僕らの発信基地 1話

 眞知田シュントが悪ガキ仲間の葛城ツトムの家で、亡くなったジーチャンの家から持ち出してきた機械を見せると、ツトムとミツルはガッカリした表情を隠そうともしなかった。アンティークなのかガラクタなのか、良くわからない骨董品のような機械。彼らが期待していたのは、こんなものではなくて、シュントが帰省前に約束していた猟銃だったからだ。

「お前………、やっちまったな…………。銃ってやっぱ、嘘だったのかよ」

 小太りで天然パーマのミツルが、そのムッチリした外見を裏切らない声でブーブー言う。シュントはそんな反応を予想していたので、ミツルに対して眉をひそめて鬱陶しそうに反応しながらも、ツトムには一応の言い訳を言う。

「いや、本当に、うちのジーチャン、猟銃持ってたんだぞ。限界集落そのものって感じの、ド田舎で。畑仕事の合間に、猟とかしてたって言って、前に見せてくれたもん………。足悪くする前のことだけど」

「…………で、そのジーチャンの家の蔵は、シュントが週末に法事に行った時にはもう、無くなってたってこと?」

「………そう………。こないだの、葬式の時にはまだ、あったと思うんだけど、今回、法事で行ったら、もう本家のオジサンたちが全部処分しちゃってたみたい。家も管理できないからっていって、ほとんど綺麗に処分されちゃってた」

「だからシュントの行動が遅いって言ったんだよ。葬式の後、すぐまた行って、銃をかっぱらってくれば良かったんだよ。ホント、グズでノロマなカメだよ、お前は」

 ミツルはまだ、無茶なことを言って地団太を踏んでいる。千葉の新興住宅地にあるシュントたちの家から、シュントの母方のジーチャンの家までは車で3時間かかる。シュント1人で行って来るなんて無理だと、何度も説明したのに、ミツルは納得してくれない。馬鹿なのだ。けれど、この馬鹿の行動力は意外と侮れない。もしミツルがシュントの立場だったら、本当に学校休んで、限界集落にある空き家から、猟銃を盗み出してきたかもしれない。

 シュントは親戚の間でも『偏屈爺さん』とされていた、彼のジーチャンのことが結構好きだった。小学校の頃はよく、お盆休みに家族でジーチャン家を訪れて、その後、シュントだけ、ジーチャン家にさらに4泊ほど泊めてもらったりした。ジーチャンが飼っていた猟犬のクロと遊んだり、裏山に住んでいるリスを軒先で餌付けしたりして、田舎生活を楽しんだものだった。そのクロも3年前に老衰で死んでしまった。2ヶ月前には、ジーチャンまで………。そして、あの家は、空っぽにされてしまっていた。人が住まなくなったド田舎の古民家は、あっという間に寂しいガランドウに変わってしまっていたのだった。

「…………ま………、大体は想像してたんだけどね………。猟銃って免許制で、登録とか色々あるんでしょ? 子供が形見分けで欲しいって言っても、無理があったと思うよ。…………で、………それは良いんだけどさ。これは何?」

 ツトムはサラサラヘアーを掻き分けて、クールな中学生を装いながらも、眼鏡の奥からシュントの持ってきた機械に目を光らせている。お金持ちで、顔もそんなに悪くないツトムがシュントやミツルとツルんでいる理由の一つが、彼のこの、機械オタクっぷりにある。ツトムの興味が動いたのを感じて、シュントはいくらか元気を取り戻す。銃に憧れる馬鹿中学生たちの非難から、少しはこの、謎の機械でもって、誤魔化せるかもしれない。そう考えて、シュントはこの重い古ぼけた機械を、お父さんに頼み込んで、スバル・フォレスターのリアデッキに載せてもらって、家まで持って帰って来たのだ。

 黒い塗装が褪せて、うっすらと埃をかぶっていた、箱型の機械。横の外周を補強するかのように、赤黒い木目調の板が貼ってあった。真空管が3本並んだ横の左端には、アンテナがついている。中央にはレーダーのような小さな画面と複数の表示計、そして沢山のボタンやツマミが、ゴテゴテと取り付けられている、無骨な機械。側面にはいくつかの端子穴と、タクシーの無線機械に備え付けられているような、ビニールの線がクルクルと巻かれた有線型ハンドマイクが装着されている。反対側の側面には物々しいヘッドホンが掛けられている。その側面手前には、『双葉工作機械』という、メーカー名なのか機械の名前なのかもよくわからない、不愛想なロゴが刻みこまれていた。この、国語辞典2冊分くらいの大きさの機械が、ガランドウになったジーチャンの家の土間の片隅に置かれていた様子は、今思い出しても、まるでシュントが手に取ってくれるのを待っていたかのように思えた。

「何か、これ、かすかに記憶があるんだけど………、僕が小5くらいの時に、ジーチャンに、『害獣除け』の機械だって、教えてもらったような気がする………。イノシシとか、熊とか、カラスとか、畑に悪さをしてこないように、電波で追い払うんだって。…………なんかしばらく泊めてやった兄ちゃんが技術者だったとかで、器用に作ってくれたって、言ってた………ような………」

 シュントのジーチャンは無口な人だった。けれどシュントが泊っている時、夜に囲炉裏で熱燗を作って飲んでるうちに、ちょっとずつ、色々と話してくれる。日焼けして深い皺が入った顔が赤くなると、豆腐が湯だったように、ジワーっと少しだけ饒舌になるジーチャンの様子を、シュントは思い出しながら喋った。

「親戚のオジサンたちも、使い方も分からないって言うし、今だと電波法とか、違反してるかもしれないから、使わないって言うから。結局、僕がもらったんだ。ツトムが組み立てた、真空管アンプとかにちょっと雰囲気が似てるなって思って、…………こういうの、分解するのとか、好きだろ? ツトム」

「いや、俺はどうなった? …………本物の銃とかあったら、イジメっ子も撃退できるし、ギャルにもモテるって思ってた、俺の気持ちはどうなった訳よ?」

 まだ横でブツクサ言っているミツルを無視して、シュントはこの、国語辞典2冊分くらいの重さの機械を、ミツルに渡す。中学生にとってはそこそこな重さだったので、手渡した後、腕が一気に軽くなった。

「…………ふーん……………。『害獣除け』…………ねぇ…………………。…………この、アンテナから、出力するのかな? ………………クマとか、イノシシとか、カラスとか、って言った? ……………普通、一種類の害獣を対象にするんだと思うんだけど……………。カラスとかにまで、効くんだ…………」

「ん……………まぁ………………、だって、ほら、ここ。…………このチャンネル指さして、そんなこと、言ってた……………気がする…………。もう、3年も前に、酔っ払ったジーチャンから聞いたことだけどね………」

 銀色の鈍い光を放つ、大きめのツマミには目盛りの部分に小さなシールが貼ってあって、『熊』、『猪』、『烏』、『狸』、『蛇』と、それぞれ字が書いてある。小さいけれど、ジーチャンの角ばった字だった。

「俺を無視して、テキトーなことばっか、言ってんなよ。ケモノ除けの機械に、なんでマイクついてんだよ。そのマイク使って言うの? 『ケモノさん、アッチ行ってねー』って…………」

 ミツルの追求を、また無視して、ツトムと話そうとしたのだけれど、シュントは言葉につまって、機械の側面に接続されている、車掌さんやタクシーの運転手さんが使う、無線用のハンドマイクのようなものをマジマジと見つめてしまう。ミツルは馬鹿のくせに、たまに芯を食った指摘をしてくるから、意外と侮れない。確かにこのマイクと、そしてヘッドホンは、何のためにあるのだろうか? まさか、イノシシと通話する訳でも無いだろうに。

「…………ま、………もしかしたらそれ、無線の通信機と一体型になっている害獣駆除機かもしれないよ? シュントの親戚が電波法のこととか言ってたみたいに、勝手に民間で強い電波を発信すると、近所で電波障害とか起きるかもしれないから、事前に通知とかするのかも………。ラジオの周波数とかに調整が合えば、ウォーニングも出来るわけだし」

 ツトムは手渡された重めの機械を机の上に乗せると、さっそくツマミやスイッチを手で触り始めていた。さっそく、興味が湧いてきたらしい。さすが、ラジオや真空管アンプまで自作したことのある機械オタクだ。ツトムが機械弄りに没頭し始める中、シュントとミツルはTVゲームの対戦を始めた。

 机に向かう葛城ツトム。遠慮をせずに彼のTVゲームに興じる眞知田シュントと丹波ミツル。3人で遊んでいる時の、よくあるフォーメーションだ。ミツルは運動神経が可哀想なことになっているので、格闘ゲームやシューティングゲームは毎回ツトムの圧勝だ。けれど恋愛シミュレーションとか少女育成ゲームとかになると、キモイほどの粘着性を見せて、ミツルが勝つ。シュントとミツルはよく、ゲームに飽きると、ツトムの目を盗んで壁に耳を当てて、盗み聞きを試したりする。隣の部屋を使っている、ツトムの姉、サヤカ姉ちゃんは相当に美人の女子高生。家が広いからか、よく友達を部屋に呼んで遊ばせているのは、ツトムと同じだ。その綺麗なお姉様たちのお喋りや生活音を、盗み聞きしようと、ミツルとシュントは秘かに心を躍らせる。壁が厚いせいで、ほとんど隣部屋の会話や音は聞き取れないのだが、それでも何か聞こえた気がするだけで、2人はドギマギと興奮するのだった。今日はしかし、サヤカ姉ちゃんたちは家にはいないようだ。金曜の夕方を、部活動なりショッピングなり、有意義に外で過ごしているのだろう。

「今日、姉ちゃんたち、いないけど………」

 壁に肩を寄せて、耳をそばだてていたシュントとミツルに、ツトムが呆れたような一瞥を送る。ミツルが両肩をすくめた。

「ね、シュント………。この機械って、いつからシュントのジーチャンちにあったのか、わかる? ………これ、オンボロのアンティーク機械に見せかけて、実は最新の通信機っぽいんだけど…………。いや、最新っていうか、最新鋭を超えて、ほとんど未来のテクっぽい………。シュントのジーチャンって、じつはCIAの工作員だったとか?」

