ニャルフェス 第4話 ニャルフェスの謎(後編完)

第4話 ニャルフェスの謎(後編完)

 たえまなく、すぎてゆくもの。
 けしてとどまることはない、もとにもどることもない。
 ただひたすらすぎてゆくのみ。
 ゆったりと、かくじつに。
 うたかたに、おぼろに。
 ゆめのごとく。
 まぼろしのごとく。
 ふりつもる。

 時。

『ニャルフェスの場合』

 そこは時の終わる場所。
 またそこは、時の始まる場所でもあった。
 必然的に、夢を紡いだものが最後にたどり着く場所ともなる。
 永遠を約束されたものが、永遠を否定したとき。
 永遠に縛られたものが、永遠から逃れようと決意したとき。
 訪れる場所。
 神々の墓場。
 そこは、そう呼ばれている。
 一度そこを訪れたものは、二度とそこから戻ることはない。
 神々の力ですら、この場所では働くことはない。
 ゆえに、永遠たる神が唯一終わりを向かえることのできる場所だった。
 そこに今、足を踏み入れようとしている1柱の神がいた。
 始まりの神の1柱。
 ニャルフェスである。
 多層宇宙のどこにでもあり、同時にどこにも存在しない場所。
 この場所を訪れるのは、初めてではない。
 過去に一度だけ、訪れたことがある。
 すべてを終わらすために……。
 でも、その選択は思いもよらない障害が生じたことで保留状態にあった。
 今回訪れたのは、残念ながら前回の続きをするためではなかった。
 ここに眠るものに、どうしても用があったのである。
「なにゆえだ? なにゆえ、我を呼び起こす。わが友よ……」
 真なる闇から、その声はとどいてきた。
「最近、ヤツがこなかったかニャ?」
 ニャルフェスはいきなり本題にはいった。
「来た。来たがいつのことかわわからぬ。ここには、時の流れがないのでな」
 声が言っていることは真実。
 なぜならここは、そういった場所だから。
「わかっているニャ。でも、ヤツが来たということだけでも十分だニャ」
 そういって、ニャルフェスはその場から立ち去った。
 別れの言葉などない。
 余計なことを話させることは、それだけ相手に苦痛を与えることになる。
 かつて多くの神々が二つに分かれて、戦い続けた時があった。
 それは、無数の宇宙を巻き込んだ戦いだった。
 己の創造した宇宙を、戦いでうしなった神々は人々では想像できないくらいの苦悩にさいなまれることになった。
 それでも死ぬことのできない神々は、それ以上苦しまないようにこの場所を創ったのである。
 ゆえに、こうやって他の神がその力で無理やり起こすのは本来ならば、絶対にしてはならないことのはずだった。
 自分がこの場所にその身を沈めたときに、そんなことをしてほしくないからだ。
 ましてや、それが友と名乗るほどのものであった場合、なおさらである。
 別れを告げぬのは、それすらも相手の苦痛となるからだ。
 でも、それでもなをニャルフェスはそのことを確認しなくてはならなかった。

