ライフ=シェアリング 美星と美月と辰巳 美星と美月と辰巳

- 序 -

 ライフ=シェアリングとは、死すべき身体を、命を、心を、グランツ(与える者)が、アクセプツ(受諾する者)に命を分け与える事で繋ぎ止める技術を言う。
 それは、素晴らしい技術のように思える。しかし、弊害が無い訳ではない。
 ライフ=シェアリングは、グランツがアクセプツの心を、身体を、支配する事が出来るようになってしまうからだ。
 それは、脅迫というレベルでは無く、文字通り相手を支配する事が可能になるという事だ。
 また、グランツが死ぬ時、アクセプツも死んでしまう。
 それ故に、ライフ=シェアリングは廃れていくのも必然だったのかも知れない。

 ――あなたは、大事な人が死にそうな時、ライフ=シェアリングしますか?

- 1 -

 世の中は、理不尽だ。
 どんなにがんばったって、絶対に覆せない事なんてたくさんあるし、自分の力ではどうしようもない事もたくさんある。
 いいか、わるいかじゃない。
 ただ、どうしようもないというだけで、それは呆れるほどに明確に、悔しいほどにあからさまに、動かし難い現実としてソコにある。
 例えば、わたしの双子の姉妹、美月が死んじゃったこととか。
 例えば、美月がライフ=シェアリングで生き返った事とか。
 例えば、ライフ=シェアリングしたグランツが、どうしようもないクズだった、とか。

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「あ、美星ちゃん。わたし、これから辰巳様の家に行ってくるから、お昼ご飯はいらないからね」

 わたしが居間で物思いに耽ってると、美月が凄く嬉しそうな顔で、そんな事を言ってきた。
 わたしと同じ顔で、けど今はまったく違う表情を浮かべて。

「そう・・・何時頃に帰ってくるの?」

 美月は、変わってしまった。
 ううん、変えられてしまったというのが、正しい。
 死ぬ前だったら、わたしがこんな気分でいたら、ぜったいに放っておかなかったのに。
 寂しさと、腹立たしさで、目の前で幸せそうに微笑む、双子の妹の美月にあたってしまいそうだ。

「辰巳様が満足なさったら、帰れると思うの。多分、夜ぐらいじゃないかな」

 辰巳というのは、美月のグランツの男だ。
 目付きが酷く粘液質で、背丈はあるけど全体的に締まりが無い、普通だったら絶対に近寄らなさそうなタイプの男。
 それなのに、美月が辰巳の事を話す時、恋する乙女のような嬉しそうな顔になる。

「いくら明日が日曜日だからって、あんまり遅くならないようにね」

 どこか投げやりな言葉。
 でも、どんなに心を込めても、今の美月には届かないから。

「うん、行ってくるね」

 美月は腰まである長い髪をふわりとなびかせながら、足取りも軽く、家を出た。
 残されるわたしの事なんて、もう意識にも残ってなさそう。

「はぁ・・・」

 つまりは、全ての元凶は、あの辰巳という男なのだった。
 美月のグランツ。最低最悪の支配者。美月の命を握る男。

- 2 -

 最初は、美月が変わってしまった・・・ううん、変えられてしまったなんて事は、考えもしなかった。美月が辰巳を連れて家に帰ってきて、一回死んだのだと、衝撃発言をしても。だって、見知らぬ男性を連れてきている以外は、まったくの普段通りだったから。
 当然、お父さんもお母さんも、わたしだって何かの冗談だと思った。けど、それは本当だったんだ。残念な事に。

「お父さん、お母さん、わたし、事故で死んじゃったの。でも、辰巳様にライフ=シェアリングで救って頂いたから、もう大丈夫。心配しないでね」

 ここで、美月の隣のイスに座っていた辰巳が、ぬるりと立ち上がって美月の後ろに回った。この男、なんだか見た目だけじゃなくて、動作もなんだか粘液質な、爬虫類めいた気持ち悪さがある。

「はじめまして。賽原 辰巳といいます。お嬢さんのグランツになりましたので、命が尽きるまで、宜しくお願いします」

 辰巳の口調も、口の中に何かを含んだままみたいな、粘っこい口調だった。
 そうして辰巳は、いやらしい笑みを浮かべると、美月の背後から手を回して、わたし達の目の前だというのに、美月の胸を揉み始めた。

