逆転砂時計 第一話

第一話

「えー、以上で、帰りの、HRを、終わります」
 桐咲は自席で軽くため息をついた。
 これからまた特に楽しくもない日々が始まり、同じようなことを毎日繰り返す。
 学校という場所はどうしてこうも退屈なのだろうと常日頃から思っていた。
 それは環境が変わっても同じ。
 進級してクラス替えをしたとしても彼にとっては何も変わっていないのと同じだった。
 早速憂鬱なのが担任だ。
 やたら言葉を区切って発音する斉藤先生が担任になってしまった。
 どうもあの喋り方は調子が狂う。
 しかしこれはほんの小さな原因でしかない。
 最大の原因──それは。

 ──城ヶ崎ラン。
 パーマのかかったセミロングの茶髪で、典型的なお嬢様キャラの女子。
 桐咲より前の列に座っているためいやでもその後ろ姿が目に入ってしまう。
 何故そんなに嫌なのか──思い出したくもなかった。
 この学園に入学して2日目のこと。
 廊下の角で正面衝突してしまいその弾みで彼女の胸を揉んでしまったのだ。
 あまつさえそれだけではすまず、なだれ込むように股間に顔をうずめてしまった。
 そんな漫画のような展開を桐咲はいとも簡単に成し遂げたのだ。
 それ以来彼女は桐咲のことを蛇蝎のごとく嫌っている。
 幸いクラスは違ったので授業中に殺意を感じることはなかったが、それでも心は削られた。
 彼女がどう吹聴したのかはわからない。
 が、いつのまにか桐咲は女子たちからド変態よばわりされていたのだ。
 女子の中でも相当な権力を持つ彼女に同調するように。
 口をそろえて彼を非難するのだった。
 もちろん桐咲に反論する勇気はない。
 あったらもう少しだけ青春を謳歌できていたのだろうと思うと後悔の念があった。

 斎藤先生が教室から出て行くと、クラスメイトもそれぞれ行動し始めた。
 新学期が始まって初日なので午前中に授業は終わる。
 皆この後は部活やら街へ遊びに行くやら青春を満喫するのだろうが、桐咲にはそんなものはない。
 これからバイトなのだ。
 春休みは特にやることもないので始めたコンビニのバイト。
 やめどきが見つからず結局ズルズルとやることになってしまった。
 だが特に不満があったわけでもない、むしろ時間を有意義に使えて好都合だった。
 そんなバイトに感謝をしつつ立ち上がった桐咲は戦慄した。
「うっ…」
 目の前にランがいた。
 いるだけ特に何かしてくるわけでも、しゃべりかけてくるわけでもない。
 腕組みをし氷のような視線をただただ浴びせてくる。
 身長は桐咲より10センチほど低いはずなのに何故か大きく感じられた。
 無言の重圧──冷や汗が垂れる。
 こんな感覚を味わうのは小学校2年生の時に野良犬に囲まれたとき以来だ。
「あっ、な、なにか…?」
「…」
 返事はない。ない方が良かった。
 緊張の糸が裂けてしまいそうなほどピンと張り詰める。
「ラン、帰ろー」
 ふっ、とその糸が緩んだ。
 ランの友達が後ろから彼女に声を掛けたことにより修羅場から解放された。
 九死に一生を得る──まさにこの事だった。

