被験者No.14の逃亡 (1)

(1)

「じゃあ次は、舌の検査をします。ベロを、えーって出してください」
「はい…えー」
「いいですね。すごくきれいです。そのままにしててください。僕の舌で確認しますから」
「んっ…えぅ、んっ…んっ…」
「んっ…はぁ、すごい、甘い。次は、つぐみちゃんも舌をこうやって回して。れろ、れろって…」
「え、でも…恥ずかしい」
「僕は“医者”で、つぐみちゃんは“患者さん”だよ。言うこと聞かないとダメですよ」
「あ、はい。ごめんなさい。えと…れろ、れろ…こうですか?」
「うん、そのまま。それじゃ僕の舌を合わせますよ」
「んっ…れろ、んっ、ぬちゅ、んっ、れろ、れろ…ちゅぷ、ふぁ、くすぐった…れろ、んっ、んっ、んんー」

 つぐみちゃんは、ぶるぶるって体を震わせて、僕とのいやらしい舐めっこを続ける。華奢な肩を掴んで、引き寄せるようにしても抵抗らしい抵抗はない。彼女の息が僕の口の中に入ってくる。柔らかい舌は僕のに絡みついてチュルチュルとエッチな音を立てる。
 彼女がこの奇妙な“お医者さんごっこ”を怪しんでいる様子はない。小さな舌を懸命に動かし、“医者”である僕の言葉に従って、ファーストキスをこんなにもいやらしいやり方で僕に捧げている。
 捧げているという意識は彼女にはないんだろうけど。

「胸の方も診てみましょうか。上を脱いでください」
「…はい」

 つぐみちゃんの足元にしゃがみ、見上げるようにして命令してみる。つぐみちゃんはとろんとした目で僕に頷き、ブラウスのボタンを外していく。彼女の細い体があらわになって、僕はゴクリとツバを飲み込む。 
 とても可愛らしいピンク色のブラだ。彼女にはよく似合っていると思う。彼女はいつもピンク色のイメージだ。教室で、僕の席の隣で笑う彼女は、まるでチューリップみたいに可愛いと思ってた。
 そして、その体に僕の字があちこちに書いてあるのが残ってて、ちょっと申し訳ない気持ちになった。
 これは、昼間遊んだときの名残だ。

「…ブラも、取っちゃいましょうか?」
「はい」

 小鉢を伏せたような、控えめな膨らみがさらけ出される。ブラウスと一緒にブラも背中に押し込み、ちょっと照れくさそうに髪をいじって、つぐみちゃんは僕に微笑みかける。
 大好きだった彼女。僕の初恋のあの子。そしてつい先日、僕の告白を断ったばかりのつぐみちゃんが、僕に向かって可愛いおっぱいを出している。
 ドキドキが止まらない。僕は悪いことをしている。でも、ここで終わるつもりなんてさらさらない。
 もう彼女は僕のものだ。僕は、誰に遠慮することもなく彼女を自分のものにできる。そういう能力をもらったんだ。
 あの、奇妙なお兄さんに。
 急ブレーキで体勢をくずして、床に転びそうになる。「危ない」とつぐみちゃんが僕の肩を支えてくれる。その拍子にぷるんと小さな胸も震えた。

「ごめんね」
「ううん、大丈夫ですか先生?」
「大丈夫だよ。さあ、診察を続けようか」
「はい」

 僕はつぐみちゃんの控えめな胸を両手で触れる。

「ん…っ」

 先っちょを手の平でクリクリと回すと、つぐみちゃんはくぐもった声を出した。僕はその反応が嬉しくて、さらに手のひらをクリクリと回す。僕は夢中になってつぐみちゃんのおっぱいをイジった。
 隣りに座っているつぐみちゃんの友だちは、退屈そうにケータイをいじっている。反対の隣り側では、サラリーマンのおじさんが寝息を立て始めている。
 僕の後ろでは、女子高生の軍団が奇声のような声でくだらない話に盛り上がり、出発を知らせるアナウンスはかき消された。

 多少混雑してる山手線の車内であっても、僕たちの“お医者さんゴッコ”を誰も咎めたりしない。
 僕がつぐみちゃんのおっぱいに舌をつけ、彼女が「くふん」と可愛い悲鳴を上げても、僕たち“子どもの遊び”を気に留める人などいるはずもない。
 電車は新しい乗客を乗せて、何事もなくゆるやかに走り始める。

 これが僕の“才能”───《禁じられない遊び(playing alone)》だ。

被験者No.14の逃亡

「───あなたたちは、出て行って」
「しかし、大尉」
「いいから、外で待っていなさい。あなたたちはただの“番犬”でしょ。ここから先は機密事項。銃殺刑になりたくなかったら、余計なことには首を突っ込まないで」

 スーツの似合わないデカブツの軍人たちが、しょぼくれた靴音を立てて出て行く。
 私は彼らがきちんと扉を閉めたことを確認して、端末をいじる。
 このスイートルームのクリーニングは済んでいる。傍受される心配はない。
 ここから6時間遅れのオフィスで待っているだろう上司に、とりあえず『被験者確保』の連絡を先に済ませておくことにする。

「“ナターシャ”です。ご注文の日本人形は14個でよかったでしょうか。今、トーキョーのホテルでおやすみ前のコーヒーを入れたところです」

 音声がデータ化されて、一度中国のPCに転送されて、帰ってきて、今、ようやく秘書のお尻観察に忙しかった上司がメールに気づいて、受話器を取るところ。
 一連の流れを想像していると、やっぱり思ったとおりのタイミングで上司は電話に出た。

『オールクリーンだ。“ナターシャ”、通信を許可する』
「被験者を確保。尋問をしてもよろしいでしょうか」
『尋問の許可はまだ出ていない。状態を報告しろ』
「対象は睡眠中。確保のさい麻酔を使用しました。ケガなどはなく、状態は極めて健康」

 許可を待ちながら、拘束具に手足を縛られ、目隠しをされ、ボンベで呼吸しているターゲットを確認する。
 ボンベは、おかしな形状をしていた。彼の吐く息までも吸収するためだ。
 拷問や尋問で手足を拘束することはよくあるが、目隠しとボンベまでされる男も珍しい。
 それだけ彼が“特殊”ということだが。

『…よし、尋問の許可が出た。彼が逃亡を開始してからの118時間に、どれだけの人間と接触したか聞き出し、もしも“才能”を発掘された人間いるならそれも報告しろ。“ブザー”は手元にあるな?』
「はい」
『彼は“眼”、あるいは“呼吸”を用いて他人を侵略する。一定の距離を保ち、絶対に5メートル以内に近づくな。それが判明している限りでの彼の能力限界だ』
「はい」
『“ブザー”は彼を眠らせるが、目を覚ましたときには別の“人格”になっている。必要なことを喋らせるまで使用を禁止する。また、生命を奪うことも禁止する。尋問に関して確認しておくことはあるか?」
「十分です」
『ナターシャ、慎重にやれ。彼には他のメンバーも何人もやられている。───君まで失いたくない』
「……私を口説いてらっしゃるんですか?」
『もちろん、そのつもりだよ。私の周りには君ほど美しい女性はいないのでね』
「ご冗談はそれくらいに。私はこれから可愛い日本猫ちゃんと甘いひとときがありますので」
『それは残念だな。繰り返すが、くれぐれも慎重に。君の実力は認めるが、ヤツは異常だ。誰にも理解できない力を使う』
「理解? これだけの資料を私に持たせたくせに?」

 私の手元にあるターゲットの資料には、医学、化学、心理学に東洋史まで揃っていて、まるで私の大学時代の総さらいのようだけど。
 
『ナターシャ、私は君を優秀な職員だと断言できる。なぜなら君の頭脳も冷酷さも戦闘能力も容姿も、私たちに“理解できる才能”だからだ。だが、君に比べればただの凡人に過ぎないヤツの“才能”は、我が国の頭脳が揃いも揃って“理解できない”んだ。その資料も単なる悪戦苦闘の歴史を記した紙くずでしかない。そういう“モノ”を我々が形容する言葉は一つしかないんだが、知っているか?』
「モンスター」
『そう、君は優秀だ。目の前の危険を正しく理解し、警戒し、そして乗り切ってくれると信じている。だが、もしものときはヤツに利用される前に自決しろ。では、あとはよろしく頼む』

 いつもの決まり文句で、私の上司は一方的に通話を切った。今日もぴったり、2分50秒。あの男の体内にはセイコーのモスクワ支社でも建ってるんだろうか。
 まあいい。さっさと仕事を済ませてドアの外の兵隊どもにターゲットを引き渡して、シャワーを浴びて寝よう。
 シャンパンクーラーから冷えたビンを取り出し、グラスに注ぐ。山のように積まれた資料の束から、A4の一枚を取り出し、あらためて目を通す。

 ターゲットは“被験者No.14”、本名はミハイル=アレンスキー。
 21才。日本人の父とロシア人の母との混血。母は軍の旧研究施設でESP開発の被験者だった。
 一時、我が国の軍部は見境もなくオカルトにまで手を出し、それなりの成果と恥を残していた。その研究は上層部ではとっくに手を離していたのだが、一部のオカルト主義者と旧体制派によって秘かに続けられていたらしい。
 日本人の父は、その資金協力者の息子だ。母とは研究所で知り合ったらしい。そしてその両親の間に生まれたこの青年は、幼少時から不思議な力を発揮したそうだ。
 ただ、それを彼の父は自分の欲望を充足させるために利用した。祖父の家の使用人や近所のご婦人方を性奴隷のように仕立て上げ、楽しんでいたところを祖父に見つかり、放逐される。
 母はその後、研究所に連れ戻され、母子揃って保護される。父親の消息は不明。
 そして、ミハイルの前代未聞の“才能”を知った研究所は、それまでの成果を全て放棄し、ミハイルの研究のみに専念するようになる。
 つまり、その施設に“被験者”は彼1人しかいない。それに対して、用意された個人ファイルは14枚。
 14枚の理由は、彼の抱えるとても厄介な精神疾患による。
 そして、問題となる彼の“才能”がいかなるものか、この資料のみでは全貌は掴めきれない。他人を“支配する”ことも“洗脳”することも“他人の眠れる才能”を発掘することもできるし、一部のオカルト研究者にいたっては、彼は“未来を支配している”とまで言っている。
 つまり“理解不能”だ。動物学者が宇宙人でも発見したかのような反応だ。
 まったく、これは日本のコミック雑誌か? 彼の正体はニンジャの末裔だと、このバカバカしい資料の山のどこかに書いてあるかもしれない。
 シャンパンで唇を湿らせ、資料の続きに目を走らせる。
 軍が短波放送を垂れ流していたラジオ施設の下で、ミハイルの能力研究は秘かに続けられ、そして今の政府によって潰された。
 遺された資料と、“被験者”と呼ばれた唯一の研究対象者ミハイルは政府によって引継がれ、そして、上層部を驚愕させた。
 詳しい実験内容は知らされていないが、彼は実際に他人を操り、洗脳し、あるいは感情、認識能力の欠落などをやってみせたらしい。
 さらには、彼と近い“才能”を持つ他人を見抜き、不可思議な能力を発現させるようなこともしてみせたとか。
 これだけ見れば奇跡を安売りする神の子だ。だから、彼の最初の研究者たちは、彼に対して徹底的な洗脳と薬品投与を繰り返し、人格を崩壊させてまで“制御方法”を確立した。
 それが“ブザー”だ。
 施設が流し続けていた軍の短波放送を、そのまま彼のスイッチに利用したようだ。
 ブザーを聞いている間、彼は心神を喪失し、音を止めると覚醒する。そのたびに彼の“人格”が変貌したり“記憶”を喪失したりするのは極端な副作用だが、少なくともそれが彼をコントロールする唯一の手段だ。
 私のポケットにあるプレーヤーも、その“ブザー”を発することができる。ただし、今の“記憶”と“人格”に日本に渡ってからの行動を洗いざらい喋らせてからだ。
 私の任務は彼の捕獲と、必要であれば彼の残した存在証拠の掃除。場合によっては、彼と関わった人間そのものを消さなければならなくない。
 もっとも、彼の“メンテナンス”がなければ、彼が他人に発掘した“才能”も数日で消えるので、日本をおかしなエスパーだらけの国にしてしまう心配はない。我が国に害なすようなことをしていないか確認して、必要ならば何人か殺すかもしれないというだけだ。

