軽トラに乗った白馬の王子様

 夏祭りの夜が、始まりだった。川辺の公園会場では花火が上がり始め、そろそろと屋台が撤収しだす頃合いに、僕はその機材を受け取るために軽トラックを走らせていた。川辺の細い道路には、ちらほらと帰り足の人影。間違っても轢いてしまわぬように、自転車にも劣る速度で最徐行する。

「夏祭りなんて……何年も行ってねぇな」

 ぼやきながら打ち上げられる火花の飛び散りっぷりを横目に軽トラを走らせる。帰り足だった人影も、大きな花火が打ち上がると足を止め、夜空を仰いでいる。それでものろのろとした軽トラックの接近に気付けばみんな避けてくれる。軽トラックだから祭運営の関係者と慮ってくれている感がそれとなく伝わってくる。だから人避けにわざわざクラクションを鳴らしたりすることはなかったし、よっぽどのことがあっても窓から顔を出して「悪ぃけど避けてくれねっすか?」で万事解決する話だった。なのにその時ばかりは様子が違った。道の真ん中で花火を見上げたままの浴衣少女が、軽トラに背を向けたままで動こうとしないのだ。今打ち上がった花火が散り消えてしまえばこちらに気付いてくれるだろうと待ってみるものの、浴衣少女はそのままの姿勢で次の花火を待っているようだった。浴衣少女は一人だった。なんだろうね、まだまだ祭の花火は花盛りという頃合いに若い子一人で帰り足というのは。門限が厳しいので早めの帰宅なのだろうか? なにか急用があってのことなのだろうか? それともお祭り会場で片恋の男の子が他の女の子と一緒にいるところを見てしまったとか? お祭り会場に後ろ髪を引かれるように花火を見上げたまま立ち止まる少女の姿は、見ているこちらの心をキュッと締め付けるような繊細さが感じられた。また花火が打ち上がる。淡い水彩画のように川沿いの景色が彩られる中、少女の影は無彩色のままだった。避けてくれるように声を掛けようにも、そうしてしまったら浴衣少女が儚い硝子細工のように壊れてしまいそうだったので、苦肉の策として僕は軽トラのライトをハイビームにして、パッシングを送った。

「……………」

 しかしそれでもこちらに気付く気配のない浴衣少女。フォトショップでAV女優の写真を加工したかのように、ハイビームを浴びた少女のうなじは色白に照り、若々しい妖艶さを僕に見せつけるばかりで微動だにしない。もう一度パッシング。しかし反応は無い。

「……おいおい」

 いささか焦れったくなってきた僕は、緩慢な指裁きでパッシング操作をする。

「ド・イ・テ・ク・レ」

 そう念を込めて、続けて五回のパッシング。するとどうだ、浴衣少女はいよいよ軽トラックを振り返った。小顔で可愛らしい童顔が、軽トラックの僕を見て、目を大きくした。そしてやっと浴衣少女は道脇に避けてくれた。すでに初年度登録から三十年になるオンボロ軽トラックにエアコンはついておらず、精一杯全開にしてあった助手席側の窓から、僕はすれ違い様に浴衣少女に声を掛ける。さすがにパッシングしてしまったのだから、ちょっと謝っておきたい。今の世の中、これくらいのことで簡単にクレームが来るんだもの。

「悪かったね、ごめんよ」「あのっ!」

 驚いた事に浴衣少女が助手席ドアにしがみつくようにして声を上げた。僕は驚いてすぐにブレーキを踏んだ。

「危なっ!」「あのっ……! あのっ……!」

 助手席窓から頭を突っ込んだ浴衣少女の瞳は、不思議とうっすら涙ぐんでいて、打ち上がる花火の極彩色を受けて輝いていた。オンボロ軽トラックの、いつ後付けしたのかも忘れた古いカーステレオからドリカムの未来予想図2がどうにか聴き取れる程度にノイジーに流れている。ブレーキランプ五回で「ア・イ・シ・テ・ル」のサインだとよ。

