十二の指環 第一章 双児編

第一章 双児編

 ゲーム開始より一日が経過しました。第四の契約者以外は、慎重に力を使い、力を順調に蓄えております。。第四の契約者は、力試しをしている最中と見受けられました。故に、探知系の契約者には居場所は割れているのは確実です。
 それから、『魔術の本場』の契約者はすべて同盟を結んでおり、潰し合いはないかと。ですが、『倭国』にて、第三の契約者が第四の契約者へと攻め入る動きが有り、現在の位置からすると本日中に遭遇、戦闘となる見通しです。
 では、今日もお楽しみ下さいませ。

* * *

幕間、あるいは舞台裏

「う~~~~~あ~~~~~~~」
 俺、時原達史、絶賛反省中!
 ってコマーシャルみたいな言い回しをしているテンションでもなくて。
 そう、昨日の人妻たちの乱交パーティーについての反省である。俺としたことが快感に流されてしまって目的は果たせず、牛島家と犬飼家のエログッズ(箱入り)を持って帰ってきてしまったこと。そして、エロ描写もなんだか下手だし・・・

 作者:この点に関してはまだまだ精進を致すつもりですので、あたたかい目でご覧ください。ってうるさい!

 とはいえ、わかったことも色々ある。まずは、誤認についてのことだ。というかほとんどこれについてしかない。
 あの犬飼さんのところでの野外セックスだが、通行人には俺、もとい牛島さんの姿を借りている俺が犬飼さん、もといまんま犬をいじっているように見えた、ということだ。通行人に触って確かめたので疑いようはない。
 うまいな、と思ったのは俺が犬にやっているそのままの行為ではなく、見た本人がおかしくないレベルにまで改変されているということだ。つまり、ある人には犬をかわいがっているように、又ある人には犬を洗っているように見えた、ということである。
 このことから考えると、ある程度ねじ曲げられて伝わる、ということだろう。牛島さんの旦那に化けた時も牛島さんに化けた時も口調への違和感は感じられなかった。だから、五感に作用すると考えていいと思う。
 次に思考加速についてだ。家に帰ってからも使用してみたが、スーパースローカメラなんて目じゃないくらい、それこそあの時言っていた時を止めるに等しい能力だ。ただし、自分もそれに巻き込まれるのでオラオラオラオラとかはできないのだろう。
 ってやっぱり鬼畜な行動に走りすぎだろ俺っ・・・なんだか四色猫とか擬音っぽい名前が思い浮かんだが、気のせいだ、よな?

 【このへんの説明で作者がいかに掲示板の感想に宛てられた質問、疑問、感想とかに振り回され、失礼、影響を受けているかがわかるな】
 『全くだね。これを読んでいる皆さんも、疑問質問をBBSに書き込むとほぼ確実に影響を受けるから、気軽に書き込んでください!』
 作者:む。天使と悪魔か。確かに事実だけど、えーと、うん。事実です。まだまだ下手ですが感想とかバシバシ書き込んでください!参考になっちゃいますが。ネタ投稿とかも歓迎ですよ?(半分冗談)

* * *

 さて。学校サボり二日目。今日は相馬さんをじっくりしっかり落とす、予定だ。昨日気付いたけど、やっぱり民家じゃ狭すぎる。かと言って千鳥のマンションを拠点にするのはちょっと・・・。遠いし、住所の問題もある。だけど、家の近くで大きなところと言ったら、公民館、学校、真後ろの中病院、坂名団地[さかなだんち]くらいか。遠ければ親戚の道場っていう手もあるんだが、何処にしよう・・・。
 テクテクと歩いて行くと、阿仁間町のはずれにある相馬さんのうちにたどり着いた。
 ちなみにいまの俺の格好は、汚れてもいい長ズボンに半袖Tシャツ。大体暖かい頃はこの格好で、寒くなると上に着るようになる。年中長ズボンなので、暑苦しいと言われるが。
 それと、紙袋を下げている。言うまでもなく、アダルトグッズだ。
 さて、今回は何に化けようか・・・・

 『やっぱりここは本人のままで!』
 【いやいやセールスマンだろ?】
 『それもいいね、う~ん』
 【じゃ、セールスマンの格好だけ採用ってのはどうだ?】
 『いただきだねっ。紙袋はアタッシュケースみたいな?』
 【そ~そ~、それ。久しぶりに意見があったな】
 『全くだね』
 【やっぱりディティール的にこんなのが】
 『そうそう、もう少しここがこうだといいな』
 【確かにその通りだ。だが、ここをあえて残すことにより・・・】

 なんか色々話し合ってるが結論は出たみたいなので、素直に従う。よっ、と。一瞬でセールスマンのようにスーツ姿に変わる、というか見せかける俺。じゃあ、落とし方もよく見かける感じで・・・

 ピーンポーン ピーンポーン

「はーい、相馬ですー」
「こんにちは、はじめまして」
「どうも、こんにちは」
 少し不審げな顔をする相馬さん。というか、普通に綺麗だ。年上の人にこんな表現はダメだろうとはわかってはいるが、背はそこそこ、顔はカワイイ系、スタイルはキュッキュッボン、といった形で、貧乳だが尻がぷるりとしていて綺麗だ。実はおっぱいよりも、尻フェチな俺には嬉しい条件だ。
 というかスッピンでのその肌の張りは一体?というぐらいピカピカでやわらかそうな肌。ふわりとした上着、といえばいいのだろうか、淡い水色のカットソー。その下にはこれまた黒っぽい青のキャミソール。下は、タイトスカートで、おしりのラインが丸見えである。深いスリットが入っていて、美脚もプラスされている。パンツもあと少しで見えそうなのだが、見えない。だが、それがいい!
 とにかく、ムッチムチのお尻を揺らして歩く姿は、実に扇情的だ。
 大人っぽい格好もそうだが、纏う肉体の方も十分大人だ。どこかの童顔先生とはえらい違いだと思うね。
「はい、私は××会社の時原と申します。今回、契約の更新と新商品の紹介に参りました」
 スラスラとよどみなくしゃべる俺に、天使悪魔コンビは驚いている。
 まあ、砕けた口調でも誤認による補正がかかるから平気なんだけど。
 話を聞きながらも、プルプルと揺れる美尻。
 今決定。この人はアナルを責める。
「あの、契約って」
「ええ、中で確認しますので、とりあえずは玄関の方へ移動させてもらってもよろしいでしょうか?」
「は、はい。どうぞ」
 俺の気迫に押されたのか、門扉を開けて玄関まで案内してくれる美人若妻。
 EDなんて旦那もこの人ももったいない・・・

「それでは契約内容についてですが、・・・・・・・・・・」
 玄関から居間へと居場所を変えた俺達。今はお茶を出されて契約についての話をしている。
 ここの夫婦は二人暮らしで性交渉なしなので、相馬さんは時間を持て余しているようだ。
 契約内容については、適当に横文字などを並べておく。ま、思考操作もあるのでただ喋っているだけになっている。
「では、この紙に判子とサインをお願いします。奥様の名前で結構ですよ、どうぞ」
「え、ええ」
 契約書には有無を言わせず目を通させずに、出されたままサラサラと書かせる。

「どうぞ」
「ありがとうございます。それでは、商品の説明に入らせていただきます」
 アタッシュケース、ではなく紙袋からアダルトグッズを取り出す、そのまえに前にアナル用に使えるやつで、何を持ってきたか確認。
 ローション、バイブ、ギャグボール、ロープ、アナル拡張器具、利尿剤、色々なタイプが揃った筋弛緩剤などがある。
 殆どが犬飼さんだが、最後の二つの薬は牛島さんからだ。昔薬剤師だったそうで、せっかくなので調合してもらったり、在庫を取り寄せてもらったりした。うちに帰ればもっといろいろな薬がある。浣腸とか。好みだけど片付け大変だしなぁ。
「ではまず、この利尿剤からです」
「この利尿剤は、即効性があり、効き目も強力です」
「すこし間違えると脱水症状が起こり、気をつけなければなりません」
「大体服用してから四時間ほどで効果が現れます。そうですね、今からだとちょうどお昼になりますね。これは・・・・・・・」
 ちなみに現在は九時過ぎである。
「は、はあ」
 相馬さんは圧倒されている。話しながら、飲み薬、軟膏、掛けるだけの液状とセットになった「超」強力筋弛緩剤のケースを左手でポケットに滑りこませる。普通の筋弛緩剤を、どうやったら三種類に分解して、かつ強力にするなんてことが出来るんだろう・・。もしかすると牛島さんって危ない人だったのかな。それはともかく、何かに使えるかもしれないし、入れておこう。
 思考加速を使えるようになってからは、別々のことを上手にやれるようになった。今の俺なら、演説をしながら携帯ゲームで遊ぶこともおそらく可能だろう。
「では、次の商品の説明に参りましょう」
 それは置いといて。そろそろ次の商品に移ろうか。
 今紹介中の利尿剤はすれすれ(でアウト)だが、まだ普通である。
 だが、これからはエロくなってくるので少しばかり思考に制限をかけさせてもらわなければ。

