なみのおと、うみのあお 第4話 -恵-

第4話 -恵-

- 1 -

 ───へぇ。ちょっとカワイイ顔してるね。でも、性格はどうだか判らないけど───

 それが、そのコを見た最初の印象だった。私がバイト先のコスプレ喫茶に入ろうとした時、看板の横に貼ってある求人広告を、そのコは見てたんだ。少し洒落た今風の服装に、黒いリュック・・・顔も含めて85点位かな。
 普通はコスプレ喫茶の求人なんて、通りの真ん中で昼間から堂々と見るものじゃない。けど、そのコは別に気にしたふうでも無い。これは、顔はいいけどオタクか、羞恥心が欠けてるタイプか・・・それとも、かなり自分に自信を持ってるタイプかもしれない。

「ねぇ、君・・・ココでバイトしたいの?」

 こっちを向いた顔に、あれ?って書いてある。なんだか、私の事を知ってるみたいだ。でも、それは珍しい事じゃない。私は、客観的に見ても、結構有名なコスプレイヤーだとは思うし。
 私の名前は相馬恵。大学生だ。コスプレを始めたのは去年の夏から。結構、粘液質な視線が気持ち良かったんで、それ以降も続けてる。やっぱり、オンナはオトコに見られないと、ね。だから、バイトもコスプレ喫茶だったりする。
 人見知りしないらしく、すぐに普通の落ち着いた表情に戻って、カレは私に微笑んだ。

「はい・・・結構面白そうかなって、思って・・・」
「そう?でも、皿洗いがメインだよ?」
「ええ。でも、綺麗なお姉さんとお知り合いになれそうですし、ね」
「ふぅん・・・」

 やっぱり、一筋縄では行かない性格らしい。この笑顔は、自分の顔が他人にどう見えるかを理解している笑顔だ。でも・・・嫌いじゃないけどね、そういうの。

「じゃあ、店長の所に案内しようか?」
「はい。お願いします」

 にこ。そう微笑む顔は、そうと判っていても、魅力的に感じた。
 彼を伴って裏口から店に入ると、店内はそれなりに混んでる雰囲気があった。とは言っても、4人掛けのテーブルに2人だけしか座ってないっていうのもあるし、めちゃ混みって訳でもないと思う。だいたい20人ぐらいだろうか?
 ここに来るお客さんはほとんどが男性で、独特な雰囲気を発散している。実は、正直言って、最初はコワかった。今は慣れたし、逆に気持ち良いと感じるんだけど、ね。

「ココで、待っててね」
「はい」

 取り敢えず、従業員の休憩所の椅子に座らせた。珍しいのか、周りを見回している。確かにここには色んな衣装があるので、見てても面白いかも知れない。
 私は店長に事情を説明すると、更衣室で服を着替えた。今日の衣装は、胸元を強調したエプロンドレスだ。アンナミラーズの制服よりも、ちょっとえっちっぽいかも。全身が映る鏡で衣装の最終確認をして・・・おっと、危うく忘れる所だった。私は誰かに見せつけるように、スカートを持ち上げた。ちゃんとみせパン・・・スコートを付けている事を確認する。前に、カバンに細工してローアングルから撮影してた男が見つかって以来、店の規則になってるんだ。別に、私は構わないんだけどね。

 着替え終わって更衣室を出ると、店長が休憩所から出て来るところだった。頭の脂ぎったバーコードとぶつかりそうになって、慌てて避ける。

「あ、もう面接は終わったんですか?」
「ん?・・・うん、明日から来てもらう事になったよ」

 なんだか、店長はいつもよりぼんやりしてるみたいだ。寝起きみたいに反応が鈍い。まぁ、話すことなんて特に無いし、そのままフロアに向かおうとしたら、店長に呼び止められた。

「あ、相馬さん・・・先に、休憩所から、新しい衣装を持って来てくれないかな」
「新しい衣装ですか?」
「うん、すぐ判る所に置いてあるから・・・頼んだよ」
「はぁ・・・」

 そう言って立ち去る店長の背中を見ながら、私はなんだか釈然としないものを感じてた。店長の言う事だから逆らわなかったけど、自分が出てきたのが休憩所なのに、そこから衣装を持って来いっていうのは、なんだか変に感じるんだけど・・・。
 仕方なく、私は休憩所のドアを開けると、中に入った。そこには、面接が終わったはずの、さっきのコがいた。私を認めて、にこやかに微笑んだ。

