サイミン狂想曲 第六話

第六話

 始まるまでは長いが、始まってしまうとあっという間に終わるのが夏休みと冬休みと、それに定期試験だ。真由、清美ちゃん、リンダちゃん、菜々子ちゃんの、美少女四人を手に入れて浮かれていた僕は、テストのことをすっかり忘れて、ぶつけ本番でテストに臨むことになり、まな板の上の鯉の気分を実に切実なものとして味わった。

 そんなわけで、テスト明けには成績上位者の名前が廊下に張り出される。普段だと、一位は門倉生徒会長、二位は清美ちゃんというのが指定席になっている。僕は昼休み、真由と清美ちゃんと一緒に、掲示されたトップランカーの名前を確かめに来ていた。張りだされた紙には、大きく次のように名前が印刷されている。

『一位:鹿野清美
 二位:門倉大吾郎
 三位:西園寺麗
 四位:…………』

「清美先輩、すごぉい! 学年一位になったのって、初めてじゃないですか!?」

 真由が、歓声を上げる。当の清美ちゃんは目を丸くさせたまま、まぶたをぱちぱちさせて、イマイチ実感を感じていない様子だ。

「本当にすごいね、清美ちゃん。色々と僕が迷惑かけちゃったから、テストの成績にも響くんじゃないかって、心配していたんだけど……」

 僕は苦笑いしながら、清美ちゃんに声をかける。実際、清美ちゃんの精神をいじくり回したのは事実なので、成績にも悪影響が出るのではないかというのが本心だった。清美ちゃんは、ややうつむき気味で、両手の人差し指をすり合わせている。

「その……小野村くんに、色々なことしてもらってから……なんだか、気分がすっきりしちゃって……最近、寝付きが悪かったのも治ってきて……授業や勉強に集中できたんです……」

 清美ちゃんは顔を紅潮させて、「ありがとうございます」と付け加える。僕の『お楽しみ』は、清美ちゃんのストレスを解消させ、学業に思わぬ好影響を与えたみたいだ。また一つ良いことをしたなぁ、と僕は悦に浸る。聞けば、リンダちゃんと菜々子ちゃんは、成績を現状維持し、真由に至っては微妙にプラスしているらしい。女子は、こう言う時に本当にしっかりしている。

「ところで、お兄ちゃんはテストどうだったの?」

 真由が、尋ねてくる。

「うん。赤点のレポート提出は、二科目に抑えた」

 僕が胸を張って誇らしげに答えると、真由はあきれたような視線を返してくる。

「全く……自慢するようなことじゃないでしょう?」

 背後から真由以上にあきれ果てた声が投げかける。振り返ると、担任の理香子先生の姿があった。先生は、真由と清美ちゃんに微笑みかけると、僕を見下ろすようににらみつける。

「小野村くん、今回は大分成績が悪かったみたいだけど、自主的な課外活動に精を出し過ぎたんじゃないの?」

 強い皮肉を含んだ言葉をかけられる。もっとも清美ちゃんには僕に都合のいい報告をしてもらっているから、決定的な証拠はつかめていないはずだ。慣れたものなので、僕は肩をすくめる。

「先生、生徒のことは信じるものですよ?」

 いつもなら先生はここでため息をつく。だが、今日の理香子先生は強気な態度を崩さずにやりと笑う。

「ぬらりくらりとしてられるのも、今のうちよ?」

「あれ? 先生、今日はすごい自信ですね」

「えぇ。今度、学内に防犯カメラが設置される予定なの。覗き、盗撮の防止目的でね。ある人が、寄付してくれることになったのよ」

 自信満々で言った先生を、僕は唖然として見つめ返した。

 放課後、僕はカバンを肩にかけて早々に教室を抜け出した。テスト前にオークションにかけたリンダちゃんのブラジャーを落札者に手渡すためだ。最終的に、五万円強という高額な値が付いている。校舎と体育館の間を抜けて、学校の敷地の裏側に向かう。落札したのは、何と門倉生徒会長だった。

 小走りに歩きながら、先生の言っていたことを考える。防犯カメラの設置……写真はイイナリカノジョになってくれた四人をモデルに撮影すればいいから問題は少ないが、やはり何かとやりにくくなる。何より、ここまで思い通りに行っているのに、活動を制限させられることになるのは面白くない。

