オカルトオアカルト 5話

<オカルト? > 東屋蓮 高校1年生

 朝、目が覚めて、自分の部屋と違う天井や壁の模様を、不思議な思いで眺める。そして、頭が少しずつハッキリしてくるなかで、自分が、自分の部屋で寝ていなかったことに気がついて、ビクッと飛び起きる。淡いピンク色のカーテン。クマやポニーの柄のついた壁紙、レースで装飾されたライト。ここは女の子の部屋だ。

 心臓がバクバクする。寝覚めの体には良くないことだ。隣を見ると、ベッドの脇には蓮の二の腕を抱きしめるように眠る、国枝清香ちゃんの可愛らしい寝顔。蓮の大切な彼女。………ようやく昨日のことを思い出す。落ち着け、大丈夫だと、自分に言い聞かせる。ここは彼女である清香ちゃんの部屋。蓮は清香ちゃんのご両親公認で、お泊りさせてもらったのだ。

「………ん…………。蓮君…………、もう………起きたの? ……………私も…………起きないと、駄目な時間かなぁ…………」

 いつもよりも甘えたような、気怠そうな声で、清香ちゃんが蓮に呼びかける。グーにした手で瞼を擦ったあと、また嬉しそうに蓮の二の腕を抱え込む清香ちゃんは、実際の年よりも、幼い子供のように見えた。まだ半分寝ぼけている。

「えっと………うん。まだ6時前だから、もうちょっと寝てて良いと思うよ。………僕、女の子が朝の支度にどれくらい時間かけるのか、知らないけど………」

 蓮の言葉を聞いているということだけ示すために、清香ちゃんは両目を閉じたまま、1センチくらい、本当に小さく頷いた。蓮と清香は、彼女のご両親が認めてくれたのを良いことに、昨日の夜から清香の部屋で一緒にいる。お風呂から上がった後は、パジャマを着たり脱いだり、脱がし合ったり、最後はずっと脱いだままで、深夜近くまでずっとイチャイチャしていた。途中で盛り上がってくると、どちらからともなくお互いの体を求め合って、愛し合った。枕もとを見てみると、ティッシュの箱が1つ、空になってしまっていた。何回、エッチをしたのかは、覚えていない。

「清香ちゃん、………凄く眠そうだけど、僕が寝た後も、しばらく起きてた?」

「…………………ん………。ずっとね……………れんくん…………みてた…………。ねがお………かわいかった…………から………」

 目を閉じたまま、うつらうつらしつつ、途切れがちに言葉を出す清香ちゃんは、まるで寝言を口にしているようだった。長い睫毛と綺麗な鼻筋、小さな顔の輪郭に顔のパーツが最適なレイアウトに落とし込まれたかのように整って収まっている。それでいて、冷たい印象ではなくて、柔らかそうな頬っぺたや唇の様子は、愛くるしい。これ以上なく可愛らしい寝顔。そんな清香ちゃんに「寝顔が可愛かったから夜通し見ていた」と言われると、思わず、添い寝する彼女を力一杯抱きしめたくなってしまう。とはいえ、力任せに絞めつけてしまっては可哀想なので、かわりに人差し指で、彼女のプクッとした頬っぺたを押してみた。弾力のある柔らかい肉が、指を包み込むように沈む。

「………んんん…………」

「痛い? …………邪魔で寝れないかな?」

 蓮が清香に囁きかけると、彼女は頬っぺたを指で押されたまま、小さく首を横に振ると、もっと体を押しつけるように蓮に抱きついてきた。足を絡める。ムニュっとオッパイが肘に押しつけられる。蓮は、指で彼女の頬っぺたを突くのをやめてベッドでまた横になる。裸の彼女に抱き着かれている、右半身に蓮は神経を集中させて、恋人との朝のお目覚めを楽しんでいた。

「………蓮君………、もう元気なんだよね? ………朝だし」

 不意にガバッと起き上がる清香ちゃん。シーツの中に潜り込むようにして、蓮の下半身を探る。彼女の予想通り、蓮の股間は昨夜の連戦を忘れたかのように、威勢よく、そびえ立っていた。ソレの先っぽから、温かくて湿ったものに包み込まれる感触。ピトッとくっついてきた粘膜みたいな感触は、清香ちゃんの舌だろう。学年で有名になるくらい美形で、清楚でお淑やかなお嬢様の、精一杯気持ちをこめたフェラ。一昨日、君原先生の課外授業で披露してもらったフェラチオと比べると、ずいぶんとテクニックや思い切り、激しさでは負ける。けれど、その丁寧で、気遣いに満ち溢れた舌の動きと彼氏への愛情表現は、蓮を感激させてくれる。割とすぐに、蓮はイキそうになってしまう。

「………あの………、清香ちゃん……」

「………………はぁい………」

 蓮が呼びかけただけで、彼女は察したかのように、一旦フェラを中断して、体を起こして蓮の腰の上にまたがる。かぶさっていたシーツが彼女のスベスベの肌を強調するかのように、背中を撫でながらベッドの上へと落ちていく。間近で見る、彼女の清らかでエッチな裸。少女から大人の女性になっていく途中の、華奢な手足、腰回りの優しい曲線。それを蓮は至近距離で見つめながら、おチンチンがヌリュっと彼女のナカに咥えこまれる感触を楽しんだ。

 ゆっくり腰を振る清香ちゃん。以前よりもだいぶ上手になってきた。テクニックがどうとかいうよりも、彼女が蓮とセックスをすることに関して、自信と余裕を持つようになってきたのが、2人がより楽しめるようになった要因かもしれない。体勢を変える時に間を置いたり、自分のペースで体を動かしたりすることについても、ゆとりを感じる。何より清香ちゃん自身が蓮とのマッタリとしたエッチを楽しもうとしている。それが感じられるから、蓮も心置きなく快感に身を委ねることが出来ている。フェラが中断した間に、少しだけ落ち着きかけた彼のモノが、もう暴発寸前になる。ゆったりとしたペースで腰を振りながらも、彼女のアソコの締めつけが、何とも言えず蓮の快楽のツボとフィットして来ている。一言で言うと、体の相性がどんどん良くなってきているということだろう。

「………清香ちゃん…………。もう………」

「はぁい…………」

 嬉しそうに、蕩けそうな笑顔で蓮に顔を寄せる清香ちゃん。愛おしそうに蓮の両頬を手で包み込んだあとで、顔を少しだけズラすように傾けながら、キスをした。

 朝の一発目が終わると、そろそろ学校に行く支度の時間になる。名残惜しそうにもう一度キスをしながらお互いの体を触りあった2人が、ベッドから起き上がって、シャワールームに行く。蓮の家には風呂場が1階に1つだけあって、脱衣所と洗面所が一緒になっている。けれど清香ちゃんの家は、もっと裕福なようで、彼女の部屋にユニットバスの洗面所があった。1つのシャワーヘッドを交互に手渡し合いながら、2人で体を洗いあっこする。柔らかい高級なバスタオルで体を拭いたあと、2人の顔が鏡に映るように肩をくっつけ合いながら、隣り合って歯を磨いた。鏡越しにお互いの視線が合うと、微笑み合う。同棲すると、こんな楽しいことが毎日起きるのだろうかと思うと、蓮は早く大人になりたいと願った。