「あら・・・キミ、まだいたんだ」
「はい・・・バイトは明日からですけど、やれる事は今日のうちにやっておこうと思いまして」
「やれる事?」

 私がそう訊ねると、カレはリュックからラジオみたいな形のカセットデッキを取り出した。いかにも昔の型で、スピーカーが付いている。

「はい。お姉さんに、この曲を聴いて貰おうと思いまして」
「なんで?」
「趣味と実益と実験の為、ですよ」

 そう言って、カレはプレイボタンを押した。

- 2 -

「ねぇ、恵。さっきから、ぼーっとしてない?・・・なんかあったの?」

 ふ、と見渡すと、私はキッチンとフロアの境目に立っていた。なんだか頭がぼぉっとして、今まで何してたか記憶に無い。

「ん?あ、ヨッコ。うん、なんでもない...。私、どれくらいぼ~っとしてた?」
「5分くらいじゃないかな」
「そう・・・」

 なんだか、考えるのが億劫なカンジ。まぁ、いいや・・・。気を抜くとまた、意識が飛んじゃいそうだし。
 体に、さっきまでの余韻・・・まるで海の底を漂うような、不思議とリラックスした気分が、まだ自分の中に残ってる。あれ?そのイメージって、なんのイメージだっけ?ふ、と・・・自分の考えが自分で判らなくなった。
 まぁ、いっかぁ・・・そうココロの中で呟いて、店内を見回した。
 店の中は珍しいことに、お客さんが少なかった。確かに、これくらい少なければ、少しぐらいぼーっとしてても、ヨッコに見逃して貰えるだろう。なんていうのか、まったりした雰囲気がフロアに漂ってる気がする。

「すいませ~ん」

 呼ばれて視線を向けると、さっきのカレが壁際の4人席に一人で陣取ってた。周りの席には人の姿が無く、そこだけ別の空間のようだ。カレが私の方を見て手を上げているので、愛想よく近寄る。カレの目の前には、ブレンドコーヒーが置いてあって、半分ぐらいに減ってた。

「お待たせしました」
「さっきはありがとうございました。バイトを始める前に、お客さんも経験しておこうと思って来てみました。結構、面白い雰囲気ですよね」

 ホントはお客さんとの長話は禁止されてるし、話す時は丁寧な言葉遣いでってキマリだけど、今度からバイト仲間になるからいいよね・・・そう思って、少し口調を変えた。

「ふふ。コミケほどじゃないけどね」
「僕、コミケって行った事が無いんですよ。楽しいですか?」

 無邪気な風でいて、笑っていない目。その眼差しに、反発と・・・なぜかぞくぞくするものを感じて、まるで蜘蛛の巣にかかった蝶のように、身動きできなくなった。自由になる唇を舌で湿らせて、ゆっくりと口を開いた。・・・何かを期待するみたいに。

「そうね、沢山の人がコスプレした私を見に来るのは、結構気持ちいいわよ」
「へぇ・・・」

 微妙に変わるカレの口調。ホントだったらあまりお客さんと話し込んじゃいけないのに、足が動かない・・・ううん、立ち去り難い何かを感じてた。
 きゅうっ・・・カレの唇の端がつりあがると、私の体を嬲るように、下から上に視線が動いた。まるで、目で犯されるようなカンジに、身体が震えた。嫌悪か、快感かは判らなかったけど。

「それじゃあ・・・」

 カレの手が、コーヒーカップの受け皿に置いてあるスプーンを手に取った。ゆっくりと私に見せ付けるように動かして、テーブルの下に手を入れる。

「たっぷり見せて下さいね」

 笑みを含んだ声と共に、スプーンが床に落ちる、硬質な音が響いた。スプーンは床の上を滑り、奥の方まで行ってしまった。

「あんな奥の方じゃあ、四つん這いにならなきゃ、手が届かないですね・・・見ててあげますから、スプーンを拾ってくださいね」

 別に、取り辛い場所に落ちたのなら、今拾う必要は無い・・・のだけれど、私はゆっくりと跪いた。カレの視線が、胸の谷間に集中するのが感じられる。

「あっ・・・」

 さっきと違い、今度ははっきりと快感を感じた。少しずつ、乳首が固く尖っていくのを感じる。カレの視線に胸が犯される・・・その熱さが、胸から身体全体に波及していった。足を開いてつま先とひざで身体を支えて、胸を突き出すように身体を仰け反らせた。

「はぁ・・・あ・・・」

 ここは店の中で、他にもお客さんも・・・バイトのコ達もいるのに、身体が止まらなくなってた。ダメなのに・・・そう思うほどに、身体が熱く痺れた。視界が歪むほど潤んだ瞳で、私は媚びるようにカレを見上げた。口を少し開いて、熱い息を吐いた。もっと・・・もっと見て欲しい。その思いが頭に満ちる。

「ねぇ、早く拾って下さいよ・・・店員さん」
「あ・・・は、はい」

 身体を前に倒して、両手と両ひざを床につけた。お尻を必要以上に高く突き上げて、少しずつ前に進む。カレの足の動きから、通路側に身体を移動させたのが判った。きっと、私のお尻を・・・アソコを後ろから見る為に。

