マリオネット 第1話

第1話

 月明かりに照らされる立ち昇る白煙。

 漂うオイルの匂い。

 木に留まる猛禽類が、興味深そうにその事態を眺める。

 男のうなり声がした。

 男はアスファルトに貼りついた顔を懸命に持ち上げる。

 運転席から身体半分放り投げられた男の目に映るものは、自分の下半身をつぶしている自家用車の残骸と、遥か上空の突き破られたガードレールだった。

 エンジンオイルにまみれていた男の白衣は、やがてそれ自身の血の色に染まっていく。

 オイルの臭いに混じり、ガソリンの臭いもしてきた、男の目の前では砕けた電気系統機器が火花を上げている。

 口惜しかった。

 これから、世の中のすべてを手に入れられるはずだった。

 男は歯軋りをしながら、懐からあるものを取り出した。

 それは石だった。

 紫色のそれは、直径約4、5センチの楕円形をしており、まるで鉱紅玉(ルビー)のような輝きを放っていた。

 男はそれを握り締める。

 ―――誰かの手に渡るぐらいならいっそのこと

 男は渾身の力を込めその石を、目の前の、ガードレールの向こう側に広がる崖の方に放り投げた。

 石は放物線を描き、崖を落下していく。

 キンという金属音に近い音を立て、石は崖の所々にぶつかりながら転げ落ちていった。

 猛禽類がその場を見限ったように木から飛び立つ。

 そして、それに遅れるようにして、爆発音が峠の山々にこだました………

 家の空気に温度は無い、俺が出ればこの家は無人となる。

 俺は「御影」と書かれたマンションのドアを閉め、鍵をかける。

 父はアメリカ、母もそれについていった。

 ガキの頃から妙に大人びていたせいか、両親も特に気にすることもなくこの俺を日本に残して行った。

 冬の寒さが身にしみるようなセンチな感情は持っていない、せいぜいひとりで掃除するには広すぎるな、と思うぐらいだった

 エレベーターのボタンを押そうとしたが思いとどまる、2台あるエレベーターは両方とも最下層で止まっていた、これなら階段を下りるほうが早い。

 俺は学生鞄を肩にかつぎ、ブレザーをひるがえしてマンションの5階から階段を一気に駆け下りた。

 本名「御影広樹(みかげひろき)」

 都内の高校に通う、やや優秀な部類に入るだろうが、普通の高校生。

 そう、それが、他人が思っている俺のプロフィールだろう。

 しかし、俺は自分自身で気付いていた。

 人間なら誰でも持つ心の闇の部分。

 自分の持つそれはのは、他人のものより深く、広いであろうという事を。

 高校生の平均身長よりやや高めの身体を軽快に躍らせ地上階へとおり立つ、この程度で息は切れやしない。

 今の生活そのものに不満は無い。

 ただ、飽きてきた、ごく普通の学生生活を、ただ流されるままに過ごしているのを。

 最近、その無気力な思考のせいか、自分の心の闇を押さえられなくなってきたような気がする、時折衝動的な行動にかられることがある。

 もっとも寸前の所で止めてはいるが………

 俺は郵便受けに何も入っていない事を確認すると、学校に向かい歩き出す、通学時間は片道徒歩で約20分といったところか。

 俺の通う道は学校へ通う多くの人間が使う道だ。

 しかし俺以外に今この道を歩いている生徒はいない。

 俺が他人との接触を嫌うため、他の生徒が通うよりも早く登校しているからだ。

 もともと俺は学校では優等生面をしている、もちろんそれは偽りの仮面だ。

 できるなら自分を偽る時間は短いほうがいい、自分を偽れば偽るほど心は蝕ばまれていくものだから。

 そんな、偽りの仮面をつけることの無い今の状態で俺は思う。

 なにか俺の心を満たすことは無いか……

 俺の心にある闇を満足させる事は無いのか……

 そして

 そんな俺の思考がそれを求めたのか

 それともそれが俺を求めたのか―――

 俺はこの時、無意識に、いつもならとらない行動を取った。

 と言ってもそう大げさなことでは無い、ただいつも道の左側を歩いていたのを、右側に変えただけだ。

 しかし、いつも左側を歩くのは訳がある、この道は川のすぐ脇に作られているのだが、川と言っても、ドブ川といったほうが表現的にはあっている川で、そのため臭いも少々きつく、この道を歩くときはいつも川の反対側、というのがこの道を使う者の常識だった。

 なぜそんな行動を取ったのだろうか、その理由は定かでは無いが、この時の俺に向かって、何か一筋の光が浴びされたのは確かだった。

 ……なんだ?

 俺は光が来た方向を見てみる。

 川を渡す10mほどの橋、それを支える支柱の一番対岸側。

 そこに、なにか紫色の光を放つものが引っかかっていた。

 普段、その程度の物なら無視するのだが、その輝きがあまりにも鮮やかだったため、俺はまるで魅入られるように、その光の元へ歩いていった。

 俺は橋を対岸側に渡ると、橋の鉄骨をうまく掴みながら水面あたりまで降りていく。

 俺自身なにか運動をやっていたわけではないが、こういう動きは得意なほうである。

 もともとこの川は、幅こそ、そこそこの広さがあるものの、深さはほとんど無い。

 そのせいか川にはさまざまなゴミ―――ビニール袋や空気の抜けたボール、果ては自転車までが流れきらず、そこに漂っていた。

 俺はそれらのゴミを足場にし、目的の場所まで近づく。

 近づけば近づくほど、それが放つ光は強く、鮮やかになっていった。

 よく見ると、それは、どこからか落ちたであろう木の枝に引っかかりその場に留まっていた。

 魅惑的な紫色の輝きを放つその石。

俺はそれを拾い上げる。

手を触れると、一瞬だけ光が強まったような気がした。

 軽く振って、汚水を落とすと、すぐさまそれをポケットにしまい、俺は再び鉄骨をつかみ、橋を昇った。

 俺は近所の公園へと走った。

 公園につくと俺は水道を探し、ポケットから石を取り出してそれを洗った。

 公園に人がいたらまずいと思ったがさすが、さすがにこの登校の時間に子供達が遊んでいるわけもなく、また浮浪者の姿も見かけられず、この公園にいるのは俺ひとりだった。

 石についていた汚れは簡単に落ちた、その輝きがいっそう増す。

 俺はその石を太陽にかざした。

 直径5センチはあろうかという紫色の鉱石。

 紫色に染まった太陽光は、神々しくも禍々しくも見えた。

傷一つ無いその表面の滑らかさと、透明感は、決してごくありふれた金属で表現できるものでは無い。

 最初ガラス玉かとも疑ったが、明らかに重量が違う、そして表面温度もプラスチックのような樹脂類とも違うものだった。

 もしかしたらこれは相当の値打ち物かもしれない、俺はそう直感した。

 これを金に替えたら………

 もちろん今の暮らしで金に不自由しているわけではなかった。

 親からの仕送りは十分にある。

 しかし……もし普通の学生では手に入れられないような大金を掴む事ができたなら?

