黄金の日々 第2部 第2話 後編

第2部 第2話 後編 絶望の狂宴

 それから、次の日も、またその次の日も、フィオナは悪魔の相手をし続けた。

 彼女の思った通り、何度犯され、どれだけ快感を感じさせられても、それが悪魔への憎しみを和らげることはなかった。
 むしろ、憎しみを大きく膨らませていく。
 悪魔に身を任せることは、彼女の誇りを踏みにじり、屈辱を与える以外の何もでもなかった。
 そのことが、悪魔への嫌悪を再確認させる。
 だから彼女には、何度犯されても悪魔のものにはならない自信はあった。

 その一方で、悪魔から精気を搾り取る作業はいっこうにはかどらなかった。

 まず、反吐が出そうなほどの不快感に耐えて、口で1回。
 そして、フィオナが気を失うまで悪魔と交わり続けて、2回か3回。

 しかし、その程度では、悪魔にダメージを与えられそうな気配はなかった。
 どのくらい精気を搾り取ればこの悪魔を倒せるのか、それはわからないが、少なくとも今のままではまだ足りないのは間違いなかった。
 だから、フィオナは体力の続く限り悪魔と体を重ねた。

 そんな彼女を嘲笑うかのように、フィオナが疲労困憊して眠っている隙をついては、悪魔はニナに手を出していた。
 そのたびに、目を覚ましたフィオナが慌てて止めるのだが、生きている人形のような状態のニナは、明らかに快感に悶える表情を見せるようになってきていた。
 相変わらず本人の意識はないものの、悪魔の愛撫に、甘く鼻にかかったような声を上げ、ほんのりと肌を上気させて体をくねらせているニナの姿を見ると、胸が張り裂けそうだった。

 少しずつだが、確実にニナが悪魔の手に堕ちつつあることを実感して、フィオナは焦りを感じるようになっていた。

 このままでは、自分が悪魔を倒す前に、ニナが完全に悪魔のものになってしまう。
 そうさせないためには、自分が早く悪魔を倒す他に打つ手はないというのに、それがなかなか進まない。
 ニナの姿を見るたびに、気だけが急いていても立ってもいられない。
 すでに、体力は限界に近づこうとしていたが、自分のことなどもうどうでもよかった。
 ただ、ニナを、そして森の皆を救うことができるのなら、たとえこの身が果ててもかまわなかった。

 だから、その日もフィオナは自ら進んで悪魔の相手をしていた。

「んっ、んぐっ、ぐぐっ、くっ、ぐふふっ……!」

 大きく膨らんだ肉棒を口に咥えて、扱きあげる。
 その感触も、臭いも、味も、何度繰り返しても決して慣れることはない。
 不快感がこみ上げてきて、嘔吐きそうになる。

 しかし、それを止めることは決して許されない。

「ぐふっ、んぐぐぐっ!ぐっ、んくっ、むふうっ!」

 思わず吐き出しそうになると、フィオナの意に反して、口はさらに深く肉棒を咥え込む。
 喉の奥にゴツッと肉棒が当たって、本当なら吐きそうになるはずなのに、それもできない。
 全ては、悪魔の思いのまま。
 自分の体なのに、フィオナの思うようにはなってくれない。

 そして。

「よしっ、出すぞっ!」
「んぐっ!んぐぐぐぐぐぐぐっ!」

 フィオナの頭を押さえつけて、その喉の奥に悪魔が精液を放つ。

「ぐむうううっ、こくっ、んぐっ、ぐっ、ごくっ……」

 彼女には、精液を吐き出すことも許されてはいなかった。
 いや、許されるとか、そういう以前に、悪魔の思うままになっている体が、自分の意志とは関係なくそれを飲み下していく。

