魔女見習いは年相応!? 第3話-5

第3話-5

 その日は今までの誕生日の中で、一番肌寒い日だった。
 直ちゃん達と遊んでいたら夕方になって、私は家に戻ってきた。だけど私は自分の家を通り過ぎて、隣の家の門をくぐっていた。

 今日はお父さんもお母さんも遅い。それなら、ってことで、帆香さんに夕飯をご馳走になることになっていた。それはこれまでも結構あったことで、だけど、その日はこれまでとは違った。

「おじゃまします」
 ただいまでいいのに、と何回言われたか分からないけど、ここはあくまで私の家じゃないので、そこだけはきっちり守っていた。靴を脱いで帆香さんに一声かけ、私は階段を上る。

 扉の前に立って、深呼吸する。大丈夫、と自分に言い聞かせる。そしてノブに手をかけて、ドアをゆっくりと開けた。

 そこに広がっていたのは、私の知っている部屋とは、似ても似つかない空間だった。

 きれいなフローリング。置かれているのは学習机と椅子、そして、ベッドだけ。
 部屋の主――お兄ちゃんは、ちょうど一週間前に、この部屋を去っていた。ちょっと遠い高校に受かって、一人暮らしをするために。
 もちろん知っていた。だって私も、荷造りを手伝った。お見送りだってした。それ以来、私はこの部屋に来ていなかった。

 私は学習机の隣にある丸椅子に手をかけた。少し勢いを付けて足をかけ、なんとか座る。座るのをいつも助けてくれた人は、もうここにはいない。
 そこには何もなかった。教科書も参考書もノートも、お兄ちゃんが息抜きに読んでいた漫画もラノベも、一冊も残っていなかった。

 私は滑り落ちるように椅子を降りた。ふと、太陽光が目に入る。カーテンのなくなった窓から、綺麗な夕日が差し込んでいた。今になって、晴れてきたらしい。

 夕日で光る木目の床をなんとなく眺めていると、その先にあるものが見えて、私はまるで誘われるように、そこに近づいた。
 ベッドには布団は置かれていなかった。布団を乗せる木の枠だけがそこに残されていた。
 私はベッドの前に、座り込む。僅かな痕跡を探すように顔を近づけて、目を凝らし、匂いを嗅ぐ。
 乾いたワックスの匂い。あれほどまでに慣れ親しんだお兄ちゃんの匂いがすっかり失われた、無機質な物体。

 もう、限界だった。

「ぅぇぇぇぇぇ……」
 ぼろぼろとこぼれる涙を止めることなんかできなかった。

 毎日会っていたお兄ちゃん。
 私の面倒を見てくれたお兄ちゃん。
 私の手を引いてくれたお兄ちゃん。
 私の頭をなでてくれたお兄ちゃん。
 私が背中を追いかけていたお兄ちゃん。

 お兄ちゃんの前では泣けなかった。
 だって泣いたら、私がお兄ちゃんを好きだって、バレちゃうから。
 だから、必死で我慢した。

 だけど、ここには、もうお兄ちゃんはいない。その悪夢のような現実を目の当たりにして、私はやっと、我慢するのを辞めることができた。

「おにいちゃん……おに゛い゛ぢゃん……っ!!!」
 がん、がんっ。
 時に噛み締めるように。時に叫ぶように。私はあふれ出る思いをベッドの木枠にぶつけ続ける。
「なんで……」
 なんで、行っちゃうの。
 なんで、行っちゃったの。

 お兄ちゃんに言えなかった言葉は、やっぱり言葉にならなくて。

 私は泣いた。
 私は泣き続けた。

 部屋が真っ暗になり、呼んでも降りてこないことを不思議がった帆香さんが部屋に入って来た後も、私の慟哭は続いた。

 それがきっと、私の初恋の終わり。
 そして、手の届かないところにいるお兄ちゃんを想い続ける、私の新しい恋の始まりだった。

 きっと私は、悪い夢を見ていたのだと思う。

 私は屋根のある小屋のベンチに座って、さっきからずっと海をぼうっと眺めていたはずだったのだけど、少しうとうとしてしまっていたらしい。気づいたらじっとりとした汗をかいていたし、嫌な気分が残っている。夢の内容はもう頭に残ってないけど、こんな状況でいい夢を見られるわけはなかった。

 お日様は今日もカンカン照りで、静かな海岸をギラギラに照らしている。ここからでも海の底が見えて、とても美しい。

 ここは宿の近くにある、静かな砂浜の海岸。大きい方の海岸と違って、こっちは穏やかで、あんまり人が来ないから、ここに逃げてきた。
 思い出したようにスマホを見て、時間を潰す。でもすぐつまらなくなって、また海を見る。退屈で、まだ眠くて、あくびが出た。

 昨日のあのときから、お兄ちゃんとは顔を合わせていない。通知をオフにして、アプリも開かないようにしている。

 昨日の夜は、お姉さんの部屋にお邪魔させてもらった。お兄ちゃんとのことをちょっと説明したらすぐに分かってくれて、嫌な顔もしないで受け入れてくれたのは嬉しかった。お姉さんの方も私が来て嬉しかったのか、夜、お酒を飲みながらたくさんお話してくれた。

 お姉さんが昔付き合っていた人の話とか。
 昔のお母さんの様子とか。
 お母さんのお母さんと、お姉さんのお母さんとの仲がすごく悪かった話とか(お母さんとお姉さんは姉妹だけど、お父さんが同じなだけで、二人のお母さんは別の人だ)。
 お姉さんがここに来た頃の島の様子とか。
 百果さんが子供の頃、百果さんのおじいさんから世話を頼まれたことがあるっていう話とか。
 島に飛行場を造るかどうか、ずっと揉めてるっていう話とか。
 建設会社の男の人は、お姉さんの「食事相手」としては向いてるっていう話とか。
 男の人の求愛をかわし損なって苦労した話とか。
 男の人の考えることはよく分からないっていう愚痴とか。

 そんな話をしてたら、いつの間にか日付が変わっていた。
 だから今、すごく眠い。

「ふわぁ……」
 ひときわ大きなあくびが出て、私はペットボトルの蓋を開けて中身を口に入れた。完全に温くなってしまったお茶が、私の喉をぬるぬると滑っていく。

 そろそろ戻ろっかな。
 でも、お兄ちゃんがいるかもしれないし。
 そういえば宿題もしなきゃだけど、今の体調じゃ無理だし。
 いっそのこと、泳ごっかな。
 でも、シュノーケリングの道具忘れちゃったしなあ……。
 でも、暑いし……。

 今日は風がない。私は風を送るため、パステルイエローでラフなTシャツの胸元をぱたぱたと仰ぐ。
 そして私の手に、シャツと水着越しに胸が当たった。

 思わず手を止めて、私はシャツの中をのぞき込む。

 そこには、数ヶ月前の私にはなかった、胸の谷間があった。ピンク色の水着ブラが、私の胸を飾っている。今着けている水着は、昨日のじゃなくて、私が持ってきた方だ。かなりきつくなっていたブラは、昨日の夜、水着も下着もお姉さんに寸法を直してもらって、今はぴったりになっている。お姉さんが言うには、服のサイズを変えるのはお姉さんの力で簡単にできるらしい。そういえば昔、私の着てた洋服がいつの間にかちょっと大きくなってたことがあった。もしかしたら、お母さんもそういうことができるのかもしれない。

 はぁ。

 私はシャツの上から胸を押さえて、溜息をつく。

 欲しかったはずの、胸。時には苦しい思いもして肉体改造を頑張っていたのは、お兄ちゃんに本気のえっちな目を向けてもらうため。そのはずだった。

 私は、男の子のえっちな目を、知っている。プールの授業で、私のクラスメイトの男の子が私に向ける目に、ああいうのが混じっていた。
 学園に入学した頃よりもとがってる、ぎらついた目。頭の中でいやらしいことを考えてるってことを隠せてない、欲望のこもった目。
 とはいえ、男の子からのそういう目は、やっぱり嫌いじゃないし、慣れているつもりだった。だからいつか、お兄ちゃんからこういう視線を向けて欲しいと願っていた。

 あのギャル水着を「着てみないか」と言われたのは、おとといのことだった。お兄ちゃんが倉庫から、お姉さんが使っていない水着を見つけていたらしい。肌の日焼けも進んでいたから、確かに似合うかもと思った。水着跡がちょっと恥ずかしかったけど。

昨日、お姉さんから借りたギャル水着を着て、明るいうちにいつもの場所まで誘って、そこで見せたのは、予定通り。お兄ちゃんがすごくえっちな目で見てくれるんじゃないかと思ったし、そのままえっちなことをされてもOK、っていうか、そうじゃなかったら私の方から飛びかかってもいいくらいの気分だった。

 私の思った通り、お兄ちゃんは私に、すごくぎらついた目を向けてくれた。初めてのことだった。
 だけど、それなのに。

 私はお兄ちゃんの顔を見て、怖い、と感じてしまった。

「私、何やってたんだろ……」
 頭を抱えて、独り言を言わずにはいられなかった。

 私は、お兄ちゃんに追いつきたくて。
 お兄ちゃんに、「大人の女」として扱って欲しくて、ここまで頑張ってきたのに。
 いざ、そういう目で迫られて、襲われそうになったら、怖くなっちゃった、なんて。

 そんなんだったら、頑張って大人になろうとしてた私がばかみたいじゃん!

