天使のチカラ 第二話

第二話

「…どうしたの?修」

「…え?」

 ジュースを手渡すと、楓はプルタブを開けながら唐突にボクに聞いてきた。

 …ボクと宗佑は合流した後、海から上がってきた楓と恭子ちゃんと合流。
 砂浜でパラソルを開いて、その下で休憩していて…。

 唐突にそんな言葉が楓から出てきたものだから、僕は驚いてしまう。

「ど、ど、どうした…って…何がさ」

「ん?んー… なんていうかな」

 楓は首を傾げて、不思議そうな表情を浮かべながらボクの顔を覗き込んでくる。
 …ボクは当然、何も話していない。
 手に入れた『天使のチカラ』の事も…ウェストポーチだって、ボクのリュックの中に仕舞っておいたから、バレているわけがない。
 ボクが…人を操る力を手に入れた事は…。ボクと、あのヤンキー天使しか知らないのだ。

 それなのに…楓はじーっとボクの顔を見てくるのだ。

「何か…明るくなったよね、修」

「…え?」

「なんていうか…楽しそうな顔してる。…あはは、前が暗かった、ってワケじゃないんだけどね」

 楓はニコッとボクに微笑んでくれた。

 …女の勘、というヤツなのだろうか。何か、ボクに変化があった事に気付いたらしい。当然、何があったかまでは把握していないようだ。
 がさつなように見えて、こういう人の気持ちへの気遣いがキチンとしているのが楓の良いトコロで…ボクが惚れたトコロでもある。

 …かなり驚いたけど…。

「そ、そうかな…。…顔がにやけてる、とか?」

「ん?そういうワケじゃないんだけど…なんていうんだろ、雰囲気っていうか…。こう、態度がハキハキしてる感じがするんだよね。修らしくない感じ」

「…どういう意味さ…」

「前までがメソメソウジウジしてて、女々しかったってコトだよ修ちゃん」

「…ひどいなー、もー」

「あはは、冗談、冗談だよー」

 そう言い合って、ボク達は笑い合った。

 …宗佑と恭子ちゃんは、ボク達とは別に何か話しているようだ。同じ部活の部員とマネージャーだし、積もる話もあるんだろうか。
 同じパラソルの下でも…ボクと楓は、2人きりで話をしていた。

 …海水に濡れた、楓の髪の毛、身体。柔らかな表情の中にも、色っぽさを含めた唇。
 スレンダーな身体に、小振りで形のいい…胸。普段は制服に包まれている楓の身体が…こんなにも魅力的だったなんて。

 …この楓を…ボクの自由に出来るんだ。
 楓の、表情も、体も…思いのままに…!

 ボクは、今すぐにでも楓を『天使のチカラ』で操りたい衝動に駆られた。
 あのリュックに入っている、ウェストポーチ…。
 その中にある道具に手を伸ばせば…今すぐにでも、楓をボクのものに出来るんだ。
 そう…ボクの初恋の人を…。

 … … …。

 しかし待て、落ち着け。

 ボクは『天使のチカラ』をほとんど把握していない。

 さっきトイレで使った【空間変化の板】を一度使っただけで…まだどんな道具がポーチにあるか分からない。
 ヤンキ…天使は言った。道具は、7つあると。

 多分、この状況では【空間変化の板】は使えない。
 説明書には『部屋の一部分』という効果の適用範囲が書いてあった。
 つまりこの砂浜全体を何かの空間に書き換える、というのは不可能なはずだ。

 それでは、他の道具を使わなければいけない。
 しかし、他の道具の効果や、使用方法をボクは把握していないワケだし…今この場で道具を取り出して説明書を読む、なんて真似をしたら楓に怪しまれてしまう。

 このチカラは、絶対秘密にしなくてはいけない。
 三日間という時間を、有意義に、優雅に過ごす為にも…あくまで内密に、事は進めなければいけないのだ。
 人を操る力…。誰かに知れ渡ってしまったら、この道具が取り上げられえてしまう、なんて事態も考えられなくもない。

