Night of Double Mirror 第一話

第一話 天より堕ちる者

 がたん、と音を立てて屋上のドアが閉まった。
 教室の喧騒は肌に合わない。一人よりも二人。そう言う人間が多いが、自分はどちらかと言えば独りの方が気が楽だった。
 昼休みになると、決まってここにやってくる。屋上と言えば、学校の中でも人が居そうな場所ではあるが、風の強い土地柄か野晒しに近いこの場所は、清掃時以外に殆ど人が入る事もなく、施錠されずに放置されている。
 自分はいつもたった一人でここにいる。学園内で最も静かな場所を探し続けて辿り着いた場所がここだった。ただそれだけの事だ。この敷地の中で、屋上と言う狭い空間だけが、俺――氷原祥(ひはらしょう)の居場所だった。
 吹き付ける風を無視して寝転がる。冷たいコンクリートの感触は、生温い教室の空気よりずっとリアルだ。それを感じて俺はやっと一息つく。
 そのままの姿勢で空を見上げると、流れていく雲が視界一杯に広がる。
 足りないわけではない。ただ煩かった。生きている事が億劫なわけでもないが、希望とか未来とか、そういった光り輝く物からは遠い気がした。
「要らない物を求めてどうする」
 風にかき消された声は、頭の中の反響だけが残る。希望とか未来とか。そんなモノでは『今』は満たされない。
 今が満ちていないのなら、未来など考えるだけ無駄だ。
 足りていないのか、それとも満ち過ぎているのか。
「――――ふう」
 上半身だけ起こして首を振る。霞がかった思考が、風に煽られてクリアになっていく気がした。その思考が、屋上の隅にいる少女を捕らえる。
 何を呟くでもなく、微動だにせず彼女はそこに立っていた。空気と変わらない。視界に入らなければ、気づく事も無かっただろう。腰まで届く黒髪が風に煽られて、そこだけが彼女の存在を主張するかのように動いている。
 向こうはこちらの存在に気付いているのかはわからない。ただ、世界に自分一人しかいないかのように、遠く、地平線に視線を向けている。
 普段そんな事を行う事は無いが、彼女の姿を眺めていた。
「――、――――」
 口が動くのと同時に彼女の手に力が入り、フェンスが僅かに歪む。無機質な表情が湛えているのは、怒りにも悲哀にも見えた。
――――どうでもいい。
 他人の感情など、どうでもよかった。動かなければ綺麗な人形に見えていただろうが、動いてしまった以上それはただの人間でしかない。
 興味はすっかり失せてしまった。
 地面に手を突いて立ち上がる。風の中で音は消え、衣擦れの音も足音も彼女には届かない。そのまま、屋上を後にした。

 放課後も、荷物を放り出して屋上まで来た。
 ドアを押し開けて空の下に出る。昼の事を思い出して周囲を見回すと、昼間の女生徒が変わらずそこに居た。
 正直邪魔だと思ったが、殆ど居ないのと変わらない。気にしなければ問題は無いだろうと思い直し、地面に転がって目を閉じる。
 この学校、レベルが高いだけはあって何処の学校でも居そうな、屋上に群がっているような連中は居ない。つまり、騒音を加える連中は居ないと言う事だ。
 なのだが、静かな時は続かなかった。バタン、と大仰な音を立てて開くドアの音が、風の音を切り裂いた。
「静香(しずか)。こんな所に居た」
「え――――由紀(ゆき)?」
 目を閉じている俺には声だけしか聞こえない。が、声が聞こえた時点で、俺の心象は悪くなっている。雑音が無いという事が、この空間の美点だと言うのに。
「こんな所でボーっと突っ立って。なんか、死のうとしてるみたいにしか見えないよ」
 随分無茶苦茶な事を言う。屋上で黄昏ている人間は、全員自殺志願者に見えるのか。第一、死にたければとっくに死んでいるだろうに。だが、そんな事を考えているのか考えていないのか、矛先はこちらに向いたらしく、足音が近づいてくる。
「ねえあんた、二組の氷原だよね。この子になんかした?」
 言葉を無視して目を閉じ続ける。気になるのなら本人に聞けばいいだろうに。
「由紀、彼はなんでもないから」
「静香は黙ってて、私はこいつに聞いてるの」
 声は上から降ってきている。人を見下ろして優越感に浸ってでもいるのか、そういう性格なのか、覇気に満ちている。目を開くと、こちらを睨みつけるようにセミロングの女が見下ろしていた。
「――――――――」
 無言で立ち上がり、一瞬だけ視線を向ける。勝ち誇ったような顔で、人形のような少女の前に立ちはだかるように存在を誇示している。
――――守ってでもいるつもりか。
 瞬間、胸の中に黒い炎が渦巻いた気がした。それを無理矢理押さえ込む。
「ごめんなさい、氷原さん。悪気があるわけじゃ――」
「いいから静香は黙ってなさい」
 そんなやり取りをする二人に背を向ける。
「っ、ちょっと、待ちなさいよ」
 がし、と肩をつかまれる。その手、次いで相手の顔を睨む。心が怒りの色に染まっていくのを感じる。
――――何時までも、俺の時間を妨げやがって。