 ランが何を言おうとしていたのか、それはわからない。
 それともただ桐咲を蔑むためだけにわざわざ寄ってきたのか。
 なんにせよHPが3分の1ほど削られたのは間違いがなかった。
 早く帰ってバイトに行こう、そう考え教室から出ようとした桐咲の目の前で教科書が散乱した。
「わっ、ごめんね桐咲くん」
 慌ててそれをかき集める女子──佐伯かおり。
 このクラスの唯一の天使。
 だれにでも優しく、包みこむような温かさがある。
 だが少し内気な性格らしく彼氏はいないようだった。
 でも、彼女を見てるだけでさっき削られたHPがみるみる回復しいまやゲージを振りきらんばかりだ。
「いや大丈夫だよ。…あ、手伝うよ」
「うんありがとう。私ドジでさ…よく図書室でもやらかしちゃうんだ」
 鷹揚に語りながら教科書を拾い集める彼女は確か図書委員だ。
 よくやらかす、本を散乱させるその姿は想像に難くない。
 確かに何処か抜けていて常に危なっかしそうである。
 だが几帳面で物事をきっちりこなすその性格は、きちんと眉毛の高さで切り揃えられた前髪にも表れていた。
 何故女子とかかわりが余り無い自分がそこまで知っているのかと思うと、桐咲は若干の嫌悪感を自らに抱いた。
「よしこれでいいかな。辞書は重いよね、ロッカーまでもってこうか?」
「ううん、拾ってくれただけで充分だよ。ありがとう」
 言葉の端々から優しさがにじみ出ているようだ。
 本当つくづく癒される。
「佐伯さんはこれから図書室?図書委員の仕事も大変だねえ」
「ううんそんなことないよ、本好きだし。本に囲まれながら過ごせるのって図書室ぐらいしかないからね」
「そんなに好きなんだ。どんな本が好きなの?」
「うーんとね────」
 桐咲はこの質問が間違いだということに気づいた。
 普段活字に触れないので佐伯さんが何を言っているのかわからない。
 読むと言ってもせいぜい漫画、週刊少年チョップくらいだ。
 ただ会話を長引かせたいだけなのにこんな質問をしてしまったのが悔やまれる。
 さっきから何かRPGに出てきそうな横文字の単語が滔々と彼女の口から発せられていた。
 12冊目でギブアップしそれから先は右から左へ状態。
 そういえば本好きの女の子は往々にしてムッツリスケベという勝手な固定観念があるが、佐伯さんはそれに当てはまるのだろうか。
 そんなくだらない事を考えていると桐咲が上の空な事に気づいたのか彼女が話を切った。
「──あれ?桐咲くん聞いてる?」
「…ん、ああ!聞いてるよ。…へえー、よくしってるんだね。俺は全然本とか読まないからさ。頭いいなあ佐伯さん」
「そ、そんなことないよ。さっきみたいによく失敗しちゃうし、周りにも迷惑かけちゃうし…」
 恥ずかしそうに否定する佐伯さんの黒髪が体の動きにつられてふわりと揺れる。
 それもまた可愛かった