「き、きみっ!何をしている!はやく、美月から離れなさいっ!!」

 その時は、まだ本当の異常にわたし達は気が付いてなかった。
 美月が、わたしが初めて見るえっちな表情を浮かべてる事とか。
 執拗に胸を揉む辰巳から逃げようとしない事とか。
 そんな姿を家族に見えられてるのに、気にもしてないこと、とか。

「どうしようか、美月。ボクはまだこうしてたいのに、君のお父さんは止めろって言ってるよ?」

 わたし達を嘲るように顔をこちらに向けたまま、辰巳は美月の耳元で、わたし達に聞こえるような声でそう口にした。言われた美月は、身体をくねくねと小さく蠢かしながら、それでも逃げる様子を見せない。

「あん・・・辰巳さんがしたいのでしたら、続けてください・・・」
「なっ!?」

 美月の言葉とは思えない返答に、お父さんは驚いてた。
 でも、本当に驚いたのは、続いて交わされた二人の会話だと思う。

「へぇ、ボクがしたいから、好きにさせてるって言うんだ?」

 聞くだけで耳が腐り落ちるそうな辰巳の言葉に、美月は首を振った。

「違います。美月がいやらしい女の子だから、いつでも、どこでも、辰巳様にやらしい事をして欲しいんです。家族の前でだって、辰巳様の指で感じちゃうんですっ」

 それが強制された言葉だったら・・・美月の声に、ほんの少しでも嫌がる様子があれば、多分お父さんは辰巳を殺してたと思う。ううん、わたしだって、なんの躊躇もしないで、辰巳のお腹に包丁を突き立てたと思う。首を絞めたっていいし、鈍器なんて一杯ある。でも、違った。

「あぁ・・・」

 お父さんが、お母さんが、絶望のあまり、その場に崩折れた。わたしも同様。人間、絶望が過ぎると、身体中の力が抜けちゃうって、今初めて知った。
 だって、美月の言葉に、嘘の欠片も見当たらなかったから。
 美月は、家族の前でおもちゃにされてても、心の底から喜んでた。

「くくっ、美月は親不幸者だね。ちゃんと、ご両親に謝らないとだめだよ?」

 間違いなく、辰巳が原因のはずなのに、まるでわたし達を嬲るみたいに、言う。

「はっ・・・はいっ・・・あんっ!お、おとうさ・・・、おかあさんぅっ・・・おやふこうで・・・ごめ・・・なさっ・・・あっ!、い、いいっ!・・・みほしもぉ・・・ごめ、ね・・・っ」

 快感に喘いで、顔を悦びに蕩けさせて、美月は辰巳に命じられるまま、わたし達に謝った。それは、何て酷い謝罪。言われれば言われるほどに、わたし達の心をズタズタに切り裂いていく。

「じゃあ、挨拶も終わった所で、ボクは帰りますね。それではまた」

 辰巳は面白くて堪らないといった顔で、わたし達が何も答えられないのも気にしないで、出て行った。美月は玄関まで辰巳を送っていって、暫くしてから戻ってきた。衣服は乱れて、身体中からえっちな匂いをさせて、これで顔がいやらしい感じのとろんとした笑みを浮かべてなかったら、レイプの被害者に見えるだろう。でも、レイプでないのは、嬉しそうなその表情を見れば判る。

「美月・・・あんた・・・」

 わたしの声に、美月はゆらりと顔をこっちに向けた。美月の笑顔は、見慣れてるはずだったのに、今はまったく初対面のヒトの笑顔みたいだった。

「美星ちゃん、ごめんね。本当だったら、恥ずかしがったりとか、泣いて謝ったりとかするんだろうけど、今のわたし・・・そういう事が出来ないの。心も身体も、ぜんぶ辰巳様のものになったから」

 美月は、お父さんやお母さんが絶望で立ち上がれないでいる事にも関心を示さないで、さっきまで辰巳が座っていたソファーに腰を下ろした。まるで、まだそこにアイツがいて、身体を愛撫されてるみたいな表情で、ほぉっと熱い溜息を吐いた。

「アイツ・・・辰巳って、なんなのよ!何がしたいのよ!あんただってあんないやらしい事して、もぉワケわかんない!!」

 興奮のあまり、涙が出た。でも、激昂すると抱き締めてくれた優しい美月は、もういない。

「辰巳様は、一回死んだわたしを、命を分け与えて、生き返らせてくれた方よ。比喩とかじゃなくて、わたしと辰巳様は、辰巳様の命を共有してる状態なの。だから、辰巳様が死んだら、わたしも生きていられない。そんな関係なのよ」