「オマエの存在が煩わしいんだよ」
 そんな言葉が口をついた。自分の表情はわからないが、ユキと呼ばれていた少女の顔は、どこか恐怖に引き攣っている様にも見える。
「――――――――オマエが消えないから俺が消えるだけだ」
 軽く手を跳ね除けて、屋上を後にした。

 運だとか、厄だとか、そういう呪術的なものは信じない性質だったが、確かに、星の巡りの悪い時と言うのはあるのかもしれない。
 通学に使用している道を逆に戻り、マンションの下にたどり着く。
 何時ものようにエレベーターに乗り、十二階のスイッチを押す。
 変わらない日々のプロセス。変わらない静かな日常。それだけが俺の望みだ。
 エレベーターが指定階に着き、ドアが開く。冷たい共同廊下を歩いて、自室の前にたどり着く。
 一二〇三号室。かつての家族の、そして今では俺一人のものであるそこだけは、確かに俺一人の世界だった。
 玄関のドアを開けて、ベランダに面した窓まで歩く。西日の差し込んだ部屋は、どこか物悲しい雰囲気を醸し出している。
 感慨など無い。この世界にはきっと、俺を満たせる場所など無い。
「――――」
 自分から音を発すれば、静寂は切れてしまう。だが、その静寂は、自分ではない何者かによって、また断ち切られた。
「――――冷たい場所」
 透き通るような声だった。あの風の中で聞いた二つよりもずっと。その透明さはどこか、神意のようなものさえ感じさせる。
 息を止めて振り向く。そこには、少女が立っていた。身の丈150センチ程度。光を返すような銀髪に、対照的な黒真珠を埋め込んだような瞳。飾り気の無い黒のワンピース。外見的には14、5と言った所だと感じたが、何故か素直に綺麗だと思えた。
 だが、美しさと存在とは特に関連は無い。許可を出した覚えが無い以上明らかに不法侵入であり、早々に追い出すべきだ。
「人の家に勝手に上がりこんで、何の用だ」
 無表情で睨みつけると、少女は驚いたような顔をした。
「――――私が見えるのですか?」
「見えなきゃ会話も出来ないだろうが。幽霊だとでも言う気か」
 おかしな事を言う奴だな、と思った。が、その幽霊という呼称が不服だったのか、少女は僅かに目を細める。
「……そんな低俗なものではありません。あなたたち風に言うなら……『死神』とでも言っておきましょうか」
 黒の少女は、クス、と笑みを浮かべた。そこには、こちらを屈服させるような色が滲んでいたが、まさかその程度で恐怖を覚えるような奴はいないだろう。
「悪いが。虚言に付き合ってやる気は無い」
 腕をつかむ。
「え――――嘘?」
 そんなわけのわからない事を呟いて抵抗しようとするが、力はこちらの方が上だ。
「警察には黙っておいてやる。二度と姿を現すな」
 玄関のドアから放り出して、鍵とチェーンロックをかける。何か持って行ったかもしれないが、盗られて困るようなものはこの家には無い。
「……ふざけた日だ」
 吐き捨てるように行って、リビングに戻る。夕飯の用意をするためにキッチンに行こうと思い立った所で、視線を感じて振り向く。
「――――オマエ」
 放り出したはずの少女が立っていた。
 少女を押しのけて玄関へ走る。鍵をチェックするが、かけられたまま。チェーンロックも、俺が引っかけた状態のままだった。
「どうなってやがる」
 廊下を取って返し、少女の近くの壁に拳を叩きつける。
「言ったでしょう。私は死神だって」
 ス、と音も無く少女は壁に近づき、手を当てる。
「――――な」
 意味のある言葉を漏らす事が出来ない。少女の手は、物体の存在を無視して壁の中にめり込んだ。ありえない。普通の人間にそんな事は到底不可能だ。
 だが、物質をすり抜けられるのなら、ドアの存在など関係ないだろう。
「信じる気になりましたか?」
「信じる信じないはどうでもいいが、物をすり抜けられるって事はわかった。それで、ここに居る理由はなんだ。俺の魂か?」
 死神に魂を刈られるのも悪くは無いかもしれない、と一瞬思ってしまい、自嘲する。なかなかに面白い最期だ。
「貴方の魂ですか…………要りません」
 僅かに首が揺れる。生命の危機を脱した、という感覚は無かった。当然だろう。命を奪う気なら、俺は既にここには立っていない。
「じゃあなんだ。迷子でもあるまいし」
 ふん、と鼻で笑うと、彼女の眼つきが鋭くなる。
「――――迷子。そうですね。私は永遠に迷子です」
「そうか。じゃあさっさとここを出て帰る場所でも探せ」
 壁についたのと逆の手で、玄関の方を指差す。と、死神は訝しむような表情に変わった。
「機嫌でも悪いんですか?」
「ああ、悪い。いい加減に出て行け」
――――俺は独りが好きなんだ。これ以上俺の世界に入る気なら、何をするかわからない。
 長く喋る気にはなれずに、後半は思うだけに留める。
「やれるものならやってみるがいい、人間。多少私に触れられるくらいで調子に乗るんじゃない」
「――――なんだと?」
――――思考が読み取られている?
