成田離婚 後編

後編

(10)
 若菜の股間からは、崎野の精液がポタポタと漏れていた。若菜は半失神していた。その顔は、天国を散歩しているかのように幸せそうだ。若菜の子宮はあまりに気持ち良かった。名器と言っていい。精も根も搾り取られて、崎野は疲れ果てていた。だが、また崎野にはやる事があった。

 若菜を縛っている縄を解くと、ぐったりしていた体を持ち上げて、椅子に座らせる。再び手錠で拘束すると、ヘッドギアを装着させた。再び、若菜を催眠状態に落としていく。

 確かに若菜は屈服した。自ら性交を求め、自分はメスだと言い切った。だが、人の心というものは意外に丈夫にできている。特に女性の心は強い。このままでは崎野の洗脳を乗り越えて、元に戻る可能性もゼロではない。万に一つの可能性を消し、若菜の誓いを永遠に不動のものにする。だかこそ、わざわざ若菜の記憶を追体験する芝居までしたのだった。

 マインドコントロールの段階は、「解凍」「変革」「再凍結」と言われている。今までの人生全てを否定するようなショックを与え、新たな思想を受け付ける。そしてその思想が「絶対」だと信じさせる。
 若菜の場合は、今まで否定していた快楽を植え付ける事でショックを与え、男性への依存という新たな思想を植え付けた。今度はこれを固定する番だ。

「あなたは深い催眠状態の中にいます。とても気持ちがいい。ゆったりした気分で、もう何も考えられない。ただ、私の声だけが聞こえます」

 情事の後というのは、導眠が容易になる。ラポールという信頼関係が形成されている上、体は脱力している。その上理性の活動は鈍くなっているからだ。若菜は簡単に深い催眠状態に落ちていった。

「あなたは処女ですか?」

 若菜はゆっくりと左右に首を振る。

「初体験はいつ、誰としましたか?」

「中学の、テニス部の合宿の時・・・先輩と・・・」

 にやり、と崎野の顔が歪む。若菜の記憶は上書きされていた。若菜の中では中学時代のレイプは未遂で終わっているのではなく、犯されているのが真実だ。

「気持ち良かったですか?」

 若菜は顔を赤らめて、頷いた。

「どんな風にセックスしたんですか?」

「縛られて・・・無理やり・・・でも、途中から気持ちよくなってきて・・・自分からお願いして・・・」

 全て計画通りだった。もう若菜は己の中に潜む淫らな血を、否定する事はできないだろう。

「あなたは以前、男性の事をひどく嫌っていましたね?」

「はい」

「今でも嫌いですか?」

「いいえ・・・」

「男性が怖いですか?」

「はい・・・」

 崎野は自分の思い通りの調教を、若菜に施せた事に満足していた。

「そう、あなたは心の底で男性を恐れている。男性の気分を害する事は怖くて仕方が無い。あなたは、常に男性の顔色をうかがい、男性が気分を害しないように尽くします。これは、あなたが死ぬまで続く、一生の行動原理です。そうですね?」

「はい」

 崎野は深く頷いた。高飛車な美女を、自分にとって都合の良い、まったく別の性格に作り変える。それこそ、崎野の最高の喜びだ。

「それでは、私が手を叩くと、あなたは目を覚まします。目を覚ました時には、新しいバラ色の人生が待っていますよ」

 もちろん、それは男にとってバラ色という意味だが。

 崎野はパンと手を叩いた。
 ゆっくりと、若菜が目を開ける。もう縛る必要はない。崎野は若菜の拘束を解いていく。

「ありがとう、ございます」

 やや詰まりながら、若菜は敬語でお礼を言った。その表情には、以前あった刺々しさはない。どことなくおどおどした、弱々しさがそこにはあった。
 今の若菜の格好は、崎野に陵辱されたままだ。破れた体操服からは胸が飛び出し、下半身は丸見えだ。若菜は自由になった両手で恥かしげに体を隠した。

