戻れない、あの夏へ 第4話

第4話 浸食

~8~

 2日後、宏平から電話がかかってきた。

「え?出張?」
「うん、明後日から、6日ほどね、名古屋まで」

 さすがに、携帯から聞こえる宏平の声は少し元気がないように思えた。

「残業続きで、今度は出張だなんて、本当に大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だから。……ごめんな、結依。俺、忙しくて、結依には寂しい思いばっかりさせて」
「ばか……宏ちゃんが悪いんじゃないから……」
「うん……」
「ねえ、宏ちゃん」
「なに?」
「気を付けて行ってきてね」
「うん、わかってる」

 通話を切って、心細そうに携帯をしまう結依。

 仕事だもの、しようがないわよね……。

 そう自分に言い聞かせるが、寂しさは拭いきれない。

* * *

 翌々日、津雲のマンション。
 朝早くに、携帯が鳴った。

「……なに?やつが品川駅に?」
「はい」

 電話をかけてきたのは、宏平の監視をさせていたノゾミだ。

「新幹線の改札の方に行っています。おそらく、出張ではないかと思いますが」
「なるほど……出張ね」
「いかがしたしましょうか?」
「うん、出張まではついて行かなくてもいいだろう。とりあえずおまえは店に戻って待機だ」
「かしこまりました」
「その出張がどのくらいなのかも、こちらからミホにそれとなく探らせておく。念のため、おまえもやつが家に帰っているかどうかの確認はしておいてくれ」
「了解です」
「もし、長期出張なら、その間に彼女をいただくことにするから、そこでとりあえずおまえの仕事は終わりだ。すぐに戻って来るのなら、監視を続行してくれ」
「かしこまりました。それでは、失礼します」

 通話を終えて、津雲は携帯をベッドの上に放る。
 そして、鏡の前に立つとネクタイを結んでいく。

 出張か……どのみち、とりあえずはユイの仕込みをするのが先だ。
 まだまだ、もっといやらしい女にしてやらないとな。

 身支度を整えると、津雲は部屋を出る。
 行き先はもちろん、喫茶”チャイム”だ。

~9~

「ん、んむ、ぴちゃ、あふ、んふ……」
「うん、ずいぶんとうまくなったね」

 ”チャイム”の中で、津雲の肉棒にしゃぶりついている結依。
 虚ろな瞳に、かすかに笑みを浮かべて、熱心に、そしてねっとりと肉棒に舌を這わせている。

 その日も、店内には津雲と結依と美穂だけ。
 今、マスターは外出中だ。
 この前と同じく、美穂が入り口近くに立って、外を見張っている。

「どうだい、ユイ?」
「んむ……ふぁい、津雲さんのおちんちん、おいしいです。あむ、えろ……」
「ふふ、ずいぶんといやらしいんだな、ユイは。そんなにいやらしいと、夜には体が疼いてしかたがないんじゃないか?」
「ふぁい……体、熱くて……アソコがじんじんして……ん、あふ、ちゅる、れろっ」

 涎を垂らしながら返事をすると、すぐに肉棒に舌を伸ばす。
 ひとときも口を離していられないとでもいったように。

「じゃあ、夜にはたっぷりとオナニーするといい。この間みたいに激しく、ね」
「んっ、んく……んん、ふぁい……んふ、んぐ……」
「そうだ。オナニーするときには僕のことを想像したら気持ちよくイクことができるよ」
「んぐぐっ、んふう……ふ、ふん……ちゅ、ちゅぼっ、んむっ、しゅばっ、んくっ」

 もう、そこから口を離すのも嫌だとばかりに、肉棒を咥えたまま津雲を見上げて頷く結依。
 そのまま、頭を振って肉棒を扱き始める。

 その様子を、津雲はにやつきながら見下ろしている。

「ユイ、おまえは好きな相手にいやらしいことをして欲しくて仕方がなくなる。もう、いやらしいことなしでは我慢できない体になってしまったんだよ」
「ふむっ、しゅぼっ、しゅぽっ、んぷっ、んぐ、んぐぐっ」

