白鳥は静かに舞う 第1話 ―舞散る刻―

第1話 ―舞散る刻―

 ああ....なんてお美しいんだろう。
 あの凛とした立姿、何物にも動じない澄んだ眼差し。
 お腹の前で組まれた指先が組み換わるだけで、尖った顎先が少し上を向くだけで、あの方の強さが身に染みる程に伝わってくる。

 でも....時折お見せになるあの物憂げな瞳の色はなんだろう?
 ふと窓の外を眺めるときの悲しげな横顔に、私の小さな胸はいつも狂おしく締めつけられてしまう。
 窓からの西陽に照らされて伸びる睫毛の影が、まるで私の心に突き刺さるようだ....。

 あれは、お仕事の悩みだろうか?
 それなら、私はもっともっと働きます。例えこの身を削ることになろうとも、茜さんのあんなお顔を見るのは身を切られるよりも辛いから...。

 でも、ひょっとして、男性の、悩みだったりしたら....

 違う!
 あの茜さんの高貴なお心に沿える男がこの世に居るとは思えない...思いたくない。
 男なんて、男なんて、自分勝手でわがままで、女を性欲処理の道具にしか考えていない生き物なんだから。
 そんな獣のような生き物があの理知的で神々しいまでにお美しい茜さんを、茜さんの身体を、我が物のように振舞うなんて事、とても想像できはしない。

 そうだ、きっと私なんかには思いもつかないような悩みを抱えていらっしゃるんだよ。
 茜さんのように、全てを持って生れた方にしか判らない寂しさがあるんだよ。

 ああどうか、どうか、願わくば茜さんの寂しさが少しでも紛れますように。
 そして私の存在が、少しでもあの方のお役にたてますように.....。

 茜が某国立大学を主席で卒業したのは、国内の景気の低迷がピークを迎えようとしている頃だった。
 彼女が在学中に取得したMBAやいくらかの論文の功績が認められはしても、この冬の時代にその功績に相応しいだけの条件を提示できる企業など、有ろう筈もなかった。また時代を先読みする彼女の卓越した能力が古い体質に縛られた日本の企業に魅力を感じる事もありえなかったのだろう。
 卒業後、茜は大したコネも金もないまま、華奢な身体に夢だけを詰め込んで渡欧した。
 だが苦労の末ようやくもぐりこんだ世界最大手とも呼べるコンサルティング会社での勤務経験は、彼女のありあまるスキルを磨きあげるのに相応しい物となった。
 そこでの彼女は持てる才能を遺憾なく発揮し、社内最年少で極東マネージャーの地位を約束される程にも実力を買われていたのだが、それは彼女がかねてより持ち続けていた夢を捨て去るほど魅力的な条件でもなかった。

 そして、彼女が自らの夢の為にと蓄積したノウハウを形にして残す事を条件に出された法外な退職金を元に新宿にオフィスを構えたのは、未だ美しくあろうと枝にしがみついていた桜の花達が、今正に汚れた地面へと舞い散ろうとしている頃だった。

『白鳥コンサルティングサービス』。Office.Shiratoriの前身となるこの会社を知っている者など、今は誰もいない。

 創業のメンバーは、海外時代の同僚レベッカ・マーティン。そして大学の後輩である篠村あゆみと笠木真弓。皆茜が一緒に働く事を望み、そして強く望まれもしたこれ以上ないと思える屈指のメンバーだ。
 いやもう一人いる。たまたまバーで隣合わせて皆と一緒に飲んだ。ただそれだけの出会いがまるで人生の一大事のように捉え、心酔する茜につきまとってきた少女。そのまま「給料なんていりませんっ!」と言い放ちオフィスに居座ってしまった若干19歳の女の子だ。

 名前は神坂亜季。ビジネス系の専門学校を中退後、大した目的もないままに派遣の仕事をダラダラとこなしていたという。
 出会った当初はどこにでも居る社会や大人に反発しながら生きている若者といった感じの娘だったが、茜の傍で生き生きと働いている彼女からは、他の誰もが持ち得なかったエネルギッシュで見る者を明るくさせるオーラが発散されている。

 ――亜季はひょっとしたらこの会社で一番重要な存在かもしれないわね――
 この茜の言が亜季を有頂天にさせた事は想像に難くない。

 会社創立から8ヶ月が過ぎようとしていた。
 それなりの体裁も整い、社員達も忙しく駆けまわる毎日が続いてはいるが、未だ雑用の域を出ない類の仕事ばかりだ。
 今はそれが大事な時期だという事は茜自身よく分っている。しかしこのままでいい筈もない。
 何かきっかけが欲しい。それさえあればこのメンバーが日本のどの同業他社よりも優れている事を証明できるのに。
 そんな事を考えながら、茜は一人バーのカウンターにその美しい瞳を映していた。

「アカネッ、アカネーッ!」

 静かなJAZZが流れる店内に、皆を振返らせる声と共にけたたましく扉を開いたレベッカが駆けこんできた。胸には水色の封筒を大事そうに抱えている。
 気怠げな視線を上げた茜は横の席に置いていたコートを自分の膝に置き直し、着席を促した。

「アカネッ!ほら!これ見てご覧よ。今誰に会ってたと思う?先週からずっとオファーを取ってたイングランド時代の上司なんだけどね、これから取り組もうとしてる企業の改善計画の先行調査をしてくれないかって。それでさ、もしその出来が良ければ引き続きプロジェクトマネージャーを任せてくれるって言ったんだ!」

 激しく息を荒げながら捲し立てるレベッカに合わせるように、いや彼女の苦労を労うように、茜は極上の笑顔を浮べて見せた。

「へぇ、やったわね、さすがはレベッカ。で?その企業ってのはドコなの?貴女をそれだけ興奮させるんだから並の会社じゃ無いって事はよく分るけど」

「へへっ、驚くわよ」

 そう言って自慢げに封筒から取出したパンフレットには、日本人なら、いや世界中の誰もが知っている筈のロゴが描かれていた。

「ちょ、ちょっとこれって....」

「そう、今や世界第二位の売上げを誇る自動車メーカーよ。ここの北米支社の製作ラインの改善とその管理プログラムを立ち上げてくれって話。当然それはモデルケースだからうまく機能すれば本社や全世界にも導入されるわ。数億ドル規模のプロジェクトよ。どう、凄くない?」

「そ、そりゃ凄いけど...こんな仕事がどうしてウチの会社に...」

「ありゃりゃ、アカネってば自分の凄さがいまだもって分ってないんだから。イングランドのマック本社には今でもアカネの信者が一杯居るって事知らないの?このプロジェクトがアカネ絡みだって噂だけで参加希望者が溢れかえってるってのに...」

「そ、そうなの?ちょっと不純そうな動機だけど、ここはちょっと気合いの入れ所ね。さっそく渡欧するから亜季に準備するように言っといてくれる?それとその前に全体会議を開いておきたいから、早速明日の早朝全員を...」

「なに言ってんの。もうみんなに招集掛けちゃったわよ。あゆみももうすぐ帰ってくるからすぐに始めるわよ」

「わ、かったわよ。まだ一杯も飲んでないけどね」

「この契約が済んだら浴びる程祝杯上げさせてあげるって。取り敢ず今はボスが居なきゃ始らないんだからとっとと上がってきてね」

 それだけを早口で捲し立てるとレベッカは入ってきた時の勢いで出て行ってしまった。
 そんな彼女のはしゃいだ様子を嬉しそうな顔で見つめながら、茜はマルガリータを一口だけ流し込み席を立った。

