ふらっぴんぐ・すり~ぱ~ その後の、いち

その後の、いち

《 1 》

 ──―― 夜。『私』は、奴隷になる。

『うんっ、ん……んぁ、……んんっ』

 口の中いっぱいに占める生臭い感じのするそれを、舞華は夢中になって唇で吸い、舌でなぞりあげ、頬の内側でこすりあげた。

“ぴちゅ……、ちゃ……くちゅ”

 彼女が動くたびに、唇と、含んだ肉の茎との隙間から、イヤらしい水音が部屋中に立ちのぼる。

 表面だけは柔らかく、そのすぐ下には硬い、熱いものが脈打っている、男性の肉の器官。独特の匂いと、そして何ともいえない味のする固まりに、教えられた全てでもって、懸命になって奉仕する。

 ──そうしなければならないほどに、彼女は追いつめられていたのだ。

 背中で縛られた両手が使えないのが、もどかしい。

『だって舞華ちゃん、手を自由にしたら、自分でいじっちゃうでしょう?』

 そう言って意地悪く笑った、明らかに舞華よりも年下と見える小柄な女の子は、今は舞華の後ろから手を回して、柔らかな胸と、そして粘液に濡れそぼったアソコに指を這わせていた。
 片手で白い乳房を無遠慮になで回しながら、時折指先で、興奮に硬くなった小さな先端をつまみ上げる。

『く……ふ、んっ!』

 その度に電撃のような刺激が発生し、彼女の全身に広がった。
 舞華の躰のことを、彼女自身以上に熟知しているように愛撫する小さな手は、そのくせ彼女をじらすのみで、本当に望んでいる高みに連れて行こうとはなかなかしない。

『ほら、いくら気持ちいいからって、怠けちゃダメだよ。お口が、止まってるよ?』

 耳元で囁く、ちょっと舌っ足らずな声。明らかに、自分よりもずっと年下の少女にからかわれる恥ずかしさに、舞華は耳まで赤く染めた。

 舞華は今、彼女の自室で、ベッドの縁に座った背の高い少年の足の間に全裸で跪き、彼の股間に奉仕していた。
 なぜ、少年と少女が彼女の部屋にいるのかは分からない。多分、これが夢だからだとは漠然と理解していたが、今の舞華には、これが本当に夢の中なのか、それとも現実に起きていることなのか、まったく判断がつかなかった。

『ほら、もうちょっとだから、ガンバって。ハル君、気持ちよさそうにしてるし、きっともう少しで、舞華ちゃんの口の中に出してくれるよ。
 そしらた、ご褒美に、舞華ちゃんのこともイかせてあげるから』

 少女の言葉を裏付けるように、舞華の口の中で少年の起立がピクピクと小さく振るえ、心なしかさらに硬さを増す。
 もう何度も彼の性欲に仕え、彼の欲望を口や、あるいはその整った顔で受け止めてきた彼女には、それが少女の言うとおり、彼が達する予兆だということを、すでによく理解していた。

『んん……んっ、ふ……ぁあ』

 もうずっと、少女の手による快感で躰を燻(くすぶ)らされていた舞華は、再び奉仕に集中する。このまま焦らされていては、本当に気が変になってしまいそうだった。
 もう少し――もう少しで、彼がイってくれる。そうすれば、自分もこの耐え難い疼きから解放されるのだっ。

“ぶちゅ……、じゅ、ちゅぱ……っ”

 それまで以上の熱心さで、舞華は頭を上下に動かしながら、少年の猛りきったペニスをしゃぶる。その動作に従って、耳元で、長い髪がサラサラと揺れた。
 舌を肉棒の裏側に強く押しつけながら、幹の部分に絡ませた唇を引き締める。そうしながら頭を振り、肉棒を出し入れしながら刺激する。

『う……あ、それ、いいよ。もうすぐ……イきそうだ』

 思わず、というように、彼女の頭に添えられていた少年の手の平に、力が入る。そのせいで、怒張がより深く口内に侵入し、喉の奥に先端が当たる。

『ふん……っ、んんんんっ!』

 えずきそうになるのをなんとか抑え、必死でペニスを吸い上げた。呼吸が苦しくて、ドクドクという自分の鼓動が耳まで聞こえてきそうだった。

『舞華ちゃん、すごくイヤらしい顔してるね。そんなに、ハル君のを飲みたいんだ』

 乳房や股間を焦らすように愛撫しながら、少女が彼女を言葉で責める。しかしもう、舞華には少女のそんな嘲笑すらも気にはならなかった。舞華は、ただ『その時』を求めて、口の中のモノを、顔を真っ赤に染めながら吸い上げた。

