老教師の午後 2

-2-

『それでいいのか?』

 悪魔は問うた。

『確かにお前は優秀な教師だ、それは悪魔である俺ですら認めてやるよ』
『だがな、それでいいのか?』
『確かにお前は、何百人もの生徒を立派に巣立たせた』
『だが、それだけだ』
『お前がただ一人の人間として、生きたと言う確かな証を、残したくはないか?』
『そう――お前の、子を』
『絶やしていいのか? 綿々と引き継がれてきた命の連鎖を』
『残したくはないか? お前の遺伝子を』

『なぁに、既に数百人の生徒を育ててきたお前だ』
『お返しに数人の「人生」を貰ってもお釣りが来るさ』
『お前が願いさえすれば、その望みを叶えてやるぞ』
『人としての悦び、バラ色の人生を、取り戻させてやるぞ』

 私の、答えは――

 老教師は昨夜、遠野奈々に「魔眼」を使い、少女の精神と身体に、快楽と絶頂を刻みつけた。
 奈々は彼の毒牙に懸かり、三度もの絶頂を迎えてしまった。
 同時に「魔眼の支配」の契約も結んでしまい、少女は心身ともに老教師の手に堕ちた。

 「魔眼」。そう、その能力が、老教師の人生を正に左右したのだ。
 これは彼が生来持っていた能力ではない。つい3日前に突然彼に声を掛けてきた、悪魔に与えられた能力だ。
 人の心を自在に操る能力。悪魔はその能力を老教師に分け与え、その使用法・応用法に至るまでの知識体系を彼の脳に直接刻み込んだ。

 悪魔――。老教師はその者の姿を見た事は無い。いつもどこからか、声だけが聞こえてくる。
 悪魔は彼に取引を持ちかけた。魔眼を始めとする超常能力、及びその使用法、そして身体の若返りを与え――
 その引き換えに、これまでに老教師が築いてきた教師としての功績を無くすという取引を。

 職員室。朝一の職員会議で、校長が壇上に立つ。
「今日はまず、最初に大事なお話があります――先生、どうぞ」
「はい」
 老教師が促されて壇上に立ち、教師たちを見回した。
「みなさん――私の目を見て下さい――」

 ――――。

 「上」への誘いも断り続け、教育現場にこだわり続けた、老教師の四十年。
 悪魔はその、教師としての功績そのものを、「無かった事」にしたいらしい。
 そうする事により、今までに彼が受け持った数百人という人間の精神を、変容できるからだ。

 「天使」や「悪魔」と呼ばれる存在達は、人間や人間のなすことの「存在」そのものを扱う力を持つ。
 生徒達は次第に老教師の名前を忘却し、その暖かで熱心だった指導の影響を欠落していき、ついには彼の事を忘れてしまうらしい。
 世界をマイナスに傾けようと企む悪魔達の、これが常套手段なのだ。
 「無かった事」になるから、悪魔の所業は人の記憶には残らない。

 誰にも知られずに、世界の侵略は続いている。

 悪魔はまた、彼の心に潜む闇を正確に見抜き、把握していた。
 最初に声を掛けてきたとき、悪魔は既に私の愚劣な行為を、狂気を、

 そして老教師本人も気づいていなかった、本当の望みを、言い当てた。

 ガラリと扉を開き、老教師が教室に入る。
「きりーつ、れいー、ちゃくせきー」
 行儀よく礼をし、席に戻った彼女らを、老教師は穏やかな笑顔で見回した。
 さりげなく、熱く見つめてくる奈々に目線で答え、口を開く。
「さて、今日は授業の前に大事なお話があります――」