 いまの飽きがくるような生活を変えられるかもしれない。

 俺の心に巣食う闇の心を満たすような事ができるかもしれない。

 俺はそう強く考え、かざしていた石を強く握り締めた。

 そして………その時だった。

「うわああっ!」

 俺は思わず大声を出した。

 今までただ、冷たいだけだった石が、突然熱を持ったのだ。

 それはまるで真っ赤に焼けた鉄の塊を握っているような感覚だった。

 俺は思わず石を手放した。

 コンと軽い音を立てて地面に落ちる石。

 そして、その地面に落ちた石を見て、俺はぎょっとした。

 石が、太陽の反射光とはまるで異質の、紫色のオーラにもにた光を放っていたのだ。

 光のオーラはゆるゆると石の周りを漂う。

 俺はその光景の異様さに、思わず逃げようとした、しかしその時

 突然石はピシッという音がしたかと思うと、まるでそれが、野球の硬球のような、糸を紡いでできた塊であるかのように、細いの繊維の集合体ように変化した。

 そして次の瞬間それがぶわっと広がっる。

 いくつもの紫色に輝く糸が、幾重にも折り重なり空中を漂った。

 俺は逃げるのも忘れ、思わず見とれる、太陽光まで取り入れ乱反射したその美しさはこの世のものとも思えないものだったからだ。

「………」

 俺は吸い寄せられるようにそれに近づく

 紫色の光の糸はたおやかに揺らいでいる。

『お前が俺を呼んだのか―――?』

 俺は思わずそれら光の束に手を出した、しかしその瞬間―――

 今までまるで風になびく柳の枝のようだった糸、その内の一本が、蛇が鎌首を持ち上げるかようにして舞い上がったと思うと、突然猛スピードで俺に突進してきた。

「!」

 俺は反射的にその糸に向かって出していた手を開いて防御の姿勢をとった。

「ぐっ」

 しかし、糸はそんなことお構いなしというように、突進しつづけ、そのまま俺の右の手のひらに突き刺さった。

「うわっ」

 そして次に俺を襲った感覚が俺の全身を総毛立たせる、糸は俺の手のひらに突き刺さった後も進行を止めず、俺の身体の中を突き進んできたのだ。

「―――――!」

 そして、次に声も満足に出せないほどの激痛が俺を襲った。

 まるで突き進んでくる糸が俺の腕の神経すべてを焼き尽くすようなそんな感覚。

 俺は、とっさに空いていた左手で糸を掴み引っ張った。

 しかし、その糸の細さと強度ゆえ、逆に俺の左手が裂けた。

 鮮血が滴り落ちる。

「うっ…」

 糸は、その間もどんどん腕を上り進行し続け、激痛もますます激しくなる。

 そして、その糸が、腕を越え、肩を超え、首まで来たとき俺はぞっとした。

『この糸は俺の脳を目指している!』

 とにかく糸を抜かなくては、と思った俺はあたりを見渡す、先ほど石を洗った水飲み場が目に入った。

 俺はその水飲み場に糸を2、3回巻きつけると、反対側を足で踏み、水飲み場に糸を巻きつけたまま身体を思いきり後ろにのけぞらした。

 びんと糸が張った。

 しかし、糸は止まるどころが、まるで何事も無いようにそのまま変わらないスピードで俺の体内を進行する。

 俺の必死の抵抗をよそに、頬のあたりまで糸が来たことを感じたときだろうか、ピシッという音が響くと、それに続いてガラガラとなにか大きな石のようなものが崩れる音がした。

 それと同時に俺は大きく後ろに倒れこんむ。

 なんと糸がコンクリートの水飲み場を切断したのだ。

 ブシューッという激しい音がして水が噴水のように高くまで上がり、仰向けで地面に横たわる俺の全身に注がれる。

 そんな中で俺は糸が自分の脳に到達したことを実感した。

 俺が記憶しているのはここまでだった……

 ………熱い

 ………この熱さはいったいなんだ

 全身を燃えるような熱さが包んでいる。

 俺は、自らの身体が発している尋常ではない熱さと、それを冷ますように降り注いでいる水道の水で目を覚ました。

 朦朧とした意識の中で身体を起こす。

 あれは夢だったのか?

 一瞬そう思った、あんなことが現実に起こりうるわけが無い。

 しかし俺の身体に、今なお降り注ぐ、破壊された水飲み場から噴出する水と、俺の左手の糸で切った裂傷が、先ほどの事が夢では無かったことを物語っていた。

 ちらりと時計を見てみる、俺が気を失っていたのは30分程度だったらしい。

 ………学校に行かないと

 俺は満足にまっすぐ歩けない状態ながらも、ふとそう思い学校へ向かって歩き出した。

 驚くべきことに、滴るほど濡れていた制服は、わずか学校にたどり着くまでの30分足らずの時間で乾いてしまった、それほどの熱を俺の身体は持っていたようだ。

 その熱も、今ではもう、ただ熱っぽい、というレベルに納まりを見せていた。

 しかし、今度はそれと取り変わるように、激しい頭痛が俺を襲ってくる。

 俺はそんな頭を押さえつつ周りを見た。

 今、俺は自分の教室にいる。

 ちょうど3限目が終わり、今は休み時間だ。

 俺は頭の痛みに耐えかね机にうつぶす。

 普段、人のいい顔をしているからだろうか、何人かが俺の体調を気遣い、声をかけてきたが、俺は、そのたびにあいまいな返事をして、あたりさわりの無いよう、ていよく追っ払った。

