BLOOD DEMON 第3節

第3節

「ふぁ~あ、あれ?ここどこ?」
 小林が目覚めたようだ。
「俺の家だよ」
「あれ?阿久津君?何でここに?もしかして!」
 バッと小林が被っていた布団の中をのぞいたので俺はすかさずに言った。
「何にもしてねーよ!」
「あははは、そうだよね~、ざ~んねん。てゆーか何で私ここにいるの?」
「取りあえずお前、昨日の事、覚えてるか?お前が俺のバイト先の近くの公園で寝てたからとりあえず俺の家に運んだんだよ」
「昨日?ん~阿久津君のコンビ二に遊びに行って・・・それから公園に行ったんだよ。んでえーと・・」
 俺はそこですかさず言った。
「んでボーっとしてたら寝ちゃったと・・・お前以外に呑気だなー」
「え!そんなはず・・・」
 小林は昨日のことを思い出そうと少し悩み急に思い出したよう顔色を少し変えながら俺に話した。
「そうだ!牙だよ!牙!公園にいたら牙が生えた男が出てきたんだよ。阿久津君もいたよね?ね?」
(まずいな・・・きちんと覚えているじゃないか・・・んじゃあ・・・)
 俺は昨日のことを覚えている小林に対し少し小馬鹿にするように言った。
「はぁ?お前まだ寝惚けてんのかよ!?人に牙が生えてるって?はっははは。マジ寝言は寝てから言えってこの事だよ」
 小林は少し困惑をしている様子で頭に右手を支える格好をして言う。
「寝惚けてないってば!本当に見たんだよ!牙の生えてる奴をさ~」
 俺は小馬鹿にしている表情を変えずに言った。
「んじゃ夢みたんだよ。最近話題の吸血鬼のね。ただ夢と現実をごっちゃにしてっと世間様から白い目で見られんぞ・・・はっはっはは」
 小林は頬を膨らませながらすねるように言った。
「もう!馬鹿にして!失礼しちゃうね!けど・・・やっぱ夢っだたのかな~?」
「そうだよ!はい、話はここまで!ここは俺んち!さっさ出てってくれたまえ。じゃね~とみやかが来て面倒なことになっからよ」
 小林は俺のその言葉を聞き今までの表情とは違うニィと言う効果音が出そうなくらい口を歪めた。
「そっか~・・・そうだよね~。阿久津君的にはやっぱやばいよね~。単なる同級生と自分の部屋で一夜過ごしちゃった事をみやかちゃんにしられちゃね~」
「そーゆーわけじゃね~よ」
 小林はもっと口を歪めてさも面白そうに笑い言った。
「んじゃ、出てってあげなーい!」
 俺はまずいと思いしょうがなく認めた。
「わかった。まずいんだよ!だから出てってくれ!」
「あれ?人に物を頼むときは・・・」
 俺はもう小林に何を言っても無駄な事を知り腹をくくった。
「・・くっ!・・・出てって下さりませんか?こ、小林・・・由紀子様」
「よしよし結構出てってあげますよ。みやかちゃんにもかわいそうだしね♪」
「・・・っち!回収してやったのはこっちの方なのに・・こんなんじゃあのまま公園にいさせりゃ良かったぜ・・・」
 俺はそれをボソッと小声で言ったつもりだったのだが小林には聞こえてたらしい。
「え?何言ったの?きこえなーい。出てって欲しくないって?」
 俺は間髪いれずに言う。
「ま、また・・来てね!(もう一生くるな!)」
「わかった。出てくよ!んじゃ・・」
 ガチャ!小林が嫌な笑いを浮かべながら玄関を開けようとするとドアは自ずから開いた。そしてそこにはいつもの時間より少し早めに来ていたみやかが朝からテンション高そうな顔して立っていた。
「秋也!おはよう!ちょっと早いけど起きて・・・」
「わわ!小林さん!?いたの?」
 みやかが想像外の人物に驚いている。俺はすかさずフォローを入れた。
「いやいや、こ、こいつが公園で寝てたからしょうがなく運んでやったんだよ」
 みやかは疑問が解けた様な明るい顔をして小林に対し言った。
「ああ!そうなんだ。そうだよね。公園でボーっとしてるとついつい眠くなる事あるよね!」
「そ、そうなんだよ!わ、私もついつい寝ちゃったらしいんデスヨ、だよね!んで阿久津君がここまで運んでくれた訳よ?」
 小林はみやかの登場と返答で慌てと呆然とした感で所々ドモリ、変な敬語を使いながらやっと言葉を紡いだ。
(はぁ、みやかが抜けてて良かった・・・)
 と俺はこの時に心から思った。俺はあまり場を広げないようにとすぐさまに言った。
「おい!ここでのほほんと会話なんかしてたら学校遅刻すんぞ!」
「あ。そうだね!今日はせっかく早めに来たんだからゆっくり登校したいもんね。いこ!小林さん、秋也」
「おう」
 小林は話の展開にいささか着いていけない感じで言った。
「そ、そうね」

 学校に着いた。
 俺はみやかに別れを言い自分の席へ着いた。すると小林が話しかけてきた。
「ねぇねえ。今日の事・・・人に言わないほうが良いよね♪」
「あたりまえだ。変な誤解をされても困るからな」
「んじゃ、今度なんか奢ってね♪」
「はぁ?なに言ってんの?運んでやったのは俺だろ?なんで俺が奢らなきゃいけねーんだ?」
「んじゃ、言っちゃおうかな~。美紀に・で・も♪」
「わかったわかったって。奢りゃ良いんだろ?」
「ん。そういうこと♪」
 話が一段落した所で小林はまじめな顔をして俺に尋ねた。
「ねぇ、本当に私は公園で寝てただけなの?吸血鬼とかはいなかった?」
 俺はバカにしたような顔をして小林に対し答えた。
「はぁ?まだそんな事言って寝惚けてんのか?吸血鬼なんて存在するわけがないだろ!」
 小林は何かを考えているような顔をして言った。
「だよね~。けど私にはあれが夢だったとは思えないんだよ~」
「夢だよ、夢。それか寝惚けてんだろ!」
「ま、いっか!それより月城さんってそうとう天然なの?」
「ああ、朝の事か。俺も流石にびびったよ。普通はあれじゃ納得しないよな」
「だよね。私だったら絶対に怪しんでるとこだよ」
 俺たちが話しているうちに麗香先生が顔を出したので話をやめた。
(これで小林はもう朝の事を人に言う事は滅多にないな。)
