ドールメイカー・カンパニー (7)

(7) 完成検査

 相変らずの暑さが続いていたが、今日は風に湿度が感じられない。
 映美はビルの陰に入ると意外な涼しさにほっと一息ついた。
 大きなトランクを1つ重そうに手にしているが、心の中は久しぶりにスッキリしていた。昨日、誠との話し合いにけりがつき、正式に離婚となったのだ。この1ヶ月の間映美の心にのしかかっていた嫌な感情がプッツリと切れ、今日の天気のように軽く爽やかだった。
 新しい人生、再出発・・・。
 映美の今を象徴する言葉だ。たとえ、それがどんな人生であったとしても・・・。

「ええと、ここね」

 映美はビルの名前を確かめると、エントランスに足を向けた。
 7階建ての平凡な雑居ビル。この最上階に“オーナー”が知らせてくれた会社がある。

「株式会社DMC・・・って言ってたわね」

 サンサンマートの1級販売員の資格試験の会場・・・そう説明されていた。

「妙な会社を系列に持っているのね・・・」

 映美は少し不思議に思いながらも、エレベータに乗り込んだ。
 重いトランクには1週間分程度の着替えが詰め込まれている。今日の資格試験は面接だけであり、その後5日間にわたり泊り込みで実作業試験が続くということで、映美は離婚直後の慌ただしいなか、身の回りの物だけをかき集めて家を飛び出してきたのだ。
 両親にも離婚したことと、しばらく旅行に出ることだけしか伝えてない。
 失踪するお膳立ては、既に整ってしまっているようだ。

 7階でエレベータを降り正面にあるドアを開くとすぐに受付になっていた。

「こんにちは。あのぉ・・・竹下映美といいますが・・・」
「はい。いらっしゃいませ。ご予約の方ですね?」

 受付の女性はニコッと微笑むと、手元の資料に目を落とした。

「あら?ここには森下映美ってなっていますけれど・・・」
「あ、はい。その森下です。旧姓に戻りまして・・・」
「あぁ、そうでしたか・・・。失礼いたしました。会場へご案内いたしますので、どうぞこちらへ」

 受付嬢はさっと立ち上がると、自然に映美のトランクを手に持ち先に立って歩き出した。

「あ、あの・・・。どうもすみません・・・」

 映美はあまりに自然に振舞われたので、声を掛けそびれてしまった。
 小さな会社の割に、しっかりした人材が居るのね・・・
 映美はこの少し怪しげな会社を見直していた。

「こちらで少しお待ち願えますか」

 映美は小さな部屋に通された。テーブルは無く3人掛けのソファが1つ置いてあるだけだ。
 奥にもう1つ扉があり、案内してきた受付嬢はそちらに向かい、軽くノックすると一礼をして入っていった。多分そこが会場だろう。
 映美は落ち着かない気分で立ったまま、扉を注視していた。
 ほどなく扉が開き、受付嬢が姿を現した。

「準備が整いました。映美さん、どうぞ中へお入りください」

 受付嬢は親しげに名前で呼んで、映美の緊張を和らげようとしてくれている。

(この人、やっぱり出来た人だわ・・・)

 映美はまた少し感心して、改めて受付嬢を見た。胸のネームプレートに『静』と書かれてある。

「有難うございさす、静さん。頑張ってきますね」

 映美はちょっとウィンクをして静の気遣いに応えると、気持ちを切り替えて扉に向かった。

「失礼します」

 扉を開けて中に入ると、そこは予想通り大き目の会議室になっていた。
 会議机が“コの字”型に並んでいて、映美は丁度机が置いていない辺の真中に立っていた。
 正面と左右から視線が集中する。
 正面に4名、左右に3名ずつの10名が着席している。
 年齢は、上が50歳くらいで、下が20歳くらいか・・・
 全員男性である。
 映美はさっと視線を走らせると、意外な人物に気が付いた。

(水島くん・・・?バイトの水島くんがどうして・・・?)