「その通り。外見が同じだからといって中身まで規格通りだと思っていたのか?
 私は死を纏う神アイオライト・アーウェルンクス・ゴドー・ハーケンデッド。この程度は呼吸に等しい」
 柔らかい笑みは一転して、悪魔のような微笑に変わる。
 その笑みのまま伸ばされた手に、白く、細長い柄のようなものが――――
「――――バカ、な」
 白い、純白の鎌。
 成る程。これなら確かに死神にも見える。
「馬鹿は貴方。足しにもならなさそうだけど、私に食われて死になさい」
 ひゅ、と軽い音を立てて、白刃が横薙ぎに宙を切った。存在するものを無視して、壁を突き抜けて、鎌は空間を薙ぐ。
「――――っ、ぐあ」
 車に吹き飛ばされたような衝撃。次いで身体が宙に浮いて、床を滑る。初撃で肺の空気をすべて吐き出してしまったために、咳き込む。
 だが、俺の身体的な衝撃よりも相手の精神的な衝撃のほうが大きかったようで、白黒の瞳が目一杯まで開ききっている。
「え…………嘘」
 痛みを堪えながら立ち上がって、身体の様子を診る。皮膚はおろか、服さえもまったく切り裂かれていない。刃は西日を反射して茜色に光っている。殺傷能力も高そうに見えたのだが。
「…………飾りか、その鎌?」
 呟いて胸元を大げさにはたく。思わず愉悦で口が歪んだ気がした。
 再び鎌が振るわれる。が、今度ははっきりと太刀筋が見えた。
 振り下ろされる鎌の柄を、緩い動きで掴み取る。
――――切れないのなら、いくら薄くても鈍器と変わらないな。
「そんな、違う。どうして、こんな」
 自分だけにわかる言葉を発して、死神は身体を震わせる。
 圧倒的な力の差を過信した加虐。だが、加虐は加虐として機能しなかった。
 何が違うのか知らない、いや、切れるはずのモノが切れない事がおかしいのだろうが、理由なんて知った事か。
 腕を捻って奪い取った鎌を投げ捨てる。余った右手でアイオライトと名乗った死神の首を掴む。ちょうど気道を圧迫する形になり、整った顔が苦痛に歪む。
「あ、かはっ」
――――つまらないな。
 苦しむ姿を見ても何の感慨も浮かばない。人を傷つけるという行為は、少しは楽しいのだろうかと思っていたが、どうやら目の前の死神と自分は、やはり違う種類の生き物らしい。
 手を離すと、軽い身体は地面に転がった。
「げほ、けほ、けほ……きゃん!」
 噎せ返る小さな身体を容赦なく蹴ると、犬が鳴くような声を出して少女の身体が飛んだ。四つん這いだった身体が半回転して、仰向けになる。
 激しく上下する薄い胸と、苦しむ顔。一瞥すると、屋上で感じたあの黒い闇が再び心に翳りだす。
 自然、笑ってしまう。
「やれるものならやってみろ、とか言ってたな、オマエ。いいぜ、遊んでやるよ」
――――オマエで、な。
 心の声が届いたのか届かなかったのか、表情が恐怖の色を映した。
「く、ははは」
 笑っちまう。死を纏う神だとか言っていたが、何処が神だ。
「う、く」
 蹴られた腹が痛むのか、少女は立ち上がれずに廊下を這いずる。悠々と手を伸ばして、後ろ襟を掴む。そのまま、ボスンとソファーに腰を下ろした。二人分の体重を受けてクッションが沈み込む。
 物をすり抜けられるという原則すら忘れているのか、死神はじたばたと暴れた。
「――――意外だな、神様ってのはこんなに醜かったのか」
 諦めが良いのを綺麗だとは言わないが、もう少し高潔なものだと思っていた。所詮、人の形をしている以上、大して人と変わりがないのかもしれない。
「っ……私、は」
 反論の言葉を無視して、身体を引き寄せる。自然、後ろから抱く格好になる。
 そのまま、両方の手のひらを、胸に伸ばす。
「っ、やめ――――!」
 黙らせるために、耳に噛み付いてやった。そのまま舌を右耳に這わせ、両手で胸を捏ねる。
「やめて……気持ち、悪い」
「――――オマエの意思は関係ない」
 耳元で細く囁くと、触っている身体が僅かに跳ねる。
 舌に唾液を乗せて這わせると、ぴちゃぴちゃと小さく水音が鳴る。