 外は身を切る寒さ。これから始ろうとしている魅力的な前途に思いを馳せるビジネスウーマン白鳥茜、最後の夜だった。

「行方不明?」

「そうなのよ。昨日渡欧した筈なのに先方にはまだ着いてないらしいの。空港からかかってきた電話を最後にそれ以降連絡もつかないのよ」

「そんな...まさかどっかで事故にでも...」

「日本の警察にはそれらしい事故の報告は無かった。向こうの警察にも届出はしてあるけれど...とりあえず私、あっちに飛ぶわ。向うの友人にだけ任せてもおけないし、例のプロジェクトもこのまま流しちゃう訳にもいかない。このままアカネが戻ってこなかったらどのみちプロジェクトどころじゃないんだけど...」

「ちょちょちょっと待ってよ!戻って来ないって、そんな事あるわけないじゃないの!あの茜さんが会社や私たちを放ったらかしてどっか行くなんて事が....」

「あるわけないから心配してるんだろ?だから私は向うでアカネの捜索とこの契約を出来るだけ延ばして貰うよう交渉してくる。国内の仕事はあんた達二人でこなしてもらわなきゃならないけど、出来るわね?」

「そ、そうね、こっちの事は心配しないで。ねえレベッカ、ホントに茜さんの事、お願いね。もし人手が要るようならすぐに手配するから。最悪はもう仕事なんてしてる場合じゃないんだから」

「わかってる。私だってこんな状況で仕事が手に着く筈もないんだ。でもアカネが戻って来た時に会社が潰れちゃってたりしたら顔向け出来ないだろう」

「う、うん、そうね。わかった」

 あゆみとレベッカが心配そうな顔をつきあわせボソボソと話している時、隣の給湯室では茶筒を持った亜季が全身をわなわなと震わせていた。まるで全ての血流を失ってしまったかのように蒼白な顔面を、か細い指先で覆いながら...。

 その二人の会話が交される32時間前、茜は空港のラウンジで火傷しそうに熱いコーヒーを少しずつすすっていた。
 壁一面を占める硝子の向うに見える広大なロビーでは、ビジネス風の男女が忙しなく行交っている。
 だがそれを見るともなしに眺めている茜は今、心ここに在らずといった感じだ。

 自分の夢を叶える為にこのプロジェクトがどれだけ重要かという事は火を見るよりも明らかだ。
 しかしそれはレベッカが言う程軽くこなせる仕事ではない、という事でもある。いくら茜が海外勤務時代に築いた実績が素晴しくとも、それだけで契約が取れる程あの会社は甘くない。確かに誰の心にも容易くうちとけ、入り込む事の出来る容姿と性格は彼女が天から授ったと言える程の武器ではあるが、それを妬む者も少なからず居る。ましてやこれだけのプロジェクトだ。本社内にもその地位を喉から手が出る程欲しがっている連中は星の数ほど居る筈だ。

 傍らのアタッシュケースを膝に置き直した茜は、中から取りだした書類に再び目を通し始めた。
 昨夜皆で遅くまでかかって仕上げた概要計画書と積算資料。それらに細かくチェックを入れながら、ようやく冷めかけたコーヒーカップを薄く彩られた唇にそっとつけた。

 その時.....

 結露の粒を表面に纏わらせた硝子の向うに不気味な男が一人立っているのに気づいた。
 長くぼさぼさの頭髪、真っ黒なサングラス、清潔なロビーの中にあって皺だらけの黒いコートも男の怪しさを際だたせている。

 確か、どこかで....
 そんなデジャブを頼りに記憶の底を探る茜。
 そう言えば、いつものバーの片隅で....そう思い当り、顔を上げた瞳にサングラスの奥で息づくどす黒い何かが飛び込んでくる。

 ニヤ

 男の頬が少し吊上がったように思えた。
 茜の背筋にピリピリした何かが走り抜ける。

 ――あれは、あの存在は....危険!
 生物のDNAに刻み込まれた生存本能が激しく警鐘を打ち鳴らしている。

 なのに、動けない....。

 指先一つ、いや視線を外す事をすら禁じられた茜は全身を包む恐怖に支配され、そのきめ細かい肌を小刻みに震わせるしか出来ないでいた。

 男の手がゆっくりと上がり始め、鼻先に辿り着いた人差指がサングラスを少しずり下げる。
 その上に並ぶ双眼は、周り全ての光を奪い去るかの如く暗く、そして底知れぬ程深く沈んでいた。

 一瞬、茜の震えが痙攣のように高まり、そして少しずつ、潮が引くように、おさまっていく。
 やがて全身の震えが無くなると右手だけがようやく動いた。しかしそれは彼女の意志だったのだろうか?恐る恐るのばした掌が、硝子の曇りを一筋拭う。

「っ!!」

 その瞬間、恐怖に支配されていた茜の心が一気に晴れ渡った。沈んでいた心が宙に浮遊しているかのように軽く、明るくなっていく。いつしかその表情にはいつも以上ににこやかな笑顔さえ浮んでいた。
 健やかな、なんの不純物も無い、満面の笑顔だった。

 さっきまでは震える程に守ろうとした自分の身体が、生命が、今はとてもちっぽけな物にしか思えない。

 そう、この方に従属する喜びに比べれば。
 この方に仕える事の大切さに比べれば....。

「ご....主人様......」

 ニヤリ

 茜の唇の動きだけでその台詞を確信したのか、今度ははっきりそうと分る笑みを残し、男はその場を立去った。

 しばし呆然と黒いコートの背中を見つめ続ける茜。だが突如思い出したように立ち上がると大事だった筈の書類を跳ね除け、ロビーへと一気に駈け出した。

「待って!お待ち下さい!」

 少し高めのヒールを鳴らし、広いロビーに悲壮な声が木霊する。
 一向に止る気配の無い男に向い、茜は叫び続けた。

「ご主人様、お待ち下さい、ご主人様っ!」

 ”ご主人様”。絶世の美女が発するその台詞に違和感を覚えた通行人が一斉に振返る。そんな好奇の眼に動じる事もなく、茜は必死に駆け続け、追いすがる。

 ロビーの中程に差し掛かった頃、その必死の思いがようやく通じた...いや男にとっては人目につくのがただ好ましくなかっただけだろう。振返る事もなく足を止めた男の背中にぶつかるように茜はしがみついた。

「ご主人様、お待ち下さい。どうか、私にもご主人様のご寵愛を、お情けを、お恵み下さい。どんな.....そう、どんな事でもいたします。心も、身体も、この私の全てを、所有していただきたいのです。ご主人様のお役にお立てください。お願いします、どうか、どうか.....お願いします」

 もしこの手を放し、このまま別れてしまったら二度と会えないかもしれない。そうなれば自分はもう生きてはいけないだろう。何故自分がそうなるのか、そんな事は思いもしなかった。ただ自分の人生はこの方の為にのみ在るのだと、信じて疑う事は無かった。

 親に捨てられようとする幼子ならこんな風に泣きわめくだろうか?男はそんな茜の顔面をうざったそうに片手で掴み、引き剥がした。
 頬の辺りを掴む手にギリギリと力が込められ、薄紅色のルージュが強引に開かれていく。顎の美しいラインをなぞるように涎がダラダラと滴り、落ちる。
 茜は、その液体が愛しい人の指先に触れただけで悦びを感じられた。口付けなどとはとても言えないが、唇が掌にほんの少し触れただけで幸せを感じる事が出来た。

