奴隷の部屋

「ふうぅ、疲れたぁ」

 夕方というにはもうだいぶ遅い時間に部屋に戻ると、バッグを投げ出してスーツを脱いでいく。
 そして、テレビのリモコンを拾い上げた。

『…………犯人は犯行直後に車道に飛び込み、トラックにはねられて死亡しました。被害状況はいまだ確認中ですが、少なくとも死者1名、他に負傷者が多数出ている模様です』

 テレビの画面には、緊急のニュース速報が映っていた。
 どうやら、繁華街の一角で通り魔事件があったらしい。
 男が大型のナイフで通行人を次々と刺して、自分は車に轢かれたみたいだけど。

「やーね、最近こんな事件ばっかり。こわーい」

 そう言えば、先週もデパートの屋上で暴れた男が数人に怪我をさせて、そのままひとりを道連れに飛び降りたって事件があったし。

「もう、こんなんじゃ危なくておちおち街にも出られないじゃないの」

 ニュースの音声を聞き流しながら呟く。
 私、河合葉月(かわい はづき)がひとり暮らしを始めて2年と少し経つ。
 大学を出て今の会社に就職して、最初の年は実家から通っていたんだけど、距離がかなり離れていたので今の部屋を借りることにした。
 都内のワンルームは狭いくせに家賃ばかり高いのが難点だけど、通勤の楽さとひとりで気ままに過ごす気軽さを知ってしまったら実家に帰ろうとは思わなくなってしまった。
 それにうちのマンションはオートロックだから、こうやって物騒な事件が起きていてもまだ安心できる。

 ただ、今ではテレビ相手に独り言を呟くのがすっかり癖になってしまったけど。

「……あれ?」

 今、玄関のベルが鳴ったわよね?
 オートロックのインターホンじゃなくて。

 ということはこのマンションの人?
 でも、ここには知り合いもいないし。

 ……誰かしら?

 そっと玄関まで行って、外を覗いてみる。

 宅配の人?
 そこに立っていたのは宅配業者の制服っぽい服を着た男だった。
 それに、手に箱みたいなものを持ってるみたい。

 でも、なんで玄関まで?
 これ、出た方がいいのかしら?

 そう思って、出るのを躊躇ってしまう。

 そのとき、もう一度ベルが鳴った。

「河合さーん! 宅配です-!」

 続けて、ドアの向こうから男の声が聞こえた。

 やっぱりただ荷物を届けにきただけ?
 他の部屋にも届け物があって、そっちでオートロックを開けてもらったのかしら?

 たまたまうちのマンションの何軒かに宅配があって、他でロックを解除してもらってからうちに来たっていう可能性も考えられた。

 だから、いちおう用心してドアチェーンを掛けたまま対応することにしてみた。

「…………あっ!」

 ドアを開くと、そこに立っていたのは同棲している恋人のアッくんだった。

「ただいま、葉月」
「おかえり、アッくん」
「早くチェーンを外してくれよ」
「あっ、うん、ごめん」

 慌てて私はドアチェーンを外す。
 ……でも、なんで私チェーンなんか掛けてたんだろう?
 アッくんが帰ってくるっていうのに。

 いくら首を傾げても、どうしてだか自分でもわからない。

 それでも、気を取り直して靴を脱いで上がってきたアッくんといつものやりとりをする。

「アッくん、晩ご飯は?」
「まだだけど」

 そう答えたアッくんが、持っていた箱をテーブルの上に置いた。

「あら? それは?」
「いや、気にしなくていいさ」

 ……そうね。
 アッくんがそう言うんなら気にしなくていいものなのよね。

「とりあえず、すぐに準備するね…………えっ?」

 何気ない会話をしながらご飯の準備をしようとした私の腕を、アッくんが掴んだ。

「アッくん?」
「葉月、ご飯よりも……」
「んんっ!? んふっ……」

 アッくんが私を抱きしめて口づけしてくる。

「んんんっ…………もうっ、アッくん!」
「僕はメシよりもおまえとセックスしたい」
「やだ、アッくんたら」
「でも、葉月もセックスしたくてしかたないんだろ?」
「…………うん」

 アッくんにそう言われると、正直に頷くしかない。
 本当に、アッくんが帰ってきたときからセックスしたくてしかたがなかったような気がする。

 そのまま、アッくんの腕に肩を抱かれてベッド脇まで行くと服を脱いでいく。

「なんだ、葉月のそこ、もうそんなに濡れ濡れじゃんか」
「やだっ、もう……」

 お互い裸になって、私のアソコを見たアッくんがニヤニヤ笑ってる。
 そこはもう、エッチなおツユがふとももを伝って落ちるくらいに濡れていた。

 でもしかたがないじゃない。
 アッくんとセックスがしたくて体が疼いてたんだから。

「そっちはもう準備ができてるみたいだから、葉月に僕がセックスできるようにしてもらわないとな」
「うん、わかった」

 ベッドに腰掛けたアッくんの前に膝をつくと、まだクタッとなっているおちんちんを握る。
 そして、手の中で少し固くなってきたそれをゆっくりと扱く。

「お、いいぞ、葉月」
「うん……」

 そうやって手で扱いていると、おちんちんはどんどん固さを増して大きくなっていく。
 それでもまだ扱くのをやめないでいると、先端の小さな割れ目から透明なおツユが出て小さな水玉になった。
 それを見ていると、無性に舐めとりたくなっている自分がいた。

「どうしたんだ? 葉月のやりたいようにしていいんだぞ」
「うん……ぺろっ、ん、れるっ……あふっ、んむ……」

 おちんちんに顔を近づけて、先走りの水滴を舌で舐めとる。
 アッくんのそれは、頭がじーんと痺れるようないやらしい味がした。
 それで我慢ができなくなって、もう一度おちんちんに舌を絡めてからはむっと口に咥える。
 そうやって、アッくんのおちんちんのいやらしい味と匂い、感触を口いっぱいに受け止める。

「じゅるっ……はふっ、んむっ、ちゅむっ、んぐっ、ぐぐぐっ……!」

 ぐっと頬張ると喉奥まで当たる力強い感触が、苦しいけど心地いい。

「んぐっ、じゅぽっ、ちゅぽ、んふっ、れるっ、じゅぶっ……」

 そのまま頭を振って、唇と喉を使っておちんちんを扱く。
 先っぽから溢れるカウパーで口の中がヌルヌルになって、アッくんの匂いと味がどんどん増していく。

「んぽっ、んぐっ、ちゅぽっ、ぐむむっ、ぬぽっ、じゅむむむっ!」
「ああ、気持ちいい。巧いぞ、葉月」
「じゅぽっ、ぐぐっ、んふっ、じゅぱっ、じゅぶぶっ、ちゅぼっ……」

 私の頭を撫でながらアッくんが褒めてくれただけで、うっとりするほど嬉しくなってますます熱心におちんちんを口で扱いていく。

「んくっ、ぐむっ、ぬぷっ、んぐぐぐっ……」

 今、口の中でおちんちんがまた大きくなってピクッて震えた。
 きっともう出そうなんだと思って、唇でしっかりと挟んで扱きながら奥まで咥え込んだ。

「んぐぼっ! んぐぐぐぐぐぅっ!」

 喉の奥に熱いドロドロが叩き付けられて、咽せそうになるのを必死に我慢する。

「んふっ、はふぅ、んむ……」

 アッくんのザーメンを頬張ったまま息継ぎをすると、生臭い匂いが鼻を抜けていく。
 それに、このなんとも形容しようのない味。
 でも、アッくんの味だと思うと美味しく感じる。

 おちんちんからは、まだトロッと精液が溢れてきていた。
 それを全部口の中で受け止めると、上目遣いにアッくんを見る。
 笑顔でアッくんが頷いたのを確かめてから、口いっぱいのザーメンを飲み込む。

「んっ、んくっ、ごきゅ……」

 この、喉に引っかかるようなドロドロの感触も、後に残る味や匂いも、なにもかもがいやらしい。

「ん、ふううううぅ…………えるっ、ぺろっ、ん、ちゅむ……」

 全部飲み干していったん大きく息をすると、もう一度おちんちんに舌を這わせてこびりついた精液をきれいに舐めとっていく。

「れるっ、ちゅぱ、あむ、れろぉ……」

 私の大好きなおちんちんを舌で丁寧にきれいにしていると、いったん萎びかけていたのがまたむくむくと固さを取り戻す。

「んっ、はむっ…………また大きくなったね、アッくん」
「ああ、葉月がエロいから何度でも大きくなるさ」
「やだ、アッくんったら。……でも、これだけ固くなったらもう大丈夫だよね?」
「そうだな」
「じゃあ、今度はこっちにおちんちんをちょうだい……」