「じゃあね佐伯さん」
 しばらく会話していると佐伯さんが「もういかなきゃ」と言ったので桐咲はその場を辞去した。

 バイトも終わり自転車で家路を飛ばす。
 春の風は心地良く頬を撫でていく。
 だが、花粉という大きなマイナス要素が春の評価を著しく下げていた。
 それでも季節ランキングでは秋と並んで2位だ。
 しかし花粉など今日は気にならない。
 佐伯さんと初めてと言っていいほどまともな会話ができた。
 それが桐咲のテンションを上げていた。
 不思議とペダルも軽く、夜7時だというのに彼の周りだけ明るくなっているようにすら見える。
 鼻歌を歌いながらあまり人通りのない道を疾走する。
 後5分ほどで家につく、そんな時だった。
「そこのお兄さん、ちょっとお待ちください」
 ふと聞こえたそれは耳からというより脳に直接語りかけるような声だった。
 驚いて自転車の急ブレーキをかける。
 首を巡らせて辺りを伺うが声の主は見当たらない。
 気のせいかとも思ったがあれほどはっきり聞こえたものが気のせいなはずがない。
「ここですよ、ここ」
 どうやら後ろから聞こえるようだ。
 自転車を大きく旋回させその声の方へ体を向けると確かに彼はそこに居た。
 細面で銀縁のメガネを掛け蝶ネクタイにスーツといういかにも怪しい雰囲気を放った男。
 そいつがニヤつきながら営業カバンをぶら下げこちらを見つめていた。
「お兄さん、あなたはラッキーだ。私に出会えたことを感謝したほうがいいですよ」
 いきなりの居丈高な態度に少々不快感を感じる。
 しかし、今通ってきた道にこんなやついただろうか。
 後ろからきたにしてもこの道は一本道だし、まさか走って自転車に追いつけるとも思えない。
 桐咲の訝った表情に気づいたのか男は弁解しようと口を開いた。
「いやいや、私は怪しいもんじゃありませんよ。しがない商売人でね、今日も商品をうけとってもらおうと点々としてるわけですよ」
 怪しいもんじゃありませんよ──怪しいもんしか言わない台詞だ。
 男はちょっと待ってください、と矢継ぎ早にカバンを広げると中から何かを取り出した。
 道の真ん中で風呂敷を広げるな、と思ったが閑散としたこの道に人が通るはずもなく黙っておくことにした。
「なんなんですか。俺は買いませんよ、そんな物見せられても金も持ってないし」
「いいんですいいんですお金なんて。まずはお試しということで受け取っていただければ!」
「…お試し?何を試すんですかこんなのもの。ただの砂時計じゃないですか」
 男が桐咲の目の前に掲げた物──砂時計。
 本当に何の変哲もない、中にオレンジの砂が入った砂時計だ。
「ええ、最初はそう思うでしょう。ところがですねこれ、ただの砂時計じゃないんです」
「…じゃあどんなのですか?」
「しりたいですか?しりたい?」
 やたらもったいぶる奴だ。大して知りたくもないが一応頷く。
「なんとこれ…『逆転砂時計』なんです!」
「…逆転…砂時計…?」
 名称を言われたところでさっぱりわからない。
 そんなことよりさっきから一言しゃべるたびにずいずいと迫ってくる男の顔が不快だった。
「そりゃあ砂時計なんだから逆にもなるでしょう。そうしないと時計として機能しないし」
 当たり前のことを言ってみる。
 だが男は相変わらず気味の悪い笑みを湛えずいっと近寄ってきた。
「違うんですよお兄さん!これはね…なんと『意識を逆転』させるんですよ」
 …。
 それでも意味が分からない、自分はどうやら理解力が乏しいんだと錯覚させられるようだった。
 それを見透かした男がすぐさま付け足す。
「つまりね…例えば『お金の価値』。これを逆転させてみましょう。するとあら不思議、1円が大金、諭吉が端金。どうですこれ?すごいでしょ」
 自慢気に微笑む彼に対し、急に馬鹿らしくなった桐咲は別れの言葉を告げ去ろうとする。
 それを慌てて制する男が前に立ちふさがった。
「ちょっと困りますよ!私だってノルマがあるんです!!こっちの身にもなってください!!」
 男は急に恥も外聞もなくわめき散らしたかと思うとその場で子供のように駄々をこねる。
 そのあまりの異様さにあっけに取られ、わかりました受け取りますよと言うところりと態度を変えた。
「…で、本当にただなんですか?後でウン百万請求なんて真似はやめてくださいよ」
「もちろんですとも!私どもはお客様が一番、利益は二番をモットーに営業しておりますから!」
 さっきからこの男を見る限り何処にもそんなモットーは見受けられないが、ただでくれるなら貰っておいて損はない。
 にしてもこれは本物なのだろうか。
 もし本当に本物なら凄いものを手に入れた事になる。
「…これって本当に本物な──」
「では2日後の24時に受け取りに来ますから!!あ、あとね同時に二つのことは成立しませんよ。…じゃあ、毎度ありっ!」
「うわっ!!」
 桐咲の言葉を遮るように早口でまくし立てるとまばゆい光を放ちながら男は消えた。
「なんだよ…今の…」
 あまりの超常現象っぷりに口をあんぐりさせるしかない彼の横を、不審者でも見るような目で女子校生二人が過ぎ去っていった。

 家に着き夕食を手早に済ませる。
 母親に少し遅かったわねと聞かれたがとても変な男に砂時計を押し付けられたとは言えなかった。
 風呂もすませ時計を見ると11時を指している。
 まだ寝るまでには一時間以上あったのでパソコンを開いて少し調べることにしてみた。
 『変な男 押し売り 砂時計』
 検索サイトに入力しエンターキーを押す。
 押し売り撃退サイトやらあまり関係なさそうなものばかり引っかかったのでブラウザを閉じた。
 そのまま後ろに倒れ腕を伸ばす。
 あくびが出てきた。
 今日は楽しいこともおかしなこともあった一日で少し疲れたのかも知れない。
 このまま寝ようかと布団へと這っていくと、ゴトンと何かに当たって倒れる音がした。
 その方向を見る──砂時計。
 忘れていたわけではないが、本物という確信もないただの砂時計を大事に扱うわけもなくそこらへんに放り投げてあったのだ。
 寝そべったまま手にとってみる。
 なにか不思議な魅力があるのかも知れない、例えば砂が光に反射して光るだとか。
 桐咲は部屋の電灯の光に砂時計をかざしてみたが特に何の変化もなく砂がうごめくだけだった。
 カサカサと揺らしながら明日からの学校生活の事を考えていると、脳内にまた一つ憂鬱となる原因が浮かび上がってきた。
 ──テスト。
 1限目から5限目までみっちりと関門が立ちはだかっている。
 特に4限目の英語は最も桐咲の苦手とするところだった。
「…はあ」
 自然と口から息が漏れる。
「…点数が低いほど凄い!みたいな世界になったらなあ…俺も天才なんだけど」
 小学生みたいなボヤキだが実際そうなら彼は学園でも指折りの秀才となる。
「あるわけないよな!!」
 その言葉を勢いづけるように砂時計を床に放り投げる。
 上手いこと直立したが彼はそれを見ることなく立ち上がると一階へ下りて行った。

