サイの血族 24

50

 一陣の旋風のようだった。

 気がついたときには「ドサッ」と音を立てて絵実が倒れていた。

 蒲郡の夜から五日目。桑名市を通り過ぎて、なにもない田舎道を歩いているときのことだった。

 保奈美の快感を送り込まれた亜実と絵実はすっかりMに目覚めてしまった。術を使って高級ホテルのスイートに泊まっては縛られて貫かれることを要求した。プレイはエスカレートしていき、二人は名古屋でアダルトグッズの店を見つけて拘束具やバイブレーター、双頭のディルドゥまで手に入れてしまったのだ。

 豪華なホテルのスイートルームで拘束されディルドゥでつながった亜実と絵実の姿は扇情的で美しかった。隼人は二人の要求通り交互に後ろから貫き、亜実と絵実はそのたびに滑らかに啼いた。

 本格的なオモチャを使うのは梨花のとき以来だったが、隼人もその楽しさに溺れた。

 おもしろいのは理知的に見える亜実の方が激しく淫れることだった。甘い声で隼人の名を叫んでは何度も絶頂を迎え失神してしまう。

 ともあれ、三人は親密さを増し、夜は爛れた時間を過ごし昼は伊賀を目指して歩いていた。若干目的意識が薄れていたのは否めない。ペースが遅くなってしまったのは若さゆえのことだ。

 五日目ともなり何事も起きず気の緩みがあったのかもしれない。いつもはピッタリと寄り添って結界を作っているのに、ちょっとだけ絵実が隼人から離れた瞬間の出来事だった。

 路上に倒れた絵実はピクリとも動かない。

「何者だ!」

 亜実に緊張が走り身構える。

 亜実と隼人の目の前に黒装束の男が現れた。と言っても忍者の恰好ではない。鯉口のシャツにロングニッカと呼ばれるダブダブのズボンをはいている。

「飛丸!」

 亜実が叫ぶように言った。

「亜実ちゃん、ひさしぶりだね」

 男の口調はクールだった。その顔立ちも涼しげなイケメンだ。

「どうしてお前が・・・」

「俺にもわからん。お前たちが守っているその男を倒せば自由に生きていいとお屋形から言われたまで」

「絵実ちゃん! 絵実ちゃん! だいじょうぶ?」

 男の言葉を聞くよりも絵実の身体を抱き起こして安否を確かめる方が隼人にとって重要だった。

「安心しろ。殺してはいない。それより自分自身のことを心配するんだな」

 男はジリッと隼人に近づく。

「待て!」

 亜実が男と隼人の間に割って入る。燃えるような眼光は完全に戦闘モードに変わっていて隼人に貫かれて喘ぐときの可憐さは微塵もない。

「よせよ。俺はお前たちを傷つけたくはないんだ。昔からの付き合いだし上忍だからな。だから絵実ちゃんだって気絶させただけ。おとなしく、そいつをよこせば、お前たちになんにもしないよ」

