名もなき詩-シーソーゲーム- 第3話

3.

 私達は樹莉からスケジュールの全てを詳細に聞き出した。
 そして飛騨と会わない日は私達のおもちゃになった。
 目を覚ましたら凄く気持ちよく飲んでいたと思い込んでいる。

 今日も舞台はラブホテル・・・
 琉璃が樹莉を催眠状態に入れ、壁にもたれかかるように座らせる。

「樹莉・・・あなたの手首に風船が取り付けられた・・・とっても大きな風船・・・その風船に空気を入れるわ・・・1、2、3・・・こうやって数を数えるとどんどん軽くなる・・・」
「ん・・・」
 樹莉がぴくっと反応した・・・起きた?
 いや、違う。腕が震えてる。

「11、12・・・」
 樹莉の腕がゆっくりと上がっていく。
 お化けのポーズのように手首が先に上がっていく。

「26、27、28、29、30・・・」
 完全に垂直になった。
 大きな胸が綺麗な曲線を描いて強調される。
 それがまた私達の嫉妬を煽るのよ・・・

「・・・貴女の手首が壁に吸い寄せられる・・・そして手首に手枷がはめられてもう動かせない・・・」
 樹莉の手首が壁に引っ付く。
 そして顔をしかめる。手枷をはめられるイメージをしたのだろうか。

「次はその脚・・・貴女の脚は磁石のSとSになる・・・反発してどんどん離れていく・・・」
「ん・・・」
 樹莉の伸ばされた脚が離れる。
 スカートが上がって綺麗な脚が覗く。
 そしてレースの入った色気のある黒い下着が目に入る。
 前に聞いたけどこれが飛騨の趣味らしい。
「次は足枷がはめられた・・・もうどんなに力を入れても動かない・・・」

「さ、樹莉!起きて!」
「・・・うっ・・・」
 琉璃に言われて樹莉が目覚める。

「あ・・・みんな・・・あ、あれ?ここは?」
「ここはラブホテル。そして今から貴女を犯すのよ・・・」
「え?・・・い、意味がよくわからない・・・」

「あら?飛騨って言うご主人様にいっぱい遊んでもらってるんでしょ?私達はダメだって言いたいの?」
「っ!!!!!ど、どど、どうしてそれを!!?」
「どうしてって・・・貴女が自分から嬉しそうに話したのよ?」
「そ、そんなはずはないっ!!だ、だって!!」
「だって・・・暗示がかけられてるから?」
「っ!!!!?ど、どういうこと・・・」
 琉璃の言葉攻めが始まった・・・

「う・・・な、何で動けないの?・・・ううっ!」
 樹莉が身をよじる。
 わずかに手や脚も動くが、それは身をよじった反動で動いただけ。
「や、やだ・・・どうなってるのよ・・・」

 よし、ここからは私の番だ。

「それにしてもさあ。すっごい綺麗なおっぱいだよね~」
 私は指先で乳首が在るであろう場所をつつく。
「っ!!?」
 樹莉が顔を歪める。分かってるわよ。琉璃の暗示で感度が増してるんでしょ?
「それに・・・綺麗な脚だわ・・・憧れちゃう・・・」
 頬を摺り寄せる。
 悔しいけど肌触りも最高・・・
 最高だから・・・舐めちゃえ!

「うあっ!!?ち、ちょっと柚恵!!な、なんてことを!!」
「ふふふ・・・嫌だったら逃げればいいじゃない・・・」
「に、逃げたくても逃げられないのよ!!柚恵!!やめて!!」
「じゃ、やってもいいんだよね・・・」
「んっ!!や、やだっ!!柚恵!!許さないわよ!!」
「許さない?大丈夫」
 だって琉璃の催眠は完璧。頭に残るのは快感を感じたことだけ。
 気持ちよく飲んでいた・・・でしょ?