「こ、ひゅひんはま....」

「一つ....」

 だらしなく垂下がった茜の眼の奥を覗き込むようにしながら、男は冷淡に口を開いた。

「俺は人目につくのが嫌いだ」

「ふぁい...もうひわけ...」

 単調に流れる男の言葉が、染み入るように刻み込まれていく。

「二つ、お前は今日から俺の牝犬だ。その身体は俺の為にある。この美しい顔も、口も、乳房も、性器も、髪の毛一本に至るまで俺の物だ。常に美しくある事を心がけろ。俺を満足させるにはどうすればいいか、いつも考えておく事だ。それを為すためにこの身体をお前に貸しておいてやろう。せいぜい大事に管理しておくんだな」

 ゴクッ。茜の喉が鳴った。同時に股間から官能の滴がドロリと滲み出る。思わず頭に浮んだ淫靡な情景が、茜の脊椎をピリピリと痺れさせていった。

「三つ、俺には金とコネクションが必要だ。お前にはその為のスキルがあるのだろう。それに必要な人材は全て俺が調達してやる。お前の駒として使うがいい。お前が役に立つ間は俺の傍に置いてやろう。気が向いたら餌もくれてやる」

 呆けていた茜の瞳が少しだけ細まった。彼女の優秀な頭脳では既にその仕事に必要な情報が引き出され、組立てられ、完了までの概略が出来上がっているに違いない。

 男の手からようやく解放された茜は、脱力する身体をなんとか持ちなおし、ポケットからハンカチを取出した。まず自分の涎で汚してしまった男の手を丁寧に拭い、続いて自分の口の周りを軽く拭った。

「ご主人様、至らない牝犬ですが、私の全てを掛けてご厚意に報いるよう努力致します。これからもどうぞよろしくお願いします」

 一つ目の言いつけを守っているのだろう。あくまでもビジネス風を装った挨拶で、茜は男への服従を誓った。

 雑多な乗客達が行交うロビーの外れ、『立入禁止』の札の下がったロープの前で屈強な警備員二人がその通路を塞いでいる。
 一体何があるのか?そこを通らねばならない関係者達を厳めしい顔で封鎖する彼らの瞳には一様に濁った使命感だけが宿っていた。

 チュパッ、チュパッ、ジュルッ、ジュルゥ、チュパッチュパッ....

「ん.....ぅん...あ、ふぅぅぅ.....」

 その巨大な肉棒をくわえ込んだルージュの隙間から、肉をとろかすほどの熱い吐息が漏れて出る。
 殺風景でしかない警備室の壁に、肉と唾液の混じり合う淫猥な音楽が流れ弾ける。

 恐らくこれまでの人生で男の怒張を口にした事など無かったのだろう。この世に存在する限りの快感を男の隅々にまで行き届かせようと必死の努力を費やしても、茜にとってそれは言語を一つ習得するよりも困難な物だった。
 あの茜が正に命がけで学び取ろうとしているのだ。数十分もあれば人並以上にはなっている筈だ。しかしそれでは満足できはしなかった。男ではなく、茜が。

 今主人が舐めて欲しいのはどこなのか?強く吸上げて欲しいのか、裏筋を柔らかく舐めて欲しいのか?茜は全てを把握したがった。
 焦らす為にポイントを微かにずらすテクニックも確かにあるが、茜はそれをよしとしなかった。主の欲望の赴くままに、激しくしたい時にはより激しく、ゆるやかに楽しみたい時はよりゆったりと、その御心のままに楽しんで欲しかった。

「ご主人様、いかがですか?茜のご奉仕は楽しんで頂けていますか?茜の身体は、ご主人様のお気に召しましたでしょうか?」

 脚の間から縋るような視線を流す茜に、あくまでも蔑んだ瞳を向けたまま男は口を開いた。

「ああ、なかなかだ、初めてにしてはな。だが館にはお前が束になっても敵わない女が居るぞ」

 その言葉に茜の心はひどく痛んだ。プライドを持ち得る程自信があった訳ではなかったが、自分の知り得ない程魅力的な奉仕があるという事に、それほどの技術を持った女が主人の傍に居るという事に、茜は少なからずショックを受けた。

「そ、そうですか....至らない牝犬で、申しわけありません.....」

 震えがちな睫毛がそっと伏せる。
 だからと言ってそれで諦めるような彼女ではない。これまでも負けた事が無い訳ではなかったが、いつまでも負け続けた事は無い。
 瞳に浮ぶ悲哀を決意のそれに代え、茜は再び舌を伸ばした。

 この短い時間に主人に教わった技術と自分の持てる知識の全てを動員し、荒れ狂う剛直にその可憐な舌を、唇を纏わらせていく。
 肉棒の、太腿の、吐息の、肌の反応全てを感じ取り、男の全ての欲望を満たしたがった。

(ああ、ご主人様。どうか、その御心を私にお教えください。指先一つ、肌の震え一つでも、その片鱗を私にお示し下さい。そしていつか、ご主人様のお望みの全てを叶えられる牝犬に、お導きください.....)

 両手で肉棒を握りしめ必死で集中する茜の姿は、皮肉にも神に祈りを捧げる信者を彷彿とさせた。
 彼女が崇め奉るその男ほど神と縁遠い存在は居ないというのに....。

「ふん、まぁよかろう。おい、次は穴の具合を見てやる。尻をこっちに向けて奥まで剥いてみな」

「は、はい!ありがとうございます。どうか私のあそこをお慰みください」

 そう言い、男に向って突きだされた尻の肉を掌一杯に掴みグイッと広げると、割られた肉の間に粘液の膜がにゅちゃぁと糸を引く。
 中からどろりと溢れ出したそれは、正に餌を前にした野良犬の涎のようだった。

「くくっ、なんて浅ましいんだ、お前。ちんぽをしゃぶっただけでここまで濡らすとは、昼間はあれ程澄ましてやがるくせにな。これから俺の調教を受けたら一体どれだけいやらしくなるんだ?」

 そう蔑む主人の言葉の端々にも茜は喜びを見い出さずにはいられない。
 昼間...ああ、そんなに以前から自分の事を見つめていてくれたのか。
 会社で、路上で、バーで、その視線に犯される自分に酔いしれ、やがてそれは果てしない妄想へと紡がれていく。

 背後から激しく貫かれながら仕事をこなす自分。
 淫らな淫具を全身に纏いながら路上を颯爽と歩く自分。
 バーで皆の軽蔑の視線を受けながら、主人に奉仕する自分。

 それらの妄想に夢と憧れを抱きながら、茜の心はどこまでも墜ちていく。
 ぬめつく肉の襞に強烈な視線が突き刺さるのを感じ取りながら、真っ白な背筋がうねうねと蠢く。
 時に舐めるように、時にちくちくと靡肉を刺すように、見られるだけでこれほどの快感を得られるという事が、今の茜には新鮮な驚きだった。