「ばかなんだよ……」
 私の中で、答えは出ていた。
 お兄ちゃんに襲いかかられたのはびっくりしたし、ましてや、最後にいきなり出た「あの言葉」は、正直すごくショックだった。「それ」が私も知っている言葉だと、お兄ちゃんは分かってたと思うけど、だからこそ、あんなことをいきなり言われて、いい気分になるわけがない。ひどいし、簡単には許せない。
 でも、そこで「お兄ちゃんが悪い」の一言で済ませられるほど、自分勝手になれるわけでもなかった。

 昨日、ぼんやり考えていたことを思い返してみる。
 ギャル水着を身につけた私を見て、お兄ちゃんはどうしてくれると思っていたか。

 まず、「似合ってる」って言ってくれて。
 優しく抱きしめてくれて。
 そして、ちょっと興奮してきたお兄ちゃんが、「抱いていいか」って言ってくれたりして。
 ちょっと嫌がるフリするけど、お兄ちゃんの押しに負けて、背中に手を回されて、ブラジャー外されちゃうんだ――なんて。

「ばーか、ばーか」

 誰もいないのをいいことに、悪口をはっきりと、私自身に向けて撃った。昨日の私をひっぱたいてやりたい。

 お兄ちゃんは確かに優しい。けど、そんなお兄ちゃんとはいえ、興奮したときにちょっとやり過ぎちゃうなんて、私自身何回か経験してきたことだった。それなのに、お兄ちゃんが優しくしてくれなくて傷ついたって、どの口で言えたものか。だって、そう仕向けたのは私だから。……まあ、あそこまでとは思わなかったけどさあ。

 私はきっとお兄ちゃんを、白馬に乗った王子様か何かと勘違いしていた。
 私の思い描いた通りに行動してくれるんじゃないかと、きっと、何となく思ってしまっていた。

 お兄ちゃんは時々、私を一途な天使か何かだと思っているんじゃないかってことがある。だから、私が他の男の子の話をすると、すごくびっくりしたような反応をすることがあって、私は内心、ちょっと面白いと思ってた。
 だけど、それは私もそんなに違わないってことを、思い知らされた。

 私が、お兄ちゃんが思ってるような「綺麗な女の子」じゃないのと同じように。
 お兄ちゃんも、私が思っていたような「操り人形の王子様」ではないのだ。

 遠くでバイクのモーター音がして、私は顔を上げた。バイクなので、お兄ちゃんではない。だけど、私の知っている人かもしれないと思った。

「あれっ、はるかちゃんじゃぁん」
 果たして、生足にビーチサンダルで海岸に降りてきたのは、色白のエミリさんだった。そしてエミリさん一人だ。友達も、男の人も連れていない。
「どうしたのぉ? 朝ご飯のときいなかったよねぇ?」
「はい。調子が悪くて」
「オンナノコの日?」
「いえ、ちょっとだるかっただけで、もう大丈夫です」
 適当に答えると、エミリさんも深く聞いてはこなかった。
「エミリさんも一人ですか?」
「うん、二人はちょっと休むってぇ」
 さっきまで展望台巡りしてたんだ、って付け加えて、私の前に座った。
「昨日の男の人は?」
「んー? イマイチ」
 私のさらなる問いかけに、エミリさんはじっと私を見つめて。
「うそ。フラれちゃったぁ」
 ペロリと舌を出して、告白した。
「まあ、ビミョーはビミョーだったけどねぇ。でも、グイグイ行ったらヒかれちゃった」
 少しだけ、ほんの少しだけ残念そうに、エミリさんは言った。
「…………エミリさんは、男の人好きなんですか?」
 その様子に、思わず、感じていたことを聞いてみた。エミリさんは、うーんと考え込む。言葉を選んでいるようだった。
「男が好きっていうより、男がいないのがキライ。強い人が近くにいると、安心するんだぁ」
 私さみしがり屋だから、とエミリさんはつぶやく。

「私こんな感じだからぁ、男の人に守ってもらわないと、不安になっちゃうんだよねぇ」
 海を見つめながら、エミリさんは言った。タンキニに白シャツを着た格好だけど、明るい色のタンキニが透けて、とても色っぽい。お兄ちゃんがこの場に居たら、絶対にじろじろ見ていただろう。
「この島はいいね。人少ないから、一人でもあんまり怖くないんだ」
 ほっとしたような声で、エミリさんは言った。言葉遣いがさっきまでと違う。宿の中で、私も含めた四人になったときによく出る言葉遣い。甘ったるく語尾を伸ばすのは演技だと、自ら教えてくれた。もちろん、初めて会ったときに私は気づいていたけど。
 その言葉遣いはきっと、エミリさんが自分の身を守るための鎧なんだと思う。

「そういえば、まさとくんは?」
 エミリさんがそう聞いてきたのは、私達がとりとめのない雑談をしばらく続けてからだった。
「ケンカしちゃった?」
 私が答えられないでいると、エミリさんはそう口にした。
「いえ」
 私は首を横に振る。これは、ケンカではない。ただ、私が拗ねているだけだ。
「まさとくん、今朝すごく暗かったよ?」
 ああ。その言葉で、エミリさんは最初っから気づいてたんだって分かった。「何かされちゃった?」
「正人さんが悪いわけじゃないんです。ただ…………私が子供だっただけで」
 お兄ちゃんを誘惑したら、反応が思ったより怖かった――細かいことはもちろん言えないから、私は口に出せることだけをかいつまんで話した。
「そっかー、はるかちゃんの方から行ったんだ。おっとなぁ」
 エミリさんは何かを納得したような表情で、すごく軽く、ちょっとからかうような口調で言う。少しもやもやしたけど、黙っておく。
「まさとくん、優しそうだよねぇ」
「はい、優しいです」
「普段、大事にしてくれてる?」
「はい、大事にしてくれてます」
「だよね」
 私が相槌をうつと、エミリさんは一瞬、遠くを見るような目になった。言葉を選んでいるようだった。
「まさとくんってさ」
 そしてまた一瞬、言葉が途切れて。

「ほんとにロリコン?」

 その言葉に、今度は私が水平線の彼方に目を逸らす番だった。
「……もしそうだったら、私は今、こんなに悩んでないと思います」
 それは、気づいている。いや、とっくに知っている。
「正人さんは同い年か、年上の方が絶対タイプです」
「だよね」
 そんなことは、お兄ちゃんの視線を見ていればすぐに分かることだった。お兄ちゃんが目を向けるのはいつも、それこそエミリさんみたいな、おっぱいの大きいお姉さん。この島に来たときも、私と同じ世代の女の子たちが海岸で遊んでいたのに、全く関心なさそうにチラリと見ただけだった。私より年上で、大きいおっぱいの子もいたのに。

「不安なんだ?」
「はい」
 エミリさんの言葉に、素直にうなずいた。
 お兄ちゃんの態度を見るたびに、不安になる。
 本当にお兄ちゃんは、私が好きなのかな、って。
 私のこと、ほんとは邪魔だって思ってるんじゃないかな、って。

 だから私は、早く大人になりたかったのだ。

「そっかぁ、そだよね、不安だよね」
 エミリさんは私の言葉に深くうなずいていた。
「私の初恋もそうだったなあ」
 エミリさんはまた遠い目をした。
「そうなんですか」
「うん、小学生の時、高校生の男の子を好きになってね。私がいじめられてたのをたまたま助けてくれて、それで」
 下校の時に何回も顔を合わせて、仲良くなって、エミリさんから告白して。付き合った、と思っていた。そうエミリさんは言った。
「でも相手は、告白を最初っから本気にしてなかったみたい。あっさり他にカノジョ作っちゃって、フラれちゃった」
 今思えばすっごい背伸びしてたなあ、あのとき。エミリさんがそうつぶやいて、私の胸が痛くなった。まるで、今の私のことのようだった。
「トシの差離れた恋って、こりごりって思ったよ、私は」
 続けて出たエミリさんの言葉で、心が冷える感じがした。

「トシが離れてると、考えてることが通じなかったりしてさ。どうしても、ズレちゃうんだよね。だから疲れちゃう」
「わかります、ちょーわかります」
 疲れる、という言葉は、わかる。実際にお兄ちゃんがどう思ってるかじゃなくて、「もしかしたら私の思ってることと違うのかもしれない」って思うだけで、不安になって消耗してしまったりする。
 私はお兄ちゃんじゃないし、お兄ちゃんは私じゃない。だから、考えていることが違うのは当然だ。だけどそのせいで、お兄ちゃんにとって、私がふさわしくないと感じているんじゃないか、っていう気分になるのは、つらい。お兄ちゃんがそういう人じゃないって思ってるつもりだけど、不安になるのはそう簡単に止められない。

「はるかちゃんも、やめちゃったら? 追いかけるの」

 私は思考を止めて、そしてゆっくりと、エミリさんを見た。
「だって、今のままだとはるかちゃん、ずっと辛いまんまだよ?」
 エミリさんは目を私に向けて、そう付け足した。
「……エミリさん」
 一つ息をついて。
「正人さんは渡しませんよ?」
「違うよ?」
 私に言われて、エミリさんは否定する。でも、それはウソだ。今エミリさんは、あわよくば私をお兄ちゃんと別れさせて、お兄ちゃんを取ろうとした。心外というフリをしていても、手の動きが急に忙しくなったから分かる。
 だけど。
「とぼけちゃって。はるかちゃんも分かってるんでしょ?」
 それは、図星だった。

