後編 倉木 優
諸君、私は快楽に屈服する美少女が好きだ
諸君、私は快楽に屈服する美少女が大好きだ
吐息が好きだ
視線が好きだ
表情が好きだ
匂いが好きだ
うなじが好きだ
あえぎ声が好きだ
脱ぎかけの下着が好きだ
公園で 自宅で
部室で 教室で
旅館で 温泉で
河原で 海辺で
街道で 神社で
この地上に存在するありとあらゆる快楽に屈服する美少女が大好きだ。
他人の目の前があるにもかかわらず身体の疼きが抑えられずに恥じらいながらオナニーをする姿が好きだ
あまつさえどうしても達することができずに物欲しそうな顔で懇願された時などには心が躍る
私の持つリモコンの目盛りを動かすとローターが動き美少女があえぐのが好きだ
日常にあるささいなことをとりあげてお仕置きと称して動きを最強にする時など胸がすくような思いであった
こってりと愛撫を行いながらも最も感じる所には決して触ってやらないで調教するのが好きだ
焦らされて焦らされ続けたあげくに錯乱状態で私に欲しいと必死におねだりする様など感動すら覚える
気の強い女性が絶え間なく与えられる快楽によって許しを請う様などはもうたまらない
恥辱的なポーズをとらせて撮影し後にその様を見せ付けながらまたいたぶるのも最高だ
私に対して嫌悪もあらわであった美少女が服従の証として首輪をつけて犬のように扱ったりメイド服を着せて朝も昼も奉仕させる時など絶頂すら覚える
手塩にかけて育てたメイドが寝取られてしまうのが好きだ
調教し従属を誓ったはずの美少女が他の男に犯され蹂躙されていく様はとてもとても哀しいものだ
自分の性癖を包み隠さず離してキモいといわれるのが好きだ
翌日にネタとして学園じゅうに私の性癖をばら撒かれ害虫のように扱われるのは屈辱の極みだ
諸君、私は美少女を快楽に屈服する美少女を望んでいる
諸君、私につき従うイチモツの中の精子諸君
君たちは一体何を望んでいる?
さらなる快楽に屈服する美少女を望むか?
情け容赦ない仕打ちを悦びと感じるマゾヒステリックな美少女を望むか?
知力と忍耐力の限りを尽くして次第に私に屈服してゆく気位の高い美少女を望むか?
「セックス! セックス! セックス!」
よろしい ならばセックスだ
我々は渾身の力をもって今まさに射精されようとする精子だ
だがこの暗い精のうの底で堪え続けてきた我々にただの自慰や気の強いだけの美少女ではもはや足りない!
美少女を!
心身ともに美しくかつ堕としがいのある美少女を!
我らの射出量はわずかに数ミリリットル、数にして4億程度の小さなおたまじゃくしにすぎない
だが諸君らの生命力は一騎当千の古強者であると私は信仰している
ならば我らは諸君と私とで総勢4兆と1を超えるスペルマとなる
「精悍膨大部より精のうを経由して前立腺へ」
目標、御門の膣内
第1次御門たんに快楽を教え込むセックス 状況を開始せよ
***
と、前置きする間に。
俺は四苦八苦しながらも、御門の手足を拘束していたロープを全て取り払っていた。
御門は、実にいい声で啼く。
どこもかしこも柔らかく、そしてすべすべとしている。男と身体のつくりが違うのは女だから当然なのかもしれないが、触れていて飽きがこない。こないどころか、いつまででも触れたくなるようないやらしい身体をしている。
反応がいい。
「んっ……く」
胸の谷間のあたりに舌を這わす。俺は両手を後ろに回し、御門の背中のあたりをまさぐっていた。手ごたえを感じ、外す。
はらり、と御門のブラジャーが落ちた。これで御門の身体を包むものは、白いパンティと紺色の靴下だけになる。
顔を動かし、その胸に唾液の線をつけながら移動する。御門の心臓は早鐘を打っていた。
桜色の、いやらしく尖ったしこりに到達する。そこを舐めつけ、少し前歯を立てた。
「ぁ、はぁっ」
御門がのけぞる。それでいて御門の腕は、快楽を離すまいとして俺の頭をかき抱いていた。俺は舌でつつくように御門の乳首を責め、片方の手をもう一方の胸に触れるか触れないかといった微妙な愛撫を施す。もちろん、こっちは胸の先には触ってやらない。
「ん……ぁ…」
御門はひとさし指を噛んで、必死に声を抑えていた。
俺は御門の胸から顔を離す。変わりに両手を使い、御門の柔らかい胸に滑らせる。さっきまで乳首を責められていた御門にとって、さぞや物足りない刺激だろう。