 津雲の言葉に、結依は返事を返してこない。
 その代わりに、自分から喉の奥に肉棒の先が当たるほど口で肉棒を扱いていく。

 射精の近づいてきた津雲が、結依の頭を押さえ込む。

「くううっ!そらっ、口の中にたっぷりと出してやるぞ!」
「んぐぐっ、ぐふっ、ごほっ、んぐっ!」

 射精とともに、苦しげに呻く結依。
 その口から、飲み込み損ねた白濁液が噴き出してくる。

「ぐふっ、んっ、んぐっ、んく……あふ、ぺろ、えろ……」

 いったん肉棒を口から離すと、どことなく生気のない、それでいて緩んだ表情で、白濁液にまみれた肉棒を舐め、口の周りに付いた精液を舐め回していく。

「もう、先輩ったら、こんなに汚して。ほら、ここにも付いてますよ……んふ、ぺろ」

 それまで表を見張っていた美穂が、結依に近寄って舌を伸ばし、顔に付いた白濁液をぺろりと舐めると、他の場所に散った精液をおしぼりできれいに拭きとってやる。

「さあ、今のことは心の中にしまい込んで」
「……はい」
「じゃあ、カウンターに戻るんだ、ユイ」
「……はい」

 美穂が結依の服を拭き終えたのを確認して命令すると、結依はよろよろと立ち上がってカウンターの中に戻っていく。

「あーあ、テーブルにもこんなに……もったいないですね」

 美穂は、テーブル席に飛び散った精液を拭き取ると、やはりカウンターの中に戻る。
 続いて、津雲もいつもの席に戻り、合言葉を口にした。

「”目を覚ませ、ユイちゃん”」
「……あ、あれ?私?」
「どうしたの、ユイちゃん?なんだか今日はぼーっ、としてるみたいだけど?」

 催眠状態から覚めてきょろきょろとしている結依に、津雲が微笑みながら声をかける。
 それは、さっきまでのにやついた笑みではなくて、普段、ここに来たときに見せている柔らかい笑顔。

「あの……私、今どうしてました?」
「うん、なんだかぼんやりしてたみたいだけど、疲れてるのかな?」
「い、いいえ。そんなことは……」
「じゃあ、また悩み事?また占ってあげようか?」
「いえ、今は別に悩みはないです!」

 結依は、慌てて津雲の言葉を打ち消す。
 実際に、結依の今の悩みはとてもではないが人にうち明けられるものではない。特に、津雲には。

 ……そんな、時々すごくいやらしい気分になるなんて、そんなこと、言えるわけないわ。
 それも、津雲さん相手にあんないやらしい夢を見たなんて。
 でも、私、いま何をしてたのかしら?
 あれ?なんか、口の中がねばねばして、妙な味が……。でも、この味、嫌じゃない……。
 それに、なんだか気分がすっきりしてるし……。