「あんた明日テストなんでしょ?」
 リビングに入るなり食卓でお茶をすすってる母親が口を開いた。
 いきなり痛いところを突いてくる、勘弁して欲しい。
「…うん」
「まああんたのことだから勉強しなくてもいいんでしょうけどね。でもできれば今度は学年5位目指してちょうだいよ」
 最初、皮肉にしか聞こえなかった。
 勉強しなくてもいい──勉強しても無駄だ。
 そう捉えたが、「今度は学年5位」?どういうことなのか。
 ワースト5位の事だとしてもさすがにそこまでの皮肉は言わないだろう。
 逡巡していると再び母親が言った。
「こないだ学期末の英語のテスト、あれはびっくりしちゃったわ。なんせ2点ですもんね2点。そうそうだせる点数じゃないわ。今度ご近所に自慢しちゃおうかしら」
 一人でテンションを上げている母親をよそに桐咲は考えていた。
 もしかして…。
 蛇口から注いだ水を飲もうとした手が止まる。
 砂時計…。
 いやそれは…でもそう考えない限りこの疑問は氷解しない。
 水を一気に飲み干し母親にお休みの挨拶をすると部屋へと戻った。

 部屋に入ってまず最初に目に入ったのはさっき投げ捨てた砂時計だった。
 床に直立したそれは完全に落としきった砂を下半分に溜めていた。
 もしかしてこれが起こしたことなのか…。
 ──男の話を思い出す。

「つまりね…例えば『お金の価値』。これを逆転させてみましょう。するとあら不思議、1円が大金、諭吉が端金。どうですこれ?すごいでしょ」

 眉唾ものだった話が現実味を帯びてくる。
 信じざるをえない。
 これが本当に本物ならばとんでもないものを手に入れてしまったんじゃないか。
 ──桐咲は震えた。
 それは喜びにも、なにか強大な力の前に感じる漠然とした不安にも見えた。
 本物ならばやりたいことは山ほどある。
 男が言っていたお金の価値、これを逆転させれば…いや、それでは経済が破綻する。
 それに皆が大金持ちになっては意味が無いじゃないか。
 それとも、自分だけに効力を発揮させる事はできるのだろうか?
 対象の限定ができるならばありとあらゆる使い方ができる。
 ──桐咲は考えた。
 そして一番自分にとって有益となるアイディアを思いついた。
 いや、男なら誰もが行き着く答えなのかも知れない。
 桐咲は布団に潜り込んだ。

 カバンには砂時計、気持ちは最高潮の状態で家から飛び出した。
 いつもなら憂鬱な通学路も今日は足取りが軽い。
 儚げに散る桜の花びらが自分を祝う紙吹雪のようだと、桐咲は感じていた。
 なんせこの砂時計は本物なのだ、もうテストもランも怖くはない。
 全てを『逆転』させてしまえば…。
 校門をくぐり昇降口へ。
 挨拶をかわす他の生徒達、桐咲は蚊帳の外。
 ここまではいつもと同じだ。
 だが、ここからが違う。
 廊下に設えられたロッカーに近づきカバンから砂時計を取り出す。
 そしてこう囁きながら逆さまにしゆっくりとロッカーにしまいこんだ。