 資料にクリップで挟んだ顔写真を見る。幼い頃から薬品投与と解剖を繰り返されたわりに血色の良く、すっきりとしたハンサムだ。
 拘束のさいに見た体も細いがよく締まっていたし、東洋の血が濃く混じっているせいでエキゾチックな魅力もある。年下なのも私の趣味ともぴったりだし、これが仕事相手でなければ寝てもいいと思えるほどだ。

「残念ね。こんなに素敵なお部屋に2人きりなのに」

 残ったグラスを空にして、椅子をターゲットから7メートルの位置に置き、背もたれを前にして腰掛け、サイレンサー付きの銃を取り出す。
 彼は厚い目隠しと口にボンベマスクを当てたまま、椅子に拘束されて俯いている。万が一、血を流させる必要があった場合に備えて、床に防水シートも敷いてある。
 尋問の権利は私にある。そして、命も私次第だということを教えてやるために、ターゲットに聞こえるようにゆっくりと硬い音を響かせて、スライドを引く。

「もう起きてるんでしょ、ミハイル=アレンスキー……いいえ」

 ここは彼の半分の祖国、日本だ。
 私は彼の名を日本名で正しく言い直し、銃口を向ける。

「───三森郁郎。あなたがこの国でしたことを、全部しゃべりなさい」

 つぐみちゃんは、僕の席の隣でうつらうつらしている。
 ショートカットにいつものバッテンピンで前髪を留めて、目を閉じているから長い睫毛がすごく目立っている。
 寝ている顔も可愛い。もちろん起きてるときも可愛いし、給食を食べてるときも可愛い。席が隣だから、僕は彼女のいろんな可愛いを知っている。
 入学して、隣の席になって、ちょっとおしゃべりしただけで僕は彼女に夢中になった。彼女は世界一可愛い女の子だ。彼女に出会って、僕は初めて「女の子を好きになる」という体験をした。
 初恋だった。

「───ふぁ!?」

 ぼんやり彼女の寝顔に見とれていると、いきなりつぐみちゃんはガクンと頭を落として、驚いたような声を出した。
 そして、今が授業中で、自分が居眠りしてたことに気づいて、顔を赤くして周りを見渡した。
 僕と目があって、つぐみちゃんは恥ずかしそうに舌を出す。

「寝ちゃった」
「うん、知ってた」
「いじわる。知ってたなら起こしてよー」
「ゴメンゴメン」

 唇を尖らせて怒ったフリしてる。いつもどおりの彼女。いつもどおりの会話。
 何も変わってないことに安心したけど、がっかりもした。
 昨日のことは、本当に彼女にとって何でもないことだったのかな。
 僕の一世一代の告白だったのに。

『えー、友だちでいいじゃん。付き合うとかはやめようよ』

 つぐみちゃんの答えは、さっぱりとしたものだった。ただの友だちとして、今日も変わらず普通に接してくれている。
 僕の『大好き』という気持ちも昨日と変わらず、彼女の隣人として、普通であろうと今も必死で取り繕っているのに。
 どうして彼女は平気なんだろ。女の子ってわからない。僕より大人なのか子どもなのかわからない。
 たぶん、僕は子どもなんだろうけど。

「ブォーン」

 放課後、自転車を駆って風になる。
 スーパーターボエンジン搭載のモンスターバイクが僕の相棒。誰にも真似できない危険な走りで街を疾走する。

「飛ばします、悠太選手! 誰も追いつけない!」

 ただの“レーサーごっこ”だ。部活もやってないし、親がうるさくてゲームも買ってくれないし、たいてい放課後はこうして1人で遊んでる。
 同級生にはガキっぽくて内緒にしてるけど、1人のなりきり遊びは僕の趣味みたいなもんだ。ある時は“勇者”、ある時には“名探偵”になりきって、僕は1人の時間を潰している。
 中学生にもなって痛いってのはわかってるけど、好きなんだからしょうがない。こんなモヤモヤした気分を吹き飛ばすには、スピードが必要なんだ。
 僕は自由な風になってカーブを曲がる。そして……人をはねそうになる。

「うわっ!?」

 道路にぺたんと座り込んでる人がいて、僕は慌ててブレーキを踏んでハンドルを切った。
 タイヤが甲高い音で僕の拙いレーシングテクニックに苦情を叫び、制御不能となった車体とともに僕は路上を横滑りする。ゴロゴロと転がった僕はモデルハウスのビニール人形広告に体をぶつけて、抱きついたまま2、3回転して静止した。自転車はどっかへ吹っ飛んでいってしまった。
 悲惨としかいいようのない事故現場で、当の原因たる路上のお兄さんは、のんきな声で言う。

「……その人形は俺も狙ってたんだけどな」
「僕の命の恩人だから、ダメですよ」

 大きなビニール人形を脇に抱えたまま、僕は自転車を拾ってお兄さんのところへ行く。

「大丈夫ですか?」
「うん、平気だ。君が命がけのドライブテクニックで俺を避けてくれたからね」

 よく見ると、なんだか薄汚れた格好をした人だった。ホームレスってほどじゃないけど、きちんとした大人にも見えない。
 ただ、すっごくイケメンだった。外人さんかな。それともハーフかな。モデルみたいに格好良い。

「こんなところで、何してるんですか?」
「おなかが空いて動けないんだ」

 ……いたんだ。日本にもイケメンホームレスが。
 かわいそうだから、僕は近くのコンビニでカレーまんを買ってあげた。

「うん、祖国の味に似てる。感動だ」
「中国の人なんですか?」
「ううん、ロシア。ピロシキって知ってる?」
「あ、それも売ってましたよ」
「うっそ。すごいな日本のコンビニは。ボルシチは?」
「それは見たことないなぁ」
「残念。でも、ありがとう。おかげで助かったよ」

 にこりと、爽やかにお兄さんは笑う。

「貸しができたから、お返ししたいんだけど」
「いいっすよ。僕が危うくひきそうになったんだし」
「そうもいかないよ。たいしたお返しではないけど、でも、損はしないから受け取って欲しいんだ。それにこれは俺からの贈り物ってわけでもない。君の持っている“才能”を引き出すだけだから」
「“才能”…って…?」

 お兄さんの眼を見ていると、なんだか体がホワンとしてくる。空気がなんだか暖かくなったみたいで、息を吸うと胸もトクトク温かくなってくる。

「そう、君だけの“才能”だ」

 お兄さんは僕に顔を近づけてくる。なんだろう。近くで見てもカッコイイ顔だ。そう思ってたら、本当に僕の間近にまで顔が近づいてきて。

「大丈夫だよ。単なる儀式だ。痛くない」

 単なる儀式で、僕のファーストキスは知らない男の人に奪われてしまった───。

 そしてその夜、僕は家族のみんなと食卓を囲みながら、“才能”という意味について考える。
 お兄さんとのそれからについては、頭がぼんやりとして細かく思い出せない。
 説明を受けて、誰にも言わないと約束をして、条件をつけられ、最後にコンビニでピロシキパンをおごらされ、別れた。
 不思議としかいいようのない1日だが、まだ終わりじゃない。
 あの人に発掘してもらった僕の3日間限定の“才能”───《禁じられない遊び(playing alone)》について考える。
 僕の“ごっこ遊び”に誘われた人は、誰であろうとその遊びに付き合う。
 同じ空間にいる周りの人も、僕がしていることは“ただの子どもの遊び”としか認識しない。
 そして、遊びが終われば忘れてしまう。
 僕が何をしたとしても───。
 突拍子もない話だが、僕はその話を信じているし、正しく理解もしていた。お兄さんの言葉は、僕の奥深くに染みついている。まるで魔法の呪文のように。
 今、お母さんがテレビを見ながら音を立てて味噌汁を飲み、お父さんはこそこそと冷蔵庫から発泡酒を取り出し、高校生の繭美姉ちゃんは、椅子に膝を立てて彼氏とメールしているところ。
 いつもと同じ光景だ。でもいつもと同じだからこそ、僕の異常な“才能”を実験するには、うってつけのシチュエーションだ。
 僕は隣の姉ちゃんを“ごっこ遊び”に誘う。

「姉ちゃん、“新婚さんごっこ”しようよ」

 ケータイをいじっていた手が止まり、姉ちゃんは僕を振り返る。

「うん……いいよ」

 そして、にっこり微笑んで、ケータイをスウェットのポケットにしまい込んだ。

「えっと、じゃあ、あたしが食べさせてあげるね」
「いいの?」
「あったりまえじゃん。あたし、ダーリンの奥さんなんだから。はい、あーん」

 一口コロッケを箸でつまんで、僕に向かって「あーん」と姉ちゃんが口を開ける。語尾にハートマークでも付きそうなくらい、甘い声だ。なんだかくすぐったくなる。
 僕がコロッケをかじると、姉ちゃんまで幸せそうな顔をして「おいしい?」って首を傾げる。
 あれ、姉ちゃん可愛い?
 なんだかそのいつもと違う「女の子」の振る舞いに、僕はドキドキしてしまった。
 いつもは無愛想な姉ちゃんなのに、好きな人の前じゃこんなに可愛いんだ。
 姉ちゃんって、可愛いんだ。