「本当にどうしたの、ユイちゃん?なんか変だよ」
「あっ、いいえっ、本当になんでもないんです!」

 もう、私、またぼんやりしちゃってた。

 慌てて笑顔を作る結依を、津雲は不思議そうに首を傾げて見つめていた。

* * *

 その夜。
 結依の部屋。

「あっ、あふううっ!あっ、やっ、こ、ここっ、感じちゃうっ!」

 ベッドの上で、結依は自分のいやらしい場所を自分で弄っていた。

「ふああああっ!こんなのっ、変なのにっ、気持ちよくてっ、止まらないっ!」

 グチュ、と音を立てて、指を裂け目の中に埋め込んでいく。

「いいいいっ、感じるっ、中っ、感じちゃうのっ!」

 ……ああ、もっと、もっと。
 あの時の夢は、もっと気持ちよかった。
 津雲さんに、乳首、摘まれて……そう、こんな感じ。

「ああっ、感じるっ、乳首っ、感じちゃう!ああっ、津雲さんっ、津雲さんっ、ふああああっ!」

 耐えきれなくなったように、津雲の名前を呼びながら、自分の乳房を鷲掴みにする。
 もう片方の手は、しっかりと裂け目の中に食い込んで敏感な部分を掻き回していた。

 結依の中に、自分の胸を揉んでいる津雲の姿が鮮明に浮かび上がる。

 やだっ、なんで津雲さんのこと考えてるの!?
 私には宏ちゃんがいるのにっ。
 でもっ、止まらないっ、止まらないのっ!

「ああああっ!津雲さんっ、もっと、もっと激しくっ!もっと乱暴にっ、くあああああっ!」

 自分の手で、握りつぶすくらいきつく乳房を掴む。
 その体がきゅっと反って、ビクビクと痙攣し始めている。

 ああっ!こうしてるとっ、津雲さんにいやらしいことしてもらってるみたいでっ!こんなのいけないのにっ、でもっ、気持ちいいっ!

 もう、結依は根元まで埋まるくらい、深く、激しく指を動かしていた。
 結依は、ベッドの上で大きく体をよじらせ、何度も跳ねさせる。

「いああああああっ!だめっ、わたしっ、もうイっちゃいますっ!ああっ、津雲さんっ、ああっ、あっ、ふああああああああっ!」

 一度、大きく跳ねたかと思うと、きゅううううっ、とその体を硬直させて結依は絶頂に達する。

「……ふわあぁ……んん、津雲さあぁん……」

 涎にまみれた顔で、恍惚とした笑みを浮かべたまま津雲の名を呼ぶ結依。
 絶頂の名残か、ぐったりとしている体が時々ピクッ、と痙攣していた。

~10~

 私、なんであんなことを……。
 津雲さんのことを考えながらひとりえっちするなんて。
 最近、なんか変だよ……。
 毎日、夜になるとえっちな気分になって、自分でしちゃうのをやめられない。
 前はこんなことなかったのに。
 私、どうなったちゃったの?こんなにいやらしい女だったの?

 ……助けて、宏ちゃん。
 私、怖いよ……このままだと、自分がおかしくなっちゃいそうで……。

 早く宏ちゃんに会いたいよう……。

「どしたの、結依?なんか元気ないけど」

 宏平が出張に行って3日後。
 その日、”チャイム”に、仕事帰りの飛鳥が顔を出していた。

「うん、ちょっとね……」
「なによ、宏平とケンカでもしたの?」
「違うわよ!宏ちゃんね、今、出張中なの」
「なるほど。それで元気がなかったのね」
「うん、それにね。最近、宏ちゃん残業ばかりでね。なかなか会えないのよ」
「なんですって?結依をほったらかしにするなんて、宏平のやつ、今度会ったら締めておかないといけないわね」
「いいのよ、飛鳥。それは、少し寂しいけど、仕事だからしょうがないのよ。それよりも、私、宏ちゃんの体のことが心配で……」

 そう言って表情を曇らせる結依をしばらく見つめた後、飛鳥は、はぁ、とため息を吐く。

「まったく、優しいわね、あんたは。よし!じゃ、今日はあたしがごちそうするから、一緒にご飯行きましょ!」
「ええ?飛鳥?」
「そんなに悄げてるあんたを放っておけるわけないでしょ!……あたしじゃ宏平の代わりにはならないかもしれないけどね」
「……うん、ありがとう、飛鳥」

