ヤリマンファイル 第5話

■第5話 黒い手帳の謎

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 変態旦那から、黒い手帳の秘密を何も聞き出せなかった萬次郎は、既に名前が2つしか残っていないその不思議な黒い手帳をぼんやりと眺めていた。

(あの奥さんの所に、月に一度のペースで男達が来ているという事は・・・この手帳の存在を知ってるヤツは結構いるみたいだな・・・)

 秋の爽やかな風がそそぎ込む寮の畳に寝転がりながら、萬次郎は、あの奥さんもあのカフェのギャルもあの看護婦も、みんな、色んな男達に犯されまくっているんだとモヤモヤと想像し、寝転がっているスボンの股間を急速に固くさせた。

 そして再び、この黒い手帳は、誰が何の為に作り、そしてどのような経路で男達の手に渡っているのかという、いつもの疑問に突き当たった。この問題を考えるといつも萬次郎の頭はパニクる。この黒い手帳の謎は、所詮、萬次郎ごときの凡人には解明できぬ謎なのだ。

 萬次郎は、やめようやめよう、と慌てて頭の中から黒い手帳の謎を振り払った。しかし、そうしながらも、ただひとつだけ気になる事がどうしても頭から離れない。

「よしっ」と立ち上がった萬次郎は、それを確かめるべく、夕方の歌舞伎町へと向かったのだった。

 寮から歩いて数分の歌舞伎町は、ムンムンと音を立てるようにエネルギッシュだった。

 会社帰りのサラリーマン達がポツリポツリと目立ち始めた夕暮れの歩道には、早くも気合いを入れた呼び込み達が、獲物はいないものかと目をギラギラと輝かせていた。

 そんな呼び込み達の間をすり抜け、萬次郎は、黒い手帳を拾った『四季の道』へと向かっていた。そう、萬次郎は黒い手帳を拾ったあの場所に、あの時にいたホームレスと不思議な黒猫を尋ねに行こうとしているのだ。

(この黒い手帳の秘密をなんとしても聞き出すんだ・・・そしてもう一度、この黒い手帳に書かれた女達とデキる方法はないものかと・・・)

 そう期待しながら、萬次郎が四季の道に続く細道に曲がった瞬間、いきなり路地の奥から1台のバイクが萬次郎目掛けて突進して来た。

「うわあ!」

 慌てて避ける萬次郎の手にバイクのハンドルがぶつかった。ぶつかったバイクはハンドルを取られてよろめき、慌てて急ブレーキを掛ける。その瞬間、バイクのハンドルにぶら下がっていたピンク色のバッグが、ハンドルからすり抜けては宙を舞い、そのままバシャーン!と地面に転がると、バッグの中からあらゆる物をぶちまけた。

「す、すびません!」

 慌てた萬次郎は、バイクの男にそう叫びながら道路に散らばる小物を拾い始めた。しかし、バイクに乗っていた男は、フルフェイスのヘルメットの中で忌々しく「チッ!」と舌打ちすると、そのまま走り去ってしまったのだった。

「ちょ、ちょっと!」

 走り去るバイクにそう呼びかけるが、バイクはもの凄い勢いで大通りに飛び出して行ってしまった。

(なんだアイツは?)

 呆然と走り去るバイクを見つめながらも、何気なくそこに転がっているピンク色のバッグに目をやった。それは、キャバクラ・アマールの美咲にプレゼントしたくてもできなかったエルメスのパーキンだ。

 萬次郎は、道路で無惨に転がっているそのパーキンを手にした。さすが、ウン十万もするバッグだけ合って、なかなかの触り心地だ。

 そんな事を思いながら、ふと、口の開いたままのバッグの中を覗くと、そこは財布の中身が飛び出し、小銭やカード類が滅茶苦茶に散乱していた。

 そして美容院の会員書の下に、なにげなく転がっていた免許証の写真をふと見て、萬次郎は「嘘っ!」とおもわず声を上げた。

 そう、その免許証に載っている写真の女は、紛れもなく、萬次郎の憧れのキャバ嬢、美咲だったのだ。

「ど、どうして美咲ちゃんのバッグが・・・」

 そう思った瞬間、路地の遠くの方からカツコツとヒールの音が聞こえて来た。見ると、それは美咲だった。美咲は大きな声で「ひったくりよー!」と叫びながら、萬次郎に向かって走って来たのだ。

 萬次郎はそんな美咲を見つめながら、さっきのバイク野郎が美咲のこのパーキンのバックを引ったくった事にすぐに気付いた。

 萬次郎は近付いて来る美咲に、「大丈夫!バッグは取り返したから!」と叫びながらも、こっそりとバッグの中の免許証を見た。

 『松永美奈・・・東京都新宿区西新宿8・・・昭和57年8月・・・・』

 萬次郎は、免許証に表示された美咲の個人情報を必死で暗記しながらも、この女、6才も歳を誤魔化してるじゃねぇか!と、真事実に驚いていた。

「えっ!萬次郎君!うそぅ!良かったぁ!」

 美咲は一気にそう叫びながら萬次郎の太った体に体当たりして足を止めると、安堵の笑みを浮かべながらも、萬次郎の体ではなくパーキンのバッグにおもいきり抱きついた。

「大丈夫よ、僕がちゃんと取り返してやったから、うん」

 萬次郎は、ここぞとばかりに美咲に恩を着せようと、偶然引ったくり犯が落として行ったバッグであるにも関わらず、さも自分が取り返したような表情で自慢げに笑った。

 しかし美咲は、そんな萬次郎に感謝するどころか、いきなり騒ぎ始めた。

「ノートとかペンとか、何か書く物ない?!私、あのバイクのナンバーを覚えてるの!早く何かにひかえて、忘れちゃう!」

 美咲は興奮げに足踏みしながら萬次郎を急かした。

 それに釣られて萬次郎も「えっ?えっ?書くもの?」と足踏みしながら、自分のポケットをパタパタと確認する。

 萬次郎の後ポケットには黒い手帳がスッポリと入っていた。萬次郎はすかさずそれを後ポケットから抜き取り、美咲がバッグから取り出した『眉書きペン』を受け取った。

「いい、言うわよ、ちゃんと書いてよ・・・練馬区・あ・64586・・・・もう一度最初から言うからね、練馬区・・・・」

 美咲がそう何度も呟いているうちに、萬次郎は、美咲に見られないようにしながらも、自分の頭に暗記していた美咲の免許証の個人情報を、忘れないうちにと先にガシガシと書いた。

 そして美咲の個人情報を手早く書き終えると、「えっ?もう一回言って?」と、美咲に聞き直しては、美咲の個人情報の下にバイクのナンバーをガシガシと書き殴ったのだった。

「大丈夫?ちゃんと書いた?」

 美咲がそう聞くと、萬次郎は、手帳を見られないように隠しながら「大丈夫。ちゃんと書いた」と頷いた。

 しかし、萬次郎がそこに書いたのは「練馬・あ」までであり、肝心の番号は書いていなかった。

 今の萬次郎はそれどころではなかったのだ。憧れのキャバ嬢の本名と住所が手に入った事で、もう完全に逆上せ上がってしまっていたのだ。

 萬次郎は、そんな美咲の大きな瞳を見つめながら(これでやっとこの女の住所がわかったぞ・・・今から徹底的にストーカーしてやるから覚悟してろよ・・・)と、細く微笑んでいると、美咲はバッグの中から携帯を取り出し、そのまま110番に電話を掛けた。

「あっ、もしもし警察ですか?今、新宿なんですけど、バイクのひったくりに遭ったんです!」

 美咲は、そんな萬次郎の企みにも気付かず、110番のおまわりさんに一生懸命事情を説明している。

 萬次郎はそんな美咲の、キッチリと化粧された美しい顔を見つめながら、さっそく今夜にもこの女のマンションに忍び込み、盗聴器と盗撮器をダブルセットで仕掛けてやるとワクワクしていた。

 と、その時だった。黒い手帳を持っていた萬次郎の手に、何やらモソモソとくすぐられるような不気味な感触が走った。

「えっ?・・・なに?」

 慌てて萬次郎が黒い手帳を持っていた手の平を見ると、なんと、そこにある黒い手帳がジワジワと消えて行くではないか。

「・・・嘘だろ・・・」

 萬次郎がそう呟きながら、手の平の上でみるみるとその身を消して行く黒い手帳を呆然と見つめていると、突然、横から美咲が「さっきのナンバー教えて」と口を挟んだ。

「えっ?・・・でも、ほら、これ・・・」

 怯えた萬次郎が半泣きの声で、消えて行く黒い手帳の手の平を美咲に見せつけると、突然、ジジッ!とタバコを押し付けられたような衝撃が手の平に走り、その瞬間、黒い手帳はパッ!と消えた。

「なにやってんのよ、早くさっきの番号教えてよ!」

 美咲は、110番に繋がったままの携帯を耳にあてながら、萬次郎をキッ!と睨む。

「いや・・・ダメだ・・・手帳が消えちゃったよ・・・」

 萬次郎が手の平を美咲に示しながらそう答えた瞬間、萬次郎の股間に強烈な痛みが走った。

「うっ!」と萬次郎が股間を押さえて踞ると、再び美咲は萬次郎の太ももをヒールの先で蹴飛ばした。

「っざけてんじゃねぇよ!早く番号教えろよ臭男!」

 美咲は携帯を耳に充てたままそう怒鳴ると、「本当に消えちゃったんだよぉ!」と泣き叫ぶ萬次郎を見下ろしながら、何度も何度も容赦なく蹴り続けたのだった。

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 散々美咲に暴行を加えられた萬次郎は、やっとの事で美咲の元から逃げ出した。