「お、おいしいよ」
「きゃーん、嬉しい! ね、ね、繭美のも食べていいから、もっといっぱい『あーん』して?」
「う、うん、いただきます」
「あー、ダーリン、口にソース付けてる。可愛い~」
「え、ここ?」
「違うよ、ここだよ。ちゅっ」
「わっ」

 唇を奪われた。僕の2度目のキスの相手は姉ちゃんだった。男の人と実姉しか知らないとか、僕の体験談は出版社を選びそうだ。
 姉ちゃんは、そのまま僕の顔をじっと見つめると、スッと目を細めて妖しい微笑みを浮かべる。

「あん、まだ取れてない…ダーリン、動いちゃダメ。あむっ」
「んっ」

 今度は、唇を挟まれた。そのままチューって吸われて、レロレロと舌で舐められた。
 体にゾクゾクって痺れが走って、オチンチンがギュンとなった。

「んっ、ちゅっ、んっ、ダーリン…んっ、おいし、んっ、もっと欲しい、ダーリンのキス…んっ、ちゅぷ、んっ」

 頭がぼーっとなってきた。これが本物のキスなんだね。姉ちゃん、すごい。彼氏とこんなことしてんの? させてるの? ずるい。なんか頭来る。僕、もう、先っちょから何か出ちゃいそうなんだけど。

「こら、繭美。片付けらんないから、チュッチュチュッチュばっかりしてないで、さっさと食べちゃいなさい」
「も~、お母さん、うっさいなあ」

 お母さんは箸で僕たちを指して注意する。姉ちゃんは唇を尖らせて文句を言う。
 ごはんを食べるかどうか以前に、姉弟で、親の居る前でキスしてるっていうのに、そのことはお母さんは咎める様子もない。
 お父さんにいたっては、いつものように完全に空気だ。
 
「はい、ダーリン。コロッケたふぇて?」

 姉ちゃんは、コロッケを口に咥えて、ツンと僕に向かって突きだした。
 僕は姉ちゃんと一緒にコロッケを咀嚼して、お互いの口の中で交換して、最後の一口までそうやってゴハンを食べ終えた。

「繭美、お風呂は? もう沸いてるわよ」

 お風呂はいつも姉ちゃんが最初だ。お父さんの後は嫌がるし、風呂上がりのドライヤーやらお手入れやらに時間がかかるからって、勝手に「わたしが一番風呂」というルールを我が家で作り上げていた。

「はーい。ダーリンも一緒に入ろ?」

 でも、今日の姉ちゃんは僕の新妻さんだった。僕にはとても優しく、丁寧に面倒を見てくれる。僕の服を脱がして、僕の見ている前で恥ずかしそうに裸になってくれる。

「やん、もう…そんなにジロジロ見ちゃダメ」

 いや、見るだろ。ジロジロ見るだろ。
 姉ちゃんの体は、もう僕の知っている姉ちゃんではなかった。おっぱいは膨らみ、アソコには毛を生やし、大人の体になっていた。
 ちなみに僕のは、まだ子どもだ。こないだようやく手で剥けるようになったくらい。

「風邪引いちゃうから、早く入ろ? お手て繋いでこうね」

 そういって姉ちゃんはお風呂のドアを開けて、僕のオチンチンを掴んで引く。
 ぞくりとした。

「ちょ、ちょっと!」
「あん、間違えちゃった」

 肩をすくめて姉ちゃんは笑う。もちろんそんなエッチな新婚ジョークに笑う余裕なんて僕にはない。心臓がドッキドキだった。

「ここに座って。繭美がきれいきれいにしてあげる」

 僕をお風呂のふちに座らせて、泡だらけにした手で僕のオチンチンを包み込む。

「うわ…!」

 腰が思わず跳びはねちゃうくらいの、優しくて甘い刺激だ。ゆっくりと擦られて、お尻の穴までムズムズする。こんなの初めてだ。他人に触られただけで、こんなに気持ち良くなっちゃうんだ。

「ダーリン、感じてる? 繭美の手、気持ちいい?」
「うん、すごく…すごくいいッ!」
「ふふっ、かわいい。もう、暴れちゃダメだってば。ごしごし」

 鼻の頭に泡をつけた姉ちゃんが、僕のを握って擦ってくれる。自分の手よりもはるかに気持ちの良い泡マッサージに、僕はあっという間に頭の中が真っ白になる。

「きゃっ!?」

 いきなり暴発してしまった僕のを顔で受け止め、姉ちゃんは驚いた顔をする。べっとりと精液まみれになった姉ちゃんに、僕が慌てて謝ろうとすると、その前に、姉ちゃんがイタズラっぽく笑った。

「も~、大事な赤ちゃんの素、女房の顔にかけてどうするの? 悪い子っ」
「イテッ!?」

 先っちょを、ツンと弾かれた。思わぬ刺激にビリビリってなった。

「あ、ごめんね」
「はぅ…」

 次は優しく指先でナデナデされた。その柔らかい刺激に、出したばかりで敏感な僕のは、むくむくと節操のない反応を返していく。姉ちゃんは、まだ精液つけっぱなしの顔を赤くする。

「も、も~、ダーリンってば元気すぎ! ……外で、他の女の子泣かせてない? なんだか心配になっちゃうな」

 姉ちゃんは泡を流し落とすと、僕のをぺろりと舐め上げた。指よりも柔らかくて温かい刺激に、ぞくぞくって全身が震える。姉ちゃんは、上目遣いに僕を見たままペロペロと舌を動かす。僕はビクンビクンと腰を跳ね上げ、味わったことのない快感に翻弄される。

「あっ、あっ、姉ちゃん、やめて、やばいよ、それ…」
「やぁん、ダーリン、かわいい…だぁめ、そんな声出されたら、止めらんなくなっちゃう…んっ、れろ、ちゅぷっ」
「うぁぁ…」

 先っちょを咥えられて、口の中でくちゅくちゅされてる。じゅぶ、じゅぶって奥に飲み込まれては唇でしごかれてる。
 そんなエッチなことしてるのに、僕のこと見上げて嬉しそうに笑う姉ちゃんは、なんだかすごく可愛いんだ。
 ひどいよ、姉ちゃん。そんなことされたら、もう僕、姉ちゃんのこと好きになっちゃう。大好きになっちゃう。
 気持ちいい。気持ちよすぎるっ。
 ちゅぽん。
 そんな音を立てて姉ちゃんが口を離した。僕と同じくらい息を荒くして、切なそうに瞳を濡らして、アソコに手をあてて。

「ねえ…ダーリン、ちょうだい。繭美、もう我慢できない…」

 僕たちは姉弟だ。これはただの“新婚さんごっこ”だ。
 でも、僕たちを邪魔できるものは何もない。これはただの“遊び”だから何をしても許されるし、怒られることもない。
 秘密の遊びなんだから、何をしたっていいんだ。

「こっちきて、ダーリン」
「う、うん」

 マットの上に仰向けにされる。姉ちゃんが僕の上に跨って、オチンチンをキュッと握りしめる。
 下から見上げるおっぱいと、上気した顔がエロい。
 腰を浮かせて、位置を合わせて、姉ちゃんがクイクイって腰を揺する。僕の先っちょが熱いものに触ってる。思わず僕のもブルンて震える。

「嬉しい…大好きよ、ダーリン」

 ググッと、きついモノに押し潰されてオチンチンが曲がりそうになる。でも、いきなり先っちょが姉ちゃんの中に突き抜けると、その反動で僕のが一気に半分くらい姉ちゃんのあったかい所に潜った。
 姉ちゃんは「あっ!」って大きな声を出して、口を開けたままプルプル震える。そして、そのままゆっくりと腰を落としてきた。
 僕も、大きく口を開けて仰け反った。姉ちゃんの体の中に飲み込まれていく。僕が食べられちゃう。あったかい所に、全身が包む込まれる。

「あっ…あっ…」
「あぁッ、あっ!」

 僕らは一緒に声を出して繋がっていく。姉と弟でお風呂場で結ばれる。やがて僕のが全部姉ちゃんの中に入った。
 姉ちゃんは、口を大きく開けて痙攣した。僕はそれに引っ張られて、すごく感じちゃって、出さずに我慢するために奥歯を噛みしめた。
 呼吸の止まっていた姉ちゃんが、荒い息を吐いて僕に覆い被さってくる。僕はその姉ちゃんの柔らかい体をギュウって抱きしめて、まだ気持ちよさに歯を食いしばっている。

「ダーリン…」
「姉ちゃん…」

 僕たちは両手を合わせて指を絡める。姉ちゃんが僕の上で腰を揺すり始めた。生まれてから一度も味わったことのない感覚に、僕は悲鳴を上げそうになった。

「あっ、あんっ、あんっ、あんっ!」

 ぶつかる腰が音を立てる。泡に濡れた体が音を立てる。狭いお風呂場にエッチな音と姉ちゃんの声が反響する。
 腰から下が溶けて混ざっちゃいそうだ。姉ちゃんと一つになりたい。僕も腰を動かしたら、もっと気持ち良くなった。姉ちゃんみたいに声を出したら、もっと気持ち良くなった。
 泡に濡れたおっぱいを僕の体に擦りつけて、姉ちゃんはますます声を大きくする。僕はいきおいをつけて、バチン、バチンと姉ちゃんの腰に思いっきり僕のをぶつける。

「あぁーッ! あぁーッ!」

 姉ちゃんは面白いくらい反応してくれる。僕は夢中になって腰を振る。姉ちゃんは僕の唇を奪って、たっぷりと唾液を流し込んでくる。それをゴクゴクと飲みながら、僕は腰の動きを早くしていく。

「イクッ、イクっ! ダーリン、ダメ! 繭美、もう、イっちゃう!」

 姉ちゃんの奥に奥に行きたくて、僕はねじ込むように腰を持ち上げる。姉ちゃんはものすごい声を出して、体をつっぱらせ、アソコをギューって締めつけてきた。
 
「あああぁぁあぁああッ!」

 姉ちゃんの声が耳に痛いくらい響いて、僕も頭が真っ白になり、姉ちゃんの締めつける中にたくさん出してしまった。
 さっきの、顔にかけたときよりずっと気持ち良かった。なんだか、すごい世界が開けた気がする。
 これが───セックスなのか。

「ダーリン…好き。気持ちよかったよぉ」

 姉ちゃんが、涙に濡れた顔で僕にキスしてくる。その柔らかい唇を受け止めて、舌を絡めて答える。
 甘い余韻に浸る僕らを、脱衣所からお母さんが邪魔をする。

「繭美ー、湯冷めするわよ。いつまでもアンアン言ってないで、さっさと温まっちゃいなさーい」
「も~! マジうっさいから、お母さん。邪魔!」
「あんた、親に向かって邪魔とは何よ!」
「親だからって、夫婦の間のことまで口出さないでよ!」
「あんたたちがいつまでもイチャイチャイチャイチャ遊んでるからでしょ! お母さんたちが入れないじゃない!」
「ふーんだ! あたしたちがラブラブだからって、ひがまないでよねー!」