 そう言いながらベッドに上がるとアッくんに向けて足を開き、両手を使ってくぱぁってアソコを広げてみせる。

「まったく、葉月はしかたのないやつだな」

 私のいやらしい姿を眺めて、アッくんがニヤニヤと笑う。
 そして、こっちににじり寄ってくると私の両足を抱え上げた。

「さてと、おまえの牝マンコにチンポをくれてやるか」
「うん、きてぇ! 私の牝マンコにおちんちん入れてぇ!」

 やだ、私ったらなんてはしたないことを口走ってるの?
 そんな言葉、普段だったら絶対に口にしないのに。
 でも、不思議と抵抗感はない。
 ……それもそうよね。
 アッくんと一緒のときはいつもそうだから。

「くくくっ、葉月は本当にエロい牝だな」
「うん! うん! 私、エロい牝だから、だからはやくおまんこにおちんちんきてぇっ!」

 一刻も早くセックスしたくて、迎え入れるようにアッくんに向かって両手を伸ばす。
 アッくんがそんな私の体にのしかかってきたかと思うと、入り口をゴリゴリと擦りながらおちんちんがおまんこに入ってきた。

「くふぅううううううっ! きたぁあああああああんっ!」

 おまんこの襞を掻き分けて入ってきたおちんちんの感触に、背骨が震えるほどの快感が走る。

「いいっ! アッくんのおちんちんいいのっ! もっと、もっときてっ! んほぉおおおおおっ!」

 私の中をいっぱいにしたおちんちんが、ずっずんっと動き始めた。
 もう、入れる前から痺れるくらいに疼いてたお腹の奥を固いおちんちんで突かれて、クラクラするほど気持ちいい。

「ああっ、いいっ! おちんちんいいっ! おまんこに響いてっ……やっ、いきなりそんな激しっ……ふおおおおっ!」

 おまんこを突く動きが急に激しくなって、角度も無茶苦茶に突かれまくる。
 まったく出鱈目な動きなのに、ビリビリする快感が跳ね上がっていく。

「葉月はこのくらい乱暴な方がいいんだろ?」
「そうっ! 乱暴なのがっ、激しいのがいいのおおぉっ! あふっ、んふぁあああああっ!」

 おまんこの中をぐちゃぐちゃにかき回されて、アッくんにしがみつきながら喘ぐ。
 気持ちよすぎて腰が砕けそう。
 それに、おちんちんがおまんこの中をごりって擦って奥にズンと当たるたびに頭の中でバチバチと火花が散ってる。

「んふぅうううううっ! ふあっ、イクッ、私もうイクぅううううううっ!」

 乱暴に犯されて、私は一気に登り詰めてしまう。
 全身が強ばって、目の前が白く弾けた。

 でも、アッくんの動きは止まらなかった。

「んほぉおおおおっ! やっ、イッてるっ! イッてるのにっ……またイッくぅううううううっ!」

 さっきの絶頂がまだ治まってないのに、次の絶頂の波がくる。

「ふぁあああっ! イクイクッ、またイクぅうっ! イッてる牝マンコッ、イクの止まらないぃいいいいっ!」

 アッくんの激しい腰使いに、連続絶頂が止まらない。
 もう、頭の中まで快感でぐちゃぐちゃになって、自分が自分でなくなったみたいだった。

「ひゃあああっ! イクッ、またイクのっ! ほほぉおおおおっ!」
「くふぅっ……出すぞっ、葉月!」
「ふぁああっ! きてっ、アッくんのいっぱい出してぇっ! ……………ひゃふぅううううっ! アッくんの精液っ、きたぁああああああっ!」

 おまんこの中でおちんちんが膨れあがるように震えたかと思うと、熱いものがいっぱいに吹き出してきたのを感じた。

「ふひゃあああああっ! イグッ、あっついザーメンいっぱいに出されてっ、またイグぅうううううううううっ!」

 一番の強烈な絶頂に襲われて、アッくんにしがみついたまま絶叫する。
 そのまま、射精が終わってもしばらく絶頂から降りて来られなかった。

「……んふぅ……アッくん」

 やっと少し落ち着いてから、まだ甘い余韻に浸ったままアッくんを抱きしめる。

「……ふふっ! くくくくくっ! あははははっ!」

 いきなり、アッくんが声をあげて笑い出した。

「……アッくん?」
「僕は本当に”恋人のアッくん”なのか?」
「えっ? …………やっ!? きゃああああああああっ!」

 だっ、誰?
 この男はいったい誰なのっ!?
 私の恋人のアッくんは!?
 いや、そもそも恋人のアッくんって誰!?

 私は悲鳴をあげてその男から離れるように後ずさった。
 そして、慌てて毛布を掻き上げて胸を隠す。

 目の前にいるのは知らない男。
 そのはずなのに、私の頭の中に変な記憶がある。

 私はこの男のことは知らない。
 それなのに、頭の中にこの男のことが恋人だというおかしな記憶がある。
 少なくとも、さっきまでは恋人だと思い込んでいた。
 よく考えたらこの男との思い出などなにひとつ思い出せないのに。
 だいいち、今の私には同棲相手はもちろん、つき合っている相手もいないのに。
 でも、たった今この男を恋人だと思ってセックスしたのは事実だ。

「そんな……いったいなんで?」

 異様なことが自分の身に降りかかっていることがわかって、声が震える。
 そんな私を見て、そいつはまだ楽しそうに笑っていた。

「まあアッくんで間違っちゃいないけどな。ただ、おまえらにアッくんなんて呼ばれたことは一度もないがね」

 ”おまえら”って?
 こいつは私のことを知ってるの?

「な、なんなのよ……それに、あんたはいったい……?」
「わからないか? まあ、それも無理はないな。だいいち、僕のことを覚えているかどうかすら怪しいしな」

 だからなにを言ってるの?
 歳は私と同じくらいなのかしら?
 ただ、かなり痩せていて目つきばかりがやたら鋭い。
 そんなの知り合いにはいないし、その顔を見てもなにも思い出せない。

「本当に覚えてないのか? 神山淳大を?」

 カミヤマ……アツヒロ……。
 まさか!
 あの神山!?
 目の前にいるこの男があいつだっていうの!?
 あいつはどっちかというとデブで冴えない奴だったし、だいいち……。

「なに言ってるの? あいつは死んだはずよ……」
「おまえらの間ではそうなっているらしいな」

 そう。
 神山淳大は高校の頃に私たちのグループがいじめていた相手だった。
 そして、3年生になる春に神山は自殺したって、そう聞いていたのに……。

「そうよ……あいつは死んだはずよ……」
「たしかに死のうとしたさ。あの春に自分の部屋で首を括ってな」
「じゃあ……」
「僕は死んじゃいなかったのさ。とはいえ病院のベッドの上で5年間意識不明だったがな。実際、医者も匙を投げて、仮に意識が戻っても社会復帰は無理だと言われていたらしい。だから、事実上死んでいるのと一緒だったさ」
「なら、どうして……」
「それが3年前に意識が戻ったんだよ」
「そんな!」

 まさか……あの神山が生きていたなんて……。
 それに、さっきのあれ。
 いったい私になにをしたっていうの?

 自分の顔から血の気が引いていくのがわかる。

 そんな私をにやつきながら眺めていた神山の口許が、醜く歪んだ。

「そりゃ悲惨だったさ。なにしろ5年間も意識不明だったんだから。筋力が完全に衰えてて、普通に生活ができるレベルまでリハビリするのに2年以上かかった。そのうえ、僕の中では時間はあの春から止まってたから日常生活に必要な知識も高校生レベルのままだったしな。それに、いくらリハビリしたところでおまえたちが高校を卒業して大学生活を楽しんでいた時間は僕にはもう戻ってこないんだよ」

 吐き捨てるようにそう言った神山の目に、暗い憎悪の光が宿ったように思えた。
 たしかにその話し方はどこか昔のあいつを思わせるところもあるけど、昔は鈍くさいとみんなにからかわれてもろくに反論もできない奴だったのに。

「だがな、天は僕を見放しちゃいなかった」
「どういうことなのよ?」
「リハビリをしていた僕は、自分が不思議な力を手に入れていることに気がついたんだよ。人を自分の思いのままに操る力をな」
「そんなバカなことあるはずがないわ!」
「じゃあどうしてさっきおまえは僕のことを”恋人のアッくん”だと思ったんだ?」
「そ、それはっ……」
「僕がおまえの頭を弄ってそう思わせたんだよ」
「そんなっ!」
「まあ信じられないのも当然だろうな。実際のところ、僕だってそんな力が身についてるなんて思ってもなかったし、どうしてこの力を手に入れることができたのかわかっちゃいない。だいいち、僕自身まだこの力を完全に把握してるわけじゃないしな。ただわかっているのは、どうやら僕は相手の頭の中というか、記憶とか思考、認識、さらには感覚までを好きなように弄ることができるみたいなんだよ」
「うそ……」
「嘘じゃないさ。この力に気づいたきっかけは、リハビリ中にこうして欲しいって思ったことを言ってもないのに看護師がしてくれることがたびたびあったことなんだがな。最初はラッキー程度にしか思ってなかったんだけど、あまりにもそういうことが何度もあったから意識してやってみたらやっぱり相手が思ったとおりのことをしてくれてね。なに、そのときさせたのは他愛もないことさ。喉が渇いてたからジュースを買ってこさせたんだ。その看護師は、口で言わなくても飲みたいと思っていたものを持ってきてくれたよ。それから、僕はリハビリをしながらこの能力の把握に努めた。その結果、姿が見えてさえいれば相手を思いのままにできる能力だということがわかったんだ」
「そんなことが、まさか……」