「ふふ。そんなにお尻を高く上げると、パンツが丸見えですよ」
「だめ・・・お願い、見ないで・・・」

 ───お願い、もっと見て───

 言葉とは裏腹に、ぎりぎりまでひざを開いて、腰を入れるようにしてお尻をくいっと上げる。もう、スカートはめくれてしまって、スコートは全て見えてしまっていると思う。もしかしたら・・・厚目の生地のスコートも、恥かしいところが濡れてしまっているかも知れない。

「あ、他のお客さんも、こっちを見てますよ。恥かしい格好がばればれですね」
「いや・・・恥かしいの・・・」

 ───私の恥かしい所を、もっと───

 あと、10センチも進めば、落ちたスプーンに手が届きそう・・・。でも、それ以上前に進む事が出来なかった。
 私のアソコに集中する視線・・・カレが・・・店の中にいるお客さん達が、食い入るように見詰める視線が、ほとんど物理的な圧力を持って、私のアソコを刺激してる。

「どうしました?腰が、いやらしく動いてますよ?」
「そんなこと言っちゃ・・・いやぁ・・・ん」

 ───私の恥かしい姿を、見て───

 まるでえっちをしている最中みたいに、くいっ、くいっと動いていたお尻が、突然ぎゅっと掴まれた。指の跡が残るんじゃないかって位強く、ぎゅっと。

「あっ?あはぁ!」

 快楽に爛れた頭が、欲望に飢えた身体が、それを快感として受けとめた。思わずもれた喘ぎ声に、蒸発しかけている理性が指を咥えさせた。もっとなにかされたら、店中に聞こえるくらいの大声で喘いでしまいそうだった。

「ふふ。早く拾ってくれないと・・・弄っちゃいますよ」
「ふ!んぅっ!っ!!」

 ───もっと・・・もっと触って!───

 もう、ココがどこで、ナニをしてたかなんて、関係無かった。お尻の形を変える程に力を込めたカレの指が、スコート越しに視姦する視線が、私の頭を快楽で満たした。

 にちゃ。

 カレの指が、視線の集中する部分にあてがわれ、スコートの布地ごと私の中に押し入って来た。すでに濡れそぼったそこは、布が擦れる感触と一緒に、指を受け入れた。5ミリ・・・1センチ・・・スコートがそれ以上入らないと悟ると、今度は上下にぐりぐりと掻きまわした。十分に受け入れる準備が整ったそこは、布が擦りつけられるその刺激に、いっそう愛液を分泌した。

「ふぐっ!んんっ!んんんんんんんっ!」

 目の前で火花が飛び散るような感じが断続的に私を襲い、圧倒的な快楽が、私を絶頂に押し上げた。嵐の海で翻弄される小船のように、私は快楽にぐちゃぐちゃにされて、大きな声で絶頂を告げる嬌声を上げた。

 ───もう、どうなってもいい!───

 快楽の悦びが、私の意識を刈り取り、すぐに、目の前が暗くなった。

- 3 -

「ねぇ、恵。さっきから、ぼーっとしてない?・・・なんかあったの?」

 ふ、と見渡すと、私はキッチンとフロアの境目に立っていた。なんだか頭がぼぉっとしている。

「えっ?あ・・・あれ?」

 私はフロアを見渡したが、カレの姿は無かった。あの席には誰も座っていないし、コーヒーも置いてない。まさか、白昼夢を見ていたの?

「・・・ヨッコ・・・ううん、なんでもない...。私、どれくらいぼ~っとしてた?」
「5分くらいじゃないかな」
「そう・・・」

 なんだか怖くて、自分の身体を抱き締めた。すると、くちゅ・・・と、小さく濡れた音が下着から洩れた。この冷たい感触は確かなもの・・・だとしたら、妄想で下着を濡らしてしまったんだろうか?
 私はヨッコに断って、女子トイレに行く事にした。音を立てるほど濡れた下着を、そのまま穿き続けるわけにはいかない。せめて、ティッシュで水分くらいは拭いたかった。

「ひどい・・・こんなに・・・」

 様式の便座に腰掛けて、脱いだパンティを目の前で広げた。当たっている部分が濡れているなんてレベルではなく、水分が上の方まで伝わってしまっている。それどころかスコートも濡れていて、どれほど私が興奮していたのか、見せ付けられるようだった。こうして持っているだけで、個室にイヤらしい匂いが立ち込めた。

「・・・アレ・・・本当に夢だったの?」

 確かに、他のお客さんがいるところで、あんな事をする訳が・・・できる訳が無い。例えどんなに気持ち良くても。そう、私が注目を浴びるのが好きだからって、あんな露出狂みたいな事なんて・・・。

 ドクン。

 さっきの夢を思い出した瞬間、心臓が跳ね上がったように感じた。今更ながらに、自分が今、下着を穿いていない事を意識した。

 ドクンっ。

 さっきの夢で、カレに見られた身体・・・握られたお尻・・・指を突き入れられたアソコ・・・。今まで、セックスだってしたことあるし、オナニーだって気分次第でする。でも、あんな快感は今まで味わった事がなかった。

 ドクンっ!

