成田離婚 中編

中編

(5)

「妻の、若菜さんの様子はどうでしょうか?」

 やれやれ、まだ自分の嫁にさん付けか。
 崎野は、浩太郎からの国際電話に苦笑した。
 浩太郎は今ハワイにいた。一人、新婚旅行のアリバイ作りをする手はずになっていた。

「元気ですよ。今は疲れて寝ていますがね」

 崎野はちらっとモニターを見る。モニターでは、若菜はベッドの中でこんこんと眠りについていた。

 崎野は、若菜が目を覚ますとシャワーを浴びさせ、簡単な食事を与え、眠るよう指示した。疲れもあったのだろう。抵抗もせずベッドに潜り込んで寝入ってしまっていた。

「そうですか。それでその・・・どんな具合ですか?」

 崎野はクライアントに事情を説明した。若菜が男性に攻撃的な態度を取る事や、手も握らせなかった事には、過去のレイプ未遂事件がトラウマとなっていたからだ、と述べた。

「そうですか・・・若菜さんの過去にそんな事があったなんて」

「今回は変な形になりましたが、このままだと遅かれ早かれカウンセラーのお世話になったかもしれませんね」

「それで、治りそうですか?」

「ええ。若菜さんに性的な快楽を教え込む事、つまり下衆な言い方ですが『淫乱化』を促す事こそ、亭主に従順な妻に作り変える最善の方法だと確信しました。実は若菜さんに自慰もやってもらったんですが、無事に絶頂まで達しましたよ」

「あの若菜が・・・」

 浩太郎が電話の向こうで絶句していた。それほど信じられない話なのだろう。

「その、僕に怒っていませんでしたか?」

「怒っていましたよ、記録していた浩太郎さんの声を聞かせた時は。離婚するって言っていましたね」

 崎野は少し意地悪な言い方をした。浩太郎は大事なクライアントで、性格もいい。しかし会話をしていると、なぜかその大人しさが神経に触る所があった。

「そ、そんな。僕、困ります」

「大丈夫。安心してください。また調教は始まったばかりです。浩太郎さんが帰国される時には、すっかり従順な奥さんになっていますよ。それよりそちらで一杯写真を取ってきてください。念の為、写真は合成しておく事にしましょう」

「本当に、本当に、よろしくお願いします」

 浩太郎は何度も念を押してから、電話を切った。
 ふぅ、と崎野が息を吐く。そんなにあの若菜が大事なのか。確かにあれだけの美貌を持った女性は珍しいが。だがこんな二人の性格では、破綻は目に見えているようにも思えた。

 崎野は眠り続ける若菜をモニター越しに見ながら、このカップルと最初に出会った日の事を思い出していた。

(6)

「あの・・・式のパンフレットがほしいのですが」

 おずおずと、しかし嬉しそうに、浩太郎は話し掛けてきた。

「ご結婚ですか?それはおめでとうございます」

 結婚式場のカウンターにいた崎野は、マニュアル通りに頭を下げた。

「ご両人様の招待客の人数によりまして使用する会場が変わってきますが・・・今日はお一人でいらっしゃったのですか?」

「い、いや。彼女も一緒に。若菜さん」

 浩太郎が振り返って声をかける。浩太郎の背後から現れた女性を見て、ほうっと、崎野は思わず息を呑んだ。
 まるで芸能人なみのルックスだ。式場選びに来た他のカップルも、思わずこちらを振り返る。浩太郎もルックスはいい。二人は、まさしく似合いのカップルだった。

 その反面、あまり乗り気ではなさそうな若菜の表情が気になった。浩太郎に押し切られて、会場まで来た様子だった。

「ただいまブライダルフェアを開催しておりまして、お得なパックがございます」

「あの、こちらのパンフレットにはプランと書いてあるんですが、パックとプランって何か違いがあるんですか?」

 すっかり乗り気な様子の浩太郎が、パンフレットを見つめて質問してくる。

「パックと言いますのは色々な項目が既に一まとめになっておりまして応用が利かない分、お求め易い金額になっています。プランと言いますのは色々な項目を選択していただく事でお二人ならではの式を挙げる事ができますが、その分パックと比べまして割高となっております。実際にはほとんどの方がパックをご利用されております」