『う……っ!』

 短い一声と共に、少年の先端から『びしゃ……っ、びしゃっ』と、生臭い粘液が彼女の口腔全体にあふれ出す。男性の性欲、そのもっとも生々しい匂いと味が、口と、そして喉の奥を通して鼻腔にまで周り、いっぱいになった。

『ふんっ!? んんんん……っっっ!』

 吐き出すことを許されてはいないソレを、舞華は調教された従順さでもって嚥下する。

『ふあ……っ、ごくっ、んん……んくっ、ごくっ』

 粘ついた、表現しがたい異味をしたそれを、何度もに分けて飲み下す。少年のあまりに一方的な欲望が、喉を通り、胃の中へと流れ込み、そしてそれは汚辱感の混じった倒錯した満足感と共に、彼女の内部に浸透していくような、そんな思いを、舞華に感じさせた。

『んん、うんっ……あ』

 男性を最後まで導いた。その奇妙な満足感にも似た痺れを心に感じ、舞華は放心しかける。
 そこに、

『ご苦労様、舞華ちゃん。約束どおり、イかせてあげるね?』

 唐突に、少女が彼女の乳首と、そして股間の最も密やかな場所にある肉の芽を、指で強くこすり上げた。

『ひっ……ぐうっ!?』

 その突然の刺激に、半ば朦朧としていた彼女はなんの抵抗も出来ずに、あっけなく、そして暴力的に、頂上まで連れ去られてしまう。

『ああ……ああ、あ……』

 へなへなと全身から力が抜け落ち、舞華は正面に座る少年の股間に頭を埋めるように、前のめりに崩れ落ちた。
“びくっ、びくっ”と、身体が彼女の意志を離れ、痙攣するようにひくついている。

『あらあ、舞華ちゃん、そんなに気持ちよかったの?』

 少女の言葉に応える余裕もなく、舞華は荒い息を繰り返す。頬に、濡れた、少年の少し硬い体毛が押しつけられているのを感じた。

 ふと、脱力しきった舞華の頭を、優しく撫でる手の平の感触がした。彼女の自慢の、長い黒髪ををそっと撫でる、温かい手。まるでよく言うことを聞いた愛玩動物を褒めるような、そんな仕草。

『さあ、舞華ちゃん。舞華ちゃんのことを気持ちよくしてくれたお礼を、ちゃんと言おうね』

 少女の声に促されて、力がまともに入らない身体をようやく動かして、顔を上げる。
 そして舞華は、微笑みを浮かべて彼女を見下ろす二人に対して、疲れてだるくなった口を開く。

『ありがとう、ござい、ました……ご主人、さま……』

 よくできた、と舞華に語りかけるように、少年の手が彼女の髪を梳る。
 その感触に、彼女は背筋に新たな痺れが走るのを感じた。

(これは……夢よね? 私は今、寝ているはずだもの……)

 そう何度も自分自身に繰り返しながら、舞華は目を閉じた。

《 2 》

「――先輩? 舞華先輩っ!」

 その声に、ハッとする。

「あ、ごめんね。えっと、再来月にある展覧会への、応募の話ね?」

 慌てて答えた内容が、正しかったのかどうか。机に相向かいに座る桜木 柚美(さくらぎ ゆずみ)は、困ったような、心配したような視線をこちらに向けていた。

「先輩、大丈夫ですか?」

 言いながら舞華の顔をのぞき込む柚美は、古風な雰囲気の名前とは正反対の、ボーイッシュなタイプの少女だった。舞華にとっては美術部の後輩だが、陸上部も兼部していて、男の子のように短くした髪型と健康的に日焼けした肌が印象的な女生徒だ。
 今日は陸上部が休みの日であり、美術部が毎年参加する展覧会も近いことから、珍しく部室に顔を出したのだ。

