key 第二章の14

第二章の14

「ふああぁぁ…ん?」

 珍しく自分で目が覚める。と、なんか肩口が重い。
 というか、巨乳だった。

「………おぉ」

 そういやそうだった。
 俺は一人で納得すると体を起こし、カーテンを開ける。

 北東から見る街にあまり変化は見られない―――が、その向こう側には明らかに変化があった。
 海岸線の向こう、海浜コンビナートは二日経った今でも黒い雲がうっすらと上がっている。

「…………」

 今日から1学期最後の週になる。
 正確には週中に1学期が終わり、金曜からの週末3日間は都市全体を巻き込んだ学園祭が行われる。

 その為、昨日会った連中は今週中に何かしらアクションを起こすことはないだろう。昨日のサンドステージは休戦協定式のようなもの、白鷺はあの通り、そして―――九頭インダストリィに関しても。普通なら街ぐるみといってもいち企業である以上、そこら辺のことを感知しなくても不思議ではない。
 が、学園祭の生徒側の主導が九頭のトップであるのなら話は別。

 昨日、サンドステージに居たアイツならそこら辺の手は打っているだろう。多分、だが。

 それを前提で何か仕掛けてくるとすれば昨日、来ていなかったか名乗りを上げなかった1人か2人…多くて3人程度、か。
 しかも状況の読めていない小物だろう。
 俺の手元に半数に近い指輪があるということが分かっていれば、ここ以外、正確には隣町に居城を構える白鷺を攻める以外ない。

 複数の指環使いの集うここや物理的にパワーバトルが出来る九頭インダストリィに攻めるには透明化や瞬間移動などの特殊移動が前提条件と必要になる。
 
 なんせ、国内で警察や自衛隊に向けた銃器製造を許可されているメーカーだ。
 不可思議な手品を身につけた程度では近距離で、しかも多人数から放たれる鉛の玉は防げない。

 例え、正面突破できる武力を有したとしても世界の枢軸に展開する大組織に記録が残る形でケンカを吹っかけるようなバカもそういないだろう。
 結果、貧乏くじかどうかは分からないが必然として白鷺にお鉢が回ってくると言うわけだ。

 もちろん、そういった連中の小競り合いもあるだろう。
 だが、大勢はかわらない。

 白鷺がそちらを撃破してくれるなら助かるがこの機に乗じて乗り込んでくる奴もいる可能性も否めない。
 あとで華南達を呼んでそこら辺を詰めておいた方がいいな。

 それと………先日の闖入者、か。
 テレビを付けなくてもわかる。

 おそらく、民放は昨日行ったサンドステージについて、国営放送は一昨日のディヴィルまんの刻んだ爪痕がトップかそれに伴う形で放送され、この都市の異変は10年前のあの事件と相まって国内に広まっているに違いない。
 
 その点も含めてアイツは、ディヴィルまんはこれ以上、放ってはおけない。
 だがどうする?あの熱光線の矛先がこちらに向けられただけでお手上げだ。
 どうしたらいいモンか…

「んっ、んんんっ…」
 
 フェニックスとの契約によって体を蝕まれていた妹が枕元で安らかな寝息を立てている。
 昨日、サンドステージのダブルシンボルを着た影響か、呼吸がだいぶ落ち着いてきている。
 
 ま、デヴィルまんに関しては昼頃には何かしらアイディアが湧いてるだろ。
 そう考えながら男に戻るべく、指輪を起動させた―――

「……」
「………」

 食卓を、沈黙が支配していた。

「どうしたのみんな。あのあと何かあった?」

 昨日、ひかりの付き人としてパーティー会場に残り、絡みに参加しなかったみなぎが怪訝そうに自分以外の少女たちを見る。

「え、あ…うん、まぁ」
「えと、うん、ねぇ…?」

 めいめいに明後日の方を向いてはぐらかそうとする。
 結果―――

「にぃさま?」
「大方、疑似的に男のモノを付けた際の感覚が忘れられなくて反芻してんだろ、あんま気にすんな」

 ぶっ、と何名かが口に含んだものを噴き出す。

「おぉ、にぃ様、ぐっじょぶ」

 人差し指と中指にの間に親指を挟めてこちらにぐっ、と差し出してくる。

「…なにがぐっじょぶだかしらんが。

 それよか、みなぎ、オマエんトコの今週の学園祭の出し物ってなんなんだ?」

 今週行われる学園祭、他の連中のクラスはどうなってるのか気になった。

「ん、こっちはめいど喫茶」
「…安直っつーか世相を反映してんな」
「中等部でめいどなところに価値がある」

「それは見事なまでに高等部のお姉さん方を敵に回している。
 しかも、そこまで安直というか性的に欲情丸出しな価値の見出し方ってどうかと思うんだ」

「短期勝負はシンプルいずベスト。そして見事なまでに本職がここに一人」
 
 すたっとイスから立ってスカートの両端をつまみ上げ、優雅にお辞儀して見せる。

「…まぁ、否定はしないが」

 どっちかっつーとオマエはボディガードだろう。

「お客を椅子、もしくは机でブン殴るサプライズもばっちり講習済み」
「止めとけ、ソイツはオレのトラウマに対するサプライズすぎる。せっかと佐乃は?」

「んと、お化け屋敷」
「某の所は純和風喫茶を」
「ま、学生の考える範囲じゃそんなモンだよな」

 喫茶か、お化け屋敷か、展示か。定番過ぎるゆえに大きな外れもない。

「佐乃の所は佐乃がいたから決まったようなモンか」
「はい、茶の点て方や着物の着付けなどの陣頭指揮に当たっています」
「金がかかりそうな上に…モノになんのか?」
「付け焼刃ですが、出来そうな人たちに頑張っていただきます。

 自然とふるいにかかっていく、か。

「着物はお古ですが実家のあまり物を何着か借りてきました」

 流石は名家のお嬢様。

「お兄ちゃんっ、私も佐乃ちゃんからお古借りたの!」
「あぁ…って、なんで? オマエのところはお化け屋敷―――」
「ゆきおんな」
「あぁ…」

 祖母さん譲りの青髪からか、それとも名前からか、これまた安直な気がしないでもないが納得。

「…お古ってせっかの部屋の内の一つ丸々使って飾ってあったアレでしょ。
 あの紋付きの振袖ってどう考えても博物館とかに所蔵され―――」

 実家が神社でそこら辺の見立てはできる千鳥が言いかけるが佐乃の慌てた様子を見て口を閉ざした。無粋なマネはしない、ということか。
 ま、そこまで言えば気付く人間は気付く。
 が、肝心の妹はこの期に及んで気づいていない。
 …まぁ、服なんて着てナンボだしな。

「大事にしろよ?」
「うんっ!」

 嬉しそうな雪花の顔を見て佐乃が胸を撫で下ろす。

 そして―――

「で、ウチは?」
「…………」

 あ、なんか担任とクラスメイトからの視線が痛い。

「…ねぇ、あれだけ手伝ってくれてたのに分かんなかったの?」

 千鳥が呆れた声を上げる。

「ひどく凝った中世風の出し物ぐらいにしか」

 計画に支障が出たのはその凝り過ぎた内装の為だ。
 まぁ、それを考えればみなぎのところと同様、メイド喫茶かなんか…というかみなぎが真似したのかもしれない。

 本来なら学生の行う喫茶店のマネ事なんて衣装から始まり、テーブルとカーテンの装飾ぐらいのものだが改装と言って良いレベルのバロック調の装飾を授業に支障の無いレベルで、なんていうのは離れ業に近い。

 各内装をブロック分けした後、アタッチメント方式で組み立て上げるようにしなかったら今週は間違いなく、地獄だった。

 いや、人数の少ない状況下でのあの作業は地獄だった。
 ただ作業量は極悪だったが士気高揚によって地獄の苦しみを味わったものは皆無だった。

「つーかあんな現実離れした企画、立てたの誰だよ」

「民意です」

 声のした方向、正面―――唯一、食事を共にしていないひかりが戸口に立ち、憮然として言ってきた。

「…オマエかい」

 多少、無茶な計画でも[朱鷺乃さん]が希望してその上、全面バックアップするとなれば他の連中は追随する者が多い。
 …どっちかつーとバックアップしたのは全面的に俺だった気がしなくもない。

「長期欠席者が複数出た時点で計画の修正に関しては?」
「考えるだけ野暮ってモンです」

「間に合わなかったら?」
「まぁ、それも学生時代の思い出ということで」
「トラウマになるっちゅーの」

 オマエはどこぞの短命政権かと突っ込もうとしたがなかなかどうして無理無茶無謀を可能とするブレーンがいて、実現できるのであればそれは間違いなく、発案者の手柄になる。

 幸い、白鷺によって負傷した連中もギリギリで回復できる見通しになっていた。
 実のところ、裏側でストラスに自然科学知識、とりわけ治癒向上を教授された千鳥に動いてもらったりしていたのだが、正直、ほとんどの連中が復帰できるようになるとは思わなかった。
 これで当日の人員が確保できれば現在の作業班の自由も約束されるだろう。

「もう、オレが出張る必要はないな?」
「ん…手伝ってもらえるなら助かるけど…手伝わなくてもなんとかなる、かなってトコ」

 天井に眼を向け千鳥が少し考えて答える。

「じゃあ、気が向いたら出向く」
「気楽なモノですね」
「そうでもないが…ま、そんなモンか」

 ちょっかいを出してオレ達の学園祭そのものをブチ壊そうとするような連中を相手にするのはそういうことなのだろう。

「さて、と。そんじゃオマエ等は学園に行って来い。あと―――ちとせ」
「はい、なんですか?」

「サレオスの指輪、貸してくれ」
「はぁ…いいですけど…何かするんですか?」

「いや、仮契約だけしておこうと思ってな」
 いつもの逆パターン。オロバスかべリアルの地位代替能力で一応、仮契約を結んでおくことでサレオスの王であることが機能する。

「お兄ちゃん、私のフェニックスさんは?」
「そっちはまた今度。
 仮契約に関してはめんどくさくてな。一度に複数やるのは骨が折れるんだ」

 そう言って千歳からのみ指輪を受け取るとポケットにねじ込む。

「悪いな、なるべく早めに返す」

 そんな俺の言葉に担任が怪訝な顔をして聞いてくる。

「じゃあ、ご主人さま、今日は学園には?」
「今も言ったが少しばかり調べ物やらすることがあるんでな。行くとしても遅れる」

「はぁ……朱鷺乃さんと御嘉神さんがあぁ言ってくれているから良いですけど…危険なことだけはしないでくださいね?」
「安心しろ。昨日会った連中も今週は仕掛けてこないだろうし、他の連中は小物だ。危険なことなんてない」

「そう、ですか…」

 納得がいかない、といった様子でこちらを見上げてくる。
 無理もない。仮契約をするのであれば雪花のフェニックスの方が先に来るのが順当だ。

 サレオスは千歳が危惧した状況にならないとその能力を発揮できない。
 だが俺はサレオスを先に指名した。それはどういうことか。

 まず考えられるのは戦力強化。なにが起こってもいいという意味合いでの戦闘方面での保険。
 他に考えられるのは外部保存。なにか起こった場合に備えてフェニックスをオレ以外の場所に保管しておくという保険。

 まぁ、俺としても剛腕公を使うつもりはない。というより使いたくない。

 あくまで、サレオスは保険。ある意味、最も厄介な敵と戦うための―――

 食卓で食べていた人間のうち、華南と俺を残して全員が学校へ行き、食器を洗う音だけが部屋に流れる中、ふと気になって華南に聞いた。

「…なぁ、華南は学生時代、なんかやったのか?」
「いえ、父の元へ来る前は海外で育ちましたから」

 そういやそうだった。って

「いやいや、海外でも学校ぐらい―――」

 あるだろう。

「学校がある所の方が少なかったです。
 それと一つ所に留まることが無かったものですから語学教養は母から教わっていました」

 わぁお。

「でも楽しかったですね。毎日がお祭のようでした」

 本当に楽しかったのだろう、華南の影から華やいだ感情が流れ込んできた。

「そりゃ良かったな」

 はいっ、と弾んだ声が聞こえてきた。

「あ、そう言えばご主人様。先日の新しい住人のことなんですが」
「あぁ、昨日のアレか」
 緊急事態が起きたので放ってしまったが、本来なら5、6Fの住人候補たちを相手にする、ということだったな。