「私も愛してますっ!」

 そう叫んだ浴衣少女が勝手に軽トラの助手席に乗り込んできた。

 猫が三十年生きると尻尾が二つに分かれて猫又になり、二足で立ち、人語を操ると聞く。ならば初年度登録から三十年のオンボロ軽トラックも猫又に倣って、なにかしら特殊な能力を身につけてしまったのかもしれない。ほら軽トラの荷台は三方開きだから、二尾の猫又よりも更に特殊な能力を会得するのかもしれないね。製造時から三つ分かれの三方開きだけど。

「子供は、何人欲しいですか? 私は四人かなぁ、まだ全然若いから、四人くらい大丈夫ですよ?」

 名前も知らない浴衣少女が僕の子供を産むつもりで微笑んでいる。

「お兄さんはご兄弟はいらっしゃるんですか? あ、ご長男なんですか? ふぅ~ん、そうですかぁ……」

 微笑みの裏側で僕の両親の老後の世話をしたたかに勘案する浴衣少女。すると流れるようにスムーズにスマホを取り出して誰かと話し始める。

「あ、お母さん、私だけど。今日ね、友達のところに泊まることになったから。……違うって、男の人なんかじゃないって。あなたの娘、そんな積極的な性格してないでしょ? ね?」

 そして外泊許可まで得た浴衣少女は水を得た魚のように、もうすぐにでも抱きついてきそうなのだ。少女の座る助手席側が暑い。この子、平熱が高いんじゃないかな~なんて的外れなことを考えてみたくもなるが、とにかく浴衣少女は女として発情しているのを隠さなかった。

「ちょっと待てよ君、僕と君とは名前も知らない初対面同士なんだぞ? なにがどうしてこんなことに?」

 あまりのことに唖然として成り行きを見守っていた僕は、ようやく言葉を発する。ま、若くて可愛い浴衣少女がドアを開けて乗り込んできたなら、驚きこそすれど、無下に追い出すことも適わぬ下心もあったとかなかったとか。

「どうしてって……そんなの……決まってるでしょ? お兄さんのことが大好きだからだよ、ね?」

 首を傾げて小悪魔的に微笑んだ浴衣少女は、何を思ったのか浴衣の裾に両手を入れる。そして両膝を抱えるような姿勢になったと思ったら、少しぎこちない動作ながら一気に足首まで下着を脱ぎ下ろした。

「やだ……そんなに見られちゃ恥ずかしい」

 下駄を履き慣れてなさそうな足先に下着を絡ませながらも、なんとか下着を両脚から脱がせることに成功する。その一部始終を僕はじっと眺めてしまっていた。

「お兄さん、エッチだね」

 脱ぎ取った下着を、なんと浴衣少女は助手席窓から外へと放り投げる。あっ、と思って見送った先には人影がちらついていた。さして広いわけでもない川辺の道に停車していて、それだけでも悪目立ちしているのに、窓から下着を投げ捨てたとなったら――そんな心配事をしていると、カチャン、と金属音。それと同時に身体を斜めに走っていた圧迫が抜ける。

「お前、ベルトを……っ」

 手際よくシートベルトを外してくれた浴衣少女は、そのまま僕の股間に頭を埋めた。こちらもあっさりとズボンのベルトを外してくる。そしてズボンと下着をずり下げ、僕の性器を露出させる。まだ初めての雰囲気が香る浴衣少女のお手並みに、やたらと僕の下心は打ち震えていた。