 俺は小林が意外に純なのを知っていた。変な誤解で困るのは小林も一緒なのだ。俺はそう思うと安心して睡眠の世界へ堕ちて行った。

「おい!秋也!今日の体育は外で持久走らしいぞ。早く着替えて行こうぜ」
「っていつまで寝てんだよ!お~き~ろ~秋也!おい!」
「・・・ん?あん?」
 垢抜けた声のせいで意識が覚醒し、目を開けてみると目の前には醍醐が立っていた。
「どした?」
 俺が質問を投げかけてみると醍醐はまるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔で言った。
「どした?じゃね~よ!体育だから気が得てさっさと外行こうぜって言ってんだよ!」
「ああ。わかった。んじゃ着替えっか」
 俺たちは着替え初めた頃には既に男子のクラスメイトのほとんどは隣のクラスに行ったらしく男子の姿はほとんど確認できなっかた。逆に隣のクラスの女子が集まり始めていて俺たちの事を眺めている女子もいた。そこへ小林がやってきて俺の目の前に立ち嫌~な笑顔で言った。
「なに?阿久津君。私たちの着替え見て行くの?」
「んなわけね~だろ!行くぞ、醍醐」
 俺はそう言うと教室のドアの方向に歩き始めた。その時、後ろから小林の声が聞こえた。
「この中に阿久津君になら着替えを見られてもいいと思ってる人、少なくないと思うんだけどな~」
 俺は振り向かずに言う。
「うっせ!」
 そして隣のクラスへ行き着替えた。外のグラウンドへ向かうために階段を下りている時に醍醐が話しかけてきた。
「お前ってほんと授業中にずっと寝てるのな」
「なんだか最近、朝、昼元気でね~んだよ。逆に夜になると元気出て来ちまって寝るのに一苦労って感じだよ」
 醍醐は呆れたような顔をして言った。
「はぁ?お前それって完全に夜型じゃね~か。意外に夜行性だったのな。けど治さね~とこの先苦労すんぞ」
「夜行性なはずはね~んだよな。俺は元々、結構早寝なんだぜ。バイトの日以外はな。まぁ朝は前から弱いけどな」
「それってお前、ただ単に寝るのが好きな上に寝起きが悪いだけじゃね~か!」
「ま、そうとも言うな」
 そんなくだらない話をしているうちにグラウンドへ着いた。
 キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン♪
 着いたところで授業開始のチャイムがなりバラバラに立っていた生徒たちはグラウンド授業の開始のさいの所定の場所へゾロゾロと集まり始めた。少し待つと体育の教師の正岡がだるそうに歩いて来た。
「おう、みんなそろってるみたいだな。今日は知っての通り楽しい持久走だ。5分後にはじめるぞ。各自、準備運動しろ」
 俺は言われた通りに準備運動をしていた。隣から隣のクラスの陸上部の島谷が声をかけてきた。
「おい!今日は負けないぞ!勝負な」
「ん~。だるいからパス」
「そんな事言うなよ。んじゃ俺が負けたら学食の日替わりランチおごってやる」
「俺が負けても何もおごらないぞ?」
「OK!んじゃ勝負だ!」
 5分がたったのか正岡がみんなに聞こえるように大きな声で叫んだ。
「んじゃ持久走。グラウンド12周で6キロだ。初め!」
 俺はその合図を聞くと島谷と共に走り始めた。
 グラウンドを12周走り終え休んでいたところ、少し遅れて島谷が走り終わった。そこで俺は島谷に声をかけた。
「俺の勝ちだな。島谷」
「くっそー。この前ほど差が開かなかったな。今回もお前の勝ちだ。光栄に思え」
「おぅ。んじゃ学食で会おうぜ」
「まぁ約束は約束だ。しょうがない。・・・ところでお前、結構汗っかきなのな」
 島谷が俺の事を見て言った。俺はそう見られてもしょうがないくらいの冬の持久走では異常な程の量の汗を掻いていた。
(おかしい。・・・いつもだったらそこまで汗を掻かないはずなのに。やっぱり何かアレと関係があるのか?)
 俺は考えている事を島谷に気付かれないように涼しい顔をして答えた。
「なんか今日、調子悪くてな・・・寝不足のせいもあるかな?」
 島谷は俺の言葉を聞くといかにも悔しいという顔にして言った。
「んじゃ、アレか?俺は体調の悪い奴に負けたのか?お前の才能はどこまで底なしなんだよ」
「気にすんなよ。汗の量が多いだけで体力自体は普段となんら変らないと思うからよ」
「だよな。てかその言葉信じさせてもらうよ。俺の今後の陸上生命の為にもな。じゃね~とやってらんね」
「んじゃ、何度も言う様だがあとで学食でな」
「おう。待ってるぜ。」
 俺たちが会話が終った頃に調度に最後の一人走り終わった。それを見た正岡が皆が聞こえるように大きな声で言った。
「おつかれさん!今日の授業はこれで終り。解散!」
 それを聞いた生徒たちはゾロゾロと校舎の方に向かい歩き始めた。

 キーンコーンカーンコーン♪
 放課後がきた。
「秋也!今日はどうすんの?」
 後ろからみやかが話しかけてきた。
「今日はバイトもねーし、家に帰るだけだな」
「そっか。じゃ部活が終ってから遊びに行って良い?」
「いや、今日はなんか体調が良くないらしいからかえって寝るわ」
 するとみやかは心配そうな顔をし俺のおでこに手を当て言った。
「風邪?大丈夫?熱はなさそうだけど・・・」
「さんきゅ。でも心配はいらねーよ。多分ただ単に寝不足なだけだと思うからね。昨日はあんま寝れなかったからな」
「そっか。小林さんがいたもんね。ベットじゃ寝れないから熟睡できなかったんだよね。じゃ、私、部活行くね。秋也は早く帰って寝なよ」
「おう。じゃーな」
「うん。バイバイ!」
 俺はみやかに別れをつげ帰路に着いた。

 ピーンポーン♪
 俺が家に着き昨日の出来事を考えていた時に時計が12時の針を過ぎた頃、家のチャイムがなった。
(この時間に誰だ?みやかは今日は来ないはずだが?あいつは呆けてる所があるからな~。というよりあいつはもう寝てるはずだ。)
