もったいない魔王 第四幕

第四幕

 彼女は歩みを進めていた。まっすぐに進んでいた。その先にいる兄弟を引き裂くために、踏みにじり蹂躙するために。

 この人間界に来てから、すぐにあの軟弱者の配下の小悪魔を捕まえられたのは運が良かった。
 手始めにあの軟弱者をこの爪で引き裂こう、この脚で踏み潰してやろう。あの同じ母から生まれたとは思えないほど軟弱でセコイあの男・・・カンディスを。

 このゲームの勝者は、ポイントを最も稼いだプレイヤー。そして、殺すよりも服従させた方がポイントは高い。だが、知ったことか。
「なら他のプレイヤーを・・・あたし以外の兄弟姉妹を始末すれば、勝つのはあたしだっ!」
 彼女、イセルヴァは翼を羽ばたかせた。戦いの予感に熱くなる身体を、冷ますために。

 そのイセルヴァを、気配を消しながら尾行する影があった。
「いやー、単細胞な奴は楽で良いわよね。あんなチョロイ手に引っかかってくれるんだから」
 幼く見える可愛い顔に、残酷さを込めた嘲笑を浮かべる。

「カンディスの情報を流すために、わざと捕まえられるように命令した使い魔が握りつぶされちゃったのは痛手だけど・・・まぁ、これも必要な犠牲って奴よね」
 あっさりと配下の死をそう言い捨てると、彼女は再び嘲笑を浮かべた。

「さぁ、単細胞でバカ力のイセルヴァちゃん。お姉ちゃんのために、落ちこぼれのバカ弟とつぶしあってちょうだいね。その間にあたしはバカ弟のポイントを頂くから。
 ・・・もちろん、2人ともあたしの下僕にしてあげる。生きていればだけど」

 酷薄な台詞とともに、淫魔アリタは嗤った。

 その頃狙われている当人であるカンディスはと言うと・・・例によってお楽しみの最中であった。

 ぬるりとした粘度の高い液体に塗れた小さく細い肢体が、ゆっくりとカンディスのペニスを上下に絡まるように蠢めいている。
 サイズはともかく身体との比率では豊かな乳房が、何時も飛んでいるくせに引き締まっている太ももが、細く掴むだけで折れてしまいそうな腕が、しなやかに動く尻尾が、そして小さいが熱い舌が、その全てが快楽を与えるためだけに、得るために蠢く。

 緩やかに高まっていく快楽は、ついにカンディスを絶頂に導いた。ペニスがビクビクと痙攣しながら白濁した精液を射精する。
「んぷっ、んんっ! んんんーっ!」
 小さい身体にはきつい勢いで吐き出されるその精液を、ザジは翼まで広げて身体全体で受け止める。たちまちザジの緑の肌が白濁に侵食される。

「相変わらず・・・んく・・・ダンナの精は・・・ちゅ・・・魔力も味も濃いっすねぇ」
 ザジが身体についた精液を舐め取りながらそう言うと、お返しとばかりにカンディスも言う。
「お前の全身コキも、相変わらず上手いな。・・・イクまでに時間がかかるのが難点だが」

「そうは言いますけどね、これけっこう重労働なんですぜ・・・・ん・・・ちゅぅっ!」
 そう返しながら自分の顔と同じくらいの大きさの亀頭に口をつけると、尿道に残っていた精液も吸い取る。

 ずいぶんと貪欲だが、これもカンディスの精液にブレンドされた魔力が、ザジのような悪魔にとって栄養満点のご馳走だからだ。事実魔界に居る間カンディスの相手をしていたザジは、他のインプ族と比べて能力も高く身体も一回りほど大きい。
 ・・・ザジに言わせると、美容にも効果的らしい。比較対象が少ないので、事実かどうかは不明だが。

「さて、次はお前だな。・・・来い」
「はい」
 それまで情事にふけるカンディスとザジの前に跪いていた女が、するりと衣服をその場に脱ぎ捨てるとカンディスのペニスの前に、改めて跪いた。

 全体的に引き締まった身体つきの、二十歳ほどの美女だった。普段はクールそうなその美貌も、今は幸福に赤く染まっている。
「ああっ、感謝致しますカンディス様。老いたこの身に、今一度僕になる機会をくだされた事を」
「なに、お前の日頃の行いを評価したにすぎん。気にする事は無いエリザベス修道院長」

 今カンディスの根城にしている修道院の元責任者エリザベスは、洗脳はされたもののすでに壮年だったために、カンディスは当初ただの管理人としてだけ利用していたし、さしたる興味ももっていなかった。
 だが、ディエナで試した若返りの薬が無事完成したので、ものは試しと若返らせてみたのだ。そうしたら思っていたよりも美しかったので、今更ポイントにはならないだろうが僕に加えることにしたのだ。

 ちなみに、二人いる副修道院長も若返らせてみたが、あまりカンディスの好みでなかったためにそのまま雑用係として使っている。

「では、クレア達より遅れたがお前にも祝福を・・・」
 そう言いかけた瞬間、ジリリリリッっとベルの音が響き渡る。むろん、終身時間や夕食の時間を知らせるようなベルではない。これは警戒網に敵・・・他のプレイヤーが侵入したことを知らせるものだ。

「・・・思いのほか来るのが早かったな。エリザベス、名残惜しいが祝福を授けるのは後だ。我輩は敵を迎え撃ちに行くから、お前はプランAを実行しろ」
「はい、お任せください」
 カンディスより潔くエリザベスは一礼すると、脱ぎ捨てた服を抱えてプランA・・・緊急時の行動指針を実行するためにカンディスの部屋から退室する。

「さて、ザジよ。お前にはこの場の指揮を任せる。可能性としては低いが、相手が誰かと組んでいる可能性も無いわけではないからな」
「それはかまいやせんが、本当にダンナ一人で大丈夫なんですかい? どうにも不安なんですがね、あっしは」
「安心するがいい、ちゃんと勝てそうに無かったら逃げ出す予定だ。それよりも、お前は我輩の獲物達をしっかりと指揮しろ」

 そう言いながら、カンディスはこの前の辺境で対水神用に持っていった道具を詰めた袋を、肩に背負う。
「それに・・・我輩の作った作品があれば、どうとでもなる」

 月明かりに照らされる中、修道院から黒い翼を生やした人影が飛び出していった。
 息を殺して潜んでいたアリタは、自分の作戦が思い通りに進んでいる事を知り、漏れそうになる笑い声を抑えた。
 彼女の前には、悪魔によって惑わされた子羊しかいない修道院がただ佇んでいる。