「ふあぁぁぁっ!」

 と、そこに視線以上の、直接的な刺激が与えられた。
 恐らく指だろう。しかしそうとは思えぬ程の快感が走り抜ける。

「ふわっ、ん、ん、んぁぁっ!!んく、うぅっ!」

 根本まで挿し入れられた中指が内側の襞をぞろりと撫で上げ、親指に押しつぶされたクリトリスがぐりぐりとこね回される。
 もう茜の我慢は限界だった。

「ご、しゅじんさま、どうか、どうか茜にお情けを.....ご主人様の堅くて立派なソレを、茜のココにお入れ下さい」

「くくっ、牝犬が自分からねだるとは、まだまだ躾が必要だな。だが、ココの使い勝手もちゃんと見ておかないとな。腐れマンコだったらいくら頭が良くてもゴミと同じだ」

「は、はい...よろしくお願いします」

 自分が果してこの方に相応しい身体の持主なのか、知るよしもない茜は恐る恐る後退し主人の膝を跨ぐようにすると、漲る怒張の上にゆっくりと腰を下ろしていった。

 ニュチャ

「はぅ」

 どろどろに溶けた茜の肉襞がその先端に触れた。全ての意識がその部分だけに集中する。

 ニュル

 ねじ込むように腰を廻し、ようやく亀頭が飲みこまれた。

「あ、あはぁぅぅぁぅぅっっ....」

 背筋をピリピリとしたものが駆け抜け、脳天から突き抜けていく。小刻みに震える身体を抑え付けるように茜は男の膝頭を握りしめていたが、少しだけ呼吸が整うのを待った後、一気に腰を下ろした。

「あくぁぁぁあぅぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 壮絶な絶叫が耳の奥を震わせる。果してこれが快感と言えるのか。それほどに大きなショックが彼女の全身を駆け巡った。茜は今、内に渦巻く快楽と幸福のみに生きる、一匹のケダモノだった。

 自らの乳房を揉みしだきながら狂ったように腰を振りたくる茜。その肉棒に食らいついて離さない淫裂は、こね回される度に様々に形を変えている。

 一方、それまではあくまで製品の検品程度に冷たく茜の痴態を観察していた男の表情が急に曇り始めた。額には深い皺が刻まれている。

「く...こ、こいつは....なんて締めつけだ」

 股間から伝わる未曾有の快感に男の先端からはもう先走りの印が滲み出ていた。
 男はそこから伝わる感触を少しでも和らげようと跳ね回る細い腰を押さえつけたが、逆に追い求める快感を突然制約された茜の性器がまるで生き物のように蠢き、肉棒の表面をゾロリと舐め回した。そして吸い上げるように奥へ奥へと引きずり込もうとする肉の動きは、男にとって下半身が丸ごと食されているような感触だった。

「くっ」

 快楽で女を縛ろうとしていた男にとって、先に果てるなど許される事ではない。その極上の味に流されて行きそうな牡の欲望をなんとか振り払うと、突き放すように男は互いの結合を解き放った。
 倒れ込んだ目の前の机に突っ伏し、ハァハァと荒い吐息を垂れ流す茜。眼前にさらけ出された性器は今も餌を探し求める肉食獣の口ようにうねうねと蠢き涎を流している。

 これほどの名器の持主であるという事は男にとって嬉しい誤算だった。
 だがそれは彼女にとってある意味不幸な事でもあったのだ。これまでつきあったどの男も彼女を満足させる前に果ててしまい、茜にとって性交とはそういう物だと思いこんでしまっていたからだ。
 これだけの美貌に知能を兼ね備えた女。ある種の劣等感すら感じさせる彼女に性的な満足すら与える事の出来ない男達は皆、恥じるように彼女の前から消えていった。

 そんな彼女にとって、これだけ官能に溺れられたのは初めての事だった。
 茜は徐々に冷めてくる頭の中で、反芻するように与えられたばかりの快楽を胸に刻みつけようとしていた。

 ――これからはこの快楽をいくらでも味わえる。
 その喜びに潤んだ瞳をそっと男の方に向けると、媚びた笑みを浮べてみせた。

 だがその笑みは男のプライドをいたく傷つけたようだ。自分の不甲斐なさを嫌悪していた矢先にそんな満足げな表情を向けられた男は、怒りに我を忘れたように乱れた黒髪を掌一杯に掴み、ほんのりと上気する頬を机の上に押しつけながら噛みつくように瞳の奥を睨みつけた。

 途端、うっとりと男を眺めていた茜の瞳から思考の色が飛ぶ。同時に反り返った背筋はその一瞬でオーガズムを迎えた事を示していた。太腿を伝う愛液はダラダラと小水のように流れ続け、ピクピクと痙攣を止めない白い肌はその絶頂に果てしがない事を語っていた。

「ふぁっ!ひゃうっ!んぐ、くひゅっ!!」

 喘ぎとも呻きとも付かない声を垂れ流しながら、茜は機械仕掛の玩具のように果てしなく悶え続けた。
 無理もない。思考を飛ばされ全ての神経を快感へと繋ぎ替えられた女は、ゆるやかに流れる空気にさえ全身を掻き毟られるような官能を送り込まれてしまう。

「ったく、俺とした事が...こんな牝犬如きに翻弄されちまうとは...だが、こいつはなかなか....くくくくっ...掘り出しもんだぜ」

 先ほどの極上の味わいを思い起し、男はこみ上げる笑いを抑えきれなかった。
 荒馬のように跳ね回る裸身を背中から押さえつけ、突き出された尻肉に強烈な平手を撃ち降ろす。

「ひゃぅっ!んあぁぁぁぁぅぁぁぁぁっっ!!」

 その尻の痛みは快感へと変換され、壮絶な絶頂がもたらされた後に残る骨や筋肉の軋みも又、快感として返ってくる。
 ダラダラと流れる愛液を掌ですくい、ローションのようにヌルヌルと塗り延すように背中や乳房を愛撫してやると、面白いように白い肌が悶え狂う。

 それはプライドを傷つけてくれた茜への復讐だとでも言うように、ネチネチと執拗な物だった。
 だが、先ほどの行為の続きを心待ちにしているのは茜だけでは無いはずだ。
 茜が指先の愛撫に息も絶え絶えになり始めた頃、ようやく男は淫らに息づく肉壷へと剛直をあてがった。
 今度は先端から少しずつ、味わうように、ゆっくりと捻り込んでいく。

「ふぐぁっ!んあぁぁぁぁっ!」

 ――たまらない。
 全身性器と化した茜の身体にさっき以上に堅く怒張した楔が打込まれたのだ。その快楽はもう人として味わう事の出来る範囲を軽く超えている。ならば、彼女はもう人ではない、という事か。

 男は今のインターバルで冷静さを取り戻したのか、纏わりつく襞の一つ一つを楽む事もできた。大量に溢れ出した愛液も表面の刺激を少しだけ和らげてくれている。

 ジュブッ、ジュブッ....ニュチャッ、ニュチャッ....