 悪魔の精液は相変わらず青臭く、何度飲んでも不快さが増していくだけで、悪魔の言うようにそれを心地よいと感じるようになることなどあり得なかった。

「んくっ、こきゅ……んっく……はあっ、はあっ……」
「うんうん。噎せずにちゃんと飲み込むようになったな。えらいえらい」
「くっ……!」

 小馬鹿にされて、フィオナは悪魔を睨みつける。

 自分でそれを飲みたいと思って飲んだことは一度もない。
 全て、この悪魔が自分の体を操ってそうさせているというのに。

 だが、どれだけ睨みつけても悪魔は動じることはない。
 むしろ、フィオナのそんな反応を楽しんでいるようなフシすらあった。

 そして、口を穢されると、今度は女としての大切な場所を穢される。
 それが、この数日の間、何度も繰り返されてきた、お決まりのコースだった。

「さてと、じゃあ、今日はおまえが上になってやってもらうとするかな」
「……わかったわ」

 その日は、悪魔がごろりと仰向けに寝そべり、フィオナはその腰を跨ぐようにして立つ。

「じゃあ、やるぞ。いいか?」
「いいわよ」
「でも、今日は、少し趣向を変えてみるとするか」
「え……?うぅっ!」

 悪魔の瞳が輝き、フィオナの体が痺れる。
 不本意だが、これで彼女の体は痛みを感じなくなり、快感だけを感じるようになる。
 自分の感覚が弄られる、もう、何度も経験したいつもの感覚。

 だが、何かが少しだけ、いつもと違った。

「……っ!?」

 舌の先まで痺れる感覚に、戸惑いの声を上げようとしたが、舌が動かない。

 なにっ!?私に何をしたのよ!?

「んぐっ……!?」

 問い質そうとしても、喉から絞り出されるのは呻き声だけだった。

 それに、体がやけに熱い。
 まだ、何もしていないのにアソコが疼く。

「じゃあ、始めてくれ」
「…………!?はうっ、んふぅうううううううううっ!」

 フィオナの意志とは関係なく、ゆっくりと腰が沈んでいった。
 そして、ずぶずぶと、いとも簡単に肉棒を飲み込んでいく。
 疼いていたアソコ全体がきゅうっと収縮して、熱くて堅いものを迎え入れるのを感じる。
 その、圧倒的な快感に、体を仰け反らせて大きく喘ぐ。

「はぁっ、はぁああああああああん!」

 腰が勝手に持ち上がって、また沈む。
 肉棒が中で擦れて、全身が快感に打ち震える。
 結合部から聞こえる、ジュクッと湿った音で、アソコが濡れそぼっているのがわかる。
 言葉は出ないのに、喘ぎ声だけはやたらと大声が出てくる。

 その全てが、自分の意志ではなかった。
 自分の体が、全く自分の思うとおりにならず、勝手に腰をくねらせて快感を味わわされている。

「あんっ、はうぅううんっ、んっ、はぁああああっ!」

 ……くうううっ!これは?……また、この悪魔が!

 傍目には淫らに腰を動かしているようにしか見えないフィオナの精神は、自分でも驚くほどに冷静さを保っていた。
 まるで、心と体が乖離してしまったように。
 もちろん、全身を快感が走るたびに頭までじんじんと響く。
 だが、意識が飛ぶほどではない。

 はううううっ!……なんで?どうして今さらこんなことを!?

 精神が頭の片隅に閉じ込められてしまったような感覚に戸惑いながら、フィオナは訝しく思っていた。
 自分の体が、この悪魔の思うままになってしまうことはすでに承知している。
 だが、今さらなぜ自分にこんなことをさせるのかがわからない。

 と、悪魔が視線を脇に向けた。
 それに合わせるように、フィオナの顔もそっちを向く。

 その視線の先には、虚ろな表情をして、人形のように座り込んでいるニナの姿があった。

「さあ、目を覚ますんだ」

 悪魔がそう言うと、ニナの体がピクンと小さく震えた。
 その、ぼんやりと濁っていた瞳に、少しずつ光が戻ってくるのがわかった。
 そして、焦点を合わせるように瞳孔が小さく動き、その視線がこちらを捉える。

 すると、驚いたようにその目が大きく見開かれた。

「きゃああああっ!フィオナ様!?」

 男の上に跨がって腰を動かしている師の姿を認め、両手で顔を覆ってニナが悲鳴を上げる。
 それは、彼女が完全に正気を取り戻していることを窺わせた。

 ……ニッ、ニナ!?