「く、あは」
 舌を耳孔に差し入れてやると、再び身体が跳ねる。嫌悪からかはわからないが、その一瞬を見逃さず、胸元のボタンに指をかけて外してしまう。
「あ、やめ!」
 ずるり、と短い距離ながら左側の布地が滑る。その広がった胸元から、左手を差し入れ、右手は下へと下ろしていく。同じように、舌も耳のラインを通って首筋へと滑り下ろす。
「ふ、あ」
 一瞬、声色に艶のようなものが混じったのを感じて、俺の体温が僅かに上昇したような気がした。
「止めて欲しいのなら、なぜもっと暴れない」
「そ、れは……」
 左手で胸を隠す下着を引きずり上げ、露出した右胸の先端を摘み上げる。
「ひうっ!」
 く、と少女の背中が反り返る。
「俺から逃げる方法なんて、幾らでもあるはずだ」
 服の上から臍を通って、足の付け根へと右手を滑らせていく。下腹部を通り過ぎた手は、足の付け根へと徐々に近づいていく。
「ッ!」
 ぎゅっと、足が閉じられ、そこから先へは進めなくなる。だが、俺はそんな行為に対して笑みを浮かべた。
「そうやって、やって欲しい事を言えばいいのにな」
「え、どう言う――――」
 身体の前面をなぞっていた手のひらを僅かに離し、人差し指一本で足の付け根をなぞって行く。その間も胸をいじる左手と、首筋を這う舌が思考の一部を奪う。
「だから、こっちがいいんだろ?」
 薄いワンピースの布地と下着の上から、尾てい骨を指で擦る。
「いや、そっちは!」
「――――まったく。我侭な奴だな!」
 左手の親指と人差し指で、左胸の先端にある突起を握りつぶしてやる。
「きゃうっ!」
 ビクン、と身体が痙攣し、背中が反り返る。指を離した瞬間緩んだ脚の間に右手を差し込む。
「嫌――――!」
 脚を閉じても、既にそこには俺の手が差し込まれている。中指を折り曲げたり伸ばしたりして、短い距離を往復させていく。
「それにしても薄い服だな。反抗しない事と言い、本当はこうされたかっただけなのか?」
 はは、とバカにしたような笑い声もオマケでつけてやる。そうすると、少女は身体を捩りだす。
「違う、そんな事!」
「そうは言っても、オマエの口からは嘘しか出てこないからな」
 笑いながら、胸と股間をいじり続ける。右の中指は既に湿り気を感じていたし、左手は硬くなった先端を手のひらで押しつぶしている。
「そんな事は!」
「だからこっちに聞いてやるよ。昔から言うだろ。こっちの方は嘘を吐かないってな」
 右手の中指を僅かに折り曲げ、上へと突き上げてみる。完全にめり込みはしないが、僅かに柔らかい感触が指の先を包む。
「う、あ」
 表情を緩ませて喘ぐ彼女の耳に、言葉を囁く。
「何を悶えてるんだ。自分で触った事ぐらいあるんだろ?」
「――――!」
 俺の左手を掴んでいた手が強く握られて、、顔が僅かに赤に染まる。
「はは、何が神様だ。思春期のガキと変わらないぞ、オマエ」
「うる、さい……」
 俺の言葉で自慰の時を思い出したのか、声から覇気が薄れていた。
――――そろそろ、邪魔だな。
 身体を覆う黒布が、邪魔に思えてきた。股と胸から手を離して、開いた胸元の生地に両手をかけ、左右に開く。
「っ、やめ!」
「つまりやって欲しいって事だろ。実際邪魔になってきたしな」
 ビリビリと音を立てて、布地が縦に裂けていく。ちょうど臍辺りまで広がったが、腕がまだ通っているお陰で床へと落ちる事は無い。
「っ、う」
 見られた羞恥からか、今更肌が薄く染まっている。それに気をよくして、前動作なしで右手をショーツの中に突っ込んだ。
「――――!」
 もはや言葉にすらならない。そのまま奥へと進んでいくと、ぴちゃり、と粘質のものに指がたどり着く。既に知っていたが、大袈裟に表現してやる。
「なんだ、やっぱりちゃんと感じてるんじゃないか」
 はは、笑ってしまう。楽しすぎて左手が完全に遊んでいた。そっちは、上の方に伸ばしてやる。口は、今度は左耳へと持っていく。
