オイディプスの食卓 第16話

第16話 着せ替え人形

 騒ぎも落ち着いて勉強も終え、ようやくベッドの中へ潜り込む。
 やれやれ、今日は一日花純さんに振り回されて終わったよ。
 2年ほど大人に改定したから明日は少し大人になってるといいんだけど。
 でも、考えてもみれば6才も8才もそんなに変わらないかな。10才くらいにしてもよかったかも。
 幼児期からの英才教育という意味ではあまり急いで成長させても可愛い妹には育たないかもだけど――
 などと、ベッドの中で今後のことを考えていたら、誰かに扉をノックされた。

「お兄ちゃん、起きてる?」
「花純?」

 おそるおそるという感じで、花純さんが顔を出す。
 そして僕と目が合うと、「にぱー」と微笑んで部屋に入ってくる。
 今日は青いパジャマ。そして枕を両手に抱えて。

「あのね、あの、花純ね、一人で日記書いてたらなんだか悲しくなった。だからお兄ちゃんに慰めて欲しくてきました」
「僕に? 慰めるって……」
「だってね、お姉ちゃんひどいもん。花純がさー、せっかくお兄ちゃんにもらったせーしを大事にしますって言ってるのに、カニ挟みしてさ」
「いや、だから慰めるってどうやって?」
「一緒に寝てー!」

 枕を前に出して、にこやかにベッドを求める花純さんに、ドキリと心臓が高鳴る。
 妹と同衾。そうか、小さい妹がいれば当然そんな夜もあるか。僕も小さい頃はよく姉さんに同じ事を求めていた。父さんや母さんよりも姉さんのところへ行ったっけ。
 そしてそんなとき、優惟姉さんはいつも優しく微笑んでこう言うんだ。

「いいよ。おいで」
「わーい」

 布団をめくって、弟妹たちの場所を作ってあげる。
 誰かに守ってもらいながら眠る幸福。寂しいときや怖いこと思い出したとき、年上の兄姉ほど頼もしい存在はない。
 僕の布団に枕を置いて、寝そべってこっちを向いて「にへー」と笑う花純さんも、安心しきった顔だった。

「寒くないか?」
「あったかーい」

 僕に体をすり寄せて、顔をすごく近づけて花純さんは無邪気に笑う。
 ちゃんとお兄ちゃんが出来て僕も嬉しい。
 だが、問題は花純さんの方が実年齢が上で、そしてそれなりに女の子の体をしてるってことだけど。
 シャンプーの匂いと、パジャマを着ただけの少女な肉体。安心して男に預けるには、あまりにも魅力的だった。

「結構、花純も柔らかい体してるよね……」
「柔らかい? そう?」

 思わず感想を口に出してしまってたみたいで、花純さんきょとんと目を丸くする。
 そしてふにふにと僕の胸を揉む。

「お兄ちゃんも柔らかいよー」
「ちょ、くすぐったいってば」
「もみもみー」
「こら、花純」
「ふひっ、お兄ちゃんも花純のおっぱい揉む?」
「え?」
「花純のまだちっちゃいんだー。ほら」

 僕の手が花純さんに取られ、そのまま胸に導かれた。
 ぷに。
 頼りなげなクッションの下に、すぐ肋骨が感じられた。そして花純さんは僕の手をぐりぐり回す。

「ちっぱい、ちっぱーい」
「あっ、ちょっと花純、何やってるの!」
「花純まだおっぱいじゃないから、ちっぱいなんだよ」
「そうじゃなくて、何をしてるの。ダメだよ、男の人に胸とか触らせたら」
「男の人じゃないもん、お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん」
「お兄ちゃんも男の人だよ。おっぱいは好きな男の人のものなんだよ」
「え? 花純のおっぱいは花純のだよ?」
「あ、うん、そ、そう。そうだな。確かにそうだ。こうやって男の人はすぐ女の人の体に所有権を主張するけど、そもそも法に定められた権利の中には――」
「ちっぱい、ちっぱーい」
「だから何してるの、花純!」

 ふにょふにょした感触から手を離す。
 手のひらに残っているぬくもり。あ、なんかあのままちっぱいにちっぱいちっぱいしてたかったかも。

「だって昼間……あれ、もっと前? 2年くらい前? そんぐらい前にお兄ちゃん、ママのおっぱい触ってたもん」

 そういや、6才時代の花純さんに母子相姦寸前の場面を目撃されてるんだっけ。
 もうすっかり忘れてた。最近、エロ行為を目撃されることに対する抵抗とか羞恥心が薄くなってきている気がする。結構な修羅場になりかねない事件のはずなんだけどな。

「花純はおっぱいじゃないからなー。お兄ちゃんも触りたくない?」
「……触っていいの?」
「うん。お兄ちゃんが触りたかったら、どーぞ」

 布団の中で、ツンと胸を突き出している。
 こんなに可愛い妹におっぱいを奢ってもらえるなんて、世の中のお兄ちゃんがうらやましいな。
 僕もそんなお兄ちゃんたちの仲間入りだ。

