EDEN 第3章

- Dark Side of EDEN vol.3 -

 日曜日、ぼくは清々しい気分で目を覚ました。朝の澄んだ空気の中、ベッドから体を起こすと部屋の窓を開けた。今日も良い天気で、館の周りの木々も、葉の一枚一枚に生気が漲っているように見えた。腕時計を見ると、かなたとの約束の時間まで、かなり余裕がある。今のうちに、朝食とシャワーを済ませる事にした。先にシャワーを浴びて、髭を当たっていると、昨日のかなたの唇の感触や、滑らかな体の肌触りが思い出された。自然と、自分の分身が熱を持つのが感じられた。ぼくは苦笑すると、顔に残る泡を洗い流した。今日は何を試してみようかと考えながら。

 考えてみたら、かなたが館に来てから街を案内するという事は、かなたは来た道を引き返さなければいけないので、あまり効率的じゃない。 ぼくは途中で合流する為に、早目に館を出る事にした。
 ぼくは戸締りしてまわると、門を出た。事前にかなたに携帯の番号を聞いておけば良かったのだけど、どうせ道は一本だけだし、すれ違うことはないだろう。ぼくは門の所で振り返ると、館を見上げた。その建築されてからの時間を感じさせない綺麗な外観を見て、ぼくは疑問を感じた。祖父がこの館を建設したのはぼくが生まれる前だったはずで、少なくともぼくが物心ついてから、改装工事をしたという話は聞いた事がない。汚れの無い壁にツタだけが絡まって、それだけが館の辿ってきた時間を主張しているようだった。もしかしたら、祖父の特殊な発明品が応用されているのかもしれない。ぼくは、時間が空いたら、祖父の館を徹底的に探索する事を決めた。まだ時間はあるのだから。

 木に囲まれた道を街に向かって歩いていくと、前の方からかなたが歩いてくるのが見えた。今日は、春めいたミニスカートに、薄めのセーターを着ている。手には、小物を入れる為だろうか、バッグを下げていた。ぼくが手を振ると、かなたも気が付いてこちらに手を振った。ぼくが歩いて来た理由を話すと、かなたは嬉しそうに微笑みながら、ぼくの腕に自分の腕を絡ませた。胸を押し付けるように体を寄せたかなたを意識しながら、ぼく達は街へと歩いていった。かなたのバッグのアクセサリーの鈴が、ぼく達の歩調に合わせて涼しげな音を奏でた。

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 街を案内してもらっているうちに、映画館を見つけた。今日は前評判の良くないホラーを上映している。ぼくはホラー映画は嫌いではないのだけど、この映画は見る気にならなかった。でも、ふとぼくは悪戯を思いつき、かなたを誘って映画館に入る事にした。

「ぼくが奢るから、この映画を見て行こうよ」
「ホラー、ですか?」
「うん。楽しめると思うよ。ものすごくね」
「あ...は...はい...」

 人気が無い映画だからだろうか、館内には人はまばらで、空席も目立った。ぼくはかなたと後ろの方の左端の席に並んで座った。近くには誰も座っていないし、入り口からも遠いので、誰かがそばに来るという事もないだろう。かなたはぼくの思惑に気が付いているのか、恥ずかしそうにもじもじしていた。時たま周りを見渡して、ぼくと視線があうと、顔を赤くして俯く様子が、とても可愛らしかった。
 場内が暗くなってから暫く映画を見ていたが、前評判通りというか、あまりにつまらない内容にぼくは考えていた悪戯を実行する事にした。映画を見ているかなたの耳元に口を寄せると、絶対の言葉を囁いた。

「かなた、『催眠状態』になるんだ」

 ぼくの言葉に、一瞬体を強張らせたかなたは、次の瞬間には深い催眠状態に入り込んでいた。スクリーンに顔を向けたまま、何もその瞳には映してしないかなたの表情は、ぼくを興奮させた。ぼくは、さっきから考えていた暗示をかなたの耳元で囁いた。

「かなた...。君はこれからぼくの右手から目が離せなくなる。そして、ぼくの手の動きを、君の体は実際に触られていると感じるんだ...。でも、どんなに気持ち良くなっても、声を出す事はできない。いいね、かなた。始めるよ」