 僕の上で僕と繋がったまま、お風呂場のドア越しにいつもの親子ゲンカが始まる。シュールな光景に、思わず僕も笑ってしまう。

「こらー、ダーリンまで何笑ってんの?」
「ゴメンゴメン」

 姉ちゃんは僕のほっぺにチュってして、唇を尖らせる。

「ダーメ、繭美のお願い聞いてくれなきゃ許してあげない」
「お願いって、どんなこと?」
「んん……もう、わかってるくせに」

 姉ちゃんは、僕にじっくりとしたキスをして、頬を染める。

「今夜は繭美を、寝かせないでね?」

 次の日は、都合の良いことに開校記念日で僕と姉ちゃんの通う付属校は休みだった。
 丸1日、姉ちゃんと“新婚さんごっこ”や“メイドさんごっこ”で過ごした僕は、夕方になる頃には、一人前の男に成長していた。

 私はサイレンサーの先端に「ハァー」っと息を吹きかけ、ピカピカの銃口を拘束の紳士に向けた。

「OK、世迷い言はそこまでにして、郁郎くん。腹ぺこの君にパンを恵んでくれた心優しき少年に、あなたの甘い口づけで女の子にイタズラできちゃう魔法を授けてあげたですって?」
「あぁ。メルヘンチックに要約すると、確かにそんな感じだな」

 マスク越しにくぐもった声を出して、郁郎は大きくため息をついた。
 ため息をつきたいのは私の方。

「俺がどういう人間なのか、君も聞いているはずだ」
「ええ、そうね。あなたがどういう人間なのか誰もわからないと聞いているわ」
「それは困った」
「同感よ」
「世の中には、たまに不思議な才能をもった人間が存在する。俺はそれを見抜くこともできるし、目覚めさせることもできる」
「それは知ってるわ。でも、その───《禁じられない遊び(playing alone)》だっけ? おかしな名前ね。それに何の意味があるっていうの?」
「才能の意味なんて、本人が決めることだ」
「あなたは自分の才能の意味を決めてる?」
「さあ、考えたこともないな。自分で言っておいて申し訳ないけど」
「意味は国家があなたの代わりに決めてあげてるわ。“危険だが、とてもユニークで、利用価値がある才能”だってね。あなたの人生は国家のためにある。勝手に逃げ出して、好きなように振る舞われては困るのよ。そのことは……よく知ってるわよね?」
「……あぁ」

 彼の極端に低い“記憶能力”がどこまで過去を留めているか不明だけど、その緊張と怯えを見る限り、体はよく覚えてるって感じ。
 モルモットの手足をひねるような遊びだ。
 
「あなた、もう長くないんですってね? 知ってる?」
「……知っている」
「長い薬品投与と実験と解剖のおかげで、あなたの脳も内臓もボロボロ。もってあと2、3年? 今の私の年になるまでには保たないかもしれないわね」
「いちいち説明しなくても、それくらい知っていると言ったはずだ」
「そのあなたが、何をとち狂って脱走なんて企てたの? 自由が欲しかった? それとも誰かに会いたい人でも日本にいるの?」
「ただのきまぐれだよ」
「あなたは、きまぐれでうちの職員8名に殺し合いをさせて、情報庁を停電させて、姿を眩ましたっていうわけ?」
「あれは“俺”じゃない。別の“人格(ヤツ)”だ」
「別の“人格”…? あなたは“ブザー”で入れ替わるんじゃないの?」
「俺の中には狡猾で、殺人が好きなやつがいる。そいつがもっとも確実に脱出できるタイミングで、頭を狂わせる時限爆弾をあいつらの脳に仕掛けていた」
「それって、“No.7”ってやつ?」
「あぁ、そうだ。俺たちは“7”のやろうとしていることを知っていたが、脱出するにはその方法しかなかったから黙認していた。そして、そのとき表にいたのがたまたま俺だった。それだけだ」

 私は銃でイスの背を叩いて、硬い音を響かせる。

「それじゃ、あなたは“誰”? 私の会いたい人で合ってるかしら?」
「たぶんそうだ。俺は“No.14”。お前たちの追っていた“人格”だろ?」

 そのとおりだ。
 資料には、最後に確認された彼の“人格”は“No.14”だとなっている。つまり脱走したのは彼。
 ターゲットの人格の中で、もっとも最近現れた男。つまり、彼の中にいる“人格”は14人。
 ファイルによると“No.14”は“No.5”の弟ということになっている。比較的穏やかな性格で、子どもっぽいところがある。兄の“No.5”のことを尊敬している。
 “No.7”は彼が13才のときの戦場実験で生まれた残虐な性格。狡猾で残虐。彼の中で最も多く人を殺している。
 ちなみに、彼らの中でも“No.1”から“No.4”までは何年も姿を現していない。
 他の人格も彼らを感知できないため、死んだという推測もされていたが、2年前に一度、“No.3”を名乗る人格が現れ、一晩でピアノ組曲を完成させ、当時の担当職員の飼っていた犬に捧げるとだけ言って、気を失っている。
 翌日そのシベリアンハスキーは、無事に4匹の子犬を出産したそうだ。

 確かにこのターゲットは、なかなかユニークな素材だと思う。学術的には興味を持てる。
 だが、尋問の対象にするのは面倒くさい相手だった。頭のおかしいやつは、ウソをつかれても見抜きづらい。まして彼は記憶力にも障害があるという。
 そもそも、彼は幼少の頃から国家への忠誠と大人への服従を洗脳と体罰で叩き込まれ、脱走などを企てたことも一度もなかったらしい。
 駕籠の中の鳥に甘んじていた男が、ここに来て何を今さら欲しているのか、上層部の興味もそこにある。
 だがどんな尋問も、やり方は変わらない。結局は暴力だ。あまり時間をかけてもいられないし、さっさと目的を吐かせてやろう。
 まさか子どもにスケベな遊びを教えに来ただけのはずがないし、それが結びつくものも本国が恐れるようなものではないと思う。
 上層部はこの男を恐れすぎている。理解できないものを恐れるのは弱虫の考え方だ。
 理解できないものは、ねじ伏せてから、バラせばいい。

「“No.14”……14人目の男。にぎやかな家族でうらやましいわね」
「よく言われる」
「それで、そんなあなたが日本に来た目的は?」
「一度で良いから、“一人旅”がしてみたかった」

 私はバーカウンターのアイスボックス氷を掴み出すと、大きく振りかぶって彼の額めがけて投げた。
 ベースボールは大嫌いだけど、肩に自信がないわけじゃない。額から血を流して、ターゲットは呻き声を上げる。

「私って怖いお姉さんだから、その舐めた口の訊き方はそろそろやめたほうが身のためよ。私はこれ以上あなたには近寄らない。あなたの“眼”も見ないし、“呼吸”にも触れない。あなたのその馬鹿馬鹿しい“才能”は、それだけでもう役立たずなんですってね?」

 眉間に皺を寄せ、顔を赤くして、ターゲットは苦痛に身もだえる。とても可愛らしい、素直な反応だ。

「安心して。私はあなたを殺すなって言われている。だから、殺さないであげる。どんなにあなたが『殺してくれ』と乞うても、死なせてあげないわ。次に私が投げるのはアイスピックかもしれないし、太くて硬いナイフかもしれない。それでも私は、あなたを殺さないであげる。あなたが私に素直になってくれるまで」

 ターゲットの怒りと恐怖が伝わってくる。これからが本番だ。お前のその余計な感情がなくなるまで、ガリガリ削り取ってやる。
 素直で可愛くて私に逆らわない男の子が、私の好みだ。

「ひょっとしてあなたは、家族に会いたかったのかしら? 日本には祖父がいるんですってね?」

 ターゲットは首をぶんぶんと横に振る。

「日本のどこに住んでるのかも知らない。それに、どうせお前たちは向こうにも監視を付けている。会えるはずがない」
「当たり。そっちは別のチームが監視してた。さすがにそこまでのバカでもないのね」

 ターゲットの祖父は、現政府とも繋がりのある貿易商だ。簡単には手を出しづらいが、今回の件は内密に片付ける必要があるため、秘かに手を回していた。
 バレる前にターゲットを確保できたのは幸運だった。

「……俺の目当ては、“才能”だ」
「“才能”?」
「どうしても欲しい“才能”がある」
「モンスターのあなたにも、足りない才能なんてあるのかしら?」
「ないものだらけだ、俺は」
「そうね。手足の自由すらない」
「時間もない。あと───418日だ」
「何のカウントダウン?」
「俺の命は、残り418日だ。お前たちの予測より少し短い」
「その数字に、どういう根拠があるのよ?」
「根拠も理由もない。ただ“わかる”んだ。あと1年と2ヶ月足らずで俺は死ぬ。その前に体も壊れる。だから今、動けるうちに動かないといけなかった」
「そう、それはお気の毒」

 一部のオカルト学者は、彼は『未来も支配する』と言ったそうだ。
 半分当たりで、半分ハズレといったところだろう。支配されてるのは、彼の妄想だ。

「あなたが魔法をかけた少年が、あなたの欲しい“才能”だっていうこと?」
「その一部だ」
「私にわかるように言いなさい」
「未来は、人の“才能”が作る。小さな才能が別の才能と結び付き、大きく遠回りをして、一つの未来に辿り着く。さながらルーブ・ゴールドバーグ・マシンだ。人の“才能”が見える俺には、ある程度の未来も予測することができる。あの子は、俺の見た未来に必要な1人だ」
「聞こえてる? 私、わかるように言いなさいと命令してるのよ」

 アイスボックスを開いて、ガラガラと氷をかき混ぜる。
 あとでロックが欲しくなったときのために、少しは残しておきたいのだけど。

「……言っても、お前なんかに理解できないさ」
「んー、何かしら? 聞こえないわね」

 ステップを大きくとって、右膝めがけて直球を叩き込む。ビンゴ。マスク越しなのが残念なくらい、気持ちのいい悲鳴だわ。
 
「今のはいいわよ。あなたのそういう素直な声が聞きたかったの」

 左膝にビンゴ。右肩の鎖骨にビンゴ。

「次は左肩、そして最後にあなたのど真ん中をぶち抜いて、景品のテディベアはいただきね」
「うっ…ぐっ…」

 泣いてるわ、この子ったら。こうして素直に怯えてくれるところは可愛い。
 我が国の研究者が口を揃えて“モンスター”と呼ぶ男が、こんなにもか弱くていいのかしら?
 もちろん、私は油断しない。
 彼のバカバカしい話も100%信じたわけではなしが、部下にもメールで指示を出した。
 子どもを近づけるな。特に遊んでいる子どもを。ターゲットの仲間かもしれない。おかしいと思ったら“黙らせろ”。
 そして、十分な距離をとって、振りかぶる。よく冷えた氷をターゲットの左の鎖骨にぶち当てた。彼の素敵な悲鳴を楽しんでから、私は椅子に座り直す。