 映美は不思議に思ったが、とりあえず軽く目礼をするに留めた。

「よくいらっしゃいました。森下・・・・じゃない・・・竹下映美さんですね?」

 一番年配そうな人が口を開いた。額がやや後退し始めた丸顔の優しそうな男だ。

「はい。竹下映美です。今日は宜しくお願いします」

 映美はぺこっと頭を下げた。

「こちらこそ、どうぞ宜しく。私は、この会社の社長をやっております“くらうん”といいます」

(クラウン・・・?どうみても日本人100%だけど・・・日系人かしら?)

 映美が密かに首をひねっていると、横から別の声が掛かった。

「それじゃあ、本日3人目の完成検査を始めます。今日はこれで最後です」

(完成?検査?何のことかしら・・・)

 映美が視線を向けると、ひょろっと背の高い30代半ばの男がホワイトボードを背に立っていた。
 そこには確かに『8月度 完成検査』と大書きされていて、その下に“松田怜”、“高田有紀”そして“森下(×)竹下映美”と書かれていた。
 そして、更に不思議なのは、夫々の名前の横に、“ぱんだ”、“くま”、そして映美の横には“きつね”と書かれているのだ。

(いったい何?干支・・・の訳ないか。)

「すみません・・・あのぉ・・・・完成・・・検査・・・・っていうのは・・・」

 映美は何かとんでもない間違いをしているのではないかと思い、恐る恐る質問した。
 しかし・・・・

「それじゃあ、試験官希望者は居る?」

 映美の質問は、ひょろ長い男によって、物の見事に無視された。
 ハイッ!ハイハイッ!!ハ~イ!俺、オレッ
 そこかしこから、まるで子供みたいにムキになった挙手が沸き起こり、映美を圧倒する。

「じゃあ、ここは“きつね”くんの指導教官でもある“あらいぐま”くんに任そうか」

 社長の一声でようやく喧騒状態が下火になる。

(“きつね”くん・・・?“あらいぐま”くん・・・?あだ名なのね?!)

 映美は馬鹿馬鹿しくて呆れた。
 そして、もう一度さっきの質問を繰り返そうと口を開きかけた時、左の会議机からまた一人立ち上がった。
 水島くんの隣に座っていた男で、年は水島くんと余り変わらなそう。22,3ってところか・・・。でも体型は筋肉質で鍛えて有りそう・・・ちょっと映美の好みだ。

(たぶんこの人が“あらいぐま”ね・・・・)

 映美が推測していると、男は一挙動で机を飛び越し、映美の前に立った。そして50センチも離れていないところから、映美を無言でじろじろと見下ろしている。

(なんなの、一体!)

 明らかにおかしい。資格試験の面接とは雰囲気がかけ離れている。

「あ・・・あの、これって1級販売員の・・・」

 映美が堪らずに口をひらくと、それを待っていたかのように男の手が映美の胸に伸びた。
 服の上からとはいえ、映美はもろに乳房を掴まれていた。

「きゃああああああああっ!」

 凄い音量の叫び声とともに映美の右手が男の頬に炸裂した。
 パチ~ンという小気味良い音が会議室に響く。
 映美は反射的に1歩下がると、男に背を向けるようにして胸を庇いつつも、視線はキッと男に向けている。

「な・・・何をするんですか!いったいあなたはっ」

 映美は唇を震わせている。
 しかし男の反応は、また映美の予想を裏切った。
 張られた頬をポリポリと掻きながら、他の審査員の方を振り向き

「どお?」

 と反応を確かめている。
 そして審査員達も、うんうんと頷きながらニコニコと笑っている。

(なんなの・・・この人たち・・・。オカシイわ・・・)