 ――――。

 老教師の狂気――彼の、本当の、望み。
 25年前に妻を亡くして以来、老教師の心の底には、澱(おり)のように澱(よど)んで行く欲求があった。

 性欲。

 子供を授かる事が叶わなかった無念、愛しい妻との、夫婦生活への未練。
 一方で、萎え、衰え、生殖能力を失って行く自らの身体への、苛立ち。
 それらは鬱屈しながら、少しずつ彼の心に溜まっていき、長い時間を掛けて、彼の理性を蝕んで行った。
 老教師が密かに行うようになった愚劣な行為、盗撮は、その理性と欲求のギリギリの折衷案だったのだ。 
 そして同時に、目の前にいる生徒達を、少女として、性欲の対象として見るようになっていった。

 ただ老教師は、直接的な行為には全く及ばなかった。撮影はしてもそれを決して人には見せず、脅しの材料にも嫌がらせにも使わなかった。
 ギリギリの彼の理性は、その一線だけは踏み越えさせなかった。
 逆に言えば、そこがもう、彼の理性の限界点だったのだ。

 コン、コン。
 授業中の突然のノックに気づき、年若い女教師は、生徒達ににっこりと笑い掛ける。
「――いらっしゃったようね。入って下さい」
 女教師に呼ばれ、老教師はゆっくりと教室の教壇に立つ。
「今日は特別に、先生から3年生としての心構えをご教授して下さるそうです――」

 ――――。

 悪魔は盗撮という行為の不毛さを説き、彼の本当の望みを言い当て、取引を持ち掛けたのだ。
 ご丁寧に、一度のお試し期間まで設け、彼にその蜜の味を存分に味わわせる事までした。
 悪魔にとっても、「老教師の功績」はそれほどに美味しい「ネタ」だったのだ。

 決定打になったのは、遠野奈々と言う少女の存在だった。
 今までの教師生活で――いや、彼の人生に於いて、一度も出会った事も無かった、美しい少女。
 眉目秀麗ながら無垢で清楚な顔立ち、華奢で全く無駄な部分の無いボディライン、しゃんとした物腰、立ち振舞い、折り目正しい態度、暖かい笑顔、全てが老教師の理想にぴったりだった。
 その「理想の少女」に心奪われ、奈々の全てを奪いたいと欲てしまった事が、彼の理性を完膚なまでに打ち砕いたのだ。

 ――そして、

 新しい世界の、朝は来た――。

 奈々は、今日も老教師の待ち受ける、進路指導室への廊下を歩く。

 わたしは、ウキウキした気分を表に出さないように、必死に自制しなければならなかった。

 昨日わたしは、憧れていた先生にファーストキスを捧げた。
 エッチなマッサージをされて、裸にされて、気持ちよく、されてしまった。
 思い出すだけで、顔が真っ赤になりそうだ。
 でも、嫌だとは欠片も思わなかった。
 むしろ、踊りだしそうになるほど嬉しい。心が浮き立つ。

 先生のマッサージは、物凄い気持ちよさだった。
 頭の中が真っ白になって、まるで天国を飛んでいるようだった。
 あんなに気持ちよくされたら、もう先生から逃げられない――そんな予感を、ゾクゾクする怖さと、喜びと共に感じている。
 まるで、麻薬のようだ。

 クモの巣に捕まったチョウチョ――そんな、感じがした。
 先生の瞳に、指に、唇に、舌に、捕まって。
 逃げられず、身動きもとれず、先生に、食べられる――そう、思うだけで、わたしの乳首は下着の中で、きゅん、と起ってしまう。
 そして――柔らかな布地に擦られて、甘い甘い刺激を送り込んでくるのだ。
 ぞく、ぞく、ぞく――
 イヤらしい期待に、予感に、悪寒が背中を這い上がり、わたしのアソコまでが濡れ始めてしまう。

 ――本当に、わたしはこれから、どうなってしまうのだろう。

 裸を、見られてしまった。
 両親に、決して男の人に見せてはならないと厳しく言われていたのに。
 それどころか、一番大事な処の、中の中、奥の奥まで見られ、触わられ――舐められて、しまった。