 ―――――――今から俺がセールスする商品は、普通だ。誰が見ても何もおかしいと思わない、普通のセールスだ。それに違和感を感じることはない。商品は実に便利なもので、自分も使いたくなってくる。もちろん、お試しで使ってみるかと言われたら、使うに決まっている。なぜならそれはとても魅力的で、使うのになんのためらいもない。

「んっ」
 思考操作したとき特有の、喘ぎに近い息。
「奥さん。次にご紹介するのは、これです」
 そう言って取り出したのはローションとアナル拡張器具だ。拡張器具は別名アナルバルーン。肛門に入れてから膨らますものらしい。使うのは今日が初めてだ。
「さて次に紹介するのはこちら、ローションとアナルバルーンです」
 そういって、お茶をすする。
 それにつられ、利尿剤が入ったお茶を相馬さんが飲んでします。いや、飲まないとこっちが困るんだけどね?
 チラリ、と相馬さんを伺うが、アナルバルーンなどの卑猥な言葉を聞いてもなんの反応もない。成功のようだ。
「まず、このローションは肛門専門です。普段使うことのない肛門をいじめるとき用にに、特に痛みや傷などを防ぐことを重視したものです。また、これには快感のみに敏感になる作用もついておりまして、奥様に使うとものすごい快感が得られると思いますよ」
「まあ」
 こんな卑猥なことを言われているにもかかわらず、顔色一つ変えずに驚いている。
「そして、こちらはアナルバルーンです」
 そう言って全体が黒く、手榴弾のように膨らんだところからチューブが伸びており、チューブより二回りほど太い棒状のものが付いている。大体俺の人差し指ぐらいの太さだと思ってもらってもいいだろう。
「あら、結構細いのね」
「そうですね、これは比較的素人向けで、刺激もできるだけ少なくなるよう開発されたものですので」
 あらら、清純を気取る若奥さまがこんなエロイ話題に夢中なんてね。世間に知れたらどうなるんだろう。
 や、本人はエロいことが恥ずかしい、と今は認識していないんだけどね。
 そう言い終わると、コクコクとカップの中のお茶を飲み干してしまった相馬さん。
「これの使い方は、この細い部分を肛門に差し込み、こちらの膨らんだ部分を押しますとほら、膨らむんですよ」
 言いながらやってみる。俺の指ぐらいだった太さのものが、一回り、二回りほど太くなる。
「空気を抜くときはこの膨らんでいる部分の蓋をねじって開けますと、ほら」
 手榴弾状とチューブをむすぶ所に、空気抜き用の弁がある。そこを緩めるとふしゅうと気の抜けた音がして、すぐにしぼんでいく。
「こんなふうになるんですか?面白いですね」
「よろしければ試しにお使いになりますか?」
「ぜひ!あっ、ぉお、お願いします」
 勢い良く返事してしまったのが恥ずかしかったのだろう、照れながら返事をした。
「それでは、寝室にお邪魔をしてもよろしいですか?ここですと少々不都合が御座います」
「まぁ、すみません。そんなことも気づきませんでした、すぐにご案内します。こちらへどうぞ」
 スリッパを履いてすたすたと歩いていく相馬さん。俺は紙袋を持って付いていく。

* * *

 二階へ上がっていった俺は、意外な事実を知った。
 おや、寝室は夫婦別なのか。そりゃそうだよな、夜の営みをする必要がないなら、自分の部屋で過ごしたいだろう。おそらくこの調子じゃ、旦那の部屋は書斎と化しているだろう。
「ちなみに、トイレはこちらです」
「ああ、お気遣いありがとうございます」
 もう俺の猫かぶりに呆れすぎなのか驚きすぎなのか、天使悪魔コンビは出てくることさえもしない。
「そして隣が、私の寝室です」
 お、好都合かな。

* * *

 ガチャリと音を立てて、淑女の寝室の扉は開かれた。
 へえ、なかなか広い。片付いていて、スペースが広く取ってある。青や紫などの寒色系が中心で、落ち着いた内面が伝わってきた。
「お願いします、時原さん」
「ええ、わかりました。ええと、まずは服を脱いでいただけますか?」
「えっ」
 別に商品を使うことは恥ずかしくないようにしてあるが、服を脱ぐ、裸になるなどの羞恥心は普通に残してある。だが、これも商品を使うため、と割り切ったのか、
「わかりました・・・」
 顔を真赤にしながらするすると上から脱いでいく。や、下だけでいいんですけど、という野暮なセリフはもちろん口に出すワケが無い。
「これで、どうでしょうか・・・」
 耳まで真っ赤にして、うつむいて俺に聞く相馬さん。かわいい。とにかく可愛い。
 だけどごめんね、俺はそれを今から汚す。
「いいですね、では四つん這いになってください。特に、おしりが私によく見えるように」
「は、ひゃい」
 恥ずかしくて返事もかんでしまったようだ。このあたり、天然だなぁ。
 股間を手で隠しながらゆっくりとしゃがんでいき、やがて四つん這いへとなる。
「うーん、良く見えませんね、そうだ、いいことを思いつきました」
「え?」
 枕を取り、相馬さんの頭の下に置く。
「手は組んで顎の下に持って行って、うつ伏せのようにしてください。そうそう、上手ですよ。枕があるから痛くはありませんよね?」
「はい・・・」
 頭が下がり、おしりを突き出すような屈辱的な体勢になった相馬さん。これを恥ずかしながりながらも、商品を使うため、と思ってウキウキしながら待っている幸せそうな顔を見ると、思わずお腹を抱えたくなる。
「じゃあいきますよ」
 まずはアナルローションからだ。通常のものよりも少し粘り気が強いので、スポイトのように先が細くなっている容器でまんべんなく肛門の近くへとまぶしていく。丹念に、丹念に。
 まずは尻たぶからぬるりとしたローションを少量たらし、丸を描くように手で広げていく。
 粘り気があるせいだろう、ペチャリ、ヌチャリと音がする。これくらいでいいかと尻たぶから手を離す。
 糸が少し引くのもまた、なかなか乙なものである。
「んっ・・・ああっ」
 尻たぶへの刺激が快感だったのか、相馬さんが少し喘ぎ声を上げた。
 そんなことは気にもとめず、次の段階へ行く。
 次は尻たぶ全体ではなく、より肛門に近い尻たぶと尻たぶの間、谷間へと上からローションをとろりと垂らす。肛門を刺激しないように、肛門より上限定だ。
 今度は両手ではなく片手、手のひら全体ではなく主に指を重点的に使う。
 すーっ、すーっとなでるように指を這わす。
 谷間全体にローションが行き渡ったかな、と思ったところで力を少し入れ、その柔らかそうな、というか実際柔らかいその肌を少し押すようにリズムをつけて触る。
 さっきがなでるように、というならば今度は捏ねる、と表現するのが正解だろう。

