ニャルフェス 第4話 ニャルフェスの謎(中編)

第四話 ニャルフェスの謎(中編)

『玲子の場合』

“なにをいっているのだろう? このひからびた老人は?”
 氷川玲子は、美しい瞳をわずかに曇らせた。
 両親……いや氷川家の推し進めてきた縁談を断った結果がこれである。
「まったく、おまえはなんということをしてくれたんじゃ!」
 みごとにはげあがった頭に血管を浮かび上がらせて、その老人はわめいている。
 老人の名を氷川玄三という。
 戦後の騒乱の時代に、一代で氷川財閥を作り上げた男であった。
「さんざん我侭ばかり言いおって、今度と言う今度はつくづくあきれ果てたわ!」
 どんどん玄三のどなり声は大きくなってくる。
 それにともなって、玲子の美しき氷像のごとき美貌はからは、感情というものが抜け落ちてゆく。
「いいか! おまえはわしの言うことを聞いておけばいいんじゃ! よけいなことなどするでない! まったくお前の両親ときたら娘にどんな教育をしとったのか、あきれはてるわい!」
 もういいだろう。
 これ以上聞いていたところで、不快感が強まるばかりだ。
 それに、そろそろ茶番につきあうのにもうんざりしてきた。
 玲子は行動を起こすことにする。
「おじいさま」
 普段の声で、それでも老人の怒鳴り声を貫く剛さを持った声で、玲子が話しかける。
「なんじゃ? おまえの言い分などきかんぞ? 教師なぞやめてしまえ。このままここに留まりわしの決めた結婚に臨むのじゃ!」
 一方的に玄三が言った。
 どうやら玲子の意思など聞くつもりはないらしい。
 でも、玲子にとってももはやそんなことなどどうでもよかった。
 なぜなら、玲子も祖父の意思などどうでもよかったから。
「おじいさま、そろそろ引退なさいませ」
 凛とひびく声で玲子が言い放つ。
 なにも激することなく、それでいてなにものにも屈することのない強烈な意思を込めて。
「な、なんじゃと? 今、なにをいうた?」
 玄三は信じられないといった表情で、そうたずね返す。
 この地方で正面きって自分にそんなことを言ってよい人間などいない。
 政治家や官僚だとて、いやそれならば尚のこと玄三にさからうことなどできぬ。
 まして自分の身内が反抗するなど、ゆるされるはずがない。
「いや……。たぶん、わしの聞き間違いじゃろう。もう一度聞こう、いまなんというたんじゃ?」
 玄三としては、自分の寛大さを見せつけたつもりだった。
 だが、やはり玄三は老いていたのだ。
 玄三は狼だった。
 己の牙でこの社会の肉を喰らい、鋭敏な鼻でその行く手を決めてきた。
 だがすでに老いていた。
 その牙は揺らぎ抜けかけ、その鼻は目先のものすらかぎ分けることができなくなっていた。
 いま自分の目の前にいる者。
 美しさにその身を隠しているが、その中身は肉食の獣……。
 それも、強大な力を持った虎であることに気づかないのだから。
 あまつさえ、若かりし頃の己でさえ容易には立ち向かえないような相手に、なさけをかけてみせたのだ。
 もうこれは非常に醜悪な喜劇と呼ぶべきだろう。
 もっとも、当事者はちっともおもしろいなどとは思っていないだろうけど。
「おじいさま、もうそろそろ引退なさいませ。時代は移りました。おじいさまのお出番はもうございますまい」
 微塵も感情を揺らがせることなく、玲子がいった。
 淡々と真実だけを告げる。
 そういう感じで。
 だからなおのこと、玄三にとっては腹立たしかったのかも知れない。
「おまえ、正気か? 正気でいうたのか? よし、そこまでの覚悟があるならばもうわしはなにもいわんし聞く耳ももんたん! 結婚などせんでもよい! その代わり一生ここからでることはまかりならん。氷川家の恥さらしめ!」