 ボクは、楓を操りたいという衝動をグッと抑えた。

「…おーい、修?」

「…へ?」

 そんな考え事をしていたら、いつの間にか楓がボクの目の前で手を振っていた。

「どうしたのよ、ホントに。考え事?」

「う、うーん…。…まぁ、ね…」

 …まずい、本格的に心配されはじめてきた。
 ここはどうにか、この場を別の方向に持っていかないと怪しまれる方向にまできてしまうかもしれない。

 … … …。

 …待てよ。

 いい方法があるじゃないか。

 この場をどうにか切り抜けて、道具の使い方を実験できて、ボクの衝動を満たせる…そんな方法が。

 思い立ったが吉日。ボクは立ち上がって言った。

「楓、宗佑、恭子ちゃん。…ボク、ちょっと――――」

 ピンポーン。

 アパートの二階には、心地よい風が吹いていた。
 小奇麗でも、汚らしくもない外観。あくまで、『普通』という言葉が似合うアパート。

 チャイムのボタンを押すと、部屋の中から小走りをする足音が聞こえてきた。
 続いて、ドアが開く。

「…修!?どうしたのよアンタ」

 突然のボクの来訪に驚いたのだろう。姉ちゃんは目を見開いた。

「いや、折角住所教えてもらったのに来ないのもどうかな、って思って。…ふうん、言ってたわりには随分広そうじゃん」

「わ、わ…!ちょっと、覗かないでよ…散らかってるんだから」

 …実は、先程。民宿に着いた時に、ボクは姉にこっそり住所を教えてもらっていた。
 見知らぬ土地での旅行で何か困った時があったら、と姉ちゃんが気を利かせて身内のボクにだけ住所を教えてくれたのだ。

 ボクが姉ちゃん越しに部屋の中を覗こうとすると、慌てて姉はそれを遮ろうとする。

「別にいいじゃん。姉弟なんだから、散らかってようがなんだろうが」

「アンタが良くてもこっちが困るの!もー…ちょっと待っててっ!」

 姉ちゃんは勢いよくドアを閉めると、中で掃除でも始めたらしい。ドタバタと慌しい音がこちらにまで聞こえてくる。
 …弟にそこまで気を使う必要もないと思うんだけどなぁ。しばらく逢ってなかったからなのか…なんだか他人行儀のような感じがして、いい気がしなかった。

 5分程待っていると、姉が息を切らせながらドアを再び開けた。

「…はい。入っていいわよ」

「何やってるのさ…。…お邪魔します、っと」

 ボクは靴を脱ぎ捨てて部屋の中に入る。

 部屋は十畳くらいのが1つあるだけ。キッチンもその部屋の中に入っていて、他の部屋といったらトイレくらいのものだった。
 まぁ、狭いといえば狭いのだろうが1人暮らしには十分なのだろう。
 開け放された窓からは、海が一望できた。景観は最高のアパートだな…うん。
 あの短時間でどれほど掃除をしたのだろうか。散らかっていたとは思えないが…。

「…なんか、押入れからミシミシって音がしてるんだけど」

 …物を全部押し入れに詰め込んだのだろう。妙な音が聞こえてきている。

「あはは、気のせい気のせい。…開けたら殺すわよ」

 …気のせいならそんな事言わなくていいとは思うけど…。

 姉は冷蔵庫を開けるとオレンジジュースの缶を2つ取って1つをボクに差し出してくれた。
 ボクはそれを受け取って、プルタブを開ける。姉も一口、ジュースを飲んでその場に置いてある座布団に座った。