「違う、そんな事」
「いい加減正直になれよ。それとも、もう正直なのか?」
 ショーツの中の右手を、腰に沿って移動させてやる。
「そっちはダメ――――!」
 ぐい、と身が捩られる。
「そうか、じゃあこっちがいいんだな!」
 にやりと笑って、指を前に戻す。中指を折り曲げて、愛蜜を垂れ流すヴァギナに差し入れる。
「う、ああ」
 抜き差しする度にぐちゃぐちゃと何かがかきまざる様な音が部屋に響く。
「ぅ…ぁ……ぁ」
 嬌声が短く、断続的に少女の口から漏れている。
「ふ…ぁ……は………気持ちよくなんか、ないのに」
 そう言いながら完全に目を閉じている様子は、指の動きに身を任せているようにしか見えない。
 頬は上気して、息は荒くなっている。
 ぐちゃぐちゃと音を立てながら、蜜を垂れ流す秘穴をかき回してやる。
「ぁ、は、ぁ、ぁ」
 少しずつ、喘ぎの間隔が狭くなっていく。俺はふとするとずっと歪めていそうな顔を再び歪めて、左手を右手の上に添える。
「悪い、ここを忘れてたな」
 ショーツを引き摺り下ろし、充血しきった肉の芽を、左の人差し指で撫でてやる。
「ひ――――!」
 がくん、と身体が跳ね上がって、指が抜け落ちる。身体が落ちてくる前に、抜けた中指に人差し指を添える。
 ずちゅっ、と音を立てて二本の指が秘穴に滑り込む。
「あああああっ!」
 絶叫が響く。一本で満足していた口は、二本突っ込むとさらに嬉しそうに食いついてきた。
「はは、気持ちよさそうだな」
「そん、ああ、あ、あ、あ」
 喋ろうとしても、指が抜き差しされる膣と、擦られる陰核から与えられる快感がそれを許さない。
 部屋に響くのはぐちゃぐちゃという音と、彼女が上げる嬌声だけ。
「だめ、もう、止めて――――」
 ビクビクと、小柄な身体が痙攣しだす。それを見計らって俺は――――
「――――さて」
 ドン、と身体を突き飛ばした。
 べた、と力の抜けた身体が地面に倒れこむ。
「な、なんで――――」
 少女は、潤んだ瞳でこちらを見上げてくる。その顔が、俺の中の加虐心を膨らませる。
「……誰がオマエとセックスをすると言った」
 ストレートな単語に、彼女の口が僅かに開く。
「俺は言っただろ。『オマエで遊ぶ』ってな」
 緩めに結ばれたネクタイを解いて、少女に近づく。解いたネクタイで両手を後ろ手に縛り上げてしまう。
「何で」
「オマエが自分で触れないようにするためさ」
 ついでに、ダイニングテーブルの上に置きっ放しになっていたタオルを掴む。この後の趣向にならもう少し適したものがありそうだが、手の届く所にはこれしかない。
「それは、どうするんですか」
「こうするのさ」
 縦に三つに折り、彼女の頭に巻きつけて縛る。目隠しの代わりだ。
「これで俺が何をするかわからないだろ」
 クク、と笑って、少々大げさな足音を立てて、うつ伏せになって尻を上げた状態の少女に歩み寄る。
「――――――――」
 期待か不安か、彼女は声一つ上げないが、僅かに小さな呼吸音が耳に届く。俺はそんな彼女の服を静かにめくり上げた後、臀部に手をかけ――――
「壊れても責任は持たないからな」
一気に濡れそぼるヴァギナを貫いた。何かを破るような感覚がして、俺のモノが全て中に納まる。
「――――――――――――!」
 悲鳴は声にならない。目隠しによる恐怖と、身体を貫かれた痛み。それらが合わさって、思考を塗りつぶしている所為だろう。
「ははは、死神だ神様だなんて威張ってたが、ただの処女のガキじゃないか」
「っ、く……何でこんな酷い事」
 ぽたぽたと、水滴が床に落ちる。血と、涙。それが、乾いたフローリングにシミを作っていく。
「ふん、殺そうとする事は酷い事じゃないってのか」
 ず、と突きこまれたモノを無理矢理引きずり出す。
「あ、ああああああ!!」
 痛みによる悲鳴。それを無視して、再度突き込む。
 苦痛で締め付けられた膣は、俺のモノを痛いくらいに締め上げてくる。が、そんな窮屈さを無視して前後運動を繰り返す。