「おっきくなってるね」

 浴衣少女の湿気った吐息が性器に吹きかかる。それだけで背筋がゾクゾクとくる。なにせ今日一日、僕は夏祭りの設営準備に奔走していたので作業着の下は汗まみれ。再度言うが軽トラックはオンボロでエアコンなんか付いていない。夜になって少し涼しいが、日中は蒸し風呂のような暑さだった。当然のように股間が一番蒸れている。浴衣少女にズボンと下着を下ろされると、モワッと臭気が上がってきたのがわかる。汗でべったべたの身体をして、今すぐにもシャワーを浴びて汗を流し、空調を強めに効かせた部屋でキンキンに冷えたアルコールを煽って布団に飛び込みたい気分。ようやく衣類の覆いから解放された僕の性器は、それをずっと待ち焦がれていたとばかりに大きく伸び上がった。そんなタイミングの僕の性器を、きっと処女だろう少女が、涼しげな浴衣姿をしながら口に咥えてくるのだ。

「はぅぅっ!!」

 僕はみっともなく呻いてしまった。小顔な子らしく浅い口内で舌がねっとり絡みついてくる。今の今までずっと蒸し暑さに倦んでいた性器には、温かいはずの少女の口内が冷たく心地良く感じられる。汗まみれになって働いた帰りにピンサロで冷たい消毒タオルに拭かれるのとフェラチオされるのとを同時に行われているような気分。

 しかし、明らかにこちらを訝しんでいる様子の男性がこちらに近づいてきていた。僕は浴衣少女にフェラチオされたままの状態で、慌てて窓を閉めるとクラッチを踏む。浴衣少女の身体に押されてギアシフトが倒れてまったが、たぶん三速ギアに入ったのだろうと高をくくってアクセルを吹かし気味に半クラッチを繋ぐ。ノロノロと走り出した軽トラックを、ちょうど夏祭りの花火からも隠れてしまう木立の影に滑り込ませると、ヘッドライトを消した。そうしている間も浴衣少女は裏スジを丁寧に舐めあげてくれて、夢心地を提供してくれる。エンジンを切った静かな車内で淫らな水音を鳴らす浴衣少女のリアリティに僕はまるで不安で、この時になって初めて少女の髪に触れた。すると気の利いたピンサロ嬢よろしくフェラチオを深くしてくる少女に目が回る。せめての安全確保のためにブレーキペダルを踏みしめている右足がガクガク震え、汗まみれの全身が一層汗ばんでくる。夕飯もシャワーもアルコールもいらない、もうベッドに横になりたいばかりの心境の僕は浴衣少女にされるがまま、軽く白目を剥く。ようやく少女の温かみを性器が感じられるようになった頃、少女は股間から顔をあげた。
「そろそろ挿れてもいいよ、ね?」

 それまでフェラチオしていた口内の生唾を、喉を鳴らして飲み込みながら言う。僕は何も答えられない。一体全体この急展開はなんなんだ? 可愛い浴衣少女が軽トラに乗り込んできたと思ったらフェラチオを始め……ほら、もう僕に跨がってきている。

「挿・れ・ちゃ・う・ね?」

 子供っぽい甘い声の少女は浴衣の裾を左右に開いて下腹部を露出させる。状況が飲み込めなくて混乱しているはずの僕の視線は少女の下腹部に釘付けになる。そしてほとんど癖で、当然のように手を伸ばして触れていた。毛がなかった。

「んぅっ……あ、あのね、剃っちゃってるんだ。この前、海に行ってビキニ着たからね。処理しておかないと……恥ずかしいでしょ? でも……毛がないのは子供っぽいかな?」

 子供とビキニという単語で連想するのは児童ポルノ的に危険なジュニアアイドル系のイメージビデオだったが、指先に感じる浴衣少女の割れ目はギリギリセーフなくらいに熟しているようだった。