 クックックッ

 と、一定の速さで押す、いや捏ねる。
「ん、あっ、あっ、ああっ」
 だいぶ準備ができつつあるようだ。その証拠に、膝立ちになっている足が濡れている。ローションは粘っこく、こんなにサラリとしてはいない。っていうか愛液も十分ネバネバしているんだが。
 通常ならばここでアナルをほぐすところだろうが、まだまだいじめ足りない。
「奥さん、すみませんが上半身をベッドに乗せていただけますか?」
 一応質問形式にはなっているが、有無を言わせない。言っている途中からすでに自分の腕で持ち上げている。うつ伏せ状態のまま足を開かせその間に入る。
 これで体勢はテトリスのZマークに似たピースのような体勢になっている。分からなければ、ベッドにうつ伏せで上半身を乗せ、足を伸ばしてみるといい。
 この体勢だと、ちょうど股間の間、女性器と肛門両方共が見れるのだ。
 この体勢で何をするか。会陰、という言葉をご存知だろうか。
 女性器と肛門の間を指す言葉で、今からそれをいじるための体勢だ。
 え?じゃあさっきの格好はなんだったのか?なんか征服欲が満たされた感じがするから。屈服しましたーって感じだろう?
 自然、尻が上を向いているのだから、当然尻の方からローションを垂らす。少し愛液で濡れているものの、やっぱり冷たい感触がするようで、
「ひゃんっ!」
 といったかわいい悲鳴を聞くことができた。ここは・・・少し痛めにするか。
 少し伸びてきた爪でひっかく。
「んっ」
 キューっと、凹むレベルまで指を押しこみグリグリと動かす。
「あああっ」
 爪でつまみ、力を入れる。
「うぅんんんんっ」
 敏感になる、という話だったので、ピンと指ではじいてみたら、
「きゃあっ」
 と思ったより強い反応が返ってきた。さすが牛島クオリティ。
 それではお待ちかねの肛門と行きましょうか。
 相馬さんの体全てをベッドに乗せる。
 今度は焦らすためではないので、たっぷりとローションをぶちまける。指圧のように親指を菊座の周りへとぎゅっ、ぎゅっと押しこむ。
 続けて閉じた襞のあたりへすり込み塗りこみ、広げていく。
「あっ、ふぁっ」
 ローションのせいもあってか、だいぶ息が乱れてきた相馬さん。
 きゅっと締まっていた括約筋がふっと力をなくしたように、濃い桃色の穴はふやけていく。
「そろそろかな」
 もういいだろう、口調を元に戻す。同時に、つぷり、と穴に人差し指を差し込む。
「んあっ!」
 びっくりしたのか、いれた瞬間締りがいきなり良くなり、俺の指が止まった。が、それも一瞬。気にせずつぷつぷと人差し指を奥へ奥へと沈ませる。だが、やはり今まで未使用だったせいか、非常にきつい。第二関節を過ぎたあたりで物理的に入らなくなったので、ぐに、と腸内で指を曲げる。爪も少し伸びているので、さぞかし刺激が強いに違いない。一度では飽きたらず、二度、三度と繰り返す。
「くうぅぅぅうぅぅうぅぅぅっ」
 かわいい顔が痛みと苦しみで歪むのが見えたので、これは良しとしよう。するすると指をぬこうとすると、
「いや、抜かないで、痛い、でも気持ちいぃ、でも抜くと痛いのぉっ」
 意外にマゾっけもありそうだ。普通の人であれば抜くのをためらうシーンだろう。
 気にせず抜くが。
「奥さん、今からアナルバルーン入れましょうか?」
「はやく、はやくきてっ」
 うむ。俺の指テクって結構すごかったんだな。ローション抜きにしてもすごい気がしてきた。じゃ、入れようか。
「今から行きますよ、いち、にの」
 さん、と言う前にぬぷり、という音を立てバルーンは挿入された。準備をしていない相馬さんにとっては大惨事だ。
 散々いじったおかげで腸液は順調に出ているし、バルーンにはしっかりローションを塗りたくってある。
 悶絶している相馬さんを放っておいて、手榴弾、つまり膨らますところに手をかけた。

 きゅっきゅっきゅ

 痛がっているのなんてお構いなしに膨らんでいくバルーン。広がっていく肛門。
 一歩引いてみると、ディルドーが刺さっているように見える。
「くうぅっうぅぅん・・・・・ぐううっ・・・・」
「ぐううぅうぅぅぅぅ・・・くふぅっ・・・・・・うわぁああっ」
「んおぉぉおおおぉおっ・・・あっ・・・うぐぅうううえぇぇぇ・・ふぅっ」
「うっ・・・ふうっ・・ああっ・・いいっ・・・」
 痛みで苦しむだけではなく、だんだんと快感の印、喘ぎ声が混じってくる。
 それと連動して、お尻の穴がどんどん開いていく。今では単二より二周り小さいぐらいだ。
 それを二十分ほどほうっておくと、だいぶ痛みはほぐれ、気持ちよくなってきたのか、ほとんどが喘ぎ声になる。
 ぷくり、ぷくりと少しずつ気付かれないよう膨らませていたので、既に俺のものより一回り小さいぐらいだ。常にローションで湿り気を欠かすことなく、ケガをさせない用最深の注意を払っているので、あちらは今処女にもかかわらず後ろで快感を感じている変態だな、といまさらだが思う。
 だが、その快感を打ち砕くものは唐突にやってくる。

 ごろごろっ ぐるぐるるっ

 そう、お腹が鳴り始めたのだ。とは言うものの、もちろん空腹のしるしではない。
 尻、会陰へのマッサージ。加えてうつ伏せという体勢。さらにバルーンまで足されては、腸に負担がかかり、便意、つまりは排泄をしたくなるというのは当然だろう。
「うぐぅっ」
 喘ぎは消え、苦しみへとまた声の質は戻る。当然すぐ隣にあるトイレへと動こうとする。だが、気づく。
 自分は今、何を肛門に挿入している?どうやって出すのだ?
「う、くうっ、抜いて、抜いてくださいっ」
 さっきまでの快感と、排便を我慢する苦しみとで赤くなって、今にも泣き出しそうな顔で哀願する相馬さん。
 だが、相馬さんを待っていたのは冷たい言葉である。
「何をです?」
 もちろんここで漏らさせる気はない。片付けが大変だからだ。だが、こういう顔、こういうシチュエーションで虐めずにどこで虐めるというのだろう?
「あっ、アナルバルーンです」
 単語自体に恥ずかしいことはない、と思い込まされている。
 だが、この一言で羞恥心はものすごく高まった。それは、
「それはどこにあるんですか?」
「え・・・・」
 虚を突かれたような顔。それを想像して赤い顔をさらに赤くする。
「うっ、っくぅ・・私の、こ、肛門です」
 追い打ちだ。
「なぜはまっているんですか?」
「そ、それは・・・くぅっ」
「早くしないとお腹が破裂するかもしれませんね」
 赤かった顔がさっと青くなる。
「私がっ!いれてくださいってたのんだからですっ!だから、はやく、はやくぬいてっ・・・」
 便意を我慢して、早口で言い切る。
「合格です」
 ロープを持って、急いですぐとなりのトイレへ急ぐ。
 俺も漏らされると困るので、急いでトイレまで行って、ぎりぎりのところで弁を外し、スポンと抜く。意外に抵抗はなかった。
 トイレのドアを閉じようとする相馬さん。だが、俺はそれを許さない。足で挟み、閉まるのを阻害する。
「どうして・・・」
「いいじゃないですか。そんなことより、限界、近いんじゃないですか?」
「うっ」
 その一言で急に便意を思い出し、苦しみだす相馬さん。それに乗じて、俺は両足の膝裏を押し上げ、便器の上でM字開脚をしているような格好をさせる。予め持ってきておいたロープで固定する。自然と後ろへ体重が移動し、股間を前に突きだすような形となる。
 こうすると、女性器はおろか、肛門まで見える。つまり、排便の瞬間が見れるのだ。
「いやぁッ・・・・やめてぇっ・・・」
 ギリギリまで耐える相馬さん。
「あっ・・・うっ・・・・くうぅっ・・・」
 だが、限界は無情にも訪れる。
「も・・・もう・・・ダメっ・・・」
 そう言うと、固くとじていた括約筋が緩むのが少し距離のある俺でもわかった。

 ごろっ ぶっ ブリッブリブリブリブリッ

 ギリギリまで我慢していたせいだろう、ものすごい音を立てて排便が始まった。姿勢が姿勢なので、しっかりじっくり見える。それは相馬さんも一番分かっているのだろう。目をつぶり、涙目になりながら排便を続ける。
 M字開脚のせいだろう、本来下へ行くはずの糞は、前へとひり出される。

