サイの血族 12

29

 ひと休みした隼人は結花と奈緒を屋内まで運んだ。

 庭に面するロビーに服部早苗がふたりの寝床を用意していた。

「どうぞ、湯浴みを」

 服部早苗に言われて、汗と体液でベトベトになった身体に隼人は気づいた。

「驚きました。あなたが、これほどの力をお持ちとは」

 浴室へ向かう廊下で服部早苗が言った。

「どういう・・・ことですか?」

「奈緒は幸せ者です。『ム』の歴史の中でも、あの娘以上の洗礼を受けた者はそれほどいないはずです」

「あの・・・」

「はい」

「父に言われたんです。お前は力が強いって。でも、自分がどんな力を持っているのか、僕にはわからないんです」

「身体を流しながら説明しましょう。それが私の務めのようです」

 脱衣場に着いた服部早苗は帯を解きながら言った。

 淑やかさを感じる動作で服部早苗は着物を脱いでいく。動作というよりかは所作と表現する方がぴったりする感じだった。

 襦袢の下は素肌だった。

 熟れて糖度が最高になった果実のような肢体を隼人は呆然と眺めていた。

「ごめんなさいね。こんなおばあちゃんの身体を見せてしまって・・・」

 はにかみながら言う服部早苗が女に見えた。それに、幼いとき母親を亡くした隼人にとっては好ましく甘えたいような気持ちにさせてくれる。

「いや・・・そんな・・・早苗さんは、とってもきれいだ・・・」

 本音だった。艶と重さと言うのだろうか、張りのある肌と実った感じがする肉付きはヴィーナス像のように美しいと隼人は思った。一糸まとわぬ姿になっても優雅さを失わない。

 それに、服部早苗の気品のある立ち居振る舞いは結花とは正反対だ。母娘だけあってスタイルや顔立ちが似ているのにまったく逆の印象を受ける。

「まずは汗を流してください」

 前を隠そうともせず、微笑みながら隼人を浴室へ誘う服部早苗の仕草は自然なものだった。うながされるままに椅子に座った隼人は背中を流され泡立てたスポンジで身体を洗われた。

「ひとつお聞きしたいことがございます」

「は・・・はい。なんでしょう?」

 服部早苗のあらたまった口調に隼人の声は裏返った。

「隼人様は、とぼすときに『気』を込めていらっしゃるのではないかと・・・」

「とぼす・・・って・・・?」

「男と女が交わること。その最後のときに『気』を放っているのではないかとお見受けしたものですから」

「あ・・・はい・・・」

「やはり・・・」

「あの・・・いけませんでしたか・・・?」

 服部早苗の表情を見て、もしかしたら「マ」と同じようなタブーを犯してしまったのかと隼人は心配になってしまった。

「いえ。もしかしたら隼人様は言い伝えにある『サヒ』ではないかと・・・」

「サ・・・ヒ・・・?」

 発音的には「サイ」と聞こえるが、隼人には「サヒ」とはっきりとわかった。

「約五百年に一度、『サイ』から特別な力を持った『サヒ』が現れると言い伝えられております。その方は精に『気』を込めることができ、一族を統率する使命を担っているのです。もし隼人様が『サヒ』なら私にはお伝えしなければならないことがあります。それを確かめさせてください」