「ふむ…」
「ご主人、様…?」
「そうだな、そうするか―――」
 俺は一計を思いつくと、華南にその考えを伝えた―――

――
―――――
―――――――――
「さ、みなさん、こちらが一般的なお部屋になります」
『……え?』

 管理人である華南の代わりにここまで今日の見学者3人を連れてきて紹介したのは調教部屋である0510号室ではなく、マンションの裏手―――住人たち以外には見えない共有スペースになっている人工林だった。

 林、といっても本来、住人達の憩いの場にするべくこのマンションの敷地内に設置されたもので月に一度、造園業者によって剪定され、地面にも芝生が敷かれているが今はその上にシートが敷かれていた。

 街のクソ暑い初夏の炎天下とは異なり、常緑樹によって常に木陰で風通しがいい分、多少暑いと感じるものの、下手な避暑地よりは十分に涼のとれる環境を有していた。

 ちなみにマンションを挟んで反対側には外への出入り口―――と舗装された2車線分の道路があり、それを越えると先日、雪花が雁屋にさらわれた小さな公園がある。

 話がそれた。
 そんな中、華南が案内していたのは3人の少女たちだった。
 少女、と言ってもオレと同じかそれよりも上ばかりなのだが。
 
「あの、ここ部屋って……」

 風越 椎名(しいな)。
 歳は18くらいだろうか、セミロングの黒髪をした大人しそうな学院生が困惑した表情で聞きなおしてくる。
 夏場にもかかわらず薄地のカーディガンを羽織っているところを見ると肌が弱いのか―――それとも育ちが良く、身持ちが硬いのか。

「なに?バカにしてるの!?」

 今度は七倉 高嶺(たかね)。
 20代前半の社会人か、それとも就活中の学院生か、高級スーツ姿の垢抜けた感じの女がいきなり激昂する。
 ウェーブの染めた髪とツリ目の整った顔を見ても高圧的なのが伺える。

 どうやら椎名と同じく育ちはよさそうだが性格は正反対のようだ。

「え? え? どういうこと?」

 立科=N=三七十(みなと)。
 最後に空気の読めなさそうな陽気で健康そうなポニーテール。
 こちらはこの国育ちのハーフだろうか、金髪碧眼だが、流暢な日本語を操っている。

 だいぶラフな格好、スポーツシューズにキャミソールと簡単な上着に短パンという姿がスポーツ好きかその上―――特待生か競技選手、といったところか。
 露出が多い格好をしているだけあってプロポーションはしっかりしている。

 まぁ、プロポーションが良いのは残りの2人も同じこと。この暑い中、着ている薄手ながら長袖のシャツの下の盛り上がりはしっかりと女であることを自己主張していた。

 各々、反応を示したがそこに肯定的な意見は存在しなかった。
 そう、今回は認識を操作はしていない。

 だが、俺は笑って

「部屋、ですよ。
 さぁ、部屋に入ったらまず靴を脱いで上着を脱いでください」

「だからなにを…なんで―――!!?」
「え―――?」 

 言葉の後半が驚愕に包まれる。
 無理もない、自分たちの身体が勝手に動き出したのだ。
 他の面々も同様に驚愕の声を上げていく。

 そう、認識は操作していない。が、出来る状況にはある…とはいっても、俺は出来ないが。
 まず、5Fまで案内し無意識下に【華南の言葉には絶対服従】とだけ植え付けている。
 そして、俺の言葉には【身体のみ服従】つまり、意識を保ったままこちらの言うことを聞くようにしておいた。

 詰まる所、俺はやりたいようにやる。あまりに目に余るようなら加減を加えるよう華南にするよう指示した。

 そして刷り込みを行っている間に華南の準備したここにやってきている。
 本来なら5Fの調教部屋で行うのが順当なのだが…いつものすえた淫臭とは違う爽やかな木々の匂いに少しだけ勝手が異なりそうな感覚がある。

 それにしても…納得していない相手にこんな事をするのは―――あぁ、そうか。ひかりをいたぶったあの時以来か。
 久しぶりの陵辱にそれまで寝ていた嗜虐心が鎌首をもたげてくる。

「いやっ!いやぁっ!」

「くぁっ!なんで…っ!身体が勝手に…っっ!!」
 悲鳴が次々に上がる。

「ちょ…! アナタたちッ! なにをしたのよっ!!」
 高嶺が俺と華南を糾弾するように抗議してくる。

「ナニって、分からないか? オレの言いなりになるようにしたんだよ」
「言いなりって…そんなこと…」
 椎名の言葉尻が小さくなる。否定しきれない。

 いきなり屋外で服を脱げ、なんて言われてそれに従うという異常事態に出くわした挙句、その種明かしがオレの言いなりになる。という理不尽すぎる現実を突きつけられた。
 ただ言われただけなら一笑に付すところだが今の自分の下着姿がそれを肯定してしまっている。

「なんでこんなことしたのっ!?」
 今度は三七十が焦ったような声を上げる。

「何でって…理由が必要か?」
「…っ!」
「こっ、これ以上なんかしたら殺すわよっ!殺してやるんだからぁ…っ!」

 多少弱気になりつつも、高嶺がこちらへけん制をしてくる。

「なんだ、何をされるかちゃんと分かってるんじゃないか」
「…っ!」
 椎名の顔が真っ青になる。

「っっ!!! このクズッッ!!」
 高嶺の罵声が間髪いれず飛んでくる。
 クズか、そうだな。違いない。
 そんな事を考えながら笑顔で更なるオーダーを出す。

「さ、服も脱ぎ終わったところで各自オナニーをしてください」
「な…ッ、あぁぁ…っ!!」

 めいめいに膝をついて痴態を曝しだし、こちらはそれを嘲るように見下す。

「…っ! んん…っ、うぁんっ!」
「ま…また身体が勝手にいぃぃっ!!?」
「こっこんなことさせて…っ!おっ覚えて…っ」

「いやぁっ!誰かぁっ!助けてくださいぃっ!!!」

 椎名が泣き叫ぶ。

「ムダですよ。ここは敷地外からは全く見えないし、音も大声で遊んでもいいように建物の向こう側には聞こえない構造になってます」

 そもそも、ここは郊外。ここまでやってくる人間はかなり限られる。
 とはいえ、大声で叫び続けられても聞かされるこっちが敵わない。

「さて、と…【この場にいる人間に対してのみ喋れ】」

 仮面を脱ぎ捨てて命令する。

「……っっ!」

 ぱくっぱくぱくっ!

 椎名を始めとして高嶺も外部に助けを求めようと声を出そうとしたが喉元まで出かかった声がそれ以上、外に出てくることはなかった。

「いやぁ…やだぁ…助けてくださいぃっ! 管理人さんっ!」

 パニックに陥った椎名が今度は同じ女性である華南に助けを求める。

「………っ」

 助けを求められた華南がきゅっ、と身を竦めるように自身を抱え、何かいいたそうにこちらを見る。が、実際には動かない。

 華南の前で俺が一般人を牙にかけるのは初めてではないし、そもそもこの住居募集も華南の発案で俺の後宮…というワケでもないが美人揃いの箱庭を造ろうとすらしていた。

 だが、陵辱。
 これだけは華南にとって最大のタブーでもあり、俺に最もして欲しくなかった行為だった。
 俺からしてみれば認識を変えて好き放題するのも同じことなのだが華南からしてみると自分がされたトラウマを刺激されるのがダメらしい。

 そんな華南も決して暴力を振るわないことを始めとして、ある程度の条件付けをして納得させた。さじ加減の為の【華南に絶対服従】という刷り込みや今回、起こることの全てを忘れさせるといった伏線もそれに含まれた条件だったりする。

 結局は欺瞞だ。
 なんだかんだいって俺がすることは暴力以上の暴力だ。
 認識できないほど微少、なのではなくショックが大きすぎて感覚が受容しきれない、というレベルの暴力。それゆえに常識から逸脱しているといえば言えるのだが。

 …また話が逸れた。
 1時間前までの華南とのやりとりを再び頭に閉じ込め、改めて自分の性感帯を慰める女たちを見る。

 頬を染めながらせめて性器が露出しないように、と全員ブラやショーツの上から性感帯を刺激している。
 まだある程度、正気を保てているのだろう、それぞれの反応もまちまちだ。

 一番、パニくっているのは椎名か、恥ずかしそうに、目の前に起こった現実を拒絶するように瞳を閉じて片手で可愛らしい白いレースに赤いリボンのついたブラジャーを隠すように抱えながらもう片方の手は俺の命令に従ってしまい、人差し指と中指を伸ばし、閉じた太ももとその付け根にある布地を擦るように前後させている。

 それに対照的なのはやはり高嶺、これまた椎名の白とは対照的な黒でアダルティなブラの上から胸を揉みしだき、股間の割れ目にうずめる様にやや強めに股間をまさぐっていた。
 これまた湧き上がってくる快感よりもこちらへ向ける敵意の方が多い。こちらが顔を向けると今にも噛み付いてきそうな顔を向けて威嚇してくる。

 真っ先に騒いでいたであろう三七十は意外にもさっきから黙り込んでいた。
 この事態を受け入れているのか、それとも諦めたのか―――いや、心を読んでみれば一番冷静にこの事態を分析していた。

 ここまでの状態からおそらく自分たちがかけられたのは集団催眠かそれに近いことだと考えている。

 だが、それ以上に意外なのはこの状態をそれほど危機として受け入れていないことだった。
 少なくとも大人しくしていれば命を奪られるような相手ではないと判断した上で事の成り行きを静観するつもりらしい。

 感心する。この状態に至ってそこまで判断が出来る人間はなかなかいない。
 性的なことに関して開放的なことも一因にあるのだろう。どういう判断基準化は分からないが、俺ならアリだ、と判断していた。

 とはいえ、さすがに屋外、しかも人前で自慰行為をさせられることには抵抗があるらしく、恥ずかしそうに顔を赤くして、声も残り2人に合わせるように控えめにしながらブラとパンティは履いたままだが、その下に片手ずつを這わせて複雑に指を動かしている。

「うっ!ぅあぁっ、んくっ…くふぅっ!」
「ひぅっ、くあぁっ!くふっ!」
「くふうぅぅっ!うっ!あ、あうっ!」

 全員、自分で自分の乳首を吸える程度に豊乳なんでこんなことでもなければ互いの乳首を自分と他人に吸わせることによって快感の蓄積させる…くらいのことをしても良かったのだが…

 さて、とどうするか。

 ただ快楽で堕とすだけなら今やっているオナニーに新たな性癖を付加したり、抵抗の低い三七十から手をつけて残り2人の抵抗感を和らげるのが常套手段なんだが…
 だが、今回は抵抗してもらわなきゃ困るんでな。

 手始めは椎名にするか―――そんな事を考えながら結局、俺は

「さぁ、股をひらけ」

 高嶺を見下ろして命令した。

「っっ!!」

 それまで痴態を曝していた高嶺がはっとして顔を赤くしてこちらを睨む。
 が、それも意味のない抵抗。その顔の下―――暑い最中、自分が一番よく知っている最も感じる部分を弄くり続けた結果、身体は火照り、股間の布地は縦に湿り気を帯びて色を濃くしていた。
 そんな高嶺を見下ろして高嶺を選んだ理由を告げる。