 そうして俺は考える、あの石……糸といったほうがいいのだろうか、あれは何だったんだろうか。

 俺は糸が突き刺さった右の手のひらを見てみる。

 そこには傷のひとつも無かった。

 もちろん体内に糸が残っている感覚も、あの神経を焼き尽くすような痛みもない。

 ズキンと頭が痛む、思考がまとまらない。

 そしてそんな時、俺に追い討ちをかけるように、攻撃的とも言える馬鹿笑いが俺の鼓膜をつんざいた。

 俺の左隣の席に座る女が、そこに集まったその友人達と騒ぎ始めたのだ。

 顔面を真っ黒に焼いた、お世辞にも品がいいとは言えない連中だ。

 どうやら女達はタレントの悪口で盛り上がっているようだ。

 普通の状態でさえ聞いていて頭が痛くなるような会話が、更に俺の頭痛を酷くしていった。

 しかも、自分の席に座っている女以外の2人が、俺のほうを向いており、まともにその会話が俺のほうにくる。

 ―――ズキン

 女どもの会話は更にヒートアップする。

 ―――黙れ

 俺の頭痛は止まらない、女どもの会話は、俺以外のごく普通に会話している人間さえ怪訝な顔をするようなほど大きくなっていく。

 ―――黙らないいというなら

 キンキンキンという金属音のような音が俺の頭でこだましてきた。

 そしてその音は、俺の頭痛をも忘れるぐらい大きな音になっていく。

『俺が黙らせてやる!』

 その瞬間だった。

 なにか、頭の中でスイッチが切り替わった。

 そして、それと同時に俺の目に見えるもの、すべてが紫色の薄いベールに包まれたような感じになった。

 教室のすべてが紫色に染まる。

 机も、椅子も、黒板も、人間も、窓から見える青いはずの空まで。

 俺は思わず身体を起こした。

 自分自身に起こった異様な感覚が、俺を正気に戻らせたのだ。

 ……なんだ…これは?

 紫色の世界、それは異様としか言えない世界だった

 俺は何とか冷静になろうとする。

 その状況を理解しようと、その世界をもう一度よく観察してみた。

 そして俺は気がついた。

 確かにぱっと見、すべてが紫色に染まっていたが、よく凝視してみると、人間にだけ、まるで針の穴のような、ほんの小さな範囲だけ、紫色に染まらないそのままの場所があった。

 その数はひとりに対し1箇所、場所はほとんど額の中心だった。

 俺は女の方を見る、女達も例外に無く、額のあたりにぽつんと紫色に染まっていないポイントがあった。

 俺は、その中で真ん中の、特にうるさいと思った女に意識を集中する。

 そして、その時だった。

『!』

 次に起こった事態が、やや冷静になりかけた俺の思考を再び混乱させた。

 その紫色の世界で…俺の目の前にあの、俺を苦しめた紫色に輝く糸がひとすじ、揺らいでいたのだ。

 俺はあのときの恐怖を思いだし、反射的に身体をのけぞらした。

 しかし、その糸はまるで俺の体の動きに合わすように俺のほうに動いてきた。

 これは―――

 俺は今一度冷静になって糸を見る、特にその糸の出所を。

 なんとその糸は、俺の右手、中指先端から、まるで植物が生えているように伸び、上に向かって立ち上っていたのだ。

 ズキン

 再び頭痛が俺を襲った。

 俺の意識はまたもやがかかったようにぼうっとなる。

 視界が狭くなる。

 俺の目に映るものは、揺らいでいる紫色の糸と、女の額の…まるでレーザーサイトに照射されたようにくっきりと浮かび上がる紫色に染まっていないポイントだけになった。

 はっきりとしない意識の中でそれがひとつにつながる。

 そして次の瞬間。

 俺の中指から出ている糸が、ピュンという音を立てて、高速で飛び立った。

 そしてそれはゆるいカーブを描き、女の額のポイントを貫ぬいた。

 女の体がピクンとゆれ、一瞬女の会話が停止する。

 それと同時に俺の視界が晴れる、紫色のベールは無くなりすべては元通りになった。

 そう、俺の指先と女の額が紫色の糸でつながっている以外は。

「あっれー、ミキどうしたのー?」

 突然会話を停止した女を不審に思ったのか3人のうちのひとりが声をかけた。

「え…?うん、別に何でもない、ただ一瞬めまいがしただけ」

「めまいだなんてだなんて、あんたそんな繊細だったー?」

「きゃははははは」

 あいも変わらず女どもは会話を続ける、しかし今の俺はそんな事には興味がなかった。

 俺は糸を空いている左手で手に取る。

 つながったままの紫色の糸、どうやらこの糸は俺にしか見えないらしい。

 しかし…と俺は思う。

 ここまでは、はっきり言ってほぼ無意識のうちに事が進んだ、これから俺は何をすればいいんだ?

 俺は心の中で強くつぶやく。

『これはいったい何なんだ』

 そして、それとまさに同時だった。

「え?なにが『これはいったい何なんだ』なの?」

 ―――!?

「え、なにー?」

「いや、今誰か言わなかった?『何なんだ』って」

「言ってないよー、あんた頭ボケたんじゃないのー?」

「あははー、なにいってんのよ、この子の頭なんて最初っからボケてるじゃない」

「あっはっは、そりゃそうだ」

「ちょっとー、なに酷いこといってるのよー、本当に聞こえたんだからー」

 俺は、糸を今一度よく見る。

 糸は先ほどより若干光を増しているように思えた。

 ………俺の心の声が伝わった?

 女の方を見る、女は何事も無かったように、またやかましい会話をしはじめた。

 俺は肘を机に置き、そこを支点にして指先を女のほうにゆっくりと向けた。

 ……今度は…もっと意識して…強く…

 糸が紫色の輝きを増していく。

『黙れっ!』

「きゃあああああああっ」

 突然女が頭をかかえてしゃがみこんだ。

 さすがにこれは残りの女の心配になったらしく、語り掛ける

「ね、ねえっどうしたのっミキっ」

「ちょ、ちょっとぉ」

 頭を抱えた女は今にも泣き出しそうだ。

「声が…、声が聞こえるの…」

「声?」

「ものすごく大きな声で『黙れ』って」

 2人の女が顔を見合す。

「私達は何も聞こえないよ?」

「聞こえるの!頭が割れそうなぐらい大きな声で!」

 俺は更に声を送りつける。

『黙れって言うのがわからねえのかっ!』

「いやあああああっ」

 ついに女は泣き出した

 残りの2人が泣き出した女をなだめようとするが、うまくいかない。

 教室中がざわめき始めた。

 俺はここまで、と思い糸を引き抜く、糸は俺が思い描いた通り動いた。

 いつまでも泣き止まない女を見て、2人は仕方なく、泣いている女を教室の外に連れ出していった。

 俺はその様子を見送ることもなく机の上にうつぶせる。

 不思議なことに、全身に疲労感はあるものの、あの酷い頭痛や、頭の中で聞こえた金属音などは一切無くなっていた。

 俺は顔を右に向ける、右手の中指を少し持ち上げ意識を集中すると、するっと糸が先端だけ飛び出した。

 糸は意識を強くしていない分、先ほどよりも若干輝きを失っているようだ。

 しかし…これは俺の心の声を相手に伝えるものなのか?

