crystalrose 第四話

第四話

 三崎学園長とともに職員室に戻った私は、警察や教頭に山下を最後に見かけたときの様子を聞かれていた。
 どうやら山下は派手な死に方をしたらしい。ガソリンスタンドを炎上させ、周囲の建物にも被害を出したらしい。死者だけでも三人出ているという。
 そのため、早々に警察がやって来て事情聴取となったわけだ。
「山下先生でしたら何か思いつめたような顔をしていましたわ。私が話し掛けても気付いていないようでした。そのうちふらっと出て行って・・・それっきりですわ」
 私の言葉を警察官二人と教頭はうなずきながら聞いている。三崎学園長だけは心配そうに私の顔を窺っていた。
「なるほど、何か原因は思い当たりますか?」
「いいえ、私はしばらく学校を休んでいたものですから、山下先生とは一週間ぶりに会ったばかりだったんです」
 どうやら私の思い通りに死んでくれたようだ。下衆が一人どころか数人死んでくれてせいせいする。
「そうですか・・・教頭も学園長も思い当たることは無いらしいし・・・」
「まだ新婚でしたからね」
 禿げの教頭がしたり顔でそういう。
「わかりました。何か気が付かれたことがございましたら警察の方へ連絡して下さい」
「わかりました」
 二人の警官は何事かを話しながら部屋を出て行く。学園長が職員室を出て行く警官を見送った。
「やれやれですな。山下先生もとんでもないことを・・・」
「井田教頭、言いすぎですよ」
 三崎学園長は教頭の軽口をいさめる。
「それよりも君嶋先生。本当に山下先生はそんな感じだったのですか?」
 三崎聖夜の目が私を射るように見つめてくる。
「はい、間違いありません」
「そうですか・・・どうも・・・何かが変な気がするのです。この学園で何かが起こり始めているような・・・」
 やはりこの女は何かある。
「君嶋先生も充分に気をつけて下さい。今日はこれまでにしましょう」
「はい、失礼します」
 私はそう言って、職員室を後にした。

 郊外にある十階建てのマンション。
 私はかつての自宅に帰ってきた。
 私の部屋の周囲にはすでに結界が張ってあり、私の部屋の中で何が行われているのかを気付かれる心配は無い。
 私が戻ってきたときには部屋にはすでにクモーナとサソリナがやってきていた。
 二人とも私が部屋に入ると、跪いて一礼をする。
「二人ともご苦労でした。報告を聞かせなさい」
 私はすぐに変身を解き、本来のブラックローズの姿に立ち戻る。
「はい、ブラックローズ様。すでにこの部屋の両隣の地上人は始末いたしました。下僕虫どもの巣として活用するよう命じてあります。今晩中にはこの階の制圧を終える予定です」
「それでいいわ。マークしていたクリスタルレディどもはどう?」
 クモーナの言葉に私はうなずく。いずれこのマンションは我が帝国の前線基地となるだろう。
「はい、春川しのぶは特に目立った行動はありませんでした。ただ、ブラックローズ様とお会いなされた後は生き生きとしていたようです」
「ふうん。そう。他には?」
「はい、陸上部の主将を務める河田美晴に我が魔力を送り込み、奴隷人形にいたしてございます」
 サソリナがにやりと笑う。
「それでいいわ、いつでも使えるようにね」
「はい、ブラックローズ様」
 サソリナは頭を下げる。
「私の方も同様です。澤崎律華に目立った動きはありません。ただ・・・」
 クモーナが言いよどむ。いったい何だろう。
「どうしたの?」
「図書室に学園長がやってきていました。何事かを話していたようです」
「学園長が?」
 私の言葉にクモーナはうなずいた。
「あの女の正体を突き止める必要がありそうね。何か手段を考えなくては・・・他には?」
「図書委員の二人を奴隷人形にしてあります」
「そう・・・二人ともいい娘ね。えらいわ」
 私が二人を褒めてやると、二人ともとても嬉しそうな顔をする。わたしの可愛い忠実なしもべたちだ。
「明日、一つの計画を実行します。お前たちはそのまま任務を続けなさい」
「はい、ブラックローズ様」
 二人の声が部屋に響いた。