 私の震える指が、開かれた足の間に伸びて行く。まるで自分で動かしてる気がしないまま、私はその指から目が離せなくなった。ココ、バイト先のトイレなのに?・・・でも・・・身体が・・・熱い・・・。

 ドクンっっ!

 指が2本、ゆっくりと中に入り込む。焦らすことも、愛撫も無く、ただ奥に向かって行く。熱く濡れたそこは、まるで侵入を食い止めるように・・・それとも、咥え込んで離さないように、指を締め付けた。自分の中で、指の感触が鮮明に感じられた。

「くふっ・・・いい・・・だめ・・・あぁん・・・」

 女性のイヤらしい声が、狭い女子トイレに小さく響いた。・・・私の声だ。そのイヤらしさに、身体がますます熱くなる。左手に持っていたパンティを口に咥えて、声が出ないようにした。口の中に、独特な味が・・・自分の蜜の味が広がった。口の端と鼻から大きく息をして、空いた左手も足の間に伸ばす。前後左右に掻き回す右手の動きに合わせて、左手でクリトリスを弄んだ。

「んむっ・・・んんぅっ!・・・うんぅっ・・・んっ!」

 いつもなら軽く撫でるように愛撫するのに、今は摘まんだり、ぐっと押し付けたりした。それぐらい刺激が無いと、物足りなくすら感じた。もう、止まらない・・・止められない。下半身から生じる感覚に、腰が何度も跳ね上がった。

「ふっ・・・ふむっ・・・んぐ・・・んぅっ・・・」

 目の前がちかちかする。快感の電気が背筋を走る度、閉じたまぶたの裏で、光が明滅する。一気に身体が絶頂へ駆け上がって行くのが判る。

「んっ・・・んぐっ・・・ふむぅ・・・んぅ、んんんんんんっ!」

 光が私を包むと、信じられない程に深い絶頂感が私を襲った。身体中がびくびくと痙攣し、パンティを咥えた口から、堪えようのない喘ぎが洩れた。もう、場所も状況もどうでも良くなって、断続的に湧き上がる絶頂感に悦びと幸せを感じながら、だんだん意識が薄れて行った。

- 4 -

 そして翌日。私は落ち着かない気持ちのまま大学の講義を受けて、今はバイト先へと向かっている。歩きながら何度考えても、昨日の私は変だったと思う。でも、変って判ってるのに、怖くなったり、不安には感じていない今の私も、十分に変なのかも知れない。ただ、バイト先へと向かう足が、何かに急き立てられるように早足になっていた。遠足に行く子供のように・・・。

 ・
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 店に着くと、看板が出ていない事に気が付いた。ドアには、『本日貸し切り』の張り紙があったけど、昨日はそんな話は聞いていないし、ドアの向こうも静かな雰囲気でなんだか変な感じがする。取り敢えず、中に入らないと何も判らないんだけど、ね。

「おはようございま~すっ」

 裏口を開けて少し小さな声で挨拶すると、従業員用の休憩所に入った。誰もいない。私物をロッカーにしまって、更衣室で着替えた。今日の衣装は・・・なにかのアニメだろうか、妙に短いスカートにスリットが深く入っていたり、脇腹や胸元が大きくカットされていたりと、肌の露出が多い服だった。昨日のエプロンドレスよりも、えっち度が高くなっている気がする。

「あれ?」

 服を脱いでいると、勢い余ってブラまで外している事に気が付いた。自分で脱いでおいて、今更気が付いたも無いのだけど。全身が映る鏡に自分の半裸の姿を映してみると、誇らしげな気持ちになった。形が良くてまったく垂れていない胸、引き締まって美しいラインを示すウエスト、大き過ぎず小さ過ぎず、思わず触りたくなるようなヒップ。
 なんだか悪戯をしているようにどきどきした気分で、そのままパンティだけの身体に衣装を纏った。ブラをしていないと何かにつけて胸が揺れるので、実はちょっぴり恥かしいんだけど、これもサービスって事で。
 あと、私の今日のパンティは結構派手なデザインなんだけど・・・まぁいいか、見たい人には見せてあげよう。スコートも穿かない事にする。
 着替えた途端、それまで感じていた違和感も気にならなくなって、上機嫌で鏡の前でポーズを取ってみた。胸を強調してみたり、背中を向けてみたり、屈んでお尻を突き出してみたり。うん、とっても似合ってる。これなら貸し切りのお客さんも喜んでくれるだろう。