「ぁ、ぅ、ぁ、ぁ、ぁぁ、ぁ」
 壊れたスピーカーのように、少女は苦悶の声を垂れ流し続ける。
「まだこんなもんで終わりじゃないぞ」
 尻を掴んでいた腕を放して、両方の二の腕を掴みなおす。
 引き抜くと同時に押し退け突き込むと同時に引き寄せる。一突きごとに、狭い秘穴の奥まで入り込んでいるのがわかる。
「う、ああ」
 声に艶が混じったのを感じる。
「はは、無茶苦茶にされても感じるのか。やっぱり、こうして欲しかったんじゃないのか?」
 喋れないぐらいに腰を往復させ、腕を前後させる。
「あう、あ、あ、あ、あ」
 苦悶は消え、再び声は嬌声に取って代わる。
 ぐちゃぐちゃという水音。身体のぶつかる音。少女の喘ぎ声と、俺の荒い息。そのすべてが、空間に反響している。
 がくがくと、また少女の身体が震えだす。
「こうされたかったんだろ!?」
 舌すら出して喘いでいる少女に向かって叫んでやると、少女はぶるぶると首を振った。
「ちが、う。そ、じゃ、ない」
 その答えを聞いて、はは、と笑ってしまった。
――――何もかも、思い通りだな。
 ずるり、と少女の中からモノを抜き去ってしまう。
「――――――――え?」
 数秒間放心して、彼女は声を上げた。
「どうして……また止めちゃうんですか」
 鳴きそうな声で、呟く少女の身体を、仰向けにしてやる。後ろ手で腕が結ばれている所為で、僅かに腰を浮かせる格好になっている。
「嫌なんだろ。だから止めてやったんだ」
 目隠しも取ってやると、潤んだ瞳がこちらに向いていた。
「そ、そんな」
 手で触れる事も出来ずに、彼女は太股を擦り合わせる。だが、そんな事では股の間は刺激されない。仰向けになっているお陰で、胸を床にこすり付けるなんて事も出来ない。
「壊れちゃう………こんな、あ」
 胸に手を当てる。
「どうしたんだ、嬉しくないのか?」
 先端を避けて円を描くように撫で上げる。右胸、左胸、次いで腹の上や太股へ、直接快感に結びつかないような所を、触れるか触れないかぐらいの強さで撫でていく。
 俺は笑いをこらえて、少しだけ悲しそうな顔を作り上げる。
「嬉し、く……」
 目を潤ませ、息を荒げ、太股をすり合わせ、彼女は涙を浮かべる。
「そうか、嬉しくないのか」
 落胆した表情を作って、呟く。
「じゃあ、どうすればいい?――――いや……はは」
 堪えきれずに、笑みを浮かべてしまった。
「どうして欲しいんだ?」
 言ってから、クス、と笑いかけてやる。俺を見下した時に見せたあの笑みと、同質のものだ。そうやって笑いながら、手は止まらず身体を這い回る。
「あ、わた、しは」
 目の焦点がだんだんぼやけてきている。意外と脆いな。自然に、言葉が口をつく。
「――――今後、俺が満足するまで隷属し、俺の玩具になると誓うのなら、オマエの今の願いを一つ叶えてやってもいい」
 何。願いなんて決まっているだろう。つまり。
――――狂いそうだからイかせてくれと。
「誓い……ます」
 荒く息を吐きながら、蚊の鳴くような声で言葉が発せられる。その言葉を聴くと、再び笑いがこみ上げそうになる。
「そうか、誓いたくないのか」
「え、どうして……」
 疑問の言葉を無視して、身体を撫でてやる。
「オマエは、嘘しか言わないからな」
 ぱしん、と浮いた尻を軽く叩いてやると、それだけでまな板の上の鯉のように身体が跳ねる。呻き声を無視して、両手で身体を撫で続ける。
「ぁ、っ、誓います、誓いますから! お願いしますっ!」
 頭をぶるぶると振って、涙を流して、彼女は叫ぶように懇願する。
「まあ、いいだろう」
 所詮は口約束だ。反故にされない道理は無い。だが、こいつには俺を殺す事は出来なかった。その一点は十分なアドバンテージになる。破れた服に手をかけ完全に取り去ってしまおうとしたが、腕を縛っている所為でそこだけ抜けなかった。
「まあいい」
 股を開いて、だらだらと壊れた蛇口のように愛蜜を流し続ける入り口にモノを押し当て、
