マリオネット 第5話

第5話

 茜の全身から、冷や汗が流れているのがわかる。
 ソファーに縛り付けられた滑らかな裸体が、細かく震えている。
 今の今まで、官能の渦に溺れかかり、赤く火照っていたその身体は、まるでその事を忘れてしまったように青ざめている。
 実際茜の身体を襲っている官能は、収まったわけではないだろう、ただ、それ以上の恐怖感、嫌悪感が茜を支配しているのだ。
 俺は、その茜の感情の原因になっているものを、次々と縦長の小さい紙箱の中から取り出していく。
 俺の手の上に転がる、ピンクともオレンジともつかぬ、中に液体の詰まった樹脂製の容器。
 普通の薬局等で手に入る中では一番大きめの、50ccのイチジク浣腸だ。
 俺は、それを手でもてあそびながら、茜に言う。
「『他の事なら何でもする』か……あんまりできもしない事を言わない方がいいぞ」
 う…と茜は小さなうめき声を上げる。
「お前は俺に屈しない……・でも、それは逆に言えば、お前は絶対に俺の命令を聞く事ができない、って事だ」
 俺は茜を見下ろしてそう言った。
 もっともこれだと多少の語弊がある、所詮茜に植え付けたのはあくまで俺のイメージで、明確なプログラムじゃない、つまり茜ができないのは、俺自身が「茜がこれを了承したら俺に屈した事になるな」とイメージした行為のみだ、もし呼吸をしろと言ってそれに反抗して死んでしまったら笑い話にもならない。
 結局そのへんは非常にファジーという事だ、俺に都合良くな。
 俺は浣腸を茜の顔に近づける、そしてわざと見せつけるようにキャップを取った。
「ねえっ、本気なのっ、ねえっ」
 茜が泣きそうな顔で俺に懇願してくる。
 俺は、それを冷たい笑い顔で返す。
「ああ、本気さ、それともちろんトイレなんかに行けると思うなよ、その縄は簡単な事じゃほどかないぞ」
 茜の顔が青くなる、まさに血の気が引くとはこの事だろう。
「そんなっ、知らないわよっ、そんな事してどうなってもっ」
 茜が必死の剣幕で俺に向かって言う。
 それはそうだろう、トイレに行かさず縄をほどかないという事は、つまりはここでさせるという事だ。
 俺はそんな茜に、ふんと鼻で笑うような返事をする。
「ここは俺の家だ、お前は心配しなくていい」
 俺がとことん本気だというのがわかったようだ、茜の拒絶がいよいよ激しくなる。
「いやーっ、だめ、やめてっ  ―――先生っ、先生っ、お願い止めさせてっ、先生っ」
 そして茜は、今度は景子に対して哀願するようになった。
 景子は、ただその場で、四つん這いのまま、茜を見上げている。
 馬鹿なヤツだ、あれほど茜を嬲っている間、俺の言いつけ通りじっとしていた景子に対してまだ助けを求めるつもりか。
 俺は冷たい笑いを浮かべる、そして手に持っていたイチジク浣腸を景子の足元に転がした。
「景子、お前がしてやれ」
 俺のこの言葉を聞いて、茜が信じられないという表情をする。
 景子は俺のころがしたイチジク浣腸を見る。
 その姿を見て、茜が涙を流す。
「先生…嘘ですよね、そんな事しないですよね」
 だが、景子の返事は、茜のそんな懇願など耳にも入っていないといったようなものだった。
「わかりました、ご主人様」
 茜に情けをかけるどころか、どことなく嬉々とした表情でイチジク浣腸を手に取る景子。
 まあ、景子の気持ちもわかる、今までずっと除け者にされてきた事に、やっと参加できるようになったのだから。
 景子は、そのまま四つん這いで茜の縛られているソファーのそばに歩いていった。
「先生っ、お願い目を覚ましてっ、こんなヤツのいいなりにならないでっ」
 景子は、ソファーの下にくると、そのまま膝を付いたまま、上体を起こす、そして優しい顔をして、茜の顔を覗きこんだ。
「先生……?」
 茜の声のトーンがやや落ち着いたものになる、ひょっとしたら、景子が自分の事を助けてくれるかも、と思ったのかもしれない。
 だが次の瞬間。
「ひあっ」
 何の前触れもなく、景子の中指が、先ほどからの攻めですっかり緩んでいた茜のアナルに埋めこまれた。
 茜が身体をビクンと震わせる。
 景子は表情を変えず、茜を覗きこんでいる。
「せ…先生…」
 茜の身体が再び赤く火照り始めた、今まで浣腸に対する恐怖心で忘れていた、アナルに対する爆発的な性欲が、直接触れられた事による刺激で再燃してきたようだ。
 細かい喘ぎごえを上げる茜、そんな茜に対して、景子が言った。
「北条さん…ご主人様は私の一番大切な人なの、私のすべての人なの……その人を『こんなヤツ』なんて呼んだら、私は許さないから」
 そして、景子は激しく指をピストンし始めた。
「ああっ、やだ、先生っ先生っ」
 堰を切ったように茜のヴァギナから愛液が流れ出てくる。
 そしてそれは景子の指と絡まり、ジュブジュブと激しい音を出し始めた。
「やだっ、先生っ、そんな音立てないでっ」
 茜は、襲ってくる快感と羞恥に耐えきれないという感じで、縛られた不自由な体を縮込める。
 そんな茜の頬を、景子が撫でた。
「北条さん…お尻の穴、気持ちいい?」
 景子は優しく茜を見つめる、まるで母親のように。
「やだ……そんな事聞かないで…先生」
 景子の手を振りほどこうと、頭を振る茜、しかし逃がさないように、今度は開いている反対側の頬に、景子は口付けをした。
「あ……」
 茜の顔が赤く染まる。
「怖い?北条さん…」
 景子の茜のアナルでの指の動きは、いつのまにか、ゆっくりしたものに変わっていった。
「でも安心して、わたしもここで感じるの好きだから…」
 まるで、ゆっくりと…直腸全体の壁をなで回すように。
「はあっ……先生も?」
 景子は頷く。
「先生もここで気持ち良くなるの……?」
 茜の顔は、どこか陶酔したようなものになっていった。
「そうよ…あなただけじゃないわ…だから安心してこの快感に身を委ねて…大丈夫…あなただけじゃない……」
 景子が軽く茜の耳たぶを噛む。
 茜がピクッと身体を震わせた。
 そしてそのまま景子は茜の耳もとで囁く。
「ね…北条さん、気持ちいいでしょ…?」
 茜の目がトロンとした物になる、そして景子に答えた。
「……うん」
 茜の頭の中からは、もうすでに俺の存在など消えているようだ。
 人は誰しも、今までとまったく違う世界に行ってしまうという事は抵抗がある、しかし自分とまったく同じ環境の人間がそこにいたら?
 その抵抗は激減する事になる、自分だけではないと安心する事ができるのだ、しかもそれが自分の身近な人間だったら尚更そういう気分になる。
 景子はそこをうまく突き、茜を落としたのだ。
 もともと、俺は、景子をただの駒使いとして呼んだわけではない、ちゃんとした明確な目的があった。
 茜は俺に対して絶対に屈する事はない、だが逆を言えば、俺以外への人間になら、どうしても我慢できない、というところまで来たら、屈する事ができる
 俺は景子を、茜の精神の逃げ道として使うためにここへ呼んだのだ。
 さて……景子がこれだけ頑張っているんだ、俺も手伝ってやるか、新しく手に入れた能力を試してみるいい機会だ。
 そう俺は心の中でつぶやいて、スッと右腕を上げた。
 茜の額にまだつながったままだった糸が、ふわりと舞い上がる。
 俺が今から使う能力は、元は茜の持っていた能力……感覚干渉。
 ボウと糸が光を放つ、俺は意識を集中して、ある感覚を茜に叩き込んだ。
 そしてその瞬間
「ひああああっ」
 茜が絶叫上げて、大きく身体を震わせた。
 これ以上ないぐらい、茜の白い肌に、荒縄が食い込む。
 プシャッと茜のヴァギナから愛液が噴出し、景子の手を濡らした。
 俺が茜に与えた感覚、それは―――
 今、茜のアナルに埋まっている景子の指、だいたい長さにして5~6cmといったところだろうか。
 俺は、その景子の指が触れている直腸の粘膜部分、その短い間に対し、何百、何千という大量の微小な羽毛で撫で上げるような感覚を与えたのだ。
 これは物理的には絶対に実現する事ができない、しかし、感覚そのものを干渉できるこの能力なら、いとも簡単に行う事ができるのだ。
 茜の悶え方が、激しくなった事に気を良くしたのか、景子の茜のアナルを嬲る指の動きが早くなる。
 そして、俺もそれに合わせるように、俺も感覚の羽毛をざわめかせた。
「だめぇっ、変なの、こんなの信じられないっ」
 茜は首を振って悶える、全身が、まるで桜のように赤く火照っている。
 ふん…もうちょっとサービスしてやるか。
 俺は、卑下た笑いを浮かべて、先ほどから強くしている、茜のアナルの性感を、更に強くした。
 ビクンとまた茜が身体を震わせた。
「ああっ、変になる、変になっちゃうっ」
 茜の、その脂肪のかけらもない、腹の絹のような筋肉が、ビクビクと痙攣しているのがここからでもはっきりとわかる。
 景子がそんな茜の耳元に口を近づけ、囁く。
「ふふ…北条さん、もうイキそうなの?すごい勢いであなたのお尻の穴、わたしの指を締め付けてるわよ」
 あっ、と茜が顔を真っ赤にする。
「先生…っ、そんな事言わないで…」
 茜が唇を噛み締め、弱々しく答える。
「あら、素直じゃないわね、そんな子はちゃんとイカせてあげないわよ」
 そういって景子は指の動きを止める。
 そしてそろそろとゆっくり指を茜のアナルから抜いてしまった。
 俺もそれに合わせ、感覚を茜から取り下げる、もちろん高まった性感はそのままにしておいて。
「いやぁっ、先生、やめないで、このままでほうっておかれたら、私本当におかしくなっちゃう」
 茜が発狂しそうな声を出して景子に哀願する。
 そんな茜を見て、景子が嬉しそうに茜に囁いた。
「じゃあ北条さん、約束して、これから素直になるって」
 景子は指の腹でゆっくりと愛液まみれになっている茜のアナルの表面を撫でまわす。
「あっ…なります、なりますからぁ……先生、お願い……」
 茜は、喉の置くから、震えるようなか細い声を出し、そう言った。
 くすっと景子は笑う。
「じゃあ先生に教えて、あなたはどうしてもらいたいの?」
 クッと景子の指に力が入る。
「あっ……、そ、そこを…」
「そこじゃわからないわ、ちゃんと教えて、北条さん」
 景子は、ほんの指先だけど埋めこませ、そして小さく茜のアナルをこね回す。
「ああっ、そこぉっ、先生が今触ってるところっ」
「だめよ、北条さん、そんな事言うとこうしちゃうから」
 そう言って、景子は茜のアナルから指を離してしまった。
「ああ…そんな……先生ひどい……」
 茜は泣きそうな…いや、もう実際泣きじゃくっている顔でそうつぶやいた。
「ひどいのは北条さんでしょ、約束したじゃない、素直になるって」
 景子の顔は心底楽しそうだ。
「もう1回チャンスをあげるわ、北条さん、あなたは私にどうして欲しいの?」
 景子が、優しく茜の頬をなでてそういった。
 茜は相変わらず、そこで言葉を詰まらせている。
 俺はここで景子をアシストする事にした。
 茜のアナルの性感を、これ以上あげたらそろそろ危険かもしれない、というところまで引き上げた。
「あっ」
 茜の身体がブルッと震える。
 ヴァギナから流れ出るとめどない愛液の量が更に増えた。
 そして茜はその瞳の輝きを、やや朦朧としたものに変え、もう耐えられないといった感じで、景子に向かってつぶやいた。
「せ…せんせぇ……」
 なに?と景子は優しく茜に微笑む。
「…お願いします…私のお尻の穴に…先生の指を挿れて…か、かき回してください……」
 この言葉を聞いて、景子がチラッと俺の方を見た。
 これで茜は景子に対しては落ちた、これ以降景子を絡めた調教がやりやすくなると言うものだ。
 俺は景子に納得したように頷いた。
 景子は嬉しそうに笑うと、再び茜に覆い被さるようにして顔を近づけた。
「先生……お願い…我慢できないの……」
 景子はツッと茜のアナルに左手の中指を触れさす、そうして空いている右手で茜の汗でじっとりと濡れていた、赤茶けた髪をすきあげた。
「先生、じらさないで、これ以上されたら……」
 くすり、と景子が笑う。
 そして次の瞬間、ズブリと中指を一気に根元まで茜のアナルまで埋めこんだ。
「ひああっ」
 茜が大きく身体を跳ねさせた。
 そして、そんな茜をいとおしそうに見ながら、景子はつぶやく。
「北条さん、よくがんばったわね、これはごほうびよ」
 景子はそう言うと、中指に加えて、人差し指も、一気に根元まで茜のアナルに埋めこんだ。
「ひっ、あああっ」
 茜が、縛られて自由のきかない身体を必死にねじらせ、悶えようとする。
「だめよ、北条さん、そんなに動いたらあなたのお尻の穴、切れちゃうでしょ」
 そうしたらご主人様のものを受け入れられないわよ、と景子は小さくつぶやく
「だって、先生…っ、お願い、動かしてっ、そのままじっとしてちゃいやぁっ」
 茜は、縛られながらも、なんとか景子の指から刺激を受けようと、腰を動かそうとする。
 そんな茜をなだめようとしながら、景子は茜に優しく言う。
「じゃあ北条さん、あともうひとつだけわたしと約束して、イキそうになったら『イキます』ってわたしに教えるの」
 ああ…と茜はもどかしげなため息をつく。
「約束します、約束しますから……先生、お願いします」
「ふふ…約束よ、約束破ったらもっとひどい事しちゃうから」
 そういうと、景子は茜のアナルから、抜けるぎりぎりまで指を引き出す。
 そして、そこから勢いをつけて、再び2本の指を、根元まで埋めこんだ。
「あっ、あああっ」
 茜が身体をビクビクと震わせる。
「どうしたの、北条さん、そんなに気持ちいい?」
 根元までに埋めこんだ状態から、今度は細かいピストン運動で茜を攻めたてる。
「でもね、ご主人様にここでセックスしていただくと、比べ物にならないぐらい気持ちいのよ、あなたもしてもらいたいと思わない?」
 茜は、歯を食いしばって、ブルブルと首を横に振る。
 まだ俺に対する抵抗心は消えていないようだ。
 今度は景子は、手首をひねらせ、茜のアナルをねじるようにこねくり回す。
 おそらく中では2本の指をバラバラに動かして、それぞれの指で直腸の壁をしごきたてているんだろう。
「ああっ、だめぇっ、そんな風にされたら私っ」
「イッちゃいそうなの?」
 景子がクスクスと笑いながら、茜のアナルを嬲りつづける。
 しかし、こうやって眺めていても、景子の茜のアナルを嬲る動きはかなり激しい、普通これくらい激しくやられたら切れてもおかしくないのだが。
 いくら俺が性感を高めていても、それ自体が肉体の耐久性そのものに影響を与えるとも考えられない。
 もともと、茜のアナルの柔軟性は景子よりも上だった、という事か。
 茜はもう限界といった感じだ。
「そ、そうです…もう、イキそうなんです……先生…お願いです、イカせてください……」
 茜が涙を流して景子に哀願する。
「じゃあ、イク瞬間はちゃんと言うのよ『イキます』って、大きな声で」
「わっ、わかりました、だからお願いしますっ」
 茜が身体をビクつかせる間隔がだいぶ短くなってきた、たしかにもう限界が近いんだろう。
「ふふ、じゃあこうしてあげる」
 そう言うと、景子は不敵な笑顔を浮かべて、さらに薬指まで茜のアナルにねじ込んだ。
「あぐっ……先生っ、だめっ、そんなの無理っ」
 景子は笑顔を崩さずに茜に言う。
「だめよ、北条さん嘘言っちゃ、指を増やした瞬間、前から流れるいやらしいオツユの量がぐっと増えたわよ」
 景子は、3本の指で、入口付近の一番狭いところを、もみほぐすようにしごいている。
 同時にそこは、アナルの中で一番性感が集中しているところだ。
「ああっ、だめぇっ、そんなふうにされたら……イッちゃう、本当にイッちゃうっ」
「ふふっ、はじめてで、3本も指入れられてイッちゃうだなんて……いやらしいお尻の穴」
 景子は、ここにきて、はじめて茜を突き放すような辱めの言葉を茜にかける。
「いやぁっ、先生、そんな事言わないでっ」
「だめよ、本当の事なんだから、ほら、もう止まらないんでしょ、いいわよ、イッても」
 そう言って景子は、ある程度茜のアナルが3本指に耐えられるまでにほぐれたのがわかったのか、今度はためらい無しに、3本指でのピストンをはじめた。
「うああっ、だめっ、イッちゃう」
 ビクンと茜の身体が大きく震える。
「だめよ北条さん、ちゃんと約束守らないと」
 景子はピストン運動に、さらにひねりを加えた。
「ああっ、先生っ、イキます、イキますっ!」
 縛られた状態で、ぎゅうっと茜の身体が縮こまった。
 そして茜がまさにイこうとするその瞬間。
 やっとこのじらし地獄から抜け出せると茜が思ったであろうその刹那。
 それが今だ終わらない地獄だと言う事を、茜は痛感する事になる。
 タイミングよく景子がその指を引きぬいてしまったのだ。
「ああっ」
 何が起こったのかわからないというような感じの茜。
 茜はその縮こませた体勢のまま、なんとかその余韻だけで絶頂を迎えようと努力する。
 だが、散々俺に同じようなじらし方をされていた景子が、その経験を持って絶妙のタイミングを見計らったんだ、茜が絶頂を迎えられる事は決してできない。
 しばらく茜は、そのイケそうでイケないという状態のまま、身体を細かく震えさせる。
 だが、自分の身体に更なる刺激がないとイケないという事を悟ると、茜はその瞳から大粒の涙をぽろぽろと流した。
「せんせぇ……私、約束守ったよ……どうして…どうしてぇ…っ」
 さすがの景子も、これにはばつの悪そうな顔をする。
 そして景子は茜の前で膝を付き、内腿のあたりに、そっと口付けをした。
「あっ」
 茜がピクンと身体を振るわせる。
 景子はそのまま、茜の腿に舌を這わせ、蛇行するように、茜の局部に舌を近づけていった。
「あっ、せんせい・・・・・・」
 茜が身体を震わせ、甘い声を出す、その声は景子の舌が局部に近づくにつれ、大きくなっていった。
 景子が身体を沈める、そして茜の尻に手をあて、ぐいとアナルを広げた、舌はそこを目指している、という事を茜に伝えるように。
 あ……茜が期待の声を出す。
 だが次の瞬間、景子の舌が、茜のアナルの触れようとした刹那、景子の舌は、半円をかくように茜のアナルをかわして、反対の腿の方へ抜けていってしまった。
「ああっ」
 ブルブルと身体を震わせる茜。
「せんせいやだ……どうして、どうしてそんなにイジワルするの……」
 すると景子は、再び茜のアナルに顔を近づけると、今度は円を書くようにして、舌を尖らせ先ほどと同じように、決してアナルには触れないように、その周りに舌を這わせはじめた。
 そして茜に伝える。
「ごめんなさい、北条さん、私ご主人様に前から言われてたの、あなたをイカせちゃいけないって」
「いやぁっ、せんせいっ、私本当にへんになる、おかしくなっちゃうっ」
 なんとか縛り付けられた身体を必死にばたつかせようともがく茜。
 そんな茜を見て、俺は心の中でつぶやく。
 大丈夫さ茜……お前は絶対に狂わない、いや、狂えないから。
 景子の責めは更に執拗になる、激しくなるが決してアナルには触れようとしない。
 茜のヴァギナからあふれ出た愛液が、景子の鼻先を濡らしている。
 そんな景子に対して、茜は顔を涙でグチャグチャにしながら、もうこれ以上がまんできないといった感じで景子に哀願する。
「お願いです……もう…なんでもいいから…私の…お…お尻の穴に……」
 その言葉を聞くと、景子はふふ、と少し不敵な笑いをする。
「なんでもいいの?北条さん、じゃあ―――」
 そう言って、景子は自分の足元に置いていた物を拾い上げ、そして茜の目の前に突き付ける。
「これでもいいのね」
 それはもちろん、俺が景子に対して、茜にしてやれといったイチジク浣腸だ。
「あ……」
 茜は拒絶の表情をする、だが、徹底的なアナルへのじらしのため、先ほどまでのようながんとしての拒絶はしなかった。
「でもせんせい……それだけは……」
 かすれるような声でつぶやく茜。
 だが、そんな茜の両頬をなでるように両手で挟み、景子は顔を近づける。
「いい、北条さん、冷静になって聞いて」
 俺は心の中で笑う。
 こんな状態で冷静もあったもんじゃない、と。
「私は、ご主人様に『あなたをイカせちゃいけない』って命令をされているの、でもそのあとに『あなたに浣腸をしろ』って命令されたわ」
 茜はぼうっとした顔で景子の言葉を聞いている。
「という事はね、もし、私があなたに浣腸をする時に、その感触であなたがイッちゃっても、それは私がご主人様の命令を忠実に実行した過程での事故に過ぎないの、私がご主人様の命令にそむいたわけじゃないって事になるの」
 茜はよく理解できないという顔をしている。
 景子が茜の耳もとで囁く
「つまりね、北条さん、極端な事を言うと」
 甘く、誘導するように。
「私は、浣腸でならあなたをイカせてもいいの……」
 なかなかメチャクチャで的を射ていない論理だが。
 少なくとも今の状態の茜なら、それを理解する事もできないだろう。
「あ…でも……」
 茜はそれでも落ちようとしない。
 だがそれも、ほつれて、あとほんの少しの一筋だけ残っている木綿糸のような理性でとどめているような物に過ぎない。
 景子が、その木綿糸を切るような、最後のひと押しをする。
 すでにキャップを取ってあるイチジク浣腸、それをすでにこなされて、柔らかく膨らんでいた茜のアナルにほんの少しだけその先端を埋めた。
「あうっ」
 ビクンと大きく身体を震わせる茜。
 そして、景子はその先端で、茜のアナルの淵をなぞるようにして、ゆっくりと円を書き始めた。
 そしてそれが最後だった。
 先ほどのような、常に触れられていての状態のじらしだったら耐えられる事ができた茜だったが、一度、すべての刺激を奪い取られてからの、再度の直接的な刺激によるじらしは、簡単にその理性の糸を断ち切った。
「ああっ、せんせいっ、それでもいいですっ、もっと深く、もっと強くやってくださいっ」
 なにか吹っ切れたように、浣腸での刺激を求めはじめる茜。
 だが景子は、そんな茜を見て、動きを止める、そして不満そうに言った。
「北条さん『それでも』なんて言うなら私は他の事をするわよ、でも、その時はさっき言ったみたいに、あなたをイカす事はできないけど」
「あ、いやっ、ごめんなさい、せんせい」
 クスリ、と景子が笑う。
「じゃあ北条さん、ちゃんとおねだりして、はっきりと、大きな声で言うのよ」
 はい…と、茜は頷く、そして。
「せんせい……私に浣腸してください……浣腸でイカせて下さい……」
 そう、全身を羞恥で真っ赤にさせながら、震える声で景子にいった。
 景子はその言葉を聞くと、今までのうっぷんをはらすかのように、イチジク浣腸の嘴角を茜のアナルに深々と挿し込んだ。
「うあっ」
 そして、まるでディルドーでも扱うかのように、乱暴にそれをピストンさせる。
「ああっ、せんせいっ、もっと、もっと強くっ」
 茜が縛られた状態で身体を悶えさせる。
 景子も、先の細く、短いイチジク浣腸で、それでもできるだけ大きな刺激を与えようと、縦横無尽に浣腸を操る。
「せんせい、イケそう、私、イケそうですっ」
 そう言って、茜が先ほどから何度もしたように、身体を縮込ませる。
 茜は先ほどの景子の言葉を信じて、今度こそイケると思っているに違いない。
 だが、しょせんさっきの景子の言葉は詭弁だ、もともと景子が俺の思惑以外になるように事を進める事なんてない。
 茜が、再び絶頂を迎えようとした瞬間。
 景子は、その手に握っているものを握りつぶし、その内部の液体を茜の直腸内へと注ぎ込んだ。
「あっ」
 茜が震える。
 今までとはまったく違う感覚が、そのアナルを襲ったからだろう。
 ずるりと景子が茜から浣腸を抜く。
 ついに茜に浣腸が施された、先ほどまでの茜だったら、それこそ世界の終わりが来たようにわめききちらしていただろう。
 しかし、とことんアナルの性感を俺の糸の力で増加させられ、景子の愛撫でじらしまくられた茜にとっては、浣腸をされた事よりも、景子による浣腸を使ってのアナルへの刺激が止まってしまった事の方が重要だったようだ。
「いや……せんせい…抜かないで……」
 茜が涙を流して景子に哀願する。
 景子は嬉しそうな顔をして、足元に散らばっている箱から浣腸を取り出し、茜に見せつける。
「ふふ……じゃあ北条さん、おねだりして、もっとしてくださいって」