「どうすればいいんですか?」

「お約束どおり、私を抱いてください。そして『気』を私に」

 服部早苗は背後から手をまわしてスポンジで隼人のものを洗いはじめた。

 しなやかな指使いに、あれだけ激しく放出した直後だというのに隼人は反応してしまう。

「こ・・・ここで?」

「お望みなら、それでもよろしゅうございますが、できれば私の部屋で」

「わかりました。それからお願いがあるんですが・・・」

「なんなりとお申しつけください」

「あの・・・僕・・・早苗さんとお風呂に入りたいんです」

 なんというか、服部早苗から母親のような情を感じてしまい、湯船に浸かって甘えたいという欲望が抑えきれない。

「まあ・・・」

 服部早苗がうれしそうに微笑む。

 その笑顔を見て隼人は心底から服部早苗のことを抱きたいと思った。

 湯に浸ると幸福な気分に満たされた。

「早苗さん・・・」

「はい」

「あの・・・」

「なんでしょう?」

 やはり服部早苗の笑顔は母のようだと思う。

「ちょっと・・・触ってもいいですか?」

「もちろんですとも。お好きにどうぞ」

 そう言われて隼人はバストへ手を伸ばす。

 両手で持ち上げるように触ると、しっとりとした肌の感触と量感が伝わってくる。

「早苗さん・・・」

 隼人は我慢ができず、服部早苗を抱き寄せて胸の谷間へ顔を埋めた。

 満たされた気分だった。それなのに欲望が夏の入道雲のように膨らんでいく。

「ああ・・・あなたのお気持ちを感じます・・・」

 服部早苗が陶然とした表情で言う。

「『ム』も心を読めるの?」

「はい。相手は『サイ』の方に限られますが。それに、あなたは強い『気』を放っておいでです」

「そうなんだ・・・」

「あの・・・」

「なんですか?」

「寝床へ・・・そして、私に『サイ』をかけて欲しいのです」

 そう言う服部早苗は、すでにトランス状態に陥っているように見える。

 隼人は結花の祖母にかけた「サイ」を思い出していた。

 隼人は身体を拭かれ、浴衣を羽織って服部早苗の部屋へ行った。

 日本式の建築なのに、服部早苗の寝室は洋風で大きなベッドが置いてあった。

 重厚な調度はイギリスかフランスの宮殿のようだ。

「ひとりでいるときは気分を変えたいから、このようなインテリアにしているのです。似合いませんか?」

「いえ、ちょっとビックリしましたが、とてもすてきです」

 隼人はあたりを見回しながら言う。駆け出しの隼人にとって女性の部屋は刺激に満ちている。その人となりがわかる気がする。

「さあ。私に『サイ』をかけてください」

 服部早苗は裸のままベッドに座って言った。

「いいんですね?」

「もちろんです。お願いします」

「じゃあ・・・」

 隼人は服部早苗の笑顔に釣られて手をかざし「サイ」を唱えた。

 なぜか、これまでより強い力が手のひらから発せられたような気がした。

 服部早苗はあのときのような歓喜の表情を浮かべる。

「早苗さんは『サイ』をかけられても、いままでどおりだ。そして、覚めた後もかかっていたときのことを忘れない。いいですね?」

「はい、わかりました。とても・・・ひさしぶりです。すてきな気分・・・お礼を申し上げます」

 うっとりとした顔で服部早苗が言った。

「僕は早苗さんを抱かなければならないから抱くんじゃない。ひとりの女性として抱きたい。そして、よろこんで欲しい」

「なんとありがたく、うれしいお言葉でしょう。それでは、わたくしも精一杯おつくしいたします」

 服部早苗はベッドから降り正座をして三つ指をついた。

「そんな・・・早苗さん、立ってください」

「はい」

 隼人が言うと服部早苗はすぐに立ち上がった。やはり「サイ」が効いているようだと隼人は思った。しかし服部早苗の立ち姿は美しかった。オーラさえ漂っているように見える。

「早苗さん・・・すごくきれいだ・・・もっと、よく見せて・・・」

「お望みのままに。どうすればよろしいでしょう?」

「そう・・・だな。両手を鳥のようにひろげてもらえますか」

「こう・・・でしょうか?」

 両手を水平にひろげた服部早苗は鳥と言うよりは美しい十字架のようだった。すっきりとくびれたウエストが引き立つポーズだ。そしてふとももの付け根にある茂みが大人の色香を放っていた。

「そのまま後ろを向いて」

「はい・・・」

 服部早苗はゆっくりと身体を回転させた。舞いの経験を感じさせる優雅な動きだった。和服姿の上からでも目立っていたヒップの膨らみは奈緒のものよりもひとまわり大きい。そして、年齢を感じさせないくらい張りがあった。