 ぶりっ ぷっ しゃあああああ

 排便が終わり、排尿が始まる。便器の中を見ると、溜まっていたのだろう、すごい量の便があった。
「いやっ・・・みないで・・・」
 美女の嫌がる姿、ものすごく色っぽい。そしてここから臭う糞の香り。こんな美女でも・・・というギャップがまたたまらない。
「後始末は自分でしてくださいね」
 ロープを解く。そして、俺は寝室に戻る。あの調子なら、片付けてから戻ってくるだろう。

 ガチャン ざっざあああああ しゅああああ

 コックをひねる音、水の流れる音、ウオッシュレットの音が聞こえて、戻ってきた。

* * *

「次はなんですか?」
「そうですね」
 体を洗い服を着るなど、少し間が開いて気を取り直したのか、新しい商品の紹介へと気持ちを切り替えたようだ。
 当然、少し思考操作もしたが。でなければ、全くの他人に排便シーンを見られてこんなに落ち着いているはずがない。そこら辺はいじってないんだぞ。
「では、先ほどの商品の効果を確認してみましょうか」
「え?」
「いえ、先ほどではあまり奥様がお可哀想でしょう?」
 先程の痴態を思い出したのか、うつむく相馬さん。気にせず続ける。
「ですので、やはりあれの効果を体感してもらおうかと」
「は、はい・・・・」
「では、スカート、ショーツを下ろしていただけますか?おしりが出る分だけで結構です」
「わかりました」
 最初の全裸も良かった。だが、尻だけを露出して俺に向ける格好は、また違った趣があり、ゾクゾクする。
 先程のローションを取り出し、尻穴にトプトプとかけていく。同時に俺のものにも潤滑用として大量にかける。
「では、いきますよ」
 ひくり、ひくりと先程の快感が忘れられないのだろう、もう既に準備万端だった。
 だが、先ほどのアナルバルーンでは俺のものよりも一回り小さかった。さらにそれよりも亀頭は太い。
 まずは亀頭の先を肛門に当てる。
「う・・ふぅっ・・・」
 それだけで快感を感じているのだろう、声を上げた。馬乗りのようになって、ゆっくり、ゆっくりと上から下へと進もうとする。チュッ、と音を立て、亀頭の先の先がすこし菊の花を押し開き、ほんの少しだけ入った。それを皮切りに、どんどん入れようとする俺。拡張の成果か、俺のものも入りそうなくらい広がっていた。だが、先ほどの指に比べると、段違いのきつさだ。
 けれど、ローションのおかげか、ベッドのマットが俺たちの体重で沈み込むぐらい腰を前に突き出すと、ギュプリ、と亀頭が完全に入った。そこさえ入ってしまえばあとはらくらく、といってもよさそうなのだが、一段と大きい亀頭が入ったせいだろう、締め付けがまた上がった。
 ゆっくりと動き始める。まずは小刻みに動かし始める。
「んっ・・あっ・・ふううぅ・・くっ・・」
 ぬめりを帯びた棒がシュッ、シュッとこすられる。亀頭のエラに襞が引っかかって腸内でも摩擦が起こり、一段と快感を与える。
 十分気持ちよくなったところで、今度は円を描くように腰を回す。
「いいっ・・・きゃっ・・・」
 尻の穴が先程の拡張よりも広がる。とはいっても、部分的なものなので、痛みは少ないようだ。腰に手をかけ、さわさわと愛撫を始める。触るところによって、力が抜けたり、また締りが良くなったり。
 貧乳気味の胸にも手を伸ばす。
 シーツに擦れ、ビンビンに勃っている乳首。それをグニグニと弄んだり、引っ張ったりする。乳房自体はあまりもみごたえはないが、触るとやはりブルリとする。
 そろそろいいかな、と思いゆっくりめのストロークでピストンを始める。
「いいっ、わたしのこうもん、おおきいのがかきまわしてるっ」
 腸内はぬるりとしていて、膣とはまた違った快感がある。先程の大規模な排便のおかげだろう、アナルセックスにつきものだという糞便の感触もなく、気持ちがイイ。
 なにより先程の愛撫で体の方も受け入れる準備が出来ていたのか、反応も嬉しい。
「あっ、そこ、そこがいいの、もっと、もっとつよく突いてえっ」
 ただピストンするだけではなく、少し上向きに、つまりは腸壁に当たるようついてみたら好評のご様子だ。こちらもだんだん気持ちよくなってきたし、腸液のせいもあってかスムーズに動くようになっている。
 だから、ズッっと、一段と強く、深く突き入れる。体重の乗った一突きに、オーガズムを感じたのか、
「あっ、あっ、なにかくる、なにかくるの、イく、イくうっ――」
 イッてしまった。くたりと力が抜けたが、十秒もしないうちに自分から腰を振り始めた。
「じゃあ、ペースを上げますよっ」
「これいじょうやられたら、わたしおか、あっ、おかしくなっちゃうっ」
「どうぞ存分におかしくなってくださいっ」

 ズッ、ズッ、ズッ

 ズン、ズン、ズン

 ズンズンズンズンズン

 一つ一つのストロークの強さはそのままに、ピストン運動自体の速さも上げる。
「あっ、うっ、ああ、いい、いいの、うぅ、っく、んんっ」
「じゃあ、いっしょに、いきま、しょうかっ」
 ラストスパート、さらにはやく動かす。
「あ、あ、あ、くる、くるの、んん――――――っ」
「ふっ、くうっ、やっ、はああ―――――っ」
 腸内に白濁液を吐き出すと同時に、つながったまま俺たちは果てた。

* * *

「どうでしたか?」
「とても、とても良かったです・・・」
 お昼ごはんを一緒にいただきながら、さっきのアナルセックス、じゃなくて商品の感想を聞いてみる。
「もし・・・」
 ん?
「もしよければ、また、き、気持よくさせていただけませんか・・・」
 おお?性の味を覚えてやみつきになっちゃいました、と?
「今度は前で・・・私、バージンなんです」
 知ってるよ、というかそれが狙いできてるんだけど・・・そうか、まだこちらが知っているというのを言った覚えも、あちらがそれを言うのもなかった気がするな・・・
「つ、次は道具じゃなくて、あなたの、あなたの・・・・」
「私の?」
 想像はできるが、一応尻すぼみになってしまった彼女が可愛かったのもあり、聞く。
「でっ、でっかいあなたのおちんこを、私のあそこへ・・・」
「あそこ、といいますと?」
 なるほど、男の喜びそうな感じで言ったものの、最後までは恥ずかしくていえなかった、と。
「えっ・・・そ、それはその、なんというか・・・」
「おや?私が帰ってもいいと?」
「だめですっ!え、えーと、いまっ、そう今すぐ言いますから」
「最初から、ですよね?もちろん男が好みそうな言葉を一杯交えて」
 ニコリ、と笑う。
 一呼吸おいて、恥ずかしがりながらもしっかりと聞こえるように告げる。
「あなたの、で、でっかいおちんこを、私の、い、淫乱な、お、お、おまんこに突きいれてくださいっ」
「よくできました。そこに至った経緯を聞かせてもらっても?」
 旦那さんと付き合っているときは我慢できたものの、結婚してからの性交渉なし、しかも旦那はそれを治す気さえないというのだから、なるほど俺の方に傾くのは納得だ。愛しても愛してもそれに見合うものは返ってこない。最近は仕事が忙しく、顔を合わして話すのも少なくなっていて、悩んでいた様子だ。
「も、もちろんお金は御払いいたしますからっ」
 どうしても逃がしたくないのだろう、お金まで出して保険を掛ける。
 すこぶるつきの上玉が俺を求める。そんな状況で、断る男がいるだろうか?いや、いない。(反語)
「なるほど、いいでしょう。つまり、こういう事ですね?」

 ―――――俺自体が、商品だ、と。否。俺が欲しい、と。
 いいだろう。抱いてあげるよ。

「ええ、そういう、ことです」
「わかりました。それでは相馬さん、寝室へ行きましょうか」
「はい。それから、これはお願いです」
「なんでしょう?」
「理子、と。名前で呼んでいただけないでしょうか」

* * *

 まずは丹念な愛撫からだ。いきなり女性器を責めるなんてもってのほか。あまりセックスアピールがなさそうなところから責めるのがポイントだ。
 仰向けに寝転がってもらい、まずは愛撫を受けっぱなしになってもらう。