「子供っぽくてもいいよね? だって、私だもんね。好きだよ、お兄さん」

 ぎこちなくも僕の性器の先端を膣口に宛がった浴衣少女は、僕の首に腕を回してギュッと抱きついてくる。そしてゆっくり腰を沈め始める。

「ちょ、ちょっと! 君、待てってっ! 今、何してるかわかってるのか!?」「わかってるに決まってるでしょ? 私の初めてのエッチだよ」

 そう言っている間にも浴衣少女は腰を沈めてくる。亀頭は膣口に沈み込み、狭隘な処女肉に挟み込まれて苦しい。将来は四人の子供を産みたいと積極的な浴衣少女だけあって、未熟な骨盤の大きさなのに濡れ方は大人顔負けの激しさ。それでも当然、処女肉はキツキツで、陰茎の皮膚が削ぎ落とされていくような挿入感。

「んっっっぅ……! へへ……やっぱり初めては痛いんだね。今、処女膜が破れた感じがあったよ?」

 破瓜の痛みに声が震えているのに、気丈に振る舞う少女の健気さに愛おしさすら込み上げてくる。抱きついてくる少女を両腕で抱き返すと、女の子特有の甘い香りが鼻腔一杯に広がる。そして浴衣からはほのかに防虫剤・ナフタリンの匂いがする。きっと実家で大事に箪笥の奥に仕舞われていた浴衣なのだろうと思うと、それを着た少女の処女を貫いた事への罪悪感が湧いてくるような気がする。けれど同時に、大切な一人の少女を姦通する悦びも湧き上がる。浴衣少女をきつく抱きしめながら、その下腹部を怒張へと引き落としていく。処女への挿入感を一ミリ一ミリ味わい尽くすように、ひどくゆっくり。全身にあった疲労による重みが、全て快楽に置き換わっていく。身体の境界線が溶けて消えてしまい、浴衣少女と股間と股間で繋ぎ合わされてしまいそうな窮屈な挿入感に酔い痴れ、思考がトロンとしてくる。軽トラックで浴衣少女にパッシングした時、それがどういうわけか浴衣少女の心に催眠のような効果をもたらしたのではないかという推察をした僕の心は、もう浴衣少女に夢中になってしまってそれどころではない。

「あぅん……もうすぐ……全部挿いっちゃうね。挿いったらキスしようね? 私の最初のキス、ファーストキスだよ」

 発情した浴衣少女の呼吸は小刻みに早く、発作を起こしたかのよう。全部挿入するまであと数センチというところで、少女は我慢しきれなくなったとばかりに一気に腰を落とし、僕の唇に自分の唇を押しつけてきた。キスと言うよりも唇の押し潰し合いのようなキスをして、お互いの舌を絡めて吸って甘噛みして。少女の額からぽたぽた汗が滴ってくる。僕だって顔中が汗まみれだったが気にしない。互いの熱気で蒸し暑い軽トラの中だもの、浴衣少女の華奢な身体も汗ばんでいて、それが僕の興奮に油を注ぐ。ついさっきまで生娘だった少女の腰を力尽くで引き寄せる。最大限根元まで挿入を果たした密着感に、少女を想う。浴衣少女はむしゃぶりキスを止めると、切ない甘い声で囁くのだ。

「あのね、やっぱり処女だったから、今日はおまんこの方をあんまり虐めないで欲しいの。でも次にエッチする頃には大丈夫になってると思うから、ね? さっきのフェラ、いっぱい頑張ったもん、もうイキそうだったよね? ごめんね、でも……今日だけはすぐにイッて、ね? すぐに出しちゃって欲しいの」

 浴衣少女は腰を動かし始める。グジュグジュと水音を鳴らし、キツい締め付けなのに優しいストローク。

「出して、出して、出して、出して……」

 面倒臭がりの風俗嬢のそれとは違う、浴衣少女の僕への射精希求。なにせ処女肉がやたら蠕動して気持ち良く、下りてきた子宮口が亀頭の先端に吸い付いてくる。

「出して、ね? 出しちゃっていいんだよ? 中出ししてよ、早くぅ」

 甘え声の浴衣少女は妊娠したがりの恋人のようで、それだけでも射精感が昂ぶってくる。愛液は溢れんばかりで、これほど濡れているのに痛いのかと疑問に思うほど。僕の方は最高潮に気持ち良く、こんな風に射精を求められることに心が幸福に満ちていた。