「今日の調教は終わりです。ゆっくり休んでください」

 崎野は荷物をまとめると、地下室を出て行こうとする。

「あ・・・」

 何かを言いかけて、若菜は口を閉じた。

「どうしました?」

 崎野が足を止めて、若菜に尋ねる。

「い、いえ。何でもありません」

 若菜は慌てて否定する。だが、崎野には若菜の心理状態が手に取るようにわかった。若菜は男性への依存心が極端に高くなっている。同時に、自分への自信を無くしている。この地下室で、一人過ごす事が不安で堪らないのだ。

「ふむ。では一緒に上で休みますか?」

 もう若菜が逃げ出す心配はない。不安そうな表情を浮かべてこちらを見ている若菜に、崎野は愛情に似た感情が浮かんでくる事を感じていた。

「え、いいんですか?」

「ええ、もちろん。若菜さんがそれを望むならばね」

「あ、あの・・・崎野様はどちらがいいですか?」

 遠慮がちに、若菜は崎野の意向を尋ねてきた。常に男性の意向を知りたがる、それは調教の成果だった。崎野は少し意地悪な事を言う事にした。

「私ですか?私はどちらかというと、若菜さんにはここにいてほしいですが。でも、どっちでもいいんですよ」

「わ、私この部屋にいます」

 即座に若菜が答えた。どちらでもいい、と言いながらも崎野ははっきりと『ここにいてほしい』と言ったのだ。ほんのわずかでも、崎野の意向が勝っている方に、自分は従うべきなのだ。例えそれが、自分に希望に添わなくても。崎野は、若菜の答えに満足した。

「そうですか。それではお休みなさい」

「お休みなさい」

 崎野は地下室を出ると、若菜を残して重い扉を閉じた。

(11)
 朝食を手に、崎野は地下室に現れた。

「おはようございます。崎野様」

 ベッドに腰掛けていた若菜は、立ち上がると崎野に向かって丁寧にお辞儀した。

「おはよう。若菜さん」

 崎野はトーストとハムエッグ、それにコーヒーを乗せたトレイを若菜に手渡した。

「毎日、ありがとうございます。言ってくだされば、私が作りますのに」

「ほう。若菜さんは、料理は得意なんですか?」

「い、いえ。それほどうまくはないんですが・・・でも、これから一生懸命勉強して、うまくなろうと思っています」

「それはいい心がけですね。浩太郎さんもきっと喜びますよ」

 少し、若菜の表情が曇る。

「若菜さん?」

「・・・私、今まで浩太郎さんに冷たく当たりすぎていましたわ。今思い返してみると、なんて私って思い上がっていたんでしょう。女のクセに。浩太郎さんが戻られたら、心から謝ろうって思っています」

「それはいい心がけですね。その言葉を聞いたら、きっと浩太郎さんも喜びますよ」

 一晩たって、植え付けた性格は完璧に若菜の中に根付いていた。もはや元に戻す事は、崎野にも不可能だ。無理に戻そうとしたら、今度は若菜の精神はバラバラに崩壊してしまうだろう。今はまだ多々至らない点があるとは思うが、いずれ学習し、より完璧な妻になっていくだろう。浩太郎の要求は、完璧にクリアしていると言ってよかった。

 しかし、と崎野は思う。これで充分だろうか。まだ足りない部分はないだろうか。
 例えば若菜の依存する対象は広い意味では男性全般だ。決して自分の夫ただ一人ではない。極端に言えば、強引に他の男に迫られたら、絶対にノー、と拒否するかどうかは未知数だ。やはり絶対の忠誠を誓い、性の対象であるのはこの世にただ一人、自分の夫でなければならない。

 また、まだ若菜の中で気位の高さが残っているのも気になった。気位の高い女を弄ぶのが楽しいじゃないか、という気もするが、若菜の気位の高さは生来のものであり、調教以前から若菜が持っていたものだ。プライドが許さないような真似を強要した場合、何かの拍子で調教結果が崩れるかもしれなかった。

 やはり若菜の気位は木っ端微塵に破壊し、夫の命令にはどんな破廉恥な命令でも喜んで即座に従うようでなければいけない。その上で、調教で作り上げた性格の上に、偽りの高い気位でも与えれば良い。