 前後する腰に合わせ、肉の擦れ合う卑猥なメロディがゆったりと流れ続ける。
 白痴の貌でその快楽を貪る茜が獣のような咆吼で、クレッシェンドを加えていく。

「くくっ、これが牝犬の餌という物だ。その身体にしっかりと刻み込んでおけっ!」

 その言葉を合図に、室内に流れるメロディは結びの楽章へと向け盛り上がっていった。

「本当に来るのかね?聞けば未だに消息は判らんというじゃないか。君も知っているようにこの仕事にはそれほどの時間的余裕はないんだよ。いや例えそうで無くともここで君と無駄な時間を費やしている程私達はヒマじゃないのでね」

「はい、それはもう充分に承知いたしておりますが、今当社の白鳥が集めております資料はどうしてもこのプロジェクトに必要な物なのです。それをご覧頂ければこちらにおられる方々にもこの時間が決して無駄ではなかったのだとご納得いただけると確信しております」

 世界をも代表する企業のVIP達。これだけの面々を前に萎縮する素振りさえ見せず堂々とデタラメをぶちかますレベッカの態度に、重役達は再び上がりかけた腰を降ろした。
 既存の資料と急ごしらえのスライドだけでこれだけの時間を稼ぐ彼女のプレゼントークには確かに目を見張る物があったのだが、彼らがただそれだけでこの退屈な時間を共有してくれているとはとても思えなかった。
 上の空に移ろう彼らの視線は、明らかに”待ち人来たらず”といった風にドアの方へと向いている。

(ふぅ、やっぱりアカネじゃなきゃダメってワケね、。ったく、容姿で仕事するってのも気にくわないけど、私にだって元ミス・キャンパスのプライドって物があるわよ)

 胸元の第三ボタンも外せば後1時間位は稼げるだろうか?そんな事も考えながら、にこやかな笑顔を振りまくレベッカ。
 軽い溜息の後額の汗を拭い、いかにも暖房が効きすぎだと天井のエアコンを睨みつけながらそのボタンに指をかけた時....乾いたノックの音が室内に響いた。そこから姿を現した秘書が男のの耳元でなにかを囁いている。
 すると、憮然としていた表情の中にほんの一瞬だけ、喜色が浮び上がったのをレベッカは見逃さなかった。いつも彼女に胸やけを起させていたその好色の表情は、しかし今度ばかりは仄かな期待を抱かせる物だった。

(ひょっとしたら...)

 しばしの沈黙の後、4人の男女の視線を集めるドアが再びノックされた。

「入りたまえ」

 無理矢理に造っただろう厳めしい声が微かに上ずっている。だがそのドアが開いた時、彼らの努力は無駄な物へと変ってしまった。満面に浮んだその表情は廻りの誰からもその訪問者を歓迎していると取れる物だったからだ。

「失礼いたします。皆様、お待たせしてしまって大変申しわけありませんでした」

 予想はしていてもその姿を見たレベッカは思わずその場で飛上がってしまった。
 特大の声でその名を呼びたかった。今までの事情を問いつめたかった。そして何よりも駆けよって抱きしめたかった。だがそれをすれば自分の今までの苦労が水の泡と化すのも良く判っている。

「ああ、白鳥君、久しぶりだね。元気でやってるのかね?」

「はい、ミスター・アンダーソンもお元気そうでなによりです。他の方々もご無沙汰いたしておりました。この度は当社に過分なご配慮を頂きありがとうございます」

 極上の笑顔を浮べながら握手の手を差し伸べる茜の手をねっとりと握りしめる男達。いい年をした重役達はまるでアイドルの握手会に並ぶオタクのようにその順番を待っている。

「まあ積もる話は今夜にでもゆっくりとしようじゃないか。夕食の招待は受けて貰えるんだろう?」

「そんな、とんでもございません。その晩餐はぜひこちらでご用意させてください」

「ふむ、まぁ、それほど言うならお言葉に甘えるとしようか。楽しみにしているよ」

 ――まったく...社交界であらゆる美女達を見比べてきているこのオヤジ達をどうやったらこれほど虜にできるのか。
 その会話を横でふてくされたように眺めていたレベッカは頬杖をつきながら思わず溜息を漏らした。
 ”アカネはきっと催眠術でも使うに違いない”そんなバカげた事も考えずにはいられなかった。

「で、早速だが今まで駆けずり回って集めてきた資料というのはどういう物なんだね?どうしてもこのプロジェクトに必要な物らしいが...」

 その思いがけない台詞に茜の視線がチラと流れる。だがレベッカのウィンクで全てを理解した茜は、自信満々の表情でバッグの中の書類を卓上に並べながらこうぶちあげた。

「はい、それはもう。こちらをご覧いただければこのプロジェクトを担当するのが当社以外に無いという事がご理解頂けると思います。世界でも指折に貴重なあなた方のお時間を決して無駄にはしない事をお約束いたしますわ」

「なるほど...それ程の資料を我社の調査部が漏らしていたとは考えにくいが、拝見しよう」

 多少訝しげな表情でそれらの書類を順に廻していく幹部達。だが綺麗に印刷された表紙を一枚捲った時、その額の皺は一層険しい物へと変った。

「な、な、なんだこれは!?さっきまでミス・マーティンが散々私たちの前で説明しつくしていた資料じゃないか!この程度の物はもう何ヶ月も前にうちのマーケティング部から上がってるというのに。一体君はどういうつもりでこんな物を.....いや、もういい、これほど我々をバカにしてくれたのは恐らく君が初めてだろう。いくら君が優秀で美しくともこれ以上無駄な時間を費やす気は起きそうもない、失礼するよ」

 怒り心頭でその書類を茜の方へぶちまけ席を立った幹部達の前に、茜が立ちふさがる。今正に開かれようとしたドアにその背を預けながら男達を見上げる視線は、幼い少女の甘えるようなそれと、淫靡な妖婦のそれが入交じった、ひどく蠱惑的な物だった。

「どういうつもりだね?私としては手荒な事はしたくないと思ってるんだが」

「ねぇ、ミスター・アンダーソン。先ほど貴重だと申しあげたあなた方のお時間とこの私の身体。どちらに価値があるとお思いですか?」

 その予想外の言葉に目を丸く大きく開いた男達の視線を釘付にしながら、細い指先が胸元のボタンをそっと押し込んだ。

 プツン......プツン...プツン.....

 外された三つ目のボタンの奥には真っ赤なスーツによく合わせられた扇情的なブラが垣間見える。その締めつけのせいで造られた大きな谷間には、うっすらと汗が滲んできめ細かい肌をより一層妖しく見せつけている。

「きっ、君は、なっ、なんて事を....そんな事で我々がビジネスの判断を誤るとでも....」

 そうは言ってもその視線はあくまでも胸元から離れない。指先で弄ばれている四つ目のボタンがゆらゆらと揺れ、ヒールの踵がドアに沿って引き上げられていくとタイトなスカートがずり上がり美しい太腿が少しずつ露になっていく。

 ゴクン

 皺だらけの喉が鳴る。そこから発される筈だった次の台詞がどうしても出てこないのが男達にはとても不本意だったのだろうが、その谷間にむしゃぶりつきたい衝動がどうしても抑えきれない。

 そしてその痴態に釘付にされ、喉を鳴らしていたのは男達だけではなかった。

(まっ、まさかアカネが、ここまでやるなんて....確かに大事なプロジェクトではあるけれど、今までのアカネは仕事に女を使うのを嫌っていた筈...なのにここまで...それにあの妖しさはどうだ。全身から女の艶が溢れ出るようじゃないか。この数日で彼女に一体何があったというの?)