 こんなことをしている姿をニナに見られて、フィオナは激しく動揺していた。

 だが……。

「あら?目が覚めたのね、ニナ?んっ、はうぅううううん!」

 フィオナの口が、勝手に動いていた。

「なにをっ……なにをしてるんですか、フィオナ様!?」
「なにって、セックスに決まってるじゃないの。……あんっ、んふうううん!」
「そんなっ!フィオナ様!」

 そう叫んだニナの声には、どこかフィオナを咎めるような響きがあった。

 それも当然である。
 今、男に跨がって腰をくねらせているフィオナの姿は、巫女としてあるまじきものだった。

「どうしたの、ニナ?なにをそんなに怒ってるのかしら?……はんっ、あっはぁあああんっ!」
「フィオナ様!……こんな……こんな馬鹿なこと!」
「あら?なにが馬鹿なことなの?あんっ!そこっ、いいわっ!」

 だが、ニナは知る由もないが、その姿も、その口から出てくる言葉も、フィオナの意図するものではなかった。

 いやっ!
 止まって!こんなの、心からしてるわけがないのに!

 フィオナが心の中で叫んでも、腰はいっそう淫らに動いてしまう。

「そもそもっ、その人は誰なんですか!?」
「この方はシトリー様。私のご主人様よ」
「ご主人様って!……なにを仰ってるんですか、フィオナ様!」
「だって、ご主人様はご主人様なんですもの。ほら、もっとしっかり見るのよ、ニナ。私のおまんこに、シトリー様の大きなチンポが入ってるでしょ」
「そんなっ!自分がなにを仰ってるのかわかっているんですか!?」
「もちろんわかってるわ。いいわよ、シトリー様とのセックスは。おまんこにチンポがズボズボ入って、とっても気持ちよくしてくれるの」

 次々と、口が勝手に動いて破廉恥な言葉を紡ぎ出していく。

 もうやめてっ!こんなこと、私に言わせないで!

 彼女には、それが悪魔の仕業だということはわかっていた。
 だが、どうにもできない。
 腰と口が勝手に動くのを、自分では止めようがなかった。

「ねっ、わかるでしょ、ニナ。私、とても気持ちよくなってるの!……ああんっ!そこっ、いいわぁっ!んんっ、奥にゴツゴツ当たってっ、あはぁあああああっ!」
「そんな……いったいどうしてしまったんですか、フィオナ様?」

 フィオナの痴態を見て、ニナが泣きそうな顔になっているのがわかる。

 ニナッ!これは違うのっ!
 これはっ、悪魔に言わされているのよっ!

 だが、フィオナのその悲痛な叫びは、言葉になることはない。

 その代わりに。

「あんっ、いいですっ!もっと、もっとフィオナを気持ちよくしてください!私のおまんこの奥まで、その逞しいチンポを突き入れてくださいいいいいっ!」

 あられもない言葉を口走りながら、いっそう激しく腰をくねらせる。

「そんな……フィオナ様……」

 茫然としてフィオナを見つめるニナの目から、涙がこぼれ落ちた。

 彼女の目には、今の自分は自ら男の上で腰を振っている淫乱な女に映っていることだろう。
 そんな姿を、彼女に見せたくないのに。

「んふぅうん!ああっ、いいですっ!シトリー様のチンポッ、熱くて逞しくてっ、とてもっ、気持ちいいですっ!」

 悪魔の腹に両手を突いて、円を描くように腰をくねらせながら、顎を上げて悩ましげな声を上げる。

 やめてっ!私を見ないでっ、ニナ!
 あんっ!んくうううううううっ!
 いやぁっ、これ以上っ、快感を与えないでっ!