 神山の口から語られた話は、とてもじゃないけど信じられるものではなかった。
 しかし、そんな能力でもないとさっき私自身に起きたことの説明がつかない。

「僕は神に感謝したね。この能力さえあればもう生活に困ることはない。ただ、体が動いてくれないと日常生活もままならないからリハビリは続けたけど、でも、その日からリハビリ生活はバラ色になった。この力があれば、僕の望むものはたいてい手に入れることができたんだから。そう、好みのタイプの若くて美人の看護師や療法士を僕専用にさせることも簡単だったしね。彼女たちにはしっかり僕の性欲処理もしてもらった。もちろん、あまり人目につくとこの能力があっても厄介だから物陰に隠れてだけどね。そのうちの何人かは今でもセックス相手にキープしてるよ。……ああ、話が逸れたな。それで、リハビリが終わって家に戻ってまず思いついたのが、高校のときに僕を追い詰めた連中への復讐だった。この力を使って、おまえたち全員に復讐してやろうって思ったんだよ。そして、実際それは簡単だったさ。たとえ8年近い時間が経ってても、実家さえわかればおまえたちの居所なんかすぐわかるしな。力を使っておまえらの家族から居場所を聞き出してから僕は復讐を開始した。……おまえ、今日の通り魔事件のことは知ってるか?」
「……ニュースで見たわ」
「あの事件の犯人は同じクラスだった長谷川だよ」
「そんなっ!? ユウトがっ!?」
「そうさ。それに先週のデパートの屋上の事件、あれの犯人は戸田さ」
「まさかっ、タクヤまでっ!? そんな!?」

 長谷川勇斗も戸田拓弥も高校時代に私と仲がよかった男子で、一緒に神山をいじめていたグループのメンバーだった。
 あの事件の犯人がそのふたりだなんて……。

「はっ! まさか……」
「ああ、そのまさかさ。ふたりとも僕が力を使ってあの事件を起こさせて、捕まる前に自殺させたんだよ」
「酷い……どうして……どうしてそんな酷いことができるの!?」
「言っただろうが、おまえたちへの復讐だって。実際、僕は神様がおまえらに復讐するためにこの力をくれたんじゃないかって思ってるんだけどな」
「そんなの、悪魔の間違いじゃないの……」
「どっちでもいいんだよ! 神でも悪魔でもどっちだっていいんだ。とにかく、僕はおまえたちに復讐することができる力を手にしたんだからな!」

 狂ってる……狂ってるわ、こいつ……。

 声を荒げてこっちを睨みつける神山の目はやたらとぎらついていて、完全に狂気が宿っているように思えた。

「それで……私も殺すつもりなの!?」
「そのつもりだったんだけどな、気が変わった。思ってたよりもずっといい女になってたからな、おまえは僕のために一生を捧げる奴隷にしてやるよ」
「そんなっ、嫌よっ!」
「わかってないな。おまえには拒否権なんかないんだよ、河合」
「いっ、いやっ! だっ、誰かっ……ひっ!?」

 大声を上げようとしたのに、言葉が続かない。
 それに、体がガチガチに固まったみたいになって逃げることもできない。

「わかったか? 頭の中を思い通りにできるってことは、おまえの体も行動も僕の思いのままなんだよ。とりあえず、おまえはもう大きな声を出すことはできないし、僕が許可しない限り身動きもできない」
「そんなっ! ……こんなことがっ!?」
「まだわからないのか? じゃあ、獣みたいに四つん這いになってこっちに来い」
「誰がそんなっ……ええっ!? いやぁっ……!?」

 自分ではそんなつもりはないのに、体が意志とは反対に動いて体を隠していた毛布をはだけると神山の方に這い寄っていく。
 そして、裸のままでまるで犬のように四つん這いになって神山を見上げる姿勢で止まった。

「やだっ……なんでこんなっ?」

 自分の体が勝手に動いてしまったことが、神山の言ったことが本当だと証明していた。

 くっ……こんな格好したくないのに……。
 本当に私はこいつの思いのままの?

 こんな惨めな格好をさせられている屈辱感と、得体の知れない能力を見せつけられた恐怖がこみ上げてくる。

「これでわかっただろ? 実際、この能力を使えば考える暇も与えずにおまえを僕の玩具にすることができるんだぜ。さっき、おまえが僕を自分の恋人だって思い込んだみたいにな。でも、これは復讐だからすぐに楽にしてやるつもりはない。おまえにはもう少し恐怖と屈辱を味わってもらわないと復讐にならないからな」

 私の顎に指をかけてこっちに近づけてきた神山の顔は、悪魔のようなゾッとする笑みを浮かべていた。

 人を思いのままに操る。
 そんな能力の効果を思い知らされた私は、自分の運命が完全に神山に握られていることを悟った。
 私の心は、目の前が真っ暗になる絶望と、自分がこれからされることに対する恐怖に支配されていく。
 現に神山は、私を実際に殺すことも社会的に殺すことも可能なのだ。
 神山の力で頭の中を弄られてその奴隷になってしまったら、人間としての私は死ぬのに等しいのだから。

「いや……やめて。お願い、あのときのことは謝る。お詫びでも弁償でもなんでもするからどうか許して……」

 もう、なりふり構っていられなかった。
 恐怖に駆られ、謝罪の言葉を並べ立てて命乞いをするしかなかった。

「ふざけるなよ。謝ったらおまえたちにいじめられ続けた高校生活がなかったことになるのか? 意識不明のまま無駄に過ぎていった5年間が戻ってくるのか?」

 さっきまでの興奮した口調とは違って、低く押し殺した声で神山が尋ねてくる。
 しかし、それがかえって恐ろしかった。

「ごめんなさい。本当にごめんなさい。このとおり、心から謝るからどうか許してください……」
「ふん、そこまで言うんならひとつだけチャンスをやろう」

 あくまでも冷たく狂気に満ちた視線でこちらを見つめながら、神山が静かに告げる。

「チャンスって、いったいなにをすればいいの?」
「これから、能力を使いながらおまえを犯す。そうだな……それに抗い続けて、僕が射精するまで耐えきったら奴隷にするのは勘弁してやるよ」
「そんな……」

 神山の提案に、私は言葉を失う。
 それは、またこいつに犯されることを意味している。
 いや、そんなことよりも相手は得体の知れない力を手に入れているというのに、果たしてそれに耐えることなんかできるのか……。

 しかし、たとえそれがどんなことでも私にはそれに縋るしかなかった。

「どうした? 嫌ならそれでもいいさ。すぐにおまえを奴隷にするだけだからな」
「やるっ! やるわっ! だから今言ったことを約束して。私が耐えたら奴隷にはしないって」
「ああ、約束してやるよ。おまえが耐えることができたらな」
「それで、私はどうしたらいいの?」
「別になにもしなくていいさ。僕がやりたいようにさせてもらうから、おまえはただそれに抗ってみせろ」
「どういうこと? ……えっ? えええっ!?」

 四つん這いになっていた体が起き上がって膝立ちになると、両手が神山のペニスに伸びた。

「やっ……こんなことっ!?」
「心配するな。これはまだ準備段階だ。おまえの体を動かしてはいるけど頭の中をどうこうしようっていうわけじゃない」

 困惑している私に、神山が低く静かな口調で告げる。
 しかし、そう言われてもとても安心できるはずがなかった。
 なにしろ自分の意志とは関係なく、手が勝手に動いて男のペニスを扱き始めたのだから。

 そして、私の手の中でたちまち神山のペニスは固さを取り戻していく。

「よし、そのくらいでいいだろう。それじゃ、体の向きを変えてこっちに腰を突き出して、”私のおまんこにご主人様の逞しいチンポを入れてください”と言うんだ」
「そんなこと……いやぁっ!?」

 私の体は、やっぱり神山の言ったとおりに動いてしまう。
 犬のような姿勢のままくるりと向きを変えると、神山に向かって尻を突き上げる。

「っ! ……私のおまんこにご主人様の逞しいチンポを入れてください」

 もちろん、私はそんなこと心にも思っていない。
 それなのに、神山が言ったのと同じ台詞を私は口にしていた。

「やだっ……私、こんなこと思ってもないのに!」
「この程度でごちゃごちゃ言うなよ。本番はこれからなんだから」

 そう言うと神山は私の腰を掴み、アソコの中にペニスをひと思いに突き入れてきた。

「ふぇええっ!? あふぅううううううっ!?」

 アソコの中に固くて大きなものが入ってきた瞬間に、目も眩むほどの快感が駆け抜けていく。

 そんな……こんな奴に無理矢理犯されているのに?
 どうしてこんなに気持ちがいいの!?

