悪魔の流儀 第4話

第4話

 俺の心配をよそに、その後、しばらくは何事もなく過ぎて、綾がうちに来てから3週目の金曜の晩飯後。
 ――ガシャン!
 ……この音も、もう聞き慣れたな。
「もう~!綾さん!今週だけで何枚お皿割ったと思ってるんですか!」
「ご、ごめんなさい、梨央ちゃん」
「私は、綾さんより年下ですけど、ここのメイドとしては先輩ですからね!」
「す、すいません、梨央さん」
 ……なんか、あいつが先輩風ふかしてると妙にむかつくな。
 それにしても、綾のやつ、本当に家事が全くできないのな。
「もう、綾さんは何か得意なことがあるんですか!?」
「え…と、野営を張るのは得意です」
 ……野営を張るのが得意で自慢できるメイドは、そうはいないだろうなぁ。
「そんなんじゃなくて!」
「あとは、狙撃と格闘技と……」
 ……物騒だからやめてくれないかな。
「もう!ふざけてるんですか!」
 ……それにしても、梨央のやつ、妙にカリカリしてないか?
 まあ、うちの中じゃ一番ガキだからな。
 新参の綾に対してライバル心でもあるんだろう。
 この間梨央の相手をしたのは……先週の土曜の晩だったかな……。
 んー、まあ、このところ、俺の仕事も忙しかったし。
 今夜あたり、少し説教するついでに、梨央の欲求不満を晴らしてやるか。

 と、俺が夕刊に目を通しながら、家庭内の新たな人間関係について思いを巡らせていると。
「武彦さん、明日、みんなでお買い物に出かけません?」
「ん?」
 俺は、新聞から目を離して幸の方を見る。
「ほら、この間はあんなことがあって結局何もできませんでしたし……。それに、綾ちゃんは、ほとんど荷物持たずにうちに来たんで、服とか部屋にいるものとか買ってあげないと」
「ああ、そうか……」
 そういや、綾がうちに来たときは、背負っていたカバンしか持たずに逃げたんだっけな。
 あいつらに絡まれた時のどさくさで、他の荷物を無くしたとか言っていたが……。
「つうか、綾のやつ、その間、着る物とかはどうしていたんだ?」
「だって、家にいるときはほとんどメイド服ですし。外出するときは、冴子さんや薫ちゃんのを借りたりしてたみたいです」
 あー、たしかに、綾の身長だと、冴子か薫とサイズが合うだろうな。
「そうだな、それじゃ、そうするか」
 俺は、まだ梨央に叱られている綾の方を見る。
 こいつがうちに来てから、ずっと見てきたが、何も怪しいことはないし、魔界関係の雰囲気は感じられない。
 むしろ、その逆で、元傭兵とは思えないほど、眩しい表情を見せるときがある。
「あ、でも、刃物の扱いは得意です。サバイバルナイフとか……」
 ……言うことは物騒だが。