「出して、出して、出して、出して、中に出してっ」

 浴衣少女が催眠に掛かってしまったのではないかと考えていた僕の方が、今まさに少女に催眠に掛けられ、射精に導かれていくようだった。

「中出しして、中出し、中出し、中出しして」

 可愛らしい女の子の声で。

「欲しいの、欲しいの、お兄さんの精液が欲しいのっ」

 射精を求められる声に脳が溶けていく。

「いっぱーい出して。溢れるくらいいっぱい。この一回で妊娠するくらいに勢いよくだよ? 出し惜しみしちゃダメだよ?」

 この時、処女を失ったばかりの少女の腰は動きを止めており、少女は僕に囁くばかりだったが、僕はそのことに気付く余裕はまるでなかった。耳朶を震わす少女の声が快感だった。巨大な注射器を両方の耳穴に突っ込まれ、快感物質を直接に注ぎ込まれているかのよう。甘ったるい少女の声が耳の中から脳を溶かしていく。もう少女の声しか聞こえない。なんだか怖くなって少女の身体にしがみつくように抱きつく。温かく柔らかい少女の媚肉の中に己を深く深く突き入れる。

「ふふふ……もう出そうだね。お兄さん優しい、ありがとう、大好き。じゃあ私が三つ数えたら、中出ししてね、ね? さぁん……にぃ~い……」

 浴衣少女のカウントダウンに呼応して、今までに感じたこともない強さの射精感が込み上げてくる。思わず言葉にならない言葉を呻くほどの感情の昂ぶりだった。

「い~ちぃ……」

 これ以上ないというくらいに密着した処女肉の中で、僕は爆発寸前の射精感を死に物狂いで堪える。こうして少女のカウントを切望しながら射精に耐えているのも快感で、気持ち良かった。

「ぜぇ~……」

 目の前に火花が散る。夏祭りの花火などではなく、射精を堪えに堪えたために見える幻覚だった。出る出る出る出るっ――!! 至福の射精の瞬間が目前に迫ってきていた。快感物質を含んだ脳汁がよだれとなって口辺から垂れてしまっていた。廃人の顔をして僕は少女のカウントを心待ちにしていた。

 だが、
「やっぱりダメ。ふふ、もう10カウント追加。じゅう……きゅう……」

 少女の突然のカウント追加に、腹筋と大臀筋、それと肛門括約筋と内股の筋肉が即座にリアクションをし、射精を押し留めようと引き攣るように締まる。下腹部周辺を押し潰されたような痛みと、亀頭の先を瞬間接着剤で塞がれたような苦しみに悶絶する。突然のカウント追加に少女への怒りすら湧いてくる。

「せっかく気持ち良さが最高潮だったのにごめんね? だからお詫びにもっと気持ち良くしてあげる。カウントを数えられるごとに快感が2倍になっていくの。いい? 想像しただけでも怖いくらい気持ち良くなれそうだね? ううん、本当に気持ち良くなっちゃうんだから。だけど射精はまだだよ? ちゃんとゼロって言われるまでお預けだよ。カウントを続けるよ? はぁ~ち……」「ぅぐっあああっっっ!!」

 8のカウントを聞いて、僕の脳は桁違いの快感に破裂する。。思わず叫びあげる。気持ち良いのか苦しいのかわからぬまま、あれほど射精の寸前だった絶頂感が一気に倍加して襲いかかってくる。

「なぁな……」

 さらに強まる快感に、もはや喉は痙攣するばかりで声など出ない。下腹部周辺の筋肉が激痛と共に引き攣る。足首が曲がり、手首が外向きに反り上がる。

「気持ちいいでしょ? 気持ちいいでしょ? 死んじゃうくらい気持ち良いでしょう? 射精したいでしょ? もう出ちゃいそうでしょ? でもダメ、まぁだダ・メ。ふふふ……七の次は……六っ!」