「おはよう・・・え?」

 フロアに出ると、異様な雰囲気とレイアウトに、挨拶が途中で途切れた。この店は席と席の間に仕切りを立てて、自由にレイアウトを変えれるようにしているんだけど、今日は全ての仕切りが無くなっていた。テーブルやイスも、ほとんどが壁際に寄せられている。中央にイスが一つとテーブルが一つだけ残してあって、そのイスには、昨日のカレが座っていた。

「・・・な・・・どうしたの、これ?」

 近くに立ってたヨッコに聞いたけど、ぼんやりした薄笑いを浮かべて答えてくれなかった。見回してみると、他にもサキとマミがいたけど、同じ様な薄笑いを浮かべて、ぼんやりフロアに立っている。

「おはようございます、恵さん。こういう所って、時間に関係無く『おはようございます』が挨拶なんですね」

 にこやかに、カレがそう言った。昨日初めて会った時のカレではなく、白昼夢の中のカレだった。圧倒的な自信と、絶望的な影響力、そして・・・どんな事でも言う事を聞きたくなるような魅力。私は頭の中が真っ白になって、カレに向き直った。

「あなたは・・・?」
「あぁ、僕の名前はまだ教えてませんでしたね。相川諒一です、よろしくね、恵さん」
「あ、あの・・・」

 あまりにも異常な状態で、聞かなきゃいけない事がたくさんあるのに、何を聞いたらいいのか、浮かんでこなかった。自分でも意識しないまま、カレの方に近付いた。

「この店って可愛い人が多いから、僕のモノになってもらったんです。今日は、そのお祝いってコトで、ね」
「あなたのモノって、どういう事?」
「そのまんまの意味です。僕の思いのままになるモノ・・・そういう意味です。例えば・・・」

 そういうと、カレはぱちん、と指を鳴らした。少し気が抜けたようなその音に、私の背後で反応があった。

「あんっ!」
「い、いいっ!」
「ふあ・・・あぁん・・・」

 ヨッコ、サキ、マミの声だ。しかも、恋人に愛撫されているような気持ち良さと幸せが混ざり合った喘ぎ声・・・聞いているだけで私もぞくぞくしてくる。でも、普通こんな状況で、そんな声を出す訳が無い・・・私はゆっくり振り向いた。

「ヨッコ、サキ、マミ・・・あなた達、一体何を・・・」

 私は絶句してしまった。3人とも人目を気にせずにオナニーに耽っていたから。でも、それはオナニーといってもいいんだろうか?
 ヨッコは、脚を広げて座りながら両手を後について、腰を浮かせて揺すっている。まるで、見えない相手と向き合って結合しているみたいに。
 サキは壁に背を預けて、立ったまま腰を蠢かせていた。腕を胸の前で組んでいるその姿勢は、立ったまま結合している見えない相手に抱き付いているようだ。
 マミは、脚を広げて膝をついて、大きく腰をグラインドさせている。あれは、男の人に跨って繋がるやり方ではなかっただろうか?
 3人に共通している事は、まるでセックスしているような動きと、絶え間無い・・・快楽を告げる嬌声、幸せで気持ち良さそうな表情、異常で淫靡な光景に、私は目を離せなくなっていた。ブラをしていないのに、なんだか胸が締め付けられるように息苦しい。

「気持ち良くして、あげたんだよ・・・僕がね」

 そう言いながら、カレがまたぱちん、と指を鳴らした。3人が、更に昂ぶるのが見て取れた。そして、2度、3度と繰り返し指を鳴らす。3人とも、指が鳴らされる毎に、感じる快楽が激しくなっているようだった。
 ヨッコは呼吸をするのも忘れたように、口から震える舌を出して、黒目が完全に裏返ってしまっている。サキの腿の内側を伝うものは、あれは過剰の興奮に分泌された愛液だろうか?マミは腰の動きが緩慢になり、代わりに快楽を伝える術が他に無いというように、首を左右に振っている。汗の伝う頬に髪の毛が張り付いて、同性の私から見てもすごく色っぽい表情に見える。

「じゃあ、そろそろ『イカせてあげる』ね」

 そう言ってカレが指を鳴らすと、3人が同時に絶頂に達した。もう、意味すら読み取れない”声”を上げて、身体をがくがくと震わせ、紅潮した顔を仰け反らせて、その場に倒れ臥す。店内に、淫らな熱気が充満した。

 私は、事が終わるまでただ見ているだけだった。でも・・・身体の中で、熱いものが湧き上がるのが感じられた。

 ───私、あの悦びを知っている───

 そう、昨日の白昼夢は、本当にあった事だ。頭の中をどろどろに蕩かし、それ以外に何も考えられなくなる、暴力的で圧倒的な快楽。女だったら・・・ううん、人間なら逆らう事の出来ない甘美な悦び。私は、カレの方へ向きを変えた。