 ぼくは、かなたの肩を左腕で抱くと、右手をかなたの目の前に出した。五指を軽く開き、掌を上に向ける。かなたの耳元に口を寄せると、ぼくは囁いた。

「今から君のあそこに触るよ...。ほら、中指で君のあそこを上下に擦ってる。凄く気持ち良くなってくるよ。あそこが熱くなって、それが全身に広がって行くんだ」

 かなたの足が開いて来て、ぼくの指の動きに合わせる様に、腰が蠢き始めていた。半開きの唇からは震える舌が踊り、喘ぎとも言えない程度の呼吸音が聞こえていた。肘掛を必死に掴みながら、かなたはぼくの指の動きに釘付けになっていた。ぼくは、中指を立てる様にして、上下に手を動かした。

「さぁ、中指が君の中に入っていくよ。きみの濡れたあそこは、何の抵抗も無くぼくの指を受け入れている。熱い君の中の壁が、ぼくの指を包み込んで、優しく締め上げてる。ぼくの指を感じるだろう?」

 かなたはがくがくと頷きながら、指の動きから連想される快感に、一回目の絶頂に達した。悲鳴を上げる様に口を大きく開き、仰け反っていた。かなたから、汗と愛液の独特の匂いが漂ってきたけど、ぼくには心地良い香りに感じられた。それに、それだけ気持ち良くなってくれた事に、嬉しく思った。ぼくは、ぼくの肩に頭を預けたかなたの呼吸が緩やかになるのを見計らって、続きをする事にした。親指、人差し指、中指を立てて、薬指と小指を折り畳む。

「かなた、ぼくの手を見るんだ。続けるよ...。今度は、親指の腹がクリトリスを触ってるよ...親指はかなたの愛液で濡れてて、クリトリスに快感を与えてくれる...とても気持ちいいだろう?」

 かなたは潤んだ瞳でぼくの親指の動きを追い掛け、頷いた。汗に濡れて紅潮した頬に髪が数本張り付き、妖艶な表情となっていた。ぼくはぞくぞくしながら、指を追加した。

「次は人差し指だよ...。また、君の中に入って行く。クリトリスからの快感と混ざり合って、とても気持ち良い...。でも、まだだよ...。今度は、中指が...君のお尻の穴の入り口を、刺激してる...あそこで感じる快感とは違う、不思議な感じだ...でも、嫌いじゃない...それどころか、かなたはこの感じが好きになりそうだよ。...さぁ、ぼくの指で気持ち良くなるんだ!」

 ぼくは、3本の指を激しく動かした。抜き差しするように上下に、突起の根元を嬲るように左右に、当たる位置を変えるようにひねって。かなたは両手で自分の胸を服の上から鷲掴みにすると、体を仰け反らせた。力一杯握られた胸は、快楽を得る為というよりも、苦痛のあまり自傷行為に走る人の行動に似ていた。そろそろ終わらせてあげることにする。

「かなた。これから中指を君のアナルに潜り込ませるよ。その刺激に、君は激しイってしまうんだ。3つ数えたら入れるよ。...1...2...3!」
「っ!!」

 食入る様にぼくの指を見詰めていたかなたは、ぼくが数を数え終えると、体中を激しく痙攣されて、そのまま意識を無くしてしまった。
ぼくは、かなたの額に張り付いた髪の毛をそっと払った。周りを見渡しても、ぼく達に気が付いている人はいないようだ。ぼくはそのまま、かなたの肩を抱きながら、彼女の幸せそうな寝顔を映画が終わるまで眺めていた。

 スタッフロールも終わり、場内から人が出て行くのを見て、かなたを起こすことにした。さすがに2回目に突入するのは辛いものがあるし...。それにぼくの肩に頭を預けているかなたは、映画のつまらなさに熟睡している様に見えて、実際出口に向かう人の中には、かなたを見て笑っている人もいる。

「かなた、起きて。そろそろここを出るよ」
「んぅ...」

 幸せそうな顔をして、かなたはぼくの胸に顔を寄せると、すりすりと頬をこすりつけながら、子猫のような声を出した。ぼくは、かなたの耳から頬にかけて撫でると、もう一度声をかけた。

「ほら...起きて、かなた...。もう、誰もいないよ...」
「...ん...あっ...私、寝ちゃいましたね...。あの、ごめんなさいっ」
「いいよ。かなたの寝顔、可愛かったし」
「あ...恥ずかしい...」