 映美は会場の異様な雰囲気にようやく気付いた。背中をつうっと汗が伝う。
 映美はジリジリと後ろへ下がり始めた。

「完成検査とは何か・・・・って質問だったよな」

 男は再び映美に向き直ると口を開いた。
 映美は男に視線を当てたまま無言で頷く。

「完成検査ってのは、その名のとおり、出来上がった製品を確認する最終検査のことだ。それで、そこに名前が書かれてるだろ。あんたも含めて3人。つまり今月の当社の製品は、あんたら3人ってわけ。お分かりかな?あと、ついでに言うと、横に書いてある名前が製品の製作担当者名。つまり、あんたは、“きつね”くんによって作られたっていうこと」

 男は“どうだ、判ったか”といった表情で映美を見下ろしているが、映美は心底当惑していた。

(私が製品?一体何のこと?作られたって?)

 映美のその表情を見て、男は肩をすくめた。

「まっ、理解する必要はないけどね・・・。一応、質問にはお答えしましたよ。」
「か・・・帰ります。私、間違えて来ちゃったみたいなので・・・」

 映美はできるだけ相手を刺激しないように、ゆっくりと言った。
 しかし、男は頭を横に振ると、再び肩をすくめた。

「だからぁ、これから完成検査だって言ったろ!」
「いったい何なんですか!さっきから訳の判らない事ばかり言って!私が製品って何のことよ!」

 映美も切れてしまい、思わず男に食ってかかった。

「1週間後、あんたを出荷しなきゃいけないんだ。判るだろ?あんたに買い手がついているんだよ」

 冷静な男の答えに、映美は一瞬で背筋が凍りついた。

(そ、それって・・・・人身売買・・・・)

 映美は信じられぬ思いだったが、それしかこの不気味な男の話を解釈できなかった。

「へへへ・・・。ちょっとは理解できたみたいだね。でもね、あんたを誘拐してどっかの国に売りつけるって訳でもないんだ。似てるけどね。それじゃあ、40点ってとこかな」

 男はニヤニヤ笑いながら続けた。

「さっきから言ってるだろ、あんたは当社の『製品』だって。もう、あんたは作り変えられているんだよ、『マリオネット』にね。で、今日の完成検査っていうのは、ズバリあんたの『マリオネット』としての機能と性能の試験なのさ。」

(狂ってるわ・・・・・ほんっとのキチガイ・・・)

 映美はもう男の話など、まともに聞いていなかった。しかし、人身売買の組織であることは充分に有り得るとも考えていた。

(逃げなきゃ・・・・たいへんな事になっちゃう・・・・)

 映美は再び、じわじわとさがりだした。

「あんたは、俺達の発したたった一言で、自由に動けなくなってしまうんだ」

 男は映美の素振りにまるで無頓着に話を進めている。

「例えばだ・・・・ええと、あんたの場合の『キーワード』は・・・・」

 そういって、男は片手に抱えていた資料を広げて目を落とした。

(今だわっ!)

 映美は男の視線が外れた途端、いきなり背後の扉にダッシュした。

「あぁ、これだ。『映美の足は、人形の足』~」

 映美は男の能天気な声を背中に聞きながら、先ほどの控えの間に飛び込み、後ろ手に扉をばたんと閉めた。
 そしてすぐ先にある通路に繋がっている方の扉に駆け出した。

(そこを抜ければ・・・)

 背後の部屋の中から、“映美~、戻って来~い”と声が聞こえている。
 映美はその声を聞いた途端、一瞬激しい眩暈を感じてその場に片膝をついたが、すぐに回復すると再び扉にダッシュした。

(まだ全員会議室の中だわ。この扉が開けば逃げ切れる。お願い、開いてっ!)

 映美は祈るような気持ちでドアノブを捻った。
 ドアノブは何の抵抗もなく廻った。

(やったわ!)

 映美はそのまま扉に肩からぶつかるようにして、外に飛び出した。そして、そこに待っていたのは・・・・

「やあ。おかえり、映美」

 ニヤニヤと笑みを浮かべた先ほどの男が立っていた。

(先回りされたっ!)