「うるさい! 隼人様を守るのがあたしたちの使命なんだ。もう、あたしたちには一族もなにも関係ない。隼人様に危害を加えるなら殺す!」

 そう言って亜実は印を結んだ。

「オンチラチラヤソワカ!」

 呪文を唱えると男の表情が変わった。

「くっ・・・なぜ一族を裏切る・・・」

 額に脂汗を浮かべながら男が言う。

「あたしたちは一族である前にお狐様の末裔。縁のある隼人様を守れとお狐様が降りてきたから・・・ダキニギャチソワカ!」

 一瞬、亜実の背中に後光が見えた。

 男がのけ反る。

「くっ・・・くくっ・・・お前がそのつもりなら仕方ない・・・」

 男は見えない力に逆らうようにポケットに手を入れてお札を取り出した。

 その苦悶の表情を見て、隼人はどこかで見たことのある顔だと感じた。

 男は取り出したお札を亜実へ見せつけるように差し出したあと飲み込んだ。途端に表情が和らぐ。

「これは、お前らの術を封じるためにお屋形がくれたお札さ。亜実ちゃんには恨みはないが・・・ええいっ!」

 気合いとともに男が跳んで、その拳が亜実の腹にめり込んだ。

「がふっ!」

 空気を吐く音がして亜実の身体が宙に浮く。次の瞬間には地面に倒れて動かなくなった。

「亜実ちゃん!」

 亜実を助け起こそうとして駆け寄る隼人より男の動きが速かった。合気道のような技で腕をつかまれた隼人は考える閑もなく地面に転がった。いままでの刺客とはレベルが違う。ほんものの敵が現れたのだと隼人は思った。

「こんな・・・ところで・・・」

 視界の隅に近づいてくる男をとらえながら隼人は金縛りにあったように動けなかった。

「悪いな。お前には何の恨みもないが、これで汚れ仕事とオサラバできるんだ」

 そう言うと男は隼人の襟首をつかんだ。

 どこかを打ったらしく隼人は抵抗できない。

「こうすれば苦しまないで逝けるぜ。せめてもの情けだ」

 男の親指が頸動脈にかかる。

「姉さん・・・琴音・・・結花・・・」

 大事な女のことが次々と脳裏に浮かぶ。

 まるで眠りに落ちていくような浮遊感とともに視界が白くなっていく。

 これが死なのか? 隼人は遠ざかる意識の中で思った。

 しかし次の瞬間、熱をともなって意識が戻った。

 見ると飛丸と呼ばれた男が荒い息をして隼人を見つめていた。

「なぜ俺まで・・・」

 理解できないといった表情で男がつぶやく。

「くそっ!」

 こんどは隼人の気管に手をかける。

「ぐえっ!」

 悲鳴を上げたのは、またしても男だった。

「げほっ・・・げほっ・・・」

 隼人から離れた男はひざまずいて咽せた。

「んな・・・バカな・・・あ・・・あり得ねぇ・・・聞いたことのねえ術だ」

 立ち上がった隼人を見上げて男がつぶやく。その目を見れば戦意を喪失しているのがわかる。

「とびまる・・・さん・・・だったよね・・・?」

「ああ・・・」

 隼人の問いに男が答える。その声には畏怖に近いものすら感じられた。

「僕を殺せば自由に生きられるって言ってたけど」

「ああ、そうだよ。お屋形にそう言われた。でも、もうおしまいだな」

「どうして?」

「しくじった兵隊に待っているものは死だ」

 男はガックリとうなだれている。

「自由になりたかったって・・・どういうこと?」

「俺は妹を守るために兵隊になった。そうじゃないと一族の奴らが・・・」

「いもうと・・・?」

「ああ・・・力を持った一族の女は貴重なんだ。奴らに妹を渡さないために、俺は汚れた仕事を引き受ける兵隊になったんだよ。お前を殺せば妹のところに帰っていいって・・・そして一族はもう手を出さないって・・・だから引き受けたのに・・・」