 俺はそんな事を考えながら玄関に向かった。
 ガチャ。
「は~い。どなた?」
 俺がそう言って玄関のドアを開けた先に立っていたのは葉月だった。
「あの、夜分遅くすみません。バイト上がりに来たので・・・・お邪魔してよろしいですか?」
 葉月がさも申し訳なさそうに上目遣いをしながら遠慮気味な声で言った。
「おう。いいよ。んじゃ入って」
 俺は玄関を開けて葉月を迎え入れた。
「それじゃ、お邪魔します」
 俺は取りあえず葉月を自分の部屋に連れて行き紅茶をだした。
「はい、紅茶。悪いな、こんなもんしかないけど悪いな。」
「いえ、お気使いしないで下さい。私が勝手に来たのだから・・・」
「いいんだよたかが紅茶なんだから!」
 俺がそう言うと葉月はまた申し訳なさそうな顔をして紅茶を受け取った。
「あ、すみません。頂きます・・・」
 俺は葉月がまだ立っているのに気づき葉月に言った。
「何やってんの?腰掛なよ」
「いや、秋也様より先に座るのは申し訳ないです」
「様・・・じゃないでしょ?」
「あ、申し訳ございません。秋也君ですよね・・・」
「そうだよ。俺にそんなに気を使わないでいいよ。座りな。」
 俺は「座りな」と言う言葉をきつくならない程度に強めて言った。
「はい。それじゃ・・・失礼します」
 そう言って葉月は座った。座った葉月を確認して俺も腰掛けてから真面目な顔をして言った。
「やっぱ葉月も治ったか」
 葉月は俺の言葉を理解したらしく今までの遠慮した顔から引き締まった顔をして答えた。
「はい。今まで前の主人の君島勇次に仕えていた時は一日中、吸血鬼のままで日に当たってはいけなかったので前田勇次のアジトで日中過ごしていたのです。昨日もそこで夜すごしていたら朝日が昇る頃になって気付いたら吸血鬼じゃない元の姿に戻っていたのです」
 俺は葉月の話を聞き言った。
「大概、俺と状況は同じだな。葉月?家に帰ったのか?」
「はい。帰りました」
「親とかに何か言われなかったのか?失踪事件に巻き込まれた事になってるんだろ?」
「はい。ですがうちの親はそういうとこは結構軽いんです。旅に出てたって言ったら納得しちゃいましたよ。まぁ多少お説教はされちゃいました」
「それは良かったな」
「はい」
「それで話を戻すが、俺は夜になるとまた吸血鬼になっちまうんじゃないかと思ってたがこの時間になっても大丈夫ならもうならないのかね?」
 葉月はそれを聞いて少し悩んだような素振りを見せてから言った。
「いや、それは考えにくいと思いますよ。私、今日、一日過ごして気付いたのですが・・・」
 そう言いかけると言い難そうな顔をした。俺はそれをみて言った。
「良いから言ってみろよ。俺も聞きたいし」
「関係ないかもしれませんよ?」
 と言った後、葉月は覚悟を決めたらしく息を思い切り吸い込んだ。
「私、一日過ごしたんですが。日中の体調が優れなかったんですよ。んで日が落ちる頃になると、元気が出てきんです」
「俺も同じだよ。俺の友達はそれは単なる夜型なだけと言ったんだが・・・」
「この日中は体調が悪く、夜間は優れるっていうリズムは私が前田勇次に吸血鬼にされた時からなんです。これは吸血鬼に現れる症状だと思うんです」
「だから俺たちはまだ吸血鬼じゃないとは言い切れないってことだな?」
 俺がそう言うと葉月は申し訳なさそうな態度に戻り言った。
「はい。生意気にすみません」
「いや、ありがとう。葉月の言ってる事が正しいと思うよ。まぁ俺の場合は葉月と多少だけど相違点はあるけどな」
 葉月は俺の言葉に不思議そうな顔をして言った。
「相違点・・・と言われますと?」
「今、気気付いてる所は2つある。でまず、だな。一つめは俺は葉月と違って・・・噛まれてはいない。なぜか、吸血鬼になったんだ。そして二つ目、俺が日中、弱いのは確認できてる限りではここ最近に段々なってきていたと言うことだ。まぁ昨日の事があったからだと思うけど昨日と比べると今日はガクンと弱くなっていたけどな」
 葉月はおとなしく聞いていたが俺が話し終えると葉月は間を置いて話し始めた。
「そうですよね。秋也君は噛まれてないんですよね。なんで吸血鬼になったんでしょうね?私が日中、吸血鬼じゃなくいられるのは阿久津君に噛んで頂いたからでしょうかね?」
「どうだろうな。そう考えるのが妥当だけどな。まぁ俺たちが考えもつかない所にあるかもしれないな。まぁ当面、考えなきゃいけない事はどうやったら元に戻れるか、もう吸血鬼化しないか、するとしたらどういう状況になったらするか・・・だな」
「そうですね。私、たかが知れてるかも知れないけどできる限り調べて・・・」
 キーーーーーン!
 葉月が言葉を言いかけている途中にどこからか頭の中にすさまじい音が響いた。
「おい!今の・・・」
 俺がそう言うと葉月も聞こえたらしく葉月は俺を見て言った。
「はい。聞こえました。どうします?」
「音の出ていた方向に確認してみるしかないだろ。行くぞ葉月!」
「はい」
 俺は葉月の返事を聞いてから玄関に走った。外へ出たところでさっきと同じような耳鳴りに似た音が聞こえた。
「こっちの方向だ!いくぞ」
 俺は昼とは違う身体の軽さを感じながら多少葉月の足の速さに合わせ走り出した。音に向かって走っているうち音の発生源を思われる場所へ着いた。そこは海に繋がる森の手前の臨海林間公園だった。そこの中に入って行くとそこには二つの影が見えた。そこにいる影は薄い茶色の入った髪をもつ女と思われる影とオールバックの大柄な男の影がまぐわっているのが見えた。
「ああ!うぐぁああ!・・・ああ。やめて~!誰か!たすけ・・・っう」
 俺はあからさまに拒絶している女の声が聞こえたので急いで駆け寄った。影が鮮明に見えてきたところで、大柄な男に牙が生えている事に気付き、そして犯されている方の女の首元にはまだ噛まれていないことに気が付いた。
(まだ、助かる!)