 景子がそう言うと、茜はうつろな瞳で、ただ、もう景子の言った事を反芻するだけ、のようにつぶやいた。
「せんせいもっと……私に浣腸してください……」
 景子はそれを聞き、2本目のイチジク浣腸を茜のアナルにねじ込む。
 茜が声をあげて、身体を震わせた。
 ……そして、この後は、しばらくこれの繰り返しだった。
 景子が、浣腸の嘴角で茜のアナルを嬲り、イキそうになったら、浣腸液を注入して、それを妨げる。
 そしてイケずに放心している茜を促し、次の浣腸のおねだりをさせる。
 市販のイチジク浣腸は薬剤を薄めてある分だけ効きが遅い、だから最初の内は茜は景子の言うがままになっていた。
 だが、5本目を行っているあたりから、目に見えて茜が苦しみ始めるようになった。
「う……あ、せんせい……痛いの、お腹が痛いの」
 その言葉を聞いて、景子がおかしそうに笑う。
「それはそうでしょ、北条さん、あなたは50ccのイチジク浣腸5本なんて、普通の人は絶対にしないような量をしてるんだから」
 そういって、景子は6本目の箱を開ける。
 ここにきて、ようやく茜は自分の置かれている状況を理解したらしい。
「いやっ、せんせい、もうやめて、これ以上いれないでっ」
 だが、景子は問答無用で浣腸のキャップを取ると、それを茜のアナルに差し込む。
「どうしたの?北条さん、さっきまであんなに『浣腸してください』って私におねだりしてたのに」
 景子は、今度は嘴角を使っての愛撫などをせずに、真っ先に浣腸を潰し、中の液を茜の体内に注ぐ。
「いやぁっ、破裂しちゃう、私のお腹が破裂しちゃう、せんせいやめてぇっ」
 グルグルという茜の腸の蠕動運動の音が、俺の所まで聞こえてくる。
 景子は、そんな茜の声を無視し、最後に残った1つの浣腸の箱をあける。
「さあ、北条さん、これが最後よ、よく味わってね」
 そう言って景子は購入して来たすべての浣腸を、茜に使いきった。
「うう……いやあっ、お願い、せんせい、トイレに行かせてぇ……」
 茜は、襲ってくる便意を必死にこらえ、歯を食いしばってうめくようにつぶやく。
 そんな茜を見て、景子がつぶやく。
「北条さん、トイレを使いたいって……そういう事は、私じゃなくこの家の人に対してお願いするのが正しいんじゃないのかしら?」
 ご主人様とかそういうのに関係なくね、と景子は続けた。
 俺は景子のその言葉を聞くと、なかなか誘導がうまいな、と思いつつ、ソファーから立ち上がった。
「景子、もういい、ご苦労だった」
 俺がそう言うと、景子はまるで緊張の糸が切れたようにふらっとよろける。
 そして、そのままのおぼつかない足取りで俺のそばにくると、倒れるように俺にしがみついてきた。
 そして、恍惚の表情をしながら俺を見つめ、小さくつぶやく、『あとで私にも同じ事をしてください』と。
 景子にしてみれば、俺の与えた条件のもと、自分ならこうされたい、と思いながら茜をずっと攻めていたのかもしれない。
 俺は、景子を今までで自分が座ってたソファーに座らすと、茜の目の前に歩いていき、ガラス製のテーブルを引き寄せ、その上に座った。
 俺は、自分の両膝に肘を付き、頬杖を付いて茜を見下ろす。
 そうして、いかにも余裕を見せつけるような口調で茜に言った。
「茜、便所に行きたいか?なんだったらその縄を外して行かせてやってもいいぜ」
 だが茜は歯を食いしばり、俺をにらみつける。
「嘘……言わないでよ…あなたがそんな簡単に…私のしたい事させてくれるわけないじゃない……」
 グルグルという音が響く、その度に茜は苦しそうな顔をする。
 俺は茜の根の言葉を聞いて、はんと心の中で笑う。
「よくわかってるじゃないか、だからお前に条件をつける、これから俺の言う質問に答えれば、便所に行く事だけは許可してやる事にするよ」
 茜は疑わしそうに俺の事を見上げてる。
「嘘じゃない、俺もここでお前のモンぶちまけられても困るしな」
 俺がそう言うと、茜は顔を真っ赤にして答える。
「じ、じゃあ早く言ってよ、私は何に答えればいいの?」
 急かすように声を張り上げる茜。
 そんな茜に対し、俺はこれ以上ないぐらいに表情を真剣な物へと変える。
 そして茜に問いただした。
「じゃあ、まず1つ聞く、お前はこの糸の能力、どこで手に入れた」
 う…と茜は声を詰ませる。
「俺は、コイツをすぐそこの川で見つけた、その場に捨てられたんだか上流から流れてきたんだか知らないが、まあ言ってしまえばただ拾っただけだ、だが―――」
 俺は眉をひそめる。
「お前は俺とは明らかに違う、この糸の使い方を俺より詳しく知っていた事はともかく、『返せ』なんて自分が正式な持ち主であるような事すら言った」
 茜は肩で息をしている、相当腹痛が激しいんだろう。
「さて、聞かせてもらおうかお前はどうしてこの糸を手に入れたのかを」
 だが、茜は答えない、細かく、激しく息をして、脂汗をかきながら黙っているだけだった。
「こんな時ぐらい素直になればいいものを……」
 自分自身で茜をこういう風にした事など棚に上げて、俺はそう楽しそうにつぶやいて立ちあがった。
 そうして俺は茜に近づく。
「やだ…っ、こないで……っ」
 かすれる声で俺に抵抗する茜。
「そういう風に抵抗するって事は、まだ余裕があるわけだ、じゃあこんな事をしても大丈夫だな」
 そう言って俺は、脂肪のひとかけらも見えない、絹を貼ったような腹にそっと手を添えた。
 その腹がぴくぴくと痙攣しているのが俺の手に伝わってくる。
 そして、それで茜は、俺が何をしようとしているのかを悟ったようだ。
「いやっ、やめてっ、そんな事されたら出ちゃうっ」
 俺は笑いながら茜に言う。
「出ちゃうって何がだよ、はっきり言ってみろ」
 そして俺はそのまま、茜の腹に添えている手に体重をかけた。
「――――っ!」
 身体を硬直させ、声なき声を発する茜。
 身体を動かさないのは、身じろぎする余裕すらないからだろう。
 俺はかけた体重を戻してやる。
 外部からの圧力から開放された茜は大きく息をついた。
「ははっ、苦しかったか?」
 茜は涙目で俺を睨んでいる。
「そうか、すまなかったな、おわびに少し気を紛らわさせてやるよ」
 そう言って、俺は腹に添えていた手をツ、と下の方に下げていく。
「あ……やだ」
 そして、薄く生えていた恥毛を越えて、先ほどからのアナル攻めの影響ですっかりびしょ濡れになっていたヴァギナに触れた。
 ぴくんと茜が身体を震わせる。
 そして俺は、ほんの少し包皮から顔を覗かせていたクリトリスを完全に剥き出しにさせると、それを指の腹で激しく擦り上げた。
「いやあっ」
 俺は、指で円をかくように茜のクリトリスをこすり、嬲りつづける。
「やめてっ、もうやめてぇっ」
 身体を震わせながら声をあげる茜。
 その全身を身悶えさせないのは、そんな動きをすればますます腹痛が酷くなるからだろう。
「どうだ茜、今日は後ろの穴ばっかり攻められたから、こうやって前をやられると新鮮だろう」
 カリ、とほんの軽く、爪先で引っかいた。
「ひいっ、言う、言います、だからこれ以上刺激しないでぇっ」
 最後に俺はギュッと茜のクリトリスをつまむ。
「あうっ」
 ビクンと茜は身体を震わせる。
 そして俺は茜のクリトリスから手を放してやった。
 ……ふん…さっきから景子にやらせっぱなしだったから、俺的には嬲り足らないが……まあとりあえず今のところは茜から話を聞く事が先決だ。
 俺は茜を見下ろして笑う。
 ……どうせこれで終わりにするつもりもないしな
「ふん、それじゃあ聞かせてもらおうか」
 俺はそう言って、茜の愛液で濡れた指先をペロッと舐める。
「あ……」
 それを見た茜が顔を真っ赤にした。
 俺はドサッと再びテーブルに座る。
「さっさとしろよ、またおんなじ事するぞ」
 俺がそう言うと、茜は再び顔色を青くする。
 そして、かすれるような声で話し始めた。
「わ…私のお父さんは、大学教授をしているの……」
「ああ、知ってる、かなり有名だって事もな」
 茜は腹痛が激しいせいか、時々うめき声を混じり合わせ、語る。
「私のお父さんのしている事は……主に…海外遺跡の発掘調査なの……」
 ……ああ、なるほど、そういう事か
 俺はそれだけで大体の事が予想ついた。
 茜は語り続ける、その話を要約するとこうだ。
 俺が手に入れた紫色の石と茜の赤い石(最初は茜の糸も楕円形の石状だったらしい)これは茜の父親が発掘調査していた遺跡のひとつから出土されたものだそうだ。
 もともと研究室内で管理されていた物だったが、たまたま茜の父親が自宅に持ちかえり、研究しようとしたその日、茜がその石の存在に気付いてしまい、石の美しさに惹かれ近づいたところ、突然石が発動し、糸状になり茜の体内に取り込まれたという事だ。
 そして俺の紫の石は、その茜の能力に魅力を感じた茜の父親の研究室の者が、盗み出し持ち去った物らしい。
「言っておくが茜、別に俺はそいつからこの能力を奪ったわけじゃないぞ」
 俺がそう言うと、茜が苦しげに答える。
「知ってる…わ……そこの川の上流の方の峠で…その人が車で…事故死したって……新聞で読んだもの……」
 茜は相当苦しいのか、会話にうめき声が混ざる頻度が多くなってきた。
「ねえ…私の知ってる事は全部言ったわ……もういいでしょう、トイレに行かせて……」
 脂汗にまみれながら、懇願の目で俺を見上げる茜。
 ゴロゴロと茜の腹から響いてくる音の間隔も短くなってきている。
 俺は冷たい笑い顔を浮かべて茜に言った。
「なんだ…他人の家のトイレを借りたいってわりにはずいぶんな態度じゃないか」
 俺は再びテーブルから立ちあがると茜のそばに行く。
 そして先ほどと同じように、茜の腹に手をのせた。
 茜が何か言おうとしたが、そんな暇を与えず、俺はその手に体重をかける。
「――――っ! …ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、トイレにいかせてください……っ」
 ぱくぱくと口を開かせ俺に対する言葉を言いなおす茜。
 ははっ、ずいぶんしおらしい態度をとるじゃないか、俺に屈する事を禁じられているのにそんな風に言うって事は、相当切羽詰っていると言う事なんだな
 俺は茜から手を離す。
 はあっ、と茜が大きく息をはいた。
 そんな茜を見て笑いながら俺は言う。
「ああいいぜ、約束は守る、トイレに行く事だけは許可してやるよ」
 俺は茜の後ろにまわり、茜を拘束しているロープをほどいてやった。
「ううっ…」
 だが、茜はその場から動こうとはしない。
 いや、動こうとしないんじゃない、両足をソファーのそれぞれの肘掛の上に持ち上げられているような窮屈な格好をしているので動けないのだ。
 俺はちっと舌打ちをする。
「こんなところで世話をやかすな」
 俺は茜の両足を降ろしてやると、茜の手を掴み引き上げる。
「ううっ……」
 茜は空いているもう片方の手で腹を押さえ、前かがみで立ちあがった。
「便所はリビングを出てすぐ左手だ、さっさと行ってこい」
 俺は親指でトイレのほうを指差して茜にそう言った。
 茜はフラフラと歩き始める。
 そして、時々苦しそうな顔をしてその場に立ち止まりながら、リビングから出ていった。
 ……さてと
 俺は茜のその姿を見送ると、リビングの端にある収納スペースへと向かう。
 そしてその扉を開くと、その足元に置いてあった工具箱を開いた。
 中を探り、俺はそこから、少し大きめのマイナスドライバーを取り出す。
 そして、俺はそれを手の上でくるくるとまわしながら、茜の後を追いかけていった。
 ……さて…そろそろ茜のヤツも気がついているはずだ、自分の身体がどんな風にされちまっているのかを
 俺はリビングを出ると、左手にあるトイレと浴室への共通の出入り口の扉を開く。
 そして中に入ると、更にその左手にある、トイレの扉を見下ろした。
 ドアノブの上には、使用中である事の証明である赤いマークが出ている。
 そして、他の家はどうかしらないが、うちのトイレの扉には、更にその上に、大きめのマイナスドライバーのねじ山のようなものがついている。
 これはトイレに入った老人や病人が中でなにか起こったとき、かかっている鍵を外から外す事ができるようについている物だ。
 俺はそれにマイナスドライバーを当る、そして力を込めてそれをひねった。
 カチャリ、と音がして鍵が外される、赤いマークが青いマークへと変わった。
 俺はそのままノブをひねり、ドアを押す。
 ……少しぐらい抵抗があると思ったんだが…よっぽど憔悴しきっているようだな
 俺はドアを開けると、その右手側で、うなだれるように便器に座っている茜を見下ろした。
「どうした?茜」
 俺はわざとそう軽い口調で茜に話しかける。
 茜が顔を上げる、その顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。
「どうして……どうしてこんな事までするの?」
 ふんと俺は笑う。
 どうやらちゃんと理解しているようだ、その身体に起こっている事を。
「酷いよ…酷い……」
 茜は再びうつむいて泣き始める。
 そのトイレの中で、茜が排泄した様子はない。
 そう、もう茜は俺の糸の力によって―――
「よく理解しているみたいだな、そうさ茜、お前はもう、俺の許しがないと排泄できない身体になってるのさ」
 俺は、さも楽しいといわんばかりに言葉を続ける。
「さっき俺は、ここに来る事は許したが、排泄する事自体は許可しなかったからな」
 茜はめそめそと泣いている。
「おかしいとは思わなかったのかよ、あれだけ大量の浣腸して、あれだけ腹を押されたり嬲られたりしても、お前は漏らさなかったんだぜ」
 俺はそう言って茜の手首を掴み、強引に立たせる。
「ああ…やめて、痛い」
 そうして俺は、引きずるようにして、茜を連れリビングの方へ向かう。
「やめて…せめてもっとゆっくり連れてってぇ」
 俺はそんな言葉を無視し、グイグイと茜の腕を引っ張っていく。
 そしてリビングにつくと、再び茜を1人用のソファーに座らせた。
 そして先ほどと同じように、両足を開かせ肘掛の上にのせる。
 この体勢はかなり腹を圧迫する、茜が苦しそうなうめき声を上げた。
「う……はぁっ」
 もう縄で縛る必要もない、この体勢から茜は動く事はできないだろう。
 目を閉じて、激しく息をする茜、だがあまりに大きく息を吸いこむと、そのせいで腹部を圧迫する事になってしまうので、小さい息継ぎを高速で何度も繰り返していた。
 俺は先ほどと同じように、茜の目の前でテーブルに腰掛ける。
 そして、そんな茜を見ながら言った。
「なんでこんな事までするかってさっき言ってたな、その質問に答えてやるよ」
 茜がうっすらと目を開ける。
「もちろんなにより俺が徹底的にお前の事を嬲りたいって事なんだが……」
 俺は真剣な顔をして茜を見下ろす。
「それ以上に、これぐらいお前を追い詰めておかないと、今からする質問に答えないだろうと思ったからだよ」
 え?と茜が、小さな声でつぶやく。
「茜、もうひとつ質問する」
 俺は膝に肘をつき、顎の下で手を組む。
 そして真剣な顔をして茜に言った。
「俺と、お前以外、この糸の力を手に入れたヤツはいるのか?」
 俺のこの質問を聞いて、茜の表情が凍りついたのがわかった。
「どうなんだ、いるのか?」
 俺がそう促すと、茜は首を振って答えた。
「いないわよ……そんな子っ」
 ふんと俺は笑う。
「茜、正直に答えれば、ちゃんと排泄させてやるぜ」
 だが、茜の答えは一緒だ。
「いないって……いってるでしょ…」
 茜の腹から響く音は更に大きくなっている。
「まったく…楽しませてくれる――――景子」
 俺は、先ほどからずっとソファーの上でぐったりしていた景子を呼びつける。
 ふらりと立ちあがる景子、俺の方におぼつかない足取りでやってきた。
「なんですか……ご主人様…」
 疲労しきっているのか興奮しきっているのか、景子は熱っぽい目で俺を見る。
「ああ、どうも茜のやつは通じが悪いようなんだ、おまえの舌で出入り口をマッサージしてやってくれ」
 俺の言葉を聞いて、茜の顔がこれ以上無いぐらい青ざめたのがわかった。
「先生だめっ、それだけはだめえっ」
 だが、景子はそんな茜の言葉など耳に入っていないように、はい、と嬉しそうな顔をして答えると、茜の前で膝を付いた。
 最初のころの景子だったら茜を気遣うような事もあったが、もはや今の景子は俺の命令の事しか頭に無いようだ。
「せんせい、お願いっ、今だけはだめぇっ」
 その今の身体の状態でどこからそんな声が出せるのかと疑問になるぐらいの声を張り上げる茜。
 だが、景子はその声にはまったく耳を傾けずに俺の命令を実行する。
 景子は茜のアナルにキスをすると、まず、そのまま大きく舌でその表面を舐め上げた。
「ひゃあっ」
 茜が身体を震わせる。
 そのリアクションは、先ほどと違って、身体を縄で縛られていないため大きい。
「やめて…せんせい、やめて……」
 この茜のセリフを今日は何回聞いただろうと思いつつ、俺は景子に聞く。
「どうだ?景子、茜のそこはどうなってる?」
 景子はうつろな表情で答える。
「すごく……すごくきつく絞まってます……」
 そうか、と俺はつぶやく。
「だったらもっとほぐしてやらないとな、もっと指で広げて、舌を中にねじ込ませるようにやるんだ」
 はい、と景子は返事をして俺の指示した通りの事を実行した。
 茜のアナルを指で広げ、その中心に、尖らせた舌をねじ込ませる景子。
「あ…ぐぅ……」
 茜は、ソファーの肘掛を握り締め、歯を食いしばり、頭を振って耐えている。
 今、茜の身体は、浣腸により誘発された蠕動運動による排泄感、それをほじくり出すかのような勢いで攻めてくる景子の舌、そして、それらからいつまでも開放させない俺の精神干渉における絶対的な括約筋の締めつけと、自分の身体に起こりながらも自分自身で管理できないその部分での三つ巴の攻撃を受けている。
 さすがに、この攻撃はきつかったようだ。
 目に見えて、茜の限界が近い事がわかった。
 茜は今までにないくらい全身をガクガクと震わせ、意味のわからない言葉をうめき声のように出していた。
 …さて…面白い見世物だったがそろそろお開きだな、精神はいくらでも俺の力で強化、修繕できるが、身体の方が壊れちまったらどうしようもない
「景子、もういい」
 俺がそう言うと、景子は茜のアナルから舌を離す。
 つうと景子の唾液が糸を引いた。
 さてと、と俺はテーブルから立ちあがる。
 俺は茜のすぐそばまで近づき、茜を見下ろす。
 茜は俺をうつろな瞳で俺を見上げた。
「茜…さっきの質問だけどな」
 俺がそう言うと、茜の顔がハッと正気を取り戻した物になる。
 俺が先ほどした、他に糸の力を手に入れたやつはいないのかという質問。
「今、気分で散々お前を嬲ったが……本当をいうと、お前の最初のひとことで、全部わかっちまってたんだよ」
 えっ、と茜は声を上げる。
「お前は言ったよな『そんな子いない』って」
 確かに茜はそう言った、茜もその事は覚えているようだ。
「お前を追い詰めた価値ありだ、普段のお前だったら絶対こんなミスはしない」
 俺は笑う。
「まったく『知らない』とでも言えばいくらでも誤魔化しようがあったのに……あんな状態で『いない』なんて言えば、『いる』って言ってるのとおんなじ事じゃねえか」
「そ、それは……」
 茜は反論しようとする、だがそれに続く言葉が出てこないようだ。
 俺は続けて茜に言う。
「それに『そんな子』っていったな、つまりはお前と同じ年か年下って事だ」
 茜の顔がみるみる青くなっていく。
 ふんと俺は笑う。
「お前がそこまでして庇うヤツで、その年齢って考えれば、自然にその人物が絞られるんだよ」
 俺は、足元で座りこんでいる景子に目配せする。
「景子、確か1学年下にコイツの―――」
「はい、妹さんがおられます」
 そう、確かこの茜に負けず劣らずの容姿を持つという噂の―――
 その言葉を聞いたとたん、茜が発狂したような声を上げた。
「だめえっ、お願い、あの子だけは見逃してあげてえっ」
 涙を流し、俺に哀願してくる茜。
「いいから、私にはもうどんな事をしてもいいから、だからあの子だけは見逃してえっ」
 ポロポロと茜の涙が落ちる。
「あの子は、私と違うの、あの子は……箱入りみたいに、ずっと甘やかされて、家族に守られて育ってきたの……こんな目にあわされたら壊れちゃう…」
 俺は茜のこの言葉を聞いて、ほうとつぶやく。
 つまりは正真正銘のお嬢様ってとこか。
 まあ、とりあえずその妹に興味は尽きないが、その前に―――
 俺は身体を屈め、茜の腹に手を置く。
「あっ」
 茜の表情が青ざめる、今、妹の話題のせいで忘れていた便意を思い出したように。
「まずひとつ言っておく、おまえは今『どんな事をしてもいいから』と言った、だが―――」
 俺はその手に体重をかける、今までで一番強く。
「ひぐっ……」
「―――お前にそんな事を言う権利はない、ただ俺がやりたい事をやるだけだ」
 パクパクと開く口から、空気の抜けるような声がする。
 俺がその手を放してやると、その口から大きな息がはかれた。
「それともうひとつ」
 俺は身体を起こし、茜を見下ろす。
「俺に何かモノを頼むときは、ちゃんと『お願いします』っていうんだ」
 すっと俺は茜の頬をなでる、茜はピクンと反応した。
「試しに何かお願いしてみたらどうだ?ひょっとしたらなんかの気まぐれで俺が了承するかもしれないぞ」
 俺は、そう馬鹿にしたような声で茜に言った。
 茜は小さく口を動かす。
「お願いします……妹には手を出さないで下さい……」
 蚊の鳴くような声。
 俺はその言葉を聞いて、卑下た笑いを浮かべて答えた。
「だめだ」
 その、俺のはっきりとした言葉にうなだれる茜。
 両の目から涙がこぼれた。
 ……さて、そろそろ本当に開放させてやるか
 俺は、茜の前で踵を返し、先ほど、マイナスドライバーを取り出した収納のところに歩いていく。
 そしてその扉を開けると、中から青い物体を取り出した。
 俺はそれを2人の方に向かって放り投げる。
「さて茜、よく頑張ったな、おまちかねの時間だ」
 かん、と音を立ててフローリングの上でバウンドする物体。
 それは、青いポリエチレンのバケツだった。
 茜の顔が青ざめているのがここからでもわかる。
 俺は足早に2人のところに戻ると、茜を見下ろした。
「ま…まさかこれにしろっていうの?」
 俺と、バケツを交互に見ながら震える声でそう言う茜。
 だが俺は、そんな茜を見下ろしながら、人をくったような声で答えた。
「いや、いいぜ、別にトイレに行きたければ行ったって」
 え?と茜が声を上げる。
「ただ…俺が排泄を許可した状態で、お前に便所にいくだけの我慢ができるならって話だがな」
「そんな……」
 ふんと俺は笑う。
「俺の事を、わざわざ便所まで連れてって、そこで許可を出してやるような甘いやつだなんて思うなよ」
 俺は震える茜から景子に目を移す。
「景子、ここのお嬢さんは1人じゃトイレにもいけないようなお子様だそうだ、おまえが面倒をみてやれ」
 茜の全身が、火のでそうなほど真っ赤になった。
 景子はくすりと笑って、床に落ちていたバケツを拾い上げる。
「あら、そうなの茜ちゃん、いけない子ね、じゃあお姉さんが面倒みてあげますからね」
 楽しそうに茜に擦り寄っていく景子。
「もうやだ……もうやだぁ……」
 本当に、そう言う事をされるような子供のように泣きじゃくる茜。
 これが学園一の秀才で、気丈に生徒総会で弁論をするような生徒会副会長の姿だと思うと、興奮を隠しきれない。
 景子は、茜の尻にバケツを当て、音を立てている茜の腹を優しく撫でている。
「じゃあ準備はいいか?茜」
 ブンブンと首を振る茜。
 だが、そんな茜を無視して俺は冷たい笑いを浮かべた。
「排泄する事を―――許可する」
 俺がそう言った瞬間。
 茜の喉がヒッと言う音を立てた。
 そして、ぶわっと茜のアナルが膨らんだかと思うと、爆発音とともにすっかり流動状になった排泄物が飛び出してきた。
「いやああっ、見ないで、お願いっ」
 涙声で叫ぶ茜。
 その茜を見つめる俺と景子。
 その後しばらく、茜の泣きじゃくる声と、排泄音はこのリビングから止む事はなかった。