「優………くん………あの……」
もっと強く触って、といいかけ、ぐっとこらえる。女から誘うなんてはしたなさすぎる。
「どうした?」
御門は答えない。性格的に答えられない。代わりに必死に身体を動かし、敏感な胸の先が俺の指に当たるように調整しようとする。俺は人が悪いので、その動きをひたすらかわしながらやわやわと胸を弱く揉む。
「ぅ……ん…やぁ………」
ゆらゆらと、御門の綺麗な黒髪が揺れた。瞳には涙が溜まり、長いまつげを濡らす。しかし何かに悲しむような物憂げな表情というには、口はしから垂れた唾液と、瞳にある欲情の色は不相応だろう。
「どうして欲しい?」
「………………」
なおも黙っている御門。俺は御門の胸に這わせていた指で、一度だけ引っ掻くように乳首を刺激した。
「ん、あっ…!」
いい声だ。もっと聞きたくなる。
「どうして欲しい?」
再び、弱い愛撫に切り替える。これから先は、御門が頼むまでは強くしてやらない。
何十秒か、そんな状態が続いた時、御門はあと少しで泣きそうな顔で俺に懇願した。
「………く…て……」
「ん?」
言いたいことは分かるが、聞きたいのは聞き取れないほどか細い声ではない。
「もっと……無理やりでもいいから、強く……して」
「よろしい」
勝った。何に勝ったか分からんが、とにかく勝った。
じーんと支配欲が満たされる中、俺の手は御門の欲求どおりに少し乱暴に動いている。
胸を強く揉む。十分感じているためだろう、御門は痛がらなかった。そうしながら乳首を引っ掻いたりつまんで引っ張ったり、ボタンを連打するかのように何度も押したりと、やりたい放題だ。
「や…んっ………ああ、はぁ……いい……いいよぅ…」
半開きの口はしからつぅ、と一本垂れている唾液を、舐め上げるように舌を這わす。汚いなどとは微塵も思わなかった。そのまま俺は、御門に触れるだけのキスをした。
キスされるのには抵抗があったのかもしれない。御門は少し顔をしかめたが、しかし俺と唇を合わせるのを拒まなかった。
ぐちゃ…………
「あっ!」
御門の下着の中に、手を這わせる。鋭い声が返り、身体がこわばった。
凄まじく濡れている。胸への執拗な愛撫で、何度か軽く逝ってしまったのかもしれない。
「脚、もう少し広げてくれないか」
「……………」
御門は目を閉じ、答える代わりに行動で示した。
脚がやや開き、手を差し込むのに十分な隙間ができる。俺は指を少しだけ差し入れ、入り口のあたりをかき回す。
くちゅ………ちゅく…ぐちゅ…………
愛液が、淫らな音を立てる。
お互い座ったまま、御門は俺にすがるように抱きつき、俺の首筋に顔をうずめた。
「あっ………はぁ……いい…いいっ…」
あえぎ声を出すたび、俺の耳元にくすぐったく息がかかる。
まだ包皮を被っているクリを見つけ、細心の注意を払いながら触れる。
「ぁ、うあぁっ!」
びくんっと御門の身体がのけぞり、ついでガクガクと震えた。
逝ってしまったらしい。
「はぁ、はぁ、はぁ」
荒い呼吸をして、それでもまだ御門は俺に抱きついたままだった。
「逝ったし、やめるか?」
ああ、なんて俺は紳士なんだろう。
表彰されてもおかしくないだろう。もっともその表彰台にはギロチンが備え付けられていて、”生殖行為をせぬち●ち●など不要!”と、銘打たれているわけだが。
実際、股間ははちきれんほどに凸である。
普段、楚々としている御門が痴態を晒している。このシチュエーションに、俺の将軍様はそろそろ我慢がならないらしい。
「いえ……続けて……ください」
(σ゚Д゚)σゲッツ
心の中の喝采を御門に悟られぬよう、俺はいそいそと服を脱ぐ。
見るとズボンのあたりが、御門の滴によってかなり濡れていた。
「……おっきぃ……」
俺のモノを見て、御門がそう盛らした。………はて、実際はどうなのだろう。
御門を仰向けに寝かせ、正上位になるようにする。俺はモノを入り口でゆっくりと往復させ、御門の蜜を絡ませた。
「んっ…」
感じたのか、御門から声が漏れる。
しかし御門の身体はこわばっていた。初めてなのかもしれない。
俺は御門のわき腹に手を伸ばし……くすぐるように指をそろそろと動かした。
「あははっ……あっ!」