「ん~。とってもそそる顔ね・・・」
「う、うそ・・・どうしちゃったの柚恵・・・あなたおかしいわよ・・・」
 私がおかしい?
 おかしいのは催眠にかかってる樹莉・・・あなたのほうよ。

 琉璃が暗示を入れる。
「樹莉・・・誰かとキスしている間はあなたはその人物が大好きになる・・・好きで好きでたまらないのよ」
「柚恵!!止まって!!お願い!!」
 樹莉・・・泣いてるの?
 ごめんね・・・だけどこの関係はもう変えられない・・・
 樹莉を弄ぶことで・・・樹莉との友情が続くの。
 大丈夫。傷つけたりはしない・・・気持ちよくするだけ・・・
 あなたの別の一面が見たいだけ・・・

「んん~~~っ!!?んんっ!!ん?ん・・・ん・・・」
 樹莉が抵抗しなくなる・・・瞳がとろんと潤んでくる・・・舌が絡まる・・・
 暗示が効いてるんだ・・・
「樹莉・・・私のこと好き?」
「・・・うん・・・すき・・・」
 今度は樹莉からキスしてくる・・・
 -くちゅ、くちゃ、ちゅぷ、ちゅっ・・・-
「はぁっ・・・」
 名残惜しく唇を離す・・・
 つ~っと糸が引く・・・

「・・・え?・・・う、うそ・・・どうして私・・・う・・・」
 あらら。少ししたら樹莉が戻っちゃった。
 そして自分自身に対して泣き出した。

「今度は私よ」
 美咲が強引に樹莉の唇を奪う。
「んっ!!・・・・・・んは・・・ふっ・・・」
 さっきと同じように、しばらくして自分からキスをするようになる。

「も、もういや・・・一体私に何をしたのよ・・・」
 樹莉がすすり泣く。
「じゃ、私が貰うぞ」
 朱里が樹莉に近寄る。
「も、もうやめて・・・あかり・・・」
 樹莉は少し混乱しているようだ。

 朱里が樹莉とキスをする。
 朱里の手が樹莉の服の中にもぐりこむ。
「んふっ!!?ふぁぁ・・・」
 朱里の愛撫に樹莉が感じている。
 あの高嶺の花でおしとやかで絶世の美女の・・・樹莉が・・・
「んあっ・・・はっ・・・あ、かり・・・すき・・・」

 樹莉が堕ちた・・・
「んあああぁぁっ!!う、動かせて!!戻してっ!!」
 自由にならない両腕と両脚・・・
 床が愛液でぐちょぐちょになってる・・・

「あああっ!!も、もっと激しくっ!!」
 さすがに飛騨と琉璃のダブルで操られていると堕ちるのが早い・・・
 だけど自我が戻ればいつもの清廉さが戻る・・・
 凄い奴よ。樹莉は。
 だからこそ、私達は弄べるのよ。樹莉はこれぐらいでは変わらないから。

「はいこれ」
 美咲がみんなに羽根を配る。
「樹莉・・・みんな貴女の友達よ」
 美咲が胸を羽根で撫で上げる。
 琉璃はわき腹を。そして私は脚を。
「うあああぁぁぁっ!!ああぁぁぁっ!!!」
 樹莉の腕と脚が自由になった・・・
 そう、絶頂の快感によって・・・

 私達は樹莉を相手にいっぱい楽しんだ。
 それから数ヶ月して、樹莉の1人の男性を見る目が違うことに気づいた。

「やあ。おはよう樹莉ちゃん」
「あ、お、おはようございます・・・」
 あの男の人に挨拶するときの顔・・・
 あの顔は間違いなく恋だわ。
 そう思った私は、瑠璃に相談してみた。

「・・・実はその人・・・私の好きな人なの・・・」
 柚恵ががっかりしたように喋った。
 そっか。樹莉と柚恵の関心を惹き付けた凄いやつ・・・

「・・・で、私はどうすればいいの?」
 琉璃が面倒くさそうに答える。

 朱里が言い放つ。
「樹莉には飛騨が居るじゃないか。その男の気持ちを聞いてみたらどうだ?」
「でも飛騨のは嘘の気持ちでしょ?」
 私は朱里に反論した。
「だから、それは私たちのせいじゃないだろ?」
「だからって樹莉の気持ちはどうするのよ」
 私と朱里が珍しく衝突した。

「わかった。私がその男にさりげなく聞いてみる」
 琉璃がそういって去っていった。
 琉璃が聞くっていうことは・・・催眠術を使うってことよね?