 腕を軽く握り、やわやわとこする。
 背中は脊髄に沿って、指でなで上げるように。
 太ももはくすぐるように五本の指すべてを這い回らせる。
 ふくらはぎは筋繊維を揉みほぐすがごとく。
 首を軽く摘むのも忘れない。
 髪の毛は軽く引っ張り、程よい刺激を与えていく。
 名前で呼んで、と言われたので、甘い声でりこ、と耳に息を吹きかけるようにささやく。

 一つ一つ重点的に責めるのも、複数を少しずつ責めるのも、どちらもかわるがわるに入れ替わらせ、じっくりと愛撫を続ける。
 ふと性器を見ると、しとどに濡れて、尻穴のようにヒクヒクと動く。次の段階に移ろうか、と囁いて胸をつかみ、口を吸う。

 片方は指と指の間に突起を挟み込み、手のひらまで使って揉みほぐす。
 もう片方は会陰でやったように突起を指で決して豊かとは言えない丸い丘に沈みこませる。

 ついばむような接吻をはじめにする。舌を理子さんがいれてくる瞬間に離す。なぜ、と言いたげな目を受けて、ウインクでごまかす。続けて顔全体にキスの雨を降らせ、もう準備は出来ているの、という理子さんを焦らす。
 ついに、深く唇同士を合わせ、舌を絡め合わせる。互いの唾液が混じり合い、理子さんの唇から顎、顎から首へとツツツと垂れていく。
 もっと、もっとと深く求める理子さん。それに応える俺。息が苦しくなるほど深い求め合いに、理子さんの方が城旗を上げ、大きな音をさせ唇を離す。

 胸を舌でなめながら一直線に繁みへと動かす。体を震わす理子さん。繁みの匂いを存分に味わいながら、いよいよ割れ目へと移動させる。まだ貫かれたことのないその割れ目は今、泉のようにあふれる愛液によって湿っている。
 舌で割れ目をなぞるように動かす。それにともなって水音が響く。こくこくと愛液を飲むと、体をねじって恥ずかしがる。その仕草に満足した俺は、舌で大きく割れ目全体をひと舐めし、陰核へと移った。足を抑えていた手を移動させつかみ、充血したのを確かめてから、包皮を向き、陰核亀頭とも呼ばれるそこを露出させる。
 それをつかんだり、擦ったりすると、嬌声が上がる。

 さらに女性器の中に指を差し入れる。午前の肛門とは違いびしょびしょに濡れていて、指程度では想像していたものよりもきつくない。一度ぬいて三本、筒のようにしてもう一度入れる。すると、急に引っかかった。
 理子さんに命じて自分でくぱぁとさせて、覗き込む。他のは濃いピンク色なのに、淡いピンク色で、急に狭くなったところがあり、小さい穴が開いている。それが処女膜です、と言われて驚いた。
 今まで抱いてきたのは人妻ばかりだったので、処女膜といったものを見たことがなかったのだ。こう、もっと本当に仕切りみたいなものがあるとばかり思い込んでいて、穴が開いているなんてびっくりだ。なるほど、俺の亀頭なんて入りそうにない。
 これを無理やり押し込むから血がでるのか。驚きながらも、既に俺のものは力強く勃っている。
 ゆっくりだと逆に辛いだろう、と思い一気に突き入れる。ぶち、くち、という感触だった。それを境にものすごい締め付けをして、動かすのが大変だった。

 ずりゅっ ずりゅっ ずりゅっ

 存分に堪能している。理子さんにやめようか?と聞いても「おんなにしてもらいます」との一点張りで、止まっていると痛いのを我慢して自分から動かそうとする。見るに(感じるに?)見かねた俺はできるだけのテクを使って堪能し、感じさせようと努力している。そろそろ抱いて三十分くらいだが、痛みよりも快感が強くなってきたようだ。
「あっ、・・・んっ、・・・ふっ、・・・ふううぅ」
 そして、絶頂の時は来る。
「くる、くる、きたっ、ああっ、きて、だしてぇっ、これが、これっ、が、恋なんだっ、んうぅ――――――――」
「いくっ、よ」

 びゅうっ びゅるびゅびゅびゅびゅる

 中で出してしまった。まあ、心配ないだろう。
 バレるわけでもないし。

* * *

 事後。なんとなく、照れるものである。しかも、俺が指環の力で発情させたわけでもなく、ただそのためのきっかけを作っただけ。つまり、認識としては俺は間男、という訳だ。
 何を話すんだろう、だろうと思って少し顔を伺うと、真っ赤になって顔を背ける。明らかに羞恥とは違う赤だった。
 唐突に話しだす。
「私、あの人とは幼馴染だったんです。それで、小さい頃から仲良くしてて、親同士も仲が良かったから、いっそのことくっつけちゃえ、っていう話だったんです」
「はい」
「男の人はあの人以外苦手で、ほとんど喋ってませんでした。だから、でしょうね。家族に勧められるまま、恋という感情を知らずに、家族愛のようなものを恋と勘違いして、結婚してしまいました。恋を知っていれば、こんな気持にならなかったのに。勘違いしないでくださいね、別れる気なんて有りませんから・・・」
 淋しげにそう言うと、言葉を切る。そして、淋しそうな顔から一転して、
「もし、もしよければ、です」
「なんでしょう?」
「定期的に、いえ、気の向いた時だけでいいんです。私を、私を、また、抱いてもらえないでしょうか・・・」
 おずおずとこちらを伺ってくる理子さん、いや相馬さん。
「かまいませんよ」
 パァッと表情が一転して明るくなる。こちらとしても若い人妻、それもまだ俺にしか体を許していない女にこんなことを持ちかけられ、断るはずがない。
「ただし、私はもうすぐここの近くに居を構えます。そこに来てくださるというのでしたら、という条件がつきますが。それから、私以外の男と関係を持たないこと、この二つが守れるなら、ですね」
「もちろんです。私は、あなたに恋をしてしまいましたから―――――――」
 年齢差が片手の指で足りる女の人にそんなことを言われると、照れてしまう。
 一応、と誰にも「言えない」と制約を指環でつけておく。
 そんなこんなで俺に恋する人妻を手に入れて、俺は相馬家をでた。

* * *

 まだ家に帰るのには早い。うーん、暇だ。日が暮れるまであと二時間ほど。どうしようかな・・・
 『そんなときは』
 【俺達にお任せ!】
 『朝言ってたアジトの下見っていうのはどうかな』
 【賛成。俺的におすすめは病院か団地だな】
「!」
 『う~ん、団地は買ってるし、立ち退き交渉は難しいんじゃない?』
 【そうか、その問題も・・・】
「黙れっ」

 睨みつけて黙らせると同時に、思考加速。周りに何があるかを確認。この体がチクチクとする感じ、おそらく、確実に尾けられていると思ってもいいだろう。
「参ったなぁ」
 俺は格闘スキルなんてもの持ち合わせてはいない。気配に気づけたのはおそらく『適応』の力だろう。
 『適応』はパッシブだが、色々応用の仕方があることに気づき、いくつかの種類がある。
 今使っているのは、影が非常に薄くなり、完全に回りに背景として認識させ、記憶も朧になるといった隠密スキルだ。お店の人には少し声をかけても気づかれないレベルにまで達している。
 もしかすると、目の前で堂々と万引きをしても気づかれないかもしれない。
 といった成人コーナーに行っても咎められない、といった夢のようなスキルなのだ。が、それを使っているにもかかわらず俺を尾行している、つまり俺に興味を抱くやつがいる、という事態を、指環が知らせてくれたのだろう。
「うむぅ」
 撒くか?でもどうすれば・・・
 そう考えながらも表面上は何も悩んでいないふうに装い、歩き続ける。
「このへんは店が多いんだったっけ」
 こちら方面にはあまり用事がないので、めったに来ることはない。
「あー、喉乾いた・・・」
 そういえば相馬家であれだけ汗をかいたにもかかわらず、水分補給は昼食時の一回だった。
 折角なのでコンビニに入る。スポーツドリンクでも飲みたい。