 結依は、泣き笑いのような表情を浮かべる。
 自分を元気づけようとしてくれる、飛鳥のその心遣いが嬉しかった。

 そして、宏平がようやく出張から帰ってきた。

「あ!おかえりっ、宏ちゃん!」

 宏平が帰ってきたその日、待ち合わせ場所にやってきた宏平に向かって結依は手を振る。

「ただいま、結依。はい、これ、おみやげ」
「うん、ありがとう」

 結依は、宏平から手渡された包みを大切そうに抱える。

「晩飯、どこかで食べていこうか」
「うん、宏ちゃんがそれでいいなら」
「これから作ってたら遅くなるし、結依の手料理はまた今度ゆっくりできる時に楽しまないとね」
「もうっ、宏ちゃんったら!」

 少し照れたように、結依は宏平にポンと体をぶつける。

 今朝、宏平から、帰ったらすぐに会おうと連絡があったときは、少し驚いたけどやっぱり嬉しかった。
 宏平の携帯に、出張から帰ったらすぐに結依に会ってやれと、飛鳥からきつい文面でメールが来ていたことを結依は知らない。

 そして、そんなふたりの姿を、物陰から見つめているふたつの人影があった。

 ひとりは、スーツ姿の男、津雲だ。

「ふうん、あれがユイの彼氏ね」
「そうです」

 そう答えたのは、グレーのスーツに身を包んだ、ごく普通のOL風の女。
 格好は、オフィス街の風景に溶け込んでいきそうな地味な雰囲気で、野暮ったい眼鏡をかけているが、よく見ると整った顔立ちの美人だ。

 彼女が、宏平の監視を続けていたノゾミ。

 美穂がうまくカマを掛けて、宏平が今日帰ってくるという情報を手に入れたのは昨日のことだった。
 品川駅から会社に戻る宏平をノゾミが待ち伏せて、再び出てきたところで津雲と合流した。
 そこで、宏平が結依と待ち合わせしているところに遭遇したというわけだ。

「なるほど、たしかに真面目そうな男だな」

 体を寄せ合って歩く結依と宏平の後ろ姿を眺めながら、津雲が宏平の印象を口にする。

「だが、それだけの男だ。あの程度の男にユイみたいな女はもったいないな」

 嘲るように言い放つと、結依たちとは反対の方向に歩きはじめる。

「それじゃ、監視の方は頼むぞ」
「お任せ下さい、社長」

 ノゾミは、津雲に一礼すると結依たちの後をつけて行く。

 宏平はもちろん、結依もそんなことに気づくはずはなかった。
 それに、その時の結依は、宏平に会えたことで少し浮かれていたのかもしれない。

 ……なんだか、すごく久しぶりに会うみたい。
 でも、やっぱり心が落ち着く。
 そうだよね、いつも、こうだったじゃない。
 宏ちゃんと一緒にいるとこんなに嬉しい。
 きっと、このところなかなか会えなくて、ちょっと寂しかっただけ……。

 よく考えたら、普段でもこのくらい会わないことはあるというのに。
 なんか、ずっと会えなかったような気がする。

 あんないやらしい気持ちになってたのは、なにかの間違いなのよ。
 きっと寂しさと不安で、少し情緒不安定になってたんだわ。

 宏平に会えたその嬉しさで、結依ははじめは気が付かなかった。
 自分の感情に、微妙な違和感があったことを。

 蛇が鎌首をもたげるように、その違和感が持ち上がってきたのは、食事の後、宏平の部屋に戻ってきてからだった。

「……あっ」

 いつものように、ふたり並んでテレビを見ていた時、宏平の頭が結依の肩にもたれてきた。

 宏ちゃん、寝ちゃったんだ……。

 結依は、宏平の頭をそっと膝の上に乗せる。
 自分の膝の上ですやすやと寝息を立てている宏平を、結依は柔らかな笑みを浮かべて見つめる。

 本当に疲れてるんだね、宏ちゃん。

 慈しむように、宏平の髪を撫でてやる結依。

 ……こんなに疲れてたら、えっちなんかできないよね。

 不意に、そんな思いが湧き上がってきた

 私、もっといやらしいことして欲しいのに、こんなのじゃ我慢できないよ……。

 ……やだ!私ったら、また!?