 数日後、私と朱里は琉璃に集められた。
「・・・あの男。樹莉が好きみたい」
 琉璃がカップのコーヒーを飲みながらそう説明した。
「え?両想いってこと?」
 私が確認する。

「・・・柚恵はどうするんだよ。きっと関係が壊れるぞ。樹莉に嫉妬するだろ」
 朱里の言うとおりかもしれない・・・柚恵・・・樹莉・・・
「・・・そうよねぇ。幸いまだ気になる程度みたいだし・・・ねえ。柚恵に譲っちゃおうか?」
「そうだな。それがいいよ」
 私たちの意見は同じだった。
 気になる程度の始まりの恋の樹莉は撤退。
 真剣に恋してる柚恵に譲り渡そう。

「わかった。私に任せといて」
 そう言って琉璃は再び去っていった。

 数日後・・・
 あの男が柚恵に告白した。
 樹莉の気持ちは催眠術によって柚恵を応援するように変えてあった。
 柚恵は素直に喜んだ。きっと気づいていたんだと思うけど。
 よかったわね。樹莉がそう言って素直に笑顔を見せていた。

 数年後・・・
 ふふっ。毎日が楽しくって仕方ない。
 毎日のように雄介様に抱かれて、それ以外の日は親友と楽しく飲む。
 いつも飲み過ぎちゃって記憶が無いけどねぇ・・・ははは・・・

 さて、今日も終わった終わった。
 さ、ご主人様の元に行かなくちゃ。

 私が外に出たところで1人の男性が声をかけてきた。
「すみません。狩野さん。貴女のご主人様はいい人ですか?」
 その青年。背が高く、体格がいい。
「!?え?何で?」
 でもどうして雄介様のことを知ってるの?
 それに私のことも・・・

「あ、僕は彼の友達なんですよ」
 なるほど。それしか考えられないものね。
「ああ、それで・・・ええ、とっても良い人よ。私はあの人のために生きてるの」
「ああ、それを聴けたら良いですよ。どうも」
 それだけ聞いて青年は去っていった。
 何だったんだろう・・・

 私は一応その青年のことを雄介様に報告しておいた。

 翌日、仕事を終えた私の元に少女がやって来た。
「狩野先輩!」
「え?」
 でも見覚えの無い顔だった。
「え~っと・・・ごめんなさい。どちらさまでしたっけ?」
 自分を先輩と呼ぶなんて・・・誰?
「あ、覚えてませんか?私先輩と同じ私立京徳東高校の・・・バレー部の後輩の北山です」

 京徳東のバレー部・・・
 懐かしいわね。皆元気にしてるかな?
 それにしても北山・・・そういえば・・・
「あ、え~っと確かそんな名前の子が・・・いたような・・・」
「私影薄かったから・・・」

 あ、私が覚えてないもんだからがっかりしてる。
 ごめんね~。なんせ1年の部員は凄く多かったから。50人は居たかな。
 なんでも憧れのジュリア嬢の指導を受けたいって噂だったけど。本当かな。
「あ、ごめんなさいね。思い出したわ」
 とりあえず北山さん本人だと思う。悲しませないようにしておかないと。

 とりあえず本人だって分かった。
 バレーという話題が懐かしい。琉璃しか話し相手が居なかったから。
 でも琉璃にバレーの話をすると嫌な顔をする・・・
 きっとあの大会のこと、気にしてるのかも・・・
 私にだってあの殺意のこもった目を見たら、あれがわざとだってことは分かるわ。
 だけど荒立てたくないもの・・・

 それにしても・・・この子とは気が合いそう。
 北山さんに誘われて、私はカフェに入った。

 私と昔話に花を咲かせた。
 でも、北山さんがトイレに立ったとき、何故か私の記憶が途切れた。
 心配かけないように黙っていたんだけど。

「へえ。じゃあ北山さんは今・・・あれ?」
 突然回りの視界が歪む・・・あれ?眠い・・・どう・・・して?・・・
 そこで記憶が途切れた。

 あれ・・・何か変な感じ・・・
 あれ?・・・
 何だか記憶が戻ってくる・・・
 今まで疑問に思わなかったことが・・・疑問に思う。
 飛騨・・・飛騨って・・・

 そう・・・私は飛騨に操られていたのね・・・
 このまま眠っていれば本当の私が戻るの?
 何だか怖いわ・・・
 でも気持ちいい・・・

 逃げちゃダメ・・・真実を受け止めて・・・
 あなたは戻らなければならない・・・
 本来の私が私に声をかける・・・
 私は私で?私が私?よくわからない・・・
 わからないまま・・・
 私はようやく元に戻った・・・