 皆の狼狽を楽しむように軽い吐息を吐き出し、四つ目のボタンが穴の奥へと消えた。そのまま指先は胸元をゆったりと這い上がり、綺麗に切り揃えられた髪をサラリと掻き上げる。同時に反り返った喉は唾液の流れ込む様を見せつけ、突き出された双丘が大きく開いたブラウスの間から徐々に露出してくる。

 美しいレースに彩られたブラは最早全てを見せつけていた。そしてその真ん中にあるフロントホックに指が掛かった時にはもう、男達の頭からビジネスの四文字は消え失せてしまっていた。

「ねぇ、教えて下さいな。どちらに価値があるのか。それを知るまでは私、ここを動けませんことよ」

 しばしの沈黙。男達の脳内では恐らく理性とプライド、そして牡の本能がせめぎ合っている事だろう。
 だがやはり、それらも無駄な努力だった....。

「わ、わかった...認めよう、君の身体が魅力的だという事を....これまでの待ち時間なんかよりもね。だがいくらなんでもそれだけで契約までは出来んよ。我々にも立場という物がある」

「ぅふ」

 茜の満面にこれまで以上に妖しい笑みが広がった。それは勝ち誇った物なのか、それともより男達の魂を引きつける為の餌なのかもしれない。

 ホックをつまんだ指先がほんの少し捻られると、プチンという音と共に双丘がプルンと外に弾かれた。だが指はその両端を持ったままだ。さっきまで穴が開く程見つめていた扇情的なレースが、今はひどく邪魔な布きれとしか思えない。

 最早唾液を飲みこむ事すら忘れ、皆がその先の動作を見守っている。一人を除いて。

「アカネッ!ダメーーッ!!」

 突如、レベッカの悲鳴のような叫びが轟いた。自分も我を忘れる程にその美しい肌を見つめていた彼女だったが、ふと我に返ると、やはり尊敬する茜のそんな姿はとても見ていられない。

「アカネッ!いくらなんでもやりすぎよ。あなたそんなにしてまで契約が欲しいの?私はイヤよ!そりゃ私だって多少は女を使う事も知ってる。でも、でも、そんな茜は見たくない!そんな仕事なら私は、私は.....ほ、しくなんて... ないっ!」

 流れるマスカラを気にも止めず、レベッカは叫び続けた。自分達が必死で追い続けていた夢がこんな形で崩れ去ろうとは思いもしなかった。

「やめて.....やめてよ....」

 そう呟き続けるレベッカに向い、茜は少しだけ悲しげな表情を浮べて見せた。

「レベッカ...そうね、私もこんなのは仕事じゃないと思う。そう、これは、仕事じゃないの。今の私にとって、こんな契約なんてどうでもいいのよ、私たちの会社もね。」

 驚いたように涙にまみれた顔を上げるレベッカ。いや、彼女だけではない。そこにいる誰もが目を見開いて茜の言葉をなんとか理解しようと勤めていた。

「私が命じられたのはただ一つだけ。ご主人様がいらっしゃるまで皆をこの場に繋ぎ止めておく事。それがあのお方に必要で、その為に私の身体が役に立つなら、こんな事はなんでも無い事なのよ」

 そう言い、微かに笑みさえ浮べながら、茜は握りしめていた指先を外した。ホックの両端が滑るように双丘をなぞり開いていく。

 ゴクリ....

 次の言葉を待つように茜の唇を見つめていた視線が、再び胸元に集中する。その双丘は彼らが想像していたよりもずっと美しく、大きな物だった
 あまり女を強調するのを好まなかったこれまでの茜は、服装を選ぶ時もそういった基準は外せなかった。そのせいもあるのだろう。着やせするというだけでは片づけられない程、男達の予想は裏切られてしまった。

 朱に染まった小さな蕾が、押さえ付けられていた反動でムクムクと起きあがってくるのが悩ましい。

 呆けていたアンダーソンの手が無意識に上がり、ゆっくりと、恐る恐る伸されていく。指先がその蕾に近づく程に、茜の笑みに妖艶さが増していく。

 そして、差し出すように突き出された蕾が今正に男に触れようとした時、不意に茜の背後のドアがノックされた。

 突然我に返った男達がこれ見よがしに襟と姿勢を正す。茜はこみ上げる嬉しそうな表情を隠そうともせず、しかし背後のドアは押さえつけたまま、返事を返した。

「はい」

「.....俺だ」

 後ろ手で回したノブをゆっくりと引く茜。そこから現れた男の姿を認めた時、茜は恍惚の表情で我を忘れ、思わず頽れるように跪づくと男の靴先に唇をそっと付けた。

「お待ちしておりました、ご主人様」

 目の前の光景が信じられないといった風に驚きに目を見開き、唇を震わせる観客達。しかし他人の視線など意にも介さず男は入室し、茜の髪をひっ掴み立上がらせた。
 だが皆を驚かせたのはそれだけではない。男の後ろに付き従うように入ってきた”モノ”を見た時、アンダーソン達は思わず後ずさってしまう程だった。

「きききっ、き、君たちは....」

 それは全裸のまま四つ足で這う、二匹の”ケダモノ”だった。
 首輪の鎖のように男に先端を委ねられているLANケーブルは首から全身に張り巡らされ、充血する程に乳房を絞り出し締めつけていた。様々な種類のクリップ類があらゆる肉を摘み出し、ふるふると揺れている。
 大きな双臀の向う側に先端が見え隠れしているのは、どうやらペンのようだ。それもボールペン、蛍光ペン、マジックなど、色や太さ長さまで様々な種類の物が女の二穴でひしめき合い、揺れている。その先端からポタポタと流れ落ちる愛液の滴がカーペットに転々と印を残しているのは、彼女達がその姿勢のままここまで這って来たという事だ。
 口元にダラリと垂れ下がった舌先から涎を流し、クーンクーンと喉を鳴らす以外に言葉を失った、そんな浅ましい姿で主の足下に頬を擦りつける様は、正に犬そのもの。それも、淫らに調教された賤しい牝犬。

「くくっ、流石は一流企業だ。ちっと散歩しただけで極上の牝犬が二匹もいやがったぜ」

「そうですか。それはようございましたご主人様。この会社はお楽しみ頂けましたでしょうか?」

 主人の嬉しそうな顔に茜の頬も思わず綻びてしまう。

「まぁな。この調子だともうしばらくこっちに居る事になりそうだ。で、”仕事”の方はどうなった?」

 そう言いながらサングラスを外した男が驚愕のままこちらを見つめている皆に視線を配ると、彼らの肩がビクン!と跳ね、そのままの姿勢で固まってしまった。
 その瞳が次第に恐怖に侵されていく自由だけを残して...。

 男はニヤリと口端を歪めると、ゆったりとソファにでも腰掛けるように牝犬の背に腰を降ろし、ポケットから煙草を取出した。
 それを口にくわえるよりも早く、茜の取り出したライターの火が寄せられる。

「ふぅ.....」

 吐きだした煙が流れゆくのをしばし眺める男。
 不気味な沈黙の中、レベッカの額から脂汗がツーと流れた。

 今動きを許されているのは、煙と壁に掛った時計の秒針。そして男の指先は軽やかにリズムを刻んでいる。この部屋の重たい空気を楽しむように、ここの支配者が誰であるのかを示すように....。

「こいつらを墜とせばこの会社は俺の物になるのか?」

 ようやく発された台詞に茜は申しわけなさそうに頭を下げる。

「いえ、申しわけありません。流石にこれだけの企業になりますと、後30人以上は墜としていただく必要があります」

「ふん、いいだろう。リストは出来ているのか?」

「はい、こちらに」

 茜が取出した書類を受取った男は、その内容を見ようともせず重役達の方へと放り投げた。

「こいつらを今すぐに呼出せ。1時間以内に隣の会議室に集めるんだ。もし出来ないなら....」

 睨みつける瞳の奥から流し込まれた最悪の恐怖のイメージは、重役達を縛るには充分な物だった。
 震え戦慄く身体に鞭を打ち、男達は這いずるように部屋から飛び出していった。