「そんなに辛かったか?」
 俺は先ほどと同じように、テーブルに腰掛けながら、今だめそめそと泣いている茜を見下ろしてそう言った。
 排泄物の処理は景子に行わせた、景子は今、風呂場でバケツを洗っている。
 汚れた個所も、濡れタオルできれいに拭かれ、いまや何も束縛される物のない状態でソファーに座っている茜。
 しかし、それでも茜は泣きつづけていた。
「何とか言ったらどうだ?」
 俺がそう言うと、茜は顔を上げ、キッと俺のほうを睨んだ。
「あたり…まえじゃない…っ」
 そして、そう当り散らすように叫ぶと、また顔を伏せて泣き始めた。
「あんな……恥ずかしい思いしたのは……生まれて初めてよっ」
 ふんと俺は笑う。
「初めてか、良かったじゃないか、貴重な体験して」
 俺が、人を食ったような口調でそう言うと、茜は再び俺の事を睨んだ。
 そして、足元に落ちていた、先ほどまで茜を縛り付けていた縄を手に取ると、それを俺に向けて投げつけてきた。
 俺は、それをまるでハエでも追い払うような動作で叩き落す。
 ……ずいぶん元気じゃないか、まだまだ大丈夫だな
 茜は再び顔を伏せる。
「もうやだ……死にたい……」
 茜がつぶやく。
 ……死なれるのはちょっと勘弁してもらいたいな
「そうか、そんなに辛かったのか、だったらおまえに慈悲を与えてやるよ」
 えっ、と茜がつぶやき、顔をあげる。
「それってどういう―――」
 そして、そこまで言って、茜の表情が凍りついた。
 俺の、中指を茜に向けている、糸を打ち出すような姿が目に入ったからだ。
「や…やだ…、これ以上何をするって言うの」
 俺は、冷たい笑い顔を浮かべ、茜に言う。
「ん?ああ、おまえがあんまりにも辛らいって言うからな、だったらそれを気持ちいいと感じる身体にしてやろうと思ったんだ」
 茜が青ざめる。
「そ、それって……」
 俺は、まるで照準でも絞るように中指を茜の額に向けていく。
 そして笑いながら茜に言った。
「ああ、おまえの思ってるとおりさ、浣腸の嘴角をアナルにねじ込まれる感覚も、薬剤を大量に注入される感覚も、薬剤の刺激で焼けるように腹が痛くなる感覚も、どんなに腹痛がひどくてもずうっと排泄を許されずに我慢しつづける感覚も、その状態でアナルを嬲られる感覚も、排泄自体の感覚も、排泄行為を見られ、恥ずかしいと思うその感覚も、全部が全部、たまらない性的快楽と受け取るような身体にしてやるよ」
 茜が恐怖でがくがくと振るえているのがわかる。
 顔色もどんどん青ざめていっている。
「いやあっ、そんなのいやあっ」
 茜はそう叫んで立ち上がろうとする。
 だが、そこでガクンと膝が折れた。
 別に俺が何かしたわけじゃない、純粋に、これまでの攻めで、茜の足腰が立たなくなっているだけだ。
 茜はそのまま倒れ、俺の膝にすがりつくような格好になる。
「あ……」
 そしてその体勢から、茜が俺を見上げる。
 その目は先ほどからの涙でこれ以上ないぐらいに潤んでいた。
 そして、意を決したように俺に言う。
「お願いします……これ以上私を変な身体にしないでください……」
 再び茜の瞳から涙がこぼれる。
 もはや、自分にはせめてもの願いを俺に言う事ぐらいしかできないという事を悟ったようだ。
 俺は、茜のその姿を見て、茜に向けていた指を外し、そのままその手で特徴的な茜の髪をすいた。
「あ……」
 茜が顔を少し赤らめる。
「そうだな……それじゃあ、これからする最後の質問に、俺の望むような答えができたならやめてやってもいい」
 茜はすがるような目で俺を見る。
「ほんとう?」
 俺は手を茜の髪から頬の方へと移す。
「ああ、ただしちゃんと答えられればだけどな」
 う、と息を呑み、神妙な顔をする茜。
 そんな茜に向かい、俺は最後の質問をした。
「おまえの妹が持つ能力、それはなんだ」
 茜が言葉に詰まったのがわかった。
 そして、目を閉じて言った。
「それは……知らない」
「………」
 俺は茜の答えを聞いて何も返さない、ただ、茜の頬に触れていた手をずらし、中指を立てるようにして、その指を茜の肌を伝わらせながら、額のほうへ移動させていく。
 茜がはっとしたような顔をして目を開ける。
「知らないっ、本当に知らないの!」
 茜はわめき散らすように答える。
「だってあの子、怖いって泣いてたもの、こんな力いらないって泣いてたもの、私だって1回もあの子が力を使ってるところ見た事ないわ!」
 俺は黙って茜の言葉に聞き入る。
 ……これだけ追い詰められた状況なら……嘘をついているという可能性も低いか
 そうか、と俺は答える。
 そしてそのまま、手の動きを止めず、中指を茜の額に向けて動かす。
「本当よっ、嘘なんかついてないわっ」
 茜は必死に俺に食いつく。
 だが、俺は指の動きを止める気はない。
「そうだな…俺も今のおまえの言葉に嘘はないと思っている」
「じゃあなんでっ」
 俺は冷たく笑って茜を見下ろす。
「言っただろう、俺の望む答えだったらやめてやると、嘘はないかもしれないが、俺が望んでいた答えとは程遠かったからな」
 茜が再び涙をこぼす。
「だったら……どんな風に答えても結局はやるって事じゃない……」
 俺はピタリと中指を茜の額の中心に当てる。
 そして、笑いながら茜に言った。
「そうだな」
 次の瞬間、俺はその指を触れた状態から直接糸を茜の額に打ち込んだ。