 記憶の点と線がつながった。

「もしかして・・・もしかしてだけど、飛丸さんの妹って杏奈さんじゃない?」

「ど、どうしてそれを・・・」

「どっかで見た顔だって思ったんだ。思い出した。杏奈さんに似てる・・・」

「お前・・・杏奈を知ってるのか・・・?」

「うん。静岡の家に泊めてもらった」

「なんだって・・・」

「鳶のお兄さんがいるって・・・もしかして飛丸って・・・」

 隼人は杏奈のオヤジギャグを思い出していた。

「それより・・・お前・・・泊まったって・・・杏奈と・・・」

 杏奈の名前が出てきてから男の態度が微妙に変わった。戸惑いと嫉妬が混ざり合ったような、娘から恋人を紹介された父親のような感じになのだ。

「兄弟は・・・殺せない・・・あたしが絵実を殺そうとすれば・・・あたしが死ぬ・・・あんたも同じさ」

 意識が戻った亜実が起き上がりながらそう言った。

「きょ・・・うだい・・・って・・・」

「隼人様は、あんたの弟になったってこと・・・」

「なんだって?」

「鈍いね。いや、わかりたくないって顔してる」

「それじゃあ・・・」

「そうだよ。隼人様が、あんたの妹を一族の者として目覚めさせたのさ。それも正統な『サイ』として」

 亜実は真っ直ぐに男を見据える。

「あたしたちはお屋形様との関係を清算するため伊賀へ行くんだ。お狐様が降りてきてそうしろって言われたから。あんたも行くかい?」

「俺は・・・」

 男は遠くを見るような目をして言った。

「行った方がいいと思うよ。このままトンズラしても・・・いや、あんたのことだから妹のところへ行くつもりだろ? あたしたちの仲間になったその娘のためにも、そうするべきだよ」

「仲間だって・・・?」

「そう。あたしたちの一族は五百年ぶりに現れた『サヒ』の元に集まる運命なんだ。この隼人様の元にね。たぶん、お屋形様のところに兄(あに)さんたちはいない。逃げちまったってさ。だって、あんたの前に襲ってきたのが半助や才蔵なんだ」

「だから・・・俺に・・・」

「そう。あたしの勘だけど、もうお屋形様は終わりだと思う。来る?」

 隼人には、まだわからない事情があるようだった。

「わかった。俺はお前の言うとおりにする。お屋形にあって真偽を確かめる」

 男は決意を込めた口調で行った。

「さすが、飛丸。敵ながらあっぱれ・・・かな。おっとこらしぃ」

 いつの間にか気がついていた絵実が言った。

「あ、絵実ちゃん・・・よかった・・・」

「隼人さまぁ・・・ごめん・・・守れなかった・・・」

 そう言って、しょげる絵実がほんとうにかわいく見えた。

「あたしが悪いんだ。結界を緩めちゃったから。ほんとにゴメン」

 絵実は隼人にすがりついて言った。

「それより大丈夫? どこか打ってない?」

「あ~ん・・・もう。隼人さまったら、やさしいんだからぁ。キュン」

 目の前に飛丸がいるのを気にする様子もなく絵実はバストを隼人の腕に押しつけた。

「あっ・・・こら! やめろ!」

 飛丸が制止する。

「どして?」

「だって・・・そいつは・・・杏奈の・・・」

「なによ?」

 絵実の目が挑戦的に光る。

「杏奈が・・・」

 飛丸は言葉が見つからない。

「バッカじゃないの。隼人様は『サイ』の長なんだよ。あんたは妹が選ばれたのをよろこぶべきなのに」

「お・・・さ・・・?」

「あんた、お屋形様が一番偉いと思ってたんでしょ。あのね、この際だから教えてあげるけど、あたしたちの一族は傍系なの。だからお屋形様は隼人様を殺して自分が本家の長になりたかったの」