 ───でも、今はあのコ達みたいに、してもらってない───

 ゆっくり、一歩を踏み出した。私の方から。昨日の、見られるだけで滴るほど感じたあの快感を・・・求めて。歩を進める毎に、胸が揺れる。固くしこった乳首が衣装に擦れて、甘い痛みが身体中を駆け巡った。身体が、熱い。

 ───欲しい───

 カレなら、昨日と同じ・・・ううん、それ以上の事をしてくれるだろう。霞がかかったような頭で、そう、考えた。だって・・・。

 ───あの時からすでに、私はカレのモノだったから───

- 5 -

「りょ・・・諒一君・・・あの・・・」
「ふふっ、何を期待してるんですか?」

 言いよどむ私の言葉を遮るように、カレが笑みを浮かべて聞いた。相手の全てをその手に握った、絶対者の笑み。カレの方からは何もシテくれない、そのもどかしさに身体が焦れた。
 カレの手の届く所に立って、イスに座ったカレを見下ろしているけど、心情的にはカレに支配されている奴隷も同然だった。常識も現実感も希薄で、ただ快楽への渇望がココロに満ちている。

「イヤらしいですね、恵さんは」

 揶揄するように言うと、カレは手を伸ばして、衣装の上から私の乳首を指で摘まんだ。軽く摘まんでコリコリと弄ったり、ボタンみたいに押したり、乳首の付け根を指でなぞったり、指で弾いたり。

「やっ、あんっ、だめっ!・・・あくっ、それっ・・・ひっ!・・・あぁん」

 何かされる度に、えっちな悲鳴を上げさせられた。胸のてっぺんに電極を当てられたみたいに身体がビクビクと震えて、足に力が入らない。膝もガクガクして、立っているのに必死だった。立っていなければいけないという考えと、快楽で痺れそうになる身体との間で、頭が真っ白になっていった。

「こんなに乳首を固くして、触って欲しいんですよね?」
「はぁあ・・・そう・・・そうなのぉ・・・」

 自分が何を話しているか、良く判らなくなっていた。カレが弄るのを止めたのに、頭はいまだに朦朧としていて、口だけが勝手にカレにおもねる言葉を紡いでいた。

「スカートをめくって、僕にパンティを見せて下さい。たっぷり・・・見てあげますから」
「はぁ・・・みて・・・みて、ください・・・あぁん・・・」

 足を開いて、スカートをめくった。薄いピンクでフリルの飾りがついた、ハイレグっぽいパンティが良く見えるように。ただでさえ薄い生地だから、濡れて毛が見えているはず・・・もしかしたら、大事な所もすべて・・・。
 諒一君は、イスに腰掛けたまま、余裕の表情でパンティを見ている。興奮を表に出さないのに、見られているというだけで私の身体が熱くなる。

「パンティが濡れて、足首まで伝ってますよ。まるで、おもらししたみたいです。そんなにして欲しいんですか?」
「・・・。・・・はい・・・して・・・下さい・・・おねがい・・・犯して・・・」

 諒一君に聞かれた途端、頭の中に、ぐちゃぐちゃに犯されて、快楽に蕩ける自分の姿が浮かんだ。自分のイメージにすら嫉妬の感情が湧き上がる。もう、めちゃくちゃにして欲しくて、それ以外の事が考えられなくなって、懊悩に身悶えする。

「じゃあ、パンティを脱いで、こっちに来て下さい」
「は・・・はい・・・」

 言われるままに、立ったままパンティを脱いだ。パンティを床に落すと、ぺちゃ、と湿った音を立てた。顔を諒一君に向けると、カレも服を脱いでイスに座り直したところだった。屹立するカレのおちん○んから、眼が離せなくなった。頭の中が、握って、舐めて、挟んで、入れて、突きたてられる、そんなイメージで一杯になる。他の人のモノと、比較する気にはならなかった。もう、見た瞬間から、諒一君のモノしか考えられなくて。

「はぁあ・・・」

 自分で吐いた溜息が、まるで発情したイヌのそれのように耳に響く。もう、恥かしいなんて考えるだけの余裕も無いけど。諒一君の手が私の腰を掴んで、カレにだっこされる形で座らせた。背後から手を回されて、衣装の上から両方の胸を、ぎゅっと掴まれた。そのまま、激しく揉みしだかれた。

