BLACK DESIRE #24-5

7.

 星漣女学園第2学生寮「さざなみ寮」は、第1学生寮である正星館(しょうせいかん)に比べれば普通の建築物である。通りがかった人にどこかの国の大使館に間違われることも無いし、地元民に市役所よりも敷地が広く立派だからってランドマークとして使われる事も無い。周囲の町並みも幹線道路から一本奥の通りに面している為、極々普通の商店や住宅街が並んでいる。最も、都市部に存在しているにも関わらず贅沢な敷地を内包している事には変わりないため、住所は番地を持たず、○○丁目がそのまま全域「さざなみ寮」エリアとなっているのだが。

 とにもかくにも、夕暮れ時を過ぎて夜の気配の近付く中その「さざなみ寮」の玄関を、僕は早坂に伴われて久々に(ただし、達巳郁太としては初めて)くぐったのだった。
 予め連絡が行っていたのか入った途端に黄組メンバーに歓迎される。早速寮の食堂に向かい全員の自己紹介を済ませた。もちろん、名前は全員知ってはいたし、試合での活躍は見てたんだけど、改めて星漣の制服に身を包んで笑っているみんなと話してみると、全員明るくて健康そうでチャーミングな娘ばっかりだ。こんな可愛い娘達があれだけの激闘を制したんだよなぁ。ホント、良く頑張った。

 さて、お菓子やケーキを囲んでの軽い歓談の後に、特別にプレゼントとして本当は明日渡す筈だった競技優勝の印、イエローリボンをみんなに配る。これはいつもの通り魔力付与した特別製だ。全員にそれが行き渡ってその効果が彼女らの身体に影響を与えた頃を見計らい、いよいよ早坂を起点としたドミネーションを発動させた。

「みんな、泥だらけになっての激闘お疲れさま。せっかくの『祝勝会』だし、続きはお風呂で汗を流しながらやるってのはどう?」

 全員がその奇抜な提案に賛成してくれた。かくして、黄組祝勝会は寮の大浴場にジュースやお菓子類を持ち込んでの2次会になだれ込んだのだった。

 さざなみ寮のお風呂は最大20人が一緒に入れるくらいの大浴場で、脱衣所も同等のキャパシティを持っている。だから、ソフトボールメンバーくらいなら同時に全員が入っても問題無い。昔から使っていたニス塗り木製の棚に置かれたカゴに衣類や下着を脱ぎ捨て、髪も解いた年頃の女の子達が続々とスリガラスの扉を開けて中へと入っていく。僕も当然、何食わぬ顔でそれに続いた。

 タイル張りの浴場内には女の子達のはしゃぎ声がきゃいきゃいと反響している。見渡せば、湯気に揺らめく女の子のハダカ、ハダカ、ハダカ……。僕が一緒に入っているのに、まるで同性だけしかいないかの様に殊更に恥ずかしがる様子は無い。
 いや、恥ずかしさは有るんだろうけど、脱衣所に移動する前に「『祝勝会』で身体の隅々を見せ合って健闘を称え合うのは当然の事」だって教えておいたからかもね。僕にじっと見られたって、「良く頑張ったね」の一言で恥ずかしさは褒められた嬉しさに上書きされてしまうんだ。
 しばらく湯船に浸かりながら身体や髪を洗ったり気持ち良さそうにシャワーを浴びてる娘達を眺めていると、湯気の向こうから金色の髪の娘が近寄ってきた。

「ねえ、達巳くん。そろそろみんなにもあなたの精子を振る舞ってあげて欲しいんだけど」

 ちゃぷちゃぷとお湯をかき分けて近付いてきたのは早坂だ。今の彼女はトレードマークのツインテールを解いてロングストレートになっている。この姿だと、ほんとどこぞのお姫様みたいに見えるな。僕はその申し出にニヤリと笑いを返す。

「みんなに? 本当は君が飲みたいだけなんじゃないの?」
「……それも有るけど」

 少し赤くなって早坂は素直に認めた。濡れた手で髪をかきあげ、可愛らしく首を傾げてみせる。

「駄目?」
「駄目じゃないよ。ただ、今日はもう3回目じゃない? 新しい刺激というか、ご奉仕が必要かな」
「わかったわ。何をすればいい?」

 早坂は頷くと膝と腰を曲げて僕に顔を寄せた。前屈みになった胸の先っちょから雫が湯船の中にぽたぽたと帰っていく。湯気に当てられてその身体は上気し、唇は浴場の黄色っぽい灯りに照らされてちょっと赤みが増している。ちょっと色合いと湿度が変わっているだけなのに、早坂から漂うこの色気はいったい何事だ。こんなに可愛くエッチな身体つきの娘が僕に従順に尽くしてくれるなんて、ここは何というパラダイスなのだろう。僕はニヤニヤ笑いを止められず、そのまま笑いを含んだ口調で少女に要求する。

「じゃあ、後ろ向いて、ちょっと身体を前に倒してみて」
「こう?」
「そうそう、そのままの格好でお尻を自分で広げて」
「……」

 早坂は僕が何を見たいのか悟った様だった。だが、耳まで赤くなりながら、文句も言わずに大人しく反転して背中向きになる。座ったままの僕の鼻先で腰を曲げ、両手を回してお尻のお肉を左右に引っ張ってみせてくれた。ちょうど僕の目の高さに少女の後ろからの股間の光景が突き出される。