「・・・」

 飛丸は何かを考えているようで言葉が出ない。

「腕は立つけど、相変わらずバカだね。てか単純すぎ。もう、あんたは長の兄弟になったんだよ。それは、あんた自身がわかってるだろ。隼人様に手をかけられないんだから」

「ん・・・んんん・・・たしかに、そうだが・・・杏奈に会って確かめたい」

「だったら、そうしなよ。あんたの妹だって、あたしたちと同じで、隼人様と一緒になれてよろこんでるはずだよ」

「もし・・・そうなら・・・俺は・・・これから、どうすればいいんだ」

「それも、わかってるはず。認めたくないだけ」

「俺は・・・こいつの・・・家来になる・・・のか・・・?」

「そうだよ」

「もし杏奈が悲しんでいたら・・・俺は、こいつを許さない・・・」

「あ~あ、やんなっちゃうなぁ。悲しんでるわけないじゃないか。どうして一族にはシスコンが多いんだろう? あんた童貞だろ?」

「な・・・なにを・・・」

 飛丸が困惑の表情を浮かべる。

「オンシラバッタダキニソワカ」

 絵実が印を結んで呪文を唱えた。

 飛丸の眼から光が消え棒立ちになる。

「あたしたちについておいで」

 絵実はそれだけ言って歩き出した。

「ちょ・・・ちょっと、絵実ちゃん・・・なにを・・・」

「あたしも、それ、いい考えだと思う」

 亜実が言った。

「亜実ちゃんまで・・・」

 わけもわからず、隼人も二人についていく。

「ねえ、飛丸。あんた、どんな女が好みなの?」

 亜実が飛丸に話しかける。

「俺は・・・妹を守ることしか頭になかった・・・だから、女を好きになったことはない・・・」

 飛丸は抑揚のない口調で答える。まるで原稿の棒読みだ。

「たしか、青龍の兄さんたちから妹を抱いて目覚めさせろって命令されて拒否ったんだよね?」

「そうだ」

「どうして?」

「俺は・・・杏奈にお袋や親父の二の舞はさせたくなかった・・・」

「抱きたかったのに?」

「んぐ・・・」

 飛丸は言葉に詰まる。

「正直に言いな。抱きたかったんだろ?」

「そ・・・そうだ・・・」

 そう答える飛丸は術がかかっているのに苦しげだった。

「あんたの妹は隼人様のおかげで解放されたんだ。こんどは、あんたの番だよ。あんたの想いを精と一緒に出さないとわだかまりが残る。だから、あたしたちが助けてあげる。ほんとは、あたしたちが相手をしてあげるのが筋なんだけど、それはお狐様が赦さないから、あんたの好みを聞いているのさ」

「ねえ、どんなタイプが好みなの?」

 こんどは絵実が聞いた。

「あ・・・う・・・朱雀の・・・麻実が・・・好きだった・・・」

「きゃ~・・・ロリコン・・・だったんだ」

 亜実と絵実が口を揃える。

「だれ? 麻実って・・・?」

「あのね。一族の秘密兵器。見た目は幼くってさ。それを利用して偉い人とエッチしてスキャンダルにするんだ。ほんとは、いい年なんだけどね」

 隼人の問いに亜実が笑って答える。

「ふ~ん・・・」

「さすがにマズイよねぇ・・・」

 絵実が言う。

「そう・・・だね・・・」

 亜実が答える。

「なにが・・・?」

「あのね。麻実姉さんは小学生にしか見えないの。これから隼人様に術を使ってもらって女を調達して、こいつに抱かせなきゃならないんだ。そうしないと、こいつ、妹が好きだったもんだから怨念が残っちゃうんだよ。一種の儀式だね。でも、ほんとうの小学生を術で拐かしたら・・・いくら小説だって・・・」

「なんのこと?」

「いや、ちょっと脱線。ところで、こいつの妹ってどんなタイプだったの?」

「あっ・・・ええと・・・ヤンキーかな」

「だったらヤンキー娘を探して『サイ』をかけてよ。できるだけ、こいつの妹に似たやつがいいな」

「そんなことして、いいのかなぁ・・・」

「気にしない、気にしない。それに『サイ』をかけられた女って幸せになれるんだよ。みんなが気持ちよければ、それでオッケーじゃない」

 こんどは絵実が答えた。

「う~ん・・・」

 そんな会話を交わしながら四人は歩き続けた。

 気がつけば四日市の市街地に入っていた。

 商店街の裏手に若者たちがたむろしている。

「ねえ、ねえ、あの娘は?」

 絵実が指さした先にはウンコ座りをした金髪の女が煙草をふかしている。

 染めた髪は一見して痛んでいるのがわかる。生え際が黒くて、いわゆるプリン状態だが、それでも絵実が選んだだけあって、たしかに整った顔立ちをしているし、どことなく飛丸に雰囲気が近い。なによりド派手なジャージを持ち上げている豊かなバストが杏奈を彷彿とさせた。