 その夜。マンションの八階から地上人の姿は消えた。

 翌日、私はまた気が進まないながら君嶋麻里子の姿をとり、学園に向かっていた。
 繁殖するしか能の無い地上人どもがあふれるなか、私は二人の女学生に目を留める。
 手に持ったお弁当箱を差し出して、昼食を一緒に取ろうとせがんでいる聡美と、それを受け取りうなずいている姫菜の姿だ。
 聡美は指示通りに動いている。
 姫菜はそれが罠だとも気が付かずに、聡美のお弁当を受け取っていた。
 今日の放課後は楽しみだ。
 私は彼女たちに軽く挨拶をして、校門をくぐっていった。

「麻里子先生!」
 休み時間に私は声を掛けられた。
 廊下をてくてくとやってきたのは、澤崎律華だった。
「澤崎さん? どうしたの?」
「ちょっとお話があります。いいですか?」
 さらさらした黒髪をなびかせて、眼鏡の奥の瞳が私を見つめている。
「いいけど・・・どうしたの?」
「ちょっと・・・こちらへ」
 律華に引かれるまま、私は階段の陰に誘われる。何をする気だろうか・・・
「ここならいいですね。他には聞かれたくないから」
 律華はくるっと振り返り、私に向き直る。
「麻里子先生!」
「はい?」
「麻里子先生、いやローズさんからも言って下さい!」
 私はドキッとした。ローズと呼ばれたことに驚いてしまったのだ。
「律華ちゃん、どうしたの? その名はここでは・・・」
「わかっています。けど、私見ていられなくて・・・」
「いったい何があったの?」
 律華の切羽詰った感じが私に警戒をさせる。
「しのぶちゃんです! それと姫菜も! あの二人、先生が居なかったっていうのに、まるで警戒感が無かったんですよ! 幸い地底帝国もこのところおとなしくて、私たちの出番は無かったんですけど・・・しのぶちゃんなんか先生が居ないと気が抜けたようになっちゃって、大好きな陸上を二日も休んじゃうし・・・姫菜は姫菜でカラオケ行って遊んでいるし・・・本当に先生が・・・いえ、ローズさんが居ないと私たちばらばらになっちゃう」
 一息にまくし立てる律華を見ていて私は笑みが浮かんでしまった。
 しのぶと姫菜が好き勝手しているなかで、律華は相当にやきもきしていたのだろう。
 この分では戦闘にも影響があるかもしれない。
 姫菜といい、しのぶといい、ずいぶんと隙があるようだ。上手くその隙を突くことができれば・・・
「わかったわ。後で、私からも注意しておくわ。地底帝国はまだ健在なのだから気をつけなさいって」
 その通り。私たちは健在である。
「お願いします麻里子先生」
 律華はぺこりと頭を下げる。髪の毛がふわっと舞う。
「いいえ、律華ちゃんも大変ね」
「そんなこと・・・先生に比べたら・・・あ、そうだ」
「?」
 律華が思い出したように顔を上げる。
「先生? 本当にお母様がご病気だったんですよね?」
「なぜ?」
「その・・・学園長が来て・・・君嶋先生に変なところは無いかって聞いてきたんです」
「学園長が?」
「はい」
 やはり学園長はクリスタルレディを知っているわ。私の事を律華に聞くのがその証拠。
「先生・・・」
「何?」
「もしかして・・・学園長は地底帝国のスパイかも・・・」
 私は思わず笑ってしまった。
「先生・・・笑わなくても・・・」
 律華がすねる。
「ごめんね、でもそれも一理あるわね。何かで洗脳されているとか・・・」
 白々しいセリフだわ。でも・・・学園長を奴隷人形にするのも悪くないわね。
「そうですね。私も気をつけます」
 律華は真剣にうなずいている。そこへチャイムが鳴り響き、律華は引き上げていった。