「ああ、おまえの体はさっき恋人と思って僕とセックスしたときと同じ快感を感じるようにしてある。まあ、特別サービスさ」
「そんなっ!? そんなサービス要らないっ……はうっ!? ひゃぅううううううっ!」

 抗議の途中でアソコの中を深く抉られ、強烈な快感に大きく喘いでしまう。
 こんな状況で犯されているのに、体はあっさりとそれを快感として受け止めていた。

「まあそう言わずに受け取っておけ。それよりも、そろそろ始めるぞ」
「始めるって、なにを? ……えっ? やあっ、なにこれぇええっ!?」

 ゾクリと悪寒のようなものが走ったかと思うと、なにか異様な感覚が頭の中に流れ込んできた。
 物理的な感覚じゃないのでこんな表現をするのは正しくないのかもしれないけど、ドロドロと粘着質なスライムみたいなものが頭の中に潜り込んでくるようなそんな感覚。
 そのネトッとしたものが触れると、本当なら絶対にあり得ないような考えや感情が私の中に生まれてしまうような錯覚に陥る。
 さっき神山のことを恋人だと思ってしまったときとは明らかに違う。
 なにか普通でない力が襲いかかってきているのをはっきりと感じる。

「ほら、抗いやすいようにわざわざ力を使ってるのがわかりやすくしてやってるんだから、せいぜい抗ってみせろよ」
「いや……こんなの……あ゛っ、う゛あっ、あ゛っ、あ゛あ゛っ……頭のっ、中にっ……あううっ!? はぅううううううんっ! やあっ! そんなに突かないでぇえええっ!」

 なんとか意識を集中してこのドロドロが頭の中に入ってくるのを堰き止めようとするけど、もちろん神山は私を犯すのを止めたわけじゃない。
 アソコの中をゴリゴリと抉られるたびに、駆け抜ける快感に頭がクラクラする。

「そんなぁ! こんなことされながら抗うなんてっ!」
「だからだよ。誰が簡単に逃がしてやるかよ。奴隷にされたくなかったらこの状況を耐え抜くんだな」
「そっ、そんな無茶なことっ!」
「だったら諦めて僕の奴隷になるか?」
「いやっ、それはいやぁああっ!」
「だったら耐えてみせろよ」
「そんなっ! あんっ! ふぁあああっ、アソコに響くのぉおおおっ!」

 ああっ! 気持ちいいっ!
 ご主人様のチンポでズポズポ突かれておまんこ気持ちいい!

 ……はっ!
 ダメよ! これにっ、頭の中に入り込んでくるものに流されたらダメッ!
 抵抗しないと……耐え抜かないと!

 精神的なもののはずなのに、圧倒的な質感のようなものすら伴った思念のスライムが頭の中に流れ込んでくるのを押し止めようと必死に歯を食いしばる。

「負けないっ! 私は抗ってみせる! 絶対に耐えてみせるんだからっ! ……ふあぁっ! だめぇっ! おまんこそんなにゴリゴリしたらだめぇええええええっ!」

 ……おまんこ?
 アソコだよね?
 いや、おまんこでいいんだよね?
 ……そっ、そんなことよりも抗わないと!

「ひゃううううううっ! だめっ、抗わないとっ! こんなに気持ちよくしてもらってるのにっ、抵抗しないとぉおおおっ!」

 ……なに言ってるの!?
 気持ちよくしてもらってるんじゃなくて、気持ちよくさせられているのよ!
 それが相手の狙いじゃないの!
 快感で思考を鈍らせて、抵抗する力を奪うつもりなのよ!
 私の頭の中に潜り込んできて、思考をねじ曲げているこれに抗わないといけないのにっ!

「はううっ!? んほぉおおおおおおおおっ!」

 おまんこの奥を固いチンポでゴツッと叩かれて、目の前で光が弾けた。

 私……ご主人様なんかにイカされちゃった……。
 違う! 違うわ!
 この男はご主人様じゃない!
 素晴らしいおチンポで私を気持ちよくしてくれてるんじゃないの!
 それも違う!
 この男は復讐のために私の牝奴隷まんこに躾をしてくれてるんじゃない!
 ダメダメダメ!
 どれもこれも違うのっ!

 絶頂で鈍った頭の隙間に、どんどんおかしな思考が流れ込んでくる。
 少しでも気を緩めたら、頭の中の無防備になったパーツを取り替えるように奴隷としての思考が私の思考になっていってしまう。

 それなのに、おまんこを犯す動きはさらに激しくなっていく。

「だめぇえええっ! イッてるのにっ! まだイッてるのにそんなに激しくしたらっ、またイクぅうううううううううっ!」

 ご主人様のおチンポに、またイカされてしまった。

 ……だからだめっ!
 この男をご主人様って思ったらダメよ!
 耐えないとっ!
 この快感と、頭の中に入ってくるものに抵抗しないと!

 でもっ……これ気持ちよすぎる……。
 私が気持ちよくなれるところばっかりズボズボ突いてくるなんてっ、なんて卑怯なご主人様なの!?
 ひっ!? だからダメよ!
 抗わないとっ!

「あひぃいいいいいいっ! イクイクッ! またイッちゃぅううううううっ!」

 気持ちよすぎて、何度もイッちゃう!
 なんて偉大なおチンポなの!?
 私を支配して奴隷にしようとしてるご主人様のくせにっ!

 ……いやっ! どうして!?
 どうしてっ、この男のことをご主人様だって!?
 こんな偉大で素晴らしいご主人様に抗わないと!
 違う……のに……だめ、止まらない……。

 立て続けにイカされて思考が鈍った頭の中が、だんだん流れ込んでくるドロドロしたうねりに飲み込まれていく。
 それに抗う力が、どんどん薄れていく。
 それなのに、ご主人様のチンポは容赦なくおまんこを突いてくる。

「ダメ……耐えないと……。抗わないといけないのに……負けてしまうと奴隷にされてしまうのに……ふぁああああっ! またイクぅうううううっ!」

 もう何度イッたのかもわからない連続絶頂の果てに、頭の中が白くなっていく……。
 考える力も、抵抗する力ももうほとんど残っていない。
 このままじゃ私……。

 体は快感に、頭の中は入り込んでくる思考に飲まれていく。

 そして……。

「んほぉおおおおおおおおおおっ! らめえぇっ! イクイクイクッ! まらイッちゃぅううううううううっ!」

 ひときわ大きな絶頂の後に私の頭の中は真っ白になって、なにも考えられなくなる。
 もう、流れ込んでくるスライム状の波を堰き止める精神力も、それに支配されることに抗う意志もすっかり消え失せてしまっていた。

 私の自意識が、思考が、感情が、頭の中の全てがそのドロドロで塗りつぶされ、書き換えられていく。
 もう、自分が自分でなくなっていくのを止めることができない。

「ふぉおおおおおおっ! ご主人様のおチンポで突かれて、私の奴隷牝まんこイキまくってるのぉおおおおおっ!」

 はっきりと声に出すと快感がいっそう跳ね上がり、さっきまでは感じることのなかった幸福感で満たされていく。
 私、なんであんなに抗ってたのかしら……?
 ご主人様に抗えるわけないのに。
 こんな偉大な力とおチンポを持ったご主人様に、私ごときが敵うはずないのに。
 なんてバカなことをしてたんだろう?
 さっさとご主人様の奴隷になってしまったら、こんなに気持ちよくてもらって、こんなに幸せになれるっていうのに。

「ふふん。やっぱり耐えることができなかったな?」
「はひぃいい、耐えられませんひぇしひゃああ……。そんなことできるわけないのに、ご主人様に抗ってみせるなんて身の程知らずなことを言って申しわけありませんひぇしたぁああっ! どうか、このバカな奴隷をご主人様のおチンポで躾けてくださいまひぇええええっ!」
「じゃあ、おまえがなんで奴隷にされなきゃいけないのか、ちゃんとわかってるんだろうな?」
「はひっ、はひぃいいっ! 高校生のときに、わらひがご主人様に対して行った愚かな行為のせいでひゅうううっ! ご主人様に対する数々の罪の償いとして、わらひの人生の全てを奴隷としてご主人様に捧げますぅううううううっ!」

 何度もイッて舌がうまく動いてくれないけど、私はご主人様に向かって一生の忠誠を誓う。
 だってそれは当然のことだから。
 かつて自分が犯した罪を償う方法はそれ以外にないのだから。

「その言葉に嘘はないな?」
「はひぃっ! もちろんれすぅ! わらひは、一生ご主人ひゃまの忠実な牝奴隷れすうううっ!」
「よし。じゃあその証としておまえの中にたっぷりと精液を注いでやる」
「はひっ、くらさい! ご主人ひゃまのザーメンで、わらひのおまんこに奴隷の刻印をしてくださいまひぇえええええっ!」