「へぇ、そんな違いがあるんだ・・・若菜さんはどう思ういい?」

「別に、どちらでもいいわ」

 浩太郎とは対照的に、若菜は醒めた表情をしていた。結婚そのものに反対というわけではなさそうだ。ただ、それほど望んで結婚したいと思っているわけでもなさそうだった。

「そ、そんな・・・二人の式なのに。それじゃすいません。今日はパンフレットだけいただいて、ゆっくり二人で検討したいと思いますんで」

「よろしくご検討ください」

 崎野は立ち上がって、深々と頭を下げた。影になった崎野の目は、獲物を見つめる蛇のように冷たかった。

(7)

 ホテルのバー。浩太郎は、一人カウンターで飲んでいた。
 半ばヤケになって、グラスを煽る。

「おや、珍しい所で会いますね」

 崎野は、後ろから浩太郎に声を掛けた。

「あなたは、確か結婚式場の」

「はい。担当させていただきました。崎野です。この度は式のご予約をいただきまして、ありがとうございました。ところで、今日はお一人なんですか?」

 崎野は辺りを見回した。近くに若菜の姿はない。
 浩太郎の顔に、自嘲気味の笑みが浮かぶ。

「二人で来たんですが、若菜さんを怒らせちゃいまして。先に帰っちゃったんです。最近、いつもこんな調子で」

「そうなんですか。それでは隣、いいですか?」

「ええ、どうぞ」

 崎野は浩太郎の隣のカウンターに座った。バーボンをオーダーする。

「しかし、浩太郎さんの婚約者はお美しいですね。長くこの仕事をやっていますが、あれだけおきれいな方は滅多にお目にかかりませんよ」

「そうですね。僕も若菜さんには一目ぼれで。そんな彼女が結婚に同意してくれた時は、嬉しかったですね。ただ・・・」

「ただ?」

 崎野は浩太郎の言葉を繰り返す。

「最初はそうでもなかったんですが、式が近づくにつれ、若菜さんはどんどん攻撃的になっていっているんです。このままでは結婚後の生活も不安で」

「いわゆるマリッジブルー、という事ではないんですか?」

 結婚式場で働いていると、悲喜こもごもの騒動を目撃する。結婚式の直前は、精神的に不安定になる時期でもあるのだ。

「いや、そんな事じゃないんです。実は僕、未だに手も握った事ないんですよ」

「それは、少し不安ですね」

 浩太郎の顔は赤くなっていた。既に数杯のグラスを飲み欲しているようだ。崎野の目が鋭くなっている事に、浩太郎は気付いていない様子だった。

「浩太郎さん。実は私には裏の副業がありましてね」

「裏の副業?」

 浩太郎が酔った顔で、崎野の方を振り返る。

「ええ。あなたのように、気の強い奥さんを持って困っている方に代わって、奥さんの躾を代行するんです。浩太郎さんも、若菜さんが亭主に従順な性格になったらいいと思うでしょう?」

「そんな夢のような話が」

 浩太郎は取り合わない。それが当然の反応だろう。

「洗脳、という言葉はご存知でしょう。これは元々中国語でして、第二次世界大戦後、中国軍が捕虜に対して共産主義思想を植え付ける為に使用した技術の事です。もっとも、医療・心理学が発達した現在では、その効果も当時の比ではありませんがね」

 崎野はグラスの中の酒を飲み干した。浩太郎は、黙って話を聞いている。

「私は昔、医者をしていましてね。大学でその方面の研究をいろいろとやっていました。今では、その技術を生かして個人的な性格改造や調教を代行しているのですよ」

「し、しかし、その性格改造って失敗はないんですか?」

 浩太郎は、崎野の話への関心を隠し切れず、質問をしてきた。

「医療に絶対はありません。使用法の難しい薬物も使用したりしますからね。しかし、今まで百人以上の依頼をこなしてきましたが、失敗した事はありません。どんなも大変喜んでいただいています。ただ、この件には条件があります」

「と、言いますと?」

「完全に性格改造を終えるには、一週間程度は必要です。それも、外界から完全に隔絶した場所で。つまり奥さんを、そのくらい監禁する必要があるというわけです。一週間、まったく外から連絡を取れなくても不審に思われない、これが実に難しい。ただ、浩太郎さんの場合は絶好の機会があるんですよ」