 そして……それしかできないのか?

 俺はそう思う。

 少なくとも俺の心の声が相手に伝わったのは、疑うべきことの無い事実だ、しかし……。

 そう、たとえば逆に相手の心の声が俺に流れてくるような事は、一切無かった。

 もし、これによって、自分の思ってることが他人に伝わるだけではなく、相手の考えていることが読むようなことができれば、それはそれで脅迫の材料にでもなるのだが……

「これじゃあ片道通行の糸電話とかわらないな…」

 俺はそうつぶやき再び顔を戻しうつぶせる。

 確かに今みたいなつかい方をすれば、気に食わない相手にダメージを与えるようなこともできるだろうが……

事の大層さから、もっとすごいものかと思ったんだけどな……まあ、適当に使い道でも見つけて、ストレス発散の道具にでもするか。

我ながら冷静だと思う。

普通、使い道はどうであれ、こんな能力を身につけたら、あれやこれやといろいろ試してみる気になるものなんだろうが……。

この糸が、俺の体内に入ったときのあの苦痛が、この糸に対して嫌悪感をかもし出しているのか、あまりそういう気にはならなかった。

 やがて、教室のざわめきが収まらずにるうちにチャイムがなる。

 4限目の授業開始を伝えるチャイムだ。

 チャイムが鳴り終わると同時に教師が扉を空けて中に入ってきた。

 4限目は世界史だ。

 普通世界史の教員といえば、古典と並び、年を食った定年間際の老教師、というのが相場だが、うちの学校は違った

 教壇に若い女が立つ

 橘景子(たちばなけいこ)、大学を卒業し、まだ2年目の若い女教師だ。

 身長こそ、そう無いものの、スラリと伸びた足に、Dカップは確実に越えているであろう胸。

 それに対して肩のあたりで軽くカールした黒髪と、掛けている丸い枠の眼鏡の奥から見える柔和な瞳は、どことなく幼さを感じる程で、そのアンバランスさがなんとも言えない魅力を出していた。

 また、話のしかたも、年があまり離れていないせいか、親近感が持てるものであり、男子はもちろんの事、女子にも非常に人気がある名物教師だ。

 俺自身も、こんな女を俺の好きにできたら、なんて思ったこともある。

 クラス委員長の号令により授業が始まる

 授業が始まり出席を採り終わると、橘先生は出席簿と一緒に持ってきた紙の束を、教卓の上にどさっと置いた。

「さてと、いきなりですが―――」

 橘先生はちょっと意地悪そうな顔をしてぐるりと教室中を見まわす。

「あなた達の実力を知るために、抜き打ち小テストをおこないまーす」

 教室中からブーイングが起こる。

「はいはいはい」

 ぱんぱんと橘先生は手をたたいた。

「いろいろ言いたいこともあるでしょうが、決定です」

 トントンと教卓の上で小テストの束らしい上をそろえる橘先生。

 ちっ……

 俺は心の中で舌打ちをする。

 普段なら、テストなど退屈な授業を聞かなくてすむだけ歓迎なのだが、今回は俺自身朝からの事件で体調が悪い、正直記憶力が頼りの世界史のテストでいい点を取る自信はなかった。

 …ったくこの変な能力のせいで。

 俺は自分の右手を見る。

 ……まてよ。

 この力でテストを辞めさせられないだろうか。

 そう考えると、俺はまた先ほどのように視界を紫に変えられるかどうか試して見た。

 頭の中でスイッチを押す。

 コツがわかってきた、スイッチというよりライターなどを「着火」するようなほうがイメージに合う。

 俺の目の前の景色がすばやく紫色に変わった。

 紫色の世界で俺は橘先生に意識を集中する。

 糸を打ち込むポイントがすばやく浮かんでくる、その過程は明らかに先ほどよりも早い。

 俺は机の下でそっと指先を橘先生のほうへ向けた。

 そして指先に意識を集中し、橘先生へ糸を発射させる。

『行けっ』

 シュバッと音をたて、糸は地面すれすれに、俺の前に座る生徒たちの間を潜り抜け突き進む。

 そして教卓の直前でヒュンと上昇すると空中でいったんひるがえし、そのまま橘先生のポイントを貫いた。

「うっ…」

 橘先生は少しよろめいた。

 俺は間髪いれずに言葉を送る。

『テストなんて止めてしまえ!』

 それを聞いた橘先生はキッと顔を高潮させた。

「だれです!そんな事を言うのは」

 橘先生はぱんと教卓を叩く。

『いいから止めろ』

「いいかげんにしなさい、誰ですか!」

 クラスがざわめき始める。

 先ほどの、クラスの女の事件があったせいか、反応が早い。

「誰がなんと言おうがテストは行います、これは決定です」

 橘先生は、そういうとすねたように、小テストの紙を各列ごとの人数分に分け始めた。

 ……やっぱりダメか。

 俺はがっくりとうなだれ、そのまま机にうつぶせる。

 周りに気付かれずに自分の声を伝える―――か。

 俺は思う、それだったら相互交流できるだけ携帯電話のほうがずっとマシだ、あれだって自分の正体を知らせず声を伝えるんだから。

 これにはこれで、それなりに有効な使い方もあるだろうが…俺の望んでいたのはこんな事じゃない、はっきり言って無意味だ。

 橘先生が各列の先頭の生徒を呼び出させる。

 ……無意味か…無意味って言えばテストっていうのも無意味だよな…

 ……ただ決まった時期に、どれくらい情報量を詰め込めるかだけの確認じゃないか。

 ……そんなんで後にどれくらい知識が残るのかね。

 ……テストなんて無意味さ……。

 そして―――俺がそう考えた時だった。

「……そうね、テストなんて無意味ね」

 橘先生の声が聞こえた。

 俺はガタッと身体を起こす。

 それに続き教室もざわめきはじめた。

 橘先生は続ける。

「大切なのはテストの時だけ知識を詰め込める事じゃないわよね」

 ―――これは!?

