11回目の七夕に

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 僕は、梅雨の終わりのべとつく空気に包まれて、憂鬱な気分で歩いてた。それというのも、自分の不甲斐無いのが原因なんだけど。
 僕の名前は田原空也。この間高校生になったばかりの一年生。本当なら、僕の幼馴染の唯那ちゃんと一緒のクラスになれて、とても嬉しいはずだったのに、なんで今、僕は一人で歩いてるんだろう、そんな事ばかり頭に浮かんでた。
 唯那ちゃんは、幼稚園の頃に僕の家の隣に引っ越してきてから、いつも二人で一緒に過ごしてきた。クリスマスも、お正月も、バレンタインデーも、ホワイトデーも、二人の誕生日も、七夕も・・・。
 最初に会った時から、一緒にいる事が当たり前で、他の子にからかわれても全然気にならなかった。僕が野球をする時は唯那ちゃんが応援してくれたし、おままごとをする時は、僕がダンナ様をするのが普通だった。今だって、登下校は一緒だし、休日に一緒に街に遊びに行く事も多い。僕にとって、クラスメートの男子よりも、唯那ちゃんと一緒にいる時間の方が多いくらいだ。
 でも・・・最近、僕はそれだけで我慢できなくなってきてた。別にキスしたいとか、えっちなことをしたいとかじゃなくて・・・ううん、それもちょっとはあるけど、僕は唯那ちゃんが好きだけど、僕の”好き”が唯那ちゃんに伝わってるのか、唯那ちゃんの”好き”が、異性としてか、幼馴染としてか・・・それが知りたくなったんだと思う。だから、今日こそは告白しようと思ってた。校舎裏で、言おうとして・・・なにも言えなくて・・・最低な事に、僕は唯那ちゃんを置いて、逃げ出したんだ。唯那ちゃんが僕の名前を呼んだのに、それを振りきるようにして。これが、僕が一人で憂鬱に歩いてる理由。
 こんな事なら、何もしない方がよかったかなぁ・・・なんてすごく後ろ向きに考えて、足元の小石を意味も無く蹴ってみたりした。明日、どんな顔して唯那ちゃんに会ったらいいんだろう?また、小石を蹴る。うじうじしながら家に帰る途中の道で、僕は声をかけられた。

「こんにちは。何か、悩みがあるみたいだね」
「え?」
「悩みを話してごらん。僕はその為にここにいるんだ」

 道の片隅にテントが置いてあって、声はそこから聞こえてきた。まだ若い女の人の声だ。きびきびしたボーイッシュな声に導かれるように、僕は何も考えずにテントの中に入っていった。テントは小さく、息苦しくすら感じる。中には、フワフワした感じの布をまとった女の人が椅子に座っていて、小さいテーブルと水晶玉を挟んで置いてある椅子に、僕に座るように勧めていた。僕はその人の正面に座った。なんだか、夢の中みたいに実感が無くて、でも、なんだかそれが楽で、気持ち良かった。

「さぁ、気を楽にして・・・。僕に話してごらんよ、全てを良くしてあげるから」
「あなたは?」
「僕の本名は秘密。でも、ホーリーネームは、”サブリナ”っていうんだ。だから、僕の事は”サブリナ”って呼ぶといい」
「”サブリナ”さん?」
「そうだ。君の名前は?」
「田原・・・空也です」
「空也君か・・・。いい名前だね。それで、何を悩んでいたんだい?」

 ”サブリナ”さんは、不思議な光を放つ水晶玉を撫で擦るようにしながら、僕を見詰めた。今気が付いたんだけど、”サブリナ”さんは、切れ長の目がとっても印象的な、エキゾチックな美人だった。恥ずかしいのに、なぜか僕は目が離せなくなって、頭がぼうっとしたまま、今日あった事を話してた。

「そうか・・・。君の話を聞くと、唯那ちゃんは君の事を好いているようだが?」
「でも、自信が無いんです。・・・唯那ちゃんの”好き”が、僕のことを友達として”好き”だったら・・・そう思うと・・・。それに、もし言ってしまったら、唯那ちゃんが僕から離れて行ってしまうかもしれない・・・それが怖いんです」
「判った。なら、今度の日曜日に、唯那ちゃんをここに連れて来るがいい。僕の力で、彼女の本心を探ってみよう」
「ちから・・・?」
「そう・・・力だ・・・。人を幸せに導く事も、破滅に追いやる事も出来る『力』だ」