 ――背伸びなんかしても、トシの差は埋まらないんだよ。

 そう続いたエミリさんの言葉はまるで、誰かの声に重なったように聞こえた。

「昨日も同じこと言われました」
「誰に?」
「真利奈お姉さんに」
「へぇ」
 さすがだね、とエミリさんはつぶやく。

 エミリさんの、そしてお姉さんの言う通りだ。
 お兄ちゃんの協力で、身体は確かにお兄ちゃんの好みに近づいたのかもしれない。
 だけど、それで私が大人になったわけじゃない。身体が少し大人っぽい子供になっただけ。

「でも」
「でも?」
「追いつく方法はある、ってお姉さんは言ってました」
「ふぅん?」
 エミリさんは少し興味があるような相づちを打った。だけど、私がその内容を答えると、拍子抜けしたような表情に変わった。
「そんなんじゃ……」
 と言いかけて、一瞬口をつぐむ。
「でも、それが一番マシかもね」
「はい」
「そうするの?」
「はい」
「そっか。はるかちゃんすごくかわいいし、何とかなるよきっと」
 言葉が途切れて、静かな波の音が、辺りに響く。言うことがなくなったことを私もエミリさんも理解して、静けさを受け入れ始めたとき。
 電子音が鳴った。私のじゃない。エミリさんは素早くスマホを取り出して、画面を見た。そして、立ち上がる。
「今から三人で町の方行くけど、一緒に行く? バイク乗っけてったげるよ」
 それはきっと、ミヒロさんかセリナさんからの連絡だったのだろう。
「いいんですか」
「うん」
 渡りに船、っていうんだっけ。
 私も悩むの疲れたし、もういいかなって思った。エミリさんに話してすっきりした。
「まさとくんはいい?」
「もうちょっとあとで」
「そう」
 荷物を持った私は、エミリさんの後ろをついて、砂浜を離れようとする。

「はるかちゃん」
「はい?」
「がんばってね、応援してるよ」
「……はい」

 私に背中を向けたままの言葉。
 それは、さっきと違って裏のない、心のこもった言葉に聞こえた。

 傾いた日光に照らされた道を、民宿のバンが走っていた。
 あくびをかみ殺しながら、俺はバンの一番後ろに座らせてもらっている。目の方ではワイワイと、スタッフさんが話していた。真利奈さんと百果さんはそれぞれ運転席と助手席に座っている。

 メッセージの着信音で飛び起き、ハルカからのものであることを確認するや、慌てて部屋を出たところで、真利奈さん達と鉢合わせした。今夜行われる花火大会のため、民宿のスタッフで中央地区に移動する準備をしていたのだ。百果さんの「乗ってく?」の言葉に、俺は甘えることにした。今すぐでも自転車で向かいたいところだったが、明らかに車の方が早い。
 水平線に限りなく近づいた太陽を目に入れながら、俺は何度目か分からない思考を巡らせた。

 答えは出ていない。俺は未だに、ハルカが何を気に病んでいたのかについて、糸口すら掴んでいなかった。真利奈さんに相談しようとも思ったが、忙しそうだったし、何より気後れする。自分の彼女のことを彼女の伯母に相談するのは、男としてのプライドが強い難色を示していた。

 俺はハルカの全てを知っているわけではない。ハルカの考えが理解できなかったことは、これまでもある。だが、今回の理解できなさは、その範疇を超えていた。
 そしてその事実が、俺に問いを突きつける。

 俺は、ハルカを理解した気になっていただけなのではないか。
 これまで理解していたと思っていたことも、勘違いではないのだろうか。
 もしそうだとしたら――俺がハルカことを何も理解していなかったとしたら、俺が信じていたはずの、俺達の関係は何だったのだろうか。

 自分のしでかしたことは、謝るしかない。
 だが、仮に自分が信じていたものが、そもそも「存在していないもの」だったとしたら……。
 俺はいったいどうすればいいのだろう。

「荷下ろし手伝ってくれる?」
 車を駐車場に止めた真利奈さんにお願いされ、一瞬虚を突かれた。今すぐにでもハルカの元に駆けつけたい気持ちだったが、ここまで俺を運んでくれた以上、手伝いのお願いを拒むわけにはいかない。
 頼まれたのは、スタッフさん用のゴザだった。全てを一手に抱え、駐車場から前浜に向けて歩く。
 全長二百メートルほどの前浜には、太陽の明るさが失われつつある中、すでに多くの人が集まっていた。しかし花火の打ち上がるまでにはまだ少し時間があり、おかげで良い席を確保することができた。
「はるちゃん、たぶん屋台の方にいると思うよ」
 荷物を砂浜に置くと、真利奈さんからそう言われる。その言葉で、荷物運びがハルカによる足止めだったことを直感した。ハルカは真利奈さんとは連絡を取っているに違いない。
「ありがとうございます」
 俺はお礼を言ってその場を離れ、海岸のすぐそばにある公園に向かった。

 車に乗っていたときと違って、気持ちは先ほどよりは落ち着いていた。それはハルカ自身が、きっと俺と同じ気持ちだと感じ取れたからだ。

 ――会いたいけど、会いたくない。

 気持ちがまとまっていないのは、恐らくハルカも同じなのだろう。

『どこにいる』

 メッセージアプリで一言呼びかけるが、反応はない。俺はやむなく、歩き回ってハルカを見つけ出そうとした。公園は決して広くない。全島的なイベントではあるものの、都会の喧噪に慣れている身からすれば、それほどごった返しているというわけでもない。しかし、すっかり暗くなり、人工の明かりのみになった公園は、思いのほか見通しが悪い。慎重に公園を一周するが、ハルカの姿を見つけることができない。
 返事が返ってきたのは、俺がさらに公園を半周したところだった。

『後でそっち行く』

(何だよ……)
 思わず顔をしかめた。
 恐らくハルカは、すでにこの公園を去り、どこか違うところにいる。さすがに公園外に出られてしまえば、市街地が狭いとは言え探し出すのは困難を極める。席取りした場所をメッセージで伝え、俺はハルカの捜索を打ち切った。

 少しずつ花火の時間が近づき、周りの喧噪が増していく。先ほど自分で敷いたゴザに座って星空を見上げていたが、手持ち無沙汰になった俺は、屋台で適当に買ったたこ焼きを食むことにした。朝昼とあまり喉を通らなかったので、今になって腹が空いてきている。

 斜め前方にいる真利奈さん達の姿が目に入った。真利奈さん達は俺とは別に買い出しをしていて、屋台だけでなく商店で買ったに違いない品を並べていた。そこにハルカの姿がないことを確認して、目を離した。真利奈さん達とはあえて離れた場所をとったのは、ハルカと二人になりたかったからだ。

(ハルカって、こんなにめんどくさい奴だったか?)
 少し冷めたたこ焼きを頬張りながら、内心で愚痴る。
 俺の知っているハルカはもっと素直で、怒りや不満を表すのももっとストレートだったはず。ここまで振り回されているのは初めての経験だった。それはハルカが成長しているからなのだろうか。だとしたらそれは、俺にとっては望ましからざる成長というべきかもしれない。
 とはいえ、ハルカに振り回されるようなことをしたのは俺だ。ハルカに不満を漏らすのは責任転嫁でしかない。後で行くと言ってもらえただけ御の字である。
(馬鹿なことしたなあ、俺……)
 もはや何度目かも分からない後悔をして、俺は仰向けに寝っ転がった。

 思い起こせば、俺達と花火大会の縁は深い。
 大体今の時期にうちの近所の河川敷で行われていて、ハルカが一歳の頃からほぼ毎年、俺と連れ立って見に行っていたのだ。
 ただ、そんな中でただ一度、俺が花火大会に行かなかったことがあった。

 四年前、俺が中学三年生の時。
 それは、高校への進路を決めかねていた頃だった。きっかけは、ちょうどよい高校が近くになかったことだった。「優秀と言うほどではないが普通よりはできる」という成績の生徒に対する公立高校はなく、私立高校はあいにく男子校だったり、管理がガチガチだったりと難点が多かった。そんな中、順当に思春期をこじらせていたせいで、一人暮らしという行為自体に憧れが膨らみ、俺は県外の私立高校に照準を合わせつつあった。両親は俺の志望を聞いて意外そうな顔をしたものの、反対はしなかった。
 ただ、そんな気持ちを抱いてはいながら、俺はその志望を決めきることができずにいた。
 その理由がハルカという存在にあることは、意識したくはなかったが、明らかだった。
 そんな折、花火大会の前日。
 明日は六時に家を出るからな、と言った俺に対して、ハルカは言った。

「明日は友達と行こうかなって」

 そうか、と素っ気なく答えたような気がする。そしてその翌日、俺は会場に行くことはなかった。「何となく」気が進まなかったからだ。

 自室のベッドに寝そべり、目を閉じたまま、花火の破裂音を聞き。
 そして俺は、家を出ることを決めた。

 不意に頭を揺らされて、俺は思い出から帰ってくる。否、寝てしまっていたらしい。そして、どうやら頭を蹴られたようだ。軽くだが。
 そのことに驚いて蹴られた方を向き、そして飛び起きる。
「ハルカ」
 暗がりだが、見間違えるはずもなかった。そこには約二十四時間ぶりの、見慣れた姿。
「何寝てんの」
 打ち寄せる波と喧噪の中、重く、低い声が耳に届いた。
「……すまん」
 ハルカが何に怒っているのかは分からなかった――候補が多くて――が、ばつの悪さが口を突いた。
 そのまま膝立ちで黙っていると、ハルカはその場にゆっくりと腰を下ろした。そこは、俺が敷いておいたハルカ用のゴザだった。