 薄暗い森の中、二つの異形が月と星の輝きに照らされていた。
 どうやら、あの軟弱者は自分が思っていたよりも肝が据わっているらしい。イセルヴァはそうカンディスへの認識を改めた。
 何故なら、自分の前に堂々とカンディスが姿を現したからだ。

「ほほぅ、イセルヴァ、お前が真っ先に来るとはな。意外・・・いや、妥当か」
 カンディスは人間界で再開した妹を見やった。月明かりだけの暗闇でも、はっきりとわかる。こめかみから生えた二本の角や、飛行には役立たないが細く優美なラインを描く翼、腰から生えた細いが鞭のように撓る尻尾。そしてそれらの異形ですら忘れさせる、魅力的な美貌と身体つき。

 顔つきは気が強そうだが美しく、背はやや高めで胸も尻もよく発達している。その上、着ているのはその胸や尻がこぼれそうなほど面積の小さなレザー製の衣服とは言いがたい物のみ。
 外見ならば、カンディスよりもよほど淫魔らしい。・・・外見だけなら。

「カンディス・・・堂々と出て来たところを見ると、少しは強くなったのか?」
 もしそうであったなら、嬉しいと言わんばかりの顔つきでイセルヴァが兄に声をかける。
「・・・相変わらず、淫魔らしくない性格だな。イセルヴァ」
 イセルヴァもカンディスに負けず劣らずの変わり者の淫魔だった。

 情事よりも戦いを好む性格と、その性格に似合うだけの淫魔の規格外の戦闘力の高さ。彼女にかかれば重武装の騎士一個小隊など、木の棒で騎士ごっこをしている子供の群れでしかない。容易く蹴散らされてしまうだろう。
「それで何のようだ? 我輩は淫魔らしくお楽しみの最中だったのだが」
「もちろん・・・お前を殺しに来たのさ。手始めにお前を殺し、クロス教の騎士や司祭を殺しまくってやる。
 何なら、あたしに跪く? あたしの気が変わるかもしれないぞ」

 無邪気でありながら血の滴るようなイセルヴァの笑顔に、カンディスは首を横に振った。
「やったら、下げた我輩の後頭部を踏み潰すだろう、お前は」
「正解・・・だっ!」
 どんっ、と地面が爆発したような音を立てる力強い踏み込みで、イセルヴァはカンディスに迫った。

 まずは手始めに、爪ではなく拳で一撃。それでどれだけ強くなったのか、何か得意の道具を使っているのか確かめる。
 凶悪な破壊力を秘めた拳に、カンディスは余裕の笑みを浮かべ・・・。
「ぐぼはあぁぁぁぁああぁっ!」
 直撃をそのままくらって、背後の茂みまで吹き飛んで行った。

「・・・・・・あれ?」
 思わず拳を振り切った姿勢のまま硬直するイセルヴァ。堂々と姿を見せたのは、何か対抗策があるからだと彼女は考えていたのだが・・・今のはどう見ても『避けようとしたけど避けられなかった』ではなく、『避けようとする前に当たった』といった感じだった。

 思わずイセルヴァがあっけにとられて、カンディスの吹き飛んで行った茂みを見ていると・・・ガサガサと音を立ててカンディスが茂みから再び現れた。
 無傷で。
「ふむ・・・思ったより効かんな。勢いだけはあったが」

 直撃したら鉄板に容易く穴を開けるストレートを受けたはずの顔面で、余裕の笑みを浮かべるカンディスにイセルヴァは無言のまま間合いを詰めると、ミドルキックを放った。当たれば内蔵があろうが、背骨があろうがくの字に折れる一撃。
 だが、カンディスはそれを避けるどころか腕であっさりとガード。どうぅんっ! と言う鈍い音が響いたが、響いただけでカンディスは、くの字に折れ曲がるどころか、微動だにしない。

「この蹴りもなかなかだ。・・・直撃すればな」
「くっ、バカにするなぁっ!」
 最初から道具の使用をさせないために、速攻で決着を着けるつもりだったが・・・頭に登って来る血が、慎重さや冷静さを塗りつぶし怒り一色になってしまう。

 続けての蹴り・・・をフェイントに、尻尾での脚払い。体勢を崩したところに本命の一撃で止めを刺す。
 しかし、カンディスはフェイントを軽く流し、脚払いを受けても体勢を崩さない。そしてバカにするような余裕の笑みに言葉。

 それでますますイセルヴァは冷静さを失い、計算も分析もしようとしなかったために、目の前のカンディスがおかしい事に最後まで気がつかなかった。

 戦いはイセルヴァの攻めで進んでいるが、それらがまったく成果を上げていない。そして、今まで守り一辺倒のカンディスが攻めに転じたら・・・その焦りが彼女に切り札を打たせた。
 空気を裂き、音が追いつかない速度でイセルヴァの翼の一閃がカンディスに襲い掛かる。彼女の翼は、移動の手段ではなく戦いのための武器。その前には、全ての装甲が紙切れ同然と化す剛の刃。

 その一閃をカンディスはやはり避けようとはせず、防ごうと腕を上げ・・・その腕を断たれ胴にまで翼がめり込んだ。
 ごがぁっ! と言う派手な音と、『木切れが』飛び散る。

「血が出ないっ!? 図られ・・・た・・?」
 ぐらりと、視界が歪む。硬いはずの地面が、泥沼に変わってしまったように足元が頼りない。
「な・・・に・・が・・・・・・」
 とさりっと、思いのほか軽い音を立ててイセルヴァは倒れると、意識を失った。

 その一部始終を、本物のカンディスは眺めていた。足元に置かれた黒い香炉で香が焚かれているが、臭いはまったくしない。
「・・・対悪魔用の睡眠香に、気がつかないまでも長時間耐えるとは。やはり、我輩が直接時間を稼ぐなんてまねをしなくて良かった。・・・プッ!」
 言葉の最後に、いまだ出血が止まらない口内の傷のせいで溜まった血を吐き出す。

 イセルヴァに近づくと、近くに切り裂かれた木人・・・訓練用の木製人形が転がっている。
「我輩の幻覚を纏い、通常の木人の数十倍の強度と攻撃を自動的に防御する自立機能を備えた、『身代わり木人君』を真っ二つ・・・。我輩だったら死んでいるぞ完全に」
 冷や汗を流しながら、カンディスはイセルヴァを抱き上げる。