 ありったけの怒りを、玄三は玲子にぶちまける。
 もちろんそんなことで、玲子の表情を微塵もゆるがすことなどできなかったのだが。
 ガラッ。
 襖が開いた。
 玲子の背後の襖。
 中に入って来たのは二人の男。
 一人は背が高く全身に筋肉を纏っているような感じの男で、ビシッとダークスーツを着こなしている。
 もうひとりは、その胸元までくらいしか身長のない脂ぎった感じのする男だった。派手な感じのするチェック柄のスーツを着ていた。
 ダークスーツを着こなしている強そうな男は、この屋敷の警備責任者を務めている角田。
 もうひとりの脂ぎった派手なスーツを着た男は、氷川財閥の主任弁護士を務める徳地。
 二人とも、玄三の子飼いの男たちであった。
「ん? おぬしら、なんのようじゃ? じゃが角田、よいところへきたのう。このばか者をどこぞの部屋にでも閉じ込めておけ。このわしに逆らうということがどういうことなのか、思い知らせてやるのじゃ!」
 玄三が角田にそう命じる。
 絶対権力者の命令であった。
 常にその命令は最優先で実行される……はずだったのだが。
「なんじゃ? わしのいうことが聞こえんかったのか、角田? このばか者を連れて行けというたのじゃ! とっと実行せんか!」
 角田は玲子の背後に立ったまま、玄三の言葉がまるで聞こえていないかのように微動だにしない。
 それに代わって反応を見せたのは、主任弁護士の徳地だった。
 暑くもないのに手ぬぐいみたいなハンカチを取り出して、頭の半分くらいにまで広がった額の汗だか油だかを拭いながら、こうきりだす。
「あの、まことに申し上げにくいのではありますが、もうすでにあなたに、ご命じになられる権限はございませんのです。はい」
「なんじゃと? 権限がない、じゃと? 徳地! きさま、だれに向かって口をきいとるのかわかっておるのか?」
 玄三は、明らかに激昂していた。
「も、もちろんですとも、はい。氷川玄三さんにわたくしは申し上げましたです、はい」
 なんども汗を拭いながら、慇懃に徳地がそう答える。
 でも、その口調は明らかに権力者に向けられるべきものではないし、敬称も様ではなくてさんづけにしてある辺りが相手を見下していることをあらわしている。
 見かけ同様に、心根もいやらしい男である。
「お、おぬし! こ、こ、このわしにななんという口をきくのじゃ! 三流弁護士の分際でつけあがりおって! ゆ、ゆるさんぞ! き、きさまなぞ首にしてくれるわ! それどころか、どこにもきさまなぞ誰も雇うものはおらんと知れ!」
 この卑しい男から言われたということが、よりいっそうむかついたのだろう。
 どんどんと畳を叩きながら玄三がどなっていた。
「そ、そ、そんなことをする、け、け、権限なんて、あ、あ、あんたにはもうないんですよ、玄三さん……」
 そういい返した徳地だが、かなりの動揺がみてとれた。
 つっぱってみせたのはいいけど、所詮は小物である。
 老いたとはいっても、玄三の怒りを正面から受け止められるだけの胆力など元からありはしない。
 それに……。
「ふん……。 貴様のような男がそこまでいうか……」
 まるで今までの怒りが嘘のように、玄三は冷静さを取り戻した声でそう言った。
「一体どういうことなのか、説明してもらおうかの」
 背筋をシャンと伸ばし、目の前の者たちを見据える視線を送る。
 その姿は、若かりし頃の姿を彷彿とさせるものだった。
 徳地は視線をまともに合わせることができずに俯いた。