 鼻血を出したまま区役所をグルリと一周逃げ回り、そして再び四季の道に繋がる細い路地に駆け込むと、とりあえず四季の道の中にある公衆便所に飛び込んだ。

 そこまではさすがの美咲も追っては来なかった。公衆便所の中で、美咲のヒールが聞こえて来ない事を確認した萬次郎は、そこで初めてホっと肩を撫で下ろしたのだった。

(しかし・・・どーして手帳は消えてしまったんだろう・・・)

 萬次郎はもう一度、黒い手帳が消えて行った手の平をジッと見つめた。

 萬次郎は手の平を見つめながらもあれこれと考えてはいたが、しかし、そんな不思議な出来事の原因が萬次郎にわかるはずがない。

 そこでふと萬次郎は思った。もしかしたら、またあの場所に黒い手帳が置いてあるのかも知れない・・・しかも、新品のままで・・・・

 その可能性を信じた萬次郎は、便器の横に転がっているウンコだらけの週刊誌を踏みしめながら、急いで公衆便所を飛び出したのだった。

 その場所は、公衆便所から歩いて1分も掛からない場所だった。

 あの時と同じように萬次郎は四季の道の隅にしゃがむと、歩道の脇に植えられている樹木の下をゴソゴソと覗き始めた。

(確かあの時、ここにあの手帳は置いてあったはずだ・・・)

 そう思いながら、萬次郎は、樹木の下をジッと覗きながら、ゆっくりと足を進めて行った。

 しばらく樹木の下を覗きながら進むと、いきなり樹木の下にジッと潜んでいたホームレスと目が合った。

 驚いた萬次郎が、おもわず「うわあ!」と仰け反ると、そのホームレスはそんな萬次郎をジーっと見つめながら薮の中から這い出して来たのだった。

「兄ちゃん・・・もしかして・・・黒い手帳をお探しかい・・・」

 ホームレスは萬次郎にそう言いながら、ゆっくりと歩道の脇の縁石に腰を下ろした。

「えっ?・・・あの黒い手帳の事、御存知なんですか?」

 萬次郎は驚きながら急いでホームレスの隣に座った。しかし、上座のホームレスからは腐ったカニ缶のニオイが漂って来たため、萬次郎は慌てて上座に座り直した。

 ホームレスは、そんな萬次郎をジトッと見直すと、「やっぱりな・・・」と、髭だらけの口元をモグモグさせながらニヤリと笑った。

「やっぱりなって・・・どういうことですか?」

 萬次郎が不思議そうな表情をしながらホームレスにそう聞き直すと、ホームレスは「とりあえず1本くれよ」と、ゴリラのように真っ黒な指を二本突き出したのだった。

「つまりよ、あの手帳はよ、逆立ちしたってオンナにモテねぇタイプの醜男にしか手に入らねぇっつー事よ・・・」

 ホームレスはそう言いながらタバコを美味そうに吸うと、ケケケケっと不気味な声で笑いながら、抜けた歯の間から煙を吐き出した。

「逆立ちしたってオンナにモテない醜男・・・・」

 萬次郎が復唱すると、ホームレスは「そう、おめぇさん見てぇなヤツのことだよ」と、またケケケケっと笑った。

 萬次郎は、おまえに笑われる筋合いはない、と言いそうになりながらも、このホームレスは黒い手帳の秘密を知っている重要人物なんだと、慎重に言葉を進めた。

「あの手帳は、いったい誰がくれるんですか?・・・」

 萬次郎はホームレスの気分を損なわないようにと、穏やかな言葉使いで、わざと笑みなどを浮かべながら聞いた。

「そいつぁ、俺にもわかんねぇ。誰が誰にあの手帳を渡すかなんてのはわかんねぇ。ただよ、これだけは言えるんだけんど、あの手帳は、オンナにモテねぇ不細工な男にしか手に入らねぇんだな・・・おめぇさんとか俺みてぇなヤツにしかな・・・」

「じゃあ、おじさんも、あの手帳を持っていたんですね?」

 萬次郎が尋ねると、ホームレスは「あぁ」と小さく頷き、そして煙たそうにタバコの煙を吐いたのだった。

 辺りを真っ赤に染めていた夕日が潜むと、薄暗い四季の道にポワっと街灯が点き始めた。これから歌舞伎町に繰り出そうとする浮き足立ったサラリーマン達が細い路地に溢れ、革靴の底がカツコツと鳴り響く音が歩道の隅にしゃがんでいる萬次郎達を包み込んだ。

「俺があの手帳を手に入れたのは今から1年程前だったかな・・・やっぱりこの場所で拾ったんだ」

 ホームレスはそう語り始めると、ポケットからクシャクシャになった食べかけのクリームパンを取り出し、それをムングっと頬張った。そんなパンの中のクリームはカチカチに固まっていた。

「俺ぁ、あの手帳を手に入れてよ、最初何が何だかわかんなかったけど、とりあえずそこに書いてある女の所に行ったんだ。そして、そいつに、そこに書いてある暗号を聞いたんだ・・・」

「・・・どうなりましたか?・・・」

 萬次郎は興味深くホームレスの顔を覗き込んだ。

「・・・スゲェ事になっちまったよ・・・そいつぁビックリするくれぇのイイ女だったんだけどよ、三丁目の歩道で暗号言ったのが悪かったんだな・・・、俺ぁ、たちまちその女にビルの路地裏に連れ込まれちまってよ、そこでケモノみてぇにな・・・・」

 ホームレスは、しんみりとした表情でそう頷いた。そんなホームレスを見つめながら、萬次郎は、ビルの谷間で獣のように交わる、びっくりするくらいのイイ女とこの薄汚いホームレスの交尾を想像し、不意に胸の奥をムラムラっと騒がせた。

「それで気付いたんだよ。この手帳に書いてある女達はヤリ放題だってことにな・・・」

 ホームレスはそう呟きながら、小さくなったクリームパンを口に放り込もうとして手を止め、チラッと萬次郎を見ると「喰うか?」とパンを差し出した。

 萬次郎は「いえ・・・」と断りながら、「手帳の女、全員、ヤリまくったんですか?」と話しを急がせた。

「あぁ。ヤッた。ヤッてヤッてヤリまくってやった。電車ん中、図書館、駅のベンチ、路上と、犬みてぇにそこら中でヤリまくったよ。うん。そりゃあよ、相手は俺なんかにゃ近寄れねぇような美人ばっかりだろ、そりゃあ天国みてぇな気分だったよ・・・」

 ホームレスは左手に付けていたボロボロの軍手を右手の指で弄りながら、嬉しそうにへへへへへっと笑った。

「・・・で、全員ヤったら、手帳が消えちゃったんですか?・・・」

 萬次郎は、この男の性武勇伝が聞きたいのではなく、どうして手帳が消え、そしてその手帳は今どこにあるのかを知りたいのだ。だから、話しのその先をどんどんと急かせた。

「いや・・・全員ヤってねぇよ・・・途中で消えちまった」

「じゃあ、僕と一緒だ・・・。ねぇ、おじさん、手帳が消えたときの事を詳しく教えてよ」

「詳しくっつっても・・・ただ、いきなりパッっと消えちまったんだ・・・」

「消える前に何かあったでしょ?・・・例えば、手帳に落書きしたとか・・・」

 萬次郎は、手帳が消えたのは、ひったくりバイクのナンバーや美咲の個人情報を書き込んだ事が原因だと思っていた。だから、このホームレスも同じようにそこに何かを書き込んだのではないかと思ったのだ。

「あぁ。書き込んだよ・・・書いたら、ものの5分もしねぇうちにパッと消えちまったよ」

「そこに何を書き込んだんですか?」

「何って・・・そりゃあ俺がヤリてぇ女の名前に決まってんじゃねぇか・・・」

「ヤリたい女の名前?!」

 萬次郎はおもわず叫んでしまった。萬次郎のその声に、四季の道を横切ろうとしていた野良猫がピタリと足を止め、萬次郎をジッと見つめながら「ニャ~ゴ」と不気味に唸った。

「おまえさん・・・もしかしてあの手帳の使い方を知らねぇのに、何か書き込んじまったのか?・・・」

 絶句している萬次郎の顔を、ホームレスがそう言いながら覗き込む。

「いるんだよなぁ、おまえさんみたいな馬鹿が・・・何も知らずに手帳に書き込んじまうヤツがよ・・・確か、何も知らずに、7才か8才の自分の娘の名前をついつい書き込んじまったヤツがいたなぁ・・・あいつ、誰かが娘に暗号言わねぇかって、四六時中、包丁片手に娘に張り付いてんだ。気の毒なヤツだよ。まぁ、そー言う俺もここんとこあいつに斬られたんだけどな・・・」

 ホームレスはそう言いながら作業服の左腕をまくり、15センチ程の無惨な斬られ傷を見せた。それは、手帳に書いてあった井上瑠璃という10才の少女の事だろうと、萬次郎はホームレスのその傷を見ながら、あの少女に近寄らなくて正解だったと肩を撫で下ろした。

 そして、気を取り直してホームレスの顔を見上げると、「あの手帳に名前を書き込むと、その人とできるんですか?」と聞いた。

「そうだ。あの手帳っつーのは、元々それが目的の手帳らしいんだな。うん。つまり、モテない男がよ、ヤリたくてもヤれねぇ女の名前を手帳に書き込むと、不思議な魔力によってヤらせてもらえるっつー、いわば、醜男にはありがたいサプライズな手帳っつうわけよ」