「ふふふー」

 僕に胸を触らせて、時々くすぐったそうに花純さんは笑う。
 パジャマ越しでも彼女の頼りなげな乳首は探り当てられるけど、もちろん幼女の花純さんは男に胸を触られたくらいでそこを固くしたりしない。
 指でくりくりしても、「やだー」とくすぐったさに笑うだけだ。

「花純も触る!」

 対抗意識なのか、僕のマネがしたいだけなのか、花純さんの手が僕の胸に触れ、円を描くように撫でる。
 お互いの平べったい胸(じっさいは花純さんの胸もちゃんと膨らみは感じられる。感じられるっていう程度だけど)を撫であって、僕と花純さんはクスクス笑う。
 そこにいやらしさはなく、兄妹の幼い遊びの延長だ。優惟姉さんは僕が物心つくころには「頼もしい年上」っていうイメージだったから、「無邪気な妹」っていう感じがすごく新鮮で楽しい。いろいろとかまってあげたくなるような、明るくて可愛い妹だ。
 でも、やっぱり花純さんの体には少女の魅力もすでにあるものだから。

「お兄ちゃん、力こめすぎー」
「あ、あぁ、ごめん」

 なかなかしこってこない乳首のヤロウを、思わずつねっていた。
 花純さんは両手で自分の胸を撫で、ちょっと不思議そうに首を傾げる。
 
「なんか、ムズムズする」
「そ、そう? じゃ、もう胸の触りっこはやめておこうか」

 8才で性の目覚めは早い。ちょっと僕も焦りすぎていたようだ。
 事実年齢14才のおっぱいを触り放題は楽しかったが、教育という目的があるうちはあまり無茶するべきじゃない。
 そう思って、もう寝ようと言おうとしたんだけど。
 
「じゃ、次お尻ー」

 花純さんは僕に抱きつき、片手を僕のお尻に回してくる。
 そして「なでなで」と言いながらスケベに撫でてくる。

「ちょ、花純。何でお尻なんて――」
「だってお兄ちゃん、ママのお尻もなでなでしてたでしょ?」

 はい、してました。
 壁に手をつかせて、スカートをたくし上げてスケベな下着を見せて撫でてました。

「なでなでー、なでなでー」

 でも花純さんの中では、この行為も楽しい遊びか、身内同士のスキンシップの一環なんだろう。
 頭を撫でて褒めてあげるみたいに、僕のお尻を優しい手つきで撫でる。
 ぴったりとくっついた体温も、すごく気持ちよかった。

「じゃ、僕もなでなで」
「してー」

 僕が手を後ろに回す、撫でやすいようにプリンとお尻を浮かせてくれる。
 それを撫でながら、抱き寄せる。ぴったりとくっついた体で、互いのお尻を優しく撫でた。花純は嬉しそうに笑っていた。

「お兄ちゃんって、お尻好きなの?」
「うん、好きだよ」
「ふえー、じゃ、いっぱい撫でてあげるね!」
「いや、撫でるほうが好き」
「んじゃ、いっぱい撫でてもいいよー」
「ありがと、花純」
「んふふー、どういたまして」

 お尻の撫で合いを続ける。
 花純の顔がすぐ近くで微笑んでいる。
 おでこにチュッとキスしてあげた。

「いひひー」

 僕の胸に顔をぐりぐりと埋めて、恥ずかしそうに花純さんは悶える。
 そうしている間も、もちろんお尻なでなでを忘れたりはしない。
 抱き合って、撫であって、時々笑って。
 じっくりと続けているうちに、花純さんは眠たそうな声を出した。
 
「気持ちいーねー……」

 僕の腕の中で、彼女の力が抜けていく。
 お尻の肉まで柔くなってくみたいだった。

「もっとなでなでしてあげる」
「やーん」

 パジャマのズボンの中に、僕は手をすべりこませた。
 つるんと、滑るみたいになめらかな肌だった。弾力ときめの細かさ。まるで本物の幼女の肌みたいだなって思った。触ったことないけど。

「花純も、もっとなでなでするー」

 僕の中にも彼女の手が入ってくる。
 じかに肌に触れる温かさ。お尻だけじゃなく、体まで温まりそうだ。

「もっとなでなでー、もっとなでなでー」

 布団の中でお尻を撫で合う。
 セックスを連想させる行為だけど、あくまで兄妹のスキンシップとしてこれを行うと、なんだか心が温かくなる触れあいだった。
 花純さんは一人っ子だ。「お兄ちゃんが欲しかった」と僕に言ったこともある。
 無防備に甘えている彼女を見ていると、こういうのが彼女の理想の家族だったのかなって思える。
 だとしたら、僕の催眠術は間違っていなかった。花純さんは僕の家族として育てていく。少しずつ、もう一度思春期をやり直していけばいいんだ。