「お疲れ様でした」

 茜の言葉に振返りもせず牝犬の背から立上がった男は、興味の対象を今度はレベッカの方へと移した。

 気丈に男を睨みつける瞳の中に怯えた小動物のそれが入交じり、男の嗜虐心を刺激する。今ここで何が起ったのかすら理解できないまま、真っ白な肌を小刻みに震わせている。
 あの重役達を、そして茜をすら物のように扱うこの男を見る目は、まるで得体の知れない化物を見るかのようだった。

 パチン

 男の指がレベッカの喉にほんの僅かな自由を与えた。芸をさせる為に投げ与えられる餌のように。

「ぐ...お、おまえは一体....私の、身体に、アカネに....なにをしたっ!」

「くくっ、茜、答えてやれ。お前がなにをされたのか」

 茜はいつものようににこやかな笑顔を讃えレベッカの元へと歩み寄ると、震える頭をそっと抱きしめた。
 ふくよかな乳房が顔面を覆う。その心地よい弾力にレベッカはふと身を委ねたくなる扇情に囚われた。

 耳元で囁く茜の声が胸の奥に染み入るように流れ込んでくる。

「レベッカ...私がなにかをされたなんて事は無いわ。ただ、幸福を頂いただけ....。ねぇ、レベッカ、私はね、ようやく見つけたの。この私がなんの為にこの世に生を受けたのか、あなた達がよく褒めてくれたこの身体が、なんの為にあるのか、その答えがようやく判ったのよ。この乳房はご主人様に弄んで頂く為に造られたの。この頭脳はご主人様のお役に立つ為に与えられたの。そしてこのいやらしい性器は、ご主人様の性欲を処理する為に開いているのよ。そしてこの髪も、指も、唇や舌も、髪の毛一本に至るまで、ご主人様の為にだけ、存在する価値があるのよ。ねぇレベッカ、あなたなら判ってくれるわよね。いつも私と同じ価値観を共有してくれたあなたなら、私と同じようにご主人様の事、大切に思ってくれるわよね」

 そこまでの台詞を聞いた時、レベッカは一つの事を確信した。

「そう....あんたはもう、昔のアカネじゃないのね。そこで床を這いずり回ってる女達と同じ.....ただの、ケダモノ。私の知ってるアカネは、アカネは....その薄汚れた男に、消されてしまった!」

「う、す、よごれたぁっ!?」

 天使のような微笑みを一気に消し去り、茜の眉が吊り上がる。抱きしめていた金髪を掌一杯に掴み、これまで人に見せた事の無い程の怒りの表情でレベッカを睨みつけた。

「あなた!ご主人様の事をそんな風に言うなんて、許さない!絶対に許さないわよ!!」

 息も出来ない程喉を反り返らせながら、レベッカの頭が左右に振りたくられる。

「ゲホッ、ゲホッ.....ア、カネッ....」

「もういい、やめろ」

 後ろから茜にとって絶対の声が飛んできた。ひょっとしたら自分の今の行動は主人の意にそぐわない物だったのか?途端に怯えた子犬のような物へと表情を替えた茜が跪き、床に額を擦りつけた。

「も、もうしわけありません。勝手な事を....」

「いや、そうじゃない。ちっとばかり違う趣向を楽しみたくなっただけだ。その女の気の強さがどこまで本物なのか、確かめてみようじゃないか」

「はい、ご主人様の趣のままに」

 尚も床に蹲ったままの茜を後目に、男はレベッカの瞳を再び覗き込んだ。

「おいレベッカ、と言ったな?この俺が憎いか?」

 レベッカは目に精一杯の怒りを込めようと、必死に男を睨みつけている。

「当り前だろ。あんた見たいなゲス野郎にアカネが忠誠を誓うなんてあり得ない。どうやったかのは知らないが、とんだイカサマ野郎だよ。それ以上こっちに近寄らないでくれ。臭い息がたまらないんだ」

 その罵声を楽しそうに効いている男とは裏腹に、背後では茜が鬼のような形相でレベッカを睨みつけている。だがそれ以上には男の楽しみを邪魔する気は無いようだ。

「ふん、なるほど....つまり俺はイカサマを使って茜を操ってる息の臭いゲス野郎ってわけだ。まぁ、息が臭いって以外はあながち間違っちゃいねぇがな。で、お前はこの俺をどうしたいって?」

「そりゃ決ってるさ。お前の喉笛をもうちょっとこっちに持って来てみなよ、この口の中までな。そうすりゃ私がどうしたいか、判るんじゃないの?」

「ククッ、いいねぇ、お前みたいな女、嫌いじゃないぜ。ツラも悪くねぇしな。だが、こんなのはどうだい?」

 パチン

 その指の音を合図にレベッカは硬直をようやく解かれ、弛緩した身体ごと一気に床に崩れ落ちた。
 それでも意志の強さは失わない。まず指を動かし、次に腕や足をさするようにその感触を確かめると、キッと男を睨みつけた。その先であくまでもニヤけた笑いを崩さない男に憎しみが募る。
 ――敵わないまでもなんとか一矢報いたい。あの喉笛を食い千切ってやりたい。
 その為に男の隙を窺っていた彼女が自らの身体の変調に気づいたのは、その隙をようやく見付け今正に飛びかからんとした矢先だった。
 男が視線を逸らした瞬間を見逃さず、即座に起きあがろうと床に着いた足から力が抜けてしまったのだ。

「んぁっ!」

 反動で再び倒れ込んだレベッカ。だが彼女には未だ何が起ったのか理解できていないようだ。
 ただ股間からジュクジュクと広がる熱が徐々に背筋を這い上がるような不可思議な感覚を味わっていた。

「き、さまっ!私の身体にまだなにかを....」

「くくっ、楽しいだろ?だが身体の自由は奪ってないぜ。ほら、来いよ、俺の喉笛はココだぜ」

 そう言うと男は茜を指先で呼び寄せた。クイと動く顎先だけでその意図を理解した茜は、はだけたブラウスとスカートをスルリと落し、迷う素振りすら見せず最後の薄布をも取り去ってしまう。
 突如現れた極上の裸体に一瞬目を奪われたレベッカだったが、ふと我に返るとその事実から目を背けるように視線を逸らした。

 そんな彼女に見せつけながら、背後から回した男の手が茜の乳房を強く握りしめる。同時に耳元で囁かれた命令をこなすかのように茜の声が上ずっていく。

「あっ、あぅぅぅっ、あ、はぁぁぁぁ....き、もち、いいです。ご主人様。もっと、もっと茜を、嬲って下さい」

 嫌でも耳から流れ込む淫靡な声色がレベッカの嫌悪を助長する。これまで胸に抱き続けてきた幻想が、憧れが、音を立てて崩れ去っていくようだ。

「や、やめろ。やめてくれ....アカネ、アカネ...」

 だがその湧き上がる怒りが増す程に下半身は熱を帯び、力が抜けていく。

「ほら茜、もっといい声で鳴きやがれ。お友達が寂しがってるぜ」

「あん、あぁぁっ!ねぇ、レベッカ、私を見て。ご主人様に嬲られて、いやらしくアソコをびちょびちょに濡らしている、淫乱な牝犬の私を見て。ほら、ご主人様に嬲っていただくと、こんなに綺麗になれるのよ。こんなに、幸せに、なれるのよ....」

 もう我慢できないという風にレベッカは頭を振り、男を睨みつけた。だがその視線の先には、溢れる程だった知性など欠片も窺えない一匹の牝犬が喘いでいるだけ。
 食い込んだ爪の先に血を滲ませている豊満な乳房。白目がちに呆けた瞳は宙を移ろい、片足を机の上に乗せ突き出された淫裂は彼女に見せつける為に茜自信の指で大きく広げられている。そこからダラダラと涎のように流れる愛液が部屋の灯を受けキラキラと輝いていた。