 カランコロン

「いらっしゃいませー」
 涼しい。外もそこそこ熱くなってきたせいか、少し強めの設定になっているようだ。環境破壊につながりますよ?
「スポーツドリンクスポーツドリンクっと」
 もちろんコンビニに入ったのは単に喉が乾いたわけではない。いや、それも結構なウエイトを占めているけど・・・
 コンビニはガラス張りで、ドアも開けるとベルが鳴る仕組みになっている。
 次入ってくるやつ、もしくは外で怪しい動きをしているやつが尾行しているやつ、と見てハズレはないだろう。
 そんなことを考えながら、入り口を伺う。

 カランコロン

「え?」
 和服の美女だった。
 もう一度確認しよう。目をぎゅっとつぶり、もう一度開く。
 和服の美少女だった。
 小柄な背格好に、よく手入れされた赤みを帯びた黒髪のおかっぱ。格好はその黒髪によく似合う、濃い赤色のの着物である。綿で作ってあるようなので、丈夫で和服の普段着とされる紬だろう。だが、絹の着物と比べても、全く遜色のない上品な着物である。
 顔立ちはすっきりと整ってはいるが、無表情さと相まって神秘的である。
 ただ一つ、違和感があるのは、右の手。
 人差し指に「井」のようなマークが刻まれた、黄色い石がはめ込まれている指環。
 拳に握りしめているのは竹刀袋のようなもの。
「逃げたい」
 呟いてしまった。耳ざとく彼女は聞き取ったのか、
「逃がさない。逃げてもわかる」
 ぞんざいな口調で答えられてしまった。この感じ、この自信はおそらく事実を告げているタイプの強気だ。
 仕方がない、誤認で俺の姿を偽って逃げようかと思ったんだが無駄なようだ。
「話がある。こんびにえんすすとあ、だったかを出てから、着いて来て欲しい」
 この女、今のご時世にコンビニを知らないのだろうか?
「構わない」
 無理に取り繕っても仕方がない。かと言って逃げることも許されないだろう、と『感得』が教えてくれている。
 まずは、相手のことについて分かっていることを考え、見つけ、引き出していく。

* * *

「ここまででいい」
 ここは近くの魚住川だ。
「まず聞かせてもらう、名前は?」
「神楽宮楓[かぐらみやかえで]。あなたは?」
「時原達史、だ。それで?なんの話だ?」
「率直に言う。その指環、こちらに渡してほしい」
「詳しい事情は知らないが、悪いな、理由を聞こうと聞きまいと、物理的にも心情的にも渡せない。いや、渡したくない」
「指環について知らない?何か引っかかる、でもしかたない・・・」
 冗談じゃない。おそらくその重量感、竹刀袋の中には、真剣が入っているはずだ。
「まてまてまてまて、少し落ち着け」
「あなたに言われなくても、落ち着いているつもり。
 大体、闇討ちする気はないし、奇襲をかけるつもりもない。
 まず、卑怯な真似は嫌い」
「じゃあ、いったい何を?」
「勝負」
「え?」
「勝負で、勝った方は負けた方に指環を譲る、どう?」
 いいだろう、受けてやるよその勝負。
「内容は?」
「指環を使った戦闘。どう?」
(指輪で、ある程度あの人の指環の情報は分かっている、こちらの方が有利。
 問題はこの人が受けてくれるかどうか)
「いいだろう。ただし、殺すのは無し、といかないか?」
「当然。峰打ちだけにしておく」
 うわぁ・・・。今の発言でそれの中身は真剣だ、ということを公言したも同然だぞ。
「作戦タイム、というのが欲しい、一時間後開始でも構わないか?」
「作戦たいむ?」
「作戦立案する時間のことだ」
「いい。それから、逃げても無駄。覚悟しておいたほうがいい」
「フン」

* * *

 おそらく、神楽宮の指環は、双子座、双児宮の指環だろう。「井」のマークに、あの黄色い宝石、間違いなくシトリンだ。シトリンは双子座を表す宝石として扱われているはずだ。11月の誕生石でもあるので、別の星座の誕生石となることもあるようだ。
 その手の情報は、こんな自体になると薄々予想はしていたため、頭に叩き込んである。
 だって、蟹座の指環だけが存在する、というのもおかしな話だろう?
 双児宮のがあるということは十二個の指輪が存在するのだろう。
「でもなぁ・・・」
 問題は、その能力だ。
 俺の指環だって、「蟹座」「巨蟹宮」のワードだけでは全く予想もできない能力だ。
 つまり、相手の能力、戦い方に関することは未知数。
「一応、少しだけなら予想は立ってるんだが・・・」
 双児宮のキーワードとしては、「直観」。
 直観の意味は、ただの勘というよりは、未知の力によって物事を正しく探り当てる、といった超能力じみたものだったはずだ。
 だが、それだけではないだろう。しかし、うだうだ悩んでいても仕方がない。
「それよりは、俺の戦い方を考えるべきか」
 俺の能力は、全くと言っていいほど肉弾戦向きではない。
 反対に、神楽宮の法は、おそらく真剣を持っているので、腕に覚えはあるのだろう。
「肉弾戦ではまず勝てないだろうな・・・」
 だったら肌に攻撃を当て思考操作を、というのも無理そうだ。理由は、あいつの格好。浴衣ならなんとかなったかもしれない。だが、俺の見たところあれは易々とはだけるものではなく、露出しているのは手と頭のみ。
 こちらは武術初心者だ、攻撃を当てられるはずもない。
「ふぁああ」
 疲れた。朝からほぼぶっ続けで運動したんだ。
 少しくらいは寝ても、いい、だろう―――――――――

* * *

「おきる」
「ん・・・」
「時間だ」
「あ?・・・・え?」
「時間だと言っている」
 すっかり、寝ていたようだ。
「悪かったな」
 どうする。一応躱すだけならばましなのは考えついた。だが、攻撃は出来ないし、確実でもない。
 このまま開始されたら、おそらくは負けるだろう。
「きにしてない」
 怒ってはいないようだが、イライラしているのは声の質でわかる。
「いまから」
「へ?」
「いまから、開始」
 そういうと、包を解いていた白木造りの拵えの刀を抜き放ち、俺に斬りかかってくる。
「!」
 すぐさま起き上がり、間一髪で躱す。
「勘のいいやつ」
 勘なんかじゃない。一応それ対策は考えてきたのだ。

 続けて攻める上段からの一閃を後ろに飛んで、続く顔狙いの突きをギリギリで避ける。
 一度退いて肩口から斬り下ろされる。これには服へスパリと切込みを入れられた。
 さらに横薙ぎへと変化する刀の峰を、タイミングを合わせ下へとはたき、斬られるのを防ぐ。
 そこから切り上げる刀はくつで踏んで止める。
 すぐさま刀を諦め蹴りへ変化する。これはおもいっきり倒れこむように後ろに跳んで避ける。

 どさっ

「いつつ・・・」
「おかしい」
「へえ、なにが?」
「いま、よけるときに跳んだ動き、素人のもの」
「ああそうさ、俺は全くのど素人だが、何か問題でも?」
「でも、刀の動きを無手でさばけるほどの動きができてた。なぜ?
 あなたの能力は、思考操作と幻を見せるようなもののはず」
「!」
 なぜだ?なぜこの女が俺の能力を知っている?
 だが、ここは焦らず慌てず、ごまかすに限る。
「さて、ね。なんでだと思う?」
「一応公平じゃないから教える。わたしの能力は、霊視。それから、双子座の神話に基づく剣術の上達。
 もう一つ。さっきは力が足りなくて、傷は軽かった。でも、今度はたとえ鉄の壁があろうと、両断する。
 それがわたしの指環の能力。次は本気。指環、つかわせてもらう」
 そうだった。「直観」で俺の能力の啓示とは、なかなか粋な行動だ。
 さらに、双子座の神話で剣術上達?
 双子座の神話、っていうとカストルとポリュデウケスの双子の神話。片方は人間、片方は神。
 とても仲がよく、死んでしまう兄のカストルと一緒に居たいから、と不死の神の寿命を半分あげた、ってヤツのことだろう。
 たしか、ポリュデウケスは、剣術を収めた神様で、厳しい戦いを兄弟で闘い抜いた、という逸話があった。
 両断、というのはおそらく日本語の「双」の意味を力に変えたものだろう。
 やばいな、このままだと・・・。
 だが、そんなことは相手に悟らせてはいけない。
 一応なにも気にしないふりをする。
 だが、神楽宮は動く。一気に突っ込んでくる!

