EDEN 最終章

- Light Side of EDEN -

「ゆういちさん、ゆ~いちさんっ!お~き~てっ!朝ご飯冷めちゃうよぉ!」
「ゆかちゃん、雄一さんは昨日遅かったんだし、それぐらいじゃ起きないわよ...たぶん、ね」
「え~、じゃあ、どうしたら起きると思う?」
「ゆかちゃんが雄一さんの上に降って来たら、さすがに目が覚めると思うわよ」
「うんっ!わかったっ。かなたちゃん、ありがとっ。...とぉっ!」
「ぐあっ!!」

 ぼくは、瞬間的にかかった圧力に、思わず圧死するんじゃないかと思った。目を開けると、目の前には友香のアップと、少し離れた所でくすくす笑うかなたが見えた。どうやら、ぼくを起こすのに、友香がフライングボディープレスを決行したらしい。

「お...おはよう...2人とも...。2人が天使に見えるよ...」
「あ、ほんとっ?誉めてくれて、嬉しいな...うふふ」
「ゆかちゃん、それ、違うと思う...おはようございます、雄一さん」

 そう言って、かなたはぼくに近づいて来て、唇を軽く触れあわすキスをした。友香も、ベッドを北上してぼくの顔に辿り着くと、ぼくの顔を自分に向けて、キスをした。半分寝ぼけて(死に掛けて?)いたぼくの頭が、少しすっきりする。ぼくはベッドに体を起こすと、2人に質問した。

「で...なんで2人ともメイド服なの?...それも、お揃いの...」
「これねぇ、去年の学際の時、クラスのみんなで買った服なんだ...似合う?」
「似合うけど...なんか、違和感が...ね...」

 かなたは、胸元を強調する意匠の服に見事にマッチしていたけど、友香は胸が無い為、なんだか子供が無理して着ているような印象を与えている。ぼくはそれ以上その話題に触れないように、ベッドから立ち上がって洗面所に向かった。

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 3人でかなたの作ってくれた朝食を食べてから、かなたと友香は洗濯ものを干す作業に入った。館の掃除は朝のうちに済ませていたらしくて、後はぼくの寝ていたベッドのシーツを洗うだけだったらしい。2人とも昨日はこの館に泊り込んで、ずいぶん遅くまでぼくとえっちしてたのに、そんなに早く起きられた事に感心した。たぶん、『ぼくに尽くすことが幸せ』という暗示の効果なのだろうけど、嬉しそうに独楽ねずみのように働く2人を見ていると、ぼくも幸せな気分になった。
 今のうちに、祖父の残したノートに続きを読む事にした。そこに書かれた事は、全て本当だとしたら、今の常識を一掃するほどのインパクトのある内容だった。例えば『EDEN』...これも祖父の手になるものだし、館を構成する木材にしてみても通常の木材では無く、新鮮な空気を取り込み、常に快適な温度・湿度を保ち、外部からの汚れを受け付けない、理論上の耐用年数が500年というとんでもない代物なのだ。
 他にも、半永久機関や特殊な合金の精製方法など、分野も系統も違う内容が多岐に渡って記述されていた。全ての情報を放出する訳には行かないだろうけど、安全なもので特許を取れば、楽に暮らしていけそうではある。
 館に残されている資産の評価・分類・管理が必要だけど、本格的に始めるのは、受験が終わってからでもいいだろう。

「紅茶をいれましたけど、いかがですか?」
「かなたちゃんが、ワッフルも焼いたんだよ!すごいのっ!!」
「ありがとう。天気も良いし、庭でお茶にしようか」
「「はいっ♪」」
「もう、今日の分の家事は終わったの?」
「ええ、干した洗濯物を後で取り込んで、アイロンをかけるくらいです」
「前も言ったけど、無理して家事しなくてもいいんだよ?」
「別に、無理じゃありませんもの...ね、ゆかちゃん?」
「うんっ!2人でやると、とっても楽しいんだよ。ね、かなたちゃんっ!」
「ほら、大丈夫です。イヤだったしませんから、気にしないで下さいね」
「判ったよ...2人とも、ありがとう」
「はい、任して下さい」
「ぼくもがんばるねっ」

 2人の天真爛漫な笑顔を見ると、今でも少し罪悪感を感じる事がある。でも、世間一般とは違っても、これがぼく達にとって一番幸せな事なのだから、ぼくは彼女達を幸せにしたいと願う。
 大きな木の下でシートを広げて、ぼく達はお茶の準備を始めた。焼きたてのワッフルに蜂蜜をかけて、紅茶の香りと一緒に楽しむ。ぼくはかなたと友香に向かい合って、この穏やかな時間を堪能した。
 にこやかにワッフルを食べる2人を見ながらぼんやりとしていたら、友香がこちらを心配そうに見ているのに気が付いた。

「ぼくがどうかした?」
「ゆういちさん...やっぱり、まだ眠いのかな?ぼ~っとしてたよ」
「そうだね、昨日は2人相手にがんばったから、まだ疲れが取れてないかもね」
「もう...あ、だったら、お昼寝でもしようよ。ぼくが添い寝したげるから」
「私も添い寝しますね。...ふふ、それとも、膝枕にしましょうか?」

 ぼくはかなたの申し出を丁重に断ると、3人が寝転がるスペースを確保した。ぼくが大の字になって横になると、かなたと友香がそれぞれ左右の腕を枕にして、ぼくの胸元に頭をよせた。2人とも、幸せそうにくすくす笑いながら、すぐに眠りに落ちた。昨日はぼくと同じ位遅くまで起きていたのに、今日は朝早くから館の掃除や洗濯などをしていたので、元気に振舞っていても、それなりに疲れていたのだろう。ぼくは幸せそうに寝ている2人から、蒼穹の空に視線を移した。どこまでも続く、ぼく達の未来のような無限の空。

「ここは、ぼく達のEDENだ...」

 そう、楽園はここにある。

< 終わり >

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