 お昼休み、私は聡美の首尾を確かめるべく、二年三組へ向かう。
 廊下には思ったとおり聡美が張り付いていた。
 手にはお弁当箱。
 私はゆっくりと近付いていった。
「あ、君嶋先生、こんにちは」
 何事もないように聡美が挨拶をする。だが、その瞳は私を見ただけでぼうっとなっていた。
「これからお昼? 栗原さんと一緒に?」
「はい、先輩と一緒にお昼を食べようと思いまして」
 聡美がお弁当箱を捧げて見せる。
「そう、それは良かったわね」
「はい・・・うふふ・・・早く先輩に朝渡したお弁当を食べて欲しいです」
 聡美の顔に邪悪な笑みが浮かぶ。
「おっ待たせー!」
 扉を開けて飛び出してくる栗原姫菜。
「こんにちは、先輩」
「こんにちは、栗原さん」
 私と聡美がそれぞれ挨拶する。
「あれ、センセも一緒? 今日もご一緒します?」
 姫菜はにこやかにきらきらした目で私を見ている。茶色の髪が肩口で揺れていた。
「いいえ、今日は遠慮しておくわ。二人で仲良く食べなさい」
「なんだー、詰まんないの。そうだ、センセ、これこれ、聡美のお弁当なんですよ」
 姫菜は手に持ったお弁当箱を捧げて見せる。チェックの柄の布に包まれたお弁当箱だ。
「あら、いいわね。巻き上げたのね?」
「ひどーい! そんなことしないよ。これは聡美が私のために作ってくれたんです」
 姫菜がほっぺたを膨らます。
「一人分も二人分も一緒ですから」
「とか言うくせになかなか作ってくれないんですよ。ひどいですよね」
「まあ、先輩ったら! もう作りませんよ!」
「ごめんごめん、それじゃ屋上へ行こうか?」
 腰に手を当てて膨れている聡美を連れて、姫菜は階段へ向かっていく。
 私はその後ろ姿を見て笑みを浮かべた。

 放課後。
 職員室へ向かう私を見つけた聡美が笑みを浮かべながら近付いてくる。
「君嶋先生」
 私は足を止めて聡美の報告を聞く。
「首尾はどうです? 聡美」
「はい、ご命令どおり薬入りのお弁当を先輩に食べさせました。今頃先輩はぼうっとして何も考えられなくなっているはずです」
 周囲に誰も居ない事を確かめて、聡美は嬉しそうにそう言った。今の彼女は私の命令に従うことこそが喜びなのだ。
「そう、あとの行動もわかっているわね?」
 命令を果たすだけの奴隷人形。下僕虫と変わりない存在。
「はい。先輩を連れ出し、ブラックローズ様のマンションにお連れします」
「住所はわかっているわね。タクシーを使っても構わないわ」
「はい、そのためのお金も持ってきています」
 聡美はうっとりとした表情でうなずく。
「では間違いなく行いなさい。失敗は赦さないわ」
「はい、決して失敗いたしません」
 聡美は一礼すると、すぐに姫菜のクラスに向かった。あとは姫菜をマンションに招待するだけである。

 今日の私は早々に帰途につく。
 マンションへ向かう私の足は自然に速くなり、口元には笑みが浮かんでくる。

 マンションの八階はシーンとしていた。
 それも当然。ここには地上人は誰も居ない。
 昨夜のうちにクモーナとサソリナが皆殺しにして、死体は下僕虫どもが始末した。
 結界も張ったこのフロアはもう私の自由な空間だった。
 私は自分の部屋のドアを開ける。そこには一人の少女が立っていた。
「お帰りなさいませ、君嶋先生。いえ、ブラックローズ様」
 黒いレオタード姿の片場聡美が私が入ってきたことに気が付いて跪く。
「聡美、その格好は?」
 白い肌の聡美に黒いレオタードは良く似合っている。こげ茶の髪にも映えていた。けれど私はそんな格好をしろといった覚えは無い。
「はい、私はブラックローズ様の奴隷人形。ブラックローズ様にお仕えするのにふさわしい格好を考えたらこれが一番だと思いまして」
 なるほど、聡美なりに考えたことか。まあ、いいでしょう。
「いいでしょう、良く似合うわ」
 私もブラックローズの姿を取り戻す。やはり気分が晴れ晴れとしてくるのを感じた。
「それで?」
「はい、万事上手くいきました。栗原姫菜はベッドの上でお休みです」
 聡美は下を向いたまま報告する。奴隷が主人を見上げるのなど許されることではないのだ。
「そう、良くやったわ。奴隷人形にしては上出来ね」
「ありがとうございます。ブラックローズ様」
 私はそう言ってベッドルームへ向かう。聡美も立ち上がり付いてきた。
 ベッドルームの奥の壁には真っ黒な闇が口を開けている。地底帝国へのゲートである。
 その手前にあるベッドにセーラー服姿の女学生が眠っていた。
 何も知らずに眠っているその女学生は紛れも無く栗原姫菜だ。
 クリスタルピーチがここで眠っていることに私は喜びを感じた。
「うふふ・・・それでは行きましょうか。我らにふさわしい闇の世界、地底帝国のアジトへ」
「はい、ブラックローズ様」
 私はそっと姫菜を抱きかかえると、聡美を連れてゲートをくぐった。