 そのままハルカは膝を抱え込むように座り、あごを膝に置いた。暗いので視線ははっきり見えないが、海岸をまっすぐ見つめているようだった。
「食うか?」
 俺は買い物袋を取り、中身を差し出す。それはハルカのために買っておいた、もう一パックのたこ焼きだった。
 ハルカの反応がなかったので一瞬焦ったが、最終的にはハルカが手を伸ばし、たこ焼きのパックを受け取った。

 もそもそとたこ焼きを食べ進めるハルカを横目に、今度は俺が体育座りで暗い海を眺めていた。
 ハルカに会ったらちゃんと謝ろうと思っていたが、完全にタイミングを逸した。今となっては花火の時間が迫り、普通の話し声では周りに聞かれかねないほど人が集まっている。

 ――ツタなら。

 もしツタの通信ができるなら、何か伝えられたかもしれない。だが、昨日ハルカに「弾かれた」ときに、ハルカの中にいたツタは全て、跡形もなくなっていた。
 そこまで考えて、俺は思わず舌打ちをしそうになった。表情が歪む。

 ――そうじゃねえだろ。

 仮にだ。ハルカとツタで交信できたとしても、この場面でツタを通して謝るなどあり得ないことだった。大事な言葉は直接伝えるべきだ。自分自身の技能に甘えそうになっていたことに気付き、自らを叱咤する。そんなことだからハルカを怒らせるのだ。

 気を取り直して、もう一度ハルカに声を掛けようとしたときだった。

 連続した打ち出し音が聞こえ、直後、破裂音と共に、橙色の花が開いた。

 それを皮切りに、用意されていた花火が続々と打ち上げられる。
 赤と青の二色。
 チリチリと落ちる白色。
 円と楕円。

 立て続けに現れる光のアートワークを眺めながら、俺は早くも安堵感のようなものを覚えていた。

 ――今年の花火も、隣にハルカがいる。

 思い起こせば。俺が県外受験を決めたあの年を除いて、俺達は毎年、揃って花火を見上げていた。俺が一人暮らしをして高校に通っている間も、夏休みは実家に帰り、ハルカと花火大会に行った。しかし今年は、この島に来たがゆえ、実家近くの花火大会は見に行けない。だからこの花火大会がなければ、今年もハルカと花火を見上げることはなかったかもしれない。

 ――ラッキーじゃん。

 花火大会があることを知ったハルカから出たその一言。それは、今年も俺と花火を見られるという意味だと、そう感じていた。そして、そこから紆余曲折はあったものの、確かに俺達は、今、二人で――。

 こつん。

 右腕に人の温かさを感じる。俺は花火を見上げていたが、目を向ける必要はなかった。それが何であるかは、俺の右腕が知っている。
 目を向けぬままその右腕を伸ばし、ゆっくりとハルカの腰に回した。蒸し暑さのせいか、ハルカの服が若干湿っているように感じるが、構わず抱き寄せる。

 どん、と一際大きい花火がきらめくのを、俺達はじっと見つめていた。

 こんこん、と窓を叩く音が聞こえ、俺は慌ててドアのロックを開けた。再び待たされた身とはいえ、二度目の居眠りを悟られたら何を言われるか分からない。
 ハルカが助手席に乗り込んできたのと同時に、俺はバンのエンジンを入れる。初めて乗る車なので、慎重にアクセルを踏む。
 真利奈さんから借りた民宿のバンはゆっくりと、深まりつつある夜を走り始めた。

 ハルカはミヒロさん達のバイクに乗って中央地区に行ったらしく、民宿への帰りは俺と一緒にバンに乗せてもらった。だが着いたと同時に、真利奈さんが「二人でまた出かけてきたら?」と言ってきた。
 免許は学園に入る前に取っていたし、免許証も持ってきている。民宿の車を借りることには少し躊躇したが、それが真利奈さんからの配慮だと理解した俺はありがたく受け入れることにした。カーナビとにらめっこしながら、真利奈さんが提案してくれた場所に車を進めていった。

 バンのドアを開け閉めする音と、ハルカの足音だけがあたりに響く。
 たどり着いた場所は、静寂だった。
 小さい駐車場にバンを残し、俺はハルカを追い、展望台に足を進める。

 数十秒ののち、星明かりの下、海が見えた。しかし、おそらくは二百メートルほどもある標高のため、波音は耳に届かない。そして今日は風がほとんどなく、周囲の葉音もない。真利奈さん謹製のキューブをバンに積んでいるので、動物も来ない。当然、人の気配などあるわけもない。

 この島の居住区域は、島の西側に集中している。一方、東側は限られた特殊施設を除き、自然スポットしかない。だからこの時間に人が来ることはない――というのが、真利奈さんから受けた説明だった。この場所はその「東側」のやや北寄りに位置する、展望台である。

 木製の柵の手前に、やはり木製の簡素なベンチが二つあり、ハルカはそのうちの一つに腰掛けていた。海ではなく、こちら側を向いている。俺は手荷物をベンチの横に置き、ハルカの左隣に寄り添って腰を下ろす。ベンチはどちらも二人掛けだが、一人ずつ別のベンチを使うのでは離れすぎてしまう。
 ハルカは花火大会の時と服装が変わっていた。カットソーとパンツになっており、その身体からは独特の湿った気配を感じる。

 ――こいつ、湯船に浸かってたな。

 ハルカに見せないように、一度顔をしかめた。
 海に入っていたからだろう、花火大会から帰ってくる車内で、ハルカの髪は明らかにごわついているように見えた。だから、「身体洗ってくる」とメッセージで言い残し、部屋に戻っていったのは想定内だった。だがその後、ハルカが部屋から戻ってくるのには、実に一時間以上要している。ハルカは湯船に浸かり、服を着替え、入念なスキンケアまでしていたのだ。

 ――お前は、どう思っているんだ?

 そんな疑念がわく。俺はずっと悩んでいたのに、ゆっくり風呂に入っていたハルカはあまりに対照的に思えた。
 元はといえば俺が悪いことではあるものの、俺の悩みの半分は、あのときにハルカが見せた表情にあったのだから。
 そんなもやもやを抱えてしまったせいで、俺達は黙り込んだまま、さらにその場で時間を費やすことになった。

 俺は足下に置いた鞄から、水筒を取り出した。蓋を開け、中身を注ぐ。
 それは、紅茶だった。ハルカが風呂に入っている間に、真利奈さんに頼んでキッチンを使わせてもらい、淹れたものだ。
「飲むか?」
 ハルカの目前にカップを差し出す。ハルカは数秒の後、それを左手で受け取り、中身を口に含んだ。
 カップを突き返されて、受け取る。中身がまだ残っていたので、飲んだ。
 苦い。
「……昨日はごめんな」
 液体を完全に飲み下し、カップを元に戻してから、俺はその言葉を口にした。
 俺はハルカをチラリと見る。ハルカは下を向いていた。暗がりのせいで表情は見えず、何を考えているかは分からない。
 しかし、俺は自分が言うべきことを言う。
「無理矢理は、ダメだよな」
 欲望の暴走。あのときの俺は、まさにそれだった。

 ハルカなら受け入れてくれる、という考えが内心になかったかといえば、それは嘘である。
 なぜならハルカは、俺の性欲の対象となるために、肉体改造をしていたのだから。
 だから俺が少し無茶をしても、ハルカは受け入れてくれるだろう、という意識は、きっとあった。

 それは甘えだったし、実際甘かった。
 そしてその甘えがハルカにショックを与えてしまった。

「俺がちゃんとしてなきゃいけなかった。ごめん」
 俺は今度は、ハルカの方を向いて頭を下げる。

 ハルカは何も答えなかった。しかし、俺から畳みかけるわけにはいかず、一度ハルカの反応を待つしかなかった。

 そして。
「……ひどいよ、おにいちゃん」
 怒りのせいだろう、重く震えた声で、ハルカはそう言った。
 すぅっと、肝が冷える。
「ごめん」
 口をついて、再び謝罪の言葉が漏れる。
 花火大会からここまでの様子だと、もしかしたら、簡単に許してくれるんじゃないかという感じもしていたが、甘かった。震えるほど怒るのは、予想外だった。だが、俺が悪いことをしたのは事実だ。受け止めるしかない。
「でも」
 ところが。
「ごめんなさい」
 今度は、ハルカの方が、頭を下げていた。
「私の方が、もっとひどかった」

「……私、お兄ちゃんに、ああいう風にされるかもって思ってたのに」

 そこからの、ハルカの言葉をまとめると。
 ハルカは、俺にああいう風に襲われることを、予想していたようだった。
 なぜなら、ハルカはそうされるために、肉体改造をしていたのだから。
 だが。
「怖くなっちゃった」
 それにもかかわらず、俺に襲いかかられたハルカは、俺を拒絶した――拒絶「しちゃった」のだと、そう言った。

「そうだったのか……」
 俺は思わず、気の抜けたような言葉を漏らした。

 だからハルカは、まるでハルカ自身が悪いことをしたかのような顔をしたのだ。
 まるで、俺の甘い考えと対をなすかのように。
 ハルカはハルカで、見込み違いがあったということである。

「お互い、甘かったんだな」
 そういうことなのだろう。
 俺は、ハルカが俺の行為を受け入れられると思い込んだ。ハルカは、俺のするであろうことを受け入れられるだろうと思っていた。
 しかし、それは間違いだった。ハルカは恐らく、男に襲われるという行為の恐ろしさを理解していなかった。そして俺は、ハルカがそれを理解していないであろうことを見落としていた。

 俺は慎重に右手を伸ばす。目的を誤解されないように、首でも耳でもなく、ハルカの頭頂やや後ろに直接触れるよう、手を置いた。ハルカが一瞬身体の動きを止めたのを感じたが、俺がハルカの頭をなでると、邪な意図がないのを察したか、すぐに身体の力を抜いたようだった。
 ハルカは重心を傾け、俺にしなだれかかってくる。鼻をすする音がした。ハルカの震えた声は、怒りではなく涙によるものだったらしい。

 ――本当か?