 背中のラインも美しかった。背骨の筋が艶めかしい曲線を描いている。

「はうぅ・・・」

 隼人は思わず、その背中に唇を押し当てていた。服部早苗は熱い吐息を漏らす。

 風呂に入っているときはわからなかったが、服部早苗の肌は奈緒とそっくりの匂いがした。あの南国の果実のような蜜の匂いも漂ってくる。やはり母娘なのだと隼人は思った。

 ひろげた手の下へ両手を入れて隼人は服部早苗のバストをつかんだ。

「はうんっ!」

 服部早苗がビクンと身体を震わせた。

 その感触を味わいながら隼人は首筋に舌を這わせる。

「ああ・・・たまらない。こんなにしていただけるなんて・・・」

 服部早苗は身体をくねらせながらヒップの谷間で隼人の屹立をとらえた。

「こんなに熱いなんて・・・ああ・・・」

 そう言いながら服部早苗は腰を蠢かせる。

「まだまだ。早苗さんを、もっと感じさせたい」

 隼人は乳首を軽くつまんで捻った。

「ああんっ!」

 まるで小娘のような声をあげて服部早苗は喘いだ。

 隼人は舌の位置を首筋から肩、背中へと下げていく。

「ああっ! どうして・・・私の感じるところを・・・あんっ!」

 なぜか、隼人には服部早苗がどうされることを望んでいるのかがわかった。ひざまずき、バストにまわした手も下げて腰を抱える。そして、さっきまで屹立を挟んでいたところへ舌を這わせた。

「ああっ! そ、そこはっ! ああっ・・・ああんっ!!」

 ヒップを突き出すようにして服部早苗は激しく悶えた。

「ベッドに手をついて・・・そう・・・脚を開いてお尻をもっとこっちへ」

 隼人の指示に従うとアヌスの下にある秘部までを晒す格好になる。すでに秘肉は驚くほど蜜で濡れているのがわかる。その蜜をすくうように舐め上げ、舌先を固く尖らせてアヌスへ差し込む。

「あうぅぅぅっ!!」

 服部早苗の声は悲鳴に近い。舌が挿入されたとき絶頂を迎えていた。

 それでも隼人は愛撫をやめない。右手の親指でクリトリスを撫でながら、舌先の動作を繰り返す。

「あんっ!! ああんっ!!」

 服部早苗の嬌声が寝室に響きわたった。

「だめっ! だめぇぇぇっ!!」

 背中をのけ反らせ、硬直した服部早苗はベッドの上に突っ伏してしまう。

 痙攣しながらも、けなげに立ち上がろうとしては倒れ込んでしまう服部早苗を見て、隼人はすぐにでも結ばれたいと思った。

「ま、待ってください・・・どうか・・・ベッドの上に横になって・・・」

 息を荒げながら服部早苗は言った。隼人の気持ちを読んだらしい。

「こうですか?」

 隼人は言うことを聞いた方がいいと思った。

「ありがとう・・・ございます。なんて熱くて素晴らしい・・・」

 服部早苗は隼人の足元にひざまずいて屹立を握った。

「お仕えいたします」

 上目遣いに隼人を見た服部早苗は屹立を口にふくむ。

 柔らかく、ねっとりとした舌使いに愛を感じて隼人は陶然となった。

「気」がうねりとなって膨らんでいく。それは、いままでにないくらいの強さというか大きさだった。

 考えてみれば向こうから望まれて女と結ばれるのは初めてだった。そのせいかはわからないが、「気」の質が違うように思える。なんと表現したらいいのか隼人には言葉が見つからなかったが、「気」がひたすらに熱く感じた。同時に屹立も、いつもより硬く大きくなっているみたいだった。

「頂戴いたします」

 そんな隼人の状態を悟ったのか、服部早苗は上半身を起こして隼人の身体に跨った。

 屹立に手を添えて蜜壺にあてがう。

 口を大きく開けて上を向き、官能に顔を歪ませる服部早苗を、隼人は下から見上げていた。

 位置と角度を確かめるように、服部早苗はゆっくりと腰を沈めていく。

「あうぅぅぅっ!!!」

 隼人のものが根本まで挿入されたとき、服部早苗は高らかに悦びの声を上げた。そして、自ら腰を動かしはじめる。

 動きにシンクロして揺れるバスト、官能に咽ぶ表情を眺めながら、隼人はその美しさに感動していた。見上げる肢体は神が創った芸術品に思えた。その想いが「気」をどんどん成長させていった。限界が近づいていた。