「おい!あんたそこで何してる!」
 俺が男に促すように大きな声をだした。男はピタッっと動きをとめて俺の方に顔を向けて静かな声で言った。
「ほう、お前、この俺の邪魔をしようとしてるのか?」
「ああ、そうだよ。悪ぃか?女が嫌がってるじゃねーか!」
 男は少し驚いた顔をして言った。
「お前、俺の顔を見てなんにも思わないのか?」
「ああ?その牙の事か?それともその不細工な顔の事か?」
 男は女を放して立った。そして身なりを整えながら俺の事を軽く睨んで言った。女は意識を失ったらしく動かない。
「お前は俺に喧嘩を売っていると言うのか?お前の後ろの女がどうなっても知らんぞ」
「喧嘩を打ているんじゃねー、女を放せと言っているんだ」
「それはできない相談だ。立ち去れ。そうすれば許してやろう。それでも邪魔すると言うなら・・・」
「するならなんだ?」
「削除する」
 俺は覚悟を決めていった。
「やってみろ!」
 俺はそう言うとステップをとりわざと女から離れるように進めて行った。そうしている内に男は言葉を発した。
「来ないのか?それなら俺から行くぞ!」
 ザッ!
 俺は男が俺にかかって来たのを確認して葉月に対して叫んだ!
「葉月!女性を保護しろ!」
 葉月は俺の声を合図に女性に走りよった。
「了解しました!」
 それに気付いた男は感嘆したように言った。
「ほお、俺をみて女まで動けるのか。やるなぁ。だが公園を出ようとはなどは考えないほうがいいぞ!」
(葉月が公園を出ようとしたらこいつは葉月狙いで行くな・・・。そうなったら俺が止める事は難しい。もし逃げても俺が負けたら同じだ。)
 俺はその事を踏まえて指示をだした。
「葉月!そこでその人を守りながら警戒してろ!」
 葉月は俺のその言葉を聞き言った。
「わかりました!」
 男は俺と葉月の一部始終を聞き言う。
「なかなかいい判断だ。会話は終ったか?それなら行くぞ!」
 男は俺に向かい走りこんできた。
 ザッ!ドォ!バズッ!
 男は左ジャブ、右ストレート、右の前蹴りを打って来たが俺はバックステップで全てをかわした。
(なるほど、速さは昨日の葉月より速い位か。だが威力が問題だな。勇次の比じゃない位だ。一発でもまともにあたれば致命傷になりかねない。だが今日の夜の俺の体調は抜群だ。いける!)
 男は俺に避けられたのを首にもかけずに機嫌がよさそうに言った。
「ははは、なかなかやるな。お前、人間にしては中々できるだろ」
 男はかまえて少し止まったかと思うと右ストレートを打ってきた。俺はそれを確認すると男の左に移動で切るように体重移動をした。
 どぼぉ!
 サッ!
 男の左に移動した俺はそのまま男の頚椎に全体重を乗っけた右の肘打ちを放った。
 ダンッ!
(決まった!)
 俺はそう確認した瞬間、右腕が違和感を覚えた。俺が自分の右腕を見てみる俺の腕は男の左手でつかまれていた。そして男はいった。
「惜しかったな。だが俺を仕留めるには大分・・・力と体重が足りないようだな!」
 男はそう言うと俺の右腕を引っ張り上げ最頂点まで行くと地面に叩き付けた。
 ドズン!と音を立てて俺は叩きつけられた。
「がぁああああああああ!」
「ははは、痛いか?あのまま立ち去れば良かったのにな。だが、もう遅い」
「秋也様ぁぁぁああああ!」
 俺は痛みで朦朧とする意識の中、葉月の声が聞こえ懸命に自分を保って考えた。
(くそ!いてぇ!左の肩が完全に逝っちまった。右の肩も外れたみたいだし・・・どうすればいいんだ?)
「ははは、それではこれで最期だ。楽になると良い」
 男は再度、俺の事を引っ張り上げた。ドッ!と音と共に俺は開放されたらしく地面に落下した。俺は男の方を見てみるとそこには葉月が男に体当たりをしているのが目に入った。
「・・・は・・・づきぃ」
 葉月は俺のに駆け寄ると俺を抱きかかえ男から離れた。
「大丈夫ですか?後は私がやりますから」
「はぁ・・・・はぁ。んな事出来るわけないだろ・・・お、お前!その牙・・・」
 近寄った葉月を見てみるとは葉月には牙が生えていた。
「秋也さま・・・・いえ秋也君を助けたいと思ったら吸血鬼になっちゃいました。しかも昨日より大分、力があるみたいです」
「・・・うぐ・・確かに今の俺よりつかえるかもしんねーがぁ。俺っがぁ・・・・そんな事させるわけにはいかねーだろ」
「いいえ。秋也君はそこで見ていて下さい」
 葉月は俺を降ろすと立ち上がり男に対して言った。
「あなたを許すわけにはいかない。あなたは私が滅する」
 男は喜んだ顔をしていった。
「まさか、俺らと同属だったとはな。しかも話に聞いた主族と来た!主族・・・本当にいたとはな。同属ならこちらも名を名乗らんと失礼だな。俺は斉藤 孝也だ」
「私は・・・お前に名乗る名前はない」
「まぁいいさ。んで?お前の主人はいったい誰なんだ?」
「私の主人は阿久津 秋也。ただ一人・・・。お前はその方を傷つけた」
「なるほどな。あっちも・・か。だが完全体ではないようだな。特に・・・お前の主人はな。そんな奴は怖くないわけだ」
 葉月は男に対して言った。
「主族って言うのは何の事?」
「はははは、そっかわからないのか。なるほど、だから・・・か?まぁ良い。主族とは一回、手合わせをしてみたかったからな。無駄話をしてないで・・・いくぞ!」
 男はそういうと葉月に向かって走り出した。葉月は答えを待っていたようだがこのまま男を待つと後ろの俺に被害がかかると思ったのか右の方に走り出した。
「主人から遠ざかろうって言うのか。懸命な判断だな」
 葉月は少し離れた所に着くと斉藤と名乗る男に対しかまえた。
 ドドドドドドドドドド!