 そう言い切った”サブリナ”さんの目は、なんだか悲しそうで、僕は『力』の事を聞くのが悪い気がしてしまった。”サブリナ”さんにとって、『力』は良い事ばかりでは無かったんじゃないかと、そう思ったので・・・。

「判りました・・・。今度の日曜日に、唯那ちゃんを連れて来ます。・・・時間は何時がいいんですか?」
「そうだな・・・。午前中としておこう。ちなみに、見料は無料だ。」
「え?・・・でも、それじゃあ・・・」
「しがない学生から見料を貰うほど、生活に困っている訳ではないのでね」
「・・・ありがとうございます」
「別に、構わんよ」
「でも、見料って・・・占いなんですか?」
「占いだよ。本来、占いというものは、人により良き未来を導く為のものなんだ。不幸を示唆して注意を喚起したり、相談に乗って、心の不安を取り除いたりな」

 ”サブリナ”さんの口調は、颯爽として気持ち良かった。女の人なのに男の人みたいに話すのが、本当に自然だった。きっと、”占い”や”自分”に対して、自信を持っているからだと思う。僕は、もう一度感謝の言葉を述べて、後ろ髪を引かれる思いでテントを出た。さっきよりも軽い足取りで、僕は帰宅した。

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 翌日の朝、なんだかウキウキして早目に目が覚めた。まるで、お祭りのある日の朝みだいだ。もうすぐ梅雨も明けるからだろうか、朝からいい天気で、空気も澄んでる。子供みたいにベッドから飛び起きると、窓を明けて空気を入れ換えた。

「あれ?唯那ちゃん?」
「あ、空也ちゃん、おはよー」

 ほんわかした笑顔で、家の門にもたれて2階の僕を見上げてる。僕の顔を見た瞬間に、”ほんわか”が”満面”の笑顔に変わる。胸の前で、小さく手を振ってる唯那ちゃんに、僕も手を振った。

「おはよう。どうしたの?こんなに早く?」
「えー。今日は早く目が覚めたからー」
「ちょっと待ってて。今着替えるから」
「うんっ」

 急いで学生服に着替えると、顔を軽く洗って玄関に直行した。玄関のすりガラスの向うに、唯那ちゃんのシルエットが見える。衣替えをしたセーラー服と、肩口でそろえられた髪。僕はドアを開けると、唯那ちゃんを中に招き入れた。

「唯那ちゃん、朝ご飯食べた?」
「うん」
「僕、まだなんだ・・・中でお茶して待っててくれる?」
「うん・・・お邪魔しま~す」

 ちゃんと靴を揃えて上がり込む唯那ちゃんに、食堂から母さんが声をかけた。

「あら、唯那ちゃん、おはよう。今日は早いのね」
「おはようございます、おばさん。今日は用事があって、早目にしたんです」
「そう?紅茶いれるから、こっちにいらっしゃい」
「ありがとうございます。頂きますね。おじさん、おはようございます」
「おぉ、おはよう」

 昔からの付き合いだから、僕の両親と唯那ちゃんはとても仲がいい。朝から来ても、全然気にすることもないくらいに。ぼくは、唯那ちゃんが紅茶の匂いに目を細めて喜んでるそばで、朝ご飯を食べた。明後日の日曜日に、唯那ちゃんをなんていって誘うおうかと考えながら。

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 ・
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「でも本当に、なんで今日は早くから来てたの?」
「・・・うん・・・」

 登校途中で僕がそう聞くと、唯那ちゃんはなんだか困ったみたいな顔で、少し上目遣いで僕を見上げた。僕が、ん?という顔で見返すと、観念したように、少しずつ話し始めた。

「昨日、空也ちゃん、少しヘンだったから・・・それで、気になって・・・」
「あぁ、そうだっけ・・・」

 そう言えば、僕は唯那ちゃんを振り切って、目の前から逃げたんだった。確かに僕がされたら心配にもなるよね。なんでその事を忘れてたんだろ?