 無言で控えていた角田も、そのひたいにはじっとりと汗が浮かんでいる。
 ただ、玲子だけはなにごともないように、その視線を自然体で受け止めていた。
「そ、それはですね、こちらのお嬢……いえ、玲子様が……」
 そう徳地が説明を始めようとしたときだ。
「差し出がましいぞ! きさまになど聞いておらん! 控えておれ、下郎!」
 玄三が一括する。
 それはさっきまでの怒りにまかせたものではなく、絶対権力者としての威厳に満ち溢れたものだった。
「………………」
 徳地は謝罪の言葉すら発することができずに、黙ってしまうしかなかった。
「さぁ玲子、もう一度たずねる。どういうことなんじゃ? おぬしの口からはっきりと説明してもらおうか」
 これだけみごとに冷静になれるということは、それまでの激昂自体がかなり怪しい。
 老いたりとはいってもけして一筋縄ではいかぬしたたかさを、玄三ははっきりと示していた。
「おじいさまの抱えていらっしる債権、そのすべてをわたしが買い取らせていただきました。それと、傘下企業の株の過半数もすでにわたしが確保しております。おじいさまと繋がりのあった役人の方々、それに県、市会議員と現市長現知事にはすでに話をとうしてあります。中央官僚の方たちにもそれなりのパイプを用意しておきましたので、彼らがわたしに逆らうことはありえないでしょう」
 玲子は淡々とそう語った。
 すでに確定した事実を告げただけ。
 力をわざとらしく誇示してみせる必要もない。
「くくっ……。ふわっはっはははは!」
 老人は笑っていた。
 心の底から笑っていた。
 それをみていた徳地弁護士は、 「気でも違ったか」 とつぶやいた。
 でも、玄三はそんなことなど歯牙にもとめずに、笑いつづけた。
 ひとしきり笑った後。
「まけじゃまけじゃ。わしのまけじゃ、完敗じゃよ」
 そういった。
 その声はむしろ、清々しくすら聞こえる。
「お確かめになられないのですか? おじいさま」
 玲子が感情をみせない声でそういうと玄三は、
「そこの小心者がわざわざ出向いてこのわしに舐めた口をきいたのじゃ、それだけでも十分すぎるくらい裏付けになるわい。それに、わしをあまり舐めるでないぞ。きゃつらの動向がおかしいことくらい、とうに気づいておったわ。むろん、わしの持ち株が巧妙にながされておることにもな」
 それを聞いた玲子の表情に、初めて感情らしきものが浮かぶ。
「それを知っていながら、なぜ……」
 なにも手を打たなかったのか、と。
「止めてとめられるものならば、な。あがいてみせるのも悪くはなかろうがのう……。おまえさんを敵に回して渡り合うのは、かなり骨がおれる。さすがに、わしもちと年をとり過ぎた。せいぜい、こうやってわめいて気を晴らすくらいが限界じゃろうて」
 玄三はそこまで言った後、ゆっくりと立ち上がろうとする。
「こら角田なにをしておる。わしの腰が悪いのは知っておろう。早く手をかさんか!」
 どなったわけではなかった。
 だがしかし、それまでただ立っていた角田は自然に玄三のほうに駆けろうとしてしまう。
 途中ではっと気づき、あわてて今の主人である玲子の方を見て許しを求めた。
 玲子は視線で手を貸してやるように指示をだす。
「ふん、あいかわらず硬いやつじゃ。そんなことじゃから出世せん。まぁよい、このまま部屋まで手を貸せ。どうせおぬしにはたいして負担にはならんじゃろ」
 いたって普通の老人みたいに、ぶつぶつと不平を洩らした後。
「それでは玲子、せいぜいがんばるんじゃな」
 と、玲子に声を掛けてこの部屋を立ち去る。
 その時の玄三の顔は、好々爺然としてとってもおだやかなものだった。