 朝食を取る若菜を眺めながら、崎野はこれからの調教計画を脳裏に組み立てていた。

(12)
「それでは若菜さん。この椅子に座ってください」

「はい」

 若菜は躊躇いもせず椅子に座る。もう縛る必要はない。ただ、ヘッドギアだけを装着する。

「これが最後の調教です。これが終われば、若菜さんは完璧に夫に従順な妻になりますよ」

「あ、あの・・・私は自分では、もう夫に仕えようと心に決めているつもりなんですが」

 躊躇いがちに若菜が反論する。確かに若菜の言っている事は本心だろう。だが、反論している事自体が若菜の気位がまだ残っている事を示している。厳しい言い方をすれば、以前は『美人』としての自分にプライドを持っていたのが、今は『夫に仕える妻』として自分にプライドを持っているように変わっただけの事だ。そんな自負心などいらない。ただ、何も疑問に思わず本能で夫に仕えれば良いのだ。

 若菜の言葉に答えず、崎野は機械の電源を入れていく。すぐに若菜は催眠状態に入った。スイッチを入れていく手が一瞬止まる。指先にはプラスチックケースで覆われた赤いスイッチがあった。今まで押した事のないスイッチだ。崎野はケースを外すと、赤いスイッチを押した。真っ赤なランプが点灯する。

「若菜さん。聞こえますか?」

「はい・・・」

「よろしい。これから、私はあなたの額にある動物の名前を書きます。これはあなたの魂の姿です。これから、一生あなたはその動物となって人生を送ります。ただ、ご主人が命令した時だけ人間に戻ります。ですが、それは一時的な話で、またすぐにその動物の姿に戻ってしまいます。判りましたか?」

「はい・・・」

 崎野は能波計を見た。数度の催眠調教を経て、若菜の催眠深度は限界を振り切っている。これは通常の言葉だけによる催眠術では、決して有り得ないほどの催眠強度だ。機械により催眠誘導には限界がない。崎野が先程押した赤いスイッチは、リミッターを外すスイッチだ。これができるのは、おそらく一生に一度だろう。精神崩壊のギリギリ一歩手前の危険な状態だ。だがそうであるからこそ、今の暗示は絶対の効果がある。今の若菜には、崎野の言葉は神の言葉のごとく聞こえている事だろう。

 崎野は若菜の元へ行く。がくりと力を落とした顔を上に向かせ、前髪をどけて額を露出させる。その額に、『犬』の一字を書き込んだ。

(13)
 全裸になった若菜は四つん這いで歩いている。その顔に、羞恥心は欠片も無い。ただ、あるがまま、自然に振舞える清々しさすらあった。部屋の中にあるものに、興味深げな様子で『前足』で触っている。

「若菜」

 ご主人様が、自分を呼ぶ声がした。若菜は飼い犬なのだ。

「わん」

 可愛らしく一鳴きすると、ご主人様も元へ駆け出した。

 若菜は犬のくせに四つん這いであるくのが苦手だ。後ろ足が長すぎて、腰が高く持ち上がってしまう。ご主人様の目の位置からは、若菜の性器もお尻の穴も、いつも丸見えだ。だが、それが若菜には誇らしくすら思えていた。ご主人様に股間を見つめられると、それだけでうれしかった。もちろん、ご主人様以外の人間に見られても何も感じないが。

 ヨタヨタと歩くと、それに合わせて胸が揺れる。下に引っ張られた若菜の乳房は、更に大きく見えた。万年発情期の若菜は、胸が張り詰めているのだ。

 崎野様、それが今若菜のご主人様の名前だ。本当のご主人様は別にいるが、今は崎野様に可愛がって貰っている。崎野様は自分の躾を依頼された調教師だ。

 若菜は崎野の足元まで来ると、次の命令に備えて『待て』の態勢を取る。前に合わせた前足は、自分の胸を挟むようにする。もちろん、少しでもご主人様に自分の胸を見てもらう為だ。若菜の後ろ足は左右にがばっと開いている。それを別に恥かしいとは思わなかった。