「一体、ヤツは何を考えているニャ……」

 ニャルフェスは、一人で小さくつぶやいていた。

 ハルナは真新しい巫女服に身を包んで緊張していた。
 巨大な式典の間には、数万にも及ぶ人々が押しかけている。
 でも、この場所に入れたものはとても幸運な、ほんの一握りの人々でしかない。
 大部分は、この星……惑星ニャルフェスへの降下許可すら与えられることなく船で周回軌道に乗るか、それとも全宇宙に向けて発信されているコスモネットワークに接続して映像を見学するしかないのである。
 宇宙統一暦で四年に一度、その式典は行われる。
 新たな五人の巫女を、ニャルフェス神殿に奉納するための儀式だった。
 ニャルフェス神の巫女になることは、人にとって最高の栄光を指し示すことである。
 でもそれだけでなく、各星雲を統べる国々の威信をかけた戦いの結果でもあったのである。
 想像もつかないような数の美姫の中から選ばれるのは、たった5人のみ。
 この宇宙の絶対神であらせられるニャルフェスさまに、直接触れることのできる唯一の存在でもあった。
 ただ、それだけでもどの国の王や皇帝や大統領といった人々などより、巫女は遥かに上位の権限を有することになる。
 つまり、巫女を奉納できた国はそれ以外の国に対して、圧倒的な発言権を持つことができるのである。
 辺境に位置する小国でも、巫女を奉納できたというだけで、その他の列強国にたいして互角の発言権があたえられることになるのだ。
 当然、巫女本人に与えられる権限も絶大なものになる。
 その不用意な発言が、一国の命運を変えてしまうことすらあるのだ。
 それが、ニャルフェスの巫女ということ意味。
 とてつもなくその責任は重く、その栄光はノヴァの輝きにすら勝る。
 ハルナが今望んでいるのは、その奉納の式典であり、5人の巫女の内の一人であった。
 今この時、全宇宙の人々の注目がハルナを含めて5人の巫女にそそがれている。
 痛いくらいに感じる。
 感じざるをえない。
 そう望みながら、この場に立つことのかなわなかった女の子の数は、それこそ星の数にも達しよう。
 今この場に立つ美しい少女たちは、そういった少女たちの想いもまた背負っていた。
 式典は滞りなく進み、やがて迎えた最後の儀式。
 巫女の衣装を身に着けてはいても、まだ彼女たちは巫女ではない。
 この儀式を経て始めて、彼女たちは巫女となることができる。
 この式典最大の山場であり、もっとも大切な瞬間でもあった。
 いやがうえにもその様子を見守る人々の期待は高まる。
 もちろん、5人の少女たちの緊張も頂点に達しようとしていた。
「ラニナ=セイズラード、前へ」
 まず一人目の巫女候補の名前が呼ばれる。
 呼んだのは司祭長を勤めるリセ=ナミュレス。
 光の巫女と呼ばれている。
 巫女候補のラニナがゆっくりと、一歩一歩踏みしめるように階段を登ってゆく。
 壇上にたどり着いたとき、リセ司祭長が命じる。
「世界を見なさい」
 ラニナが司祭長リセに背を向け、会場の方を一望する。
 とても数えきらないほどの人々が入った式典の間は、そのときだれも一言も発することなくその光景に見入った。
「この者にカラー・オブ・オービー(服従の首輪)を授ける」
 絶対神ニャルフェスの代行として、リセ司祭長がラニナの首にプラチナに金色の縁取りのはいった首輪をはめる。
 ラニナの耳元でカチッと音がした後、首輪の継ぎ目が消えてしまう。
 ラニナが死なない限り、絶対にはずすことはできなくなったのだ。
 この首輪を付けたものは、その名の示す通りニャルフェスさまのご命令に逆らえなくなる。
 そのことが意味すること……。
 ニャルフェスさまはこの首輪をはめた者にしか、ご命じになられないのである。
 そして受けた命令は紛れもなく神託であり、その瞬間神託を受けた巫女は恐れ多くも神の代行者となるのである。
 リセ司祭長が光の巫女と呼ばれ、巫女のたちの中でも絶対の地位にあるのも、25回という歴代の巫女の中でも最高回数の服従経験があるからに他ならない。
 つまりこの首輪をはめることは、神託を受けるべき巫女たる証であった。
 でも、服従経験が一度もないまま一生を過ごす巫女もいることもあるが……。
 もっともこの時点でそんな恐ろしいことに想いをはせるものはいない。
 なにしろ彼女たちは希望に満ちているのである。
「この瞬間(とき)より、ラニナ=セイズラードは巫女としてニャルフェス神殿に迎え入れられる!」
 リセ司祭長の声が、高らかに式典の間に響きわたった。
 まだこの時点では、誰も口を開かない。
 後、四人残っている。
 ラニナは元の位置には戻らず、リセ司祭長より一段低い位置に留まった。
 残りの三人に対してもまったく同じような儀式が進み、ついに最後のハルナの番となった。
 この時ハルナの緊張は、ほとんど最高点に達している。
 徐々に運命の時がやってこようとしていた。
 全宇宙の人々が、固唾を呑み見守る中、
「ハルナ=リスカ、前へ」
 名前を呼ばれた。
 半ば硬直したようなぎこちない歩き方で、階段を登ってゆくハルナ。
 どうにかリセ司祭長の前にたどりつく。
「世界を見なさい」
 言われてハルナは後ろを振り向く。
 当たり前だけど、とてつもなく大勢のひとがいた。
 なんだかめまいがする。
「この者にカラー・オブ・オービー(服従の首輪)を授ける」
 型どおりにリセ司祭長がいった。
 首輪がハルナの首にかけられて、カチッという音が聞こえる。
 二度と首輪がはずせなくなった音だった。
「この瞬間(とき)より、ハルナ=リスカは巫女としてニャルフェス神殿に迎え入れられる!」
 そうリセ司祭長が宣言したときだった。
 会場は、一気に歓声に包まれる。
 それまで抑えていた人々の歓喜が、ついにあふれだした瞬間だった。
 そうして、それが悲劇への引き金となってしまう。
 めまいがしたまま、一段降りようとしたハルナ。
 こけた。
 それはもう、みごとという他ないこけっぷりだった。
 なんとかこらえようと努力した。
 努力したのはいいとして、努力の方法がいけなかった。
 両側にいた巫女たちの服をしっかりとつかんだのである。
 そのときには、もうどうしようもないくらいバランスを失っていた。
 必然的にその二人もバランスを失う。
 失った二人も、ハルナと同じ努力をした。
 残った二人もバランスを失った。
 その二人は努力のしようがなかったのでバランスを失っただけだった。
 そうして、五人のなりたての巫女たちは、仲良く壇上からゴロゴロと転げ落ちていったのである。
 このときばかりは、式典の間に入れなかったことをニャルフェスさまに感謝したことだろう。
 外で見ていた人々は、遠慮なく爆笑できたからだ。
 でも、式典の間にいた人々はさすがにそういうわけにはいかない。
 何かを必死になってこらえるような、へんな歓声をあげていた。
 まぁ、中にはこらえきれなかった人もいたようではあるけど……。
 ただ、リセ司祭長だけは苦虫をかみつぶしたような顔で、じっとその場に立っていた。
 五人の新人巫女たちが、再び元位置に戻ってくるのを待っている。
 彼女たちの肉体は、カラー・オブ・オービーによって守られている。
 このくらいでは傷ひとつつきはしない。
 でも、神殿の誇りはそれなりに傷ついたようだ。
 すくなくとも、リセ司祭長は少なからずそう思った。
 五人の巫女たちが、それぞれ元の位置にもどってくる。
 ハルナのことを、殺してやりたいって感じで睨みつけながら。
「これをもって、巫女奉納の儀は滞りなく終了とする!」
 リセ司祭長の美しい声が、高らかに全宇宙の隅々にまで響き渡った。
 そうして、司祭長は手にしていた杯の中の酒を一気に飲み干すと、残った杯を足元に叩きつける。
 パァン!
 こ気味良い音が響く。
 それに続いて会場中の人々、そしてこの宇宙に住む大部分の人々が同じように、床に杯を叩きつけた。
 ちなみにほとんどの人の杯に酒は入っておらず、飲み干すふりだけだ。
 ただ、五人の巫女たちはその最後の儀式に参加することはできなかった。
 なぜなら仲良くころげおちたときすでに、これもまた仲良く杯を叩き割ってしまっていたからだった。