 しかし、玲子は知っている。
 その表情にだまされてはいけないことを。
 老いたりとはいっても、所詮は肉を喰らう獣。
 少しでも隙をみせたら、いつ喉笛をかみ破られるかわかったものではない。
 怒鳴っている間は、まだ身内として話しをしていたのだ。
 だが今は対等の相手として話している。
 虚実ないまぜながら、けして本心を見せることはない。
 隙が見えればいつでも喰らいつく。
 つまりは、玲子のことをそういう相手だと、玄三はみなしたということだ。
 そこには血のつながりとか、情とかいう甘えは一切ない。
 互いに喰らい合い、強き者のみが生き残る。
 玲子が足を踏み入れたのは、そういう世界だった。
 しかし、そのことで玲子の心が揺れることはない。
 すべてはあの方のためだ。
 こういう人間たちがいる世界……。
 こんな薄汚れた人間たちが巨大な権力を持って、この社会に巣食っているのだ。
 けしてあのお方の御身に、その薄汚れた人間たちの手が触れることのなきよう、玲子が盾となる。
 どれほどこういったことを嫌っていても、それは玲子がやらなくてはならないことだった。
 まだまだ力をつけなくてはならない。
 どれほど巨大な権力を有した存在があらわれようと、けしてひけをとることがないくらいの。
 そのためには、自分の手はさらに薄汚れるだろう。
 そのこと自体には問題なかった。
 あの方の使徒となった瞬間から、もう迷いなどすてた。
 ただ心苦しいのは、そんな薄汚れた自分があの方に抱かれることだ。
 それを思うと心臓に何千もの針を突き立てられたような気になる。
 ただつらい。
 ひたすらつらかった。
 だが、一体どうしたらいいというのだ?
 あの方を思い出すだけで、ただそれだけであさましく自分の股間は濡れそぼる。
 突然やってくる飢餓感にも似た恐ろしいくらいに強烈な性衝動は、玲子の強靭な精神力をもってしても押さえつけることなど不可能だった。
 そのときの玲子は性に飢えたメスのケダモノとなって、あの方の性をむさぼってしまうことになる。
「…………」
 すっかりだまり込んでしまった玲子。
 その玲子に、
「あ、あの……。すみません、玲子様。わたくし、いったいどうすれば?」
 恐る恐るといった感じで、汗をふきふき徳地弁護士が聞いてくる。
「? まだいたの? もう、かえっていいわよ。わたしも帰るから」
 そう、これ以上こんなところにいる必要はない。
 だいいちここは玲子のいるべき場所ではなかった。
 当然のようにそう思いながら、玲子はたちあがった。