 ちゅぷ・・・ぴちゅ・・・ちゅば・・・くちゅ・・・
 私は舌を絡ませて、ゲドラー様の肉棒を丹念に舐めしゃぶる。
 ぴんと張ったえらと太い幹は私の口の中いっぱいに広がって、私を恍惚とさせてくれる。
 美味しい・・・
 私はゲドラー様にご奉仕できる喜びと、気持ちよさで股間がうずいてどうしようもなかった。
「ぷあ・・・ゲドラー様・・・美味しいです」
 目の前にある私の唾液にまみれたゲドラー様の肉棒。先からはてらてらと光る液がにじみ出ていて、ゲドラー様も気持ちよくなっていただいているようだ。
「いい感じだ。気持ちいいぞ、ブラックローズ」
「ああ・・・ありがとうございます、ゲドラー様。私もゲドラー様の肉棒がとても美味しいですわ」
「ふん、ではもっと美味しくしてやろう」
「ああん・・・嬉しいです」
 私の口の中でゲドラー様の肉棒がぴくぴくと動く。舌で刺激をしてあげると、ゲドラー様の顔も喜びの表情を浮かべて下さった。
「うぐ・・・出そうだ。いくぞ」
「ふぁい」
 私はうなずいて放出を待つ。すぐに口の中いっぱいに暖かく粘りのある液体が流れ出してきた。
「むぐん・・・んぐ・・・んぐん」
 肉棒から口を離し、こぼさないようにしっかりと受け止めてのどの奥に流し込む。
「はあ・・・美味しい」
 私はこの液体の味がとても好きになっていた。もっとも、それはゲドラー様のものに限るのだが。
 皇帝陛下ももしゲドラー様のように肉棒を持っていらっしゃるのならば、私はぜひご奉仕させていただきたい。
「フウ・・・ふん、上手くなったなブラックローズ」
「お褒めの言葉ありがとうございます。ゲドラー様にお喜びいただいて光栄ですわ」
 口から滴った白濁液を指で絡めとり私はそっと舐め取った。
「ふん、ところでクリスタルレディを一人捕まえたようだな。さすがだブラックローズ」
「ありがとうございます。それにつきましてご相談があるのですが」
 ソファにくつろぐゲドラー様の前で私は片膝をついて跪く。
「なんだ? 相談とは」
 ゲドラー様の股間はすでに外骨格が覆い、屈強な肉体をカバーしている。
「はい、あの小娘、クリスタルピーチをいかがいたしましょうか? 始末するのはすぐにできますが、ゲドラー様のお考えをお聞きしたくて・・・」
「ふん、もうすでに決めているのだろう? 違うか?」
「はい、私の勝手な希望ですが、彼女も妖女虫化してしまえばよいかと・・・」
 これは別に姫菜を哀れんでのことではない。彼女の地上人としての身体能力の高さは妖女虫と化した時により良く発揮されるのではないかと思ったからだ。
「ふん、いいだろう」
 ゲドラー様がうなずいて下さる。
「では、早速」
「だが・・・」
「?」
 私は立ち上がろうとして動きを止める。
「そのままでは魔獣の核は奴には効かん」
「それはどうして?」
「ふん、クリスタルのシールドだ」
「シールド?」
 初めて聴く言葉だ。そのようなものが?
「かつてのお前もそうだったが、クリスタルレディは単にクリスタルのペンダントから力をもらっているわけではない」
「そうなのですか?」
「クリスタルのペンダントは持ち主に力を与えると同時に正義への執着心をも植えつける。そしてその精神にシールドを張り、他者の干渉や精神攻撃を防ぎ正義の心を維持させるのだ」
「それでは洗脳?」
「ふん、変わらんさ」
 ゲドラー様がにやりと笑う。
「では・・・私も?」
「ふん、お前が生まれ変わるのにどれだけの時間が掛かったと思っているんだ。あの部屋には闇の気が充満していた。普通の地上人ならば一瞬で心を闇に染めてしまうほどのな」
「そんなに・・・」
 私は驚いた。それほどまでに私は正義などというものにとらわれていたのか・・・
「ふん、だが苦労した甲斐はあったな。こんなに妖艶な闇の女になったのだから」
 ゲドラー様が私の顎を持ち上げて、私の顔をじっと見つめる。
「ありがとうございます。ゲドラー様」
 本当に感謝してもしきれないくらいだわ。
「ふん、今のままで魔獣の核を使えば、おそらく拒否反応が出て死んでしまうだろう。その前にまず心を開放しなければなるまい」
「心を開放?」
「女にとって心が無防備になる瞬間はいつだ?」
 ゲドラー様が意地悪く微笑んでいる。なるほど。
「わかりました。姫菜ちゃんにも楽しんでもらいますわ」
 私は立ち上がると、部屋の出口に向かう。これから姫菜を可愛がってあげなくては。
 だが、ふとした疑問が私の足を止めた。
「ゲドラー様?」
「ふん、どうした」
「ゲドラー様はそれがわかっていながら、なぜ私を放って置かれたのですか? 時間が掛かるというのに」
「ふん、こだわりだ。俺のな」
「?」
「無理やりは好かんのだよ」
 ゲドラー様はそう言って笑った。