 。。

 2人で手を繋いで階段を降りると、清香ちゃんのご両親がダイニングテーブルで迎えてくれる。2人には朝から、ハンバーグと目玉焼きが振舞われた。

「若いんだから、沢山食べて、パワーをつけなきゃ駄目よ。昨日も、遅くまでお楽しみだったんでしょ? ………若いっていいわね」

 ウェーブのかかった紙を後ろで上品にまとめた、清香ちゃんのお母さまが、思わせぶりな笑顔で、2人におかわりを薦める。

「蓮君は運動が得意なんだよね? 遠慮せずに、どんどん食べなさい。………あ、昨夜は、清香を食べちゃったから、お腹一杯かな? …………なんてな………。アッハッハッ」

 読んでいた新聞紙を少し下ろして、まだ緊張している蓮に話しかけた実業家のお父さんが、ダンディに笑う。けれど蓮には一緒に笑うことは出来なかった。

「もう、イヤですよ、お父さんったら。ウフフフ。若いから、仕方がないけれどね」

「アッハッハッハ。いやー。私たちも、今夜どうだい、母さん」

 盛大に笑う清香のご両親。蓮の隣に座る清香の顔を見ると、少しゲッソリしていた。

 。。

「おはよー。どうだった? お泊りデート。………親が超理解的で進歩的な性格に変わると、色々便利だったんじゃない?」

 朝、清香ちゃんに引っ張られて、蓮もオマジナイ倶楽部の部室に入ると、寝不足らしく、赤い目をした松風先輩が、水晶玉から目を離さずに2人に話しかけてきた。部室の奥では、ジオラマの前で関屋先輩が、今日もルゴブロックを弄っている。この2人は授業よりも、まるで部室で過ごすために学校に来ているような様子だった。

「あの………理解的は良いんですが………、2人とも性格が変わりすぎてて、ちょっと怖いです。もうちょっと普通に戻してあげてください。お願いします」

 清香ちゃんが頭を下げると、学生占い師の松風先輩は、余り表情を変えずに、チラッとだけ清香ちゃんを見た。

「ありゃ……、私また、調整間違えた? …………最近調子悪いなぁ………。星の巡りがおかしいのか、オマジナイの磁場を狂わせるような霊的な活動が近所で増えてるのか、とにかくここ1ヶ月くらい、微妙に私の占いも、逆占いも、ズレることが多いんだよね。………昨日も、そのあたりのピントの調整に手間取って、ほぼ徹夜だよ………」

 いつもよりもさらに青白い顔をした松風先輩が、苛立ちを誤魔化すように愚痴る。言葉数も、普段より多めだった。

『逆占い』という言葉は、蓮にとってはまだ聞き馴染みの薄い言葉だ。多分、この部室で聞かされたのが初めてだったと思う。最初は「魚占い」と聞き間違えたくらいだ。

 自発的に、あるいは人から依頼を受けて、誰かの性格や、恋愛の相性、あるいは近い未来の運勢や、さらにはもっと強力な運命まで、普通はわからないものをオマジナイの力で見定めるのが、『占い』。それは、信じるかどうかは別として、定義自体は誰もが知っていることだろう。そして、そこからもっとレベルの高い占い師が出来るのが、対象に占い師が指定した性格や、相性・体質・行動、そして未来に起こることまでを押しつけるという、『逆占い』なんだと、松風先輩は教えてくれた。これが彼女の得意技といえるレベルまで、すでに達しているそうだ。

「最近、私がハマってる遊びは、目をつけたクラスや部活のメンバーの名前と写真を並べて、そこにランダムで動物園の人気動物とか、カップルとかの性格や行動を押しつけてみるの。無作為に選ぶから、予想外の景色が見れて、結構な暇つぶしになるんだよね」

 松風先輩の話を聞いていると、頭がクラクラしてくる。元々占い師って、先の読めない未来を言い当てたりするのが役割なのだろうと蓮は思っていたのだが、先輩は何周も先を行ってしまった結果、おかしなところへ到達している。自分の指定する性格や行動、その日の出来事を、目をつけた相手に押しつけてきた挙句、今では逆に、無作為に、どんな未来が相手に押しつけられるか、自分で決めずに割り振って楽しんでいると言うのだ。やはりこの部の先輩たちは、性格が根本的に捻じ曲がっていると、蓮は改めて実感した。

 とにもかくにも、それらを実行するための道具は様々で、豊富。松風先輩はちょっとした、「オマジナイ・ガジェットマニア」らしい。水晶玉にトランプにタロットカード、ウイジャ・ボード、薬草、粉薬、護符にジャラジャラした装飾品。藁人形に、珍しい干物。ツールへのこだわりは、オマ・クラで1番かもしれない。

「えぇっとー………。国枝憲次郎と清子夫妻は………あー、ちょっと『濃霧』と『向日葵』を寄せ過ぎたのかな? 新月の前は、これくらいでも他の親は大丈夫だったんだけど………」

 机の上に広げられていた、白い画用紙を何枚か捲ると、昨日の放課後に松風先輩が作ってくれた、清香ちゃんのご両親用の紙が出て来る。日本語で書かれた名前の下に、オマジナイの文字。清香ちゃんが送付した、両親の写真は小型の卓上プリンターで印刷されて、切り貼りされていた。その周りに描かれた魔法の模様と、配置に気をつけながら両面テープで貼りつけられた『タロットカード』。しかしその中身は、蓮には馴染みのない絵柄だった。

「一般的に知られているのは表のタロット。ここにある『濃霧』や『向日葵』、『魚釣り』に『王宮』、『重騎兵』とか『つむじ風』とかは、裏のタロットって呼ばれてる。ま、最終的には自分でカードを作って逆占い出来るようになるから、習熟すればするほど、何でも有りなんだけどね………」

 昨日、松風先輩は、ダルそうな口調で、そう教えてくれた。

『平穏』、『従者』、『ヒアシンス』、『踊り子』、『忠誠』、『水滴』………。

 並べられたカードの中には、職業があったり、自然のものがあったり、感情や概念があったりと、蓮は妙な組み合わせだと思った。………けれど、よくよく考えると、『表のタロット』も似たような組み合わせではあるかもしれない………。蓮はこの不思議な世界観に圧倒されていたが、隣で聞いていた清香ちゃんは、ずいぶんと興味を持って聞いていた。女の子はもともと、こうした不思議なものや、占いというものに、惹きつけられる習性をもっているのだろうか? ………珍しく、清香ちゃんの方から、性格の逆占いをしたら、人の性格を変えられるのかと、質問をして………やがて両親の躾や家の決まりごとが厳しくて、蓮と自由にお付き合いしにくいという相談になった。そして今朝は、ご両親が変わりすぎたという悩みの相談に繋がっている。強力な占い師のもとには、いつも悩める女の子たちが助けを求めてやってくるという訳だ。

「あぁー。私、スランプかな? こんな時こそ、素直な実験台が欲しいなぁーっ。早く帰ってこーい」

 眠そうにアクビをしながら、両手を上に上げて伸びをした松風先輩が、ダルそうな声を上げたと同時に、部室のドアが開いて、賢木先輩が入ってきた。

「オッハヨー。若者たちよ。朝から根暗な占い師に、不健全な相談かね?」

「ウォウッ」

 犬の鳴き声………を真似た、人の声。見ると賢木先輩の手には紐が握られていて、その紐は四つん這いで部室に入ってきた、学園屈指の美人教師、君原直美先生が巻いている首輪に繋がっていた。

「あぁーーっ、私のナオミちゃんっ。おいでおいでっ。ほらっ、お手っ………。やっぱ君は可愛いぃなーっ」

 襟付きの白いシャツにタイトスカート。いつもの君原先生の、キャリアウーマン風の出で立ちだが、顔は大真面目に犬になり切っている。舌を突き出して、ハッハッハッと息を飛ばしながら、松風先輩の差し出した手のひらの上に、即座に忠実に、前足(手)を乗せた。松風先輩に首回りを撫でられると、嬉しそうに喉を鳴らしている。

