Bloody heart 六話

六話

「納得いかない」
 ナタリアが学校に通い始めて最初の休み時間。
「え?」
「いや、激しく納得いかないんだけど、ちょっと質問に答えてくれないかな?」
 転校生という珍獣を見る視線も意に介さず、ナタリアの奴が俺に食って掛かってきた。
「……俺としちゃ、お前が俺の学校に入って来た事そのものが納得いかねぇんだが、それはそれとして伺いましょう」
「これよ! この服装!!」
 そう言って、自分の着ているセーラー服の肩の部分を摘んで主張する。
「別に、ごく普通のセーラー服だが、それがどうかしたのか?」
「普通!? これが普通!? あんた絶対脳みそ腐ってるわよ!?」
 ……はて?
 ナタリアが着ているモノは、至極普通の学校指定のセーラー服である。背中側の後ろ半分が丸出しとか、特にそーいった異常は感じられない。
 まあ、確かにセーラー服というのは、昨今の日本じゃあアナログ過ぎて珍しい部類じゃあるが。
「なんで、セーラー服にプリーツつきのスカート!? ありえないわよ!」
「元、船長としては耐え難いと?」
「そういう事を言ってるんじゃない!! 服装として異常をきたしてると私は言ってるの!
 そ、そりゃあまあ……何で今更下級水兵の服とか思ったけど、ここは学校だって言うし、なら仕方ないと納得したわよ。
 でも、これは無い! 絶対無い! ありえない! セーラー服には、ズボンでしょ!?」
「あーなるほど」
 考えてもみりゃ、ナタリアは生粋の海の人なワケで。
 これが普通のドレスや和装だったりしたら、逆にそういうものだと納得して着ただろうが、身近な定型の衣装が枠をハズしているという事で戸惑いを覚えているのだろう。
「もしかして……これが日本人独特の『萌え文化』って奴? 女の子に変な格好させて喜んでハァハァしてる人、結構居たわよね? てっきりイベント用の衣装か何かだと思ってたけど、まさか教育機関の中にまで浸透してるとは思わなかったわよ!」
「……ある意味間違いではないが、いちおう曲がりなりにも作られた当初は、時の天皇すら『女の子にコレはいかがなものか』と閣僚全員ドン引きさせた、貞操保護の男避けの衣装をフェチアイテム扱いするな。
 確かに、魔法少女が白い悪魔で、ガンダムのパイロット愛でる腐女子がナチュラルに沸くご時世だが、これはこれで別に意味がある服装なんだ。偏見で語るのはやめておけ」
「……ナタリアさん、外国の学校じゃそうだったの?」
 きょとん、とする遠藤その他、クラスメイトたち。
「え、あ、まー……ちょっと海軍関係の学校だったから、どうしても、このセーラー服が変に思えて」
「セーラー服ってのは、もともと水兵の軍服なんだよ。だから変だと感じてるんだろ」
 俺の補足説明に、なるほど、さもありなん、と納得する一同。
「えーっ、軍隊ーっ!?」
「ねーねー、じゃあ、そっちはどんな服だったの?」
「っていうか、どんな生活してたの?」
「じゃ、その焼けた肌は天然?」
 根堀葉掘突っ込みに入る、クラスメイト一同。……やべーな、変なボロが出なけりゃいいんだけど。
「どんな、って……ごく『普通のセーラー服』?
 あっちだと、中学生くらいから陸、海、空それぞれの軍人を育てるために軍が運営してる学校があってね。
 実習で船に乗ったり銃を扱ったり、基本的な軍事訓練はしたけど、私は志望が給養員……あー、いわゆるコックね。軍隊の専属コックさん目指してたから、物騒な事はあまりやってないわ。
 軍学校に入れば食いっぱぐれが無いし、やりたい事も出来るし、少しだけどお給金も出るし、学費も要らないし、だからそこの学校に入ったの。もっとも、転校する時にもらったお給金と補償してもらった学費、全額返す事になっちゃったけど」
 ここに来るまでに用意しておいたと思しき、デッチアゲの嘘物語(カバーストーリー)でごまかしていくナタリア。
 ……っていうか、よくそんな妙にリアリティのある話を作れるな。栄子さんの入れ知恵だろうか?