御門が笑い、身体から力が抜ける。その隙に俺は腰を前へと突き出した。
「うっ……あっ………」
一気に、というわけにはいかなかった。蜜は十分なほどに分泌され、すべりは良かったが、それ以上に処女特有の締まりによって動きが阻まれる。亀頭の先で、処女膜らしいものがぴりぴりと破れてゆくのが分かった。
御門の手が床を這う。何かつかめるものを探しているのか、ひどく力が入っているのが分かった。
悪いと思いつつ、俺は処女地を征服するようにモノを差し込んでゆく。
「あああっ………」
6、7割が入ったところで、俺は動きを止めた。
さすがに初めての相手に、子宮口にぶつかるほど挿入したりはしない。その手のゲームとは違い、奥の感触というのは本当に慣れた女ではなければ痛いだけなのだ。
「入ったぞ」
「………です、ね」
御門の目に溜まった涙を、手でぬぐってやる。
御門には悪いが、動かなくとも非常に………良い。下世話な言い方だが、名器の持ち主だった。俺のモノを窮屈にくわえ込む膣が、射精をうながすように収束と蠕動を繰り返している。それでいて、締め付けは少し痛いほどだった。
御門が、身じろぎをした。
俺のモノが、御門の膣でびくんっと反応する。
「んあっ」
………?
気のせいだろうか、御門の声はに甘いものが混じっている。
「動くぞ」
同意は求めない。
カリで膣内をこそぎとるように腰を引き、膣の襞を味わうように腰を突き出す。
「あっ、あぁっ」
御門が髪を振り乱す。痛みも感じているだろうが、それだけではない。むしろ快楽の方が強い。
その証拠に、御門の腰がくねるように動き、腕は俺を放さないように抱いている。
御門の胸に手を伸ばし、その感触を楽しみながら、散々に啼かせた。
御門はあえぎ、何度も何度も達した。
「逝くぞ」
俺にもまた、限界が来る。
短い間に学習した御門の感じるポイントをえぐり、ひときわ大きな喘ぎを出させると、俺は膣からモノを引き抜いた。
肉棒がはぜ、御門の身体を白く汚した。
***
御門の様子がおかしい。
昨日あんなことがあって、情緒不安定になっているのは分かる。分かるが、そういう種類のおかしさとは違うのだ。
現在進行形である。現在完了形ではない。
視線が、突き刺さっている。
後ろを振り向くと、御門がこちらをじっと見つめていた。
「ズキューン(゜∀゜)」
ハート型の矢が、俺のハートに突き刺さった。致命傷だ。
ああ、御門。そんなに熱い瞳で見つめないでくれ。昨日のことは忘れてくださいと俺に言ったばかりじゃあないか。それともあれをキッカケに俺に対する思慕の念に気づくことがようやくできたのかい?
…………なんて
俺がくだらん考えに至るほど熱っぽく、彼女は俺に視線を注いでいた。
見返すと、御門は慌てて目を逸らす。初々しいのぅ。
俺は立ち上がり、御門に近寄った。
「よぅ」
「……おはよう」
ちなみにこれが、本日はじめての御門との会話である。妙に、俺に対してよそよそしいというか避けてくれている。
「風邪は治ったのか?」
白々しい問いをする。美奈を問い詰めたところ、御門の症状は一週間ほどで安定するとのコトだが………。
「…………まだ、辛いです」
確かに、顔が赤い。声もか細いし、なにやら熱病に浮かされたかのような表情になっている。
「ふーむ」
「あっ」
無造作に手を伸ばし、御門の額にあてた。
クラスの野郎どもの幾人かの瞳から、嫉妬を燃料にした殺人光線が放たれた。だが生憎と、俺は分厚い面の皮で跳ね返していた。
「ちょっと熱っぽいな。辛かったらすぐ帰れよ」
「ええ。心配させてごめんね」
―――と、いう恋人ちっくなやり取りが今日の朝に行われた。
そして、2時限目。
どうやら俺は、フラグを立て間違えたらしい。
放課時間に御門に屋上に呼び出された。そこでの選択肢を失敗したのか、気づいた時には頬を叩かれていた。
俺は後ろにある、御門の席を見る。
御門の席は空だ。たぶん俺を叩いてすぐ早退したんだろう。
うーむ。胸の辺りにクレーターが開いたようだ。切ない。
本格的に嫌われたな。
授業が終わったら御門の家へ見舞いにいきたいのだが、果たして俺に会うだろうか………
なんて、軽いそううつ状態に浸ってマゾヒスティックな快楽にふけろうとした矢先。
背筋に、冷たいものが走った。
ダンッ!