「・・・・・・・・・・」

「ただし、1発だけだ。たった1発しかできねぇんだ。身体は自由に出来ても心までは自由に出来ねぇっつーんだな・・・だから恋人にしたり結婚したりってのは無理。たった2時間ぽっちの1発だけなんてよ、モテない男にすりゃあ、逆に、切ねぇ事だよなぁ・・・・」

 ホームレスは、詩人のような目をして新宿の夜空を見上げる。そしてボンヤリと夜空を見つめながら話しを続けた。

「しかもよ・・・そこに名前を書いた女と1発できるのは自分だけじゃないってのが辛いよな・・・暗号を知ってる男なら誰でもデキちゃうんだもんな・・・惚れた女がそこらじゅうの男達にヤられるなんて、残酷な手帳だぜ、まったく・・・」

 ホームレスは吐き捨てるようにそう呟くと、座っていた縁石の上をチロチロと這い回る蟻を、指先でブチッと潰した。

「おじさんは、誰の名前を書いたんですか?・・・」

 萬次郎は、そんな淋しそうなホームレスを優しく見つめながら聞いた。

「・・・俺ぁよぉ・・・女房だよ・・・別れた女房。どうしても、あいつともう1度ヤリたくってよ・・・ついついあいつの名前を書いちまった・・・」

 ホームレスはそう呟きながら再び蟻を2、3匹一気に潰すと、「でもよぉ」と話しを続けた。

「俺ぁ馬鹿だからよ、暗号を忘れちまったらいけねぇと思って、簡単な暗号にしちまったんだよ・・・」

「なんて暗号ですか?」

「・・・『母ちゃん』だよ・・・」

 ホームレスはぐったりと項垂れながら呟いた。

 その暗号を聞くなり、萬次郎の頭に、かまぼこ工場で働いていた『まったくソソらない醜熟発酵ウシ女』が瞬間に浮かび上がった。

「あぁ、あのかまぼこ工場の・・・」

 そう萬次郎が頷いた瞬間、いきなりホームレスが萬次郎の胸ぐらに掴み掛かり、「ヤったのかテメー!うちの母ちゃんとヤッたんだなテメー!」と、気が狂ったかのように叫びまくった。

「ちょ、ちょっと待って下さい!僕はあの人とはヤってませんよ!心配しないで下さい、僕はただあの人をかまぼこ工場まで見に行っただけですから!」

 萬次郎は必死でそう叫びながら、ホームレスの異常な嫉妬心から沸き上がる馬鹿力から、なんとか擦り抜けた。

「ほ、本当にヤってねぇんだな・・・・」

 ホームレスは肩を激しくハァハァさせながら萬次郎を睨む。四季の道を歩いていた通行人達が、そんな、興奮するホームレスから避けるようにして慌てて通り過ぎて行った。

 しばらくして、やっと興奮が冷めて来たホームレスに萬次郎がタバコを1本勧めると、ホームレスは小さな声で「悪りぃな・・・」と呟きながら、申し訳なさそうにタバコを抜き取った。そして、『スナック栗の木』と書かれた百円ライターでジュっと火を付けると、深く吸い込んだ煙をうまそうにゆっくりと吐きながら「俺が馬鹿だったんだよ・・・あんな簡単な暗号付けちまったからよ・・・」とポツリポツリと話し始めたのだった。

「俺んちはよ、近所でも有名な大家族なんだ。6男2女。へへへ、すげぇだろ。上の長男が今年大学生でよ、後は高校生もいればニートなんてヤツもいる。一番下のガキはよ、俺があいつに捨てられる時にあいつの腹ん中にいたガキだよ。俺ぁそのガキの顔も見た事ねぇ・・・」

 ホームレスは深い溜息をつきながら、大きな鼻の穴から煙を吐き出した。

「俺が手帳にあいつの名前を書き込むと、久しぶりの我家へと向かったよ。電車賃もバス賃もねぇからよ、新宿から足立までトボトボと歩いて行ったさ。でもよ、久しぶりに母ちゃんを抱けるかと思ったら嬉しくってな、そんな果てしない道のりも何の苦労もなかったさ・・・」

 ホームレスは、トボトボと歩いた道のりを懐かしむかのようにゆっくりと夜空を見上げ、穏やかな表情で新宿の星を眺めていた。しかし、そんなホームレスの表情が、一瞬、キュッと険しくなった。ホームレスはキラキラと輝く星を、まるで親の仇を見るかのような険しい目付きで突然睨み始めると、ワナワナと肩を震えさせながらゆっくりと言葉を続けた。

「・・・でもよ・・・久しぶりの我家に帰ってみたら・・・すげぇ事になってたよ・・・俺ぁ、中庭に忍び込み、ソッと居間を覗いたんだけどな、そこにはよ、素っ裸の子供達と母ちゃんがケモノみてぇに交わっていたんだ・・・」

 おもわず萬次郎が「ぷっ」と噴き出す。

「おもしれぇか?」

 ホームレスが、どんよりと座った目で萬次郎をスッと見た。

 そして、慌てて首を横に振る萬次郎を見ながら、「おもしれぇよな・・・いいよ、笑いたきゃ笑えよ・・・」と呟きながら、自分もケラケラと笑い出した。

「ウチは大家族だからな。ガキ共が、いつも家ん中で『母ちゃん!母ちゃん!』って叫んでんだよ。その度に催眠術に掛かっちまう母ちゃんはよ、慌てて服脱いで、息子のチンポをしゃぶるは、娘のマンコに指入れるはでよ、もう大変な事になっちまったんだ」

 ホームレスはヤケクソのように自分の膝をパンパンと叩きながら大笑いすると、「しかもよ、あの辺は下町だろ、だから近所のオッサン達なんかもウチの母ちゃんの事を、気やすく『母ちゃん』なんて呼ぶんだよ、だからもうあいつは道端でも近所のスーパーでも『母ちゃん』って呼ばれると、素っ裸になってオッサン達を追い回すんだな、だからあいつはそのたんびに何度も何度も精神病院にぶち込まれてよ、本当、馬鹿だよな俺って・・・」と、そう一気に話しては、そして遂に泣き出した。

 萬次郎は、そう号泣し始めたホームレスを、それ以上見てられなかった。

 なんという気の毒な人なんだ・・・

 そう思いながら、萬次郎はポケットの中からタバコの箱を取り出すと、それをホームレスの足下にソッと置き、そのまま静かに立ち上がった。

 ホームレスの泣き声なのか呻き声なのかわからない不気味な声を背後に、萬次郎がゆっくりとその場を立ち去ろうとすると、ふいにホームレスが「おい・・・」と萬次郎を呼び止めた。

 振り向くと、ホームレスは無精髭に鼻水を垂らしたまま、淋しそうにジッと萬次郎を見つめている。

「おまえさんも、俺みてぇな失敗をするんじゃねぇぞ・・・」

 ホームレスは、優しそうな目で萬次郎を見つめながら呟いた。

「・・・うん。ありがとう・・・」

 そう頷いて、歩き出そうとすると、ホームレスは再び萬次郎を呼び止めた。

「ちなみに聞いておくが・・・おまえさん、あの手帳に何を書いたんだ・・・」

 ホームレスは心配そうに萬次郎の顔を覗き込みながら聞いた。

「名前と・・・住所・・・」

「誰の?」

「うん・・・すぐそこの角のビルの中にあるアマールってキャバクラがあるんだけど、そこの美咲ちゃんって子の本名と住所を書いた・・・」

「本当に名前と住所だけか?まさかおめぇ、暗号なんて書いてないだろうな・・・」

「暗号までは書いてないけど・・・」と、萬次郎は答えた瞬間、美咲の本名の下にバイクのナンバープレートを書いたのを不意に思い出した。

「な、なんだよその顔は、やっぱり暗号書いたのか?書いたんだな?書いたんだろ?」

 ホームレスは心配そうな顔をして立ち上がった。

「暗号と言うか・・・名前と住所の下に、バイクのナンバーを・・・」

 萬次郎はオロオロになった。大好きな美咲が不特定多数の男達の餌食になってしまったらどうしよう!と、頭の中がパニック状態になってしまったのだ。

「バカ野郎め!取り返しのつかねぇ事しやがって!で、いったい何て書いたんだ!」

 ホームレスが叫ぶ。

「は、はい、確か、『練馬・あ』と・・・」

「それだけか!番号は!」

「い、いえ、番号は忘れちゃって・・・だから『練馬・あ』だけしか書いてません・・・」

 萬次郎がそう答えるなり、ホームレスは縁石に置いてあったタバコの箱を鷲掴みにすると、いきなり四季の道を走り出した。

「えっ?・・・ちょっとおじさん!」

 何が何だかわからなくなった萬次郎が、そんなホームレスの走り去って行く背中に慌てて呼びかけると、四季の道の遠くの方から、走り去って行くホームレスの声が響いて来た。

「バーカ!」

 ホームレスのそう叫ぶ声と共に、ホームレスがケケケケケケっと笑う声が聞こえて来た。

「・・・・バ・・・カ?・・・・」

 萬次郎は、そんなホームレスの小さくなって行く背中を見つめながら、その言葉を繰り返すようにポツリと呟き、そしてやっと、暗号を知ったあのホームレスが美咲の身体を狙っている事に気がついた。