「梨央、ちょっと綾にきつく当たりすぎじゃないか?」
「え?」
 夜、説教部屋、もとい俺の寝室のベッドの上で向かい合う俺と梨央。
 なぜか、ふたりとも正座をしている。
「ひょっとして、綾に嫉妬してるのか?」
「そ、そんな!なんで梨央が綾さんに嫉妬しなくちゃいけないんですか!」
「そうやってムキになるところが怪しい」
「だって、だって、綾さんって、本当に何もできないんですもん!」
「だから、見習いだって本人も言ってるだろうが」
「でも、梨央は中学生の頃には、家事がひと通りできてましたよ~ッ!」
「そりゃ、育った環境が違うんだからしょうがないだろうが。そういうところは、先輩のおまえが察してやれ」
「どうして!どうしてご主人様は綾さんの肩ばかり持つんですか!?」
 大きな目に、涙をいっぱいに浮かべる梨央。
 クリッとした濃茶色の瞳がプルプル震えている……こりゃマジ泣きだな……。
 ああもう、めんどくさいなぁ……。
「そんなことはないぞ。だって、綾には、こんなことはしないからな」
 俺は、梨央抱き寄せ、首筋に舌を這わす。
「あ…ご、ご主人様……」
 俺の耳元で、梨央の甘ったるい声が聞こえる。
「それに、こんなこともしないぞ」
 そう言うと、メイド服の上から梨央のばかでかい胸をつかむ。
「ふあん!……ほ、本当ですか、ご主人様?」
「本当だとも」
 というか、なんの操作もしてないのに、綾にこんなことできるわけがない。
 ……ん?そうか、眼鏡に反応がないなら、赤い糸でも使ってみるか?
 別に、操作しなくても、これで相手の心理を読むだけなら……。
 しかし、もし綾がただの人間ならともかく、そうでなかったら、綾に対して、こちらが何かしたって感づかれるリスクを負うことになるよな。
 それなら、零距離使用で一気に……ダメだ、もし本当に綾が人外の者だったら、俺の魔力が保たない。
 人間はともかく、悪魔、それも、力のある奴ををこれで堕とすのは、魔力を消費しすぎる、それはいっぺん経験済みだ。
 もう少し様子を見るか……。
 この数日、綾を見てきた俺の勘は、あいつが危険な存在じゃないと言っている。
 ま、俺の勘なんかあんまりあてにならないが……。
「ううん……ねぇ……ご主人さまぁ……」
 梨央の胸を揉みながら考え込んでいると、俺にしなだれかかってきて甘える梨央の声に、現実に引き戻される。
 まあ、今はこっちの方が先決だな。

「いいか、梨央、おまえは俺の下僕だが、綾はただの使用人だ」
 つうか、下僕の方が使用人より格上なのか?
「だから、俺は綾にこういうことはしてやらない」
「ホントに!?綾さんはご主人様の下僕じゃないの!?」
 ……こいつにとっては、下僕の方がステータスが上らしいな。
「ああ、だから、別におまえが綾に対してヤキモチ妬くことはないんだ」
「はい!」
 まあ、根は単純だし、可愛らしいやつなんだよな……。
「よし、じゃあ梨央、おれの下僕としては、今日この後どうするのかな?」
 そう言うと、俺は正座していた足をくずす。
「はい!それでは、まず、梨央のいやらしいお口とおっぱいでご主人様に気持ちよくなっていただきます!」 
 梨央は、背中に手を伸ばしてメイド服のファスナーを下げる。
 次に、ブラを外して、自慢の胸をさらすと、すっかり慣れた手つきで俺のズボンをずらしていく。
「それでは、よろしいですか、ご主人様?」
 体を前に屈めると、俺のモノを軽く支えて、梨央は喜びと期待感に満ちた表情で俺の方を見上げる。
 普段は生意気なくせに、こういうときだけは言葉づかいが丁寧だ。
「ああ、やってくれ」
「かしこまりました…あむ…んふ……」
 俺が頷くと、梨央は俺のモノを口に含む。
「ん…んむ…くちゅ…んん……」
 梨央の舌使い自体は、冴子には及ばない、しかし……。
「あふ……ご主人様の、もうこんなに大きくなりましたよ…それでは、おっぱいを使わせていただきます」
 梨央が、体をずらして位置を整えると、俺のモノが、フニュ、とした感触に包まれる。
 でかさもそうだが、梨央の胸の感触は反則ものだ。
「うふん…いかがですか、ご主人様?」
 乳房で俺のモノを挟んで、両手を揉むように動かす梨央。
 こいつのすごいところは、胸だけでほとんど包み込んでしまうから、口を使わなくてもとんでもない快感があるところだ。
「ん、いいぞ、梨央」
「あん……こ、こうするの、私もすごく気持ちいいんですよ……んふう……」
 梨央の手の動きが激しくなっていき、うっすらと汗ばんでくる。
 それにつれて、梨央の乳房も熱を帯びてきて、フニャリ、とした感触も、トロトロと、とろけていくようなものになり、まるで、アソコに挿れているような錯覚に陥る。
「ん…ご主人様の、また大きくなって…ぬるっとした先っぽが出てきてる…ちゅる…ちゅ…」
 梨央が俺のモノの先端をチロチロと舐める…あ、こら、そんなことされると!
「ん!くっ!梨央!」
「ひゃ!ああ!ご主人様の!熱いのがっ!」
 俺の射精をまともに受けて、梨央が叫び声を上げる…と言っても、嬉しそうだが……。
「あ…ん…こんなにいっぱい……」
 指と舌を使って、顔と胸に付いた白濁液をすくい取る梨央。
 それをひととおり終えると、梨央は俺の方にすり寄ってくる。
「ご主人様…次は私のアソコで……」
「じゃあ、今日は自分でやるんだな。おまえは俺の下僕なんだからな」
 そう言って、俺はベッドの上に寝ころぶ。
「は、はい!……それではご主人様……始めさせていただきます……あ!んん!」
 すると、梨央は、俺の上に跨ってきて、片手でスカートをたくし上げ、もう片方の手で俺のモノを手で支え、腰を沈め、上下に揺らし始める。
「はあっ!…はん!…ど!どうですか!?ご主人様!?」
「ああ、いい感じだ、梨央」
「り!梨央も!気持ちいいです!はあんッ!……あ!あの!ご主人様!」
「なんだ?」
「梨央は!あう!一人前の!んんんっ!下僕にっ!なりましたか!?」
 ……まだ気にしていたのか。
 あれは初めて梨央に会って、あのダーツで梨央を堕とした日……。
 魔界に帰る俺についていくとだだをこねる梨央に、一人前の下僕になったら正式採用してやる、そう言った俺の言葉。
 もう、うちのメイドになって3年以上経つというのに……。
「ああ、おまえはもう一人前の下僕だ。だからなにも心配するな」
「あああっ!う!うれしいです!ご主人様!」
 おかしなダーツ1本で堕ちたせいで、いちばん融通が利かないが、心根は素直で優しいやつだ。
「はうん!んああ!……ん!」
 梨央は俺の方に体を倒すと、腰を揺らしながら、上半身をくねらすようにして胸を押しつけてくる。
「梨央、おまえは立派な俺の下僕だ、これからもずっと、な」
「あ!ありがとうございますっ!ごしゅじんさまぁ!はあああんっ!ん!あああああっ!」
 梨央は、腰を俺に深く押しつけて、体を反らす。
「ん!ああ!…はう!……はああぁ……」
 俺の上に倒れ込んで息を弾ませている梨央。
「ああ……ご主人様、もう一回、今度は、ご主人様の方からお願いします、ね?」
 ……すぐに調子に乗るのがこいつのダメなところだな。