「でも、今はいつも通りの空也ちゃんだよね。・・・あたし、心配したんだよ?」
「ごめんね」

 僕はなんだか嬉しくなって、謝りながら、それでもにこやかに微笑んでた。

「もう・・・。それで、昨日のお話しって、なんだったの?」
「うん、そうだね・・・」

 ん?こんどは唯那ちゃんがそんな顔をして、僕を見上げる。なんだか、今の雰囲気だったらそのまま告白できそうな気もするけど、せっかく”サブリナ”さんが手伝ってくれるって言ってくれたのに、無駄にしちゃ悪いよね。そう、自分に言い訳するみたいに考えて、別の話題で誤魔化す事にした。

「今度の日曜日にさ、占いのお店にいかない?」
「ん~?」
「うん。いいお店を見つけたんだ。不思議な雰囲気の占い師さんがいてね・・・そういうの、好きだよね?」
「うん・・・いいよ。遠いの?」

 多分、僕が話しを逸らせたのは気が付いてるんだろうけど、しょうがないなぁ、なんて感じで話しを合わせてくれた。こういう時って、お互いに判りあってるって気がして、少し嬉しい。僕達はそれから、他愛の無い事を話しながら、ゆっくり歩いて行った。

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 日曜日、すっかり晴れ渡った空が、とっても気持ちいい朝。陽射しは強くなってきたけど、僕にとっては夏の到来を期待させてくれるから、辛くはない。そんな中、僕と唯那ちゃんは連れ立って、この間のテントのある場所まで歩いて行った。唯那ちゃんは、ノースリーブにミニスカートで、淡い系統の色がとっても似合ってた。

「占いって、実際に行ったコトってあんまり無いから、少しどきどきするね」
「あれ?唯那ちゃんって、占い、好きじゃなかったっけ?」
「うん・・・好きだけど、占いの雑誌を買うくらいだよ」
「そうなんだ」
「でも・・・ふふ」

 そういって、唯那ちゃんは僕を覗き込むように見上げて、意味ありげに微笑んだ。少したれ気味の目が、いたずらっぽく僕を見詰める。

「・・・空也ちゃんが、占いのお店にあたしを誘うくらい、占いが好きだったなんて、知らなかったなー」
「え・・・あっ」
「うふふっ」

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 テントに着くと、”サブリナ”さんが待っていてくれた。今日も、ふわふわとして布を巻きつけたような服に、エキゾチックな顔。

「あぁ、よく来たね。君が唯那ちゃんだね。僕のことは”サブリナ”と呼んでくれ」
「あっ、えっと、あの・・・あたし、砂倉唯那です。はじめましてっ」
「うん。いい挨拶だ。それでは始めようか。唯那ちゃんはこちらへ・・・空也君は待っていてくれ」
「は・・・はい」
「じゃあ空也ちゃん、行ってくるね」

 胸の前で右手をにぎにぎしながら、唯那ちゃんはテントに入っていった。僕は、やる事も無いから、道端でぼーっとしながら待ってた。でも・・・もう、どうでもいい気もしてた。だって、僕のそばに唯那ちゃんはいてくれる。僕の事を大事にしてくれてる。きっと・・・もっとゆっくりでもいいんだと思う。この間まで焦ってた自分が、なんだかばかみたいだった。
 もちろん、理由はあったんだけど。高校生になったことが原因なんだろうか?唯那ちゃんは、可愛いからクラスでも人気がある。男子にも。みんなのうわさの中心にいても、唯那ちゃんは僕を見ていてくれて、でも、ぼくはそれを信じきれなかったんだろう。唯那ちゃんのことも、自分のことも。

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 しばらくして、テントから”サブリナ”さんだけ出てきた。訝しがる僕に、微笑みかけた・・・小悪魔のように。

「おめでとう。やっぱり君達は相思相愛だったよ」
「そうですか」
「あんまり、驚かないんだね」
「そうですね・・・そんな気はしてましたから」
「ふふ・・・自信はあった、という事か。では、そんな君に、僕からのプレゼントだ。受け取るがいい」
「え?プレゼントって何ですか?」
「おいで・・・唯那ちゃん・・・」