「あっ、あっ!ひんっ!・・・あくっ!」

 恥かしいくらいに固くなった乳首が衣装を押し上げ、揉まれる度に擦れて、胸全体が熱く感じた。このまま続けられたら、胸だけでイってしまいそうだった。だけど・・・。

「あうっ、あ、あつっ!!」

 私の濡れたアソコに、諒一君のアレが当たった。胸の刺激に夢中になっていた私は、突然の不意打ちに、思わず悲鳴をあげていた。それまで諒一君が深く座っていたので当たらなかったのが、私が悶えて姿勢を変えた瞬間、割れ目に沿うように当たったらしい。
 私は震える手を伸ばして、スカートをめくった。まるで私に付いているようなおちん○んに、生唾を飲み込むと、指で触れた。触れた瞬間に、あまりの熱さに手を離したけど、その熱さを感じたくて、また手を伸ばした。

「ああ・・・」

 先端部分を指でなぞり、大きく張り出した所を摘まむように弄る。お尻の下で、諒一君の腹筋がびくっとするのが感じられた。

 ───諒一君も感じるんだ・・・嬉しい・・・───

 もっと気持ち良くなって欲しくて、今度は私の割れ目を押し付けた。不自然な姿勢で身動き取れなかったけど、なんとか足を踏ん張って、腰を上下させる。みるみるうちに、私の愛液でおちん○んが濡れてきた。同時に、私も我慢の限界に達っする。

「ねぇっ、お・・・おねがい・・・これ、これっ、ほしいのっ!」
「”これ”じゃ判りませんよ。ん・・・もっと、判りやすく言って下さい」
「お・・・おちん○んっ!おちん○ん、いれてっ!ここっ!ここにほしいのっ!」
「はしたないなぁ、恵さんって。いいですよ。たっぷり・・・犯してあげます」

 そういうと、諒一君は私の腰を両手で掴んで、少し腰を浮かせた。雄々しく反り返ったカレのおちん○んが、私の入り口に当たるように、狙いを付けられた。

「お・・・おねがいっ、はや・・・はやくぅっ!」

 諒一君が意地悪して、先端が入る直前で腰を固定した。飢餓感で、頭が沸騰したように、挿入すること以外考えられなくなる。私のアソコを押し分け、いっぱいに満たしてくれるモノ・・・欲しくて欲しくて、涙が流れた。

「いやっ、意地悪しないで、おねがいっ・・・気が、くるっちゃうぅ・・・」
「ふふっ、味わって・・・下さいねっ」

 そう言うと、諒一君は私の身体を下ろした。熱くて硬い、灼熱の棒が突き入れられる感触に、息もできなくなって身体を震えさせた。私の中を満たす充足感と、一番奥に受ける圧迫感・・・脳裏に星が瞬いて、入れられただけで達した。

「3人とも、見てるだけじゃなくて、恵さんを気持ち良くさせてあげてよ・・・そうすると、自分も気持ち良くなれるから、さ」

 諒一君のその言葉に、ヨッコ、サキ、マミがふらりと立ち上がった。さっきの余韻に目を潤ませ、顔どころか身体全体を紅く染めて、私目掛けて歩いてくる。

「あ・・・やめて・・・これいじょうされたら、しんじゃ・・・きゃうっ!」

 哀願する私の言葉を途中で遮るように、諒一君が腰を揺すった。私の中が擦られて、身体中に快楽の電気が駆け巡る。気持ち良さに身体中が弛緩して、涙や涎が顔を伝うのが感じられた。
 ぺちゃ。驚く程近くでそんな音がして、ぬるっとした感触が頬から顎にかけて感じられた。ヨッコが、舌を伸ばして涙の跡をなぞってる。気持ち良くて、ぞくぞくした。

「ひっ、だめ・・・ヨッコ・・・あぅんっ!」
「うふふ、めぐみぃ・・・きもち、いいでしょ・・・んぅ」

 嬲るようにちろちろと唇の端を舐めていたヨッコが、そのまま唇をずらせてディープキスしてきた。初めて味わう、同性の柔らかい唇の感触に陶然とした私の口の中に、熱くて甘い唾液と一緒に舌が入り込んで来た。その気持ち良さに、自分から舌を絡めた。淫らな嬌声が、私の喉の奥で蕩けた。

「・・・!」

 自然と眼を閉じていたのが、突然の衝撃に眼を見開いた。マミが私の左胸を下から救い上げるようにして、痛くなるほど尖った先端を右手の指と唇で弄んでいる。
 サキは、私の足の間に顔を寄せて来ている。目指しているのは、私と諒一君が繋がってる場所の上・・・驚く程大きく顔を出したクリトリスだった。腿の間に挟まってそれ以上顔を寄せられなくなると、必死に舌を伸ばして、まるでアイスクリームを舐めるように根元から上に向かって舐め上げた。そのまま、クリトリスを押し潰したり、舌の裏で舐め下ろしたり、とても初めてとは思えないようなテクニックを駆使する。