「お兄ちゃん」
「なぁに?」
「なんでもなーい、ふふふ」

 どっちが先に眠ってしまったのかよく覚えていない。
 お尻を撫で合ったまま、僕らは眠りについていた。

「うっ!?」

 腹にズシンとくる重さで目を覚ました。
 また花純さんが襲いかかってきたのかと思ったけど、今日のはまだ衝撃が軽かった。

「すー……すー……」

 僕の隣でまだ安眠の中にたゆたう花純さん。
 その足が、僕のお腹の上に乗っかっていた。
 パジャマがめくれ上がって覗いているおへそ。そして少しずり下がったパンツとお尻。
 昨夜はあのままお互い爆睡してしまったみたいだ。僕も自分のずり下がったパジャマを直した。

「花純、朝だよ」
「んー……」

 ゆっくりとまぶたが開く。
 そして僕と目を合うと、満足そうに薄く微笑み、再び花純さんは目を閉じて寝息を立て始めた。
 
「いや起きろよ、花純」
「や!」

 ゴロリと背を向けてタオルケットをかぶる。
 半分覗いたお尻がプリンと突き出ていた。

「朝だよ、花純。起きなさい。ていうかお尻も出しっ放しだぞ」
「やっ、まだ眠いの! えい、えい!」

 お尻を上げて僕の顔につきつける。半脱ぎJCのお尻。普通に考えるとご褒美である。
 だけど、妹が兄に向ける反抗の意思と考えると、生意気な尻だった。

「えい、えい!」

 というか、顔に思いっきりお尻を押し当てられている。
 壁にゴンゴンと頭がぶつかり、パジャマが中途半端に食い込んだお尻に鼻と口が塞がれる。

「ふー、むにゃむにゃ」
「お゛ぎろ゛ーッ!」
「ひゃうん!?」

 お尻の穴とアソコのあたりに大声を出してやると、花純さんはビクーンと体を震わせて反応した。
 そしてお尻を戻して真っ赤な顔をして怒る。

「もう、なに、お兄ちゃん! びっくりするでしょー!」
「8才のくせに兄に着衣クンニさせながら寝る子の方が悪い。だらしない格好で寝てないで、いいかげん起きなさい」
「はーい。もう、せっかくお兄ちゃんの夢見てたのに……」

 もぞもぞとベッドから這い出て、だるそうに立ち上がると、花純さんは半脱ぎのお尻を見せながら、今度はパジャマの下をするりと脱ぎ始めた。
 
「お兄ちゃん、ちゃくいくんにってなにー?」
「いや、そんなとこツッコむ前に、着替えるなら部屋に帰ってからにしなさい!」
「だってもう脱げてたし」
「脱げてたからってこんなとこで脱ぐなよ!」
「どこで脱いでも同じだよ。どうせ女は脱がされるんだよー」

 などと文句(?)を言いながら、花純さんは足に引っかかったパジャマをバタバタ振り回して脱ぎ捨てる。そしてパジャマの前合わせを掴み、ダララっと広げてボタンを外した。

「ちょ、ちょっとォ!?」

 それはボタン千切れちゃうからやっちゃダメなやつだ。ていうか、ちっぱい丸出しになるから男の子の前でやっちゃダメなやつだった。
 まぶしいJC裸体のご開帳だ。未成熟な胸と、見事に桜色した乳首と、つるつるのお腹。ノーガードでくり出されたストレートパンチのように、無防備にさらけ出されたロリボディが僕のハートを直撃する。
 大人の女性と違って、段階も躊躇もなくいきなり全部オープンしちゃうから幼女とは戦いにくい。駆け引きが通用しない。先手は絶対に取られると思え。
 そんな僕の動揺などまるで気にもせず、花純は「よいしょ、よいしょ」とパジャマを脱ぎ捨てる。
 そして半脱ぎのパンツ一枚、アソコの割れ目が見える寸前のパンツ一枚になったところで、花純は思い出したようにコツンと頭を叩いて舌を出した。

「そっか。お着替えは花純の部屋にあるんだったね」
「だから言ってるだろ。いいから優惟姉さんに見つかる前に、ちゃんと自分の部屋に戻って――」

 と言ったところで僕の部屋の扉が開いた。
 
「うるさいわよ、蓮。また花純と騒いでるのね!」

 ハイハイ、ここで長女登場。
 どうせまた優惟姉さんがカンカンに怒って、僕がさんざん叱られて、その間に花純さんはとっくに逃げてるパターンだから。
 もうわかってるから。

 それでも幼女期花純さんは、反抗期花純さんの数倍は可愛い。それは認める。でも、あのパワーは正直いって持て余す。
 しかし良く出来た兄というのは、ああいうおてんばでエロ可愛い妹も上手に乗りこなしていくものだ。
 むしろあのパワーに匹敵する兄パワーが僕には足りない。体に染みついた弟気質なのか、どうしても花純さんに後れを取って振り回されてしまう。それじゃダメなんだ。試されてるのは僕の方だ。
 僕の男子力が、今、問われている。