「ナオミちゃんと一緒にお散歩。早起きはダルいけど、朝の空気は綺麗だし、気分もスッキリ、リフレッシュされるよ。繭菜も行って来たら?」

 賢木先輩がそう言いながら、リールの端を机の上に置く。けれど松風先輩は賢木先輩を見返すこともなく、そのまま君原先生とジャレ合っている。

「もうそろそろ、登校時間のピークだし、目につきやすいでしょ? ………私はこうやってナオミちゃんと部室で遊んでるだけで、充分。………んぁーっ。癒されるっ。簡単に逆占いを狙い通りのコースで受け止めてくれる先生、大好きっ」

 2人の先輩の口ぶりだと、蓮と清香ちゃんが部室に入ってくるよりも前に、賢木先輩と松風先輩は早朝の部室に君原先生を呼び出して、『犬の性格』を押しつけて肩慣らしというかストレス解消をしていたようだった。よくこうして、コントロール調整と銘うっては、先生を玩具にしているのだろうか? 女の先輩たちの悪だくみは、蓮にとってはゾクゾクする怖さを感じさせた。

「繭菜の言う通り、もうすぐ始業のベル鳴るね………。そろそろ、ナオミちゃんにかけたオマジナイ、解いてあげよっか?」

 賢木先輩が尋ねる。松風先輩は、お座りのポーズで背筋を伸ばしている君原先生の体に抱き着いたま、覆いかぶさるようになっていた。

「ね、………繭菜、聞いてる?」

「…………ちょっと………、悪いけど、横にならせて………」

 松風先輩は、顔を上げずに、弱々しい返事を返す。清香ちゃんが心配そうに駆け寄った。

「先輩? ………大丈夫ですか?」

「ちょっと…………寝不足と………貧血………」

 青白い顔の松風繭菜先輩はそれだけ言うと、ゆっくりと床にしゃがみこんで、動かなくなった。

「あーぁ。………航大、繭菜がまた貧血だよー」

「…………………ったく、こいつまた、飯も食わずに徹夜してたんだろ? ………貧弱なのに」

 それまで一心不乱にジオラマの手入れに没頭していた関屋先輩が、賢木先輩に呼びかけられると、面倒くさそうに振り返って近づいてくる。松風先輩のスレンダーで小柄な体を、ヒョイッとお姫様抱っこの体勢で持ち上げる。

「寝かせて来るわ。多分、1時間もすれば、回復するよ。どうせ起きてもまた、水晶玉覗きこんでるだけだろうけど」

 関屋先輩が松風先輩を隣の部屋まで運んでいく。この前、蓮と清香ちゃんが初体験をしたベッドで、松風繭菜先輩を休ませるのだろう。賢木先輩も面倒くさそうな態度を取りつつも、今朝、ずいぶん早くに部室に顔を出して、松風先輩の様子を見に来たり、君原先生と遊ぶことを提案したりしていたのだろう。ぶっきらぼうなように見えて、この先輩たちはそれなりにお互いを気遣っていることがわかった。

 清香ちゃんのご両親も「理解的で進歩的」な度合いが正しく調整された。松風先輩が貧血から回復したら、関屋先輩もジオラマ弄りに集中できて、賢木先輩の心配ごとも無くなって、蓮は朝一番の授業に出られ…………。

「ん?」

 そこまで考えて、蓮は一つの疑問に突き当たった。

「あの、賢木先輩………。僕たち、教室に行って授業受けますけど、………君原先生って、大丈夫なんですか? ………1時間目から授業があったら、このままだと、ヤバい気がするんですけど」

「…………あ………」

 蓮に聞かれて、賢木先輩も「ヤバっ」という表情になった。

「蓮ってまだ、繭菜から逆占いの解除の方法とか、習ってない? ………私もずいぶん前に聞いたことあったけど、その頃から召喚士一本でいこうって決めてたから………」

「………うろ覚えっていうことでしょうか?」

 清香ちゃんが不安そうに賢木先輩を見る。先輩は舌打ちしながら顔を逸らした。蓮は聞こえないように溜息をつく。

「じゃ、先輩の召喚のオマジナイで、状態まで指定するって出来ないですか? この前、君原先生に『犬の真似して部室に来る』っていうオマジナイをかけた逆で、『人間に戻って授業のある教室に』って………」

 舌を突き出したまま、ハッハッと息をしつつ、君原先生は四つん這いのまま、真っ直ぐな目で蓮と賢木先輩を交互に見上げている。自分のことが話されている、自分の心配がされているということも、わかっていないようだった。ある意味、呑気で幸せな状態………。

「あのね、想定外の事態を出来るだけ避けるために、ウチら、系統の違うオマジナイを何層も混ぜ込まないように、気をつけてんの。さっき繭菜に『即座に体力回復』とかオマジナイかけなかったのも、同じ理由で、オマクラの部員同士で安易に掛け合うことも、避けてる。アクシデントで共連れに行動不能になったら、修正する奴もいなくなっちゃうでしょ? ………だから、繭菜が掛けた逆占いは、アイツの回復を待ってからアイツに解除してもらうか………。私らが、出来る範囲で、同系統の逆占いのオマジナイで処理するしか無いかな? ………くそぉ…………この本だっけ? ………アイツほんと、資料積みすぎ………」

 賢木先輩はブツブツ文句を言いながら、本棚を漁って、ページを捲っていく。しばらくして、手を止めた先輩は、大人しく「お座り」していた君原先生の前に、分厚い本を持って立つ。何かボソボソと、少し自信なさそうに囁いたあとで、先生の背中をバチンと叩いた。

「ほれっ。人間の先生に戻った? ………どう? ナオミ先生」

 賢木先輩に聞かれて、キョトンとしながら左右を見回した君原先生は、おずおずと立ち上がって、小さく頷いた。

「ウォン」

「いや、戻ってないじゃんっ」

 苛立ちながら、賢木先輩が何度も日本語でない言葉を唱えて、立ち上がった先生のお尻をバシバシ叩く。

「キャンッ…………イタイワンッ」

「………おっ………。もうちょっと。ほら、大人しくしなさいって」

 お尻を押さえて逃げようとする美人教師を、賢木先輩が掴まえて、容赦なくスパンキング。何度もオマジナイの言葉を唱えているうちに、君原先生の口調がどんどん人間らしくなってきた。

「もっ………もう大丈夫だから、叩かないで……………ほしい………………………………ワン」

 最後に消え入りそうな小さな声で、「ワン」という語尾が出てしまったが、賢木先輩はそれ以上、先生のお尻を叩くのは止めて、叩いていた手のひらをもう片方の手で擦る。スパンキングは、する方も手が痛いらしい。

「………ま………、こんなもんでしょ? ………良いんじゃない? 午前中の授業だけだったら、これで大丈夫でしょ」

「………え? ………今、まだ先生、最後にワンって、言ってましたけど………」

 いい加減に済ませようとする賢木先輩に、真面目な清香ちゃんが訴える。けれど、先輩の逃げ足は速かった。

「そういえば私の1時間目の授業は英語だった………。Mr.ウィリアムズはそこそこカッコいいから、授業出て来るねっ。君たち、ナオミちゃんのことが気になるんだったら、廊下から彼女の授業見ておいて、フォローしてあげても良いんじゃないっ? ………先輩が『強くお薦め』するね。………じゃっ」