「ど、どうして!!どうして止まらないのよ!!」

 あれ?誰の声だろう・・・

「ああっ!!ま、麻衣ちゃん!!あ、アタシ・・・な、何てことを!!」

 どこからか声が聞こえる。

「い、嫌だっ!!助けてっ!!りゅ~せ~っ!!身体が止まらないの!!私がもう1人の私に支配されてるみたいなの!!」

 なんだか酷くおかしな内容。
 もう1人の私・・・そう言えば・・・雄介さ、飛騨に操られたときの私もそうかも・・・

 私はその声で目を覚ました。

「・・・ここ・・・どこ?」
 見覚えのない景色が広がっていた。
 フカフカのベッドが気持ちいい。結構いいベッド。
 男の人の匂い・・・
 本がいっぱい・・・大きなパソコンがある・・・
 私はとりあえず部屋を出てみた。

 何かもめているみたい。声がする。
 私はその声のするほうに向かった。

 わかった。あの赤い髪の女の子だ。
 男の人は・・・あれはこの前の青年。
 腕から出血してるみたい。
 倒れているのは・・・北山さん?

「い、いやああっ!!」

 赤い髪の子が、その悲痛な叫びとは裏腹な殺気に満ちた顔で男に迫る。
 こ、これは・・・まずいわよ!!
 自然と私は飛び出していた。
 まるでボールに飛びつくように。
 そしてその赤い髪の少女を組み倒した。

 きっとあなたも苦しんでいるのね・・・
「あなたの気持ちはよく分かるわ・・・もう我慢しなくて良いのよ・・・すべて吐き出しちゃいなさい・・・」
 私は思ったことを声にした。
「ぅ・・・アタシ・・・何を・・・・・・血?・・・アタシ・・・麻衣ちゃん・・・りゅ~せ~・・・これ・・・アタシが?・・・うわああぁあぁぁぁっ・・・」
 その少女は大声で泣き出した。

 私は羽山麻衣ちゃんの側で様子を見守っていた。
-ガチャッ-
 扉が開いて結城龍正君が入ってきた。かなり顔色が悪い。
「まだ起きないか?」
 まじまじと見る・・・私の恩人・・・
「あ、結城君。でももう大丈夫よ。結城君だって疲れてるでしょう?私が看病するから寝てていいわよ」
「そうか・・・助かる・・・」
 そういって結城君は部屋を出て行った。
 かなり必死だったわね。
 でもカッコ良かったわよ?

 しばらくして、私の胸の奥から熱いものが込み上げてきた。
 今までなすすべも無く飛騨に操られていたことが悔しくて仕方なかった。
 あのまま歳をとって捨てられていたかもしれない・・・
 飛騨にされた記憶が私を咎める・・・飛騨が憎い・・・殺してやりたい・・・
 許せない・・・よくも・・・よくも・・・

 静まり返った彼女の部屋で、私の目からは涙がこぼれた。
 涙だけでは足りない・・・すすり泣く声も出る。
 次第に声が抑えられなくなって大泣きした。

 そして・・・私を飛騨の支配から開放してくれた結城君に深く感謝した。

 私の得意なことは料理。
 ここまでやってもらったんだもの。せめて私の出来ることをしなければ。
 起きたときに暖かい食事がある。それぐらいしか出来ないけど。
 今まで飛騨には料理を作ったけど・・・
 この料理には私の本当の愛情がこめられてるわ。それは保障するから。

「お、おはよ~~」
 優嘉ちゃんが起きてきた。
「ん。ああ・・・」
 結城君も起きてくる。
「おはよ~ございます~」
 遅れて麻衣ちゃんも起きてくる。
「おお!すげえ!」
「わあすごいです。私もこんなの作りたいなあ」
 結城君と麻衣ちゃんが私の料理を見て驚く。ふふっ、嬉しいっ。

 結城君たちの声が聞こえてきた。
「あら。教えてあげるわよ?いつでも」
「ん?・・・おい狩野!」
 結城君が呼び捨てで呼んだ。
 私のほうが年上なのに・・・そこらへんはきちんとして欲しいわね。