「よしよし」

 ご主人様は若菜の頭を撫でてやる。喜びの余り、若菜は尻尾ではなくお尻を振って喜びを表現した。
 ご主人様は、自分のズボンを脱ぎ、下半身を露出された。若菜の大好きな肉棒が目の前だ。若菜の目がランランと性欲に輝く。犬の若菜は、明け透けに自分の性欲を表現する。

「くぅーん」

 切なげな目で崎野を見る。文字通り、おあずけ状態の犬そのものだ。

「若菜、伏せ」

 ご主人様は、若菜に芸をやらせる気だ。それを察して、俄然若菜はやる気になる。

「わん」

 若菜は床に頭を擦り付けた。人間がやる土下座そのものだ。もっとも、犬の若菜にはあくまでも『伏せ』だが。

「チンチン」

 即座に後ろ足で立ち上がる。ガニ股に開いた性器の部分を自分の前足で押し開く。もう若菜の性器は、発情してダラダラと愛液を垂らしていた。その状態のまま、カクカクと前後に腰を動かした。なんとも浅ましい、人間の尊厳がまったく感じられない痴態だが、若菜の顔にはご主人様の命令に従って、完璧に芸をこなした事への誇らしさを漂わせていた。

「お手」

 若菜は『待て』の状態に戻ると、右の前足でご主人様の肉棒を掴むと、器用にシコシコとしごいた。若菜の口からはダラダラと唾液が流れ出していた。

「フフ、そんなに待ちきれないのか?」

 ちらちらと若菜がご主人の目を覗き込む。文字通り、おあずけ状態の犬だ。悲しげな目をして、ご主人様の許しが出るのを今か今かと待っているのだ。

「よし」

 待っていました、とばかりにご主人様の肉棒にむしゃぶりつく。犬が水を飲むように、ペロペロと肉棒を舐めまわす。その様子を、崎野は冷めた目で上から見下ろしていた。

 人を動物にする、あるいは別の人間にする、というのは催眠術の定番だ。もちろん本人は演技しているわけではない。本心からなりきっているのだ。今、若菜は犬になりきっているが、それは本当の犬ではない。若菜の頭の中にあった犬の概念なのだ。もっともその、若菜の犬の概念は、崎野によって好き勝手に修正されていたが。

 崎野は、犬のイメージである『主人への絶対の忠誠心』『人としての気位の欠如』を、若菜に植え付ける事で若菜を作り変えようとしていたのだった。完全に犬になりきる程、人の心は脆くない。しかし若菜の精神は、極限状態での『犬の概念』の暗示の影響は必ず受ける。今までの調教成果を踏まえて、『ご主人様に絶対の忠誠を誓う万年発情期のメス犬』というべき人格を形成しつつあった。

 若菜は崎野の肉棒を自分の唾液でベトベトにすると、満足げに目を細めた。まるで犬が電柱にオシッコするようなマーキングだ。メス犬の若菜には、ご主人様の肉棒が、常に自分の唾液でベトベトにしていないと嫌なのだ。
 おもむろに口を大きく開いて肉棒を咥える。若菜は自分の口の中で肉棒に舌を絡めてみせた。

「随分嬉しそうじゃないか」

 崎野が喉の辺りを撫でてやると、若菜はとても喜んだ。頭を前後に動かし始めた。

「ん・・・ん・・・」

 若菜のテクニックは、決してうまいとは言えない。フェラチオなんて生まれて初めてだろうから、それも仕方の無い事だ。ただ、若菜の異常なまでの熱心さは、崎野に快感を送り込んでくる。
 若菜は自分の喉に当たるのも関わらず、根元まで肉棒を咥え込む。そこから口を細めて顔を離していく。唇がめくれてカリの部分が出てくる。最後は肉棒の先端にキスをする。そしてまた、肉棒を飲み込んでいく。