 ”サブリナ”さんの呼びかけに、テントから唯那ちゃんが出てきた。でも、なんだかいつもと様子が違う気がした。なんていうのか、寝起きみたいにぼおーっとしている。”サブリナ”さんは、唯那ちゃんの肩を抱いて僕の方を向いた。

「今、唯那ちゃんは、僕の力で催眠術にかかっている。それで、少し暗示を与えて、君から告白されて、今は恋人として付き合ってる、そう記憶を操作した」
「・・・なんで、そんな事を・・・」
「ふふ。僕はお客さんの要望を満たすだけさ・・・心の奥底まで見据えて・・・ね」
「確かに僕は、唯那ちゃんと恋人同士になりたいって・・・そう思ってますけど・・・」
「まぁ、唯那ちゃんも幸せだし、君も幸せだしで問題は無いだろう?取り敢えず、今日は恋人同士としての付き合いを満喫するといい」
「・・・はい」

 僕は、”サブリナ”さんの言葉が真実だと感じられた。だとしたら、本当は僕は頷いてはいけないはずなのに、釈然としないものを感じながら、それでも返事をしてしまっていた。まるで、僕自身が催眠術にかかっているかのようだった。

「それと、僕はまだ数日はここにいるつもりだ。何かあったら、相談に来るといい」

 そう言って”サブリナ”さんは、唯那ちゃんの耳元で何かを囁くと、唯那ちゃんの瞳に光が戻るのが判った。正面の僕を見つけて、満面の笑顔を浮かべる。

「あ、空也ちゃん、お待たせっ」
「あ・・・うん・・・」
「それじゃ、行こうよ。”サブリナ”さん、ありがとうございました~」
「ああ、またおいで」
「はいっ」

 そう言うと、唯那ちゃんは嬉しそうに僕の腕を取り、僕に寄り添うように歩き出した。今まで、こんなにくっついて歩いた事が無かったので、僕は嬉しく思うと同時に、緊張してしまった。肘にあたる微妙なふくらみに、ますます僕の顔が赤らむのが感じられた。

「ね、これからどうしようか?」
「うんもう少ししたらお昼だから、街にでも行く?」
「それだったら、あたしの家に行く?お昼作ってあげる。・・・お母さん達、今日はいないし・・・ね?」
「うん、じゃあ、そうしようか」
「うんっ」

 その時、僕はあまり考えずにそう答えたけど・・・それは僕達がお互いの家に行くのは普段からそうしているからだけど、唯那ちゃんは顔を少し紅潮させて、嬉しそうに微笑んだ。一層僕にくっつくと、僕達は家へ向かって歩き始めた。

- 4 -
「ありがとう、美味しかった~」
「うふふ。どういたしまして。コーヒー飲む?」
「うん、お願い」
「はぁい。あ、食器も片付けちゃうから、あたしの部屋で待っててね」
「手伝おうか?」
「大丈夫、いいコにして待ってて・・・ふふふ」
「何?」
「だって、なんだか新婚さんみたいな会話なんだもん・・・もぉ、恥ずかしいなぁ。うふふっ」
「あ、えっと、部屋に行ってるね」
「はぁい、あ・な・た♪」
「もう・・・」

 お昼をご馳走になった後、僕は唯那ちゃんの部屋で考え事をしてた。唯那ちゃんは、なんであんなに明るいんだろう?別に普段が暗いっていう訳じゃなくて、今日が・・・催眠術にかかってから妙に浮かれているように感じる。それとも・・・あれが本当の唯那ちゃんなんだろうか。
 どうしよう、これから・・・。正直な話、今の唯那ちゃんと僕の関係は、ものすごく嬉しいし、唯那ちゃんがとても幸せに感じてるらしいのも確かな事で・・・。

「空也ちゃん、お待たせー」
「あ、うん」
「コーヒー、淹れてきたよ」
「ありがとう」

 コーヒーと、自分用の紅茶をミニテーブルに置くと、唯那ちゃんは僕にぴたっとくっつくようにして座った。風が入ってくるので暑苦しくはないけど、なんだか気分が落ち着かなかった。