 従属の言葉を並べながら、ご主人様に射精をねだる。
 熱いザーメンを膣内に出してもらえたら、心も体も本当にご主人様の奴隷になれる気がした。

 そして、その瞬間がきた。

「さあ、お望み通りたっぷりと出してやる!」
「はひっ! くらしゃいっ! わらしのなかっ、いっぱいにしてくらひゃい! ……ひゃああああっ! きたぁああああああああああああああっ!」

 お腹の中に熱いザーメンが叩き付けられて、私はその日最後の絶頂に達した。
 子宮が溢れるほどにご主人様の精液で満たされていく。

「ふぁあああああ……でてりゅうううぅ……ご主人ひゃまの熱い精液で、いっぱいになってりゅううう……」

 白くて熱いドロドロが、私の身も心も淫らに染め上げていく。
 体の力が抜けて、そのままベッドの上に崩れ落ちる。

 その上にのしかかるようにして、ご主人様が耳元で囁いた。

「いいか葉月? 次に目が覚めたら、おまえは僕のことが思い出せなくなってるぞ」
「ふええ? ご主人……ひゃま?」

 一瞬、ご主人様の言葉の意味がわからなかったのは私の頭が快感に蕩けていたからだけじゃない。
 そんなことを言うなんて思ってもなかったからだ。

「次に僕と会うまで、おまえは僕のことを思い出せない。今日僕にされたことも、もちろん僕の奴隷になったことも忘れさせてやる」
「なんで……ですか?」

 ようやくご主人様の言ってることを理解して、胸がざわついてくる。

 ありえない。
 ご主人様のことを忘れるなんてありえないのに。

「とにかく、次に目が覚めたらおまえは僕のことを忘れてるんだ。明日目が覚めたときに奇妙に感じることもあるだろうが、気にせず昨日までと同じように毎日を過ごすんだ」
「そんな……」
「じゃあ、眠れ、葉月」
「あ……」

 ご主人様の声と同時に気を失った私の意識は、そのまま真っ暗な闇へと落ちていった。

* * *

「ん……あれ?」

 朝、目が覚めた私は自分が裸に毛布を掛けただけで眠っていたことに気づく。

「どうして裸で寝ちゃってたんだろう?」

 不思議に思って考えても、なぜか昨日の晩自分がなにをしていたのか思い出せない。

「まあ、いいか。……うん? これはなにかしら?」

 ベッドから起き出た私は、テーブルの上に見慣れない箱があるのに気がついた。

「昨日まではなかったよね? ……えっ? これは?」

 何気なく箱を開けると、出てきたのは写真立てに入った一枚の写真。

 高校の卒業式のときに、仲のよかったみんなと一緒に撮った写真だ。
 エリカにアヤネにサチコ、それに、ユウトにタクヤ、マサタカ、ダイキ、コウヘイ……。
 高校を出てからの進路はみんなバラバラだったけど、大学生の頃はそれでもたまに集まって遊んでた。
 でも、就職してからはなかなか時間がとれなくて、最近はあまり会ってない
 ……みんな元気でいるのかな?

 写真の中で笑っている、制服姿の私たちを見て懐かしさがこみ上げてくる。

 でも、どうしてこの写真がここに?
 これは、実家の私の部屋に置いてあるはずなのに?

 いくら考えても、この写真がここにある理由が思い出せない。
 自分で持ってきた記憶がないんだけどな。

「あっ、いけない! 急がないと遅刻しちゃうよ!」

 時計を見た私は、慌てて会社に行く支度をする。

 そのまま仕事に行って、その朝のことはすぐに気にならなくなった。
 そして、いつもと変わらない生活が3日ほど続いて

「ふうー、今日も疲れたぁ……」

 仕事から帰って、いつものようにバッグを放り出した。

 今週はなんでだかすごく疲れが溜まってる気がするな……。
 でも、明日は土曜だしゆっくり休もう。

 そんなことを考えながらスーツを脱いで部屋着に着替える。
 と、そのときオートロックのインターホンが鳴る音がした。

「……あれ? 誰だろ? ……はい、どなたですか?」
「ヤッホー、葉月! 久しぶり! あたしだよー!」
「やだっ、エリカ!? どうしたのよいきなり?」
「うん、ちょっとこの近くまで来たから葉月の顔でも見ていこうかなーって思って。邪魔だった?」
「ううん、そんなことないよ。早く上がって」
「えへへ、よかった」

 ロックを解除してから、ふとテーブルに置きっ放しの写真立てを手に取る。

 不思議なことってあるものね。
 実家にあるはずのこの写真がここにきたと思ったら、その週末にエリカが訪ねてくるなんて。
 もしかして、昔のことを思い出して懐かしんでた私の思いが通じたのかしら?

 少しの間そんな感傷に浸っていたら、玄関のベルが鳴った。

「はいはい~! もう、エリカったらいきなり来るんだから驚いちゃっ……えっ?」

 ドアを開けると、そこにいたのは笑顔で手を振ってるエリカとその後ろに立つ痩せた男。
 その顔を見た瞬間にその男、神山のことを思い出した。

「どうしたの、葉月?」
「なんでっ!? なんでそいつと一緒にいるのよ!?」

 どうしてそのことを忘れていたの?
 私はついこの間、この男に犯されたというのに……。
 そこでまた思い出した。
 たしか、神山がおかしな力を身につけていたことを。
 その力であのときのことを忘れさせてたんだわ!
 危険よ! この男は危険すぎる!

 自分が危機的状況に置かれていることを悟って、思わず身構える。
 それなのに、エリカは全く緊張感のない笑みを浮かべていた。

「なんでって、あたしたちはアツヒロ様の奴隷なんだから一緒にいても不思議はないでしょ?」

 なに言ってるの?
 ”あたしたち”って、他に誰かいるの?
 それとも……まさか私のこと?
 そんなバカな!

「アツヒロ様だなんて、なに言ってるのよ!?」
「えー? ご主人様のことをアツヒロ様って呼んでなにがおかしいの?」
「エリカ……!?」

 こいつのせいだわ!
 神山の力で、エリカがおかしくなってる。
 なんとかして正気に戻させないと!

「正気に戻って、エリカ! こいつはおかしな力を使うのよ。そのせいであなたは自分がこいつの奴隷だって思わされてるのよ!」

 私が必死に呼びかけても、エリカはニヤニヤと笑っている。
 そればかりか、神山の方に振り向いて親しげに話しかけた。

「おっかし~! 本当にアツヒロ様の言ったとおりだ。葉月ったらアツヒロ様のことは思い出したのに、自分がアツヒロ様の奴隷だってことは思い出してないみたいですね」
「まあ、今はそういう風にさせてるからな」

 なにを言ってるの!?
 私がこいつの奴隷なわけがないじゃない!
 おかしいのはエリカの方なのよ!

「お願い、目を覚まして、エリカ!」
「あたしは正気だよ、葉月。まあ正気でもおかしくても、もうどっちでもいいんだけどね。どのみち、あたしはアツヒロ様の奴隷なんだから」
「エリカ!」
「いつまでも玄関で立ち話もなんだからそろそろ上がらせてもらうね」
「ちょっ! ……やっ、えええっ!?」

 部屋の中に上がり込んでくるエリカと神山を遮ることすらできなかった。
 そればかりか、体が勝手にふらふらと後ずさって愛用のクッションの上に尻餅をついた。

 ……これは?
 そうだわ、きっと神山が力を使ったのよ。
 このままじゃ、私も……。

「私をいったいどうするつもりなのよ!?」
「葉月はなにもしなくていいのよ」
「……どういうこと!?」
「葉月はそこに座って、あたしがアツヒロ様にご奉仕するのを見てたらいいの」
「ちょっ、エリカ!?」

 私の見ている前で、エリカが服を脱いでいく。
 立ち上がってそれを止めようと思ったのに、体がピクリとも動かない。
 これも、きっと神山の力のせいだ。

「それじゃ、あたしのご奉仕でアツヒロ様のおチンポを気持ちよくしてあげますねー」

 膝立ちになったエリカが今度は神山のズボンを脱がせると、露わになったペニスをはむっと口に咥えた。

「……エリカッ!」
「んー、はふ、んむっ、れるっ……ん、アツヒロ様のおチンポ、大きくなってきた。……ちゅむっ、ぺろろっ……んふっ、やっぱり、勃起チンポおいしっ……」

 エリカは目尻を緩めていやらしい、そう、下品なくらいにいやらしい笑顔を浮かべて神山のペニスにしゃぶりついている。
 その姿を見ていると、否が応でもこの間のことを思い出さずにはいられない。
 あのとき私も、神山の力で恋人だと思い込まされてあのペニスにしゃぶりついていた。
 そんなの、思い出すだけでもおぞましいのに。
 ……それなのに、どうしてこんなに体の奥が熱く疼いてくるの?