「さて、夜は長いし、私も楽しむことにするわ。いいわよ。その男の子に魔法をかけて、あなたはどうしたの? それからのことを教えて」
「…ッ、わかった…ッ」

 彼は、しゃくり上げてから、何度も頷く。
 素直な男の子になったターゲットに満足しながら、私は伸びをする。
 そして、ターゲットが息を整え、口を開くのを待った。

「……次に、俺は居酒屋でメシをおごってくれた50代の男性にキスをした。甲斐性なしで女房に捨てられ、それでも自分は悪くないとうそぶき、礼儀知らずの若者に説教を下す常識人ぶっているが、じつは自分の娘に良からぬ欲望を抱いているという、稀有な“才能”を持った男だった」
「ごめん、その続きはもう少し飲んでから聞くわ。ちょっと待っててくれる」

 私は頭痛のしそうなコメカミを揉みほぐし、シャンパンをグラスに注いだ。

 天気が良いのは結構だが、頭がガンガンする。
 完全に二日酔いだ。飲んだこともねぇウォッカなんぞ飲んだせいだ。
 てーか、あいつのせいだ。
 マンション前の朝の掃除をしながら、俺は昨日出会った“非常識”な青年のことを思い出す。
 行きつけの安居酒屋で俺の隣りに座った、えらく顔だけは良い若者だった───。

「じゃあ……とりあえずボルシチ」
「バカヤロウ」

 思わずツッコんでしまった。
 薄汚い店内に客は俺とコイツだけ。小汚い格好だが、外人みてぇな、ずいぶんと男前が入ってきたと思って見とれてたら、バカなこといいやがるせいで拍子抜けしてしまった。

「お客さん、飲み物の注文をお願いしますよ」
「いや、ボルシチは飲み物ですよ」
「そういうこと言ってんじゃねえし、ボルシチも飲み物じゃねえだろ。とりあえず、ときたらビールが常識だろうが。ボルシチで乾杯できっかよ。優勝おめでとうっつってボルシチかけられっかよ。ていうか店にねぇよそんなの。常識で考えろ」

 マスターの茂が困り顔で注意してんのに、おかしな理屈で若造はつっかかる。
 ツッコミついでに、俺まで余計な口を挟んじまった。

「仁さん、お客さんに絡まないでよ」

 人の好い茂は、こんな小僧相手にも遠慮してナァナァで済ませようとする。
 俺はこういうふざけてるヤツ、嫌いだけどな。

「なるほど……勉強になりました」

 若造は、しきりにウンウンと頷き、納得したというように手を叩いて、注文をやり直した。

「じゃあ、ウォッカをロックで」
「どんだけロシアをアピールするつもりなんだよ、バカヤロウ。ここは北方領土か、バカヤロウ。ビール飲め、ビール! とりあえずビールが日本の常識なんだよ、毛唐が! 島返せ!」
「仁さん、ちょっと勘弁してよ。わかった、ウォッカだな、兄ちゃん。ちょっくら買いに行ってくるから、仁さん、ちょっと頼むな」
「余計なことすんな、茂! 大人が若造を調子に合わせるからダメなんだよ。世間の常識に自分を合わせるってことを覚えさせなきゃ───」
「すみません、よろしくお願いします」
「あぁ、ちょっと待ってなよ。俺、ウォッカとかわかんねぇけど、何でもいいのかい?」
「いいです。俺もよくわからないです」
「ハハッ、なんだそりゃ? まあ、いいや。このおじさんと一緒に留守番しててくれよ」
「おい、茂───」

 やけに素直に、茂のヤツは俺に留守を任せて出ていった。
 今にして思えば、そこから“おかしい”と思わなきゃダメだったんだ。

「いやぁ、人の好いご主人ですね。内装も味があるし、良い店を発見しちゃったな」
「ただのオンボロだろ、こんなの。内装ってお前、壁紙が剥がれて、裏から人の顔みてぇなシミが覗いてるだけだろうが。にぶい霊感してんじゃねぇよ、バカ」
「ところでおじさんにお願いがあるんです。金がないんでおごってください」
「ドッキリか、これ? どうも何かが変だよって思ってたけど、やっぱりドッキリだったのかよ。バカヤロウ。こんなどこにでもいるおじさんに、奇跡のリアクションを期待されても迷惑なんだよ、ったく。キャメラどこだい?」
「いえ、マジなんです。ボルシチが欲しいだのウォッカがいいだの、ここの主人を良い人と言ったのも内装を褒めたのもウソなんですけど、金がないのだけはホントなんです。本当にすみませんでした」
「この一番迷惑な場面で、初めてお前の誠実さを見せたなバカヤロウ。てか茂は良いヤツだろうが、そこは認めてやれよ。だったらもう帰れお前。さっさと帰れ」
「腹ぺこなんです。昨日、カレーパンみたいなのとピロシキみたいなの食べたのが最後なんです。お願いします」
「中途半端な食い合わせだなオイ。てかお前の大好きなピロシキが食えて良かったじゃねぇかよ。ったく、初対面の人間におごれと言われておごるわけねぇだろ。常識で考えろ、バカヤロウ」
「もちろんおごってくれたら、お礼はします。あなたには素晴らしい“才能”が眠っている。それを開花させてあげたい」
「“才能”だぁ?」

 そう、あいつは確かにそう言った。
 俺には“才能”があるって。むずむずするような言葉だ。

「バカヤロウ。この年で歌手になんぞなりたくねぇよ」
「いえ、そっちの才能はたぶんないです。俺が言ってるのは、もっと別の“才能”です。あなたしかない、特殊な力だ」
「俺しかないって? なんだよ、それ?」
「あなたは“常識”という言葉が好きだ。あなたにとっての“常識”を大事にしてる。そして、それを“他人にも通用させる才能”があなたにはあるんです」
「つまり……歌手にはなれねぇのかい?」
「なれません。勘弁してください。でも、それよりもっとあなたの欲望に近いものを実現できる」
「欲望だぁ? オイてめぇ、さっきから妙に文学じみたこと言ってっけど、悪ぃが俺は東大でも理数系だったから───」
「あなたは、あなたの娘さんを抱くこともできますよ」

 若造の顔がすぐ近くにあって、俺はコイツの整いすぎてるツラから眼を離せなくなった。
 せっかく1人で楽しんでた酒も、すっかり酔いが冷めちまった。

「……小僧、おかしなこと言いやがったらぶっ殺すぞ」
「暴力はやめてください。俺はかわいそうなくらいケンカが弱い」
「だったら、くだらねぇこと抜かしてんじゃねぇ! てめぇなんぞ───」
「坂田仁平さん。53才。仕事はマンションの管理人。16年前に奥さんと離婚。娘のみなみさんは奥さんの方に引き取られ、成人するまではたまにしか会えなかった。そしてついこないだ、みなみさんに結婚したい相手がいると聞かされてショックを受けた。あなたは、娘のみなみさんを愛している。離れて暮らしていた間もずっと愛してきた。そして、その愛はいつからか成長していく娘の体への興味に変わっている。自分でも“非常識”な欲望だと知っていながら、そんな自分を抑えることに辛さも感じている」

 俺の眼をじっと見ながら、ニュースの犯人を読み上げるアナウンサーみたいに、淡々と若造は俺の一番知られたくないところを突っついてきた。
 腹が立つ以前に、俺はビビってしまっていた。

「……おめぇ、なんだ? なにもんだ? 俺なんかを調べあげて、何に利用しようってんだよ?」
「調べたわけじゃないです。俺には“視えた”んだ。今日、ここであなたという人に会って、さんざん怒られて、そしてその“才能”を発掘する。それも俺は“視えていた”から来たんだ」
「だから俺に何をさせようってんだよ!」
「簡単なことだけですよ。目を閉じてください」
「…目?」
「そう、閉じてください」

 こいつの吐く息は、妙に甘い。こいつの目は、人を惹き込む。
 俺は、コイツの言葉に逆らえなくなって、ギュウって強く目をつぶった。
 そうしたら、柔っけぇものが俺の唇に重なってきた。

「…はい、オッケーです」

 若造は俺から顔を離して、にっこりと微笑んでた。
 俺は自分の顔が熱くなってくのがわかって、とにかく「ふざけんな!」って怒鳴って、若造の頭にビールをぶっかけてやった。

 ……おかしな話だが、俺は、そのあと若造の話を聞いて、それが“本物”なんだっていうことを納得した。
 俺には妙な“才能”───確か、《世間知らずの常識(selfish rule)》とか言ってたか? そんなのがある。
 俺が“常識”だと言ったことは、どんな無茶でも相手はそれが“常識”だと思いこむ。俺の“常識”が相手を洗脳するのは24時間。そして、俺自身の“才能”の寿命は3日間。
 全部、あいつは説明してくれた。そして、茂の買ってきたウォッカは「酒が飲めない」などふざけたことを抜かすから、俺が飲んでやった。
 俺の金でな。あいつ、本当に金がないことにかけては本物だった。
 なんだったんだ、あの“非常識”な若造は。

 葉っぱやらゴミやら落ちてるマンションの前を、夕べのこと思い出しながら、ホウキでざっくざっく掃いて回る。そうしてたら、マンションから女子高生が携帯電話をいじりながら出てきた。
 307号室の、斉藤さんとこの真帆ちゃんだ。
 キンキラキンの髪して、クレヨンみたいな爪つけてる。中学の頃は真面目で塾にも通ってた子なのに、いつのまにこんなことになっちまったんだ?
 せっかくの可愛い子ちゃんも台無しだ。真面目に学校出て真面目に就職した、うちのみなみを見習えってんだ。

「おはよーさん」

 俺の横を黙って通り過ぎようとするから、俺の方から声をかけてやった。なのに、真帆ちゃんはそのまま行こうとするからカチンときた。

「こら、ちゃんと挨拶しないとダメだろ」

 真帆ちゃんは、面倒くさそうに振り返り、「しゃーす」とか、聞いたことのない言葉を気のない声で言って、さっさと行こうとする。

「なんだそれは、何語なんだ! 目上の人から声かけてんだから、挨拶くらいきちんとしろ! “常識”だろうが!」

 思わず大声出しちまった。よそさんの子を怒鳴りつけたりしたら、また管理会社の方へ苦情いっちまうかもしれん。
 マズったかなと思ったら、真帆ちゃんの態度も変わった。
 真帆ちゃんは、ハッとした顔で振り返ると、姿勢を正し、深々と俺に向かって頭を下げた。