「おおっ!」

 思わず歓声が漏れる。それくらい、それは素晴らしい光景だった。
 もともと色素の薄い少女だからか、早坂のお尻の穴は唇の様につやっとしたピンク色だった。皺も少なく、小ぶりで茂みの薄い性器の様子と併せて幼さすら感じられる。そこはお湯の雫に濡れ、瑞々しさすら感じさせる佇まいを見せていた。こんな可愛らしい穴から早坂が排泄行為をするのかと思うと、何だかもの凄いイケナイ想像のような気がして背徳感がヤバい。
 僕達の様子は近くにいた娘達にも当然見られていた。同年代の男子に自らお尻を広げて肛門を見せつけるキャプテンの姿に、信じられないといった驚きと1人だけ注目してもらって羨ましいといった羨望が半々の表情を浮かべている。そんなみんなの視線は早坂も感じているようで、少し居心地が悪そうにお尻をもじもじと動かした。

「ね、ねえ……みんな見てるわ」
「ああ、そうだね。みんな見てるよ、早坂の可愛い肛門」
「~~っ!」

 しゅう、と湯気が上がりそうな顔で早坂は俯いた。ふふ、と自然に笑いが漏れ、僕はふっとそこに息を吹きかけた。

「きゃぁっ!?」
「感度も上々。触っても良い?」
「お、怒るわよ!?」
「怒ってもいいよ。で、良いの?」
「……い、痛くしないなら」

 許可が出たので、僕は手を伸ばして早坂のお尻に触れた。しっとりと濡れたすべすべの丸みを楽しんだ後、両手の親指を伸ばして穴の縁に置く。そのままぐいっと力を入れてそこを引き延ばした。

「あっ……」

 早坂の驚いたような喘ぎ声。魔法のアイテムの力で彼女の括約筋は最大限まで解れ、あっさりと肛門は口を開いた。ぽっかり空いた空間に片目を近付けて覗き込む。

「早坂のお尻の中、綺麗な色だね。健康そう」
「言わないで良いから……!」
「ふむ……柔軟性も確かめないとね」
「……っ!」

 手を離し、僕は無造作に右手の人差し指と中指をお尻の穴の中に突っ込んだ。お湯に濡れていた事もあって簡単に第2間接まで潜り込む。そのままぐにぐにと指を開いたり閉じたり、手首を回して穴の中をこねたりして拡張していく。たまらず早坂が浴槽の縁に手を付き、唇からは押し殺した喘ぎ声が漏れ出した。

「ひっ……あぅぅ……あはぁっ……うぅんっ……ひぅ……!」

 少女の太腿が与えられる刺激に細かく震えている。その股間越しに、身体を洗っていた娘達もその手を止めてじっと息を潜めてこちらを見つめているのが見えた。ふと視線を外して周りを見れば、湯船の中にいるみんなも早坂の柔軟なお尻に視線が吸い寄せられている。みんな一様に頬を赤らめ、熱の篭もった眼差しで、そして膝をもじもじと擦り合わせていた。
 僕はニコリと微笑むと、早坂の内部を少女達に最大披露するべく両手の指先をずぷりとそこに埋め込んだ。「ひぅっ」と小さく声が漏れたが、それに構わずそこをぐにぃと外向きに押し開き、直腸を裏返らせるようにしてピンク色の充血した粘膜を外気に晒してやる。余りにもあからさまに晒された早坂の内面の姿に何人かが「わぁ」と溜息のように声を漏らした。

「あ……み、見えちゃう……」
「見せてるんだよ」
「やぁん! そんなとこみんなに見せないでよ、馬鹿!」
「キャプテンなんだから見本にならないと。まあこれくらい広がるなら大丈夫そうだね」

 普通の少女なら絶対に他人に見せたくは無い場所を晒され、羞恥に顔を赤くしながらはぁはぁと息を荒げている早坂。縁のタイルに手を付いたまま、眉を寄せて不安そうな目で僕に視線を向けた。

「……やっぱり、するの?」
「何を?」
「ここまでしてとぼけないでよ。紫鶴さまみたいに、お尻でしたいんじゃないの?」

 答えずに僕は早坂のお尻の穴を広げていた指を抜き取った。ぱっくりと奥底まで見えるほど大きく開いていたそこは、支えが無くなってきゅっと急速に元のサイズに窄まっていく。それを興味深く眺めながら聞いてみる。

「そんな気がしてたの?」
「紫鶴さまも言ってたし……手も口もやったから、後は……そうなのかなって」
「もしかして、その為に僕を祝勝会に呼んでくれた?」

 恥ずかしそうな顔で早坂は小さく頷いた。

「じゃあ、させてくれるんだ?」
「……他の娘みたいに上手くできるかわからないわよ? 練習、したこと無いし」

 ちょっとだけ不安そうに眉を寄せ、指を噛む早坂。僕はそんな少女に出来るだけ優しそうに笑い顔を向ける。

「大丈夫。僕たち、たぶん相性は悪くないよ」
「そうね……私もそんな気がするわ」

 そう言うと、早坂は片手をお尻に置き直し、くいっと引っ張って自分の排泄穴を僕に良く見えるように剥き出しにした。

「いいわ。達巳くんの好きなようにして」
「……みんなが見てるけど、いいの?」

 その質問に早坂はちらりと周囲に視線を走らせたが、「はあ」と諦めたように溜息をついた。

「2人きりでって言ったら、聞いてくれる?」
「キャプテン早坂にはお尻でご奉仕する見本になって貰わないと」
「そうでしょうね。そう言うと思ってたわ」

 虚勢なのか吹っ切れたのか、少女は勝ち気に笑顔を浮かべると僕に挑むような視線を送ってくる。

「せいぜい、気が散らないくらいに夢中にさせてみてよね」
「……ご期待に添えるよう、努力させて貰うよ」
「そうしてちょうだい」

 僕は立ち上がって片手で早坂の腰をしっかり掴み、反対の手をモノに添えて先端部を窄まりの中心部にあてがった。くちゅ……とそれこそ早坂の唇に触れたときのような柔らかい感触がそこから伝わってくる。つうーっと汗だかお湯の雫だかわからない粒が白いなだらかな背中を伝わるのを見ながら、周りのみんなからの視線の圧力に押されるようにゆっくりと腰を突き出した。良くほぐれて熱された少女の内部にモノが埋没していく。