 ツトムの珍しい、しかもあまり面白くない冗談を聞いて、今度はシュントがミツルを横目で見ながら肩をすくめた。

「葬式にホワイトハウスから花が来たりとかはしてなかったけど……………。そんなハイテクな機械なの? それ」

 ツトムが机に向かっていた椅子を回転させて、シュントの方へ体を向ける。

「複雑すぎて、部品とか回路から本当の機能を想像するのとか、ほとんど無理だから、まだ何とも言えないんだけど、シュントが前に教えてくれたジーチャンちの過ごし方って、犬と遊んだり、リスを餌付けしたりしてたんだよね? …………その頃から、この機械があったっていうなら………。猪や狸は追い出すことが出来るけど、犬やリスには効かない音波を出してたっていうこと? ………あと、ケモノを排除するだけならわかるんだけど、カラスとかヘビとかも追い払えるような音波って、どんな周波数? こっちのヘッドホンも、ただの遮音用ってよりも、複雑な機能を持ってそうな重さだし、なんか、見れば見るほど怪しいんだけど………。…………ちょっと、預かっても良いかな? この機械」

 ツトムが掛けなおしたメガネのレンズがキラッと光る。レンズの向こう側の目も、キラキラしている。「知的好奇心」っていう奴だ。ミツルがエロ話に目を輝かせるのとは、はっきり違うものだ。

「持って帰るのも面倒くさいから、ツトムが気に入ったんなら、いつまででも貸すよ。まだ使えるのかどうかもわからないシロモノだし、この街で熊を除ける必要もないから、分解して、使えなくなっちゃっても別にいいよ」

 話しながら、シュントは一昨年、お年玉で買ったヘリコプターのラジコンを、ツトムが改造してくれようとして、結局は壊してしまった時のことを思い出していた。

。。。

 次の日、土曜日も、シュントはミツルと一緒に葛城ツトムの家で昼前から遊んだ。シュントたちを迎え入れたツトムは、ちょっとおかしな顔色をしていた。ゲッソリとして土気色になっているのだが、隈を作った赤い目は。ギラギラ輝いている。徹夜でRPGをやりこんでしまった時のような顔だ。シュントはツトムのことを気にしながらも、部屋に案内されると、ゲームの電源を入れて、昨日の対戦の続きを始める。現在ミツルに対して34連勝中。太腿を叩いて悔しがりながらも、何度も同じテンションで立ち向かってくるミツル。その根性は大したものだと、シュントも思ってしまう。粘着質というか、ストーカー体質とも言えるほどのメンタルの強さと、妙な自己肯定感。もしミツルが、スタイルが良くて顔がイケメンで運動神経が良かったら、クラスのリーダーにだってなっていたかもしれない。あと、キモい性格と、リミッターの壊れたようなヤバめの性欲が無ければ………。あとは見ていてこっちが不安になるような箸の持ち方と、食べ方の汚さ、意地汚さが無ければ………。…………やはり、人気者へのみちのりは、長いかもしれない。

 そんなことを考えながら、ミツルをゲームでフルボッコしていたシュント。ふと気がつくと、エキサイトしたミツルが、暑そうに上着を脱いで、白い肌シャツ姿になっていることに気がついた。小太りの天パ野郎が隣で汗をかいていると、隣にいるシュントまでが暑くなってくる。シュントも紺色のシャツを脱いで、Tシャツ一枚の姿になった。

「うおーっ。また負けた! なんだよっ。今のカウンター。俺のコンボ見切ってたって感じじゃん…………。性格悪ぃなーっ。……………あっつ…………」

 ブーブーいってたキモブタが、ズボンまで脱ぎ始める。色白のムチっとした男の肌を見せられると、シュントも余計に暑苦しくなって、自分の穿いているジーンズを脱ぎ始めた。

「ツトム、この部屋、暑すぎ………。エアコンつけるか、窓開けるか、しない?」

 机に向かっているツトムに、シュントが手で顔を扇ぎながら伝えると、ツトムは笑顔で振り返る。

「そうかな? ………今、26℃で、適温だと思うんだけど、…………ちょっとゲームに熱中しすぎなんじゃない? ………休憩入れたら?」

「お………おう…………。ちょっと………………ストレッチでもすっか………」

 後ろのデブ声を聞いてシュントが振り返ると、ミツルが立ち上がって大きな伸びをすると、体の節々を伸ばすための運動を始めていた。…………確かにそのアイディアは悪くない………。シュントも体中が凝っているような気がしたので、体を起こして運動を始めた。自分から積極的に運動をしているミツルを見るのはいつぶりだろう? ………珍しい光景だと思ったが、悪い傾向ではないので、シュントとミツルは手を取り合って、お互いのストレッチの手助けをした。開脚して前屈する相手の背中を押してやったり、お互いの体を背中合わせに背負い込んだり、両手を繋いで、大きな輪っかを作るようにしてお互いの体の外側側面の筋を伸ばしたり………。その姿を見て、ミツルがこちらに体を向けて、満足げに頷いた。膝の上には、昨日シュントが持ってきた機械を載せている。

「やっぱりこれ、君たちにも効くんだ。…………これ、害獣除けなんかじゃなくて、人間にも効く発信装置だよ……………。いや、正確には、『害獣駆除も出来る』、『生物操縦機』ってところかな? 周波数を弄ると、人間にも効果が出るんだ。っていっても、遠くに追いやるだけじゃなくて、行動自体を制御できる装置。……………いや、それも、厳密じゃないかな? 電波が操り人形の糸みたいに体を縛りつける訳じゃないから………。人間の思考に干渉して、行動を制御するっていうのが、正確なところかな?」

「ツトム、さっきから何言ってんのか、ぜんぜんわかんね………」

 ミツルが文句を言いかけたところで、座ったままのミツルがハンドマイクのボタンを押しながら口に近づけて喋る。

「ミツル、そっちの壁で逆立ちして」

 左手に持ったハンドマイクに向けてそう話すと、右手で機械のスイッチやツマミを何回か触るツトム。さっきまでシュントと手を握り合っていたデブのミツルが、急に両手を離して、壁際に駆けていくと、そのまま前転するように両手を床について、背中から壁に寄りかかった。体力がないのと、その体重のせいで、すぐにグシャッと床に崩れる。それでも、何回でも脚を蹴り上げて、踵から壁に寄りかかろうとする。運動神経ゼロのデブが何度もトライする、不格好な逆立ち。

「シュントはこっち。………お手」

 ツトムが、何か操作した後の右手を、手のひらを上にしてこちらに差し出している。それを見た瞬間に、シュントは全身の産毛が総毛立つような感触に包まれた。その場に立ち止まっていられない、強い衝動が腹の底から襲ってくる。気がついた時には、ツトムの椅子の前に這いつくばるように左手と両膝を床について右手をツトムの手のひらの上に乗せていた。

「………………シュントって今、何してる?」

「……………え? ……………いや…………………、別に……………。何だっていいじゃん。……………シャレだよ…………シャレ………」

 ツトムを見上げながら、シュントは回答に困っていた。自分がまるで従順な犬になったみたいに、四つん這いで「お手」の姿勢で背筋を伸ばしているというのが、変な状態だということは、頭の中では一応わかる。それでもこの姿勢を崩そうとは全く思わなかった。ツトムから手を離そうとすると、あるいは体を起こそうとすると、イヤな予感が喉元まで湧き上がって来て、慌てて自分から「お手」のポーズに戻ってしまう。このままの体勢でいる方が、安心するというか、楽なのだった。

「………うん。…………オッケー」

 ツトムが頷いて、スイッチの1つをパチンと切ると、シュントを掻き立てていた、焦燥感というか義務感のような衝動が、フッと消えて、体が自由になった気がする。シュントはおずおずと立ち上がった。両膝を手でパンパンと払いながら、ツトムに何といおうか、まだ考えている。少し涼しい気がして自分の姿を見ると、Tシャツとトランクスだけの服装でいることに、改めて気がつく。別に男子の友達同士なので、恥かしいという訳では無いが、微妙な居心地の悪さは感じていた。

「ちょっとだけでも体感してもらわないと、君たちが信じてくれないと思ったから…………。ゴメンね。これ、やっぱり、人間にも効く、行動制御装置だよ。生物操縦機」

「…………なんで、そんなもんが、僕のジーチャンちに?」

「わかんない。もちろん、市販品とかじゃないよ。…………ここにある双葉工作機械っていうロゴも、何かの部品をありあわせで組み立てた時に、元の筐体についていたってだけだよ。誰か、こんなとんでもない発明を、暇つぶしみたいに試作しちゃった、変人の天才がいたはずなんだ………」

 ツトムが重そうな機械をひっくり返して、裏のバッテリー部分の蓋のような部品を取り外す。その蓋部品の内側をシュントに見せる。そこにはカタカナで『シンニー・コーポレーション』というステッカーが貼られていた。

「シンニー? 韓国か台湾のメーカーかな?」

「機械オタクとかネットオタクの一部では、超有名な、伝説的ニート科学者だよ。立ち上げた会社の製品はほとんど回収されたか、非公式に転売・使用を禁止されている。創業者の『シンニー』は、もう何年も前に、自宅から失踪している。噂では、自分をニートという概念そのものに昇華させたっていう話」

「なんだよその、ニートという概念に昇華って。意味不明だよ。気持ち悪いな! ニートなのか、企業の創業者なのか、ハッキリさせろよ。…………その機械。………そんなキモい機械のために、俺たちを実験台に使ったって訳か? 俺たちはモルモットちゃんってわけか?」

 壁際で頭を下にして潰れていた半裸の天パ・デブが、悔しそうに脚をバタバタさせて壁を蹴る。その姿の方がよっぽどキモかったが、さすがにそれを指摘するのは可哀想な気もした。

「ツトム、さっきからドンドンうるさーい」

 壁の向こうから、綺麗な声が聞こえる。

 ツトムの姉、サヤカ姉ちゃんだ。この人がなかなかの美人で、シュントやミツルが、いつもツトムの家で遊びたがる理由の一つが、たまにこのサヤカさんとすれ違ったりできるからなのだった。ミツルが足の動きをピタッと止めて、シュントの方を見る。何か、言いたそうだった。シュントも、思わずツトムを見る。

「…………姉ちゃん、今日、友達を家に呼んでから、みんなで映画見に行くんだってさ。………だから、実験台も、モルモットちゃんも、君たちにお願いするつもりじゃないよ」

 ツトムはヤレヤレといった様子で溜息をつきながら、そう答えた。見ると、ミツルが無音でガッツポーズをしている。まだ彼は肌シャツとブリーフの半裸姿で、頭を下にして壁際で潰れながらガッツポーズをとっているのだった。

