粘土遊び 第3話

第3話 新世界への船出

 ・・・早耶香ちゃんが、好きだ。

 友達に唆されたせいもあったかもしれない。
 まだ、ロクに話もしたことのない相手に、幼かった俺は、手紙を書いた。

 自分の思いを、全部書ききるように。
 自分の思いを、全部伝えられるように。
 好きだ。好きだ。好きだ。好きだ。ただその連続を遠まわしに書いていった。
 それが、俺の気持ちだったから。

「・・・あのっ・・・コレ・・・読んで・・・!」

 俺は声を必死に出して、赤い顔で手紙を差し出した。
 愛しの早耶香ちゃんは、それを不思議そうに俺の手から取り、中身を見る。
 彼女の顔が変わり、俺を見る。
 まるで、ゴキブリでも見るかのような、嫌悪感を表す顔。

 手紙は、俺の目の前で破り捨てられた。
 茶色の地面に、不揃いの白い紙が幾つも散らばっていく。

「・・・」
 
 彼女は何も言わずに、その場を去っていった。
 帰る瞬間、鼻で笑ったような声が聞こえた。
 俺をあざ笑う声。
 俺は散らばった紙の上で、ただただ泣いた。

 ・・・夢・・・か。
 かなり不機嫌な心境で、俺は目を覚ます。
 ・・・。
 ・・・まだ夢・・・か・・・。
 そう思って目を覚まそうとするも、「彼女」はその行為をやめなかった。
 

 早耶香が・・・俺の男根をしゃぶっていた。

「はっ・・・ん、むぅ・・・!・・・あ・・・♪」

 美味しい飴をしゃぶるように、喜んで・・・俺の男根を舐めていた。

 夢の中の、幼い・・・俺を嫌悪していた早耶香。
 現実の、今・・・俺に奉仕をする早耶香。
 その姿がダブって・・・余計に俺の性感を刺激する。
 ふふ・・・すばらしい朝だ・・・。

「何・・・してるの?」

 俺はわざと早耶香に聞いてやった。

「はむぅ・・・っん・・・!朝の、ご奉仕ですよぉ・・・ご主人様ァ・・・♪」

 嬉々として、早耶香はそう答える。

 昨日、寝る前に埋めこんだ粘土。
 その内容はこうだ。
 「下僕は、朝の仕事として、ご主人様のチ○ポを舐める。同時に、それは自分にとって快感となり、喜びとなる。」

 まぁ、とりあえず下僕としての仕事でも・・・と粘土をつけてみたが・・・ふふ、こんなに楽しそうにやってくれるとはね。
 これからも、こういう取り決めをつけていこう。
 ・・・元の早耶香が消えるように、ね・・・。

「は、ァ・・・っ・・・ん、ちゅっ・・・れろ・・・」

 キスをするように、舐めるように、様々な方法で俺に「奉仕」をする。
 ・・・俺は君の、ご主人様だからね・・・
 愛しい下僕の頭を、俺は撫でてやる。

「ん、んっ・・・♪あ、ふぅ・・・ん・・・」

 猫のように、俺の足に身体を摺り付ける。

「・・・っ、く・・・出すぞ・・・!」

 俺は溜めこんだ精液を、早耶香の小さな口の中へ全て出す。

「んぐゥゥゥッ!ん・・・ッ・・・!ん・・・!」

 一生懸命に、俺の大量の精液を飲み干そうとしている。
 ふふ・・・いつの間にこんな淫乱になったのかな・・・。

「・・・ぷ、はッ・・・。・・・飲みましたぁ・・・ご主人様・・・♪」

 口を開けてそれを示すと、甘えて、俺の胸に擦り寄ってくる。
 俺は早耶香の頭を撫でながら、見えないように笑う。

 そう、俺は・・・こいつを手に入れたのだ・・・!
 完全に・・・下僕として・・・!

 
「幸平ー!ご飯よー!」

 ふいに聞こえる、母の声。
 ・・・しまったな。そう言えば、昨日のうちに両親が帰ってきている。
 寝ちまってすっかり気づかなかったか・・・。
 まぁ、俺の部屋にこなかっただけ、マシか・・・。俺が女と寝てるなんて、とんでもないコトだからな。
 眠っちまうってのも、なかなか不便な能力だ。これからは気をつけるとするか・・・。

「早耶香、俺の後ろに隠れて、こっそり玄関から出ろ。見つからないようにするから。」

「はい、分かりました。」

 素直に答える下僕に俺は一回キスをして、部屋から降りる。
 リビングには両親がいる。リビングは廊下と扉ひとつで繋がっていれ、扉からしか廊下の様子は見えない。
 要するに、俺の身体に早耶香が隠れていれば、ほとんど親からは見えないってわけだ。