 茜はぐったりとしてソファーに座っている、もはや泣く気力もないといった感じだ。
 その目はうつろで、最初のころの、その気の強さを反映したような目の輝きはない。
 そんな茜を見下ろしながら俺は言う。
「茜、疲れたか?」
 茜はゆっくりと俺に目を合わせた、まさに憔悴しきっているとはこんな状況を指すんだろう。
「安心しろ、もう少ししたら今日は解放してやる」
 茜はけだるそうに答える。
「まだ……何かするの?」
 抵抗するようなそぶりはない、もう好きにしてくれといった感じなのだろう。
「これで最後だ」
 俺はそう言って、先ほど茜に施した、浣腸が入っていた紙袋を拾い上げる。
 そして、奥まで手を突っ込み、そこにあった、金属の円筒形の缶を取り出した。
 直径4センチ弱、深さは1センチ程度の小さなクスリの缶だ。
 俺はそれを手のひらに乗せ、茜に見せる。
「茜、これがなんだかわかるか?」
 茜はそれを見ると黙って頷く、その顔に特に嫌悪感といったようなものは見られない。
 それはそうだろう、俺が今茜に見せているもの、それはどこの家庭でも見られる、有名なメンソール系の塗り薬なのだから。
「それを……どうするの?」
 俺は黙ってその蓋を開ける、ツンとするメンソールの匂いが鼻についた。
 そして人差し指でやや多めに俺はそれをすくうと、俺は手を伸ばし、それを茜の右の乳首に塗りつけた。
「あ……」
 茜がぴくんと身体を震わせる。
 茜は身じろぎをしたが、拒絶するようなそぶりは見せない、ただその行為をする俺の指先をじっと見ているだけだ。
 俺は、執拗にクスリを塗りこませる。
「ん……はぁ……」
 茜は身をよじらせて切なげな声をあげる。
 俺はクスリのぬめりがなくなり、ある程度抵抗が出てくるまで塗りこませると、その手を離した。
「茜、どんな感じだ?」
 俺は、手についたクスリをふき取り茜に尋ねる。
 茜はそのクスリを塗られた自分の乳首をじっと見ている。
「……スースーする……」
 そして俺の愛撫の余韻に浸っているようなそんな熱っぽい声でそう答えた。
 そうか、と俺は答え立ち上がる。
 そして、先ほど茜が俺に投げつけた縄を拾い上げると、それをもったまま茜の後ろに回り込み、再び茜をソファーに縛り付け始める。
 今度は簡易的に。腕ごと胴体を背もたれに縛り付けるだけだ。
「もう……そんな事しなくたって抵抗しないわよ…」
 茜は弱々しい声で俺に言う。
 俺はそんな茜の後ろから、耳元に向かってささやいた。
「ああ、そうだな、それは理解しているよ」
 そして、冷たい笑い顔を浮かべて続けた。
「でも、それを理解していながらここまでするって事は、そんな状態のおまえでもこうやって縛っておかないと厄介になるような事をするって事だと思わないのか?」
 えっ、とさすがに茜が動揺したような声を出す。
「まあ、身をもってわかればいいさ」
 俺は、ぎゅっと縄を縛ると、茜の前に回りこむ。
 そして、すっと中指を茜に向けるように、右腕を上げた。
 茜がほんのかすかな抵抗をするように、目を閉じて顔をそらす。
 だがそんなものは抵抗にすらなりえない、俺は糸を打ち出し、茜の額へと突き刺した。
「あっ」
 茜がビクンと震える。
 そして、うっすらと目を開け、俺のほうを見た。
「これ以上……何をするのよ」
 不安げな瞳で俺を見上げる茜。
 そんな茜に向かって俺は語りかける。
「なあ茜、おまえはどうしてそんなに尻の穴で感じるような身体になったかわかるか?」
 俺がそう言うと、茜は顔を真っ赤にした。
「そっ、そんなのあなたが糸を使って私の身体をそういう風にしたんじゃないっ」
 俺は笑う。
「ああ、そうだな、だがどういう風なメカニズムでそれをやったか理解しているか?俺はただ単純に漠然とそこで感じるようにうなれ、なんて命令をおまえの頭にしたわけじゃないんだぜ」
 茜は、満足に回転しない頭で考えようとしている。
 俺はふんと鼻を鳴らせ、茜に答えてやる。
「わからないなら教えてやる、まず俺は、おまえに自慰経験がある事を利用して、その時の感覚を無理やり思い出させた」
 こんな風にな、と俺は茜に言って糸の力を使った。
「あっ」
 茜が身体をよじらせる。
 茜のヴァギナからじくじくと愛液が流れてきた。
「そして、その感覚と、アナルの感覚を結合する」
 再び力を使う、今度は茜のアナルがヒクつき始める
「やっ…やめてぇ……っ」
 俺は、今日一日のトレースを行うように力を使っていく。
「具体的に説明すると、おまえはアナルに何か刺激があると、それをオナニーしている時の感覚と同じように感じるような身体になったわけだ」
 その後、その感覚を何倍にするとかオプションがあったわけだが。
「まあ、結局何が言いたいかというと……俺は、おまえの身体に感じる事をまったく別の感覚とつなげ合わせる事ができるんだ」
 俺は、茜のアナルの感覚を強くしていく。
「ああっ、だめえっ」
 汗が噴きだしてきた身体を懸命によじらせる。
「この力は前からあったが、おまえの感覚を干渉する力を手に入れてから、より明確にできるようになった」
 俺は笑いながら茜に言う。
「ほら、もっと強くしてやる、さっき徹底的に景子に嬲られ、イクにイケないという状況をずっと続けられた時と同じ状態にさせてやるよ」
 俺はイメージを細かく与え、あの時の茜の状態そのものを再現してやった。
「や、やめてぇっ」
 茜は涙を流し、縛られていない足で内腿をすり合わせるようにして悶え続ける。
 俺は、茜の身体をその状態にさせると、手を伸ばし、先ほどクスリを塗った茜の乳首を指で摘んだ。
「ひあっ」
 茜の身体がビクンと震える。
「ここで質問だ、もしも、おまえのアナルで今爆発に高まっている性欲と、このクスリの感覚をつなぎ合わせたらどうなると思う?」
 俺は、軽く茜の乳首を嬲りながら茜に言った。
「そんな……そんな事したら…」
 茜が俺から与えられる刺激に耐えながら顔を俺のほうに向ける。
 その顔は青ざめている。
「ああそうだ、わかったようだな、このクスリを塗られた個所ならどこでも今のおまえの尻の穴みたいな状態になっちまうようになるのさ、まあ、安直に言えばこのクスリがおまえにとっての媚薬になっちまうって事だ」
 俺は、茜の乳首から手を離し、クスリの缶を取ると、それを手の上でポンポンと弾ませる。
「やだぁ、そんな身体にしないでぇっ」
 茜は必死に抵抗してくる。
 だが、そんな茜を無視し、俺は茜に語りつづける。
「普通媚薬ってのは、そこの血行を良くして感度を上げたり、またむず痒さを与えたりして性欲をあげるんだが……この方法だと、そんな間接的な経緯を経なくても、直接、問答無用で性欲そのものを引き起こさせる、まあ最強無比の媚薬になると言っても過言じゃないだろうな」
 俺はクスリの缶をパチンとテーブルの上に置いた。
「やだ、やだ、お願いやめてぇっ」
 俺は薄ら笑いを浮かべながら、右手を茜に向けていく。
 ふわりと糸が舞った。
「なんだよ、感謝しろよ、普通だったら俺でしか与えられないような快感を、俺以外の誰でも、自分自身でも味わえるようにしてやろうって言うんだぜ」
 茜はぶんぶんと首を振っている。
「とりあえず味わってみろ、そのクスリを塗られた個所がどんな風になるのかを」
「いやーっ」
 紫の糸が光を放つ。
 そして俺は、宣言通り力を使い、クスリの感覚と、茜の高まった性欲の感覚を結合させた。
「ああっ」
 その瞬間茜が身体をビクンと震わせた。
 そして、縛られている状態でその身体をくの字になるように折り曲げようとする。
「や…だぁ……」
 茜の身体がじわじわと、右側、クスリを塗った胸の方向に傾いていく。
 口を薄くあけて、目がうつろになっていった
「助けてぇ……」
 今まで、ただでさえその身を焦がすようなアナルからの性欲が身体を支配していたのに、その個所が2箇所になったのだ。
 しかもそれはこの縛られている状態では絶対に鎮める事はできない。
 激しく呼吸をし、全身を震わせている茜。
 俺は、そんな茜の様子を見て、ここでようやく本当の意味で茜を解放してやる事にした。
 今まで茜を散々縛り付けていた茜の精神の根本的な戒め。
 俺が茜に与えた『俺に絶対屈しない』というイメージ。
 それをある程度緩めてやる事にした。
 その制約に対して『高まった性欲を静めるための行為は除く』という逃げ道を作ってやるのだ。
 カッと糸が光を放つ、俺は茜の精神にイメージを追加した。
「ああ……」
 茜の顔つきが変わってくる。
 そしてゆっくりと顔を上げて俺を見つめた。
 その目は、今日茜がしていたどんな視線よりも熱っぽく、潤んでいる。
 茜が口をあける。
「お願い……疼きがとまらないの、もうがまんできないの……なんとかして…」
 その身を捩じらせて俺に哀願してくる茜。
 俺はそんな茜を余裕の表情で見下ろしながら茜に言う。
「俺がやってもいいのか?」
 茜はうつろに答える。
「あなたでもいいの、だから……私の胸を触ってぇ…っ」
 俺は茜の言葉を聞いて近寄る、そしてそのまま見下ろすと、足を茜が座っているソファーの肘掛の部分に乗せ顔を近づけた。
 茜はそういう行為をとった俺をじれったさそうに見上げている。
「茜……俺に頼み事をするときのやり方は教えたはずだろ」
 俺がそう言うと茜は、あ、と小さい声をあげる。
 そして、俺にすがるようにつぶやいた。
「お願いします……私の胸を触ってください……」
 俺はそんな茜をあざ笑うように笑う。
 そして、手を伸ばすと茜の決して大きいとはいえない乳房を、下のほうからゆっくりと撫で上げた。
 もちろん、肝心の乳首付近は外すようにして。
「ああっ、違うのっ、そこじゃないのっ」
 茜は全身をねじらせ俺に訴える。
「じゃあどこなんだよ、はっきり言えよ」
「もっと先、私の胸の先っぽを触ってぇっ」
 茜が、もはや恥じらいのかけらもなしに叫んだ。
 俺は茜のその言葉を聞いて、希望通り、クスリを塗られ、疼いて仕方ないであろう右の乳首を、親指と人差し指でキュッと摘む。
 その場所は、とても常識では考えられないほどの熱を持っていた。
「うっあああっ」
 茜が身体をのけぞらせる。
 そして、その状態で固まり、身体をぴくぴくと震わせた。
「あ……もっと……」
 茜がかすれたような声でつぶやく。
「聞こえないな、もっとはっきり言ってくれ」
 俺は、指先を動かさず、固めたまま茜に言う。
「ああっ、もっと、お願いします、私の乳首を強く擦ってください」
 茜は涙を浮かべて俺に懇願する。
 俺は、茜を見下したように笑うと、まるで指先でパチンコ球を転がすようにして、コリコリと茜の乳首を強く嬲った。
「ああっ、はあっ」
 茜の身体がビクンビクンと震える。
 足が閉じられ、ヴァギナは隠されているが、それでもソファーを伝い、床に滴り落ちるほど愛液が流れ出しているのが見えた。
「どうだ茜、気持ちいいか?」
 俺は手の動きを止めずそう言う。
「ああっ、いいです、もっと、もっと強くしてぇっ」
 その言葉を聞いて、俺はゴリゴリと握りつぶすぐらい強く茜の乳首を嬲った。
「うああっ、ああっ、もうっ」
 うつろな目で震える茜、どうやら、この乳首への刺激だけで茜は絶頂を向かえそうだ。
「なんだ茜、イクのか?言っておくが景子とした約束は俺が相手でも有効だぞ、約束を守らなかった場合はこの 手の動きを止めるからな」
 俺は嬲りつづけながら、茜に言った。
「ああっ、わかってます、イクときはイキますって大きな声で言います、だからもっと強くしてくださいっ」
 ……そういえばこれだけ長い間嬲りつづけて茜をイカしてやるのはこれが初めてか
 俺はそんな事を思いながら茜の乳首を摘む手に力を入れる。
 そうしてそのまま強く引っ張った。
 茜の乳房の形が限りなく円錐形に近づく。
「あっ、ああっ、ああーーっ!」
 茜が大きくのけぞり天井を仰いだ。
 緊縛されず、自由になっていた足がピンと伸びる。
 そして、その状態で、茜は全身をガクガクと震えさせながら、絶頂を向かえた。
 ガクンと身体をうなだれさせる茜、その放心状態ともいえる状況でぜいぜいと喉を震わせ呼吸をしていた。
 俺はゆっくりと茜の乳首から手を離す。
 すると茜がうっすらと目を開け、俺を見つめる
 そして、その目から涙を流して俺に訴えた。
「だめぇ…まだ疼きが取れないの……お願いします…もっとしてください」
 身体をくねらせ俺に哀願してくる茜。
 どうやら精神的な制約を取り払ってやった事と、散々嬲りつづけられた末、やっと絶頂を迎えられた事で、完全に茜の理性が吹っ飛んでしまったようだ。
「お願いします……」
 もはや茜は、俺に反抗していた時の事を忘れたように俺に行為をねだってくる。
 だが、俺はそんな茜を無視するように、手を戻し茜の前を離れる。
「いやぁっ、行かないでっ」
 茜が泣いて俺の事を呼ぶ。
 だが俺はそのまま、先ほどまで腰掛けていたテーブルに再び腰をおろした。
 茜は、涙ぐんだ目で俺を見つめている。
 そんな茜に対して俺は言う。
「まあ…せっかく素直になったんだし、おまえの要望を聞いてやってもいいんだが……それだと今度はいつまでたっても俺のほうが満足しないんでな」
 そう言って、俺は、テーブルの端のほうにおいてあったメンソールのクスリを再び手にとる。
 ビクッと茜の身体が震えたのがわかった。
「あ…そんな……私もうそんなの塗られなくったって……」
 ……素直に俺の言う事は聞くってか
 俺はクスリの蓋を開ける。
「でもまあ茜、せっかくなんだ、通常じゃ絶対体験できないような快感を味わってみろよ」
 そう言って、俺はゴソッと、いっきに缶に入っている容量の1/3くらいを人差し指にとった。
 それを見て、茜が目を丸くした。
「やだぁ、そんなに塗られたら、私本当に狂っちゃうっ」
 俺はそのままゆっくり立ち上がり、茜の前にくると中腰になった。
 そして、再び茜の両足をソファーの肘掛に乗せM字型に開き、局部を俺の目の前に丸出しにさせると、そのたっぷりとクスリの乗った指を茜の一番敏感な個所、糸の力により徹底的に感度を高められたアナルへとねじ込ませた。
「あっ、ああーっ」
 茜が絶望的な声をあげる。
 俺はぐちゅぐちゅと音を立てながらクスリを茜のアナルの入り口付近へと塗りこんでいく。
 葵の喉から引きつるような声が漏れてきた。
 俺の目の前でビクビクと茜の腹が痙攣をしている。
 散々嬲られ、浣腸までされて敏感になった茜のアナルはクスリを塗りつけられたその瞬間に、そのクスリの感触を感じ取ったんだろう。
 茜のヴァギナからはまるでそのクスリを洗い流すかのようなほどの量の愛液が流れ出ている。
 俺は、その愛液とクスリとも混ぜ合わせ、薄く延ばすようにしては深くまで染み込むように、そうやってじわりじわりと茜のアナルにクスリを塗っていった。
「いやぁ……へんになっちゃう……」
 茜が喉の奥から蚊の鳴くような声を絞り出す。
 俺は、適当な頃合を見計らうと、指を抜き去り、もう一度缶を手にとると、今度は中指に残り全部のクスリをすくい取った。
 そして茜の前で中腰になると、再びアナルに指をねじ込む。
「あ…ううう……」
 先ほどは入り口付近だったが、今度は指を根元まで挿入して、極力奥のほうにクスリを塗り込むようにしていく。
「だめえ…そんな奥のほうに塗られたらぁ……取れなくなっちゃう……」
 拒否、というよりはやるせないような声をあげる茜。
 どうやら茜の身体はクスリの効力に、だいぶ侵食されているようだ。
 俺は、先ほど入り口付近で塗りきれずに、そこで余っていた分も奥のほうに押し込み、直腸全体にまわりきるように薬を擦り込んでいく。
「あっ…くぅ……」
 甘い声を出す茜。
 クスリを塗りこむ、というのはいわば愛撫行為と一緒だ、強力な媚薬を塗られたところを愛撫されて茜はだいぶ感じているんだろう、茜のアナルがぎゅうぎゅうと俺の指を絞めつけてくる。
「はあっ……」
 茜が身体を捩じらせて悶える、どうやらもう、クスリの事は完全に忘れ、湧き出すように性欲が高まってくるその個所を嬲られ続ける感触に溺れているようだ。
 俺は茜がそんな状態にまでなった事を確認すると、冷たく笑う。
そして塗りこむ行為を止めると、そのまま指を抜いてしまった。
 指はずるりと音を立て、クスリと茜の愛液と腸液で糸を引く。
「ああっ、いやっ、抜かないでえっ」
 茜が必死の形相で俺に懇願してくる。
 だが、俺はわざと茜に余裕を見せつけるように、テーブルに座るとその指をタオルで丁寧に拭き、茜を見下ろした。
「あっ……あっ……」
 茜は、ぴくんぴくんと身体を震えさせ、すがるような目で俺を見ている。
 俺は、その状態のまま、茜が俺に何か言ってくるのを待った。
 こうしている間にも、茜のアナルに塗られたクスリはどんどん茜の身体と精神を侵食していく。
 茜の身体の震えが目に見えて大きくなってきた。
 そしてその状態から茜はもう耐えられないといった感じで口を開いた。
「お願いします……もっと…私のお尻の穴をいじってください……」
 俺は黙って茜の言葉の続きを聞く。
「いいですから…もうどんな事でもいいですから……あなたが思いつく限りの酷い事を私のお尻の穴にしてください……」
 茜が、胴体ごと縛られた腕を必死に下に伸ばす。
 そして、それがかすかに臀部に届くようになると、自分からアナルを広げた。
「お…お願いしますっ、もっと私のお尻の穴をいじめてえっ!」
 茜が涙を流し俺に言った。
 俺はその茜の言葉を聞くと、ゆらりと立ち上がる。
「何でもいいのか?」
 茜に近づき、見下ろしながら俺は言う。
「ああ……いいです、何でもいいですから、私のお尻の穴にしてください」
 茜の声はすっかり涙声になっている。
「そうか、じゃあ、おまえのアナルにこれをぶち込んでやるよ」
 俺はそういって、ズボンのファスナーを下ろし、すっかり威きりだった怒張を取り出した。
 それを見た茜が目を丸くする。
「あ……そんな太いの…」
 ふんと俺は鼻をならす。
「いやか、いやだったらいいぞ、おまえをそのままにして終わりにするだけだ」
 俺がそう言うと、茜がブンブンと首を振った。
「いやじゃないです、いやじゃありませんから……あなたのその太いモノを、私のお尻に挿れてください」
 茜が涙を流してそう言ってくる。
 俺はその言葉を聞くと、自分のペニスを握り締め、茜の目の前で両の膝を床につく。
 茜がソファーに縛り付けられているので、こうすると、ちょうど俺のペニスの位置と茜の股間の位置が合う。
 俺は、握り締めたペニスを茜に近づけ、その先端を茜のアナルに触れさせた。
 茜のアナルからは、ただれるような熱さが俺の亀頭に伝わってきた。
「ああっ、挿れてっ、あなたのその太いオチンチンを、私のお尻の穴の奥まで挿れて、かきまわしてえっ」
 茜はたまりかねたようにそう叫んで身をよじらせた。
「ああ、わかった、おまえのお願いどおりにしてやるよ」
 俺はそう言うと両手でしっかりと茜の腰をつかむ。
 そして力強く腰を押し出した。
「あっ、ああーっ」
 茜が身体をビクンビクンと痙攣させる。
 どうやら、俺の亀頭の一番太いところが茜のアナルにもぐりこんだだけで、茜は到達してしまったようだ。
「う…あ……」
 茜は涎をたらしながら、潤んだ目で俺を見つめている。
「はっ、なんだ茜、これっぽっちでイッちまってたらとてもじゃないが最後までもたないぞ」
 俺はそう言って再び茜の腰をつかむ手に力を入れる、そしてペニスを奥のほうまで静めさせようとした。
「ああっ、まって、最後にひとつだけ、私のお願いを聞いてぇっ」
 だが、茜がそう言って俺の行為を制した。
 俺は動きを止める。
「なんだ、言ってみろ」
 俺は茜を促す。
「お願い、この縄だけは外してっ」
「縄を?」
 俺は怪訝な顔をして茜を見る。
「いいでしょ…っ、どうせ私はもうこの後まともに物事なんて考えられなくなるんだから……それぐらい許して…」
 茜は涙を流してそう言った。
 俺はそんな茜を見てふんと笑う。
「まあ、いいだろう、どうせこの状態になれば縛っていようといなかろうと関係ないからな」
 俺はそう言うと、茜の身体を縛っていた縄をずらすようにしてほどいてやった。
 そして、その身体が自由になると、茜は何を思ったか、その上体を起こし、俺にしがみついてきた。
 いや、抱きついてきたといってもいい。
「は、なんだ茜、こんな事がしたかったのか?」
 俺がそうからかうように言うと、茜が涙声で答えた。
「だって……どんな風にだって、どんな人が相手だって、私にとっては初めてなんだもん、これくらいいいでしょう……っ」
 茜が俺にしがみついている力が強くなる。
 おそらくその顔は悔し涙で濡れているに違いない。
 俺はその茜の両方の足を抱えると、そのまま立ち上がった。
「あっ」
 茜のアナルに埋まっている俺のペニスがほんの少しめり込み、茜が悶えた。
 俺はそのまま2、3歩後退すると、そのまま勢いをつけてテーブルの上にどんと座る。
 その勢いで俺のペニスがいっきに茜のアナルに根元まで沈み込んだ。
「ひっ、ああーーっ」
 茜が身体をビクンと震わせる。
 俺の肩に茜の爪が食い込み、茜はそのまま身体を大きくのけぞらせた。
 ぎゅうっと茜のアナルが俺のペニスを締め上げる。
 どうやらその衝撃で茜はまた絶頂に達してしまったようだ。
 茜はぴくぴくと身体を細かく震えさせている。
 だが、俺はそんな茜を無視し、休みを与えずその座位の格好のまま、茜の腿の部分を掴み、身体を引き上げさせる。
 ズルズルと俺のペニスが茜のアナルから抜け出てきた。
「ひあっ、ひあっ」
 茜がまた俺の身体を強く抱きしめてくる。
 俺はそんな茜の身体を、再び落とす。
 そして、今度はそれにあわせて、自分自ら腰を突き上げた。
「ああっ、すごいいっ」
 茜の身体がブルブルと震える。
 やがて、そのうち茜のほうから激しく腰を使うようになってきた。
「お願い、もっと、もっと激しくしてぇっ」
 4、5回ピストンするたびに、茜のアナルが強く収縮し、俺のペニスを絞り上げるようにして絶頂を迎えている。
 結局この後、茜は俺が1回射精を迎える毎に、軽く二桁に達するだけの絶頂を迎えつづけた。