 映美は一瞬そう思った・・・・・・が、違っていた。
 そこは確かに映美が飛び出した会議室そのままだったのだ。

「なっ・・・・・あぁ・・・どうして・・・」

 映美は荒い息をつきながら呆然としていた。

「頑張ったようけど、残念ながら今日の試験にカケッコの項目はないんだ。」

 男は勝ち誇って続けた。

「無駄なことで体力を使うなよ。あとで肉体労働がたっぷりと待っているんだから。さっ、そんなことより、もっとこっち・・・・部屋の中央に来るんだ」

 男は映美の肩に手をかけて促した。
 映美は反射的にその手をパッと払ったが、不思議と足は素直に男の指示に従っている。
 映美がそれに気付いたのは、男がストップと指示を出してからだった。

(え・・・?私、どうしてこんな所まで来ちゃったの?部屋の真中じゃない!会議机とあの男に取り囲まれているじゃない!)

 映美は、焦って戻ろうとし、そこで初めて違和感に気が付いたのだ。

(あ、足が・・・・。足の動かし方が判らないっ!!)

 映美の顔からさっと血の気が引いた。
 男はその様子を見てにやっと笑う。

「気付いたのかなぁ、映美。足、動かないでしょう?」

(そんな・・・・・・・そんな馬鹿なことって・・・・・・・・)

 映美は頭の中が真っ白になりながらも、必死に足を動かそうとしていた。しかし、今まで自分がどうやって足を動かしていたかが、どうしても判らなかった。

「な・・・・何をしたの!私の足に何を・・・・・」

 映美は視線を泳がせる。

「クスリ・・・・クスリを使ったのね!何か・・・・・・痺れ薬みたいな!そうでしょ!ちょっと答えなさいよっ!」

 映美は我を忘れて、男に詰問した。

「あんたなぁ・・・・。ちょっと落ち着いたらどうだい?俺達が何か飲ませたりしたかい?」

 男はわざとらしく溜息をついて言った。

「騙されないわ!絶対そうよ。何かトリックを使ったに決まってる!」
「へへ・・・・。自分がマリオネットに改造されたって信じたくないのね。まあ、気持ちは判るけど・・・・。でもホントさ。証明してやるよ」

 男は自信たっぷりに言った。

「あんたは、俺らが手を叩くたびに、その場でジャンプするんだ。こんな風にね」

 そう言うと、男は軽く手をポンと叩いた。

(何を馬鹿なことを・・・・・)

 映美は男を睨みつけたが、次の瞬間予想もしていなかった衝撃を感じた。
 ふわっと舞い上がる髪が頬を叩く・・・・体に感じる微かな重力変化・・・・・そして床を踏み鳴らす乾いた靴の音。
 映美の脳はこれらの断片的な感覚を真っ先に感知した。

(わたし・・・・・私、いま、ジャンプした・・・・?)

 映美は視線を足元に向けた。
 唇の震えが止まらない。

「ほら、もう一回」

 ポンと手が鳴る。
 すると、当り前のように映美の足が床をけり、体を宙に浮かせた。

「い・・・いやっ・・・・」

 映美の顔からは完全に血の気が引いていた。
 映美の背後から別の手が叩かれた音がした。
 ポン。
 映美、ジャンプ。
 それを合図にするように、席に着いた男達の間からも、五月雨のように手を叩く音が湧き上がってきた。
 ポン。
 ジャンプ。