 顔を赤らめ、恥ずかしそうにうつむく彼女を、なんだか幸せな気分で見ながら、ぼくは立ち上がった。かなたの手を取り、彼女も立たせる。

「あっ!」

 かなたは、自分のお尻に手をやると、泣きそうな顔でぼくを見上げた。その手の方を見て、視線の先の座席から、ぼくは理由が判った。かなたの愛液で、座席が濡れていた。座席が濡れるのなら、当然スカートも濡れているのだろう。

「私...どうしましょう...。これじゃ、外に出られません...」
「...ぼくのセーターを腰に巻きつけてみようか。それで、お尻は隠せると思うよ。...うん、大丈夫。」
「あの...目だったりしませんか?」
「うん...服ともミスマッチっていう訳でもないし、大丈夫」
「ご迷惑をお掛けして、済みません...。」
「...。君が謝る事じゃない...と、思うよ」

 ぼくは、かなたの腕を取ると、出口に向かって歩き始めた。何故だか、胸の内側でもやもやするものを感じていた。それは、罪悪感なのかも知れない。ぼくがしていることは、どう考えても犯罪なのだから。かなたに謝られると、それが本心と感じられる程に、ぼくの心を疼かせた。

 その後、ぼく達は食事を済ませて、街を見て回った。意外だったのは、娯楽施設が充実している事だろうか。大抵の遊びは、この街でできそうだった。取り敢えず今晩の夕飯の材料を仕入れると、ぼく達は早目に館に戻る事にした。
 昨日のお礼も兼ねて、夕飯はかなたが作ってくれるというので、ぼくはハンバーグをリクエストした。そうお願いした時のかなたは、一瞬きょとんとした顔をして、その後くすくすと笑いだした。ぼく位の歳でハンバーグが好物というのは、子供っぽいのかも知れない。小さく笑う彼女の前で、ぼくは照れ隠しにそっぽを向いていた。

 ぼくが材料を持って、彼女と腕を組んで館への道を歩いていると、本当にこの道は誰も通らない事が良く判った。誰の姿も見かけないまま2人で歩いていると、周りを囲む木々がまるで迷路のようだった。2人っきりという事を意識すると、とたんにぼくの左腕に当たるかなたの胸が、生々しく感じられた。ぼくは、方向転換して、森の中に入っていった。自然と歩調を合わせてついて来るかなたは、少し顔を赤らめて、ぼくの考えている事に気が付いているらしかった。少しうつむきながら、それでもぼくから離れないのは、彼女も期待しているのだろうか?ぼく達はそのまま、道から見えないところまで歩いていった。

「少し、お花見して行こうか」
「え?...はい...」

 ぼくがそう言うと、かなたは俯きながら頷いた。ぼくは、周りを見渡して、誰もいない事を確認してから、かなたにキスをした。最初は唇が触れ合う程度の軽いキスから始まり、次第に啄ばむように、舌を絡ませあうようにだんだん刺激を強くしていった。ぼくもかなたもそれほど経験が無いので、その舌の動きは稚拙と言っても良いくらいだったけど、それでも凄く気持ち良く感じられた。かなたもうっとりとして、ぼくの背に手を廻して、応じてくれていた。ぼくはしばらく快感を堪能すると、かなたから身を離した。ぼんやりしたかなたの目に視線を合わせるようにして、絶対の言葉を囁いた。

「さぁ、『催眠状態』になるんだ」

 ぼくは、近くに食材とかなたのバッグを置いて、これからどうするかを考えた。実際のところ、映画館でのかなたがとても可愛かったので、ぼくも早く一緒に気持ち良くなりたいのだけど、ただするだけしてお終いでは芸が無い。たまたま近くに座るのにちょうどいい大きさの石があったので、そこに腰掛けるとかなたを見上げた。午後の明るい陽射しの中、微風に髪をなびかせて、虚ろな瞳で立っているかなたは、とても美しかった。ぼくは、もっと良く見たくなって、かなたに服を脱いでもらう事にした。

「かなた...服を脱いで、ぼくに渡すんだ。大丈夫。ここには他の人は来ない...」
「...はい...雄一さん...」

 かなたはためらわずに服を脱ぎ出した。ぼくはひとつひとつ受け取ると、汚れないように食材の袋の上に畳んで置いた。そうして産まれたままの姿で、かなたはぼくに向き直った。広いところで裸をさらすかなたを見ると、日常から切り離された様な、不思議な違和感を感じた。まるで夢を見ているような曖昧さというか...。でも、かなたのしみひとつ無い裸身は、本当に夢のような美しさだった。ぼくは、さらに暗示を与えた。