 斉藤が縦横無尽に正拳を繰り広げると葉月は踊るようなステップでかわし懐に潜り、斉藤ののどもとを目掛け掌底を放つ。
 ドン!と葉月の放った掌底はヒットした。
「ぐあ!」
 斉藤は流石に効いたらしく喉を押さえ後ろに下がった。しかし葉月はそれを追い斉藤の膝を踏み台にしそこから跳び膝蹴りを打った。
 ドゴォ。
 斉藤が後ろにのめった所に追撃として跳び膝蹴りの空中期間に一回転空中で宙返りをし、両足をそろえ斉藤の胸部に蹴りを放った。
 ズダン。
 斉藤はそれを受け仰向けの状態で地面に倒れた。そこへ葉月は跳躍をし上から落ちて行った。それに反応した斉藤は落ちてくる葉月の足を掴み自分の上方へ放った。
「え?きゃぁああ」
 ズザァァアア!
 倒れていた斉藤の上方は地面になるので事実、葉月は地面に並行気味に投げられ落ちて地面を滑った。いつの間にか起きた斉藤は相変わらず楽しそうな顔をしていった。
「はははは、久しぶりに楽しい戦いだ。やっぱ吸血鬼の攻撃になると流石に威力は違うな」
 葉月は立ち上がり斉藤に向かって走った。
「無駄口話ている暇はないわよ!」
 葉月は斉藤に向かい右手の爪を出し突き刺すような形で突いた。
 ビュッ!
 葉月の突きに対し斉藤は軽く腕を横から押さえることでいなし、そのままの勢いで葉月に頭突きを放った。
(さっきまでの動きとまるで違う。数段に早くなってやがる)
 そう俺が思うと同時にどごおおぉ!!と音がし葉月の右肩にヒットした。葉月はその衝撃で4,5メートル吹き飛んだ。しかし葉月はよろめきながらも立つと言った。
「あんた・・・ぐっ・・・さっ・きまで・・・手加減・・・・してたのね?」
 斉藤は笑いながら言った。
「流石に人間や女相手に本気はだせなっかったんだよ。だがお前はマジでやれる実力をもっているからな」
「そう。はぁはぁ、それじゃ・・・・行くわよ!」
 そう言いながらも葉月は立っている野もままならない様子でフラフラとして今にも倒れそうな状態だ。
(もう葉月じゃ敵わない!)
 そう思った俺は力を振り絞り叫んだ。
「はづきぃぃぃ!もういい!あとは俺がやるお前が時間をくれたおかげで体力が大分よくなった!」
 それは嘘ではなく俺はかなりの体力は戻っていた。ただ両腕が致命傷を受けたので動かないのだが。斉藤はそれを見て言う。
「ほお、その身体で戦うのか?素晴らしいな。まぁ元々お前から仕留めるつもりだったからな。女は殺すのは惜しい一品だからな」
 俺は立ち上がり男の方を見て言う。
「御託は良い来い!」
 俺は虚勢を張ったのは良いが気からの差の上にこの身体じゃ結果は誰が見ても明らかだった。
(畜生が!なんで吸血鬼の力がでねえんだ。今出ないでいつでるんだよ!はやく出やがれ!)
「その度胸!いいぞ!お前にも本気で行こう」
 斉藤は俺に向かい走り出した。俺は気を完全に集中し、斉藤の動きを目で追った。斉藤は俺に対してスライディングをしてきた。
 ザザァ!俺は斉藤の上を跳び避けた。はずだった。
 ドン!
(どういうことだ?畜生身体がもう駄目だ!早く変身でも何でもしろよ!俺!葉月を助けないといけないだろ)
 俺はスライディングを位地面に平伏す様に落ちた。
 斉藤は俺の横に膝を着く形でしゃがみ右手を拳の形にして振り上げた。
「なかなかのガッツだった。だが終りだな」
 そう言うと斉藤は腕を振り下ろした。
「秋也さまぁぁあ・・・・・」
 ドックン!!!!!!!!
 ドゴオオオオッ!音と共に上がった土煙であたりは一瞬何も見えない状態になる。土煙が引くとそこには秋也の身体は存在しなかった。
「何だ?あの身体でどこへ行った!」
 その斉藤の声が終ると同時に斉藤の真上から声が響いた。
「ヒャハ!ヒャハハハハハハ!おい!そこデブ野郎ぉぉぉぉぉ!落ちるからあぶねぇぇぇぞっ!ヒヒ、アハハハハ」
 声がした方向へ斉藤と葉月が視線を送ると秋也が斉藤目掛けて落ちてくる所だった。
 ドゴォォォォ!
「ごぉぉぉおおおおお!」
 秋也の攻撃の直撃を受けた斉藤は地面に叩きつけられた。
「ヒャハ!おいおいさっきは結構やってくれたようだなぁぁあ。俺の腕が壊れてたからな~♪」
 秋也はそう言うと自分の両腕を振り上げて見せた。
「もう・・・治っているのか。なんて再生の速さなんだ」
「ヒヒヒ、お前は・・・どうなのかなァァァァァッァァッァァァァ?」
 秋也はそう言うと振り上げた両腕の手を握り締めて斉藤の両肩に振り下ろした。
 ドン。と音が斉藤の両肩から響いたと同時に斉藤の両肩は存在をなくしたようにダランと胸と腕が直接繋がっているような形でぶら下がっていた。
「がぁあああああああああああああああ!」
「気持ち良いかぁぁぁぁ?わかっただろ?俺との格の違いィィィィィィィィィィ!ヒャハハハハハ!」
 そう言うと秋也は後ろへ跳んだ。秋也はニィと笑い斉藤に対して言った。
「さぁ立ち上がれよぉぉぉ。お前から攻撃をして来い。力の違いをみせてやんよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。アハハハハハハ」
 斉藤は立ち上がり秋也の方へ走りながら言った。
「あまりなめるなぁぁぁぁ!!」
 そう言うと斉藤は両足で踏み切り、ダイビングヘッドで秋也に向かって突っ込む。
 どごぉぉぉぉ。
 秋也は斉藤のダイビングヘッドに対し自分自身も頭突きで対応した。地面に落下したのは勢いを着けたはずの斉藤の方だった。すぐさまに秋也は斉藤のトサカのような髪を掴み持ち上げて言った。
「イヒヒヒ!力の差ぁぁぁぁ解ったろ?それじゃ、お・わ・か・れ・だぁぁぁ」
 秋也は持ち上げた反対側の腕を振り上げ斉藤の胸部に突き刺した。
 ザシュウウウウウウウウウ。
「ぐぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「アハハッハハハ。どうだ?いてぇぇぇか?まぁすぐに灰になるからよぉぉぉぉ。お前は中々・・・・・うぐ!」
 秋也は突き刺している最中に胸にかかっている首飾りが目に入ってしまったらしい。