「重要なのは、その後もその人のためになる知識を身に付けることよね」

 そういって橘先生は配ろうとしたテスト用紙を回収する。

 クラスのざわめきは、喜び、というより戸惑いに近い。

 その時俺は、橘先生につなげていた糸を、取り外すのを忘れていた事に気が付いた。

 ……俺の…テストに対するイメージが伝わった?

 いや、そうでは無い、たとえイメージが伝わったところで、それは先ほどの「声」が単に「思考」に変わっただけだ。

 ……もしかして、イメージが伝わるだけでなく、そのイメージが、先生のイメージを侵食した!?

 俺は糸を見た、糸はぼうっと鈍い光を放っている。

 ……試してみるか。

 俺は目をつぶり、もう一度イメージを頭に思い浮かべる。

 今度は強く、より橘先生のイメージを侵食することを意識して。

 ……そうだ、確かにテストは無意味だ。

「あ……」

 橘先生の動きが止まる、俺は続けてイメージを送り込んだ。

 ……だが、テストのために努力することはその後に大きな糧になるはずだ。

 ……よし、だったら、今すぐここでテストをすることは止めよう。

 ……授業の前半をテストのための自習にして、最後にテストをすることにしよう。

 俺は目をあける。

 橘先生につながっている糸は、俺が驚くほどの輝きを発していた。

 動きが止まっていた橘先生が再び動き出し、ぱんと教卓を叩いた。

「やっぱりテストはやります」

 えー、という声が教室からする。

 いいかげんにしろよー、という声も聞こえる。

「ただし、文句が多いようなので、30分だけ、勉強時間を上げます」

 ―――思ったとおりだ!