「…それで、どうしたのよ急に。皆は?」

「海で遊んでる。ボクはちょっと疲れちゃったから…。姉ちゃんの家も近いみたいだし、ちょっと寄ってみるって言って来た」

「ふぅん…相変わらず身体弱いんだね、修は」

 ボクもその辺にある座布団に座って、改めて姉と向き合った。
 バイトが終わったからだろうか。白いTシャツにショートパンツとラフな格好に着替えている。
 …随分と薄着だ。身体のラインが強調されていて…そこに少し『女性』を感じてしまう。
 姉は結構胸が大きいほうで、スタイルもいい。
 一緒に暮らしていた頃なんかは随分モテていたみたいで、姉ちゃんの机からラブレターの山が出てきた事を覚えている。
 …しばらく逢わなかったからか、余計に胸とお尻がでかくなった気がする。
 日に焼けた肌にそのスタイルの良さが栄えていた。

「…何ジロジロ見てんのよ、修」

「い、いや…別に」

「ふふん。いくらアタシが美人だからって、欲情するんじゃないわよ?いくらお盛んな時期とはいえ…」

 …考えていた事が目線に出てしまったのか。姉はおどけて、妙な事を言い出す。

「…誰もしないよ。ただ少し太ったかなぁ、って」

「…うっさい!」

 図星か。胸とお尻もでかくなったが、なんというか、全体的に少し太くなっている気がした。
 ボクは姉ちゃんに軽く頭を小突かれる。

「…コホン。…それで、こっちはどう?楽しい?」

 姉はボクに向き直って、微笑んで首を傾げた。完全な『お姉ちゃん』のモードだ。

「…うん。楽しいよ。海に来たことなんて滅多にないし…そこで皆と一緒に遊べるなんて、夢みたい」

「あはは、そっか。そりゃ、招待した甲斐があったってもんだね。お姉ちゃんも嬉しいよ」

 姉ちゃんは心底嬉しそうに、笑ってくれた。
 …実際、この旅行を一番楽しみにしてくれていたのは…姉ちゃんなのかもしれない。
 小さい頃からボク達の面倒を見てくれていて…体格も、性格も、すっかり大人に近付いたボク達の成長を久しぶりに見れるのだ。
 姉ちゃんの性格を知っているボクだからこそ、それが姉ちゃんにとってどれだけ嬉しい事か分かる。

 姉ちゃんは…楽しそうだった。

「…あ、修。スイカ食べる?切ってあげようか?」

「ホント?丁度小腹すいたところでさ」

「よしっ。んじゃ、ちょっと待ってて」

 姉ちゃんは立ち上がると、冷蔵庫の野菜室から大きなスイカを取り出し、キッチンに向かう。
 つまり、ボクには背を向けた格好になった。

 …ボクは、傍らに置いておいたポーチに手をかけた。

(…さて…どんな道具が出てくるのかな…)

 …この瞬間を待っていた。
 姉ちゃんの視線がボクから離れる瞬間を。

 今の状況、楓や恭子ちゃんと2人きりになるという場面はまず作れそうにない。
 まして、どの道具がどれくらいの範囲でどう人を操れるのかを把握できていないのだ。
 個室で暮らしている姉ちゃんを道具の実験台にする、というのがボクに今出来る『遊び』だった。

 …身内の心を操る、という事に罪悪感はない。
 これはあくまで実験…。別に、姉ちゃんの心を壊すような事はしないのだから…。

 そんな事を考え、ポーチの中を漁っていると…何か、とても細い物をボクは掴んだ。

(…糸?)

 取り出してみるとそれは…細く、透明な、ピアノ線のような糸だった。

(なんだ、コレ…?)

 【空間変化の板】も胡散臭かったが、これで人の心が操れるなど…到底思えそうにない。
 ボクはポーチから取扱説明書を探った。
 意識して探してみると、取扱説明書はすぐに出てくる。このポーチはボクの心を読めるのだろうか。
 …まぁ、いいや。ボクは説明書を読んだ。

【支配の糸】

 ・この糸で繋がれた者は、支配者の言う事全てに対して従順となる。
 ・対象は1人。
 ・効果は糸を取るまで有効。
 ・糸を取った瞬間に、操られていた時間の記憶は全て消える。

 …また、随分と大雑把な説明だな。
 つまり…姉ちゃんがボクの言うがままに動く、っていう事かな?
 いや、でも…そもそもこの糸で『繋ぐ』って…どうやれば姉ちゃんを繋げられるんだ?