 崎野は足を動かし、革靴の甲の部分で若菜の股間をまさぐった。

 「あ・・・わふ・・・」

 若菜は腰を捻って快感を表現した。それでもぴったりと崎野の肉棒に吸い付いて離れない。ちらっと自分の革靴をみると、若菜の愛液がべったりと付いていた。

「なんだ、そんなにいいのか。それじゃそろそろ、犯してやろうか?」

 その一言で、若菜の目が輝く。即座に肉棒から口を放す。若菜の舌と肉棒の間に、唾液の橋がかかった。

 ごろんと、あお向けに横たわる。前足を頬の辺りで揃え、直角に曲げた後ろ足をパックリと大きく開いた。犬がご主人様にお腹を撫でてもらおうとする服従のポーズだが、全裸の女性がすると、とんでもなく淫猥な姿勢だ。上を向いても形の崩れない豊満な胸の中央に、硬く尖った乳首があった。更なる刺激を待って、静かにふるふる、と震えていた。

 下半身に目を向けると、大事な部分が丸見えになっていた。太ももや床にも自身の愛液が飛び散っていた。若菜の恥毛もぐしょぐしょに濡れ細っていた。
 そんな痴態を晒しているにもかかわらず、若菜の顔には恥ずかしさが欠片もない。ただ淫らな快楽に期待して、怪しく輝いていた。

「すっかり発情しきっているな。みっともないオマ○コだ。こんな所に突っ込むのも、なんだか汚らしいな」

「くぅーん・・・」

 一転して若菜の表情が曇る。この世界全てに絶望したような、そんな表情だった。

「入れてほしいか?」

「わん!」

「仕方ないな。これからも行儀のいいメス犬でいるなら、ご褒美に入れてやるか」

 崎野はゆっくりと肉棒を近づけた。若菜は嬉しさの余り、涙を流していた。メス犬化した事で、若菜の精神は単純化していた。簡単に崎野に弄ばれる。そしてそれだけ、不変の鋼鉄の忠誠心を宿していた。

「きゃううぅぅん・・・!!」

 崎野の肉棒がズブズフと若菜の性器に入っていく。抵抗もなく、子宮は奥へ奥へと飲み込もうとする。少しでも肉棒を味わおうとするかのように、若菜の中は。がちがちに肉棒を締め付けてくる。

「く・・・相変わらず具合がいい!!」

 若菜の中は、火傷しそうなほど熱かった。形容しがたい不思議な動きで肉棒を締め上げてくる。油断すると、一気に果ててしまいそうになるほどだった。充分に味わってから、ゆっくりと腰を動かし始める。処女を失った事で、若菜の性器は本来持っていた柔らかさを急速に花開かせようとしていた。腰から下が蕩けてしまいそうなほどの快感が、脳髄に送り込まれていく。

 若菜は男を喜ばせる為に生まれてきたような女だった。今までは男嫌いでその才能が生かされる事はなかったし、これからもそのままだったのだろう。それを、精神を崎野によって無理やり変えられ、今は身も心も男を楽しませる為の存在に成り下がっていた。

 浅く突き入れて若菜の子宮の入り口をノックする。数回軽く動かしたら、不意に深々と突き入れる。若菜は、白いのど元を晒して快感に喘いだ。一晩たって、もう痛みはない様子だった。

 崎野のストロークに合わせて、豊かな若菜の胸が揺れる。崎野が乳首に手を伸ばす。握りつぶさんばかりに力を込める。

「くぅーん!」

 若菜が悲鳴を上げる。しかしその中に、快感の響きがある事を、崎野は感じていた。若菜には痛みを快楽に変える、マゾの要素もあるようだった。まるでやり返すように、若菜の子宮は肉棒をがちがちに締め付けてくる。次第に崎野は追い詰められていった。

「く・・・出すぞ!若菜!!」

「わん!わん!わん!くぉーん!!」

 腰を打ち付けると同時に、若菜の奥へ崎野は精液を放出した。快感の波に、崎野はぶるっと震えた。タイミングを合わせたように、若菜は絶頂を迎えた。子宮が強く収縮し、肉棒に残った精液を一滴残らず吸い取ろうとする。二人はそのままの姿勢で、しばらく動こうとはしなかった。