 我に返った結依は、頭を振って自分の中の思いを打ち消す。

 この間から、なに考えてるのよ、私。
 すぐにえっちなこと考えちゃって……。
 あれは、なにかの間違いじゃなかったの?

 それに、宏ちゃんは疲れてるんだし、だいいち、真面目で優しいのが宏ちゃんのいいところじゃないの。

 ……でも、体が熱い。

 一度こみ上げてきた欲望が、結依の体に火を付けてしまっていた。
 アソコがじんじんとしてきて、ふとももがもぞもぞと勝手に動いてしまう。
 体が熱くて、自分では抑えることができない。

 なんで、どうしてこんなにアソコが熱いの?
 それに、いやらしいことをして欲しくてたまらない。
 私、こんなにいやらしい女だったの?
 ……だめ、もうっ、もう、我慢できない。

 結依の手が、ゆっくりとスカートの中に入っていく。
 すると、その体がぴくりと震えた。

 だめよっ、宏ちゃんが起きちゃう……。

「……っ!」

 スカートの中に入れた指が、ショーツの上から固く勃った肉芽に当たり、声を立てないように呻く。

 だめ……こんなことしちゃだめなのに……止まらない。

 宏平を起こさないように、結依は声を押し殺してオナニーを始める。

「……ひぁ!」

 ショーツの中に入れた指が、アソコの中に入っていく。

「……んぐっ、ぐぐっ!」

 瞬間、その体がびくんと少し大きく震え、声が出ないように、結依はとっさにもう片方の腕を噛んだ。

「ぐぐうっ、ぐっ!」

 声にならない声で喘ぎながら、結依の体が時折ぴくりと震えている。
 宏平を起こしてはならない、気づかれてはならないという緊張感が、いっそう刺激を強めていくようにも思える。

 あ、ああっ……津雲さんなら……もっと激しくしてくれる。
 ……津雲さんなら、こうやって。

 知らず知らずのうちに、結依は津雲の姿を想像していた。

「んくうっ!」

 アソコの奥までズボッと指が入り、結依の体が、きゅっと反り返った。
 それでも、宏平の頭を乗せた膝は極力揺れないように必死で押さえようとしている。

 ……いや、なんで私、津雲さんのことを考えてるの?
 宏ちゃんがここにいるのに……私の膝の上で寝てるのに……。
 私……宏ちゃんのこと、こんなに好きなのに……。

 でも、津雲さんなら……。

「んぐぐっ!んくっ!んふううう……」

 その、スリリングで危うい自慰は、結依がイってしまうまで続けられた。

~11~

「本当にいやらしい体になったね、ユイ」
「んふ、んむ……ふぁい……ん、あふ、えろ」

 その日も、喫茶”チャイム”で津雲の肉棒をしゃぶっている結依。
 咥えている肉棒に手を添えながら、もう片方の手をスカートの中に突っ込んでいた。

「あふう、んむ……んっ、んんんっ!」

 指先が敏感なところに当たったのか、ぎゅっと目を閉じて体を震わせる。
 それでも、肉棒はしっかりと咥えこんだままだ。

「そういえば、ユイ。彼はまた残業続きなのかな?」
「んっ、んむっ……ふぁい……あむ」
「彼は本当に残業なのかい?」
「んん、ふむ、ん、んん?」

 肉棒を咥えながら、結依が首を傾げたように見えた。

「残業とか言って、本当は他に女でも作っているんだよ、きっと」
「んふ……んむ、あふっ、じゅっ、んくっ」

 一瞬、悲しげな表情を浮かべたように見えたのは気のせいだろうか。
 すぐに、能面のように無表情になって肉棒をしゃぶるのに集中し始める。
 その、虚ろな表情からは感情はまったく読みとれない。