 …さっぱり使い方が分からないぞ…。

 … … …。

 ひょっとして…。

(…繋がれ、繋がれ…!)

 ボクは糸の先を姉ちゃんの背中に向けて、そう念じてみる。
 前回の【空間変化の板】の要領だ。ボクが思ったとおりに道具は動いてくれた。…なら、この【支配の糸】だって…!

「…!」

 思った通りだ。糸はするすると姉ちゃんに向かって伸びていき…その糸の先は、姉ちゃんの頭…。旋毛にピタッ、と張り付いた。

 キィィィィン…。

「うわっ…!?」

 まただ。また道具が俄かに光を放つ。…操り開始の合図なのだろうか。

 そして、その瞬間…。

「あ、っ…」

 スイカを包丁で切る姉ちゃんが僅かにうめき声をあげると…その動きをピタッと止めた。
 …動こうともしていない。まるで時間が止まったかのように…そのままの体勢で、止まっている。

「ね…姉ちゃん?」

「… … …はい」

 背中を向けてはいるが、姉ちゃんの返事が聞こえた。
 …今まで聞いたことのない、姉ちゃんの声。全ての感情が消えた…姉ちゃんの返事。
 これで…姉ちゃんはボクに、従順になっている、のだろうか…。

「…姉ちゃん、包丁を置いて、こっちを向いて」

「… … …はい」

 クルッ、と姉ちゃんはボクの方を向いた。
 …その瞳は、虚ろ。瞳の奥には何も映っていない。ただ、ボクの方を向いているだけで…ボクを『見ている』という感じはしなかった。
 姉ちゃんは…今、ボクに『支配』されている。それが分かった。

 …さて…どうしようかな。
 姉ちゃんを支配出来たのは分かったけど…次に、何をしよう。

 … … …。

 いつも、肝心な事は煙に巻く姉ちゃんだ。今の状態は100%、『真実』を語ってくれる状態なんだし…。
 この際…色々な秘密を喋らせてみる、っていうのも面白そうだな…。

「じゃあ…ボクの質問に正直に答えて」

「… … …はい。正直に、答えます」

 姉は虚ろなまま、小さく頷いた。
 よし…どうせ記憶は消えるんだ。色々聞けなかった事を聞いてやろう。

「彼氏はいるの?」

「… … …いません」

「いたことは?」

「… … …ありません」

「誰かに告白された事は?」

「… … …沢山あります」

 …これは、以外だ。あれだけモテてた姉ちゃんが、男と付き合った事が一度もないなんて…。
 男性恐怖症か何かなのだろうか?その辺りをもう少し掘り下げてみよう…。
 …なんだか、尋問する事が段々と楽しくなってきていた。

「何故告白をされるのに、付き合わないの?」

「… … …悪いから」

「悪い?誰に」

「… … …修に」

 … … …。

 …え?

 ど、どういう事だ?
 ボクに…悪い?何がどう、悪いんだ?

「…どういう意味ですか?」

「… … …修は、アタシが守ってあげなきゃ、だから…。アタシが誰かと付き合っちゃうと…修が1人になっちゃう、から…」

 …うーん…。
 …なんとなく、姉ちゃんの言っている事は分かる。

 小さい頃…まだ楓や宗佑と逢っていなかった頃。
 外にあまり出られないボクに友達なんていなかった。だから…遊び相手といえば、ほとんど姉ちゃんだ。
 自分で言うのも何だけど、かなりのシスコンだったし…姉と遊ぶのは全く苦痛ではなく、むしろ本当に嬉しかった。
 まだ異性なんて概念がほとんどなかった時期だ。お風呂もしばらく一緒に入ってたし…姉はボクの面倒をよく見てくれていた。

 それを…姉は、ボクを気遣ってやっていたわけだ。
 ボクが…たった1人の弟が、一人ぼっちだったから…姉である自分が弟の面倒を見なければいけない。
 そんな責任感が姉に生まれ…その延長線が、今でも続いているってワケか。

 修を分かってあげれるのは自分しかないない。
 だから、自分が他の男と付き合ってしまうと…修が、ボクが一人ぼっちになってしまう。

 …責任感の強い姉だ。そんな事はないと分かっていても、その呪縛から逃れられないのだろう。
 ボクはそんな風に考えていた。

 …いや…。

 でも待てよ…?