 僅かな違和感が脳裏をかすめた。さっきの重く、低い声は、本当に泣いていたからというだけなのか。
「私」
 そんな違和感をよそに、ハルカがぽつりと言葉をこぼした。ハルカの頭をなでながら、次の言葉を待つ。
「何してんだか分かんない」
 一転して重く、吐き捨てるような言葉。それがハルカ自身に向けられた怒りであることを俺が理解するまで、数秒を要した。
 ハルカは俺の身体に顔を押しつけ、腕を回す。ぎゅっ、と抱きしめられる。
 そして。
「私、お兄ちゃん取られたくない」

 ――どういう意味だ?
 ハルカによる突然の告白を、俺はすぐに理解することができなかった。
 いや、ハルカがいっぱしの独占欲を持っていることは、よく知っている。とはいっても俺の彼女である以上、その欲求は正当なものだが。
 問題は、その告白と、今までの話の流れとの関係性である。
「……エミリさんに何か言われたか?」
「ぜんぜんちがう」
 もしかして、と思って聞いてみたが、にべもなかった。それどころか、声が少し呆れている。大ハズレだったらしい。
「わかんなくて正解だよ」
 と思ったら、今度はハルカにそんなことを言われた。ますます訳が分からない。
 戸惑いの中、再びあたりを沈黙が襲う。
「あのね」
 しかし、その戸惑いは、ハルカの次の一言が消し去った。

「私、まだお兄ちゃんの妹でいたいの」

 その言葉の意味を数秒かけて消化したとき、俺は目を見開いた。
 まるで背中から銃弾を撃ち込まれたような衝撃を受けた。
 思ってもみない言葉。思ってもいなかった視点。
 想像もつかなかった、ハルカの悩み。
 ハルカが怒っていた理由。
 全てが一つに繋がったかのような錯覚。

「……ハルカ」

 まさか、だった。
 だが、恐らく間違いない。

 ハルカが嫉妬していたのはエミリさん達よりむしろ、――母さんの腹の中にいる、まだ見ぬ俺の弟妹だったのだ。

「……お前、思ったより独占欲強かったんだな」
「うん、……私も知らなかった」
 俺の言葉はそれとない確認を装っていたが、ふてくされたようなハルカの返事は、俺の理解が正しいことを指し示していた。

「ひっどい」
 その自虐は、ハルカ自身の素直な感想なのだろう。確かに、生まれてもいない胎児に嫉妬することは、「酷い」と自虐するに足る。なので、思わず同意しそうになったが、その言葉を言うべきではないだろう。ハルカの気持ちを逆撫でしかねない。
 しかし、ハルカの言葉を打ち消すことも難しい。安易なことを言えば却ってハルカの逆鱗に触れるかもしれないし、何より俺がハルカに嘘をつくことになる。

 なので、違うアプローチで応えることにする。

「お前が望む限り、俺はお前の彼氏で、兄貴だぞ」
 ハルカの頭をなでながら、言葉を紡ぐ。
「お前は俺の彼女で、妹だ」
 ハルカと俺は、血は繋がっていない。しかし、俺とハルカが兄妹として生きてきたことは、確かな事実である。
 そもそも、きょうだいという関係は血が繋がっている必要などない。例えば法律では、親が再婚したら、それぞれの連れ子は互いにきょうだいだ。その程度できょうだいなのだから、生まれたときから一緒に過ごしてきた俺とハルカが兄妹でなくてなんなのか。

 俺は自分の太ももを軽くポンポンと叩く。声に出してはいないが、この静寂の中、ハルカに伝わるには十分だった。のそりと腰を上げ、尻を乗せてきた。
 ほんの少しの痛みを太もも裏に感じる。わずかではあるが、この島に来てからも体重は増えているはずで、膝に乗せるのも少しずつ大変になってきた。それはハルカの成長であり、喜ぶべきことである。

「……お前は」

 体勢を支えるようにハルカの腹に両手を回し、撫でる。そこにあった子宮紋は、当然のことながら跡形もなくなっていた。

「妹扱いされるの、嫌なんだと思ってたぞ」

 ハルカの腹のくびれを手に感じながら、俺は言った。

「私は、いやだと思ったことないよ、一回も」

 静かに、しかし思いのほか強く、俺の言葉を否定する。
 どうだっけ、と記憶を掘り返し――俺は頭を抱えそうになった。手が塞がっていたので出来なかったが。

「……そうか」
 気を取り直して、言葉を紡ぐ。
「お前が嫌なのは『子供扱い』だったな」
「うん」
 単純なことだった。しかし、それもまた、完全な盲点だった。

 ハルカは、大人になりたがっていた。だが、俺の妹をやめたいわけではなかったのだ。
 俺は自分の間抜けさに、泣きそうになった。なぜそんな勘違いを起こしたのか、考えなくても分かる。
 俺にとって、ハルカ、妹、そして子供、というのは、ずっとセットだった。だから、「妹扱い」と「子供扱い」が、ハルカという存在を介して繋がっていたのだ。言うまでもなく、それはただの勘違いでしかない。

「ごめんな」
 その声色は自然と、さっきの謝罪よりも重くなった。
「俺はハルカのこと、ちゃんと見てなかった」
 再び、右手をハルカの頭に置く。俺の妹に、お前が妹であると伝えるように。
「ううん」
 するとハルカは手を伸ばし、頭頂にある俺の手に触れた。
「私こそ、お兄ちゃんのこと、ちゃんと見てなかった」
 それはそんなことないぞ、と言いたかったが、とても野暮だと感じ、やめた。代わりに、俺はハルカの指の動きを察して、その手を握り、ハルカの膝に下ろす。
「……確かに、妹は、もしかしたら増えるかもしれん。でもな」
 ハルカに片手を握られたまま、愛おしい妹の身体を、俺はゆっくりと抱きしめ。
「俺の妹で恋人なのは、後にも先にも、お前一人だけだ」
 精一杯の言葉で、ハルカが俺の特別である、と伝えた。

 どれだけの時間、お互いの息づかいだけの時間を過ごしただろう。
 しかし、それは決して不快なものではなく、むしろ心地よいものだった。
 ハルカを抱く俺の手を包むように、ハルカの両手が置かれている。
 その暖かい感触を、いつまでも味わっていたいとすら思える。
「お兄ちゃん」
 ようやく出た言葉はハルカから。その声は、少しかすれていて、感極まっているようにも聞こえ。

「すき」

 細く、しかしはっきりとした二つの音が、俺の耳に届く。
 俺が答える前に、ハルカは俺の膝から立ち上がった。そして百八十度向きを変え、今度は俺にまたがるように座る。俺は両手でハルカの背中を支えた。

「私、お兄ちゃんがすき」
 今度ははっきりと俺の目を見て、ハルカが言った。
「ああ。俺はお前が好きだ」
 ハルカが抱きつき、俺は受け止める。みぞおちあたりに、ハルカの双球が押しつけられる感触があった。
「愛してる」
 俺の愛のささやきを塞ぐように、ハルカが俺の唇を奪った。拒む理由は無く、ついばむように何度もキスをする。

「……私さ」
 何十回かの口づけをすると、さすがにちょっと落ち着いたのか、ハルカは俺に抱きついたまま――思いのほか、明るい声で――言った。
「やっぱり、まだ子供だなって」

 ――今さらかよ。

 という思いがないかと言えば嘘になる。しかし、正直なところ、ほっとした、という気持ちの方が強かった。

「そうか」
 ハルカの言葉を受け入れることを示すために、相づちを打つ。
「それでいいんだ」
 ハルカの頭をなでながら、そう続けた。
「急がなくたって、大人になんかすぐなるんだ」
 俺だって、まだ大人じゃない。でも、子供の頃、遠いものと思っていた大人――少なくとも俺が思う意味での大人が、すぐそこまで近づいているのは感じている。
 わざわざ背伸びをする必要など、ないのだ。
「……お兄ちゃんも、そう言うんだ」
「え?」
「お姉さんにも、同じこと言われた」
「ああ」
 そりゃあ、真利奈さんなら言うよな。だってあの人、二百歳近いし。
「五歳差なんて、大人になったらすぐ埋まっちゃうってさ」
「そりゃそうだ」
 実例は知っていた。他ならぬ俺の両親が五歳差だ。俺達の年齢では五歳差は大きいが、父親と母親の年齢なら、気にもされまい。
 年齢差など、その程度のものなのだ。
「だから、待つ。ガマンする」
「そうか」
 だが。
「でもな。お前は別に、我慢しなくていいんだぞ」
 ハルカの兄として、どうしても俺は、そう言いたかった。
「面倒くさいのを引き受けるのは、俺の役割だ」
 確かに、今の俺達にとって、年齢の差は時に障害になる。二人の関係をおおっぴらに言いづらいとか、俺でも時々感じるのだから、ハルカの側からはなおさらだろう。
 だから。
「もっと、お前の気持ちを俺に聞かせてほしい」
 二人で障害を乗り越えるために。
 ハルカが俺の彼女として、気後れすることのないように。
「俺はハルカが好きなんだ。今子供か大人かなんて関係ない。お前だから好きだ、それだけなんだ」
 しっかりと抱きしめ、ハルカに自分の気持ちを、体温を伝える。
「だから、今のハルカをもっと、俺に教えてくれ」