「・・・狩野『さん』でしょ?」
「う・・・。か、狩野さん。お前いつまでここにいる気だ?」
「え?私は従うべき人を失ったのよ?つまり、飛騨によってぽっかりと開けられた心の穴に、詰め物をしたいわけ」

 自分で言って驚いた。何でここに居たいのだろう・・・
 そんなつもりは無かったのに・・・

「ど、どういう意味だよ?」
 結城君は分からないけど、優嘉ちゃんが分かったみたい。
「ちょっと?ここに住むって言うんじゃないでしょうね!?」
「アタリ。もしかしてお嬢ちゃん・・ライバルが増えると思って妬いてるのかなぁ?」
 まただ。私、何でこんなにぽんぽんと喋ってるんだろう。
 昨日初めて会っただけなのに 。

「あ、当たり前でしょ!?りゅ~せ~は私の彼氏よ!」
 優嘉ちゃん・・・よっぽど愛してるのね・・・
「何もしないわよ。私からはね・・・」
 何でか分からない・・・ただ、私は違和感無く溶け込んでいた。

 優嘉ちゃんが変わったことを言った。
「何2人でテレパシーしてるの?」

「何話してる知らないけど、なんとなくムカムカするのはどうしてかな!」
 優嘉ちゃんが目を閉じて拳をわなわなと握り締めている。

 テレパシーって何?
「結城君。テレパシーって何?あと、どうやって私を飛騨の支配から開放してくれたの?」
 結城君はしばらく無反応だったけど、突然驚いて私を見た。

「おい狩野!」
 また私を呼び捨てにする。
「・・・狩野『さん』でしょ。何歳年上だと思ってるの」
 ・・・あれ?何でこんなに世話を焼いてるの?
 相手は恩人なのに。どうしてこんな些細なことも許せないの?

「あ、すんません・・・って違う!もしかしてあの時、優嘉の心の声が聴こえて飛び出してきたんじゃないか?」
「え~っと・・・そうね・・・このお嬢ちゃんが嫌だ嫌だってワンワンうるさかったんで目が覚めて・・・」
 ・・・確かに。彼女は側には居なかったのに声だけが聞こえてきた。
 それに、その声と行動が違っていたような・・・

 結城君が力強く断言した。
「間違いない!お前の能力は『心を読み取る』能力だ」
「能力?なんのことよ?」
 私が・・・心を読み取る?
 どうやるんだろう・・・とりあえず集中してみる・・・聴きたい・・・

(げ、じゃあアタシがこの女を煙たがってる事もバレちゃうじゃん!)
 私の耳に優嘉ちゃんの声が聞こえた。
「あ。なるほど・・・こういうことなのね?ごめんね?お嬢ちゃん。嫌なお姉さんで」
 私が彼女を見るとどうやらその通りだったようだ。
「どうやら『聴きたい』と思ったら人の心の声が聴こえる様ね・・・例えばお嬢ちゃんは今、飛騨への無謀な復讐を考えている・・・それも玉砕覚悟の。違うかしら?」
 優嘉ちゃんは本心を見抜かれたてビクッとする。

「何!?」
 結城君は彼女を見る。そして静かに喋った。
「・・・どうやら何を言われてもどうしてもやるって顔だな・・・よし分かった。飛騨の消去は優嘉、お前に任せる」
「え?」
 驚いたのは優嘉ちゃん本人。

 真っ先に心配するのは麻衣ちゃん。
「龍正さん!どうやって対抗するんですか!?一度落とされていれば落ちやすくなるんでしょう?」
「ラポール・・・信頼関係だ・・・おい優嘉!お前、俺を信用してるか?」
「いまさら何言ってんのよ!勿論よ!世界で一番信頼してるわ!」

 世界で一番の信頼・・・か・・・
 そういえば私のこの気持ちって・・・結城君たちを信頼してるのかな。
 でも琉璃たちとは違う気持ち。
 だって自分も輪の中に入りたいもの。
 私が素直になることで迷惑をかけても、許してくれる気がするのよ。