。。。

「このスイッチノブっていうかツマミが範囲を指定する。指定した範囲はこっちのオシロスコープの円に距離が表示されるからわかる。このノブが電波の強度、こっちが周波数ね。ハンドマイクをONにして喋ると、個別の指示を出せるし、こっちのチャンネル指定で、すでに設定されている指示を選ぶことも出来る。『プリセット指令』っていうわけだよ。シュントのジーチャンはこっちのチャンネルで害獣の種類を指定して、遠くへ行けって指示だけ飛ばしてたみたい。あとは、こっちのスイッチがONになってると、設定されていない人間がこの機械に近づいて弄ったりすることを避けるための微弱な電波がずーっと流れるみたい。この装置の下に脱着可能な予備電源があったから、シュントジーチャンが亡くなって、家の電気が止まった後も、何か月か、予備電源が切れるまで、他人を近づけなかったみたいだね。大掃除された家の中で、この操縦機だけが気づかれずに残ってたっていうのも、たぶんそういう理由」

 ネジを外して内蓋も開けてみたものの、基盤の配電や構造は、ツトムにもチンプンカンプンだったらしい。下手に弄って壊すリスクを負うには、あまりにも貴重で奇跡的な設計だからと、ツトムはそれ以上、装置の内部に手を入れるのを諦めて、外側の標準的な操作方法の習得を通じて、この『操縦機』のことを理解しようとしたらしい。

「一晩で、そんなに色々わかったんだ………。やっぱ、ツトムは凄いな………」

 シュントがマジマジと、この小柄な友達を見る。ツトムは照れ臭そうに前髪を掻き分けた。

「それで、こっちのマイクはわかったけど、このヘッドホンは結局、何なの? 雰囲気づくり?」

 ミツルが真顔で質問する。たぶん雰囲気づくりのためだけではないことは、シュントにも想像出来た。ツトムが、ミツルの手にあったヘッドホンを奪う。自分の耳に装着してみせた。

「指定した範囲全体に指令を出した時に、操作してる自分にも影響が来ると、困るでしょ? だから、例えばこうやるんだ。…………オホンッ……。『あー………、この部屋にいる皆は、僕、葛城ツトムのことが見えなくなる。声は聞こえても存在に気づけないし、辿り着けなくなる。』…………どう?」

 シュントがミツルと顔を見合わせる。今、ツトムの声が最後に聞こえた瞬間に、シュワ―っと、サイダーが泡立つような音が、頭の奥で聞こえたような気がする。そして気がつくと、この部屋にはシュントとミツルの2人しかいなくなっていた。今の瞬間まで目の前にいたツトムが、炭酸の泡が弾けたみたいに、蒸発して消えていたのだ。

「え………マジで? …………ツトム、どこにいるの? ……………まだそこにいる?」

 シュントは驚いて、両手をツトムのいたあたりに伸ばして、手探りで探す。透明人間になってしまっても、触ることくらいは出来ると思ったからだ。ミツルも苛立つように両手をブンブン振り回して、ツトムの部屋の中を駆け回る。

「ここだよ………さっきから動いてない。…………ずっと、シュントの目の前にいるよ」

 間近から、ツトムの声が聞こえる。声が聞こえる方向(真ん前)に手を伸ばして、ツトムの体を掴まえようとするのだけれど、シュントの手は何度も空を切った。そこには本当にツトムはいなかった。

 パチン

 スイッチが切り替えられる音がすると、シュントは目の前15センチくらいのところに急に出現したツトムの姿に驚いて、反射的に仰け反ってしまった。彼は本当に、操縦機を操作する前にいた場所から、一歩も動いていなかったらしい。

「面白いね………。シュントはさっき、僕を掴まえようとしていたけど、わざわざ両手で僕を避けながら探していたよ。ミツルも、部屋中を走り回って探していたつもりだったみたいだけど、すっごく綺麗に僕を避けて走ってた。………全然、そんな気、しなかったでしょ?」

 椅子の背もたれに体重を預けながら、ツトムがヘッドホンを外す。こうやって、自分以外の不特定多数の人に影響を与える指令を出したい時は、ヘッドホンを使うようだ。

「このオレンジの枠で囲われた黒いボタン。警笛みたいなマークがついてるでしょ? これを鳴らすと、近くにいる人とか、動物が皆、急に目を開けたまま夢を見てるみたいな、ボンヤリとした無警戒な状態になるんだ。多分、瞬時に身を守る時とかに使う緊急避難ボタンなのかな? ………こういうのを使う時も、ヘッドホンが絶対必要。無いと、操縦機を操作してる人も含めて、10分くらいブラックアウトしちゃうから、意味ないでしょ?」

 得意げにツトムが解説している間に、ツトムの家のチャイムが上品な音を響かせた。隣部屋からお姉さんが出て、軽やかに階段を降りていく足音が聞こえる。どうやらお友達がお越しのようだった。

 以前もツトムの家で見たことがある、サヤカお姉さんのお友達2人だった。倉池カナエさんは陸上部に入っているらしい、美人アスリート。髪は肩にかからないくらいの長さで、快活でサバサバした雰囲気の美女。足がスラっと長いモデル体型の、カッコいいお姉さんだった。深沢ヒトミさんは対照的にオットリとした雰囲気のお嬢様。色が白くて胸が大きくて、ツトムたち中学男子とすれ違うときもニッコリと優しい笑顔を見せてくれる、柔和なお姉さんだった。長めの髪を上品にまとめている。そしてツトムがいつもドキドキしながら見てしまうのは、ツトムの姉でこの家の住人である、葛城サヤカさん。つぶらな瞳とスラっと長い鼻筋が印象的な、整った顔立ちの美女。胸の大きさは深沢ヒトミさんほどではなさそうだけれど、形の良さが服の上からも想像出来るような、美乳と瑞々しいプロポーションをしていた。

 サヤカ姉ちゃんのお部屋で、3人の美人お姉様たちが、リラックスしてお喋りをする。女子だけの気楽でカジュアルで、親密な時間。その雰囲気を、部屋のドアを開けた横から、悪ガキ3人が覗きこんでいた。携帯で映画のチケット予約操作をしているサヤカ姉ちゃん。そのサヤカさんに、邪魔にならないように話しかけながら、両手で持った湯飲みのお茶を、お上品にフーフーしているニコやかなヒトミさん。ベッドの上にあぐらをかいて、ファッション雑誌を捲っているカナエさん。ルックスの良い3人が部屋でリラックスしている様は、アイドルDVDの映像特典か何かのようにも見えた。

 この3人の高校生のお姉さんの、くつろいでいる様子を、覗き見しているというシチュエーションが、シュントの心臓をバクバクさせる。ドアが開けっぱなしになっているから風通しもあるはずだし、サヤカさんやカナエさんとは時々、目が合っているような気がして、シュントはビクビクしてしまうが、それでも彼女たちは何も気がつかないような様子で目を逸らす。ツトムの『ドアが開いていることや、向こう側にいる男子3人のことは何も気にならない』という指令が、本当に効果を発揮しているのだ。シュントはその光景を見ても、まだ信じられないという思いで首を横に振った。そんなシュントの二の腕を、ツトムが肘で突いた後で、ハンドマイクを顔に近づけた。

『サヤカ、カナエ、ヒトミは、右手を上げなさい。』

 ツトムがハンドマイクに喋ると、部屋の中の3人とも、ほぼ同時に右手を上げる。ピンっと腕を伸ばして、まるで授業中に挙手しているようだ。

「…………あの、カナちゃん、サヤちゃん、………なんで手を挙げてるの?」

「………いや、何となく…………」

「…………うん………。ヒトミだって、そうじゃん」

「本当だっ……………。なんで………だろうね………」

 3人はお互いに首を傾げ合いながら、不思議そうに自分の右腕を見ている。

(ちょっと貸してくれよ。)

 奪い取るようにして、ミツルがツトムの腕から操縦機を受け取る。ハンドマイクもひったくると、ボタンを押しながら喋りかける。

『ヒトミちゃんは左手も挙げて、バンザイの姿勢になろう。カナエちゃんとサヤカちゃんは、右手を伸ばしてヒトミちゃんのオッパイを掴んで、モミモミしよう。』

 このミツルのエロに迫る突破力はなかなか凄い。サッカーで言うなら三列目から一気にゴール前へ突き抜ける、ダイナモのような動きだ。躊躇というものが一切ない。

「キャーッ………。ちょっと、フザすぎっ。………2人ともっ」

 オットリした雰囲気のヒトミさんが、切羽詰まったような悲鳴を上げる。シュントが見ると、良家のお嬢様は両手をピンっと天井へ向けて伸ばして、2人の親友に片方ずつ、胸を揉まれていた。結構容赦のない、ムギュムギュという勢いで揉まれている。顔が真っ赤だ。

「いや別に、こうしたい訳じゃないんだけど…………。やめられないのっ。ゴメン、ヒトミっ」

「なんかこう…………我慢できないっ………。ヒトミのオッパイがおっきすぎるから、イジメたくなっちゃったんだよ………きっと」

 サヤカさんはヒトミさんに謝っていて、カナエさんはなんだか乱暴な言い訳を口にしているけど、2人とも顔を真っ赤にしながら、自分の右手の動きを止めない。ギュウギュウとヒトミさんのボリュームたっぷりのオッパイを揉んでいる。服とブラの上からもその柔らかさは伝わってくる。3人の美女がキャーキャー言いながらオッパイを揉んでいるその様子はエロい。シュントは思わず生唾を飲み込んでいた。その音を、ミツルに聞かれたような気がする。

『3人とも、ヤラシイ気分になってきた。ヒトミちゃんのオッパイ揉みながら、顔を近づけて、脇の匂いも嗅いでみよっか。』

 ミツルがハンドマイクに指令を入れる。それが二言目に試す指示かと、シュントは少し呆れるが、顔を上げて部屋の中を見ると、状況がかなりヤラしくなっていることは認めるざるを得なかった。真っ赤な顔をしてバンザイの姿勢を保っているヒトミさんの両脇に、カナエさんとサヤカさんが顔を密着させるくらい寄せて、クンクンと匂いを嗅いでいる。ヒトミさんは嫌がって顔をブンブンと左右に振っているけれど、胸を揉まれるごとに、弱々しい息を漏らして、アゴを上げている。肩から背中まで動くカナエさんとサヤカさんの呼吸の様子からも、2人が盛り上がっていることも推測できた。きっと、ミツルの出した『ヤラシイ気分になってきた』という指示が、3人の行動だけじゃなくて、感情まで操縦しているのだ。