 それに、あのとき私はどうやって神山から逃れることができたんだろう?
 恋人だと思わされて犯された後に、どうやって……?
 頭の中に靄がかかったみたいに、あの後のことが思い出せない。

 そうやって私が戸惑いを覚えている間も、エリカは神山のペニスを咥え込んで熱心にしゃぶっていた。

「ちゅぷっ、あふっ……うふふっ! アツヒロ様のおチンポ、こんなに大きくなりましたよ」

 ヌポッと音を立ててペニスを口から離すと、エリカは私の方にちらっと視線を向けてニヤリと笑みを浮かべた。
 そして、これ見よがしに両手で乳房を抱え込むと神山のペニスを挟み込んだ。

「では、今度はあたしのおっぱいでおチンポにご奉仕しますね!」

 そう言うと、エリカは両手を使って乳房でペニスを扱きはじめる。

「んっ、あんっ……どうですか、アツヒロ様ぁ? 気持ちいいですかぁ? これ、あたしも気持ちよくてっ、おっぱい感じちゃうっ……あんっ、おチンポから透明なヌルヌルが出てきたぁ……ちゅっ、れろっ……」

 なんていやらしいの、エリカ……いやらしすぎるわよ。

 手だけじゃなくて腰の上下運動も使ってペニスを扱き、乳房の隙間から顔を出したペニスの先端にキスするように口をつけるエリカの姿は卑猥そのものだった。

 なのに……どうしてそんな姿を見ていると体が熱くなってくるの?
 それに、エリカったらなんて大きなおっぱいなの?
 高校生の頃から胸の大きさで私がエリカにコンプレックスを持ってたのを知ってて、わざと見せつけてるんだわ。
 ……違う違う!
 私、羨ましいだなんて思ってないわよ!
 そんなこと思うはずがないじゃない!

「うふふっ! アツヒロ様のおチンポがピクピクしてる。……どうぞ、あたしの口でも顔でもおっぱいでもアツヒロ様のお好きなところにザーメン出しちゃってくださいね。……んちゅっ、あむっ」

 どうして?
 なんでこんなのを見せつけられてるのにこんな気持ちになってるの?

 胸を使っていやらしくペニスを扱いているエリカを見ていると、体が火照ってきてアソコの奥の疼きがだんだん大きくなってくる。

「れろっ、はむ、ちゅっ……ん、もう出そうなんですね? はぁっ、はぁっ、くださいっ……アツヒロ様の精液、あたしにいっぱいください! ……ぁんっ、ふぁああああああんっ!」

 ペニスから迸った白くドロッとした液体がエリカの顔を直撃する。
 エリカはそれを嫌がるどころか、むしろ喜んでいた。

「はあああぁ……こんなにいっぱい……ぺろっ……ん、おいしっ……」

 うっとりとした表情で神山を見上げながら、エリカは顔に付いた精液を舌ですくい取る。
 そのいやらしい姿に体の疼きが頂点に達した私は、無意識のうちに自分のアソコに手を伸ばしていた。

 ……んんっ!?
 やだっ、こんなに……!?

 ショーツの上から軽く触れただけで、ビリビリと心地よい痺れが走る。
 だけど、この程度では物足りない。
 こんな刺激ではかえって体が熱くなる一方だ。
 だから、ショーツの中に手を潜り込ませると直に弄る。

「……はんんんっ!」

 やっぱり、いつもよりもすごく感じる。
 でも、もっともっと欲しくなってくる。

 アソコに指を潜り込ませてオナニーを始めた私の視線の先では、顔に付いた精液を舐め終えたエリカが再び目の前のペニスに舌を伸ばしていた。

「あふ、ぺろ……おチンポ、きれいにさせていただきますね。……ん、はむっ……アツヒロ様のおチンポまだこんなに元気……それに、熱くてトクントクンってしてて……ふふふっ、まだまだいっぱいできますね、アツヒロ様……」

 ペニスを一通り舐め終えると、エリカはベッドに上がって自分から大きく足を開いてみせる。

「今度はあたしのおまんこで気持ちよくなってください、アツヒロ様……」
「ああ、いいだろう」

 神山がひと言頷いてエリカの足を抱え込むと、アソコの入り口にペニスを当てる。

 ああ、あれがアソコに入ってきたら……。

 その瞬間に、私はまたあのときのことを思い出していた。
 あのときは、神山の怪しげな能力で恋人同士と思わされていただけなのに。
 本当は思い出したくもない忌むべき記憶なのに。
 それなのに、あのときの快感を私の体は覚えてしまっていた。
 その快感を、エリカは得ようとしている。

「んっ……はぁああああああんっ! アツヒロ様のおチンポッ、おまんこにはいってきたぁああああんっ!」

 アソコの中にペニスがめり込んでいった瞬間、恍惚とした表情を浮かべたエリカの顎が跳ね上がる。
 そして、どちらからともなく腰を動かし始める。
 互いの性器と性器をぶつけ合うように。

「あっはぁあああんっ! アツヒロ様のおちんぽいいですぅうううっ! はんっ、あぁんっ、中でいっぱいに擦れてっ、気持ちいいっ!」
「ああ、エリカ……んっ、はぁんっ、あんっ……!」

 ふたりのつながった部分を打ちつけ合う音が響き、エリカが甘い喘ぎ声をあげる。

 私はあの快感を知っている……。
 そう、こんなものじゃなかった。
 もっと……もっとずっと気持ちよかった。

「あんっ……こんなのじゃ全然足りないのっ! もっと、もっとぉっ!」

 貪るようなセックスを見つめながら、私は自分の指をアソコに激しく出し入れさせていた。

「あはぁああんっ! アツヒロ様のチンポ気持ちいいんっ……もっと、もっと激しくしてくださいぃいいっ! はんっ、ああっ、ああっ、そこぉおおおっ!」
「はぁんっ……私も、もっと! まだまだたりないわっ……もっと、もっとよっ……ぁんっ、あふぅうううんっ!」

 より大きな快感を得ようと、指をアソコの奥深く差し込んで掻き出すように刺激する。
 目の前で繰り広げられている無茶苦茶に性器同士をぶつける動きに合わせて、私も指の動きを速くしていく。

「あんっ、すごいのぉおおおっ! アツヒロ様のおチンポ、おまんこの奥まで届いてっ、子宮にキスしてるのぉおおおっ! あんっ、はんっ、ふぁあああっ!」
「ふぁああああっ、そっ、そんな奥までっ!? あんっ、すごいっ、あんっ、あふぅうううっ!」

 エリカの淫らな言葉を聞きつつ、あのとき神山に犯されたときのことを思い出しながら自慰を続けた。
 そうするとただオナニーをしているよりも興奮して、快感も大きくなるような気がする。

 エリカが神山と獣のようなセックスをしているのを見つめながら、神山とセックスしているつもりの倒錯的なオナニー。
 自分でもそんなことをしたらダメなのはわかっていても止めることができない。
 そこに、エリカの喘ぎ声が私の興奮をさらに掻き立てていく。

「ふぁあああああんっ! 奥にゴツゴツ当たってぇっ……おチンポが子宮口を叩いてるのぉっ! ふぁああああっ! イクうっ! そんなにいっぱい突かれたらっ、あたしもうイッちゃぅううううっ!」
「はぅうううううっ! 私もっ、私もイキそうっ! あんっ、はぁああああんっ!」
「あふぅううううっ! あんっ、おチンポがビクビクッて! ふああっ、くださいっ! アツヒロ様の精液っ、奥にたっぷりと出してくださぃいいいいっ!」
「ああ、望み通り出してやる!」
「はぃいいいいいいいっ! きてぇえええっ! アツヒロ様のザーメンでいっぱいイキたいのっ! だからっ、あたしのおまんこに存分にぶちまけてくださいいいっ!」
「私もっ、私も欲しいぃいいいっ! あふぅんっ、きてっ、きてぇえええっ!」

 もう、私は自分がなにを口走っているのかもわからなくなって、ただただ自分で自分のアソコをグチュグチュに掻き回していた。
 視線だけはふたりのセックスに釘付けになりながら。

 そして、私の見ている前で神山がエリカの体を抱え込んでペニスをアソコに深く突き刺した。
 それと同時に、エリカの体が海老のように反り返る。

「ふああっ! きてるっ、熱いのいっぱいきてるぅううううっ! アツヒロ様の特熱ザーメンでっ、イッくぅうううううううう!」
「私もっ、私もイクぅううううううっ………………えっ?」

 背筋をのけ反らせたまま、エリカの体が絶頂にヒクヒク震える。
 だけど、私は違った。
 絶頂に達したときの、全身が雷に打たれたような甘い痺れも、弾けるような快感もない。
 それどころか、さっきまでの快感のうねりが行き場をなくしたようにお腹の奥に籠もってしまったみたいにアソコは疼いたまま。
 むしろ、さっきよりも疼きが酷くなっているようにすら思える。
 それに、火照った体も治まらない。
 熱が発散されずに、モヤモヤした形で蓄積されていくみたいに。

「どうしてっ? ……はんっ、んっ、はぁああんっ! どうしてなのっ? イキそうなのにっ……はんっ、はぁああんっ、あんっ……こんなに激しくしてるのにっ、イケないぃいいいっ!」