 それなら……と思い更に俺はイメージを追加する。

 ……このテスト用紙を試験前に見られたらまずい、自分は自習の間はこれを持って職員室に戻っておこう。

「では、自習を開始します、先生は職員室に戻っていますので何かあったら呼んでください」

 橘先生はそう言って、テスト用紙を抱えると教室から出ていってしまった。

 とたんにざわめき出す教室。

 自習になったゆえの開放感か、それとも不信な行動を取った橘先生に対する疑念の会話か。

 ともかくそんな事はどうでもよかった。

 俺は糸を見つめる、そして笑った。

 今の俺の顔を、普段の偽りの顔しか知らない奴が見たら、悪魔にでも取り付かれたのかも、と思うかもしれない。

 いや、本当に取りつかれたのかもしれない、この人の精神を自由に操れる、紫色の悪魔に。

 糸は指先からするすると伸びている、今だ橘先生の額とつながっているらしい。

俺は立ちあがる。

 何人かが俺に話し掛けてきたが、適当に相槌をうち、俺は橘先生を追いかけて教室を出ていった。

 廊下の先に橘先生が見える。

 ただ、すぐには、俺は声を掛けない。

 それというのも、目的の場所に先生がたどり着くのを待っているからだ。

 うちの学校は特別授業を2クラス混合で行う。

 この廊下の先にあるのは4~7組、今日、この日の4限は、それぞれ4.5組が体育、6,7組が美術で教室をあけている。

 つまりこの先に、まるまる4クラス分、人がいない場所があるのだ。

 俺は行動を起こすならそこしかないと踏んだ。

 そして先生が目的の場所にたどり着く、ちょうど4クラスの真ん中だ。

 そこで俺は声を掛けた。

「先生」

 橘先生は振り向いた。

「あら、御影君、どうしたの?今は自習の時間でしょ」

 普段優等生の振りをしているからだろうか、橘先生の俺に対する物腰はやわらかだ。

「ちょっと聞きたいことがありまして……どうしてこんな変則的なテストをするんですか?」

「それは―――」

 橘先生は答える、それはまさに、俺が先ほど送り込んだイメージそのままだった。

 さらに俺は聞く、なんで職員室に戻るのか、と

 もちろん先生は俺が送ったイメージを答える、テスト用紙を見られないため、と

「ふーん…でも変じゃないですか?そんなもの先生が見張ってれば済む事じゃないですか」

「え?」

「それに……特に先生に用事が無いんだったら、自習と言えど教室にいるのが普通じゃないですか?質問したい生徒だっているでしょうし」

「そ……それは…」

 橘先生は黙りこんでしまう。

 どうやら頭の中で、俺の与えたイメージと、その他のイメージが矛盾を起こし葛藤しているらしい。

「と、ともかく、そうした方がいいかと思ったから」

 しばらく考えた後の橘先生答えはそれだった。

 俺はこの答えを聞いて心の中で笑った。

 ……へぇ、これはたいしたもんだ、ここまで強制力があるとは。

 今の俺と先生とのやり取り、他の誰が聞いても俺のほうが正論と思うだろう。

 しかし、今の先生の解答。

 外から与えられた、及び自分のもつ正論よりも、俺が糸によって与えたイメージのほうが優先されたという事だ。

 つまりこれは相当のレベルまで人の心を操れるということだ。

 しかしまあ……

 俺は橘先生をじっくりと見る、先生はまだ、どことなくオロオロとしている。

 眼鏡の奥の瞳は今にも泣き出しそうな子供のようだ。

 かわいくうろたえちゃって……コイツは……

 俺はすうっと右手を上げ、中指で橘先生を指差す。

「な、なに?」

 糸がピンと張る、そして輝きを持ち始めた。

『いじめ甲斐がありそうだ!』

「きゃっ」

 橘先生がたじろぐ、俺は先生の意識に確実にイメージを伝えるためのラインを確保する。

「さてと……」

 俺は先生に笑いかける、もちろんそれは仮面を取った笑い顔だ。

「み、御影くん…?」

 今まで見たことも無いような、俺の表情に戸惑う先生。

 そんな先生に向かって、俺は唐突に言った。

「先生、俺とセックスしたくないか?」

 それを聞いたとたん、先生は顔を真っ赤にする

「な、何を言うのっ、御影君!」

 俺は間髪いれずにイメージを送り込む、セックスというものに対するイメージを。

 ……それは……今この場で行わなければならないもの……

 ……目の前の……御影広樹を相手にしなければいけないもの……

「どう?先生、したくない?」

「あ…う……」

 先生の顔の紅潮が、怒りから別の種類のものになる。

 しかし、まだ橘先生に何か行動を起こそうという気配はない。

 必死に理性で持ちこたえているという感じだ。

 ……『やらなければならない』だけじゃ弱いか。

 俺はそう思い、更なるイメージを送り込む。

 ……先生……橘景子にとって、御影広樹とのセックスの快楽は、この世に存在するすべての快楽を上回る無二のものである。

 ……景子はその快楽を得るためならば、どんな行動もいとわない。

 ……もう……その衝動は押さえられない。

「あ…あ……」

 景子はやがて、内股をすり合わせるようにして、腰をもじつかせた。

 その潤んだ瞳には、もう俺しか写っていない、という感じだった。

 そして、この反応を見て、俺はこの景子が非処女である事を確信した。

 この反応は、セックスの快感自体を知らなければできない反応だからだ。

 まあ、この容姿で25歳にもなりながら処女と言うのも、それはそれで問題があるだろうが。

 さて、と俺は景子の目を見据える。

「もう一度聞くよ、俺とセックスしたくない?」

「し……したいわ……」

 景子はそう、即座に答えた。

 俺は、ふーんと笑った。

 景子は足をがくがく震えさせながら、俺の方を見つめている。

「じゃあ景子、俺にお願いしてみろよ」

「え?」

「だって、別に俺はおまえとやりたいだなんて、ひとことも言ってないぜ」

「そんな……」

 確かに、言葉だけを取ればそうかもしれないが…まあ屁理屈だがな。

「景子が自分からお願いしてくれたらしてやってもいいぜ」

「……あ…」

 俺はそう言った後、再び糸を通し、先ほどと同じイメージを景子に送り込んだ。

「ああっ」

 景子はそう叫ぶと、股間を押さえたままぺたんと廊下に座り込んでしまった。

 ぴくっぴくっと身体を震わせる景子、俺とのセックスを想像し、軽くイったのかもしれない。

俺は景子に近づく。

「どうだい、景子?」

 景子は俺を見上げた、景子の俺を見上げる目は、まさに媚を売る女のそれ、そのものだった。

「お願い……御影君……私とセックスして…」

 俺はその言葉に満足し、景子の軽くカールした髪をすいた。

「あ……」

 景子はうっとりとし、嬉しそうにその手に頬を摺り寄せた。

「はは……じゃあいいぜ、そこの教室に入りな」

 俺はそう言って、景子を無人の教室に導く。

 景子はふらふらと立ちあがった。

 ……さあて景子、これから俺が、お前を俺の理想通りの奴隷に変えてやるぜ。

俺は、教室に入ると、一番前の机に座り、景子を教壇の上に立たせた。

景子はもう待ちきれないといった表情で、俺を教壇の上から熱っぽい表情で見下ろしている。

「さて、景子、用意しな」

「え、用意って……?」

 景子はオロオロとする、どうすればいいのかわからないといった状況だ。

 どうやら、俺とセックスしたいという欲求だけが突出してて、ろくに頭が回っていないようだ

 俺は、ちっ、と舌打ちして不機嫌そうな顔をして、景子を見上げた。

 しかし、実はこれは俺の演技だ、景子をよりいっそう嬲ろうというための。

「教師のくせに頭ワルいなぁ……そんなんじゃしてやんねぇぞ」

 バンと俺は自分が座っている机を叩く。

「ご、ごめんなさい」

 そういって、景子は教壇を駆け下り、ひざをついて俺にしがみついてきた。

「私……あなたにしてもらえなかったら、もう……」

 景子は泣きそうな表情をしている。

 俺は、この景子の行動に、満足すると景子を立たせた。

「じゃあ教えてやるよ、とりあえず……」

 俺は景子を上から下までじっくりと眺める。

 景子は、上は白のVネックセーター、スカートは赤のチェックという服装をしている。

「そのままのカッコでできるのかよ」

「あ……」

 景子は俺が何を言わんとしているのかを理解し、立ちあがる。

そして自らのセーターに手を掛けた。

セーターを脱ぐとその下には、襟元を赤いリボンでとめたブラウス、薄い生地を、セーターの上からではよくわからなかった、大きな乳房が突き上げている。

 しゅるっとリボンをとくと、ブラウスのボタンを外しはじめる。

 脱ぐたびに、期待が高まっているのか、景子の息遣いが荒くなっている。

ブラウスを脱ぐと、大きな乳房を包んでいるブラがあらわになる、白いブラだったが、お世辞にもお洒落とはいえないブラだった、まあ、あのサイズを収めるブラといえば物が限られてくるだろうし、普段着ならばあれでしょうがないだろう。