 儀式に参加した巫女たちは、ろくに休む暇もなく正神殿に向かった。
 もちろんその中には、たった今儀式を終えたばかりの、ハルナ達五人の新人巫女もいた。
 式典の間から正神殿までは、音速の10倍の速さで飛ぶエア=ライナーを使っても、一時間近くかかってしまう距離があった。
 でも、逆にいえば一時間しか時間がないということでもある。
 その一時間で、ハルナ達はすべての支度を整えなければならない。
 さきほどの、歴史上まれにみる大失態を演じたハルナに対するお叱りも、そのため見送られることになった。
「まずは、あなたたちにはこれに着替えてもらいます」
 そういって、リセ司祭長がそれぞれに服を手渡した。
 薄めの素材で作られている巫女の衣装と違って、その服はけっこう厚めのしっかりとした生地で作られている。
「これは……」
 巫女の中の一人、シハリ=マヌーバが口を開く。
 それがなんであるのか気づいたようすだ。
「メイド服なのではありませんか? リセさま?」
 というシハリの言葉に、
「わたくしを呼ぶときには、司祭長か名前でリセとお呼びなさい。けしてさまをつけてはいけません。何者であろうと、神殿でさまをおつけするのはニャルフェスさまだけです。いいですか?」
 シハリがうなずくと、リセ司祭長はさらにもうひとつ注意事項を教える。
「それと、ニャルフェスさまのことをお呼びするときには、ニャルフェスさまかご主人さまとお呼びするようになさい」
 こんどは、新人巫女たち全員がそれにうなずいた。
 俗人でもなく、まだ巫女でもない研修期間中は、けして仕えるべき神の名を呼ぶことはゆるされない。
 つまりニャルフェスさまに関することは、実地でやっていかなくてはならないのだ。
 だから、こういう忠告の一つ一つが彼女たちのためになる。
 五人の巫女たちがすべてうなずいたのを見て取ったリセ司祭長は、シハリの質問に回答をする。
「シハリの言う通り、これはメイド服です。対外的には今着ている巫女の衣装が正装となりますが、正神殿においてはこれが正装となります」
 そこで、いったん言葉を切る。
 なぜならこれからいうことは、とても大切なことだからである。
 それは、五人の巫女たちにも十分すぎるくらいに伝わった。
 息をつめて次の言葉を待っている。
「あなたたちの首についている物がなにか、あなたたちは理解しなければなりません」
 その言葉に五人の巫女たちは、それぞれに疑問をいだいた。
 このカラー・オブ・オービーに関してのことなら、そのすべての知識を身につけたはずだ。
 研修期間中に完璧に。
「あの……リセ司祭長」
 恐々といった感じで、巫女の中の一人が口を開く。
「なんです? ミュファ」
 と、リセ司祭長。
 その先の質問を待っている。
「ご主人様の巫女となるための神器。これを付けてご命令を受けた巫女は、恐れ多くもご主人様の手足となれる……そう教わりました」
 喜びと誇りを全身に満ち溢れさせ、ミュファが言った。
 でもそれは彼女だけではない。
 他の四人の想いも同じ。
「その回答では不完全です」
 リセ司祭長ははっきりとそう言い切った。
「巫女となった以上ニャルフェスさまがあたたたちの肉体をお使いになるかも知れません」
 SEXのことを指すその直接的な言い方に、五人の巫女たちは頬を紅潮させる。
 彼女たちがこの時まで操を守ってきたのは、すべてその時のためだった。
 巫女の選考に落ちていった無数とも思えそうな数の少女たちもまた、等しくその時を夢見続けたにちがいない。
 今の彼女達にとって、夢は手の届く場所にある。
 その事実は言い知れない感慨を五人の巫女たちにもたらしていた。
「あなた達は考えなくてはなりません。ニャルフェスさまがカラー・オブ・オービーをお使いになられることの意味を……」
 リセ司祭長の言葉はそこで終わった。
 どうやら、それ以上のことを話す気はないようだ。
 冷めたいようだけど、それは当然のことである。
 奇跡を現実として掴みとった彼女達。
 でもそれで終わりではない。
 ニャルフェスの巫女ということの意味。
 幾万もの銀河で最も貴重な女性達。
 彼女らの存在に比肩しうる人間はこの宇宙にいない。
 でもそれだけに彼女らに課された責任もまた、比肩するものなどないのだから……。
 無意識のうちに浮かれていた気持を、五人の巫女達はひきしめる。
「さあ、いつまでつっ立っているつもりなのです? 時間はあまりないですけど、やることならたくさんあるのですよ?」
 リセ司祭長がパンパンと手を叩いて、巫女達の行動を促した。