「こ、この野郎!待てぇ!」

 慌てて走り出す萬次郎。しかし、ホームレスの姿は、雑踏とした歌舞伎町のネオンの中へと消えて行ってしまったのだった。

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「テメェ、また来やがったな!この辺、ウロウロすんなって言っただろうが!」

 キャバクラ・アマールのビルの前に行くと、アマールの呼び込みをしていた店員が萬次郎に向かってそう叫び、そして銜えていたタバコを萬次郎に投げつけた。

 夜の歌舞伎町の歩道に、パッ!とタバコの火の粉が舞い散り、通りかかった花屋のおばさんが慌てて萬次郎から遠離った。

「おまえさぁ、何度言ったらわかるんだよ。美咲さん、おまえのストーカーに怖がっちゃってよ、最近は欠勤なんかも多くなっちゃってよ、おかげでウチの店は大損害だよ、わかってんのかテメーはよぉ、おお!」

 萬次郎がこの店に通っていた頃、俺は元暴走族だったんだと威張っていた店員は、まるでチンピラがケンカをふっかけて来るかのような口調で、萬次郎に迫って来た。

「違うんですよ、待って下さいよ、あのね、本当に美咲さんは狙われているんですって・・・」

 迫って来る店員に、萬次郎がそう言いながら後ずさりすると、「誰に狙われてるっつーんだよ、おお!」と、店員は叫びながら、萬次郎の太ももにガシガシと小さく蹴りを入れて来た。

「ホームレスです!四季の道にいる中年のホームレスが美咲さんを狙ってるんですよ!本当なんですって!信じて下さいよ!」

 後ずさりしながらも、両手で拝みながらそう叫ぶ萬次郎は、そのまま歩道の隅に追いやられ、そして歩道の縁石に蹴躓いては、そのまま車道へひっくり返った。車道にひっくり返った萬次郎にタクシーがけたたましいクラクションを鳴らし、近くを歩いていたホスト少年達が指をさして笑い出した。

 そんなギャラリー達に自分の怖さを誇示するかのように、元暴走族の店員は車道にひっくり返った萬次郎をドスっ!と蹴飛ばし、「今度ウチの店の回りをウロウロしてたらぶっ殺すぞ!」と、古い東映の映画のような捨て台詞を残して、ノソノソとビルに戻って行ったのだった。

(こいつらに、黒い手帳の事をいくら説明したってわかるわけないよな・・・)

 そんな店員の後ろ姿を見つめながらそう思った萬次郎は、再びタクシーからけたたましいクラクションを鳴らされ、ついでに「早くどけ!轢き殺すぞブタ!」と運転手に怒鳴られたのだった。

 萬次郎は、店員に蹴飛ばされた横っ腹を労りながら、とりあえずいつものバッティングセンターの駐車場に潜伏した。この駐車場の暗闇は、ネオンきらめく世界一の歓楽街・歌舞伎町で、唯一萬次郎が安心できる場所だった。

 萬次郎はそんな暗闇に隠れながら、店から出て来る美咲をジッと待ったのだった。

 バッティングセンターの駐車場で美咲を見守る、そんな夜がここ1週間続いていた。

 しかし、この1週間、れいのホームレスが動いた形跡はなかった。この1週間、仕事を休んでは美咲の傍を一時も離れずに、まるで美咲の守護神のような生活をしている萬次郎だったが、まだ一度もホームレスを目撃していない。

(あの糞ジジイ・・・あいつだけには絶対に美咲を渡さないからな・・・)

 暗闇の萬次郎は、そんな執念をギラギラと両目に宿しながら、駐車場から見えるアマールのビルをジッと見つめていたのだった。

 そうやって1時間が過ぎた頃、駐車場の真正面にある細い路地の大きなビルから、足下を振らつかせる酔っぱらい女と、でっぷりと太ったカッパハゲのオヤジが出て来たのが見えた。

(ふん・・・あんなになるまで酔っぱらいやがって・・・あの娘、今からあのカッパハゲに好き放題に犯されるんだろうな・・・)

 駐車場の暗闇に潜んでいた萬次郎は、そんな嫉妬を含んだ目で2人を見つめ、こんなヤツラは日本の為にならないから即刻殺すべきだ!などと、勝手な事をブツブツと呟いていた。

 と、その時、萬次郎は、そのフラフラと酔っぱらった女に見覚えがある事に気付いた。

(あの娘・・・誰だっけ?・・・)

 駐車場に止めてある車の影からソッと顔を覗かせては、そのフラフラの女をジッと見つめる萬次郎の目に、ふいに、2人が出て来たビルの看板が飛び込んで来た。

「カラオケ大統領・・・・」

 ポツリと看板を読んだ萬次郎は、「あっ!」とおもわず叫んでしまった。

 そう、そこをフラフラと歩いているその少女は、紛れもなく一番最初に催眠術をかけた、あずみちゃんに間違いないのだ。

 興奮する萬次郎は、夢遊病者のようにフラフラと歩くあずみのその歩き方と、そして、どー見てもあずみとは不釣り合いな薄汚いカッパハゲのオヤジを見つめながら、やっと事態が読み込めた。

 あずみはあのカッパハゲに催眠術をかけられているのだ。

 そう確信した萬次郎は、カッパハゲに誘導されながら、フラフラと暗い細道に入って行くあずみの後を追った。カッパハゲがあずみに催眠術をかけたと言う事は、あのカッパハゲが黒い手帳を持っているに違いないのだ。

(あいつから手帳を奪い取ってやる・・・そして、僕が書き込んだ美咲の名前を消去してやるんだ・・・)

 そう意気込む萬次郎は、バッティングセンターの駐車場を抜け出すと、前を歩くカッパハゲに気付かれぬくらいの距離を保ちながら、2人の後をソッと尾行したのだった。

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 カッパハゲは、フラフラとヨロめくあずみを巧みに操りながら、ネオンが少ない暗い路地へと誘導していた。途中、我慢できなくなったのか、カッパハゲはフラフラのあずみのミニスカートの中に手を突っ込んだり、又、道路の真ん中で濃厚なディープキスをしたりと、悪質な痴漢行為をヤリたい放題に繰り返していた。

 そんなカッパハゲは、近くにラブホが沢山あるにも関わらず、フラフラのあずみをビルとビルの隙間にある、真っ暗な路地へと連れ込んだ。

(ケチな野郎だ・・・どうせならラブホでじっくりと楽しめばいいのに・・・)

 萬次郎はそう思いながらも、しかし、ラブホに入られなかったのは逆に好都合だ、と、そのまま2人の後を追ってビルの隙間の路地に忍び込んだのだった。

 そのビルに挟まれた路地は、ビルのどこかに焼肉屋の換気扇があるのだろうか、妙に食欲をそそる香ばしい香りをムンムンと漂わしている路地だった。路地の広さは大人が両手を広げた程のスペースで、路地の突き当たりは行き止まりらしく、そんな狭い路地にはビールケースや壊れたポリバケツが散乱していた。

 そんな散乱した粗大ゴミをバリリっと踏みしめながら路地を進むと、路地の奥から「誰だ!」という声が響いて来た。

「怪しい者じゃない・・・いいから続けろよ・・・」

 萬次郎は暗闇に向かってそう呟きながら、不安定な路地をバリバリと進んだ。

 路地の突き当たりに行くと、朽ち果てた巨大な非常階段がビルの隙間から注ぎ込む月夜に照らされては、やたらと不気味にモノクロームな光を輝かせていた。そんな非常階段の下で、カッパハゲは催眠術にかかったあずみを隠すようにしながら萬次郎を待ち受けていた。

「何しに来た・・・お、俺になんか用か?」

「いや・・・用があるのはあんたじゃない・・・そっちのあずみちゃんだ・・・」

 萬次郎は、カッパハゲの妙に太い土方腕に一瞬たじろいだ。このカッパハゲ、ケンカは弱そうだが力はありそうだ、と萬次郎は思いながらもカッパハゲを警戒する。そんな警戒心をカッパハゲに悟られないように、萬次郎はわざと強気にハードボイルドを気取ってみた。

 すると、そんな余裕の態度を見せるハードボイルドチックな萬次郎に、さっそくカッパハゲは明らかに動揺していた。きっとかなり知能は弱い。

「あ、あずみちゃんに用って、ど、どーいう事だよ・・・」

 萬次郎の影に怯えるカッパハゲは、そう言いながら膝がガクガクと震えていた。

「心配するな・・・俺も、おまえと同じ黒い手帳を持ってる者だ・・・」

 萬次郎は、あえて自分の事を『俺』と呼んではクールに決めながらも、暗に彼が黒い手帳を持っているかどうかの探りを入れてみた。

 萬次郎の言葉を聞いて、カッパハゲの肩がスーッと降りた。とたんに安心したカッパハゲは、暗闇でへへへへへっと不気味に笑いながら、「なんだよ、あんたも持ってるのか、コレ・・・」と、ポケットから取り出した黒い手帳を手の平でパンパンと叩いて鳴らした。

(やっぱり持っていた!)