「やめて!」

 ポンポン。
 ジャンプ、ジャンプ

「いやあああ!」

 ポン、ポポン,ポン、ポン・・・
 ジャンプ、ちっちゃいジャンプに大きなジャンプ、そして続いて、ジャンプ、ジャンプ・・・

「いやあ!もうやめてぇ~!!!」

 調子に乗って湧き上がる手拍子に合わせて、映美の体が会議室で跳ね回る。映美は泣きながらも、自分の体を止めることが出来なかった。

「さあ、納得出来たろ?」

 男は、やっとジャンプから開放され両手で顔を覆って泣きじゃくっている映美に声をかけた。

「あんたは、もう人間じゃない。肉人形さ。」
「違う!私は人形じゃない!」

 映美は泣きはらした目を気丈に上げ、男を睨みつけた。

「いいねぇ、あんた。その気の強さ・・・・。」

 男は余裕で映美に語りかける。

「でも、いつまでもつかなぁ・・・。そろそろ、みんなも待ちくたびれてるから、ちょっとペースを上げるぜ」

 男は映美を正面から見つめる。

「映美、お前の体は、『人形の体』だ」

 映美は、その言葉にビクッと反応する。

(さっきの言葉と同じだ・・・・・・まさか・・・・・)

 映美は、おそるおそる自分の手を動かしてみる。

(動く!何よ、大丈夫じゃない!)

 そっと安堵の溜息が映美の口から漏れた。

「それじゃあ、先ずは服を脱いで、この場でヌードになってもらおうか」

 男は、そんな映美の様子を無視するように命令した。
 映美はまた男を睨みつけた。

「ならないわ。絶対に脱がない!」
「へへ・・・。脱ぐさ。脱いで自分から俺達に体を観察させるようになるさ。」
「ふ、ふざけないでっ!!」

 映美は男の余裕が許せなかった。

(足は動かなくても・・・・。)

 映美は視線を巡らせ、すぐ横の会議机に置かれたガラスの灰皿を目に留めた。

(あれを、このいまいましい男に投げつけてやるわ!)

 横目で男を再び視線に捕らえると、男は相変らずニヤニヤ笑っている。

(ええと・・・灰皿を投げるには・・・・・・まず何をするんだっけ・・・・?左手で掴んで・・・・・あ・・その前に左手を伸ばさないと・・・あ・・でも・・・・わたし右利きだから・・・右手を伸ばした方が・・・・・)

 映美は、まるで泥沼を歩いているようにちっとも進まない自分の思考に苛立った。

(私、どうしたんだろう・・・・・全然考えがまとまらない・・・・・)

 そうするうちに審査員達の間からどよめきが上がり、映美はふと我にかえった。
 見渡すと皆映美を見ているのだが、視線が微妙にかみ合わない。皆映美の顔ではなくその下を見ているのだ。
 つられるように視線を下げた映美は、いきなり自分の剥き出しの乳房に対面した。

「いやっ!な・・・なにっ!!」

 映美は反射的に両手で胸を隠し、しゃがみ込んだ・・・・・そう、自分では思っていた。
 しかし、映美の体は映美の意思についてこなかった。
 パサッと音がして、指に絡まっていたブラジャーが床に落ちたが、映美の体は背筋を伸ばしてまっすぐ正面を向いたままだった。

「あ・・・あああ・・・・」

 映美は衝撃でまともに言葉が出て来なかった。

「残念だったな」

 男は正面から手を伸ばすと、右手を映美の頤(おとがい)に当て強引に下を向かせた。そして左手を映美の乳房に持っていくと、乳首を嬲るように引っ張り出した。

「これはもう俺達のもんだ」

 映美に見せつけるように、男は指先で乳首をゆっくりと転がした。
 映美は呆けたように、そのさまを見ていた。

(わたしは・・・・・肉人形・・・・・なの・・・・?)

 ゆっくりと上げた顔には、先ほどまでの刺すような視線は消えていた。その代わりに、ぽっかりと空洞が空いたような瞳が男を見上げていた。

「さあ、残りはパンティだけだ。全部脱いだら“くらうん”さんから順番にマ○コの奥まで調べてもらえ。」

 男はそう言うと映美の尻をポンと叩いて先を促した。

 ギシギシとベッドのスプリングが小さく音を立てている。
 ソファ兼用のそのベッドが置かれた部屋は小さ目の個室で、木製の執務机と資料キャビネットがあった。
 株式会社DMCの探偵用の個室であり、マインド・サーカスのメンバー10人がそれぞれ占有している部屋の内の一つだ。
 映美は、ここで今日3人目の男に抱かれていた。
 名前も知らない、それどころか今日ここに来るまでは顔も見たことがない、話もしたことがない男に跨り、命令されるまま映美は必死で腰を使っていた。