「あ……はぁー……あぁ……」

 溜息のように早坂が喘ぎを漏らす。その呼吸に合わせ肛門の締め付けが周期的に緩まり、僕はその中へゆるゆると押し進んでいった。やがて、僕の腰と少女のお尻がひたっと接触して行き当たり、遂に2人は完全に繋がった。周りから声にならない感動の溜息が次々と漏れる。

「入ったの……?」
「うん、全部入った」
「そう……んん……はぁん……」

 ぶるぶるっと馬のように早坂が胴震いした。お尻に当てていた手を離し、両手で縁にしがみつく。背筋を伸ばし、首筋から汗を垂らしながら身体を動かそうとしたが、そこで力つきたようにカクンと肘が折れてお尻が押しつけられ、僕に体重を預けてきた。

「ダメ……やっぱり、動けない。紫鶴さま、みたいには……できないわ……ごめん、ね……」

 ひくひくと喉を震わせ、息も切れ切れに呟くように僕に謝罪する早坂。僕はその心意気だけで胸の中が一杯になって思わず手を伸ばして後ろから少女の頬を撫でた。

「大丈夫、すごく気持ち良いよ。そのまま、落ち着くまでじっとしてて」
「うん……」

 実際、熱い少女の直腸の壁は吸い付く様に僕のモノにピッタリと張り付いていたが、そこはまるで僕のモノ専用に型取られたかの様に心地良い感触を与えてくれていた。それは例えば宮子の様な暴力的なまでの快感でも無く、紫鶴の様な愛情との境の無い陶酔感でも無く、ハルの様に高熱の燃え尽くされる様な快楽でも無く、そして春原の時の様なひたすらに女の子を感じさせる支配感でも無かった。ただただ、心地良かった。定められた鞘に戻ってきた、そう思えるくらい、僕のペニスと心は早坂に包まれて安心感を感じていたのだった。
 それは、驚くべき事だ。女の子と繋がっているのに、射精する事よりも何よりもずっと一つになっていたいという欲求の方が強かったからだ。知らず知らず、背後から早坂の身体を抱きしめていた。肌と肌をぴったりとくっつけ合い、もっと沢山繋がっていたかった。

「達巳くん……?」

 潤んだ目で早坂が身体を捻って僕の目を覗いていた。それ以上何も言われなくとも彼女が求めているものがわかったので、黙って顔を寄せ、唇を重ねる。半分開いた唇の中に舌先を入れると、早坂はそれがまるで当たり前の事の様に自分の舌を絡めて受け入れた。

「……はぁっ!」

 息が続かなくなって唇が離れ、早坂が大きく息を付く。その途端かくんと少女の膝から力が抜けて僕の方へ倒れかかってきた。ばしゃんと盛大な水しぶきを立てながら2人で湯船に倒れ込む。
 僕と早坂はお尻で繋がったまま、ちょうど尻餅をついた僕の上にお尻を乗せるように倒れ込んだ。深く刺さっていた僕のモノが、倒れた衝撃で最後の1ミリまで容赦なくズンと少女の尻の奥を抉る。

「ぁああぁっ!?」

 早坂が感極まったような声を上げ、背中をエビ反りに仰け反らせた。激しい動きにぷるんと弾けたおっぱいの先から雫が飛び散る。ぎゅぎゅっとお尻が締まり、急激な圧力に決壊が迫る。腰をしたたかに打った痛みがなければ堪えきれずに白濁を放出していたに違いない。

「だ、だいじょうぶ……?」

 痛みを堪えながら僕の上に乗った早坂に聞いてみる。だが、少女の口元からはひゅうひゅうと掠れたような荒い呼吸音が聞こえてくるだけ。心配になって僕は彼女の腰を持って揺すってみた。その瞬間、僕のモノにかつて味わった強烈な2重の快感が電撃のように走る。

「「あぁあああっ!?」」

 今度の喘ぎは僕と早坂の口から同時に発せられた。こ、この感触って宮子の……何で!?

「さ、さっきより、もっと奥まで入ってる……何なの、これ!?」

 混乱気味に早坂が喘ぐ。も、もしかして先ほど倒れた衝撃で、偶然にもモノが宮子のやったテクニックと同じ様に肛門の奥の狭いところまで入っちゃったのか!? それなら、2人が感じている快感の大きさにも納得だ。

「だ、だめ……!」
「あ、ちょ、まっ!」

 何が駄目なのかわからないが、僕から身体を離そうと早坂が脚に力を入れた瞬間、ペニスの先端部と根本に2重に吸い出されるような強烈な快感が走った。恐ろしい勢いで熱された白濁液が出口を求めて殺到する。快感に思わず身じろぎし、その動作で先端部が少女の奥の壁をぬるりと滑った。「ひうっ!」と悲鳴か喘ぎかわからない声を出してまたも少女の腰が竿に沿ってずぬりと落ちる。それが両者の止めとなった。

「うっ! ぐぁあっ!!」
「あっ、あぁああ~~~っ!!」

 尿道の中を存分に加速した精液が膨大なエネルギーを維持したまま先端部から噴射され、少女の腸内で爆ぜる。その爆発が実際の衝撃となったかの様に、僕の上で早坂ががっくんがっくんと全身を痙攣させて絶頂に達した。胸が応援演舞の時を越える勢いで乱舞し、汗とお湯、そして早坂の唇からこぼれた涎が周囲にまき散らされる。仰け反った少女は無意識に掴まる場所を求め、腰を掴む僕の腕に爪を立ててぎりりと握り絞めた。

(くぅ~~っ!)