「ふぅ、良かったぞ」

 崎野は若菜の頭を撫でてやる。若菜は肩で息をしながら、恥かしげに、しかし嬉しそうに微笑んだ。

(14)
 休日のペットショップは、大勢の客がいた。意外にカップルが多いのはデートだろうか。生まれたばかりの子犬や子猫の檻の前には、人だかりができていた。

 入り口の自動ドアが開き、また新しく客が入ってきた。その姿に、店内の視線が一斉に集まる。

 モデルやレースクイーンをやっているような美人だった。濃い化粧をばっちり施し、ヒールの高いブーツと毛皮のコートを着ていた。ペットショップに来る格好としては、少し場違いな程だ。

 それは若菜だった。自信ありげに豊かな胸を張り、気の強そうな瞳は他人を値踏みするように見下す。その姿は女王のようだ。隣には崎野がいた。いかにも冴えない中年といった風貌の崎野とでは、まったく釣り合いが取れていなかった。

 崎野は顎を突き出し、若菜に命令する。それを見て、若菜の表情が赤くなる。頷くと、一人店内に歩き出した。
 若菜の足が大型犬用の首輪を陳列してある棚の前で止まる。手を伸ばしてその一つを取った。赤い、皮の首輪だった。若菜はその場で自分の首にその首輪を巻きつけた。横目で若菜の様子を伺っていた男達の目が、驚愕に見開かれる。

「な、なんだ。あれ…」

「SMのプレイか何か?」

「あの冴えない男とかよ。嘘だろ」

 店内のざわめきが、崎野の耳に心地よい。
 若菜は首輪をつけると、入り口に立っている崎野の所へと戻ってくる。別段、若菜は恥かしそうには見えない。

「ご主人様・・・いかがでしょうか?」

 崎野の前で、若菜は恥かしそうに尋ねた。若菜が気にするのはご主人様の視線だけであり、それ以外の人間は存在しないも同然だった。

「だめだ。黒い奴にしろ」

「はい。ご主人様」

 若菜は首輪をつけたまま、再び陳列棚の所へと戻っていく。次につけたのは、崎野の命令通り、黒い首輪だった。

「どうでしょう、ご主人様」

「赤いのにしろと言っただろう」

「も、申し訳ありません。ご主人様」

 深々と若菜は頭を下げる。形ばかりの謝罪ではない。若菜が真剣に反省している事は、その深刻そうな表情からも見て取れた。矛盾する命令でも、新しい命令が上書きされ、己の記憶が修正される。もちろん非があるのは常に自分の方だ。

「すぐに取り替えてまいります」

 そうやって、崎野は若菜にいくつもの首輪をつけさせて、周りの男達に鑑賞させた。最初は遠慮がちだった視線が、次第に大胆になる。若菜に絡みつく幾重もの雄の視線に、崎野は鼻高々だった。それは、自分のコレクションを自慢するコレクターの心理に似ていた。

 最後に崎野が選んだのは、下品なまでに真っ赤で、分厚く鋲のついた首輪だった。

「よく似合うぞ。若菜」

「ありがとうございます。ご主人様」

 ご主人様に誉められて、若菜は心底嬉しそうだ。

「これから浩太郎さんを出迎えにいくからな。しっかりおめかししないと。少しきつめに首輪をしろよ。常に自分の身分を忘れないように、な」

「はい。ご主人様」

 若菜は即座にきつく首輪をつけ直した。

エピローグ
 成田空港国際線到着ロビー。
 慌てて飛び出すように、浩太郎は現れた。若菜の事が心配で、堪らなかったのだろう。

「浩太郎さん、こっちですよ」

 崎野が浩太郎に手を振った。隣には若菜がいる。それに気づくと、浩太郎は急いで崎野の元へと走ってきた。

「お帰りなさい。浩太郎さん」

 にこやかに、若菜が声をかける。

「ただいま。わか、な・・・さん」

 若菜の変わりように、浩太郎は目を丸くしていた。無理もない。視線、物腰、立ち振る舞い。全てが以前と別人だ。すっかり角が取れて、温和な笑みすら浮かべている。その首には首輪が光っていた。真っ赤な大型犬用の首輪だった。