「今、かなたの両手に風船を付けたよ。だんだん腕が上がっていく...ぜんぜん辛くない...ふわふわしていい気持ちだ...そう、手が頭の上に上がって、そこで手は止まる...」

 かなたはすべすべした脇をさらして、腕を頭の上で、手首を触れ合わせるようにして上げた。かなたが顔に苦痛を浮かべていないことを確認して、次に進む事にする。その時、かなたのバッグの鈴が、風に揺られてちりんと鳴った。その音で、ぼくは面白そうなことを思い付いた。さっそく試すことにした。

「昨日、ぼくとかなたはセックスしたよね。ぼくのあれがかなたの中に入って、ものすごく気持ち良かった...そうだね?」
「...はい」
「いまからぼくのを君の中に入れるよ...だんだん入って行く...どんな感じがする?素直にぼくに教えてくれるかい?」
「あぁ...ゆぅいちさんのが...押し広げて...入ってきて...。息苦しいんですけど...あそこが...からだ中が熱くなって...きもち...いい...です...ふぁ...とっても...」
「そう、良かった。...でも、もっと気持ち良くなってね。...これからこの鈴が鳴る毎に、君の中のぼくのあれが、前後に動いて君を気持ち良くする...とても、ね」

 ぼくの目の前で、かなたの体が小刻みに震えている。体が紅潮し、腿を愛液が伝うのが見えた。ぼくは、鈴を鳴らした。

「うぁあっっ!」

 かなたの腰が跳ね上り、胸が慎ましやかに揺れた。バランスを取る為だろうか、少し開いた足が、まるで痙攣しているかのように震えている。でも、経験の少ないぼくにも、それらが快感を示す信号であることが判った。

「さぁ、続けていくよ」
「はっんぅっ!...あっあっ...あんっ!」

 鈴を鳴らすぼく。その都度激しく反応するかなた。ぼくは、石に腰掛けながら、かなたのまるで踊っているようなよがる姿を見詰めていた。かなたの喘ぎが切羽詰ってくるのを見計らって、ぼくは鈴を鳴らす間隔を短くしていった。

「あっああぁ...ふぁ...だめっ...あああああぁああっ!」

 かなたがイった瞬間、2度、3度と潮が吹き出すのが見えた。本当だったらそのまま倒れ込んでもおかしくないと思うのだけど、ぼくが与えた暗示のせいか、かなたは手を上に上げたまま立っていた。さすがに辛そうに思えたので、ぼくはかなたから風船の暗示を外すことにした。

「かなた、今から君の手についてる風船を外すよ。3つ数えると、風船はかなたの手から外れて、君は手を自由に動かせるようになる...1つ、2つ、3つ...もう大丈夫だよ」
「はぁあ...。」

 風船の暗示を解くと同時に、かなたはぼくに倒れる様にもたれかかってきた。ぼくが抱き止めると、かなたはまるで泣き濡れたような瞳をぼくに向け、キスしてきた。激しく積極的に舌を絡ませてくるかなたに、ぼくも応じた。ぼく自身も、かなたの姿を見て、かなり高ぶっていた。そうして暫く息が苦しくなるまでキスして、ぼくはかなたから離れた。少し恥ずかしかったけど、ズボンを脱いで石の上に置いた。自分の分身にすばやくコンドームを装着すると、ズボンの上に座って、かなたを見上げた。

「さぁ、おいで...。自分で入れるんだ。...一緒に...気持ち良くなろう」
「はい...」
「大丈夫、痛くないよ...。気持ち良くて、何度でもイケる...。それに、ぼくがイク瞬間に、君もすごく気持ち良くなる事が出来る...さぁ...」
「...んっ!...ふ...あぁ...あっ...あつぅい...」

 ぼくと向き合う様にして、かなたは腰を下ろしていった。途中でぼくのものを柔らかく握り、自分の秘裂にあてがい、ゆっくりと入れて行く。まるでぼくの分身の感触を味わうかのように、目を閉じて快楽の吐息を吐きながら...。
 ぼく自身も、かなたの中の熱さと感触に下唇を噛み締めて耐えた。もう、何回か入れているけど、その快感は鈍化する事無く...それどころか、さらに鋭敏になったようだった。襞の感触や締め付けてくる位置、まるで違うものでも入っているかのように感触の違う部分...それらから与えられる快感はぼくの分身だけでなく、体中を痺れさせた。