「じゃあ、望みを叶えてやろう」
 笑いながら、腰を突き出した。
「あああああああ!」
 何度目かもわからない絶叫と共に、彼女は達したようだった。が、息をつかせずに往復運動を続ける。
「だ、ダメ! 止めて、待って!」
「断る」
 悲鳴に近い願いを切り捨てて、膣を擦り続ける。
 咥え込んでいる中は断続的に痙攣して、心地よい締め付けを与えてくる。
――――どちらにしろ、それほど持ちそうに無いしな。
 お預けを食らったのは彼女だけではなく、自分もだ。それほど時をおかずに、俺は少女の中に押さえつけられていた白濁を放った。
「あ、はあ」
 やっと開放されたと思ったのか、彼女の口から安堵に近いため息が漏れた。
――――まだ終わりじゃないんだが、な。
 俺のモノはまだ彼女の中で硬度を保っている。は、と笑みを漏らして、彼女の身体を抱き起こしてリビングに置かれた三人掛けのソファーへと歩く。そこに浅く腰掛けると同時に、再び目一杯突き込んでやった。
「ふあああ」
 びくん、と身体が震えて、モノが締め付けられる。
「なんだ、またイったのか」
 聞いた相手は返事も出来ずに、息を荒げている。
「答えないって事はまだって事か」
 笑いながら、耳元に口を近づけて、囁く。
「――――安心しろ、ちゃんとイかせてやる」
 言うより早く、腰を突き上げる。脇の間に差し入れていた腕を下ろして、尻を掴む。
「ああ……あ」
 嬌声が発せられる。
 ぐちゅぐちゅという水音と、ぱしんぱしんと腰がぶつかる音が響く。
「で、どうなんだ。いいならいいって言え」
「は、い。いいです、い、あ」
 口は半開きになり、唾液をだらだらと流しながら舌を出して喘いでいる。
――――これはもう必要ないか。
 手首を縛り付けているネクタイと、肩から引っかかったままのブラをすべて取り去ってやると、引っかかっていたワンピースが床に落ちた。自由になった両腕が俺の背中に回される。密着間が増し、お互いの腹が擦りあわされる。
「あ、いいです。よすぎますっ!」
 快感が限界値を振り切れたのか、どこか笑みさえ浮かべながら腰を振っている。その顔を見て、射精感がこみ上げてくる。
「っ、出すぞっ」
 射精の瞬間に、思い切り奥を突き上げて腰を密着させる。俺が吐き出した精が、子宮へと注がれているのを感じたような気がした。
「あああああ!」
 絶叫と共に身体が震え、くたりと脱力した身体が倒れこんでくる。
 俺はそのまま九十度回転して、ソファーに倒れこんだ。
「は、は、はあ」
 息切れを起こして激しく呼吸を繰り返す少女の肩に手を当てて、押し上げる。身体が完全に起き上がったところで、両胸に手を当てなおす。
「え――――」
 疑問の表情が浮かぶより早く、腰を振り始める。
「あああ、ダメ、もう止めてくださいっ!」
 今度こそ完全な悲鳴を上げて、彼女は逃れようとした。だが、力が入らずに後ろに倒れ込みそうになる。
「っと」
 すばやく両腕を掴んで、騎乗位の体勢に戻してやる。
「ああ、もうだめ、だめです。本当に壊れちゃいますっ!」
 そう言いながらも、焦点の合わない瞳でびくびくと痙攣しながら自分から腰を振り続けている。
「あぐ、うう、あくっ」
 ぼたぼたと、涙と涎がカッターシャツに落ちるが、構わず突き上げ続ける。
「はっ、は、はは、はははは」
 壊れているのは彼女でだけではない。自分もきっとそうだ。息を荒げているのか、笑っているのか。その境界が曖昧になってきている。
「はは。これで、最後だ。全部注いでやるよ」
 腰のスピードを限界まで上げていく。一度突く度に、狭苦しい膣の奥を突き上げるような感触を先端に感じる。
「は、あ、ああ」
 ぱくぱくと口を開閉させて、華奢な身体ががくがくと揺れている。
「っ!」
 吐き出す寸前に腕を放し、両方の胸の先を摘んで押しつぶしてやった。
「うああああああああ!」
 空気が割れそうな悲鳴を上げて、彼女は今日最後の絶頂を迎えた。