 そして、今日もわたしは、先生の部屋に向かっている。
 先生と二人っきりで、多分、先生にエッチな事をされるだろう。
 でも、その事が全然嫌じゃない。どこか不思議な感じが、するけれども。
 先生にもっと見て欲しい。もっと身体に、触れて欲しい。もっとわたしを――クモの巣に捕まったわたしを、食べてほしい。
 それで先生が、わたしに夢中になってくれるなら、それで全然構わなかった。

 恐らく、今日ではなくても、近いうちに――わたしは、先生にヴァージンを捧げることになるだろう。
 早く、わたしを先生の物にしてほしい。
 ――そして、ずっと、先生を支えてあげたい。
 いつまでも、先生と一緒に生きて行きたい。

 昨日の帰り道、どうしても気になって、先生の家族の事を聞いた。
 先生と生徒じゃなくて、いつかは、先生の恋人になりたいと思ったから。
 答えは、少し寂しくて、そして、こんな汚い事を考えてしまう自分に自己嫌悪したけれども、
 ――嬉しい、内容だった。
 先生はもう20年以上も前に奥さんを亡くし、お子さんも居ないそうだ。
 それ以来、恋人を持った事も無いと、先生は少し寂しそうに、微笑った。

 つまり、わたしは、先生の恋人になれるかもしれないのだ。
 そして――できれば、いつか、先生のお嫁さんに――

 わたしの空想はどんどん先走りして、とめどなく広がっていく。

 そしていつのまにか、扉の前に立っていた。

 ――老教師は、そんな奈々の独白を「読み」、ニヤリと口を歪めていた。
 悪魔の力、『支配』を受け入れた者は、その思考の全てを術者に読まれてしまう。
 どんなに離れていても、どんな時でも。
 悪魔のもたらした力は、それほどまでに強力だったのだ。

 老教師は奈々の精神を隅々まで覗き見て、今後の調教計画を練っていた。
 彼の目的は、奈々を堕として妊娠させる事、だけではない。
 その子供を、産み、愛情をもって育て、愛する――そういう女性に仕立て上げなければならないのだ。

 ――子供には、しっかりとした母親が必要だ。
 それが、老教師の長年にわたる教育生活から得た結論だった。
 その為には奈々を単なる肉奴隷にするのではなく、貞淑で賢い女性としての一面も保たせなければならない。
 ――昼は貞淑な堅実さを持つ母親を演じ、夜は淫靡なる美しさを持つ妻の素顔を見せる、そんな女性に育てなければならないのだ。

 だから彼は、少女の羞恥心だけを消さずに昨日の調教を行った。
 老教師には絶対に服従し、思うが侭にその身体を開き――しかし決して羞恥を捨てた肉奴隷にはならないように。
 高貴なる魂を失ってはいけない。その高貴さこそが、子供を育むのに一番必要なものだからだ。

 ――そして、おずおずとした、ノックの音が響く。

「入りなさい」
「はい……」
 私は部屋に入り、後ろ手でカギを閉める。
 部屋の中には、先生がいた。
 堂々として、溌剌としていて、何故かとても逞しい感じがする。
 外見は変わっていないのに、まるで昨日とは別人のようだ――力強く立つその姿勢と、目に宿る力の強さが違う。
「待っていたよ、奈々」
「私も……ずっと放課後になるのが待ち遠しくて……ん、んぅ……」
 先生は私を抱き寄せて、言葉を遮り、唇を重ねた。

 先生の、キス――
「んっ、んんぅ……」
 舌が、入ってくる――

 ――突つき、絡み合い、絡め取るような、巧みな舌の動きに、感触に、わたしの、頭は――まっしろ、に――

「……ん、ふぁ……」
 いつ、キスが終わったのか、よく覚えていない。
 気がついた時には、夢心地の私の顔に、先生がキスの雨を降らせていた。
 嬉しくて、心地よくて、頭がクラクラする。息が、できない。
「せんせ、すき……」
 やっとの事で、それだけを言った私を見て、先生は嬉しそうに笑った。
「奈々――」
「……はい」
 こつんとおでことおでこをくっつけて、先生は私の目を覗き込む。
「私の目を、見るんだ――」