 萬次郎は、そのまま黒い手帳を奪い取りたい衝動に駆られながらも、そんな気持ちを相手に悟られないように、余裕の笑みを浮かべながらカッパハゲを見返した。

「でもよ、これは俺がかけた催眠術だからよ、へへへへ、悪いけど、俺が最初に楽しませて貰うぜ・・・」

 カッパハゲは、暗闇で薄ら笑いを浮かべている萬次郎にそう言うと、おもむろにあずみの白いブラウスの胸元に手をやり、その幼気な貧乳を乱暴に揉み始めた。

「それでもいいが・・・」と呟きながら、萬次郎はゆっくりと一歩前に出た。

 そして、カッパハゲの顔をソッと覗き込むと、「それより、どうだい。2人で楽しむってのは」と提案した。

「ふ、2人で?」

「そうだ。2人でこの少女を頂くんだ。もちろん、俺が催眠術をかけた時には、あんたも一緒に楽しむ。そうすれば、1度しか楽しめないのが2度楽しめるって事になるだろ・・・」

 萬次郎がそう言いながらニヤニヤ笑うと、すかさずカッパハゲが「なるほど・・・」と感心するように呟きながら、表情をパッと明るくさせた。

「よし、いいだろう。2人でヤろうぜ。そのかわり、あんたの時もちゃんとヤらせろよ・・・」

 カッパハゲは嬉しそうにそう言うと、非常階段の奥でボンヤリと立ちすくんでいたあずみを引きずり出しては、萬次郎の前に突き出したのだった。

 あずみは、老朽化したビルの壁に顔を押し付けられると、背後から萬次郎に抱きしめられた。あずみの栗毛色した髪からオシャレなリンスの香りがプーンと漂い、萬次郎を興奮の坩堝へと導いた。

 あずみの足下で、ハァハァと荒い息を吐くカッパハゲは、あずみのミニスカートの中を覗きながら、あずみのスニーカーをペロペロと舐めている。なにやらこの男は想像を絶するフェチのようだ、と、萬次郎は警戒しながら、黒い手帳が入っているカッパハゲのズボンの後ポケットにソッと目をやる。

「どうだい・・・この娘、こんなに濡れてるぜ・・・」

 ミニスカートの中を覗き込みながら、あずみの股間を弄ってはクチャクチャと音を立てていたカッパハゲは、スカートから抜き取った指を月夜にテラテラと輝かせながら恍惚とした表情で眺めた。そしてゆっくりとその湯気が立つ濡れた人差し指を鼻に近づけると、それを犬のようにクンクンと嗅ぎながら、「やっぱり可愛い子のアソコのニオイは堪んねぇぜ・・・」と、いやらしく呟いたのだった。

「もう我慢できない・・・」と、演技っぽく呟いた萬次郎は勃起したペニスをズボンから捻り出した。カッパハゲは月夜に浮かんだ萬次郎の巨大ペニスを見て、「デカっ・・・」と呟きながらも、この催眠術は俺がかけた催眠術なんだから俺が最初にヤルんだ!とツバを飛ばしながら強く主張した。

「いいぜ・・・早くヤりな・・・」

 萬次郎がハードボイルドっぽく呟きながら、あずみからソッと離れた。

「へへへへ・・・とりあえず、先に舐めさせるからさ・・・ちょっと待っててくれよな・・・」

 カッパハゲは、背後の萬次郎に見つめられながら、ズボンのベルトをカチャカチャと音立てながら外し始めた。そんなカッパハゲの背中を見つめながら、萬次郎は自分の背後にも、先程からなにやら尋常ではない不気味な視線を感じている。

(・・・なんか・・・さっきから誰かに見られてるようで・・・気持ち悪いなぁ・・・)

 萬次郎はソッと後に振り返った。

 萬次郎の背後には、また別の非常階段が不気味な姿を晒していた。それは、ここ三十年くらい誰も一度も使った事がなさそうな、そんなサビでボロボロに朽ち果てた真っ黒な非常階段だった。

 四方をビルの裏側に囲まれたこのビルの谷間の空き地には、四方のビルにある風俗店や違法カジノ店の裏口から投げ捨てられたと思われるゴミが大量に散乱していた。そんなサビだらけの非常階段の踊り場には、使用済みのコンドームや使用済みの注射器が散乱し、いつの時代のものなのか『ノーパン喫茶エンジェル4号店』と書かれた古臭い木製看板がバリバリに割れては淋しそうに転がっていた。

 そんな、まさしく『THE歌舞伎町』と言わんばかりの、この薄気味悪いビルの谷間の空き地。そこに立ちすくむ萬次郎は、どこからかジッと見つめられているような不気味な視線を感じて仕方なかったのだった。

「よし・・・それじゃあね、おじさんのチンチン舐めてくれるかな・・・」

 ズボンとパンツを足首まで下ろし、汚い尻を月夜に曝け出したカッパハゲは、まるで幼児に呟くかのようにあずみにそう言うと、目の前に立っていたあずみの小さな肩を両手で押しては、あずみを目の前にしゃがませようとした。

 あずみはボンヤリした表情のまま、カッパハゲの手に押されその場にゆっくりとしゃがんだ。萬次郎からは、ミニスカートでしゃがんでいるあずみの股間がストレートに見えた。白いパンティーの中心がジットリと濡れ、その奥にある肉色が鮮明に透けて見えた。

「ほら、ちゃんと手で握るんだよ・・・そうそういい子だねぇ・・・はい、口を開けて・・・」

 カッパハゲの命令に素直に従う美少女あずみ。小さく開いたあずみの口の中に、カッパハゲのドス黒いペニスがムグムグと押し込まれて行く。

「おぉぉぉ・・・・この娘、ちゃんと舌を使ってるぜ・・・・あぁぁぁ・・・・スゲェよこれ・・・」

 カッパハゲは嬉しそうに微笑みながら、背後の萬次郎に振り向いた。

 カッパハゲの足下には、黒い手帳が入ったズボンが、やる気のないアコーディオンのように萎れていた。この隙に、なんとかズボンのポケットから手帳を取り出せないものかとチャンスを伺うが、しかしそれはあまりにも強行すぎる。ズボンから手帳を取り出そうと屈んでいる間に、あのカッパハゲのド太い土方腕に捕まえられたらひとたまりもないのだ。

(いっその事、後から頭をぶっ叩いて気絶させてしまおうか・・・)

 そう思いながら、萬次郎が何か鉄パイプのような物はないかと辺りをキョロキョロしながら再び後を振り向いたその時、その真っ黒な目玉といきなり目が合った。

(!・・・・えっ?・・・)

 萬次郎はその黒い目玉に見つめられながら、まるで瞬間冷凍されるかのように瞬間的に金縛り状態になった。

 なんとその黒い目玉はひとつだけでなく、10、いや50、いや100、と、周りを見回せば、その目はどんどんと増えて行くではないか。

 ギョッ!としながら目を凝らしてよく見ると、その黒い目玉はカラスだった。100羽、200羽、いやそれ以上いるだろうか、そのカラスの大軍は、朽ち果てた非常階段の闇に紛れては一斉に萬次郎達をジッと見ていたのだった。

 ふいに、子供頃、「ゴールデン洋画劇場」で見た「オーメン」を思い出した萬次郎の尿道から、チロッ・・・と無意識に小便が洩れた。これほどのカラスの大軍は今までに見た事はない。いや、これほどのカラスに見つめられた事も今までには一度もない。これがハトだったら、気持ち悪いの一言で済む問題だが、しかし真っ黒なカラスの大軍はあまりにも怖すぎた。

「おぉぉぉ・・・もっと、亀の裏をチロチロと・・・あぁぁそうだそうだ・・・いい子だ、いい子だ・・・」

 カラスの大軍に見つめられている事も知らず、カッパハゲはのんきな声をあげながら、あずみの小さな口の中に腰を振っていた。

 萬次郎は、カラス達を刺激しないようにと慎重に歩き出した。そして、ビルの通路まで忍び足で行くと、ソッと後ろを振り返り、何も知らずに悶えているカッパハゲに静かに声を掛けた。

「僕・・・外で待ってますので・・・ごゆっくりどうぞ・・・」

 いつしか萬次郎の顔からはハードボイルドの表情は消え、その声はいつもの小心者の萬次郎に戻っていたのだった。

 路地を飛び出した萬次郎は、カラスの大軍が追って来るのではないかと半泣きになりながら必死で空を仰いだ。気が触れたかのように、夜空を見つめながら「わあぁ、わあぁ」と怯えて走る男。こんな男はここ歌舞伎町には星の数程いる為、通行人達は別段気持ち悪がる事もなく、普通にそんな萬次郎の横を通り過ぎていく。

 カラスの大軍の影に怯える萬次郎は、そのまま雑居ビルに飛び込んだ。

「マジ怖ぇ!」

 1人そう叫ぶ萬次郎のズボンの股間にはじんわりと小便のシミができていた。エレベーターから降りて来た若い女とホストらしき茶髪の少年が、そんな萬次郎を横目で見ながらクスクスと笑っては横切って行く。

 萬次郎はこのまま寮まで猛ダッシュで逃げ帰ろうと思った。あんな恐ろしい思いをするのはもう懲り懲りだ、黒い手帳なんてもうどうでもいい、とにかく一刻も早くあの不気味なカラス達のいるこの歌舞伎町から出よう!と心で叫ぶ萬次郎は、まるで避難訓練のように両手で頭を押さえながら雑居ビルを出ようとした瞬間、いきなり萬次郎の脳裏に美咲の笑顔が浮かんだ。

 『萬次郎君、お誕生日おめでとう』

 そう言って、アニエスベーの香水をプレゼントしてくれた美咲。あれはきっと自分があまりにも臭いため送ってくれたプレゼントだったのだろうが、しかし、今までに人からプレゼントなど一度も貰った事のない萬次郎は、そのあまりの感激に男泣きに泣きまくった。

 そんな美咲が、今、とんでもない危機にさらされている。それは暗号を知ったホームレスだけでなく、あの黒い手帳を手にした不特定多数の男達全員からだ。そう、当然、あのカッパハゲもいつかは美咲に辿り着くだろう、そしてまた、あのカラスの巣窟で、いい子だねキミは・・・などと呟きながら、美咲にあのポークビッツのようなお粗末なチンポをしゃぶらせるのだろう・・・・。

 突然萬次郎の胸がカッ!と熱くなった。

(美咲ちゃんをこんな目に遭わせたのは僕の責任だ!)