 まるで宗教自慢のように、今の自分に対する喜びと、無知なわたしに対する哀れみが感じられた。美月はそんな、上から見下ろすような言い方をするコじゃなかったのに。

「だからね――」

 秘密を吐露する犯罪者のように。
 悪戯の共犯者に巻き込むように。
 美月は、声を潜めた。

 ――わたしという存在の全ては、辰巳様のものなの――。

 美月が甘い恋を語るように口にしたそれは、酷い腐臭としてわたしには感じられた。

- 3 -

 あの日から、わたしの家は壊れてしまった。
 物理的な意味じゃなくて、精神的な意味で。
 お父さんは、家に帰らなくなった。
 お母さんは、部屋に閉じ篭るようになった。
 ふたりとも、わたし達を見ようとしなくなった。
 きっと。
 変わってしまった美月を見るのが、辛いんだと思う。
 変わってしまった美月と同じ顔のわたしを見るのが、辛いんだと思う。
 皮肉な事に、家の中で陽気なのは、原因の美月本人だけだった。
 時々アイツの所に泊まる事はあったけど、基本的に夜は帰されて来て、またお昼前にはアイツの所へと出掛けていく。学校に行く事も無くなった。時々制服でアイツの所に行くみたいだけど。
 そしてわたしは、ライフ=シェアリングについて、調べ始めた。
 美月を救う方法が無いか、と。
 でも、ライフ=シェアリングというのは、知れば知るほど、性善説に則ったシステムっていう事が判って、酷く疲れる。だって、根底にあるリスクマネージメントの根拠って、『自分の寿命を大幅に削ってまで、悪用はしないだろう』なんだから。
 みんながそういうふうに考えるんだったら、あの辰巳みたいな人間は存在しないってコトになるハズ。でも、現実はこんなものだもの。

「ふぅ・・・」

 目が疲れて、わたしは溜息を一つ吐くと、閉じた瞼を指先でマッサージした。ネットや本で、いろいろな情報は入ってくるけど、どれも有効なものは無かった。命を共有するという事は、それほどに強い絆を生むという事なんだろう。つまり、一回行われたライフ=シェアリングは、他の人が入り込む余地をなくしてしまう。今の辰巳と美月のように。

「だからって、諦められるはずがないじゃない・・・」

 美月とわたしは、とても仲がいい双子だった。
 わたしのがさつなところを、美月がフォローしてくれて。
 美月が引っ込み思案で動けない時は、わたしが美月を引っ張って。
 いつかお互いに恋人が出来て、大事な人の優先順位は変わってしまうかも知れないって笑って話した事があったけど、それでも辰巳がそうであっていいはずが無い。
 ましてや、美月の心を縛ってだなんて、許せない。
 わたしは気合を入れると、またPCに向かい合った。
 それから暫くして、わたしの部屋のドアをノックする音がした。

「美星ちゃん、ちょっといいかな?」

 わたしが返事をすると、いつもと同じ柔らかい笑顔で、美月がするりと部屋に入ってきた。
 わたしはその笑顔を見ると、辰巳なんていないんじゃないか、実はこの間のは、ただの悪い夢なんじゃないかと期待してしまう。そんな事、ある訳がないのに。
 わたしが、「うん、いいよ」と答えると、美月はちょっとだけ悪戯っぽい笑みで、ぽすんとベッドの上に腰を下ろした。

「あのね、辰巳様から、今日のプレイを美星ちゃんに話して、感想を聞いてくるようにって言われてるの。手伝ってくれるよね?」
「ぷれい・・・?」

 一瞬、何を言ってるのか判らないままに繰り返すわたしに、美月は頷いた。

「うん、プレイ。辰巳様と、わたしのセックスのお話」

 露骨な言葉に、わたしの顔が熱くなる。

「な・・・なんでわたしがそんなの聞かなきゃいけないのよ!気持ち悪いわね!!」

 一瞬、自分と同じ顔の美月が、あの爬虫類みたいな男に犯されている姿を想像して、吐き気がした。わたしだったら、あんな男には一生身体を触らせないのに。

「うん、そうすると、わたしおしおきされちゃうの。でも、美星ちゃんがいやなのは仕方ないよね。ごめんね、ヘンな事を言っちゃって」

 にこっと笑ったその顔は、いつもの――こんなことになる前の、美月の笑顔だった。優しくて、柔らかくて、暖かくなるような、わたしが大好きな美月の笑顔。でも、言ってる内容は・・・。