 『女子の露出度に対する羞恥心』

 さてどうなるか。
 さっきまでは普通の制服だった。
 それが一瞬で変わるのか、それとも徐々に変わっていくのか。
 はたまた何か別の変化が現れるのか。
 それは計り知れないことだったが楽しみで仕方なかった。
 意気揚々と教室に舞い戻ると教室内の肌色の多さに桐咲の目は釘付けになった。
 もう変化が現れていたのだ。
 半裸半裸半裸、そこかしこに半裸の制服をまとう女子たちが居る。
 もちろん対象は女子だけなので男子はそのままだ。
 あまりの変化の速さにぎょっとしてしばらく入口付近で動けないでいると後ろから軽く小突かれた。
「じゃま」
 声だけでわかった。
 ランだ。
 仏頂面を引っさげて横をすたすたと歩いて行く。
 いつもの態度、いつもの表情。
 だがひとつだけ大きく違う点──制服。
 スカートは股下5センチ、パンツが堂々と姿をのぞかせている。。
 おまけにそのパンツはTバック。
 上にいたっては鳩尾の高さまでしか長さがなくお腹は大胆にも丸見えだ。
 あとは通常のセーラー服、いや後といっても大した布面積はないのだが。
 そんな彼女が何の恥ずかしげもなく後ろ姿を見せながら桐咲の前を歩いて行く。
 お尻もTバックが食い込み扇情的な姿だった。
 こうしてみるとなかなかエロい体つきをしている。
 まじまじと見ていたせいでランがこちらの視線に気づいていることに気づかなかった。
「きもっ、またなにか企んでるの?」
「あっ、いや。別に…」
「…ふん」
 態度の割に格好は屈辱的なのが妙に興奮した。
 冷たい視線を投げかけながらランは席へと着いた。
 桐咲も席につき教室内をぐるりと見回してみた。
 彼女と同じデザインの制服を着た何人もの女子が教室で楽しそうに談笑している。
 そのなかには佐伯さんも。
 堪らない眼福だった。
「ねえ見てこれ。こないだ買った服なんだけど」
「えー大胆!ちょっと隠し過ぎなんじゃない?」
 隣の席で女子3人がファッション雑誌を広げなにやら盛り上がっていた。
 どんな服なのか気になり、横目で覗いてみる。
 ──なんの色気もない、むしろボディラインを隠し過ぎな服。
 何処が大胆なのか。
 しかし桐咲はハッとなった。
 そうか、露出度が低いほど恥ずかしいんだ。
 そして今目の前で肌を過剰に露出させている彼女たちの服装こそが『通常』。
 つまり街にはポルノまがいのファッションが氾濫し、
 裏の世界ではこれでもかとガチガチに固めた服装の女の子たちで溢れかえる。
 奇妙だが、なかなか面白い。
 横目で3人組の女子の1人のお尻を眺めながらほくそ笑んだ。

「えー、一限目日本史…はじめっ」
 日本史のテストが始まった。
 もちろん勉強はしていない。
 必要ないのだ。
 さっき砂時計で『テストの点数に対する評価』を逆転させておいた。
 この世界ならば桐咲がいい点を取れるのは明白だ。
 ただ一つ残念なのがそれによって女子の制服が元に戻ってしまった事だった。
 去り際に男が言っていたこと…二つのことは同時に成立しない。
 確かだった。
 このまま5限までこれを貫き通す。
 その後は…。

 見事に5枚のテストをやりきった。
 手抜きなどない、全身全霊を捧げた。
 これでもトップ50には入る自信がある。
 しかし、今の桐咲にはテストなどどうでも良かった。
 もっと重要なこと──図書室へ足を伸ばした。

「佐伯さん、今日も当番なんだ」
 読みは当たった。
 今日も佐伯さんは図書室で貸し出しの受付をやっていた。
「うん、桐咲くんが図書室くるなんて珍しいね。どうしたの?」
「そうだね、たまには本でも読んでみようかなって思ってさ。なんかオススメある?よかったら案内してほしいな」
 適当な嘘をついて佐伯さんを連れ出す。
 受付にはもう一人いるので一人いなくなっても大丈夫なはずだ。
 桐咲の学園の図書室はなかなかの広さがある。
 何列も本棚が並び、一般小説から哲学書、辞書、サイエンス雑誌までと幅広く網羅している。
 それこそ市の図書館レベルといっても差し支えない程だった。
 おかげでコーナーによっては全く人がいない場所さえある。
 桐咲の目論見が実行しやすい場所を探す。
「あ、こことか面白そうだな」
 ──哲学書。まるで興味がない。
「へえ桐咲くんこんなの興味あるんだあ。私はあんまり読んだことないなあ」
 感嘆の声を漏らす彼女を横目に桐咲は意を決し質問した。
「あ、あのさ…佐伯さんってその…処女?」
 しどろもどろになりながらもなんとか言い切った。
 聞かれた本人は一瞬キョトンとした表情を向けてきたが直後顔を赤らめた。
「え…そ、そんな事突然言われても…!」
 予想外の反応だった。
 砂時計を信じ、勇気を出して言った言葉に対し彼女は顔を真赤にしながらあたふたしている。
「そうだよね…ごめんなんでもない」
 まずいと思い苦笑いを浮かべてごまかそうとしたが、もうここまで来てからには引けないと思い言葉を紡いだ。
「あの…もし処女なら俺にくれない?」
 言ってしまった。人生の終わりかも知れない。
 今や桐咲の顔の赤さは、佐伯さん以上だ。
 だが彼女の次の言葉を聞いて桐咲は砂時計を完全に信頼した。
「えっ…別にいいよ…処女くらい。…あげる」
「ほんとに?いいの?大事なモノじゃないの?」
「全然大事じゃないよ、処女なんて…むしろいらないくらい」
 ガッツポーズをしたい衝動を必死に抑える。
 ここに来る前に『処女の価値』を逆転させておいたのだ。
 これで世の中の女性とって処女の価値というのは急落する。
 処女は結婚するまで…なんていう大和撫子も簡単に股を広げるようになったのだ。