 ハルナは正直びっくりしていた。
 正神殿の姿にである。
 想像すらしていなかった。
 まさか、こんな……。
「リセ司祭長……ここは、一体何ですの?」
 そう聞いたのはセフィア。
 彼女は確かインファムーラ銀河帝国の皇女だったと記憶している。
 辺境に位置する小星雲国家。
 ニャルフェス大星雲神国やラ・ア星団連邦のような中枢国家にいたら、ほぼ間違いなく一生知る機会のない国だろう。
 コスモチャート(宇宙海図)を広げたって、はたして何人の人間が見つけることができるか……。
 そんな、国の皇女でも一応確認せずにはいられなかったようだ。
「これからあなたたちが働く場所です」
 こともなげにリセ司祭長がこたえる。
「……自分たちは正神殿で働けるのではなかったですの?」
 セフィアがもう一度たずねる。
 ちょっと不服そうである。
「むろんそうです。だから、あなたたちはここで働くのですよ」
 やはり何かの間違い……とかいうわけではないらしい。
 確かにそれなりの大きさをもっていたし、十分以上に歴史も感じられる。
 でもそれは、丸太小屋だった。
 はっきりと、どこからどうやって眺めても間違いなく丸太小屋だった。
 それも、とてつもなく古ぼけた丸太小屋。
 よくもまぁ建ってるなぁって関心するくらいの。
 正直それを神殿だと言い張るのは、いささか無理があるような気がする。
 それがハルナの抱いた、正直な感想だった。
「でも、これって確かログハウスっていうんじゃ……」
 恐る恐る恐るっていう感じで、ハルナが言ってみる。
「その通りです」
 リセ司祭長はあっさりと認める。
「ここは神の帰る場所。宇宙でただひとつの真なる杜です」
 そう言われれば納得するしかないけど、わりきれない気持は残る。
 他の神殿と比べると、あまりに違いすぎる。
 ありていにいってしまえば、みすぼらしい。
「あの……ちょっとばっかり、ボロっちぃみたいなんですけど……」
 ハルナは、それとなくいってみる。
 ちなみに『ちょっとばっかり』というのが、そこはかとなく……それとなくだったりする。
「その通りです。ですからここの管理は、あなたたち五人だけでやっていただくことになります」
 リセ司祭長の言葉によどみはない。
「あの、リセ司祭長。一つお聞きしていいですか?」
 もちろん、聞きたいことなら山ほどあったけど、とりあえず一つだ。
「なんです?」
 短く先を促された。
「いま小屋の中に、大きなネコさんがいたような気がしたんですけど……」
 今ひとつ自信がないのは、ネコさんが堂々と二本足で闊歩していたからだ。
 でも、それを聞いたリセ司祭長の反応は瞬速だった。
「ついておいでなさい!」
 そういい残すと、いきなり正神殿(丸太小屋)の中に駆け込んだ。
 あせったのは、ハルナ達新米巫女。
 あわててその後に続く。
「一体何事かニャ?」
 リビングの中央でふんぞりかえっていた、大きなネコさんがそう言った。
 足元にはリセ司祭長が跪いている。
 後から入ってきた新米巫女をちらっとみたけど、それだけだった。
 視線で何か合図を送っているみたいだけど、そんなんでわかるわけがない。
 でも、カラー・オブ・オービーの力で体を操られているリセ司祭長には、それがせいいっぱい。
 とても口には入りきれないくらい巨大なイチモツに、一生懸命舌を這わせている。
 その淫らしい姿に、処女巫女たちは衝撃をうけている。
 でも、それ以上に初めてその目で見た神の姿は、遥かに大きな衝撃だった。
「おまえら、ニャンのようかニャ?」
 神が話しかけてきた。
 あわてる巫女たち。
 頭は真っ白。何を言えばいいのだろう?
「こ、こ、こんにちは。今日はいいお天気ですね」
 ハルナが当たり障りのないことをいってみる。
「??? それがどうかしたニャ?」
 当たり障りがなさすぎたみたいだ。
「えっとえっと……本日は晴天なり」
 言い換えた。
「??? 言われなくても知ってるニャ」
 それはそうだろう。
「こんち、よいお日和で」
 ちょっぴり、おやぢテイストだった。
「だから、なにが言いたいのかニャ?」
 ハルナ自身もそう思ってた。
 でも、ここまできたらいくとこまで……。
「本日の降水確率は……ギャンッ!」
 最後までい終える前に、ハルナは力尽きた。
 力尽きさせたのは、四つの友情のこぶしだった。
 ただし、ハルナが友情を感じるかどうかは、疑問が残るが。
「おみぐるしい点がありましたこと、おわび申し上げます!」
 セフィアが代表して言ったあと、四人はそろって頭を下げる。
 ちなみにお見苦しいものは、床の上でうなってた。
「気にする必要ないニャ。慣れてるニャ。そんなことより、ニャーニャになんのようかニャ?」
 リセ司祭長の体を軽々と持ち上げながら、ニャルフェスが尋ねる。
「わたしたち、今度巫女になりました。これから、よろしくお願いいたします!」
 四人がそろって頭を下げる。
 とてつもなく巨大なモノが、ゆっくりとリセ司祭長の中にうまってゆく。
「ひゃうううぅぅぅっ!」
 リセ司祭長が声をあげた。
「いいっうううっ。いいですぅぅぅ」
 もう周りのことは気にしてない。
 理性はどこかに引越ししてるみたいだ。
「ニャーニャは巫女はいらないニャ」
 リセ司祭長をもてあそびながら、ニャルフェスがいった。
「な、なんで……?」
 絶句する四人。
「だから、ニャーニャは巫女さんはいらないニャ。ニャーニャは、メイドさんがいればそれでいいのニャ。その首輪をはずして、とっとと帰るのニャ」
 とりつくしまもない。
 でも、それでもカラー・オブ・オービーをはずせとまで言われるなどとは、想像すらしていなかった。
 それは、彼女たちにとって死刑宣告にも等しい。