「・・・おはよー・・・」

 俺は眠そうにしている演技を見せる。

「余裕もってるんじゃないの!もう学校の時間なんだから、早く支度しなさい!」

 母は、俺にトーストを一枚差し出すと、忙しそうにキッチンへ行く。
 俺はその間に廊下の様子を見る。
 無事、早耶香は外へ行ったようだ。
 トーストを食いきって、着替えを済ませ、俺も玄関の外へ出た。

 外で早耶香と合流し、俺は背伸びする。
 新しい1日・・・いや、新世界とでも言うべきかな。
 俺のチカラで、素晴らしい世界にしていこうではないか・・・。
 早耶香をチラ、と見て、そう心で言う。

「さて、と・・・早耶香、じっとしていろ」

「はーい!」

 元気よく返事をする早耶香の胸に俺は手を近づけ、粘土を埋めこむ。
 「桂が『ご主人様』という事は、桂が『麻生さん』と自分の事を呼ぶと、忘れ、元の麻生早耶香になる。また、桂が『下僕』と呼ぶと、下僕の状態となり、下僕の時の記憶が戻る。」
 ・・・こんな感じか。

 粘土の無駄遣いを減らすために、俺が考えた方法だ。
 粘土で対象を下僕にしようと、こういった、人間の潜在意識に働きかける命令は再び粘土を使わなければいけない。
 下僕の状態で、「忘れろ」といっても、無駄な事。記憶まで消せるわけではない。
 しかし、こうしておけば、いつでも下僕の状態に出来る。無駄遣いが減らせるってわけだ。
 これで・・・今日の粘土の使用は、後2回か。

「・・・?」

 しばし虚ろな目をしていた早耶香の意識が戻り、「?」という顔で俺を見ている。

「うん、分かった。それじゃあ、またね『麻生さん』。」

「・・・!! ・・・・・・・・あ、あれ・・・?」

 俺が名前を呼んだ瞬間、本来の「麻生 早耶香」がよみがえる。
 辺りを見渡して、自分の状態が理解できないようだ。
 そりゃそうか。言えば、急に朝になってて、桂の家から出ているって状態なんだから。

「麻生さんも学校、急いだ方がいいよ・・・。・・・それじゃ、またね♪」

 既に早耶香の携帯の番号は把握しておいた。これで、やっと野放しにして平気な状態になったわけだ。
 そう最後に言い残し、俺はその場を後にし、学校へと向かった。

 
 やっぱり、というか、学校には遅刻してしまった。
 1時間目の先生に適当な理由をつけて、俺は席についた。
 
 ・・・眠い・・・。
 やっぱ・・・まだ三回使うのはキツいな・・・。
 もうちょっと慣れれば・・・なんとか・・・
 ・・・。
 ・・・。

「・・・ん・・・あ・・・」

 ふと目を覚ますと、教室に生徒の影はなかった。
 ・・・一旦起きて昼飯食ったのは覚えてるが・・・どうやら、その後にまた寝ちまったらしい・・・。
 夕焼けが眩しいくらいに、教室の窓から俺を照りつける。
 夕日に手をかざし、光を遮ると、俺は背伸びをする。
 ・・・帰るか・・・
 何だか学校が終わったって感じがしないが、それでも帰らなければしょうがない。
 まぁとっとと・・・

「・・・いてぇッ!」

 頭に、何かで叩かれたような痛みが襲う。
 いや・・・叩かれたようだ。後ろに誰かの気配がする。
 ・・・・・後ろを振り向けば、見知った顔がいた。

「桂クン・・・また掃除サボったでしょ。」

 ・・・。
 「斉藤 浅実(さいとう あさみ)」。
 俺のクラスで学級委員長をしてる女だ。
 この態度と階級で分かるように、俺のクラスのリーダー的な存在。
 強気な性格に、スポーツ万能。腕っ節にも自信ありで、その辺の男にも負けないようなヤツ。

 ・・・正直、苦手だ。
 俺はクラスで何か一丸となってするような行動は好きじゃないんだが、こいつはまるで逆の性格。
 やれチームワークだ何だって、とことんクラス内を取りしきっている。
 そうやってやる気のない人間・・・まぁ、俺みたいな人間を敵視していて、いつもこんな感じになる。