次に景子はスカートのホックを外す、ストンとスカートが落ち、ガーターベルトとストッキング、そして白いパンティーがいっぺんに見えるようになる。

俺はその様子を見て、心の中で笑う。

景子の下着が、もうここの俺の位置からわかるほど、濡れていたからだ。

景子は、ブラを外す、ゆれる乳房の先端にはきれいなピンク色をした乳首、それはこれ以上無いぐらい硬くなっているのがわかる。

ガーターベルトの留め具を外すと、ストッキングを脱がずに直接バンティーを降ろした、

ヴァギナとパンティーの間に糸が引かれた。

景子は、そこまで脱ぐと、これまでにないぐらいの熱っぽい目で俺を見つめる。

「脱いだわ……御影くん……」

 そんな景子を見て、俺は次ぎの指示を出す

「じゃあ景子、今度は、教卓に手を付いて尻をこっちに向けろ、そして挿れて欲しい場所を自分の手で広げて、俺がよく見えるようにするんだ」

 景子は素直に俺の言う通りにする。

教卓に手を付くと、右手を股の下からくぐらせ、自分のヴァギナを人差し指と中指で開き、俺に見えやすいように突き出した。

「こ……これでいいの、御影くん・・・・・・?」

俺は返事をせずに、机の上から降りると、片膝をついて、景子のヴァギナに顔を近づけた。

2本の指で開かれた、真っ赤に充血したそこからは、白く濁った愛液がとめどなく沸いている。

「しかし景子……」

俺は景子に更なる辱めを与える。

「おまえ、自分の生徒の前でこんなに格好して、恥ずかしいとは思わないのか?」

 そういって触れるか触れないかの距離で、景子のヴァギナを指の腹でなでる。

「ひあっ」

 景子はビクンと身体を震わせ、肩で息をする。

「たぶん世の中で探してもお前だけだぜ、こんな事してるの」

 景子は、激しい息遣いの中、俺の言葉を聞き、顔を真っ赤にさせた。

「でも……こうすることで、御影くんがしてくれるなら……」

「ふーん、俺にしてもらうならどんな事でもするのか」

 景子はためらいがちにコクリと頷いた。

 俺は景子の尻をパンと叩く。

「あっ」

「ふん……そこまで言われちゃしてやらないわけにはいかないな」

 そういって、俺はファスナーを降ろすと自分のペニスを取り出した。

 先ほどから景子を嬲るために、ずいぶんと余裕をかましていたが、実は俺の方も、今にも暴発しそうなぐらいに興奮していた。

「あ……」

 それを見て景子はこれ以上無いぐらい嬉しそうな顔をする。

 そう、糸の力により、景子にとってこれは、どんなことを押しのけても手に入れたい、世界に2つと無い快楽を与えてくれる物になっているのだから。

 俺は自分のペニスを握り締め、景子に近づける。

そして、やがて先端が景子の入り口に触れた。

 「ああ……」

 景子は、それだけで「たまらない」といった声を出す。

俺は景子の尻を両手でつかむ、そして、腰を突き出そうとして――――やめた。

俺だって、そうえばれるほど経験豊富なわけではない、このまま欲望のままに景子を犯したい欲求にかられる、しかしそれを踏みとどめる。

そう、今ここで、俺と景子の立場をしっかりと確立させるために。

「あ……どうして……」

景子が、なぜ、という顔で俺を見上げる。

そして、その俺の顔をみて少し驚いたようだ。

そこに俺が、普段の、偽りの仮面の表情を用意していたからだ。

「いや、先生、やっぱりまずいですよ」

 俺は、あえて景子を「先生」と呼び直した。

「え……?」

景子は半ば呆然とした表情をしている。

「いや、やっぱり教師と生徒がこんな事するなんて、いけない事だと思いますし」

 俺はそういって自分のペニスをしまってしまった。

「あっ!」

 景子は絶望的な表情をした。

「それじゃあ先生、自分は教室戻って自習してきます」

 そうして俺は教室の入り口のほうへ向いた。

「まって!」

 景子はヒステリックな声で俺を引きとめる。

 俺はピタリと動きを止める、もちろん景子のこの行動は予想通りだ。

「お願い……あなたにしてもらわないと……もうおかしくなりそうなの」

 そういって景子は泣きそうな表情で床にへたり込んでしまった。

「でも……そういう事で事件になった事もありますし……」

 俺ははそう言って振りかえり、冷ややかな表情で景子を見下ろす。

「誰にも言わないっ……だからお願いっ、先生とセックスしてっ」

「…………」

 俺は景子を見下ろしたまま、しばらく考える。

 もちろんこれはフリだ。

 そして景子に向かってポツリとつぶやくように言った。

「そうですね……確かに教師と生徒、ではまずいかも知れませんが・・・」

 そして俺は仮面を外す、これ以上無い卑下た表情で景子を見下ろした。

「『主人と奴隷』という関係なら大丈夫かもしれませんね」

 えっ、と声をあげる景子。

 よく意味がわからない、と言った感じだ。

「先生……わかりませんか?……そうか、先生は世界史の教師だから、奴隷と言っても史実的な奴隷をイメージしてるんですね……」

俺は右手をすうっと上げる。

「だったら……」

中指から伸びる糸が、ふわりと舞い上がる。

「教えてあげますよ」

景子の額につながれてる糸は、また光を帯びてくる。

「あっ……」

 座り込んでいる景子の体がピクンと震える。

「本当の……」

 カッと糸が輝く。

「『主人と奴隷』と言う関係を!」

 次の瞬間、俺は一気に、俺が思っている「主人と奴隷」という関係を景子に送り込んだ。

……奴隷は……主人に対し絶対服従である……

……奴隷は……主人に使われる『道具』、である……

……奴隷は……主人に道具として使われる事がこの世で一番の喜びである……

 そして、更に俺は、それと同時に、俺が思いつくべきすべての、性的な、変態的な行為にを景子に知識として流し、それらすべてに対して、性的快楽を感じるように、景子にイメージを送り込んだ。