 旧校舎前に来た。ひびの入った窓ガラスに、塗装のはげかかった木造の壁は、いつ見ても陰気な印象を与える。廃校舎裏で、落札者とは落ち合う予定だ。

 立ち入り禁止と書かれた紙が貼られた旧校舎の玄関で人影が動く。あれ? 生徒会長、旧校舎の中で待っていたのかな、と思ったが、すぐに違うと気が付いた。人影は二人組だったのだ。

「カバンの中身を置いていけ……」

 低い声が影から聞こえてくる。続いて、二人の人影が姿を現した。片方は顔に包帯をぐるぐる巻きにし、もう一人はサングラスにマスクをつけて顔を隠している。服装は、ウチの学校の男子制服。包帯男は手に金属バットを、サングラスマスクは竹刀を握り、険呑な気配を漂わす。身の危険を感じた時には、もう遅い。サングラスに片手を掴まれると、強引に地面に倒され、包帯男が金属バットを頭につきつける。

「な、な……なにをするんだッ!?」

 僕は、裏返った声を上げる。

「……カバンの中身を渡せと言っている」

 サングラスが、もう一度低い声で言った。カバンの中身……僕は、考えを巡らせる。もしかして。

「……リンダちゃんのブラを渡せってこと?」

 僕の言葉に、二人組が動きを止める。息の詰まる沈黙が、旧校舎前に満ちる。

「……なにさらしてるんじゃ! ごるぁあッ!!」

 沈黙は、突如として破られた。門倉生徒会長の怒声だった。その場にいた誰にも反応するスキを与えず、生徒会長の巨体が踊りこむ。仰向けに倒れた僕の身体の上で、生徒会長の剛腕が空を切る。左右の丸太のような腕が、包帯男とサングラスマスクののど元にめり込んだ。見事なラリアットで、二人組は一瞬でダウンを奪われる。

 どうにか僕が身を起こすと、生徒会長は無言で、包帯とマスクとサングラスをはぎ取る。二人組の素顔は僕の知っている顔だった。僕が盗撮写真を取引している男子のうちの二人だ。

 どうやら、この二人組はリンダちゃんのブラを強奪するつもりだったらしい。全く、僕は学校の男子の幸せのために活動しているのに、恩を仇で返すようなことをするなんて……僕は、内心、ひどく憤慨した。

「生徒会長、ありがとう……」

 それでも、生徒会長のおかげで難を逃れることができた。僕は、門倉生徒会長に感謝の意を伝える。

「全く、小野村はスキだらけだ……少しは気をつけろ……ッ!」

 生徒会長のあきれと怒りのこもった声が浴びせられる。そう言えば、生徒会長は成績順位が一位から二位に下がったわけで、機嫌が悪いのかもしれない。まったく、この二人組は運が悪いな。

「さぁ、早く例のものを渡せ」

 門倉生徒会長が倒れた二人組を足げにしながら、右手を差し出す。僕は、はっと大切なことを思い出す。

「ねえ、生徒会長。理香子先生が、防犯カメラがどうのこうのって言ってたんだけど……何か知らない?」

「あぁ……お前にとっては、死活問題だよな……」

 生徒会長が同情したような表情で、ため息をついてうなずく。

「生徒会とは関係ないところで話が進んでいるみたいで、俺も詳しいことは知らんのだがな。女子テニス部の西園寺が、何か口出ししているってウワサだ……」

 僕は、成績発表の時に書いてあった三位の西園寺麗という名前を思い出す。僕は、「ありがとう」とあらためて礼を告げ、カバンからリンダちゃんのブラジャーを詰めた紙袋を取り出し、手渡す。生徒会長は、中身を確かめると自分のカバンにしまった。のされた二人組の首根っこを掴むと、僕に背を向ける。

「待ってよ。生徒会長! お金がまだだよ!?」

「ボディガード代と、情報代で、チャラだ」

 二人組を引きずり廃校舎から去る生徒会長に、唖然とする僕は置いてけぼりとなった。

 昨日の襲撃事件から丸一日たって、放課後。僕は校庭の隅に置かれたベンチに、ぼんやりと座っている。野球部やサッカー部の歓声が響くグラウンド中心から離れた場所で、目の前にはテニスコートと部室棟が位置している。テニスコートには人影がない。今日は、男子テニス部は外部での練習試合に向かい、女子テニス部は今、部室でミーティング中のはずだからだ。僕の視線は、女子テニス部員が集まっているだろう部室棟に向いている。