「う…………。はいっ。君原先生をフォローしますっ」

「任せてくださいっ」

「いやまだ、………私ちょっと、授業出来るような気がしない……………わん」

 1年生2人と、スパルタな授業で有名な美人教師1名が、それぞれのリアクションを口にする。けれど賢木先輩は逃げるように部室のドアを閉めていってしまった。部室では、残された蓮と清香ちゃん、そして君原先生が、不安で一杯の視線を交わし合っていた。

 。。

 高等部2年2組の1時間目の授業は数学。美人だが厳しい指導で有名な、君原直美先生の授業ということもあって、朝一番から生徒たちは緊張気味に着席している。ビジネススーツに身を包んだ君原先生が始業時間から4分だけ遅れて入室すると、颯爽と教卓の前に立つ。礼を交わしたあとで、先生は教科書を開いた。

「Open page ワン・トゥウェンティー・ワン」

 なぜ英語で指示が出たのか、首を傾げる生徒もいたが、若くてモデルのように綺麗な顔立ちの君原先生が言うと、すっかり様になっている。なので誰も声に出して質問をしたりはしなかった。授業が始まる。先生はいつもよりも言葉少な目に、課題を指し示しながら、どんどん問題を生徒たちに解かせる。指揮棒を使って、あまり喋らずに指示を出してくるので、機嫌が悪いのかもしれないと、生徒たちは緊張していた。2-2の教室の中を、廊下からソッと覗きこんでいるのは、1年生の蓮と清香。部活の顧問である君原先生のことが心配で、自分たちの授業は抜け出してきたという、真面目なのか不真面目なのか、微妙な行動をとってしまっていた。

「………今のところ、大丈夫みたい………」

「………静かすぎて、ちょっと怖いね。…………ちょっとでも怪しい行動を取ったら、目立っちゃう………。すぐに割り込んで、誤魔化さないと………」

 扉付近で、蓮と清香とがヒソヒソ話をする。清香の吐息が蓮の顔に当たる距離。蓮はまた秘かに制服のズボンの一部分を膨らませていた。

 カンッ。

 緊張感満載の授業のせいか、最前列の席に座っていた女子生徒が、黒いペンケースを机から床に落としてしまった。その瞬間、君原先生がダイナミックな動きで床へダイブしたかと思うと、女子生徒がペンケースを拾おうと手を伸ばすよりも先に、両手を床についてその筆箱を口に咥えて拾ってしまった。

「ウォフッ」

 少し誇らしそうな顔で、四つん這いのまま、咥えたペンケースを女子生徒へ突き出す君原先生。その瞬間、清香ちゃんが教室の扉を勢いよく開いた。

「お取込み中すみませんっ。君原先生っ。職員室に緊急のお電話です。すぐにいらしてくださいっ」

 強い責任感のせいだろうか。清香ちゃんは蓮が想像したよりも素早く動けて、大きな声を出せていた。我に返った君原先生は、顔が赤くなるのを髪の毛で隠すようにして、廊下へ駆け出る。

「い………いやぁ…………、君原先生、黒い筆箱と恵方巻を間違えたのかな? ………食べ物を大事にする、凄くしっかりしたヒトだなぁ…………なんて…………。あ、あの、先輩方、少しの間、自習していて欲しいと、教頭先生が言ってました………」

 蓮は2年の先輩たちの視線を集めると、どうしようもない下手なフォローしか出来なかった。とにかく扉を閉めて、清香ちゃんと君原先生と一緒に、階段まで走る。君原先生はもう、四つ足で走っていた。

「先生、落とし物があっても、駆け寄って、咥えちゃったら駄目ですっ」

 清香ちゃんが真面目な顔で注意する。プライドの高い美人教師は、1年生の美少女の真っ直ぐな注意に何一つ言い返すことが思い浮かばずに、顔をプルプル震わせながら横を向く。

「わかってるけど、とっさに体が動いちゃった………んだワン…………」

 蓮が間に割って入る。美女と美少女が対峙しているところはとても画になると思ったが、2人とも生真面目なので、話が終わらなさそうだ。

「2-2の先輩たちが怪しがりだす前に、教室に戻りましょう。それまでの間に、君原が我慢して押さえつけてた、犬の部分を、全部ここで出しきっちゃいましょうっ」

 清香ちゃんは蓮の言葉に頷くと、階段を上がって、廊下の左右から人が来ないか、見張る役を務めてくれる。その間、階段の踊り場のちょっとしたスペースで、美人先生と蓮とが犬の躾を1つずつ、潰していく。

「お手………おかわり…………。よしよし…………。3回まわってワン」

 嬉しそうに、誇らしそうに、ベロを突き出した秀才先生が両手両膝をついてグルグル回って、ウォンと吠える。

「チンチン………。…………うん、よしよし」

 両足を肩幅に開いて、膝をガニ股気味に曲げた美人先生は、軽く握った両手を胸の前に構えて、犬の「チンチン」のポーズを取る。褒めてもらえる期待で、目を輝かせている君原先生の後頭部とお腹をゴシゴシ撫でてやる。先生は嬉しそうに、喉を鳴らした。媚びるような細い声で、「ク~ン、ク~ン」と蓮にジャレついてくる。もっとスキンシップが欲しいのか、清香ちゃんが階段を降りてくると、彼女にも飛びついてしまった。

「………キャッ………。先生………。くすぐったいです~」

 悲鳴をあげる清香ちゃんに申し訳なさそうな表情を作りながらも、君原先生は彼女に圧し掛かって、その可愛い顔をベロンベロンと無遠慮に舐めまわす。

「やだ~。先生、やめて~」

「わっ………私だって、こんなこと…………したくないのに……………我慢できないんだワンッ」

 階段の踊り場に倒れこんだ清香ちゃんに覆いかぶさった君原先生が、必死に顔を逸らそうとする清香ちゃんの顔をベロベロ舐めて、涎まみれにしてしまう。絡み合う2人の綺麗な女の人。舐められている美少女は蓮の彼女で、舐めている美女は蓮の性教育教師。そんな目で見てしまった瞬間に、蓮の股間は暴発寸前になっていた。その股間を両手で隠すようにしながら、蓮は懸命に冷静を取り繕う。

「先生っ。もうそろそろ教室に戻らないと不自然ですよっ。もう、犬の気持ちは充分発散出来たんじゃないですか?」

 蓮の声を聞いて、ピタッと動きを止めた君原先生。少し黒目で上を見るようにして、思案する。

「もう1つだけ………。お願いしたいことが、あるの……………………………だワン」

 先生の、人としての理性が8割くらい戻っている時は、語尾の犬真似が相当小声になるし、2呼吸分くらいの間は、言わずに我慢できている。………あと一押しのようだ。蓮と清香ちゃんは頷き合って覚悟を決める。

「……………出来れば……………その…………、早く終わらせてほしいですっ………」

『きをつけ』の姿勢を保ちながらも、真っ赤な顔で懇願する清香ちゃん。隣で同じく直立している蓮も、居心地の悪い思いをしていた。立ち尽くす2人の生徒の後ろで、クンクンと鼻を鳴らしながら、学園で評判の美人教師、君原直美先生が、四つん這いで顔を生徒たちのお尻に近づけて、嬉しそうにお尻の匂いを嗅ぎ比べていた。

「もうちょっと…………。もうちょっとだけ…………。あと少しだけ犬でいさせてもらえたら、………授業の終わりまで、人間やり切れる気がするの……………………………(だワン)」

 先生の切羽詰まったお願いを断り切れず、清香ちゃんと蓮は、恥かしさを押し殺して、授業時間中の校舎で、至近距離から先生にお尻の匂いを嗅がれるという、赤面タイムをなんとかやり過ごした。シレっとした表情で2-2の教室に戻った君原先生は、「ウォほん」と1回だけ咳ばらいをしたあとで、平然と授業を再開した。