 なにも言えず、凍り付いてしまう。
 一人を除いて……。
「はいっ! メイドさんです!」
 片手を高々とあげてハルナが宣言する。
 とっても早い変わり身だった。
 でも、そんなんでいいのか?
「メイドさんなら、こっちにくるニャ」
 いいらしい……。
「アンッ?」
 命令されたとたんだった。
 体が勝手に動き出す。
 自分の意思とは関係なく、ニャルフェスの方へと歩いてゆく。
「ハルナ、はじめてのご奉仕をするニャ。リセ司祭長のお尻の穴を舐めてあげるニャ」
 それを聞いたハルナの感想は、
『げっ☆◇£▽∂∬!!!』
 だった。
 ニャルフェスさまのなら喜んでするのに……。
 でも、やっぱし体は勝手に動き出す。
 ニャルフェスさまに抱きかかえられて、痴呆のようによがり狂っているリセ司祭長のお尻に口が近づいてゆく。
 そこはかとなく言い知れぬかほりをかんじながら、舌でその穴をほじくった。
「イイイウウウウウッッッ!!!」
 リセ司祭長が声高に鳴き声をあげた。
「パンツを脱ぐのニャ。自分も気持ちよくなるのニャ」
 また命令が下る。
 激しく動き続けるリセ司祭長のお尻を舌でほじくりながら、スカートをめくり上げパンティを脱ぐという器用なことがこともなげにできてしまった。
 そのときのハルナの感想は、
『らくちん、らくちん!』
 だった。
 けっこう不届きモノである。
「いふぅっ!」
 今度上がった声はハルナのもの。
 パンティを脱がし終えた手が、自分の股間をいぢくりまわし始めたのだ。
「まずは、一回イッてみるのニャ」
 言うのと同時だった。
「いっおおおぅぅぅ!!!」
 イッた。
 どうやら支配されているのは、動きだけではないらしい。
 処女であり、こんなこと生まれて一度もしたことのないハルナだけど、あっさりイッた。
「つぎは、こっちニャ!」
 ニャルフェスが思いっきり突き入れる。
「いいいいいうううううっっっっっっ!!!」
 その一突きで、リセは失神した。
「お尻を突き出すニャ!」
 また命令される。
 もちろん、ハルナの体はその命令に従った。
「では、いくのニャ!」
 このとき初めて、ハルナは少し恐怖を感じた。
 覚悟は、とうに決めていたはずなのに……である。
 ニャルフェスさまのあの巨大なイチモツが、自分の中に入るのか?
 壊れてしまいそうな気がした。
 でも、いまさら逃げ出すことなどできない。
 ハルナの肉体は、もはや彼女のものではなかった。
 それにだいいち逃げ出したりなんかしたら、彼女はすべてを失ってしまう。
 こうなることのために、ずっと生きてきたから。
 貧しい家庭に生まれたハルナ。
 そんな彼女の夢。
 ニャルフェスの巫女になること。
 あまりに可能性が低すぎて、夢と呼ぶことすらためらわれるようなそんな夢。
 なのにハルナの両親は、ハルナの夢に付き合ってくれた。
 巫女の儀式を幼い頃に、街角の巨大スクリーンで見たあの日から……。
 何が正解なのかわからない。
 誰かに聞いたとしても、失笑をかうだけだった。
 なのにハルナの父は、仕事が終わるといろんな人に聞いてまわってた。
 嘲笑を受け、ときには娘を使って一角千金を狙っているのだろうとまで言われて。
 それでも丹念に調べた。
 ニャルフェスの巫女になるための方法を。
 あまりになりふりかまわない父の言動を、母はづっと支え続けた。
 乏しい家計を支えるために、自分の物は一切買わず、娘の夢を叶えるための資金を捻出した。
 そういったことを、ハルナが忘れられるわけがない。
 好きだった幼馴染の少年のことを、忘れたことも……。
 だから今、ハルナはここにいるのだ。
 もちろん、他の人にとってはどうでもいいようなことだろう。
 だけど、ハルナが後に引けない理由としてはそれで十分だった。
 ふりつもった時は、もどることはない。
 想いもまた……。
 だから……。
「ニャルフェスさまぁ……」
 ハルナが、初めて己の神の名を口にする。
 その瞬間、恐怖はうそのように消えていた。
「覚悟を決めたニャ? では、いくのニャ!」
 たぶん、そのときをまっていたのだろう。
 ニャルフェスがそう言うと、腰をゆっくりとつきあげる。
「ふあああぁぁぁぁっ」
 ハルナの口から声が漏れていた。
 ニャルフェスのものをあそこに感じていた。
 痛みはまるで感じなかった。
 ましてや、壊れることもなかった。
 気持ちよかった。
 とてつもない快感だった。
 でも、それとは別に想像もしていなかったようなものも感じている。
 それは、幸福感。
 とても幸せな感情。
 あふれそうなくらいに。
 自分でも知らないうちに、泪があふれ出していた。
 命の海にその身をすべてゆだねきっていることの、とてつもない安心感。
 こうしているだけで、なんの不安も恐怖も感じない。
 一切の負の感情から解き放たれていた。
 …………。
 これが、神と交わるということ……。
 やっていることはセックスだけど、人との交わりとはまるで違うもの……。
 経験のないハルナでも、そんなことくらいすぐに理解した。
 理性ではなく感覚によって。
「いいですうぅぅぅっ。もっとお、もっとですうぅっ!」
 肉体が快感をむさぼっていた。
『ああ、なんて、シアワセ……』
 心が至福に浸っていた。
 やめられない。
 このまま命が尽きようと、いつまでもこうしていたい……。
 ハルナの心は、そのことですべて占められてしまう。
 でも……。
「そろそろ、イッてしまうニャ!」
 ニャルフェスによって、肉体にもたらされた一撃。
 そして、カラー・オブ・オービーがその力を発動する。
「いあああぁぁぁっっっ!!!!!」
 ハルナの心が一瞬で透き通る。
 あまりに強烈な快感が、ハルナのリミッターを発動させる。