「じゃあここで貰っていい?」
「え!それはちょっと…人が来たら騒がれちゃうよ…」
「大丈夫大丈夫、今図書室に人ほとんどいないでしょ。来ないよ」
「うーん…」
 彼女はしばらく悩んでいたが甘んじて受け入れたようでこくんと頷いた。
「よし、じゃあパンツだけ脱いで、俺も準備するから」
 今からあの佐伯かおりの処女をもらえる。
 何の関わりもないはずの、この俺が…。
 いやそのまえに佐伯さんが処女だったことを喜ぶべきではなかろうか。
 そんな事を考えながら桐咲はズボンとトランクスを下ろし横に放り投げた。
「ひゃ…」
 小さく彼女が声を上げる。
 桐咲のペニスを見たからだった。
 そそり立つそれは既に先から我慢汁を滴らせ、ヌラヌラと濡れそぼっている。
「ん?これみるのは初めて?」
「う…うん、まともに見るの初めて…」
「そうなんだ。じゃあ名前言ってごらん、これは何?」
 見せつけるようにペニスを近づける。
「…お、…おち…」
「ん?もう一回。あんまり大きな声で言うとバレちゃうから小さくてもいいよ。最後までいってごらん」
「お…おちんちん…」
 そうか、逆転させたのは処女の価値観だけなのでこの反応は当然なんだ。
 だから先ほど処女か、と聞いたとき言いよどんだのも納得出来ることだった。
 彼女からその言葉が聞けただけで射精しそうになる。
 桐咲のペニスがさらにグンとそそり立った。
 この本棚の向こう側に居る人たちは、まさか裏でこんな情事が繰り広げられているとは夢にも思っていないだろう。
「…まず挿入するには濡らさないとダメだから…舐めて…」
「なっ、舐める…?やったことないよ…」
「とりあえ舐めてくれるだけでいいから、テクニックなんて二の次だよ」
「う…ん…」
 佐伯さんは小さく頷きしゃがみこんだ。
 桐咲の醜くそびえ立ったペニスの前に彼女の可愛らしい顔が近づく。
 柔らかく桜色の唇が亀頭に触れた。
 途端に電流が下半身を駆けめぐる。
「うっ…」
「だ、大丈夫?痛かった…?」
「いや、気持よかったんだよ。そのまま舌で舐めて」
 彼女はまた小さく頷き舌でちろりと尿道口をなぞり上げる。
 再び、電流。
 我慢汁が佐伯さんの舌先で弄ばれる。
 ここが図書室でなければ大きな喘ぎ声を挙げてしまいたいほどの快感が攻め立ててくる。
 図書室という静謐な空間とはおよそ不釣合な、男女のまぐわい。
 背徳感が更なる興奮を生み出す。
「奥まで咥えて…」
「…うん」
 深呼吸をし、これからくるであろう快感に備える。
 そうでもしないと快楽の海に溺れてしまいそうだからだ。
 ペニス越しに伝わってくる暖かい感触。
 これが佐伯さんの温もり。
 拙い舌の動きなど今は関係なかった。
 憧れの女子のフェラチオ…それだけで充分だった。
「そろそろいいかな…佐伯さん、立ち上がって…」
 静かに、一切淀みなく言い切る。
 視界には佐伯かおり、彼女のみしか映っていない。
 本棚に手を付かせおしりをこちら側へ。
 パンツだけ脱がせそれ以外はそのままなのでスカートをたくし上げなければならない。
 スカートも脱がせても良かったのだが桐咲はこの格好が好みだった。
「うわあ…丸見えだ…」
「恥ずかしい…見ないでっ…」
「恥ずかしいのに処女を上げるのはいいの?」
「…別にそれはたいしたものじゃないし…彼氏もいないし…」
 秘部を見せるのは恥ずかしがるのに処女を上げるのは気にしない。
 そのなんとも奇妙なギャップが堪らなかった。