「ナタリアナタリア。さっきも言ったが、こっちとソッチじゃ『セーラー服』の概念が根本から違うんだ。こっちじゃ『セーラー服』は女子高生が着るモノって認知されてるんだから、そっちの常識だけでモノを語るな」
「あ、そっか。えーと、上は大体一緒で、下がズボンなんだけど……口で説明するの難しいな。こんな感じで」
 ノートと鉛筆でサラサラとソレっぽい衣装を書いていくナタリア。
 そして、いつ記憶操作が必要になるのか、気が気じゃない俺。
 まいったな……昼休み中だと他教室の生徒も結構紛れてるから、情報の歪みが大きくなりやすいんだけど。
 と……
「ところで、清吾。お前、どうしてナタリアさんと知り合いなんだ?」
 遠藤からのツッコミに、俺は答えに暫し詰まり……。
「あー、彼女、俺が通ってた道場の師範代の娘さんだよ」
 と、事実だけ答えた。
「えーっ!」
「ってことは、『あの人』のーっ!?」
 と、遠藤以下、格闘技関係の知人数人が絶句。
「ついでに、バイト先の同僚の娘さん。今、彼女も自分で言ってたが、外国で全寮制の軍学校に就学が決まってたから残してきたんだけど、結局こっちに来る事に決めたんだとさ。だから、俺がこいつの存在を知ったのは、ごく最近。
 ツラ合わせて最初、よく知らん現地の言葉でイキナリ喧嘩売られた時は、どうしようかと思ったっけ」
 ここまでは、俺は殆ど嘘をついていない。問題があるとするなら、ここから先……
「よろしく。飯塚佐奈と言います。このクラスの学級委員やってます」
 いつもの眼鏡でキリッとした、無敵の眼鏡委員長スタイルで、妙に白々しく自己紹介する佐奈。
「ポンコツ船の沈め方とか、打ち上げ花火の後始末とか、遠慮なく相談してください♪」
「ええ、頭の上をブンブン飛び回るハエに悩まされたら、お願いしますね♪」
 ブゴゴゴゴゴゴ、と、闘気噴出な『胃』空間発生。ワケも分からないなりにドン引きするクラスメイトたち。
 ……頼む、君たち。伊藤清吾が生きるべき日常に、『そっちの世界』の物騒なコンセントレーションを持ち込まんでくれなさい。
「はいはい、喧嘩すんな喧嘩すんな。リベンジマッチは誰も見ていない時に、他所でやれ、他所で!」
「飯塚さん、転校生となんかあったの?」
 こっそり聞いてくる遠藤の奴の問いに、
「さっき話した喧嘩の現場に、あいつも居たんだよ。そん時にまぁ、色々あってな」
 とだけ。
 ここまでの会話に、嘘はほとんど混ぜていない。
 ……我ながら、こういうかわし方が上手くなったモノだ。
「そうなんだ、大変だね」
「そう、大変だったんだよ」
 泣きたくなるほどに。
 あの後の後始末自体もさることながら、セラの人脈や情報網を通じて各種の工作に協力してもらったハンター機関の本部や個人に『ひよこ』持ってお礼にあがったんだが、何故か全員ドン引きしちゃって、行く先々でデフコン・ワンな大騒ぎになってしまったのだ。
 ……いや、確かにアポイント取らないで訪問したとはいえ、あんな大騒ぎしなくても。一体『ひよこ』の何が悪かったのだろう。
「でも、ナタリアさん、日本語ペラペラなのね。すごいなぁ」
「まあ、お父さん日本人だったしね。
 他に、英語とフランス語とスペイン語。片言の会話程度なら広東語で良ければ中国語も話せるわよ」
「お、お前、マジか!?」
 なんというバイリンガル。
 そーいえば、遭って当初、いきなり普通に日本語で会話してたな。違和感無かったんだけど。
「まあ、稼業の必須言語だったから」
「……え?」
「あ、あー、ほら。外国船舶とか外国の港でやり取りする時に、英語だけじゃなくて、いろんな国の言葉話せないとスマートに行かないから」
 果たして、どんな『やり取り』なのかは知らないが、少なくとも穏やかなモンじゃねぇ事は確かである。
「ふーん……By the way, For what purpose did it come?」
 と、佐奈が何か英語でナタリアに聞いている。
 こう見えて、佐奈の奴はイギリス帰りの帰国子女だ。確かにナタリアには対抗できるだろうが……と、何やら意味ありげな笑顔をナタリアは浮かべ……
「¿A a cuándo? Probablemente, fue decidido. Hasta que reciba a su novio」
「……? Not Spanish but English or Japanese is spoken.A Hispanic imitation thing stops」
「¿Él no entiende español? ……If it says plainly」
 と、何やら、例の鮫の笑顔を浮かべ。
「Until I pillage your boyfriend」
 辛うじてボーイフレンド、という単語だけは聞き取れたが、英語の成績が悪い俺には、そのほかは意味不明である。
 とはいえ……
「っ……!!」
「……It is often likely to be necessary to talk with you」
「Well. Let’s bring to an end before becoming troublesome」
 言葉の意味は分からないが、なにやらキナ臭い雰囲気だけは察して取れる……のは俺だけなようで、周囲は素直に外国語のやり取りに関心していやがる。
「あー、お前ら、さっきも言ったが、ココは学校だぞ、学校。騒ぎは他所でやれ、他所で」
「あら、なんでもないわよ。ねぇ、ナタリアさん♪」
「そう、ちょっとした挨拶。学校の案内とかね、あははは」
 乾いて引きつった笑顔が交わり、静電気っぽい火花がパチパチと鳴り始めた所で、救いのチャイムが鳴る。
 ……さて、ホントにどうしたものやら。

「あー、もしもし。栄子さん!」
 放課後。
 たまたま部活動もバイトも無いので、とりあえず速攻で自宅のアパートに戻ると、騒動の影の首魁を問いただすべく、チャイムを鳴らした。
「ちょっと、栄子さん、居るんでしょ! バイトのシフト、休みだったハズっすよ!?」
「あ~、ちょっと待って~大家さん~」
「待って、じゃなくて! ナタリアの奴が何でこっちに居るんですか! 一体どーいう事ですか? 栄子さん」
 彼女の『ちょっと待って~』を待っているとエンドレスに待たされるので、一気にドアノブを捻る。
 鍵がかかってなかったのか簡単に扉が開き……
「いや~ん♪」
「!!!!!」
 あ……ありのまま、今、起こった事を話すぜ。
 扉を開けて、まず俺の目に飛び込んできたのは『若作りしてウチの学校指定のセーラー服着込んだ栄子さんが、鏡の前でお色気ポーズを取ってる姿』だったんだ。
 なんとかSUN(正気度)チェックに成功して扉を閉めたが、頭がどうにかなりそうだった。
 イメクラやアダルトビデオの女優が、年齢的に無理してセーラー服着てるよーな、そんなチャチなモンじゃ断じてねぇ。
 下ろしたてのセーラー服が、女優顔負けの肉感的なナイスバディに押し上げられた……いろいろな意味で恐ろしい代物の片鱗を味わってしまいました。
「大家さん~どうしたの~?」
 で、そんな姿のまま、ひょっこり顔をのぞかせようとする栄子さん。
「とりあえず年相応な普段の格好してください。風俗じゃないんですから」
「え~。私も~まだまだだと~思うんだけど~」
「……すいません、栄子さん。別の意味で似合いすぎなので、普段の服に戻してください」
 ビデオにしたらご飯三杯はイケちゃいそうなオカズを頭から振り払うと、再びガッツリと扉を閉めなおした。

「……で、ホントにいったいどういうツモリなんッスか? あの暴走馬鹿娘」
 ジロリ、とこれ以上ないほど不機嫌に、栄子さんを問い詰める。
「あら~、お邪魔だったかしら~?」
「キッパリ邪魔ッス!」
 もさもさと程よい淹れ加減のお茶と茶請けの菓子に舌鼓を打ちながら、それでもしっかりと言うべき所は言い切った。
「んー、私も~忠告はしたんだけど~。
 ほら~あの子の気性でしょ~? すっかり~頭に血が上っちゃっててね~」
「大体、実家の海賊団はどーなったんッスか!? 暢気に団長が留守にしていられる商売でもないでしょうに」
「それがね~。あの後、部下たちから~吹き込まれたらしいのよ~。
 『貧乳には貧乳の魅力がある。お嬢にはお嬢の魅力がある』とか~『お嬢に相応しい男が見つかったじゃないですか』とか~。
 で~今は~傾いた実家を~建て直す意味でも~大家さんを~『狙ってる』のよね~」
 ぶっ!!