「それは?」

「新婚旅行です。海外に行っている、特に亭主と一緒という事なら、誰も不審に思わないですからね」

「新婚旅行・・・」

 浩太郎は呟いた。

「仮の話ですが、奥さんがどんな性格だったらいいと思いますか?」

「そりゃ、もう少し丸い性格だったらいいとは思いますよ」

「なに、男同士の話です。遠慮は無用ですよ。もっと本音で語り合いましょう。はっきり言えば、常に旦那さんの事を第一に考え、亭主に絶対服従し、男尊女卑なんて古風な考え方をするようになったらいいとは思いませんか?」

 崎野の言葉は、悪魔の囁きように甘かった。

「そ、そうですね」

「もちろん、昼が淑女なら夜は娼婦。夫のどんな要求にも、自ら進んで従い、歓喜の声を上げる。たとえそれが、世間一般ではアブノーマルと言われるような行為でも」

 浩太郎は、見るからに興奮していた。
 心の中では、若菜はどんな痴態を晒しているのか。酒の力もあるだろうが、若菜には打ち明けられない秘めた欲望を持っているようだった。

「浩太郎さんの願望を叶えるのは難しい事ではありません。私への幾らかの報酬と、ほんの少しの決断さえあれば、実現可能な未来です。ま、今の関係がいい、と思われるなら無理にお勧めはしませんがね」

「・・・しばらく、考えさせて下さい」

 浩太郎は、急に真顔になって呟いた。

「そうですね。ゆっくりと考えてみてください。そうだ、こんな話、俄かに信じられない事でしょう。ちょっとサンプルをお見せしますよ」

 崎野は携帯電話を取り出して、メモリーに登録させていた番号にダイヤルする。

「もしもし、俺だ。今どこだ?・・・ああ、そこからならタクシーを飛ばせば15分だな。いつものホテルのバーにいるからすぐに来い。・・・友人とショッピング中ならなんだというんだ?すぐに来い。命令だぞ」

 崎野は一方的にしゃべると電話を切った。

「しばらくお待ちください。もう一杯いかがですか?おごりますよ」

 それから正確に15分経過した頃、一人の女性が慌てた様子でバーに入ってきた。

「お待たせしました。崎野様」

 カウンターの崎野の所まで来て、その女性は深々と頭を下げた。

「ふむ、ちゃんと急いできたようだな。喜代美、お前はしばらくそこで立って、いやらしい体をこの人に見てもらえ」

「・・・はい」

 喜代美と呼ばれた女性は、黙って崎野の言葉に従っている。

 若菜ほどではないが、充分いい女だ。小柄な体だが、出る所は出ている。まだ20歳そこそこではないだろうか。茶色に染めた髪をカールさせて垂らしている。一見して、水商売風の女性だった。

「浩太郎さん。こいつは関西では有名な売れっ子キャバクラ嬢だったんですが、愛人契約したパパの目を盗んでホストと付き合っていましてね、私の所に連れてこられたんですよ。もっとも、そのパパが不渡り出して私への報酬が振り込まれなかったので、やむなく私のものにしたんですがね」

 喜代美は恥ずかしそうに目を伏せ、じっと立っている。

「喜代美。お前が私に何をされたか話してみろ」

「・・・以前の私は、自分の容姿を鼻にかけ、何人もの男に貢がせ、ワガママ言い放題の、嫌な女でした。それが崎野様の調教を受ける事で、本当の女性らしさに目覚める事ができました。本当の女性の幸せとは、男性に従い、服従してこそ得られる事を、お教えいただきました」

 喜代美は小声で、しかしはっきりとそう述べた。その顔には、自分の言葉に酔った、恍惚とした表情が浮かんでいる。

「喜代美をどう思います。浩太郎さん」

「ど、どうって?」

「もちろん、一匹のメスとして、ですよ」

 おかしそうに笑いながら、崎野は喜代美をメスと言い切った。浩太郎は、じろじろと喜代美の全身を値踏みするように眺めていた。

「どうって・・・素晴らしい女性ですね」

「喜代美、良かったな。浩太郎さんはお前の事気に入ってくれたようだぞ」

「ありがとうございます」

 再び深々と喜代美は頭を下げた。

「どうですか、浩太郎さん。一晩、喜代美を試してみては」

「えっ」

 驚いて浩太郎が振り替える。

「私は別にメスの自慢をしたいが為にここへ呼び出したのではありませんよ。男女の事は床を一緒にしなければ中々わからないもの。何、これは最初に言ったようにただのサンプルですよ。気にする事はありません」

