「……ど、かな?」
 「……ん?」
 「思い出せた?」
 その質問で、僕はようやくこの行為の意味を思い出した。口の中で笑いを噛み殺す。
 そう仕向けたのは僕だとはいえ……本当に、信じ込んでいるのか。

BLACK DESIRE #8-1

0.  その日の夕食後、僕は家の居間でぼぉっとしていた。靴を脱いでソファに寝そべり、足を肘掛けに乗せている。あまり行儀が良いとは言えない。  厨房はこの部屋から遠い。通路を挟み、食堂の奥の扉の向こうだ。だから、この屋敷の

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BLACK DESIRE #7

0.  高く、頭頂を吸い寄せるような聖堂の天蓋。  その下で、一心にひとつの聖典に心を寄せる300名あまりの乙女達。  何列も連なった年代物の長椅子の背もたれは、すっきり伸ばされた背筋にピタリと張り付くよう緩やかにカーブ

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BLACK DESIRE #6

0. 「おお~、晴れたなぁ……!」  屋内プールの外にあるテラスから空を見上げ、僕は感嘆の声をあげた。紺碧の天井には端に僅かに白い霞が残る程度で、雲らしい雲は1つも無い。  初夏の爽やかな風が陽にあぶられた新緑の匂いを運

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BLACK DESIRE #5

0. 「姉さんがプールでみんなと遊びたいと言っています」 「はい?」  体育館2階の放送室へ七魅に呼び出された僕は、会って早々の少女の台詞に間抜けな返事を返した。吹くはずもないのに2人の間を風が通り抜けた気がする。 「…

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BLACK DESIRE #4

0. 「……あなたの目的は何ですか?」  少女の透き通った声がコンクリートの壁に反響している。僅かにエコーのかかった音響がこの建物の空虚さを強調し、僕とその少女の存在を暗闇のスポットライトのように浮き彫りにする。  この

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BLACK DESIRE #3

0. 「──それでは、ブラックデザイアの能力を説明させていただきます」 「はい、お願いします」  僕の馬鹿丁寧な言葉に幎は小首を傾げる。  いけないいけない。なんだか星漣に染まりつつあるぞ、僕。思わず丁寧語が出てしまった

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BLACK DESIRE #2

0. 「──契約を開始します」  地下室内に虚ろに声が響く。  僕はそれに力強く頷き返し、決意を表明する。 「やってくれ」  幎は答えない。静かな動作で床にランタンを置くと、そこから一歩、二歩……三歩下がって停止した。

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BLACK DESIRE #1

0.  唇に押しつけられたやわらかな感触が、神経節の全てを支配した。  目の前の少女の睫毛の長さとか、手で直に触れたくなるくらいなめらかな頬とか、初めて間近でかぐ異性の匂いとか、身にまとったモノクロームの制服の衣擦れ音だ

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