「この戦闘能力は危険だが・・・有用だ。活かさないのはもったいない。・・・男だったらともかく」
 イセルヴァと違って、カンディスは兄弟姉妹を始末しようとは基本的には思っていない。それが彼女にとって幸運なのかは、わからないが。

「さて、ではゆるりと帰るとするか。気つけ薬を使わない限り、後数日は目覚めんはずだからな」
 アリタが修道院に迫っていることなど知らないカンディスは、のんびりと帰路についた。

 その頃アリタは、静かに羽ばたくと空に舞い上がっていた。
 アリタの作戦は、カンディスとイセルヴァが潰し逢いをしている間に修道院を制圧すると言うシンプルな物だ。
 その後、潰し合いにイセルヴァが勝ったとしたらここには来ないだろうが、カンディスの集めていたポイントがそのまま手に入る。

 カンディスが(万が一)勝ったらこの修道院に帰って来るだろうから、手に入れた修道女等を使って不意を撃てば、カンディス当人とおそらく捕獲しているだろうイセルヴァも手に入る。

 どちらに転んだとしても、彼女の得になる作戦だった。
 もっとも、彼女の認識が幾つか間違っていた事がこの作戦に致命的な亀裂を入れてしまったのだが。

「さてと・・・まずは迷える子羊ちゃん達を操らないとね」
 アリタは色香に惑わすよりも、カンディスのように操る事を主な手口にしていた。もちろん、彼女が使うのは道具ではなく自前の術だ。

 彼女が一度に複数の人間を操作することの出来る、強力な術を使うために集中していたために近づいてくる静かな羽音に反応するのが、遅れてしまったのがケチのつき始めだった。

「・・・ん?」
 静かな羽音にようやく気がついて、アリタが視線を動かすと・・・彼女がいるはずが無いと思っていた存在と視線があった。

 漆黒の翼を持ち、短い角を生やした少女。その手には無骨な棍棒が握られている。
「敵襲ぅ―っ!」
 そして掛け声なのか濃い方代わりなのか不明だが、叫び声と同時にその少女・・・ファーミアは思いっきり上段から棍棒をアリタ目掛けて振り下ろす。
「なっ、何でこんなところに悪魔がっ!?」
 動揺しながらも、何とか棍棒の一撃をアリタは回避することに成功した。

 だが、動揺したためにアリタは大きく体勢を崩してしまう。そこへファーミアが棍棒の一撃を放った勢いを利用した、身体ごと回転させての踵落としがまともに当たる。

「ぐっ!?」
 衝撃と鈍痛で短い呻き声を上げると、そのまま体勢を立て直すことも出来ずに、しかし真直ぐ地面へ激突することだけは何とか回避して、教会のステンドグラスに飛び込んでいった。

「えーと・・・次は『空中でそのまま伏兵に警戒』と・・・ご褒美貰えるように、がんばらないと」
 アリタを追う必要を彼女は感じない。何故なら、それは別の担当だからだ。
 ばさりと、ファーミアは修道院の敷地の上空を旋回し始めた。

 月明かりに煌く、七色の輝きの雨・・・ステンドガラスが砕け散る様を比喩的に表現するとしたら、こうなるだろう。
 しかしステンドガラスと一緒に床に落下したアリタにとっては、ただ痛いだけだ。

「なんでここにカンディス以外の悪魔が・・・あいつが連れて来たのはインプ一匹のはずなのに」
 戦闘力が基本的に低い淫魔と言えども、そこは人外の存在。地面への直撃コースを避けたこともあって、アリタは気絶もせずにすんだ。・・・頭にはコブが出来ているだろうが。

「とりあえず、陽動には失敗したわけね。・・・ここは撤退したほうがいいわね」
 他の100人の兄弟姉妹の中に、さっき見た悪魔はいなかったが厄介な事は確実だ。このまま足掻いてみてもジリ損は目に見えている。

 アリタはよろりと立ち上がると、撤退のための『姿消し』の術を使おうとしていきなり横に飛びのいた。
 その刹那、アリタが倒れていた場所に数本の短い矢が突き刺さる。
 矢の飛来した方向を見てみると、数人の少女がクロスボウを構えていた。

「第二斉射、用意っ!」
 その少女達を指揮しているシスターの掛け声に従って、少女達はそれまで構えていたクロスボウを捨て、さらに幼い少女達からすでに矢を装填したクロスボウを受け取り構える。
 その手際はプロの弓兵並み・・・とはいかないが、素人を短期間に訓練したにしては、なかなか良い手際だ。

「カンディス奴、獲物に何仕込んでるのよっ!?」
 修道女がクロスボウの使い方等、知っているはずは普通無い。なら、教えたのはカンディスのはずだ。

 実際その通りで、カンディスは手に入れた獲物達に戦うための訓練を施していた。本来ならファーミアの様に悪魔化してから戦力をして使いたいところだが、それには当初予想していたよりも多くの時間がかかるため仕方なく予定を変更したのだ。

 しかし、獲物の一部・・・ナイフやフォーク以上重たい物を持ったことの無さそうな令嬢のマレーネやリーサやサーラに、いきなり戦えといっても無理なのは当たり前だし、年少のミーシャ達にはきつすぎる。なので、構えて引き金を引けばそれなりの威力の出るクロスボウの扱いを教え、年少組みには装てんのみを任せる。
 そしてランシャに指揮を任せれば、急ごしらえだがこれで狙撃部隊の完成だ。

 ・・・命中率にかなりの不安があるが、荒事専門ではない淫魔には充分な威嚇になる。
「こうなったら、あいつらを人質にして・・・」
 幻術でどうにかしようにも、術が完成する前に撃たれる事は確実だ。だったら素早く飛び回ってかく乱し、年少組みの誰かを人質に取るのが最善だろう。

 悪魔に操作されているのだから構わず撃ってくる可能性もあるが、貧乏性のカンディスが同士討ちは避けるように指示した可能性も高い。
 右へ左へ、飛ぶにはやや狭い教会の中をアリタは器用に飛び回ると、第二射第三射と続けてかわし、隙を窺って年少組みの一人をかっ攫おうと試みるが・・・。

 横からいきなり繰り出されたナイフの一閃に、阻まれた。
「ひえっ!?」
 驚いて情けない声が出るが、ぎりぎりでアリタはナイフを回避した。その代わり、床に降ろされてしてしまったがそれもすぐに再び飛べば問題が無いはずだった。

 しかし、飛ぶよりも速くまた何時の間にか近づいていた女が、金属製の警棒でアリタに襲い掛かる。それを必死で避けている間に、ナイフを持った少女も加わり避けるので精一杯になってしまった。
 もし、彼女達が狙撃部隊同様急ごしらえの接近戦部隊だったら、アリタは隙を見て逃げ出すことも出来たが、彼女達は武器の扱いに手馴れていた。