 崎野は喜代美の方に向き直って、言葉を続ける。

「喜代美。お前は今夜一晩、浩太郎さんのお相手をしろ。いいか、浩太郎さんを私だと思い、自分の体を隅から隅まで使って必ず満足していただくんだ。わかったな」

「はい。喜代美は必ず浩太郎様にご満足いただけるよう、心を込めて奉仕させていただきます」

 喜代美の言葉に迷いはなかった。既にぼうっとした潤んだ瞳で浩太郎を見つめてくる。美人にこんな目をされては、どんな男もイチコロだろう。

「それでは、ごゆっくり」

 そう言い残し、会計を済ませると、崎野は立ち去った。残した二人の方は振り返ろうともしなかった。

(8)

 ホテルのバーから、上の部屋へチェックインする。
 二人が部屋に入ると、いきなり喜代美は床に土下座した。

「本日は、どうぞよろしくお願いします。今夜一晩、どうか喜代美を可愛がってください」

 形だけの土下座ではない。床のカーペットに埋もれんばかりに、額を押し付けている。

「う、うん」

 ドキマギして、浩太郎が答える。

「シャワーを浴びて、身を清めた方がよろしいでしょうか?」

「うん。浴びてきて」

「判りました」

 喜代美は立ち上がった。バスルームに向かうのかと思ったら、浩太郎の元へとやってきた。いきなり首に手回すと、自分の唇を押し付けた。

「ん・・・」

 喜代美は自ら舌を突き出して浩太郎の中へと突き入れる。濃厚なディープキス。浩太郎が舌を差し出すと、舌同士を絡ませ、自分の口の中へと巧みに導く。

「あン・・・ん・・・」

 いきなり喜代美の口紅が剥がれる激しいキスだった。ようやく喜代美が口を話す。その顔は、すっかり上気していた。

 喜代美は、浩太郎の目の前で服を脱ぎだした。十分に男性の目を楽しませる事を意識している。それは、文字通り浩太郎の為だけのストリップショーだった。浩太郎の顔に下卑た笑みが浮かぶ。いつもの好青年の顔を剥ぎ取った、それは浩太郎の真の顔だ。

 喜代美は上下とも黒い下着をつけていた。ブラを外すと、日焼けした胸が見えた。脱いだブラは浩太郎に手渡す。やや小ぶりの形の良い胸だった。まだ硬く、熟れかけたおいしそうな胸の頂点に、生意気そうな乳首がツンと上を向いていた。

 両手がショーツにかかる。喜代美は後ろを向くと一気にずり下げる。まだ子供っぽさを残したお尻が見えた。足元からショーツを抜くと、正面を抜き直る。わざわざ裏返すと、真っ赤な顔をしてショーツを浩太郎に手渡した。ちょうど股間の部分がぐっしょりと濡れていた。