「失礼しました、おはようございます!」

 長い髪が、ガバっ、ガバっと動いて、まるで軍隊みてぇにきびきびとお辞儀を済ませる。俺も真帆ちゃんの態度の豹変ぶりに驚き、「お、おう」なんて間の抜けた声を出しちまう。
 なんだ、やれば出来る子じゃねぇか。素直じゃねぇか。
 化粧は高校生にしちゃやりすぎてる気はするが、もともとぱっちりした可愛い子だったから、いつもの不機嫌で面倒くさそうな顔してるときよりも、ずっと可愛く見える。
 なんだか、高校の制服を母ちゃんに内緒で見せに来たときの、みなみの嬉しそうな顔を思い出しちまう。
 そして昨日の若造の話を思い出して、ウズウズとしてきた。
 やはり本当だったんだな、俺に“才能”があるっていうのは。俺の“常識”は他人を巻き込むんだっけ。
 だったら───ちょっとくらい、イタズラしたっていいよな。

「おはよう、真帆ちゃん」
「はいっ、おはよーございます!」
「んー、ちょっと違うんじゃないか?」
「え、何が?」
「目上の人と挨拶するときは、お辞儀じゃなくてスカートをめくってパンツを見せる。“常識”だろ?」
「あっ、そうですよね。失礼しました!」

 真帆ちゃんは、スカートの端を摘んで、パッと景気よく持ち上げる。

「おはよーございます」

 満面の笑みと、腹まで持ち上げたスカートと、真帆ちゃんのパンツ。
 ピンクと黒とベージュっぽい色の混じった三角形が、久々に拝む女の生下着という興奮と、それを顔見知りの高校生を誑かして見せていただいてるっていう背徳感で、眩しいくらいに輝いて見えた。
 挨拶を終えたら、すぐに真帆ちゃんはスカートを下げる。もったいない。俺はもっと挨拶がしたい。

「真帆ちゃん、おはよう」
「あ、おはよーございます」
「おはよう」
「おはよーございます」
「こんにちは」
「こんにちはーって、管理人さん、あたしで遊ばないでくださいよー」

 何度も素直にスカートぱたぱたしてくれるもんだから、ついつい調子にのって挨拶させちまった。
 ていうかオイ、じつはすげーパンツ穿いてないか?

「真帆ちゃん、ちょっと下着をよく見せてみろ」
「え、な、何言ってんの、管理人さん!」

 真帆ちゃんはスカートを押さえて、顔を真っ赤にして後ずさる。
 あ、そっか。彼女は“挨拶”だからパンツ見せてくれたんだっけ。「ちょっと見せてくれ」っていうだけなら、俺はただのヘンタイだ。

「ち、違うぞ、真帆ちゃん。ほら、管理人は住人の下着も管理も仕事じゃないか。だからちゃんと真帆ちゃんのパンツも確認しないと。そんなの“常識”だろ?」
「あ…? あぁ、そうですよね。うわ、ハズいっ。あたし、変なリアクションしてすみませーん」

 そういって、照れを隠すみたいに豪快に、真帆ちゃんはパーンとスカートをまくって見せてくれた。へそまで見えるくらいに、気持ち良くだ。
 ピンクと黒と…あぁ、やっぱりそうだ。ヒモパンツだ。
 ピンク色の小さな生地を、黒いフチどりと、上下の黒い2本のゴム紐が腰に固定している。ベージュに見えたのはこの子の素肌だ。こんなとこまで日焼けしちまうなんて、最近の高校のプールはどうなってるんだ。

「こ…これはけしからん下着だな。こんなの学校に穿いていっていいのか?」
「えー、これくらい普通っしょ? 変ですかぁ?」

 目の前で小さな生地がくねくね動く。
 変も何も、女子高生が管理人のおじさんに朝っぱらからパンツ見せてることが大変だってのに、真帆ちゃんの“常識”の中では当然のことになっている。
 俺はゴクリと喉を鳴らした。

「こ、これは没収だ。管理人権限で没収とする! “常識”的に考えて、こんなけしからん下着は高校生が穿いちゃいかん。“常識”的に管理人が預かっておくから、今日はノーパンで学校行け!」
「えー、マジっすかぁ!」
「マジっすよ!」

 興奮してきた俺の前で、真帆ちゃんは「ついてねーなー」など言いながら、するり、するりと片足ずつパンツを抜いていく。
 朝っぱらからこんな眼福あっていいのかね。まるで先週借りた『名門女子高生の誘惑~幼い艶女交際~』みてぇじゃねぇか。
 真帆ちゃんは、「はぁい」と少し膨れっ面になりながら俺に脱ぎたての下着を差し出す。まだ温かい。

「あとでちゃんと返してくださいねー。それ、あたしのお気になんだから」
「お、おう。しっかり預かっておくぜ」

 大事にポケットにしまっておく。
 まさかこの年になって、高校生から下着を任されるなんてな。まったく、人生は50からが本番だぜ。
 真帆ちゃんは機嫌を悪くしたのか、俺にプイと背中を向けて早足で学校へ向かう。その張りのありそうな太ももと、スカートの下にあるはずの生尻を想像して興奮した俺は、なおもしつこく真帆ちゃんを呼び止める。

「真帆ちゃん、いってらっしゃい!」

 スカートをまくってくれるのを期待して鼻の下を伸ばす俺に、真帆ちゃんは振り返って「いってきまーす」とペコリと頭を下げて、さっさと行ってしまった。

 ……あぁ、そうか。
 見せなきゃならない“パンツ”は、俺が持ってるのか。
 こりゃうっかり。

 俺はまだ温かい女子高生のパンツを握りしめながら、齢50を過ぎた己の人生を振り返る。
 親から継いだ工場を、バブルのときに調子に乗ったツケで潰してしまって以来、ロクなことはなかった。
 羽振りのよかった頃にひっかけたガメつい女房は、金回りが悪くなったとたん、俺を捨てて出て行った。たまたま俺も酒に溺れたりもあったから、それを上手いこと口実に使われ、みなみまで連れていかれてしまった。
 ロクな仕事もないご時世で、工場やってた頃の伝手の伝手で何とかマンションの管理人っつー仕事にありつけたが、給料なんて人をバカにしてんのかってくらいみみっちいし、住人どももどこか俺のことバカにしてるし、本当に、つまんねぇ仕事だった。
 ただ、この───《世間知らずの常識(selfish rule)》だっけか? ややこしい名前つけやがるな。この“才能”を活かすにはうってつけの職場だった。
 ここの住人のほとんどは顔見知りで、どの部屋にどんな住人がいるか、たいていは知っている。向こうも管理人のおじさんとして長年勤めている俺には、さほど警戒しないで接してくれている。
 俺はコイツで、どんなことして遊んでもいいんだ。
 俺は真帆ちゃんのパンツをポケットに入れて、5階に上がった。
 511号室。ここには青島っていう、ちょっと気の強そうな感じのOLさんが1人で住んでいる。前にゴミ出しの仕方で説教したら、生意気な口答えをした女だ。
 生意気なくせに、イイ女だった。
 俺がドアチャイムを鳴らしても、しばらく出てこない。何度も鳴らしてると、ようやく『…はい?』とインターホンが返事を返す。

「青島さーん。管理人の坂田ですがぁ」
『ハァ?』
「こないだのゴミ出しの件で、お話がぁ」
『ええ? 今ちょっと忙しいんですけど…』
「管理人が住人にゴミ出しの指導で訪問するのは“常識”ですよねぇ? お宅さんもちゃんと家に上げて聞くのが“常識”なんじゃないですかぁ?」
『あ…あぁ、そうですね。すみません、今開けます』

 しばらく待って出てきた青島に、俺は思わず吹き出してしまった。
 バスタオル一枚だったのだ。

「シャワー浴びてたんで……こんな格好ですみませんけど」
「い、いえぇ、俺の方こそ、いきなり訪ねちまって……」

 こないだの腹いせにお尻ぺんぺんでもしてやろうと思ったのだが、まさかコイツも尻を出して待っていたとは。
 形のはっきり浮き出た尻を追いかけて、青島の部屋に上がる。
 案の定、汚い部屋だ。俺の想像を上回る規模で。

「ひでぇもんですなぁ…」
「だって、仕事が忙しいんで、掃除とかしてるヒマないんです」

 コイツはだらしない女なんだ。フレックスだかT-レックスだかセックスだかいう変な時間に出社する制度の会社に勤めていて、出勤時間に合わせてゴミを出そうとしやがるから、とっくに収集終わったあとにしゃあしゃあとゴミを置いていったりもする。
 しかしこの部屋を見る限り、どっちがゴミ置き場なんだかわからねえ。ホント、外面と家が大違いじゃねぇか。
 出かけるときはパリッとしたOLさんの顔してるくせに、家の中じゃ菓子の袋も空き缶も、DVDすらケースに入れずに散乱だ。
 流しにはオシャレな食器が小汚いまま積み上げられ、テーブルのカップ麺の空き容器にはビューラーやらマスカラやらが立ててあり、結構な値段のしそうなお洋服も、見えないマネキンがそこに寝てるみたいに人の形で脱ぎ積み上げられている。
 裕福なスラムかよ。親御さんが見たら泣くぞ絶対。
 こりゃあゴミ出し以前の問題だ。

「困りますなぁ、部屋をこんな風に汚く使われては。敷金も戻りませんよ」
「だから、掃除するヒマがないんですよぉ」

 朝からシャワー浴びて髪のお手入れしてるヒマはあるのにか。

「管理人として、指導しなければなりませんな。住人の生活態度を管理するのも“常識”的に考えて管理人の仕事ですし」
「え、ええ…でも、指導だなんて、そんなにひどいわけでもないですし」
「管理人に口答えはいけませんな。そんな“非常識”は許されませんよ?」
「あ…そうですよね、すみません…」
「ここはひとつ、管理人さんのおしおきが“常識”的で妥当な線でしょうな」
「はい、おしおきが妥当ですよね。わかります」
「では……お風呂場の方へいきましょうか?」

 青島を風呂場へ連れて行き、バスタオルをはだけさせる。おしおきの内容は管理人が決めることであり、口答えなんて“非常識”だ。青島は、悲しそうな顔をして俺の前で裸を晒した。
 てーか、お前、体は100点満点じゃねぇかバカヤロウ。
 せっかくいい体してんだから、もっと内面も磨け。なんだそのおっぱい。ウエスト。尻。バカヤロウ。
 全然悪かねぇぞ、お前。AV出たら全作借りるぞ。キャンペーンじゃない日でもまとめ借りしちゃうぞおじさん。