 昨日、五万円強の売り上げを逃した僕だが、落ち込んでいる間はなく、すぐにそのショックから立ち直った。生徒会長から手に入れた「女子テニス部の西園寺麗」という情報をもとに、作戦を考え、その準備をした。すでに、昼休みに必要なものと情報を渡したリンダちゃんが、何食わぬ顔で女子テニス部の部室にいるはずだ。リンダちゃんと、件の西園寺麗は、以前から交友があったと言う。

 リンダちゃんには、以前使った動画と同じ仕組みで作った催眠ムービーを渡してある。もちろん、ここ数日の催眠の経験を元にさらに効果が上がるように調整したもので、パッと見はテニスのトレーニング動画に見せかけてある。テニスのラケットを振る動きが、振り子の代わりをする仕組みだ。それを、リンダちゃんが「アメリカから持ってきた最新のトレーニングビデオ」と称して、女子テニス部員に見せる……という手はずになっている。

 僕が足をぶらぶらさせて、しばし、緊張と興奮を感じながら待っていると、携帯が着信を知らせる。相手は、もちろんリンダちゃんだ。僕は、通話ボタンを押す。

「あ、賢チャン? 上手くいったヨ~」

 僕は一人にやりと笑うと、電話を切る。ベンチから立ち上がり、部室棟に足を踏み入れた。目指すは、女子テニスの部室だ。

 僕がその部屋の扉を開けて中に入ると、異様な光景が広がっていた。ユニフォーム着替える前の制服姿の女子部員たちが、一様に無表情な顔でモニターを見つめている。部室に設置されたテレビモニターには、テニス選手がラケットを振る姿が延々とループしている。

 モニターの横に、リンダちゃんが立っていた。リンダちゃんの表情がパッとほころび、僕の名前を呼ぼうとする。僕は、唇の前で人差し指を立てて、「静かにするように」のジェスチャーを取った。リンダちゃんが、慌てて口をふさぐ。僕は部室の扉を閉め、念のため、内側から鍵をかける。

「賢チャン。スゴイ、良く効いているヨ~」

 リンダちゃんが僕のもとに歩み寄って、ささやいた。確かに、女子テニス部員たちは、一心不乱にモニターを見つめ、部外者の男子である僕に見向きもしない。リンダちゃんが催眠ムービーに合わせて初期催眠を施し、既にトランス状態に陥っているのだ。僕は無抵抗な女子部員たちの顔と肢体を見回しながら、値踏みする。顔立ちが整って、スタイルも良い娘が多い。ただ、僕の隣にいるリンダちゃん始め、レベルの高い女子に慣れてしまうと若干見劣りする気がする。慣れと言うモノは、恐ろしい。

「はい。テニス部のみなさん、画面を見ながら、僕の声を聞いてね?」

 とりあえず僕は、女子テニス部員たちに催眠を施すことにする。

「みなさんは、僕の声しか聞こえない。僕の声を良く聞いて、従ってしまう……良いですね?」

「……はい……」

 部員たちは、虚ろな声で一斉に返事をする。動画による予備催眠が予想以上の効果を示しているようだ。

「女子テニス部に、ビデオカメラはあるかな?」

「……はい……試合撮影用に、一台あります……」

 彼女たちのうち背の高い一人が、僕の質問に答える。

「では、これからは、練習前後の着替えを撮影するんだ。着替え撮影は、女子テニス部にとって当たり前のことで、皆は疑問に思わない……名簿順に、撮影係を交代するように。いいね?」

「……はい、わかりました……これからは、着替えを撮影します……」

 女子部員が虚ろな声をそろえて、一斉に唱和する。

「じゃあ、これから着替えて、部活動に向かうように。ただし、部室に残っている人間を、みんなは知覚することはできない。あと、西園寺麗さんは、ここに残るように」

「……はい……」

 彼女たちは、フラフラと立ち上がり、僕が見ている前でユニフォームに着替え始める。一番年少者らしき部員が戸棚からカメラを取り出し、着替えの様子を撮影する。目に宿った意志の光が弱い以外は、あくまで当然のように制服を脱ぎ、下着姿となって、すらりとした手足に白いユニフォームの袖を通していく。やがて、テニスラケットを手に取り、女子部員たちは部室の外へと出ていった。