 ムキになってアソコに指を出し入れする。
 それなのに、あと一息というところまでいっても、どうしてもイケない。

「どうしてっ? どうしてよっ? んっ、はんっ、はぁああああんっ……!」
「もうー、葉月ったらすっごいエッチだね。そんなに激しくオナニーしちゃってさ」
「……エリカ?」

 気がつくと、すぐ目の前にエリカが立っていた。
 体をほんのりと赤く染めて、アソコからドロリとした精液がふとももを伝って零れ落ちている、いやらしい姿で。

「どう? 葉月はイケたの? ……イケてないよね?」

 エリカはしゃがみ込んで顔を近づけてくると、私の体になにが起こっているのかわかっているとでもいうような思わせぶりな笑みを浮かべる。

「だって、オナニーなんかでイケるはずないもの」
「……どういうこと?」
「あたしたちはもう、アツヒロ様じゃないとイケない体にされているの。それがアツヒロ様の奴隷になった証。だから他の男はもちろん、指だろうがバイブだろうがそんなものであたしたちはもうイケないの。あたしたちをイカせてくれるのはアツヒロ様だけなんだから」
「うそ……」

 だって、そんなはずない。
 私は神山の奴隷になった覚えはない。

「そう? 信じられない? じゃあ、今度はあたしがしてあげようか?」
「……えっ? ……んっ!? はんむむむっ!?」

 エリカの唇がゆっくりと近づいてきて私の口を塞ぐ。
 そのまま舌をねじ込んできて私の舌に絡ませてくる。

「んふふ……ん、んむ、れる、はふ……」
「んんんんっ!? んむっ……んふっ!? んむぅううっ!?」

 頭の中を掻き回すような濃密なキスをしながら、エリカは私の服を脱がせだした。

「んんんっ! んふぅうううううんっ!」

 やだっ! なにっ、今のは!?
 服を脱がされるときに乳首がちょっと擦れただけなのにビリビリってきて……。

「ん……うふふっ! 葉月ったら、こんなに乳首がビンビンになっちゃって。これだけ固くなってるとだいぶ敏感になってるでしょ? ……はむっ」
「あふぅううううううんっ! やぁっ、エリカッ、それだめぇ! イッちゃっ、イッちゃうっ!」

 私から唇を離したエリカが、意地の悪い笑みを浮かべて乳首を甘噛みしてくる。
 それで、頭のてっぺんまでズキンと響くくらいの快感が走った。
 それなのに、やっぱりイケない。

「んんん……そんな、どうして……?」
「だから言ったでしょ。アツヒロ様じゃないとあたしたちをイカせることはできないって。……ふふっ、葉月ったらショーツがこんなにぐしょぐしょじゃないの」
「ふぁあああああっ! そこはだめぇええええっ!」

 寝間着にしているカプリパンツの中にエリカの手が忍び込んできて、アソコの割れ目をなぞった。
 ショーツの上から触っただけなのに、指先の感触がはっきりわかるくらいに敏感になってる。
 体が勝手に跳ねるくらいにビリビリしてすぐにもイッてしまいそうなくらいなのに、それでもイケない。
 どれだけ快感を感じても、それが溜まっていくばかりで全然発散されない。
 むしろ体がどんどん敏感になって疼いて疼いて全身が痺れているみたいになってるし、高熱でもあるみたいに熱くなっている。

 イケないのって、こんなに苦しいことなの?
 これじゃ熱と疼きが内に籠もっていくばかりじゃない……。
 
 絶頂することが、快感が限界を超えて弾けることだっていうのが身をもってわかる。
 そして、限界を超えてもイクことができずに快感が蓄積され続けるのがどれだけ辛いかを思い知らされていた。

 それなのに、エリカの手はショーツの布を捲ってその中に入り込んできて……。

「あふっ! だめっ、直に指入れたらだめぇっ! ふぁああああっ! イクッ、イッちゃううううっ!」
「もう、何度言ったらわかるの? あたしの指じゃ葉月は絶対にイケないの。たとえどんなに気持ちよくなってもね」
「そっ、そんなっ……あふぅううううううううっ! そんなに激しくしちゃっ!イクイクイクッ!」
「だからイケないわよ。もう、葉月ったらこんなにあたしの指をきゅって締めつけて……。アソコが指をおチンポと勘違いしてるのね。……うふふ! そんなに体をヒクヒクさせて、かわいい」

 耳許でエリカの楽しそうな声が聞こえるけど、私はもうそれどころじゃなかった。
 エリカの指がグチュグチュと激しく出入りするたびに感じまくって全身が痙攣を起こしているのに、それでもイクことができない。
 神経が焼き切れそうなくらいに頭の中が熱くなって、視界が真っ赤に染まっていっているような錯覚に陥っていた。

「もうだめえええっ! お願いイカせて! このままじゃ私おかしくなっちゃう! 壊れちゃうから! だからお願い、私をいかせてぇえええええええっ!」

 この、膨れあがり続ける快感をなんとかしないと、自分がどうかなってしまいそうだった。
 この苦しみから早く解放されたい。
 とにかくイキたい。

 そのことしか考えられなくなった私は、エリカにしがみついて必死に哀願していた。

 すると、アソコを刺激していた指の動きが止まった。

「そう? だったらイカせてくれる人にお願いしないとダメよ」
「……ふえぇ?」

 私の視界を塞ぐように抱いていたエリカが体を脇に退ける。
 すると、飛び込んできたのはベッドの上に座ってこっちを見つめる神山の姿だった。
 視線を少し下に降ろすと、さっきエリカとセックスをしていたときのままで剥き出しになったペニスが大きくそそり立っていた。

「あ、あああ……」

 その屹立を見た瞬間に、心臓がドクンと高鳴ったように思えた。

「ほら、葉月をイカせてくれるのはあのおチンポだけなのよ」
「あれが……」
「イキたいんでしょ?」
「……うん」
「だったら、どうしたらいいかわかるわよね?」

 エリカの囁きに突き動かされるように私は立ち上がると、パンツとショーツを脱いでいく。
 もう、神山が憎むべき相手だとかおぞましいやつだとか、そんなことはどうでもよかった。
 ただただ、この行き場をなくした疼きと熱をどうにかして欲しかった。

「お願いです、どうか……どうか私をイカせてください」

 ベッドのすぐ脇まで進み出ると、神山に向かって頼む。

「もっと具体的に言わないとわからないな。なにをどうして欲しいんだ?」

 私の必死さを知ってか知らずか、神山がにやつきながらそう尋ねてきた。
 この期に及んで私を焦らそうとでもいうように。

「お願いします、あなたのペニスで私のお、おまんこをズボズボして、イカせてください」

 私が正気だったら、そんな屈辱的な言葉はきっと口にしなかっただろう。
 でも、私はもう恥も外聞もなく頼み込むしかなかった。

「ふん……まあいいだろう。じゃあ、僕はここで迎えてやるからおまえの方からこいつを入れてみせるんだな」

 相変わらずニヤニヤした笑みを浮かべたまま、神山が言った。
 それに対して、私の取り得る選択肢はひとつしかなかった。
 ただただ、神山に言われたとおりにすることだけ。

「はい、わかりました」

 ベッドに上がると神山の前に立ち、いったんその肩に手を置く。
 その体勢からゆっくりと腰を降ろし、片手でペニスを握ってアソコに宛がう。
 そして、そのまま一気に腰を沈めてアソコにペニスを受け入れた。

「くぅうううううっ!んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 奥までペニスを受け入れて、私は今まで感じたことがないほどの大きな絶頂に達していた。
 待ち望んでいた、目も眩むほどの絶頂のうねりに身も心も飲み込まれていく。

 そして、次の瞬間に全てを思い出した。
 自分が、すでにご主人様の奴隷だったことに。

「んふううううっ! しゅごぃいいいいいいいっ! ご主人様のおチンポでいっぱいになって、おまんこいいのぉおおおおおおっ!」

 ご主人様にしがみついたまま腰をくねらせてまたイッてしまう。

 これよ、私が待ち望んでいたのはこの、ご主人様の逞しいおチンポ。
 私はご主人様に人生の全てを捧げた奴隷なんだから。
 どうしてこんな大事なことを忘れていたのかしら?
 ……あっ、そういえばご主人様が。

「……ご主人様、どうして私が奴隷になったことを忘れさせたんですかぁ?」
「ふん、おまえたちにはもっと罰を与えなきゃいけないからな。高校の頃に僕が味わった苦しみを思えば、こうやって少しくらい怖い思いや苦しい思いをするのはなんでもないだろうが?」
「そんなぁ……ヒドいです」
「酷くないと罰にならないだろうが」
「それは……そうですけどぉ……」