「・・・それではしばらくお待ちくださいね」

 喜代美の裸体が、バスルームに消える。しばらくして、シャワーの水音が響いてきた。

 ふぅ、と浩太郎は脱力してベッドに腰掛けた。

「あれが、昔は若菜さんと同じような性格の女だったのか。まるで別人じゃないか・・・!」

 喜代美の手渡したショーツを眺めて、誰に言うでもなく浩太郎は呟いた。すでに浩太郎の股間は、ズボン越しにも硬く屹立している事が見てとれた。

「もし」

 浩太郎はギラギラと欲望に濁った目をしていた。

「もし若菜さんが、あの女みたいになったら・・・!!」

 獣じみた唸り声を上げると、浩太郎は自分の服を剥ぎ取っていく。もどかしげに服を脱いで裸になると、喜代美のいるバスルームへと突進する。

「こ、浩太郎様!」

 シャワーを浴びていた喜代美が、荒々しくバスルームの扉を開けた浩太郎の方を驚いて振り返る。その股間はすでに自分に向かって硬く尖っていた。

「やらせろ。今、ここで」

 浩太郎は後ろから喜代美に襲い掛かる。背中から喜代美の胸を激しく揉む。

「ああン」

 喜代美は嫌がりもせず、浩太郎の愛撫を受け入れる。見上げた顔に、シャワーの水滴が降り注ぐ。窮屈な場所でありながら、さりげなくお尻を突き出し足を開く。

「ううう・・・!!」

 浩太郎は喜代美の中に肉棒を突き入れた。相手の事など思いやらない、ただ犯すためだけの性交。己の快感を得るために、激しく腰を動かした。

「ああ!いいです!浩太郎様の肉棒、いいですぅ!!」

 それでも喜代美は歓喜の声を上げる。己を蹂躙され、その事自体に快楽を覚えている。その姿を見て浩太郎は更に興奮する。

「これだ・・・これなんだよ!俺が若菜にしたいのは!!」

 激しく腰を振りながら、浩太郎は秘めてきた欲望は口にする。

「俺を馬鹿にしやがって。女は男に犯されてアヘアヘ言ってりゃいいんだよ!お前もそう思うだろう?ええ!」

 濡れた喜代美の髪を掴むと、ぐいぐい引っ張りながら返事を強要する。普段の浩太郎からは想像もできないほどの乱暴さだった。

「はい。浩太郎様のおっしゃる通りです。女は男に犯されてアヘアヘ言うしか能のない生き物です。だから、どうか喜代美をもっと犯してください!」

 喜代美は、どんな屈辱的な浩太郎の言葉にでもすぐに迎合した。下品な言葉のやりとりが、絶妙のスパイスとなってセックスを盛り上げる。狭い浴槽は二人の醸し出す淫靡な音で溢れ出した。

「う・・・イキそうだ・・・!!」

「中に、中に出してください。好きなだけ、喜代美の中に!」

 喜代美は男の快楽の為なら、自ら中出しを求めるほど作り変えられていたのだ。

「たくさん、出してやるぞ。お前の中に!」

「あ・・・あ・・・あ・・・喜代美、イキそうです!イッちゃいそうですぅぅ・・・!」

 浩太郎は深く腰を突き入れた瞬間、ぶるっと体が震えた。その瞬間、甲高い声を喜代美は上げた。二人は同時に達していた。
 浩太郎は喜代美に寄りかかって愛する女性の名前を呟いた。

「若菜・・・若菜・・・」

 それは、婚約者を裏切って他の女とセックスしてしまった後悔からではない。その証拠に、極上の快楽を味わった直後にもかかわらず、浩太郎の顔には乱暴な笑みに歪んだままだ。
 きっと浩太郎には、目の前の快楽に呆けた女が、未来の若菜の姿に見えていたに違いなかった。

(9)

 崎野は自室でコーヒーを飲みながら、思案に耽っていた。もちろん、若菜のこれからの調教計画についてだ。
 その前の調教で、若菜の潜在意識に痴女としての資質を埋め込む事に成功した。元々人間は性本能を持っているわけだから、それはそんなに難しい事ではなかった。この事実を若菜に自覚させれば、若菜はセックスを拒まない女にはなるだろう。しかし。

 崎野はコーヒーを一口すする。

 崎野の目的は、若菜を淫乱女にする事ではない。夫にとってあらゆる意味で都合の良い妻にする事だ。このままでは、浩太郎を尻に敷いたまま、ただ夜に『夫婦生活』を求めるだけの妻になってしまうかもしれない。それでは面白くない。
 若菜が男性に攻撃的であるのは、過去のレイプ未遂体験がトラウマとなり、自らの弱みを晒してはいけないという一種の自己防衛本能だろう。注意深くトラウマを取り除けば、少しは温和になるかもしれないが・・・。