「若菜さん。自分がどんな女になったのか、説明しなさい」

 浩太郎の驚く様子を見ながら、崎野が自慢げに言う。

「はい。私は夫へ絶対の忠誠を誓う、淫らで卑しい変態マゾ犬妻です。汚らしい犬ですので、旦那様に可愛がっていただけるかどうか不安です。もし、飼い犬にしていただけるなら、生涯心を込めて尽くし抜きます」

 若菜は、自分の心情を高らかに披露した。少しも無理に言わされている様子のない、自然で熱を帯びた宣言だった。

「どうですか。今さら調教の成果については述べるまでもないでしょう」

 崎野が得意になって言う。

「ご満足いただけましたか?」

「ええ・・・ええ!想像以上です」

 呆然と若菜を見つめたまま、浩太郎はがくがくと何度も頷いた。

「それは良かった。それでは契約は完了という事で。私はこれで」

「あ、はい。ありがとうございました。行こう、若菜」

 崎野に挨拶して、浩太郎は若菜の手を握ろうとした。その時、ぴしゃりという乾いた音が、広いターミナルに響き渡った。

浩太郎は自分の頬を手で押さえて、信じられないといった表情で若菜を見る。手を握ろうとした瞬間、若菜が浩太郎に平手打ちをしていたのだった。

「何するのよ!私に触れていいのは、旦那様だけよ!!」

 さっきまでの温和な表情は消え、若菜の目には激しい怒りが渦巻いていた。その怒りの凄まじさは、いつも怒られてばかりだった浩太郎すら見た事がないものだった。

「さ、崎野さん。これはどういう・・・」

 助けを求めるように、浩太郎は視線を崎野に移す。

「調教は完璧ですよ。若菜さんが忠誠を誓うのはこの世で唯一ご亭主だけ、という訳です」

「だ、だからそれは僕じゃ」

 崎野は懐から、ニ枚の書類を取り出した。一枚目は『離婚届』。その書類にはそう書いてあった。既に若菜の名前は書いてある。二枚目は『結婚届』。そこには崎野と若菜の名前が書いてあった。

「法律は別にして、若菜の中ではあなたは既に亭主ではない。そういう事です」

「そ、そんな」

「“成田離婚”」

 崎野が一言そう告げると、言いかけていた浩太郎から一切の表情が消える。それは、催眠状態になった時の若菜そっくりだった。

 浩太郎に喜代美を抱かせた後、崎野は浩太郎を拉致し、自宅で洗脳していた。若菜の調教を、崎野に依頼する事。その企みに、積極的に協力する事。決して若菜に手を出さない事。特に初夜は酔いつぶれてでも、何もしない事。そして埋め込まれたキーワードを告げられると、いつでもすぐに催眠状態に入ってしまう事。

「浩太郎さん。あなたは若菜さんの調教など私に依頼していない。あなたと若菜さんは予定通り新婚旅行に行きました。しかしその先で、修復不可能な大喧嘩をしてしまい、その場で離婚を決意しました。もうあなたに若菜さんへの愛情はまったくない。結婚自体が間違いだったのです。それに早めに気付いて人生をやり直すのですから、あなたの気分はむしろ晴れ晴れとしています。すぐに若菜さんを思い出す事もなくなります」

 結婚式場に勤めながら、崎野は自分のモノにする女をずっと物色していた。多くの新婦がいた中で、崎野が選びに選んだ極上の女、それが若菜だった。崎野は最初から若菜を自分のモノにする為に、二人に近づいたのだった。

 催眠状態のまま、ぼんやりしている浩太郎に、若菜が近づく。その上着のポケットに、光る物を入れた。それは、二人の結婚指輪だった。

「さようなら、浩太郎さん」

「若菜、いくぞ」

 背後で崎野の声がした。

「わん」

 若菜は幸せそうな声で鳴くと、急いで崎野の後を追って去っていく。もう二度と、振り返る事はなかった。

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