「そ、それはつまり!?」
「二代目覇王と~初代覇王の愛娘の海賊王女。釣り合い取れる~組み合わせだと~思わない~」
「断じて却下。あれを御しきる自信、俺にはありません!」
 昔、似たようなガサツ通り越して世紀末入った性格の彼女が居た記憶が、まざまざと蘇る。
 ……いあ、それはそれで今思い返す分には良い想い出ではあるが、二度同じ目に遭うのは御免蒙るといいますか。
「別に~、側室でも~いいんじゃなーい? 一人~元人間の下僕~飼ってたでしょう~?」
「ちょっと込み入った事情あっての事です。
 それに『今回の一件で』彼女に借りが出来ちゃいましてね。
 『礼をしたい』っつったら『傍に置いてくれ』って……それなりに人脈持ってて人間側のハンター組織と繋がりがあるから、重宝してるっちゃ重宝してるんですが……それでもあまり個人的に気分のいい話じゃないんですよ。奴隷を飼うのって」
 トントンと机をつつきながら、暗に『あんたン所のせーだぞ』と話を振ってみるが。
「まあ~大変ね~」
 などと、ドコ吹く風。流石、元海賊の面の皮は伊達ではない。
「そう、大変なんですよ。
 佐奈は佐奈で問題抱えてるし、俺としてもね、その……なんですか。いろいろ困るわけですよ。
 俺個人としては、惚れた女ひとりモノにするのに四苦八苦している今の有様で、浮気とかどーとか騒がれたら本気で胃に穴が開きそうでね」
「気にしないで~『毒牙』に~かけちゃえばいいのに~」
 あまつさえとんでもない事をのたまわられる始末。
「やりません!
 そんな後先省みない真似したら、倍々ゲームのパンデミックで共倒れでしょうが。セラの段階で懲りましたよ。
 ……っていうか、これは吸血鬼一年生の想像なんですけど、吸血鬼が孤高を気取ってるのって、奴隷や同属増やそうと思えば幾らでも出来るんだろーけど、やり過ぎたら収拾つかなくなるから、色々と彼らなりに節度や理性を保って暮らしていて、それがノーブルなイメージとして受け取られるよーになったんじゃないですか?
 化け物っつったって知性や理性あるんなら、一時の衝動にかまけて共倒れしたいとか思ったりしないでしょうし、ましてや永遠を生きるなんてお題目のある生き物なら、尚更でしょうに。
 ……ああ、だからか?
 吸血鬼が目をつけた相手に異様な執着もって迫るのは、そーいうリスクを負ってでも永遠を共に生きたいと望む、ある種の純愛だからなのでは? 毎晩夜這い繰り返してるのは、ソレ相応の葛藤とかの表れだったりするんじゃないのか?」
「うーん……たいていの人間は~吸血鬼に転生したら~無駄に下僕作って~自滅しちゃうんだけど~流石は『縁』の持ち主ね~」
「やっぱりか。……って、何で知っててやらせようとしますか!?」
「やだぁ~、いざとなったらぁ~増え過ぎないように~適度に『間引いて』あげようかと~」
「……栄子さん? 本っっっ気で怒りますよ?
 っていうか、先代の兄貴がどんな性生活送ってたんだか知りませんがね! 事、色恋沙汰に関しては、俺は、俺の流儀を曲げるつもりは無いので、そこんとこ認識するようにナタリアにも言っておいてくださいね?」
 と……いきなり、栄子さんが向き直ると、土下座までして頭を下げた。
「……大家さん。いえ、二代目覇王様。
 この、メアリー・A・アルバトロス、伏してお願い申し上げます。
 なにとぞ……なにとぞ、わが娘ナタリアを、側に置いていただけるよう、お願い申し上げます。
 私どものような『鮫』は、止まった時点で死んでしまうのです。挫折は必要なことですが、あれ以来、あの子は止まったまま、進めなくなってしまいました。
 親馬鹿とお笑いください。ですが、抜け殻のようになった我が子を、どうして見捨てておけましょうか?