「あいつ、本当に人間界に来てから一ヶ月・・・あうっ!」
「やったっ!」
 アリタの悲鳴と警棒を持った女の歓声が重なる。警棒がアリタの翼に直撃したのだ。
 これでもう飛ぶことは出来ないだろう。

「・・・良い働きです。シスターエルマ、使徒セリカ。 ここからは、私たちに任せなさい」
『はい、エリザベス修道院長』
 静かな言葉と共に新たに現れた女は、驚いたことに古ぼけているが鎧としっかりした作りの棍棒で武装していた。

「・・・修道院長って、ただの老いぼれのはずじゃぁ」
 震える声のアリタの前には、ただの老いぼれどころか若い立派な聖騎士がたたずんでいた。

 これはカンディスにとっても予想外だったが、エリザベスは若い時に2級聖騎士の資格を持っていたのだ。
 2級聖騎士とは、悪魔や悪霊と戦うためではなく人間の犯罪者、つまり盗賊等からクロス教の関係者や信者を守るために、兵士の訓練を受けたシスターや神父の事を言う。
 そのため、若返らせてから感を取り戻させるための訓練を少々させただけで、エリザベスはかなりの戦力になるというカンディスにとっては幸運な、アリタにとっては最悪の事態になったのだ。

 いや、もしエリザベスがただのシスターだったとしても、アリタにとっての最悪は変わらなかったかもしれない。
「主の敵を討つ機会を与えてくださった我らが主、カンディス様に感謝を」
『感謝をッ!』
 カンディスを讃える言葉と共に、エリザベスの後ろに何人もの武装したシスターが・・・クレアやレイシア達が現れたのだ。

 武装と言っても、鎧はつけておらず武器は木を削って作った棍棒・・・ラメラにいたってはフライパンで代用していると言うお粗末さだが、彼女らの瞳にある狂熱的な輝きがそれを驚異的なものに見せていた。

「な・・・なんで・・・」
 何で、あたしはあの悪魔に気がつかなかった? 何であたしはこの教会の中にいるこいつらに、今の今まで気がつかなかった? 何でこいつらは教会にいる? 幾つもの疑問が頭の中でグルグル回る。
 その答えを自力で出す前に、インプの少女の姿をアリタは見つけた。

「カンディスの使い魔っ! あんたが『姿隠し』の術でこいつらを・・・っ!?」
 アリタの疑問にザジは答えずに、にやりと笑いながら質問に質問で返した。
「問題。こっちを小悪魔と迷える子羊の集団だと舐めている淫魔と、ダンナの敵を倒す聖戦に意気軒昂な素人+α。勝つのはどっち?」

「いっ・・・」
 アリタが上げかけた悲鳴は、彼女が迷える子羊だと思っていたカンディスの獲物達の上げた雄叫び・・・もとい雌叫びによって掻き消された。

 カンディスがイセルヴァを背負って帰ってくる頃には、修道院は元の静けさを取り戻していた。・・・教会のステンドガラスが砕け散っているので、何かあったということは一目でわかるが。
「ファーミアが飛ぶのに失敗して突っ込んだ・・・訳ではなさそうだな」
 こちらに駆け寄ってくるクレアに目を止めて、カンディスは留守中に何かあった事に察しがついた。

「クレアか。何があった?」
「はい、カンディス様の留守中に悪魔がここに侵入しようとしたんです。それで・・・」
「撃退できたのか。誰か怪我をしたものはいるか? 撃退できたのはいいが、お前達に損失が出ては元も子も無いからな。
 しかし、戦闘力の低い淫魔とはいえ素人+αで撃退できるとは・・・やはり武器に扱い易く安価な鈍器を選んだりした我輩の考えに、間違いは無かった」

「いえ、捕獲してあるんですが・・・いけませんでしたか?」
「なにぃっ!? 何処にだっ!?」
 悦に入っていたカンディスは、クレアの『悪魔捕獲』の報告に目を剥いた。
「はいっ、本来なら地下牢が妥当ですが、それは無いので食料庫に鎖で縛って入れておきました。
 ザジ様と修道院長、それにシスターエルマや使徒セリカが見張りについています」

「ふむ・・・撃退どころか捕獲とは・・・・・・・。よくやった。我輩はお前たちの働きに、報いることを約束しよう」
「持ったいないお言葉です・・・でも、皆きっと喜びます」
「だが、先にその淫魔と我輩の背中のこの危険生物の調教を行わねばならないな。
 クレア、お前は我輩の部屋から『裏表の姿見』を出してその捕獲した悪魔の前に置いておいてくれ。それから・・・ミーシャに『髑髏教授の数学盤』を持ってこさせろ。我輩はこいつを・・・そうだな、食堂に連れて行く」
「はい、直ちに」

 『髑髏教授の数学盤』、それはカンディスの作った道具の中でもかなり禍々しい外見をしていた。授業で使う黒板に人間の上半身の白骨が半ば融合しているような形状をしている。しかも、その髑髏が時々カチカチと顎を鳴らしている。
 ・・・部屋にあるだけで、呪われそうな代物である。

「カンディス様、この不気味なのなに?」
「以前作った『傲慢の天秤』を改良して作ったものだ。これの出来栄えを試してみようと思ってな。怯えるのも無理は無いが、お前にとって害は無いから安心しろ。
 さて、まずは・・・」
 カンディスはチョークで黒板に文字と数字を書き始める。

 イセルヴァの数式 手足と翼の力=0 。

「これで、もう起こしても大丈夫なはずだ。気付け薬を嗅がせろ、ただし起きたらすぐに離れるのだ。顎の力は落ちていないからな」
「うん」
 ミーシャが気付け薬をイセルヴァに嗅がせると、イセルヴァは小さく呻いてすぐに目を覚ました。

 自分から小動物の用に素早く離れるミーシャをまだぼんやりしている頭のまま見つめ、次に床に仰向けに横にされている自分とカンディスを認めると・・・イセルヴァは跳ね起きてカンディスに襲い掛かろうとして跳ね起きて・・・床に無様に倒れこんだ。

「なっ!? くそっ、くそぉっ!」
 ジタバタと立ち上がろうともがくが、怪力を誇るはずの彼女の手足にはまったく力が入らずただ芋虫のように這いずる事しか出来ない。
「この数学版は、『傲慢の天秤』と違って簡単な肉体操作も可能でな。・・・この場に『傲慢の天秤』を知っている者がいないから言っても仕方が無いか」