「ユイもそう思うだろう?」
「んん、んむ…………ふん、ふふん、ふん、ふん」

 肉棒を咥えたまま、結依はふるふると頭を横に振った。
 催眠状態でも、心の奥底で、宏平を信じる思いがそうさせたのだろうか。

「なんだ、ユイ。僕の言うことが信じられないというのかい?」
「んふ、ん…………」

 津雲が咎めると、結依は困ったように眉間にしわを寄せる。

「僕がいい加減なことを言っているとでもいうのか?」
「んんっ……ふん、ふふん」

 肉棒を咥えたまま、結依がまた首を横に振る。

「いいか、よく聞くんだ、ユイ」

 津雲が、結依の目の前に指を突き出した。
 結依の虚ろな瞳が、指先を追うように中央に寄る。

「僕の言葉はおまえにとって絶対だ。そのことを覚えておけ」
「んむ……ふぁい……」

 いったん肉棒から口を離して返事をする結依の、ただでさえ虚ろな瞳が、さらに光を失い暗くなっていく。

「だったら、やっぱり彼には、きみに隠していることがあるのかもしれないよ。そうは思わないか?」
「ん……んむ……」

 それでもなお、結依は迷ったような表情で返事をすることなく、ゆるゆると肉棒を咥える。

「まだ、僕の言うことが信じられないのか?でも、本当に毎日残業だって確認はしてないだろう」
「んふ……んむ……んちゅ……」
「もしかしたら、彼は残業だと嘘をついて遊んでいるのかもしれないし、他に女でもできてるのかもしれない。そうだろう?」
「あふ、んむ……………………ふぁい……」

 長い間をおいて、ようやく結依が頭を縦に振った。

 肉棒を咥えて、まるで、もう考えるのも気怠いとでもいう様子だ。
 そして、ゆるゆると頭を動かして肉棒を扱く。
 その姿は、ただただ、津雲の言うこと聞いていればいいのだと自分に言い聞かしているようにも思える。

「でも、安心するといい。もし、彼がきみを騙していても、代わりに僕がたっぷりと可愛がってあげるから」
「……ふぁい。んっ、しゅぼっ、ちゅぱっ、じゅっ、んぐっ、んっ、んふっ、ふうっ、ふんっ」

 今度はすぐに返事をすると、大きく頭を振り始める。
 そして、まるで、吹っ切れたように、口を使って激しく肉棒を扱いていく。

「そうかい、そんなに僕に可愛がって欲しいんだね」
「じゅぼっ、じゅばっ、んぐっ、んくくっ、じゅじゅっんふ、ん、んむ、んく、じゅるるっ」

 もう、津雲の言葉に返事をすることなく、一心不乱に肉棒を扱いていく結依。

「じゅ……んっ、んむむっ!……んふう、じゅぼ、しゅぽっ」

 スカートの中に入れて自分のいやらしいところを弄っている結依の手の動きも激しくなり、時折体をピクッと震わせている。
 津雲は、薄笑いを浮かべてそんな彼女の様子を見下ろしていた。

「本当にいやらしいね、ユイ。さあ、もう少し頑張ったら、そのいやらしい口にご褒美を注いであげるよ」
「んふう……んくっ、んぐぐっ!……むふう、しゅぽっ、しゅぼっ」
「うん、いい子だ。そうだ、もうひとつご褒美をあげようか。きみにとって大切な人のことを信じられなくなった時に、僕がきみの大切な人になってあげるよ」

 津雲の言葉に答える代わりに、結依は前後に頭を振る動作を激しくしていく。
 その頭に手を置くと、津雲はさらに暗示を仕込んでいく。

「そうだね、合言葉も決めておこうか。”僕のことは嫌いかな、ユイちゃん?”て言われると僕のことを好きになって、すごくいやらしい気持ちになって、僕とセックスしたくなる」
「んぐっ、じゅぽっ、んむっ、んんっ、、じゅぼっ、じゅぽっ!」
「くっ!ああ、そうだ、いいよ、ユイ」