「きりーつ、れーい」

 授業も終わって昼休み。いつものメンバーで中庭にお弁当を食べに行く。悪友たちに「今日はずいぶんたそがれてるな」「そんなにキャラ作りしなくても」などと心配されても、僕は一人悩み続けていた。
 頼れるお兄ちゃんってどんなのなんだろう。妹が求める理想の兄像とは?
 フィクションの世界ではありふれてる兄妹ラブだけど、実際はどんなものなんだろうか。僕には具体的なイメージがなかった。

「ねえ、妹にラブラブに愛されちゃう兄って、どういう男だと思う?」

 弁当を食べ終えてドリンクタイムのとき、悪友たちに思い切って尋ねてみた。
 みんな、ポカンと口を開けて僕を凝視した。

「お前……あんだけ美しい義母と姉たちに囲まれておきながら、架空の妹に恋してやがるのか……」
「それもう、たそがれってレベルじゃねぇな」
「たそがれ様って呼ばなきゃダメだな」
「何にしてもそんな高度な問題は俺たちには解けないぞ」
「病院にでも連れていくか?」
「ちょっと待ってよ、みんな。僕は真面目に聞いてるんだよ?」
「ええっ、ギャグですらないのかよ!?」
「やっべー。まさか蓮が俺たちの中で一番最初にキチるなんて」
「目を覚ませよ、蓮。俺たちはお前にそんなこと期待してないから」
「いつものクールで真面目ちゃんな蓮でいいんだって。お前のやれやれ系の回りくどいツッコミ、みんな好きじゃないって言うけど、俺はそこに憧れてたんだぞ」
「現実と向き合おう。お前は今のままでも十分幸福圏内に入ってる。見ろ、お前の義姉を。あれがお前の義理の姉なんだぞ。妹なんて最初からいらなかったんだって」

 どうやらみんな勘違いしているみたいだ。でも、それがどう勘違いなのか説明するすべを僕は持ってなかった。ていうか僕のツッコミがそんなに嫌われてたことも知らなかった。
 まさか、今みんなが義姉、義姉と指さしている2年生グループの一番の美少女が、こないだから僕の妹になったとは言うわけにもいかないし。
 義姉との関係をスムーズにするために義妹に変更した、なんて他の家庭で聞いたことないもんね。僕の悩みはいろいろと複雑だ。自分から複雑しているところもあるんだけど。それゆえに、兄という新しい立場に僕自身が戸惑っていた
 当の花純さんは、クラスメートと思わしき男女と楽しく談笑している。
 詳しい内容は聞こえてこないけど、「やらしー!」「スケベ!」などと女子が騒いで、男子たちはゲラゲラとだらしなく笑っている。
 下ネタで盛り上がっているのは間違いないだろう。女子相手にセクハラトークで盛り上がったことのない僕たち非リアメンズには眩しい光景だった。
 しかし、見るとその中で花純さんだけは騒ぎの中に加わらず、モジモジとしている。
 どこか落ち着かない様子でトイレでも近いのかなって感じだったけど、よく見るとそうでもないような。
 時々、僕と目が合う。

「だから花純とか鈴佳とか、結構スカート短いじゃん。やばいときあるって」
「あるある、机の上とか座ってるとき、ひょっとして俺らに見せたいのかなって思って」
「シコりたくなるんだよな。特に花純」
「や、やめれってバカ」
「キモーい。アハハハっ」

 声の大きくなっていく彼らの会話はこっちまで聞こえてくる。
 僕らでもその程度のことはコソコソと言ったりするけど、女子の前で堂々とそんなこと言って笑いが取れるのは正直理解できないっていうか、それで好感度を下げないんだからリア充って別人種だなと思う。それとも2年生や3年生にもなると、ああいうのもアリになっていくのかな。

「……あたし、そろそろ戻る」
「あ、花純、待って。うちらも行く」
「おー、戻るべ戻るべ」

 花純さんが立ったのを先頭に、2年生たちは揃って教室へ向かい出す。
 だけど、そのとき花純さんが僕に向かってちょいちょいと手招きをする。

「あれ、蓮のこと呼んでね?」
「う、うん」

 2年生たちにも先に戻るように花純さんは言って、渡り廊下の入り口で僕と二人きりになった。
 
「その……別に楽しくないからね」

 モジモジとスカートをイジりながら、花純さんは恥ずかしそうに言う。
 僕は何のことかわからなくて首を傾げる。

「あの、男子とか大きな声で言ってたような話、あたし、別に興味ないから。周りに合わせてただけだから」

 さっきの下ネタ話だろうか。
 合わせてたどころか、参加もしてなかったように見えるけど。
 僕がそう言うと、花純さんは安心したようにちょっと口元を緩めた。
 
「そ、そうだよ。花純はああいうの、マジでうざいと思ってるんだからね、お兄ちゃん」

 突然の妹口調に、僕も顔が赤くなる。
 他の人がいるときは「姉」として振る舞うルールだけど、今は遠くでガン見している僕の悪友たちぐらいしか人目もなく、会話も届かない。
 