 ハルナは失神した。

 ハルナは後で意識を取り戻したときに、リセ司祭長のいった言葉の意味を理解した。
『あなた達は考えなくてはなりません。ニャルフェスさまがカラー・オブ・オービーをお使いになられることの意味を……』
 その言葉の真意を……。
 これは戒め。
 神に……ニャルフェスさまにおぼれてしまわないためのくびき。
 人には抗しえない魅惑から自分を引き剥がすための……。
 でも、それだけではないような気もする。
 よくは理解できないけど、そんな気がするのだ。
 確かに、考えなくてはならないみたいだった。

 メイド宣言した残り四人の巫女たちを、仲良く失神させたニャルフェス。
 今、ログハウスの二階にいた。
 大きなソファーに腰を下ろし、横にはリセ司祭長をはべらせている。
「ご主人さま、まち遠しゅうございました」
 リセ司祭長がニャルフェスに、宇宙でも最上級の美貌を向けて拗ねたように言った。
「かんべんだ、ニャ」
 なんと、ニャルフェスがあやまった。
「すぐに、いかれるのですか?」
 ニャルフェスの手をとり、そっと頬をよせながらリセ司祭長がたずねた。
「そうニャ」
 ニャルフェスが短くこたえる。
「次は、いつお帰りになられるのです?」
 本当はその返事を聞くのが怖かった。
 でも、たずねる。
 司祭長なのだから。
「………………」
 ニャルフェスからの返事はなかった。
 でも、それがなにより雄弁な返事となる。
 リセの目から流れ落ちた雫が、ニャルフェスの手を濡らした。
「あの子達は幸せです。ただ一度だけ情を交わしただけの神にすぎないのですから……」
 ニャルフェスの顔を見ることなく、リセ司祭長は言った。
 一体その言葉に、どれほどの想いが秘められているのか余人には想像つきかねる。
「わたくしは……」
 後の言葉は口にすることはできない。
 彼女はニャルフェスの巫女。
 その司祭長を務めるもの……。
 その感情は秘められたまま、死の床まで持ってゆかねばならない。
 光の巫女と称えられ、圧倒的な美貌を持った彼女。
 どれほどニャルフェスさまの寵愛を受けているように見えても、その相手に想いを告げることはできない。
 その瞬間、彼女は巫女たる資格を失ってしまう。
「泣くなニャ……」
 ニャルフェスがリセ司祭長の涙を、そっとぬぐった。
「はい……」
 不覚だった。
 両親が死んだときにすら、流さなかったというのに……。
「ニャーニャは行くニャ」
 ニャルフェスが言った。
「お体に気をつけて……」
 神にいうべき言葉ではなかったろう。
 でも、いわずにはいられなかったのだ。
 ニャルフェスさまは、最後の戦いに行かれるのだとわかってしまったから。
 たとえ結果がどうなろうと、もう二度とこの宇宙に戻ってくることはないのだと……。
 ……………………。
 ニャルフェスさまからの返事はもうなかった。
 たった今までリセの腕の中にあった、力強く暖かい神の手は消えていた。
 だめだとはわかっている。
 こんな感情に身を任せては、司祭長にふさわしくないのだと。
「うっうっうっうっっっ」
 嗚咽が漏れる。
 こらえきれない。
 まだ、ニャルフェスの温もりの感じられる腕を自分の胸に抱いて、リセはその場に泣き崩れた。