 そう興奮し始めた萬次郎は、逃げ出そうとしていた気分を振り払った。そして、なんとしてでもカッパハゲから黒い手帳を奪い取り、美咲のファイルを消去するんだと、熱い闘志が湧いて来た。

 と、その時、いきなり雑居ビルの1階にあった寿司屋の扉が開いた。

 寿司屋の店員らしき男が、生ゴミらしき大きなゴミ袋をユッサユッサと抱えながら通路に出て来た。そんな生ゴミの袋からは、猛烈な生臭さがモワッ!と漂っていた。

 店員は萬次郎を一瞥すると、そのまま知らん顔してビルを出て行く。萬次郎はある作戦をふいに思い付き、下駄を鳴らして歩いて行く寿司屋の店員の後を追った。

 店員は、雑居ビルを出ると、すぐ目の前にある電信柱の隅にゴミ袋を放り投げた。そして、電信柱に引っ掛かっていたカラス防止用のミドリ色したネットをゴミ袋の上に簡単に掛けると、そのまま下駄を鳴らして去って行ったのだった。

 店員の下駄の音が完全に消えると、萬次郎は、慌ててカラスネットを剥ぎ取り、その、様々な汁が溜ってブヨブヨになっている寿司屋のゴミ袋を盗んだ。

(美咲ちゃん・・・僕が必ず救ってみせるからね・・・)

 心の中で何度もそう呟く萬次郎は、強烈に臭い汁をポタポタと垂らす寿司屋のゴミ袋を両手に抱え大声で叫んだ。

「ダミアンになってやる!」

 悪臭を放つゴミ袋を手にしながらそう叫ぶ萬次郎を、集団のヤクザがジロッと睨み、正面のビルの二階の非常階段で携帯電話を掛けていたキャバ嬢が「ぷっ」と噴き出した。

 しかし萬次郎にはそんなヤツラは目に入らなかった。気分はもうカラスを操る「オーメン」のダミアンである。そんな異様なパワーに満ち溢れた萬次郎は、歌舞伎町の月夜に向かって「666!」などと意味不明に叫びながらカラスの巣窟へと走ったのだった。

-27-

 カラスの巣窟へと続く路地を、足音を忍ばせながら進んで行くと、ビルの谷間に谺すあずみのアエギ声が聞こえて来た。

(ヤッてるな・・・)

 足を止めた萬次郎は、奥の暗闇を見つめながら、頑丈に縛られているゴミ袋の口を開けた。

 寿司屋のゴミ袋の中身は100%が生ゴミだった。出刃包丁でぶった切られた魚の生首がゴロゴロと転がり、その魚の目が恨めしそうに萬次郎を見つめていた。そんな生ゴミの塊の奥には、真っ赤な血の色をした臭汁が大量に溜っていた。その臭汁には魚の内臓と思われるミミズのような魑魅魍魎な物体がウヨウヨと浮かんでおり、そのニオイはあまりにも強烈すぎた。

 そんな生ゴミを抱えながら、萬次郎は静かに奥へと進んだ。

 通路の奥にある空き地には、ビルの谷間からそそぎ込む月の灯りがボンヤリと灯り、激しく交わる2つの影をモノクロームに映し出していた。

「・・・まだだぜ・・・もう少し待っててくれよ、今、大量の精液をコイツの中にぶっかけてやるからよ・・・」

 背後から、あずみの小さな尻にカクカクと腰を振っていたカッパハゲは、萬次郎に振り返るなり苦しそうにそう呟いた。そして、腰を振りながらも萬次郎が手に持っているゴミ袋を見たカッパハゲは、「・・・なんだいそりゃ?・・・ゴミか?」と不審そうに顔を顰めながら聞いた。

「いや、ちょっとしたアダルトグッズだよ・・・まぁ、気にしないでゆっくり楽しんでくれ・・・」

 再びハードボイルドチックになった萬次郎は、そう答えながら、そそくさとカッパハゲの背後に回った。

 そんな萬次郎が抱えるゴミ袋のニオイを、早くも嗅ぎ付けたのか、非常階段から見つめるカラス達が一斉に首を斜めに傾げた。その姿がとんでもなく気味悪く、おもわず大声を出して逃げ出したい心境に駆られたが、しかし萬次郎は「俺はダミアンだ」と唱えながらグッと堪えた。

「なんだよ・・・そんな大荷物まで持ち込んで、SMでもやろうって魂胆かい?・・・」

 カッパハゲはそう呟きながらあずみの小さな尻をペシペシと叩き、「こいつはとんでもねぇ淫乱娘だよ。もう2回も潮吹いてるんだぜへへへへへへ・・・・だからSMプレイは喜ぶかも知れネェな・・・」と、卑猥な声で大きな笑い声を上げた。

 そんなカッパハゲの笑い声がビルの谷間に谺すと、その大きな笑い声と生ゴミのニオイに反応したのか、数匹のカラスがバサバサと羽の音を立てた。

 早く決行しないと自分が危ない、と、フライングし始めるせっかちなカラスの羽の音を聞きながら萬次郎は焦った。

 そんな萬次郎がふと見ると、カッパハゲのズボンは、交わる2人の足下に脱ぎ捨てられていた。

(今なら奪える!)

 そう思った萬次郎は、右手でギュッと握っていた袋の口を静かに開き、袋の口を開いたままの状態でカッパハゲの背後に近寄った。

「しかし、あんたもなかなかの変態だなぁ・・・で、どんなSMプレイをするんだい・・・縛るのか?それともナイフでズタズタに切り裂くのか?・・・へへへへ、もちろん俺もそのSMプレイに混ぜてくれるんだろうな・・・」

 萬次郎にそう話し掛けながら、恍惚とした表情であずみの尻に腰を打ち付けるカッパハゲは、後に迫る萬次郎に全く気付いていなかった。

「あんたもSMが好きなのか?」

 カッパハゲの真後ろから、耳元にソッとそう呟くと、ビクッ!と身体を震わせたカッパハゲは「えっ?!」と驚きながら振り向いた。

「あんたも仲間に入れてやるよ・・・今夜のSMプレイは、カラスの晩餐会だ・・・・」

 萬次郎はニヤリとそう微笑むと、生魚の死骸と臭い汁がタプタプと溜ったゴミ袋を、カッパハゲのツルツルと剥げた頭からバシャーッ!とぶっかけた。

「はぁ?・・・・・」

 アジの生首をハゲ頭の上に乗せた全身臭汁だらけのカッパハゲは、何が起きたのかわからない表情のまま、つぶらな目をパチクリさせながら萬次郎を見た。

 萬次郎はそんなカッパハゲをおもいきり蹴飛ばした。「わあっ!」と叫んだカッパハゲが、魚の死骸が飛び散る地面にひっくり返った。その隙にカッパハゲのズボンを鷲掴みに奪い取った萬次郎は、暗闇の非常階段に潜むカラスの大軍に向かって、「ダミアーン!」と腹の底から大声で叫びながら、足下に転がっていたソフトボールほどのコンクリートの塊を、カラスの群れで真っ黒になっている非常階段に向けて投げつけた。

「ガコーン!」という凄まじい音が非常階段に響き、その瞬間、いきなり非常階段が、ぶわっ!と動いた。それはまるで大地震により突然ビルが崩壊したかのような勢いだ。

 萬次郎は、カッパハゲのズボンを掴んだもう片方の手で、まだ尻を突き出したままのあずみの細い腕を掴むと、そのままあずみを引きずるようにしてビルの通路に向かって走り出した。

 一斉に飛び立った数百匹のカラスの大軍は一瞬にしてビルの隙間から見える夜空を真っ黒にさせ、バババババっという恐ろしい羽の音を立てながら、地面にひっくり返っている臭汁だらけのカッパハゲを目指しては急降下した。「わあはぁー!」とカッパハゲが叫んだ瞬間、瞬く間にカラスの大軍はバババババという羽の音を轟かせながらカッパハゲを呑み込んでしまったのだった。

「早く逃げろ!」

 萬次郎はボンヤリしているあずみの手をおもいきり引っ張りながらビルの路地を駆け抜けた。路地を走っていると、腕を引っ張られたあずみの「えっ?」や「あれっ?」という声が聞こえて来た。

 どうやら、そろそろあずみの催眠術が切れる頃らしい。

 そう気付いた萬次郎は、ビルの路地の出口でいきなり足を止めた。そして、あずみの顔を覗き込む。

 あずみの大きな目は、5秒に1回の割合で正気に戻っていた。催眠効果が切れかかると、瞳孔が開いたり閉じたりし始めるのを、萬次郎は何度か経験するうちに知っていた。

(まだ、大丈夫だ・・・・僕はこの娘とはまだヤってないんだよ・・・)

 萬次郎は、催眠術が切れるのが秒読み状態となったあずみにいきなりキスをした。そしてムグムグと舌を濃厚に絡ませながらズボンのボタンを外し、巨大な勃起ペニスを取り出した。