立ち上がり、一足飛びに隣の机へ乗る。
本能は理性を凌駕する。理屈でも感情でもない。ハエの動体視力を凌駕するほどに研ぎ澄まされた、我がシックスセンスが継げている。
空を飛べ、と。
「来た来た来た来たキタキタキタキターーーーーーーーーーー!」
将軍様のお通りである。
広げられたノートを踏み潰し、ペンケースを蹴り上げ………俺は叫びながら机の上を走った。まともに床の上を走るには、座っている愚民どもが邪魔だったからだ。
疾風の如く………そう、まさに疾風の如くだ。100メートルを8秒台で走れるほどの速度で駆け、俺はあっけに取られる教師や生徒どもを尻目に――
ガシャーーン!
窓を突き破り、跳んだ。
俺のいた教室は、学校の4階。下はコンクリートだ。
ああ、さようならまだ見ぬ我が伴侶となる美女よ。
美奈………兄は、朝食の時にお前がかける第九番交響曲は嫌いではなかったぞ…………。
今での人生が走馬灯のように流れ、ほどなくして衝撃が全身を貫いた。
「ぐぁっ!」
即死ではない、ではないのだが……気が狂いそうなほどにいてぇ。
全身打撲、両足は骨折したみたいだ……それに……内臓のどれかが、間違いなく逝った。
1人分の人間の体重―――俺が空中でキャッチした―――が着地の瞬間、モロに腹部を圧迫したせいだろう。
「なんで………、なんで!?」
俺のすぐ傍で、御門の声がした。
そうだ。
俺は屋上から飛び降りた御門を、拾ったのだ。
「いよぉ……怪我は……ないか?」
言葉に混じって、胃からせりあがった血が吐き出てくる。
そして、俺は意識を手放した。
***
数日後。
ま~いにち、ま~いにち、僕らは病室の~
な~か~で伏せ~って、ヤになっちゃうな~
泳げ、た●焼きくんのテーマでお送りしました。
というわけで一命を取り留めた俺は、病院のお世話になっていた。
あえて言うが、精神病院ではない。普通の怪我を治すための病院だ。
脚は両方ともがっちりと、ギプスで固定されている。ちなみに背骨も折れていたらしい。一命をとどめていたのが不思議な状態であったそうだ。
ちなみに、美奈は連日俺の見舞いに来ていたらしい。らしい、というのは俺が少し前まで昏睡状態であったせいである。
「お兄様、死んだらどうするおつもりだったんですか?」
「ふっ。美奈よ。俺のようにかっこいい主人公は死なないのだ。自殺せん限りはな」
「はぁー、……呆れてモノも言えませんわ。まだ世界はおろか日本すら征服しておりませんのに」
「まぁ、生きていたんだからいたいけな兄をそういじめるな」
「美奈は心痛のあまり、お医者様から処方された痛み止め薬と青酸カリを取り違えてお兄様にお出ししそうになりましたのよ!?」
「…………」
美奈よ。
兄は、そんなお前のどこを突っ込めばよいのだ?
