていうのが、そもそもお子ちゃまなのよ。そこに寝そべりなさいよっ。」

「なんだよっ・・・うぷっ。」

 タックルのような勢いで抱きついてきたイチカが、マサトの口を唇で塞ぐ。大胆にイチカの舌が入ってきた。マサトも負けじとベロを絡ませて、涎をイチカの口に送り込む。イチカは鼻息をマサトの顔に当てながら、混じり合った唾液を飲み込んだ。ツンと立った乳首がマサトの胸元に触れる。手でオッパイを揉むとプルンと弾力のある丸い肉がマサトの手に吸いつくように馴染む。正直に言うと、最近揉んでいるオッパイのなかで、大きさは別として、一番愛着が持てる弾力かもしれない。

「んん・・・。もっと・・・。」

「もっと・・・何?」

 目を潤ませて、熱をおびたような表情で、イチカが囁く、マサトがその先を訊いてみる。

「もっと・・・されたって、アタシは大丈夫って、言ってるの。・・・・負けないんだから・・・。」

「・・・じゃ・・・。お邪魔します。」

 マサトがイチカの太腿を開かせて、モノをグッと押し入れる。イチカがハァっと息を吸い込む。前回同様に、2人の性器は具合良く結合する。何というか、体の相性が悪くないようだ。イチカが上に乗って、腰を振る。形のいいオッパイがプルプルと震える。気持ち良さそうに天を仰いでいる。

「ほら見ろ、俺のチンチン、立派だろ?」

「あんっ・・・あたしの魅力の・・・やんっ・・・・おかげだってば。あとは・・・その、相性? ・・・いぃっ・・・・。・・・アンタの・・・オチンチン・・・。あたしと・・・はぁん・・・してる時が・・・一番・・・立派・・・よ。・・やぁんっ・・・。」

 髪で顔が隠れるくらい首を振りながら、腰を激しく動かすイチカ。マサトのモノを搾り取るかのように、膣の内壁がグニョグニョ動く。

「イチカ、割と名器だよな。」

「マサト・・・、れ・・・冷静に・・・考えて・・・、ちょっとでも・・・長持ち・・・させようと・・・してるだけでしょ・・・はぅっ・・・・。」

 バレた。そろそろ我慢の限界が近づいているのだ。イチカの様子を見ると、彼女ももうすぐ果てそうだ。本当はイチカをイカせてから射精出来ると男のプライドが大いに慰められるのだが、ここはクラスメイトとのチームワークを取るか。

「そうだな・・・もうすぐ・・・イクわ。」

「じゃ・・・一緒に・・・・クルッ・・・あぁあああ、凄いっっっ。」

 マサトが思いっきり出す。イチカも同時に昇天。さっきの連係バリアはケイゴのショックウェイブに壊されてしまったが、今回の連係は息もぴったりだった。

「ふぁぁ・・・・凄かった・・・。」

 イチカがマサトの上に覆いかぶさる。オッパイの柔らかい感触が胸に当たる。2人で呆然とエクスタシーの余韻にしばらく浸っていた。

 おもむろに、イチカが体をあげて、下の方にずらしていくと、マサトのドロドロになった股間に顔をうずめる。チロチロと、イチカのベロが当たる感触。背筋が快感でゾワゾワと締め付けられるようだ。

「・・・・悪いな。」

「ただの・・・証拠隠滅。・・・綺麗にしておかなきゃ、アタシが変な噂されちゃう。」

 女子の考えることは深い。仲良し女友達のあいだでも、色々な探り合いやゴシップの流し合いがあるのだろうか? ・・・とは言え、今この状況のイチカとマサトのことを、目ざとくチェックできている女子はいなさそうだった。

 ユイはダンディなオジサマに顔面騎乗位の体勢で跨りながら、リョースケのイチモツをフェラしている。ナルミはヨーヘイに担がれて、駅弁ファックしながら悶え狂っている。Eカップの巨乳が左右交互に上へ下へと暴れまくっている。みんな全裸になっている中、ハナちゃんはほぼ裸だが、コック帽だけはまだ頭に残している。膝立ちでお尻を突き出して、後ろからケイゴに突かれている。左手で体を支えながら、右手と口とでそれぞれ、知らないオニイサンたちのオチンチンを愛撫している。意外と欲張りな子だ。

 ヒトキを見ると、マサトが驚いて口を開けた。いつの間にか、今週の補導役のフミ先生が見回りに来ていたようだ。いつの間にか裸で四つん這いになっていたフミ先生は、口一杯に自分の下着を含んで、困った顔をしている。ヒトキが耳元で何かを囁くたびに、眉をハの字に、困惑の表情で、何度も頷いているフミ先生。きっと誰にも知られたくないような、恥辱の変態性癖をいくつも与えられているんだろう。見回りに来て、うっかりケイゴのショックウェイブを食らってしまったのだろうか。そうなるともう、ヒトキのシップインに抵抗するだけの構えはなかったはずだ。今、自分の下着を、顔が変形するくらい頬っぺたパンパンにしながら、モグモグしているのも、新しい習慣だろうか。いくら先生でも、こうなってしまうと2週間はヒトキの呪縛から逃れられないだろう。

「イチカ・・・俺、他の子ともヤリたいんだけど・・・駄目?」

 フェラチオをしてくれているクラスメイトに、恐る恐る聞いてみる。優等生の突き刺すような視線が帰ってきた。

「・・最後、もいっかい、アタシのところに来てるれるんなら・・・いいけど・・・。」

「・・・サンキュ。」

。。。

 結局マサトたちは、寮の門限を1時間も破ってしまった。女子寮では寮長先生が、優等生のイチカたちの規則破りに驚いていたようだ。マサトもヨーヘイも、リョースケもケイゴもヒトキも、イチカもユイもナルミも来週の外出許可は取り消し。ハナちゃんは制服を無くしたことも減点で、2週間の外出不許可になってしまった。

『もう、アンタたちと関わると、ほんっとロクなことないから、近寄らないでよっ。』

『そう言われても、同じクラスなんだから、しょうがないだろ?』

『早く卒業したいっ。飛び級狙ってやるわ。』

『ケイゴのビジョンとかヨーヘイの百歩神拳に抵抗出来るようになるのが先じゃね?』

「うぉほんっ。授業中の私テレパシーは慎むように。」

『思い出させないでよっ。なんでアンタなんかと3回も・・・。あぁぁ、もうっ。アタシの馬鹿っ。ヘボエスパーッ。』

『そんなに卑下しなくていいじゃん。イチカちゃんのオッパイは美乳だよ。また触らせてもらいたい。』

『絶対イヤ。リョースケもマサトと一緒に死んで。』

『おい、俺は死ぬこと確定なのかよ。』

『俺もオッパイ触りたいっ』

「・・・はい・・・。私は、オッパイを・・・さわってもらいます。」

『おい、ヨーヘイッ。ハナちゃんがまた脱ぎだしてるぞっ。』

「授業中の私テレパシーと、勝手なマインドハックはやめなさい。あと、水森さんはジャージをちゃんと着て着席するように。」

『ヨーヘイ、あとで女子全員からショックウェイブ。』

『いや、俺じゃないって。』

『ゴメンなさい・・・。また僕かも。』

『シュンタだってよ。無意識型のマインドハックだから、しょうがねぇじゃん。』

『もーーぉぉおっ。このクラスやだっ。早く卒業したいっっっ!』

 先生以外は話していない、静まり返った教室で、テレパシーだけが騒がしく交わされる。エスパーコース2年生の教室では今日もお馴染みの授業風景が繰り広げられるのだった。

< おわり >

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