「・・・今日」

 暫くして、ぽつり・・・と、唯那ちゃんが話し始めた。不思議と聞こえてくる、唯那ちゃんの高鳴る鼓動の音。僕も、つられてどきどきする。

「今日、お母さん達、デートだから・・・夜まで帰って・・・こないの」
「そ・・・そう?」
「だから・・・空也ちゃん・・・」

 赤い顔で、潤んだ瞳で僕を見上げる唯那ちゃんから、僕は目が離せなくなった。引き込まれる、何も考えられなくなる・・・まるで僕が自身が催眠術にかかったみたいだった。唯那ちゃんの顔が近付いてきて・・・いや、僕の顔が近付いていってるのかも知れないけど・・・自然に、僕達の唇は重なった。
 頭の中が真っ白になるような衝撃に、僕の体は無意識のうちに唯那ちゃんの体を抱き締めてた。ふたりで床に倒れ込む。僕の腕の中に、唯那ちゃんの存在を感じて、涙が出る程幸せだった。

「はぁっ」

 息が苦しくなって、僕は唇を離した。唯那ちゃんも真っ赤な顔で大きく呼吸する。その目から、一筋涙が流れた。え、と僕が凝視すると、唯那ちゃんも僕を見詰める。綺麗な涙と、幸せな表情。唯那ちゃんの唇が、聞こえるかどうかといった大きさの、震える声を紡いだ。

───だいすき───

 僕は、自分を抑えることができなくて、横になったまま、唯那ちゃんを抱き締めた。もっと・・・もっと近くに唯那ちゃんを感じたくて、胸も、腰も、足も・・・絡まり合うように密着する。でも、まだ足りない・・・いっそ、ひとつに溶け合いたい、泣きたいくらいの幸せの中、僕はそう思った。

 どれくらい、そうしていただろう・・・。僕は、唯那ちゃんが背中を優しく叩くのに気が付いた。急に恥ずかしくなって腕から力を抜くと、唯那ちゃんがするっと僕の腕の中から抜け出した。今日はここまで・・・そういう事だろうと、少し残念に思いながら唯那ちゃんを見上げると、立ち上がった唯那ちゃんは、窓とカーテンを閉めると、僕に背を向けて、服を脱ぎ出した。

「唯那ちゃん・・・」
「本当はね、あたしも恥ずかしいの。・・・でも、もっともっとって、気持ちが泣いてるから・・・もっともっと幸せになりたいって心が欲しがってるから・・・」
「・・・好きだよ・・・唯那ちゃん」
「あたしも・・・」

 全て脱ぎ捨てた唯那ちゃんは、午後の光をカーテン越しに浴びて、天使みたいだった。僕も、恥ずかしいのを我慢して、服を脱ぎ始める。その間に唯那ちゃんは、壁際のベッドに上がって、タオルケットを被った。僕も、全て脱ぎ捨てると、タオルケットに潜り込む。赤い顔を、目の下までタオルケットで隠した唯那ちゃんが、僕を見詰めている。

「怖い?」
「ううん・・・でも、優しくしてね・・・」
「うん・・・がんばる」

 どうしていいのか判らなかったけど、まずはキスすることにした。小鳥がついばむ様に、何度も・・・。そうして、右手で胸に触れてみた。まだ、大きくは無いけど、やっぱり男子とはまったく違う感触。少し汗をかいてるのにすべすべしてて、なんだか”ふにっ”とした感じ。僕はゆっくり手を下に降ろしていって、一番大事な所に辿り着いた。そこは、しっとりとしてて、なんだか複雑な形をしてるみたいだった。

「あっ」
「ごめん、痛かった?」
「ううん・・・でも、そこは敏感だから・・・そっと触って欲しいの・・・」
「うん。判った。・・・見ても・・・いい?」
「えっ?・・・だっ、だめっ」
「そ・・・そうだよね・・・」
「だめだけど・・・いいよ。・・・空也ちゃんだから・・・」

 そう言って、唯那ちゃんはゆっくりとタオルケットを足元にずらしていく。いつもは白い肌が、少し熱っぽく赤くなって、とても綺麗だった。恥ずかしいのか、唯那ちゃんが目を閉じる。
 僕は、ごくっとつばを飲み込んで、間近でそこを見た。うっすらとした毛に守られて、ピンク色に息づいている。少し綻んで、濡れているのが判った。今度は、ゆっくりと割れ目に指を這わせて、慎重に触った。
 ぴくんっ・・・。その瞬間、唯那ちゃんの身体が反応した。顔を見上げると、口元を手で抑えて、声を殺している。その顔は、嫌がってるようには見えなかったので、僕は気を良くして、もっといろいろ触ってみた。