 腕も痛いが、それ以上にモノから伝わってくる快感の方がもっと凄い。早坂の内部は身体の動き以上に激しく蠕動し、僕のモノにぴったりと寸分の狂いもなく張り付いた直腸の管がまるで僕という生命を丸ごと吸い上げようかという勢いで精液を吸い込んでいる。
 その密着度はあたかもモノと彼女の肛門が1つのそういう役目の器官として最初から完成していたかのようだ。いや、もしかしたら本当に僕と早坂の身体はそういう宿命が有ったのかもしれない。そう思ってしまうくらい、恐ろしいまでの勢いで僕から早坂の内部へと精液は滔々と流れ込んでいったんだ。

「くっ……ぷはぁっ!!」

 余りの快感で忘れていた呼吸を、堪えきれなくなって貪るように再開した。その途端、ぱたりと急に早坂の全身から力が抜けてがくんと首が前に落ちる。肛門の締め付けも緩まり、出したくても出せなかった半固形の精液の固まりがどばっと尿道を潜り抜けて早坂の中にこぼれ落ちるのを感じた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」
「……」

 激しい動悸と呼吸に水面がちゃぷちゃぷと揺れている。僕に抱かれた少女の方はというと、意識を失ったかその寸前か、俯いたまま僕に完全に背中を預けていた。

「早坂、大丈夫?」
「……ん……ぅあ……?」

 口元から意味を為さない呟きが漏れ、ぴくりと首が持ち上がる。そのまま後ろに傾け、僕の肩に頭を乗せた。

「たつみくん……?」
「気が付いた?」
「……私、気失ってた……?」
「ちょっとだけね」

 ぱちぱちと天井の灯りを眩しそうに目を瞬かせる。ふいに手が伸びて僕の後頭部を掴むと、ぐいっと首を下に向かせられた。そこに早坂の唇が重なってくる。

「ん……」
「……強引だなぁ」
「だって、気持ちよかったんだもの」

 そう言って、唇を離した早坂はふふっと笑った。そして、ぽんともう一回肩に頭を乗せる。

「まだ入ってるのね、あなたのが」
「……そろそろ湯あたりしそうだし、ここから出ない?」
「そうね。私だけ達巳くんを独占する訳にもいかないしね」

 顔を上げ、悪戯っぽく僕を見つめてくる早坂。ちらりとそれこそ茹だったように真っ赤な顔で所在なさげにモジモジしているチームメイトに視線を送った。少女が身じろぎし、きゅうっとお尻が締まって新たな刺激が与えられる。

「く……」
「まだ抜いちゃ駄目よ? お湯をこれ以上汚したら怒られちゃうわ」
「簡単に言ってくれるね。下にいる方が数倍疲れるんだぞ」
「ご愁傷様。さあ、タイミングを合わせてね」
「わかったよ」

 せーので僕と早坂は繋がったまま一緒に立ち上がった。実際のところ、早坂は僕に腰を支えられていたし、上手くいったのは下敷きになっていた僕が一方的に頑張った成果だと思う。そのまま2人で歩調を合わせて浴槽の縁を越え、早坂が良しというところでようやく腰を引いてモノを抜き取った。

「んぅ~っ!」

 とろっとろに解れた早坂の肛門内の粘膜が竿の部分に張り付き、めくれ返りながら僕のモノを解放していく。カリ首を名残惜しげに締め付け、最後にはちゅるんと巻き戻るように一気に分離する。その瞬間、どぷりと白い粘液が噴火するようにこぼれてタイルの上にぼとととっと盛大に落下した。

「ああぁ……駄目、止まらない……」

 早坂が半ば諦めたような口調で呟く。2人の繋がっていた棒と穴は、浴槽のお湯よりも熱く茹だってほくほくと蒸気が上がっているように見えた。散々内部に詰め込まれた粘液を吐き出してその光景で僕の目を楽しませた後、最後の別れのようにぱくぱくとお尻の穴が収縮してからきゅうっと閉じていく。その間、耳まで真っ赤になった早坂はずっと俯いていた。

「……終わりよ。もう出ないからね」
「そう? まあ、十分見たからいいけど」
「あのねぇ……」
「あ! 本当にそろそろ他の娘の相手もしてあげないと時間が無くなっちゃうんじゃないかな?」

 僕がおどけたように言うと、早坂はじと目で睨みつけてくる。ややあって、「まだよ」と膝を付いた。

「え?」
「私のお尻に入ったのを、そのまま他の娘に触らせられないでしょ」
「いいよ、洗うから」
「だめ。私にやらせなさい」

 そう言うと、キツメの言葉使いとは裏腹に優しい手付きで竿の部分を数回扱き、先端部に口付けする。そして、上目で僕にウインクした後、あーんと口を開けて飲み込んでいったのだった。