 急いであずみの小さな体をビルの壁に押し付け、ノーパンのミニスカートを捲り上げる。そして立ったままの状態で、あずみの右足を抱えると、開いた股間にペニスを突き刺した。

「あぁぁん!」

 まだ多少なりとも催眠効果が効いているあずみは、そう悶えながら萬次郎の体にしがみついて来た。あずみのオマンコの中はびっくりするくらいにグチョグチョに濡れており、カッパハゲが既に何度か中出ししていた形跡が残っていた。

 しかし、そんな事を気にしている暇はなかった。催眠効果が切れかかったあずみは、「あああぁん!」と悶えたかと思ったら、急に「えっ?」と正気に戻るのだ。

 早いとこイかないとヤバいぞ・・・と、萬次郎がズボズボと腰を振る。萬次郎のペニスはあずみの膣壁に敏感に擦られ、次第にピクピクと痙攣し始めた。

「あっ、イクよ!」

 萬次郎がそう唸った瞬間、いきなり正気に戻ったあずみが「嘘ぉ!」と叫んだ。大量の精液をあずみの膣の中に迸りながら、「くふん・・・くふん・・・」と鼻を鳴らしては快楽に溺れる萬次郎は、愕然としているあずみ向かって「嘘じゃ・・・ないですよ・・・」と、精液を最後の一滴まで振り絞った。

「ちょっ!・・・ちょっと待ってよ!あんた誰よ!」

 萬次郎の腕の中で、あずみの小さな体が魚のように跳ねた。

 その瞬間、ヌポッ!と素早くペニスを抜き取った萬次郎は、「僕はダミアンです」と笑うと、もの凄い勢いで走り出し、その路地から一目散に逃げ出したのであった。

-28-

 死に物狂いで走っていた萬次郎は、いつものバッティングセンターの駐車場に滑り込んだ。そして、ホッと一息付いた瞬間、そこで初めて出しっぱなしのペニスに気付いた。ここに来るまでの間、少なくとも10人の人間とはすれ違っている。しかし、萬次郎はあまり気にしなかった。深夜の歌舞伎町には、チンポを出して歩いている者などそこら中にゴロゴロいるからだ。

 あずみの汁でネトネトに濡れたペニスを、そのままズボンの中に押し込んだ萬次郎は、さっそくカッパハゲのズボンのポケットを漁った。カッパハゲのポケットの中からは、使い古した財布とグリーンガム1枚、そして、名刺サイズのホテトルのチラシが1枚と、れいの黒い手帳が出て来た。

 急いで手帳のページを捲った。手帳の真ん中辺りにヤリマン達のリストがズラズラと並んでいる。そしてその最後の欄に書かれている、数日前、萬次郎が眉書きペンで書き殴った『松永美奈』という美咲の本名を発見した。

(これだ・・・)

 萬次郎は指に唾をベットリと付け、松永美奈と書かれた部分を指で擦った。しかし、普通ならば眉書きペンで書いたものなど、唾をつけて擦れば消えるはずなのに、それは滲んだり薄くなったりする事なく、全く動じなかった。

(くそぅ・・・どうしたらいいんだよ・・・・)

 萬次郎はそのページを破り取ろうともしたが、しかし、その紙はいったい何でできているのかどれだけ破こうとしてもビクともしない。

 萬次郎は焦った。こうしている間にも、美咲がホームレスに催眠術をかけられてしまうような気がして、激しく不安に駆られるのだ。

 焦った萬次郎は、手帳を足で踏んづけたり、ライターで火をつけたりとあらゆる方法を試したが、全て無駄だった。そんな萬次郎が、もうダメだ・・・と諦めかけた時、ふと違う発想が頭に浮かんだ。

 確か、昨日、風林会館の喫茶店で盗んだボールペンが・・・・と、萬次郎は急いでポケットの中を弄ると、ジャンパーの内ポケットから東京万歳銀行と書かれたボールペンが出て来た。

(一か八かだ・・・・)

 萬次郎は『松永美奈』と書かれたデーターの暗号欄に、ボールペンの先を押し充てた。

 そして『練馬・あ』の横に、『3252347080』という数字を書き加えてみた。

 暗号を書き加えられた手帳は、一瞬フワッ!と白い光を発した。手帳を持っていた萬次郎の手に強烈な熱さが走り、萬次郎はおもわず「熱っ!」と叫びながら手帳を落としてしまった。

 萬次郎は、いきなり衝撃が走った指をフーフーと吹きながら、地面で強烈に光りを発する手帳を見つめた。

 手帳はまるで水銀灯のサーチライトのような強烈な白い光りをフワッ!と夜空に発すると、その光は次第にジワジワと消えて行った。

(これは・・・きっと暗号が変更された証拠だ・・・)

 そう思いながら、光の治まった手帳を恐る恐る拾い上げると、すぐにパラパラと手帳を捲った。すると、『松永美奈』と書かれたデーターの暗号欄には、しっかりと『練馬・あ・3252347080』と、暗号が書き換えられていたのだった。

(よし!これで取りあえずはあのホームレスから美咲ちゃんを守る事ができたぞ!)

 萬次郎がそう喜んだ瞬間、西の空からゴゴゴゴッ・・・っという何やら恐ろしい音が聞こえて来た。

 萬次郎が慌てて空を見上げると、一斉に飛び立ったカラスの大軍が萬次郎の頭上を埋め尽くしていた。

 とたんに、辺りを歩いていたお店帰りのホステスや、アフターへ向かうキャバ嬢達が、そんなカラスの大軍に悲鳴を上げながら逃げ惑い、周囲は一瞬にしてパニック状態に陥った。

「なんだなんだ、夜中のカラスの大軍なんて縁起悪りぃなぁ・・・大地震の前触れじゃねぇのか?・・・」

 渋滞で止まっていたタクシーの運転手が、タクシーの窓から夜空を見上げながらそう呟く。道路で馬鹿騒ぎしていた若いホスト達は一斉に夜空を見上げ、「うわぁぁぁぁぁ」と唸りながら慌てて携帯を夜空に向けると、一斉に携帯のシャッターを押し始めたのだった。

(カッパハゲ・・・成仏しろよ・・・)

 萬次郎は、新宿の夜空に羽ばたくカラスの大軍を見つめながら、静かにそう祈った。

 カラスの大軍は辺りをグルっと一周すると、そのまま萬次郎がいるバッティングセンターを取り囲むように、その周囲のビルの屋上や電線にバタバタと羽ばたきながら止まった。

 すると突然、その中の一匹のカラスが群れから離れては、萬次郎が潜んでいるバッティングセンターの駐車場にバタバタと黒い羽を羽ばたかせながら降りて来た。

「うわあっ!」と仰け反る萬次郎の目の前にそのカラスはバサッ!と着地すると、尻餅を付いている萬次郎を真っ黒な目でジッと見つめた。

 そのカラスは、間近で見ると小熊ほどの大きさで、そのドス黒いくちばしは、まるで水牛の角のように厳つく、そして鋭く尖っていた。

(こんなくちばしで突かれたら・・・死ぬ・・・)

 そうガタガタと震えながら萬次郎が後ずさりした瞬間、カラスはガバッ!と大きな羽を広げ、「グワアァァァァッ!」と威嚇した。「わあっ!」と萬次郎がひるんだその隙に、カラスはもの凄い早さで萬次郎の手元にあった黒い手帳を鋭い爪でガシッ!と掴むと、そのままバタバタと羽を広げながら飛び立った。

「あっ!」と、萬次郎が見上げるとカラスは黒い手帳を鋭い爪で鷲掴みにしたまま、新宿の夜空をビッシリと埋めるカラスの大軍の中へと紛れて行ったのだった。

-29-

 AM2:00。

 歌舞伎町の夜はこれから始まる。

 萬次郎は、歌舞伎町の歩道に流れるエネルギッシュな人の群れに従いながら歩いていた。歩道には、店がハケた風俗嬢を呼び込む若いホスト達が溢れ、歩道の隅ではアラーの神に祈りを捧げるかのように地面に膝をついた酔っぱらいがゴボゴボとゲロを吐いていた。車道には黒光りしたレクサスやセルシオがそこらじゅうに路駐され、ひっきりなしに聞こえる「ごくろうさんっす!」のドスの利いた声と共に、雑居ビルから豚のようなおっさんがひょこひょこと出て来た。路上には韓国人が露天で焼いているカルビ串の濃厚な煙が漂い、それが、行き交うホステス達の香水の香りと入り交じっては、歌舞伎町独特の異様な香りを作り上げていたのだった。

 そんなエネルギッシュな街をとぼとぼと歩いていた萬次郎は、気がつくと、店が終わった後にいつも美咲とアフターで来ていた洋風居酒屋の前に立っていた。

(この店で・・・いつも僕は美咲ちゃんに叱られていたなぁ・・・)

 そう思いながら、ドアの窓から賑やかな店内を眺めていると、『あんた、食べ方が下品なのよ!』、『食べながらゲップするの、豚みたいだからヤメなよ!』、という、あの時の美咲の怒鳴り声が聞こえたような気がして、とたんに切なくなった萬次郎はおもわず泣き出しそうになった。