 ――――。

「奈々」
 老教師に呼ばれ、奈々ははっと我に帰った。
「大丈夫か?」
「はっ、はいっ、ちょっとボーっとしちゃって……すみません……」
 奈々は慌てて答えた。少し頭がボーっとする。
「そうか、大丈夫ならいいんだ。それより奈々――」
 老教師は、片手にビデオカメラを乗せて奈々の目の前に伸ばした。
「これが何か、分かるか?」
「?」
 奈々は、きょとんと首を傾げる。
「なにも、ありませんけど……?」

 奈々の瞳には、ビデオカメラが「映っていなかった」。『魔眼』にはこのような使い方もある。
 部屋の中には現在、5台ものカメラが二人を取り囲むように設置されている。その全てが、奈々の視界から欠落していた。
『魔眼、盲従』――やろうと思えば、彼女を完全に別の人間に仕立て上げることも出来るという、恐るべき認識矯正能力だ。

「そうか、ならいいんだ。では、今日のマッサージを始めるよ」
「はい……」
 紅く頬を染めて、奈々が頷く。
 そこには、心の底からこれからの行為を望む、恋する少女の姿があった。


 
「今日はまず、昨日の復習だ。そこで、昨日された事を自分で再現してみなさい」
「……え? えぇぇっ!?」
 言葉の意味するところを悟り、奈々は顔中を真っ赤にして飛び上がった。
「ほら、口答えしないで始めなさい、まずは上着とスカートを脱いで」
「う……は、はい……」
 奈々は恥ずかしそうに目を伏せながらも、おずおずと制服のブレザーを脱ぎ、スカートのホックを外していく。
「ワイシャツは脱がずに、ボタンだけを外しなさい」
「はい……」

 羞恥心が残ってはいるものの、今の奈々の中にはそれ以上に強固な「支配」が根を張っている。
 だから、決して老教師の言葉に逆らうことは出来ない。疑いを持つ事も無い。
 ただ、調教を施す側も気を使わない訳ではない。少女には、いずれは母として子供を育んで貰わなければならないのだから。
 大きすぎるショックを与えて、彼女を壊してしまう訳にはいかないのだ。本当に何でもできる、と言う訳ではない。

 羞恥と常識は連動しているのだ。
 恥ずかしさを感じるには、その根拠となる「理由」が必要だ。
 そして、その「理由」――何故恥ずかしいのか、という彼女の常識を、老教師の支配は容易く書き換えている。
 極端な話、消え入りそうな程の恥ずかしさを、一瞬後には全く感じなくなるような状況が起こり得るのだ。
 そんな急激な変化に、少女の精神が耐えられるとは思えない。だから、慎重な調教が必要なのだ。

「さあ、始めるんだ」
「う……ぅ……」
 はだけたワイシャツと、下着だけの姿の奈々。
 死んでしまいそうなほどの恥ずかしさに、ぽろぽろと涙を零し始める。
 でも、嫌じゃない。そこには被虐的な悦びが、潜んでいた。
 恥ずかしいのに、嬉しい――。
 その、一見矛盾した思いは、そのままマゾヒスティックな快感へと姿を変えているのだ。
 奈々は涙を流す一方で、ゾクゾクするような快感を、心の奥底で感じ始めていた。

「まずは、私が胸を揉み始めた処からだ。再現するように自分で触ってみなさい」
「うぅ……はい……」
 ぐずつきながらも、奈々は両手で自らの胸を覆った。
 そのまま、昨日老教師が触ったように――ふくらみをそっと、摩るように揉み始める。