「・・・殺せ。さっさとあたしを殺せっ!」
 『傲慢の天秤』云々はわからなかったが、少なくとも自分が負けてすでに逆転の可能性が無い事を理解したイセルヴァは、憎しみの込もった瞳でカンディスを睨みつけながらそう喚いた。

「こいつ、カンディス様に命令するなんてっ!」
 イセルヴァの態度にクレアが目を吊り上げるが、カンディスはそれを片手で抑え、再び数学版に向き直った。
 元々温情でイセルヴァを殺さなかったわけではないし、彼女がそう言い出す事も予想がついていた。だから、これから何をするかも、決めていた。

「さて・・・我輩の知っているイセルヴァは、身体以外はとても淫魔らしくない好戦的で淫行に嫌悪感を覚える兄不幸な妹だ」
 厳密には、同じ日に生まれたので同い年。しかも生まれた順番なんて誰も数えていないので、もしかしたら姉なのかもしれないが、そんな事誰も気にしてはいない。この辺りアバウトである。

「何を言ってるっ!? ・・・お前に殺すつもりが無いなら自分でやってやるっ!」
 そう叫んでイセルヴァは舌を自ら噛み切ろうとする。それに構わずカンディスはチョークを手に取った。
「そのイセルヴァから『死ぬ覚悟』を引いてみると・・・こうなるな」

 イセルヴァ - 『死ぬ覚悟』 = 死ぬのが怖いイセルヴァ。

 舌を噛み千切るために勢い良く噛み合うはずの歯が、舌に当たる前にピタリと止まる。
 それまでカンディスに操作された挙句いいように弄ばれるくらいなら、死んだほうがましだと決めたはずなのにイセルヴァには、それが出来なくなってしまった。それどころか、自分が死ぬと考えるだけで怖くてたまらなくなる。

「さて、次に我輩達に対する恐怖と自分の強さへの自信とを比率で表すと・・・」

 我輩達に対する恐怖 ・ 強さへの自信 =1・100 。

「これをこのようにすると・・・」

 我輩達に対する恐怖 ・ 強さへの自信 =50・50 。

「ではミーシャ、これでイセルヴァを好きに虐めてやれ。ただし、我輩がやめろといったら、すぐにやめるのだぞ」
 そう言ってミーシャにカンディスが手渡したのは、何の変哲も無いただの鞭。全身凶器のイセルヴァを虐めるには力不足のはずだ。

「はいっ、カンディス様。さぁー、生意気なイセルヴァちゃん、あたしと遊ぼうね」
 鞭を受け取り、自分に無造作に近づいてくる子供にイセルヴァは余裕の笑みを浮かべて応じた。
 そんなひ弱な腕で振るわれる鞭なんて、まったく怖くない。それどころか、これはチャンスだ。この無警戒に近づいてくる子供を人質にしてやろう。手足は動かないが、尻尾は動く。あの鞭なんかよりも威力は高いはずだ。

 ・・・本当に? 本当にあたしの尻尾は鞭よりも威力があるのか? この子供は当たったところで平気な顔をしているんじゃないだろうか? そしてあの子供の鞭はあたしに致命傷を与えるんじゃないだろうか? そんなはずは無い。あたしは悪魔でこいつは人間の子供。そんな不安を覚える必要なんか・・・無い。

「どうしたのかなぁ、急に無口になっちゃて。もしかして鞭が怖いのかなぁー?」
 そう言いながら、ミーシャはまた一歩イセルヴァに近づいた。その途端今だとばかりに、迷いと不安を振り切ったイセルヴァが尻尾でミーシャを捉えようとするが・・・その途中でピタリと尻尾は止まるとだらりと垂れ下がった。

 我輩達に対する恐怖 ・ 強さへの自信 =100 ・ 1 。

 何時の間にか、数学盤にそうかかれていた。

 だめだ、そんな事したら怒られる。虐められる。もっとひどい目に合わされるっ! あたしなんかが適う訳なんて無いに決まってるっ! 弱いあたしなんてすぐに殺されるに決まってる! そんな恐怖でイセルヴァの頭の中は埋め尽くされてしまう。

「こいつ・・・・っ!」
 一方ミーシャはイセルヴァが自分に害をなそうとした事に気がつくと、青筋を立てて鞭をイセルヴァの回りに叩きつけ始めた。本当なら皮膚が裂け、血が出るまで直接叩きつけてやりたいがそれは出来ない。この女は自分の獲物ではなくカンディスの獲物なのだ。こいつに思い罰を与えるのは、カンディス様でなくてはならないのだ。

「きゃぁぁぁぁっ!」
 自分の周りを乱舞する鞭に、イセルヴァは悲鳴を上げると動けない手足で必死に鞭を避けようとする。元々当たらないのだが、それが解らないくらいイセルヴァは怯えていた。

 しかし、すぐに鞭の乱舞は終わった。きつく目をつぶっているイセルヴァの首に、するりと何かが巻きついた。
「イセルヴァちゃん、舐めて」
「・・・え?」
 イセルヴァが目を開けてみると、すぐ前にミーシャが裸足の足をすぐ顔の前に見せていた。

「舐めてくれないと・・・絞めちゃおうかなぁ」
 首に巻きついていた何か・・・鞭が軽く絞められる。
「ひぃっ」
 その屈辱的なミーシャの要求に、イセルヴァは引きつるような悲鳴を上げると躊躇わずに従った。

 本来のイセルヴァなら人間の、それも簡単に捻れるようなミーシャの足を舐めるなど、例え殺されてもやらないだろう。しかし、今のイセルヴァには死ぬ覚悟が全く無い。つまり、なんとしても殺されたくない、生きていたいと考えるイセルヴァなのだ。その上、逆らう気が微塵に砕けるほどカンディスとその僕達を恐れ、自分を弱者だと思い込んでいる。

 ミーシャの足に舌を這わせ、犬のように舐めるイセルヴァを見たカンディスはミーシャに『もう、それぐらいでいい』と虐めを終わらせると、数学盤に書かれたイセルヴァの数式から一部を消して、腕の力だけ戻した。
「さて、イセルヴァよ。我輩はお前が知っての通り、貧乏性だ。お前のことも、殺すよりも生かして働いてもらってもらった方が良いと考えている」

「ほ、本当にっ!?」
「だが・・・それを少し考え直そうと思っている。お前は危険だからな。我輩を殺そうとしたり、ついさっきもミーシャをその尻尾で打とうとしただろう? 我輩は貧乏性だが・・・生かしておくほうが危険で損失が大きいとなれば話は別だ」