「は!俺、また・・・・」
「うぐ・・・まさか・・・・これ程までの力だったとはな。さすが主族と言ったところだ。主族の力がこれ程まで・・・とはな・・・ぐぅ」
 俺は斉藤に自分の腕が入っているのに気付き引き抜いた。
 ブシュウ!を血が吹き出た。
「ま、前田を仕留めたのも・・・・お、お前・・・・だな?・・・がっ・・」
「おい!そんなのはどうでうもいいんだ。主族ってのはなんなんだ?俺はなんだよ!」
「フ、フフ・・・ぐは。さっきの性格との違い・・・まだ不完全なんだな・・完全覚醒じゃないな・・。まぁいい。教えて・・・・・やろう。主族・・・・・とは・・・・ぐああああああああああああああ!!」
 斉藤が言葉を言っている内に斉藤はに灰になってしまった。
「畜生!何かわかりそうだったのに」
 俺は斉藤のいた場所を離れると葉月のいる場所に行き葉月に話しかけた。
「おい。葉月、大丈夫か?」
 そういうと葉月は答えた。
「大丈夫です。秋也君こそ大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。しかし主族や不完全とはなんの事なんだろうな」
「あいつの言った事ですね。もう少しで聞き出せたのに惜しいですね・・・」
「わるいな。俺がとどめさえ刺さなければ聞けたかもしれないのにな・・・」
「いいえ、秋也君が悪いわけじゃありません」
「しかしやっぱり俺は吸血鬼になる時は性格が変ってしまうらしいな。またこの首飾りに助けられたよ」
「また、覚えていないのですか?」
「いや、今回は記憶がある。と言うよりすべて俺のした行動って言う事がわかったよ。ただ、考えてる事が今の俺とは圧倒的に違いすぎる」
「そうなんですか?」
「ああ、そんことよりそこの女性をどうしようか?」
 葉月は少し悩み何か思い当たったらしく口を開いた。
「あ、前田勇次のやっていた事なのですが・・・我々には人の記憶や意識を操作する力があるらしいのです」
「奴は目を使って何かやってたな。眼力とかなんとか言ってたからな」
「はい。あれは邪眼とか言うらしいです。私・・・秋也君にも使われましたよ・・・」
「え、いつだよ?」
 俺は葉月にそう質問すると葉月の顔は瞬時に赤くなってうつむきながら答えた。
「あの・・・ふ、二人の馴れ初めの時です・・・」
「さ、そうか・・・んじゃ俺にも使えるのかな?多分葉月にもな。んじゃあやってみるか」
「はい」
 俺と葉月は気絶している女性に近寄った。俺は女を腕で抱え呼びかけた。
「おい、君、起きろ。おい!」
「ん・・・ん~?な、なに?」
 起きた女性は俺の顔を見ると青ざめた顔をした。
「き、牙!きゃあああああああ!」
(まずい大きな声を出されたら人が来るところではないが可能性は大きくなる。)
「静かに!落ち着け!」
 女は俺の言った声に反応して俺の顔を見た。その時、俺と目があったらしくビクッと震えて静かになった。
「はい。でもあなたたち誰なの?」
「俺たちの事はどうでもいい・・・いいか。俺の眼を見てくれ!」
 俺がそう言うと女は俺の言葉に従い俺の目を見た。
(さっきこの人に指示した時をおもいだせ。目に力を入れるんだ。)
「君の名前はなんだ?」
「私の名前は・・・・山本 泉」
 そう答えた瞬間、泉の目から意思の光が消えていく。
「泉か・・・いい名前だ。いいか、泉。お前は今夜の事を忘れる。今から言った事は理解できたら復唱する」
「私は今夜の事を忘れる。復唱する」
「そうだ。そして俺たちのこと勿論さっきの奴の事も忘れる」
「・・・・・忘れる」
「そして今夜の事は矛盾がないよう、人に聞かれたらいいわけをする」
「人にばれないようにする」
「そうだこの公園をでたらこれらを実行。そしてそのまま家に帰る。家に着くと泉、君は普段に戻る」
「公園をでたら実行。そしてそのまま家へ帰る。家に着いたら普段に戻る」
「おし、それじゃ。立つんだ」
 俺はそう言い終わると泉の身だしなみを整えてから言った。
「それじゃ、公園を出ろ」
 俺はそう言うと泉は公園の出口へ歩き始めた。俺はそれを確認すると葉月に話しかけた。
「何とか上手く行ったようだな。彼女は学生らしいな。一応、彼女の身分証明の内容を見せてもらい覚えておいたよ」
 葉月は俺の事を見て言った。
「さすが秋也君です」
「あとは彼女がきちんと家に帰るか確かめるか・・・念には念を・・・だな」
 その時、俺は嫌な予感がし、右の方向へ飛んだ。
 ビュッ!と言う音がし俺のさっきまでいた場所には銀色の矢のような物が刺さっていた。
「何!誰だ?」
 俺はその矢が飛んできた方向に顔を向けるとそこには人影らしきものがあった。その人影は俺が気付いた事に気付くと森の奥へ走り出した。葉月がそれに気付きその人影を追おうとしたので俺は手で制し言った。
「あれは俺が追う。葉月は泉という女性を家まで見届けてくれ」
 葉月は俺がそう言うとあからさまな不満な顔をして言った。
「それじゃ、秋也君が危険に会う可能性があります。だから私が・・・」
 葉月の言葉をすべて聞く前に俺は影に対して走り出しながら言った。
「このままじゃ見失う。お前より俺の方が早いし強い。違わないよな!これは命令だ!」
 走って森の方向に行っている俺に葉月の声が聞こえた。
「わかりました。気をつけてください!」
「まかせろ!」
 俺はそう言うと影が入って行った森に入った。
(思ったより視界が狭いな。暗いのは吸血鬼の状態の俺からすれば問題ないが・・・草と木が邪魔で前が見えない。)
 遥か前方に見えたので俺は全速力で影の後を追った。
(速い!この時間であんな前にいるとは・・・・)
 影は俺が追ってきたのに気付いたらしく走りの速度を上げた。
(これ以上差を広げられたらまずいな・・・)
 そう思った、俺はいっそう速度を上げた。
 影を追い30分位立った頃だった。
(ん?速度が落ちた・・・)
 影はさすがに体力がなくなってきたらしくガクンと速さが落ちた。
(おし!捕まえられ・・・)
 ドゴォォォォォ!