「なんだか、ぼうっとしちゃって……舞華先輩らしくないですね。体の調子でも、悪いんですか?」

 ややつり目がちの瞳を心配そうに細めて訊ねてくる少女に、舞華は大丈夫だと笑ってみせる。

「ううん、そういう訳じゃなくて……ただちょっと、変な夢を見たから」

 そう。舞華はここ数ヶ月の間、奇妙な夢に悩まされていた。それは数日ごとに、何度も何度も繰り返されるのだった。

「夢、ですか」

 興味を持ったように、柚美が身を乗り出す。

「うん、なんていうんだろう。何日かに一度、同じ人が出てくる夢を見るの。あんまり楽しい内容じゃあなくて、そのせいか夢を見た日は、なんとなく身体が重くって……」

「へ~、そうなんですか」

 いかにも好奇心満々で目を輝かせている後輩を見て、舞華は思わず苦笑を浮かべる。
 そして話題を元に戻そうとしたが、その機先を制して、柚美が唐突に言った。

「あの、先輩」

「え、なに?」

 聞き返す舞華に、柚美は少しだけ真面目な表情を浮かべて言った。

「実は私、最近夢の本に凝ってまして」

「夢の本って、夢占いとか、そういうの?」

 まあ、柚美らしいと言えば、らしい。この娘は見かけこそアウトドア系の健康美少女だが、その実、占いなどの話題が大好きなのだった。美術部に入ったのも、絵というものに対して、漠然とした幻想的なイメージを持っていたかららしい。

「えっと、占いもですけど、それ以外にも心理学や精神学をやってる人が書いた本とかを、片っ端から読んでるんです」

 柚美は無邪気な顔を、ずいっと舞華に寄せる。

「よければ、その夢の話を聞かせてくれませんか? もしかしたら、なんでそんな夢を何度も見るのか、理由が分かるかもしれませんし」

「え……?」

 少女の申し出に、一瞬、思考が固まってしまう。
 夢の内容は、迷うまでもなく、他人に話せるようなものではなかった。特に、後輩の女の子になど。

 毎回、夢には同じ二人組が現れ、そして、その二人と舞華は……

        『ドクン――ッ!』

「あ――っ!」

“ガタッ”と椅子の音を立てて、舞華は急に立ち上がった。

「ど、どうしたんですか? 先輩」

 突然の舞華の行動に、驚きの声をあげる柚美。

「あの、わたしなんかヘンなこと言っちゃいましたか? それとも、やっぱり気分が悪いんですか?
 なんだか先輩、顔も赤いし……」

「――――っ!」

 少女の言葉に、舞華は顔を逸らすようにして後ろを向くと、そのまま美術室のドアに向かった。

「あ、あの……」

「ご、ごめんね。やっぱりちょっと、気分が悪いみたい。今日はもう帰るから、ほかの人達が来たら、そう言っておいて」

 混乱している後輩から逃げるように廊下に出ると、舞華は後ろ手にドアを閉める。
 そのまま赤くなった顔を隠すようにうつむきながら早足に歩き、階段を上がると、そこにあるトイレへと駆け込んだ。

「…………」

 この階には、放課後使用される部屋もなく、人影も無い。舞華は、トイレの中に誰もいないことを確認してから、個室に入り、カギをかけた。

「ふう……」

 ほっとしたように、ため息を付く。そうしてから、自分のはいた吐息の中に籠もった“熱”のようなものに気づき、さらに顔を赤らめた。

「私、なんで、こんな……」

 半分泣きそうな声で呟くと、おそるおそるスカートをまくり上げる。
 その下では、ライトグリーンのショーツが、舞華の身体が分泌したもので濡れていた。

「とにかく、拭かないと」

 トイレットペーパーを引き出し、中心に当てる。『クチュ……』という水音と共に、舞華の全身を、痺れのようなものが駆け抜けた。

「ふう、ああ……っ!」

 思わずあふれ出した声を噛み殺すために、舞華は慌ててハンカチを取り出して、唇に噛みしめる。
 そのままズルズルと、洋式のトイレの上に座り込んだ。

「ふあっ、ふう……っ」

 躰が火照って止まらない。下半身がズクズクと脈打っている。
 ショーツは、シミをふき取るどころか、あとからあふれ出してきたもので更に気持ち悪く濡れていた。

 最近は、『あの夢』を見た日には、いつもこうだった。朝起きると、下着は夜尿をもらしたかと疑うほどぐっしょり濡れており、そして夢のことを思い出した時には、こんな風に躰が勝手に熱くなり、我慢できなくなってしまう。