「あら、かびたクン。“いちご大福”なんか持ってどうしたの?」
 “いちご大福”を手にした、自分にとって一番大切なお方を見かけてそう声をかける玲子。
 声を掛けたときに、チクッと心のどこかが痛んだのは、教師として話しかけねばならなかったからだ。
「ああ、せんせい……。やっぱ、せんせいもそう見えるんだ……」
 なにやら思いつめた表情で、かびたが言った。
 なにか、傷つけるようなことでもいったのだろうか?
“いちご大福”っていうのは、そんなにいけないことだったのか?
 その場に跪いて許しを請いたくなる衝動を、必死で抑えながらもう一度たずねてみる。
「なに、かびたクン? それがどうかしたの?」
 こんどは、“いちご大福”という言葉を使わないように気をつけながら。
「これって、やっぱり“いちご大福”だよねぇ?」
 どうやら、玲子の大切なお方が落ち込んだのは、“いちご大福”のせいではないようだ。
 ちょっとだけ安心して、玲子は正直に答える。
「ええ、そうね。そう見えるわね」
 表情こそ、“氷の美貌”を保っていたけど内心はかなりびくついてる。
 自分の不注意な一言で、このお方を傷つけるわけにはいかないから。
 すると突然。
「へんしん!」
 かびたは“いちご大福”を振り回し、
「とうっ!」
 そういってジャンプする。
 玲子の頭の高さまで届いただろうか?
 実におそまつなジャンプ力だった。
「なに……してるの?」
 玲子の背中に冷たいものがはしった。
 まさか……。
 そのあとに続くことばをあわてて打ち消す。
 いいえ、そんなはずはないわ……。
「秘めたる力をひきだせないかなぁ~って……」
「“いちご大福”で?」
「うん、そう……」
「で、ひきだすことはできたの?」
「だめみたい。もしかしたら、ポーズがまずかったのかなぁ。やっぱしここは、ぎるすみたいに……」
 かびたは、真剣にどうやれば“いちご大福”でヘンシンできるのか悩んでいるみたいだった。
 それがよくないのだわ……。
 玲子はそう判断する。
 これ以上この方の頭に負担をおかけしないほうがいい。
「疲れてるのね、かびたクン。さぁ、せんせいと保健室にいきましょ」
「?????」
 かびたの頭が処理しきれる前に、玲子は勝手に決め付けて強引に保健室へと連れてゆく。
 保健室にいた邪魔者を外に追い出し二人だけになると……。
「ぐををををっ!」
 いきなりかびたが吼えた。
 天井に向かって。
 染みのようなものが見えるけど、その染みになにか問題でもあるのだろうか?
 かなり苦しい思考を展開してみる。
 ちょっと現実逃避ぎみの玲子だった。
「へんしん!」
 そういってかびたが叫んだとき、もう一つの影がかびたにかさなった……りはしなかった。
 どうやら、“いちご大福”の力ではぎるすになることもできなかったらしい。
 まぁ、当然だけど。
「か、かびたクン……」
 その様子を見ていた玲子は言葉を詰まらせる。
 おまけに薄っすらと涙ぐんでいた。
 お慰めしよう……。
 自分のこの穢れた身を使って。
 自分にできる限りのご奉仕をしよう……。
 玲子はそう決心する。