 今日の奈々の下着は、上品なレースの浮かんだ、シルク地の白いブラジャーとショーツだった。
 当然、私に見られる事を意識しての選択なのだろう、華奢で色白な少女の肌に、よく似合っている。
 雪のような、白磁のような肌と、腰まである艶やかな黒髪、そして純白の下着を、傾き始めた陽が鮮やかなオレンジ色に染めていた。
 濡れ烏羽の艶――とでも言うべきか。
 その漆黒とも言うべき美しい黒は、幼い少女の容姿に、ぞくりとするような妖艶さを添え、彩っていた。

「う、く、ぅ……」
「そうだ、ゆっくりと、解す様に揉みなさい――よし、ではそのまま、乳首を触るんだ」
「は、い――う、ふぅぅっ!!」
 乳首に触れた瞬間、奈々は抑えきれずに甘い呻き声を漏らしていた。
「そうだ、そう……そのまま、何度も触って乳首を勃起させるんだ。手を止めるんじゃないぞ」
「く、う、ぅぅ」 
 ふに、ふに、ふに、ふに……くに、くに、くに……
 既に快感の味を覚えてしまった乳首は、すぐに反応し、勃起を始めてしまう。
「ふふ……敏感だな」
「あっ、あぁ……恥ずか、しい……よぉ……」
「そのまま続けるんだ――どうだ、気持ち良いだろう?」
(もっともっと、快感を欲しろ……もっと、激しく!!)
 奈々の指はブラジャーの上から乳首を弄っていたが、すぐにもどかしそうに下着の中へと指を差し入れる。
「うっ…………くぅぅ、う…………」
 押し殺した声の淵から、漏れ聞こえる憶悩の呻き。
 間違いなく、今、奈々は自分の指から快感を得ているのだ。
 指の動きはやがて、指先で転がすような仕草から、二本の指で摘むような動きへと変わっていく。
 ――乳首はもう、完全に勃起してしまっていた。
「うぅ……うっ!! は……ぁ、はぁ、はぁ、ん……く、くぅぅ……」
 昨日の愛撫を反芻するように、指の動きは段々と大胆になっていく。
 摘み――挟み、扱き、転がす。
 まだまだその動きは稚拙だったが、身体から響き応える快感に導かれ、少しずつ滑らかになっていくようだ。
 くり、くり、くり……きゅっ、きゅっ、きゅっ、くりっ、くりっ、くりっ…………
 快感からか、それとも緊張からか、奈々の膝ががくがくと震え出している。
「あ…………あ、ぁ、あぁ、あ、あぁぁ、あ、ああぁぁ…………」
 奈々の顔に、恍惚とした笑みが浮かび始めたのを見て、私は次の段階を促した。
「さあ、次は全てを脱いでこっちに来るんだ……そうだな、今日は横にならずに、ソファに深く腰掛けなさい。そう――両脚を大きく広げて」
「は……い……」
 ワイシャツを――そしてブラジャーとショーツを、奈々は何の躊躇も無く奈々は脱ぎ捨てる。
 そのまま、身を投げ出すようにソファに沈み込み――一瞬、長い黒髪がふわっと広がった。
(美しい……まるで、天使のようだな……)
「ふ……ぅ……」
 そして少女は、私に向けて、大きくその両脚を開いていく。

 ファインダーの中に、淫らな光景が映し出されていた。
 少女の困惑と羞恥の表情、白く滑らかな肌、わずかに開いてその奥を伺わせる、幼い性器。
 そして――。
「ふふ、もう愛液でドロドロだ。イヤらしい女の子だな、奈々は」
「くぅぅぅ……」

 ――羞恥心を消さずに調教をする以上、ビデオカメラで撮影されるというのは非常に抵抗のある事だろう。
 だが、少女の淫らに花開いていく姿を、私は撮らずにいられなかった。
 だから当面の間は、奈々の意識を操ってビデオカメラを「見えなくする」事にしたのだ。
 今の奈々は、私が目の前でビデオカメラを構えていても、それを怪しいとも思わない。
 ビデオカメラが見えないだけでなく、撮影しているという事実そのものを、認識しないようにしているからだ。