「・・・ん、・・・ふっ」

 我慢できなくなってきたのか、唯那ちゃんの押し殺した声が聞こえて来た。その声に、僕の背中にぞくぞくと何かが走ったみたいだった。

「声・・・もっと聞かせて」
「だめぇ・・・はずかしいの・・・」
「僕しかいないから、だいじょうぶ・・・」
「あっ・・・はふ・・・」

 だんだん、唯那ちゃんのあそこが濡れてきて、なにかを欲しがるみたいに開いてきた。ここに・・・入れるんだ・・・僕のを・・・。
 僕は、とっくに固くなってる自分のを、唯那ちゃんのそこに当てた。また、ぴくっとする唯那ちゃんに・・・いくよ・・・そう小さい声で囁くと、唯那ちゃんが小声で・・・はい・・・、そう答えるのが聞こえた。僕は少しずつ腰を入れて行って・・・上手く入らなかった。

「えっ・・・あれ・・・うぁっ!」

 焦る僕は、何度も唯那ちゃんのあそこに自分を押し付けて、耐えきれずに出してしまった。精液が唯那ちゃんのお腹まで飛び散って、自分のが力を無くして小さくなるのが見えた。僕は、失敗したんだと気が付いた。ひどく恥ずかしくて、情けなくて、涙が出てきた。

「これが、空也ちゃんのせーえき・・・?」

 唯那ちゃんは、自分のお腹に飛び散った精液を、不思議なものを見るように、指先で掬って近くで見たり、匂いを嗅いだりしていた。そのまま、舌でそっと舐めてみる。

「だめだよ、そんなの舐めちゃ」
「平気だよ。だって、空也ちゃんのだもん」
「唯那ちゃん・・・」
「ね、少し休んだら、続き・・・しよ」
「うん」

 でも、休む必要は無かった。僕のものは、力を取り戻して、固くなってた。唯那ちゃんと僕は同じものを見てて、同じタイミングで顔を合わせて、思わず笑っちゃった。

「空也ちゃん、休まなくても大丈夫みたいだね」
「うん、じゃあ、続けるね」

 今度は落ち着いて、しっかり見ながら入れていく。途中で何かに当たったけど、そのまま突き入れると、ぴっという感じで、さらに奥に入っていった。そこは、熱くて、にゅぐにゅぐしてて、とっても不思議な感触だったけど、それがとっても気持ち良かった。
 唯那ちゃんは、歯を食いしばって、とても痛そうだった。その顔を見て、僕は悪いと思いながらも、嬉しくなってしまった。だって、こんなに痛そうなのに、僕の為に我慢してくれている・・・。僕は動きを止めて、唯那ちゃんにキスをした。

「ごめん・・・痛いよね。もう、やめとこう」
「・・・あ・・・空也ちゃん・・・やめないで・・・」
「でも、痛そうだよ・・・」
「さっきよりも、慣れてきたから・・・痛くなくなってきたから・・・。お願い、最後までして・・・あたしなら、大丈夫だから・・・ね」
「唯那ちゃん・・・」
「痛いけど・・・でも、すごく幸せなの・・・だから、続けて・・・」
「・・・我慢できなくなったら、言ってね」
「うん」

 僕は、出来る限りゆっくりと動き始めた。なるべく負担を与えないように。最初は痛いだけだったんだろうけど、少しずつ、本当に痛みが少なくなってきてるみたいで、僕は嬉しくなった。でも、がんばったけど、僕もそろそろ限界に近付いてた。

「唯那ちゃん・・・僕、もう限界だから・・・抜くよ・・・」
「あ・・・。今日、大丈夫な日だから、このまま・・・出して」
「でも・・・」
「今日が・・・初めての記念日だから・・・全部して・・・欲しいの」
「判ったよ、唯那ちゃん・・・うぁっ!」
「空也ちゃんっ・・・ああっ!」