「そんなっ! あたしは危険なんかじゃ・・・も、もう2度と・・・逆らわない・・・から、こ、殺さないでっ!」
 一瞬希望に輝いたイセルヴァの瞳に涙が浮かび、力強かったはずの肢体が小刻みに震え始める。
「ふむ・・・我輩はお前の事をこう認識している・・・」
 数学盤にイセルヴァについて書き連ねるカンディス。

 危険なイセルヴァ = 兄を憎んでいる + 淫らな事が嫌い + カンディスの僕に対して敵対的 。

「・・・のだが、ミーシャはどう思う? こんな危険な者を生かしておくべきだろうか?」
「ううん。あたし達に対してなのはともかく、カンディス様を憎んでいのはだめだと思います。それに、淫らな事が嫌いだって言う所も、僕失格。いくら強くたって、カンディス様を楽しませられないんだったら、傭兵でも雇った方が安全だし」

 ミーシャはあっさりとイセルヴァの存命に反対した。実際、ミーシャとしては賛成する理由が無い。
「に、憎んでなんか・・・なんでもやる・・・何でもやるからっ!」
「では、やってもらおうか」
 そう言うと、カンディスは手にしたチョークをイセルヴァに差し出した。

「えっ・・・何を・・・・・・」
「すでに解っているとは思うが、この『髑髏教授の数学盤』対象の感情の大きさや簡単な肉体の操作・・・そして今まで持っていた特徴を付け足したり、引いたりすることが出来る。
 これで、お前自ら我輩に生かされるに相応しいように自分を作り変えてもらおうと、言っているのだ。ちなみにやらなかった場合や、反抗を試みた場合は・・・わかっているな?」
「っ! は、はいっ!」

 イセルヴァはチョークを受け取ると、急いで数学盤に腕だけを使って這いずって行った。躊躇って反抗と見られたら殺される。その恐怖が彼女を突き動かしている。
・・・数学盤に書かれた自分の数式を消してしまえば、この恐怖が消えることには、彼女も理解している。しかしそれで自分が生き残ることが出来るのか・・・また負けたら、今度こそチャンスは無いだろうと言う事も含めてイセルヴァは起死回生ではなく、服従による生を選んだ。

 数学盤に近づいたイセルヴァは、早速自分の数式を書こうとするが手が届かない。数学盤は普通に立っていたら邯鄲に書ける高さにあるが、足に力の入らないイセルヴァには高すぎる。それでも何とか空いている片方の腕で身体を起こし、もう片方の腕を懸命に伸ばすが、チョークの先が数学盤にかする程度で字を書いても読める代物になるとは思えない。

「カンディス様―、イセルヴァちゃん手が届かないみたいですよー?」
「おお、それはいかんな。手伝ってやるとするか」
 背中に、明らかにこうなる事がわかっていてやらせた二人の嘲りの声が突き刺さる。イセルヴァはそれを屈辱と感じる暇も無かった。

 それは数学盤に数式を書こうと焦っていたからではなく、カンディスがいきなり自分の水着のような衣服を剥ぎ取りにかかっているからだ。
「なっ、何をっ!?」
「もちろん書くのを手伝ってやろうとしているのさ。ミーシャ、お前も手伝え」
「はーい」

 元々脱がしやすそうなイセルヴァの服は、あっさりと2人の手によって剥ぎ取られてしまう。イセルヴァを裸にしたら、カンディスはその腰を抱き上げて書きやすい高さにしてやった。
 何故裸にしたのかと言う点に疑問はあるが、早速イセルヴァは数学盤に数式を書き始めた。まず自分の名前とプラスを書き、続けて・・・。

 書こうとしたら、腰に熱い物を感じた。それが何か気がつく前に、それはイセルヴァの股間に押し入ろうとグリグリと突き出される。
「せっかくだから、もっと書きやすいように我輩のモノとお前の性器を繋げて揺れにくくしてやろう。安心しろ、入れるだけで動かさないでやる。・・・まさか、嫌とは言うまいなぁ?」
「は、はいっ! お願いしますっ!」

 そう返事をする間にも、カンディスのペニスは止まらずにイセルヴァの中に潜り込んでいく。激痛とプチプチと言う音が響くが、歯を食いしばって悲鳴を上げないように耐えた。
「おや、お前処女だったのか。淫魔の処女と言う珍しい物を貰っては、お返ししない訳にはいかないな。お前が自分の数式を完成させるために、間違いがあったら指摘してやろう」
「あ、ありがとう・・・ございますっ」

 もう一度、数学盤に向かう。自分に何を足せば良いのかは、大体わかる。
「あたしは・・・カンディスを愛してい・・・」
「違うでしょっ!」
 床で悲鳴を上げられない口の代わりにビクビクと跳ねていた尻尾を、ミーシャがそう指摘しながら踵で体重をかけて踏みにじる。

「ぎゃひぃっ!?」
「この期にカンディス様を呼び捨てなんて、いい度胸よね。あと、どれくらい愛しているのかも書かなきゃだめよ。
 はい、さっさと書くっ!」
「あたしはっ! カンディスお兄様を愛してますっ! お兄様無しには生きていけないくらい愛してますっ!」

 イセルヴァ + カンディスお兄様を愛している + カンディスお兄様無しには生きていけない 。

「それであたしは、エッチなことが・・・」
「そこは具体的に書いたほうが、望ましいと思うのだがな?」
「あたしは・・・オマンコでセックスするのが大好きで・・・」
「ほほぅ」
 グリッと、カンディスがイセルヴァの肛門に人差し指を突き入れる。

「ひぎぃっ! な、なんでっ?」
「前の穴だけとはどう言う事かな? まさか・・・我輩に飼われる身で使われる穴をえり好みするつもりか? だとしたら従順だとは言いがたいと、我輩は思うのだが」
「それに、カンディス様にされることなら何でも悦ばなきゃだめよね。あたしはまだだけど、エルマお姉ちゃんなんて鞭で打たれただけで濡れちゃうんだから」

「はいぃ、あたしは、オマンコでセックスするのが大好きで、お尻の穴を弄られるのが・・・うあぁぁぁっ! ほじほじしないでぇぇぇっ!」
「動かさないとは言ったが、それは腰だけだ。それとも、弄られるのと穿られるのは違うとでも言いたいのか? だとしたらちゃんと書き加えておくのだぞ」
 人差し指を自分の肛門に出し入れさせながら、グリグリと動かしているカンディスに苦情を言っても聞き入れてもらえないと解ったイセルヴァは、チョークを持ちなおした。