「はぁ……はぁ、はぁ……」
 大きく脚を広げたまま姿勢のまま、奈々は動かない。
 いや、動けないのだ。あまりの羞恥に、緊張に。
 私はそんな奈々の頭にそっと手を伸ばし、優しく撫でる。
「大丈夫……緊張する事は無い、先生になら、何を見られても大丈夫……だろう?」
「あ……」
 ――途端に、その全身から力が抜けた。支配者の愛は、安心感は、今の奈々にはそれ程までの力があるのだ。
「さあ、力を抜いて……続けるんだ。ゆっくり、ゆっくりとな」
「はい……あ、あぁぁぅ……ふ、っく……うう、んく…………」
 白魚のような奈々の指が、再び自らの薄ピンクの乳首を蹂躙し始める。
 既に全身に纏い始めた彼女の汗が、差し込む夕陽をきらきらと反射していた。
 ――私はビデオを構えながら、唇を歪めてその光景を記録する。
「どんな感じだ? 奈々」
「うぅ、う、ど……どんな、って……」
 奈々の戸惑いの声に、誘(いざな)うように囁きかける。
「気持ち良いかどうかを聞いているんだ。しっかり昨日のマッサージを覚えているなら、気持ち良くなれるはずだからな」
「きっ、気持ちいい、です……でっ、でも…………」
(乳首だけじゃない……アソコも弄るんだ……)
 くりくりと乳首を弄びながら、もう片方の手をゆっくりと下ろしていく奈々。
 無意識のうちに秘部へと手を遣り、そろそろと擦り始めた。
「でも、なんだ?」
「そういうの……質問されるの、はずかしい、です……」
 少し拗ねたような表情が、たまらなく愛らしい。
「まだ、だめだ。まだ質問は終わっていないぞ」
「うぅ……」
 弱々しく目を伏せる奈々に、私は更なる質問を重ねた。

「さあ、次の質問だ……オナニーの経験はあるのか?」

「……っ!?」
 びく、と身体を震わせて目を見開き、奈々は耳まで真っ赤になる。
 ――それだけで、質問に答えてしまっている様な物だが、老教師は責めを緩めない。
「ふふ、大分手馴れている手つきだからな。自分で弄るのが初めてとは言わせんぞ?」
「…………うぅ……」
 ふるふるふる、と首を振り続ける奈々。あまりの恥ずかしさに、消え入りそうな悲鳴が漏れる。
 答えなければならない、でも、絶対にそんな事言えない――そんな奈々のせめぎ合いが見て取れた。
「奈々、教えてくれ。私は、奈々の全てが知りたいんだ」
 だが、耳元でそう老教師に熱く囁かれると、奈々は口元をわななかせ、何度も戸惑いながら、呟き始めた。
「あ、……、あり、ます……」
「何度くらいだ?」
「いっ、いままで……5回、です……ううぅぅ……」
 言ってしまった――そんな後悔と恥ずかしさからか、奈々は泣き出してしまう。
「――ふふ、そうか、やはりな。では最後の質問だ。今、私に見られながらしているのと、今のオナニー、どちらが気持ちいい?」
「あぁ、あ、あ、ぁ……」
 余りの質問に口をパクパクさせる奈々。
「――言うんだ、奈々」
「いやぁぁぁ……」
 今までに無い抵抗。きつく目を瞑り、奈々は激しく首を振った。
(ふむ……ここは一度、釘を刺しておくか)
「ふん、嫌か。どうやら期待外れだったようだな」
「あ……っ」
 一転して、強い口調の突き放すような声が突き刺さり、少女は肩をびくりと竦ませる。
 老教師は立ち上がり、ソファの奈々を見下ろした。
 伺うような、上目遣いの視線を、冷たい瞳が跳ね返す。