「………ちょっと! ……。脇の匂いとか、変態すぎるよっ。強度を上げないと、もうすぐ抵抗されちゃう。…………シュントが変わってよ」

 ツトムがイラっとした表情を見せて、操縦機をミツルの手から奪い取る。姉のサヤカさんが変態みたいな行動をさせられているのに、腹が立ったのだろうか? 強度のノブを調整しながら、今度は操縦機をシュントに手渡してきた。受け取った操縦機は、昨日シュントが持ってきた時よりも、軽くなっているような気がした。これながら、持ち歩くことも出来る重量かもしれない。

「脱着可能な、電源アダプターが嵌め込んであって、それが重かったから、今は外してあるんだ。もうちょっと、自然な感じに、シュントが試してよ。ミツルじゃ無茶しすぎだと思う」

 助けを求めるような目で、ツトムが訴えてくる。シュントはドキドキする心臓の音を聞かれないように気をつけながら、緊張する手で操縦機のハンドマイクも受け取った。少しの間、言うことを考えてから、小さく咳払いをする。

『えっと………、脇の匂いを嗅ぐのを止めましょう。ヒトミさんも両腕を下ろせます。これは………その、胸を綺麗にするための、バストアップ体操です。それぞれ、自分の胸を揉んでみましょう。気持ちも落ち着いてきます。』

 ちょっと、一度に出す指令としては内容が多すぎただろうか? 表示計を見てみると、右端に寄っていた『抵抗値』というメーターの赤い針が、ゆっくりと真ん中あたりに戻ってくる。ツトムも溜息をついて頷いた。そしてシュントが顔を上げると、部屋の中では美人のお姉様たちが両手で自分の胸をすくい上げるように揉みながら、微笑み合っていた。これはこれで、シュントにとっては御馳走のような光景だった。

「安定してきたー、は、いいんだけどよーっ。これだけだったら、実験にならないんじゃないの? もうちょっと、普段の姉ちゃんたちだったら、しないよな、ってことを色々試さないと。…………シュント。もう一歩だけ、勇気を出して、踏み出してみようか」

 肩に手をのせてきたのは、さっき操縦機を奪われたばかりの天パのエロガキ。シュントがツトムを見ると、心配そうな顔をしながらも、小さく頷いた。

『じゃ………、ヒトミさん、サヤカさん、カナエさん。バストアップ体操は、ブラジャーの上からだと効果が薄いので、ブラを外しましょう。あの、脱ぐ時はドアの反対側に体を向けて良いですよ。』

 シュントは自チームのメカニックであるツトムの顔色を伺いながら、指令をもうちょっとエロに振ってみた。部屋の中にいるお姉様たちは、キョロキョロとお互いの顔を見ながら、カナエさん、サヤカさんの順に、こちらに背を向けて、上着を脱いでいく。綺麗な背中が丸見えになる。ヒトミさんを見ると、まだモジモジしながら、手をソワソワと、ブラウスの裾のあたりに這わせながら、迷っているようだ。表示計を見ると、『抵抗』の針がジワジワと右端のレッドゾーンへと傾いていく。シュントは震える指先で『強度』のツマミに伸ばす。人差し指と親指で挟み込んで、ツマミを右に回すと、抵抗を示す針が、また中央に戻っていく。

「うー…………もう……………。私も…………………、脱ぐけど、見ないでね…………」

 ヒトミさんが、とうとう意を決したような声を出して、こちらに背中を向けてブラウスのボタンを外す動きを見せる。一番胸の大きそうなヒトミさんが、一番迷って抵抗していたのは、彼女のお嬢様育ちのせいだろうか? それとも、意外と大きなバストがヒトミさんのコンプレックスだからだろうか? 隣に立っているサヤカさんとカナエさんは、それまでよりもテキパキと上着を脱いでいく。ブラジャーのホックに手をかけてプチッと外すと、ストラップから手を抜いて、ブラジャーを外してしまう。シュントは早くも、ツトムに遠慮して、彼女たちに後ろを向かせたことを後悔し始めていた。

 3人の美女がこちらに背中を向けているとはいえ、上半身裸になって、両手で自分のオッパイを揉んでいる。それはシュールな光景でもあるし、夢に見たかのような、ありがたい光景でもあった。足元に置かれたブラジャーは、サヤカさんのものが白地に黒い縁取りのある清楚なブラ。カナエさんは黒地に水色の模様がついた、格好いいデザイン。そしてヒトミさんの一際大きなブラは淡いピンクのファンシーでフェミニンなものだった。

「ン、ウンンッ」

 シュントの後ろで、ミツルが咳ばらいをする。肘で背中をチョンチョンと押してくる。仕方がないので、ツトムの顔色を伺いながらも、シュントはハンドマイクのボタンを押しながら口元に近づけた。

『ブラジャーは、無くなったら困るから、バストアップ体操の間、ドアの向こうにいる男の子たちに一人一個ずつ、預かってもらおう。細かいことは気にしないで………。』

 ツトムの顔を見ると、渋い表情はしていたけれど、シュントを止めることまではしない。一気に抵抗値が上がってきたので、強度のツマミを慌てて回す。少し回しすぎたのだろうか? お互いの顔を見合わせながら、モジモジと上着を被っていたお姉様たちは、大慌てでドアの傍までダッシュしてくる。オットリしているヒトミさんなんて、まだブラウスを肩にかけただけの状態だ。片腕でその立派なバストトップを隠しているけれど、走った拍子にそのお胸は大きく上下に暴れて、ピンクの乳輪が少し見えてしまっていた。

 シュントはこの瞬間を、一生忘れないでおこうと決めた。

「ちょっと…………君………。その…………、悪いけど、これ、預かっててくれない?」

 最初にシュントたちの前に辿り着いたのは、如何にも運動神経の良さそうなカナエさんだった。Tシャツを着こむことは間に合ったみたいだけれど、その小ぶりな胸の頂点の部分は、Tシャツの布地をツンと中から突き上げている。そのポッチが見えていることに気がついて、自分の腕で隠しながら、カナエさんは今まで身に着けていたブラジャーを、遠慮なく最初に手を伸ばしていたミツルの手に、渡してしまっていた。2番目に来たサヤカさんは、ノースリーブのサマーセーターをちゃんと着ていた。布地が厚めなせいか、服からポッチも浮き上がっていたりはしない。それでも、伸縮性のある布地のせいで、その綺麗な胸の形が、いつもよりもクッキリとシュントの目の前に晒されていた。彼女は、弟のツトムにブラジャーを渡すのが恥ずかしかったみたいで、シュントにその、神々しく見えるブラジャーを手渡してきたのだった。

「あの…………これ…………、シュント君…………。お願い……………………。ゴメンね………」

 自分の言動に疑問が湧いて仕方がないのか、赤い顔のサヤカお姉さんは、今も小首を傾げながら、シュントにブラジャーを預けて、部屋の奥へと戻っていく。両手で受け取った。左右の手のひらに、白くて柔らかい繊維に、今もホカホカとした体温が残っているのが感じられて、シュントは股間がキュンとした。隣を見ると、ミツルは恥かしげもなく、カナエさんのブラジャーを顔にかけるようにして、深呼吸を繰り返している。まるで森林浴でも楽しんでいるような、堂々とした振舞いだった。ツトムはというと、彼はちょうど今、ヒトミさんからブラジャーを受け取るところだった。まだ半分しかブラウスを着られていない、グラマラスなお嬢様から下着を手渡しされる、機械オタクのツトム。彼女がなんとか腕で隠そうとしているそのボリューム満点の下乳分が、腕からムニュっと零れ出るところを、凝視してしまうツトム。その後で、受け取ったブラジャーのカップ部分の大きさに改めて目を見開くツトム。赤くなって硬直していた。

 部屋の中に戻った3人のお姉様たちは、こちらに背中を向けながらまた服をたくし上げると、オッパイをじかに揉む仕草を後ろ姿で見せる。シュントたちにとっては、直接オッパイや乳首を見ることが出来ていないのは残念だけど、自分たちの手には、体温ととても匂いの残る、ブラジャーが預けられている。ただ、服の上から彼女たちのオッパイを想像していた頃よりも、ずっとリアルに、親密に、この綺麗なお姉さんたちの無防備なオッパイ、実物を想像することが出来た。それだけでも、昨日までのシュントの妄想生活と比べたら、飛躍的なグレードアップだった。

「ン、ウンンッ。……………ウウォッホンッ」

 ミツルが、わざとらしい咳払いをする。もう少し、サヤカ姉ちゃんのオッパイ妄想に浸っていたかったシュントは、小さく舌打ちをして、ブラジャーを被った変態デブを見る。

「ゴホッ、……………次はパンツだろ…………ゴホンッ」

 咳に紛れさせるようにしてシュントに、ミツルはハッキリと、「次はパンツ」と言ってきた。彼の、前進あるのみといった姿勢に、シュントも思わず呆れて、声に出してしまう。

「えっ? ………パンツ? …………さすがに焦りすぎだろ?」

「……………パンツ? ………今、パンツって言った? …………駄目だよ、そこまでは。駄目駄目駄目」

 シュントが声に出して聞き返してしまったせいで、大きなブラを手に、思考がショートしていたはずのツトムが気がついてしまった。ミツル(とシュント)の目論見に気がついたツトムは、慌てて止めに入る。

「遠隔操縦でいきなり無理は禁物だよ。今日はここまでにしとこうか?」

 ツトムはシュントの頭からヘッドホンを取ると、まだシュントが持っている操縦機本体を受け取ろうともせずに、そのまま操縦機の操作盤右下にある、黒くて四角いボタンを押した。『ブラックアウト』とツトムが呼んでいたボタンだ。

 ビーーーーーーーーーーーッ

 大きな音がシュントの頭に響く。クラクラするくらいの大音量と、鍾乳洞の中にいるような反響。実際に外にはどんな音が出ていたのかはわからないけれど、シュントの頭の中では、そのブザーの圧倒的な音の波に、それまでの考えが一気に押し流されてしまったような気がする。何をして良いのかも、よくわからない。ただシュントは、ボーっと前を見て、呆けたように口を開けていた。部屋の中にいるお姉様たちも腕の動きが止まっている。ただボンヤリと、壁側を向いて立ち尽くしているようだった。ミツルも同じだろうか? そんな気配がしないこともないが、首を曲げて横を見ることすら、面倒くさい気がして、やる気が起きない。すぐにミツルの存在自体、気にならなくなっていた。もともと、大した存在ではなかったわけだし…………。