 お願いです。どうか……どうか、筋の通らぬ話とは承知しておりますが、なにとぞ……」
「……栄子さん。そう言われても、正直困るんだけど」
 極限の繁栄を求めて略奪を繰り返す女と、己の領土を守るために拳を握る男。
 どう考えても、噛み合う道理が無い。
「この部屋で、親子共に暮らすだけでいいのです。どうか!」
「どー考えても、騒動の元凶としか思えないんだけどなぁ」
 正味、栄子さんだけならまだしも、あの後先考えないウルトラ短気な馬鹿娘が巻き起こす騒動は、ちょっと想像できないだけに恐ろしい。
 が……
「……まあ、俺の知らない所で暴れまわられも困るか」
 スナック感覚で大和乗り回してタイあたりまで出張った挙句、魚雷艇追い回したり艦砲射撃で仏像撃砕して『跪け~♪』なんて叫ばれたりしたら、今度こそイロイロな意味でタダでは済むまい。
 それを考えると、ご近所の騒ぎで収まってくれるだけでも、まだありがたい話かもしれない。
 それに……
「ま、とりあえず俺のアパートの部屋で、契約外の生活者が増えるわけですから、家賃について相談しましょうか?」
 とりあえず以前から検討していた、家賃の値上げのチャンスなワケで。
「大家さん……私、夫に先立たれ、収入もパートのみで生活も苦しくて……」
「それは大変ですなぁ、元海賊王」
 そして……元海賊王と、二代目覇王との、家賃を巡る熾烈な『戦い』が始まった。

「……ふぅ」
 勝利の笑顔を空へと向けて、俺は夜の街へと『食事』に繰り出した。
 収穫収穫♪
 いや、極悪家主と言われようが、何しろ住人が住人である。
 家主としちゃあ、ソレナリ以上のリスクに対するリターンってモンが必須なワケで……ま、それはそれとして、今月発売の新しいCD買おうかなぁ。いや、新作ゲームも捨てがたい。それともいっそ、思い切ってパソコンを新調しようか?
 などと、皮算用を弾いていると……
「ん?」
 女の子向けのファンシーグッズを売る店の前。
 ショーウィンドの中と自分の財布の中身を、食い入るように交互に見つめている、ナタリアの姿があった。
 どうも、お気に入りのヌイグルミがあるようだが、手持ちの現金が足りてないようである。
「……プッ」
 なんだかんだと外見年齢相応に可愛い面を見て、思わず噴出してしまったが……ま、そんな所を見てからかった所で益体も無い話。
 とりあえず見なかった事にして、その場を立ち去ろうと……
「って、待て待て待て待て待てぇいっ!!」
 次の瞬間、いきなりカトラスを抜いてショーウィンドウをカチ割ろうとしたナタリアを、俺はアイアンクローで脳天とっつかまえて取り押さえた。
「いだだだだだ、何しやがる! って……あ、おいっす」
「おいっす、じゃねぇ! お前こそ今、何しやがろうとした?」
「ナニって……笑わない?」
 真っ赤になって恥らうような顔を浮かべるナタリアだが、やろうとした事のギャップがありすぎて全く萌えられません。
「笑い事じゃねぇ片鱗が垣間見えたから止めたんだろうが!
 っていうか、ヌイグルミ欲しさにファンシーショップにカトラス抜いてカチコミに入る海賊がどこに居る!?」
「……み、見てたの?」
「だから、見ていたから止めたんだっつの! ったく、欲しいものがあったら金を払え!」
「お金が無い」
「んじゃ諦めろ! さもなきゃ働いて金を稼げ!」
「えーっ! もー、面倒だなぁ……」
 深々とため息をつくナタリア。
 まあ何にせよ、常識知らずの犯罪行為をストップできたと一安心……って、
「さらに待てぇぇぇぇぇい!!」
 抜きっぱなしのカトラスを肩にかついで、無造作な足取りで銀行めがけて歩いていくのを、再度、脳天ひっ掴んで取り押さえる。
「なんだよぉ! ちゃんと『働いて』金稼ごうとしてるじゃないか」
「だから、誰か悪事を働けと言った!?」
 労働行為のカテゴリーに『略奪』や『窃盗』という単語がデフォルトで入ってる、恐怖の海賊理論に思わず頭が痛くなる。
 ……やばい、家賃値上げした程度じゃ、マジ割りに合わなかったかも。
「必要以上は取ったりしないよ。やり過ぎると獲物が逃げやすくなるくらい、分かってるって」
「根本的に間違ってるって気づけ大馬鹿者! 窃盗も略奪も征服も不許可だ!」
 次の瞬間、ナタリアの顔が凍りついた。
「……ちょ、ちょっと待て。それじゃお前は一体、どうやって金を稼いでるんだ!?」
「アルバイトしたり、親が残したアパートの管理人したりして、地道にコツコツ稼いでるんだよ。お前のママだってパートしてるし、みんなちゃんと真面目に働いてるんだ!」
 説教をくれたとたん、ぐらっ、と傾くナタリア。