 佐伯さんのオマンコはきれいなピンク色で、まだ一回も使っていないというのがよくわかる。
「いれるよ…いい…?」
「うん、いいよ…きて」
 ゆっくりとひくつく肉棒を割れ目に挿し込む。
 ずぶりと、水音とともに沈み込んでいく。
「…ひゃあぁ…くうぅ…っ!」
 痛みからの声なのか、喘ぎ声なのかわからない物が彼女の口から発せられる。
「しっ…!あんまり大きな声出すと皆にバレちゃうよ」
 声を潜ませ忠告する。
「ご、ごめん…でもあんまりにもびっくりしたから…」
「そうか…大丈夫?痛くない?」
「うん…意外と痛くない…むしろ…」
「むしろ…何?」
「気持いいかも…」
 まさかの一言だった。
 処女ならば痛がるかと思ったが気持いいと言ってくれるとは。
 桐咲は昂った気持ちを表わすように勢い良く腰を振りだした。
「…あぁああ…ひゃ…」
 ペニスが彼女を突くたび声が漏れる。
 彼女は他の人に気付かれまいと自らの右手を口元に当てた。
 その仕草がまた桐咲の気持ちを逸らせた。
「んん…うぅぅん…あっ…!」
 くぐもった声が指の間から漏れてくる。
 結合部からくちゅくちゅと淫靡な水音が漏れ続け、その音は腰をふるたびに大きくなっていくような気がした。
 バレないように、ゆっくり…深いストロークで…。
 彼女のオマンコは、ゆっくりとした動きでも充分な快感が伝わってくるほどいい締り具合だった。
 その証拠にさっきから床に愛液が滴り落ちシミを作っている。
「ああ…気持ちいい…佐伯さんも気持ちいい…?」
「…うん…とっても…」
「俺に処女上げれて良かった…?」
「良かった…桐咲くんで良かったよ…」
 例えこの言葉が建前であっても処女を頂いたことには変わりはなかった。
 この事実だけはどうやっても変えようがない。
「ちょっと体勢を変えてみようか…」
「えっ…わっ…!」
 佐伯さんの左足を上げさせる。
 さっきとは違う体勢になり刺激もまた変化した。
 一段と締め付けはきつくなりキュッと締まった膣口がカリを愛撫する。
「あぁ…声が…漏れちゃう…皆にバレちゃうよぉ…」
「我慢して…俺も我慢するから」
 口を固く結び流れ出る声をせき止める。
 しかしピストンの度に紡がれるいやらしい音は止めようがなかった。
「そろそろ…いくかも…」
 体の中でくすぶっていた物が込み上げてくる。
「うん…いいよ…出して」
 その言葉を聴き終わったと同時に果てた。

 どぴゅ…どぴゅるるうぅぅう

「あっ…あぁっぁあああああ!!!」
 ここが何処かということを忘れたように彼女は大きな喘ぎ声を上げた。
 おそらく今のでバレてしまった。
 もちろん何をしているかまではわからないだろうが。
 腰が砕けそうな快感に襲われつつも、しっかり最後まで中に注ぎ込んでからペニスを引きぬく。
 いまだ射精の余韻に浸るかのようにそれはどくどくと脈を打っていた。
「まずいよ。早く後片付けしよう」
 スボンとトランクスを急いで履き、佐伯さんもパンツを履く。
 その股間からはぽたぽたとさっき桐咲が出したばかりの子種が滴り落ちていた。

「また明日ね」
 多少怪しまれたが特に騒ぎ立てられることもなく後片付けを終えた桐咲は、佐伯さんに別れを告げると図書室を後にした。
 悦に入る彼のその表情には満面の笑みが張り付いていた。
 さて…明日は何をしようか…。
 そうだ…。
 桐咲は再び口元を緩ませた。

< つづく >

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