「シュントとミツル、目を覚まして」

 頭に、ツトムの声が聞こえると、急に霧が晴れたように、シュントの視界が広がっていく。まるで授業中に妄想に浸っているところから、怖い先生の呼び声で現実に引き戻されたように、シュントはすぐにハッキリと、正気に戻って左右を見回す。ミツルも、キョトンとした表情で、頭を振っていた。

「ゴメン、今のが緊急避難的に作動させるって言ってた、『ブラックアウト』ボタンね。もし何かの偶然とか、アクシデントでヘッドホンが外れちゃったりして、僕の操作中にブラックアウトが自分にも効いちゃった場合なんかは、君たちに対処してもらうしかないから、一応僕が理解した範囲での、このボタンの機能の仕方を教えておくね」

 ツトムが早口気味に、難しいことを言っているので、ついていくのが精一杯だった。多分、ミツルは最初から理解を諦めている。想像で補いながら今の話をシュントなりに噛み砕くと、さっきツトムは操縦機のブラックアウトボタンを作動させた。シュントがブザーのような音を聞いて、何も考えられなくなったのは、きっとそのせいだ。ツトムはヘッドホンで自衛しながら、シュントも含めた、この家にいる人たちを一斉にブラックアウトさせた。そして、シュントとミツルだけ先に起こして、これからこのボタンの機能を説明しようとしている。そういうことなんだろう。

「姉ちゃん、カナエさん、ヒトミさん。上着がキチンと着れてることを確認してから、こっちを向いて」

 ツトムが声をかけると、20秒くらいの間、自分の服のボタンを確かめたり、裾を伸ばしたりと、身だしなみを整えていたサヤカさんたちが、ゆっくりとした足取りで体の向きを変えた。服装はきちんとしているけれど、顔は意識というか知性が無いような、呆けた表情。目の焦点が合っていない感じで、口が小さく開いたまま。表情を支える筋肉が弛緩してしまったようで、なんだかだらしない顔つきになっていた。それでも充分に綺麗に見えるんだから、生まれながらの美人というのは相当得な存在だ。きっと自分はツトムに声をかけられるまで、これの何倍もダラシない、腑抜けたアホ面でボケーっと立ち尽くしていたのだろうと思う。自分のことながら、少し寒気がする。

 それと比べると、サヤカさん、カナエさん、ヒトミさんの「ブラックアウト」した表情というのは、無防備で、自然とも思える。普段だったら他人には見せたくない、弛緩しきったプライベートな素顔だと思うと、別の興奮を覚える気もする。そして今、彼女たちが、さっきまでの自分と同じように、周囲のことが全く気にならない、『思考停止状態』なんだと思うと、堂々と友人の美人姉とその女友達たちを、見ることが出来て、得した気分だ。なかでも、カナエさんのTシャツに浮き上がる2つのポッチ。サヤカさんのサマーセーターがピタッとフィットして形を見せてくれる美乳。そしてヒトミさんのブラウスに押し込められ、反発する、弾力と重量感たっぷりの巨乳。こんなものを上半身に持って、呆けたような表情で無防備に立ち尽くしているお姉様たちは、シュントの心の奥に怪しい火を点けてくるようで、焦燥感のようなドキドキを煽られる。

「貴方たちは僕が解除ボタンを押した時、正気を取り戻します。もうさっきまでの、バストアップ体操をしたいという思いや、ブラジャーを男の子に預けなければいけないという義務感、僕たちがドアを開けてみていることには気づかないという指令は効果を無くしています。ブラジャーを着けて、服装も整えた後には、今日この部屋で起きたこと、自分がしたことを思い出せなくなっています。でも、友達同士でマッタリ時間を潰しただけだということを思い出して、細かいことは気にしません。わかったら、返事をしてください」

「……………はい……」

「はい………。わかった」

「…………わかりました…………」

 3人が、寝言のような口調でゆっくりと答える。それを聞いてから、ツトムがこっちを見た。

「オッケーぽいな……………。僕らは、この…………下着返して、部屋に戻ろ」

 ツトムがシュントとミツルにそう言った時にはもう、ミツルの顔はさっきまでの位置にはなかった。凄い勢いで、その場に倒れこんで、土下座の姿勢になっていた。

「お代官様っ。もう一声。…………ブラジャー返さなきゃいけないなら、最後、もう一声、思い出に何か、ご褒美をくだせぇっ!」

 ツトムが困ってミツルを起こそうとするけれど、ミツルはオデコを床にグリグリ擦りつけながら、ツトムの足元にすり寄る。気持ちが良いくらいの身を捨てた土下座っぷりだった。もしミツルが何かの間違いでちゃんとした企業の営業マンなどになったら、ひょっとしてとんでもない社会的成功を得てしまうかもしれない。そう思わされるくらいの、反射神経と思い切りの良さ、見ていて哀れになるくらいの懇願ぶりだった。そんなものを見せられたツトムは、天井を見上げるようにして、溜息をつく」

「…………もうっ…………。じゃ、ホントにあと、1個だけ指令出すよ。電気もそろそろ無くなって来てるし、姉ちゃんたちの精神力もどれだけ持つかわかんないから、今日はホント、これが最後だからね」

 ツトムはうんざりした表情で首を左右に振ると、ようやく部屋の中に顔を向けて、ピクリとも動かない、マネキンみたいなお姉さんたちに喋りかけた。

「貴方たちは僕が手を叩くと、こっちに歩いてきて、預けていた自分のブラジャーを受け取ります。その時、預かってもらったお礼に、優しくハグをしましょう」

 ツトムが考えた、精一杯の「オマケ」だった。ミツルがそれ以上に要求をつりあげる隙を与えず、両手を叩く。お姉さんたちは弛緩しきった表情のまま、フラフラとドアの近くまで歩いてくる。1人ずつ、開いたままのドアをくぐって、シュントたちの前にやってきた。ツトムが淡いピンクの女の子らしいブラジャーをヒトミさんに渡す。ヒトミさんは手を伸ばしてそれを受け取って、そのまま伸ばした手でツトムを包み込むようにして、ギュッとツトムの頭を抱きしめる。中2の男子としても小柄な部類のツトムとの身長差のせいで、大きなバストの部分にちょうど、ツトムの顔が押しつけられるかたちでハグが成立する。ツトムの背筋が緊張でビンっと真っ直ぐになるが、ヒトミさんはボンヤリとした目で遠くを見ながら、ハグを続けていた。何も気がつくことが出来ないでいるようだ。

 カナエさんのスレンダーな体が、フラーっとミツルに近づいてくる。そのモデルみたいにシュッとしたプロポーション。特に長い脚と高い腰の位置の彼女が、夢でも見ているような顔つきで移動していると、本当にこれが現実なのか、見ている方までわからなくなってくる。ミツルは頭の中で精一杯の戦略を立てていたようで、残念そうに手にしたブラジャー(さっきは匂いを間近で嗅ぐだけじゃなくて、カップの内側をちょっと舐めていたような気がする)を返した後で、手のひらをカナエさんに向けて、奈良の大仏のようなポーズを取る。そのことにも気づかないカナエさんが体を近づけてミツルにギュッとハグをすると、自分とカナエさんとの間に滑りこませた右手で、彼女の小ぶりな胸を包み込んだ。左手は彼女の腰の後ろに回して、お尻を撫でている。それでもカナエさんが無反応で、されるがままになっているのを良いことに、ミツルは「ハグ」が続いている間、右手でカナエさんのオッパイ、左手でお尻を撫でまわし、揉みまくって、最後には彼女の頬っぺたにキスまでした。シュントが様子を伺うと、隣のツトムはやりたい放題のミツルの悪行を見て、オデコに手を当てて首を左右に振っていた。

 まだすがりつこうとするミツルの腕を、無意識にゆっくり振り払うようにして、カナエさんが体を遠ざけていく。彼女が部屋に戻ると、最後に待っていたのは、シュントの憧れの人、葛城サヤカさんだった。彼女が朝から身に着けていた下着。彼女の大事で柔らかい、オッパイを包んで守っていたブラジャーが、今はシュントの手にある。まだほんのりと温かくて柔らかいそれを持ち主に返す。まるで前世の夢でも見ているかのような彼女の視線が定まらないせいで、何回か空振りしたけれど、やっとサヤカさんの手は、シュントが手渡す白い清楚なブラジャーの、バンド部分を掴んで受け取った。そのまま、手がフワーっと、浮遊するかのようにしてシュントの体を包み込む。サマーセーターの生地を挟んで、憧れのサヤカお姉ちゃんの、オッパイの感触がシュントの胸に広がった。温かい。柔らかい。ムニュムニュとしていて瑞々しい。シュントは今、天国にいた。

 オッパイだけではない。抱き締めると、シュントよりも背が高いサヤカさんの体が、驚くほど柔らかくて、腰回りは華奢と思えるほど細いことがわかる。髪の毛がシュントに触れる感触は、肌をくすぐってくるような繊細なタッチ。そしてフローラルな匂いの奥に、甘い匂いがした。きっとこの匂いが、サヤカさんの体の奥から漂ってくる、本当に彼女が発している匂いなのだ。シュントは両腕と胸の感触だけではなく、視覚と嗅覚、可能な限りの五感を集中させて、この美人のお姉さんの無抵抗な体の感触を味わっていた。

 サヤカお姉ちゃんとキスしたい………。

 ノーブラ状態の彼女とハグしていて欲が出てきたのだと自分でも感じていた。前からサヤカお姉ちゃんの唇はプルプルしていて柔らかそうで、触れたらどんな感触がするのか、気になっていたのだ。自分の唇と重ねて確かめることが出来ないなら、せめて人差し指を伸ばして、彼女の唇に触れてみたいと思った。指にどんな弾力が返ってくるのだろうかと想像するだけで、今まで彼女の背中に添えていた手を、彼女の顔に近づけそうになっている自分に気がついた。今なら、今だけならサヤカさんは、拒んだりしない。完全に無抵抗な、思考停止状態なのだ。ここにあるのは、サヤカさんと同じ形、同じ感触、同じ匂いがする、ヌイグルミと同じなのだ。さっきミツルにされるがままになっていた、カナエさんのように………。