 隼人は腰を突き上げて結合を深める。

「ああっ! ああんっ!!」

 服部早苗の喘ぎが高くなる。

「ああぁぁぁっ!!!」

 何度目かの突き上げで隼人は勢いよく放出した。それは自分で噴火だと思えるほど激しいものだった。熱い「気」が服部早苗の子宮を直撃した。残りの数滴を絞り出すと、まるで隼人自身が吸い込まれていくような感覚に目が眩んだ。

 服部早苗は身体を硬直させビリビリと震えていた。そして、その数瞬後、崩れるように隼人の上に倒れ込んだ。

 その身体を隼人は抱きしめる。

 胸の中の渦が激しく変化していた。

 隼人は暗示を与えなくとも「サイ」をかけて手を触れるだけで女を思うがままに欲情させ、感じさせ、絶頂させる力を得た。それは新しいアイテムだった。母と娘を抱くことによって得られる力だと頭の中の声が教えていた。

「やはり・・・隼人様は・・・サ・・・ヒ・・・」

 まだ余韻が覚めない服部早苗は絶え絶えに言った。

「この命に替えても・・・わたくしは・・・隼人様をお守りいたします・・・それが・・・さだめ・・・」

「さだめ」は「運命」と書くのだと隼人は直感した。

「お話ししなければならないことがあります。隼人様、『サイ』を解いてください。でないと・・・また欲しくなってしまいます・・・」

 抜け殻のようになってしまったと感じながら、隼人は手をかざした。

30

「一族が集うときが来ました。私は明日、結花さんのお祖母様にそれを伝えに参ります。隼人様は吉野へ」

 服部早苗は自家製の玉露を淹れながら言った。

「どういうことでしょうか?」

 ティーテーブルに置かれた湯飲みを見ながら隼人は聞いた。

 まだ、ふたりは裸のままだ。しかし、それが当たり前と思えるほど自然な感じがする。

「一族が五百年待った『サヒ』が現れたのです。それが隼人様、あなたなのです。『サヒ』は一族を導くとの言い伝えがあります。どうするかは隼人様次第」

「『サヒ』ってなんなんですか?」

「強い指導者とでも申しましょうか、世の中や一族の変わり目に現れ、一族を導くと伝えられています」

「そんな・・・僕はまだ・・・なにもわからない」

「『ミ』が狙われ、『ム』も隠れなければならなくなったのは傍系の者どもの仕業でした。彼らは本家を滅ぼそうとしたのです。おそらくは『サヒ』が出現することを察知して『サイ』の家には手を出せないから、私たちを付け狙って結集することを阻止しようとしたのだと思います」

「ど、どうして・・・?」

「この紋章を見たことはありませんか?」

 服部早苗が取り出してきた古文書の表紙には正三角形がふたつ交互に組み合わされた紋様が描かれていた。それはダビデの星だった。

「はい・・・どこかで・・・」

「いまはユダヤの者たちが自分のもののように使っていますが、起源はもっと古くシュメールにあるとも伝えられています。『サイ』と『ミ』と『ム』は、この正三角形の辺であり頂点なのです」

「あっ・・・」

「どうされました?」

「あ・・・あの・・・えっと・・・奈緒ちゃんを・・・その・・・」

「遠慮なさらずに言ってください。一族はひとつなのですから。私たちは家族を越えた間柄なのです」

「わ・・・かりました。奈緒ちゃんを抱いて中に出したときのことです。なぜか頭の中に正三角形が浮かんだんです。それを、とても美しいと感じました」

「たぶん今日の儀式で結花さんも奈緒もそれがわかったはずです。三角形は崩せないのです。そして『サヒ』は、その頂点であり、重なったもうひとつの三角形なのです」

「どんな意味があるんでしょうか?」

 にわかには信じられない話が正三角形のあたりから腑に落ちるようになって、隼人は身を乗りだした。

「三角形の力は強いのです。それが『サヒ』を頂点とするものであれば一族が力をつけ歴史を変えることもできるはずです。傍系の者はそれを畏れたのだと思います。彼らは権力に取り入ることで地位を得ているのですから」