 ――浅ましい、なんて浅ましいんだ。
 レベッカは吐き気をもよおす程の嫌悪感に背筋を震わせた。だがその震えの原因がそれだけでは無い事に、レベッカは気づいてしまった。自分の股間から溢れる滴が茜のそれと同じ物だという事に....。

「どうだ?人では味わえない快楽は。極上だろう?怒りと嫌悪の感覚が快感に繋ぎ替えられると、そうなるという事だ。そして、その伝達のレベルを上げていくと....」

 パチン

「きゃうっ!あん、あ、はぅぅぁあぁぁぅあぁぁっ!」

 怒りにまかせて睨みつけていた瞳から徐々に光りが抜けていく。

 パチン

「んぁっ!ふぐぅ、あぅ、ああああぅぁぁぁぁっぁぁぁっっっ!!」

「ククッ、浅ましいなぁ。イキっぱなしじゃねぇか。ホレ、さっきまでの威勢はどうした?それとも茜と同じ、犬のように嬲られてみたいのか?」

 立て続けにイク様子を男に見られた羞恥心も手伝って、飛びかけていた意志が戻ってきた。

「く....き、さまぁっ!殺してや...ぐ、ふ、んあぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

「レベッカ、もう認めなさいよ。あなただってご主人様の前でそんなにアソコをグチャグチャに濡らしちゃってるんだから、もう私と同じ牝犬よ、メ、ス、イ、ヌ。ほら、犬なら犬らしく四つん這いになってご主人様にオ○ンコを見て頂きなさいよ。そして指でおっきく広げてご覧なさい。こうやって、ほら、奥までよく見えるように、広げてご覧なさいよ」

「おぇっ!ぐぇぇっ......あっ、いやっ....もう、あぅぁぁぁぁぁぁぁぁっ..イ、イクっ......イヤっ、あふぅぁぁぁっ....こ、こんなの、イヤ...あっ、あぅあぁぁっ、ま、また....イ、ク.....いやぁぁぁぁぁぁっ!!」

 こみ上げる吐き気が次々と快感に変換されていく。口から嘔吐物を、股間からは愛液を、そして目からは大粒の涙を垂れ流しながらいつまでもイキ続けるレベッカ。そんな彼女の嫌悪感をもっと引き出そうと、茜はより淫らな牝犬を演じていく。

 四つ足で這い主人の靴先に舌を這わせたと思うと、裏返りM字に開いた股間の中心を目一杯広げながらオナニーに耽る。男はそんな茜の美しい顔を踏みにじりながら挑発の言葉を発し続ける。

「どうだ、この綺麗な顔が醜く歪んでるぞ。この方が薄汚い牝犬には相応しとは思わねぇか?」

「ああ、ご主人様、ご主人様、もっと、強く踏みつけてください。もっと、茜が賤しい牝犬であることを、この身体に刻みつけてください.....」

 それら言葉の一つ一つがレベッカの神経を掻き毟るように突き刺さってくる。
 もう、どれだけイったのか判らない。いやイキっぱなしといってもいい彼女の瞳から、先ほどまでの強い意志の光は徐々に失われていった。

「んぁっ!!....あ、うぅぅぅ.....はぁ、はぁ....あうっ!!...も、もう....ゆるして....お、ねがい.....」

 レベッカの半開きの唇からそんな台詞がようやく零れたのは、ショーが始って丁度1時間が過ぎた頃だった。
 そろそろ隣に重役達が集っている頃だ。なら、この淫らで屈辱的なショーが男にとってはただの時間つぶしに過ぎなかったという事か。

「くくっ、なんだ、もう終りかよ。思ったより早かったな。で、お前の言う”お願い”ってのは牝犬にして下さいって事かい?」

 その決断にも一瞬の躊躇があった。自分までも、こんな、家畜のように....だが頭の中にそのおぞましい光景が過ぎった時、再び強烈な官能の渦がレベッカを襲う。

「んぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁっ!!なっ、なります。よろこんで、ほんとうに....ほんとうに、喜んで、るんです....私は、本当に、そうなりたい、です.....」

 まるで自分に言い聞かせるかのように、レベッカは大きな声で叫んだ。心の中でも同じ台詞を何度も何度も呟く内、ようやく身体の変調が収ってくるのを感じた。

「なる...なります...めすいぬに...わたしは....なりたい....こころから...なりたい.....」

 まるで自己暗示を掛けるかのように、ぶつぶつと同じ台詞を呟き続けるレベッカ。

「ふん、まぁいいだろう。だが牝犬には牝犬の格好って物があるんだ。ほれ、そこに二匹見本が居るだろうが。とっとと見習いな」

 男の顎先に促された先へと視線を移すと、LANケーブルに絡まった二匹の白人の牝犬が、ペンの束を自互いの二穴に出し入れしながらよがり狂っている光景が飛び込んできた。

「そそ、そんな格好.....あぅぁぅぅぅっ、ま、また...う、ぐ、あぁぁぁぁぁぁっ!くはっ....い、いやっ!めっ、めすいぬっ!わたしは、めすいぬよっ!....あさましい、めすいぬ...あんな、めすいぬに、なりたい...わたしは、なりたい....」

 目を閉じ、口の中でそう呟きながらレベッカはなんとか息を整え、汗で張り付いた衣服をはぎ取るように脱ぎ去った。そのまま四つん這いでのそのそと這って行くと、傍らのケーブルを引きちぎり、身体に巻付け、机上のペンスタンドを手に取った。
 掌に掴んだ数十本のペンの束を見つめ、ゴクッと喉を鳴らす。しかしその一瞬の躊躇でさえ彼女の快感神経は見逃してはくれない。股間から背筋を駆け登る電流が過ぎ去るまでまた同じ呟きを繰り返し、快感の奔流が過ぎ去るのをじっと待つ。その後のっそりと向きを変えたレベッカは、男に向って真っ白な尻を高々と掲げた。

「ご、覧...ください」

 男の視界にヒクヒクと蠢く二つの穴が晒け出される。こみ上げる羞恥をなんとか追払い、レベッカは一本、また一本と、色取り取りの文房具を女の最奥へと埋め込んでいった。

「くくっ、どうやら仕上ったようだな。茜、こいつのまんこはお前の鞄代りにでもに使ってやれ。それとも俺の煙草入れにするか?」

「いえ、こんなにぬるぬるのペンではサインも出来ませんわ、ご主人様。ですがもしご主人様にご入用でないなら彼女には海外の事業を全て任せたいと思っておりますの。こう見えてもビジネスの才能はなかなかの物を持っておりますから、私の代りを充分に務めてくれると思います。今はただ、おまんこから涎を垂れ流すだけの淫乱牝犬でしかありませんけどね」

「なるほど。せっかく仕上げたおもちゃを一つ手放すのは惜しいが、こっちにも確かに手駒が要るな....まぁ、お前がそう言うのならまかせよう。おいレベッカ、これからこの会社はお前の物だ。どうだ、夢が叶って嬉しいだろう?ただしお前の使う文房具は必ずその穴にしまっとけよ。そいつでサインしてやりゃ成約率UP間違いなしだぜ。ククククッ」

 そんな二人のの非道な言葉にもまた、レベッカの身体は波打つように絶頂を極めていた。

< 続く >

感想を書く

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.