 なんとか1時間目を乗り切った先生を廊下で迎えて、3人で数学教材室へと早足で移動する。授業の後半を人間として押し通した反動だろうか、君原先生は「服着てるのが息苦しくて耐えられないワン」と言い出す。清香ちゃんが静止する間もなく、ビジネススーツをポンポンと脱ぎ捨てた先生は、全裸で嬉しそうに部屋の中を駆け回った。清香ちゃんの上履き、蓮の上履き、次々と要求して、一個ずつ口に咥えては、部屋の隅へと持って行って、大事に上履き4つの上に寝そべる。お気に入りの玩具になってしまったようだ。靴下で床の上に立っている蓮が、君原先生に指示をすると、即座に寝返りをうってお腹を見せる直美先生。両手と両膝を肩幅に広げて抱え込むように折り曲げて寝転ぶので、股の間の大切な部分は丸見えになってしまっていた。限られた休み時間のなかで、先生が逆占いで押しつけられた犬の人格(犬格?)を発散させきらなければならないので、これは時間との戦いだ。

 しまいには、想像上の自分の尻尾を自分で追いかけてグルグル回るという、およそ人間らしくない姿で短時間に体力を使い果たした君原先生は、少しスッキリとした顔で、2時間目のクラス、2年6組へと向かう。この2時間目の途中になって、ようやく松風先輩が目を覚ましたらしい。賢木先輩の『呼び出し』を受けた君原先生、清香ちゃん、蓮の3人は、結局2時間目の途中で部室へダッシュで戻る。ちょっと顔色の良くなった松風繭菜先輩がボソッと喋って、先生の方をポンッと触っただけで、先生は完全に正気に戻ったようだった。蓮と清香が賢木先輩の表情を見てみようと視線を送ると、賢木先輩はこちらに背を向けて、ずっと部室の窓から外を見て、やり過ごしたのだった。

「あの………、苦労して、まだ半分犬だった君原先生の授業をフォローしてきたんですけど、………賢木先輩の『召喚』のせいで、結局授業を放ったらかしで部室に戻ってきちゃっのって、私たちの努力が無駄になってませんか?」

 清香ちゃんが理路整然と指摘する。蓮も聞いていると、その通りだと思った。

「まぁまぁ………、色々あるけど、最後は航大が何とか誤魔化してくれるって。………ね? 建築士様?」

 いい加減な口調で賢木先輩が誤魔化すと、溜息を鼻から漏らしたような音をさせて、関屋先輩が振り返る。

「どうせなら……………祭りとあわせて、一気にかたつけるか」

「あっ………。お祭りの準備出来たの?」

 さっきまで貧血で寝込んでいたはずの松風先輩までが、ちょっと嬉しそうな声を出した。

「………本当だったら祭りは明日なんだよ。………ちょっと準備の人手が足りないんで、清香ちゃんと直美先生にも設営手伝ってもらうわ。悪いね」

 蓮は関屋先輩の言葉に返事をしない、清香ちゃんと君原先生の様子を確かめようと、自分の左右を見て、ビクッとする。両隣に立っている清香ちゃんと先生はすでに、まるでプラスチックの人形のように不自然なほど直立不動で、ぎこちなく両腕を肘から90度に折り曲げていた。顔は無機質な笑顔になっている。2体の作業者人形のようになった人たちが、180度回転したかと思うと、トコトコと棒のように伸ばした足で部室を後にする。

「………蓮、こっちで見てみな。今回は急造だけど、学園の敷地いっぱい使って、ルゴブロックで祭りを作ってんだ」

 関屋先輩に呼び寄せられるままに蓮が部室の奥、ジオラマの前に行くと、確かに聖アデリン学園そっくりに作られた校舎模型の運動場には、盆踊りで使うような、ヤグラが組み立てられていた。せっせと丸太を運んで、櫓の完成を急いでいる作業者も、生徒や先生たちの人形だ。よく見ると、鉢巻きを巻いている清香ちゃんや君原先生らしき人形も、2人で一本の丸太を肩に担いで労働している。さっき本物の清香ちゃんと君原先生がしていたような、無機質な笑顔を浮かべている(こちらはプラスチックの人形なので、当たり前のことなのだが)。

「普段からメンテに手間がかかる分、オマ・クラじゃ、航大のオマジナイが効果でも範囲でも一番強力だよね。学校皆の記憶とか、一気に操作出来るし」

「………あんまり頻繁に大掛かりなことやりたくないから、月に何度かの遊びと一緒に消化するんだけどね。…………で、今週は、月に一度のお祭り」

 賢木先輩と松風先輩が、抜群のコンビネーションで、お互いの説明をカバーし合いながら、蓮に教えてくれる。悪だくみをしている時だけ、この人たちはこんなに一致団結するのだろうか?

「お祭りって………何のお祭りなんですか? 普通の楽しい祭りだったら、別にオマジナイで無理強いしなくたって良いと思うんですけど………」

 蓮の顔を覗きこんだ関屋航大先輩が、平然と答える。

「貧乳祭りだよ。………俺の好みで」

「………………正気ですか?」

 蓮の質問を遮るようにして、部室のドアが開く、涼しそうな紺色の浴衣を来た蓬田誠吾先輩が、両手に食べ物を持って入ってきた。

「航大、お祭りって、今日だったっけ? ………ほら、誰かトウモロコシとリンゴ飴いる?」

 ドアが開いたところで、遠くから和太鼓の音が聞こえてくるようになる。陽気なお祭囃子の、練習のような太鼓の音。蓮の通うミッション系の聖アデリン学園で、どうやら本当に純和風の夏祭りのようなものが、始まりつつあるらしい………。

「焼きトウモロコシ、匂いに惹かれるよねー」

「リンゴ飴もらうっ。あと私、卵せんべいが欲しいんだけど」

「じゃ、ナオミ先生のおごりってことで?」

 松風先輩と賢木先輩が上機嫌で盛り上がる。やっと「人心地」のついたばかりの君原先生が焦って怒る。

「ちょっと、貴方たち、勝手に決めないでよっ。教師のお給料は高くないのよっ」

「…………じゃぁ、超気前良いパトロン気質のナオミちゃんに、なってもらうっていうのは?」

 口では揉めつつも、2人の先輩たちと美人教師とが、ちょっとテンション高めに部室を出ていく。見送ろうとしていた蓮の方にポンと手がかけられた。

「じゃぁ、見学も兼ねて、蓮も行くぞっ」

 関屋航大先輩は珍しく、堂々と先輩風を吹かせてくる。いつもジオラマとルゴブロックをちまちまと弄っている、根暗っぽい雰囲気の彼とは、ずいぶん違う印象だった。

 。。

「雅センパーイっ。遅れちゃいますよーっ」

 2-4の藤倉雅が、廊下から1年生の後輩たちに呼びかけられる。よく見ると、その集団には中等部の子まで混じっている。雅はさっきから胸に高鳴る不吉な予感に、ブルっと身を震わせてしまう。………何か………、学校の雰囲気が浮かれてきたのと反比例に、彼女に何か、降りかかってきそうな気がしていたのだ。これはけっして、初めてではない感覚だった。