「うわぁああ」
(なんだとぉ??)
 俺が地面に足を着いた瞬間、地面が突然なくなり俺は落下した。
「落とし穴か?速度が落ちたのはこれを狙ってやったというのか?」
 ジャキ。ガガガガガガガガ!
 俺が底まで落ちた瞬間、落とし穴の壁の四方八方から銀の槍のような形をした物が突き出てきた。俺はその瞬間、上へ跳躍した。今まで俺のいた場所は人がいられる隙間がないほど槍で埋め尽くされていた。
 ジャ!ガガガガガガガ。
 俺の事をまるで追うように槍は下から順に打ち出されて来た。
(危なかった。俺が飛ぶのを一瞬でも遅れたとしたら今頃、俺は串刺しになっていた・・・)
 俺はその事を思うと青ざめた。
(葉月じゃなくて良かった。あいつの速さだったら危なかったかもしれない。影は・・どこに行った?)
 俺は取りあえず影が去った方向に何か仕掛けがないかを注意しながら走り出した。
 すると森が開けて海と崖が見えてきた。
(いた!)
 森が開けた先には影がうずくまっていた。その姿を見た俺はある事に気付いた。
「お、女か?」
 影の後姿は肩より長い髪が一本で結ばれていた。思ったより身体のラインは細くて出るとこは出ているまさに女性特有のプロポーションと雰囲気をかもし出していた。俺はその女性が動かないのを警戒してゆっくりと歩み寄り始めた。その時、女性が話し始めた。
「ふふ、ふふふふ」
 俺は奇妙な感じがして女に話しかけてみた。
「おい、何を笑ってるんだ!」
「いや、ね。あなた、もう終わりよ。うふふふ」
「何を言って・・・・」
 俺がそう言いかけようとした時、女は俺に背を向けてはいるが立ち上がった。その瞬間だった。
 パアアア!
 朝日が海から昇り始めた。俺は朝日を浴びた。
「ぐう!ああああああ!」
 女は笑いながら太陽に向かい手を開きながらまるで日光浴をしている様な格好をして言った。
「うふ、どう?綺麗でしょ?あなたが最期に見る・・・太陽の光よ」
 俺は朝日を浴び身体が変化して行っているのに気付いた。
「さぁ、そろそろ。灰になる頃ね・・・」
 女はそう言いながら俺の方向に振り返る。
「え?あれ?」
 俺の身体は完全に吸血鬼ではなく人間の姿に戻っていた。
「なんで?しかも・・・・」
 俺は驚いた女の姿を逆光で見にくいながらも目を凝らして見た。
「麗香先生!?」「阿久津君!?」
 二人の声がかぶった。そう俺の命を狙っていた。ひどく驚いた顔をした女は普段の眼鏡を掛けていないの一瞬違うとは思ったが間違いなく俺の担任の小泉 麗香だった。
「あなた・・・なんで?吸血鬼?え?人間?どういうこと?え?・・え?え?」
 俺はどうしようもないほどうろたえている麗香先生に歩み寄りながら言った。
「麗香先生こそなんで?こんな事を・・・」
「え?え?え?」
 俺は麗香の方に手を置いて言った。
「とりあえず落ち着いてください」
 その瞬間、麗香はビクッと震えて後ろに少し下がった。
「さ、触らないでく・・・下さい」
 俺は驚いて麗香の顔を見るとその顔は真っ赤に赤面していた。
「そ、その・・・お、男の人と接するの・・・ニガテ・・なんです」
 麗香はそう言った。その事があったからかさっきの気が動転しているのは治ったらしい。その代わり顔は俯き黙ってしまった。
 俺はある事が不思議になってその事を聞いて見た。
「だって学校じゃ普通に接してるでしょ?」
 そういうと麗香はなお一層、俯き今にも消えそうな声で言った。
「が、学校じゃ・・・モードが違うの・・・・」
「モ-ド?」
「め・・眼鏡っ・・・・掛けてるでしょ。あれ・・・で・・・気分・・・・転換・・・・・」
「なるほど眼鏡を掛けることで気分を変えてるんですね」
 俺はそんな事あるのか?と思ったが俺自身が不自然な状態なのでそのくらいの事はあるのかな?と解釈した。
「そう・・・で・・す・」
「それはわかりました。それで何でこんな事をやってるんですか?」
「そ、そ、それはぁ・・・・私が・・・阿久津君に対して・・・聞きたいですぅ・・・」
「それはそうですね。けど俺自身理解してないんです。しかも今じゃあんまり話にならないと思うから来週、学校で話しましょう」
「わ、わかり・・・ました」
「んじゃ、俺、帰るけど麗香先生、大丈夫?」
「は、はいぃ・・・・」
 俺は森の獣道ではなく舗装された道の方向へ振り返ると手を上げ麗香に言った。
「それじゃ!学校で」
 すると後ろから麗香の声が聞こえた。
「あ、あの!・・・・・」
 俺は振り返り麗香に言った。
「何ですか?」
 すると俯いたままの麗香はやっとのことで答えた。
「く、車・・来た・送ります・・・・」
 俺は何とか麗香の言いたい事を理解して笑顔で言った。
「んじゃ、お願いします」

 俺はあの後、麗香先生に送ってもらった。車の中でも麗香先生は終始、俯きっぱなしで前が見えてるのかと言う不安を俺に抱かせながら運転していた。車の中では会話は皆無だった。麗香から聞いた言葉は「つ・・・着きました。」と「そ・・それ・・・・じゃあ。」だけだった。
「眠い・・・・今日が日曜で良かった・・・・」
 俺はそう呟くと家のベッドに平伏した。

 その夜~谷津第八公園~
「やっぱり納得いかないのよね~」
 小林は公園で寝てたという理由に納得がいかなかったらしく公園を見に来ていた。
「ん~まぁ、少し見たら阿久津君の家にい~こうっと♪」
 そう言うと小林は公園の中を見回し、歩き回った。
「うわ~、なんか怖いな。夜の公園って・・・不気味っていうの?やっぱ阿久津君も連れてくるべきだったよ~」
 小林は身の底から来る怖さをごまかす為に独り言を言いながら公園をみまわした。すると小林は針葉樹林の中、そう小林が前に前田 勇次に襲われた場所に行きついた。
「やっぱりここだ!ここで変な男に声掛けられたんだ」
 そのその瞬間、小林の後ろから声がした。
「おい、女」
「そう、そんな風に!」
 小林がそう言って振り返るとそこには牙の生えた男が立っていた。
「・・・・ん?阿久津君?き、牙!きゃ~~~~~~!」