「とりあえず、学校には休学届けを出しておきましたわ。今はゆっくりと静養していてくださいまし。あ、それとこれ、お兄様の替えの下着や衣服と、暇つぶし用の道具です」
紙袋をベッドの近くに置き、中からごそごそとノートパソコンを取り出し、俺の前に置いた。
普段はアレな言動をとる美奈だが、こういう時は実に頼りになるものだ。
「性欲の処理がしたい時にはいつでも美奈に申してくださいまし。その為に個室を用意したのですから」
「あー、はいはい。そのうちにな」
これさえなければ、な。
美奈なりの愛情表現と思えばそれはそれでアレなのだが。
というわけで、命を取り留めた俺は大人しく病院で寝ていた。
その日の夜に、大きなイベントがあるとも知らずに。
夜になってしまった。
俺は病室のベッドで悶々としている。
身体のかなりの部分が、ギプスでがっちり固定されていて、寝返りすら満足にうてない。寝返りはともかくとしてオナニーもできん生活というのは少々……というか健全な男子にとってアレではないだろうか。
眠くねーが、寝なければならんらしい。
夜10時。消灯の時間である。病院の生活とは何と健康的であろうか。
身体も動かせず、午前中は寝て過ごしたために全く眠くない。それでも目を閉じ、うんうんと布団の中でうなっていると、廊下に響く足音に気づいた。
見回りか、と思った。
しかしその足音はだんだんと近づいてきて、ガチャ、とノブを回した。
入ってきた者を見て、俺はあっと叫びそうになった。
「ヽ(゚Д゚ヽ)美奈(/゚Д゚)/ちん(σ゚Д゚)σDEATH」
と、来ると思っていた。
だが、そこにいたのは御門だった。
「夜分、失礼します。優くん、起きてます?」
相変わらずの上品な動作で、御門は挨拶した。
「ああ。……………何でここにこれたんだ?」
夜の病院である。何故、こんな時間に訪ねたのかもわからなかったが、それ以上に病院に入り込めたこと自体が不思議だ。
「この病院は、うちの会社の系列ですから」
「ははぁ……」
忘れていた。御門は、わがままを言えば大抵の無茶は通る身分だった。
「で、夜這いに来たのか?」
「……………」
冗談のつもりだったんだが。
御門は夜目にも分かるほど、赤くなってうつむいた。
「俺に惚れたのか?」
調子に乗ったのか、さらに突っ込んで聞く俺。
分かっている。それは有り得ん。
御門にとって俺は単なる友達で、昨日抱かれたことも媚薬を盛られたことによる事故なのだ。
切なさが炸裂しそうだが、それが現実というものだ。
「何で、私を助けたんですか?」
「宇宙を浮遊しているカルビラス線が俺に命じたんだ。空を飛べ、と。助けたのはたまたまだ」
ちなみに俺に降り注ぐカルビラス線が1600万ゼノという数値を超えると、俺はしばらくスーパー化する。
どうでもいいことだが。
「馬鹿ですか、あなたは!?」
ようやく気づいたのか。
「よりエレガントにうつけ者と呼んでくれ」
「死んだらどうするつもりなんですか?」
「そしたら、英雄になった俺は御門の脳内でずーーと生きることになるだろうなぁ。日々美化されて」
待てよ。
むしろそっちの方が素晴らしいことかもしれない。
「……………」
「ちょっと、こっちに来い」
俺の言葉には、有無を言わせぬものが混ざっていた。
「はい……」
御門が近づく。射程距離に入ったところで、俺は御門の腕をぐいと掴んだ。
「あっ!」
と叫ぶ間に、御門の唇は俺の唇によって塞がれている。
頬を叩かれたお返しだ。いまさら嫌われようが、知ったことではない。
「ごちそうさま」
にやり、と俺は笑った。
「………怒らないのか?」
「怒ってる」
御門は俺を睨みつけようとしたが、その目にはどこか媚びる色があった。
「帰ります!」
ぷいっ、と御門はそっぽを向くと、ずんずんと歩き出していった。
はて。何をしに来たんだか。
***
風呂あがり、自室に備え付けられた鏡を見る。
お気に入りの青と白の縦じまのパジャマ。そこから伸びる、白くほっそりとした手。クセのない黒い髪は湯に湿り、手に持ったドライヤーの温風によってゆらゆらと揺れる。胸元は呼吸のたびにゆっくりと上下し、ほどよく育った胸が自己主張している。
「はぁ」
ついた吐息は、自分でも分かるほどに扱った。
「一体どうしたんだろう?」
本日何度目かの問いかけを口に出し、御門はまたため息をついた。
悶々とした夜が、ここのところ続いている。
原因は、あの男だ。
優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くん優くんユウくんユウくんユウくん………
ざわざわと、心のどこかが絶え間なく彼の名前を呼び続ける。
その声は抱かれた時から響き始め、しだいに大きなうねりとなっていた。
――まるで、気が違えてしまったようではないか。
1日ごと、1時間ごと、1秒ごとに、彼の存在が大きくなっていく。
身体が火照る。
「優くん……」
名前を、口に出す。
子宮が疼いた。
下着をぬらしてしまったのが分かる。
抱かれていた時を思い出し、体中の血が下腹に集まったかのように熱を持っていた。
このまま堕ちてしまえば、なんと幸せなことだろうか。
「ダメ! 絶対にダメ!」
御門は激しく首を振った。
これは偽者の感情で、偽者の思慕だ。
彼は自分に怪しい薬を盛った。屋上で彼自身がそう言ったではないか。
このまま篭絡されてよいのか?