「悪いな。 この場で処女はアンタしかいなさそうなんでなぁ?」
「!!!!!」

 突きつけられた情報にそれまでとは違った意味で顔を赤くする。

「な…ッ!!」

 俺の命令に背くわけでなく口をパクパクとさせる。

「どうせだからここで男を教えてやる。ほら、まずコレを舐めろ」

 そう言ってズボンのファスナーを下ろし、半勃ち状態の肉茎を出して高嶺の前に突き出す。

「ひ…っ、ぃ…ぃゃ…っ! いやぁっ! んんぁっ、れらぁっ、んむぅっ!」

 ここにきて初めて涙目になって拒否を示す。が、既に俺に命令された身体は勝手に俺のモノに舌を伸ばし、たどたどしく舐め始める。
 
「もっと丹念に、唾液をまぶすように舐めろ。あぁ、歯はたてるなよ?」

 瞑った目尻に涙を溜めながら舐め続ける。

「んんっ!! れろっ、れろれろっ、ちゅぶ…っにちゅれろぉっ、ちゅるちゅる…っ!」

 命令によって舌先だけでなく、舌全体でペニスをフェラを始める。

「ぺちゃっ、んぅんっ、ぴちゃぴちゃ…っ、んくぅ…っ」

 咥内から垂れてくる涎が肉棒についていない部分はなくなり、垂れて胸の谷間に飲み込まれていった。
 そんな情景は俺に射精感をもたらすものでなかったとしても勃たせるには十分だった。まぶし終わると同時に俺の勃起もほぼ終わり、天を向いていた。

 さっき言ったように残り2人は男を知っている。
 そんな2人に見せ付けるように高嶺のフェラによって大きくなっていく俺の男性器を見せつけることによって明らかに自慰行為に変化が訪れていた。
 昂ぶった身体に反応して明らかに欲情している。高嶺にしゃぶらせなかったのもこの為だ。

「…ちゅぶっ、れろっ、ちぅううっ…ふぁっんっ、んんっ、ん…っ、んふぅ…っ」

「ほら、もういいぞ」

「んんっ、んぇぇっ、んんん、かはっ!こほっこほっ」

 俺から解放された途端、俺のモノの味を吐き出すように咳き込む。

「どうだ?初めての男の味は?」
「…っっ! 最悪よぉっ、こんなの…っ!」

「そうか…ならもう舐めなくっていいぞ」
「え…?」

「下の口で咥えてもらうことにする」
「え…? あ、ひゃあ…っ!!」

 そのまま足を広げるようにひざ下を持ち上げられ、腰から前にズレる形で俺の目の前に高嶺の湿ったパンティのクロッチが目の前に広がり、それを横にずらすと、むぁっとした高嶺の秘唇の匂いが木々の匂い中、はっきりと嗅ぎとれた。

「いやあぁっ!?どこ見てんのよぉっ!」
「別に構わないが。別の所に入ってもかまわないなら、な」
「きゃあっ! そ…そこって…っ!」

 そう言って愛液がしたたり落ちている淫裂の下のすぼまりに中指の第一関節まで入れるときゅぅっ、という締め付けと共に低い悲鳴が漏れる、が恐怖が勝ったのだろう、それ以上はなにも言わなかった。

「……っ」
 悔しそうに股に顔を突っ込んでいる俺を悔しそうに睨みつける。
「悔しそうだなぁ? だけどここまで準備できているんだ」
 そう言って淫裂から涌き出る淫水を指ですくって高嶺の目の前で伸ばしてみせる。
 目端に涙を溜めて起こった顔で顔を紅くする。それに満足して俺は腰を上げ―――少し前まで高嶺が舐めていた肉棒を蜜壷にあてがってみせる。

「ほら、挿れるぞ?」
「ひ…っ! いやあぁっ!!」

ぬっ…ちゅぅっ……んちゅうぅっ…

「ふぅ…んっ、ひぃぐ…ッ、らめぇっ、そんなの入らないっ!!ぁっ、はっ、はぁぁっ…っ!」

 高嶺が恐々として自分の割れ目を押し入って行く怒張を見て悲鳴をあげる。
 本格的に使われたことのない女性器はオナニーによってほぐされ、愛液によってすべりが良くなったとはいえ、俺のものを受け入れるには絶対的にスペースが足りず、無理矢理押し入っているという現状だった。

ぬっ…ちゅぅっ…くぽっ……んちゅうぅっ…

「ひぃっぐ…っ!いひゃい…ッ、いひゃいぃ…ッっ!ぬいれ…っぬきなひゃいぃぃっ!」

 今度は無理矢理、穴を拡張された上、膜が破かれて悲鳴を上げる。
 今回は感度を上げたり、痛覚の遮断などは行っていない。
 なので処女膜が裂けて出てきた血がそのまま痛みの感覚にも直結するのだろう。

「いひゃいッ!いひゃいの…ッ、抜いれぇぇ…っ!」

 だが、俺は自分の怒張を差し込み続ける。

ずっ…ぬぅっ…にちぃっ…ぬちっ…ちゅぬぅっ…ぬりゅう…

「うぅ…っ、ぐす…っ、もう許してぇ…っ、ふぅぅっ!」
 顔を覆いかぶさった手と顔の隙間からはらり、と涙が零れ落ちる。

「………」
「うぅ…ッ、ひっく、んんんっ…!?」
 突如、泣き声に戸惑いが混じる。

「…え? いっ…痛みが…っ!?」
「………」

 …正直、痛みで泣き叫ぶ最中の顔の歪みが見るに耐えない。
 …正直、痛みで泣き叫んでる最中の悲鳴が聞くに耐えない。

 …我ながらなんて甘い。
 イヤになる。きっとこの甘さが命取りになる。

 が、これを見て顔が柔和になった華南を横目で確認すると、仕方ない、と嘆息する。
 ……結局、いつも通りになるワケか―――とはいえ、正直、今回は全員が堕ちてもらっても困る。

 まぁ、精神の誘導はしないし、一人くらいはひかりの様に一度では折れずに好きでもない男から抱かれても反抗するのがいるものと思おう。
 ダメだったら仕方ない。その時はその時…いや、まだ手はある、か。

 そんな風に考えながらも挿入はようやく奥まで到達した。

ぬちっ…ちゅぬぅっ…ぬりゅう…ずっ…ぬぅっ…にちぃっ…
 
 相変わらず処女孔は初めての異物に対する拒絶を示し、キツく締め上げ、膣全体が脈を打つようにビクつくたびに肉茎全体に這いよられる様な快感が走り抜ける。

 痛覚は感じなくなっても好きでもない男の肉棒を受け入れていることに対する精神的嫌悪は変わりないし、初めての膣挿入で快感を得ることはなかなかない。

 だが、痛みによって理性が囚われなくなり、下準備をしていたため、普通の初めてとは異なる。
 少しずつ下半身から込みあがってくる電流のような感覚、それを感じているはずの本人は必死になって拒否していた。

にゅぷっ、くぷんっ、ちゅくっ!ちゅっ、ちゅぽっ、ぬぷっ、にゅぷんっ!

「きゃふぁあぁん…っ、んふぁあっ、あうぅぅんっ!」

 だが、俺はその感覚をサポートするべく高嶺のブラの上から右胸を揉みしだく。

「んっ!むぅううぅぅっ!んむ…っ!あぁ…んっ…ふぅっ…んっ、うぅんっ……っ!」

 身体を起こし、ブラがズレたことによって現れた左胸の乳首に口付け、そのまま吸い付く。

ちゅぶっ、れろっ、ちぅううっ…ちゅぶっ、ぬちゃっ、れちゅ…っ

「あっ!あはぅっ!んっ、んはぁっ!ひぅっ!くふぅんっ…っ!ちくび…っ、かんじゃ…っっ!!!」

 舌でなぶっていた乳首を血が出ない程度に強めに噛んでもこれまた痛みによって相殺される快感が、純度を持って駆け巡ってくる高嶺の脳髄に染み込んでいく。

「はぁっ、んっ……!あぁっ!くふぅっ!きゃふぅっ!やぁっ!らめぇえっ!」

 こちらは慣れていない膣とは違っていい反応を示す。
 まぁ、下は下で―――

ぬちっ…ちゅぬぅっ…ぬりゅう…じゅぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぅっ!

「うぁはっ!? きてるっ、あ、は、入ってきっ、く、うあぁっ!!」

 俺が胸を弄ぶために身体を起こしたことによって結合部も鋭角になり、肉棒が最も突き刺さる瞬間、同時に高嶺の肉芽を押し潰す形で密着し、その度にびくんっ、と跳ねて更に強い快感を催していた。

ぬちゅっ、ちゅぱんっ、ちゅぶっ、ぐにゅうぅっ!

「ひぅっ!くふぅんっ…っ!きゃふぅっ!ひあぁっ!ひぅぅっ!」

 恐怖からの逃避か、それとも本当の快楽に目覚めたからか先ほどから処女を失ったばかりの秘裂からは熱くぬめった愛液が純潔の証と共にピンク色になって互いの結合部を濡らしていた。

 いや、これでは物足りないとばかりに、赤に近かったピンク色が少しずつ白と呼べるくらいにまで薄くなってきていた。

「初めてのセックスの感想はどうだ? 正直に話せ」

「はひぃっ、んんんっっ!!
 気持ちわるッ!ううぅぅぅ…きも…ち、わ…ッるぅぅぅくないぃぃぃっっ!!!」

「!!!」

「気持ちいいぃぃぃぃ…ッッ!!!せっくすっ、セックス気もちひいいぃぃっっ!!!」

 呂律の回らない口で懸命に自分の味わっている快楽を相手に、俺に伝えてこようとする。

「奥まで嬉しそうに飲みこんでとても初めてだとは思えない―――んんむっ」

 いきなり上半身を起こし、俺を押し倒すような形で俺にまたがり自分からひざ上を上下させて激しい抽挿をしながらこちらの口に舌を絡めてくる。
 そう、一度認めてしまえばこの快楽を押し戻す術はない。
 それどころか―――

「んむぅっ!! ふぅぁっっ…っ!! ぁっ…あ…っ」

んちぅうううっ、くちゅっ、れろぉっ、あふぅんっ、ちゅ、ちゅぅっ

 互いに舌先から電流のような痺れが奔り、熱を帯びた吐息ごと相手の唾液を飲み込んでいく。
 特に高嶺からはこの快感を与えてくれる俺の受容認知―――好意を超える何かが確立したのが伝わってくる。

「んぷはっ、んん…っ」

あむ…んんぅっ、ちゅぷぅ…んくぅ…っ、ぺちゃっ、んぅんっ、ぴちゃぴちゃ…っ、んくぅ…っ

 唇と唇をつなぐ銀糸をすするように粘膜と粘膜の接触を積極的に行ってくる。

「好きでもない相手にこんなに唇を許していいのか?」
「スキじゃ…ない…っ!!! だけど…っだけどっ! もう…っ、アナタのことしか考えられないの…っっ!
 せきにんっ!!とりなさいぃぃっっ!!んちゅうぅぅぅっっ」

 熱のこもった表情で責めるような視線でこちらを見つめて濃厚なキスの雨を降らせてくる。
 膣そのものの性感帯が開発されていないからこうなることはないと思っていたんだが…これまで得ていた快感の総量が少なければこの程度でも堕ちる…か。

じゅぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぅっ、ぬちゅんっ!

「んっ、あぁんっ、すっ、すごいいぃぃぃぃぃィッッ…♪」

 一方、それを信じられない…というより信じたくない、と言う表情で見つめる視線が二つ。
 だが、俺と高嶺の熱気に当てられたのか下着の上からも分かるくらいにクロッチの色が変わり、視線も熱を帯びてきていた。

「ほら、どうイイのか他の二人にも聞かせてやれよ」

「ひ…くぅんっ…!あなたのアソコッ!アソコが中で擦れて…っ」

「はっきり、ナニが、どこを擦れているんだ?」

じゅぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぅっ、ぬちゅんっ!

「そっそれは…っ!おっおち…ちんがおま…っこ」

 さすがに露骨にいうのは抵抗があるのか顔を紅くして口を詰まらせる。

「止めても…いいんだぞ?」

ぬちゅっ、ちゅぱんっ、ちゅぶっ、ぐにゅうぅっ!