「もういいぞ、奈々。気をつけて帰りなさい。もう明日からは来なくていい」

 一瞬で、わたしの全身から血の気が引いた。

 本当に、ざぁっ、と、血の気が引く音が聞こえた。

 足元が、地面が崩れて行くような、純粋な恐怖が全てを支配していく。
「いや、ぁ……」
 呆然としたまま、わたしはそれしか言えなかった。
 ショックで、頭の中が真っ白になっていく。全身が、ガタガタと勝手に震え出していく。
「嫌だと言う生徒に無理強いする訳には行かんからな。残念だが、此処までだ」
 先生が背を向けて、指導室から出ようとするのを見て、わたしは反射的に、縋りついていた。
「ごっ、ごめんなさい、ごめんなさいっ!! お願いです、せんせ、嫌わないでぇっ!!」
 膝が震えて、力が入らない。それでも必死に背広を掴み、見捨てられまいとしがみついていた。
 先生はは、ゆっくりと、殊更にゆっくりと振り返る。
「仕方が無いだろう。嫌なのだろう?」
「いやじゃ……ないんです、ごめんなさい……」
 どうして「嫌」なんて言ってしまったのか、どうして先生の言う通りにしなかったのか――わたしは、悔恨の泥沼にはまっていく。
 けれど、そんなわたしに、救いの手は差し伸べられた。
「ふん……なら、質問に答えるんだな。今までのオナニーと今、どちらが気持ち良いんだ?」
 わたしの逡巡は、一瞬だった。
「い、いま、今のほうが、何倍も、気持ちいいです……」
「くくく、そうか、私に見られて感じているのか、イヤらしい女の子だな、奈々は」
「!!」
 意地悪な先生の揶揄に、私の表情は絶望に染まる。
「いやぁぁぁ…………せんせ……お願い、嫌いにならないで……」
 わたしは、くしゃくしゃに顔を歪め、ぽろぽろと涙をこぼしながら、訴えていた。
 そして――
 その訴えに先生は、一転して優しい笑顔で応えてくれた。
「嫌いになどなるものか。お前は今、他の人には決して見せない、一番イヤらしい部分を曝け出してくれたんだ」
「――!!」
 息を呑むわたしに、先生は軽く、ついばむようなキスをしてくれた。
「よく言えたな、奈々。続きをするとするか」
「はい……はいっ!!」

 嬉しい――。

 世界が、一気に明るくなる。光明が差した――そんな感じがした。
「だからな、奈々、もっともっとイヤらしいお前を見せてくれ……私だけに、な」
「はい!!」
「素直に先生の言うことを聞いてくれれば、絶対にお前を見捨てはしない」
「はいっ!!」

 先生に促され、わたしは再びソファに深く腰掛ける。

 そして、大きく脚を広げて、アソコを弄り始めた――先生に、見せつけるように。

 奈々の指先は、熱に浮かされるように、段々と動きを激しくさせ始めていた。
 くすぐるように、擦るように――そして最後には、指先で抉(えぐ)るように。
 くしゅ、くち、くしゅっ――と、僅かな水音が聞こえ始める。

「――奈々、そこを指で拡げて、見せてみなさい」
「そっ……そんな………………わ、分かりました……」
 一瞬の驚愕と恥じらいの後、奈々は目を伏せて老教師の声に頷いた。
 だが、なかなか踏ん切りがつかないのか、手を途中で止めてしまう。
「出来ないならこのまま帰っていいぞ、きちんと奈々が感じているのを証明しなければならんのだからな」
「うぅぅ……う…………くぅ…………」
 奈々は暫く逡巡していたが、やがて諦めたようにぎゅっと目を瞑り、震える指先をクレヴァスに差し入れた。
 くち……ぃ……とイヤらしい音を微かに響かせて、奈々の内奥が外気に晒されていく。