 その後の祝勝会は正に酒池肉林の乱交状態だった。十数名のメンバーの女の子達全員に少なくとも1回はフルで口内射精して全部飲ませたし、窓辺の壁に手を付いた状態で1列に並べて順番にお尻の処女も奪ってあげた。更には「より相手の事を知って仲良くなるため」と言う名目で、全員の放尿姿まで見せて貰った。がに股気味に立って指で割れ目を開いて僕に見せつけ、床に置いた洗面器向けて笑顔で放尿する裸の女の子達……実に倒錯的でイヤらしく、魅力的な姿じゃあないか。
 若干柚組の娘達とは接触不足で早坂以外に契約の出来る娘がいなかったのがちょっと不満だけど、まあ、これからこれから。今回の出来事で例の「恥ずかし吊り橋効果」で興味を持ってくれる娘もいるだろうからね。しばらくは早坂をベースに柚組の支配体制を整えていけばいいさ。

「ねえ……達巳くん……?」

 浴槽の段差に腰掛けた僕に正面から抱きつき、脚を腰に絡めた状態で今日何度目かもわからない精液の放出を尻穴で受け止めた後、早坂が耳元で囁くように話しかけてきた。

「何?」

 片手で彼女の腰を支え、空いた手でおっぱいを揉みしだきつつ魔力回収のため母乳を飲んでいた僕は、吸い上げるのをいったん止めて胸の谷間から顔を上げた。少女の瞳と目線を合わせると、そこに浮かぶ色は奇妙に透き通っていて内面に潜む感情を悟らせてくれない。

「会長とも……安芸島さんとも、したのよね……?」
「……えっと……」

 どう答えたものかと口ごもる間に、早坂は少し悲しそうに目尻を下げた。

「やっぱりそうだったのね」
「……」
「あなたと付き合ってるの?」
「いや……」
「どうして?」

 どうして、と言われても……。僕と宮子の間に有る事情を全部説明するのは困難だし、理解して貰えるかどうか。僕が答えを探している間に早坂はまたも先に質問を重ねてきた。

「それは、あなたの事情? それとも会長?」
「安芸島さんの方、だと思う」
「そうなの? あなたが断ったんじゃないの?」
「え? なんで?」

 僕が驚いて聞き直すと、早坂はそれを上回るほどの驚愕の事実を告げた。

「だって、会長があなたの事好きなの……知っていたから」
「そ、え? い、いつから……?」
「最初から」
「最初?」
「あなたが初めて執務室に来た日に。あ、そうだったんだって納得いったの」

 ま、マジですか? それって、あの達巳裁判の申請に言った時の事だよな? あんな頃から全部わかってたっていうのか。早坂は驚く僕の顔を見つめ、ふふっと少し微笑みを浮かべた。

「本当に、付き合ってないの?」
「まあ、そう……今のところ」
「他には? 誰とも?」
「そういう事になる」
「達巳くん、フリーなんだ?」
「そうとも言えるかも」

 僕の戸惑いを余所に、早坂は安心したように目を細める。

「達巳くん……後ちょっとだけ、付き合ってくれる?」
「どこに?」
「私のお気に入りの場所。寮長だけが知ってる秘密の場所を、あなたにも教えてあげる」

 早坂のお気に入りの場所というのは、寮長である彼女の部屋、つまり2階の一番端の部屋のベランダから、梯子を上って行けるさざなみ寮の屋根上の事だった。
 水分補給はしていたとは言え2時間近く浴場で大運動会をやっていた身には、広い敷地を吹き渡る風を遮るもの無しに浴びられるこの場所は、絶好の夕涼みスペースと言い切る事ができた。屋根の形に斜めになった屋上を注意して歩き、先に上っていた早坂の側に寄っていく。少女はこの寮内での部屋着なのか、ショートパンツにTシャツのラフな格好で体育座りの格好で待っていた。ぺんぺんと屋根板を叩いて隣の位置を指定されたので、大人しくそこにしゃがんで胡座をかく。何故か早坂はすいっとお尻を動かして僕の肩にぴたりとくっついた。

 どちらからともなく話題を投げかけ、ユーモアとも皮肉ともつかない稚拙な言葉遊びで相手を和ませる。そんな他愛もないお喋りをした。笑わせようとしたりカッコ付けて見せようと頭を回転させる必要も無いくらい、自然に言葉がぽんぽんと応酬される。特に捻りの効いた台詞でも無いのに早坂はころころと良く笑い、僕も笑わされた。笑い声が収まり、ふと目線が合うと開けっぴろげなお互いの笑顔に気恥ずかしくなり、自然と2人で夜空を見上げる。澄んだ空に、宝石箱の中身を散らかしたみたいな星々が輝いていた。

「こんなに星が見えるなんて……!」

 驚いて僕が感嘆すると、早坂はいたずらっ子の様な笑みを浮かべる。

「寮の敷地が広いから、この辺りだけ街の光が届かないスポットになってるのよ」
「そうか。だから、君のお気に入りなんだね」
「うん」

 じっと星空を見上げている隣の少女を盗み見た。その金髪や長い睫毛に星が舞い降りたかのようにきらきらと輝いている。瞳の中にも星が光っているのが見え、僕はその横顔の美しさに視線を奪われ続けた。

「小さい頃、お父様に聞いたことがあるの」
「……うん」
「お母様は、どの星なの……って」

 視線を落とし、静かに語り始める早坂。僕は黙って少女の身の上話に聞き入った。

「まだその頃の私は、亡くなったお母様が星になったと信じられるくらいには純粋だったの。お母様は見えなくなったけど、いつでもお父様と私、家にいる家族を見守ってくれていると、信じてた」
「……」
「お母様は身体が弱かったの。無理をして私を産んで……体調を崩して、それからはずっと寝たっきり。たまに起きて庭を車椅子で散歩することもあったけど、私にはお母様と遊んだ記憶は無かった」