「なによ、おしおきって」

 あまりにも美月が普通に言うものだから、大した事じゃないと思っちゃった。そんな事、あるはずがないのに。わたし達の前で、平気で美月を弄んでた男の事なのに。

「うん、知らない人とえっちをしたりとか、人通りの多い所でオナニーをしたりとか、そういうの。辰巳様はおしおきって言うけど、でも、わたしはいやらしいから、そんな事でも気持ち良くなっちゃうの」

 ・・・最悪過ぎる。
 そういう趣味の変態だったらまだしも、美月は辰巳の命令に逆らえないだけの普通の女の子なのに。
 それなのに、辰巳から与えられるおしおきってだけで、そんなに嬉しそうな顔をするだなんて。
 本当に、最悪。

「いいよ。その・・・ぷ、ぷれいの内容も聞いてあげるし、忌憚ない感想も答えてあげる。それでいいんでしょ?」

 本当は耳が穢れそうとは思ったけど、おしおきの内容を聞いたら本当に選択の余地が無いと思いしらされた。だって、どんなにむちゃくちゃな内容も、美月は命令されたら嬉々として従うって、判っちゃったから。

「ありがとう、美星ちゃん。じゃあ、話すね。今日はね、レイプごっこをしたの」

 たった一言で、必死で掻き集めた覚悟が粉砕されるのを、わたしはくらくらとする頭で自覚した。耳を塞いで、すべてのイヤな事から逃避したかったけど、嬉しそうな美月の声がそれを許さない。
 美月の置かれている状況が、わたしにそれを許さない。
 わたしは、泣きたくなるような思いで美月の声に耳を傾けた。

 ――最初に、辰巳様のことを忘れるように、暗示を埋め込まれたの。

 美月は、うっとりとそんな風に話し始めた――。

- 4 -

 最初に、辰巳様のことを忘れるように、暗示を埋め込まれたの。
 それどころか、嫌悪感と恐怖をおぼえるよう、暗示を頂いたの。
 だって、わたしは辰巳様だったら、何をされても幸せになっちゃうから、今回はそれだとつまらないからって。
 あと、抵抗は出来るけど、暴力とか逃げたりとか、大声を出したりっていうのは禁止されて。
 もちろん、全部の暗示を表面上は忘れて、レイプごっこが始まったの。
 怖かったわ。知らない部屋で、知らない男の人に押し倒されて。
 悲鳴は小さな声しかあげられなくて、辰巳さんをぽかぽか叩いても全然力が入らなくて。
 怖くて、一杯泣いちゃった。
 まだヴァージンなのに、こんな初体験になっちゃうって。そんな自分が可哀想で。
 でも、途中から、別の意味で泣く事になったの。
 わたしの身体は、わたしが辰巳様のモノって、ちゃぁんと判ってたから。
 レイプされかけて、愛撫って言うほど優しくない手付きで身体をまさぐられて、それなのに、すごく気持ちがいいの。
 驚いて、混乱して、それでも身体はどんどん熱くなって。
 辰巳様の、熱くて固くて大きいお○んちんが入ってきた時、身体だけじゃなくて、心ももう屈服してたの。
 気持ち良くて。今まで味わった事が無いほど、気持ち良くて。
 わたしのお○んこを辰巳様のお○んちんがごりって擦るたびに、なんにも考えられなくなるぐらいに気持ち良くなって。たまらなかったわ。思い出すだけでも、あそこが熱くなっちゃう。
 気持ち良くて、自分でも訳が判らなくなっちゃってたんだけど、後から辰巳様に聞いたら、きもちいい!とか、お○んこ溶けちゃう!とか、こんなイイの、初めて!とか、いやらしい言葉を叫び続けてたんだって。
 それって、ぜぇんぶ忘れるように暗示が埋め込まれててもそうなんだから、わたし自身がいやらしい女の子、って事だよね。
 だって、最後は中にいっぱい精液下さいって、辰巳様にしがみ付きながら叫んでたらしいんだよ。普通の女の子の、初めてのえっち・・・それもレイプされてる時の言葉じゃないよね?
 それから、まだ続いたんだよ。
 子宮一杯に精液を頂いても、わたしのお○んこがもっともっとって熱くて。
 自分から辰巳様のお○んちんを手でさすりながら、もっと下さいってお願いして。
 辰巳様の全身を綺麗に舐めたら、もう一回してあげるって言われて、本当にしちゃったんだよ。それまで、会った事の無い相手を・・・自分をレイプした相手を、喜んで舌を突き出して全身を舐めたの。脇の下も、お○んちんも、睾丸も、お尻の穴だって。
 ぜぇんぶ綺麗に舐めたら、また気持ち良くしてもらえるんだって思いながら、喜んで舐めたよ。足の指の間を舐めた時は、さすがに辛かったけど・・・でも、また気持ち良くしてもらえるんだったらって、がんばったの。
 やだ美星ちゃん、なんで泣くの?
 辰巳様、お尻の穴に舌を差し込んだら、すごく喜んでくれたんだよ?
 だから、泣かないで。
 泣かないで、美星ちゃん――。
 このぷれいの、感想を聞かせてちょうだい?