「うん・・・似てるかも・・・」

「じゃあ決定。あの娘に『サイ』かけて」

「でも・・・みんなが見てるよ・・・」

「大丈夫。任せて」

 亜実と絵実はその娘を挟むようにして立つと印を結んだ。

「これでOK。結界を作ったから誰にも見えない。早く!」

 蒲郡のホテルのときと同じだった。隼人は考える閑もなく「サイ」を唱えていた。いや、ためらう気持ちが薄かったのはヤンキー娘のエッチな姿が見たいという欲望もあったからだ。それほど、その娘はいい身体をしていたし、男好きのする顔立ちをしていた。

「かけたけど、どうすればいいの?」

「まずは場所を探さなくっちゃ。ついて来るように言って。それより、この娘に大きなホテルがあるか聞いた方がいいね」

 蒲郡の一件以来、亜実と絵実はホテル好きになっていた。

「うん。わかった」

 隼人は亜実の指示に従う。娘は駅前に高層ホテルがあると答えた。五人はそこへ向かう。

「スイートルーム空いてるわよね? 鍵ちょうだい」

 ホテルに着くなり絵実はフロントでそう言った。後ろでは亜実が呪文を唱えている。

 フロントマンは無表情にキーを差し出す。

「あたしたち、お腹が空いてるの。おいしいものルームサービスで持ってきて」

「カフェメニュー、中華、日本料理、お鮨などがございますが・・・」

「だったら、お鮨にして。六人前ね。お茶とかも忘れないでね」

「かしこまりました」

 フロントマンの口調には抑揚がない。

 こうしてスイートルームに収まった五人は腹ごしらえを済ませた。

「すっごい豪華なお鮨だったね」

 絵実は満足そうだ。

「それより、どうすればいいの? こんなことしていいのかなぁって思えてきて」

 隼人は呆然としている飛丸とヤンキー娘を見ながら言う。

「いいの。まずは二人に暗示をかけなくっちゃ。どんなのがいいかなぁ?」

 絵実は隼人の躊躇など意に介していない。

「まずは、この娘に飛丸のことをどう思わせるかね」

 亜実が言う。

「僕・・・それ、できるかも・・・」

「どういうこと?」

「あのさ、前に僕のことを初体験のお姉さんだって思わせたことがあるんだ」

「えっ、なに? よくわかんない」

「ええと、僕に各地の泊まるところを教えてくれた女の人がいて、そのひとつが妹のところだったんだ。で、その妹の初体験の相手がお姉さんだってわかって、僕のことをお姉さんだと思わせて・・・」