「や、嫌んなっちゃう、うちの男子って。スケベだし、うるさいし。花純、ああいう男子嫌い」
「そ、そうなんだ。うん、花純のタイプじゃないよね」
「そうそう、全然、ああいうのじゃない。花純のタイプはね。その、もっと、クールで真面目な感じとかだから」
「ん、へえ、そうなんだ」
「うん、そ、そうなの」

 学校で、こっそり兄妹会話するのって照れくさい。しかも今の花純さんは14才モードだ。
 どこかよそよそしくて、それでいて甘ったるいような、まるで付き合ったばかりの恋人みたいかもって思ったら余計に恥ずかしくなっちゃうんだけど。
 
「……でさ、その、ちょっと思ったんだけど」
「なに?」

 花純さんは遠くで見ている僕のクラスメートたちにチロっと視線を向ける。奴らは慌てて口笛を吹いたり。相撲を取り始めたりして視線を逸らす。
 下向いて、ちょっとモジモジしてから、大きな瞳を上目遣いして花純さんは言う。

「お、お兄ちゃん、最近花純にアレくれたりしてるよね?」
「アレ? あぁ、ひょっとして……アレ?」
「う、うん」

 顔をポッと赤く染め、花純さんはまた下を向く。
 
「なんか、10年くらい前に、あたしアレを口の中に入れて吐いたことあったじゃない?」

 口元を手で隠し、聞こえにくい声でぼそぼそと花純さんは言う。
 10年前?
 意味がわからなくて記憶を探る。そして、探るまでもなく最近の出来事だと気づく。
 ただし、あれは今の花純さんにとって6才の思い出だ。まるでタイムトラベルみたいに過去と現在の年齢を行き来する花純さんの精神年齢は、記憶すら年代を変えているんだと初めて気づく。

「あの事件があってから、しばらくそういうのなくなって、んで最近になってまたくれたけど、その、どうしてくれるようになったのかなって、さっきの話聞いてて思っちゃって。あ、もちろん花純としては嬉しいからいいんだけど。でも……なんでなのかなって、ちょっとだけお兄ちゃんに聞いてみたいなって思って」

 そういうことなんだ。
 昨夜、6才から8才になった彼女にはまだ精液ティッシュはあげてない。だから、昨日の6才時点のグラップラー事件が彼女にとって最新の精液。
 しかし14才に戻った彼女にとってはそれを最後にずっとプレゼントはなく、こないだから久しぶりに再開されたことになり、そこにだいたい「10年くらいもらってなかった」というアバウトな記憶の空白が生じているわけだ。
 家の中と外で年齢は移動するが、催眠術で動かされている無意識下ではきちんと時間順に記憶を残している。おそらく年齢変更時に記憶を後ろに並べ替えるような形で整理されているのだろう。
 そして昨日の記憶を過去のものとして並べ直してしまえば、それに伴って疑問も生じる。
 どうして最近になってまた精子をくれるようになったのか。8年前の失態のせいで中止された(と彼女が思っている)兄妹のイベントを再開した理由とは。
 それを恥ずかしそうに聞きたがる花純さんには、とっくに見当ついてる感じだけど。というよりも、それを僕に言って欲しいって感じ。
 なんていうか、これがたぶん、「少しぐらいエッチなこと言っても許される」って雰囲気に違いない。

「最近の花純を見てると、またアレをあげたいなってよく思うんだ」
「え、それってどういう意味?」
「僕も花純のクラスメートと同じ男の子ってことだよ。軽蔑する?」

 短いスカートのすそを、ギュッと握って花純さんは目を丸くする。
 真っ赤になった顔と、何かの感情を噛みしめて堪える唇。強ばった肩。
 やがて、ぷるぷると首が左右に振られ、固く結ばれてた唇が恥ずかしそうに緩む。
 
「しないよ、別に……お兄ちゃんなら、いいよ」

 クラスの男子とお兄ちゃんは別物だ。
 例え同じネタでシコってたとしてもね。

「ま、またあとでね」

 パタパタと走り去っていく花純さんの白い膝裏を見ながら、そりゃ同じクラスにあんな子いたら気になってしょうがないよねって2年生の男子にちょっと同情する。もちろん、彼女にとって特別な存在である兄としての上から目線で。
 何も心配することなかった。
 兄に憧れていたという花純さんには、兄であるというだけでかなりの好感度を稼いでいた。むしろ洗脳が完了していた。兄であるというだけで。
 あとは花純さんをどれだけ兄に気持ちと体を許してしまう妹に育てるのかという、楽しい課題しか残ってない。
 僕って、じつはかなり上流階級に属する兄だったらしい。
 