 心の中でどんなに叫んでも、ニナには届かない。
 どんなに嫌でも、体が勝手に動き、快感が全身を蝕んでいく。

「……フィオナ様。…………やんっ!?ど、どうしてっ!?」

 涙を流しながら、いやらしく乱れる師の姿をじっと見つめていたニナが、不意に悲鳴を上げた。

 彼女の方を見て、フィオナは愕然とする。

 戸惑いの表情を浮かべながら、ニナはもぞもぞとふとももを擦り合わせていた。

「なんで?こんなの、見たくないのに……こんなの、嫌なのに……。どうしてこんなに体が熱いの?なんでアソコがムズムズするの?」

 自分の体の反応が理解できないという表情で、ニナは腰をくねらせている。

 明らかに彼女には、悪魔に愛撫されていた時の記憶は無いように見える。
 だが、おそらくはその時に与えられた快感を、体が覚えてしまっている。
 そうでないと、説明できない反応だった。

 そんな弟子の姿に、フィオナの言葉が追い打ちをかける。

「んふぅううんんっ!ああ……ニナ、あなたもいやらしい体をしているのね。私とシトリー様のセックスを見て、体が疼くなんて」

 違う!そんなことを言わせないで!

「そんな……フィオナ様……」
「もっと素直になっていいのよ。あなただって、いやらしいことをして気持ちよくなるのが好きな子なんだから。んんっ、ああっ、深いいいいっ!」
「違いますぅ……私、いやらしくなんか……」
「いいえ、あなたはいやらしいわよ、ニナ。じゃあ、なんでそんなにふとももを動かしているの?」
「それはっ……変なんです。さっきから、体が熱くて……アソコが疼いて……」

 そう答えるニナの瞳が潤んでいるのは、さっき流した涙のせいだけではなかった。
 その証拠に、ほんのりと頬を染めて、はぁはぁと息が荒くなってきていた。

「それは、悪いことじゃないのよ、ニナ。いやらしいことをしたいのは、すごく当たり前のことなの。だから、ね?ちょっと自分で触ってごらんなさい」
「……ええっ?自分で?」

 フィオナの言葉に、ニナは驚いて聞き返してきた。
 こみ上げてくる体の疼きと火照りに戸惑い、自分でもどうしていいのかわからないという様子だった。
 そこに、フィオナの言葉がさらに畳みかけていく。

「そうよ。自分で触っても、すごく気持ちよくなれるんだから。んんんっ、あふぅうううん!」

 だめっ!だめよっ、ニナ!
 私の言うことに、耳を傾けたらだめっ!

 声にならないことがわかっていても、そう叫ばずにはいられなかった。
 自分の言葉が弟子を堕とそうとしているのに、それを止めることができない。

「自分で……?」

 そして、ニナの手がおずおずと、股間にあるぷっくりしたふくらみの中央を走る裂け目に伸びていく。

「……あんっ!ふわああああんっ!」

 指先でその裂け目をなぞったニナが、切なそうな声を上げた。

「どう?気持ちいいでしょ?」
「わかりません!でもっ、今、ビリビリって!」
「よく感じるのよ。その、ビリビリしたのが体を駆け抜けると、じんと痺れて、熱くなってくるでしょう?」
「ふぁいいいいいいっ!熱い……アソコがっ、すごく熱いですううううっ!」
「でしょ?そうしてると、頭がふわってして、とっても気持ちいいと思わない?」
「んふううううっ!ふぁっ、ふぁいいっ!あふうっ、頭の中、ほわんってしてっ、じんじんしてっ、これっ、気持ちいいかもしれないですううううっ!」