 こうしてかびたは、体力をまたしぼりとられることになったのであった。

『美香の場合』

 ぬちゃっ。
 ぬぷっ。
 淫らしい音が聞こえる。
 湿ったもの同士がたてる音。
「ふぁんっ」
「いいっ!」
 声がした。
 それも二つ。
 いづれも女の子の声。
「もっと、感じなさい。そう、もっと強く互いの淫らしいところをくっつけて!」
 そう命じているのもやはり女の子。
 島崎美香だった。
「はいぃぃっ!」
「ふぁっいぃぃ!」
 ベッドの上で、二人の女の子はとろけてしまいそうな声をあげる。
 それと同時にねとねととこすり合わせるだけだったお互いのあそこを、今度は叩きつけるような勢いで相手にぶつけ始めた。

 ぱあんっ!
 ぶしゅっ!
 ばちいっっっ!

 派手な音を立てながら、ひたすら快楽を求め狂う二人の少女。
 白く小ぶりで肉付きの薄い肉体と、浅黒くおうとつのはっきりとした肉体。
 それぞれに理想に近い女性の肉体が、とてつもなく淫らしく一瞬もとどまることなく動きつづける。
 まるで快楽を求め続けるための機械のように。
 足を開き股間をぶつけ合う二人の少女の姿を見ながら、美香は自分のあそこを一人でまさぐっていた。
「いいわぁ! いいわぁ、あなたたち! もっとよ! もっとよがりなさいっ、もっと強く求めあいなさいっ!」
 二人の少女はその命令になんのためらいもなく従った。
 あまりの快感と激しすぎる運動量のために、彼女たちの口からは泡が吹き出し声はもうかすれしまって聞き取れない。
 そんな状態でありながら、彼女らは美香の言葉に忠実に従い続ける。
 彼女たちは犯されていたのだ。
 手を触れられることなく、その脳を直接。
 与えられる快感と命令に従うしかない、レズ人形にされてしまっていた。
 そう、美香の持つ“力”によって。
 美香はその力を使って二人の少女にお互いを犯し合わせながら、自分自身の手で快楽をむさぼっていたのである。
「うんっ! いくわよ、あなたたち! 二人とも、あたしがイッたらいきなさいっ! イクっわっ! イクわっ! いいいっくうぅぅぅぅ!」
 自分の指をあそこにねじ込みながら、美香が声をあげる。
 すると、
「ひぃうぅぅぅぅぅ!」
「うっひゅゅゅっ!」
 二人の少女はそれぞれに掠れた声を、それでも必死にはりあげてイッた。