「……フッ」
「お、おい、蓮が戻ってくるぞ」
「なんだアイツ、童貞捨てたみたいな顔してんぞ」

 前髪をかき上げ、みんなのところへ戻っていく。
 関係が悪いことがバレてた義姉となぜか最近仲の良い僕を、みんな不思議そうに羨ましがっていた。
 あまり変化が目立つと余計な勘ぐりをされるかもしれない。ここは適当な作り話をしておくことにしよう。

「僕たちの視線の不快指数が激おこレベルだって」
「やったぜ、とうとう花純先輩たそに存在を認識されたな俺たち」
「あきらめずに中庭に通い続けてよかった」
「舐めるように視姦してきた甲斐もあったぜ」
「カルピスで乾杯しよう、乾杯」
「いいねえ」
「俺たちはもう空気じゃないぞー!」
「かんぱーい!」

 まさか、こんなのでそこまで盛り上がると思ってなかったので、乾杯の手が震えた。
 学校での僕って、ここまで底辺階級に属してたの?

「お帰りなさいませ」
「あ、ただいま」

 家に帰ると、睦都美さんが洗濯物を取り込んでいるところだった。
 メイド服に白いシーツとは、なかなか目に映える光景だ。リビングに正座して乾いた洗濯物を畳む睦都美さんの後ろ姿を、麦茶を飲みながら見物する。

「綾子さんは?」
「お買い物に出かけています。夕食までには戻るそうです」

 ということは、しばらくの間は二人きり。
 そうなるとやることは一つだ。

「メイド人形が欲しい」

 洗濯物と一緒に、睦都美さんを彼女の部屋に連れていく。
 楽しむならじっくりとだ。
 
「フェラチオメイドABC」

 足元に跪き、じゅぼじゅぼと手順どおりに僕のをしゃぶる睦都美さんの髪を撫でる。
 整った顔、うつろな瞳、ペニスしゃぶりでめくれた唇。そして従順で機械的な奉仕が、いかにも『メイドさんを服従させてるご主人様』って感じで見た目にも気持ちいい。
 このまま彼女のメイド奉仕に任せて精液を飲ませてやりたい。
 でも、その前に大事なことを思い出す。
 
「睦都美さん、僕の命令どおりにコスプレ衣装を用意しましたか?」

 ちゅぶちゅぶと僕のオチンチンをしゃぶりながら、「ふぁい」と睦都美さんは返事をする。
 メイド服を買った店で、他のコスプレ用の服も何着か買っておくこと。僕は先日そんな命令をした。
 もちろん忠実なメイドである睦都美さんは僕の命令を忘れてなかった。今日はさっそく、着せ替え人形ごっこで楽しむことにしよう。

「睦都美さん、離れて」
「はい」

 僕のオチンチンから口を離し、ぼんやりと僕を見つめる睦都美さんの前で、僕はコインを掲げた。
 
 ――キィン!
 
「これから、新しいルールをあなたに教えます」

 瞳の色がさらに深くなった睦都美さんに、僕は人差し指を立てる。
 秘密の約束を増やすたびに、彼女の心を浸食して自分のモノにしていくみたいな、残酷な喜びを感じるんだ。

「今度のキーワードは、『着せ替え人形が欲しい』です。僕がそう言うと、あなたは今着ている服をコスプレ用の衣装に着替えたくなる。そして、僕の目の前でポーズを決めて、そのまま人形に戻る。いいですね? 着替えて、僕の前に戻ってきて、ポーズ。自分の着替えてきた衣装のモデルになったつもりで、かっこよく決めてください。では、言いますよ。『着せ替え人形が欲しい』」

 まぶたが少し沈んで、睦都美さんが立ち上がる。そして僕にペコリと一礼すると、ついたての向こうにあるタンスへと向かう。
 ガサゴソと着替えを始めた音だけ聞こえた。着替えるとこから見たい気もするけど、これはこれで楽しみが増えていい。
 ベッドに腰掛け、彼女を待つ。
 やがて、じゃらりと金属の音がして睦都美さんが登場する。
 きびきびとした足取りで部屋の中央へ、そして僕の前で手錠を構えてポージング。
 婦警さんの衣装だ。帽子も手袋も黒い手錠も、本物そっくりに決まっている。

「おぉー」

 思わず感嘆の声が出た。
 マネキンのように固まっている睦都美さんは、それこそ本当のフィギュアみたいに衣装が似合っていた。
 シャープな輪郭と大きな目が、厳しい婦警さんって感じに見える。悪いことしたらすぐ捕まっちゃいそうだ。
 そして、出来れば尋問も彼女にお願いしたくなっちゃいそうな……って、僕は何は想像しているんだ。
 近くに寄ってよく見てみる。コスプレ用とはいえ、名札もあるけど全然知らない人の名前で、どうやらアニメか何かの婦警モノの衣装らしい。
 でも、これは本当に睦都美さんのために用意したんじゃないかってくらい、ぴったりだった。
 アニメとかマンガのヒロインみたいにスタイルの良い彼女だから、どんな衣装も着こなせちゃうんだろうなあ。
 僕がジロジロ見ている間も、睦都美さんはじっと固まったままでいる。このままではたぶん体にも無理がかかっているだろうから、いつまでも眺めていたいのを我慢して、僕は次の衣装を求める。