「よし」

 崎野はコーヒーを置いて椅子から立ち上がる。これから若菜に行う調教の準備に取り掛かった。

 若菜はぼんやりとベッドに腰掛けていた。逃げ出そうとはしなかった。崎野が与えた最初の暗示は、完璧に機能しているようだ。
 地下室には簡易だがベッドもシャワーもトイレもあった。食事も三度三度、崎野が運んできたから、最低限度の生活はできていた。ただし、崎野は服を持ち去っていたから、身に付ける服は下着だけだ。これは崎野の目の保養とともに、余計な物を若菜に与えない為の配慮だった。

 不意に、地下室の扉が開いた。崎野が大きめのスポーツバッグを手に現れた。

「おはよう。若菜さん」

「おはよう。変態さん」

 憎まれ口で若菜が挨拶する。

「今日はどんな調教をしていただけるのか、楽しみだわ」

 嫌味たっぷりな言い方をする。

「そうですか。それじゃ、今日の調教を始めましょうか。まずはこの椅子に座ってください」

「フン。何をしたって無駄よ」

 そう言いながら、若菜は洗脳用の椅子に腰掛ける。一見反抗的に見えるが、若菜は崎野の調教自体は拒否しない。『崎野の課す調教を受けて、克服してこそ自らの勝利と言える』事を信じているのだ。それ自体が、崎野に植え付けられた暗示である事には気付いていない。

 崎野は若菜の両手・両足・首を縛る。これで若菜の動きは完全に封じられた。ヘッドギアの位置を慎重に調整すると、例によって機械の電源を入れていく。

「それでは若菜さん、眠ってください」

 即座に若菜が催眠状態に落ちる。最初に導眠作業を行った時より、遥かに短時間だ。若菜の中で催眠状態に落ちる為のスイッチが、形成されつつあるのだ。

「ふふ、優秀な生徒さんだ。それではどんどん深い催眠状態に入っていきますよ」

 催眠状態には深度によって幾つかの段階があるが、崎野が目指すのは最も深い、記憶操作の深度だ。程なく、若菜の催眠深度が最大値まで達した事を、脳波計は知らせてきた。

「それでは若菜さん。あなたの精神はどんどん過去に遡っていきますよ。二十…十九…さぁ中学時代まで戻ります。さあ、今のあなたは中学生です」

 崎野は脱力している若菜の所まで戻ってきた。手には注射器を持っている。若菜の左腕に、注射針を突き刺した。ぴくっと若菜の体が震える。全ての薬剤を注射し終わると、若菜の体を拘束していた椅子から開放する。

「若菜さん。目を開けてください」

 ぼんやりと、生気のない目だった。

「今は夏合宿です。さあ体操服に着替えましょう」

 崎野はスポーツバッグの中から、ブルマと体操服を取り出し、若菜に渡した。アダルトショップで買って来た、大人用の体操服だった。本物と比べてやや安っぽい感じだが、別に変だと思う事なく若菜は下着の上から身に付けていく。完全に成熟した女性である若菜が、学生が着る体操服を身に付けた姿というのは、サイズは合っていても異質な感じが拭えない。不思議な色気があった。

「よし、それじゃ手を後ろに回してください」

 背中に回された手を、崎野は縄できつく縛る。手首を縛った後、胸を上下に挟むように胴に回す。縄に押し出された若菜の胸が、いつもより余計に前に飛び出した。

「これでよし。いいですか。今のあなたは昨日、オナニーして絶頂を迎えた事を鮮明に覚えています。気持ち良かったですか?」

「・・・はい」

 小声で若菜が応える。その顔は、少し羞恥に紅潮していた。

「私の言う事は全て真実です。あなたは決して疑問に思う事なく全て信じてしまいます。これからあなたは、性的な快感をほんの少しでも感じると、すぐにあの時の感覚が蘇るようになります。体の感覚がすごく敏感になり、感じやすくなります。あなたは、心の中で何度も何度も『私は痴女』という言葉を繰り返します。また、あなたはこれから私のする事に本気で抵抗はできない。嫌がる事はできるが、大声を上げたり、私を跳ね除けたり、私から逃げたりする事は一切できない」