「ふぁあっ! おちんぽ…っ、オチンポがオマンコで擦れるたびに…っ!
 おまんこキモチよすぎて何も考えられなくなるぅ…っっ!!!」

 あられもない姿で性器を連呼する姿に2人とも息を呑む。

「ふぅぁ…っ!!せっくすっスゴい…せっくすスゴい…セックススゴいいいぃィィっっ!!」

「ふあ…っ! くるっ!くるくるまたキちゃうぅぅっっ!!」

びくっびくびくびくびくびうぅぅっっ!!!

 弓なりに身体をそらして絶頂すると痙攣するようにして失神し、前のめりに崩れ落ちようとする所で受け止めて、そのまま自分の身体ごと横に転がして未だに激しく息をする高嶺との結合を解く。

 初めての挿入が抜かれた高嶺の性器からは薄いピンク色の液体がとろぉっと滴り、開きっぱなしの膣奥が少しずつ収縮していくのが見て取れた。

「…っと、次はどちらにしたモンか…」

 まぁ、答えは決まっている。
 既に腹の据わった三七十を相手にしても悲鳴は上がらない。
 むしろ、そんな三七十を相手にしている隙に腹を括られても困る、ので―――

「さて、今度はオマエだ。椎名」
「……!!」

 こちらに指名され、ビクッと身体を震わせる。
 震えてはいるが、露わになっているスカートの中は下着が透けるほどに濡れていた。

 この下着の濡れ具合と言いコイツは―――牡を知っている。

 別に処女を散らすのが目的ではないし、処女の方が良い、と言うわけでもない。むしろ閉じた貝をこじ開ける必要がなく楽だ。

「ほら、今度はお前だ、跨れ」

「あ…っ、は…っ、いやっ! いやぁ…っ」

 火照った顔を青くして拒否をする―――が、俺の命令には逆らえない。

「別に無理やりさせられているんだ。カウントしなければ良いだけの話だ」

 我ながら好き勝手言う。

「そんな風になんか割り切れませんっ!お願いですっ!他ならどんなことでもしますからっ!」
「ん~~~?」
「第一っ、そんなせ…精液まみれの…っ、妊娠しちゃう…っ!」
「あぁ…なるほど」
「だからっ!?だから―――」

 必死の懇願に俺は笑って答える。

「答えはNoだ。さぁ、跨れ」
 そう言われ、椎名の身体がその意に反してゆっくりと俺の剛直を飲み込んでいく。
「んん…っ!!あ…っ!?」
 少しキツめ、だが、けして割り挿って行くわけではなく、愛液に濡れそぼったち俺の肉茎を貪欲に呑み込んでいく。

ぬっ…ちゅぅっ……んちゅうぅっ…

「~~~~~~っ、はっ、んんんっ…っ!!!」

 彼氏を持っている分、高嶺以上の感情で否定するものの、身体は正直に男性器の挿入に悦びを感じている。

 ぬちゅっ、ちゅぶっ、ぐにゅうぅっ!きゅうううぅぅぅぅっっ!!

 亀頭の先が何かに当たったかと思った瞬間、膣が収縮してこちらを締め付けてきた。

「どうした?もうイったのか? アレだけ否定しておいて子宮口をノックしただけでイったのか?はははっ、こりゃ傑作だ!」

「うぅぅ…っ!!」

 涙がぼろぼろと流れていく。当然だ。だが、その涙、どこまで憂いを含み続けるか―――
 俺は相手の気持ちが絶望に沈み、落ちきられる前に再び律動を開始する。

「ひぁ…っ!」

 今ので終わりかと思っていたのか急な動きに悲鳴を上げる。

「ほら、どうした。俺はまだイってないんだぞ?自分一人でイって、余韻にふけるのは勝手だがこっちが満足するまで動き続けるぞ」

じゅぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぅっ、ぬちゅんっ!

「ひっっ!いやぁ…あの人以外で感じたくなんかないのに…っ!!」

「どうした? 悲鳴はもう出さなくていいのか? それとも…」

 肉棒が少し動くだけでびくんっ、と身体が弓なりに反り返って意図しない歓喜の甘い声が口から漏れてしまう。

「は…っ、感じたくないのに…っ、はぅっ、くふうぅぅっ!うっ!あ、あうっ!」

「これが…彼氏と比べてどうなんだ…?」

ちゅぅっ…んちゅうぅっ…ちゅくぅっ

「ん、はぁっ、あ…うっ、ふあぁんっ!あぁッ…うぅんっ!みみッ!そんな…ッ!んんんっ!」

 キスを顔を背けて嫌がったのでそのまま正面に来た耳たぶを甘がみし、吐息が感じられるくらい近くで囁きかける。

「やぁっ!?こんなことぉ…っ、やめてくらはいぃ…っ!」

 耳に吹きかけられた吐息に敏感に反応し、顔を離して皮肉気に笑う。
 こう、泣き叫ぶ出なく素直に嫌がられると非常に面白い。
 とか思っていると、背後から冷めた視線が突き刺さってきたのでそれなりにケアしながら進めるとする。

「ほら、頑張れよ」

 そう言いながら再び体を倒して俺の上で腰を振る椎名の乳房を下から揉みあげる。

むにぃっ、もにゅう、くりいっ

「へぁ…ふぅ…ん…ッ、きゃふぁあぁん…っ、んふぁあっ、あうぅぅんっ!」

 次々に自分の知らない性感帯を刺激され、息も絶え絶えにされるがままになりつつある。

「おいおい、彼氏はいいのか?」

 快楽に流されそうに彼氏、という言葉にはっと我に返る。

「そっそれは…っっ!!」

 必死になってい否定しようとする。が―――

「どうですか?オーナーさんのオチンポの感想は?【だんだんと気持ちよくなってきたでしょう?】」

 あまり意地悪しちゃダメですよ、と華南が加減を加えてくる。
 …事の趣旨は予め話しているので理解している。個人的な感傷で動くってコトもない…だろう。

ぬちゅぅ…にちゅっ…じゅぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぅっ

「ふぁっ!! ふぁぁぁぁぁぁああああっっ!! もっと…っ!もっとぉ…ッ!!!」

 先ほどと同様に目尻に涙をためながら―――今度は嬌声をあげる。
 目尻は下がり、激しい吐息の為に開きっぱなしの口からは涎がとめどなく垂れている。

「らっらめなのにぃ…ひぅっ、ふぁっ!あああぁぁぁぁっっ!!」

 身体中の性感帯を余すことなく刺激され、ほとんど何も考えられないほどになってきている。
 というより与えられ続けた快感に屈服した、といった方が正しいだろう。

ぬちっ…ちゅぬぅっ…ぬりゅう…

「あ…っ」

 絶頂寸前で抜かれた肉棒を物欲しそうに見つめ、視線を上げてせつなさそうに見上げてくる。

「ほら、正直に言え、彼氏のモノとどっちが気持ちいい?」

「そっそれはぁぁぁ…っ」

「言わなきゃオシマイだ。
 良かったな、望みどおりだろう?あとは彼氏にでも可愛がってもらえ」

 それまでとは打って変わって突き放すような口調に慌てて口を開く。

「あ…っ!言いますっ! お…っ、オーナーさんです…っ!! オーナーさんのオチンチンで可愛がってくださいぃっ!!」

「おいおい、彼氏はいいのか?」

「だっダメ…ッ」

 お、まだ陥落しな―――

「彼氏じゃ…あの人じゃダメなのぉ…ッッ!!
 おーなーさんとのセックス…っ、せっくすっ、今までの…ッ、ぜんぜん違う…っ、もうこんなにされたら…っ、あんなのおままごとみたいなの…ッ、他のコトどうでもよくなるぅ…ッ!!」

「そうか―――ッ」

じゅぷっ、じゅぽっ、じゅぽじゅぽじゅぽっっ!!じゅぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぅっ

 返事の変わりに腰を浮かせることによって椎名を突き上げる!

「はぁっ…はぁ……はっ…はあぁっ…んっ、あうっ、くうぅっ…んっ…だ、きたあぁぁ…!!!」

 椎名自身が自分の最も深い場所に剛直を押し付けるように動き、それに合わせて子宮口がきゅうきゅうと啄ばむように収縮を行い、それに合わせて膣全体も肉棒から快感を得ようと小刻みに蠕動を繰り返す。

ちゅぅっ…くぽっ……んちゅうぅっ…にゅぷっ、くぷんっ、ちゅくっ!

「そろそろイくぞ―――どこに出してほしい?」

「そ…っ、それは…っ」

 躊躇する。そりゃそうだ。普通の感覚からしてみれば膣中に出して妊娠…というのは自分の伴侶とのみ許された行為だ。
 だが、ここに悪魔のような華南の囁きが―――

「【オーナーさんの…ご主人様のせいえき…とても気持ちがいいんですよ?
 びゅくびゅくって膣に出されるのって他のことが考えられなくなるくらい幸せで気持ちいい】んです。
 いままでで一番気持ちよくなれちゃうんですよ…?」

 華南がいい終わるが早いかこれまで膝で浮かせていた椎名の臀部が俺の太ももに密着し、俺の肉棒が決して抜けないよう咥えこんで、そのまま上下ではなく、前後にスライドが始まる。

 幸い、互いの愛液がローション代わりになって尻とふとももが擦れても互いの熱くなった熱を伝えるだけで摩擦は生じなかった。が、代わりに青木に負けないほどの二人の濃い性臭が辺りに満ちる。

ぬちゅっ、ちゅぱんっ、ちゅぶっ、ぐにゅうぅっ!

「んはぁあああ…っ!ひぁ、あ、ぁひっ!ひああぁあああっ!」

 もう椎名の顔は俺を射精させることしか考えていない。

「おいおい、いいのか?」

「いいんですぅ…っ、出して…っ なかにぃ…おま…こにぃ…っ!!あっついの…っびゅくびゅくってぇぇぇっっっ!!!」

 言葉と共に俺から搾り取ろうと子宮だけでなく、膣全体が擦りついてくる!

びゅ―――っ!びゅるっ!びゅくっびゅくんっ!

「ひあぁっ!いくイくっ!ああああぁぁぁぁああああああああ―――っっっ!」

 文字通り、椎名の一番深いところで膣中の熱さに負けない白濁の本流を注ぎ込む…っ!!

びゅるっ!びゅくっびゅくんっ! びゅる……ぴゅっ……

 この上ない絶頂を向かえ、椎名が意識を手放そうとする。
 ここで激しく動き出せば意識を取り戻すだろうが―――まだ後が残ってる。

 椎名から肉棒を引き抜くとこぽぉっ、と高嶺の秘裂から出ているものよりも濃い白濁液がこぼれてそのままM字に開かれたままの股間をゆっくりと伝っていく。

 よく見るとその上を黄色い液体が流れ出している。
 屋外の為、匂いが薄いがアンモニアの匂いがする、おそらく絶頂に弛緩して漏らしてしまったのだろう。

「それじゃ最後だ。 といっても準備も出来てる…か」

「ん…できれば見逃してほしいんだけどなぁ…」

 今さらのように三七十が苦笑する。

「悪いがそれは出来ない相談だ。ま、目的はそこの二人で果たしたようなモンだからご想像通り、そこまで酷くすることはしないでおけると思うぞ」

「! ふぅ…ん。それじゃせいぜい気持ちよくしてもらおうかな」

 俺が思考を読んでいたことに驚くがそれすら受け入れて俺の前に尻を突き出してくる。

「後ろから突かれるのが好きなのか?」

「ん…それもあるけど正常位と騎乗位だったでしょ? ほら…それに準備ならもう出来てるから…っ」

 そう言って自慰と目の前で繰り広げられた痴態によってクロッチ部分を中心に濡れきってしまったパンティを寄せて秘裂を広げてみせる。

 既に出来上がった三七十の淫裂は少し離れた場所の日差しに負けず劣らず熱気を持ち、淫汁を芝生に垂らしてこちらを誘惑してくる。

 健康的な足に淫らな汁がまとわりつき、アンバランスな情景に再び食指が沸いてくる。
 とはいえ、向こうに主導権を握られているようで納得がいかない。

 まぁ、こんな時は―――
 そんな事を考えながら三七十の腰を掴んで高嶺と椎名の液でてかった肉棒を三七十に拡げられた蜜壷に埋めていく。

ぬっ…ちゅぅっ…くぽっ……んちゅうぅっ…

「ん…っ、んんんっ!?」

 慣れた挿入感とは異なる違和感を感じて吐息以外の声が上がる。
 だが、俺は気付かない風にして抽挿を開始する。

じゅぷっ、じゅぽっ、じゅぽじゅぽじゅぽっっ!!

