TEST 3rd-day Vol.3

********** 3rd-day   Vol.3 *******

明智 祐実:レディースワット チーム6の若すぎるチーフ。
      直情的で上昇志向が強く、またほとんどのチームメートが彼女の先輩にあたりチーム内では浮き気味。
      手に入れた洗脳薬『レディードール』を使い、仲間を操り人形化して手駒にしてまでのし上がりたいと
      考えている。売春組織『セルコン』の壊滅を手土産にレディースワットの局長ポストへの昇進を狙っている。

伊部 奈津美:来るべきオペレーションの詳細を監視する監視官に任命された。チーム6の副長。
      明智祐実の身勝手な指令から隊員たちを守ってやりたいと考えている。

陣内瑠璃子:身勝手きわまりない気分の女子校生。意外な能力をもつ。
      売春組織『セルコン』から[TEST]なる課題を課せられるが自由奔放な性格で身勝手し放題。

【本署(PD)特別室5】

 すでに時刻は22時を回っていた。
「待たせて悪かったわね。作戦が目前だから、どうしても捜査については当日内に報告書が欲しくって」
 そう言いながら部屋に入ってくると含み笑いを浮かべて机上に置かれた報告書を祐実は手に取った。
 片手でコーヒーを一口すする。目の前には奈那と美穂が直立姿勢で立っていた。

「すぐに済むわ。あなた達も楽にして。そうだ、奈那、そこにあるコーヒー、お飲みなさい」
 部屋の片隅に置かれたサーバーは今しがた祐実が注いだばかりでまだ十分に残っている。
 奈那が祐実の目配せに気がついて軽くうなづくとサーバーへと向き直る。

「あっ、奈那さん。わたしがやります」
「いいのよ。報告書作ったのあなたなんだから、場を外さずにチーフの質問があれば答えていて。砂糖とミルクは?」
「あっ、じゃあ両方」
「OK!」
 美穂が代わろうとするのを制して奈那がサーバーへ歩み寄った。伏せられたカップを2つサーバーの前に置く。
 砂糖のスティックの脇にさりげなくその錠剤は置かれていた。
 錠剤、紛れもない祐実が奈那に使ったのと同じ洗脳薬『LD(Lady-Doll)』だ。
 奈那は無表情でその錠剤を手に取った。
「ちょっと、聞いてもいいかしら?」
 祐実は美穂を呼んで報告書の説明をさせた。祐実に呼ばれて美穂の視線が奈那の背中から祐実へと移った。

【 PD(本署)前  路上 】

「ったく、何やってんのぉ?遅いよ、眠くなっちゃう。渋谷に遊びに行きたいのにぃ」
 助手席のシートを目一杯倒してPSPをやりながら陣内瑠璃子は退屈しきっていた。
「恐らく、今日の報告書の提出を命令されたんだと思います」
 インテグラの運転席で無表情に麻衣子が言った。
「まったくぅ」
 目線はゲームに釘付けになりながら瑠璃子はぼやいた。

「あっ、あれは」
「ふぅ、やっと出てきた?」
 麻衣子の一言に瑠璃子は勢いよくシートと共に跳ね上がった。
 煌々と照らされた4斜線道路の向こう、PD(本署)の正門から出てきた一つの人影が麻衣子の驚きの原因だった。
「な、なにあれ!私と同じ制服じゃない!誰なの!なんであそこから出てきてるのよ」
「たしか民間人徴用協力制度で、以前チーフとペアを組んで学校内偵を成功させた高校生」
「内偵?せこいマネすんのね。麻衣ちゃん、面識は?」
 瑠璃子は鼻で笑った。
「会話程度なら。彼女は今年採用されて所轄配属になったと聞きました」
「なに?警官なの。麻衣ちゃん行って。あのコがどうして私と同じ制服でいるのか探ってきてよ、私のためにね」
「はい、お姉さまのために」
 麻衣子は対岸の歩道を歩く茶羅を追い越す勢いで車から出ると、その先の交差点を目指して小走りに駆けて行った。

 交差点の信号がタイミングよく変わり麻衣子は渡りきった横断歩道の先にある対岸の歩道を横切る茶羅と鉢合わせる。
「茶羅、もしかして茶羅じゃないの?」
 その麻衣子の声に、はっとして振り向いた茶羅の顔がほころぶ。
「あっ、麻衣子センパイ!お久しぶりです」
「どうしたの?そんな学校の制服着て。あなた今年採用で所轄配属になったって聞いてたけど」
「えっへん!私、祐実チーフ直々にお声がけ頂いて、チーム6の潜入捜査のお手伝いすることになったんです」
 なにも知らない茶羅は屈託のない笑顔と共に高校生の制服姿でおどけて見せた。