 一般に、催眠状態にある人間は記憶力が増す。普通だったらなかなか覚えきれない長い複雑な暗示も、一度で正確に覚えてしまう。

「あなたは男性が嫌いだ。なぜ嫌いかというと、男性が怖いからだ。あなたは男性が怖くて仕方が無い」

 崎野は、敢えて若菜の男性恐怖症を強化する暗示をかけた。

「それでは私が三つ数えると、目を覚まします。目を覚ましたあなたは中学生だ。1・・・2・・・3!!」

 若菜はゆっくりと目を開けた。パチパチと二度三度瞬きをすると、不思議そうな顔をして崎野を見つめた。

「おじちゃん。誰?」

「おいおい、おじちゃんはひどいな。テニス部の先輩の崎野じゃないか」

 若菜の中で、崎野の言葉が事実として形成されていく。

「あ・・・そうでした。すいません」

 子供じみた様子で、若菜はあやまる。

「でも、ここは・・・?みんなはどこに・・・?」

 キョロキョロと部屋を見回す。

「フフフ。ここには誰もこないよ!」

 崎野は若菜に襲い掛かった。

「い、嫌!」

 若菜が悲鳴をあげる。しかしその声は意外なほどに小さかった。

「抵抗しても無駄だよ。お前はここでレイプされる運命なのさ」

 本当は、乱暴に犯すのは崎野の趣味ではない。しかし、ここは若菜の記憶は追体験する必要があった。崎野は、あえてレイプ犯を演じつづけた。崎野は若菜の口に吸い付いた。若菜は顔を歪める。

「おら、口を開けろ。俺のツバをごくごく飲むんだよ」

 崎野が顎を押すと、あっけなく口を開いた。崎野の舌が若菜の口内を蹂躙する。もはや悲鳴を上げる事もできず、若菜はただひたすら崎野に蹂躙されるだけだ。

 崎野が口を離すと、若菜と一筋の唾液で繋がった。

「いや・・・いや・・・」

 若菜は泣いていた。顔を背け、ただ弱々しく泣いていた。

「何泣いているんだよ。本当は気持ちいいんじゃないか?」

「そんな事、ない・・・」

「だったらお前の体に聞いてやるよ」

 崎野は縛られた若菜の胸の辺りを掴むと力の限り引き裂いた。縛られて形を変えた若菜の胸は、乳首がブラからこぼれていた。やや大きめの、薄いピンク色の乳首だった。

「いやぁ!」

「へへ、ここばっかり発育がいいようだな。こんなにでかい胸じゃ、ラケットも振りにくいんじゃないか?」

 崎野は若菜の乳首をつまんでコリコリと動かす。

「あン」

 若菜の口から、甘い声が漏れた。痴女の暗示が、スイッチが入ったようだった。

「やっぱり気持ちいいんじゃないのか?いきなり気持ち良さそうな声出しやがって」

「そ、そんな・・・ん・・・あ・・・」

 若菜の中で、理性と男性恐怖症が、快楽と暗示とせめぎ合っている。次第に快楽に飲み込まれながら、若菜は混乱していった。

「下も脱がしてやるよ」

 崎野は乱暴な手つきで若菜のブルマと下着を一緒に剥ぎ取った。黒々とした若菜の股間が現れた。すかさず指で触る。

「やめてぇ!怖い!!」

「いやらしそうなオマ○コしている癖に、何言ってやがる。じゃあこれは何だ?ああ!?」

 若菜の股間は既に激しく濡れていた。崎野は指ですくった愛液を、若菜の頬で拭った。

「うう・・・」

「本当は好きなんだろう?こうやって、男に組み敷かれてレイプされるのが」

 若菜の股間をいじりながら、耳元で囁く。
 人間は自分に圧倒的な力を持っており、しかも恐怖を与える存在に対して、それから逃れる事もできない状況に追い込まれると、その者に好意に似た感情を持つようになる。これも一種の自己防衛本能だが、崎野はそれを利用して若菜の調教を進めようとしていた。すっかり混乱した若菜の心は、崎野の言葉に導かれて新たな性格を形成しようとしていた。

 グチュグチュと若菜の股間からは淫水の溢れる音が、ひっきりなしに聞こえてくる。

「お前はレイプ願望を持ったメスなのさ。男に体を捧げて快感を覚える最低の変態女だ」

「あ・・・あ・・・あ・・・」

 もう、若菜は反論しない。ただ、崎野の指がもたらす快感に、夢中になっていた。

「おら、犯してほしいだろう?お前のドロドロになった淫乱マ○コに、俺の肉棒を入れてズボズボ動かしてほしいんだろ?」

 崎野はわざと下品な言い方をした。自らの硬くなった肉棒を、わざと若菜の体にこすりつける。若菜は嫌がってはいない。もし犯そうと思えばできるはずだ。だが、それでは若菜を屈服させた事にはならない。