「魔界の二代目覇王候補が……アルバイトの学生で? アパートの管理人? 引退したママならともかく……なんて枯れてるんだ!」
「余計なお世話だっ!」
 さて、どうしたものやら。
 お馬鹿なやり取りを繰り返しながらも、目線はショーウィンドのヌイグルミに張り付いたまま、ナタリアは離れる様子を見せない。
 ……ったく。
「どれだよ」
「え?」
「欲しいのどれだ? 高いのは無理だぞ?」
「え? ……えっと……あの、ピンクの兎の……」
 ショーケースの中で指差したのは、比較的値段が手ごろな奴だった。
「OK、待ってろ」
 ピンク色で構成された店内に入るのは、少々勇気が要ったが……これで人外の略奪行為が抑えられると思えば安いものだ。
「いらっしゃいませ」
「あのショーケースの中にあった、ピンク色の兎のミドルサイズの奴。適当に包んでください」
「プレゼントですか?」
 店の入り口で待ってるナタリアに目を向けて、何か完全に誤解した店員の言葉に頭痛を覚えながらも、きっちり訂正。
「……どっちかつと、餌付け用の餌です」
「かしこまりました。可愛い彼女ですね」
 そのかわいいのが戦艦大和を駆って東京を火の海にしかけた事実を知らない店員さんの手によって、リボンやら何やらで更に乙女チックにデコレートされた兎のヌイグルミが渡される。
「ほれ、やる」
 で、入り口で待っていたナタリアに手渡す。
「あ、え? ……あ、その……」
「?」
 手渡されたヌイグルミを手に、なぜかナタリアは困惑していた。
「どうした、要らねぇのか? なら返してくるけど?」
「いや、そうじゃなくて……交換条件は何だ?」
 むっ。
「……お前、人から物貰った時に言うべき言葉も知らないのか?」
「え?」
「単刀直入で簡潔なのは結構だが、少しは礼節ってもんを知ったほうがいいんじゃないのか?」
「いや、違う! 違うんだ! ……その、ありがとう。感謝している」
「どういたしまして」
 ヌイグルミを抱きしめながら、頭を下げるナタリア。
 ……いかん。なんか交換条件切り出す空気でもなくなっちまった。まあ、ここは恩を売っておくだけでいいか。
「……で、その、なんなんだよ? 何か、条件があるんだろ?」
「馬鹿抜かせ、ただの気まぐれだ。次、同じ事が通じると思うなよ。二匹目のドジョウは無いと思え。
 ああ、まあ、しいて言うなら……我が家のご近所で、気安く騒ぎを起こすな。ママンにチクるぞ」
「それが条件?」
「うんにゃ、お願い。
 別に、またお前が暴れるつもりなら、それはそれで鉄拳を以って答えるしな。そのヌイグルミは、あくまで俺個人の気まぐれだ」
「舐められたモンだな、あたしも」
「ヌイグルミ程度で釣れる女だとか思ってねーだけだ。本気で口説くんなら特大サイズのダイヤの指輪あたりもっていくよ」
「……………ずるいな、チクショウ」
 ぎゅーっとヌイグルミを抱きしめるナタリア。
「……分かったよ。このご近所で暴れるのは、なるだけ控える。それでいいか?」
「あてにしないでいるよ。んじゃ、俺は『晩御飯』にいってくる」
「……ああ、そうか。確かに、ここは吸血鬼の猟場だもんな。そりゃ、お前が騒動を気に留めるのも当たり前だな」
「無節操に同属増やすつもりは無ぇよ。少しだけ、腹を満たす程度失敬させてもらうだけだ」

 人気の無い路地裏。
 虚ろな眼差しのまま立ち尽くすOL風の女の首筋に、俺は牙をあてがった。
「んっ、んぁあぁぁぁっ! あっ、あっ、あっ……」
 ずぷり、と牙が埋め込まれ、甘美な味が口に溢れ出す。
 快楽の毒に犯されて、情欲に染められた雌が、雄を発情させる匂いを全身から立ち上らせながら全身を震わせて……
「っぁあああっ!!」
 昇り詰めて達した女の体を、俺は路上へと放り出した。
「……さて、と」
 目を覗き込んで、かけていた『術』を解き、頬を叩く。
「失礼、お姉さん。こんな所で寝てると、風邪ひきますよ?」
「……んっ……あれ? ここ?」
「駅前の裏通りですよ。なんかベロンベロンでしたけど?」
「あ、あら、そう。ご、ごめんなさい! 飲みすぎちゃったみたいね、ありがとう。で……そ、その」
「なんもしてやしませんよ。ここら物騒だから、とっとと表通りに出たほうがいいですよ」
「あ、いや、そうじゃなくて……ご、ごめんなさいね、初対面の人に。おほほほ」
 軽く血をすった程度なので、流石に吸血鬼化はしないが……それでも、媚薬効果はごまかせないのだろう。顔を赤らめたまま、OLさんは立ち去っていった。
 ……まあ、暫く欲求不満になるだろうが、そのへんは勘弁してもらうとして。
「このへんにしておくか」
 ウッカリとハンターの人たちに見つかったら、また五月蝿い事になる。
 無駄に揉めるのも趣味じゃ無い……!?