 ふと思う。もし彼らの仲間になれたらな・・・

 結城君に連れられて再び結城君の部屋に入る。
 男の匂いがする。安心する。

 優嘉ちゃんはベッドに腰掛けた。私は邪魔をしないよう側に立って見ることにした。

「いいか優嘉!これはお前が勝つために行う催眠だ。お前が俺のことを強く信頼して、心から催眠にかかりたいと思えば!素人の俺でも対抗できる!」
(かもしれん・・・)
 結城君の心の声が聞こえる。
 どうやら自信ははったりみたい・・・大丈夫かしら・・・。

「うん!大丈夫!りゅ~せ~に全てをゆだねるよ!」
「俺を信用していれば信用しているほど、愛していれば愛しているほど、催眠にはかかりやすいはずだ」
「わかったからはやくやってよ!」

「そうか・・・ほら!」
 結城君は優嘉ちゃんの後ろに回り、視界をさえぎるように手を置く。
「!!」
「ほらもう全身に力が入らない。どこをどう動かせばいいか分からない・・・ほら、こうやって頭をぐるぐる回されると、渦のようにするすると深いところへ落ちていく・・・ほら、支えてやるから安心して力を抜いて・・・」
「ぁ・・・」
「深く深く落ちていく・・・とても怖いけど愛する龍正が一緒だからどんどん深く降りていける・・・」
 すごい・・・もう優嘉ちゃんが脱力してる・・・
 でも、愛する龍正って・・・自分で言ってて恥ずかしくないのかしら・・・

「アッと言う間ですね・・・」
 隣の麻衣ちゃんが呟いた。
「ねえ。私もあんな風に幸せそうな顔してたのかな?」
「どうでしょうか?優嘉さんの場合は相当龍正さんを信頼してますから」
「信頼ねえ・・・なんか・・・私もあんな催眠をして欲しいわ・・・」
 気持ちいいんだろうな・・・本能がそう言ってる・・・

「ちょっと樹莉さん!目が虚ろですよ!」
「え?・・・あ、ごめん」
 い、いけないいけない!油断してたわ!
 きっとまだ完全には治ってないのね。

「優嘉。お前は何も考える事が出来ない・・・何も感じない・・・聞こえるのは俺の声だけ・・・俺の声がお前を導く・・・・・・飛騨に復讐したいんだろ?」
「・・・うん・・・」
「だったら俺の言う事に従うんだ」
「・・・うん・・・」

「優嘉・・・お前は猫になる・・・前になったことがあるな?・・・ほら、簡単に猫になることが出来る・・・・・・今度の猫はとってもお利巧さんなんだ。血統書つきの美しい猫だ・・・可愛い子猫はもう終わった。とても美しい猫になる・・・ほら、自分の身体が猫に変わってきた・・・耳もある・・・尻尾もある・・・美しい毛並みもある・・・」

 私はぼうっとしながらその光景を見ていた。
 油断したら私までかかっちゃいそう。

 麻衣ちゃんが私を肘でつついた。
 結城君が私を見てる。
(優嘉の心は?)
 ああ、なるほどね。
 私は優嘉ちゃんの心を読んで、結城君にOKサインを出した。

「目が覚めたらお前の目の前にご主人様が居る。高貴で優雅なお前はご主人様が大好きだ。この前のバカな飼い主とは違う。もし人間だったら結婚したいほどに好きだ・・・・・・だけど深い催眠にかかったままだ。賢いお前は人間の言葉が理解できる・・・ほらっ!すっきりと目が覚めるぞ」
 結城君が優嘉ちゃんの肩をポンと叩くと、身体をビクンと震わせて目を開けた。

「な~~」
 優嘉ちゃんが結城君に身体を摺り寄せる。

「優嘉。こっちへおいで。服が邪魔だろう」
 結城君に言われて喜んで足元に座り込む。
「猫が下着をつけるなんておかしいね~。きっとあのお姉さんが悪戯して着せたんだね~」
 優嘉ちゃんが麻衣ちゃんを睨む。
「あ、あの~・・・いつの間にか私、悪者にされてません?」
 麻衣ちゃんが結城君に話しかける。
「ふーーっ!!」
 優嘉ちゃんは背筋をピンと張って威嚇する。
 本当に猫みたい。
「ええ~~。何でこうなるの~?」
 麻衣ちゃんが慌てて下がる。