「あふ・・・すてきよ、めぐみ・・・」
「あっ、あっ、あっ!だめ!また、またっ!ひあっ!・・・え?うぁあ、とま・・・とまらないよぉっ!!ひあっ!ああんっ!」

 ヨッコが唇を離して、耳元に息を吹きかけながら愛撫した。もう、頭の中が朦朧として、自分でも何を言っているのか判らないまま、喘ぎ声が止まらなくなった。身体中をいろいろな快感が満たして、まるで全身が性器になったように感じられる。
 その中でも特に私の身体を支配するもの・・・アソコを串刺しにした諒一君のアレが、3人の動きに合わせて、抽送を再開した。私の身体ごと突き上げて、より深く突き刺す。一番奥をぐりぐりと刺激して、その都度ずぅんと意識が刈り取られそうな快楽を生み出す。

「んぅっ!あ、ああっ!当たる、当たるのぉっ・・・おく、いいっ!!」
「ふふ、恵さんの中も、きゅっと締め付けて気持ち良いですよ。・・・ん・・・そろそろイキますから、みんなも激しくイッて下さいね」

 諒一君の腰の動きが激しくなった。私の揺さぶられる身体に3人とも必死で群がり、私を愛撫する事で自分達も快楽を感じている。ぴちゃぴちゃと恥かしい音をアソコから撒き散らしながら、私は一突きごとに小さく連続して絶頂に達してた。私達の喘ぎが混ざり合い高まって行く。更なる高みを目指して。

「んっ!」

 諒一君のそんな声と一緒に、私の中のアレが膨らみ、熱い精を放つのが感じられた。その熱さに、全身が焼き尽くされる気がして、でももっと奥に欲しくて、自然と身体を仰け反らせて深く受け入れる。もう、喘ぎなんてレベルじゃあこの快感を表現できなくて、無意識のうちに誰もが身体を熱くさせるような、淫らな叫び声になる。

「うぅあああああああっ、いくっ!いくいくっ!!ああっ、あああああああっ!!」

 身体がバラバラにされるような圧倒的な絶頂感が暫く続いて、電池がプツっときれるように、何も感じられなくなった。ゆっくりと・・・深い悦びと幸せの海に、意識が沈んで行く・・・。

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 今日も、お客さんの入りは結構いい。えっちなコスチュームが当たり前になった効果だと思う。ノーブラは当たり前、身体の線や、乳首の位置まで判るようなボディコンシャスな衣装や、パンティを見せる為としか思えないコスチュームまで、お客さんが喜びそうなものは、大量に揃えてある。
 しかも、私から見ても可愛い系や美人系のコをたくさん用意して、いつでも発情したような妖しい表情で、お客さんに惜しみない媚態を晒すんだから、喜ばないはずがないと思う。その分、料金は高いけど、ね。

 もちろん、風俗の一歩手前というより、もろに踏み入れてるような気がするけど、その場合の対処も考えられている。この店のプランナー、諒一君の置いていった『海の記憶』だ。これを使って、警察・やくざの撃退から、新人発掘・確保までするように命じられている。ちなみに、この場合の新人は諒一君の”モノ”という意味だ。この店は、諒一君の命令ならなんでも出来る、そういう人材で構成されている。これからも、ずっと。
 私は、くすくすと小さく笑った。この店と諒一君の事を考えると、つい『秘密基地』という単語が浮かんで、なんだか可笑しくなってしまうから。もちろん、カレは指令などでは無いし、私達も隊員では無い。カレがご主人さまで、私達が忠実な奴隷なのだから。誇らしげな気持ちで、そう、思う。

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 時刻は夕方の6時。今日はカレが遊びに来ると言っていたので、看板は早い時間に片して、ドアには『本日貸し切り』の張り紙をつけてある。今はお客さんもみんな帰って、諒一君を迎える為のパーティの準備も終わったところだ。
 みんな、そわそわしているのが空気で判る。ご主人さまに早く会いたくて、喜びを押さえきれないんだろう。私だってそうなのだから。
 今日は、パーティという事もあって、みんなで衣装を統一している。ふわふわしたミニのスカートの黒いメイド服で、膝まであるルーズソックスとお尻から生えてる尻尾、頭に付けたネコミミがワンポイント。
 このコスチュームは、派手な雰囲気で美人なヨッコや、おしとやかで妹みたいに可愛いマミにも等しく似合うから不思議だ。もちろん、私にも。

 から・・・ん。ドアが涼しげな音で、諒一君が来た事を告げる。みんながドアの前で並び待つ中、私が代表して挨拶した。

「いらっしゃいませ、諒一君っ」

 そう言って、カレの目の前で足を開きながら、微笑んでスカートをたくし上げた。悦びと期待に濡れて、蜜を滴らせるアソコを見てもらう為に。

< 続く >

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