「着せ替え人形が欲しい」

 ペコリ。
 また僕に一礼して、ついたての向こうへ姿を隠す。
 僕もベッドの上に戻って彼女の着替えを待つ。
 そして、姿を現した彼女の可愛らしいピンクの衣装に、思わず胸が高鳴った。
 ナース服だ。
 丈の短いピンクのワンピスーツ。白いストッキング。スーツと同じ色のナースキャップ。
 看護師さんがあるとしても睦都美さんなら白を選びそうな気がしてたから、この選択には胸が躍った。
 睦都美さんは部屋の中央に立ち、ちょっとポーズに悩んだのか動きを止めてから、やがて右手のおもちゃの注射器を構えて前屈みになる。
 衣装とポーズの可愛らしさが彼女をちょっと幼く見せた。
 大人の美人って顔立ちしてる睦都美さんが、まるで十代の新米看護婦さんみたいに。
 さっきの婦警さんも良かったけど、看護師さんも良い。
 近くで見ると、ぴったりしたサイズのナース服が彼女のスタイルを強調して、ウエストの細さとか、しっかりと自己主張しているおっぱいとかお尻とか、すごく色っぽかった。
 これは、ただ着替えてもらうだけなんてもったいないんじゃないだろうか。いや、もったいないだろ絶対。
 僕はコインを鳴らして、「コスチュームプレイ」ということについて真剣に睦都美さんと打合せをする。

「睦都美さん、あなたは今、看護師さんだ。看護師さんになった夢を見ている。いつもの自分を忘れて看護師さんになりきって。想像して。あなたの夢の中では僕がナビゲーターだ。僕があなたを導く。夢の中だから現実の常識など通用しない。僕の言葉が夢の真実だ。そしてあなたは僕の言葉で夢の中を動く。想像して、自分の思ったとおりに役になりきる。ナビゲーターと協力して夢の世界を完成させる。違う自分になりきって。演じて。夢の中ではそれが真実のあなただ。僕とどんなことをしようが、夢の中だけの真実で、現実に帰ればそれを忘れる。だから、安心してやりきって。誰も夢の中のあなたを知らない。何も恐れることはない。楽しもう。違う衣装を着て違う自分になったあなたを。スタートの合図は……『コスプレ人形』だ。僕が『コスプレ人形』と言った後、何になりきるかを指示する。そうすると、あなたは夢の中でその役になりきってしまうんだ。いいね?」

 睦都美さんの中に僕の催眠指示をしっかりと浸透させてから、いったん彼女から離れる。
 そしてベッドの上に横たわって、笑っちゃいそうになるのを咳払いで誤魔化してから、キーワードを告げる

「コスプレ人形、看護師さんになれ」

 ポージングしたままパチパチとまばたきして、睦都美さんが体を戻す。
 そして、僕は睦都美さんにさっそく演技を開始する。

「あぁ、看護婦さん、来てくれたんですね」

 睦都美さんは、僕の顔をしばらく凝視して、そして自分の着ている服を見下ろし、そして、何をスイッチが入ったかのように表情が変化した。

「はい、蓮さん。お呼びですか? どこか具合でも?」

 普段は僕に見せたことのない、心配といたわりの顔。そっと僕の横に膝をついて、腕を取って脈を測る。
 実際に測ってるわけではないだろう。「看護師らしい演技」を、彼女なりに真剣に演じているんだ。
 驚きと、込み上げてくる笑いを堪えながら僕も演技を続ける。

「じつはまた熱が上がったみたいで。いつものアレをお願いしたいんですが」
「まあ、熱がおありなんですね? いつものアレと申しますと?」

 僕のおでこに手を当てて、睦都美さんは首を傾げる。
 その目をしっかりと見つめながら、僕は夢の世界で常識を破る。

「性感マッサージですよ。熱を下げるには、看護婦さんのエッチにマッサージして射精させてもらうのが一番効きますから。医者からもそう指示されてますよね? いつものように、お願いします」

 睦都美さんの瞳が、一瞬とろんと沈む。
 そしてみるみる光が戻り、力強い微笑みを浮かべて頷く。

「任せてください。すぐ処置します」

 なんだか睦都美さんが頼もしい。
 ゆったりと体を預ける僕の制服シャツのボタンを丁寧に外し、中のTシャツをたくし上げる。
 僕は彼女に任せっぱなしで、その優しい手つきを堪能する。
 