 隼人は梨花と麻衣のことを話し出した。

「わっ、ややこしい。それって姉妹でレズってたってこと?」

 亜実は自分たちのことを棚に上げて顔をしかめる。

「うん」

「で、妹の方に暗示をかけたの?」

「うん・・・暗示って言えばそうなんだと思う」

「隼人様が相手して・・・その・・・」

「うん。初体験のお姉さんだと思ってた」

「すごい」

「他にもあるけど・・・精霊だって思わせたり・・・」

「やり方教えて・・・てか、この娘にやってみて」

「わかった。飛丸さんに初体験させればいいんだよね。杏奈さんだと思わせて」

「それができたら理想的。でも、すごく高度な技だよ。それができちゃうなんて、さすが隼人様」

 絵実が憧れるような顔で言う。

「とにかくやってみる」

 隼人はそう言うと娘の方へ向き直った。

「君の名前はなんていうの?」

「由美・・・です・・・」

 トランス状態特有の声で娘が答える。

「そっか。でも、これから君は生まれ変わって杏奈っていう名前になるんだ。言ってごらん」

「あん・・・な・・・」

「そう。もう一回」

「あんな・・・」

「そう。君はだれ?」

「杏奈・・・です・・・」

「そう、君は杏奈だ。杏奈ちゃんにはすてきなお兄さんがいる。ずっと憧れていた。名前は飛丸・・・」

「ちょっと待って」

 隼人がそこまで言ったとき亜実が口を挟んだ。

「なに?」

「飛丸って呼び名だと思うんだ。忍者になるとき本名は使わないから」

 たしかに鳶の飛丸なんてできすぎている。

「そうなんだ・・・どうしよう・・・」

 隼人が言うと亜実は飛丸の方へ向いて言った。

「飛丸、あんた本名はなんていうの?」

「服部・・・利秋・・・」

「へぇ、かっこいい名前じゃん。で、妹はあんたのこと、なんて呼んでたの?」

「トシ兄ちゃん・・・って・・・」

「そっか、わかった。しばらくおとなしくしてな」

「は・・・い・・・」

「だってさ」

 亜実が隼人の方に向き直ってピースサインを出した。

 隼人もうなずいてウインクする。

「ごめん、杏奈ちゃん。飛丸は間違いだった。名前は利秋。いつもトシ兄ちゃんって言って慕ってた。そんな憧れのお兄さんに君は処女を捧げたいとずっと思ってた。そこにいるのがトシ兄ちゃんだ。長い間会えなくって、やっとここで二人きりになれた。もうチャンスはない。杏奈って名前を呼ばれると、君は他にいる人のことが見えなくなって、たまらなくなって服を脱いで求めてしまう。わかった?」

「はい・・・」

 娘は深くうなずいた。杏奈の告白を聞いているからストーリーを作るのは楽だった。

「これでいいかな?」

 隼人は亜実に言う。

「うん。完璧だと思う。あたしもやってみる。絵実、フォローしてね」

「まかせて」

 絵実は印を結ぶと小さな声で呪文を唱えはじめた。

「飛丸」

「は・・・い・・・」

 相変わらず飛丸の目は虚ろだ。

「もう、ここにあたしたちはいない。正確に言うと、あたしと絵実と隼人様のことは見えなくなる。声だけは聞こえる。どう、あたしが見える?」

「いいえ・・・見えません・・・」

「そこにいる女は?」

「見え・・・ます・・・」

「そこにいる女が誰だかわかる?」

「いいえ・・・」

「大事な妹を忘れちゃったの? そこにいるのは、あんたの妹だよ。あんたは妹とふたりっきりでここにいるんだ。自分の気持ち、ほんとうの気持ちに正直になって相手をしてあげな」

 そう言われて飛丸はベッドに座っている娘をしげしげと見つめた。

「あん・・・な・・・」

 飛丸が言うと娘が顔を上げた。

「杏奈・・・なのか・・・?」

 飛丸の顔に驚きが走る。

「トシ兄ちゃん・・・あたし・・・」

 娘の潤んだ眼が飛丸に向けられる。歯車が回り出した感じだった。

「杏奈、どうしてここに・・・?」

「だって・・・トシ兄ちゃんが好きだから・・・」

 娘はジャージを脱ぎはじめる。

「杏奈・・・なにを・・・」

「ずっと・・・ずっと好きだったの・・・」

 一瞬、隼人は娘に自分のことを「あたい」と呼ばせなかったことを後悔した。飛丸に暗示であることがバレてしまうんじゃないかと思ったからだ。しかし、術をかけられて自分のことを梨花だと思い込んでしまった麻衣のことを思い出して様子を見ることにした。

 杏奈になりきった娘はジャージの下も脱いでキティちゃんがプリントされた上下揃いの下着姿になっていた。金色に染めた髪、細く描いた眉毛、見るからにヤンキー娘の身体は想像以上にエロティックだった。