「はぁ!あ、んはぁっ…はぁっ!?」

 三七十の膣内も前の二人と負けず劣らず素晴らしい…というよりも自分の意思で膣圧を調整してくる分、一番男を悦ばせるオマンコだろう。

「な…っ、んあぁっ!! なんでそこばっか…っっ!?」

 蜜壷の中でも特に感度の高い部分を重点的に攻めながら俺の指は後ろの穴に這い寄っていた。

ぬっ…ちゅぅっ…くぽっ……

「あ…ッ!!」

「こっちも可愛がって欲しいんだろう?」

「あ…っ ん…っ♪」

 一般的に普通とはされていない肛辱願望を指摘され、普段なら否定するところなのだが、今はただ、快感を貪ることしか考えられず、願望を叶えてくれる相手と出会えたコトに悦び、ただ恥ずかしそうに頬を染めて頷く。

くちゅり…

 依然として肉茎は前の穴に収まったまま、俺は手始めに互いの愛液を潤滑油として指に絡めて一番太い親指から埋没させていく。

「ひぅっ、くあぁっ!くふっ!」

 三七十本人の意思に反して慣れない異物の挿入に尻穴が収縮し、拒絶を示す。が、オレのモノによって蜜壷から掻き出された愛液のローションによってすんなりと侵入を許してしまう。
 こうなってしまえばこちらのものだ。アナルは出入り口は非常に入出し易いがそれ以降はほぼ自由に行き来できるといってもいい。

 未だ親指の根元付近が締め付けられてはいるがそのまま穿るように出入り口の内側をかき回す。

ちゅぶ…っぬちゅりゅぅ…っ、ぬちゃぁっ、ちぅっ

「はぁっ!はぁっ!んはぁっ!かはぁ…っ!」

 しばらくすると力が抜けてきたのかだいぶ締め付けが弱くなってきた。
 こうなってしまえばこっちのものだ。今度は反対側の親指を先に入っていた親指に這わせるようにして尻穴に侵入させる。

「はぁっ、んっ……!あぁっ!くふぅっ!んんん…っ」

 さっきからもどかしそうに腰を押し付けてこようとする。
 親指では深度が足りないのだろう。だが、親指はそういう長さの上に前の穴が目一杯まで俺のモノを飲み込んでいるため、これ以上、押し付けることも出来ない。

 他の指を使うことも出来るがあえて、しない。

 そんな肛門への挿入をもどかしく思ったのかこちらを見る。

「どうした? なにか望みでもあるのか? ちゃんと口に出して言ってみろよ」

「そっその…ッ! はぁっ、んっ……! オシリ…っお尻のあなぁぁ…ッ!」

「アナル、がどうかしたか?」

「くふぅんっ…っ! あ…あなる…アナルをもっと…」

「もっと…?」

「もっとぉ…深く…」

「ほら、はっきり言え、じゃないと今度は―――」

 そう言って親指を間接まで抜こうとする、と

「ふああぁぁ…っ!!!アナルをもっと深く犯してくださいィィッッ!!!

 顔を真っ赤にして自分の欲望に正直になる。
 俺はそれに口をゆがめ―――

「指か?それとも―――」

ずんっ!!

「ひっ!?あ、ふぁっ!ふぁっ!ひぃああああぁぁぁ~~~っ!

 肉棒を子宮口に少し突き刺ささるように挿入され、一際、びくんっと弓なりに身体をそらすと息も絶え絶えに懇願してきた。

「は…っ、あ…っ♪ おち…んぽ…オチンポ…挿れてぇ…っっ♪」

 自分の感度の高い部位を刺激され続けた上に、今度は今までひた隠しにしていた性癖を忌避されず受け入れてもらう、というのがとどめになったらしい。

 指でほぐしている肛門が物欲しそうにびくびくっ、とヒクついてこちらを誘惑してくる。

「いいのか?今日あったばかりの男に後ろの、尻穴の処女を奉げるなんて」

「え…あ…しょじょ……もらってぇ…♪」

 前とは違って開ききっていない…とはいっても通るものは通っているので手狭…な感じのある直腸に割り挿っていく。

「ふっ、ん…っ。ひぅんッ!おふぅッ!くふぁ…っ、はぁぁああぉぉぉぉぉ…ッ!」

 前とは異なる挿入感に甘い吐息を吐きながら身体を弛緩させていく。

「んふぅっ!!ふぉう…んっ!」

 一度オレのモノが入ったところで引き、普通の感覚、排泄間を催させて―――

「ふぅんっ、んんん…???」

 一気に挿入する!!

「ふぁあああ…っ!ふぅぅぁぁああ―――っ!」

 性器のような扱いに肛門からその先が一気に収縮して締め付けてくる!

じゅぷっ、じゅぽっ、じゅぽじゅぽじゅぽっっ!!

「きゃふぅっ!ひあぁっ!ひぅぅっ!あはぅっ!んっ、んはぁっ!」

 処女を貫かれた肛門は挿入された異物に反応して根元を締め付け、奥も慣れない挿入に敏感に反応して追い出そうと蠕動してくる。
 が、そんなのに構わず俺は三七十の尻を遠慮なく突き上げる!

「あ、おぉうっ!くふぁっ、あふうぅぅっ!ん、はぁっ、あ…うっ、ふあぁんっ!」

「ほら、ケツマンコで男を咥えた感想はどうだ?」

「ひあぁっ!くふううっ!あっ、いいッ!あな…るっ、んんっ、けつぅっ、けつまんこぉ…ッいいいっっ…!!!」

 既に性器として開発してあった肛門は肉棒が根元まで刺さった時点で絶頂するほどの快楽を、三七十の全身にくまなく送り、淫裂からは潮だろう、淫液が黄金水の終わりのように放たれていた。
 もう三七十も長くない。
 分かりきったことを聞くまでもないが―――問いかける。

「そろそろ限界だろう?どこに出して欲しい?」

「あっ、な、中に、中に…ケツマンコの中に出してえええぇぇぇぇぇっっっ!!ひぃああああぁぁぁっっ!」

びゅくんっ!びゅる、びゅっ!ぴゅぴゅっ!ぴゅっ…ぴゅく!っびゅ―――っ!びゅるっ!びゅくっびゅくんっ

 3度目とは思えない量の白濁液が三七十の初めての直腸内を白く染め上げる。
 それと同時に極まった前穴からもぴゅるぴゅるっと透明な飛沫がビニールの上に飛び散り、果てて失神した三七十がその上に果てる。

「ふぅ…っ」

 三七十との行為が終わり、気を取り戻した高嶺と椎名の嗚咽が響く中、大分べとついたまま下半身を華南が用意していたタオルで拭いてから身だしなみを整える。

 さて、あとは…
 そう思っていると携帯がワンコールのみかかってきた。
 おそらく、索敵用の指輪を持たせたくいなからの合図だろう。

 相変わらず学園で指輪を付けるなとの指示を守るためか、それともそれをサボる口実にするためか学園内での作業を行わず外での活動を行っているらしい。

「早いな、もう来たか―――」
 安堵する。あれだけ温くなったがエサにはかかったらしい。

 そう、見事なまでに昨日と同じ、色々な権利を無視した歌が段々と大きくなっていく。

「今度はオマエかああぁぁぁっっっ!!!んぶるわあぁぁっっ!!」

 そう言いながらそれは俺の横を突き抜け、大地に直線を描いて…いや、抉っていく。
 だが、相変わらずに無傷。

 なぜ、こんなめんどくさい事を屋外でやっていたか。簡単だ。指環使いはヤツの監視対象。
 ここまで派手な悪事…という程のものか分からんがこんな事をしていればいつかはやってくるのは自明の理。

 透視能力まであるコイツなら屋内で行っても発見はされただろうが自分の城に突入された挙句、破壊の限りを尽くされては困る。

 …まぁ、あのビームの矛先を向けられるだけでアウトと言えばアウトなのだが。
 それが今回のこの、デヴィるまんを誘き出す作戦の概要。
 かなりずさんだった上に途中から陵辱のりょの字も無くなってきたような気がしなくもないが…結果オーライだ。

 とりあえず分かったことは俺には無理矢理は向かないということと―――

「こんな三文芝居でも釣られる位に単純なヤツがいたって事くらいか…」

 そう言ってこれまでとは異なるスイッチに切り替えて眼前の相手を見据える。

「さて…と、嫌な思いをさせたな華南。コイツ等は頼んだ。手はず通り、全てを忘れさせて格安で受け入れろ。
 場合によってはタダでかまわない」

 相手から視線をきらず、隣で臨戦態勢をとっている華南に予め打ち合わせていた通りに指示を与える。

 とりあえず今日は記憶の改ざんを行っておき、処女だった高値は後で膜まで再生させる予定だ。
 俺が出来ることといったらそれくらいしかない。

 そして―――いくら[無かったこと]にした所で行った事実は、罪は消えない。
 それは苦渋の同意をした華南にも言えることだった。

「ご主人様、御武運をっ」
 そう言って火照った肌を晒した女たちを華南に任せ、まとめてセェレで本来の案内すべき場所まで送ると藍色の肌をした悪魔と対峙する。

「直ちに彼女たちを解放しなさい」
「オレに勝てればそうすればいい。場所も教えておいてやる。あの城に送った」

 あごでしゃくって俺の背後の建物を示し、悪役の台詞を吐き捨てる。
 これがどこまで抑止力になるか分からないが城を攻撃させるリスクは出来るだけは減らしておくに限る。

 普段ならそろそろテンションも上がるものだががしたことがしたことだけに気分が悪い。
 敵や自分に何かしらの感情を持つモノをいたぶるならともかく、全く関係の無い弱者をいたぶるのはどうも性に合わなかったようだ。
 八つ当たり気味に目の前の元凶を睨む。

「昨日の今日だが会いたかったぜ」

「恩を仇で返してくれるとはね…
 一番真っ当な指環使いっぽかったけど間違いだったと言うことかしら…?」

「はっ!? 買い被んなよ。 そもそも、真っ当なんて褒め言葉にもならない。
 第一、一番真っ当じゃなきゃいけないのは自分じゃあないのか?」

「! あぁ、それもそうだわね… やっぱり面白いな、キミは」

「だから褒めんなっての」

 やりにくくなんだろーが。

「はぁ…もういい、単刀直入に言う―――指輪を渡せ」

「はっ!? なにを言うかと思えば…そっちの魔神からも聞いてるんでしょ。
 この身体はアタシのモノ。このセカイでアタシの思うがままに振舞う為の器よ!」

「ならなんで―――善行を繰り返す。
 ならなんで―――言葉を操り喋る。
 ならなんで―――指輪を収集する」

 そう、昨日も見たがこの悪魔女の指にはアモンの指輪の他に指輪が2環嵌められていた。

「分からない?
 こんなことでもない限り、私たち悪魔のヒエラルギーってのは覆せないのよ。
 それこそ天使たちとの最終戦争でも起こればその功罪で変動するんだけどそんなのまってらんない。
 だからこそこれはチャンスなの、魔神が指環使いになってしまえば上位の魔王すら屈服させられる。
 それに滑稽じゃない?悪魔が悪魔を支配するって」