 この部屋にかつての私が居た。
 この部屋でかつての私は消え去った。
 この部屋は、私が新たな一歩を踏み出したところ。
 不要になった過去を切り捨て、地底帝国の一員となって新たな生を授かるために過ごした場所。
 これからはこの娘も・・・ここを思い出とするのかもしれない。
 私の目の前には眠っている姫菜が居た。
 そして私の傍らには黒いレオタード姿の聡美が居る。
 地上人でありながらここに居るのは許されることではなかったが、私の奴隷人形であるために特別に許されているのだ。
 聡美をここに連れてきたのは姫菜の精神に影響を与えるのに都合が良いと思ったこと。
 はからずもゲドラー様のお言葉により、それが必要であることがわかったのだ。
 それまでは単に姫菜に絶望を与えて、魔獣の核を植え込んでしまおうと思っていたのだけれど、それではだめだということがわかったので、聡美に姫菜を可愛がってもらうことにした。
「さあ、聡美、姫菜ちゃんを起こして差し上げなさい」
「はい、ブラックローズ様」
 聡美は立ち上がると、ベッドのそばに行き、姫菜の名をそっと呼ぶ。
「先輩・・・栗原先輩・・・起きて下さい」
「ん・・・うん・・・もう少し・・・」
 身じろぎをしながら姫菜がぐずる。朝はいつもこうなのかしら。
「先輩・・・起きて下さい」
 ゆさゆさと聡美が揺さぶると、姫菜はゆっくりと目を開けた。
「ん・・・あれ・・・ここは? ・・・あれ・・・躰が・・・」
 姫菜に与えた薬は躰の力が出なくなるものと、催眠剤の合わさったもの。躰の力は当分入らないでしょう。
「あれ・・・私・・・どうして・・・」
「ふふふ・・・先輩は眠くて力が入らなくなったので、私がここへお連れしたんですよ」
 聡美が姫菜を見下ろしている。姫菜はまだぼうっとしているみたいだ。
「そうか・・・ごめん・・・でも・・・ここどこ?」
「うふふ・・・ここはいいところですよ、先輩」
 躰の自由が利かない姫菜は首だけ回して周りを見る。
「暗いところだ・・・いやな感じ」
「そんなこと無いですよ、私ここで暮らせたらなって思いますもん」
「聡美・・・えっ? あれ? なんて格好?」
 姫菜は聡美が黒のレオタードを着ていることに気付いたらしい。
「うふふ・・・これですか? 地底帝国の奴隷人形にはふさわしいとは思いませんか?」
「ち、地底帝国? 聡美?」
 身を起こそうとするが力が入らない姫菜は、首だけで周囲を見渡す。
「ここ・・・地底帝国って・・・聡美! どういうこと?」
「あん、怖いですわ先輩。ここは地底帝国のアジトの一室。私は地底帝国にその身を捧げた奴隷人形なんです」
 聡美はうっとりとして自分の胸に手を当てる。
「聡美・・・あなた・・・洗脳されちゃったの?」
「そうですよ。私、ブラックローズ様に奴隷人形として洗脳していただいたんです。とても気持ちがいいんですよ」
「ブラックローズ?」
「そう、ブラックローズ様は私の全てを捧げてお仕えするお方。私のご主人様なの」
 悔しそうな表情を浮かべる姫菜。躰の力が入らないことに焦りを感じているのだろう。
「そいつが聡美を・・・待ってて、すぐにそいつの洗脳から解放してあげるから」
「わかってないですね、先輩は。私そんなことして欲しくないんです。私はずっと奴隷人形で居たいの。それよりも先輩」
 聡美がすっと顔を近づけた。
「先輩も地底帝国の一員にしてあげるって言ってましたよ、ブラックローズ様が」
「ふざけないで! 聡美には言っていなかったけど、私は正義を守る戦士クリスタルピーチなんだ」
 姫菜はそう言って胸元に手を当てる。が・・・
「あれ、無い。ペンダントが無い!」
「だめですよ先輩。そんなものははずしちゃいました」
「は、はずした?」
 姫菜の顔に焦りが濃くなる。
「ど、どこへやったの?」
「ここよ」
 ゆっくりと私は部屋の隅から姿を現す。姫菜のペンダントは私の手に握られていた。
「君嶋センセ・・・違う・・・あなたは誰?」
 首をずらして私を見る姫菜。その目が驚愕に見開かれる。
「何を言っているんですか、先輩? このお方こそブラックローズ様。人間の姿のときは君嶋麻里子先生ですよ」
「え? うそ・・・」
 聡美の言葉に姫菜はショックを受けたようだ。
「うそ・・・センセが・・・ローズさんがそんなかっこして・・・黒と・・・赤で・・・うそだよ」
「驚くのも無理は無いわ。確かに以前の私は君嶋麻里子と名乗り、クリスタルローズなどとして戦ったわ。でも私は生まれ変わったの。今の私は地底帝国の女戦士ブラックローズなのよ」
 私は微笑んだ。この気持ちはまだ彼女にはわからないだろう。でも、彼女も妖女虫となればきっとわかるに違いない。
「うそだよ・・・センセが・・・あのセンセが」
「うそではないですよ先輩。君嶋先生はブラックローズ様なんです」
 耳元でささやく聡美。
「うっ・・・そんな・・・そんなのって・・・そんなの無いよぅ」
 姫菜の目からぽろぽろと涙が流れる。
「泣かなくてもいいですよ先輩。すぐにブラックローズ様が先輩を妖女虫にして下さるそうですよ。私・・・うらやましいです」
「妖女虫?」
 すすり上げながらも姫菜は何とか逃れようと身をよじる。
「はい。先輩に魔獣の核を植え付けて、身も心も地底帝国の一員にして下さるそうです」
「い、いやよ・・・そんなのはいや」
「私がそのお手伝いをするんですよ、先輩」
 聡美がベッドの上に乗りあがる。
「いやだ! 来ないで! 来ないでよ!」
「うふふ・・・先輩、可愛いです。気持ちよくしてあげますね」
 じたじたと逃げようとする姫菜を聡美はそっと押さえつける。
「いやだぁ!」
 姫菜の叫びが部屋に響いた。