 その誘惑に人差し指を引っ張られそうになったところで、ギュッと右手を握りこんで、拳を作ってシュントは我慢した。名残惜しい気持ちを晴らすように、もう一度だけ彼女の体をギューッと抱き締めて、腕を離した。その間、一部始終を観察するように見ている、サヤカさんの弟、ツトムの視線を横から感じていたからだ。

 ツトムはシュントの大事な友達で、正直に言うと悪ガキ仲間の中でも、ミツルよりもずっと多くの、尊敬できる点がある。機械オタクで、よくわからない分野に熱中したり粘着したりするところはあるけれど、基本的には優しくて純な奴だ。そのツトムは、育ちも良いからか、美人の姉のサヤカさんのこともとても大切に思っている。シュントが悪戯することを、良しとは思っていないはずだ。

 そのツトムのおかげでシュントが持ち帰った「ガラクタ」の用途が明らかになって、こんな信じられないほどラッキーな体験が出来ていることを考えると、今、これ以上ツトムを困らせたくはないと思った。

 サヤカさんの腕がシュントの体から離れていく。こめかみに密着していた彼女の頬が離れると、少し茶色がかった、髪の毛がサワサワとシュントの顔をくすぐる。そして柔らかくて温かい、胸の2つの膨らみが離れていって、彼女との夢のようなハグが終わった。片手にブラジャーを持ったまま、向こう側を向いた彼女は、フラフラと部屋の奥へと歩いていく。それを見守りながら、隣に立っているツトムが、シュントに説明してくれる。

「これがブラックアウト機能ね。一瞬で周りの人たちを無害化出来るんだ。……………それじゃあ、お姉ちゃんたち、このドアが閉まってから貴方たちはちゃんとブラジャーを着けて、服装を整えます。それが終わったら何事も無かったように目が覚めて、映画を見に行く時間まで楽しく過ごします。この部屋では何も変なことが起きなかったと記憶しますよ。それじゃぁねっ」

 バタンとドアを閉めたツトムは、得意げな顔でシュントにウインクをしてみせたあとで、ブラックアウトボタンの隣にある、水色のボタンを押す。きっとこれが解除のボタンなのだろう。

「あの…………ツトム、さっきからマイク使わずにサヤカさんたちを操縦してるよね?」

 シュントが、気づいたことを聞いてみる。あの黒いボタンを押すまでは、ずっとボタンやスイッチ操作をするか、ハンドマイクを使って呼びかけることでサヤカさんたちや、あるいはシュントたちの行動や考えを操作してみせたツトム。そのツトムが、今は直接話しかけて操縦している。そのことを指摘されて、ツトムは嬉しそうな反応を見せた。

「そう。よく気がついたね。ブラックアウトって、そういうことが出来るみたいなんだ。アプリとかで言ったら、アプリのウィンドウから設定を変えるとかじゃなくて、もう、コマンドプロンプトとか、直接設計図に手を入れて書き換えちゃうみたいな感じ? 思考停止した人形みたいになるだけじゃなくて、言われたことに従って動いたり、この状態の時に言われたことが、あとあとの記憶とか考え方とかにも影響するんだ。ホントにプログラムが書き換えられた後みたいに、その後は何事も無かったみたいに振舞うんだよ。ブラックアウト中に指示されたことなんて、何にも覚えてない。何も不思議なことや、不審なことはなかった、みたいな素振りで」

「なるほど…………そんな強力なボタンだから、操作する側も影響受けないように、わざわざこの、ヘッドホン着ける訳だ………」

 シュントが感心した口調で、ツトムが外したヘッドホンを手に持たせてもらい、凄い発明品を仰ぎ見る目で、マジマジと見つめる。

「そう………。そのヘッドホンはただの遮音用の耳当てじゃなくって、状況に応じてノイズキャンセリング機能みたいにブザーと逆周波の電波を出して打ち消したり、色んな機能を持ってるんだ。ほら、コメカミに当たる部分が金属になってるでしょ? そこは多分だけど、脳波を計測するための接触部になってるんだと思う」

 自分が発見した機能や機構について話している時のツトムは本当に嬉しそうだ。聞いてくれる人が普段はいないのだろう。シュントはツトムの生徒になったような顔で聞き入りながら、何度も頷き、色んな角度からヘッドホンを見回し、如何にも興味があるという顔をしつつ、ツトムの隙を見てそのヘッドホンを自分の頭にかけた。

「ツトム、ゴメンッ」

 エッと、驚いた顔になって、シュントの目を覗きこむように、意図を確かめようとするツトム。その表情は、シュントが黒いボタンを押したところで固まった。

 ビィィィーーーーーーーーーーーィッ

 ヘッドホンを装着した外からでも、ブザーの音は聞こえた。けれど耳当てがあるおかげか、音はさっきとは違って聞こえた。シュントがボタンから指を離しても、ツトムはしばらくの間、時間が停止してしまったかのように、全く動かなくなっている。そしてシュントがヘッドホンを外す頃には、ツトムの顔は口を開けたままの状態で弛緩していた。後ろを振り返ると、ミツルが自分の股間を掴んだままの状態で、こちらも停止していた。『ブラックアウト』の状態だ。

(ツトムがこの操縦機の仕組みを解明してくれてるんだけど、これを見つけてきたのは、僕だから………。これは、本当は僕のジーチャンの機械。僕ら3人の中では、僕に一番権利があるはずなんだ。それに、ツトムはさっき、僕やミツルで実験をした。…………僕らにこの操縦機の実力を味わわせて、信じてもらうためっていう目的はあったんだろうけど、それにしても、ダマで僕らを実験台にしたことには、違いないんだし………。一応、これでオアイコっていうか…………。許してよ。)

 シュントは心の中であれこれと言い訳をしながら、ツトムが本当に自分で説明していたブラックアウトの状態から独りでに戻ったりしていないか、右手を彼の顔の間近で振って、確かめたりしてみた。部屋の中にいるお姉さんたちも、またブラックアウトしたはず。ツトムはさっきの彼女たちと、全く同じ状態になっているようだった。それを確かめるためにまたドアを開けると、やはり部屋の中には3人の思考停止状態のマネキンのようになった美女たちが立っていた。今、この家では、シュントだけが正気を保っていて、他の皆は完全に無防備な状態だ。そう考えると、シュントの心をチクチクと苛んでいた罪悪感を、ムズムズするような背徳的な万能感が、少しだけ上回っていく。

「ツトム…………。その状態のまま、僕の質問に答えることは出来るかな? 正直に言ってね。…………ツトムがこの操縦機を人に対して試してみたのは、今日の僕たちが初めて?」

 シュントの質問に対して、ツトムは焦点の合わない目をしたままで、首を横に振った。

「…………きのう…………、おねえちゃんに………試した…………。父さんと…………母さんにも……………。ちょっとだけ………」

 ツトムの正直な答えに、シュントは納得する。説明書のない機械を入手して、一晩でここまで使い方や効果について自信を持って喋ることが出来るというのは、いくらツトムが機械に詳しいと言っても、不思議だったのだ。やはり、ツトムは昨日、一人でこの機械の使い道をあれこれ試してみたのだろう。もちろん、それなりに慎重派なツトムのことだから、やりすぎるっていうことは無かっただろう。きっと、試したくても勇気が出来ないこともあって、今日、シュントやミツルも実験に巻き込んだんだ。…………けれど気になるのは、ツトムがサヤカお姉ちゃんと、どんなことをしたか………だ。

「ツトムが今日、僕たちに教えてくれた、この操縦機のこと………。行動を操作出来るとか、ボタンとかスイッチとか使いこなすと、感覚とか感情も、考えも記憶も操れるっていうこと、大体はサヤカさんを実験台に、昨日の夜にもう、試したんだね? ……………で、どこまでやったの?」

 ツトムが答えようと、口をさらに開く。けれど、5秒くらい、無表情のまま、ツトムは何も言わなかった。それでもそのままシュントが待っていると、とうとう答え始める。

「は………裸にして………。………ちょっと、気になったところを、見たり、触ったりした…………。…………あと、…………一緒に………お風呂、入った……………。父さんや、母さんも、気にしなくさせられたから…………」

 シュントの頭の中に、裸になってツトムに体のあちこちを見られたり触られたり、されるがままになっているサヤカ姉ちゃんの姿が浮かんだ。体が一気に熱くなる。気がつくと呼吸も荒くなっていた。

「おっ………、同じこと、僕とか、ミツルとかと一緒には、しようと思わなかったのは、なんで?」

 シュントが聞くと、ツトムは遠くを見据えたような目をしたまま、答える。

「ミツルは、全然、ブレーキ効かずに、色々、やりすぎそうだから、心配だった」

「………でも、後から、記憶を消したり、気にならなくさせたりも、出来るって、さっきミツル、言ったじゃん」

「そう見えたけれど…………、一日のことだったから………。後から、………何日か後から、記憶がフラッシュバックしたりしないかとか…………、やりたくないことをやらせすぎると、負担がかからないかとか………確かめるまでは、安心できないことが、多かった。…………失敗したら…………ヤバいし…………」

 ツトムに正直に全部答えてもらうと、さっきサヤカ姉ちゃんの裸を想像して、冷静さを失いかけていたシュントの頭でも、納得できる部分はあった。確かにこの、初めて触った機械。一点モノとして作られたらしい、何年か前の機械が、明日同じように作動して同じような効果を出すのか、記憶を操作するという機能が一体どれだけの期間効果があるのか、わからないことだらけのなかで、いきなり好き勝手に酷使するのは、リスクがあることなのかもしれない。悪事が結局バレてしまったりしたら、家族関係に大きなヒビが入ってしまうだろう。それどころか、対象の相手に精神的なダメージみたいなものが蓄積することがあったら、「イタズラ」で済む話では無くなる………。

「それは…………、ミツルはまだしも、僕には、ちゃんと説明してくれたら、理解していたと思うんだけど………」

 シュントが言うと、また少しの沈黙の後で、ツトムが口を開いた。

「シュントは…………物分かりは良いし、信頼できる友達…………だけど………………。サヤカ姉ちゃんのこと、好きだから…………。お姉ちゃんのことを自由に出来るって、なったら…………。そこは、我慢できなくなるかもしれなくて…………、そこだけ…………怖かった…………」