 フィオナの言葉に導かれるように、ニナは自分の敏感な部分を指でこね回して身悶えしていた。
 次第に、その瞳がとろんとしてきているのが、フィオナをさらに苦しめる。

「いい子ね、ニナは。やっぱりあなたは見込みがあるわ。でも、男の人のチンポをそこに入れてもらうと、その何倍も気持ちいいのよ」
「ふぇええええっ!?そうっ、なんですかああぁ?」
「そうよ。チンポを入れられるのは、本当に気持ちいいんだから。んっ、あっ、ああんっ!ほら、あんまり気持ちよくて、私、腰を動かすのが止まらなくなってしまうの!」
「ああんっ、フィオナ様ぁ……」
「どうしたの?あなたもチンポが欲しくなったの?」
「そんなぁ……わかりません。わからないけど、なんだかすごく切なくなってくるんですううぅ……」
「もう、本当に可愛らしいわね。いいわ、じゃあ、私が終わったら、次はあなたにシトリー様のチンポを入れさせてあげる。あなたに、この気持ちよさを教えてあげるわ。あんっ、ああっ!」
「ほ、本当ですか?……んんっ、あんっ、アソコいじるのっ、気持ちいいよう……」

 もう、ニナはすっかり表情を蕩けさせて、激しく自慰をしていた。

 ああ……だめよ、ニナ。
 そんなこと、しないで……。

 目の前で堕ちていく弟子の姿に、泣きたくなってくる。
 しかし、その口から出てくるのは。

「いいわっ、とてもいやらしいわよ、ニナ!はぁんっ、んっ、私もっ、気持ちいいわっ!」
「あぁん……フィオナ様も、すごくいやらしいですうぅ……。見てると、どんどん体が熱くなってきて……ふぁああああああんっ!アソコいじるのっ、止まらないようっ!」
「それでいいのよ、ニナ。あんっ、はっ、はんっ、はぁんっ!」
「ああっ。フィオナ様っ!私っ、なんか変ですうぅ!体がっ、ビクビクッて!」
「イクのね、イッちゃうのね、ニナ!?」
「イク!?」
「そう、イッちゃうの。気持ちよすぎて、ニナはイッてしまうのよ」
「ふぁああっ!フィオナ様っ、私っ、イクのっ!?ああっ!イクッ!イクイクッ!私っ、イッちゃうの!ふわぁああああああああああっ!」

 ニナの細い体が、ビクンッ、ビクンッと大きく体を震えた。
 体を強ばらせて絶叫するその股間の辺りから、みるみるうちに水溜まりが広がっていく。

「あぁ……ふあああああぁぁぁ……」

 少しの間、体を痙攣させた後で、その体ががっくりと崩れ落ちる。
 だが、その潤んだ瞳はまだフィオナの方を見つめたままだった。

 ああ……ニナ……。

 もう、フィオナの心はズタズタだった。
 自分の見ている前で、しかも、自分の言葉によって、愛する弟子がこんなにいやらしい姿を晒してしまった。
 それもこれも、いつまで経ってもこの悪魔を倒せない自分のせいだという、自責の念で胸がいっぱいになる。

 それなのに、腰を動かすのは止まらない。

 そればかりか……。

 はうっ!?んくぅうううううううううっ!

 いきなり、快感の波が強くなった。

「ああっ、はうううううっ、あんっ、あああああっ!」

 ズブズブと中を擦られ、奥をゴツンと突かれるたびに目の前が白くなるほどの快感。
 それまでは、ニナをイカせるより先にフィオナが絶頂してしまわないように、快感をセーブしていたのではないかとすら思える。

「ああっ、イイのっ!すごいわぁ、私の中っ、グチュグチュって掻き回してっ!ああんっ、もっと、もっとちょうだいいいいいっ!」

 相変わらずその口からは、心にも思ってもいない淫らな言葉を叫び続けていた。
 しかし、実際に頭の中がぼうっとして、訳がわからなくなってきているのも事実だった。
 さっきから、肉棒の先がゴツッと当たってもそこで止まらずに、ざらっとした感触を残して奥の壁をずれて擦りつける。
 快感に、意識がふわっと飛びかける。

 いやっ!
 もう……こんなの嫌なのに……でも……。
 ああぁ……気持ちよくて、訳がわからない……。

「ううんっ、イイッ、ぶっといチンポで奥まで突かれるのっ、気持ちいいいいいいっ!」

 強烈な快感のうねりに、意識が朦朧としてくる。
 こうやって、いやらしいことを口走りながら腰をくねらせている自分が、本当の自分の姿なのではないかと錯覚しそうになっていた。

 と、その時、頭の中に声が響いた。

(ドウヤラ、我ハソナタヲ見誤ッテイタヨウダナ)

 ……ひっ!?世界樹様!?