「お尻の穴を弄られたり、穿られるのが好きで・・・虐められるのが感じるマゾで・・・」

 +オマンコでセックスをするのが好き + お尻の穴を弄られたり穿られるのが好き + 虐めらて感じるマゾ。

「それで・・・あたしはカンディスお兄様の僕に・・・」
「・・・『僕に』? そうではないだろう? お前は我輩を殺そうとしたり、ミーシャに危害を加えようとしたのだから、『僕よりも下の立場』と言う風にした方が謙虚さをアピールできると思うのだがなぁ」
「はっ、はいぃぃっ! あたしは僕の僕ですっ!」

 +僕の僕 = 。

「では最後は髑髏教授に答えを出してもらおうか」
 カンディスの声に応じて、骨だけの腕がチョークを握り軋みながら字を書いていくのを見て、イセルヴァはこの恐怖が終わる事に、心から安堵した。

「ああぁっ! イイですっ! オマンコが気持ちいいですぅっ!」
 パンパンと尻の肉がたわむほど強く腰を叩きつけられ、ずいぶんと淫魔らしくなったイセルヴァが喘いでいた。
「良かったね、イセルヴァちゃん。カンディス様が飼ってくれて。でも、イセルヴァちゃんはあたし達のペットでもあるんだから、あたし達の言う事にもちゃんときくんだよ?」

「はいっ! 何でも言うことをきく、いいペットになりますからぁ、あたしを末永く飼ってくださいぃっ!」
「それはいい心がけだな。・・・本当に自由になりたくは無いんだな?」
 カンディスの『自由』と言う言葉を聞いた途端、イセルヴァの顔が真っ青になる。

「す、捨てないでお兄様! 弱いあたしはお兄様に従っていないと生きていけないんですっ!」
 今にも泣き出さんばかりの様子のイセルヴァに、カンディスは頭を撫でてやりながら猫なで声で語りかけた。
「なに、冗談だ。安心するがいい。
 それでイセルヴァよ、これから我輩の留守中に侵入した不届きな姉を矯正しようと思うのだが・・・もちろん、手伝ってくれるだろう?」
「もちろんです、お兄様ぁ」

 幸せそうに自分の手に頬ずりするイセルヴァのすぐ前にある数学盤には、完成した数式が書かれていた。

 イセルヴァ + カンディスお兄様を愛している + カンディスお兄様無しには生きていけない +オマンコでセックスをするのが好き + お尻の穴を弄られたり穿られるのが好き + 虐められて感じるマゾ  +僕の僕 = カンディスお兄様を愛し、完全に依存したオマンコでもお尻の穴でも感じるマゾでカンディスの僕の僕 。

 100のプレイヤーの一人では無く、カンディスに従うメスの一人となったイセルヴァは歓喜の声と共に絶頂を迎えた。

 アリタが目覚めた時には地下の食料庫に見張りは無く姿見が、ただ縄で蓑虫のように鎖で縛られた上に猿轡を噛まされて、転がされている自分を映しているだけだった。
「・・・どうやって生き残ろう?」
 目覚めた第一声が、それだった。そこにアリタとイセルヴァの違いが明確に示されている。

 正確に言えば、生き残るのはそう難しくない。アリタはカンディスが、自分を殺すつもりは無いだろうという事を理解していた。だが、自分のまま生かしておくつもりは無いだろうと言う事も理解していた。だがその心配も、イセルヴァにカンディスが勝っていなければ杞憂に終わる。

 その場合は、あの暴力シスター達に腹いせで殺されかねないかと言う心配をしなくてはならないが。

 何とか生き残って、ゲームに復帰する。そのためにはどうすれば良いのか。考えれば考えるほど難しい問題に思えてくる。いっそ、状況が動くまで体力を温存するために眠ってしまおうかと思っていると、丁度状況が動いた。
「アリタ、生きてる?」
 イセルヴァがそう言いながら、食料庫に入ってきたのだ。

『この喧嘩バカ、カンディスに負けちゃったわけね』
 イセルヴァが勝っていたらここには来ないだろうし、それに・・・鈴のついた首輪だけの姿でうろついている訳が無い。そんな淫魔らしい格好をしていると言う事は、カンディスに自分より速く『変えられて』しまったんだろう。

「カンディスお兄様に、お前のことを見張っていろと言われた」
『お兄様・・・ね。やっぱりカンディスの奴はあたしを殺すつもりは無い訳ね』
「でも、あたしはここでお前を殺しておくべきだと思う」
『ッ!?』

「ふむーっ! ふむむむぅっ!?」
「どういうことかって言っているんなら、当然あんたが狡賢いから。あんたはこれからカンディス様に操作されるだろうけれど、そうならないような仕掛けをするかもしれないから」
 千切れんばかりに首を横に振るアリタ。もちろん図星だが、それがばれたら殺されかねない。

『変えられて』いると言っても、戦闘力まで変えられてはいないだろう。イセルヴァなら、あっさりと自分を殺せる。元々自分以外の兄弟姉妹を全員始末しようとしていたのだから、説得力がありすぎる。
「言いたい事がありそうね」
 スパリと猿轡が斬られる。それをなした翼が、そのままアリタの首に突きつけられた。

「・・・言ってみろ。ただし、呪文を唱えたり嘘を言ったりしたら・・・」
「ッブ、嘘なんて言わないわよっ!」
 猿轡を吐き出すと、アリタは早速嘘を口にした。しかしそれを見抜かれない程度には、演技力には自信がある。

「あたしはもう負けたんだから、プレイヤーには戻れないのよ。あんたと同じでね。だからもうカンディスを・・・カンディス様をどうこうしようなんて、考えないわよ」
 嘘。まだ紋章も刻まれていない、洗脳もされていない。だから、まだアリタはプレイヤーだ。もちろん、まだカンディスを狙っている。

「でも、お兄様に従おうとは考えていないでしょう?」
「従うわよ、負けたんだもの。どうせなら、カンディス様にゲームに勝ってもらいたいくらいなんだから。そうなればあたしは僕でも奴隷でも、魔王の所有物って事になるじゃない」
 嘘。機会があれば裏切る。あのカンディスを、魔王の器だとは思っていない。アリタは魔王になりたいのであって魔王の所有物になりたい訳ではない。