 ばさり、と俺は頭からバスタオルをかぶる。
 そして、そのままの濡れた姿でソファーに座り、俺はシャワーを浴びて火照った身体を冷ました。
 視界の端には、ぐったりとソファーに横たわり死んだように眠っている茜に、景子が毛布をかけてやっている姿が見える。
 ぽたり、ぽたりと髪から垂れる水滴が膝に落ちた。
 目の前に置いてある、景子が用意した、グラスに入ったブランデーに口をつける。
 そんな状態で、俺は先ほどからずっと頭の奥に引っかかっていたある事について考えていた。
 俺がずっと考えていた事、それは―――
 違和感。
 これは、俺が茜に、茜の妹の事を聞き出してからずっと感じていたもの―――
 だが、その違和感の正体を調べるには、それ以前のその違和感が出るための前提から考えなければならない。
 その前提。
 それは、俺と茜、そしてその茜の妹が手に入れたこの糸、そのものについて―――
 茜はこの糸は茜の父親が発掘調査している遺跡から出土したものだと言った。
 だがとりあえずそれはいい、確かに一番の謎ではあるかもしれないが、現時点では置いておいても問題ない事だ。
 問題は、なぜ茜と…その妹、そして俺がこの力を手に入れたかという事。
 俺や茜の手に渡る前に、この糸(石)は散々他人の手に渡って来たはずだ、特に俺が手に入れたこの糸などは、その能力に魅せられた者が略奪行為まで行ったというのに。
 なのになぜその中から俺や茜がこの力を手に入れる事になったんだろうか……。
 一番単純に考えられる理由は時間。
 たまたまこの糸が出土されてから活動をはじめるその時間に、茜や俺が居合わせた、それだけの事。
 ……しかし、そうなると疑問が残る、茜が糸を取り込んだ時期と、俺がこの糸を取り込んだ時期にかなりの差があるという事だ
 やはり、そう考えると、一番妥当なのは………
 この糸は、自らの意思で力を与える人間を選別している―――
 俺は頭にかけていたバスタオルを剥ぎ取る。
 だが……俺はこの糸から何かしらの意思が伝わってくる事を感じた事もなければ、この糸に操られているような感覚もない。
 だとしたら……ただ単に、糸は自分の能力を一番有効に使ってくれるような人間を選んで、その人間に力を与えているだけなのかもしれない。
 そう考えれば確かにある程度は説明がつく。
 ―――そして……それを前提とすると感じる茜の妹の違和感。
 茜は言った、妹は、この糸の力を怖いと言って泣いていたと。
 決して糸の能力を使わなかったと。
 ここに……俺はこれ以上ない違和感を感じている……
 力の持ち主を選ぶ糸。
 そして、その糸の能力を怖いと怯え、泣く茜の妹―――
 カチカチと時計の時を刻む音が響く。
 カランとグラスの氷が音を立てた。