 せめて、今だけは……。

 結局かびたは結論を出すことができなかった。
 手にしたいちご大福を見て、万感の思いにとらわれる。
 その中でも一番強い思いは、
『これたべたら、お腹いたくなるかなぁ?』
 というものだった。
 それこそ幾多の試練をかいくぐってきたいちご大福なのだ。
 たとえ付き合いは短くても、付いた手垢は数知れない。
 手垢いがいにも、あんまり健康によくなさそうなものがたくさんついていそうだった。
 まぁ、ここまで付き合い続けたのはかびたっだ。
 自業自得というものだ。
 でも、やっぱり悩まずにはいられない。
 いちご大福を食べてお腹が痛くなったときと、ネコパンチとどっちが痛くないのかと。
 でも、ついにかびたは決心する。
 ネコパンチは確実に痛いけど、いちご大福はいたくなるかどうか分からない。
 かびたが、大きく口をあける。
 口元にもっていくと、ツーンとすっぱい香りがただよった。
 これは、絶対に体に良くなさそうだ。
 でも、かびたの決心はゆるがない。
 なにしろネコパンチは、とってもとってもイタイのだ。
 目をつぶり、かぷっとかぶりつこうとしたときだった。
 ドゴン!
 右の頬に入った。
 強烈な一撃だった。
「ふぎゅっ……」
 かびたは、へんな声をあげて、床の上に転がった。
「なにやってるニャ?」
 気楽な調子でニャルフェスが聞いてきた。
「い、いきなりなにするんですか?」
 かびたが文句を言ってみる。
「気にしなくてもいいニャ。かびたには関係ないニャ」
 気にするなといわれても……。
 それに、かびたにだって十分関係があるような気がするのだけど……。
「なんだ、そうなんだ!」
 かびたは、うれしそうになっとくする。
 それでいいのか? かびた?
「そんなことより、なにをやってるのかニャ?」
 ふたたびニャルフェスが質問する。
「これ……」
 かびたが、恐る恐る手にしたものを見せると。
「んっ? ニャーニャはいちご大福好きだニャ。でも、くさったいちご大福はいらないニャ」
 ニャルフェスが言った。
「かびたが食べるのは勝手ニャけど、確実にお腹こわすのニャ」
 はっきりと断定してくれた。
「う~ん」
 かびたは困ってしまった。
 さっきまでは、一か八かの可能性にかけてたけど、これでお腹が痛くなる可能性がほぼ確定されてしまった。
「一体かびたは、たりない頭で何をなやんでいるのかニャ?」
 ニャルフェスの質問に。
「これをたべてお腹を痛くするのと、ニャルフェスさまのパンチで痛くなるのとどっちがいいか……なやんでるんです」
 無謀にも、かびたはそんなことをいった。
「わかったニャ。ためしてみるニャ!」
 ベキッ!!!
「フギャッ!!!」
 後頭部に炸裂する。
 決まったのは、強力なネコパンチ。
 かびたの頭のまわりに、お星さまがいくつもとびちった。
「どうかニャ? あとは、いちご大福を食べてみるニャ。そうすれば、すぐに結論がでるニャ」
 かびたの悩みは、もうすぐ解決できそうだ。
 でも、そのときかびたの脳裏にちょっとした疑問が浮かぶ。
「あの……ニャルフェスさま……。これって、ニャルフェスさまが置いていったものじゃ……」
 遠慮がちにそうたずねると。
「ばかなことをいうなニャ。かびたに食わせるくらいなら、ニャーニャが食べてるニャ」
 正論だった。
 ニャルフェスは、神さまとは思えないくらいセコイのだ。
 バキッ!
「アギャッ!!!」
 かびたが、ひきがえるのように鳴いた。
「いたいです、ニャルフェスさま! なにすんですかぁ!」
 かびたが、強めに抗議する。
「今、失礼な描写がはいったのニャ。かびたは全然悪くないニャ。だから、気にしなくていいニャ!」
 かびたはなんだか、とっても理不尽なしうしちをされてるような気がしてきた。
 にぶいかびたの頭でも、それくらいはわかるらしい。
 でも、
「もう、いたくないニャ? 過ぎたことにこだわるのは、男らしくないニャ」
 という、さらに無茶な言い分に。
「あはは。それもそうですね」
 かびたは、あっさりと説得されてしまう。
 なんというか……。
 まぁ、かびただし、こんなもんだろう。
 ドガッ!
「フギュッ!」
 また、かびたが変な声をあげた。
 でもこんどは、かびたが何かいうよりさきに、
「サービだニャ。遠慮しなくていいニャ」
 とっても寛大なニャルフェスさまのお言葉だった。
 でもそれじゃ、今度はそれではすみそうもない。
「ううぐぐ……ゴキュ……」
 飲み込んでいた。
 苦楽をともにしつづけてきたいちご大福は、今かびたのお腹の中におさまっていた。
 なぜか、とってもすっぱい味のする、いちご大福であった。