 今度は手加減なしのようだ。
 さっきととはレベルが違う。冗談じゃなく刀が速い。だが、こんなもんならまだ、しのげるか?
「甘い」
 さらに速度が上がる。顔への突き。首をねじって皮一枚は斬られたが、なんとか避ける。
「まだまだ」
 その一言と同時に、人の動きを超えた速さの斬撃が繰り出される。
「!」

 ―――――――――ずぶり。

 そんな音がして、肩へと刃が食い込む。
「一応手加減しておいた。殺しは無し、だから」
 あれで手加減か?だが、確かに両断はされていない。
 身長差の問題と、後ろに飛んだこともあり、狙われていたよりは傷が浅い。だが、それでも十分に深い傷である。
 だから、俺は急いで後ろへと飛び退る。神楽宮は、追ってこなかった。
「やっぱり」
「ぐ、ふぅ・・・なにが、だ・・・」
「さっきまで避けられたのは、わたしの動き、わかってたから」
「へえ・・なんでそう思った・・・?」
 そのとおり。さっきまで神楽宮の攻撃をいなせていたのは、思考加速の応用だ。
 相手の動きをものすごくスローモーションにしてしまえば、こちらも動きは遅くなるが、反応、対応はできる。
 銃弾さえも避けられる、そう自負してたんだが・・・
「動きが洗練されていなかった、ただそれだけ。達人レベルなら、さっきので反撃してる。
 だから、あなたの力は、物を遅く見れる、それに当てはまる力だとおもった。
 だったら、いくらわかっていても、避けられない攻撃、当てる攻撃さえすればいい」
 なるほど、正論だ。
「負け、認める?」
 やだね。この力を知って諦める?死ぬよりましだ?冗談じゃない。
 たとえ傷だらけになろうが地獄へ落ちようが、諦められるか!
「そう。約束を破るのは嫌。でも仕方ない。殺す!」
「やってみろ!それがお前にできるんならな!」
 強がりを叩いたが、俺に抵抗することは出来ないだろう。だが、最後まで望みは捨てない。何かないか、この窮地を救ってくれそうな存在は?
 思考の高速化をし、考える。考え抜く。

* * *

 『思考の高速化』いま、使ってる。この状況を打破する役には時間稼ぎぐらいにしか役には立たない。
 『思考操作』条件は、肌などの接触。いや、無理だ。おそらく、相手はこの条件を知っている。だからさっきの刀を捨てた時も、手で攻撃してこなかったのだろう。
 『適応』運動能力の補助はもう使っている。それに、いまの俺の最高レベルの隠形の力は既に尾行の時に、破られている。おそらく、霊視の力を使ったのだろう。
 『誤認』適応と同じだ。おそらく、まやかしなどはあれで見抜かれるのだろう。それに、今そんなものを使っても意味はない。河川敷の石を俺に見せかけても、急に移動したように見えるだけ。すぐに見破られるし、俺が誰かに化けても、構わず切り裂く、そんな気迫が彼女にはあった。

 あと、俺の使える能力は、ない。

 ずきり、と頭が痛む。

 ――――何かが引っかかる。

 ないか?本当に何も無いか?だったら、この語りかけてくるような、催促してくるような、囁きかけてくるような、この痛みはなんなんだ?
 もう一度洗え、俺の使える能力はなんだった?いや、俺の使えるはずの能力はなんだった?

 ――――――――そうだ。思い出せ、お前の扱う能力を。俺をここまで導いたきっかけを。

 そう。それはあの巨大な月が、語りかけたあの言葉だ。

 《よろしい。汝を十二のうちの一つ、第四の適合者として、参加を認める。汝は月の象徴とし、その力を授けん。この言葉を、魂に刻みつけよ。活動の水、感得の象徴、適応の可能性よ。隠されし力を表すは【赤の住処】。力の使い方は指環から引き出せ、それは汝の意のままに》

 そうか、そうだ。まだ一つ、俺が牛島家にいった頃、使おうと息巻いていた能力。
 蟹座のもっとも顕著な性質を表すというその単語。
 そう、それは。

 ――――――――――――感得。

 この状況を、この苦境を乗り越える可能性を持つもの、それは、『感得』だ。
 おい神楽宮。教えてやる。まだまだ俺は、くたばったりはしないってことを!

* * *

(?。纏う空気が、変わった?)
 彼女はそれに気付いた。だが、そんなものを発動しようと、今更変わりはないと考えを打ち消す。
 すこしばかり話しただけだ。でもそれだけでいい男だ、と思った男の死に様は、見たくない。
 彼女はそう思い、目をつむり、力を込めて刀を振るう。
(空気が変わろうと、必ず切り裂く!)
 必中、そして必死の斬撃。自分でも綺麗に振り抜けた自信があった。
 しかし、手応えはなく。
 そこに彼は既にいない。
(そんな、馬鹿なこと・・・・)
 後ろから、声が響く。
「おいおい、どこを向いている?俺はこっちだ。
 双児宮の適合者、第三の契約者、神楽宮、楓」
 振り向く。
 そこには肩を切り裂かれ、それでもなお、凛々しく精悍な顔立ちをした、何かを得た目ををした男が立っていた。
「礼を言わせてもらう。新しく、能力[ちから]を引き出せたことにな」
(引き出した?そんなはずない。わたしはアレに説明を受けた。その能力[ちから]は増えることはない。

 ただ、その掌握度、力の便利さは上がる。でも、全く別の系統の力はもう手に入らないと。

 それは、すべての指環の契約者も同じだと!)
「うああああああああぁぁぁあ」
 いままでは確かに彼女の方に分があった。技量だけではなく、趨勢とも言うべきものが、彼女に傾いていた。
 だが、今は違う。先程の斬撃の中で彼に起こった何かで、それは逆転してしまった。
 だから、だろうか。
 彼女はいままでの余裕をかなぐり捨て、必死必殺の刃を繰り出した。
「よっ、と」
 だが彼は、その全力を傾けたその刃を軽く避け、距離を取る。
 そして、新しい力を、自らのモノにするために謳う。
 いままでのような勘に頼った口上ではない。
 何かを悟った唄[うた]である。
 それは、蟹座の最も本質的な能力だからだろう。

 我は感得の象徴たる巨蟹の守護者。

 ―――我は巨蟹であり、また月である。

 我は願い、我は請い願う。我は求み、我は請い求む。

 ―――汝が願う、汝が求む。其はなんぞや?

 我が願い、我が求める。其は、我が力、我が才。

 ―――汝が願い、汝が求める。そは、汝が力、汝が才か。

 是。我に眠り、我が身につけたかもしれぬ力、才を、我は願い、求む!

 ―――汝に眠り、汝が身につけたかもしれぬ力、才を我は与える。さあ、望め。

 勿論。我が望むはこの地、この様を打開する力!

 唄が終わる。
「待たせた。いいぞ、存分にかかってこい!」
「いやああああ!」
(仕方ない。もう使うとはおもってなかった)
 彼女は、取っておき、奥の手を使わざる状況に置かれたのを理解した。
 其れは、刀剣透明化。
 其れは、亜高速移動。
 どちらも、四大元素のうち、双児宮が、「風」に分類されるために使うことの出来る能力である。

 神速、不見の突き。当たれば両断の力が働き、間一髪で避けようと鎌鼬で避ける。
 避けられるはずもなく、耐えられるはずもない。
 しかも、鎌鼬まで纏わせるとなれば、真に、奥の手と呼べる代物である。
 だが。
 新しい力を手に入れた巨蟹宮の指環の契約者、時原達史には既に効かず。

