重なる二色、対なる一色 ~第一章 後編1~

第1章 後編 その1(?)

 さて、三人になってから、『復讐』のための準備が本格的に始まった。昼休みは放送室にて三人で食事しながら、お互いの進捗について話し合い、放課後は各々の準備を進める。私は生徒会経由で先生たちと【握手】をし、真知子はそのコミュニケーション能力で一年から二年へと生徒との【握手】をお願いしてある。その時梢さんには『アレ』の準備をお願いしている。

 そんな日々が過ぎ、もうすぐ五月になろうとしていた。そんな日の昼休み、真知子のこんな発言が私を驚かせた。

「噂だけど、『彼女たち』って、本人たちの仲ってそこそこらしいよ」

「え」

「うん、最近色んな人と【能力】なしでも色々聞けるようになったから聞いてるんだけど、噂によると、『彼女たち』三人はお互いにメリットがあると思ってるから一緒にいるだけで、本人たちはそこそこでも、それぞれの連れたちは、結構仲悪いらしいよ」

「そうなんだ…」

 いつも三人一緒にいるから、てっきり幼馴染みとかで仲良しなのかと思っていた。

「だから、何かきっかけさえあれば、『彼女たち』の仲って、結構簡単に崩せるんじゃないかな?」

「確かに、それはそうですね」

 梢さんも頷いていた。

「例えば、お互いのクズなところを露呈し合う、とか?」

「本当は都さんって、真のサイコパスじゃないでしょうか?」

「うん、梢さん。私もそう思えてきた」

 二人がこそこそと私の愚痴を言っている。酷い。

「じゃあ、方向性としては、まずは『彼女たち』三人の仲を乱すことを第一目標にする?」

「異議な~し」

「私も賛成です」

「じゃあ、まずはそういうことで」

 しかし、人の不幸を願うことがこんなに楽しいと思っている自分も、自分がサイコパスなんじゃないかと思ってきた。

 そして、五月になった。

「暇ですね~」

 岡が小言を言っている。

「そんなことない。今だって、1年生の部活ガイダンスについて話し合っているじゃないか」

「そうですけどー」

 そんな岡を吉村がたしなめる。

「そう言えば、皆は休みの日って何してる?」

 私は気になって、そう聞いてしまった。

「私は、弓道の練習と一週間の復習を」

「吉村先輩は真面目ですね~、私なんか、友達と遊びに行ったり、することなかったら昼まで寝てます」

「相川さんは?」

「私は、最近はまっているゲームを」

「ゲームってどういう系?」

「あまり有名じゃないので、お気になさらず」

「そんなにマイナーなんだ。じゃあ、松本さんは?」

「私も、あまり有名ではないアニメを…」

「そうなんだ、皆、個性があるね」

「そう言う夢野さんは? 休日は何をしてるんだ?」

「主に勉強かな。学校のものだけじゃなく、最近はまっているのもあって」

 最近の休日は、宿題をしたり、少しずつマインドコントロールについて勉強したりと言った感じである。

「じゃあ、ゴールデンウィーク中に、皆で家に来ないか? もう少し、ここでは話せないような話がしたい」

「吉村先輩のお家…。いいですね!」

「私も、毎日暇なので、いつでも大丈夫です…」

「私も予定が空いていれば行きます」

「夢野さんは?」

「それじゃあ、私もお邪魔させてもらおうかな」

「では、そういうことで」

「ということがあったから、ゴールデンウィーク中、全日は家にはいないと思う」

 家に帰ってから、吉村さん家に遊びに行くことになった話を真知子にしていた。

「生徒会の人たちと何するの?」

「多分、他愛ない会話だと思う」

「さすがに日帰りだよね?」

「何も言ってなかったし、そうだと思う」

「まあ、私もゴールデンウィーク中は色んな人と遊びに行くんだけどね」

 二人とも、外に遊びに行く日があるわけだが、お互いにただ遊ぶ以外の目的がある。私は、他の生徒会の人の事情を知っておいた方が今後の【命令】の参考になるかもだし、真知子はいわゆる『友達の友達』との【握手】をするためである。

「あとさ」

「どしたの、お姉ちゃん?」

「最終日、梢さんをここに呼ばない? もう少し話をしておきたくて」

「それって、私もいた方がいい?」

「そりゃあ、まあ」

「分かった。最終日空けておく」

「じゃあ、梢さんにも話しておくね」

 そして、ゴールデンウィークのとある日。生徒会全員で吉村さん家に遊びに行くことになった。

「家、大きいですね…」

「いや、これは何と言うか…」

「れっきとした洋館の豪邸ですね」

「大きい…」

 各々が感嘆の声を出していたが、吉村さんはいつも通りの顔で家の前で待っていた。外観だけで言えば、本当に西洋にありそうな洋館そのものだった。こういうのって何かロマンがある。洋館の人形が、実は元々人間で、洋館の住人によって人形にされたり…とか。そういう内容の小説があった気がする。

「皆、今日は来てくれてありがとう。家に人を呼ぶのは初めてで、何をすればいいのかよく分かっていないが、宜しく頼む」

 吉村さんは緊張してるのか、いつもより少し片言のような気がする。

「いえいえ、こちらこそ、宜しくお願いします」

「宜しく、お願いします…」

「宜しくですね!」

「宜しくお願いします」

 さて、外観も洋館の豪邸だったが、家の中も凄かった。一直線に続く廊下があったり、天井にはシャンデリアがあったりと、皆驚いていた。吉村さんによると、昔、吉村さんの祖父がここで生業を大成功させ、儲かったお金で何かできないかと考えたときに、誰にも使われていない、周囲からもお化け屋敷と恐れられていたこの家を購入し、安全に改修したり、時々一般向けに開放したりして、皆の恐怖を取り除いているらしい。