 ――翌日。
 この間の日曜に負けず劣らずの晴天の中、再びみんなで出かけるうちのファミリー。
 前回よりひとり多い……これが噂に聞く座敷わらし……。
 という冗談はさておき、道路の、俺が歩いてるのと反対側に幸と綾。
 幸がなにやら、熱心に綾に話しかけている。
 おおかた、今日買う予定のものの話でもしてるんだろう。
 そのふたりの少し後ろには冴子と薫。
 意外とあのふたりってウマが合うんだよな。
 そして……。
「ご主人さま~!はやくはやく!」
 俺のだいぶ前の方で手を振る梨央。
 何でいっつもそんなに先に行くんだ……つうか、そのセリフこの間も聞いたし。
 やっぱりガキだな、あいつは……などと考えていると、
 ――ギャギャギャ!
 突然、背後から車のブレーキ音がした。
 俺が振り向くと、一台の車が急右折してきたところだった。
 おいおい、こんな住宅地の中でなんて運転しやがる。
 猛スピードってわけでもないが、この道路だと、制限速度20キロオーバーってとこだな……。
 て、おい!?あの車、俺に向かってきてないか?
「危ない!武彦さん!」
 車が俺に迫るのを見て、幸が叫ぶ。
「うわっ!」
 俺は、とっさに横に飛び退いて車を避ける。
 ふう、なんだよ、いったい……!待て、あの方向には!
「逃げろ!梨央!」
 俺は、前を歩いていた梨央に向かって叫ぶ。
 しかし、梨央は足がすくんだのか、突っ立ったまま動かない。
 ――キキキーッ!
 車の、ブレーキ音が響くが、すぐに止まれるわけもない。
 そして、車はそのまま梨央に向かって突っ込んでいく。

