ある国の話

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清浄な国

「まったく。何だ、あの旅人は」
 知らず男の口から怒りの声がもれた。丸いテーブルに置かれたコーヒーをすする。この時間、天気が良いときは大通り沿いの、このオープンカフェの丸テーブルに着いてうまいコーヒーを飲むのが男の日課だった。しかし、今日のコーヒーはひどく不味く感じた。
 珍しくこの国にやってきた旅人。男が話しかけると、旅人は開口一番とんでもないことを言った。一時間ほど前の話だ。
「本当になにを考えてるんだ。この国の素晴しいシステムをみて、あんなこと言うとは」
 男はカップをテーブルに叩きつけるようにして置いた。そして、この国のシステムについて考え始めた。

 あるとき、この国の指導者で権威ある科学者でもある男がこう言ったのだ。すべての邪な感情の原因は性行為のある、と。
 例えば、美男美女というのは普通の人よりいい対応を受ける。「顔の違い」などというもので、人の態度が変わるのはそこに性の対象としての不純な感情があるからだという。
 難しいことは私には良く分からないが、男女差別や恋愛関係のもつれ、暴力、嫉妬、妬み、すべての問題、すべての歪みは性欲によって発生するそうだ。
 そこで、国の指導者で権威ある科学者でもある男は、この国での性行為を禁止し、子供は人工授精で生むことにした。そして、性欲は機械によって処理させることにしたのだ。これが現在まで続く素晴しいシステムだ。
 なんて素晴しいことだろう。ヒト、人間の理性というのは性欲を抑えることに多大な労力を割いてきた。それが、性欲の処理を機械に任せることにより、それまでの様々な問題が解決し、理性は多大な労力から開放される。真に理性的で平等な社会を作ることができたのだ。
 こうして今、私たちはこの素晴しい社会で生きることができている。今の国民には、もはや諸悪の根源たる性行為というもの知っているものはいなくなった。
 それにしても、何よりすごいのは指導者にして科学者の男の造った機械だと私は思う。性欲を処理するために造られたこの機械は、99.8%が人間と同じ生体部品で作られている。生体部分でないのは体内の受信用ナノマシンといくつかの超小型チップくらいのものだ。
 受信用ナノマシンが、S.G発生装置からの情報を受け取って…ええっと、やはり難しい話は良く分からないが、このナノマシンとチップで生体部品を制御するそうだ。
 そして驚くべきことに、この機械は工場で造らなくても男の使用者が使っていれば、自分の体内で新しい機械の生体部品を生産するのだ。
 月に一度、国の施設での検査で生体部品を生産中だということが分かると、施設で生体部品の生産に集中させる。何ヶ月かすると生体部品が出来上がり、これにナノマシンとチップを組み込むことで新しい機械ができる。
 十年も使えばシワやたるみ、生体部品の老朽化で廃棄せざるを得ない処理機械にとって、この機能はとても重要だ。この機能をつけた国の指導者にして科学者には感嘆するよりないと思う。
 この国のシステム、これは他の国々にも誇るべき素晴しいものだと私は思っている。

「だというのに、まったく」
 また、男から声がもれた。沸々とこみ上げてくる怒りで頭が回らなかった。
「処理しろ」
 男は、こういう気分のとき、いつもそうするように言った。男の横で黙って立ち続けていた女が、男の前にひざまずいた。男の脚の間に頭をうずめていく。
 男のいるカフェに面した大通りを、女が一人歩いている。周りには何人もの美男子を引き連れていた。それを見た他の女達は、みな恨めしそうな視線を、美男子をつれた女に向けた。
 通りの別の場所では、首輪だけを身につけた女が地面に手と膝をつき四つん這いで歩いていた。首輪には鎖がつけられ、それは男に握られていた。
「さっさと歩け。このメス犬」
 鎖をもった男は怒鳴ると、鎖を引いた。首輪をつけた女は顔を苦しそうに歪めながら、必死についていった。
 大通りの、カフェがある方とは反対側には大きな公園が造られていた。ベンチで恋人らしい男女が語らっていた。そのベンチの横で男と女が黙って突っ立っていた。
 語らう男女の隣のベンチでは、男が仰向けに寝そべっていた。仰向けの男の上に跨って、どうヒイキ目に見ても十代前半に見える女が激しく身体を上下に動かしていた。

「ううっ」
 カフェの男は処理を終えると荒れた呼吸を整えた。そして、収まらぬ怒りを込めて言った。

「なにが、ここの人達はずいぶん大胆にセックスするんですね、だ」

< データ終了 >

使用上の注意
 本文章は、妄想補助文です。本文章は妄想の発生の補助、及び携帯火器の待機モードから戦闘モードへの移行の補助を目的としています。ミッションコンプリートまでは想定しておりませんので、ご了承ください。
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 世界情報収集機構  雑務課

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