「優嘉。そんなことする猫は俺は嫌いだな~」
 あらあら。面白いぐらいにがっかりしてるわ。

「優嘉。頼む」
 結城君が大きなペニスを取り出した。
 大きい・・・飛騨なんて比べ物にならない・・・
「優嘉。フェラチオ・・・」

「にゃ~・・・・・・んあ~むっ・・・」
 優嘉ちゃんがペニスを咥える。
 ふふっ。フェラなら私だって・・・
「うぐぅぅっ!?」
 結城君からザーメンが放たれて優嘉ちゃんの顔にかかる。
「みゃ~~?・・・にゃ~ぉ」
 優嘉ちゃんがうっとりとする。
 ホントに幸せそうね・・・羨ましい・・・

「歯を立てるなと言っただろ!!お返しだ!!」
「ふぎぃぃぃっっ!!?」
 結城君がクリトリスをつまんだみたい。優嘉ちゃんの身体が跳ねる。

「な~~ん・・・」
 いやぁ。すっかり発情した猫・・・
 色っぽい・・・
「俺の言うとおりにするか?」
 そこから結城君と優嘉ちゃんのセックスが始まった。

「んあっ!!・・・ん!!・・・ふぁぁ・・・」
 優嘉ちゃんは本当に幸せそうに絶頂に達していた。

「優嘉。お前は人間に戻った・・・深い催眠のままだが、さっきのご主人様に従う気持ちは心の片隅に残っている・・・」
 優嘉ちゃんは精液だらけの顔で頷く。
「お前は結城龍正の命令なら何でも喜んで実行する・・・・・・わかりました龍正さま・・・そう言うんだ」
「わ、かり、まし・・・た・・・りゅ・・・せぇ・・・さ、ま」
「・・・もっとスムーズに言える。心からそう思うんだ」
「わかり、ました・・・りゅ、せ~・・・さま」
「・・・もっとだ。もっと心を込めろ」
「わかりました・・・りゅ~せ~さま・・・」

 結城君がまた私を見る。
 そんな心配しなくても上手くいってるわよ。
 優嘉ちゃんはすんごく気持ち良い状態。
 私は指でOKサインを出した。

 優嘉ちゃんが無造作に寝かされている。
「これで深化は完了だな・・・」

「本当にどんな命令でも聞くのか・・・どうやって確認しようか?俺相手なら何でも喜んでやりそうなんだけど・・・どっちかやりたい人居るか?今ならいろいろと悪戯できるぜ」
 そんなの、いきなり知り合ったばかりの子に出来るわけないじゃない。
 それに・・・麻衣ちゃんがよからぬことを考えてる。

「はい!やりたいです!」
 ほらね。麻衣ちゃんも優嘉ちゃんに不満があるみたいね。
「おお積極的だな麻衣。どうしたい?」

「私のおしっこを・・・飲ませるって言うのは駄目ですか?」
「・・・お前、ストレートだな・・・」
 うわ~酷い。この子絶対に二面性があるわ。
「ダメですか?」

「まあいいよ・・・さあ優嘉、目を開けろ・・・目の前に麻衣が見えるな?」
「はい・・・見えます・・・」
「今からお前は麻衣のおしっこを飲み干すんだ。これは俺の命令だ」
「・・・・はい・・・りゅ~せ~さま・・・」
 何の躊躇もなく、口を大きく開けて麻衣ちゃんの元にひざまずく。
 そうか・・・催眠ってこんなことも出来ちゃうのか・・・
 そうだよね。だから私も操られたのよね。

 麻衣ちゃんの顔がなんとも言えない顔になってる・・・
「さあ!飲みなさい!この下品な雌豚!」
「おい麻衣・・・落ち着け・・・優嘉、今の言葉を復唱しろ」
「はい・・・ゆ~かは・・・下品な雌豚です・・・」

「し、舌で綺麗にするのよ!雌豚!」
 優嘉ちゃんが舌でぴちゃぴちゃと舐めあげる。

 結城君が制止する。
「麻衣。調子に乗りすぎだ。正気に戻れ」
「うふふ・・・あ、す、すみません!」
(やだ、私ったら優嘉さんになんて酷い事!)
「・・・まあ、お前もいろいろと我慢してたんだな」
 この子・・・S?