 肉棒を包み込むねっとりと熱い感触、結依が頭を振るたびに、適度に締めつけながら扱きあげてくるその快感。
 結依の口での奉仕は、もう、他の”従業員”にもひけを取らない。

 愛玩物を扱うように、結依の頭を撫でてやる津雲。
 膨れ上がった肉棒は、結依の口からはみ出さんばかりに大きくなっていた。

「くうっ!」

 股間の熱が爆発するような感覚に津雲が結依の頭を押さえ込んだ。
 結依の口の中に、堰を切ったように熱いものがほとばしり出てくる。

「ぐむむっ!んぐっ、ぐぐぐっ、ぐっ!」

 結依は、苦しそうに呻きながらも、肉棒を喉の奥まで咥え込んで離そうとしない。

「ぐくっ、んっく、こくっ、んくっ、ごきゅっ」

 虚ろで、霞がかかったように光のない瞳のまま、結依は頬を紅潮させ、喉を鳴らして精液を飲み込んでいく。

「んぐ、ごくっ……むふううぅ」

 一滴残らず飲み干して、大きく息を吐いた瞬間、その虚ろな顔が目尻を緩めて笑ったように見えた。

* * *

「それじゃあ、今日はこれで上がりますね、マスター」
「ああ、お疲れさま」

 控え室に入ると、結依はまずエプロンを外し、制服を脱いでいく。

 ……やだ、またこんなに湿ってる。

 結依は、湿ったショーツを脱ぐと、予備のショーツにはき替える。
 前にあんな夢を見て、そして、このところ、毎晩火照った体を自分で慰めるときに、なぜかいつも津雲のことを想像してしまう。自分には、宏平という恋人がいるというのに。
 それだけではない、この間は、宏平の部屋で、膝枕の上に宏平を乗せたままオナニーをしてしまった。その時にも、なぜか津雲のことを想像している自分がいた。

 仕事中、暇なときにそのことを思い出して体が熱くなるときがある。
 津雲が来たときはなおさらだ。
 不思議と、津雲が来たときに胸を弾ませている自分がいる。
 たしかに、彼と話しているのは楽しいし、気持ちのいい人だとは思う。
 でも、夜、自分がしていることを思い出すと、恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまう。
 そして、最近、仕事終わりにショーツをぐっしょりと湿らしていることが何度かあった。
 そんなことでショーツを濡らしている自分を情けなく思うし、勝手にいやらしい想像をしてしまって、津雲にも申し訳ないと思う。
 津雲のことを素敵な人だと思っているだけになおさらだ。

 着替えを終えて、結依は携帯をチェックする。
 その日も、残業を知らせる宏平からのメールが届いていた。

 宏ちゃん、今日も残業なんだ……今度はいつ会えるんだろう……。

 ……でも、本当に残業なのかな?
 こんなに毎日?
 私、普通の会社に勤たことないからわからないけど、そんなことってあるの?

 その時、そんな疑問が、初めて結依の中に浮かんだ。
 相変わらず、宏平は残業続きで、週末も疲れているだろうからと、あまり無理は言えなかった。
 それでも、そんなことは今まで考えたこともなかった。
 残業ばかりで大変だろうと、宏平の体のことを心配するのがいつものことだったのに。
 真面目な宏平のことだから、一生懸命に仕事をしているはずなのに。
 それなのに、一度胸の中に湧いた疑念は急速に膨らんでいく。
 たった一滴のインクが、コップの中の水を染め上げていくように。

 ひょっとして、残業とか言って、本当は遊んでるんじゃ……。
 だって、確かめたことないし……他に女の人でもいるんじゃないの?
 バカッ!なに考えてるのよ!宏ちゃんに限ってそんなことあるわけないじゃない!
 ……でも。

 もしかして、宏平は自分を騙しているんじゃないかという不安で胸がざわつく。
 それを抑えることは、結依にはできなかった。

 しかし、それを直接宏平に聞く勇気は、結依には、ない……。

< 続く >

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