「…姉ちゃん」

「… … …はい」

「ボクを…河瀬修を…恋愛対象として見ていますか?」

「… … …」

 …姉ちゃんの心の奥底に…別の感情があるかもしれない。
 建前の真実なら今聞ける。ただ…それが人間の本当の感情であるとは、限らないのだ。
 もし姉ちゃんがボクの事を…姉弟ではなく、1人の男として見ているのであれば…話は変わってくるのだ。

「… … …分かりません」

 …そうきたか。
 理性じゃ、感情は言葉に出来ない…。
 でも、はっきりNOって言わない辺り…可能性がないわけじゃあないな。

 …少し…質問を大胆にしてみるか。

「ケホン。それでは…弟で、その…オナニーをした事はありますか?」

「… … …あります」

「!」

 …聞いたら聞いたで、少しショックだった。
 …そりゃあ、ボクも年頃の頃は、姉ちゃんの事考えて1回や2回…あったケド…。
 まさか姉の方もボクを思ってしているなんて、思わなかった。

 …なんだか…嬉しい、気がした。

「… … …最近は、特に多く…。修の顔、見てないから…寂しくて…」

 聞いてもいないのに姉はその事について話してくれた。

 …女の人の…自慰行為。
 どんな感じ…なんだろう。

 … … …。

 目的が変わった。
 ボクは…姉の『その行為』を…見たくなった。

「それじゃあ…今…弟の事を考えながら…いつもどおり、オナニーを、してください」

「… … …はい」

 姉はベッドに倒れ込むと、ショートパンツを膝まで下げる。
 薄い青の下着を露にすると、その上から秘所をそっと人差し指の腹でなぞった。

「ん、っ…」

 性の感覚はあるのだろうか。僅かに姉ちゃんは喘ぎながら、自慰行為を続ける。

 …普段見ない、姉の淫らな姿。
 …女って…こういう風に、するんだ…。

「ん、ふぅっ…。んっ、ん…」

 今姉ちゃんは…『ボクの事を考えて』…しているわけで。
 …どんな事を想像しながらやっているのだろう。それを考えるだけでも、ボクは興奮した。

「くはぁ…っ。はぁ…っ、ン…。ん…」

 枕を自分の口に乗せると、それをぎゅっと握り締めて、声を押し殺そうとする。
 それでも性感が高まり声が自然に出てしまうようで、赤い顔をしながら快楽に溺れていた。

「はぁ…っ。はぁ…。… … …」

 下着越しではもう我慢できなくなったのだろう。
 姉はうつ伏せになり、膝を立てた体勢になる。そして…下着を膝までずり下ろし…。

 …薄いピンクの、秘部が露になった。

 透明の液体で湿ったその場所。
 姉ちゃんは見せ付けるように足を開き…自分のクリトリスに触れる。

「あっ…!く、ゥ…ん!ん、んんんっ…!」

 直に触れるのは強烈な刺激なのだろうか。先ほどより一段と声が大きく、淫らになる。
 人差し指の先を使い、円になるように豆を転がしていく。
 そのたび、秘所の湿り気はどんどん高まっていき…。

「ひゃあああっ…!あ、あああっ…!あ、ンっ!… … …」

 十分に濡れた秘所の中に、姉は人差し指と中指をゆっくりと入れていく。
 男性器に見立てて、なのだろうか。焦らすようにゆっくりと…指を自分の膣に侵入させていき…。

 …それは…ボクのモノを想像しながら…?