「なんだ?」
 生臭い獣の匂いと、それに相応しい殺気に、全身が総毛立つ。
「っ!」
 とっさに飛び退いた空間を、爪が生えた足による斬撃が通り過ぎる。
「て、天狗?」
 なんというか……空手の胴衣姿に、天狗のお面を被った『生き物』がそこに居た。
 『生き物』と形容したのは、毛むくじゃらの手足と、そこから覗く鋭い爪。
 さらに……頭の上にピンッと立った秋田犬のような『三角形の犬耳』が、明らかに人外のモノだからだ。
 背丈は150前後と小柄だが、小型の格闘技者にありがちな、体格を大きく見せようと意識して大上段に構えるような事はせず、あくまで等身大に低く小さく纏まった構えをとっていた。
 そのため、全く隙が無い。
「ったく……天狗のお面に空手の構えですか。つくづく変人と縁が出来ていくな、おい」
『飯塚佐奈から手を引け』
 ボイスチェンジャーでもお面に仕込んであるのだろうか? 無機質に弄られた『犬耳天狗』の第一声が、それだった。
「はぁ?」
 疑問符が口をつくが、そんな事はお構い無しに『犬耳天狗』は言葉を続ける。
『飯塚佐奈から、手を引け。さもなくば、貴様を殺す』
「なんで、そんな事を初対面のお前さんに言われなきゃならん? っつか、あれは俺の女なんだが」
『血で呪縛したのだろう? 手を引け』
「あー、お前がどう思っているか知らんが、アレは血を吸われた程度で、言う事聞くような女じゃ」
 次の瞬間、愚風がみぞおちに文字通り『突き刺さった』。
 前蹴り……と、理解した時には、一直線に突き込まれた足を軸に、側頭部に捨て身の回し蹴りが炸裂していた。
「っ!!」
 辛うじて、回し蹴りのほうは腕を上げてガードするが、そこからアクロバティックな二段水面蹴りに移行され、たまらず飛び下がる。
 目が慣れなかった初弾は認識すらできなかった。半端じゃない速度だ。
「てっめぇ……」
 即座に俺は、一撃に賭けたカウンター勝負の構えを取った。
 どんなに速かろうが、結局は近接攻撃のみならば打撃で応じる事は不可能ではない。
 確かに速いしソリッドな爪の切れ味も脅威だが、単純な一発の破壊力ならば、こっちの鉄拳のほうが分があると見た。
 足を踏ん張って、突き刺さってかき回された内臓の傷を、再生能力をフル稼働させて修復しつつ、拳に魔力を込めて……
『次は殺すぞ……』
「!?」
 傷の修復で俺の機動力がゼロと見るや、それだけを言い残し……『犬耳天狗』は路地裏の屋根や壁を踏み台に跳ね上がると、どこかへと立ち去ってしまった。
 ……くそっ、速っえぇなチクショウ。

「……で、逃げられたの?」
「ん、まあな」
 大きなガーゼを当てて包帯代わりのサラシを巻きながら、佐奈が問いかけてくる。
 ちなみに、最初はセラがやっていたのだが、窓を開けてやってくるなり無理やり佐奈が押しのけてしまったのだ。
 もっとも、セラの奴も心得たモノで、最近は佐奈とは直接的に張り合わなくなってきたあたり……だんだん、手管が狡猾になってきたような気がするのは、気のせいだろうか?
 それはともかく、
「結構深いよ、この傷」
「分かってる。まあ、明日には完治してるさ」
 決して安易な意地や見栄じゃなく、今まで体験してきた傷の具合から、そう答えたのだが……
「……人間やめた私が言うのも何だけど、セイ君の身体能力もダークストーカー辞めてるわよねぇ……」
「同種の妖のくせに、ナニ抜かしてやがる」
「いや、背中まで貫通してるし、刺さった刃物が捻られてるから内臓器官ズッタズタなハズなのに」
「……まあ、気安く歩き回れるような軽い傷じゃあないけどさ」
 とはいえど。
「……ちょっと出かけてくる」
 包帯を巻き終えると、早急に確認すべき事を思い出し、俺は立ち上がった。
「ちょっ! そんな体で」
「ご主人様! 無茶です」
「心配すんな。一応、無敵のヴァンパイア様って奴だし、ちょっとした確認だけ……!?」
 次の瞬間、佐奈の奴が俺の手首を掴んで、引き倒した。
「野生動物ってさ。傷つくと凄い食欲で餌を食べるんだってね?」
「……………」
「また、あんな奴隷を増やす気?」
 ちらり、と隅に控えるセラに目線をやる佐奈。
「それは……」
 確かに、今、この衝動を最後まで完璧に自制する自信は無かった。だからこそ……
「やめろ佐奈……嫌なんだよ」
「愛してくれるんでしょう、セイ君?」
 脱ぎ捨てた私服の下から現れたのは、その淫靡な肉体を際立たせるような、黒いレースの下着姿だった。
「ね、胸。大きくなってるでしょう? セイ君が揉んだからだよ? それに、胸だけじゃないの……触って……」
 ぬるり、とした感触が、手のひらに押し付けられる。
「ここも……お尻の穴も。
 全部、セイ君が教えてくれたんだよ? セイ君が佐奈をこんなエッチな女の子に作り変えたんだよ?」
「だめだ、こんな時に!」
「こんな時だから、辛いんでしょう? ……ここも」
 服の上から、股間をなで上げられる。それだけで、反応してしまう。
「私、セイ君を愛してる。セイ君の心も、体も。全部、全部。
 だから……今、セイ君を苦しめてる、セイ君の理性の手綱を断ち切ってあげる」
 次の瞬間、唇が重なり、歯茎を舐りながら、犯すように佐奈の舌が割り込んでくる。
「……セイ君の欲望、私にちょうだい」
 囁きながら、舌を蠢かせる佐奈の表情は、どこまでも淫蕩に。
「んっ……んんんんんんっ!!」
 やがて、揉みしだかれ、勃起した乳首から母乳を溢れさせながら、逆に口の中を蹂躙されて目を見開く。
「っ……!」
 唇の端から首筋へと舌を這わせながら、俺は佐奈を逆に押し倒し……
「あああああああああああああああっ!!」
 首筋に牙をあてがわれた瞬間、淫魔が快楽に絶叫をあげた。
「あっくぅぅっ! いっ、いっ、あぁあああああぁぁひぃぃぃいいっ!!」
 どこまでも淫らな叫びを上げ、全ての雄を発情させる淫猥な香りを漂わせながら、怪しく裸身をくねらせる佐奈の血は、まぎれもない極上の美酒だ。
 だが……
「はぁあぁぁぁ、セイ君……」
「……佐奈」
 そのまま、俺は文字通り、佐奈を抱きしめた。
「……佐奈。ありがとう。俺も、佐奈を愛してる。
 でも、これじゃダメだ、ダメなんだよ!」
「どうして?
 私を犯して、ギンギンの勃起チ●ポオ●ンコにぶち込んで、ガンガン子宮まで突き上げて、ドロドロの勃起汁で私が真っ白になるまで射精して……それじゃ足りないの?」
「違う! 俺は飯塚佐奈を愛してるんだ。
 確かにお前とSEXしたい! お前を抱きたい! だけど……お前を壊したいわけじゃない! レイプしたいワケじゃないんだ!