(こんなとこにいたら哀しくなるだけだ・・・帰ろっ・・・)と萬次郎が後を振り返ると、いきなり、その路地をこっちに向かって歩いて来ていた美咲と目が合った。

 美咲の横にはお客らしき男が寄り添うようにして歩いている。

「あっ!」

 美咲は一瞬足を止めると、小さくそう呟きながら萬次郎をキッと睨んだ。

「どうしたの?」

 いかにも美咲の好きそうな金持ちボンボンタイプのお客が、すかさず心配そうに美咲の顔を覗き込む。

「うぅん、なんでもない。土田ちゃん、悪いんだけど、先にお店に行っててくれるかなぁ・・・」

 美咲が土田というその男にそう言うと、土田は、「あっ、うん・・・」と返事をしながら、美咲が睨みつける萬次郎をチラッと見た。そしてそのまま土田は、心配そうに美咲と萬次郎を交互に見つめながら、萬次郎の思い出が一杯詰まった洋風居酒屋へと入って行ったのだった。

「ねぇ・・・どーしてストーカーなんかするのよ」

 土田が店の中に消えると、美咲は細い路地裏へと萬次郎を連行し、そしていきなりドスの利いた声でそう呟きながら萬次郎に詰め寄った。

 相変わらず美咲は美しかった。豪華な白いワンピースは、数ミリの狂いもなく整った美形をより引き立て、そのワンピースの胸元から大胆に覗かせる柔らかそうな胸の谷間は、まるでオスカー賞を受賞したハリウッドスターのように輝いていた。

 顔、スタイル、ヘアースタイル。その意地悪な性格を覗けば、全てがパーフェクトだった。

「いえ・・・ストーカーじゃないんですけど・・・」

 萬次郎が両指をモゾモゾと弄りながらシドロモドロでそう答えると、美咲は「けど、なんだよ!」と、急に眉間にシワを寄せながら怒鳴った。

「い、いや・・・・す、すびません・・・そんなつもりじゃ・・・」

「それじゃあ答えになってねぇよ!」

 美咲は萬次郎のくるぶしを、ヒールの爪先でカツン!と蹴飛ばした。

 萬次郎はいつも美咲に蹴飛ばされる。先日も、テレビのバラエティー番組の録画をし忘れたとイライラしていた美咲から、わけもなく脹ら脛を蹴飛ばされた。だから萬次郎は美咲に蹴飛ばされるのは馴れていた。

「あたし、知ってんだからね、あんたがウチのマンションのドアノブにアレをぶっ掛けた事も、郵便受けにウンコ入れた事も・・・」

 ゆっくりと腕を組む美咲は、人形のように整った顔に薄ら笑いを浮かべながら、罵るようにそう言った。

「い、いえ、それは!」

「あんたでしょ?そんな事するのあんたしかいないじゃないこの変態!」

 美咲はグロスがギラリと光る唇を大きく開きながらそう叫んだ。

 確かに、美咲のマンションのドアノブに精液を掛けたのは自分だったが、しかし、郵便受けにウンコを入れた覚えはない。すると、ふと萬次郎の脳裏に、れいのホームレスの顔が浮かんだ。

(きっとあいつだ・・・)

 そう思う萬次郎の顔は怒りで真っ赤に膨らんだ。

「なによその顔?あっ?もしかして逆ギレ?」

 美咲はそう言いながら萬次郎の鼻をキュッと摘んだが、しかし萬次郎の鼻の頭が妙にヌルヌルしている事に一瞬ギョっ!とした美咲は、慌てて指を離し、そのギラギラにネイルが施されたツケ爪の先を見た。

「マジキモい!」

 美咲はヌルヌルに輝く自分の指をビルのコンクリートの壁に擦り付けながら叫んだ。そこは、裏路地とは言ってもそこそこ人通りがあり、そんな大勢の通行人の前で「キモい!」と叫ばれた萬次郎は、泣き出しそうなくらいに小さくなってしまった。

 そんな、大きな体を小さくさせている萬次郎に、美咲は更に追い打ちを掛ける。

「あんたさぁ、いったい自分がどーいう人間だかわかってんの?妖怪だよ、妖怪。美女と野獣じゃあるまいしさ、そんなあんたにこの私が、こうやって口を聞いてあげるのはなぜだかわかる?」

「・・・・・・」

「金だよ金。金の為に、あんたみたいなバケモノとでも今まで仲良くしてやってたんだよ。でもさ、あんた、今、私の客じゃないんだよね。あんたは出禁だからね。だったら、金も払わないくせに私の回りをウロチョロするんじゃないよ!無料であんたのその脂臭いニオイを嗅ぐくらいなら死んだ方がマシだよこの豚野郎!」

 美咲はヒステリーが爆発したかのように、そう一気に捲し立てては何度も萬次郎のくるぶしを蹴飛ばした。そんなキレまくる美咲を見つめながら、これほど可愛い顔をしているのに、どこからそれほどの悪態が湧いて来るのかと、萬次郎は改めて不思議でならなかった。

 散々悪態を付きまくった美咲は、もうそれ以上の悪態が頭に浮かばなくなったのか、ハァハァと小さな肩を揺らしながら、バッグからタバコを取り出した。

 茶色い紙に巻かれた妙に細いそのタバコは、まるで、1本のきんぴらごぼうのようだった。

 すかさず萬次郎は、いつものように美咲が銜えるタバコの先にライターの火を向けた。

「・・・あんたさぁ・・・」と、タバコを一服して落ち着いたのか、美咲は穏やかな口調で呟きながら萬次郎を見た。

「私とヤリたいんでしょ?」

 そうタバコを吹かす美咲は、まさしく女王様のようだ。

 そうストレートに聞かれた萬次郎は、ドギマギとしながらも美咲の柔らかそうな胸の谷間を見つつ、「まぁ・・・その・・・なんというか・・・」と長嶋状態に陥った。

「どっちなのよ・・・ハッキリ言いなさいよ、私とヤリたいのかヤリたくないのか・・・」

 ぷるんぷるんと輝く、グロスたっぷりのピンクの唇を窄め、そこからスーッと細い煙を萬次郎の顔に吹き掛ける美咲は、妖艶な目で萬次郎をジッと見つめながらそう言った。

 ゴクッ・・・と唾を飲んだ萬次郎は、そんな美咲の唇と真っ白な胸の谷間を見つめながら、その想像力の乏しい脳裏に美咲と激しく交じり合うシーンを巡らせた。

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・おい・・・おいっ!」

 萬次郎は美咲のそんな大声に「はっ!」と妄想の世界から現実の世界へと引き戻された。

 萬次郎の耳にザワザワと騒がしい歌舞伎町の喧噪がフェードインされ、通り過ぎていくサラリーマンの携帯の声が、まるで蚊が耳元を飛んでいく時の音のようにボワンと響いた。

「なに妄想してんだよ変態!」

 美咲は、ズボンの股間にくっきりと浮かび上がる巨大うまい棒を憎々しく睨みながら叫んだ。そして、再び鋭い眼光で萬次郎を睨みつけると、「私とヤリたいなら100万持っておいで。そうしたらヤらせてあげるよ」と、まるで体育館の裏で待ち伏せしていたスケ番のような口調でそう告げた。

「ひゃ、100万!・・・・」

 萬次郎は絶句した。が、しかし、何の保障もなく同価のエルメスのバーキンをプレゼントさせられるよりは、条件はいいかも知れないとふと思った。

「そう。100万。もちろん現金でね。あんたが100万円耳を揃えて持って来たら、私を好きなようにしていいよ。但し、その金ができないんだったら、私の回りをウロチョロすんな。わかった?このバケモノ!」

 美咲はそう吐き捨てながら、きんぴらごぼうのような細くて茶色いタバコを萬次郎の肩に投げつけた。

 パッ!と火の粉が萬次郎の肩で舞い上がった。しかし、萬次郎はそれを避ける事もなく、ジッと俯いていた。

(100万円・・・そんなもの払わなくたって・・・僕はこのオンナとヤろうと思えばいつだってどこだってできるんだ・・・)

 萬次郎は、黒い手帳に書き換えた暗号を口の中で呟いた。

(練馬・あ・3252347080・・・・・)

 その番号は、萬次郎が住み込みしているチューインガム工場の寮の電話番号と、いつも働いている工場へ繋がる内線番号を組み合わせたものだから、萬次郎はしっかりと暗記していた。

 歌舞伎町は、店帰りのホステスや、ホステスとアフターに行こうとしている客達が街に溢れ、眠らない街・歌舞伎町の新しい夜が始まりかけていた。

 そんな華やかな街のど真ん中で、今、目の前いる美咲に暗号を呟いたらどうなるだろうか・・・・

 萬次郎は慌てて頭を振った。そんな事をしたら、美咲は二度とこの歌舞伎町で働けなくなる、いや、それだけでなく女として生きて行けなくなってしまうのだ。僕は美咲の事が好きだ。いつも罵られて叱られてばっかりいるけど、でも、僕はやっぱり美咲の事を愛してる!

「・・・いい?わかった?わかったら、今後、100万できるまでは私の前に現れないで。いい、これは警告よ。もし今度、私の回りをチョロチョロしたら警察に訴えるからね・・・」

 美咲は冷たい目で萬次郎を見つめながらそう言うと、そのままクルッと萬次郎に背を向けた。

 萬次郎のすぐ後で、中国人らしき2人の男が聞き慣れない広東語で喧嘩をしていた。遠くの方から聞こえてくるパトカーのサイレンの音と、そんな中国人の怒号の広東語が混じり、ふいに『警察24時』を連想させた。

 萬次郎は、カツコツとヒールの音を響かせては人混みの中に消えて行く、美咲の華奢な背中をただ淋しそうにジッと見つめていた。そして頭の中では、練馬・あ・3252347080・・・と何度も何度も暗号を呟いていたのだった。

< 続く >

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