「はいどうぞ。お茶とお菓子です」

「ありがとう」

 私たちは来客者用の部屋に案内されて、吉村さんがお茶とお菓子をもらった。

「おいしいですね」

「おいしい…」

「紅茶との調和も完璧です」

「…」

「どうかしたか、夢野さん」

「いや、お茶とお菓子が美味しくて、つい無言に…。あはは」

「それならいいのだが」

 本当に、美味しかった。

「さて、今日皆を呼んだのは、他でもなく、普段学校では言えないようなことを話したいと思ったからだ」

「それって、まさか、コイバナ!?」

「確かに恋人のことについて話すのも、親睦を深めるためには必要かもしれない。しかし、残念ながら、そのようなことではない」

「えー、そうなんですかー」

 岡がまたふてくされている。

「この話は、私が皆を信頼しているからしようと思っている。だから、皆も正直に答えてほしい」

 何か真面目な話になってきた。

「私たちの通う学校についてだ」

「やっぱり、吉村先輩ってフツーに真面目ですよね…」

「まあ、もう少し分かりやすく言うと、ヒエラルキーについてだ」

「この学校に、ヒエラルキーなんてあったっけ?」

「表沙汰には出ない、いわゆる暗黙の了解というものだな」

 吉村さんの話が長かったので、少しまとめるとこうなる。

 ・この学校のグループは、植山がリーダー的存在の攻撃的なグループ

 仲野がリーダー的存在の思慮深いグループ

 霜川がリーダー的存在の媚を売るグループ

 の三つに分かれており、大半の人がいずれかのグループに属している(比率としては、それぞれに四分の一ずつ、どこにも所属していないのが四分の一程度)

 ・本当は三年にリーダー的存在がいるはずなのだが、三グループで共闘し、そのリーダーたちを退けた。これが今年の一月頃。

 ・この下克上の成り行きとしては、下克上直前に三グループのリーダーが仲違いを起こし、頻繁に戦うようになったが、その疲労に耐えきれなくなり、『彼女たち』で同盟を組んで、それぞれを撤退させた

 ・それでも三グループでの争いの禍根が残っているため、リーダー同士は仲が良い(?)ものの、他のメンバーはあまり仲が良くないらしい(この時点で真知子から聞いた話と矛盾している)

 ということらしい。何か、昔の戦争みたい。

「さて、このようにして現在は停戦状態が続いているが、この先何があるか分からない。『彼女たち』以外で再び争いが起きるかもしれないし、『彼女たち』自体が仲違いを起こすかもしれない。なので、今後からでもいいから、少し三グループの様子を注視してほしい」

「分かった」

「分かりました…」

「了解です」

「オーケーです」

「皆、ありがとう」

 と言っても、真面目な話はこれくらいで、あとはただのおしゃべりだった。勉強の調子や、学校への不満、何気ない話題などの、普通の会話だった。

「今日はありがとうございました」

「楽しかったです…」

「時に集団会議も必要ですね」

「相川先輩はどうしてそうなるんですか…。吉村先輩、今日はありがとうございました」

「また家に遊びに来るといい。いつでも歓迎するぞ」

 そうして、この日の会合はお開きとなった。

 その日、吉村さんに言われたことを真知子にも話しておいた。

「そんな歴史があったんだ…」

「私も言われるまで知らなかった。かなり昔からあったのかな?」

「私に言われても…」

「でも、そういうことだから、何かあったら私にも教えて」

「はいはーい。了解」

 でも、仲違いを起こすことができれば、『復讐』がかなり捗るなと、この日独りで思うのだった。

<続く>

4件のコメント

  1. お久しぶりです。月です。
    かなりの時間、何も投稿できていませんでした。
    その間に働く場所が変わったり、そのために勉強してたり、その影響で引っ越しをしたり、等々少し忙しかったため、小説の投稿ができていませんでした。
    今は、少し落ち着いたため、過去に書いていたものを投稿できましたが、これからは、前に比べると小説に費やすことのどきる時間が減ってしまうので、今までのように2週間に1度と定期的に投稿ができなくなると思います。
    ご了承ください。そして、不定期でも、もう少し小説の投稿を致しますので、これからも宜しくお願い致します。

  2. 一章の後編。読ませていただきましたでよ~。
    久しぶりの投稿に前回の話を忘れていたのは秘密でぅw
    っていうか、みゃふも感想を書くのが割りと久しぶりなので変な感想になりそうでぅw

    というわけであらためて。
    今回はというか今回もまだ下準備の段階で目に見えては進んでないのがもどかしいでぅ。
    3グループのリーダーを仲違いさせるとのことでぅが、まずどこから手を付けるのか気になるところでぅ。
    思慮深いところを攻めて、裏を考えさせないとか
    攻撃的なところを攻めて、周りを攻撃させまくるとか
    媚びを売るところを攻めて、とにかく場を乱すとか
    いろんな展開になりそうなのでぅ。

    これから不定期になるとのことでぅが、そもそもみゃふも年単位で書いてなかったりするので大丈夫大丈夫(全然大丈夫ではない)
    余裕がある時に書いていただければ幸いでぅ。
    であ、次回も楽しみにしていますでよ~

  3. ありがとうございます。
    シナリオだけは大体決まっているので、あとはそれをどう文章に落とし込むのかと時間の確保が難しいです…。
    頑張ります。

    あと、ストーリーが進んでいないのは、指摘されてから自覚しました。今後は少し気を付けてみます。(流石にもう後編をパート分けすることはないと思います)

  4. お久しぶりですー。
    復讐に向けた関係性の整理といった感じですね。
    これからどのような方法で3人の関係を崩していくのか。
    今後の展開も楽しみにしています。

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