まるで人間みたい。

 そう言って指輪をかざす。すると縛鎖に繋がれた2柱の魔神の幻影が現れた。

「ぐ…ぬあぅ…っ! おのれ…っ、アモンっ、この縛鎖をはずせぇ…ッ!!」

「侯爵の分際で我々の上座に立つとは…覚えてろっ! この屈辱…っ。倍にして返すぞっ!」
 決して千切れぬ縛鎖に抗いながら延々とアモンへの呪詛を繰り返す。

「紹介するわNo.47 ウヴァル No.67 アムドゥシアス。共にアタシの公爵のコレクションよ。
 ちょっと、アムドゥシアスぅ。貴方がいなくなったらBGMの演奏は誰がするのよ」

 そう言って呆れたようにため息をつく。
 どうやらあの音源不在だと思われたBGMは指輪によって紡がれていたらしい。

「公爵を、コレクション?」

「えぇ、そう。侯爵が公爵を従えるなんてなかなか在ることじゃないわ。
 そちらには―――ダンタリオン卿がいるのよね」

 卿、という既に格上としての言葉遣いにダンタリオンの指輪がざわつくのを感じた。

「そうねぇ。 貴方を倒したら今度は王の蒐集でも始めようかしら。
 まず始めに―――アスモデウス王、それにさっきのアスタロト王を従える、か。
 それだけで…ふふふ…ゾクゾクしちゃう」

 舌に指を付け、ターゲッティングするようにこちらの指を見る。

 あまりの不遜な物言いにダンタリオンではなく、アスモデウスの黒い思念が俺に伝わってきた。

「…おい」

「なんだ?」

 …大体言いたいことは分かるが。

「特別だ。アイツを滅ぼすのに全力を貸してやる。だからアイツをブチのめせ」

「いいのか? 前は手を出すワケには行かないとか言っていただろう」

「その前に言っただろう、滅ぼしたいほどにバカだ、と」

 ホント、手の施しようのないバカだ。と呟いてアスモデウスが続ける。

「ヤツがスタンドアローンで勝手なことをしている内はこっちも手を出せないがあんな不快なマネをしているとなれば別だ。
 なにより、上司である魔王と王位が異なるとはいえ、同階級の我を従える、と言った。これは分神化する元となった魔王に対する不敬にも当たる。いくらでも言い訳が効く。
 虎の威を狩る狐が、少し知恵をつけたばかりに虎よりも強くなったと思い込めばどうなるか思い知らせてくれる」

 眼前の魔神への殺気が抑えきれないのか禍々しい風が辺り一面に吹き抜ける。

「落ち着け…にしても階級、ねぇ。オロバスはそんなこと気にしないとはいっていたんだがな…」
 オロバスは指環使いに使われる上では立場は同等だといっていた。

「互いに対等で敬意を払う気がある内には、だ。だが、ヤツは違う。
 貴族としての誇りも礼節も無く、ただ、権威を望むなど愚劣極まりない。
 そんなのを好むなどベリアルとマモンくらいのものだ」

 悪ノ華。

 悪としての矜持、自らの罪を特化した不徳。それらを極めればこその崇高さなのだと。

「…ま、ヤツの気持ちはも分からなくも無いけどな」

 そう、鬱屈していたところにチャンスができた。
 だから今、オレはこうして立っているだから。

 それにしてもアスモデウスのバックアップを受けられるのはありがたい。
 が、単純なパワーで行けば半人半魔である向こうの方が強い、と言うよりビームを出されるだけでお手上げだったりする。

「にしても…アスモデウスの言う通りじゃないがオマエが最後まで勝ち残らなきゃ、どう考えても他の上の連中からフルボッコだろ」

「ふ…………そ、そんなこと折込済みよ!」

「ふ、の後のタメが長かったのとあからさまに目を逸らした理由を教えてくれ」

「そう!獅子は千尋の谷に自らの子を突き落とすという…!」

 びしぃっ!と再びポーズをとってくる。

「自分から飛び降りたらそりゃ自殺だろ」

「背水の陣とも言う」

「ありゃ下策中の下策だ。追い詰められないと力が出せないってお前は一部の作家か政治家か」

「気にしたら負けよ!」

「どうでもいいけど、引っ込みがつかなくなったから止めるわけにはいかないってスゲーガキっぽい気がするんだが」

「ふふ…そうやって戦意を挫こうとしたりなんかしても無駄なんだから!」

「そうやって意固地になるとますますウチの魔神たちがいきり立つんだが…まぁ、いいか。
 それじゃ無理矢理にでも指輪を外してもらうぞ?」

「出来るものならやってみなさい!」

 そう言って互いに動き出す。
 俺はヤツの射線上に自城がこないようスライドし―――向こうはたんっ、と跳ねたかと思うと十数メートル上空まで滑翔する!

「なっ―――!!」

 あっけに取られる俺と目が合った、そう思った瞬間、

「ディヴィるうぃんぐは空もトぶうううぅぅぅぅぅ――――ッ!!」

 錐揉みしながら急降下してくる!

 トンでねぇッ!落ちてきてるだけじゃねぇかっっ!!!

「うおおおぉおぉぉぉぉぉっっ!!?」

「カラス君っっ!!」

「うぉっ!?」

 それまで気配を隠していた夜鷹に無理矢理引っ張られる形でなんとか急襲を避ける!!

「んん~っっ!?」

「済まないっ。撃墜しようとした側からこちらの攻撃速度以上で動かれた!」

「いやいいっ!それよりさんきゅ。助かった」

 近接攻撃なら精神支配と魔剣の召喚による攻撃手段はあるものの、反面、際立った対空攻撃のない俺なりの策だったのだが―――向こうが音の壁を越えてきてしまうとのっけから予定が狂う。

 夜鷹の遠当ては音速と同等かそれ以上、だが、ヤツもそれと同じくらいだとするとたとえ攻撃が当たったとしても衝撃が衝撃波によって打ち消されてしまう。

 ふむ…撃ち落とす、か。
 そう言って思いつく。なら音速を超えるなら光速はどうだ?

「フールフール」

かっ、どぅん!

 一瞬にして夏特有の積乱雲から一筋の稲妻がディビルまんに降り注ぐ!

「ひがぁ…っっ!! くぉいあああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

「お、なんだ。効いてる効いてる。じゃあ、このまま―――」

「ま―――まて!今度そんなことをしたら指輪が鎔けるぞ!

 今は我が全力でガードしたが今度は保障しない!つーか痛すぎるからやめてくれなさい!」

「…どこまで卑屈なんだ、オマエ」

 常人なら即死寸前クラスの雷撃を痛いとか言ってる時点でトンでもない。
 アレでは常人を麻痺させる程度の弱い電撃では動きを鈍らせるくらいにしかならないだろう。

(大将、あそこまで憑依されてる状態でリンクを切るとかなりヤバいぜー…憑依から融合になっちまう。そうなるとあの素体、もう元に戻れなくなるさ)

 うんざりしたようなオロバスの声。要は指輪を溶かすな、ということか。
 とンでもねぇ。俺が高嶺や椎名たちを人質に城に手を出させないよう戦っているのと同様に、向こうは自分の器を人質にとってきやがった。

 あぁ、俺もうんざりしてくる。
 これで万策尽きた…というワケでも無いが用意していた有効的だと思える策のほとんどは防がれたことになる。

「ふっふっふ…アタシと互角に戦えるのは大魔王のみというワケよ!」

 バカ丸出しで笑い上げる魔人。

 …そう、バカ正直にこの国でデヴィルまんの相手をする、というのなら72柱のヒエラルギー外に於いて最上位にあたる華南のアスタロスのさらに上位である番外に位置する悪魔王を用意するのが適切なのだろう。

 だが、こんなことにンな危険過ぎる悪魔を用意するのもアホくさい。そもそも、そんなこと俺にはできない。
 とはいえ、目の前のアレな魔人も十分危険過ぎる。というか取り扱い厳重注意なのだが。

 ここでこの状況を打破できる…というよりもあの魔神と対等にやりあえるのは同じ魔神―――脳裏によぎったのは怪腕公。

 移動に関してはセェレに運んでもらえればいいのだが、いかんせん、人間の反応速度ではコイツ等魔神たちに対して致命的に劣る。
 その例がサレオスが完全召喚された対奏出戦の結果だ。

 あの時、特別にクリスに調整され指輪の能力発動にラグを生じさせない―――指環使い中、最速で能力を発動できた奏出でさえ、サレオスの移動速度に不意を突かれ、敗れ去った。

 いや、油断さえしなければ、佐乃、夜鷹、華南の三人を同時に相手をした事実を考えれば対等に戦えるのかもしれない。

 だが、それは早い内にセェレの指輪を奪取し、体内に埋め込んだ奏出だからこそあそこまで使いこなせたのであって習熟していない俺が使おうものなら結果は見えている。

 たとえ、人間に憑依した上でのスペックであったとしても、それは自分の常識で考えるのは文字通り、致命傷になる。

 ―――ならば、その逆、セェレの使用ではなく、サレオスの完全召喚は―――?
 結論から言ってしまえば、否。

 俺では千歳のような完全召喚はできない。
 奏出戦で完全召喚の存在を知ってから何回か試しているが魔神を召喚、ないしは具現化するには至ってはいない、出来るのは以前と同じ、立体映像の投影や能力発動、アスモデウスの剣のように魔神の使用しているアイテムを顕現化するだけで精一杯だ。

 こればかりは先天的な才能かそれを克服できるだけの多大な努力による積み重ねがモノをいうので仕方なかったのだが。

 サレオスに頼るのも完全召喚でなければ意味がない。

 だが、迷っているヒマはない。
 
「サレオスっ!!」

 完全に、とは言わない。
 せめて一部、あの怪腕を部分的にでも召喚して操ることができれば―――

(ちぃっ、しゃあねぇなぁ)

 虚空に響き渡る舌打ちと共に宙に描かれた魔方陣から剛腕公の手甲があらわれる!

 すうぅぅぅ…

 よしっ!!これくらいなら俺にも―――

 すううぅぅぅぅ………がぃんっ、がんっがんっ

「…………え?」
 宙に描かれた魔方陣より徐々に出現していたソレは突如、糸が切れるようにしてその場に転がり、見事なまでに何も入っていない空しい反響音を内部に響かせた。
 その証拠にこちらから見えた手甲の中は見事なまでに空洞だった。

(……あー… ソレ使えばまだまだイケんぞ、まだまだがんがれー)

 棒読みの応答が返ってくる。

「……はっはは…のやろォッ!!」

 思わず指輪を抜いて地面に叩きつけようとするがなんとか耐える。

 落ち着け、相手は魔神だ。
 ただ命令を従順に聞く訳がない。

 そして考えろ、サレオスは何を根拠にああ言ったのかを。
 と、不意にオロバスの鋭い声が脳裏をよぎる。

(ナイスだサレオス!大将、早くソイツを身につけろ!)
 
 ワケが分からない。がっ、この場は一刻を争うっ!

「ちぃっ、あのガキ…っ!余計なモノを…っ!」

 初めて聞くディヴィルまん…もといアモンの焦燥の声。
 ―――! 今の声はありがたいっ。

 オロバスとアモンのこの反応、コレは状況を変えられる―――!!

 そんな淡い期待と共に俺の身の丈ほどもあるガントレットの中の空洞、ちょうど俺が腕を半分ぐらい埋めた所に取っ手のようなモノがあったのでそれを握る。

 きゅうぅぅぅっっ!!

「っ!? ぐぅ…っ!」

 急激な脱量感。一気に何か―――おそらく魔力と呼ばれるものだろう、が一気に吸い取られる!

「~~~~~っ、 …え?」
 思わず体勢を崩すかと思うくらいの脱力感に襲われた後、ソレ、は俺の肘から下に俺に見合った…と言ってもオレの半身以上のサイズで装着されていた。
「なに……が―――っっ!!!!」

 突然の展開に困惑している俺とは裏腹にさっきとは全く違う、まるで猛禽類のような瞳を光らせてディヴィルまんが切迫してきていた!!!