 ……その時、銀色の風が駆け抜けた。

「きゃっ!」
 悲鳴を上げる梨央を抱きかかえるようにして、転がりながら受け身をとっている綾……。
 冗談だろ……車の先回りして、横っ飛びで梨央を助けただと……。
 そんなの、人間技じゃねえ……。
「大丈夫か!?」
「梨央ちゃん!怪我はない!?」
 俺たちは、一斉に梨央と綾のところに駆け寄る。
「あ…ああ…」
 自分に起きたことがまだ理解できず、呆然としている梨央。
 どうやら、怪我はなさそうだ。
 立ち上がった綾は、服についた砂を、パタパタとはたいて落としている。
「ナイスだ。よくやった、綾」
「そんな…大門様…」
 綾の肩に手をかけて褒めると、綾は、照れたように頬を染める。
「すごいわ、綾ちゃん」
「やっぱり、銃弾の雨の中をかいくぐってきたっていうのは本当なのね」
 幸と冴子が、賛嘆の声をあげる。
 銃弾の雨をかいくぐるって、そんなこと人間にできるわけないだろうが。
 てか、俺が普段仕事してる間になんちゅう話してるんだよ、おまえら。
「あ…ありがとう、綾さん……」
 ようやく我に返り、顔を赤らめて素直に綾に頭を下げる梨央。
 これで、梨央の綾に対する態度が変わってくれればいいんだが……。
 それにしても……綾のやつ、マジで何者だ?
 それに、さっきの車……そうだ、あの車は!?。
 俺が、さっきの暴走車が過ぎていった先を見ると……。
 俺たちがいるところから、数十メートルほど先で止まった車から降りてきた男が、ドスドスとこっちに向かっているところだった。
「おい!おまえ!」
 男が、こっちに向かって来ながら、俺を指さして怒鳴る。
 ……どなたでしたっけ?
「やっと見つけたぞ!おまえっ!おまえのせいで!ディー・フォンも!早紀も!友子も!唯も!明日香も!奈々も!」
 ???…………あ!この間、綾を襲ってたディー・フォン野郎か!
 女たちがいないってことは、ディー・フォンが壊れて、登録が解除されたのか?
 それにしても、よく見ると結構なおっさんだな、こいつ。
「おまえのせいで!おまえのせいでっ!……がはっ!」
 男がポケットからナイフを取り出す。 
 が、背後に回っていた綾の特殊警棒の一撃をくらって、男はそのまま地面に倒れ込む。
 何しに来たんだ、こいつ?……あ、ここで一句。

 エロおやじ ディー・フォンなければ ただのザコ

 ……まあ、ディー・フォンがあってもザコだったが。
「大門様、この男は…」
 倒れた男の顔をのぞき込んだ綾が、俺の方を見上げる。
「うん、間違いない。こないだおまえを襲った奴だな。……あ、そうだ、おまえらちょっと先に行っててくれないか?」
「え?」
 全員が、怪訝な顔をして俺の方を見る。
「ちょっと、こいつと話をつける」
「そんな!危険です、大門様!」
「大丈夫だって、ほら、ナイフも取りあげたし」
 俺の腕をつかんで止める綾の手をふりほどき、俺は、ヒラヒラと、男のナイフを持った手を振る。
 だいいち、これからやることを、みんなには見られたくない。
 特に、綾には……。
「そらそら、すぐに追いつくから行った行った」
 不満げな表情ながら、みんなは俺の言葉に従う。
 そうやって、追い払うように全員を先に行かせると、俺は右手を伸ばし、赤い糸で男の魂を縛る。
 もちろん、やることは決まっている。
 とりあえず、操作するために意識を戻す。
 すると、男の意識が流れ込んでくる。
(ううう、俺のディー・フォンが……俺の女たちが……)
 まったく……女々しい奴だな。
 早くみんなに追いつかなきゃならないし、さっさと片付けよう。
 俺は、薫を狙った奴の時と同じ要領で、ディー・フォンに関する記憶と、ディー・フォンを使ってやったことの記憶を消去させる。
 次に、うちの連中、特に、俺と綾のイメージを送り込む。
{こいつらに関わるとやばい。ろくな事にならない}
(ううっ!こいつらは危険だ、危険だ……)
{こいつらは危険だ。下手をすると命を落としかねない。こいつらには近づかないに限る}
(そうだ!こいつらに関わったらダメだ!近づくのもごめんだ!)
 こんなもんかな?……もう、寝かせるのもめんどくさいな。
 俺は、こいつが今日やったことも忘れさせると、さっさと糸を離す。
「……ん?あれ?……うわぁ!た、助けてくれぇ!」
 俺の顔を見たとたん、男は大声を上げて車の方へ走り去る。
 とんだ茶番だったな……。
 まったく、余計な手間かけさせるなよな。
 車が急発進して遠ざかるのを見届けると、俺は、みんなが待っている方向に歩き出す。