「でも・・・僕は世の中を変えようなんて思わないし、そんな力は欲しくない。ただ・・・早苗さんや、奈緒ちゃん、そして結花ちゃんに出会えたことはうれしいけど・・・」

「力はただの力です。欲して得るものではなく、運命によってあるのです。それを妬む者は力を利用したいだけ。そして『マ』を生じ『ネ』と『ケ』でおぞましい三角形を作るのです」

「『ネ』と『ケ』ですか・・・」

「いわゆる使い魔です。単体では取るに足らない獣だったりするのですが、『マ』に操られると恐ろしいものに変身してしまうのです」

「おとぎ話の世界みたいだ」

 隼人はゴブリンやドアーフの話を思い出していた。

「神話ですね。神話には幾ばくかの根拠があるのです。それを理解できない一般の者が脚色して形を変えてしまいますが」

「その古文書には、そういうことが書かれているんですか?」

「ご覧ください。その文字を読み解ける者が絶えて久しいのです。あなたの前の『サヒ』の時代にはいたというのですが・・・」

 崩れそうなページをめくってみると、そこに書かれていたのは古代文字だった。

「五百年前っていうと・・・」

「『サヒ』が力を及ぼしたのは応仁の乱と言い伝えられています。誰が『サヒ』だったのか、いまでは知る術もありません。はっきり言えるのは、この頃より傍系の者どもが力をつけてきたことです。戦国時代から徳川にかけて『サイ』はより陰の存在になり、いまでは忘れられてしまいました」

「もしかしたら『サヒ』は疫病神なのかも・・・」

 話を聞いているうちに隼人はちょっと暗い気持ちになってしまった。

「強い力を持つ者が出れば、それを妬む者の気持ちも強くなります。あるいは、それが『マ』を生じさせてしまうのかもしれません」

「そうか・・・結花ちゃんのおばあちゃんも言ってた。人の心の裏と表だって」

「ええ。そういう見方もできるでしょう。それに『サヒ』は疫病神などではありません。私たち一族にとっては希望の星であり、大きなよろこびをもたらしてくれる尊い存在なのです。あのときだけでなく、隼人様にお仕えすることは私たちのよろこびなのですから、どうか卑下なさらずに・・・」

「よろこびって・・・そんな・・・」

「生き甲斐と言い換えてもいいでしょう。もしものことがあって、命を投げ出す事態になっても、それは『ム』の大きなよろこびなのです。でも・・・」

「でも・・・?」

「あなたのお父様は、それをよしとはしませんでした。そして、私たちとの交流を絶ったのです」

「なら、僕の力を目覚めさせなければよかったのに・・・」

「いえ、あの方にはお考えがあるようです。隼人様が旅に出れば私たちに出会うのは必然ですから。時代の変わり目を悟っていらっしゃるのでしょう」

「どういうことですか?」

「それは、私の立場からは申し上げられないのです。ひとつ言えるのは一族のあり方が変わるということ。近い将来、私たちはひとところに集い暮らすことになると思います」

「つまり・・・家族みたいに?」

「そうですね。私たちは家族以上の絆で結ばれているんです」

「そっか・・・」

 やっと隼人は元気が出てきた。

「そうなるには隼人様の力が完全なものにならなければ」

「僕は奈緒ちゃんや結花ちゃんと一緒に暮らしたい。もちろん早苗さんとも。そうなれるんですよね?」

「はい」

 服部早苗はしっかりとうなずいた。

 隼人は、ひとつの集落を思い浮かべていた。そこには雄大の家があり、葉月が住み、結花や老婆、そして早苗と奈緒がそれぞれの家に住んでいる。夢のような光景だった。

「夢ではないのです」

 服部早苗が微笑みながら言った。

「そっか・・・早苗さんには僕の心の中が見えるんですね」

「はい。ある程度ですが。『ミ』のようにはっきりとはわかりません」

「なら・・・これは?」

「まあ・・・そんな・・・でも、うれしゅうございます」

 隼人は、ふたたび服部早苗と結ばれることを願っていた。「サイ」の力を借りずに抱きたかった。

「いいんですか?」

「隼人様の望みは私の望みでもありますから」

 服部早苗は妖しく微笑んだ。

 ベッドの上で隼人は服部早苗を味わい尽くしたかった。その願いは成就され、爛れた悦びに満たされた二人は抱き合って眠った。

< 続く >

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