 昼間の面接から既に3時間が過ぎている。
 “あらいぐま”の命令で最後の下着を脱がされた映美は、全裸のまま社長の“くらうん”の前に立たされた。そして前と後ろをじっくりと観察された後、会議机の上に登らされ自分の指で体を開き、性器や尻の穴まで晒すことになった。そして、それは会議に出席していた全員に、一人一人順番に行われていった。
 皆当り前のように映美の乳房を揉んで感触を確かめ、目の前に晒された性器に指を埋め、アヌスを嬲り、最後に汚れた指を映美の口で拭っていった。
 そのあと全員の見守る中、立ったままオナニーをさせられて、一応この面接は終了となったのだ。
 映美は最初激しい拒絶の言葉を叫んでいたが、やがて自分の手が生み出す快感に飲み込まれていった。2人の女性が部屋に通されたのは映美が最後の大波に体を痙攣させている最中(さなか)だった。
 司会のひょろ長い男は、後ろにあったホワイトボードを動かし入り口の扉の横に置き、その前に入ってきた2人を立たせた。
 そして、痙攣が収まり立ったままグッタリしている映美の手を取って、2人の横に並ばせた。

「それじゃあ、この後の個人評価の割り振りを決めます」

 ひょろ長い男の仕切りでそれは始まった。
 端に座っている審査員から順番に希望者を上げていくのだ。

「俺は、もちろん映美」
「あ、僕も」
「ぼくは、怜ちゃんがいいや」
「私は、有紀にしとこうかな」

 皆がそれぞれ希望を上げると、ひょろ長い男がホワイトボードの女性の名の下に“ぱんだ”とか“とら”とか書き込んでいく。
 映美は最初そのやり取りを呆然と聞いていたが、やがて自分の隣に立っている人が、自分と同じ目に合わされている女性であることに気付いた。
 首から上の自由は失っていない。映美はそっと横の女性を窺った。
 2人とも自分と同じく全裸にされ正面を向いて立たされている。首に巻かれた太い革の首輪がいたたまれない。
 そして2人の容貌は、映美が見ても息を呑むような美しさだった。
 一人は背が高く170センチくらいは有りそうだ。歳は自分と同年輩と映美は見ていた。
 鍛えて有りそうな引締まった体つきをしている。
 もう一人はぐっと小柄で155センチくらいか・・・。若そうだ。精々二十歳くらい、もしかしたら高校生かも。マシュマロみたいに柔らかそうな頬と、真っ白な肌が印象的だった。
 しかし、2人とも死んだ魚のようなドロンとした目を宙に据えていて、その表情に生気が感じられなかった。

(人形だわ・・・・。本当に人形にされてしまったんだわ)

 映美は2人の表情に自分の行く末を感じ取り、絶望感に震えた。
 結局、映美が一番人気で5人の指名が来たため、じゃんけんで3名に絞り各自3名づつの個人評価担当を選び解散となった。
 横の2人はそれぞれ別々の男に首の鎖を引かれ、部屋を出て行った。
 ちょうどそれと入れ違いになるように誰か一人部屋に入ってきたのが映美の視界の隅に映った。

「ごめんなさい。首輪、遅れちゃいましたぁ~。映美さんの最初の人、どなたですか?」

 映美はその声に聞き覚えがあった。

「あぁ・・・俺、俺。」

 映美の目の前で他の審査員と雑談していた、“あらいぐま”が手を上げて振り向いた。

「ごめんなさい。テプラの調子が悪くって・・・・」
「いや、丁度良いよ。いま終わったところだから」

 “あらいぐま”に親しげに首輪を渡している女性、それは映美を案内してきた受付嬢の静だった。

(この人までグルだったの・・・・・・?)