 小林はその男を見るととっさに叫んだ。男はそれを見ると睨みながら言った。
「五月蝿い!静かにしろ!」
「あ、あ・・あ」
 小林は男の言葉に逆らえなくなり黙った。
「質問に答えよ。お前は私の他に吸血鬼をみたか?」
「あ、あああ、いや」
 小林は恐怖で言葉が出なかった。男がそれに気付きさっきより強い言葉で言った。
「答えよ!」
「あ、ああ。み、ました」
「どんな奴だ?」
「小柄で髪型がオールバックでマフラーとコートをしてました」
「小柄、オールバック・・・か。違うな。他に見たか?」
「いいえ。そこで気を失ってしまったので・・・」
「そうか。それじゃ、お前を貰おう」
「え?」
 そう、言うと男は目に力をいれた。
「あ、何?いやぁ。か、身体が・・・・」
 小林の身体は火照って来た事に戸惑いを感じていた。
「さぁ、脱ぐが良い」
 男がそう言うと、小林は自分の着ていた服を脱ぎ始めた。
「え?止めて・・・身体が勝手にぃ・・とめてぇ」
 小林の抵抗は虚しく服を完全に脱いだら男はいう。
「自分で濡らすが良い。感度をあげてやろう」
「何を・・言ってるの?な、なに?」
 小林の手は自分の股間と胸に伸びてきた。そして自分で自分の場所を弄り始めた。
「え?やめてぇ・・・うん、ああ。だめ・・・あああ」
 小林の手は最初はゆっくりと緩慢だったが段々と速くなっていった。
 ぐちゅぐちゅ
「あ、あああああ。うあ」
 段々と声もでかくなって、息もあらくなる。立ったまま行為をしていた小林の腰が落ちていった。
「座っていいぞ」
 男がそう言うと小林は地面に落ちるように座った。それを合図のように小林の手は激しく動いている。
「あああああああ!あああああああああああぁあ!イクゥゥゥウウウウウウウ!」
「達したようだな。私のも準備してもらおうか」
 そう言うと男はズボンをおろし、自分の物をとりだした。
「さぁ、なめろ」
「ああ、いやぁ」
 言葉とは裏腹に小林の顔は男の物に近づいていった。
「さぁ・・・・なめろ」
 小林は恐る恐ると言った感じで男の物に下をつけた。
 ぴちゃ、と音がしたのが合図となり小林の舌の動きはスムーズになった。
 ぺろぺろぺろ。
「ほぉ大分慣れてるみたいだな。なかなか上手だ」
 小林は舐めているうちに我慢ができなくなったのか空いてるほうの手が自分の股間へ伸びていった。
「舐めるのはもう良い。しゃぶってもらおうか」
 小林は男の巨大な物を大きく口を開けて飲み込んだ。
「うぐぅ!ううぶうぅぅぅ」
 ぐちゅぐちゅ
 大きく開けた口をくわえた瞬間せぼめて首でピストン運動をし始めた。
「んん。んんんん」
 首を回したり緩急運動をする事によって男を喜ばそうとしている。
「なかなか上手いがソフトのはあきたな。噛むなよ」
 そう言うと男は小林の頭に手を置き小林の頭を揺らし始めた。
「ううううう。ぐうううううう」
 小林が苦しそうな声を出している。しかし股間の手は相変わらず止まっていない、いや、それよりハードになっていた。
 口端からよだれを垂らしている姿は他人から見れば獣に見えると言うほどの姿だった。
「よし、もういいぞ。さぁ尻をこっちに向けろ」
 男はそう言うと同時に小林の頭から手を離した。小林はそれに従い立ち、男に尻を突き出す形になった。
「いくぞ」
 そう言うと男は小林の股間に自分の物を入れた。
「ああああああああああああ!」
「入れただけで軽く達したか。良い感度だ。ん?初めてではないようだな。なら手加減はいらないな」
 男は腰の動きを加速し始めた。
 ズンズンズン!
「ああ!ああ!ああああ!狂うぅぅぅ!」
 ズンズン。
「ああああああああああああああ!だめぇぇぇ」
「思う存分狂うが良い」
 パンパンパン!
 男はとたんに動きを止めた。
「え?なんでぇぇぇえぇぇ?」
 男は突然小林に対して聞いた。
「女、後ろは経験あるか?」
「え?あん!・・・・う・・うしろぉ・・・って?」
 ずぶぅ。
 男は小林の肛門に指を挿して言った。
「ここのことだ」
「うぐ、あああ!ないです!そんな所ぉ・・・・」
「んじゃ経験するがいい」
 男はそう言うと前の穴から物を抜いて後ろの穴に一気に入れた。
 ずぅぅぅ!
「あああああああああああああ!ぐぅぅあああああああ!」
 男はゆっくりとだがピストン運動を始めた。
 ずん。ずん。ずん。
「ああああ!ああああ!あああああああああああ!」
「最初から感じているではないか」
 腰の動きが段々速くなって行く。
 パンパンパンパン。
「うううううううううううううううあああああああああああああああ!あああ!いく!もうダメ!壊れちゃう!」
「さぁ果てるがいい!」
 男がそう言うと同時に腰を突き出した。そして小林の首筋に牙を這わせた。
「いくぅぅぅうぅ!あああああああああああ!うあ。うわあああああああああああああああああああああああああああ!ああああああ!」
 男は小林が達するのと同時に這わした牙を首に打ち込んだ。
 ガシュ!
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 しばらくそのままの格好でいた男は小林から物を引き抜いた。
「さぁ、立つがいい」
 男がそう言うと小林はまっすぐ立った。小林の口からは牙が生えていた。
「お前、名は?」
「小林 由紀子と申します」
「よろこべ、由紀子。お前は私の従者となった」
 男がそう言うと小林は歓喜に溢れる笑みを浮かべ跪きいった。
「はい、ありがとうございます。これからよろしくおねがいします。ご主人様」
「ご主人様と呼ばれるのは趣味じゃない」
 男がそう言うと小林は青ざめて問う。
「しつれいしました。あなた様の恩名は?」
「俺の名前か?俺の名前は・・・・」
「阿久津・・・・阿久津・・・・司とでも名乗ろうか・・・・」

< 続く >

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