 ハルカは俺を抱きつく力を強めた。俺もそれに応えるように、しっかりと抱きしめる。
 そのまましばらく、二人で互いの体温を感じあう。
 するとハルカから、はっきりした声が聞こえた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん」

「私を、苗床にしたいって言ったよね?」

 一転して、血の気が引く思いがした。
「…………ごめん、あれは失言だった」
 そう言うしかなかった。

 ――そんなお前には、俺の、苗床になってもらうぞ。

 確かに俺は、その言葉をツタで「言った」。そしてその言葉は、ハルカにツタを拒絶された、決定的な理由になった。

「私、すっごくショックだった」
「ごめんなさい」
 平謝りしかできない。他に言えることがない。あれは、欲望に呑まれたが故の失言に相違ない。
「あんなこといきなり言わないで」
「はい」
 苗床、という言葉の意味を、ハルカは知っている。ハルカが持っていた、例のエロラノベにもあったからだ。もっとも、あの作品での「苗床」は、ただ単に、主人公のセックスをひたすら受け入れるというだけの意味だったが。
「でも」
 しかし、ハルカの言葉は、そこで終わらなかった。

「お兄ちゃんにいつかそんな風にされるのは、ちょっと覚悟してる」

「そうか」
 耳の近くで、低い声で言われたその言葉は、全くの予想外、ということはなかった。
 俺達は、淫魔だ。不顕性であっても、淫魔だ。そして淫魔を愛するということは、淫魔の術を受け入れることと切っても切れない関係にある。
 ましてやハルカは、俺がハルカの脳を弄れることを知っている。知っていて、受け入れている。だから、俺の気持ち次第で、ハルカが俺の苗床にされうることも、理解している。

「ありがとう」
 だから、俺は、ハルカの頭をなでて、言う。
「俺も、ハルカにいつかメロメロにされるのは、少し覚悟してる」
 ハルカから、ふふ、と笑う声が聞こえた。
「でも不意打ちはしないで」
「はい」
「次は許さないから」
「はい」
 はっきりと、約束する。
 ツタの能力を使えば、そんな約束を破っても、ばれることはない。
 しかし、破ってもばれないからこそ、俺達の約束には意味がある。
 約束は、相手への枷ではなく、自らへの枷。
「誓う。絶対しない」
 俺からの、ハルカへの誓い。

「あのね、お兄ちゃん」
 いつの間にかハルカは顔を起こし、俺の耳元に囁くようにしていた。
「すごく、どきどきしてる」
 そう言って、胸を強く押しつけられた。
 確かに、鼓動が伝わってくる、気がする。実際には、おっぱいとブラジャーのせいでよく分からない。
「奇遇だな、俺もだ」
 だがそれを言うのは空気を読めなさすぎるので、別の事実を答えた。
 顔が赤い。多分、ハルカも。

 お互いの術を受け入れるということは、一生逃れられなくなる可能性を受け入れるに等しい。
 俺だけでなく、ハルカもそれを理解していたに違いない。

 だからだろう。
「お兄ちゃん」
 耳元で囁くハルカの言葉は。
「えっちしたい」
 もう止まらなかった。

「一回離れろ」
 なんで、って一瞬思ったけど、何をしたいのか気づいて、ちょっとドキドキしながらお兄ちゃんの膝から降りた。

 ベンチの前に立つ。目の前は海だけど、真っ暗だ。星が輝いていても、暗くて怖い。
 お兄ちゃんは座ったまま、キョロキョロする。周りに人がいないか、もう一回確認しているみたいだった。だけど、私達がここに来てからずっと、車の音は一回も聞こえてない。私達が来た道は、今も静かなまま。

 お兄ちゃんもそれが分かったのか、私の方に向き直って。私の目を見て。
「ハルカ」
 私に声をかける。

 どきどきする。言われるに違いない言葉を想像して、身体が熱くなってる。
 昨日、私がお兄ちゃんを突き飛ばしたとき、私の中にいたツタがいなくなったのは、わかってた。ずっとあったかかったお腹の中が収まったし、お兄ちゃんの言葉が直接聞こえることもない。
 だけど、お兄ちゃんに「変えられちゃってた」ところは、戻ってないみたい。

 だって。
 はやく。はやく。

 はぁ……っ。
 私は息をついた。落ち着かなきゃ、と思ったんだけど、深呼吸じゃなくて、熱い息になっちゃった。
 まだ何もされてないのに、頭の中がピンク色になってきてる。

「うん」
 私は落ち着くのを諦めて、お兄ちゃんに応えた。だってどうせ私は、これから、ぐちゃぐちゃになっちゃうから。

 私は興奮を隠して、じっと見つめる。
 お兄ちゃんの目が細くなった。

 そして。

「服を脱いで、水着を見せろ」

 お兄ちゃんの指示を聞いた途端、頭に血が上ったみたいになって、私はカットソーをまくり上げていた。お兄ちゃんが手を出してくれたので、脱いだカットソーを渡すと、ベンチの横に置いてあったトートバッグに入れてくれた。そのままパンツも脱いで、ショーツを見せる。

 中に着ていたのは、昨日、あの海岸で見せたツイストビキニ。黄緑色の部分がほんの少しだけ、星の光を反射して浮かび上がる。

「水着、分かってたんだ」
「感触で分かる」
「そっか」
 もう少しびっくりして欲しかったけど、びっくりし過ぎちゃうと昨日みたいになっちゃうかもしれないから、ちょうどいいのかもしれない。
「……すげぇ、似合ってんな」
「そう?」
 暗くて分からないんじゃないかと思ったけど、そうでもないみたい。でも、一回洗ったせいで今は髪の毛が黒くなってるから、昨日の方が似合ってたと思うんだよね。
 それでも、いえーい、とピースサインを見せてみる。ピースを目に当てるのがギャルっぽい。
 そんな私を見たお兄ちゃんは、シャツを脱いだ。私の身体がさらに熱くなった。お兄ちゃんは私に「する」前に、上半身を脱ぐ。それは何回もされてることなのに、すごく久しぶりな気がしてしまう。
 大きいトートバッグにお兄ちゃんがシャツを押し込むのが、スローモーションみたいに見える。トートバッグがいっぱいになって、ちょっと時間がかかってる。
 私は思わず、右手を胸に当てていた。水着のブラの上から、深くなった胸の谷間の、その奥にある鼓動を感じる。

 どっどっどっどっ。思ってたよりずっと早い鼓動。

 まるで初めての時みたい、って、ちょっと思った。外でしようとしてる、ってだけじゃない。何をされるのか分からない不安と期待が、私の身体を襲っている。
 シャツをしまい終えたお兄ちゃんが、私を見る。
 優しそうに笑ってる。でも、私には分かる。
 お兄ちゃんの目が、ギラギラしてる。私のブラを、胸を、おっぱいを、しっかりと見てる。

 まだ少し怖い。だけど、昨日とは違って、うれしい気持ちの方が勝っている。
 お兄ちゃんが、私で興奮してる。
 お兄ちゃんが、優しくしようとしてくれてる。
 そう思える。

 お兄ちゃんがそっと、両方の手のひらを差し出した。私も両手を出して、お兄ちゃんの手首をそっと掴む。すると逆に、お兄ちゃんが私の手首を握り返してきた。
「ちゃんと掴まってろよ」
「うん」
 最後の確認が終わって、ついにお兄ちゃんの指から、しゅるしゅるっ、とツタが伸びてきた。
 左右の指から伸びてきた二本のツタは、あっという間に私の後ろに回り、首の後ろをつついた。つぷっ、と軽い痛みがあって、私の中に入ってくる。私はもう一度、お兄ちゃんの手首をぎゅっと握った。
 全然見えないけど、ツタの動きが少しゆっくりのような気がした。お兄ちゃんも緊張してるのかも、って思って。