「よかったわよぉ。 あなたたちも、きもち良かったでしょう?」
 イッた後の余韻をひとしきり楽しんだ美香が、二人の少女にたずねる。
 口元には普段の清楚なイメージからは想像できないような、淫らで妖艶な笑みが浮かんでいる。
 魂をどろどろに溶かしてしまいそうな、そんな淫靡な微笑み。
 美香の質問に先に答えたのは、小柄なほうの少女。
 あまりおうとつのはっきりとしない、幼い感じのする体をゆっくりを起こして、
「はぁいっっ。とってもぉ、きもちよかったですぅ、おねぇさまぁ……」
 目はどことなく虚ろだけど、それでも表情はとても気持ち良かったっていう刻印がしっかりと刻みつけられていた。
「そう、よかったわねぇ」
 そう美香がいうと、
「ひゃあん!」
 少女はそう声を上げて可愛い体を、めいっぱいのけぞらせる。
 美香が“力”を使ってイカせたのだ。
「あなたは、どう?」
 もう一人の少女に尋ねる。
「よ、よかったですっ。も、もっとしてくださいぃっ。ご主人さまぁ」
 すっかり女として成熟した肉体を持った少女が、甘えるように美香にそう言ったときだった。
「あなた、いまなんと言ったの?」
 美香がとても静かに言った。
 それまでの淫らしい雰囲気が、一瞬のうちに消えうせている。
 変りにあたりを支配しているのは、なんともいいしれない静寂さ。
 恐怖を内に秘めたような……。
 女らしい肉体をくねらせながら、その少女は美香の命ずるままに再びさっきのセリフを口にする。
「よかったですっ。もっとしてくださいっ。ご主人さまぁ」
 と。
 その瞬間、静寂はやぶれた。
「ア゛ヴッ!」
 悲鳴があがる。
「ギャン!」
 さらにもう一度。
「あなた、勘違いしてるわ。いいこと、あたしはあなた達と同じ身分に過ぎないのよ! ただあなたたちを、あの方に代わって教育してるだけ。あなたたちのお使えするべきご主人さまはお一人だけ。それ以外の人間をご主人さまなどと呼ぶのはゆるさないわ! たとえそれがこのあたしでもね!」
 今度は体重の思いっきり体重の乗った蹴りが、大人びた感じのする少女の顔面にヒットする。
 口から血を吐き出しながら、その娘は床の上にひっくり返って気絶した。
「ちっ……」
 美香はその様子をみて舌打ちをする。
「……きたなくなってしまったわ。とてもこんな人形をあの方に捧げることなんてできないわね……」
 そうつぶやきながら、右足の甲に刺さった白いものをぬきとった。
「なおせばまだ使えるでしょうけど……」
 美香は手の中で白いものを弄びながら、品定めをするようにそういった。
「やっぱり、いらないわ。このくらいの女なら、捜せばいくらでもいるでしょう」
 そういって、手にした白いものを気絶した少女の口の中に放り込む。
「とりあえずこれは返しておくわ」
 そう、その白いものとは、少女の折れた前歯だったのだ。
 今度はもう一人の小柄な少女に視線を向ける。
 少女は震えていた。
 目の前でいきなり起きた事態に、脅えてしまっている。
「あなた、帰りにこの女をどこかの公園にでも捨てていきなさい。いいわね?」
 肉付きの薄い少女がうなづいた。なんども、なんども。
 美香のその言葉に逆らうことなんてできない。
 美香の“力”ばかりでなく、彼女の機嫌をそこねたらどうなるのかをいやというほど見せ付けられたから。
 その脅えきった少女の様子に、美香は楽しそうな微笑を浮かべる。
“そう、ね。こういうのも悪くないかも……”
 小柄な少女の脅える姿が、小動物を連想させてぞくぞくと妖く甘美な感覚を美香に与えたのだ。
 この人形を完成させて、あの方に捧げるときあの方は喜んでくだされるだろうか?
 それとも自分のことを蔑むのだろうか?
 美香にとっては、正直どちらでもかまわなかった。
 あの方が生きていらして、自分のことをわずかにでも気にとめていただければ、それだけで最高の喜びを感じることができる。
 それでも……。
 美香の股間から熱い雫がふたたびしたたり始めた。
 ただし、今度はさっきまでとは比較にならないくらい大量に。
 そう、それでも美香の体は訴えていた。
 この淫らしい肉体に、あの方の御手が触れてくだされることを。
 あさましく貪欲なあそこに、あのかたの聖なる一物をたとえ一突きでもいい、突き刺していただくことを。
 のぞんでしまう……。
 誰よりも罪深き身だというのに……。
 指がひだの奥をまさぐった。
 気持ちよかった。
 美香の肉体が震えた。
 神経の隅々にまで快楽が広がった。
「うっあんっっっ」
 声が漏れる。
「ひあっんっ」
 もう一つ別の声。
“力”に支配された少女も美香と同じように、幼そうな小柄な体をふりわせてよがっていた。
 無意識のうちに美香の快楽が、感染している。
 美香が胸を力いっぱいもみしだけば、少女もほんのり膨らんだだけの胸をもみ上げる。
 美香が愛液をしたたらせれば、少女も同じ量だけしたたらせる。
 あふれる蜜をかき分けて奥の方をまさぐれば、まだ完全には開ききってないようなつぼみの奥をまさぐった。
 美香にすべてを支配された少女人形。
 それはたとえ快楽であっても例外ではない。
 だけど美香と少女の間には隔たりがあった。
 それは、たった一つの違い。
 でも、それはあまりに大きな隔たりを二人にもたらす。
「うっんっ、いいっ。いいっっっ! い、いきますぅ、かびたさま。かびたさまあぁぁぁっ!!!」
 美香がイッた。
「うはんっ、いいっ。いいですぅぅぅ、いくっ、いくうぅぅぅぅっ!」
 同時に少女もイッた。
 少女は、大きな快感がもたらした快楽の余韻に浸った。
 美香は、感じた快感と同じだけの大きな寂寥感に囚われた。
 狂おしいほどに求めえぬもの。
 あがないえぬ罪を背負いし身なれば……。
 でも、それでもなを美香は呟かずにはいられない。
「かびたさま……」、と。
 美香の両目から透明な雫が流れ落ちた。