 優嘉ちゃんの顔や恥部が結城君によって綺麗に拭き取られた。
「さあ優嘉・・・今から作戦に関わる大事な事を言う・・・」
 優嘉ちゃんに暗示が入れられる。

「う~~ん!!なんかすがすがしい気分!自信に満ち溢れてるわ!!」
 うんうん。やっぱり気持ち良いわよね。覚醒したときは。
 ・・・い、いけない。また油断してる!

 そんな時、結城君が思わぬことを言い出した。
「なあ、もしも負けたときの対処が出来ないんだけど・・・上手く入ったかどうかの確認も出来ないし・・・いつ催眠に落とされるかも分からない・・・」
 すかさず麻衣ちゃんが反応する。
「龍正さん!何で今言うんですか!?万が一操られるって事もあるじゃないですか!」
「う~ん・・・やっぱり付いていくべきか・・・」

 2人が一生懸命考えている。私はふとある考えが浮かんだ。
「ねえ?結城君の能力って『心を図書館として具現化する』んだったわよね?」
「ん?そうだが?」
「せっかく図書館として具現化してるのに、図書館としての機能って使えないの?だとしたらもったいないわね。貸し出しとか返却とか・・・」
「!!!!!!!!!!」

 麻衣ちゃんが結城君をフォローする。
「もう試したに決まってるじゃないですか。ねえ龍正さん・・・龍正さん?」
「残念ながら・・・(考えた事も無かった)って思ってるわよ」
「り・・・龍正さん・・・」
「そ、そうと分かれば早速!」
 龍正君は早速麻衣ちゃんに指示を出した。

「なんなのよ!せっかく勇んでたのに!」
 麻衣ちゃんのテレパシーで優嘉ちゃんが呼び戻される。
「ああ、最後にちょっと確認をな」

 どうやら上手くいったみたい。
 結城君は私の目には見えないけれど、数冊の本を持っているらしい。
 私が結城君の力になれた・・・素直に嬉しい。
 優嘉ちゃんは、再び飛騨の元に向かった。
「・・・上手くやってくれるといいわね・・・」
 私の分まで・・・飛騨を痛めつけてきて。

「あ、そうだ。樹莉さんの調整を完璧なものにしておこうか・・・前回はとりあえずで終わってたからな・・・」
「あら、そうだったの?・・・じゃあよろしくね」
 やっぱりそうだったのね。
 どうりで催眠にかけて欲しいって願望が湧き上がってくると思ったわ。
 出来れば取り除いて欲しいわね。

 私は結城君の部屋に入った・・・

 しばらくして、結城君は飛騨の元へ向かった。
 私は・・・うん。もうあの気持ちは消えてる。
 代わりにあるのは・・・結城君への・・・

 私の携帯に電話がかかってくる。
 もう飛騨は追い込まれたみたい。
 私は意を決してその電話を取る。
「もしもし~?ご主人様~?私、奴隷の樹莉で~す」
「!!樹莉!!ぶ、無事なのか?」
「もっちろんじゃないですか~・・・だってあなたに操られていた時の方が『異常』だったんですから~。だから今は無事ですよ~。まったくの『正常』ってわけ」
「!!お、お前・・・」

 何よ。私が解放されちゃあいけないわけ?
 ずっと自分のおもちゃだと思ってるわけ?
 あんたは・・・あんたのせいで私は・・・
 大切な数年間を!いい年頃なのに!!
 って煩いわね!!それは大きなお世話よ!!
 ・・・ふふっ。1人でノリツッコミしても虚しいわね・・・

「・・・何で私がそちらに行かなかったか分かります?」
「・・・まさか・・・」
「行ったら私があんたを殺しちゃうから。せっかくお嬢ちゃんと結城くんが復讐に行ってるのに私が邪魔しちゃ悪いじゃない?彼らのお仕事ですもの」
「・・・樹莉・・・」
「あんたは絶対に忘れないわ。せいぜい来世はまともな生物で生まれてくることね」
「・・・・・・」
 私は皮肉たっぷりにそう言って電話を切った。

 正直、言いたいことは山ほどある。
 正直、私の手で痛めつけてやりたい。
 だけど、結城君に任せる。大丈夫。信頼してるから。

 まいったなぁ・・・私、結城君が好きみたい・・・
 どうしよう・・・彼女も居るのに・・・
 あの2人のことを思うとどうしても素直にはなれないなぁ。

< つづく >

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