 そしてリズミカルに続ける。

「五っ、四っ、三っ!」「―――ぅぅぶっぶっぶぶぅ!!!」

 怒濤の快感をぶち込まれ、手足の毛細血管が千切れていくようだった。裂けるほどに見開かれた目は左右あべこべに虚空を眺め、もうなにも視界に映せない。脳が溶ける溶ける溶ける。全身痙攣を起こしながら、全身の筋繊維と血管が怒濤の快楽物質に耐えきれなくて千切れて溶けていく。勃起した男性器に絡みつく静脈だけが、かろうじて快楽物質の大波を受け止めているだけ。ぱんぱんに膨れあがった男性器に処女肉が妖しく絡みつき、魂を売っても敵わぬほどの強快感が雪崩れ込んでくる。洗剤をボトル一本飲み干したように口から泡を吹き上げていた。

「二っ!」

 元の快感が何倍になった状態なのだろうか? 何がなんだかわからないが、ともかく気持ちいい気持ちいい気持ち良い! 呼吸も世界も止まったように感じる。死にそうだった。

「一っ!」

 走馬灯が走り出す。死ぬんだなと確信した瀕死の脳が、それまでの記憶を蘇らせて僕に叩きつけてくる。どれも幸せで、楽しくて、幸福な記憶ばかり。泡を吹いて、涙も洟も垂れ流し、その上全身を引き攣らせながら、僕は思い出し笑いのように気持ち悪く笑う。走馬灯すらも至福感と恍惚感を僕の中に注ぎ込んでくる。男性器も破裂しそうだったが、心臓も壊れそうだった。強収縮したまま動くの止めそうになる心臓。死に際の僕に走馬灯が最後に見せた絵面は――浴衣少女の剃毛済みの見事な女性器だった。よくわからないけれど、それで心臓が脈動した。どうせ死ぬなら、子種を吐いて死ねと生殖本能が叫ぶ。心臓が少女の手に握り潰されたように痛いが、僕はまだ生きている。

「ふふ……私がゼロって言ったら射精するんだよ? ゼロって言われたら、嫌でも射精しちゃうんだよ? 約束だよ? よぉく覚えていてね? いい?」

 勿体ぶるようにねっとり語りかけてくる浴衣少女は、そうして僕の泡だらけの口に上手にキスをしてから言うのだ。

「いっぱい出してね、ゼロっ!!」

「ぬぁぁぁぁがががぅっっぁぁああっぅぁぁぁっ!」

 僕は咆哮を上げながら絶頂に達した。太い動脈が破裂して血が噴き出すかのように精液が飛び出していく。浴衣少女の膣の中をあっという間に満たし、溢れて外に吹き漏れてくる。限界まで堪えた小便を浴衣少女の中で吐き出しているような感覚の射精――その千倍近い快感の射精。そしてそれが止まらない。

「ほら、もっと出るでしょう、ね? ゼロっ! ゼロっ! ゼロっ! ゼロっっ!」

 浴衣少女が「ゼロ」と言ったら射精する約束に則して、僕の股間は精液を搾り出す。とっくに貯蔵していた精液の量は超えたはず。ならば一体僕は何を亀頭の先から射出しているのだろうか? 尿? 血液? 脳汁? わからない。わからないがとにかく射精の快感が止まらない。

「ゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロ……」

 なんて可愛い声をした女の子なのだろう。初恋を想い出す声に、僕は少年の声で喘ぎながら射精を続ける。生殖本能、征服欲、そして性欲の全てを満たす大量の膣内射精が続く。気が遠くなる。感覚が薄れるのがもどかしい。快感を一滴でも多く感じたい。精液を一滴でも多く吐き出したい。僕は浴衣少女を抱きしめる。浴衣少女も僕を抱き返す。子宮口に捻り込むつもりで性器の先端を押しつけ、欲望の全てを吐き出す。生命力が精液となって吐き出されていく。

「ゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロ――――」

―――――――――

 僕と浴衣少女は軽トラの中で抱き合って眠っていたようだった。先に目を覚ました僕は、まず思い切り酸素を吸って生きている自分を確かめてから、次に浴衣少女も生きていることを確認した。ゆっくり浴衣少女の膣から性器を抜き出すと、あれほど大量に射精したつもりだったものの、ちょっといつもよりも多めかなという常識的な量が浴衣少女の性器から溢れてくるだけだった。ティッシュでそれを拭いてやり、浴衣少女を助手席に座らせ直した頃に、浴衣少女も気がついたようだった。

「あれ……私……?」「大丈夫?」「……あれ? ここ……どこ?」「……ん、覚えてない?」「……私、確かお祭りから帰る途中だったような……」

 性交の後の気怠さが酷かったが、僕は頭をフル回転させてとっさに嘘を拵えた。

「うん、そしたら君が突然倒れてしまってね、近くにいた僕がとりあえず車に乗せて様子を見ていたところなんだ。具合はどう? 救急車呼ぼうか?」「……いえ……具合はなんとも。倒れたんですか? 私……」「貧血かな? 遊び疲れてたのかもしれないね」「はぁ……」「本当に大丈夫? 救急車呼ぶよ?」「え、救急車は大丈夫です。自宅、すぐそこですから、帰って休みます」「そう? 自宅まででも車で送るけど?」「大丈夫です。ご親切に助けて頂いて、ありがとうございました」

 礼儀正しくお礼を述べて、浴衣少女は軽トラックを去って行った。軽トラックの外では夏祭りの花火がまだ続いており、浴衣少女との狂った情事はほんの僅かな時間の出来事だったようだ。状況はまだよく飲み込めない。あの浴衣少女の痴態はなんだったのだろうと思うと同時に、夢のような射精は本当に夢だったのだろうか? 浴衣少女と深く交わった股間付近には、少女の愛液と破瓜の血が滴っているのだからセックスしたのは事実なのだろう。あまりに気持ちの良いセックスだった。すごく得をした気分で、もうそれだけで何でも良いような気もするのだが。思い出せばきっかけは、テールランプ五回の「ア・イ・シ・テ・ル」に倣った「ド・イ・テ・ク・レ」のパッシングだった。瞬間的な光の明滅によって、思いがけず僕は浴衣少女に催眠のような、そういう類いのまじないを施してしまったのだろうか? 仮にそうだとして、あの妙に生々しい射精管理と大量射精は? 催眠に掛けられた浴衣少女が僕に催眠を掛けたとでも言うのだろうか? そして情事が終わった後は浴衣少女から都合良く記憶が抜け落ちているときた。全く僕にとって都合の良すぎるセックス。一体どこに、こんなにも僕に恩を売って得をする催眠術者がいるというのだ?

 その時、夜空にひときわ大きな花火が打ち上がった。鮮やかな火花で夜空が彩られ、周囲が明るく幻想的に照る。車窓から空を見上げた僕は、本当になんとなく窓に貼られている車検シールに目が行った。

「おっと忘れてた、軽トラの車検、今月だったんだな……」

 もう初年度登録から三十年目で、走行距離も二十万キロ越えを達成し、いよいよ廃車待ったなしのオンボロ軽トラ。お祭準備に奔走した今日の炎天下で、エアコンが付いていないことをどれだけ呪ったか。中古購入して二十年来の相棒とは言え、さすがにもう廃車にして新しい軽トラを買おう思ったものだ。

「まさか……僕たちに催眠を掛けたのは、お前か?」

 そんなことはない。そんなことあるはずないなと思いながら、軽トラを夏祭りの会場へと走らせる。なんだろうか、不思議な気分だった。久しぶりに誰かと夏祭りに来たのだという気がする。

「廃車にするのは……当分お預けだな」

< 終わり >

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