 淡々と語る早坂。でも、僕はそれを語る少女の横顔にこの世で最も尊い微笑みが浮かんでいるのを見ていた。静かに問いかける。

「……でも、愛してた?」
「とっても。家族ですもの」

 だが、言葉とは裏腹に早坂はやや視線を下げ、口調も沈み込んだ。

「お母様もそうだと思っていた。お父様と私、3人だけの家族……それが私の全てで、完成されていたと思っていた」
「……違ったの?」
「お母様が亡くなる前、私は泣きながら細くなった手首にしがみついていたわ。子供の私にも頼りないと思うくらい、お母様は痩せていた。口を動かすのもやっとで、そして、最後に息を引き取る寸前……お父様に言ったの」

 その時、僕は早坂の表情の変化に戦慄した。その輝く瞳に、急激にシェードが掛かったように色合いが暗く沈み込んでいったのだ。苦しそうに、喉のつかえを吐き戻すように、早坂がその言葉を絞り出す。

「『お世継ぎを産めないで、申し訳ありませんでした』」

 ……僕は、何も言えなかった。早坂の放った言葉が黒い泥の沼のように僕らを取り囲み、全ての動作を封じていた。

「後で聞いた話なんだけど……本当はお母様は、私の後にも赤ちゃんを授かっていたらしいの。でも、もうお母様は子供を産めるような身体じゃなくて……その子が男の子か、女の子かわからない内に流産してたのね。それで、余計に塞ぎ込んじゃって……」

 いつしか早坂の顔は太腿に押しつけられ、その言葉は膝の間から響いていた。

「私は何で生まれてきたんだろって、思ったわ。男の子だったら良かったのに。それか、弟が先で、私が後だったら良かったのに……そうしたら、お母様は亡くなる直前まで、あんな風に苦しまなくても済んだのに」

 そうか、とその話を聞きながら納得がいった。夏の前、以前さざなみ寮で早坂に聞いた身の上話。自分から進んで家を出た話。あれには、ちゃんと下地となる物語が有ったのだ。壊れてしまった家族という幻想。

 そこに愛情が無かった訳では無いだろう。成長した早坂の真っ直ぐな性格を見てもそれはわかる。だけど、その事実はどうあれ、真実だと思っていた「完璧な家族愛」に、欠けたパーツが有る事に気が付いてしまった。
 それは家と家族が世界の全てだった少女にどれだけの衝撃を与えたのだろう。少なくとも、箱入りの真正のお嬢様だった早坂に家と自分を切り離してみようと思うくらい、距離を置けるだけの空隙をそこに造ったのだ。

 そう。僕達は、似た者同士だったんだ。
 家族の欠落に苦しみ、失望した幼少期を送った者として。

 早坂はくっと顎を上げて上空を見つめた。妙に悟りきったような明るい瞳の色が、かえって痛々しい。

「私は家を継ぐ事は出来ない。だから、いずれそれなりの男性とお見合いをして、お婿さんを貰うことになるわ」
「……その人は、もう決まっているの?」
「さあ? 少なくとも、まだ私の会った事の無い人でしょうね」

 そこで早坂はいったん言葉を切り、僕の方に視線を向けて微笑んだ。

「私だけじゃない。この学園には、そんな娘が一杯いるの。星漣学園卒というステータスのためだけじゃなくて、この学生期間に下手に異性と接触させない為に星漣の寮に入れる親も多いのよ」
「そんな事言ったって、自分の気持ちまで学校や寮に押し込めておける訳無いじゃないか」
「そうね」

 少女は、星の宿った澄んだ眼差しで僕を見つめた。

「好きになってしまったら、もう……止められない」
「……うん」
「学校も家も関係無い。その人といつも、一緒に居たい……一人は、寂しいから」
「……そうだよね」

 僕が頷くと、そっと早坂の手が膝の上の僕の手に重ねられた。

「達巳くん」
「なに?」
「これは、私の勝手なお願い」

 早坂の顔が近寄ってくる。金色の髪が、僕の肩にかかった。

「もう……止まらないの。だから、卒業まででもいい……」

 近付いた早坂の唇が、僅かに震えているのが見える。

「私と……一緒に居て」

 ……奇妙に思考が乾いていた。そうか、こういう事か、とその時初めて宮子を恨めしく思った。
 宮子には、全てわかっていたのだ。だから、昼間にあんな真似をして、釘を差したのだ。僕は自分の顔付きが曇らないよう、最大限の意志力を結集して表情を固定した。そして、反対の手をゆっくりと持ち上げ、早坂の手を握ってあげた。

「……君と一緒に居るよ」

 その言葉と同時に、ぽろぽろと少女の瞳から空の宝石と同じ色合いの雫が流れ落ちる。上体が傾ぎ、僕の胸に寄りかかった。そして、そのまま瞳を閉じる。僕はせめてこれ以上自分の顔を見られないよう、星明かりを隠すように顔を被せた。指と指が絡み合う。

 キスの味は、とても……しょっぱかった。

 高原別邸の自室で、机の電気も点けずに黒い本を見つめていた。これまでの戦果を確認する様に書換の足跡を辿り、そして真新しい出来たばっかりのページに行き当たる。そこは早坂のページだった。