「何してるんですか、雅先輩っ。お祭り、始まっちゃいますってばー」

「……え………、お祭りって、私、別に、関係ないし…………。貴方たちと、………どういう仲だったっけ?」

 記憶を妙にノックしてくる、どこかで見覚えのある顔ぶれ、雅は高まってくる嫌な予感から逃げるように、親友の服部麻帆の席を見た。

「…………あっ。雅、出番なんだねっ。頑張って」

 麻帆はケロッとした顔で宣告する。雅が彼氏の謙太を見ると、彼も親指を立てて送り出してくれている。

「センパーイ、貧乳でしょ? ………お祭り始まるから、一緒に踊りましょー」

 後輩たちに呼びかけられて、雅は完全に忌まわしき、けれど重大な記憶を取り戻した。

「あっ…………貧乳祭りねっ………。そっか、私もAカップだから、一緒に踊りに行かないとっ」

 慌てて制服のシャツを脱いで、ささやかなブラジャーを外していく藤倉雅は2-4で一番人気の美少女。けれど貧乳には違いないので、いざ貧乳祭りが始まったとなれば、櫓の周りで輪になって踊らなければならない立場だ。最近、以前のブラがキツくなってきているせいで、自分が貧乳という自意識が足りなくて、お祭りのこともピンときていなかったのかもしれない。けれど、学園を代表する貧乳美少女たちに誘いかけられて、クラスメイトに拍手で見送られると、雅も腹を決めるしかない。運動場に降りて、輪になって踊るのだ。

 やぐらが完成して、おめでたい紅白の布で飾られるころには、出店も出揃っている。運動場を囲むように、提灯が吊られてお祭り気分を盛り上げている。櫓の頂上には、和太鼓を叩くスレンダーなシスター2人が上半身裸で準備をしている。その前に立っているのは、ガッチリとした中年男性。浴衣姿の教頭先生だった。マイクを握りしめて声を出すと、意外とサビの入った良い発声。民謡かなにかで鍛えた喉は、綺麗にコブシを回していた。

「皆様、お待たせ致しました。日本全国貧乳音頭。今月も張り切って参りましょう」

 上半身裸の美少女たちが、すでに櫓の周りに二重の輪を作っている。雅たちも、小ぶりのオッパイを曝け出し、慌てて輪に加わる。太鼓の音が鳴り響くと、いつもは堅物のはずの教頭先生の地声が朗々と響き渡った。雅にもはっきりと聞き覚えがある、「日本全国貧乳音頭」だった。

 ちょいとそちらの爆乳さん 肩でもお揉みしましょうか

 こちらはお気兼ねご無用です ホラ 見ての通りの貧乳です

 アン ア アン アア 貧乳です

 アン ア アン アア 貧乳です

 人生山あり谷ありだけど 胸は更地だ貧乳です

 ツルリンコ、ペッタンコ、乳首がピョン

 今に見てろよ巨乳好き 揺れているのは恋心

 夢はでっかくBカップ以上だ ガールズB アンビシャス

 アン ア アン アア 貧乳です

 アン ア アン アア 貧乳です

 小ぶりな方が感度が良いとか フォロー頂き感動です

 ツルリンコ、ペッタンコ、乳首がピョン

 胸がノッペリ平坦だから 貧乳音頭で盛り上がろ

(くりかえし)

 伝統行事なので、今更逆らうとか考えられないのだが、普段は2-4のアイドルとしてチヤホヤされている藤倉雅は、屈辱に打ち震えながら踊っていた。妙に能天気な節回しと、誰が思いついたのかわからない太平楽な歌詞にも腹が立つし、雅のコンプレックスを刺激するような振り付け、この、手を頭の上でヒラヒラさせてヒョコヒョコ舞ったかと思うと、胸が平らなことを強調するように両手を胸の前で振ったあとで涙を拭うようなコミカルな振り付けも、馬鹿にされているようで腹立たしい。思春期の多感な女の子たちを集めて、半裸で踊り回らせて笑っている誰かが、本当に憎らしい。だがその一方で、綺麗に振りつけが揃うと、それはそれとして純粋な高揚感も沸いてきたりして、雅の心はすっかり混乱させられていた。

「こ………この音頭、何番まであるんだっけ?」

「17番ですよ。………あとはループです」

「徹夜踊りですからねっ。今から弱音吐いてたら、持ちませんよっ。先輩っ」

 雅の前と後ろで踊っている後輩たちから聞かされて、雅は目を白黒させる。納得してはいないものの、ここまで言われて、雅は自分のするべきことを完全に思い出していた。8番が終わったところで長めの間奏に入るので、その間に内側の輪と外側の輪の踊り手が入れ替わる。外側の輪で踊っていると、お祭り見物のギャラリーに、曝け出した小ぶりなオッパイをよく触られるのだが、それを嫌がったりしてはいけないのだ。縁起モノだからである。病気がちだったり、怪我をしたり、アンラッキーなことがあった人は『今月こそは平穏、平坦な日々が送れますように』という願いをこめて、貧乳少女たちの起伏の少なめなオッパイを擦っていく。少女たちは少女たちで、胸に刺激を受けているうちにバストアップが出来るかもしれないという、古来から伝わるウィンウィンな伝統(らしいの)だ。喧嘩勝ちのカップルやご夫婦も、雅たちの左右のオッパイに同時に触れることで、「平らな心持ち」を得て、平和になる。独り身の貧乳美少女にとっては、胸が大きめの同年代女子とその彼氏に自分のコンプレックスであるオッパイを揉まれながら、笑顔で踊り続けるというのは、ハッキリ言って屈辱でしかない。ただ幸いなことに雅は謙太や麻帆のおかげで、「独り身」というポジションはすでに脱出することが出来ている。もっとも、屋台で買った綿菓子を食べながら応援してくれる彼氏の笑顔を尻目に、何十人のギャラリーにオッパイを触られ続けるポジションにも、複雑な思いはよぎるのだが………。

 徹夜踊りというも、本当のことだ。深夜を過ぎて、踊りながら気絶するように眠り始める子もいるが、そんなこたちは瞬時に、まるでプログラムが作動するかのように体が自動運転モードに切り替わる。プラスチックの人形のように無機質な笑顔を顔に浮かべて、関節がぎこちなく曲がって踊る、ロボットダンスのような動きをループさせながら、朝を迎える。明け方に祭りが終わると、貧乳美少女たちはやっと帰宅して、3時間ほど泥のように眠る。2時間目の授業から顔を出すころには、皆、前日の祭りのことなど話もしないし、覚えてもいない。それがこの学園にいつ頃からか定着した奇祭、貧乳祭りだった。みんなが、毎月の祭りの日になるたびに思い出す、奇祭だった。

「見ろよ。ここから見てると、人がまるで人形のようだろ」

 校舎の屋上の手すりに寄りかかって、関屋航大先輩が愛おしそうに運動場を見渡している。

「………本当に、………人形みたいですねぇ………ジオラマの………」

 蓮は返答に困りながらも、とりあえずそう返しておいた。普段部室でジオラマ弄りに没頭している関屋先輩が、月に何度か、この学園を事前にジオラマと人形で仕組んだシナリオ通りに、自由自在に操る。その壮大さは、これまでに見たどのオマジナイよりも群を抜いている。だが、なぜそれをわざわざ校舎の屋上から、遠巻きに俯瞰しているのか、蓮には良くわからない。実物が、ジオラマを見ているのとソックリなことが、嬉しいのだろうか? 横で見下ろしている関屋先輩があまりにもウットリと満足げにしているので、実際に質問する気にはならないのだが………。

「今月も何人か、貧乳のカテゴリーから卒業した。………寂しくもあるけれど、俺は彼女たちがこれまでに見せてくれた、少女から大人へ変わっていく、その時にしかない儚い輝きを忘れずにいようと思う。そしてまた、新しい子たちが入ってくる。俺はこの貧乳音頭保存会、全体を見守っていこうと思う。いわゆる箱推しって奴だ」

 たまに口を開くと、意外と口数が多い関屋先輩だったが、蓮の心に残る情報量は、驚くほど少ないのだった。

<カルト? > 井村友介 会社員

 子供のころから、あまり人前でリーダーシップをとりたがらなかった友介は、学級委員などを務めたこともなかった。20人以上の人を引率したり、引っ張ったことなど、振り返ると、小学5年生の時に遠足のレクリエーション係になった時以来のことだろうか?