「んうっ……んんんっ!」

 指が動き、ショーツの中へと入り込む。うっすらとした草むらをかき分け、指先が熱く濡れる中心に触れた。

「うぁ、ん……くっ、うん、……」

 秘めやかな割れ目を指の腹でこすり上げ、刺激する。指が動くたびに、クチュクチュと卑らしい水音が起き、静かなトイレの個室に響いた。

(やだ、指が……勝手に)

 しかしそれは、本当に“勝手に”動いているのか。彼女の指は、間違いなく、“彼女の欲望”に従って、熱く濡れた部分を撫で回していた。
 刺激は尾てい骨の辺りを通り、脊髄を駆け上がり、そして彼女の脳までを浸食し、思考を白く染め上げていく。

「く……ん、んんん……っ!」

 噛みしめたハンカチが、唾液で濡れていく。それでも抑えきれない声が、唇から洩れた。

(こんな……ここは、学校なのに。誰か、入ってきたら……)

 止めることの出来ない指に戸惑いながら、舞華は必死に耳をそばだてる。
 この階には、この時間には誰もいないはずだが、絶対ではない。万が一、誰かがこのトイレに入ってきたら……。

「ふぐう、ん……、ううぅ」

 学園で、教師からも、同級生や後輩達からも、評価を受けている彼女。
 自分が格別な存在だなどとは考えていないが、それでも周囲が、自分ががんばっていることを認めてくれているのは、やはり誇らしかった。

 しかしそんな評価も、今の彼女を知られるような事があれば、一瞬で崩れ去ってしまうだろう。
 それどころか、これからずっと、彼女は皆に変態と嗤われながら過ごすことになるだろうことは、間違いない。

“ちゅく……ねちゃ……”

 そこまで分かっていながら、舞華は自らを制止することが出来なかった。
 股間をなぶるのはいつしか両の手の平となり、より奥まで、より敏感な場所を求めて、熱く湿気った淫唇をまさぐる。

(ダ……メ、……だめなのに、こんな……の…)

 集中した耳に、いろいろな音が聞こえてくる。換気扇が回る音や、閉まりきっていない蛇口から雫が落ちる音。
 声が聞こえてくるのは、恐らくは、グラウンドを使って練習をしている生徒達のものだろう。快活そうな掛け声が、この屋内にも僅かに入ってくる。

 そんな音に耳を澄ませながら、こんなところで自慰行為を行っている自分が、あまりに浅ましく、惨めに思えた。

(こんな……なんで私、こんな……)

 屈辱に、涙が頬をつたって落ちる。それでも厭らしく火照った場所をねぶる指は止めることなどできず、そのことが、さらに彼女を責め苛んだ。

(なんであんな夢、見るようになったんだろう?)

 ――あんな、イヤらしい夢。

 初めてその夢を見たのは、数ヶ月前だった。見知らぬ二人の少年少女が彼女の夢に現れ、そして舞華を犯した。彼女は犯され、そして犯されながら、何度も何度も、絶頂に達した。
 翌日、彼女の下着は、気持ち悪く濡れていた。

 以来、彼等は数日ごとに夢の中に現れては、彼女を犯し続けた。
 いや、『犯された』というのは、もしかしたら正くはないかもしれない。夢の中の舞華は、いつからか彼等が訪れることを待ち望むようになっていた。そして自ら……

“にちゃ……、くちゅ……”

 自身の官能を掘り起こそうと動く指が、秘裂の上の方、快感で小さく膨らんだ最も敏感な芽を探り当てた、

「んっ――く、……うっ!」

 一段と強い痺れが全身を駆け回り、舞華は身を縮めた。カクカクと、身体が振るえる。
 その痺れに耐えながら、舞華の指先は、さらにその部分を腹を押しつけるようにして撫で回す。

「ふぁっ、ふ、ううう……っ」

 昨晩に見た夢が思い出される。
 彼女の髪を梳る、少年の、指の感触。彼女の身体を責め立てる、少女の小さな手の感触。

「くぅ……あぁ、あ、あ、あ、あ……!」

 二人のことを思いだした瞬間、突然、身体を縛る快感が、その鮮やかさを増した。
 まるで、それまであったフィルターを取り除いたように、それまでとは全く違った鮮烈な快感が、背筋を駆け上がる。