 統制権:52、恒常発動:有効、第1インサーションキー:「応援」、第2インサーションキー:「祝勝会」。宮子には及ばないが僕の手駒としてかなり優秀なステータスだ。2人だけでも統制権を併せて112人、何と1学年まるまる操って余り有る。生徒会執行部のこの2人を手に入れた事で、僕の学園支配もかなり完成に近付いた。

 非常に理想的な進行状況ではある。だけど、僕は早坂との契約完了を素直に諸手を上げて喜べなかった。

 宮子が今日の昼に僕に対して言った事。宮子と僕が恋人にはならないと制限をかけた事。それらは、僕にある枷をかける為に行った事だった。
 彼女にはわかっていたのだ。僕が早坂に惹かれるという事が。心情を吐露した少女に愛おしさを感じ、同じ様に欠けた家族に傷ついた者同士として、似た匂いに引き付けられるという事が。だからこそ、釘を刺した、いや、時計の針がそれ以上進まないように「楔」を打ち込んだ。宮子自身が僕との付き合いを堪えてみせる事で、僕に自制を促したのだ。

 言葉では無く、行動で、そして未来記憶の力で教えてくれた。僕が決して踏み込んではならない境界がそこに有ると。それは胸郭が潰れるような悲痛な自覚を伴ったが、それは確かに必要なことだったのだ。

 僕は、決して「失いたくない者を持ってはならない」。それは、僕自身が定めたこの学園に対するスタンスの筈だった。学園の生徒達を駒とし、使い捨て、そして条件に見合う者には世界の生け贄となって那由美の生命への供物となってもらう。そのためには、誰かを愛してはならないのだ。

 溜息をつき、窓から空を見上げた。そこには、さざなみ寮で見た時とほぼ変わらない宝石の様な星空が瞬いている。そこに僕は輝く少女の瞳を思い出した。今頃、彼女は今日の出来事を噛みしめて幸福な想いを反芻しているのだろうか。それとも、孤独を感じない夜に抱かれて幸せな夢を見ているのだろうか。再度、僕は大きく溜息を吐いた。そして息を止め、傍らの本に静かに呼びかける。

「……早坂英悧へ行った書き込み内容を……全て消去する」

 少女に書き込まれた2つのキーと共に、今日の宝石のような2人の記憶は、今、消え去った。

 僕自身の意志によって。

8.

 翌日は朝から小雨がパラつくぐずついた天気だった。元々この日は球技の部の予備日として確保されていたから、結果オーライと言えるだろう。後は、この雨が今日の内に止んで明日に残らないことを祈るだけだ。

 最終日の準備も当日の朝にやる分を残して完了しているし、僕が今やるべき事も特にない。そういう状況だったので、珍しく僕は平穏に朝のホームルームと授業を受けることが出来た。
 だが、心まで平静だったかというとそんな訳も無かった。昨日の事が頭に有ったため、2つ隣のクラスルームの様子が気になってどうにも集中できない。2時間目が終わったところでとうとう心配事を頭の片隅に置いたまま授業を受けるという器用な真似は僕には無理だと見切りを付け、休み時間を利用して様子を見に行く事にしたのだった。

 ぶらぶらと何気ない素振りで廊下を東に向かって進み、並んだ3年生の教室の3つ目のクラスのドアからひょいと中を覗き込む。そこは果たして、昨日までの柊組と同じく優勝リボンのみを身に付けた裸の少女達が思い思いに休み時間を過ごしていたのだった。自然、本来の目的ではなかったのに口元が緩む。

「あら、珍しい。どういう風の吹き回し?」

 後方から良く聞き慣れたちょっとクセのある喋り方の声が投げかけられる。ぎくりとして慌てて振り返った。

 そこには、他のクラスメイトと同じく制服も下着も身に付けていない、金髪ツインテールの早坂英悧がいつも通りの片手を腰に当てたポーズで立っていた。他の娘との違いは、手首に結ばれているのがリボンではなくMVPの証であるミサンガである事ぐらいだろうか。

 早坂はちょうど移動教室から帰ってきたところのようで、片手にノートや教科書を入れたクリアケースを提げていた。その口元には挑戦的な勝ち気の微笑が浮かび、いつもの様子と全く変わりが無い。少女は戸惑う僕をしげしげと面白そうに観察し続けた。

「何? 柚組の娘達を見に来たの? それなら早く入ればいいのに」
「あ、いや……そうじゃないんだけど」
「ああ、哉潟さん達? 残念ね、今日は休みよ。2人とも」

 勝手に話を進め、勝手に納得する早坂。昨日の夜の神妙な気配は露とも感じられない。やっぱり、そうなのかとわかっていた筈なのに胸の辺りが重くなる。

「病気かな?」
「詳しくは知らないわ。最近余り話してなかったし」
「そっか……」

 いつも通りの早坂の声。いつも通りの早坂の表情。じっと見つめても、そこに昨日涙をこぼしながら僕に寄りかかっていた少女の残滓は残っていない。余りに長く見つめていたため、少女は不審そうに眉を寄せて首を傾げた。

「どうかした? 顔に何か付いてる?」
「いや、そうじゃないよ」
「じゃあ何よ? 言いたい事でも有るの?」

 その時、不意に僕は2人の間を繋ぐものがまだ何か残っているのではないかと馬鹿な考えに囚われた。親密に過ごした昨日の半日が記憶には残らなくても、両者の間に何か絆のようなものを残したのではないかと思い立ち、それをどうしても確認したくなった。焦り、もつれかけた舌で咄嗟に言葉を口にする。