 そんなやつを……糸が宿主に……選ぶ―――
 ―――か?

 早朝――――
 朝もやが、うっすらと地面を漂うそんな時刻。
 1人の少女が学園にたたずんでいる。
 場所は特別教室、音楽室。
 静寂な朝、防音処理がされているこの場所では、そのわずかな音すら吸い込まれ、耳が痛くなるよう静けさになる。
 少女が歩き出す。
 腰まで伸びたつややかな黒髪が朝焼けの光を反射した。
 少女は音楽室に装備されているグランドピアノの前に来ると、黒いシートを剥ぎ取り、馴れた手つきでそれをたたんだ。
 そして、ブレザーのポケットから鍵を取り出すと、ピアノを開け、そこにあった鍵盤保護の赤いシートも取り去る。
 少女は椅子に座り、ポンと2、3回、調律を確かめるように鍵盤を叩く。
 そして一呼吸すると、譜面も無しに曲を奏ではじめた。
 優雅で、穏やかなピアノの調べが音楽室に流れる。
 少女の細く、しなやかな白い指が、流れるように鍵盤の上で踊った。
 やがて、そのピアノの調べに惹かれたのか、数匹の野鳥が、窓の外、ベランダの手すりにとまる。
 少女の演奏は、徐々に熱がこもってくる、美しい黒髪が、少女の動きにあわせて揺れ動いた。
 そして、その動きと同調するように。
 少女の周りで空気が歪んだ。
 それは……青いオーラ。
 おそらく、普通の人間では絶対に現れない、なにか特別な力を持ったような青いベール、それが少女の身体を包んでいる。
『バンッ』
 突然少女が、曲の流れを寸断するように、激しく両手を鍵盤に叩きつけた。
 ベランダに止まっていた鳥達が、驚いたようにその場を飛び立つ。
『―――……』
 ピアノの音の余韻が、消えきらずに音楽室内に流れ続ける。
 そして、その音の影で、ほんの少し、確認できるかできないかぐらいの小さな笑い声が聞こえた。
「そう……茜ちゃん捕まっちゃったんだ」
 少女は鍵盤から手を放す。
「でも安心してね」
 ポンと軽く鍵盤を叩く、その顔はどこか楽しげだ。
「わたしが絶対助け出してあげるから」

 朝、始業チャイム鳴る直前の教室。
 昼休みと並んで、1日の中で一番教室内が激しくなる時間だ。
 TV番組がどうだとか、宿題がどうだとか。
 昨日の放課後から今日この時間までの溜まった話題を、すべての人間が語り合っている。
 俺はそんな教室の中で、喧騒を避けるように、1人で黙々と1時限目の準備をする。
 基本的に、極端なほど人との接触を避けるような態度はとらないが、特に理由がない限り、自分から話しかけようという事はしない。
 だが、今日はそう言うわけにもいかなかったようだ。
「おーい、御影」
 そう声がしたかと思うと、俺の机の前にクラスメイトが立ち、俺を見下ろした。
「なんだ?」
 俺はそいつを見上げる。
 比較的に誰にも愛想がいいやつで、こんな俺にでも時々話しかけてくるやつだ。
「客だぞ、お前に」
 そいつは親指を教室の外に向けてそう言った。
「客?こんな中途半端な時間に?」
「ああ」
「誰」
 俺がそう言うと、そいつはにやけた顔をした。
「女だ女、お前に告白しに来たんじゃねえのかぁ?」
 そいつはバンバンと俺の肩を叩く。
「こんな中途半端な時間にそれもないだろ」
 俺はあきれた顔をしてそいつに言い返す。
「いやっ、本当はもっと早くこようとしたんだ、でもきっと言うに言い出せずこんな時間になってしまったんだっ」
 そいつは自分自身を抱くようにして「いやいや」と身体を振る。
「気持ちが悪いから止めてくれ」
 俺がスパッと顔色ひとつ変えずそう言うと、そいつはちぇっ、とつぶやいてその動作を止めた。
 俺は呆れ顔でそいつを見るが、そいつは何もこたえていないようだ。
 そして、空中の何もないところを見てつぶやいた。
「あー、でも告白か~、俺もあんな子に言われたいな~『先輩、あなたの事が好きでした』って―――」
 ……先輩?
 俺は眉をひそめてそいつに聞く。
「下級生なのか?」
 ん?とそいつは俺を見下ろす。
「ああ」
 そいつが頷く、そして身悶えるようにして言った。
「いや~俺、あんな可愛い子が彼女になってくれたら死んでもいいや、ほらお前も知ってるだろ、1学年下の、すげえ可愛くて有名な北条―――」
『バンッ』
 俺は机を叩き、立ち上がった。
 突然の俺の行動に、そいつだけでなく、俺の周りにいた人間も何ごとかと俺の方を見る。
「な…なんだよ」
 ちょっと引くような態度でそいつが俺を見た。
「あ…いや…、こんな時間に下級生が訪ねてくるなんてよっぽどの事だろうから気合入れただけさ」
 そいつの顔が再びにやける。
「だから言っただろう、告白だって」
 そう言って肘鉄砲が俺の胸に当る。
「ったくいいかげんにしろ」
 俺はそいつを払いのける。
「待たせちゃ悪いからもういくぞ」
 俺はそういって、制服の埃を払うそぶりを見せる。
「おう、わかった、しかしお前何気にもてるよな~、あんまり目立たないくせに」
 俺はちょっと不敵な顔をわざとする。
「ルックスじゃないか?」
 うあ…とそいつが絶句する。
「ちくしょー、しれっとそんな事いやがって、でもお前そんなキャラクターだったっけか?」
 俺は笑って答える。
「今まで猫被ってただけかもな」
「ちぇっ、さっさと行け」
 そいつはつまらなそうに言った。
「ああ、ありがとな」
 俺はポンとそいつの肩を叩く。
「くそう、もてるくせに彼女もいなくて……ホモ説をクラス中に流してやる」
 俺は苦笑いする。
「勘弁してくれ、あんまり興味ないだけさ」
 ……普通の男女の恋愛とかにはな
「さてと」
 俺は閉まっている教室のドアを見る。
 あの向こうに、次の標的として狩ろうとしていた茜の妹がいる。
 まさか向こう側から接触して来るとはな。
 意識したとたん、あの、ピリピリとした感覚が脳を刺激した。
 同じ……糸の力を持つ者を感じる能力。
 それじゃあさっそくその面、拝ませてもらうとするか。
 俺はドアに向かって歩き始めた。

 廊下の人の往来は激しい。
 それはそうだろう、ほとんどの生徒は始業チャイムが始まる直前に教室に飛び込んでくるのだから。
 そんなところに俺を呼び出して何をするって言うんだ。
 単純に何も考えてないのか?
 それとも……
 ふんと俺は心の中で笑う。
 お互いが手を出せないような場所で様子見でもするって事か?
 やはり茜が言っていたような女じゃないのかもしれないな。
 俺はそんな事を思いながら、ドアをガラッと開ける。
 開けた瞬間、ピンと空気が張り詰めたのがわかった。
 だが、俺はそんな感覚を無視するように、そのままの態度でゆっくりとドアを閉める。
 今まで聞こえていた教室内のざわめきが、まるで別世界のようなものに感じられた。
 そして、俺は廊下の真ん中まで歩いていく。
 俺の目当ての人物は、廊下の反対側で壁によりかかって、どこか……待ち遠しいような、そんなそぶりで俺の事を待っていた。
 廊下を行きかう同学年の男どもが、通りすがりに必ずそいつの事を見ている。
 確かにそうせざるえないほどのルックスをそいつは持っていた。
 茜の人間味あふれる美とはまた違う……どこか人間離れした、非の打ち所がない、神話の中に出て来る少女のような美しさ。
 特にその透き通るような黒髪が男の目をひく。
 俺は、そいつの目の前で立ち止まる、そしてその人物、茜の妹に話しかけた。
「何か俺に用かい?北条さん」
 そいつは、俺の事をみると、ふふっと微笑む。
 そして、身体を起こすと、軽くスカートを手ではたいた。
「初めまして、御影先輩、北条……葵といいます」
 どことなく幼い笑い顔だ、この顔で笑いかけられたら、男は誰でも転ぶかもしれない。
 もっともその範疇に俺が入るとは限らないが。
「で、なんだい?クラスにキミが俺に告白しにきたなんてほざいてるヤツがいるんだど」
 俺が苦笑交じりにそういうと、葵が一瞬きょとんとした顔をする。
 そしてすぐにくすりと笑う。
「そうですね、それでもよかったかもしれませんね、先輩結構……ううん、かなり私の好みですよ」
「そうか、ありがとよ」
 俺は、苦笑いのまま答える。
 しかし……
 まあ、さっきからよくコロコロ笑ってるが……
 俺は、苦笑いをやめて、葵を見据える。
 葵は相変わらず笑っている、だが―――
 ……目が、笑ってねえよ
 俺はそのままの視線で葵を見つづけた。
 だが葵はそんな事まったくこたえないといった感じで、マイペースに俺に言う。
「それでは本題にいってよろしいですか?」
「ああ……」
 ピリッっと緊張が走る。
 握っている手のひらにじっとりと汗をかいているのが自覚できた。
 鼓動も早くなっている。
 俺がこんな女に気圧されているのか?
 いや……
 俺は拳を強く握り締める。
 こんな女だからか……
「放課後…音楽室でお待ちしています…」
 つ、と背中に冷たい汗が流れたのがわかった。
 相変わらず崩れない葵の笑顔。
 だが、その作った笑い顔の向こうの瞳は、確実に俺を貫いている。
「……わかった」
 俺は抑制のない声でそう答えた。
「ふふっ、じゃあお願いしますね、先輩は女性を待たせるような人じゃないと信じてます」
 そう言うと、葵は踵を返す。
 ふわりと制服のスカートが軽く舞った
「それでは私は教室に戻ります、遅刻しちゃいますから」
 そして、小走りにその場を駆け出していく。
 その走る姿もどこか子供っぽくて、可愛げだ。
 そんな、葵の後姿に向かって、俺は冷たい笑いを浮かべてつぶやいた。
「もうすぐ……茜にあわせてやるよ……」
 ピタッと葵の足が止まる、そしてその場に、俺に背を向ける形で立ち止まった。
 俺と、葵の間に、今までにないぐらいの緊張が走る。
「こんな、まどろっこしい事しなくても、いつでも会わせてやるぜ、茜と一緒に、俺の奴隷としてな」
 葵はピクリとも動かない、その場でじっとしている。
 そして……今までと違った、感情の読み取れない声で俺に言った。
「そうだ先輩……姉の事は心配しなくいていいですよ」
 ピクッと俺は反応する。
「私がお母さんをうまく言いくるめて、多少なら家に帰ってこなくても騒がないようにしておきましたから」
「………」
「あなたは、渡しませんから……警察とかそういった無粋なものとか……そして―――」
 自らの手で粛清するとでも言いたいのか。
 ふん、と俺は心の中で笑う。
 今のお前のセリフ、どんな顔で言っているのか、是非拝んでみたいものだな。
「まあいいぜ、お前の呼出の場所には言ってやるよ」
 俺はわざと軽い口調で言ってやる。
 だが、葵の方も、また先ほどのような、笑い声交じりで俺に返してきた。
「ふふ…ありがとうございます、それでは失礼します」
 そして、葵はその場を立ち去った。
 俺はその場に立ち尽くし、小さくなっていく葵の後姿を見つめる。
 やがて、廊下に人は少なくなり、予鈴のチャイムが響いた。
 だが、俺は教室には入らずに、その場でUターンをすると、葵とは反対の方に歩き始める。
 ……こんなんじゃ教室に入れねぇよ
 全身の緊張が取れない。
 ……顔が元に戻んねぇじゃねえか
 俺自身、今どんな顔をしているのかわからない。
 あいつに対する敵意丸出しの顔か、この緊張感に酔っている顔か、あいつの幼げな顔を恐怖に引きつらせる事への期待の笑みか……
 どちらにしても負の感情丸出しの顔に間違いない。
 茜の言葉がよみがえる
 箱入りだ?甘やかされただ?ふざけた事言ってんじゃねぇぞ
 ドンと俺は廊下の壁を殴りつけた。
 あいつは―――
 じわりと俺の拳に痛みが広がっていく。
 ―――俺と同じ種類の人間だ