「うあ...すごいよ、かなた...」
「ひんっ...あぁ...ゆぅ...ゆういちさんっ...わたしもぉっ!」
「さぁ、動いて、かなた」
「はっ...はい...。んあっ...きっ...気持ちいいのぉ...死んじゃう...こんな...すごいのっ!...ふぁあっ!」

 かなたはぎこちなく、腰を上下に動かし始めた。ぼくの頭を胸に抱え込むようにして、最初はゆっくりと、だんだん激しく。ぼくもされるだけではなく、かなたの腰を落とす瞬間に合わせるように腰を突き出したり、胸をこねるように揉みしだいたり、乳首にキスしたりした。かなたの喘ぎが激しくなり、何度も絶頂に達しているようだった。達する毎にかなたの中はきつく締め付け、ぼくも耐えるのに必死になった。それも限界に近付く。

「...はっ...か...かなた...そろそろ...イクよ...」
「あはっ...わっ...わたしも...もぉっ!...来てっ!...来て下さいっ!...あぁっ!」
「ぼくがイクとき...今までで...いちばん気持ち良く...なるっ!...うぁっ!」
「あっ...ゆっ...ゆぅいちさんっ...うぁ...あぁああぁあっ!」

 ぼくとかなたは、そのまましばらく抱き合ったまま、息が落ち着くのを待った。どちらからともなくキスをする。

「...しあわせ...です...」

 かなたがそう呟いてぼくの胸に頭を預けた時、ぼくもその幸せを共有できたと...素直に信じられた。ぼくも今この瞬間に、泣きたくなる程の幸せを感じてたから。ずっと、このままでいられればいい、そう思った。...けど。

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 ぱきっ。そんな何かを踏み割るような音がして、ぼくとかなたは驚愕してそちらに目を向けた。まさか人に見られた?ぼくは瞬間的に冷水を背中にかけられたように感じた。ぼくはともかく、かなたは全裸で、その上まだつながったままでいる。
 そこには、まだ高校生ぐらいの女の子が立っていた。顔を真っ赤にして、逃げる事も出来ない様子で立ち竦んでいる。ぼく達は、どんなリアクションを取るのがいいかも判らなくなっていた。そんな中、一番最初に動いたのは、かなただった。

「...ゆか...ちゃん...。...どうして...?」
「あ...ぼく...かなたちゃんがこっちに行くのが見えたから...あの...ごめんなさいっ」
「あ...ゆかちゃんっ!」

 きびすを返して走り去る彼女---ゆかさんといったか---を見ながら、ぼくはまだ立ち直れずにいて、足が速くて元気なコだな...などと呆然と考えていたけど、耳に入ってきたかなたの嗚咽に我に返った。

「わたし...わたし...どうしようっ...ゆかちゃんに見られちゃった...。」
「かなた...落ち着いて...。取り敢えず服を着よう。ゆかちゃんのことは、それから考えても遅くないから...ね?」
「ひぅ...はい...」

 それからぼく達は館に戻ったけど、結局かなたはすぐ帰る事になった。顔色は蒼白で、どう考えてもショックから抜け切れていないのが判った。かなたを家まで送る間中、ぼくはかなたの手を握って大丈夫と言い続けたけど、それが無責任な言葉である事が、言っているぼく自身が...聞いているかなたも判っていたと思う。結局ぼくは何も有効な事を思い付かないまま、かなたの家まで付いてしまった。

「あの...今日は中途半端になってしまって、済みませんでした」
「いや、今日の事は全てぼくの責任だよ...本当にごめん...」
「いいえ...ゆかちゃんは私の友達だから...私が話して全て良い様に収めます。...大丈夫ですよ...ゆかちゃんはいい子だから...きっと...」
「...」

 そう言いながら、なんとかぼくに微笑んでみせる彼女に、ぼくはまた胸がもやもやするのを感じた。それが理不尽な想いと判っていながら...。この場所では抱きしめてあげる事も、キスする事も出来ない。だからぼくは微笑んだ。胸に広がる無力感を自覚しながら、今のぼくにはそれしか出来なかったから。
 館に戻って来ると、ぼくは何もする気になれず、そのままベッドの上に座り込んだ。窓の外から、遠くに街の明かりが見える。ぼくはその日、この館に来てから初めて、眠れない夜を過ごした。

< 続く >

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