「うあ……あ、ああ……」

 舞華は追いつめられ、そして一段と大きなうめき声を洩らす。もはや、誰かが入ってきたらなどという恐怖感は、頭から消え去っていた。
 そして指で割れ目を探り、いっそう強く押しつけ、クチュクチュとかき回す。

(あ、ああ、気持ち……いい。気持ちいい、よお……っ)

 頂点は、もう、すぐそこだった。あと一歩で、自分はあの快楽にたどり着ける。
 舞華は夢中で、ヒクヒクと蠢く肉の唇を摘むようにしてこすり、敏感な突起を、ぐっとさすり上げた。

 ――夢で、少女がそうしたように。

「んんん、んーー……っっっ!!」

 目の前が、真っ白な光で満たされたように感じた。全身の筋肉が硬直し、ブルブルと震えている。呼吸が止まり、そして心臓の鼓動さえも、その一瞬、鳴りをひそめたようにさえ錯覚された。

「く、ふう……あぁ…」

 やがてその波が通り過ぎると、今度は全ての力がどこかへと吸い取られでもしたかのように抜け落ちる。
 力を失った口元から、ぐっしょりと濡れたハンカチがこぼれ落ち、タイルの床に落ちた。

「はあっ、はあ……っ」

 学校のトイレの便座の上で、舞華はグッタリと身体を弛緩させ、荒い息をもらす。
 潤んだ瞳は呆然と宙をさまよい、何も映してなどいないようだった。

「はあっ、ああ、……はあ、…………ごしゅじん、さまぁ……」

 だらしなく開いた自分の唇から、そんな言葉がこぼれたことに、舞華は気づいてはいなかった。

《 3 》

 ひとりトボトボと、帰宅路を歩く。
 ずっしりとした暗い気持ちが、舞華の両肩にのしかかっていた。

 絶頂を迎えたあと、しばらくの間、彼女はトイレで放心していた。
 やがて身体を支配していた熱が過ぎ去ると、今度は肌寒さと自己への嫌悪感が、彼女の身体と心を蝕んだ。

 そそくさと、自分の自慰の痕跡を片づけるているあいだ、彼女はあまりの情けなさに再び涙をこぼした。
 自分はいったい、どうなってしまったのか?

「あ……」

 ふと気付けば、舞華は駅前の商店街にいた。知らぬ間に、ずいぶんと歩いていたらしい。

 この場所は、覚えている。ここは……

「あの二人と、会った場所だ」

 数ヶ月前、初めてあの夢を見た日。
 あの日、舞華は確かに、この場所であの少年と少女と会ったのだ。

 驚いた。その日に見た夢の中に出てきた二人と、全くそっくりな外観を持った少年と少女に、現実に出会ったのだから。
 とはいえ、『会った』というのは、少し違うかもしれない。なにしろ少年の方と少し目があっただけで、すぐに二人は姿を消してしまった。

 その後、何度もこの道を通ってはいるが、二人を見たのはその一度だけだった。

(あれって、気のせいだったのかなあ?)

 あの日、あの二人とであったこと。それすらも、もしかしたら夢の中の出来事だったのかもしれない。

(もし、また会ったりしたら……)

 ゾクリ――と、背筋に痺れが走った。
 自分は、何を、どのように期待しているのだろうか?

 もしも二人とこの場所で出会ったあの出来事が、夢などではなく、現実にあったことだとしたら。

“はるくん”と、“さとみ”。
 夢の中で舞華を性の人形、道具、あるいは奴隷とし、果てしない快感に導く、彼女の“ご主人様”達。
 彼等と、もし現実に出会ったなら、舞華は……

『ドクン――ッ』

 舞華は、ハッとする。

(いけない、こんなところで……)

 頭を左右に振り、そん思考を振りほどこうとする。
 こんなところで、また“アレ”が起こってしまったら……そんな恐怖が、頭を掠めた。

「はやく、家に帰らないと……」

 大きな不安と……そしてそれ以外の“何か”を心に抱えながら、舞華は家路を急いだ。

< その後の、いち――了 >

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