 ん・・・んむっ・・・ぷあっ・・・んむっ・・・
 姫菜の上にのしかかるように聡美はその身を寄せ、薄く開かれた可愛らしい唇で姫菜の唇を奪う。
「ふう、怖がらないで下さい、先輩。私が先輩を気持ちよくして差し上げますから」
「やめて、聡美。やめてよ」
「だめですよ、先輩」
 聡美は再び姫菜に口付けをする。
 私はベッドの脇に立ち、二人の様子を観察した。
「ぷあ・・・やめて、聡美、やめなさいって」
「うふふ・・・私、先輩がうらやましいんです。だって・・・先輩は奴隷人形じゃなく、妖女虫になれるんですよ」
「いやだよ、そんなのになりたくないよ」
 身じろぎをしながら、何とか逃れようとするが、力が入らない以上聡美のなすがままだった。
「ひどいですね、先輩は。私なら喜んで妖女虫になるのに」
「聡美! 目を覚まして!」
 姫菜の叫びもむなしく、聡美はゆっくりと姫菜のセーラー服を脱がせていく。
「でもね、先輩・・・すぐに先輩も妖女虫にしてもらいたくなりますよ」
「えっ?」
「そうですよね、ブラックローズ様?」
 聡美と姫菜が私を見る。女の子同士も悪くないわ。
「ええ、そうよ。この部屋にはね、闇の気が充満しているの。今はまだクリスタルのシールドがあなたを護っているけれど、聡美に可愛がられていっちゃったりすると・・・無防備になったあなたの心は闇で満ち足りることになるわ」
「そんな・・・そんなのには負けません」
 姫菜が私をにらむ。まだ愚かな地上人としての心にとらわれているのだから仕方が無い。
「負けるだなんて・・・先輩は本当の自分を取り戻すんですよ」
 力の入らない姫菜の躰から上着を取り去り、スカートのホックをはずして足元に下ろしていく。
「やめ・・・やめてぇ・・・お願い」
「うふふ・・・泣き叫ぶ先輩も可愛いですよ」
 聡美は姫菜の首筋に舌を這わせて快感を導き出していく。あらわになった胸には白いブラジャーが付けられていた。
「先輩の胸ってどんなかな? うふふ、楽しみ」
「あ・・・いやあ」
 スカートを脱がされ、下着だけになった姫菜はおそらく絶望を感じているはずだわ。あとはその心の隙を突いて快楽で染め上げること。
 私はベッドの足元に回り、足元に絡んでいるスカートをはずしてやる。
「ふふっ、先輩のお胸、きれいですね」
 姫菜の背中に手を差し込み、ブラジャーのホックをはずす聡美。そのままブラジャーを取り去ると姫菜は真っ赤になって唇を噛み締める。
「あまり大きくないけど形は素敵。うふ、感度はどうかしら」
 聡美はゆっくりと躰を沈め、姫菜の胸に舌を這わせた。
「ひゃうっ!」
「感度は良好ですわ、ブラックローズ様」
「そのようね。たっぷりと可愛がってあげなさい」
「はい、ブラックローズ様」
 聡美は再び両手で姫菜の胸を愛撫しながら、乳首に舌を這わせていく。
 姫菜の乳首はすぐにピンと立って、快感を感じているのがわかった。
「ふああ・・・いやあ・・・ああん・・・あん」
 姫菜の躰が赤く上気してくる。
「うふふ・・・それじゃ私はこちらね」
 快楽を感じ始めたようなので、私は姫菜の下半身に手を伸ばす。
 ショーツに覆われたそこはすでにしっとりと湿り気を帯びていた。
「うふふ・・・感じているのね」
 私はショーツを引き下ろすと、ゆっくりと顔を近づける。
 まだ若いが、すでにメスの臭いを漂わせている。
 私はそっと草むらの中に指を差し込んだ。
「あひい!」
 激しい反応。処女であることは間違いない。
「少し強いかもしれないけど、すぐに気持ちよくなるわ」
「お胸は私が可愛がってあげる」
 私たちの言葉を姫菜はすでに聞いていないかもしれない。けど、その表情は快楽を受け入れ始めているようだった。