 青く、果てのない空。
 その空を、薄い雲が雄大に流れていく。
 澄んだ空気を通過した太陽光線が、この学園の屋上を照らし、白いコンクリート地がそれを反射していた。
 風は体感できるほど吹いてはいない。
 しかし、この冬の寒空の下では、無風の下、どんなに豊かな日の光を浴びようとも、身震いするような寒さには変わりはなかった。
 カチャリ、と音がする。
 屋上のドアが開き、1人の女が現れた。
 その女は、ドアを閉めると、そのまま視線を下ろす。
 そして、既にそこにいた、地面に大の字で寝転がっている先客に対してこうつぶやいた。
「ご主人様、こんなところでなにしてるんですか?風邪をひきますよ」
 ほんの少しの、空白の時間が流れる、そして小さな返事が聞こえた。
「景子……ここでは俺の事をご主人様と呼ぶ事を許可した覚えはない」
 景子はきょとんとした顔をする、だがすぐに柔らかい笑顔を浮かべると、すぐそばに、足を崩すようにして座った。
「ご主人様だって、わたしの事を『景子』って呼び捨てにしています」
 ふん、とすねるように、大の字から横向きに体勢を変える。
 景子が手を伸ばし、髪の毛に触れる。
「勝手に人の身体に触るな」
 だが、景子はそんな言葉に引き下がらず、笑顔を浮かべていとおしそうに髪の毛をすく。
「ご主人様、いいんですか?授業に出なくて」
 成績が落ちますよ、と景子は続ける。
「それを言ったら、お前の方が深刻だろう」
 景子はくすりと笑う。
「わたしは空き時間です」
 この学園の、一般科目の教師に空き時間など存在するのかは謎だが、この際特に追求する事もないだろう。
再び体勢を、横向きから大の字へと変える。
 すると、景子が更に近寄って、頭を膝の上に乗せた。
 そして、額に軽く手を置くと、その場の雰囲気に浸るようにして、視線を、屋上から見える景色に移した。
 風景を眺めている景子の眼鏡の淵が、太陽の光を反射する。
「景子……」
 景子が微笑んで見下ろす、そして、なんですか、とつぶやいた。
 屈託のない笑顔、まるで今この場での会話が最高の幸せだといわんばかりの。
「もし俺になんかあったら……、お前はもう…好きにしていいぞ」
 景子が優しく髪の毛をすく。
 この言葉にどんな意味が込められているかは景子にはわからない。
 だが、景子は笑って答えた。
「生涯……ご主人様はただ1人と心に決め、一生操を貫き通す、というのでもいいですか?」
 表情のかわらない顔を、そっと景子の手のひらが撫でた。
 緩やかな風が流れる。
 風は冷たい、当面、春の気配を感じる事はできないだろう。
 だが、肌寒い風も、その一瞬だけは寒さを感じる事はなかった。
「勝手にしろ」
 そう、小さくつぶやき、男は静かに目を閉じた。

 放課後の音楽室。
 本来なら、この時間帯は合唱部、管奏楽部なりがこの教室を占領しているはずだ。
 だが、今教室を占拠するのは、2人。
 どのような方法で人払いをしたのかはわからない。
 あいつの能力に関係しているのかもしれない。
 ただ、ここにある真実はひとつだけ。
 今、この場に存在しているのは、俺と―――
 一心不乱にピアノを演奏しつづけている、黒髪の少女だけという事。
 少女の指が鍵盤の上で踊る。
 あの細い身体のどこにこれだけ激しく力強い音色を奏でるだけの力があるのだろうか。
 鍵盤に叩かれたピアノ線が空気を振るわせ、その振動がダイレクトに俺の胸に届く。
 少女の動きは激しかった。
 少女が身体を動かすたびに、細かい汗が舞い、蛍光灯の光を乱反射させている。
 光の中で踊るように演奏する少女の姿は、この世の者とは思えない美しさだった。
 やがて、少女の演奏が終焉を迎える。
 少女の指が、最終楽章の1節を弾き終え、曲が止まった。
 音の余韻がゆっくりと消えてゆく。
 そして、消えてゆく音とは別に、手のひら同士の打ち合う打撃音が音楽室に響いた。
 たいしたものだった、拍手をしてやるだけの価値があった。
 葵は、一呼吸おくと、満足そうに椅子から立ちあがる、そして俺の方を見つめた。
「革命のエチュード……だったか、なかなかいいものを聴かせてもらった」
 俺がそう言うと、葵は嬉しそうに笑う。
「詳しいですね、先輩もこういった曲に造詣が深いんですか?」
 その笑顔は子供のように屈託ない。
「ああ、民放なんかでよく流れてる、沸いては消える泡のような曲なんかに比べればずっと好きだね」
 俺は皮肉を込めてそう言う。
「そうですか?私は好きですよ、泡のように消える儚さって」
 そう言った葵の笑顔に、子供ならではが持つ狂気のような物が混じった。
 その瞬間、茜の身体を、ぼうと青いオーラが包んむ、おそらく、糸を打ち込むポイントを隠すための力。
 一瞬で俺と葵の間の空気が張り詰める。
 ふんと俺は心の中でつぶやく。
「そうか……それじゃあそろそろ始めるか」
 俺も、心の奥底から沸いてきた笑いを、隠す事もせず、顔に出す。
「どっちが、その泡のように儚く消えて行く運命なのかを決める戦いを」
 ずっ、と俺は1歩前に出る。
 葵の能力は今だわからない、だが俺の思い描いた通りに事が進めば、確実に勝てるだけの勝算はあった。
 だが、そんな俺を見て、葵がクスクスと笑う。
「先輩、ひとつ訂正させてもらいます」
 俺は、葵の言葉を聞いて、足の動きを止める。
「『そろそろ始める』じゃないんですよ、『もうとっくに始まってる』んですよ」
 なに?と俺はつぶやく、そして。
 それはどういう―――と葵に問い掛ける瞬間だった。
『バンッ』
 突然大きな音が音楽室に響いた。
 それは、音楽室の扉を開く音。
 俺はハッとなって、扉の方を向いた。
 その場では、ある人物が扉を空けたまま仁王立ちをしている。
 それは俺にとって意外な人物だった。
 なんであいつが―――?
 さすがの俺も理解できなかった。
 俺と葵との戦いの場に突如現れた人物、それは今朝、俺に葵からの呼出しを伝えた俺の同級生だった。
 そいつが、ギロリと俺の事を睨む。
 だが、それはとてつもなく違和感のある行為に感じられた。
 確かにあいつは俺を睨みつけている、しかし、その俺を睨みつけている瞳には、意思の光と言う物がまるで見られない、それはまるで、フランス人形に埋めこまれているガラス細工の瞳の様だった。
 そんなそいつに気を取られ俺は反応が遅れる、そいつが俺に向かって飛び掛ってきた。
 いや……たとえ反応が遅れなくてもかわせたかどうか。
 そいつの動きは、とても人間のものとは思えるものではなかった。
 そいつと俺の間にあった距離、およそ5メートル、だが、そいつはその距離を助走もない、片足のたったひと蹴りの跳躍で、一瞬にしてゼロにしてしまった。
 な―――
 そいつが俺の懐に飛びこんだ瞬間、その風圧で俺の前髪が舞いあがる。
 そして、それと同時に俺は目にする。
 俺の前髪と同じように、ふわりと舞いあがった、そいつの首筋から出ている、意識を極限にまで集中しないと 見れないような、細い、細い青い光を放つ糸を。
 俺の頬を汗が伝う。
 ―――まさか、朝のあの時点からコイツは葵の手の内に落ちていたのか!?
 俺がそう思う間もなく、俺はそいつに左手で胸倉を掴まれる。
 そしてそのまま、片手でだけで高々と身体を持ち上げられてしまった。
 ワイシャツの襟とネクタイがギリギリと俺の首を締め上げる。
「ぐ…あ……」
 やはり、どう考えてもコイツの動きは人間離れしている、俺自身、それほどいい体格をしているわけではないが、それでも体重は60キロを軽く超えている、どう考えてもこんなごく普通の学生が片手で持ち上げられる重さではない。
「く……」
 俺は苦し紛れにそいつの、俺を持ち上げている腕を両手で掴んだ。
「―――!?」
 そして、その瞬間俺は理解する。
 コイツの身体に何が起きているのか。
 俺はそいつの腕を握り締めている手に力を込める。
 そこには、俺達の年代では考えられないほどの筋肉が存在し、その隆起が、今にもはちきれそうなほど制服を張り詰めさせていた。
 その腕の太さは、おそらくレスラーと比較しても遜色ないぐらいと言ってもいい。
 ……そう……か
 そして同時に、俺は葵の能力がどんなものなのかも理解できた。
 こいつの身体がこんなになってしまった理由、それこそが葵の持つ能力だ。
 俺の能力は『精神干渉』
 他人の精神に干渉し、その人間の思考を自在に操る。
 茜の能力は『感覚干渉』
 他人の感覚に干渉し、痛覚、触覚等を自在に操る。
 そして葵の能力
 最初この操られている男を見たとき、俺と同じように他人を操れる能力かと思った。
 だがそれは、厳密には違う。
 葵の能力、それはひとことで表すならそれは―――
 『肉体干渉』
 肉体そのものを、変形させ、自在に操る―――
 ブンという音がした、そいつが俺を左手で持ち上げながら、右手を大きく振りかぶった音だ。
 ……くっ
 俺はとっさに握っていたそいつの腕を放し、顔の目の前で両腕を交差させガードする。
 ガンという衝撃が俺の腕に走った。
 俺の身体は、ガードの上からそいつに殴りつけられると、そのまま後方にあった壁のところまで吹っ飛ばされる。
 ドンと俺の背中に衝撃が走り、一瞬息が出来なくなった。
「ぐはっ…」
 ずる、と俺の身体が壁からずり落ちる。
 ……ちょっと……洒落じゃすまねえぞ……この馬鹿力は
 俺は顔を歪める。
 そして、そんな状態で俺は考えた、この変化した肉体はともかく、葵はどういう原理でコイツを操っているのかと。
 葵は肉体そのものを変形、操作する事ができる。
 だとしたら文字通りコイツは、肢体のひとつひとつを操り人形のように動かされているはずだ。
 しかし、そうだとしたら、ひとつの疑問ができる、コイツから抵抗されるというような事はないのだろうか。
 いや、ないはずがない、俺の精神を干渉する能力でさえ使用すれば抵抗される事がある、ただ、肉体そのものを操るだけの葵の能力で、操られる側からの精神的抵抗を押さえられるわけはない。
だったらどうやって―――
 その瞬間、俺の脳裏に、先ほど目の前で見た、こいつの、まったく意思の光の無い瞳がフラッシュバックした。
 ああ、そうか……
 ガリッと俺は、防音処理がされたデコボコの壁に爪を立てて、身体が崩れ落ちそうになるところをふんばる。
 ひとつだけ……方法があったな
 ひとつだけ、葵の能力に適した……こんな俺でも胸クソが悪くなるような方法が
 俺は足を踏ん張り、体勢を立て直す
 そして殴られた方の腕を、感触を確かめるように振ってみた。
 殴られるその瞬間、俺は胸倉を掴んでいる手が放されて一瞬空中に放り出される形になった。
 そのため、下手にふんばらずにそのまま力を受け流すような形で吹っ飛ばされる事になった、腕にそれほどのダメージはない。
 俺の視界の端に、屈託のない笑顔をした葵の顔が写る。
 今、俺は理解する、葵は決して俺と同じ種類の人間なんかじゃない。
 葵はただの子供。
 後先考えず、自分のやりたい事だけをやりたいようにやってケラケラわらっている、性悪極まりないクソガキだ。
 葵がコイツにやった行為、それは―――
 俺はコイツの拳が直接当った方の腕を押さえながら、葵の方を向く。
 葵はまったく動じずに、ただ楽しそうに俺の方を見ているだけだった。
「―――ロボトミーか」