 ただ一人、パイプイスに腰をかけたまま動けないでいる部員が一人いる。彼女は、僕のことをキッとにらみつけていた。

「あなた……ワタクシたちに、いったい何をしましたのッ!?」

 凛とした声音で僕を怒鳴りつける彼女こそが、女子テニス部の部長、西園寺麗だ。スリムできゃしゃな人形のような体型で、四肢はスラリと長く胸は薄い、スレンダーという言葉が似合う体格をしている。目は切れ長の吊り目で、どこか人を威圧するようなプライドの高さを感じさせる。栗色の髪は、身体とは逆にゴージャスなボリュームがあり、縦方向のらせん状にロールした髪の束が彼女の頭から二本ぶら下がっている。

 西園寺麗の名前を生徒会長から聞いたとき、僕もピンと来た。彼女は、超巨大財閥・西園寺家の令嬢で、文字通り身分の高いお嬢様なのだ。もっとも、彼女のプライドは疑いようのない実力に裏打ちされている。成績は、生徒会長や清美ちゃんに比べるとやや劣るが、それでもベスト5を下回ったことはない。テニスにおいても、実力は全国大会で通用するレベルだ。前回の生徒会長選挙では、門倉生徒会長の対立候補として立候補しており、女子たちから高い支持を集め、最後の最後まで競り合いを演じている。この選挙は、門倉生徒会長が選挙管理委員を脅し、ゆすったから、どうにか勝てたのだ……というウワサも流れているくらいだ。

「ちょっと、ワタクシの話を聞いてましてッ!?」

 麗ちゃんは、強い調子で声を上げる。僕の指示通りに、パイプイスから動こうとはしないが、彼女の表情はとても催眠の影響下にあるようには見られない。

「う~ん……菜々子ちゃんと同じ、催眠が効きにくいタイプなんだなぁ。まあ、こんな勝気な性格なら、当然と言えば当然かぁ」

 僕の催眠は、精神よりも身体のほうに効果が出やすいのかもしれない。僕は、まじまじと麗ちゃんの様子を観察する。それが、麗ちゃんの気に障ったのか、彼女はただでさえ吊り上がった目尻をさらに吊り上げ、語気を荒げる。

「ワタクシは状況を説明なさい、と言っているのッ!! リンダさん! どういうことなのか、ワタクシに教えなさい!!」

 僕に聞いても無駄だと考えたのか、質問の矛先がリンダちゃんに向かう。リンダちゃんは麗ちゃんにニッと笑い返すと、僕のほうに歩み寄り、身を寄せる。僕は、麗ちゃんに見せつけるように、リンダちゃんを抱きとめる。

「麗サン、ゴメンナサ~イ。ワタシ、賢チャンの、イイナリなノ~」

 麗ちゃんが驚愕に目を見開く中、リンダちゃんが楽しそうに返事をする。僕は、ブラウスの上からリンダちゃんの乳房を両手で鷲掴みにする。

「アァンッ! 賢チャン、お願イ……直接触っテェ?」

 リンダちゃんは自ら服を破くような勢いでブラウスのボタンを外し、ブラから白い乳肉をこぼれさせる。僕は、左手の指を直にリンダちゃんの胸に実る果肉に沈めこませると、右手をスカートの中に忍び込ませる。リンダちゃんのショーツの中へ無遠慮に手を突っ込むと、人差し指を秘裂に差し込む。既に濡れそぼったぬめる感触が、指先を包み込む。僕は、温かく艶めかしいリンダちゃんの蜜壺を人差し指でかき回す。

「アァッ! 賢チャン、ワタシ……ゥンッ、イイッ!!」

 リンダちゃんが身を強張らせると、彼女の秘所から蜜液が噴き出し、僕の右手を汚す。気だるげに肉悦の余韻に浸っているリンダちゃんの前に、粘液にまみれた右手を差し出した。

「リンダちゃん。汚れちゃったから、なめてキレイにしてよ?」

「ン……ハァイ……」

 リンダちゃんが潤んだ瞳を僕に向けると、甘えるような声を返す。舌を伸ばし、迷うこなく僕の手のひらをなめはじめた。ぴちゃ、ぴちゃりといやらしい水音が、テニス部の部室に響く。リンダちゃんの舌肉が僕の手を這う感触がくすぐったく、心地よい。