 映美は信じられない気持ちだった。

「じゃあ、行こうかの」

 “あらいぐま”は映美の首に無造作に首輪を嵌め、鎖を引っ張った。
 映美の体は素直に従い“あらいぐま”に付いて行ったが、口からは依然として拒絶の言葉が止まらない。

「あああ・・・・・もう・・・、お願い・・・・許して・・・・・」

 その様子を見て静が表情を変えた。

「“あらいぐま”さん、この人、映美さん、かかってないの・・・・?」
「いんや・・・・・充分かかってるよ」
「でも・・・・・・でも・・・こんなの・・・初めてみます・・・・・」
「ん・・・?あぁ・・・・静ちゃんは『初めてみる』んだろうな・・・・。俺らは『あんた』で慣れたけど」
「え・・・・?えっと・・・よく判りませんけど・・・・」
「ま、いいって、深く考えるな。とにかく、映美はかかっている・・・・・それも信じられないくらい深くね・・・・。でなきゃ、こんな表情豊かなまま、こんなに安定してねえよ」
「凄い・・・・・。誰なんです・・・?」
「“きつね”・・・」
「え~っ!“きつね”くん・・・・・?すっご~い!!」

 “あらいぐま”はちょっと肩を竦めてみせると、映美を引っ張って部屋を出ていった。
 連れて来られたのは、“あらいぐま”の私室だった。そして映美はここで1時間に渡り“あらいぐま”の慰み物になった。
 ベッドにごろんと横になったまま指一つ動かさない“あらいぐま”に映美は顎で使われ、命じられるまま体中を舌で舐めさせられた。フェラは勿論、足の指や耳の穴、果ては毛だらけの尻の穴まで舌で清めさせられた。
 そして自分の体を使った愛撫で充分に硬く勃起させたペニスに自分から跨り体内深くに収め、命じられるまま腰を使い、熱い樹液を子宮に注ぎ込まれた。

「お願いっ!外に・・・・・外に出してぇ~っ!!」

 悲痛な叫びを上げているのも映美なら、男に跨り腰を使っているのも映美なのだ。

「へへ・・・。外がいいなら、自分で抜けばいいじゃねえか」

 “あらいぐま”は仰向けに寝そべりながら、腰の上の映美に向かってそう言うと、何の躊躇いもなく映美の中に吹き上げたのだった。
 そして映美にとって更に辛いことは、こうした行為が映美の意思に拠らない完全なレイプであるにも拘わらず、今まで経験したことがないような信じられない絶頂を何度も迎えてしなったことだった。
 いつの間にか映美自身にも、命令に肉体が強制的に反応している所為なのか、自分の感じている快感で腰を振っているのか、判断がつかなくなってしまっていた。
 映美はしばし“あらいぐま”と繋がったままその腰の上で呆然としていたが、無論肉体奉仕がこれで終わった訳ではなかった。
 仰向けで放った自分のザーメンと映美の愛液がペニスを伝い“あらいぐま”の玉にまで流れてきていた。映美は当然のようにその生臭い粘液を自分の舌で全て舐め取らされ、全てを飲み込まされた。そしてその間に再び回復したペニスで貫かれ、自由自在に体を弄ばれていった。
 若い“あらいぐま”は、結局そのあと口で1回、パイずりで1回吹き上げようやく終了となった。
 そして、映美がやっと辛い陵辱が終わり開放されると思った時、最後にもっとも衝撃的なことが行われた。
 “あらいぐま”は一旦ズボンを穿き終わったが、何を思ったのか再びペニスを取り出すと映美の頭を掴み強引に自分の股間に持ってきた。そして映美に口を大きく開けさせると、「溢さず全部飲めよ」と命令して視線を上に向けた。そして“ふう~”という溜息と共に、ペニスから映美の口に勢いよく小便が流れ込んでいった。
 映美は余りのことにあっけに取られていたが、命令された肉体は何事もなかったように“あらいぐま”の小便を飲み込んでいき、出し終わったペニスに口を付け、尿道に残った雫をちゅっと吸い取ることまで行っていた。
 いっそさっきの2人のように意識まで無くなってしまった方がどんなに楽だったろうか・・・・。
 映美は、ふとそう思うようになっていた。