 僕は、身体がどうにかなるんじゃないかってぐらいもの凄い快感に、身体を震わせてた。さっき出ちゃったのなんて、ぜんぜん違う・・・それぐらい気持ち良かった。
 唯那ちゃんに体重をかけないようにしてたのに、僕の体中から力が抜けて、唯那ちゃんに体を預けてしまった。そんな僕に、唯那ちゃんは優しく、頭や背中を撫でていてくれた。すごく、幸せだった・・・きっと、唯那ちゃんも。

- 5 -
 なんだか恥ずかしくて、ふたりとも俯いたままで服を着て、それでも落ち着かなくてきょろきょろしてた僕は、唯那ちゃんの勉強机の上に、短冊を見つけた。それも、やたらと古いものも、まだ書き込まれていないものも。
 唯那ちゃんがここに越して来てから、僕達は毎年、全部のイベントを一緒にすごしていた。だけど、七夕だけは、唯那ちゃんは僕に秘密を持ってた。短冊に、何を書いたかだけは、教えてくれなかったんだ。

「そう言えば、そろそろ七夕だね」
「うん・・・あたし、やっと、お願いが叶ったの・・・嬉しいな」
「お願いって、短冊に書いたやつ?もしかして、ここに置いてあるのがそうなの?」
「うん、見たい?」
「だって、今までずっと見せてくれなかったでしょ。見たいよ」
「えへへ。ちょっと恥ずかしいんだけど、空也ちゃんだから、いいよ」

 そう言って、唯那ちゃんは僕に短冊を見せてくれた。10枚の古い短冊。それは、唯那ちゃんと僕が初めて会ってから、毎年唯那ちゃんが想いを込めて作った短冊だった。

───だいすきな くうやちゃんと ずっと いっしょにいたいです───
───大すきな空也ちゃんの、およめさんになれますように───
───大好きな空也ちゃんと、いつもいっしょにいられますように───
───大好きな空也ちゃんと、いつもいっしょにいられますように───
───大好きな空也ちゃんと、いつまでもいっしょにいられますように───
───大好きな空也ちゃんと、あたしのことを大好きになってくれますように───
───大好きな空也ちゃんと、あたしのことを大好きになってくれますように───
───大好きな空也ちゃんと、すてきな恋人同士になれますように───
───大好きな空也ちゃんと、すてきな恋人同士になれますように───
───大好きな空也ちゃんと、すてきな恋人同士になれますように───

 それは、ずっと唯那ちゃんが僕だけを見ていてくれた事を、教えてくれた。僕の事だけを純粋に・・・。短冊を見詰める僕に、唯那ちゃんがもたれかかってきた。

「空也ちゃん・・・あたし、ずっとずっと好きだったんだよ。幼稚園の頃から・・・今も・・・これからも・・・。だから、空也ちゃんの恋人になれて、すごく嬉しいの」
「こんなに昔から?」
「うん・・・。人を本当に好きになるのに、年齢は関係無いと思う。運命の人に会えるかどうかだけで・・・。あたしはたまたま、運命の人に、幼稚園の時に会ったっていうだけだから」
「僕も、ずっと昔から・・・好きだよ。・・・これからも・・・」
「うん・・・大事にしてね、あたしのこと・・・空也ちゃん」

 ・
 ・
 ・

 僕は、暗くなって唯那ちゃんの家を出てから、自分の家に帰らずに、”サブリナ”さんのテントに向かって走っていた。時間も遅いし、今日はもう”サブリナ”さんはいないかも知れない。けど、僕は走り続けた。目的はただ一つ・・・唯那ちゃんを、元に戻して貰う事。出来れば、今日の記憶も無いほうがいい。
 唯那ちゃんの想いを知った今、僕はそうしなきゃいけないと思った。だって、あれ程望んでた恋人の関係を、他の人からただ与えてもらうなんて・・・。
 だから僕は走り続けた。息が苦しくても、足が痛くても。なんとしても、催眠術を解いてもらって・・・今度はちゃんと、告白するんだ。

───僕は、ずっと唯那ちゃんの事が好きでした。付き合って下さい。

 ただ、その一言を言う為に・・・唯那ちゃんの七夕の願いを叶える為に。
 11回目の七夕を、新しいふたりで迎える為に・・・。

< 終わり >

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