 世界樹の声に、蕩けかけていた意識がたちまちはっきりした。

(完全ニ悪魔ノ手ニ堕チテ、快楽ニ溺レルトハ……)

 違うっ!違いますっ!世界樹様!

 怒気を孕んだような世界樹の口調に、フィオナの心は恐れおののく。
 それなのに、自分の口から出てくるのは。

「ふぁああああああっ!そこぉっ、奥までっ、届いてますううううっ!ああっ、すごいいいいいっ!おまんこっ、ビリビリって!はうううううううっ!」

 望まない淫語を吐き出しながら、いっそう激しく腰をくねらせていく。

(フム、ドウヤラ我ノ声モ聞コエナクナッタカ。見損ナッタゾ、巫女ヨ)

 違います!私はっ、世界樹様の声は聞こえております!
 これはっ、悪魔にこうさせられているのです!
 わかってください!世界樹様!

 フィオナの必死の思いも、もちろん声にはならない。

「ああんっ!もっと突いてっ!もっとチンポでズボズボしてえええええええぇ!」
(アサマシイモノダナ、巫女ヨ。コレデ、全テハ終ワリダ。我モ、ソナタモ)

 そんなっ、お待ちください!世界樹様!

 自分が完全に悪魔の手に堕ちたと、世界樹が思い込んでしまっている。
 世界樹が諦めてしまったら、本当に全て終わってしまうのに……。
 その巫女たる自分は、このようなあさましい姿を晒すことしかできない。

「ふぁあああああっ!イイのっ、中で、いっぱいに擦れて、チンポ気持ちイイのおおおおおっ!」
(情ケナイコトヨ。巫女ヲ失ッテハ、モウ、我ニコノ森ヲ守ル霊力ハ残ッテオラヌ。天界ト魔界ノ大戦ガアロウトイウ時ニ、ソナタノヨウナ者ガ巫女デアッタノガ運ノ尽キトイウモノダナ)

 世界樹の声に、諦念のような響きが混じり始めていた。

 ああっ、世界樹様!

 フィオナの心が、恐怖に凍りつく。
 自分が、まだ堕ちていないことをどうにかして伝えたいのに、それができない。

「んふうううううううっ!ああっ、もっと、もっとフィオナのおまんこをいっぱいに突いてくださいませええっ!」

 こんな時に、自分は淫らな言葉を吐きながらいやらしく腰をくねらせている。
 今までさんざんに体を操られ、陵辱されてきたが、悪魔の仕打ちがこれほど恨めしいと思ったことはなかった。

 そこに、非情な宣告が降りかかってくる。

(モウ聞コエテハオルマイガ、我カラノ最後ノ啓示ダ、巫女ヨ。モハヤ、我ニハ何モデキヌ。斯クナレバ、タダ、座シテ死ヲ待ツノミ。全テハ悪魔ノ手ニ堕チ、コノ森ハ滅ブデアロウ)
「あぁ……ぅあ……」

 世界樹の、最後の言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。

「うぅ……あ……」

 フィオナの目から、涙が溢れ落ちる。
 さっきまで激しく動かしていた腰も止まり、がっくりと項垂れていた。
 あまりのショックで、体の自由が戻っていることにすら気づいていない。

 私は……世界樹様に、見捨てられてしまった。
 終わり……これで……全て終わりなの……?