「っ、ぅあっ!!!」

 思わず腕でブロックする。いや、手甲が勝手に動く!
 が、すぐに気付く。ブロックしたところで無駄だ。膂力が違いすぎる。
 あの力ではブロックしたところで腕どころじゃない、上半身ごと持っていかれる―――!

 が―――!

がいんっ!!

「―――……え?」

 間の抜けた俺の声とともに目の前には、

「ちいぃ…油断した…
 アイツがいると知っていれば一瞬でケリをつけていたのに…っ!!」

 苦虫を潰したようなディヴィルまんの声と

「ひゅうぅ…流石は剛腕公の拘束具。
 魔神が憑依した人間レベル程度ではこのガードを突きぬけないなぁっ!」

 痛快そうなオロバスの声があたりに響いた。

 そこに―――
「はあっ、あああぁぁぁあぁっ」

 ぱんっぱぱぱぱんっ!!

 夜鷹の遠当ての弾幕による炸裂音が鳴り響き、そこから捨て身で接近戦になだれ込む!

「くっ!はっ!ふっ!」

 デヴィルまんの動きが目に見えて鈍くなっている、というよりも夜鷹に集中しきれていない。
 どうあってもサレオスのガントレットが無視できないのだろう。

「はあぁっ!」

「!!っ、ぐぅっ!」

 膂力が違うとはいえベースが人間である以上、急所は必ず存在する。夜鷹はそこを狙って動きの鈍ったデヴィるまんのガードをすり抜けて掌底を叩き込む!

「んぐうぅっ!! まだまだぁっ!!!ディッヴィーるびいぃぃぃむ!まきしまむ!」

 みぞおちに掌底を受けた反動を利用して5メートルほど後退しつつ、至近距離からあの日見たよりも何倍も太い目からビームをこちらに放ってくる!!

 フールフールを利用したときと同じ、人間は光速に対応することは出来ない。
 出来るとしたらその予備動作と視線によって対応すること―――だが、それは達人たる夜鷹には可能な作業。瞬時に飛びのいている。

 そう、向こうが放った時点で回避を終わらせていなければならない。

 それは 俺にもいえること。

「!」

 俺に向かって光が迫ってくる!
 そう、それは夜鷹ではなく、俺に向けられた一閃。

 こちらを優先して排除すべきと判断したのだろう、もはや、何かを考える余地もない。夜鷹が何か声を張り上げようとする。だが、それまで。

「ぬぁっ!!?」

 声よりも早いそれ、はまるでドラマで目の前にライトをつけた車だか電車が迫ってくる!というシーンなのだろうがそんなことを考えるヒマもない。
「ぬ」の部分で既に目の前が真っ白になり「ぁ」の時点で光に包まれ「っ」で光が俺を通過した。

 ただただ神頼み…というより予備動作を見て、この手甲以外に頼るものなどなく、ただ前にかざすことしかできなかった。もしコレがダメなら俺は指輪ごと蒸発しているだろう。

 思考は、続いていた。

「……………いき、てるのか、オレ…」

「っ」の部分が発声できたということは、そういうことなんだろう。

「流石だなぁ。

 自分が怠けたいが為だけに自動思考と擬似人格を植え付けたってのは本当だったんだなぁ。
 自動でシールドを展開するたぁ、流石だぁねぇ」

 まるで他人事のようにからからとオロバスのからかうような声があたりに響いた。

「くそっ!」

 それまであった最強の切り札を無効化され、デヴィルまんは苛立たしそうにはき捨てる。

 とはいえ…現状は変わらない。
 瞬殺されず、嬲り殺しもされなくなったのは良いが、肝心のこちらからの攻め手がない。

 しかも向こうは未だ飛行すら可能というチートっぷりだ。空自にでも撃ち落とされちまえとか思うが多分、それすら返り討ちにする気がする。
 
 ん、待てよ…

 あぁ、在ったな。飛びっきりの攻め手、が。

「剣を貸せ! アスモデウス」
 いつもなら召喚するだけのあの剣を今初めて、自分の手で振るう―――!

 虚空に描かれた魔方陣から柄が現れ、ゆっくりと現出してくるのを待てないかのように俺の腕が、サレオスのガントレットが魔王の剣を手にするとそのまま虚空から剣を引き抜く!

「うっおおおぉおぉぉぉぉっっ!」
「それは―――っ!?」

 引き抜いた長大な魔剣が理解を超えるスピードで幾閃も振り回り、デヴィるまんが間一髪で避け、こちらの間合いの外に出ると獣のように手足を地面につけ、体勢を取る。

 ディヴィルまんが驚き、手にしたこちらの方も驚いている。

 これだけ巨大な質量をこの手甲だけで持ち上げ、自動律を持って駆動している。
 分かりやすく言うと動力無しで自立制御のパワーハンドか、おかげで高速移動は出来るものの、周囲に林や建物があるため、派手に立ち回ることは出来ないもののこの間合い、定点においてこの魔神と同等の戦闘力を手に入れた。

 が、互いの吃驚はまた別の所にあった。

『殺す気か!』

 声がハモる。
 今の剣筋は明らかに加減や寸止めというものを意識しない、紛い物無しの鋭すぎる剣筋だった。
 ぶっちゃけ、向こうが全力で避けなきゃヒットした部分を切断していた。

 だが、手甲と魔剣は理解しちゃいないのか、スゲー殺る気マンマンで切っ先をデヴィるまんに向けている。

 くそっ、自律制御ならこうは…いや、理解した、からか。
 詰まるところ、それだけの相手で俺がその相手にどれだけ劣っているのか判った上で手加減する余地が無い、と判断したのだろう。

 ちっ

 となれば―――自分自身でどうにか打開するしかない、か。
 殺して生き返らせる。なんて考えは毛頭無いし、今この状況下でそんな事をしたら相手がどうなるか分からない。

 改めて相手を見る。退く気は無いらしい。だが、さっきまでのように無鉄砲に向かってくる気も無いらしい。

「逃げない。か。 まぁ、だろうな。逃げない限り、戦うよなぁ?」
「ぐぅ…っ」

 俺の精一杯の虚勢にも苦虫を潰したような対応しか出来ない。

 ジレンマだ。

 立場が悪くなった敵は逃げる。だが、その逆を言えば敵が逃げない限り、戦いは終わらない。
 立場が悪くなったのは自分。だが、自分が正義の悪魔である限り、逃げるわけにはいかない。

 今までは前者しかなく、それ故に後者が成立していた。

 そしてこちらもジレンマを抱えていた。近接攻撃では、殺してしまう。だが、遠距離で攻撃する術は持たない。
 となると残るは―――
 
 そう、これは力ずくじゃ敵わないと思った時から真っ先に考え付き、力ずくでは敵わないために排除していた方法。

「……………」

 そして、ここまで相手がそっちにどっぷり浸かっているてが故に使える方法。

「だーれも知らない、知られちゃいけーないー♪…だったよな」

「んん?」

「…オロバス、1つだけ聞く。 さっき、憑依した人間…て言ったよな?」

(ん? あぁ、もっと前にも言ってるだろ。 アモンには本来、あんな力は無いが、この国のニンゲンはアモンはあんな力がある、と信じている。フェニックスと同じさな。
 といっても、アレは別に変身したわけじゃない。アレは憑依…いわゆる悪魔憑きが身体まで影響した形だ)

「悪魔憑きってアレか。ブリッジしたまま四つ足で迫ってくる―――」
 たしか何十年も前に公開された際、人死にが出た、という映画があったハズだ。

「あぁ、大概は病理性悪魔憑き…精神疾患でそこから肉体に影響を及ぼすパターンだ。
 あと、稀にホンモノが降りる場合や脳そのものの異常発達によってホンモノになる場合がある。アレがその前者だ。
 乱暴に言う…というか教会からして見れば悪魔の力を使う連中はみんな、悪魔憑きだ。
 それは大将を含む指環使いも例外じゃない。 だが、一般に言われる悪魔憑きは目の前のアレ、くらいまで憑依されてないと見分けつかないわな」

「どちらにしろ、オレ達と同じ、なんだな?」
「あぁ、アレは悪魔じゃない。悪魔憑きだ」

 それは目の前の相手は悪魔ではなく、悪魔の憑いたニンゲンだということ。

「よしっ」

「おい待てマスター、もしかして―――」

 あぁ、そのつもりだ。
 これは力ずくじゃ敵わないと思った時から真っ先に考え付いた方法。
 
「やめとけっ、どこまで侵食…精神汚染されてるか分からないんだ。大将だって無事ですむとは限らない」

 …あぁ、その手のモノの心を読んじゃいけないことはあのヒトから一番最初に聞いている。だが、それでも、これ以外に方法は、ない。

「教えてもらうぞ、オマエの正体!」

 最近は力づくだったが、本来の俺の戦術―――搦め手でいけそう…というよりもいくしかない。
 つーか、こんなエラい所から怒られそうな戦闘、とっとと終わらせるに限る。

「なっ!?」

 教えてもらおうか、オマエの正体―――

「まさか―――」

「教えろ!オマエの正体、住所!氏名!所属!」

「ううううぅぅぅぅぅっ!!!」

「無駄だっ。
 オマエが人間で【も】ある限り、この縛りからは逃れられないっ!」

 誰も知らない、知られちゃいけない。

しゅううぅぅぅぅ…

 何も言えない、話しちゃいけない。

 そう、知られてはいけない。
 知られてしまえば外堀が埋められてしまうから。
 知られてしまれば殺されてしまうから。 

(jq@z!&おp。t9z!―――!)

「が ッッッ!!!!???」

 読み取る思考に直接、アモンが乗り込んで来る!
 脳みそを直接殴られたような頭痛で思考が止まり、視界がブレる。

(#Eの入d(和TE操X―――人dんc&xこc0がDyEg!
 さぁっ! ここは退け! そして我を見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ! 見逃せ!)

 思考に侵入されたショックによるブランク状態の思考に刷り   込 む  かの ように思  考 が それ   だ     けに  埋      まっ  て―――

笑わせるな

 そこに 嘲るような 笑いが入る。

(人心操作が真域? 笑わせるな)

 すると書物の頁がめくられていく洗練された音が俺とアモンの思考の上層に降り注ぎ、1ページめくられていくごとに俺の精神が原状に戻っていき、中からアモンが引き摺りずりだされていく!

(この程度の誘導で操作とは―――アモン、貴様はヒトの心の深域すら分かってはいない)

 そうか、この書物の音―――

(ダンタリオン公! おのれ―――!)

 ダンタリオンの持つ、書物の音―――!

(気付かぬか。 お前の本体は既に【自分の負けを認めている】)
(なっ!? あっ!? ぁぁぁぁあああああっっ!!?」

 ダンタリオンのその思念に魂ごと雷に打たれたかのようにアモンのその精神の後半は本体にまで影響を及ぼし、言葉となって吐き出されていた。
 視界が一瞬にしてホワイトアウトして現実に引き戻される。

「はぁっ、はぁ…っ!!? ぐぅぅぅぅぅっ!!」

 どうしたことかアモンがそれまでまとっていた青い肌が削ぎ落ちていく!