「じゃあ、もしかして、あなた・・・」
「はい、センパイ方が捜査線上のキーマンとしてあげている1人、陣内瑠璃子のクラスメートとして潜り込みます」
「そう、それは大変ね」
「捜査資料が行方不明になってるんですか?」
「えっ、えぇ、そうなの」
 部外秘であるはずの捜査資料の紛失を茶羅が聞いていることに麻衣子は驚いた。
「そのせいなのか、チーフは陣内瑠璃子が本当にあのときの事件の女子校生と同一人物かさえ疑っています」
「えっ?」
「当時コピーした生徒証や署で撮った写真がない以上、再度自分の目で確認したいそうです」

「それなら直接学校に行けば済むことなのに・・・」
「断られたらしいですよ。確たる証拠も無しに大学の学生寮に踏み込んだおかげで、学内すべての機関で我われへの印象が極めて悪いんです」
「そう・・・・そうなの」
「任意での協力しか期待できない現段階では私のような潜入捜査の方が手早いと判断したようです」
「そうよね、根拠無しには令状もとれないもんね。それにしてもよくウチの内情を知ってるわね、茶羅」
「えへへ、チーフは私には甘いんですよ。なんでも教えてくれます。私の一番の仕事はまず携帯のカメラで陣内瑠璃子の顔・姿を撮ってチーフに送ることです」

「そう、頑張って。でもダメよ、ペラペラと捜査命令の内容を漏らしちゃ」
「あっ、そうですね。気をつけます。でも、麻衣子センパイだから話したんですよ」
「ダメよ。もし、私があなたの敵だったらどうするつもり?」
「敵?そんなぁ、アハハハハハ、参っちゃうなぁ」
 茶羅は苦笑いを浮かべてカラカラと笑った。
「甘いな」
 麻衣子の口元に含み笑いが浮かんだ。
「すみませ~ん。気をつけます、エヘ」
 麻衣子のもつ、入りっぱなしになっている携帯が彼女の手の中で揺れる。
 茶羅はそれに気づかない。
 通話は瑠璃子につながっていた。

「ふ~ん、私の動向をおさえようってのね。わざわざ学校に潜入までさせて」
 携帯越しに麻衣子と茶羅の声を聞きながらインテグラの中で瑠璃子の目が光る。
「さて、どうしたもんかな。でも、ねずみは1匹か・・・」

【本署(PD)特別室5】

「あなたは自分の意思を持ち合わさなくていい。私という主人に仕えるただの人形におなりなさい」
「・・・はい。わたし・・は・・チーフに仕える人形です」
 視線の定まらない夢遊病者のような表情で美穂がたどたどしく言葉をつなぐ。
 ふらふらと今にも倒れそうな美穂の体を、まるで恋人がいとおしく抱くように奈那が背後から支えていた。

「今まで話したことをしっかりと胸に刻みなさい。私のいかなる命令にも従うことが、美穂、あなたの幸せよ」
「はい。わたしはチーフのどんな命令にも従うチーフの人形。私の幸せはすべてチーフへの服従の中にだけあります」
「美穂、あなたもまた私のためだけに尽くしなさい」
「チーフのために・・・・尽くします」

「あなたの忠誠を試させてもらうわ」
 そう言うと祐実はデスクの引き出しからS&Wを差し出した。押収品を無許可で私物化したものだ。
「奈那、それを美穂に握らせて」
「はい」

「美穂、あなたは今自分で死にたいと思う?」
 含みのある陰湿な笑みを浮かべ、チーフ専用の背もたれの大きいチェアーを左右に回しながら祐実は言った。
「・・・いいえ」
「ふふ、そうよね。でも私はあなたにその銃をこめかみにつけて引き金を引いて欲しいのよ」
「・・・・・・」
 美穂は無表情の寝ぼけたような面持ちで祐実を見ている。
「ねえ、私に見せてくれない?あなたがその銃で引き金を引くトコロ。引き金を引けばあなたは幸せになれる」
「引き金を引けば・・・・わたしは・・・幸せになれる」
 気だるげな言葉で美穂は祐実の言葉を機械的に復唱した。薬物の影響で口元から垂れている涎を拭うこともなく。
「そうよぉ。私の命令に従うあなたはいつだって私のために動くことで幸せになれる。フフフ、さぁ見せて」
 祐実のその言葉が終わらぬうちに美穂はS&Wをこめかみにあてて迷うことなく引き金を引いた。