「ひゃう・・・あふ・・・ふあ・・・いい・・・いいの・・・いい」
 次第に声につやが混じり始める。姫菜の目もとろんとしてきている。
「感じて・・・感じて下さい、先輩」
「そうよ、もっともっと気持ちよくなりなさい」
 聡美は胸と首筋を、私は股間を愛撫して姫菜の躰をほぐしていく。
 躰をほてらせてハアハアと姫菜はあえぎ始めている。
 快楽が躰を支配し始めているのだ。
「ハアハア・・・いいよ・・・気持ちいい・・・ああん」
 私は姫菜のスリットに二本指を差し入れて、クリトリスを刺激してあげる。
「ひゃあん・・・あはあ・・・素敵ぃ・・・はわあ」
 徐々に快楽が膨れ上がり、姫菜の躰を覆っていっているようだわ。もうすぐいってしまうはず。
「あひい・・・何・・・何か・・・来る」
「気持ちいいでしょ、先輩。これはどうですか?」
 聡美は姫菜の耳たぶを甘噛みしたみたい。姫菜の躰がビクッと跳ねる。
「いいのよ、我慢せずにいってしまいなさい」
 私はそう言いながら指でクリトリスをこねてやる。
「ひやあ・・・あああ・・・飛んじゃう・・・飛んじゃうよぅ・・・はああぁぁぁぁ・・・」
 躰をびくびくと震わせて絶頂を迎える姫菜。その瞬間彼女の中に闇の気が吸い込まれていくのを私は見た。
「はああ・・・なんだろう・・・とても気持ちいい・・・うふふ・・・気持ちいいわ・・・うふふふふ・・・」
 姫菜の顔に邪悪な笑みが浮かんだ。
「ふふふ・・・姫菜ちゃん、私の声が聞こえるかしら?」
「ああ・・・はい・・・聞こえます」
 姫菜はぼうっとした表情で私の方へ首を向ける。
「地底帝国をどう思うかしら?」
「え? ・・・地底帝国・・・地底帝国は・・・すばらしい世界・・・です」
 うつろな目が宙を泳いでいる。
「地上人のことはどう思うの?」
「ああ・・・地上人・・・地上人は・・・敵です」
「そう、いい娘ね。でも、あなたはクリスタルピーチとして、地上人どもの味方だったのではないかしら?」
 私はピーチの心を地底帝国にふさわしいように誘導する。
「ああ・・・ああ・・・そうだわ・・・私・・・私はなんてことを・・・地上人の味方をするなんて」
 姫菜がわなわなと震える。自分の過去に恐怖を感じているのだろう。
「すみません・・・すみません・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい」
 姫菜のうつろな目から涙がこぼれた。
「落ち着いて、姫菜。心配しなくていいわ。これからあなたは生まれ変わるのよ。地底帝国にその身を捧げる妖女虫となるの」
「あ・・・はい・・・なります・・・なります・・・妖女虫になります!」
「それは本心かしら?」
 私は微笑んで、ゲドラー様よりお預かりした強化された魔獣の核を取り出す。
「はい、本心です! 私は妖女虫になりたい! 妖女虫になって地底帝国のために働きたいです! 妖女虫になるのっ!」
「いいわ、あなたの気持ちは良くわかったわ。でもね、妖女虫になるのは危険が伴うの。拒否反応が出れば死んでしまうのよ」
 私は黒く光る魔獣の核を姫菜の前にかざす。
「構いません。私は愚かだったんです。地底帝国に逆らい、地上人の味方をしてしまったんです。その罪を償うためならどんな危険も構いません」
 姫菜の瞳が光を取り戻す。その目はまっすぐに私に向けられていた。
「そう・・・わかったわ。姫菜、これからあなたに魔獣の核を植え付けてあげる」
「はい、お願いします、センセ」
 姫菜の表情が引き締まる。
「ふふ・・・私はブラックローズよ」
「あ、はい。ブラックローズ様」
 私はそっと魔獣の核を口に咥え、姫菜の顔を引き寄せるとやさしくキスをした。
「あ・・・」
 姫菜ののどが動き、彼女は魔獣の核を飲み込んだ。
「さあ、少しおやすみなさい。変化が始まるわ」
「はい、ブラックローズ様」
 私はそっと姫菜の頭を枕に乗せてやり、その額にキスをする。姫菜はまるで幼子のように幸せそうに目をつぶった。