 ……ごめん、上手い説明になっていないかもしれないし、その……勃ったままで言う言葉じゃないのかもしれないけど。大事にしたいんだ。お前のこと」
「セイ君……」
「……確かに、そんな思いは、俺の勝手だよ。
 『メス』の血をすすってレイプして陵辱して、性欲を満たすだけ穴にぶちまけて、そいつが孕もうが降ろそうが、知ったこっちゃ無い。
 そういう欲望や衝動が、確かに俺にはある。多分、男って生き物には全部、大なり小なりそういう欲望はあるんだろう。
 でも、よ。好きな女を衝動任せにレイプしちまったなんて……それは、男として耐えられるワケ無ぇだろ」
「セイ君……私は、いいの。私は、セイ君と一緒になりたくてこんな化け物に成り果てたの。セイ君の全てを受け止めるために、ダークストーカーになったの。
 私は、セイ君が苦しんでるのを見たくなんか無いの。だから……ね」
「ありがとう。その気持ちは嬉しい。でも……佐奈」
 キスをひとつ。
「俺は俺の我侭を通すよ」
「あっ……」
 優しく胸を撫で上げ、唇から首筋へ舌を這わせる。
「やっ、そんな……」
 妖艶にくねる体ごと抱き寄せながら、背筋から尻まで撫で上げ、キスの雨を首筋に。
「ひゃううううん!!」
「可愛いよ、佐奈」
 勃起した乳首から溢れ出る母乳を舐め取りながら、耳元で愛を囁く。
「やぁっ、そ、そんな」
「もっと、可愛い顔を見たいなぁ」
 胸を揉みしだきながら、乳首を弄る。
「やぁ、だめっ! そんな……」
「じゃあ、やめる?」
「あっ……だって、やめたらセイ君が」
「俺は、佐奈に聞いてるんだけど?」
 優しく佐奈の感じるポイントを、丁寧に撫で上げながら耳元で囁く。
「ひあぁうぅぅぅん!」
「ねぇ、佐奈は……どうしたい?」
 暫し……何かを堪えるように佐奈は沈黙し、
「……もっと。もっとセイ君を感じたい」
「それだけ?」
 再び、佐奈の体を、背筋から首筋まで撫で上げる。
「ひあぁぁぁっ……」
「俺を『感じる』だけでいいんだ? 欲しいんじゃないんだ?」
「……うぅぅぅ」
 快楽に悶える佐奈が、おずおずと肉竿へと手を伸ばす。
「……しぃ……」
「ん、なんだい?」
 優しく、頭を撫でてやりながら、聴きなおす。
「セイ君の……欲しい」
「俺の、何が欲しい?」
「セイ君の……セイ君のチ●ポほしいの! オマ●コぶちこんでグリグリ子宮突きあげて欲しいの! 勃起汁中でどくどくぶちまけて、ぐちゃぐちゃにして欲しいのぉ! お願い、このブットいチ●ポで佐奈のオマ●コズボズボしてぇぇぇぇぇ!!」
「よく言えました♪」
 羞恥をかなぐり捨て、欲望に絶叫する佐奈に、ごほうびのキスをひとつ。
「んむぅ……セイ君、セイ君!」
 快楽を求め、股間を摺り寄せてくる佐奈を仰向けに転がすと、M字開脚で足を広げて俺は先端をあてがった。
「これが、欲しいんだね?」
「それっ、ソレ欲しい! じらさないで! 頂戴! お願いぃぃぃ!」
 腰を振りながら、ねだる佐奈の下の口は、既にその旺盛な『食欲』を満たすべく淫らな涎を溢れさせていた。
「入れるよ」
 ズッ、ズブブブブブ、と、文字通り飲み込まれていく肉竿に、貪欲に肉ひだが絡みついて射精を促してくる。
「ぁぁぁぁぁあ、いいいい、チ●ポいいいい! 突いてぇ! 佐奈の子宮、チ●ポでゴリゴリ突いてぇぇぇ!」
「んっ、ああ、そうしてやるよっ!」
 腰を突き上げて胸を揉みしだきながら、溢れる母乳を舐める。
「チ●ぽ入れたとたんに母乳の味を濃くしやがって。どうしようもなくエロい体だな、佐奈は」
「ああぅぅぅ……やぁぁぁ、なんかセイ君が素でイジワルだよぉ」
「知らなかったのか? 俺は好きな奴ほどからかいたくなるんだ。例えば」
 乳首をつまみ上げ、乳房から絞るように揉み上げる。
「きゃううう!」
「こんなエロ乳を噴く胸とか、な」
「あぅぅぅ、だって、セイ君が……」
「俺のせいだってのか?」
 軽く腰を動かし、どろどろにぬかるむ膣内を攪拌してやる。
「ぅ……うぅぅ……きゃぅん!」
「……嬉しいよ、佐奈」
「え?」
 戸惑う佐奈の唇を、再びキスで塞ぎ……
「それじゃあ、もっとエロく作り変えてやろうかな」
 本格的に腰を動かして、佐奈の中から突き上げる。
「あぅっ、あっ、あっ! いい、気持ちいいぃぃぃ!」
「ふぅっ、ふぅっ、凄いぞ、佐奈。そうだ、もっと乱れてみせろ。俺が作り変えてやる。お前は俺の女だっ!」
 母乳を溢れさせる乳首にかぶりつき、すすりあげる。
「あきぃぃぃぃひぃぃぃぃぃ!!」
 白目を剥いて涎をこぼしながら、佐奈の肉ひだは絶頂に向かって蠕動を繰り返し……
「っ!!」
 俺はその貪欲に蠢く中に、精を吐き出し蹂躙する。
「はぁ、はぁ……」
「ふぅ……ぅ」
 共に絶頂に達したお互いが目を交わし……
「もっと」
「ああ、もっとだ」
 欲望のままに。
 佐奈は愛液が溢れる肉襞を締め上げ、俺は勃起したままの肉竿を中で動かした。

 快楽に緩みきり、体中の穴という穴から精液を溢れさせながら、虚ろな目で呼吸だけをしている。