「も、貰ったお守り! 今も持ってるんだ」

 言葉を放ち、そしてそれが少女の感情の何かを呼び覚ます事を期待する。そこに何か、恥ずかしさや、喜びや、または怒りでもいい。何か、2人を繋いだ痕跡が彼女の心を揺さぶり、波紋となって表情に僅かでも浮かぶ事を求めて注意深く観察する。
 だけど、そこに浮かんだのは。

「……え?」

 だだの疑問。何の事かわからないといった困惑の表情。そこに引っかかる物は、何も無い。僕の足下から、すうっと冷たい泥が這い上がってきて全身を永久凍土のように冷たく重く固めていった。

「……いや、哉潟さんに預かったお守りを持ってきたって言いたかったんだ。返そうと思って」
「何だ、やっぱり2人に用事があったのね。でも、さっきも言ったけど……」
「うん、また今度にする」

 僕はそれだけ言って早坂に別れを告げ、教室に戻ろうとした。これ以上、僕1人が2人の時間を覚えているのが無性に寂しかったからだ。僕と早坂の間に出来た断絶が、もう取り返しが付かないものだって認めてしまった。……だが、立ち去ろうと背中を向けた僕に、少女は声をかけて立ち止まらせた。

「あ、待って! 達巳くん」
「え?」
「そのお守り、返さない方が良いと思うわ」

 ゆっくりと振り返り、早坂の顔を見つめる。少女は微笑みながら「差し出がましい事を言うようだけど」と断りを入れて言葉を続けた。

「お守りってね、それだけで効果の有るものじゃないの。相手の無事を祈る人が居て、その人が自分の事を案じているって覚えている人が居て……そういった記憶や、心の遣り取りが注意を促して、危ない事から身を守ってくれるのよ」
「……うん」
「そのお守り、きっと達巳くんの事を想って一杯お願いが篭められていると思う。だから、それを返すって事はつまり、そうやって自分の無事を祈っている気持ちまで返して忘れてしまうって事なのよ。だからね? 例え用が済んでも、できるだけあなたが持ち続けた方がいいと思うわ」
「……そう、なんだ」

 僕の素直な態度に早坂は満足したようだ。「引き留めて御免ね」と小さく謝る彼女に「いいよ」と首を振る。

「ありがとう。言われた様にするよ」
「そうしてね。たぶん、贈った娘もきっと喜ぶわ」
「……そうだね」

 僕はもう一度早坂にお礼を言った。そして、小さく「またね」と手を振る彼女に、少しだけ手を振り返す事ができたのだった。

 降り続いた雨は、下校時刻が近付くに従って土砂降りの様相を呈し始めた。「これから仕事? お疲れさま~」と特に気の毒がっている様子の見えないハルやイインチョ達を恨めしげに見送り、僕はギリギリの時間になって急遽発生した事案に対する修正に書類を大急ぎでまとめるハメになった。

 ようやく下校の鐘が鳴る頃になって正面玄関まで辿り付き、庇の陰から黒雲で覆い尽くされた天空の様相を仰ぎ見る。全く、これっぽっちも雨が弱まる気配は見られなかった。
 溜息としょうもない悪態を一緒に吐き、親父臭い飾り気の無い傘を広げて水溜まりと道の比率が逆転した通学路にぼちょんと靴を下ろす。これは、1分も歩けば膝まで水に浸かったようにぐっしょり濡れるに違いない。僕は何度繰り返したって何の改善にもならない事がわかっていながら、再度溜息を吐かずにはいられなかった。

 案の定膝どころかパンツにまで染みてきそうなところまでズボンはびっちょり濡れ、おまけに風のせいで横殴りの雨に吹き付けられた肩から先やガードに使った空の鞄も盛大に水浸しにし、ようやく高原別邸の門まで続く直線道路に辿り付く。やれやれ、ここまで来ればもう少しだ。
 正面から来る雨風に対抗するため両手で構えた傘を前のめりに倒し、ぐいぐいと空気を押し分けながら前進する。前がほとんど見えないが、この通りは驚くほど車通りが少ないので危険は殆ど無い。風の強弱に合わせてジャッ、ジャッと叩きつける雨粒の音だけを聞きながら、僕は一目散に暖かい別邸の居間と、きっとタオルを持って待ちかまえている幎(とばり)を求めてよろよろと進んでいく。

 そんな風に一心不乱だったから、気付くのが遅れたのだった。高原の別邸の門の正面にある電柱の脇に、人影が存在する事に。

 そいつはこの雨の中レインコートを着て、特に雨宿りする風もなくただ水滴に打ち付けられながら立っていた。真っ黒いフードを頭まで被り、その先っぽと裾から滝のように雨水が流れ落ちている。両手はポケットに突っ込まれ、他に何か荷物を持っている様子も無い。
 最初は、その姿の相似からあの「夕陽の男」かと思った。しかし、すぐに間違いに気が付く。その姿はもっと小柄だったからだ。女性か、もしかしたら女の子かもしれない。僅かにレインコートの裾から覗く靴は、良くは見えなかったが男性用と思えない小さい物に感じられた。

 誰だろう、と足を止めてそいつをじっと観察する。この家……つまり、僕に何か用だろうか?
 そいつも僕が止まったことには気が付いていた。フードの奥の良く見えない瞳でこちらをじっと見つめ、急にポケットから片手を抜くと、顎の辺りに手をやり、イヤホンを――その時、初めてそいつが耳にイヤホンを付けて音楽か何かを聞き続けていた事に気が付いた――耳から外す。そして、にっと口元に笑いを浮かべた。

「――待ってたよ」

< 続く >

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