「綾さん!これなんかどうです?」
 梨央の大きな声がこっちにまで聞こえてくる。
 さっきからずっとあの調子だ。
 綾の服選びに、梨央はずっとつきっきりだ……。
 俺が、エスカレーター横のベンチに座って、その様子をずっと眺めていると、
「よかったですね、梨央ちゃんと綾ちゃんが仲良くなって」
 いつの間にか、幸が俺の隣に腰掛けている。
「やっぱり、おまえも気づいてたのか?」
「まあ、梨央ちゃんは、まだまだ敏感な年頃ですから」
 年頃とか、そういう問題でもなさそうなんだが。
「それに、梨央ちゃんも綾ちゃんも、とってもいい子ですよ」
 そうだろう、とは俺も思いたい。
 ……だが、どう考えても、綾のやつは普通じゃない。
 しかし、悪意とか害意とかいったものは全く感じられない。
 そこがわからないんだよなぁ……。

「ホント、わけわからねえっ!つうか、おまえら買い過ぎじゃねえか!」
 家への帰り道、両手に山盛りの荷物を抱えて俺は叫ぶ。
 つうか、男手がひとりだからって、俺に持たせるか?
 俺はおまえらのご主人様だぞ!
「やっぱり、車出した方がよかったですかね」
「いや、どうせ、あの車じゃこの人数は乗れないだろ」
 それに、そういう問題じゃないだろ、薫。
 おまえらもせめて一個くらい持てよな!
 ……通勤用の車とは別に、ファミリーカーもう一台買おうかな。

「ふう、やっと家に着いたか……」
「おつかれさまです、武彦さん」
「ああ、まったくだ」
 ようやく家の前に来て、これで一息つけると思ったとき……。
「……ん?」 
 俺は、角の方からこちらを窺う人影に気づいた。
 ジーパンにリュックを背負った小太りの男。
 何より、赤いフレームの眼鏡が、何とも言えない怪しさを醸し出している。
 あんなのテレビの中でしか見ねえぞ……どこで売ってんだよ、んなもん。
 俺がその男の方をじっと見ていると、それに気づいて、男はそそくさと立ち去る。
 ……なんだ、また面倒なことか?
 でも、さっきの感じ、あれはただの人間だ。
 まあ、だからって、安心できるご時世ではないが。
 どこに悪魔の道具を持った奴らがいるかわからんからな……。
 まあ、人間相手なら、俺の力でも何とかなるか。

 しかし、それから数日は何も起きなかった……。
「いいですか、綾さん、ダイコンは、こうやって面取りをしておくと、煮くずれしないんですよ!」
 居間に入ると、梨央の声がこちらまで聞こえてくる。
 あれ以来、梨央と綾の仲はすこぶる良好だ。
 綾もすっかりみんなとうち解けているし、別におかしな素振りもない。
 それでも、何もしていないのに、なんで綾が普通にうちにいられるのかはわからない。
 ……いっぺん、ふたりだけで話してみるか。
 
 たぶん、綾は俺たちの敵じゃない…大丈夫だろう…俺は、そう思うことにした。

< 続く >

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