 “あらいぐま”の部屋からの帰り、映美は鎖を手にした“あらいぐま”の後を四つん這いで歩いていた。注ぎ込まれたザーメンを廊下に溢して汚さないようにするため・・・・である。
 そしてシャワールームに連れてこられると、そこで先ず“あらいぐま”の体を清めされられた。その場に突っ立っている“あらいぐま”にシャワーの湯をかけ、石鹸を塗り、洗い流し・・・・最後にタオルで拭い服を着させるところまでだ。その間、映美は股間からザーメンの残りを垂れ流したまま拭き取ることも出来なかった。

「よし。それじゃあ、自分の体を洗ってよし。10分間でだ。」

 “あらいぐま”は自分の用意が整うと、ようやく映美に許可を与えその場を後にした。
 映美に虚脱している時間は無かった。手早くシャワーを使い、惨めに汚された自分の性器を洗い、口をゆすぎ、顔や体に塗り込められたザーメンを流していった。そして、ようやく体を拭き終わり髪にブラシを通していると、再びシャワールームの扉が開けられた。
 しかし、そこに立っていたのは“あらいぐま”ではなく、審査会で進行をしていたひょろ長い男だった。

「あ、映美ちゃん。準備できたんだね。2番目は僕だから。宜しくね。“きりん”っていうんだ」

 男、“きりん”は、にこやかにそう挨拶すると、映美の鎖を手に取った。

「あぁ・・・・・・また・・・・・・」

 映美はもう口答えする気力も残っていなかった。
 鎖の引かれるまま、“きりん”の部屋に無言で付いていった。

 そして今ようやく3人目の男が映美の中に出し終わったところだった。映美は体の中に熱い樹液を注ぎ込まれながら、ねっとりと舌を絡められ生臭い唾液をたっぷりと飲み込まされたのだ。

「ふぅ~・・・・。まいったな、こりゃぁ。」

 男は満足そうに顔を上げ映美を見下ろした。
 映美はその様子をただ下から見上げるしかなかった。
 丸く脂ぎった顔、しまりの無い腹、べとつく肌、映美に嫌悪感しか抱かせないその男は、しかし今は映美の支配者だった。

(こんな男に・・・・・)

 映美は屈辱感で叫びだしたい気持ちだったが、ギリギリのところで踏みとどまった。
 今、キレてしまっても、結局酷い目に逢うのは自分なのだ。今は少しでも早く開放されたかった。

「どう?映美ちゃんも気持ちよかった?」

 男は信じられない無神経さで、映美の顔を覗き込んだ。

「・・・・・・はい・・・・」

 映美は力なく視線を逸らして、小さく答えた。
 男は、“そうかそうか・・・”と言いながらようやく映美の上から体をずらし、ベッドに仰向けになった。
 映美の体は男の動きに合わせて自動的に動き出す。すぐに男のペニスに顔を近づけペロペロと後始末を開始した。
 映美は今日何度目だか覚えていないこの作業が、どうかこの1回で終了して欲しいと切実に願いながら男を見上げた。
 すると、男の口からまた先ほどと同じ言葉が漏れた。

「ふぅ~・・・・。まいったな、こりゃぁ。」

 しかし、今度は満足の声ではなく、溜息と物思いに沈んだ口調のように映美には思えた。

「よし、もう良いよ、映美」

 男は気持ちを切り替えるようにそう言うと、ベッドから立ち上がった。
 これでようやく映美の個人評価が終了したのだった。

< つづく >

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