 娘の手がブラジャーのフロントホックに指がかかる。

「よせっ!」

 そう言いながら飛丸の目は娘のバストに釘付けだった。

「どうして? トシ兄ちゃんはあたしのこと嫌い?」

「や・・・やめるんだ・・・杏奈・・・」

「嫌い・・・なんだ・・・」

 娘の瞳に涙が浮かぶ。

「ち、ちがう・・・俺たちは・・・兄妹・・・なんだぞ・・・」

「でも、あたしトシ兄ちゃんが好きなの・・・あたしの処女は・・・トシ兄ちゃんにあげるって決めてたの・・・」

 そう言ったときにホックが外れて豊かなバストがこぼれるように露出した。その大きさに比べて乳首が小さく色の薄いところも杏奈と似ていた。

「やめろ・・・杏奈・・・やめるんだ・・・」

 飛丸は土下座するような恰好になって叫んだ。

「犯っちゃいな、その娘はそれを望んでる。犯っちゃいな、犯っちゃいな」

 亜実と絵実が飛丸の両脇に移動して高い歌うような声でささやいた。それは豊川稲荷から隼人を呼んでいた妖精のような声と同じだった。

「くっ・・・くくっ・・・」

 その声に逆らいきれず飛丸は顔を上げる。

 ちょうど娘がショーツを足首から抜くタイミングだった。

「あん・・・な・・・」

 渇いたような声で飛丸が娘を呼んだ。その視線は交互にバストと茂みを彷徨っていた。

「トシ兄ちゃん・・・見て・・・好きにしていいんだよ・・・」

 娘が両手をひろげる。

 場の空気が変わった。

「うおぉぉぉっ!」

 飛丸は獣のような声を上げて娘に飛びかかっていた。

「杏奈! 杏奈ぁ!」

 そう叫んで飛丸は娘の乳首にむしゃぶりついた。

「ああっ! トシ兄ちゃん・・・うれしい・・・」

 娘はその頭を抱えるようにしてバストに飛丸の顔を押しつけた。

 隼人は手を伸ばして娘の額に手を触れると軽いオーガズムを送り込む。

「ああ~んっ!」

 娘がのけ反る。

「トシ・・・兄ちゃん・・・うれしい・・・」

 痙攣しながら娘は絶え絶えに言った。

 飛丸は血走った目でそんな娘を見ながら立ち上がり大急ぎで服を脱いだ。

 節くれ立った屹立が天を向いていた。

「おおおっ!」

 飛丸が驚きとよろこびが入り混じった雄叫びを上げる。起き上がった娘が愛おしそうに屹立をくわえたのだ。

「あ・・・ん・・・な・・・ううう・・・お前・・・そんなに俺を・・・」

 仁王立ちになったまま飛丸が呻く。

 そんな飛丸を上目遣いで見上げる娘。その瞳には万感の想いがこもっていた。暗示をかけた隼人でさえ杏奈が憑依したのではないかと思えたほどだ。

「だめだ・・・出る・・・」

 目が合ったとき飛丸が言った。

 娘はその言葉を聞いてアイスキャンディーを舐めまわすように屹立をしゃぶる。

「うおぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 飛丸の咆哮が部屋中に響いた。

 筋肉質の尻が二度三度と引き締まる。

 それでも娘は屹立から口を離さない。

 ゴクリと音を立てて樹液を飲み干した後も熱心にしゃぶり続けている。

 すぐに硬度が甦っていくのが頬の膨らみを見るだけでわかる。

 また飛丸の目の色が変わった。

 なにかの技だろうか、娘の身体をベッドの上に投げ飛ばす。

「こんどは俺の番だ!」

 そう叫んで両膝に手をかけて大きく足を開かせると秘肉に貪りついた。

「ああんっ!」

 娘が喘ぐ。

「杏奈ちゃんはトシ兄ちゃんにされると今までにないくらい感じて何度でもイッちゃうんだ」

 隼人が娘の耳元でささやく。

「いやっ! いやぁ~っ!」

 暗示との相乗効果で娘は絶叫しながら痙攣を繰り返した。

「トシ兄ちゃん・・・もっと・・・あああっ!」

 乱暴にバストを揉まれながら秘肉を嬲られ娘は甘い声を上げ続ける。