否。
断じて否!
葵グループの一人娘である。葵という家を継ぎ、数万の従業員の上に立たなければならない立場だ。今まではそれが彼女の貞操の代わりを果たし、その結果男女の関係になるような相手は作らなかった。同世代には理解されぬことだろうが、責任感とそれを培ってきた帝王学
と、それに誇りが許さない。
生涯の伴侶は、自分の意志で迎える。
ましてや誰かの愛人になどなるものか。
という気概が、この葵 御門という女にはあった。
だからこそ、その気概、誇りが彼女を自殺という方向に駆り立てた。
卑怯な手段で意志を捻じ曲げられるよりは、死を選ぶ。
それにだ。優にもむかつく。
何故、男らしく告白してくれないのか。
そうしたらきっと笑顔で受け入れ――違う!
「違う違う違う違う!」
気が狂いそうだ。すでに狂っているかもしれない。
「何で、私を助けたの………?」
思考はそこに行き着き、そして優のことを否定しようとする力が弱くなる。
自分には、怪我ひとつなかった。優がそういう風に配慮したのだというのは考えすぎだろうか。
簡単な検査だけで、自分は家に帰宅することができた。
しかし優は、全治数ヶ月という重態だった。
そんな怪我をしながら、大丈夫か、と彼は聞いた。とても痛そうだったのに。
「優くん………」
再び、彼の名前を口に出す。
カタン、とドライヤーを化粧台に置く。髪は、十分に乾いていた。
ベッドに身を投げるようにして、寝そべった。ボスン、と音が鳴り、ぎしぎしとスプリングが揺れる。
「優くん……………」
手が、知らず知らず――いや、本当は御門の意志のもとで――はしたないところをまさぐっている。
パジャマのボタンを2つだけ外し、すでに硬くしこった胸のしこりをつねりあげる。
少し痛いが、とても気持ちいい。
もう1つの手をそろそろと下に動かし、太股の間へと滑り込ませる。
じゅく………
自分でも驚くほど濡れていた。
「ユウくん」
また、彼の名前を言う。それだけで甘い痺れが、背中を走る。
いい。
キモチイイ。
頭は彼のことでいっぱいで、彼の手を、彼の吐息を、彼の匂いを、彼の顔を、そして自分の処女を奪った彼のモノを思い浮かべている。
「ああっ………」
心のどこかが、警報を流している。
分かっている。すぐに浅ましい自慰をやめなければならない。
このままでは、どっぷりと彼の色に染まってしまう。
だが。
すごく、気持ちいい………
「気持ちいいよ、優くん……」
熱い吐息と共に、御門はゾクゾクと身体をふるわせた。
***
入院して、一週間が過ぎた。
美奈は毎日きて、実に甲斐甲斐しく俺の世話を焼く。対して御門は、あの夜以来きていない。
フラグ立てが失敗して、通常ルート2、妹エンドのエピローグというあたりだろうか。
美奈には悪いが、ちと、寂しい。
ノートPCのゲームをする気力もなく、ふて寝することにした。
ちゅっ
うとうとしかけた時、唇に柔らかいものが当てられた。紛れもない、キスの感触だ。
美奈め。
なんてベタな起こし方をするのだろうか。
と思いながら、目を開けた。
ところが、そこにいたのは美奈ではなかった。
「み、かど………?」
びっくりだ。
そしてさらにびっくりしたのは、御門の頬を涙が流れていたことだった。
「あれから毎日、考えて考えて考えて………考えるたびに優くんのことが頭に浮かんで………そしたら、どんどん愛しさが募ってきて…………」
御門はそう言うと、再び俺に唇を合わせた。
「貴方に、捧げます。だから………だからせめて、優しく扱ってください」
御門の言葉がどういう意味か、どうして俺にキスしたのか、理由らしい理由を俺は知らない。
だが、心のどこかで納得していた。
これは起こるべくして結果なのだ、と。
だからこそ冷静でいられたし、かけるべき言葉も分かっていた。
「分かった、約束する」
――こうして。
御門は、俺のモノになった。
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