 また、もう3℃くらい、体が、カーっと熱くなる。シュントは今の今まで、自分がサヤカ姉ちゃんのことを気になっているということを、ツトムは気づいていないと思っていた。自分の気持ちを知られていて、それを警戒されていたと、今になってわかって、とにかく恥ずかしかったし、少しは腹が立った。

 ツトムは昨日の夜、サヤカさんの裸を見て、触ったりしたと言っていた。一緒にお風呂に入ったと、たった今、自分で暴露した。それなのに、シュントにはそれはさせたくないから、警戒したということだ。ツトムはきっと、自分は血の繋がった弟だから、まだ許されるけれど、サヤカさんのことが好きなシュントが、下心でもってそういうことをするのは、許してはいけないと、そう思ったのだろう。けれどそれは、ツトムの勝手な判断じゃないか………。

 友達を騙して「ブラックアウト」させたという罪悪感を誤魔化すかのうように、シュントは今までになく、ツトムに対して腹を立てていた。今、完全に無抵抗な状態にある友達に対して、出来るだけ冷静に話しかけようとしたけれど、声を出すと少しだけ、唇が震えていた。

「それで今日………、どれだけ僕が穏当な実験で留められるか、ツトムは横から観察してたんだね。……………それで結果によっては、どうしようとしたの?」

 ツトムがゆっくりと頷くのを見て、シュントは溜息をついた。ツトムが喋る。

「シュントを信じてない訳じゃなかったんだ…………。信じたかったから…………、ちょっと、試した…………。もし危なっかしいって思っても、別に操縦機を使って、姉ちゃんから離したりしようとは、思わなかった。シュントは、大事な友達だから、……………ブラックアウトさせて、ちょっと心に、ストッパーというか、ブレーキを入れさせてもらおうと思っただけ…………。やっぱり、友達の心を、あんまりイジクルのは、良くないから…………」

 シュントはそれだけ聞いて、少しホッとした。そしてツトムが彼のことを「大事な友達」と呼んでくれたことが、照れ臭くもあるけれど嬉しかった。きちんと意識がある状態だったら、いくらでもお世辞やその場の盛り上がりで何とでも言えるかもしれないけれど、今のツトムは、一切の嘘が言えない、無意識の状態にある訳だから、これは混じりっ気のない本音だろう。そう思うと、色々とツトムに言いたいことはあったけれど、おおむね許してあげよう、という気持ちになった。けれど、少しだけ、この状況を上手に利用したい………。シュントは考えた。

「…………じゃぁね…………、ツトム、よく聞いてね。今から僕が言うことは、ツトムにとって絶対の本当になるけれど、僕の指令だということには、気がつかないよ。ツトムが僕の心にブレーキを備え付けようとしたことのお返しに、僕はツトムの心に、アクセルを備え付けます。ツトムは僕と一緒にいて、この操縦機で実験したり遊んだりする時、僕が大丈夫だと言っている限りは、心配したり、予防線を張ったりしません。僕らでこの機械を活用するのは楽しいこと、面白いことだから、ツトムは僕らにストップをかけようとはしません。特に、僕がツトムのお姉さんと…………その、例えエッチなことになったとしても、それは僕とサヤカさん、2人の間のことだから、ツトムが心配したりはしません。わかった?」

 シュントが、さっきツトムがブラックアウトしたお姉さんたちに語り掛けていた時のことを思い出しながら、ツトムに話す。ツトムはボンヤリと前を向いたまま、従順に頷いた。

「…………うん…………。心配したり………止めたり…………………しない………」

「僕が手を叩くと、ツトムは目を覚ますけど、僕に言われたこと、僕がブラックアウトボタンを押したことは、思い出せない。それでも今僕が言ったことは、守ってね。ツトムはこの操縦機の研究と、これを駆使して僕ら3人で遊ぶことにはとても積極的になる。でも僕がサヤカ姉ちゃんとどうなっても、そのことに心配はしない。良いね?」

「…………はい…………」

 さっき、ツトムがシュントたちに見せた、ブラックアウト状態の相手への指令の出し方を、そっくり真似てみる。頭の良いツトムが、夢を見てるような表情で、素直に頷く。その様子は、少しだけシュントの気持ちをムズムズッとさせた。

 次に、シュントは反対側に立っている、もう一人の友達を見る。ミツルは、ツトムと同じように表情を無くしていたけれど、よーく見ると、股間を握っている彼の右手が、すっごくゆっくりとだけれど、股間を擦るようにして動いていた。完全に思考停止の人形のような状態になったはずなのに、今のミツルはその状態でもまだ性欲だけは死んでいないようだった。ほんの少し、尊敬した。けれど、ツトムの心配する気持ちにいっそう共感出来たシュントは、ミツルの心の中にはブレーキを装着させてもらうことにした。

「ミツル、よく聞いてね。君はとてもクリエイティブで根性のある馬鹿だ。ところどころ、僕は尊敬しているんだ。けれど、この操縦機の力は、君が自由自在に使い倒すと、ちょっと危険すぎることになるかもしれない。だから、ミツルは、『こんなことすると、シュントは怒るかな? 止めるかな?』と想像出来るようなことをするという時には、僕に事前にちゃんと確認するんだ。そこでもし僕が、『駄目だ』と言ったら、実行には移さない。僕がこう指示したことをミツルは思い出せないけど、必ず守る。………わかったね?」

 シュントが念を押すと、ミツルは口を開けたまま頷いた。

「俺…………尊敬………されてる………」

 ちゃんと、指示したこと全部を覚えてくれたのかどうかはわからないが、とりあえず、出来ることはした。つまりツトムの計画の半分は、シュントが手伝って、きちんと実行出来た、ということになる。

「さてと…………これで終わり…………………かな? …………………あとちょっと…………、オマケが…………………………あっても良いかな?」

 シュントはサヤカ姉ちゃんの部屋のドアを閉め、友達たちを起こして、今日の「操縦機」についての実験を終わらせようとした。そしてドアのノブに手をかけて、部屋の中をチラッと見たところで、迷いが生まれてしまったのだった。部屋の中で、無表情に立ち尽くしているサヤカさん、カナエさん、ヒトミさんは、ツトムのさっきの指令に従って、ブラジャーを着けようとまた上半身をはだけていた。カナエさんはほぼ、ブラを着け終わってTシャツを着こんでいる。まだおヘソが見えているけれど、裾を伸ばしてお腹を隠そうと、俯いたところの姿勢で止まっていた。サヤカさんはカナエさんよりも少し作業が遅かったのか、それとも丁寧なのか、ブラジャーを着けて、サマーセーターに両腕と頭をやっと通したという瞬間の姿勢で固まっている。そしてヒトミさんは、胸が一番大きいことと、ブラジャーを着けるスピードに相関関係があるのか、まだブラのカップの中にやっとオッパイをおさめたばかりというポーズで、止まってしまっていた。彼女はブラウスの下にキャミソールを着ていたようなのだが、そうした布が間に合わずに、真っ白い肌の上半身がほとんど露わになっている。この状態。完全に無抵抗で無防備な美女3人と、シュントの行動を観察することも評価することも出来ない友人2人を前にして、何もせずに今日を終わりにするという精神力を、シュントは持ち合わせていなかった。

「あ………………。………………あの………………。サヤカさん、カナエさん、ヒトミさん………。その、聞こえてたら、もう一回、上着とか服を脱いで、ブラジャーもとって、こっちを向いて…………くれる?」

 寝ぼけたままのような弛緩した表情の3人が、モゾモゾと動き出す。シュントの言った言葉に、嫌悪感を見せたり、受け入れるような表情も出さずに、ただただ淡々と、従って動いていく。本当に、意志のない人形が動いているみたいな様子だった。

 カナエさんはダルそうに動くけれど、動作が意外と俊敏なのと身軽な服装なのとで、一番最初にブラジャーを外して床に落とす。両手を体の横に持っていって、そのまま動きを止める。モデルのようにスタイルが良いせいで、姿勢も良く見える。スレンダーな体に、小ぶりだけれど形の良いオッパイと、ツンと前に出た乳首。カッコいい体だと思った。乳輪が小さめなせいもあってか、乳首の主張が強めだ。濃いめの肌色で、ハッキリと起立している。これがさっき、Tシャツを押し上げていたポッチだ。シュントは答え合わせが出来たことで、得した気分が倍増していた。

 動きはオットリしているけれど、もともとブラを着けかけという中途半端な状態で止まっていたヒトミさんが、ブラを少しずらしただけで、彼女のオッパイをブルンと曝け出した。重量感満点の迫力の巨乳は凄く柔らかそうなのに、あまり垂れない。若さのせいだろうか。色が白いせいで、ほんの少し、静脈の青い線が乳輪の近くに浮き出ているように見える。乳首と乳輪はカナエさんのものよりも赤味がかかったような肌色で、ポテッとした形をしていた。その緊張感を感じさせない、優し気な可愛らしさを感じさせる乳首は、お嬢様っぽいヒトミさんによく似合うと思えた。

 カナエさんの小ぶりで形の良いオッパイと、ヒトミさんの迫力満点の巨乳とに目を楽しませてもらっている間に、シュントの憧れの人、葛城サヤカさんがサマーセーターを脱いで白い清楚なブラジャーを脱ぎ終わった。思い入れもあるせいで、シュントは2人の美女の真ん中にいる、サヤカさんの上半身裸の立ち姿に一番釘付けになってしまった。スベスベしてそうな綺麗な肌、クビレと女性らしい柔らかい体つきとの調和が掲げている、丸くて柔らかそうで、それでいてしっかり弾力と張りもありそうな、綺麗なオッパイ。乳輪と乳首が、理想的なピンク色。その見事なオッパイを曝け出しながら、いつも知的で大人っぽい雰囲気だったサヤカさんが、今、呆けたようにしてシュントの前に立ち尽くしている。少し焦点が合っていないような目はボンヤリとシュントの向こうを見ている。そして顔はリラックスして緩んでいた。まるで夢遊病患者のように、力なく立っている。

「下も…………脱いで。完全に裸になって…………僕に生まれたままの、裸の貴方たちを見せて。……………お前らじゃないっ。ミツルとツトムは、服着たまま………その、むこう向いてて。これから僕が名前を出して呼びかけるまで、何も気にしないで向こうを向いて止まってて」

 シュントの両脇からも衣擦れの音が聞こえてきたので慌てて、一緒に脱ごうとしていた男子たちを止めた。そしてこちらには背中を向けてもらうようにした。まだシュントが操縦機を使い慣れていないせいか、いくら「ブラックアウトしていて何も認識出来ない」と言われても、悪友たちの視線の前で、完全に自由に振舞うことは、まだ勇気が必要だったからだ。