「犯っちゃいな、犯っちゃいな」

 妖精のような亜実と絵実の歌声が響く。

「いくぞ! 杏奈!」

 その声に促されるように飛丸が上半身を起こした。

「トシ兄ちゃん・・・来て・・・」

 潤んだ眼をして娘が答える。

「そうだよ。そこだよ。手を添えて・・・一気に・・・思いの丈を・・・」

 飛丸は亜実と絵実の声に従って屹立をあてがい一気に挿入した。

「うあぁぁぁぁぁっ!!!」

 濡れきった蜜壺は容易に屹立を受け入れ、娘はあらん限りの声で喘いだ。

「俺は・・・お前が・・・ほんとうは・・・こうしたかった・・・」

 律動の合間に飛丸が切れ切れに言う。

「あたしも・・・うれしい・・・ああっ! また・・・ああんっ!」

 飛丸の動きに身を委ねた娘も喘ぎ続ける。

「涸れるまで・・・何度でも・・・好きなだけ・・・気のすむまで・・・」

 亜実と絵実がささやく。

「おぉぉぉっ!」

「いやぁぁぁっ!」

 二人が同時に絶頂を迎えた。

 二人の身体が解け合ったように見えた。

 その神々しさに隼人は男女の交わりは美しいものなんだと再認識していた。

 同時に激しく欲情していることに気がつく。それは亜実と絵実も同じだったらしい。二人は服を脱ぎはじめていた。

「隼人さまぁ・・・あたしたちにも・・・」

 全裸になった二人は隣のベッドの上に並んで四つん這いになり尻を突き出していた。

「う・・・うん・・・」

 隼人も服を脱ぐ。

「まだ俺の気持ちは済まない・・・」

 その横で飛丸は半ば意識を失っている娘の身体を裏返して腰を抱えていた。

 秘肉から飛丸の樹液がしたたり落ちているのが見える。

 隼人が亜実に挿入するのと同時に飛丸も娘を後ろから侵していた。

「ああ~んっ!」

「あああぁぁっ!」

 亜実と娘の喘ぎが同時に響く。その二人の感覚を隼人は絵実に送り込んでみた。

「いっ! いやぁっ! だめ・・・死んじゃう・・・」

 二人分の快感を送り込まれた絵実は激しく悶えた。

 淫気が渦を巻いたような妖しい空気が部屋中を支配していた。

 飛丸は激しく腰を振り続け、肉を打つ音が隼人の興奮をそそった。

 隼人は亀頭のカリを使って亜実の肉襞をこするようにしてGスポットを刺激する。本人から教えられたウイークポイントだ。あっという間に、すすり泣くような声をあげて絶頂してしまう亜実。こんどは、その感覚を娘に送り込む。

「あうぅぅっ!」

 シーツを引き裂くように握りしめて娘が叫ぶ。

「なんだ・・・これは・・・」

 飛丸が目を剥いた。

 娘は激しく痙攣して蜜壺が収縮を繰り返していたのだ。

「こ・・・これが女・・・これが杏奈の肉・・・」

 そう言って飛丸は三度目の精を娘の奥深くに放っていた。

「あああああっ!」

 奔流を受けた娘はそう叫ぶとガックリと弛緩してしまう。

 膝をついたままの姿勢で飛丸も放心していた。

 萎えた肉棒と陰毛は蜜と樹液でベットリと濡れている。

 隼人はそれを横目で見ながら失神した亜実から離れて絵実に挿入していた。

 正気の沙汰ではないように思えた。それなのに、なにか達成感というか清々しいものを隼人は感じていた。そして絵実の中へ精を放ったとき狐の顔が頭に浮かんだ。すべては狐と「サヒ」であった先祖の業なのだと悟っていた。

 隼人は果てたときには亜実と絵実、そして飛丸と娘も気を失っていた。

 部屋に充満していた妖気が隼人の内部に入ってきた。それは能力がより強くなったことを意味していた。

 立ち上がった隼人は四人の裸体を見下ろしながら、自分が「サヒ」であることを今まで以上に感じていた。

< 続く >

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