 乾いた音と共に銃を握ったままの美穂は満足げな表情を浮かべている。
「ふふふ、どお?私の命令に従えば、あなたのココロは常に満ち足りた気持ちになるわ」
「・・・・・はい」
 立ち上がった祐実が美穂の右手から銃をゆっくりと引き剥がした。
「元より実弾なんか入れちゃいない。あなたに投与した薬効をためさせてもらったの。満足よ」

「奈那、これをあなたに預けるわ」
 そう言うと祐実は洗脳薬LD(レディードール)の効果定着作用を引き出す『固定剤』を奈那に手渡した。
「今日は下がってよし。奈那は美穂を人目のつかぬところへ移動させてこの固定剤を飲ませなさい」
「はい」
「もうあまり時間がない。近いうちにチーム全員にクスリを使うわ。みんな私の兵隊になってもらう。奈々、あなたには一芝居うってもらおうかしら」
「はい。祐実さまのご命令どおりに」
「下がってよし」
 ふらふらと安定性のない美穂を支えるように奈那はチーフ室を出て行った。

「ひとりずつ堕としていくのは確実だけどもう時間もない。一気にあのコたちを取り込む、明日にでも」
 今は部下であり、かつての先輩だった美穂を堕とした満足感に浸り、新たな計画に思いをめぐらせていた。捜査とは別の部下達の洗脳計画を。

 ロッカールームへ向かうスタッフ専用のエレベータに美穂を支えながら奈那は入った。
「チーム6ロッカールーム」
 奈那の声紋に反応してエレベータが自動的に扉を閉め地下2階の更衣室へ向かう。
 この建物には声紋判定でチェックを受け許されたものしか出入りのできないフロアがある。

 いたわるように美穂の体を支える奈那の手を美穂は思い切り跳ね除けた。
「いつまでまだるっこしいマネしてるの!放してよ」
「すみません、美穂・・・お姉さま」
 先ほどとはうって変わって美穂の態度ははっきりとしていて、奈那に鋭い目線を向ける。

「バカなヤツ。瑠璃子お姉さまの言ったとおりだったわ。あなたはあのバカオンナにクスリで操られていたのよ、どんな気分」
「奈那は今日、瑠璃子お姉さまのおかげで目が覚めました。わたしは、あの女を許さない!」
 そう言って奈那はコーヒーポットの脇に置かれていた洗脳導入剤のLD(レディードール)とさっき祐実の手から渡された洗脳固定剤のLD(レディードール)を美穂に差し出した。
 祐実の呪縛を解放して奈那を掌中に収めた瑠璃子は奈那の記憶から他の隊員にも薬物洗脳を企んでいることを察知した。
 奈那にはそれを手助けさせる、そう読んで美穂を次のターゲットにすると思った。
 瑠璃子はもしそうなったっときに奈那と美穂に薬物投与され祐実の奴隷となる展開を2人に演技するよう命じた。
 もちろん、薬物を服用させずに回収する命令も二人に課していた。

「このクスリ、瑠璃子お姉さまに渡すのよ。奈那さん、あなたのお手柄よ。よく覚えていることを瑠璃子お姉さまに全部話したわね。きっとご褒美を下さるわ」
 美穂の言葉に奈那は目を潤ませて不安げな表情からも嬉々とした色を浮かべていた。
 かつてはチームの先輩として美穂に時には厳しい言葉も投げていた奈那が、瑠璃子に堕とされてからは逆に美穂を姉のように思う気持ちが刷り込まれていた。
「ウフフフ、奈那さん、目が潤んでいるのは不安からだけじゃなさそうね。ご褒美が待ちきれない?」
「あぁぁぁ、美穂お姉さま、イヤ、イヤよ、奈那って呼んで。キスして、奈那を、奈那をいじって、可愛がって。奈那、奈那、我慢できなぁい」
 そう言って奈那は美穂にすがるようにしてしっかりと抱きついてきた。
「かわいいよ、奈那」
 美穂はすぐに激しく唇を交わすと舌を絡めて奈那のふくよかな胸に隊服の上から右手を押し当てた。
「早く着替えて瑠璃子お姉さまに報告するの。きっと喜んでくださるわ」
「はい・・・美穂おねえさまぁ」
「そして、奈那を薬物で堕としめたあの女に復讐するの」
「はい」
 奈那の表情は憎悪を含んだ険悪な鋭い光を含んでいた。

< To Be Continued. >

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