「あンっ!うああッ!っ、くああーっ!」

 2本の指は、秘所への出し入れの運動を繰り返す。
 愛液はベッドのシーツにまで垂れて…。姉は虚ろな顔をしながらも、淫らな表情もしていた。快楽に溺れる…女の顔。こんな姉ちゃんの顔は見たことがない。
 …可愛い。素直にそう思えた。

「んんんっ!修…っ!はげし、くっ…してェ…!」

「っ!」

 急にボクの名前を呼ぶものだから、少し驚いてしまう。
 …ボクの事を考えてオナニーをしろ、と命令した。
 しかしまさか…ボクに貫かれる想像をしながらやっている、なんて…。
 本当に姉ちゃんは…ボクの事を…?

「修…っ!うぁぁ…気持ちいいっ…気持ちいいよぉぉっ…!」

 普段の…理性のある姉ちゃんが…。この場に弟がいる、なんて事を認識したら、どうなってしまうのだろうか。
 本人が目の前にいるのに…その本人の事を考えて自慰行為に浸る。異常な光景だ。

「修のおっきい…っ!大きいよぉぉ…!激しくぅ…ひゃあああンっ!もっと、激しく動いてぇぇっ…!」

 姉の中のボクは、どんどんとその動きを激しくしていく。
 壊れそうなくらいに2本の指は動きを早く、強くして…姉の性感はどんどんと高まっていく。

「らめえええっ…!くるっ…きちゃいそうなのぉおおっ…!!すごいよぉぉぉ!!」

 身体を捩らせながら、姉はオナニーに浸る。
 そして、絶頂が近付いているらしい。
 ビクビクと身体が震え始め、腰をピンと上げて迫るオーガニズムに姉は期待をした。

「イくっ!!イくイくイくウウウウウウウウッ!!あはああああっ!!」

 秘所から愛液が噴出したかと思うと、激しく動いていた指の動きはピタっ、と止まった。
 ビクンっ、ビクンっと姉ちゃんは身体を大きく震わせ…。
 そして力尽きたようにベッドに倒れ込んだ。

 これが…女の人の。…姉ちゃんの…オナニー。

「はぁっ…はぁぁっ…。…修…っ」

 姉ちゃんはまだ、ボクの名前を呼んでいた。

「…あれっ?」

 ベッドから姉は起き上がると目をパチクリさせてボクを見た。

「あれ、アタシ…」

「おはよう、姉ちゃん。急に倒れたからびっくりしちゃった」

「え…?倒れた…?」

「うん。『疲れた~』なんて急に言い出して、ベッドでいきなり寝ちゃうんだもん。どうしたのかと思っちゃった」

「…そっか、アタシ…」

 …記憶はまるでない。
 しかし、ベッドに今自分が寝ているのは紛れもない事実。
 ここは、ボクの言葉を信じるしかないだろう。

「あはは…そっか。ごめんごめん。ちょっと疲れちゃったのカナ…」

 姉は少し照れたように笑うと、ベッドから離れた。

「大丈夫なの?」

「うん、平気平気。…んっ?」

 台所に向かおうとした姉はピタッ、と動きを止めて…ボクに気付かれないようにそっとショートパンツの上から秘所を触る。

「修…アタシが寝てる間に…何かした?」

「…ううん?何も?」

「… … …」

 自分の秘所に残る…違和感。
 何で寝ていただけなのに…こんなに濡れて、火照っているのだろう。

 姉はそう考えて、立ち止まったはずだ。

「…あはは、そうだよね。…弟だもんね…そうだよね…」

 姉は自分に言い聞かせるように小声で呟き、笑った。ボクの事を…信頼してくれている。

「スイカ切ってる途中だったね。ごめん、今切るから」

「あ。ありがとう、姉ちゃん」

「あはは、お姉ちゃんに任せなさ~い」

 姉は笑いながら、キッチンに向かっていった。

< つづく >

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