 削ぎ落ちて行った物質は徐々に土に同化し、身体に残ったそれは衣類となっていく。
 残されたのは一見、普通の人間だが、どこまで普通に戻ったのかは分からない。
 混乱しているのか、心がよく聞き取れない。

「あ“あ”あ“あ”ぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 全てがそぎ堕ち、まるでアモンの断末魔のような辺りをつんざくような咆哮のあと―――そこには立ち尽くした少女が残された。

 ちなみに指輪は外れていない。
 身長も3分の2くらいになり、指も細くなりはしたが拳を握るようにして落とさないよう支えている。なにより、顔を隠すような髪の隙間からこちらを見る目が死んじゃいない。
 反抗的、というよりは決意を秘めた瞳。その目はじっと、ただこちらを覗いていた。

「…………」

「名前、おとこ、ってのか」

 こくん。

 ネタがネタだけにもう少し歳のいってる人間を想像していたんだが目の前の少女は俺と同じか少し年上のようにしか見えなかった。

 ダンタリオンによってアモンが剥がされた時点で向こうのガードをこっちが突破して本体―――少女、音枯の名前などのプロフィールは手に入れていた。
 それにしても音が枯れる、と描いて音枯、ね……どこまで歌詞に忠実だったんだか。

 名は体を表すってワケじゃないがとことん声が小さくて聞き取りづらい。

「…………」

「ん、よく聞こえない」

「………、……………っ……」

「普段、こんな感じだからイメチェンしたかったと」

 こくん。

「……なんつーか、イメチェンとかそういうレベルじゃない気がしなくもないんだけどな…
 あぁ、あと聞き取るのが面倒くさいんでこちらに伝えたいことを思考しろ。
 そうすればこっちからその思考を読み取る」

「!!!!!!」

「さとり? あぁ、そんなモンだ。まぁ、指輪の力だ。納得しろ」

(…わかりました)

「あぁ、それでいい。 それで、こちらの勝ちでいいんだな?」

(それについて質問があります。
 貴方は私のことを知りましたが、さっき言っていたように私の家族に危害を加えるつもりは―――)

 …家族、ね。

 血のつながりも何もない人間たちを家族、と呼び自分よりも優先するか。

 まぁ、そこに不快感はない。
 むしろそれが利用できるのであれば利用するまでだ。

「お前さんがその指輪を差し出してくれればそうする必要はなくなる。
 渡さなければ―――デヴィるまん…アモンは危険すぎるからな。手段なんか選んじゃいられない」

 こう言わなければ、完全に見も心も魔人になる覚悟をしていた少女―――音枯は安堵の息を吐いた。

(…わかりました。アモンと公爵たちの指輪はお渡ししますし、この場にない残りの指輪もお渡しします。
 あと、私には何をしてもかまいません。ですから家族には手を出さないで―――)

 敗者としての心構えはできている。ってワケか。大したモンだ。
 が、俺の反応はあっけらかんとしたものだった。

「わかってる、それにオマエには事実、助けられてるしな。
 もっぱら人助けしかしてないんだったら別に咎めるようなこともない。むしろ感謝してる」

(……へ?)

 方法として行き過ぎた点はあり過ぎる。実際、幾人が犠牲になったのかは分からない。が、元はと言えばこのようになると知っててコイツに指輪を渡した魔女が元凶であることに他ならない。
 まぁ、それでも罪を犯したことには変わりはない。理由はどうあれ、返り血を浴びたのは音枯に他ならない。
 だが、オレにはそれを咎めるつもりは無かった。そもそも咎める権利なんか欠片だって持っちゃいない。

「で、だ。感謝ついでにイメチェンしたいならさせてやるぞ。
 外見から内面まで一応、自在に変えられる」

 実際口にしてみるととんでもない能力だな。

「―――…ぁ」

 そして、おとこは口を開き、要望を口にした。

「……にしてもアレが望みだったとは」

(さすがだぁねー。
 にしても、結局、内面から攻略するならなにも武力なんか持たずにそれで終わらしゃ良かったのに)

「馬鹿言え。膠着状態が作り出せてこその策だ。
 掌握する前にこっちの身体をブチ抜かれちまえばゲームオーバーだろ」

 そう言って区切りをつけ、手のひらにある指輪を見つめる。

 結局、音枯の願いは普通に誰かとコミュニケーションが取れるような性格や外見になりたかったらしい。

 なんだかんだ言ってデヴィるまんもアイツなりの自己受容認知欲求の表れの一つだったのだろう。とはいえ、あそこまでなられても周りが疲れるだけなのでそれなりにポジティブにして心持ち背を伸ばした位か。

 元々、前髪に隠れて顔が良く見られていなかっただけで整った造形だったから顔を弄くる必要も無かった。一応、隠さなくていいように前髪をそれなりに短くした程度で終わった。

 要は、それなりにデヴィるまんの陽気さを自分を投影できるようにした、程度。
 どちらかというと精神的なもので根っこは問題ないのだからそれだけで十分だった。

(あとは嬢ちゃんが集めていた残りの指輪を持ってくれば一件落着か)

 そう、変容させたあと、音枯は残りの指輪を持ってくるといってそのまま帰って行った。

「だな。まぁ、残りはそんな大した事ないし、またこの戦いに戻ったとしても構わないけどな」
 俺の第一目標はいま手のひらにあるアモンの暴走を止めることだった。ぶっちゃけ、あとは興味が無い。ポジティブになった音枯が残った指輪を用いて再参戦してきてもそれを咎めるつもりもなかった。

「それだけの恩は貰ってる」

 そう、音枯がいなければあの日、妹を無事助け出すことは難しかった。
 だから指輪の約束を反故にしたところで別に構わないつもりだった。
 が、向こうは向こうで約束は守るつもりだったので今日中には届くだろう。

「……さて、そこまで厄介じゃないといいんだがな…」

 そう、あまり気が進まないがこれも勝者の義務だ。
 そんなことを思いながら俺はアモンの指輪に指を通した―――

―――
――――――
―――――――――
 いつも通り、青みがかった世界、空を仰いで目の前には―――

「やぁ、キミ。 や ら な い か ?」

「っ!!」
 瞬時に意識を表に戻す!

(おや、早かったねぇ、大将)

「………なんなんだ、アレは」

(アモンしかいないんじゃないのかい?)

「………なぁ、フールフール呼んでいいか? んで、あの指輪蒸発させていいか?」

(………落ち付け、大将。なにがあったか分からんが)

「なんで魔人が公園にありそうなベンチに座ってツナギの股間のファスナーをおもむろに開きながら誘惑してくんだよ!」

 アレ、女じゃなかったのかよ!

(………………じゃっ)

「おいっ、オマエだけ現実逃避すんな!むしろオマエが奴を説得しろよ」

(はっはっは、騎馬公子はシャイだからネゴシエイトなんて向いてないんだZE?)

「マルファスを説得した口がそんなこと言うかっ!」

(だからさー、そんな会話が成立しなさそうなの相手にすんのメンドくさいじゃん?)

「ぶっちゃけんな。はあぁぁぁぁ…魔人にはロクな連中はいねぇのか…」

(あ、差別発言。
 そしたらアレだ。こき使われていた公爵達やアスモの旦那でも連れてきゃどうにかなんじゃね?)

「…ま、そこらが妥当な線か」

 そう言って、デヴィルまんが付けていた指輪を他の指に通す。
 さて、これで状況が改善されていれば―――

―――
――――――
―――――――――

「すいません、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。もうしません。許してください」

 そこにはフルボッコにされたアモンが、いた。

「おぉ!貴君が新しい主人か。早かったな!」

「この度は感謝する!我らは喜んで貴下に入ろう!」

「あ、あぁ。よろしく頼む。んで、アモンは―――」

「新しい主人! 傘下の魔神たちを仲良く管理するのも主の仕事だろう! つー事で助けてくれなさい」

「……もう少しボコってくれ。つーか礼儀作法というものを根底から叩き込んでくれ」

『承知!』

 公爵たちの眼光が洒落じゃなく光る。

「あああぁぁぁっっ!!待った!スイマセン!もうしません!調子乗りすぎてましたぁっ!」

「わかりゃいいんだよ。フザケたマネをしたら今度からも2柱を呼ぶからな」

「…コンチクショウ…今に見てろ…(分かりました。申し訳ございません)

「本音と建前が逆だ。

 ちなみにオマエ、ダンタリオンにも怒り買ってるっての忘れるなよ?」

「し…しまった…ッ!」

 なにがしまった、なんだか。建前と本音が逆転してる時点でおわっとる。

「あー…あとはオマエ等に任せる。滅びない程度に好きにしてくれ」

 これ以上、付き合っていられるか。
 背後から断末魔が聞こえる中、俺は群青の世界をあとにした―――

「ふぅっ」

 いつもとは別の意味で疲れた。
 …つーかコレが悪魔との契約の儀式と行ったらどれくらいの人間が納得するものか。

「お疲れ様。カラス君」

 背後から声がかけられる。

「あぁ、夜鷹もお疲れ様。付き合わせて悪かったな」

「いや、こちらこそ何も出来なくて悪かったね」

「んにゃ。アレだけしてくれりゃ十分だったし、後ろに控えてくれてるだけでだいぶ気が楽だった。とっさに動けなかったしな」

「そう言ってもらえると助かる」

 そんな話をしながらエントランスの方まで歩いていくと華南がこちらに飛びついてきた。

「ご主人さまっ! ご無事でしたかっ!」

「あぁ、おかげさまでな」

 そう言って夜鷹を見ると背中を見せたまま手を振ってきた。このまま部屋に戻る、ということだろう。

「さっきの連中はどうしてる?」

「はい、とても有意義な下見だったという印象を強く持って帰っていただきました。数日後には入居の契約交渉に入ると思います」

「重畳だ。 それじゃ学園に行ってくる」

「え? 今からですか?」

 ぽかん、とした華南が意外そうに言ってくる。

「あぁ、一応、元デヴィルまん…音枯が残りの指輪を持ってくるかもしれないからその時は預かっておいてくれ」

「はい、かしこまりました。 行ってらっしゃいませ」

 そう言って頭を下げる華南をあとに俺は学校へと向かった。

「んしょっ、んしょっ」

「ほい」

「え? あ、ご主…カラスくん?」

「海鵜先生、お借りしていたモノ、お返しします」

 そう言ってそれまで千歳が両手で抱えていたプリント束を片手で抱え、引き換えに指輪を空いた手のひらに乗せる。

「え?あ、ぁ…ぅん」

「…素に戻らないでください。これを教室に持っていけばいいんですね?」

 構内では指輪は嵌められない為、指輪をポケットの中に入れる千歳に確認をとる。

「え、うん、そう。ありがとう…って! 誤魔化されないんだから! あれだけ言ったのに危険なことして…っ!」

「ん…? あ、あぁ、なんでバレたんだ?」

「今、サレオスさんが全部教えてくれました!」

 無理やり駆り出された意趣返しか、思ったよりセコいな。いや、このやりとりすら酒の肴にするつもりなのかもしれない。

「まぁまぁ、そんな怖い顔しないでください。可愛い顔が台無しですよ」

「そんなこと言って!それに可愛いって、可愛いって…ふしゅぅ」

 綺麗の方がいいのだがこの際、可愛いでも充分嬉しいのだそうだ。うん、単純で助かる。
 そんなことを考えていると千歳がとんでもないことを思い出した。

「あ、そうだ。そんなカラス君に罰ゲームです」

「………んん?」

 なんだ、それ。

「クラスの出し物。 職員会議でメイド喫茶は他のクラス…というかみなぎさんのクラスと被るという意見が出て、女の先生方から執事もいれば…とアドバイスを頂いて混ぜることにしたんで、執事長、お願いしますね」

「なんだ、それ」

 嫌な予感しかしない。

「カラス君はしっかり繋いでおかないと。
 またどこかで一人で危ない目に遭いに行くか分かりませんから。担任命令です」

「職権乱用すぎる。っつーか俺はもう十分に寄与しただろ」

 むしろ、期間中は城で休ませろ。

「ダメです。決定。大決定です。それとも、メイドがいいですか?」

「……執事で」

 ……よわい。ご主人様よわい。
 ふぅ…ま、仕方ないか。
 学園祭中は何が来るか分からない。

 不穏なことをするようなヤツは俺の与り知らない所で処理されるだろうが―――用心しておくことに越したことはない。自分のものは自分で管理するのが筋だ。
 なにより、これが最後の学園祭になるかもしれないのだ。

「…たく。 ま、せいぜい楽しませてもらうとしますかね」

 隣でスキップをしてこちらになにやら話しかけてくる担任を横目で見ながらそんなことを考え、俺たちは教室に向かった―――

 あぁ、それと蛇足。
 その日、音枯は現れることは無かった―――

< つづく >

感想を書く

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.