「じゃ、じゃあそこで四つんばいにスタンバイなさい」
「はーい…」

 こっちに尻を向けて濡れた床に這う。おっぱいがフルフルンと揺れて俺の股間がじわっと熱くなった。とりあえず丸出しになった尻とケツ穴とオマンコに柏手を打っておく。見てっか、父ちゃん。生きてるうちに孝行できなくて悪かったな。

「いいかい、姉ちゃん。ゴミを溜めれば、心にも体にもゴミが溜まる。きれいな体を保つには、家の中だってきれいにしとかなきゃならないんだ。どっちかだけ整えときゃいいってもんじゃない」
「はい…」
「あんたの体も、こうして見る限りにはきれいだ。ケツもでかいしな。だがやっぱり、俺みたいな管理人から見ればわかる。あんたの体は汚れてるんだ。ケツもでかいしな」
「で、でも、シャワーを浴びたばかりなのに…」
「まだ口答えするか……まったく、聞きしに勝る“非常識”娘だな」
「あっ、いえ、すみません!」
「どんだけ汚れてるか、あんたにもわかるようにしてやろう。そのまんま、ケツをじっとさせてろよ」

 俺はいったん部屋に戻って、流しに溜まってる汚れモノや、出しっぱなしの洗濯物を抱えて戻ってきた。

「ほらよ!」
「きゃあッ!?」

 そして青島の体に浴びせかける。腐ったような匂いを出してる汚れものも、いつ着たのかわかんないような下着も、カスの残ってる菓子袋も、ついでに冷蔵庫の中で消費期限が切れてるものも、次々に運んでは青島の体にぶっかけ、ゴミだらけにしてやった。やべぇな、興奮する。先月借りた『可愛すぎる政治家集団レイプ~永田町臭猥事件~』みてぇじゃないか。
 青島は四つんばいの姿勢を保ったまま、自分のゴミに囲まれて悲鳴を上げる。

「く、くさ~い。べたべたする~!」
「わかったかい、青島さんよ。それがあんただ。あんたの心も体も、くさくてベタベタだ。それがお前だ、青島。そんなんだから男もできないんだ」
「そっかぁ…私、こんなんだから男ができなかったんだ…」

 いや、知らねぇけどな。

「心配すんな。俺があんたをきれいに洗ってやる。マンションの管理人さんに体を洗ってもらえば美人になれるってのは、都内に勤めるイケてるOLさんの“常識”だろ。しっかり、イイ女にしてやるからな」
「嬉しいです! お願いします!」

 尻をフリフリ振って、青島は汚ねえ顔を期待に輝かせる。俺はシャワーを持ち上げ、邪魔な服やらゴミやらを足で避けて、青島の顔面にお湯をかけてやった。

「あぷぷっ、あぷ!」
「じっとしてなって、ほらぁ。ミートソースみてぇに腐ったなめ茸が取れねぇだろうが」

 スポンジで顔を擦って、髪も適当にシャンプー垂らして、背中も尻も洗ってやる。ゴミだらけにしちまったせいで、くせぇし、汚ねぇし、犬っころ洗ってるみてぇだ。
 しかし、おとなしく俺に洗われる青島の幸せそうな顔や、たゆたゆ揺れてるおっぱいや、瑞々しく水滴を弾く若い女の肌を見ているうちに、なんだか俺も興奮してきた。
 みなみが小さい頃も、体を洗ってやったりしたっけ。
 だが、今、俺にウシが乳揉まれる格好で体を洗われてる女は、成熟した若い女だ。試しに乳を揉んでみたが、やっぱり女だ。

「ハァ…っ、はぁ、はぁ…うぅん…」

 青島も、何を興奮してんだか、スケベな声まで出し始めやがった。バカヤロウ。もっと出せ。

「それじゃあ、ここも洗ってやらんと」
「あっ!」

 スポンジにたっぷり泡をつけて、オマンコを擦ってやる。俺もかなり汗をかいてきた。血圧やべぇんじゃねぇか、これ。だが、久しぶりに触れる女の身体に興奮は抑えきれない。泡だらけになったそこに、今度は指を突っ込む。

「あぁッ…! そ、そんなとこ、ダメです!」
「いや、ほら、この中は一番は汚れやすいところだから、きれいにするでしょ? “常識”でしょ? いいよね?」
「ハァッ…、は、はいィ!」

 あったけえ。ごぶさたしてて忘れてたけど、女の中ってのは、こんなにもあったけぇんだ。
 中を掻き回すようにえぐってやる。じゅぶっ、じゅぶってスケベな音を立てて、青島さんは尻をくねくねさせる。エロいぜ。まったく、エロい“才能”だぜ、こいつは。

「どうだい、こんなとこを男に掃除される気分は?」
「あん、すごい、えっちです、こんな…こんなとこ掃除してもらうなんてぇ」
「ホラ、ホラ、ここかい? ここがいいのか?」
「あぁ、そこ! そこ! いい! いい!」

 ぐちゅぐちゅ、激しく出し入れしてやる。青島はアンアン言いながら身体をくねらせる。スピードを上げていくと、青島は体を突っ張らせて、でけぇ声で叫んだ。

「出る! 出る! 管理人さん、出ちゃう~!」
「おわっ!?」

 プシュウっつって、青島のオマンコから潮が吹き出した。AVじゃよく見るが、自分で吹き出させるのは初めてだ。別れた女房も、それまでの女も、ここまで感じさせたことはなかったのに。

「はぁ、はぁ…はぁ~~ん…」
「よ、よーし、お掃除終了だ。青島さん、どうだい? きれいになっただろ?」
「はいぃ…とっても…気持ち良かったです…」

 ぺったりと風呂場の床に青島は崩れる。廃墟みたいなゴミの山に、女の尻が浮かんでる絵は興奮できる。
 管理会社から支給されてる携帯電話を何とか駆使して、初めての写メを撮った。これは後日、投稿雑誌に送らせてもらおう。
 タイトルは『火曜日は濡れるゴミ』だな。

 だが、まだこのマンションにはまだ俺が目をつけてる女は大勢いる。次は人妻だ。しっとりと落ち着いた雰囲気の人妻だ。
 AVでも場所がマンションだの団地だの来れば、モノは人妻に決まってる。俺はさっそく202号室の横山さんのお宅へ向かった。

『は~い』
「管理人の坂田ですー。生活点検にまいりましたー」
『え、なん…なんですか、それ?』
「点検ですよ、生活点検。管理人が普段の生活ぶりを点検するのは“常識”ですよね? 開けてくださーい」
『あ……はいはい、今開けますー』

 ドアを開けて出迎えてくれたのは横山さんの奥さんだ。
 髪はゆるゆるのパーマをかけて、やや垂れがちな大きな目の下には泣きぼくろまであって、ぽってりした唇も豊満なスタイルも、この人が人妻じゃなきゃ誰が人妻なんだってくらいの人妻さんだ。
 それが、エプロンなんかして出てきた日にはもう……たまんねぇな!

「あの、お上がりになってください。点検ですよね?」
「え、ええ、ええ、点検でございますよ。それじゃ、失礼して……おっと、まだお食事中でしたか」

 食卓には、旦那と娘のまりんちゃんがいた。トーストと目玉焼きと、ポタージュにサラダ。絵に描いたような朝食だね。

「あ、管理人さん、どうも。いきなりどうしたんですか?」
「いやいや、単なる“常識”的な生活点検ですので、まったくご心配なく。それにしてもご主人、今日はゆっくりですなあ」
「ええ、そのぶん夜まで会議ですけどね。少し朝を遅らせてもらったんですよ。娘と一緒にゴハンする機会もなかなかないですし」
「そうですか。まりんちゃんも、今日はパパも一緒でよかったね」
「んー……微妙」
「微妙たぁ、恐れ入った。難しい言葉を使いますなぁ」
「もう、近頃は生意気ばかりで……まりん、管理人のおじさんにちゃんとご挨拶したの?」
「ん…おはよーございます」
「すみません、しつけのなってない子で」
「ははっ、いいですよ。まりんちゃん、何年生になったのかな?」
「…5年ですけど」
「まりんったら、もう、だらしない」

 横山さんちの一人娘、まりんちゃんは無愛想なのか人見知りなのか、俺の方も見ないでフォークを咥えたままボソリと返答する。
 奥さんに似て可愛い顔立ちをしているのにもったいない。でもまあ、うちのみなみも、このくらいの年頃は難しかったな。
 ちょうど親や世間をなめてかかりだす頃だ。

「あの、よろしかったらご一緒にいかがですか?」
「いえいえ、これはただの管理人として“常識”の生活点検ですから、私のことは構わずいつもどおりにしてください」
「そうですか? では、お言葉に甘えて」

 奥さんはトーストにジャムを塗り、旦那さんは新聞片手にコーヒーをすすり、娘はテレビばっかり見ながら、つまんなそうにトーストかじる。
 他人の家なのに、どこか懐かしい光景だ。でもまあ、ただ見てるだけなのも退屈だ。

「おほん…まあ、生活点検ということで、“常識”的に生活を点検させてもらわないといけないんですが、奥さん、ちょっと質問させていただいてもよろしいですか?」
「私ですか? ええ、かまいませんけど」
「言っておきますが、あくまで仕事の範囲で“常識”的な質問しかしませんので、包み隠さず、正直に答えてください」
「もちろんです。管理人さんのお仕事ですもんね。包み隠さず答えます」
「旦那さんも、“常識”的質問なんで気になさらずお食事を続けてください」
「んー、はい」
「では…」