「ああっ」

 景子はよろめいた、さすがに抵抗があったらしい。

しかし、俺は確信している、景子の持つ抵抗力より、糸の力のほうが強いと言う事を。

 景子は、しばらく目をつむり、苦しそうな表情をしたが、すぐに目を上げ、ぼうっとした視線で俺を見上げた。

「私が……奴隷になれば……してくれるんですか?」

俺は笑いながら頷く、もう俺に対して敬語を使っている段階で、答えはわかったようなものだ。

「なります……私、御影くんの奴隷になります」

 俺は景子のその言葉をきいて、フンと鼻であしらった。

そしてそのままそっぽを向く。

「あっ」

どうして、と俺のとった行動にうろたえる景子。

俺はそっぽを向いたまま、景子に言う。

「『なります』……とはずいぶん偉そうな奴隷じゃないか、しかもご主人様を『御影くん』だと?」

 景子はサッと青ざめる。

 俺は再び机の上に越しかける。

「奴隷になりたいなら、奴隷なりの頼み方ってものがあるだろう」

俺は机の上であぐらをかき、頬杖を付いた。

「もう一度チャンスをやる、お願いしてみろ」

「は、はいっ」

 景子はそういうと、俺の前で正座をし、頭を下げた。

「お願いします……私を……ご主人様の奴隷にしてください」

「…………」

 俺はなにも言わずに景子を見下ろす。

「ご主人様の言う事は、絶対服従します……だから、お願いします」

深々と頭を下げたままの景子、そんな様子を見て、俺は心の中で笑った。

……よし、これで牝奴隷の完成だ。

糸の力だけで、簡単に奴隷化にすることもできただろうが……それではあまりにも面白みがない。

俺は、たとえそれまでの過程がどうあれ、景子自らの意思で奴隷になることを望ませ、奴隷になることを誓わせたのだ。

俺は景子の顔を上げさせる。

そして片方の上履きを放り投げ、靴下を脱ぎ、足を景子に突き出した。

「舐めろ」

 俺がそういうと、景子は嬉々として俺に擦り寄ってきた。

「ああ……ご主人様……私のご主人様……」

 景子は俺の足をとると、丹念に舐め始めた。

 足の指の間、爪の間……先ほど俺が送った『変態的な行為に対し快楽を感じる』というイメージのせいか、まるで夢心地のような表情で、景子は舐めつづける。

景子の唾液が俺の足に滴るほどになった頃、俺は足を引き上げる。

「あ……」

 景子は名残惜しそうに俺の足を見つめる。

「ふ……じゃあ景子、約束通りしてやるよ、さっきみたいに机に手をつけて、尻をこっちに向けな」

「あ……していただけるんですね…ありがとうございます」

 景子はそういうと、言われた通り、尻をこちらに向けた。

景子から滴る愛液は、足舐めのせいもあるのか、足首の所まで流れ落ちていた。

俺は再びファスナーをあけ、ペニスを取り出す。

そして、今度はためないもなく、景子のヴァギナに押し込んだ。

「あああああっ」

 景子が叫び声を上げる。

 景子の中は、たまらなく熱く、そしてすべての壁の繊維が絡み付くように俺を締め付けてきた。

 俺は、今までの我慢していた欲求をすべてぶちまけるがごとく、景子を突く。

「ああっ、ああっ、ご主人様っ、どうですかっ、景子の中はっ」

 ふんと俺は笑う。

「ああ、なかなかいい感じだ」

「あっ、ありがとうございますっ」

 景子の方も必死で俺の方に腰を叩きつけてくる。

 俺は景子の胸の方に右手を伸ばすと、乳首をちぎれるほどに強く握りつぶした。

「ひいっ」

 景子の中がこれまでにないぐらいきつく締まる。

「でかい胸だな、教師って肩書きには不釣合いだ」

「ご、ご主人様は大きい胸はきらいですかっ」

 景子は少し泣きそうな声でそういう。

「いや、好きだぜ、いろいろと遊べるしな」

 その言葉聞くと安心したように景子は笑った。

「ああっ……景子のこの胸はご主人様のモノです、好きなだけ使ってください、好きなだけ嬲ってくださいっ」

 俺はその言葉を聞くと、左手の方も胸まで伸ばし、右手に負けないぐらいの強さで、乳首を握りつぶした。

「ひああっ、ご主人様っ、もっとっ……もっと強く景子のおっぱい握りつぶしてくださいっ」

 景子は涎をたらしながらあえぐ、俺はさらに両の指先に力をこめた。

 断続的に締まっていた景子の中だが、その間隔がだいぶ短くなってきた、どうやら最後が近いようだ。

 俺の方も、だいぶ興奮していたせいかそろそろ限界にちかい。

「ご主人様っ、私っ……もうイキそうですっ」

「そうか、だがイクときは俺の許しを得なきゃだめだぞ」

「ああっ、ご主人様、イっていいですかっ」

「まあいいだろう」

「イ…イキますっ!」

そう言ったとたん、景子の中が、今までの中で最高に締まった。

 俺は、それに合わし、景子の乳首をありったけの力を込めて握りつぶした。

「ヒッ、ひいいっ」

 ガクンガクンと身体を揺らす景子。

 俺はすばやく景子の中からペニスを抜くと、あらん限りの精を、景子の尻から背中にかけてぶちまけた。

 教卓からずり落ち、景子は床に倒れる。

 景子は全身で息をしていた。

 俺はそんな景子の髪の毛をつかみ、上半身を起こさせる。

「舐めてきれいにしろ」

 ペニスを景子の口元に近づける

「は……い……」

 景子は、今だ朦朧としているが、それでも俺のペニスを、いとおしそうに舐め始めた。

 ペニスがきれいになると、俺は景子をひきはがす、放って置くと、このままいつまでも舐めていそうだ。

引き剥がされた景子は、名残惜しそうな顔をしている。

そうして、俺はここでやっと、景子につなげていた糸を外した。

……さてと

俺はファスナーを閉じる。

……ある意味これからが重要だな。

俺は景子に近づき、上半身を起こしたままでぼうっとしている景子に向かい、中腰になり話掛ける。

「おい……」

「はい……ご主人様……」

「そのご主人様だけどな、俺がいいという場所以外中止だ」

 えっ、と景子がつぶやく。

「私……もうご主人様の奴隷じゃないんですか?」

 景子は今にも泣きそうな顔になる。

 いい傾向だ、と俺は思った。

「そうじゃない、これも一種の奴隷に対する命令だと思え」

 景子の顔が安心したようにほころぶ。

「いいか、俺がいいと言った場所以外、お前と俺は、以前の教師と生徒のままだ、もしこれを破ったら俺はお前を捨てる」

 景子は顔を青くして頷いた。

「わかりました…ご主人様」

 俺は景子の額をピシっと指ではじく。

「どこの世界に生徒をご主人様と呼ぶ教師がいる」

 あ、とつぶやき景子はもういちど気をとり直して俺に言う。

「わかったわ……御影くん」

 よし、と俺は立ちあがる、景子の方は、まだ腰が抜けて立てないようだ。

「とりあえず、まあ今夜俺の家に来い」

 生徒名簿でも調べれば俺の家はすぐにわかるはずだ。

 その言葉を聞いて景子が顔を赤らめる。

さてと、と俺は振りかえり教室のドアに向かう、途中先ほど脱ぎ捨てた、靴下と上履きを拾い、履き直す。

そして、俺は自らの顔を、偽りの顔へと変貌させた。

「さて、それじゃあ俺は、教室に戻ってテスト勉強します、先生も送れないように」

 そう言いながら、俺は教室の出入り口付近に散らばっている紙を1枚拾う、景子が用意したテスト用紙だ。

「ま、これは貰っていきます、優等生のフリも、楽にできるんならそれに越した事はないですからね」

 景子は、相変わらずぼうっとしていた、この調子ではテストに間に合うかどうかは疑問だが、まあそんな事は俺の知ったこっちゃない。

 俺はテスト用紙をひらひらとさせながら、それじゃ、と教室を出ていった。

 俺は教室を出るとそのまま扉によりかかる。

そして、息をひとつ付く 

自然と笑いがこみ上げてきた。

―――――――さあ、これから面白くなりそうだ

< 続く >

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