「自分から『犯してください』っておねだりしてみろよ。言わない限り、入れてやらないぞ」

「ああ・・・そんな・・・」

 若菜は絶望的な声を上げる。もう若菜の体は肉棒が欲しくて狂わんばかりになっているはずだ。

「何いまさら格好付けているんだ?淫乱なメスが肉棒を入れてもらう為には、どんな恥知らずな事でも、するくらい常識だろうが」

 若菜は答えない。その心の中で、決定的な一線を越える寸前で躊躇っている。

「お前は男の肉棒なしでは生きていけないメスなんだよ。認めてしまえよ。極上の快楽が、お前を待っているぜ」

「ああ・・・」

 崎野の甘い言葉に、若菜の瞳にうっすらとモヤがかかる。己を待つ快楽に思いを馳せて、若菜はついに一線を越える言葉を口にした。

「・・・犯して」

「ああ!?聞こえねぇぞ」

「犯して、ください。私を」

「自分をただの淫乱なメスだと認めるか?」

「はい、認めます!私は淫乱なメスです!!」

「お前は男に犯されるしか能がない、最低の痴女だな?」

「そうです!!私は最低の痴女ですぅ!早く、早く入れてください!!」

 若菜は叫んでいた。その声にカミングアウトした開放感を、崎野は感じ取っていた。

「よし、入れてやるぞ。お前は淫乱女だからな、たとえ初めてでも痛みもなく気持ちいいだけだ」

 新たな暗示を与えつつ、崎野は若菜のすらりと伸びた足を掴んで広げると、体重をかけるように、肉棒を若菜の性器に突き入れた。肉棒の先に若干の抵抗があったが強引に突き破った。若菜が処女を失った瞬間だった。

「ううぅぅ!!」

 若菜の眉が快感に歪む。

「どうだ、肉棒は気持ちいいだろ?」

「は、はい!気持ちいいですぅ。おチ○チン、気持ちいいです!!」

 肉棒を、若菜の肉壺はきつく締め上げてくる。崎野はこじ開けるように、肉棒を出し入れし始めた。カリに掻き出されて愛液と、そして血が、溢れ出てきた。しかし若菜は暗示通り快感に身をよじっていた。

「お前は、一生この快感を忘れる事はできない」

「はい、はい!私は一生この快感を忘れる事はありません!!」

「男に服従しなければ、これだけの快感を味わう事はできないんだぞ。それはわかっているな?」

「はいぃ。男性に服従しているから、とっても気持ちいい事してもらえるんです!」

「むしろ、男性に服従する事自体が、気持ちいい事だ」

「男の人に服従する事はぁ、とっても気持ちいいれす!」

 快感の余り、若菜はロレツが回らなくなっていた。若菜の精神は崩壊寸前だ。しかしこの状態こそ、洗脳には最適なのだ。崎野は激しく若菜を犯しながら、次々に若菜への暗示を与えていく。

「女は、男に尽くす事だけを幸せに感じる生き物だ」

「メスはぁ、男性に尽く抜く事だけを幸せに感じる、生き物ですぅぅ!!」

 若菜は崎野の言葉を微妙に変えていた。それこそ、崎野の言葉ではなく若菜自身の言葉へと変わった証明だった。

「それでは恥知らずにイってみろ。豚のようにイク様子を、俺に見せてみろ!!」

 崎野の言葉に、若菜の肉体はたちどころに反応した。若菜の子宮は、ある一点目指して収縮し始めた。

「あ・・・あ・・・あ・・・あ!若菜イキそうです。イっちゃいそうですぅぅ!」

「いけ!」

「イク!イクイクイク!若菜イきますぅぅ…!!」

 若菜の子宮はぎゅっときつく肉棒を締め上げた。あまりの快感に、崎野は限界を迎えた。若菜の中に、大量の精液を放出していた。

< 続く >

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