 その井村友介は今、同じマンションに住む34人のご近所さんと、義妹の園原文乃ちゃん。合計、35人の信者を統括する、カルトの司祭という立場になってしまっていた。それも全ては、文乃ちゃんに刷り込まれた、呪いのような指示を打ち消すため、というのが動機だった。昨日、マンションの理事会の途中で友介が『ヨシュアの家探し』という宗教説話を読み上げた。その時、参加していたご近所の若夫婦のぶんは全て、魂をナカガワ先生が分離させ、イムラ司祭の魂のもとに融合させた。中断してしまった理事会の議事を終わらせるために、クジ引きの代わりに友介が一方的に住民たちの駐車場の割り振りを決めてあげたのだが、もちろん誰からも異論は出なかった。皆、満ち足りた幸福な笑顔で友介の決定を受け入れる。友介は新しい信者たちのことを一旦、ナカガワ先生に委ねて、自分の部屋へと戻る。大人しく待っていてくれた文乃ちゃんに、アダルトビデオに出演するという計画をキャンセルするように告げると、彼女は何の葛藤もないように深々と頭を下げて、従いますと言った。ビデオの制作会社に電話をかけて、契約の破棄を伝える。文乃も電話口に出て、後日契約破棄の手紙を司法書士と一緒に書いて、内容証明をつけた書留で郵送すると伝えたところで、相手側も承諾した。

「文乃ちゃんはこれからまた、元々希望していた、出版関係の仕事の就職活動をするんだ。1社内定をもらっているっていうのは心強いことだけど、自分の人生のことだから、選択肢は多く持って損はないと思う。………AV女優みたいな、極端な選択肢は君には不要だと思うけどね。…………それから、これから絹田のような男に何か妙なことを吹きこまれても、無視して欲しい。いいかな?」

 友介が善意のアドバイスのつもりで話すのだが、文乃は恭しく頷きながら、彼を真っ直ぐな目で見通して、その一言一言を噛みしめるようにしながら頭を深々と下げる。

「はい。司祭様の仰る通りに致します。これからも文乃をお導きください」

 友介は少しの時間悩んで、頭を掻きながら思案する。

「いや……あの、もう少し普通の態度で、これまでと変わらない口調で、僕と接してもらえないかな?」

「………それが………、友介さんのご指示でしたら、………そうするけれど、本当に良いんですか?」

「大丈夫。文乃ちゃんはずっと、僕の大切な義妹だよ。これから雪乃を取り戻すためにも、頭のいい君に、対等な立場から冷静なアドバイスが欲しいんだ」

 真剣な表情が伝わったのだろうか、文乃ちゃんは頭の中で葛藤をしながらも、何度か首を縦に振って、友介の目を見てくれる。

「わかった………。友介さんがそうしたいなら、………ちょっと失礼かもしれないけれど、これまで通り、家族として話すね。私が思いついたことが友介さんの役に立ちそうだったら、遠慮しないで提案もします。……………けれど、やっぱり、一つだけお願いがあるの。………友介さんがちょっとでも、私に対してムラムラってなったり、全体的に欲求不満な気分になったら、全体に遠慮とか躊躇としかしないで、私に奉仕するように命じて欲しいの。………私の司祭様の魂が悶々としてるのに放っておくなんて、私たち聖家族の子供にとっては、本当に魂が張り裂けそうになるくらい、辛いことだから。だから、どんなに酷いことでもイヤらしいことでも、少しでも私にさせたいって思ったら、絶対に我慢しないで私に命令してくれるって約束して欲しいです」

 文乃ちゃんも、真剣そのものの表情で友介にお願いごとを告げる。その内容は社会一般の常識からはかけ離れたものだったが、何となく断れない流れになってしまっていた。

「………わかった……。我慢はしないよ。………僕が雪乃を妻としているなかで、その妹の文乃ちゃんと、そういうことをしたくなるかどうかは、別だけど」

 友介がそう言うと、文乃の視線はさらに鋭くなる。

「社会のルールとか、道徳とか、どうでも良いんです。私たち、魂で繋がってるんだよ? ………友介さんの願望は自然に伝わってきちゃいますよ。…………………こうしたら………どうです? 何か思いませんか?」

 ダイニングテーブルの席に座って向かい合っていた文乃ちゃんは、悪戯っぽい表情を見せると、上体をかがませて、部屋着のキャミソールの襟元から胸の谷間を覗かせる。わざと義兄を挑発して、反応を確かめているのだった。

「………それは………、君は魅力的な女性だし、綺麗な体をしているから、男の僕としては、そんなところを見せられると、もっと見たいとか、触りたいとか感じるところはあるよ。………ただ………」

 文乃ちゃんの顔がパーッと明るくなる。嬉しそうにキャミソールを捲り上げて脱ぎ捨てると、水色のブラジャーに収まった形の良い胸をさらに強調しながら、友介の座る席に近づいてくる。

「今、正直に、見たい、触りたいって言ってくれて、とっても嬉しかった。司祭様にそう言って頂けるのって、信者の女性にとっては最高に幸せなことだから。………だから、我慢しないでね」

 文乃ちゃんはブラジャーを捲って、零れ出る美乳を友介に押しつけるようにしながら、彼の口や頬、額にキスを重ねていく。両手で優しく友介のコメカミあたりを挟み込むと、グッと顔を近づけて、提案をする。

「友介さん、朝からお疲れみたい。汗も沢山かいたでしょ。………一緒にシャワーに行きましょう。私、綺麗にするから」

 文乃ちゃんに言われて、自分の襟元や背中、脇の下あたりに汗をかいていることに気がつく。30人からのご近所さんたちを、友介が騙して一方的に自分の支配下に置いてしまった。その計画の実行から、ことの重大性を理解し始めた今まで、ずっと嫌な汗をかいていた。文乃に手を引かれるままに、友介はシャワールームに足を踏み入れる。ニコニコしながら膝をついて、友介の脱衣を手伝っていく文乃ちゃん。抱き合ってお互いの体を愛撫し合いながらシャワーを浴びた。

 。。。

 友介を含めて36人、井村家に入れようとするととても収まりきらないので、生活の説明について、2回に分けて実施することになった。分割してはいても、友介から説明する際には、20人弱の大人たちがリビングダイニングルームにひしめきあって話を聞くことになる。

「この度は、色々とご迷惑をおかけします。井村と申します。一応皆様の司祭を務めさせて頂くことになりました。よろしくお願いします。私の信条は、巻き込んでしまった方々の日常を、長い目線で極力これまで通りにしていくことです。一時的にはご不便もあるかと思いますが、皆様の社会生活を破綻させるようなことのないように、気をつけて参ります。ただそれには皆様のご理解と、このグループの中でのお互いに対する協力が必要になってきますので、どうぞよろしくお願いします」

 友介は皆を集める前に、ナカガワ先生から引き継いだ、教会運営の素案をもとにして文乃ちゃんと相談した。新たに入信してもらった信者たちにとって負担が大きすぎると思ったものは削除しようと言ったのだが、文乃の説得もあって、骨子はナカガワ先生の素案に近いかたちで残った。