「それはつまり・・・魔王でなければカンディス様に従わないって事?」
「そんな事あるわけ無いじゃない。あたしが最初にカンディス様を狙ったのは、このゲームで一番カンディス様が厄介・・・つまりダークホースだと思ってたからよ。つまり、それだけカンディス様を認めてるって事」
 嘘。一番簡単に勝てる相手だと思ったから、最初に狙ったのだ。もちろん、認めてもいない。

「じゃあ、お兄様に見も心も捧げるわけね」
「もちろんよ。あたしは淫魔なんだから、どんな事だってする。体中の穴が壊れるまで犯されるのも、あんたみたいにペット扱いされるも・・・ボディピアスとかで飾られて肉人形にされても構わないと思ってるもんだから」
 嘘。いくら淫魔だからと言っても、好みはある。アリタはどちらかと言うと、虐めるのは好きでも虐められるのは嫌いだった。

「そう・・・それは全部嘘じゃないのね?」
「嘘じゃないわよっ! 全部本当で本音よっ!」
 嘘。全部嘘で偽りだ。

「それは嬉しいな」
「カンディスっ!・・・・様」
 何時の間にか食料庫の入り口立っていたカンディスに、驚いてアリタは思わず様をつけるのを忘れかけた。
 それに関心を持たず、カンディスは姿身の横まで歩くとそこで初めてアリタに視線を向けた。

「アリタ、はっきり言って我輩はお前に愛情を抱いたことなど一度も無いが・・・その言葉を聞いて初めて愛おしいと思ったぞ」
「あっ、ありがとうございます。これからはカンディス様のために・・・・・・」
「お前が我輩の計算通りに、嘘偽りを歌ってくれて。ここまで思った通りに事が運ぶと、気持ちが良くてたまらぬ」

「それは・・・どういう・・・」
 じっとりと、冷や汗がでる。まるで、自分がすでに落とし穴の上に立っていて、後は底に向かって落ちていくしかない事に、今気がついたように。
「我輩ではなく、イセルヴァの前ならお前の舌は軽くなるだろう。何故なら、道具は使えるのは我輩であってイセルヴァではないからだ。だから、お前は安心して歌ってくれると思ったら案の定。
 道具の中には我輩の手に無くても動くのもがあるのだ。・・・この姿見、お前はどう思う?」

「姿見・・・」
 自分が目覚めたときからある姿見を、改めて見る。何処にでもありそうな、安っぽい姿見だ。
 いや・・・なんでこんな所に姿見が? 食料庫のようだけれど、まさかここでシスターが身なりを整えるはずも無いのに。

「さぁ、『双面の姿見』よ。アリタの嘘を真にしろっ!」
 カンディスがそう叫んだ瞬間、アリタの意識は暗転した。

 カンディスの私室に、カンディス当人と2人の悪魔がいた。
「アリタ、お前は我輩をどう思っているのだったかな?」
「決まってるじゃないっ、一番魔王に相応しくない・・・あはぁぁあぁっ! 愚弟の・・・オマンコ気持ちいいぃぃぃいーっ!」

 カンディスの質問に、罵りとそれに矛盾する淫らな喘ぎ声でアリタは答えた。・・・イセルヴァの上にうつ伏せに横になり、背後からカンディスのペニスを膣に挿入され、それを進んでくわえ込んだ上に紋章を刻んだ背中を汗で濡らしながら。
「そんなに気持ち良さそうにしてるくせに、生意気な口をきくんじゃない」
 自分の上で快楽に酔っている姉に、イセルヴァは嫉妬半分からかい半分でそう言いながら、尻尾で尻を叩いた。

「あうっ! こ、これは油断を誘ってるだけなんだからっ! いつか寝首を掻いてやるのっ!」
「ほほぅ、寝首をな。・・・では、お前を疲れさせた方が良いな」
 イセルヴァの尻尾を掴むと、カンディスはその先端をアリタの肛門に押し付けた。
「やれ」

「えっ・・・何を・・・ひぐぅぅぅっ!」
 短く解りやすい命令に、イセルヴァは躊躇わず従い、戸惑うアリタの肛門を一気に貫き直腸を抉るように出し入れを開始する。
「あがぁぁぁあぁっ! すごいぃぃぃっ! お尻削れるぅぅぅうぅっ!」
 背を弓なりに逸らしながらも、さすがは淫魔と言うべきかアリタの肛門はこの乱暴な行為にも耐えていた。

「・・・しかし、予定では嘘を本音に変えるだけのつもりが、本音を嘘に・・・建前に変えてしまうとは。まだ未完成だったか」
 カンディスがアリタに使用した『双面の姿見』は、本来対象の口にした嘘や建前を本音に変えてしまう・・・本音だと思い込ませる洗脳の効果がある道具だったのだが・・・どうやら調整が甘かったのか本音を建前にしてしまったのだ。

 今のアリタは、『僕になって見も心も捧げたふりをして、カンディスの寝首を掻こうとしている』と言う建前を口にする『カンディスの言うことなら何でも従う僕』である。
「まぁ、予定と違うがいいか。・・・仕置きの口実に困らんし、なっ!」
 最後の一突きと共に膣内に射精すると、アリタは悲鳴を上げるとぐったりとイセルヴァの上に倒れた。

「きもひいぃぃぃ・・・・カンディスしゃまぁぁぁ、らいしゅきぃぃぃ」
「ここまでやらないと本音を出さないのも、なかなか見ていて楽しいしな」
「楽しいのは結構っすけど、これからどうするんですかい? この場所が他のプレイヤーにばれるのも、時間の問題ですぜ」
 呂律が回らなくなって、ようやく本音を洩らしたアリタを面白そうに眺めるカンディスの背後から、ザジは声をかけた。お楽しみが一段楽するのをまっていたらしい。

「そうだな。残りのプレイヤーは我輩を入れて98人。アリタやイセルヴァの足取りを追えば、ここの場所はばれるだろうし・・・」
「ご、ごめんなさいお兄様っ、あたし・・・その・・・がさつで」
 イセルヴァが痕跡を消すといった作業をまったく考えず、ここに来た事は想像に難くない。っと、言うか当人が認めた。

「そうだな・・・人数も増えてきたし、引っ越すか。
 ザジ、中央から離れた所に領地を持つそこそこの貴族に心当たりはあるか?」
「幾つか。今度はそこを乗っ取るんですかい?」
「もちろん。育ち盛りの者達に滋養豊かな物を食わせてやらなければな。
 ・・・その前に、クレア達に褒美をやるのが先だが」

 カンディスはこれからも、多くの人間や兄弟姉妹を『変えて』いくだろう。・・・自分だけは『変わら』ずに。

< 続く >

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