「・・・寝てた。」
 
 素直にそう言い返すと、浅実はフンと鼻で笑って俺を見下す。

「あんた、どれだけクラスに迷惑かけてるか分かってるの?掃除当番、何回サボった?その度私たちがあんたの分まで掃除しなきゃなのよ?分かってる?」

 ホラ出た。
 俺に文句を言うときの決り文句だ。
 「クラス」「迷惑」「分かってる?」。
 いい加減ワンパターンで飽きてきた。

「はいはい、次からはちゃんとやりますよ。」

「・・・次サボったら、先生に言いつけるからね。いい?ここまで黙っておいたアタシに感謝しなさいよ?」

 ・・・いい加減ウザいなこいつ・・・。
 自己満足もいいところだ。こういう自分に酔ってるヤツは・・・ムカつく。

 ・・・確か粘土はまだ2個残ってたな・・・。
 慣れのためでもある。・・・少し悪戯してやるか。

「斉藤さんは、そんなにクラスが大事?」

「・・・は?」

 唐突にそう言われて、生意気な顔で聞き返す。
 「あんた何言ってんの?」といった顔だ。

「自分の体力と知恵使ってさ。みんなまとめるのも疲れるでしょ?もうちょっと肩の力抜いて、楽に生活しようって思わない?」

「・・・あ、あんたが・・・あんたがちょっとは行動してくれれば、アタシの疲れもちょっとはねぇ・・・」

「答えになってないよ。俺はそんなにクラスクラスって言ってて疲れてない?ってことだよ」

「・・・」

 くく、黙り込みか。
 急に俺の態度が変わったんで、少しビビったか。
 立ち上がって、俺は浅実に近づく。

「まぁ、そんなにクラスが好きなら、いいよ・・・。だったら・・・」

「え・・・?」

「俺がもっと好きにしてやるよ。」

 浅実の心に、粘土を埋めこんだ。

(・・・。・・・あれ?どうしたんだろ、アタシ・・・。確か・・・)

「・・・斉藤さん?しっかりしてくれよ。話の途中だろ?」

(・・・あ・・・そっか。桂に説教してたのよね。そうそう、こいつはまた掃除サボって・・・クラスのみんなに迷惑がかかってるって、まだ気づいてないんだから・・・!)

「それで?俺はどうすればいいのかな?斉藤さんは、俺がどうすれば納得してくれるの?」

 浅実はフン、と鼻で笑って、腰に手を当てる。俺を指差し、きめ台詞を言うように言葉を発する。

「当然でしょッ!もっとアンタはクラスの為に・・・・ッ・・・!?」

(あふゥッ!?な、なに・・・コレ・・・?)

 急に、浅実はスカートの上から秘所を抑える。
 顔が赤くなり、膝がかすかに震えている。表情も、少し苦しそうだ。

「うん・・・?クラスの為に・・・?聞こえなかったんだけど」

「だ、だからァ・・・く、クラス、の・・・ああッ!くゥッ!!」

(な、なにこれ・・・!き、気持ちいいよ、ォ・・・!あああっ・・・!)

「?斉藤さん?大丈夫?」

「だ、大丈夫に、決まってるじゃない・・・!へ、変なコト、言わないでよ・・・!」

 俺は少しニヤニヤして、その様子を観察している。

 浅実の粘土の内容は、こうだ。
 「浅実が『クラス』と口にするたび、快感を得る。」。
 ふふ、これでクラスの事がもっと好きになるだろうよ。
 その代わり、俺の前で恥かくことになるが・・・まぁ、どこまで理性を保ってられるか、見物だね。

「ふーん、大丈夫ならいいけどね。さて、じゃあ話続けてよ。」

「だっ、だからァ・・・く、クラス・・・ああああああッ!ひ、ぃぃいいいンッ!!!」

(な、何コレ・・・!・・・!ひょっとして・・・アタシが、『クラス』って言うと・・・!」

 浅実の表情に変化が見えた。何かに気づいた顔だ。
 ふふ、仕掛けに気づいたかな?
 さて・・・どうなる・・・?耐える?それとも・・・

「・・・く・・・『クラス』・・・くひゃあああああッ!!!あああ、いいいいいッ!!!何コレェェエエエエッ!!!」

 困惑の表情。
 しかし、明らかに快楽に身を任せているな・・・。
 
「く、クラスゥゥゥッ!!クラ、ぁあああああ!!シュウウウウッッ!!!!い、いくゥゥーーーーッ!!!」

 ・・・はは、堕ちやがった。
 さぁ、絶頂も近いか。

「く、くら・・・ス・・・!!!ひャアアアアアアーーーーーッ!!!あ・・・ああ・・・!」

 声にならない、最高の快楽のようだね。
 しばらくそのままの体勢で固まって、絶頂の時が終わると、その場に崩れ落ちる。
 ・・・気絶したか。はは、そんなに気持ち良かったのかな・・・?

「・・・良かったね。大好きな『クラス』でイケてさ♪」

 聞こえないだろうが、そう浅実に呟く。
 明日学校で逢ったときの顔が楽しみだなぁ・・・。
 
 粘土は消さないで、俺は教室を去った。

< つづく >

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