 一つ、このグループの存在や集まり、きまりのことは、外部の人には自分から伝えないようにしよう。ただでさえ『新興宗教』と聞くと、世間の人々は懐疑的な目で見るので、少しでも一般常識から離れたルールや習慣が漏れると、敵対的に反応される。

 一つ、司祭である井村友介の指示は疑問を交えず従うこと。特に魂が解放された直後で、各人の人格や行動が不安定な時期は、自分で理性的な判断をしているつもりでも、コントロールしきれてないことが多い。まずは司祭の言葉に従うようにしなければ、トラブルが起きる。

 一つ、このグループの中で起きることについてはお互いを愛しみ合い、許し合って受入れよう。社会通念からは外れたことも頻発するかもしれないけれど、この教会のメンバーは全員家族であり、魂が繋がっている、自分自身のような存在なので、お互いを裁いたり、拒絶したりすることは許されない。

 一つ、一緒に生活している家族がいたら、出来るだけ早いタイミングで入信させるように努力すること。最小限に抑えているつもりでも、どうしても教団の信者と部外者とでは生活様式や行動が異なってくることがある。これを放置していると、家族に精神的な負担をかけたり、混乱させることになる。

 四つ目のルールは、友介と文乃ちゃんとで相談して作ったものだった。今、彼は妻である雪乃に対して、「無断でいなくなってしまうくらいなら、夫婦揃ってペガサス聖家族に入信するように提案してくれていた方が良かった」とまで思っている。友介の考え方は、以前とははっきりと変わっていた。ましてや、文乃ちゃんの考え方は、180度近く変わっている。そして友介はまだ、困惑していた。雪乃を取り戻したい。文乃の人生を極端な形で捻じ曲げさせたくない。そう考えて、その都度、正しいと思う選択をしてきたつもりなのだが、気がつくと、異様な新興宗教の指導者の立場に、自分が収まっている。普通の人が聞けば、異常と思えるような指示を出していくことになる。これからも。

「高瀬さんと水森さんの奥さん、失礼ですが、ここでお洋服を脱いで、裸になって頂けますか?」

 躊躇しつつも、友介が告げる。名前を呼ばれた綺麗な若奥様たちは、もっと躊躇を見せる。最初は憤ったような表情も見せるし、混乱して周りを見回したりする。最後は、すがるように(あるいは謝るように?)自分の旦那さんを見る。その後で、まだ困惑しながらも、カーディガンやワンピースに手を伸ばして、スルスルと脱いでいく。柔らかそうな肌が露出されていく。下着が見えるようになると、2人の旦那さんは何か言いたそうにしているが、肩をピクピクと震わせたまま、立ち尽くしている。

「2人の様子を見て、興奮しているという人は、正直に手を挙げてください」

 部屋にひしめく、ほとんどの男性が手を挙げた。旦那さんたちも手を挙げている。そして何人かの女性も。2人の若奥さんたちはそれほどに顔も体も綺麗だった。そして迷いながら、困りながら下着を脱いでいく仕草も、そそられるものがあった。

「高瀬さんと水森さんも、脱ぎながら、興奮していますよね? その証拠を見せてもらえますか?」

 友介が言うと、全裸になった2人の美人人妻は、指を股間に埋めた後で、濡れた指先をご近所さんたちに見せてくれる。2人の乳首もツンと立ちあがっていた。

「普通、こういった状況で発情するということは、少ないと思います。何が起きているかというと、皆さんの魂が解放された直後から1週間ほどは、皆、獣のような性欲の増進、暴走を経験します。この間に社会生活を破綻させないためにも、この教会の内部で、その発散を済ませる必要があります。高瀬さんと水森さんはまず、今、手を挙げているメンバーの中から、一番、好みのタイプではない相手を選んで、奥の部屋でその人と体の関係を持ちましょう。少し、その後は気持ちが落ち着くはずです。………まず自分の旦那さんは除外して、出来るだけ、通常の自分だったら選ばないような、好みとは逆のタイプの相手を指名してください」

 迷いながら、何度も自分の旦那さんと友介とを振り返りながら、2人の奥さんは皆の見ている前で、裸のままで相手を選び、その手を掴む。高瀬さんは頭髪の薄い、この中で一人年配である理事長を選んだ。水森さんは女性のなかから一人を選ぶ。後ろ髪を引かれるように、何度もこちらを振り返りながら、2人は別々の寝室へ入っていく。しばらくすると、楽しそうな嬌声がリビングまで響いてきた。

「ここに残った皆さんも、衣服を全て脱いで、生まれたままの姿になってください。裸になったら、自分の体を隠そうとせずに、良い姿勢で立ってください。私がその気になった女性を何名か指名していきます。残された人たちは私が許可した後で、相手を作って愛し合ってください。恥ずかしがってはいけません。今の貴方たちの、動物のような本性を曝け出して、お互いを受入れ合うことで、獣欲を発散して、新しい自分を少しずつ、コントロール出来るようになってきます。そうなるまで、相手を変えて、次々とまぐわっていきなさい」

 友介はそこまで言った後で、思わず溜息をつく。自宅にいながらにして、ずいぶんと遠くまで来てしまったような感覚に襲われたからだ。彼が確かめるように文乃ちゃんの顔を見ると、彼女は後押しするように、無邪気な笑顔で大きく頷いていた。

(第6話に続く)

3件のコメント

  1. オマジナイの詳細も出揃ってきましたね!
    「違う種類のオマジナイはできる限り重ね掛けしない」というのは非常に納得です。
    違う種類の糸が複雑にからまるほど元通りにほどきにくくなりそうですし。

    逆占い、エスパーコース2年生のケイゴの能力をさらに強力に発展させたような恐ろしいオマジナイですね。
    MCだけにとどまらず、運命自体を能動的に押し付けるとなると、かなり応用の幅もありそう。

    そして貧乳祭り!
    コンプレックスを自らアピールさせるとは、関屋先輩もひどい趣味だw
    食べ物系の屋台もあったりするということは恐らく学外まで絡んできているわけで、それだけで効果範囲の広さや強さが分かります。

    そして、カルト側の活動がオカルト側の近所で活発になっていそうな伏線が出てきましたね。
    とはいえ、タイミング的に次回くらいでいったん終わりそうな感じでしょうか。
    友介さんたち、ここから後戻りできるかなぁ……。

  2. 貧乳はステータス!
    大きいのも嫌いじゃないけど、薄いのも割と好き。適度なのが一番でぅけどねw
    大掛かりなのもあるけれど、月イチであんな規模の祭りやってたら資金はどこから出てくるのかという疑問にぶち当たるのでぅw
    まあ、毎回あんな規模のまつりとは限らないんでぅけれどw

    それにしても逆占いは占いと言って良いものかw
    だから逆なんでぅけど。一番まともなMC能力として考えればオマクラの中では一番覚えたい能力でぅね。
    調整が大変そうでぅが。

    そしてカルト編。
    友介さんの思考がなにげにひどい方向にねじまがってるのがやばいところでぅ。
    身内を守るために周りをひどい目にあわせているというのに気づいていないのがなかなか。
    とりあえずは来週で一時区切りみたいでぅし、オマクラとペガサス聖家族の対決は夏にお預けということでぅね。

    であ、次回も楽しみにしていますでよ~

  3. 友介さん、きっちり歪んでしまいましたね。この様子だと会社でも布教活動し始めて被害が拡大しそうw

    蓮君はめっちゃ美味しい想いしてるはずなのに、周りの人たちがぶっ飛んでるせいで苦労人ムーブになってて面白いですね。
    高確率でヒドイ目にあってる君原先生不憫カワ(・∀・)イイ!!っす。

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