 食事を続ける奥さんの横で、エプロンを押し上げる豊満な胸を見下ろしながら、俺は自分の興奮を抑えつけつつ、できるだけ丁寧に、事務的に質問を開始する。

「てーか、夕べは何発ヤッたんですかい?」
「はい?」
「ええ、あぁ、ついつい気になっちまって……だからその、夜の生活の方をですね、点検をですね、管理人はしなきゃならんわけですよ。“常識”的に。それでまあ…昨日は何発してらっしゃたかな、とお聞きしたいと思いまして」
「あぁ、そういうことでしたか。1発だけですわ。ねえ、あなた?」
「んー、うん」
「ほう、ほう、ほー、そうですか。1発ですか、1発。もっとやれそうな気がしますけどなあ、奥さんみたいな女性が相手だと」
「いやですわ、管理人さんたら。私はまだまだと思ってたんですけど、この人がすっかり。ねえ、あなた?」
「んー、うん」
「お仕事が忙しいみたいで、ストレスなのかしらと思うんですけど、このところは週に1回がいいところで」
「それはお寂しいでしょうなあ、奥さん」
「愚痴っても仕方ないことですけど。でも、結婚前はあんなにがっついてたこの人も、まりんが大きくなってからは、ねえ?」
「んー、うん」
「もったいないですなあ……では、奥さんは自分で慰めたりはなさらないんで?」
「そうですね。最近は週に2、3回くらいかしら。まりんが学校へ行ってる間は、ゆっくりオナニーもできますので……あ、ほら、まりんちゃんたら、玉子の黄身も食べなきゃダメよ?」
「やだ」
「まりんったら、もう」
「オナニーには道具とかはお使いになるんで?」
「興味はあるんですけど……その、亭主に見つかるとおかしなことになるでしょう? 隠し場所に困りますので」
「なんだ、そんなことなら管理人室でお預かりしますよ。いつでもご相談ください」
「わあ、ありがとうございます。それじゃ、今度お願いするかもしれません。あ、あなた、コーヒーはおかわりします?」
「んー、いい」
「奥さん、ところでバストはおいくつですか?」
「89のFです」
「好きな体位は?」
「騎乗位です」
「それにしても、キッチンもきれいにお使いですなあ。お手入れは毎日ですか?」
「ええ。主婦ですから、お家のことくらいはきちんとしたいですもの」
「えらい。近頃の主婦には珍しいくらいですな。うちの別れた女房に聞かせてやりたかった。花なんて飾ったりして、部屋の中もきれいにしてらっしゃる」
「そんな、管理人さんったら。私なんて家にいるだけですから、これくらい当然ですよ。夫と娘には、お家のことを好きになってもらいたいですし…」
「奥さん、バストは?」
「89のFです」
「好きな体位は?」
「騎乗位です」
「お子さんも可愛らしいし、将来とかいろいろ期待されてるでしょうなぁ」
「まあ、少しは期待もしてますけど、この子のやりたいことが出来て、幸せになってくれれば、私たちはもうそれだけで……」
「奥さん、バストと好きな体位は?」
「89で騎乗位です」

 奥さんは俺のセクハラ質問に答えて、当たり前のように日常のエロい一面を暴露する。なのに旦那はぼんやり新聞眺めて、子どもはモクモクごはんを食べて、普通の食卓を続けている。
 これは面白い。もっとエロいこともさせてやりたい。 
 
「まりんちゃん、ミルクも飲んで。もう、どうしてそんなに好き嫌いするの」
「おや、まりんちゃんは牛乳が嫌いなのかな?」
「困ってるんですよぉ。今のうちに出来るだけ好き嫌いはなくしたいと思ってるんですが」
「それはいい心がけだ。今は小学校でも好き嫌いは直さねぇって言いますからな。こういうのは家でちゃんとしつけておかないと」
「……うるさいなあ。いいじゃん、牛乳くらい」
「まりん」

 反抗的な娘に奥さんも頬を膨らませる。しょうがねえなぁ、子どもってのは。
 それじゃあ、おじさんがちょっと手を貸してやろうかね。

「よし、それじゃあ、まりんちゃんにおじさんが良い物あげよう。管理人さんミルクだ。それを飲んだら“常識”的に牛乳嫌いなんて一発で治るよ」
「……管理人さんミルク?」
「なんですかそれは?」
「奥さんもご存じない? “常識”なのに? 私の精液ですよ。栄養満点美味しさバツグン。子どもの発育にもいいんだ。“常識”でしょ?」
「あ、あぁ…そうですね。忘れてました。管理人さんミルクは最高ですよね!」
「それじゃ、さっそく奥さんが絞り出してみますか?」
「ハイ!」

 俺は作業服のファスナーを下ろし、陰茎をずるりと取り出す。よそ様の朝飯の最中にこんなの出すなんて、もちろん人生で初だ。

「それじゃ、失礼します」

 奥さんは、慣れた手つきで俺の握ると、くにくにと動かして勃起を促してくる。

「お、お…」

 そして軽く立ち上がり始めた俺のを、くるりと手のひらに包み込むと、優しい握りでシュッシュとリズミカルに擦ってくる。

「お、お上手ですなあ。男性経験は何人ほど?」
「そんな、たいしたことは……5、60人程度ですわ」
「えっ、いやぁ、ご立派な成績で。ひょっとしてプロをやられていたとか?」
「いやだ、ただの好き者の素人ですわ。若かった頃の話です。よろしかったら、お口でいたしましょうか?」
「ぜひ!」
「ふふっ。では、失礼して。あむ、んっ、んっ、じゅぶっ」
「くはぁ…。すごい、奥さんの口の中、まるでぬるぬるのナマコみてぇに吸い付いてきて…気持ちいい!」
「んふっ、んっ、あんっ、んんっ」
「ま、まりんちゃんも見てごらん。お母さんのお口奉仕はプロ級だよ。こういうお勉強は母親に学ぶのが“常識”だからねっ」
「う、うん。見てるよ…」

 まりんちゃんは顔を赤くして、トーストを囓りながら、じっと俺のに奉仕する母親を見ている。奥さんは、じつに巧みに俺のを吸い上げ、べろりと舌を絡ませるのを娘に見せつけつつ、いやらしい音を立てて顔を激しく前後させる。
 旦那は俺のやってることを普通の仕事だと思いこんで、興味もない様子で新聞見ながら、ヘソを掻いている。
 やべぇぜ。なんだこの異常で興奮する光景は。
 まるで先週借りた『汁でるわファミリー~森のゆかいな寄生中年~』みてぇじゃねぇか。

「お、奥さん。フェラのときは、おっぱい出して揉ませるのが“常識”ですよね?」
「あん、すみません。私ったら、久々なもので…はい、どうぞ」

 奥さんはエプロンを外して、薄手のニットもたくし上げ、窮屈そうなブラの前ホックを外して、ぶるんと、朝の食卓に生おっぱいを披露してくれた。
 でけぇ。すごいボインだ。こんなのを朝っぱらか拝めるなんて、ホント、真面目に生きてきてよかったぜ。

「それじゃ、失礼して…くぅ、柔らけぇ」
「くぅん、管理人さん、あん、そんなに、もみもみしちゃ、んっ…ちゅぶ、あむ、ちゅる、れる、ちゅぶ、ちゅぶっ」
「あぁぁ~、奥さん、いい! まりんちゃん、ホラ、お母さんがんばってるとこ、見てあげて。おじさん、すごく気持ちいいよ!」
「う、うん。見てるってば…」
「ちゅぶ、ちゅぶ、んんん~っ、んっ、んっ、んんっ」

 奥さんは俺のを喉の奥までくわえ込んで、強く吸い上げ、器用に舌を絡めてくる。俺は奥さんの胸を揉みしだき、乳首をクリクリと人差し指で弾いて転がしてやる。奥さんは俺のに食いついたまま甘い声をだし、まりんちゃんはそんな母親に真剣な眼差しを向け、頬を染め、そわそわと腰を揺らす。
 俺はもうこの高まりを抑えられない。

「だめだ、出る! まりちゃん、カップを出してっ。管理人さんミルクでるよ!」
「はいっ!」

 チュポンと奥さんの口から俺のを取り出し、まりんちゃんの差し出すホットミルクのマグカップに向かって、奥さんと一緒に陰茎を擦る。そして、とぷっ、とぷっとミルクの中に俺のミルクを注ぎ込む。
 最後の一滴まで絞り出し、そして、奥さんがもう一度俺のを咥えてチュウゥと吸い出し、全部出し切ってもらって満足した。

「さ、さあ、飲んでごらん。牛乳嫌いなんて“常識”的に一発で治るくらい美味しいよ。一気に飲むんだ」
「はい。いただきます」

 まりんちゃんは、背筋を正し、真剣な顔で俺の精液入りホットミルクを構え、そして、コクコクと飲み始めた。
 俺と奥さんは喉を鳴らしてその姿を見守る。
 やがて、全部飲みきったまりんちゃんは、口の周りに白いヒゲになって残った牛乳と、ネバーって残った白いザーメンもペロリと舌で舐め取った。そして、ホウと一息つくと、俺たちに向かって満面の笑みを浮かべた。

「すっごくおいしい!」
「やったね、まりん!」
「よかったなぁ、よかったなぁ」
「へぇ、今年はロッテと中日かぁ」

 完全に蚊帳の外の旦那さんを除いて、ちょっとした感動が食卓を包み込む。じつにいい朝食となった。

「よし、それじゃあ、おじさんからまりんちゃんに牛乳飲めたご褒美あげよう。“常識”的に考えてすごく嬉しいものだよ」
「え、なになに?」
「ほら、斉藤さんとこの真帆ちゃんが穿いていたエロいパンツだ」
「えー! あの斉藤さんとこの真帆ちゃんが穿いてたエロいパンツ!?」
「よかったわねぇ、まりんちゃん。でもよろしんですか、こんな良い物を?」
「なぁに、構いませんよ。あとで返せって言われてますけど、“常識”的に考えてアイツのものは私のものですし。さあ、さっそく履き替えておじさんに“常識”的にお披露目して見せて」
「はーい!」

 まりんちゃんはスルスルと今穿いてる子どもっぽいパンツを脱ぎ捨て母親に手渡すと、俺の持ってた真帆ちゃんのパンツを穿いてしまう。
 そして、スカートを持ち上げて俺にピンクと黒のセクシーひもパンツを履いているところを、少し恥ずかしそうに見せてくれる。

「ど、どう、おじさん? 似合うかな?」
「あぁ、とってもよく似合ってるよ。緩くないかい?」
「ちょっと緩いけど…今日はこれ穿いて学校行く!」
「そうかい、そうかい」
「可愛いわよ、まりん」
「へへっ」

 なぜだろうな、子どもが穿くとこういう下着も可愛く見える。常識的な親ならこんなガキはぶん殴るんだろうけどな。でも、可愛いものは可愛い。
 お尻の方とか股下とか、スカート持ち上げて無邪気に覗き込むまりんちゃんを見てると、洋服買ってやるたびに、いちいちファッションショー始めて喜んでたみなみの子どもの頃を思い出すぜ。

「さてと……私はそろそろ失礼しますかな」
「どうもお疲れさまでした。こんな結構なものまでいただいてしまって。まりん、もう一度お礼を言いなさい」
「ありがとうございます、おじさん」
「はい、どういたしまして。でもまりんちゃん、管理人さんにお礼を言うときは、ほっぺにチューが“常識”ですよ」
「あ、いっけない。おじさん、ありがとうごいます。ちゅっ」
「はい、よくできました」
「へへっ」
「よかったわね、まりん」

 俺が頭を撫でてやると、まりんちゃんはスカートをたくし上げ、もう一度俺にパンツを見せてニコニコ笑う。ついでに奥さんの乳首を高速でシュビビーンと弾いてやると、奥さんも「あぁん」と甘い声出して笑う。
 旦那は新聞見ながら、のんきに大きなアクビした。
 楽しいぜ。このまま夜までこの家族に寄生して、面白おかしく遊んでやりたい。
 だが、俺の“才能”には期限がある。
 心残りないように遊ぶのなら……やっぱり、俺が会いたいのは、娘のみなみだ。

< つづく >

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