 茫然としたまま、ピクリとも体を動かさないフィオナ。

 その時だった。

「どうなさったんですか、フィオナ様?」
「きゃああああ!?」

 いきなり、背後から抱きつかれてフィオナは悲鳴を上げた。
 そのことで、ようやく体の自由が戻っていることに気づく。

「フィオナ様ぁ……早く終わらせて、私と交代してくださいよぅ……」
「ニッ、ニナ!?あふうううううっ!」

 甘ったるい声を上げて、ぴったりと体をくっつけてきたニナが、両手を前に回してフィオナの乳房を掴んだ。
 こちらに寄せたその顔は、今まで見たことがないくらいに淫靡な表情を浮かべていた。

「私に、もっと気持ちのいいことを教えてくださいね、フィオナ様ぁ」
「違うっ、それは違うのっ!」
「何が違うんですかぁ?さっきまで、あんなにいやらしくて、気持ちよさそうにしておられたじゃないですかぁ?」
「あれはっ!……はうっ、んはぁああああああああっ!」

 今度は、不意に下から突き上げられて、全身がビクビクと震える。

「ほらぁ、やっぱり気持ちよさそうじゃないですかぁ。私も……早く気持ちよくなりたいですううぅ」

 フィオナの耳朶に息を吹きかけながら、密着したままでニナが体をくねらせる。
 ニナの胸の、柔らかな感触が背中で揺れるのを感じた。

 そして、下からは肉棒でズンズンと突き上げられて、再び快感の波に飲み込まれていく。

「いやっ、だめっ、そんなに激しくしないで!」
「でも、気持ちよさそうですよ、フィオナ様ぁ……」
「いやっ、胸っ、いじらないでっ、ニナ!」

 最悪の状況だった。
 悪魔と自分の弟子に陵辱されて、身悶えさせているなんて、悪夢としか言いようがない。

 すると、フィオナの体越しに、悪魔がニナに話しかけた。

「おい、ニナとかいったな?」
「はい、なんですか?」
「さっきも聞いただろうが、僕の名前はシトリーだ。おまえも、僕のものになればたっぷりと気持ちよくしてやるぞ」
「はぁい、シトリー様!ニナは、今からシトリー様のものになりますぅ!」

 悪魔の誘惑に、あろうことかニナはあっさりと隷従を誓う。
 嬉しそうに弾んでいるその声が、フィオナをさらに追い詰めていく。

「だめっ、だめよっ、ニナ!」
「何がだめなんですかぁ?シトリー様を独り占めしようなんて、フィオナ様、ズルいですよ」
「ひぃああああああっ!」

 弟子を止めようとして、必死の思いで叫ぶ。

 しかし、もう、フィオナの思いはニナには届かなかった。
 そればかりか、拗ねたように唇を尖らせてフィオナの乳首をきつくつねってくる。
 その痛みに、フィオナは悲鳴を上げる。
 だが、彼女の心はそれ以上に傷ついていた。

 もう……もう、私にはどうにもできないの?
 世界樹様に見放され、ニナも完全に悪魔の手に堕ちてしまった……。
 なんて……なんて私は無力なの?
 もう、全て終わりだわ……。
 私は、この悪魔には勝てない……。

 悪魔とニナにいいように弄ばれながら、フィオナの希望は黒く塗りつぶされていく。

「よしっ、じゃあフィオナをイカせて、次はおまえの相手をしてやるぞ、ニナ」
「はいっ、シトリー様!ああっ、楽しみです、シトリー様のおチンポがアソコに入って来るのが!どんなに気持ちいいのかしら!?」
「そんな……ニナ。……あうっ!?ふぁあああっ!?ああっ、ひぐぅううううううううううううううっ!」

 フィオナの体の中で、快感の塊が弾けた。
 膣の中に、熱く滾ったものが注がれて、全身が打ち震える。
 これまで、何度も感じさせられた、自分を絶頂へと導く感覚。
 だが、今までとは違い、今度のそれは、フィオナが完全に敗北したことを示していた。

 とうの昔に、体力的にはぎりぎりの状態だった。
 それを、フィオナは気力でカバーして、悪魔の相手をし続けてきた。
 そんな彼女を支えていたのは、悪魔を倒せという世界樹の言葉と、悪魔の玩具にされているニナを救いたいという想いだった。
 その全てが、今、無残にも奪い去られてしまった。

「ひぁああっ!いやぁああああああああああっ!」

 絶頂のうねりの中、髪を振り乱して絶叫しながら、フィオナの心は絶望の闇へと堕ちていった。

< 続く >

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