 カナエさんの丈の長いジーンズが、ヒトミさんのプリーツの入ったグレーのスカートが、そしてヒトミさんの花柄のロングスカートが、床に落ちる。やがて青、白、ピンクの柔らかそうな布が、足首から抜かれてその上にフワッと着地する。3人のおヘソとアンダーヘアー、股間と太腿が全部見えた。シュントが「1回その場でゆっくり回ってみせて」と言うと、カナエさんとサヤカさんは時計回りに、ヒトミさんだけ反時計回りにその場で回転する。サヤカさんの丸いお尻、ヒトミさんのムッチリとしたお尻、カナエさんのキュッと締まったお尻が10秒くらいの間、シュントの視線をたっぷり浴びた。

「ストップ…………。サヤカさんだけ、こっち来て」

 気がついたら、声がかすれていた。しばらく、唾を飲みこむことも忘れていたのだ。フラフラと、無表情で近づいてくる、すっぽんぽんのサヤカさん。友達のお姉さんは美人で、シュントから見るととても大人っぽくて、スタイルが良くて性格も良さそうで、そして今、全裸で完全に無意識だった。シュントがオッパイに手を伸ばす。ムニュっと指が包み込まれる。想像した以上の、柔らかさと若い弾力。一生揉んでいられそうな、最高の触り居心地のオッパイだった。昨日は、ツトムが触ったはずだ。きっと、下も………。股間の、大切な女の人の部分も、実の弟の、ツトムに触られたはずなのだ。

「サヤカさん、…………昨日、ツトムは、貴方が今と同じような状態の時に、どこを、どんなふうに触ったんですか?」

 質問されたサヤカお姉さんが、眉をひそめて何かを思い出そうとしている。けれど、申し訳なさそうな表情になって、ゆっくり答えた。

「昨日の夜のことは、思い出せません。…………確か……ご飯を食べて、お風呂に入ってから、ちょっと勉強した後で、………………ストレッチをして、寝たと思います」

「他に、なにか、したこと、されたことはありませんか? …………何とかして、頑張って思い出してみてください」

 また眉毛の間にシワを寄せて、一生懸命考えようとしているサヤカさん。それでも、答えは出てこない。完全に忘れているようだった。その様子を見て、シュントは勇気を出してサヤカさんの股間に手を伸ばしてみる。アンダーヘアーを指で掻き分けて、温かくて湿った谷間を探り当てる。そこをサワサワと指先で撫でた。粘膜のような湿った感触の部分をめくるようにして指を少し奥に入れてみたりした。サヤカさんは、今も半分寝ぼけたような顔のまま、首を右に45度、左に45度と傾げている。…………本当に思い出せないみたいだ。慎重派のツトムは、まだ時期を置いて、忘却の指令がちゃんと効果を持続させるのか、確かめないと不安だったようだ。それは良い。これからもツトムにはその慎重さと神経の細やかさとで、この操縦機のことを調べつくして欲しい。けれどシュントは実感した。サヤカさんがこの状態で、年下のシュントに裸に剥かれて、股間の恥ずかしい部分を弄られても、されるがままでいるくらい、無抵抗服従状態のサヤカさんが、「思い出して」と指令を出されても思い出せないのだ。だからその指令は本物で、効果はきっとほぼ永続的なものなのだろう。ツトムはツトムで、これからも綿密に検証して、シュントたちを助けてくれればいい。けれどシュントは、もうこの操縦機の絶対的な力に、確信を持っていた。そして今この機械が壊れたり、誰かに没収されたりする前に、しっかりと使いこなして、やりたいことをしなかったら、きっと一生後悔するはずだと、確信していた。

 イジクリ回しているうちに、サヤカさんの大切な場所は、ベタベタしてきた。一度手を離して、指先を自分の鼻先に持って来る。酸っぱさと、生き物を感じさせる濃厚な匂いのなかに、さっきハグしてもらった時に嗅ぎとった甘さをまた感じる。やはりこれの甘みが、サヤカさんの内部から放たれる、生の匂いなのだ。その匂いに酔ったようにシュントが口を開いた。

「サヤカさん、もう一度ハグをして。………今度はキスもして」

 何のためらいもなく、全裸の美人お姉さんはシュントの体をギュッと抱きしめて、胸を押しつける。今度はセーター越しじゃない。何の妨げも無い、オッパイがシュントの胸に当たって、ムギュっと形を変える。温かくしめった、唇がシュントの唇とくっつく。想像していた通りの、プルプルの感触。こちらからも吸いついて、必死のキスをする。サヤカさんは何の抵抗も見せない。言われた通りにシュントを抱きしめて、言われた通りにキスをしている。やめるように言われていないから、サヤカさんはやめようともしない。ひょっとすると、シュントに「やめろ」と言われなければ、彼女は一生このまま、裸でシュントと抱き合いキスをしながら過ごすのかもしれない。そう考えると、危険すぎるくらい、強力で、ゾクゾクさせられる、操縦機の効果だった。

(さっき「もう一度」とか、「今度は」とか言ったけど、前のハグのことはもう、サヤカさんには思い出せないことなのかな…………。)

 そんなことを考えながら、シュントは飽きもせず、皮膚がふやけるくらいになるまで、サヤカさんのアソコを弄り続け、唇の感触を弄び続けた。ここにはカナエさんもヒトミさんも裸でいる。3人を、予定していた映画の開始時間に間に合わせられるかどうか、今のシュントは自信を持って答えられる状態にはなった。

<第2話につづく>

12件のコメント

  1. 待っておりました。
    7月に入ってからは毎週月曜日0時には更新ボタンを連打しておりました。
    更新ありがとうございます。
    今回は機械系ですね。ガチ催眠(プリマ)→魔法(オカルトオアカルト)→機械(発信基地)と毎回異なるジャンルで書かれていて凄いです。
    プリマと違って、友達が配下になってしまったのは悲しいですが3人で仲良くひゃっほーしていって欲しいですね。
    今回は初手で最強カードを引いてしまった感じですが、この先どう転んでいくか楽しみです。

  2. 待っておりました。
    7月に入ってからは毎週月曜0時にはここで更新ボタンを押すのが習慣になっていました。
    更新ありがとうございます。

    催眠·魔法ときて機械系と毎回違うジャンルで書かれるのは凄いですね。
    今回は初心者が初手で最強カードを引いてしまったような展開ですが、どうなっていくのか楽しみです。

  3. すいません。投稿できないと思って連投になってしまってました。申し訳ありません。

  4. 双葉電子ってラジコン無線機を扱う企業が実在しますし、名称モロ被りはマズい気がしますが…

  5. 永慶さんキター!
    新作、読ませていただきましたでよ。

    今回は装置でMCなんでぅね。
    ミツルの暴走がちょっと独占スキー的に怖かったところなんでぅが、いい感じにブレーキを掛けられてるし、ツトムは頑張って解析してくれてるし、シュウトがいい感じに暴走して口では友情とか言いながら実質独占するとかいうクズムーブをしてくれることを期待していますでよw

    とりあえずはサヤカさんにというところで続きは次回。
    いかん、来週が待ちきれない・・・!
    次回も楽しみにしていますでよ~

  6. 永慶さんの新作を読ませていただきました。
    永慶さんの作品はクオリティが高いので毎度楽しませていただいています。
    まずは導入、次回からが本番という感じでしょうか。
    次回が楽しみで仕方ないです。
    無理せず頑張ってください。

  7. 永慶さんだー!
    こういう機械ものMC、大好きです。
    試行錯誤しながら不思議な装置の機能を解明していくのが、たまりません。
    ……っておいシンニィ何やっとんねん!(誉め言葉)

    意図せず男まで一緒に脱いじゃう場面とかの細かな描写がまたいいですね。思い通りにならないのもまたMCの醍醐味。
    何か所か、後でイレギュラーに繋がりそうな伏線っぽいのもちらほら……w

    序盤から複数人を裸にしたり比較的強制的に操ったりというノリなので、
    今後どんどん規模が広がる方向に展開していきそうな期待!

  8. やべえよこおゆうことなんだなほんとへただなすげえな流石だな。

  9. >慶さん

    お待たせしたようですみません。今年の夏も体力の持つ範囲で、ポコポコ書きますー。
    「3人で仲良くひゃっほー」出来るよう、頑張りますっ。

    >25さん

    双葉さんの何かの機械の筐体だけ頂いて、作っている別個の操縦機ということで一つ(笑)。
    怒られないように気をつけます。ご指摘ありがとうございます!

    >みゃふさん

    毎度、ありがとうございます。永慶です。
    今回は機械ものです。アプリやAI的なものと違う、アナログな操縦機の面白さを引き出せたら
    嬉しいと思って書き始めましたが、さて、どうなることやら(笑)。
    しばしお付き合い願いますです。

  10. >匿名さん

    ありがとうございます。面倒くさがり屋の私は、導入部分についていつも手を抜きそうになる自分と戦います(笑)。
    ここから少しずつ広げていくつもりですが、お楽しみ頂けましたら幸いです。よろしくお願い申し上げます。

    >ティーカさん

    いつもありがとうございます!
    不思議な装置の試行錯誤。楽しいけどスリリングですよね。
    僕は自宅のレコーダーのリモコンすら、押したことのないボタンが沢山あります(笑)。
    少年たちのひと夏の悪ノリ、悪ふざけをご提供出来たら喜びです。しばしお付き合い願いますです。

    >アイスさん

    お褒めの言葉と(勝手に)受け取って、喜ばせて頂いています!
    ありがとうございますです。8月の終わりまでポコポコと投稿していく予定です。
    お楽しみ頂ければ幸いです!

    永慶

  11. 永慶さんの作品は下着(ブリーフ)の描写が秀逸です。
    トランクスやボクサーでないところが素敵です。

  12. >匿名さん

    ありがとうございます!
    AVで痴女に迫られる気弱な学生という役柄の男優さんが、
    学生服を脱がされるとブーメランパンツを穿いていたりすると、
    「役柄、全うしてくださいよー」と思っていたのを思い出します。
    「MCの技術/能力を入手する前は、ウブな男の子だったのに・・・」というギャップを出すにも、
    白ブリーフはありがたい存在です(笑)。
    感想ありがとうございました!励みになります。

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