……気だるい。汗に濡れきったカッターシャツが肌に張り付いている。ゆらりと首を振って、床に転がる少女を見た。
 達し続けた所為か、彼女は裸のまま手足を丸めてうずくまるように寝転がっている。
 都合三回ほどの量が注ぎ込まれた膣口からは、ごく淡いピンク色になった液体が流れ出している。
 ソファーの背もたれに手をかけて、上半身を何とか引き起こす。
「――――っ、調子に乗りすぎたか」
 そう呟いてしまうほど、身体から力が抜けていた。体力を消耗しきるほどの運動はしていないはずだが、心地よさを通り過ぎた脱力感が身体を支配している。
 腰を深く沈めて座る。二秒ほど目を閉じて開くと、目の前で一糸纏わぬまま死神の少女が膝立ちになっていた。日は既に落ちきっていて、月の明かりが何処か幻想的に部屋と身体を照らしていた。
 とは言え、さすがに向こうも尾を引いているのか、少し足元がおぼつかない。そのまま、ペタン、と俺の胸の上に倒れこんでくると、カッターシャツとズボンを通して少し高い熱が伝わってくる。
「神様を手懐けるなんて。何者ですか、貴方は」
「あんなもので手懐けられるのか。安い神格だな」
 自分の事を神様といった少女は、まだ少し荒い息をしている。顔も僅かに上気していて、傍から見れば何かを求めているようにも見えそうな気がした。会話が続かず、しばらく夜の帳が辺りを支配する。
「それで。誓約の件はどうする」
 静寂に耐え切れず、口を開いた。正直、こちらとしては反故になっても構わなかったのだが、彼女はさらに俺に身を寄せた。
「司るものが死とは言え、神は神ですから、誓いを破る事は出来ません」
 無表情のままで、彼女はそう言った。その言い方が何処か投げやりだと感じた気がして、目を閉じて息を吐いた。
「そうか。不便だな」
 俺がそう言うと、彼女は不思議そうに目を瞬かせた。
「不便、と言いますか」
「律儀とでも言えばいいのか? 自分を縛りつけるものなんて、邪魔なだけだろ」
 俺の言葉を噛み締めるように目を閉じて、彼女は呟いた。
「そう、かもしれませんね」
 その声は何処か楽しそうだった。
「ですが、確約を」
 身を僅かに引き、そう、初めて聞いたあの透き通った声で彼女は言って髪を梳いた。指の間に、銀色の髪が一本だけ残る。
 それを、少しぎこちない動作で、お互いの左小指に結び付けていく。
「――――誓いましょう。私は貴方がそれを望まなくなるまで、貴方のそばに居続けると」
 何かの呪文だったかのように、結ばれた銀色の髪が光を放つ。
 光が消えても、何事も無かったかのように髪はそこに存在した。ためしに引っ張ってみようとしたが、指がすり抜けてしまう。
「幾ら貴方でもこれには触れられません。概念が形になったようなものですから」
 左手を軽く振ると、その手の動きに合わせて糸が揺れた。当然、指から解け落ちる事は無い。
「赤い糸みたいなものか」
 はい、と彼女は頷く。と、その顔を見て、どう呼んでやろうか迷う。と同時に、こちらの名前も教えてやっていない事に気づく。
 アイオライト。菫青石の学名だったはずだが、それは呼び方とは関係ない。もっとシンプルな方がいい。
「『アイ』でいいか」
 ぼそり、と呟きとして漏れる。どうせ考えている事は筒抜けだ。なら、口に出すか出さないかは問題でもない。
「はい、何がですか?」
「……オマエの呼び方だ。アイオライトじゃ大仰過ぎる」
 俺がふん、と鼻を鳴らすと、『アイ』はぱちぱち、と瞬きをしてから、クス、と嬉しそうに笑った。
「はい。………えーと」
「氷原祥、だ」
 俺の名前を教えてやると、アイは柔らかい笑顔を見せた。
「……はい、祥。では、貴方が望む限り共に」
 す、と頬に手が伸び、顔が近づいてくる。

 そのまま唇が重なった所で――――俺の意識は途切れた。

< つづく >

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