「麗ちゃん、わかったかな? リンダちゃんは、催眠術の力で僕のイイナリなんだよ。テニス部の皆にも、同じことをさせてもらっただけ」

 僕は、麗ちゃんを見下ろしながら言った。

「あなた……思い出しましたわ。小野村、とかいう男ですわね? 学園の盗撮犯として、悪名高い……」

「失礼なこと言わないでよ。証拠はないはずだよ?」

 僕の声が、麗ちゃんの耳に届いた様子はない。彼女の顔が、見る間に赤くなってくる。

「……このッ!! 女の敵ッ!!!!」

 耳をつんざくほどのの麗ちゃんの怒声が部室に響き、僕は反射的に両手で耳をふさぐ。

「催眠術で、いいなりに……!? そんなことが実際にできるとは思えませんけれど、仮にできるとして、やって良いことと悪いことの区別すらつかなくてッ!? これだから、この学校の男子は信用できませんわ!! 先生方はうまくごまかしているつもりかもしれませんけど、このワタクシが、あなたの悪行を把握していないとでも思いましてッ!?」

 リンダちゃんが一息に僕をののしり、荒く息をつく。パイプイスから僕を見上げながら、表情に怒りとさげすみの色が浮かんでいる。

「ワタクシが、あなたの卑劣な犯罪行為を黙って見逃すとでも!? もう、手は打ってありますわッ!!」

 麗ちゃんは、得意げに宣言した。

「それって、学内に設置される防犯カメラのこと?」

 僕が聞き返すと、麗ちゃんは意外そうな顔をする。

「あら、良く知っていますね? その通りですわ」

「親御さんに頼んで、カメラを寄付してもらうことにしたわけ?」

「人を親のすねかじりみたいに言われては心外ですわ。ワタクシのポケットマネーからでしてよ!」

 ポケットマネーって……監視カメラにいくらかかって、麗ちゃんはどれくらいのお小遣いをもらっているのだろう? 庶民の僕からは、想像もつかない額なのは間違いない。

「ふぅん……麗ちゃんが自由にできるお金ってすごいんだねぇ。僕も、便乗させてもらおうかなぁ?」

「は? あなた、いったい何を言って……」

 僕が邪悪な笑みを浮かべると、麗ちゃんは何を言っているだ、といった顔をする。

「いや、なにね。これから麗ちゃんを『説得』して……防犯カメラの設置を中止してもらって、そのついでに僕のスポンサーにでもなってもらおうかと思ってね」

 麗ちゃんが、ハッとしたような表情に変わる。

「あなたのお得意の催眠術とやらを使って? フン、冗談ではありませんわ……そのあと、私の身体をはずかしめて、手篭めにするおつもりなのでしょう!?」

 麗ちゃんは自信に満ちた態度で、拒絶の意志を表明する。

「麗ちゃんは、わかってないなぁ」

 僕があきれた表情で麗ちゃんを見下ろす。僕が何を言っているのか理解できなかったためか、初めて彼女の表情に戸惑いの色が浮かぶ。

「わかっていないって……どういう……?」

「麗ちゃんの身体になんか興味ないよ。貧相なんだもの」

「なっ……!?」

 僕の言葉を聞いてショックを受けたのか、麗ちゃんの表情から感情の色が抜け落ちる。散々言いたい放題言われた僕は、これ幸いと腹いせに言葉をたたみ込む。

「麗ちゃんは胸もぺったんこだし、脚は細くてきれいだけど、それだけだよね。リンダちゃんはおろか、清美ちゃんや菜々子ちゃんにも敵わないよ。ロリボディだったら、ウチの真由で間に合っているし……」

「そんな……あなたがわかっていないだけですわ……西園寺家の令嬢は、あらゆる分野で……それこそ、内面でも、外面でもトップクラスでしてよ?」

「負けを認められないなんて見苦しいよ? まぁ、取り巻きにちやほやされていては、気付かないのも無理ないかもね」

 僕は、制服のポケットから、もはや愛用品となった五円玉の振り子を取り出して、麗ちゃんの前に歩み出る。麗ちゃんの視線は小刻みにぶれて、表情はプライドを傷つけられた怒りとも怯えともつかない色に染まっていた。

< 続く >

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