 そして。

「あっ」
 もう、私の準備はできていた。

「あっあっあっあっ、あっあっあっあっ、あっ、あっあっあっあっあっ」
 気づいたときには声が止まらなくなっていて、お兄ちゃんに「ぐちゅっ」てされる幸せに全身が震えていた。顔がだらしなく緩んで、口が開いちゃってるのが分かるんだけど、私にはどうにもできなくて、それがうれしい。
《聞こえるか?》
《うん》
 声の止まらない口とは別に、頭の中でお兄ちゃんに返事する。お兄ちゃんのツタが、私とお兄ちゃんの頭を直接繋いでいて、耳元で囁かれてるみたいに思えた。
《脳が硬いから、もう少しほぐすぞ》
《うん》
「あっあっあっ、あっ、ああ゛っ、あっあっあっあっおっおっお゛っ」
 ほぐす、って言っておきながら、深いところまで入ってきてる気がしてあっ、あっ、スリーサイズ。
「あっあっはちじゅうに、ごじゅーなな、は、はちじゅーさんっ」
 おととい教えてもらったサイズが、口から溢れてくる。
「あ、あんだーろくじゅうご、でぃーかっぷっ!」
 82-57-83。アンダー65、Dカップ。
《よくできました》
「あっあっあっあっあっあっあっあっ」
 お兄ちゃんに頭をきもちよくされて、身体をよじりながら喜んだ。
《いい身体になったな》
《ほんと?》
《ああ》
 私は熔けちゃいそうなきもちよさに身もだえしながら、お兄ちゃんにほめられたことを喜んでいた。
 厚くなったデコルテ。大きくなったおっぱい。くびれたウエスト。しっかりとしたお尻。
 さっき、部屋の鏡で見た私の姿は、春の頃とは全く違っていた。確かに見た目は大人っぽくなってるって、自分でも思える。
《私見て、興奮する?》
《ああ、する》
 何よりも、その言葉が嬉しかった。
《だから、お前をもっと、おかしくしてやりたくなる》
「あはぁぁんっ♥」
 その時、自分でも驚くくらい色っぽい声が出て、腰が砕けそうになった。お兄ちゃんにしっかりつかまって、耐える。
《じゃあ、少し改造するぞ》
 お兄ちゃんが私の奥に入ってきたのを感じて、一瞬身構えたけど、その感じは私がよく知ってる怖さで、昨日感じた怖さとは違う。
「あっ、あっ、あお゛っ」
 声が歪んで、それは来た。
 気持ちいいのがはげしくなって、ふわっと浮かんで、私が私じゃなくなりそうな感覚。
 それは、お兄ちゃんが私を変えようとしているときの感覚だって、私はもう知っていた。
「お゛っ、お゛お゛お゛っ、あ゛っ、あっだめっ、だめ、おっぱい、おっぱいっ」
 急に、頭の中が自分のおっぱいのことだらけになった。おっぱい。巨乳。Dカップ。谷間。視線。おっぱい。お兄ちゃんに――。
 私はいつの間にかお兄ちゃんから手を離して、後ろに手を回していた。ぷちっ、とホックを外すと、肩紐がないブラはそのまま下に落ちていく。
 その瞬間、全身に甘い雷が走ったみたいな気持ちよさがあった。お兄ちゃんにむき出しのおっぱいを見られたのが嬉しかったんだって理解するのに、時間がかかった。
「あっ、お兄ちゃんに、おっぱいみられるのすきっ」
 そう口にしたときには、それは私のあたりまえになっていた。私はいつでもどこでも、お兄ちゃんにおっぱいを見られることは、恥ずかしくても、いやじゃない。いつも嬉しい。……って、お兄ちゃんがツタで教えてくれた。
「かえられちゃったぁ……」
 つぶやいた。声がとろとろになってた。
「まだ変えるぞ」
 だけどお兄ちゃんはそう言って、今度は私の手を引っ張った。私がお兄ちゃんに近づくと、今度は、お兄ちゃんの顔がおっぱいに向かう。
「あはぁっ、あっ、あっあっ」
 お兄ちゃんにおっぱいをなめられて、あたまのなかをいっしょにぐちゃぐちゃされてる。
「ひぅううんっ♥」
 気持ちよくて、のけぞった。おっぱい吸われて、きもちよくて、もっとされたくなる。
「あっ、あっ、おにいちゃん、おにいちゃんっ」
 あたまの中がまっしろになってきて、ひざががくがくしてくる。あ、だめ、もうすぐ。
「あっ、あっ、あ、」
 わたしのこころがぼやっとする。お兄ちゃんにまたなにかされてる。
 わたしが、かわっちゃう。
「お゛っ、お゛ほぉぉぉっ、あ゛っあ゛っ、いっ、い゛っ」
 もう、わからない。
 ぐちゃぐちゃで。
 わたし、い、い……っ。
「い゛っ、い゛、い、いく、いく、イく、イく」
 口がかってに、しゃべってる。
 いく。イく。
 ああ、わたし、イく。
 お兄ちゃんにおっぱいすわれて、イく。

 イく――。

「イく、イく、イくっ、イくっ――! イくぅぅぅぅうううううっ!!!!!」

 気づいたら、お兄ちゃんに抱き留められていた。
 まだ、息が荒い。はぁ、はぁ、って、自分の息づかいが聞こえる。
《気持ちよかったか?》
 分かってるくせに、お兄ちゃんはそんなことを聞く。
《……うん》
 でも、反抗する気力はなくて。
「……イっちゃった」
 お兄ちゃんに教えられた言葉で、素直に答えた。

 お兄ちゃんとしててイったことはたくさんあるし、それを「イく」って表現することも知っていたけど、私がそれほど使うことはない言葉だった。だけど、お兄ちゃんに「ぐちゅっ」てされて、私の脳から、口から自然に出るようになってしまった。

 そういう女の子の方が、お兄ちゃんは好きなんだ。

「……ちょっとやり過ぎたか?」
「ううん」
 お兄ちゃんの声が、私に気を遣っている。でも、私は首を横に振った。
 そして、立ち上がる。膝ががくがくするけど、がまんする。
「お兄ちゃんとえっちしてる、って感じする」
 お兄ちゃんの手を掴んだまま、私は胸を張った。
「怖くないか?」
「……ちょっとだけ」
 お兄ちゃんに「ぐちゅっ」てされて、今の私はきっと、さっきまでの私じゃない。
 私が、変わっていく。お兄ちゃんに、変えられていく。
 それが全然怖くないって言ったら、嘘だ。
「でも、いやじゃないし」
 それは、ほんと。
 だって、お兄ちゃんが大事にしてくれてるって、ちゃんと感じられてるから(昨日と違って!)。
 それに。
「……お兄ちゃんに変えられちゃうの、結構、わくわくする」
 それも、ほんと。
 だって、お兄ちゃんのおかげで、私は、新しい私になれるから。

 そんな、私の答えを聞いたお兄ちゃんが、苦笑いするのが見える。
「……お前、やっぱり魔女だな」
 だけどその言葉は、私には、褒め言葉にしか思えなくて――。

 いつの間にか頭の中が幸せに満たされて、私は何も分からなくなっていた。

 ばたん。

 私が気づいたときには、扉が閉められる音がして、目の前が真っ暗だった。
 星も見えない暗闇。背中のつるつるの感触で、車の中だってわかった。
 たぶん、後ろの座席が倒されて、そこで寝かされている。
 私のすぐそばで、男の人――お兄ちゃんがごそごそと動いている。
《気がついたな?》
《なにこれ》
 思わず聞いたけど、なんとなくわかっていた。お兄ちゃんが私を操って、車まで連れてきたのだ。そういえばさっきまで、夢の中で天国への階段を上っていたような気がする。あれきっと、夢じゃなくて本当に歩いてたんだ。
《車の方がゆっくりできそうだったからな》
 お兄ちゃんはそう言って、私のすぐそばに寝そべった。
 お兄ちゃんの手がゆっくり動く。片方は私の頭に。もう片方は、私の――おしりに。
(んっ)
 お兄ちゃんに一瞬、おしりを掴まれた。水着のショーツは、なくなっていた。私が脱いだのか、お兄ちゃんに脱がされたのか、覚えてない。
 私は、裸だった。そして、お兄ちゃんも。お腹に、大きいのが当たってる。
 すると、お兄ちゃんが私の肩を掴む。次の瞬間、私の上に、お兄ちゃんがのしかかってきた。
《入れるぞ》
《はやくきて》
 お兄ちゃんに導かれて、私は足を開く。
 ちょっと恥ずかしかった。けど、それ以上に早く欲しかった。
「んぅぅぁっ」
 お兄ちゃんがずぶずぶと入ってきて、私は声をガマンできない。
 すごく擦れる。頭がパチパチする。
 きつい。お腹の中から押し広げられる。
 だけど、気持ちいい。
 私はこの感覚が、気持ちいいということを、もう知っている。
 お兄ちゃんが私の奥までピッタリ入り込んで、やっと止まった。
「はぅ……っ」
《いつもよりおっきくない?》
《お前のがきついんだ》
 口でしゃべっちゃうとえっちな声が出ちゃうから、代わりにツタでしゃべる。ちゃんと繋がったままのツタのおかげで、お兄ちゃんの言葉が、気持ちが、すごく伝わってくる。

 お兄ちゃん、すごく興奮してる。

 覆い被さってきたお兄ちゃんを、私から抱きしめる。
《お兄ちゃんが上なの、久しぶり》
《そうだっけ……そういやそうだな》
 私の身体がちっちゃい(というか、お兄ちゃんの背が大きい)せいかもしれないけど、これまでお兄ちゃんとするときは、私が上だったり、お兄ちゃんに座りながらのことが多かった。
《お前、自分からするの好きだろ?》
《うん、そうだけど》
 確かに、自分で気持ちよくなるのは楽しい。けど。
《お兄ちゃんにめちゃくちゃされると、愛されてる感じする》
《そうか》
 お兄ちゃんが、私の頭をなでる。
「愛してるぞ」
「……はうぅっ」
 言葉で言われて、返事しようとしたら、中に入ってるお兄ちゃんが動いて、えっちな声が出てしまった。
《お兄ちゃん、絶対普段より興奮してる》
《バレたか。今俺すげえ我慢してるぞ》
《そんなに、おっぱいのおっきい女の子好き?》
《おっぱいの大きいハルカが好きなんだ》
《おっぱいのちっちゃい私じゃダメだった?》
《ダメじゃないぞ。でも、セックスはこっちの方が興奮する》
《おっぱい星人》
《お前だって、自分のおっぱいが大きい方がいいんだろ?》
《まあね。私はおっぱい大きい方が魅力あるって思う》
《ガリガリにダイエットしようとしたとは思えない言い分だな》
《だって、不安だったんだもん》
 今思えば、何であんなことしようとしたんだろう、って思う。でも、不安に捕まっちゃうと、そういう訳のわかんないことをしちゃいがちなのだ。私の悪いクセだって思ってる。でも、女の子ってそういうものだよ、多分。
「ぁ……ぁっ……」
 お兄ちゃんがのしかかってきてるから、呼吸するたびに、お兄ちゃんの匂いを感じる。そのせいで、どんどん胸が一杯になる。
 お兄ちゃんに、愛してほしくなる。
《動くぞ》
 だけど、お兄ちゃんの方が先に、しびれを切らした。
「ぁぅぅぅぅっ」
 お兄ちゃんが私から抜けていく。だけど、それがものすごく擦れて、私は大きな声を出しそうにあっ、あっあっ。
「あぁぁぁぁぁぁぁんっ♥♥♥♥♥」
 お兄ちゃんに勢いよく押し込まれて、私はすごい声を出してしまった。あれ、私なんで声をガマンしようとしたんだろう。えっちな声出したらお兄ちゃん喜ぶのに。
「あっ♥ あっあっ♥ すごい! すごいすごいすごいきもちいいきもちいいいっ♥♥」
 お兄ちゃんに貫かれて、私は大きな声でキモチイイを叫んだ。
「はひぃぃぃんっ♥」
 奥をぐりっ、ってされて、アタマが一瞬まっしろになる。そしていつの間にか私は、お兄ちゃんに腰を押しつけていた。お兄ちゃんに肩を掴まれてるから、下半身が動かしやすい。