 おつらさそうにしていた。
 それが理由だった。
 生徒のいない教室。
 放課後の校庭。
 いつもと変ることのない光景。
 ただ違うのは、かびたさまが何かお悩みになっているということだけ。
 でも、美香にとってそれは何よりも重大なことだった。
 かびたさまのお悩みがなんなのか知りたかった。
 でも、それはひどくためらわれた。
 怖かったのだ。
 かびたさまのことをわずかでも斟酌(しんしゃく)しようなんて、とても不遜な行為に思われて。
 でも気になっていた。その日はづっと。
 苦しかった。かびたさまのお力になることはできないのか? かびたさまのお心を苦しめているのは何なのか? 自分はこのままなにもできないでいるしかないのか?
 結局、放課後まで結論を出すことはできなかった。
 心の中で疼き続けるその思いを抱えたまま、美香は家路につく。
 人形はすでに彼女のマンションに到着している。
“力”がそのことを教えてくれる。けど、今日は人形に会いたくはなかった。
 だから彼女は“力”を使って人形を帰らせようとした。
 ちょうどその時だった。
「しまざきさぁ~ん!」
 美香の体が一瞬で凍りついた。
 なによりも大切な人の声。その声を聞いただけで何も考えられなくなってしまった。
「はひ、はひ、はひぃ~」
 なんだかおかしな具合に息をきらしながら、かびたが前に回りこむ。
「や、やっと……追いついたぁ~」
 小走りに走って来ただけなのにゼへゼへと肩で息をしている。
 しかもそれは校舎の入ロから校門を少し出るまでの間の、ほんの5、6メ一トルといったところだ。
 究極に貧弱な男だった。
「いやぁ~しまざきさんって、歩くのはやいねぇ。すごいや!」
 かびたが感心する。
 ちなみに美香は普通に歩いていただけだった。どっちかっていうとすごいのはかびただろう。この異様なまでの体力なさは本当にすごい。
「……」
 かびたに正面から話しかけられて、美香は硬直する。
 かびたと話すことが、こわかったから。
「ちょっとさ、見てほしいものがあるんだ」
 そういって美香に向けて差し出したのは、ちょっと潰れかけた”いちご大福”だった。
「?????」
 今度答えることができなかったのは、どう反応すればいいのかわからなかったからだ。
 まぁ、“いちご大福”をいきなり突きつけられた人間としては、いたって普通の反応である。
「これってさ、“いちご大福”に見える?」
 かびたが聞く。
“いちご大福”を突きつけて“いちご大福”かとたずねたのだ、とーぜん美香としてはうなずくしかなかった。
「だよね? やっぱし“いちご大福”に見えるよねぇ?」
 かびたは勝手に結論を出して、“いちご大福”を見つめてしきりになにか悩み始めた。
“そうか、そうだったんだ……”
 その様子を見て、美香は理解する。
 かびたさまのお悩みの原因がなんだったのかを。
 やはりかびたさまは、自分などには理解することなどできないお方なのだと。お悩みの原因となったものは、美香の想像の範疇を超えたものだった。
 ……まぁ、“いちご大福”で悩んでるなんてことを想像できる人間がいたとしたら、かなりアブナイ人って気がするけど……。
「あっ!」
 突然かびたが驚いたような声をあげる。
「?」
 それにつられて、美香も声をあげずに驚いた。
「これって、食べ物だよね?」
 なに?
 美香の頭にはさらに疑問がうずまいた。“いちご大福”が食べ物であるということは、吉○家の牛丼が食べ物であるというくらい確実なはずだ。
 当然再び美香はうなずくしかなかった。
「そうか、やっぱりそうなんだ。ぢつはぼくもそーなんじゃないかって、薄々は気づいてたんだ……」
 気づくのは当然として、でも薄々っていうのはなんなんだろう?
 ちょっと疑問を感じた美香だったけど、深く考えないことにした。
「ありがとう、み・か・ちゃん」
 かびたが美香のことを、アクセント付きの名前で呼んだ。
 驚いて立ちすくむ美香に、
「これ、お礼……」
 そういってかびたがキスをする。
 チュッと一瞬だけ触れただけの、小鳥がついばむようなキス。
 それでも唇には、はっきりとその時の感触が残った。
「じゃあ、またね!」
 かびたが手を振って去ってゆく。
 頭の中を真っ白にしながら、美香はその後姿を見送る。
 そして、かびたの姿が見えなくなったとき、美香はそっと自分の唇に指当てた。
 その瞳から透明な雫が一筋ながれる。
 その一瞬で、たった一瞬で美香の心は満たされた。
 感動、満足感、安心感、幸福感……。そういった感情のすべてが今の美香の心を満たしている。
 かびたさまにお礼を言われるようなことを何かしたのだろうか? とかいう考えが頭の中をかすめたけど、あっさりと封印する。
 かびたさま行動に疑問を感じることなど、ゆるされないことだ。
 ……もともとアブナイ少女だったけど、どうやらアブナさがレベルアップしたみたいだ。
“もっと、もっとかびたさまのために尽くさないと……。そのめに必要な、かびたさまにお仕えする優秀な人形を作らないと。あの不良品の代わりを……”
 もう、そんなことを考えてるし……。
“そういえば、昨日の歌番組にでていたあの娘、かわいいし歌もうまかったわ。あの娘ならきっと、かびたさまのための優秀な人形に……”
 とか考えたりしていた。
 美香の考えている“歌番組にでていたあの娘”っていうのは、“平成の歌姫”と言われている少女のことだった。
“そうね、決めたわ。あの娘ならきっとかびたさまもご満足なされるはず”

 それから数日後、テレビや新聞で“平成の歌姫、突然の失踪”っていう事件が大きく取り上げられることになった。
 ちなみに彼女の失踪先は、美香の住んでいるマンションだったりする。

 こんな感じでかびたの新しい悩みの種は、かびたの知らないところで勝手に増殖していたりするのだった。

< つづく >

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