「失礼します」

 さわさわ。
 睦都美さんの細い指が、僕の胸から脇腹をさすっていく。
 思わず声が出て、体が仰け反ってしまう。
 
「大丈夫です。すぐに良くなりますから、じっとしててください」

 乳首を指でくりくりされる。
 思わぬ快感にビクンとしてしまった。
 
「リラックスして、体を楽にしてください。どこか痛いとか苦しいところはありますか?」
「だ、大丈夫です」
「では、続けますね。射精するまでしますから、途中でして欲しいことがあれば遠慮なく私に言ってください」
「はい……んっ」
「ちゅ、れろ、れろ、ちゅ」

 乳首にキスされ、舐められる。
 ぞわぞわと快感が胸に広がり、その刺激が股間まで伝わる。
 すっかり膨らんだ制服のズボンの上から、睦都美さんが丁寧にさすってくれる。
 肺の奥から息を吐く。
 ナースさんに体を任せる快楽と安心感。
 ただのコスチュームプレイだというのに、睦都美さんのように若くてきれいな看護婦さんに介抱してもらえるなら入院だってやぶさかじゃないと思えた。

「ベッドに上がらせてもらいますね」

 しかも添い寝付きだぞ。もう退院なんてしたくない。
 僕の上に覆い被さるようにして乳首を舐めるナースキャップ。そしてズボンが器用に脱がされていく。
 そそり立つ僕のペニス。まだ触れられる前から、彼女のマッサージで僕のはすでに完成していた。
 恥ずかしくて顔が赤くなる僕に、睦都美さんは真顔で言う。

「ただの医療行為です。恥ずかしがることはありませんよ」
「うっ!?」
「んっ、れろ、んっ……力を抜いてください。ここがだんだん熱くなって、精液を出します。そうすると体の熱が下がって楽になります。いつものことですから緊張しなくてもいいんです。看護婦に任せて、楽にしててください。ちゅっ、れろれろ……」

 そっと握られただけで、敏感に僕は反応してしまう。
 『患者と看護婦』というシチュエーションが、いつも以上に受け身の感度を良くしているみたいだ。
 シュッ、シュッ。
 乳首を舐められ、オチンチンを擦られ、中途半端に脱がされた僕の制服までもがこのシチュのいやらしさを煽り、『美人看護婦に治療と称してスケベなことされてる自分』に脳が沸騰していく。
 異常な状況は異常な興奮を作る。
 催眠術を覚えて以来、僕の嗜好は歪んでいく一方で、急速に広がってる。
 普通の結婚生活とかもう送れないに違いない。
 でも、普通の人よりずっと幸せになれる自信はあった。

「はむ、ちゅっ」
「あっ!」

 耳たぶを齧られ、吸われる。
 ビクンと体と股間が反応し、睦都美さんにしっかりと握られたオチンチンが痙攣する。
 
「ちゅっ、れろ、ちゅっ、はぁ、んっ、ちゅ」
「あっ、あっ、看護婦さん……」

 どうやら僕は耳が感じるらしい。
 睦都美さんは執拗に僕の耳に舌を這わせ、中まで舌を入れてにゅるにゅると舐め回してくる。
 そのたびに僕は喘ぎ、体を震わせる。睦都美さんの吐息が熱くて火傷しそうだ。

「はぁっ……そんなに可愛い声を出さないでください。これは治療なんですよ?」
「んっ、でも、あっ、うぅっ」
「ダメです。真面目に受けてください。そんなに声を出されては……私まで変な気持ちになってしまいます」
「あっ、あぁっ、む、睦都美さん……ッ」
「ダメ……動かないで」

 ナース服のむっちりした胸が、僕の胸に押しつけられる。
 ストッキングの足が僕の太ももに絡み、彼女の股間に挟まれる。
 
「はっ、んっ、ちゅっ、れろ、んっ、れろ、はっ、はむっ」
「あぁっ、あっ、睦都美さん、出る、あっ、出る!」
「んんっ、ずじゅじゅっ!」

 耳の中を吸われながら、睦都美さんの手の中に射精する。
 ドク、ドク、脈動するオチンチンを優しくさすられ、耳たぶをぺろぺろ舐められながら、体の芯まで抜かれるような甘い射精感に身を任せる。
 ナース服越しの睦都美さんの体温までもが心地よいマッサージになり、お腹の上に落ちていく自分の精液の熱さも不快ではなかった。
 そのまま嫌な顔一つしないで僕の体を清拭してくれる睦都美さんはまさに桃衣の天使で、最後に服まで着せてもらって僕は満足して身を起こす。
 あまり彼女の部屋に長居するのもよくない。
 僕は彼女に元の衣装に戻る命令をする。

「メイドの着せ替え人形が欲しい」

 ぺこりと頭を下げ、ついたての向こうに隠れて、元のメイド服に着替えた睦都美さんが戻ってくる。
 そして部屋の中央に立ち、スカートの裾を摘まんで可愛らしくお辞儀する。
 
「ブラボー」

 最高の人形劇を見せてくれた彼女に、唯一の観客である僕は心からのスタンディングオベーションを送った。

< 続く >

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