 葵はくすくすと笑っている。
 相変わらず表情だけはこの場にふさわしくない。
 そして、そんな表情を崩さないまま俺に言った。
「ロボトミーって言うんですか?こういうの」
 葵が、すっと人差し指を立てて、右手を上げた。
 その指先からは、細い青い糸が伸びている、どうやら葵の糸は、右手、人差し指から出てくるようだ。
 そして、その糸は、コイツの右の首筋につながっている、そこが葵の糸の打ち込むポイントなのか、それとも葵の糸はどこに打ち込んでも効果のあるものなのか。
「ただちょっと、そこの先輩の、頭の中の脳を壊して、何も考えられないようにしただけなんですけどね」
 葵は、そういって何の罪も感じていないように笑った。
 余裕のつもりか、操っている男をそのまま棒立ちにさせている。
 俺はゆっくりと壁に寄りかからせていた身体を起こす。
「……ひとつだけ…例え話をさせてもらおうか」
 なんですか?と葵は首をかしげる。
「もし…仮にこの場のすべてがお前の思い通りに終わったら…そのあとコイツをお前はどうするんだ?」
 んー、と葵は考えるポーズを取る。
「そうですね、骨折とかそういう単純な怪我なら私の能力で簡単に直せるんですけど、さすがに脳とかそういう複雑な器官はちょっと難しいですね、面倒ですしそのままじゃないですか?」
 べつに死ぬわけじゃないですしね、と葵は笑いながら続けた。
 そうか、と俺は小さくため息をつく。
 うっとうしいヤツだったが、それが気に障るヤツでもなかったんだがな……
 俺はゆっくりと自分の力を発動させる。
 世界が紫色へと変化した。
 葵が笑う。
「あ、先輩も力を使いましたね、でも、それからどうするんですか?」
 紫の世界で、ひと区画だけ色の違う箇所。
 葵の周りを、青い、オーラのようなベールが包んでいる。
 そして、その向こうにいる葵には糸を打ち込むポイントは影も形も見えない。
 だが―――
 ブンと俺は腕を真横に振る、そしてその指先からシュバッと紫色の糸が放たれた。
 ヒュンと加速する糸、それは緩やかなラインドライブを描き―――
 葵が操っていた男の額に突き刺さった。
 ビクンとそいつの身体が震える。
 例え、脳を壊されていてもこの反応は変わらないようだ。
 葵は、俺のこの行為を、あまり興味なさそうに見つめている。
 そんな葵に対し、挑発するように俺は言った。
「どうする?俺とこの『駒』の取り合いでもするか?」
 だが、葵は相変わらず興味なさそうにしている。
 そしてくすりと笑ってこうつぶやいた。
「いいですよ、先輩、その子は先輩にあげます、もともと人の操り合いで先輩に敵うとは思ってませんでしたし」
 その子は?
 いや、それ以前に―――
「なんでお前は俺の能力を知っている」
 葵は、宣言通り、なんの惜しげもなく、そいつから自分の糸を抜き去ってしまった。
「見てましたから」
 見ていた?まさか……
「先輩と、茜ちゃんの戦いの始終を、この目で見ていましたから」
 そう言って、なんの罪もなさげな顔で葵は笑った。
 はっ、俺は心の中で笑う。
 性悪ぶりもここまでくれば対したもんだ。
 茜を助けるとか言っておきながら、肝心要のそのシーンでは、分が悪いからと言って高見の見物としゃれこんでいたか。
 まあ確実に勝てるという時まで期を待つというのも戦略としてありだろうが、あの時の様子を見れば、あの後茜がどんな目に会うかは想像できただろうに。
 俺は男にイメージを送る。
 せっかくここまで酔狂なヤツが相手なんだ、俺もお前の戦い方にあわせてやるよ。
 俺は、コイツに、葵を倒すような思考ルーチンをイメージとして与える事もできる、だがあえて俺は、葵と同じように、リアルタイムで指示を出し操るような状態にコイツをした。
 俺がイメージとして指示を送りこむ。
 幸か不幸か、葵がコイツの思考器官を破壊していたせいで、まったくのタイムラグ無しで俺はコイツを操る事ができた。
 じりっと男が葵に近づく。
 男の体格は俺を襲った時のままだ、どうやら、操る事は出来なくなっても、俺の精神干渉がそうであるように、変形させた肉体は、糸が離れてもそのまま残るようだ。
 だが、葵はそれでも動じるような事はしない、そして、何を思ったか、トンと飛びあがるとそのままピアノの椅子の上に着地した。
 ふわり、と葵の髪の毛とスカートが舞いあがり、遅れてゆっくりと重力に身を任す。
 その動きは、優雅さすら感じさせた。
 葵はそのまま俺を見下ろす。
 そしてそのまますっと人差し指を出したまま、右手を振り上げた。
 ふわりと舞う葵の糸、だがその姿はまるで―――
「―――今宵は1夜限りのコンサート……今日だけ私はピアニストからマエストロになります……」
 そう、葵がそう言うように、まさにその動きはマエストロ……オーケストラの指揮者そのものに見えた。
「主役はあなた、御影先輩……今からあなたのためのオーケストラを呼びます……素敵な音を奏でてくださいね……」
 そう言って、葵はぶんと大きく腕を振り上げた。
 そしてその瞬間―――
「!!」
 俺の予想の範疇を越える事が起こった。
 葵の腕の動きとともに空中に舞いあがった、キラキラと光を輝かせている青い糸、それが―――
 突然ピシッという音を立てる。
 そして次の瞬間―――それが分裂したように、幾重にも枝分かれした。
 葵の糸に線が走り、その線に沿って糸が枝垂れ柳のようにはらりと分裂してく。
 その数に限界はあるのか、もしくは、俺の糸が無限に伸ばせるように、こいつの糸も無限に枝分かれするのか。
 俺の額を汗が伝う。
 まさか……コイツはこの糸の数だけ、人に同時に能力を使える事ができるのか!?
 それは、俺にも、茜にもなかった糸の能力。
 葵が軽く手を振ると、糸はすうっとUターンをする、そして、葵の後ろ、ピアノの後ろにあった、わずかに隙間の開いていた音楽準備室の扉をくぐり抜け、奥へと入っていった。
 そして、次の瞬間、ガタンガタンガッシャンという、そこらへんにあるものをひっくり返すような音が準備室から聞こえてくる、1人や2人でやっているような音ではない。
 やがて、その音がやみしばらくの静寂が訪れる。
 だが次の瞬間―――
『バシャンッ』
 というけたたましい音が響き、準備室の扉が開かれた。
 これ以上ないスピードで開かれた扉は、開き戸式だったためにそのまま高速で壁にぶつかり、その衝撃で覗き窓が粉々に砕け散ってしまった。
 そしてその扉の向こう、準備室側からぬっと腕が伸びている。
 おそらく扉を突き飛ばしたであろうその腕、それは今俺が操っている男より遥かに太いものだった。
 葵がマエストロ気取りで腕を振り上げる。
 すると、ぞろぞろと、操られたこの学園の生徒であろう男達が準備室から出てきた。
 どいつもこいつも隆起した筋肉のせいで、上半身の服が、ビリビリに引き裂かれている。
 そいつらはまるでゾンビを連想させるような動きで歩き、葵の前に陣取った。
 大なり小なり、身長には差があったものの、どいつも考えられないほど筋骨隆々とした体躯になっている。
 そして、俺が今操っている男と同じく、脳を破壊されている事を裏付けるように、その瞳は濁っていた。
 俺の前に立ちふさがる、屈強なる葵の手駒。
 その数、ひとり、ふたり――――
 ―――5人!

「5人か……ちょっと少ないんじゃないか?オーケストラというよりリサイタルだな」
 俺は皮肉を込めてそういう。
 だが、これが強がりだと言う事は自分自身でよくわかっていた。
 俺は、葵が改造したたった1人に、軽くあしらわれた、それが5人、しかもその1人より遥かに身体能力が優れている5人だ。
 手に余る、というレベルではない。
 それを当然のごとく知っての事だろう、葵は俺の皮肉に顔色ひとつ変えずに答える。
「そうですね……明確な先輩という主役もいる事ですし……その方が正しいかもしれません」
 葵はどこか陶酔したような表情を浮かべる。
「さあ…それでは聞かせて下さい、その主役たる先輩のステキな音色を……」
 葵が薄く目を閉じ、ザッと腕を振り上げる。
 その瞬間、葵の前に陣取っていた5人がいっせいに俺に飛びかかってきた。
 男達は教室の机、椅子を蹴散らしながら俺に向かって突進してくる。
「くっ」
 俺は右手を振り、俺が操っている男をその5人に向かわせた。
 だが、多勢に無勢とはまさにこの事だろう。
 俺が操る男は、あっという間に捕まる事になる。
 5人のうち2人が、それぞれそいつの胸と腰にタックルをし、動きを止める。
 そしてその場で方向を90°変更すると、俺から引き離すように、その格好のまま教室の前方に向かって突進し、そいつの身体を黒板に叩きつけた。
 鈍い音が音楽室に響き、黒板に大きな亀裂が入った、ごく普通の人間だったら、それですべての内臓が破裂してもおかしくない衝撃だ。
 俺は、そいつをその状態から動かそうとする、だがそれよりも遥かに屈強な男2人に押さえつけられたそいつは、まるで生きたまま標本にされた昆虫のように、手足をばたつかせる事ぐらいしかできなかった。
「ちっ」
 俺はそいつを操作する事を潔くあきらめる事にする。
だがそうして5人の内の残り3人を見ようとした瞬間、もうそれが手遅れであった事を俺は悟る。
 次の瞬間、俺は既に目の前に迫っていた3人のうちの1人に胸倉を掴まれ、問答無用でぐいと引き寄せられた。
 そしてその返す刀で首根っこを鷲づかみにされると、そのまま叩きつけられるように床に押さえつけられてしまった。
「ぐはっ」
 ざり、と防音効果のため敷かれている絨毯生地が、俺の頬をこする。
 さらに次の瞬間、残りの2人が俺のそれぞれの腕を掴かみ、ねじるようにして床に押さえつける。
 そして、とどめといわんばかりに、俺の首根っこを捕まえていたヤツが俺の背中に膝を当て、身体の動きを封じるために、全体重をかけてのしかかってきた。
「ぐあっ」
 メキッと背骨がきしむ。
 筋肉が増やされたという事は、当然その分だけ体重も増えている事になる。
 ごく普通のままの俺の身体は、それだけで悲鳴を上げた。
「か…は……」
 足だけはかろうじて自由を奪われてはいないが、その体勢で無理に動かそうものなら、逆に自分を苦しめる事になる。
 肺が圧迫され、呼吸をする事すらままならない。
 酸素が、全身にまわらない。
 そして、ただでさえその苦しい状態だと言うのに、俺の首を押さえているヤツが、空いているもう片方の手で俺の髪の毛を掴み、俺の顔を上げさせた。
「うっ……」
 さらに呼吸がしづらくなる。
 酸欠状態でチカチカとする視界の中、真正面に絶えない笑いを浮かべている葵の顔が映った。
 どこか、恍惚とした表情で俺を見下ろしている葵―――
 ……いつまで……笑ってんだよ……
 その、チカチカとした感覚が、眼球をしびれさせ、それは脳に達する頃にはビリビリした衝撃となっていた。
「あ……おい……」
 俺は、のどの奥から搾り出すような声を上げる。
 すると葵は、さも嬉しそうな顔をして、つぶやいた。
「やっと、私の名前を呼んでくれましたね」
 葵はすっと椅子の上から歩きだし、そのままストッと床に着地した。
「でも……まだだ足りません……もっと私の名前を呼んでください……私の事だけを想ってください」
 そう言いながら、熱っぽい視線で俺を見る葵。
 ……なんだ?
 ……もしかしてコイツ……
 葵はスッと指を上げる。
 すると、俺の、左腕を押さえつけていたヤツがそれに従うように動き出す。
 そいつは握っていた俺の手の中に指をねじ込ませ、強引に俺の手を開かせた。
「な……」
 そして、そいつはそのまま俺の小指だけを握り締め、ギリッと俺の指を反らし始める。
 まさか―――
「もっと……聞かせて下さい、いつまでも、忘れる事のできない……永遠に私の心の中に残るような愛しい先輩の声を―――」
 次の瞬間
『ボキリ』
 と、俺の脳髄までしびれてくるような、鈍い音が音楽室に響き渡った。

 最初に俺を襲ったのは痛み―――
 胃の中のものがこみ上げて来るような痛みだった。
 だが、痛みだったら俺はこれ以上のものを体験した事がある。
 純粋な痛みなら……はっきり言えば、痛みそのものを叩きつけられた、茜の時の方が上だった。
 しかし、それ以上に俺に襲いかかってきたのもの、それは。
 恐怖感―――
 軟骨がひしゃげ、靭帯が伸びきり、血管が破れ、そこからブクブクと噴出す血液が内出血となり、すべての組織を圧迫する―――
 その感覚が、嘘偽りのないものとして俺の脳に伝わってきた。
「う…ああああっ」
 満足に呼吸も出来ないような状態から、俺は喉の奥から絞り上げるような叫び声を上げた。
 ビクン、ビクンと、心臓の鼓動にあわせて、痛みが伝わってくる。
 一瞬で全身から脂汗が噴き出した。
 俺の指をへし折った男は、その手を離していない、俺の小指は握られたままだ。
 それが尚更痛みを増加させている。
 その様子を見ていた葵が、あ…と小さな声を上げた。
 そして、ゾクリと沸いてきた心の震えを押さえるように、両腕で自分の身体を抱え込んだ。
「先輩ステキです……もっと先輩の声を聞かせて下さい、もっと、私だけのために」
 葵は、左手で自分自身の身体を抱えたまま、右腕の人差し指を立てて腕を振った。
 キラリと細い糸が青い光を放つ。
 そして、その光に導かれるように、男が再び動き出した。
 男は、俺の折れた小指を掴みながら、もう片方の空いている腕を伸ばす。
 そして、その人差し指と親指を使い、折れている俺の小指の爪をつまみあげた。
 おい―――冗談じゃないぞ!
 葵が軽く指を振るう。
 次の瞬間、男はなんのためらいもなく、俺の指の生爪を、バリッと剥ぎ取った。
「――――!」
 声なんかでない、ただ、かすれるような空気が抜ける音が、俺の喉から漏れただけだった。
 痛みが2重になり、俺を襲う。
 頭の中が、グルグルとまわっているような気がした。
 そんな俺の様子を見て、心底残念そうな顔をする葵。
「あ、ちょっとやりすぎちゃいましたね、先輩の声が聞けませんでした」
 そして、恍惚の表情で冷たい笑いを浮かべた。
 俺は脂汗が滴り落ちる顔で、葵を見上げる。
 ………常軌を……逸してやがる
 陶酔した顔で、何の罪も感じないように、まるでオモチャでも壊すような感覚で俺の身体を……いや、他人の身体を壊していく葵。
 そして、俺は理解する、葵という少女の事を。
 本当は、葵は茜が言ったように、不自由なく、親の愛情を注がれ、姉に守られて育った、屈託無い、心の優しい少女だったのかもしれない。
 だが……コイツは魅入られちまったんだ……
 他人を自由自在に操り。
 自分の思うがままに蹂躙できるという快感をもたらす。
 あの青い糸の能力に―――
 俺の目に映るのは狂気の喜びに笑う葵の顔。
 だが、俺はそこまで考えて思考を止めた。
 そして自分自身を笑う。
 ……ははっ、糸の能力に魅了されただって?
 ……そんなの俺も一緒じゃねえか
 俺は葵を見上げる。
 ……だけどな…葵……
 ……ちょっとばかし…俺の方が、お前より大人なんだよ
 たしかにこの糸は、お前見たいなガキが手にするには、手に余る能力だ。
 糸の虜になり、狂っちまったって事も、判らなくもねえ。
 だが、そろそろ―――
『ドクン』
 指からの痛みが俺を突き上げる、これ以上葵のやりたいようにやらせるのは危険―――と。
 オトナの俺が、コドモのお前をオシオキして……いさめてやらないといけねえなぁ。
 俺は、葵を睨み上げる。
 すると、葵は俺のその顔を見て、心底つまらなそうな顔をした。
「そろそろ終わりにする―――そんな顔してますね、先輩」
 悲しそうな顔をする葵。
「そうですね、私もこれ以上先輩が傷ついていくところを見ていられません、そろそろ終わりにしましょう」
 ち…と俺は心の中でつぶやく。
 とことん、狂ってやがる。
 言ってる事とやってる事がまったくバラバラだ。
「先輩、安心してください、ちゃんと……今夜のコンサートの幕を引く、スペシャルゲストを呼んでありますから」
 スペシャルゲスト?
 まだ、これ以上あいつは手持ちの駒を用意しているのか?
 葵がブンと腕を振り上げる。
 まさに演奏が佳境に入ったマエストロのように、力強く。
 そして、葵の指から放たれている糸のうちの1本が、力強く青い光を放った。
 それは、今葵が操っている5人につながっている糸とはまた違う糸。
 その糸は今この瞬間に放たれたものなのか、それともずっと以前から放たれていたものなのか。
 とにかく、能力を使っていない葵の糸を視覚で捕らえるのは困難極まりない。
 その葵の糸の先、それは音楽室の扉から、外に向かって伸びていた。
 そして、「カラ」という小さな音がして扉がゆっくり開かれる。
 そこに現れた、葵に操られている人物、右手には、おそらく俺を攻撃するためであろう、カッターナイフが握られていた。
 その人物を見た瞬間―――
『ドクンッ』
 俺の心臓が、大きく脈打った。
 ……は……は
 乾いた笑いが心の奥から漏れた。
 ……そうか…そうだよな、俺と茜の戦いを見てたんなら、コイツの事も当然知ってるよなぁ……
『ドクンッ』
 今までにない大きな動悸、心臓が脈打つたびに、視界が白く染まっていく。
 左手の痛みも気にならなくなってしまった。
 ……で……お前はそいつを使ってどうしようって言うんだ?
『ドクンッ』
 ……そいつは―――
『ドクンッ』
「俺のモノ」―――だぜ
 その場に現れた、葵が操っている女。
 それは俺の一番最初の奴隷。
 橘景子だった。

< 続く >

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