 そんな佐奈の頭を、俺は優しく撫でてやった。
「……愛してるよ、佐奈」
 頬にキスを一つして、まぶたを閉じてやる。
「じゃあ、行ってくる」
 と、自室を出ると、台所兼玄関の前で控えていたセラが、例のマントを持って待っていた。
「要らねぇよ。俺には似合わん」
「戦いに行かれるのでしょう、ご主人様」
 深々と、ため息をつく。
「テメェも物好きだな。俺なんぞに仕えた所で、なんの得も無いぜ?」
「見損なわないでください。私が使えるべきご主人様は、私が決めます♪」
「……それ、どう考えても奴隷の台詞じゃねぇな」
「私は、ご主人様に使える『奴隷』である事に、喜びを覚えておりますから」
 にこやかに笑うセラ。
「……まったく」
 ため息をつくと、俺は台所の引き出しからぺティナイフを取り出し、右手の人差し指の指先に小さくキズをつける。
「ご主人様!?」
「ちょっと傷を作っちまった。バイキンでも入ったらコトだから、舐めてくれんか?」
 ぷっくりと小さな血の玉。
 おおよそ『それ』は下僕に与えるべき代物では無い。主の血を吸うのは、吸血鬼としての独立の証なのだが……
「か、かしこまりました」
 ちゅぷっ、ちゅぷっ、ピチャッ、ちゅぽっ……
 跪き、歓喜と喜悦の表情のまま、肉竿に奉仕するように、丹念に舐めるセラ。
「……もういいぞ」
「はい」
 その頭を、無言で撫でてやると、セラは淫蕩な表情で微笑んだ。
「セラ。俺が帰ってくるまで、佐奈の面倒を頼む」
「……」
 その表情に一瞬生まれた陰りを、あえて無視して俺は頼み込んだ。
「返事は?」
「……はい、かしこまりました」
「ん、頼むな。じゃあ、いってくる」
 そう言ってセラの頭をまた撫でると、俺は扉を開けて家を飛び出した。

「その質問には、答えられないわね」
 名も無き店の女店主が、椅子に腰掛けながら言い切った。
「言ったでしょう?
 私個人の希望はあっても、私の立場はあくまで中立。縁に従って、遺産を渡していく以上の権限は、本来許されていないの。
 確かに、君には魔界を統一し、闇と光との住み分けに尽力して欲しいとは思うけど、あくまでそれは私の希望。
 新たな『縁』の持ち主の情報を漏らすなんてしたら、遺産管理者としての私の立場が無いわ」
 そのまま、ふーっ、と葉巻を吹かして紫煙を吐き出す赤井美佐。
「じゃあ、何で俺の学校に、記憶操作までして顔を出しやがった?」
「単純な話。『縁』の持ち主が、あの学校にはとても多いのよ。そう、君みたいな、ね。
 それに……」
 くすり、と淫靡な笑みを浮かべ、
「食べ甲斐のある、美味しそうな童貞君も一杯いるしね。フフフ♪」
 限りなく邪悪に笑ってのける、元淫魔。やはり、人間になっても本性は隠せないのだろう。
「まあ、これでも、色々と賛否のある立場なの。分かって貰えると嬉しいんだけど」
「そうか。邪魔をしたな」
 席を立つ。確認すべき事は終わった。
 が……
「しかし、分からないわね。あなたには、とっくにあのヴェアウルフが誰だか、分かってるんじゃなくて?」
 声をかけてきた赤井美佐に俺は肩をすくめた。
「別に質問するだけならタダだろう? あんたの立場の再確認も兼ねての、いわゆるダメ元って奴だよ。
 ああそれと、ひとつ気になったんだが、あんたを殺したとして、その『遺産』を俺が全部破壊したとしたら、どうなる?」
「それは無駄に終わるわ。『縁』の力ってのは、本来私がいなくても、継ぐべき者の手に何らかの形で渡るものよ。
 それに……悪いけど、私が管理しているモノを黙って壊させるつもりも無いし、ヒヨっ子のあなたにタダで殺されてやる程度の生き方はしていないわ。遺産の管理者を舐めないでちょうだい」
 艶然と微笑む赤井美佐の笑顔に、俺はため息をついた。
「……………やっぱ、ただの元側室ってワケじゃないな、あんた?」
「でなければ遺産管理者なんてやっていません♪」
「違いない」

 町の東側が、薄ぼんやりと明るくなっていく。
 ケータイの画面を明けて時刻を確認すると、午前三時を回っていた。
 ……夜明け、近いな。
 公園のベンチに腰掛けながら、中天にかかる月を眺める。
『……別れは済ませてきたか?』
 背後に現れた気配の問いに、俺は笑いながら背もたれごと椅子を斜めに浮かせて、そり返る形で後ろを向く。
「……常在戦場は武門の常。なればこそ一期一会の心構えを怠るべからず。お前の姉ちゃんに、よく説かれたもんだ」
 上下逆さの視界の中、現れた胴着姿の『犬耳天狗』に、俺は笑いかけた。
「なあ、遠藤」
 天狗のお面の下から現れたその素顔は、紛れも無く。
「……流石に、分かっちまったか」
「当たり前だ。何度お前と異種格闘技戦したと思ってる」
 俺の親友……遠藤 裕(えんどう ゆう)の顔だった。

< 続く >

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