 えっちが気持ちいい。いつものように、お兄ちゃんを受け入れているだけのはずなのに。
 えっちが、すごく気持ちいい。

《私になにかした?》
 ほんの少しだけ残ってる冷静な私が、お兄ちゃんに聞く。
《どうかしたか?》
 聞き返される。とぼけてるよね、これ。
《メチャクチャ気持ちいいんだけど》
 えっちな声を出して、お兄ちゃんに腰を押しつけながら、ほんの一欠片の理性が、疑っている。
 だけど。
《ん? 別にそういう弄り方はしてないぞ》
 お兄ちゃんの答えは、素っ気なかった。
 そしてその答えが、私の最後の理性を壊した。
 私は、勝手に、気持ちよくなってる――。
《あ、ダメ、お兄ちゃんすき。すき、すごくすき》
 あ、ダメだ、堕ちた。
 バラバラに砕けていく私の理性がそう思ったときには、わたしはおにいちゃんすきすきになっていた。

「お゛っ、お゛お゛お゛っ♥ おにいちゃんすきぃっ! すきぃっ! いく、イっく♥ イく♥ ……ぅぅぅぅううううううんっっっ!!!!」
 激しいピストンをマンコに浴び続けたハルカは、たまらず絶頂を迎えた。俺がハルカの脳に教えた二度目の絶頂宣言が車内に響く。勢いはあるが色気が足りなかったので、そこを調整したら、かなり色っぽくなった。上出来だ、と俺は射精を堪えつつ、ボンヤリ考える。
 腰を押しつけるようにして、全身を痙攣させたハルカは、俺から精液を吸い上げようと、膣壁を激しくうごめかせていた。自身も言っていたが、ハルカはいつもより感じている。だが決して俺は感度を弄っていないので、仲直り効果なのかもしれない。
 対して、俺の方はその様子に激しい興奮を覚えながらも、まだ少しの余裕があった。

 俺の真下で愛を叫びながら絶頂宣言する妹の様子は、俺の股間にテキメンな効果を与えている。一方で、周りに対する警戒が、俺の理性を完全に手放すことを妨げていた。
 明かりもなく近づかれることは絶対にないという確信がある(もしそんな奴がいたら、行為がバレるのとは別の意味で恐怖だ)。しかし、車が通る可能性は、百パーセント否定できる程ではない。万が一の兆候を見逃さないように注意を払いながら、俺はハルカへの責めを続けた。
「ああ゛、あ゛あ゛あ゛、あ゛あ゛っ」
《すきっすきっす きっ すきすき ぃっ》
 濁ったあえぎ声を上げながらも、ハルカはすぐに迎え腰を再開する。あえぎ声が快楽を貪る獣のものになっている。成熟の途上ではあるものの、「使われ慣れ」し始めたマンコから、ハルカは最大限の快楽を引き出そうとしていた。
《きも ちいい き もち い すき す   す き》
 意味のある言葉を発せない口の代わりに、ツタがハルカの快楽表現を伝えてきているが、それも途切れ途切れになってきた。
(魔女め)
 ハルカに伝えないように気をつけながら、内心で思う。ここまで激しい快楽を受けて、一片の苦痛も訴えないのは、まさにサキュバスの性質に他なるまい。

 俺は一旦上半身を起こし、ハルカを見下ろそうとした。しかし光源が車窓の星明かりだけでは、いくら暗闇に慣れていても、ハルカの姿を捉えるのは難しい。もっともその代わり、ハルカの息づかいや気配を、手に取るように感じる。
 ハルカは口を開いて酸素を求め、声を抑える意思も失っている。俺が下半身を突き立てるごとに、喉がラッパのように声、いや音を鳴らしている。もはや自意識があるかも分からない、快楽マシーンの様相だ。

 ハルカの腕が動いた、と思ったら、その腕はハルカの胸に向かった。よく見えないが、ハルカの両手が胸に刺激を与え始める。
「あああ゛あ゛あ゛っ♥ あ゛え゛っ♥ え゛っえ゛っえ゛っ♥」
 貫かれる快楽では飽き足らず、自ら快楽を追加したせいか、ハルカの声はいよいよ知性を失っていく。全身を不定期に痙攣させ、三度目の絶頂を予感させる。
《         ♥     ♥   》
 ツタからの声も、すでに無意識の「波」が取って代わっている。

 ――何かするか。……無理か。

 一瞬、さらなる「弄り」の欲求がよぎるが、直後、下半身が射精衝動を訴え、諦めてゴールを目指すことにした。
 再びハルカに覆い被さり、両肩を押さえつける。ハルカが肩の痛みを訴えないことを確認してから、チンコを目一杯突き立てる。
「う゛ひぃぃぃっ♥」
 俺の下でハルカが全身を仰け反らせる。もはや獣と称するのも憚られるくらいぶっ壊れているが、俺に絡まったハルカの両足に力が入り、俺をもう逃がさないという意思が伝わってくる。
《もうすぐ出すぞ》
《♥♥♥っ》
 俺の宣言に、思いのほかすぐに反応が返された。マジか。こいつ、実はこれでも自意識飛んでないのか。
 しかし、もう考える余裕はない。俺はハルカのマンコを征服し尽くすべく、ラストスパートに入った。
「ああ゛あ゛あ゛っ♥ い゛っ♥ い゛っ♥ イっ♥ イきそっ♥」
 本来ならまともに言葉を紡げないであろうハルカの口は、俺の弄りに従い、三度目の絶頂予告を紡ぐ。ただでさえ狭いハルカのマンコがうごめき、俺の射精を執拗に誘う。
「イ゛っ♥ イ゛っ♥ イ゛っ♥ ……イっくううううう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛っ♥」
「……出るっ」
 絶頂とともにハルカの全身が、マンコが激しく痙攣し、それがトドメになって、俺はハルカの中に精液を放出した。
 同時絶頂はあまりにも心地よく、俺はそのまま快楽に身を委ねて、ハルカを物理的に押し潰しそうになった。

 ふと目を覚ましたときには、周りが少し明るくなっていた。
 ゆっくりと身を起こすと、ハルカの顔が目に入る。かわいらしい寝息を立てている。

 結局、俺達は車内で夜を明かした。

 ハルカはカットソー一枚だけを身につけていた。俺が睡魔に負ける寸前に、寝ている間ののぞき見対策として何とか着せたものだ。
 俺は手を後ろに動かし、スマホをたぐり寄せる。
「あっ」
 映し出された時刻を見て、俺は思わず小さな声を上げた。その声のせいか、眠りに落ちていたハルカがもぞもぞと動き出す。
 俺は身体を起こし、展望台に目を向けた。
「おにいちゃん?」
 車内で急いで身支度する俺を見て、目を覚ましたハルカが声を出した。
「お前も行くか?」
「え、何?」
 俺はスマホの時刻表示をハルカに見せ、言う。
「見られるかもしれないぞ、日の出」

「ギリセーフ」
 慌てて服を着直したハルカが俺の元にたどり着いたのは、本人も言う通りかなりギリギリのタイミングだった。
「多分、あの辺だ」
 俺は展望台の縁に立ちつつ、地図を確認して、水平線を指さす。
 とても雲が少ない。そして、明るくなりつつある空の中で、その部分は一段と光り輝いている。

 風はない。決して冷たくはないものの、早朝特有の静謐な空気に包まれている。
 聞こえるのは、俺とハルカの吐息だけ。
 俺の左手に、ハルカの手が触れたのを感じる。俺がその手を緩く繋ぐと、ハルカからしっかりと掴まれる。

 そして突然、水平線の彼方から、目を貫く光が現れた。
「やった」
「わぁ……」
 思わず目を細めながら、小さくつぶやく。

 それは生まれて初めて見る、一日の始まり。

 ――旭平。

 地図で見た、この展望台の名前を思い起こしつつ、なぜかハルカの笑顔が、脳裏をよぎった。
 ふとハルカの方を見ると、ハルカもこっちを向いた。
 どちらともなく唇が近づいて、重なり合う。

《おはよう》
《おはよう、お兄ちゃん》

 最愛の人を唇に感じながら、俺達の思い出が、また一つ増えた。

< つづく >

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