 そう言われたら私はなにも言えなくなる。
 私たちは、自分がかつてこの方に対して犯した罪を償うためにご主人様の奴隷にされたんだから。

「でもぉ……私はもうご主人様の奴隷なんですからぁ。このおまんこもおっぱいも……そう、身も心も全部ご主人様のものなんですからぁ……」
「そんなことはわかってる。そのうえで、たまにおまえたちの嫌がることをしないと僕の溜飲が下がらないからな」
「そんなぁ……ご主人様の命令だったらどんなことでもしますよぉ。だいいち、ご主人様が力を使ったらなんでも喜んでさせることができるじゃないですか」
「だからそれじゃ罰にならないだろ。嫌がることをさせるからいいんじゃないか」
「ううぅ、ご主人様、イジワルです……」
「当たり前だ。意地悪するために嫌なことをさせるんだから。でも、とりあえず今日はおまえの体で僕を気持ちよくさせてみろ」
「はいっ、喜んでっ! それなら全然嫌じゃないです! 私の体はそのためにあるんですから! それでは、私の奴隷まんこでご奉仕させていただきますね。……んふぅっ! やぁっ、もうイッちゃぅうううううううううっ!」

 ご主人様の命令に応えてグルンと捻りを入れるように腰を揺すると、おチンポでおまんこをグリッと抉られてまた絶頂してしまった。

「なんだ、またイッたのか? 自分ばっかり気持ちよくなって、葉月はどうしようもない奴隷だな」
「そっ、それはぁっ、ご主人様とエリカがイケない状態で私を焦らしたからっ、簡単にイッてしまうんですぅううっ! でっ、でも問題ないですっ、イキながらでもご奉仕できますから! こっ、こうやって絶頂まんこでズボズボしてっ、おチンポ気持ちよくできますからぁああああっ! あんっ、んほぉおおおおおおっ、おチンポいいぃいいいいいんっ!」

 ご主人様にしっかりと抱きついて腰を揺するたびに目の前が白く弾けてイッてしまう。
 それでも、私は腰を動かすのを止めることはなかった。

「もう、葉月ったらなにあたしのせいにしてるのよ~。……はむっ」
「エッ、エリカ!? んっ、はうぅうううううううううんっ!」

 いつの間にか私の後ろにいたエリカが、耳を甘噛みしてくる。

「やだ、またイッちゃったの?」
「うっ、うんっ! 体中、敏感になっててっ……それに、ご主人様のおチンポ気持ちよくてっ、すぐイッちゃう! はんっ、んふぅうううううううっ!」
「うふふ! これで葉月も立派なアツヒロ様の奴隷だね。あたしと一緒」
「うんっ、一緒! 私、ご主人様のおまんこ奴隷なのっ! おほぉっ! ああっ、ご主人様ぁあああああああっ!」

 ご主人様とエリカに挟まれるように抱かれて腰をくねらせながら、私は何度も何度もイキ続ける。
 そしてその日、私はご主人様……アツヒロ様の本当の奴隷になれたのだった。

* * *

 2週間後、土曜日。

「はーい、どちら様ですか?」
「すみません、お荷物をお届けに上がりました」
「あ、どうぞー」

 インターホン越しの男性の声にそう答えて、オートロックを解除する。

 宅配の人が上がってくるのを待つ間、ずっと心臓はドキドキ鳴りっぱなしだった。
 それに、顔が熱くなってくるのを感じる。

 そして、玄関のベルが鳴った。

「はーい!」

 玄関のドアを開けると、荷物を持ってきた制服姿のまだ若い男が私を見てぎょっとしたように目を剥いた。

 それもそのはずで、私の格好は乳首と股間の割れ目がかろうじて隠れてるだけの赤いマイクロビキニだったのだから。

 このマイクロビキニは、3日前の夜にアツヒロ様が来たときに持ってきたものだ。
 そしてその晩、アツヒロ様はネット通販でいくつか注文をして、業者が届けに来たらこの格好で受け取るようにって命令された。
 玄関にはカメラがセットされていてこの状況を撮影している。
 録画された映像は、アツヒロ様が来たときに見せなければいけないことになっていた。

 アツヒロ様が相手だったらこんないやらしい格好でも喜んでするけど、アツヒロ様以外の男の前だと恥ずかしさしかない。

「あ、あの……ど、どうかしましたか?」

 驚いた顔でポカンと口を開けている相手に、努めて平静を装いながら声を掛ける。
 だけど、どうしても恥ずかしさで声がうわずってしまう。

「……あっ、いえっ、こっ、ここにサインをお願いします」
「あ、はい」

 業者さんが顔を真っ赤にして差し出してきた伝票にサインする。
 きっと、私の顔も同じくらいに赤くなってるって自信があった。

「そそそそっ、それでは、こっ、これをっ!」
「あ、ありがとうございます」
「でででっ、ではっ、失礼します!」

 私に荷物を手渡すと、そのまま逃げるように相手は帰っていった。

 ふう、初心な相手でよかった……。

 ドアを閉めて、私はホッと息を吐く。

「もう、本当にアツヒロ様ったらイジワルなんだから」

 これは、罰の名の下にアツヒロ様がやっているお遊びの一環だった。
 こうやって、私たちに恥ずかしい思いをさせて、しかもその様子を録画して後で観賞するというもの。

「今日はあと2回荷物が届くのよね。憂鬱だわ……」

 この間アツヒロ様が注文したのは3つ。
 それも、別々の会社に。
 だから、あと2つ荷物が届く予定になっている。
 当然、この格好で対応するのは同じ。
 もし、相手が欲情して襲ってきても抵抗するなってアツヒロ様に命令されている。

 アツヒロ様以外の男のチンポを入れるなんて絶対に嫌だけど、命令なら従うしかない。

「それに、嫌なうえにイケないんじゃ全然いいことないわよ。アツヒロ様ったら本当に意地が悪いわ……」

 届けられた荷物を開くと、ゴツゴツのいっぱい付いたバイブレーターが出てきた。
 それを、ポイッと放り投げる。

 私はアツヒロ様の奴隷だから、この体はアツヒロ様以外ではイクことができない。
 だからこんな玩具や他の男のチンポなんか入れても辛いだけなのに。
 それがわかっていてこんなことをさせるんだから、本当にヒドいご主人様だ。
 でも、私たちはそれを甘んじて受け入れなくちゃいけない。
 それが私たちの犯した罪の償いだし、なによりもう私はアツヒロ様なしでは生きていけない。
 私の体も心も、完全にアツヒロ様のものなんだから。

「ああもう……体が疼いてしかたないわ……」

 あの日、完全にアツヒロ様の奴隷になった後に新たに付け加えられた罰がもうひとつ。
 それは、常に発情しているというもの。
 たとえ仕事に行っているときでも眠っているときでも、熱く火照って、鈍く疼く体にさせられてしまった。
 この疼きをいくら持て余しても、自分で発散することはできない。
 私のこの体はアツヒロ様以外ではイケないのだから。
 いくら体が疼くからってさっきのバイブなんて使おうものなら、昂ぶるばかりでイケない苦しみを味わうことになるのは目に見えている。

「アツヒロ様は何時頃来るのかな……?」

 アツヒロ様は週に2、3度しか来てくれないけど、今夜はこの罰の録画映像を見るためにきっと来るはずだった。
 いつものことだけど、アツヒロ様が来るのが待ち遠しくてしかたがない。

 とりあえず、体の疼きを紛らわせるためにテレビをつける。
 昨日の晩、交番を襲って拳銃を奪った男がそのまま重症を負った警官を人質にして立て籠もったっていう事件があった。
 明け方に犯人が自殺して事件は終わったけど、午前中はどこの局もそのニュースばかりだった。

 どうやら、犯人の身元がわかったみたいね。

『警察の発表によると、昨夜の事件の犯人は都内の会社員で長沢大輝、25歳ということです…………』

 あら? あの事件の犯人ってダイキだったの?
 じゃあ、アツヒロ様の復讐がまたひとつ成功したのね。
 アツヒロ様の力を使ったら、ダイキと警官の両方を操るなんて訳ないから、こんな事件なんて簡単に起こせるもの。

 これで残ってるのはマサタカとコウヘイだけね。
 あ、でもアヤネとサチコを奴隷にしないといけないわ。
 そういえば、アヤネを奴隷にするときに私に手伝えってアツヒロ様は言ってたわよね?
 うふふ、今からすごく楽しみ……。

 仲のよかった同級生が凶悪な事件を起こして死んでしまった悲しみなんかこれっぽっちも感じなかった。
 むしろ私は、アツヒロ様の復讐が一歩前進したことへの喜びしか感じていない。
 だってアツヒロ様は、復讐が完成したら大きな屋敷を手に入れて私たち奴隷と一緒に暮らそうって言ってくれてるんだから。

 早くアツヒロ様の復讐が終わって、そのときが来たらいいな。
 そうしたら、エリカたちと一緒に毎日アツヒロ様にご奉仕できるのに……。

 熱く疼く体を抱えながらぼんやりとテレビを眺め、私はアツヒロ様と一緒に過ごす未来へと思いを馳せるのだった。

< 終 >

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