* * *

「な、なぜ?確かにあなたは新しい能力は手に入れたみたい。
 でも、高速移動はできないはず」
「へえ。その口振りだと、俺の能力は分かっているみたいだ。でも、それはハッタリだろう?
 俺の予想だと、高速移動は出来る能力ではない、というところまでしか理解出来ていないとみた」
「ぐ・・・」
 間違いなく、霊視はコントロールできる。だが、精度にはむらがある。そう予想を立てた。それでカマをかけてみたら案の定である。
(そこまでよまれてる。強敵。だけど、どうして避けられたのか・・・)
「なんで避けられてるか、って顔してるな。
 お前の能力をばらしてくれたお礼に言っておこう」
 俺の新能力は「感得」。
 そして、俺は親戚が受け継いでいる、ある流派の古武術の動きを感得、つまり身につけた。
 昔、やるか?と問われたが、俺は体を動かすよりこの流派や、ほかの流派の歴史などを辿ったり、流派についての文献を読みあさるほうが好きだった。
 流派名を告げてやると、奴はびっくりしたように、言う。
「わたし、今昔両方共の、著名な武門を調べたことがある」
 でも、その流派なんて見たことがない、聞いたことがない、と漏らす。
 たいてい、今の世に栄える武道は、どこかの大会で勝ち抜いたり、何か功績をあげている、戦国時代などに大名に抱えられていた、など様々な触れ込みを持つ。
 だが、俺の知っているこの流派は、鎌倉時代からあるそうだが、全くと言っていいくらい輝かしいく、華やかな逸話というのがない。人を引きつける魅力がない、と言ってもいいくらいだ。
「ああ、そうだろうな。仕方ないと思う」
 マイナーというどころではない。無名なのだ。きっと、世界中の武術関係者全員に聞いても、流派以外の人で知っているのは、百人、いや五十人を下回るだろう。
「だけどな」
 それほどまでに無名であり入門者が少ないはずなのに、何故室町という古より途切れず跡絶えることもなく受け継がれてきたのか。
 それは実用性にある。
 万能格闘術とされる、ヴァーリトゥードとも似ているが、次元が違う。
 あちらは色々な武道と対戦することを目的とした武術。
 こちらは、どんな状況でも生き残るためにある武術、いや生存術だ。
「確か最初に、動きが洗練されていなかったから、といったな」
 それは既に克服した。さ、どう受ける?神楽宮楓!
「今度はこっちから行かせてもらうぜ」
 ラウンドツー、リベンジマッチ、ゴングはいま、鳴らされる!

* * *

 先手は彼が取る。
 (見えた!)
 彼女が見たものは、中段に構えた刀を思い切り殴るような右の正拳突き。
 後手に回った彼女は、そのまま右拳を突く。
 鎌鼬を纏わせたので、勝利を確信する彼女。
 だが、突いたのは虚空。既に「左」拳はしっかりと彼女の帯に食い込み、吹き飛ばす。
「ぐぅっ」
「へっ」
「成程。まぼ、ろし・・」
 正解だ。油断もあったのだろう。ここは河川敷だ。石の一つ一つに細かく誤認を掛ける。そうやって俺の少し後を着いてこさせ、俺の姿は透明に。これを可能とするのは、思考の高速化。
 いつもの彼女であれば、霊視の力を使い、気配を辿ったはずだ。
 しかし、気配は適応で断っていた。
 さっきまでの俺だったら、話は違っていた。
 足音でバレただろう。それを可能としたのが足運び。縮地とも呼ばれる移動法。
「まだ。わたしはまだやれる」
「いいだろう」
 なるほど、後ろに飛んだか。

 飛び前蹴り。刀身で防ぎ、弾く。すとりと着地し、今度は楓が攻めに行く。
 横薙ぎ。だが、しゃがみ、足を払う。
(まるで別人!)
 ひるんだ隙を見逃さず、さらに追撃をしようとするところを、楓は逆に刺しに行く。
 とっさに掴んだ石を投げるが、そんなもの、と簡単に両断される。
「成程。たしかに両断ってのは嘘じゃなさそうだ・・・」
 くるりと身を翻し、左の拳で頭を狙う。さっきのようなストレートではなく、ナックルのように、避けようと腕でのラリアットが可能な拳である。
 それを、刀の峰で払おうとする。
「残念ながら、それは見せかけ。本命は、これさ」
 峰で払おうとして、顔の前あたりまで上がってしまったその両腕。
 既に、前蹴りからその防御、そこから続く攻撃を予想して組み立てていたこのポジション。

 ―――――それを、待っていた。

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ」
 フェイクの左をこちらに寄せる。その反動も利用して、おもいっきり右ストレートを放つ!
 その拳は、神楽宮の両手へと触れる。
 それで、勝負はついた。

* * *

「さあ、俺に下る気はあるかい?」
「う・・・くっ・・ぐすっ」
 泣いているようだ。どうしてだろう。
(なんでこいつは思考操作を使わない?)
「だってあれだろ?自分のハーレムの最初の人ぐらい、自分の器量に惚れさすぐらいはないとダメだろう?
 というわけで、今から読心もやめてやろう。だが、動くのだけは制限させてもらうぜ」
「・・くすん・・」
「・・・・・」
「・・・ぐすっ・」
「・・・・・」
 静寂とすすり泣きの音だけが、場を支配する。
 何かを考えている様子の神楽宮と、顔には出してないが新しい力を全力で使ったので、クタクタな俺。
 その沈黙を破ったのは、泣き止んだ神楽宮だった。
 とつとつと、涙のせいか顔を赤くして話し始める。
「わたしは、負けなしだった」
「だから、天狗になっていたかも」
「でも、それで逆に分家には距離を取られ、本家には気味悪がられた」
「でも、わたしはいやだった」
「だから、ほかの流派の人とも対決しに行った」
「本家の子だから、お金は持っていたし、純潔も対価にして、戦った」
「でも、満足できなかった。負けなかった」
「指環の力を持って、初めて対等な相手と戦って、負けた」
「だから・・・・」
 この流れはもしかして・・・
「わたし、いえ。
 私、神楽宮家の十二代目秋次が娘、神楽宮楓。
 我が誇り、我が純潔をかけし決闘に敗れた。
 神楽宮家の掟の第三条に従い、私を倒した
 時原達史様に忠誠を誓い、我が純潔を捧げます」
 やっぱり・・・
 こういう手合いって、負けるとなんかすっぱり従うんだよな・・・
 まあ、いいけど。
「それに・・・」
 ん?
「わたし、個人的にあなたが好き。実は、最初に見つけた時から・・・」
 だから、か。
 公正な勝負を挑んだのも。
 手加減をしたのも。
 わざわざ傷を他のところよりは軽めになりそうな肩口を選んだのも。
 俺への思慕、そのためだったのか。
「え?」
「こいびとじゃなくていい。下僕でもいい。だから、そばに、おいて欲しい。おねがいいたします、御館様」
「いいだろう。だけど、御館様ってのはやめてくれないか・・・」
「じゃあ、どうすればいい、じゃなくてどうすればよろしいのでしょうか」
「敬語も禁止。違和感バリバリ。せめて、達史さんで。呼び捨てでも構わない」
「わかりました、でもなくて、わかった。あと、指環。はい」
 人差し指にあったシトリンの指環が、薄らいでいく。
 そして、俺の人差し指に、だんだん現れていく。
「なあ、この指輪について教えてくれよ」
「知らないの?」
「ああ。なんでだ?」
「わたしは、神と名乗る奴に説明を受けた」
「は?」
「詳しい話は、性交のあとで」
「おっけー。え、性交!?」
「房中術をしこまれてる。達史様、そーとー疲れてる。傷も負ってるし・・」
「げ。なんでわかった。って言うか傷はお前だろ」
「さわると筋肉がこわばっていた。そうとうエネルギーを使った?」
 よくお見通しで。『感得』は、なかなかリスキーな能力で、能力の一個を午前0時まで使えなくするか、エネルギーを吸い取り、一定時間を過ぎると疲労が倍になって襲ってくるか、の二択を選ばされたのだ。
 午前0時にリセット、というのは嬉しいけど・・・。
 ちなみに普通の時は、能力の一つか、それに見合う対価、だそうだ。
 全く、どっかのミセかっちゅーの。
 こいつ相手にどれか能力を欠いてあたって負けでもしたら、非常に困る。
 だから、リスク覚悟でエネルギー消費の方を選んだのだ。
「じゃあ、思う存分わたしをおそってほしい」
 力、わけてあげるから、と。わたしは厳しい修練を積んでいるのでまだまだ余裕だ、と。
 ここまで余裕ぶられると、なんだか腹が立つ。
 しっかりきっちりばっしり抱いてやるよ!

< 続く >

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