「ごめんなさい、ニャルフェスさま……」
 かびたがいきなりあやまった。
 もう、食べてしまったものはしたかない。
 かびたは男らしく、忘れっぽいのだ。
 喉元をすぎたらなんでも忘れる。
 それがかびただった。
 でも、ニャルフェスさまの残していった謎の手紙は、依然としてなぞのままだった。
 だから、これ以上ネコパンチをくらうまえに、とりあえずあやまった。
 バギッッ!
「ヒデブッ……」
 いきなりのネコパンチだった。
 問答無用というやつである。
「なんのことかは知らないけど、あやまった以上は一発なぐってすっきりしとくニャ!」
 確かになぐったほうは、すっきりするだろう。
 でもなぐられるほうはたまらないかも……。
「で、なにをあやまってるのかニャ?」
 ニャルフェスがたずねる。
 できれば、先に訪ねてほしいなぁと思うかびただった。
 もっとも、思うだけなんだけど。
「あのこれ……なんのことかわからなくて。全然やれなかったんです……。ごめんなさい!」
 かびたが、またあやまった。
 ボギャッ!
「アイウウウッ!」
 かびたが、また悲鳴をあげた。
「あっ、しまったニャ。手がすべったニャ!」
 どうやら今度のは、間違ってなぐったらしい。
「まぁ、気にしなくてもいいのニャ!」
 気さくにニャルフェスが許した。
 もちろん、自分自身をだ。
 ニャルフェスさまは、とっても寛大な神様だった。
 とくに自分自身に関しては。
「このメッセージなら、ちっとも気にする必要はないニャ。ほんとは“操り眼鏡”を置いてくつもりだったんだニャ。でも、かびたに勝手に道具を使わせて、真名帖みたいなことになったら困るニャ。だから、置いていかなかったんだニャ」
 つまりメッセージだけで、元々なにもなかったのである。
「じゃ、いちご大福は?」
 思わずかびたが言った。
「知るかニャ! ニャーニャに聞くんじゃないニャ!」
 この言葉で、かびたのすべての努力は、まったく無意味なものだったことが実証されたのだった。

 その同時刻。
 別の場所。
 対峙する二つの影。
「その娘を置いていってください。そんなものでもいなくなると、かびたくんが悲しむ」
 片方が、美しい唇から冷たく透明な響きを持った声が放たれる。
 カオルだった。
「できんな。これは、わが巫女とする」
 もうひとつの影からは、対照的に重厚さをもった響きの声が聞こえる。
 その姿は、ギリシャの半神の英雄を思わせる、荘厳かつ威厳に満ちたものである。
 その腕には、ひとりの少女の姿があった。
 気を失っているみたいで、くったりとしている。
 かびたが思いをよせた少女、源さやかに間違いない。
「愛するもの同士を戦わせる……。それがあなたの望みなのですか?」
 カオルの声が冷たく響く。
「なんとでもいうがよかろう」
 もうひとつの影は、まるで動じることはない。
「また、かつての惨劇を多層宇宙にもたらすおつもりですか?」
 カオルの声は、どんどん底冷えしそうなくらい冷たくなってくる。
 それとともに、二人の間には言い知れぬ緊張が漂いだす。
「ならば、あなたを止めて見せます。その娘を盾にしたところで、役にはたちませんよ?」
 カオルの背中から、漆黒のつばさがゆっくりと広がってゆく。
「ふん。きさまに、そんな人並みの感情などきたいするものか。我が巫女となる者に、穢れしものの手が触れるのも忌まわしい」
 はき捨てるようにもう一つの影がこたえる。
「…………」
「…………」
 もう、それ以上言葉はかわさない。
 もはや、双方とも緊張が臨界点寸前にまで高まっていた。
 周囲に起こる、ほんとにささいな変化が火をつける。
 風がふいた。
 木の葉が一枚舞い降りる。
 それが、合図となった。
 同時に動く。
 速度はカオルがわずかに、パワーは男のほうがわずかに増している。
 ほぼ互角といっていいだろう。
 そのまま延々と戦いが続くかと思われたけど、終焉は一瞬の交錯とともにやってくる。
「さすがは始まりの神……。やりますね……」
 そういったのは、カオル。
 左手のひじから先が消えうせていた。
「こんなところで、きさまと相打ちなどとはシャレにならん。今日のところは引かせてもらう」
 そういった男の左目は大きくえぐられていて、瞳の変わりに空洞となっていた。
 そして、そのまま姿を消す。
 腕に抱えたさやかとともに。
「神の目を犠牲にしてまで、彼女を必要としたのか……。一体なにを考えおいでなのです、アルフェス……」
 二人のいなくなった虚空をしばらく見つめて、カオルもまた姿をけした。

< つづく >

 えっと……。
 こういうことするの初めてなんで、ちょち怖いっす……。
 じぶんが、こんふうにしゃしゃりでるの……。

 でももし、このニャルフェスにお付き合いいただいてる方がいらしたら、不意打ちみたいなことしたくなかっすから……。

 次回を最終話とするっす。
 別なお話書きながら色々考えたんっすけど、ここらが潮時だとおもったっす。
 お読みいただいているかたに、飽きられないうちに終わらせてしまうのが賢明だろうと判断したっす。
 じつはもう、とっくにあきられてしまっていて、自分はそれに気づいてないのかもしれないっす。
 だとしたら、次回の最終話は自分自身に決着をつけるためのお話ということになるっす。
 幸いにも、そのための伏線をこの第四話を使って書き出すことができたっす。
 ただ、次の第五話は、今までで一番長いお話になると思うっす。
 もし、できることでしたれば、お付き合いしていただければとってもうれしんっすけど……。

 でも、むりいえないっすし……。
 読んでて苦痛に感じるお話は、そもそも読む価値ないっすし……。

 と、いうわけで……。

 次回最終話 『ニャルフェスの戦い』

 できますれば、よろしくっす。

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