 可憐な美少女が、恥ずかしさに真っ赤になりながら、自らの秘唇を、指で拡げている。
 菱の形に拡げられた大陰唇。その内側に、桜色の肉襞が姿を覗かせている。
 外側から中心に近づくにつれ、赤く爛れたような色合いになっていく、秘肉。
 ぴょこんと包皮から顔を出した、ほとんど白と言っていい程に、色の薄いピンクの肉芽。
 そこには、奈々の全てが息づいている――老教師は、そんな錯覚を覚えた。

「さあ、そのまま続きをするんだ」
「は、い……」
 白くほっそりとした奈々の指が、その大きく開かれたクレヴァスの中を這い回る。
 その動きは、まだ硬さが目立つ不器用な物だったが、貪欲に快感を得られる箇所を探し、求めていた。
 くち、くち、くち、くち……
「あぁ……身体が……身体が、熱いんです……もう駄目、もう私、恥ずかしくて……死んじゃう……」
(そろそろ、限界か……)
 だが、まだ許してやる訳には行かない。調教はまだ続いているのだ。
「駄目だ、きちんと最後までイッて見せないと合格点は出さないからな。諦めて、私に一番イヤらしい姿を見せるんだ」
「あぁ…………っ!!」
 絶望と、どこかに被虐的な悦びを滲ませた吐息をつき、奈々は目を伏せた。
(くくく、諦めたか――さあ、お前の自慰を、その終着点を永遠に記録してやる、さあ、イけ!!)
「――――!! あ、あ、あぁ……っ……」
 魂の隷属を受け入れてしまっている奈々は、老教師の想いに半ば引きずられて手を早めていく。
 くち、くち、くち、くちくちくちくちくち…………
 すっかり勃起したクリトリスを親指で押し転がし、同時に膣口にまで指を差し入れ――
「あぁ…………せんせ、もうだめ……もう、もう……あ、あっ、あ!!!」
 びく、びくんっ!! と、腹筋と括約筋が一気に引き攣れる。
 未知なる快楽への恐怖、見られると言う恥ずかしさ――そして、徐々に目覚めつつある、女の悦び。
 それらが入り混じった奈々の表情を、はらりと掛かったほつれ毛が妖しく彩っている。
「奈々、絶頂の時には、イく、と言うんだ。分かったか?」
 老教師は耳元でそう囁き、そのまま奈々の耳をちろちろと舐めた。
「は……ぃ、あ、あああああっ、あああああっ――い、いく、いっちゃ…………っ!!!」
 返事をし掛けた奈々は、その意外な処からの刺激に、一気に限界を迎えてしまう。
 そして、最後の戦慄(わなな)きが奈々の身体を、突き抜けた。
 
「ひ…………ん…………っ!!! だめっ、い…………っ……ちゃ…………ぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

 奈々の全身が、跳ね上がり、固まった。
 ――限界まで背筋を撓(しな)らせ、動かなくなる。
 ただ、その中で秘唇だけは――いや、膣口と菊座を司る括約筋だけが、まるで別の生き物の様に蠢いていた。
 この絶頂の最中にも、奈々は律儀に老教師の言いつけを守り、わななく膣を指先で曝け出したままだ。
 全身の痙攣に合わせて、幼いクレヴァスとアナルが収縮と弛緩を繰り返し、ひくひくと震え、こぽ、こぽ、と愛液を溢れさせていく。
 それを、少女自身が見せ付けるように拡げているのだ。
 剥き出しにされて震える膣と、きゅぅきゅっ、とすぼまり続ける菊門――

 ――凄まじい、光景だった。

「……あぁ…………あ………………ぁ…………ぁ…………」
 びくん、びくん、びく……ん…………びく……
(……凄い……)

 その両手から力が抜け、ぱたりとソファに投げ出されるまで、

 ――老教師はただ、声も無く、魅入られたようにその光景を見つめていた。

< つづく >

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