 ゆっくりと立ち上がる妖女虫。
 胴体は黒いレオタードを着たように漆黒で、その表面を節々に区切られた平べったい赤紫の物体が右足のブーツの先からふくらはぎ、そして太ももへと巻きついて、股間を回って柔らかな胴体に絡みつき、背中を回って首から頭頂部へと張り付いていた。
 その節々のそれぞれには細い脚がついており、彼女に絡み付いているのがムカデであることを知らしめる。
「うふふふ・・・すばらしいわ・・・なんて素敵・・・これで私は晴れて妖女虫になれたんだわ」
 かつての明るい笑みは失われ、黒く縁取られた瞳には邪悪な光が灯っている。
「うふふ・・・おめでとう姫菜。いいえ、今のあなたは妖女虫ムカデナよ」
 私は立ち上がったムカデナに近寄ってそっと抱きしめる。新たな闇の戦士の誕生だわ。
「はい、ありがとうございます、ブラックローズ様。私は妖女虫ムカデナ。今日からは地底帝国のためにこの身を捧げます」
「いい娘ね、これからは私とともに戦うのよ」
「はい、ブラックローズ様」
 かつて栗原姫菜と呼ばれ、クリスタルピーチだった少女はそう言ってうなずいた。
「まずは一人・・・」
 私はそうつぶやいた。

< 続く >

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