- 5 -

 わたし、甘かったんだなぁって、判った。
 こんな状況、どうにかしようだなんて、本当に甘ちゃん♪
 美月を助けられるのは、助ける義務があるのは、わたしだけなんだって、勘違いしてた。ううん、いっそ思いあがってるって、言ってもいいぐらい。
 ちゃんちゃら、おかしいよね。あはっ♪
 わたしは気持ちよく、これ以上は無いってくらいに上機嫌に、出かける準備をする。
 玄関には、もう美月が待ってる。
 これから、わたしと美月は、いっしょに辰巳の所に行くんだ。
 ふふ。こんな事、普通は思わないよね。
 でも、美月が嬉しそうにレイプごっこのお話をわたしに聞かせてくれてから、いろいろと判っちゃった。
 馬鹿だったなって、思う。

「美星ちゃぁん、はやくぅ!」

 階下から、すこしだけ焦れたような、甘えるような声でせっつかれた。
 あぁ、早く辰巳に会いたくたまらないんだなって、今のわたしなら素直に判る。
 うん、わたしも早く会いたい、な♪
 会ったら・・・したいことがいっぱいある。

「今、行くよぉ♪」

 わたしは立ち上がると、美月の待つ玄関へと階段を下りた。お弁当とか、着替えとかが入ったトートバックを肩に、美月がもじもじと足踏みしている。

「美星ちゃん、はやくいこっ♪辰巳様を待たしちゃうよ」

 厳密には違うんだろうけど、恋する女の子の、眩しい笑顔で美月が急かす。本当に綺麗で、しかも可愛らしい笑顔だ。

「ごめんごめん。いま靴を履いちゃうから、ちょっと待ってて」

 そういいながら、ヒールの低い、お気に入りの靴を履く。とんとんって爪先で地面を突いて、履き心地を確かめた。

「それにしても、美星ちゃんから辰巳様に会いたいだなんて、びっくりしたのよ。でも、それ以上に嬉しい!辰巳様もね、美星ちゃんの前でわたしをいっぱいいっぱいいじめて下さるって、楽しみにして下さってるのよ」

 そう。この間のレイプごっこの話を聞かされて、なんとか感想を美月経由で辰巳に伝えたら、『今度、どんなに美月がいやらしく乱れるのか、見てみないか?』と連絡があったんだ。
 もちろん、行くって返事をした。
 何度も何度も考えて、それが一番いいって気が付いたから。
 もしかしたら、レイプごっこの話を聞いて、わたしもコワれちゃったのかも知れない。
 でも、目から鱗がポロポロと剥がれ落ちるような爽快感に、わたしは身を任せる事に決めたんだ。きっと、それが正しい事だ・・・って。
 そうしたら、驚くほどに楽になれたよ。
 今まで悩んで、苦しんできた自分が馬鹿に思えるくらいに。
 コワれて、幸せを得られるんだったら、それでいいじゃん。

「ふふ、わたしもすっごく楽しみだよ。さ、美月・・・行こう?」

 わたしが差し出した手に、美月が指を絡ませるようにして手を握った。

「うん!」

 ドアの外には、美しい世界が待ち受けている。
 澄み渡る空。
 輝く大気。
 その全てが、わたしと美月を祝福してくれているみたいだった。

< To Be Continued Root A or Root B >

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