男の子の夜が怖くなる 第一夜 母親が…

第一夜 「母親が…」

 由美男は、高校三年生になり、十八歳の誕生日を迎えようとしていた。

 その日は、この年はちょうど日曜日にあたっており、ずっと外国で仕事をしている父親も帰国して翌朝にはいったん家に寄り、近くの女子校で教員をしているという母親もやはり休みということで、家族三人でホーム・パーティーができると、由美男は喜んでいた。

 母親が勤務する女子校とは家が反対方向にある、中高一貫の私立男子校に通っている由美男は、ずっと髪の毛を長く伸ばしていた。学校の方針で、パーマや剃り込み、茶髪などの色染めは禁止にする代わりに長髪は認められていた。事実、男子でありながら女の子のように肩より髪を長く伸ばしている生徒も多数いたが、そのなかではやはり由美男がいちばんの長さを誇っていた。

 由美男は、少学六年生だった六年前の時点で肩のあたりまですでに伸びていたが、この学校に合格してから母親がこの時以来髪の毛を切らせなかった。身長も高くて体型もほどよくやせた、色白の美男子でまさしく少女漫画によくいるような、いわゆる美形少年に育った。

 母親も超長髪の持ち主でいつもは頭の上に高く巻いており、めったに髪の毛をおろした姿を息子には見せたことがなかった。母親は女の子が生まれたら自分の子供にも髪の毛を長くさせようと思っていたが、由美男のような男の子が生まれたので夢を断念させていた。しかし、男の子でも髪の毛を伸ばせるならそうしなさいと息子の入学が決まった時に母親は由美男に命じた。変な母親だと思いながらも(実は怪しげなのだが)、由美男もかねてから長い髪にあこがれがあったため、伸ばそうと決心していた。

 もちろん時々先を切りそろえるということはしていたが、今ではお尻のあたりまで黒髪が達している。それこそ、全国の同じ学年の女の子でもそんなにいないというほどの長さで、前髪もカットせず、ふだんはその前髪も含めて背中へすべておろしていたが、通学では黒いヘアゴムでひとまとめに首すじのあたりで束ねて後ろへおろしていた。

 その日の日付が変わって由美男の誕生日となった直後に恐怖がやってきた。

 いったん寝ていた由美男が髪の毛を整えるために起き出した。前夜おふろに入っていた時に洗って乾かしていた髪の毛がぱさついて気になってきたので洗面所の灯りをつけた。使っている櫛も女物だった。いくすじもの黒髪をゆっくりていねいにとかしながら、少し汗も出てきたので束ねようと考えた。洗面台には、太めの黒いゴムがすでに輪が作られて髪の毛を束ねられるようになって、しかも同じものがふたつも置かれていた。いつもの布のリングではなかった。

「これで、今夜のうちだけ、女の子みたいにふたつに分けて髪の毛を束ねようかな。そうだ、昔好きだった女の子みたいになってみよう」

 由美男は少学生の時にあこがれた同じ学年の少女が、やはり髪の毛を長くして三つ編みにしていたので、その少女を好きになるというより、少女みたいになりたいという思いだった。したがって、母親に髪の毛を切らないよう言われても抵抗がなく、女の子のように見られても髪を伸ばせることに対してはむしろ喜んでいた。

 片方の手首にゴムを巻き、鏡を見ながら由美男は左半分の髪を前に垂らして三つ編みを結いはじめた。ところが、もういっぽうの髪の毛を背中で編み始めた者がいた。由美男の母親だった。

「ママ、いつのまに起きていたの?」

 驚いてふりむこうとした由美男だった。

「あら、由美男ちゃん、おとなしくしてて。せっかく髪の毛を編むんだったら、こういうふうにしないと」

 由美男は編みかけたもう一方の髪の毛も母親にまかせようと思って手を休めた。

 片方の髪の毛が編まれ、前に垂らされると由美男はその毛先をつまんで見つめていた。もう一方の髪の毛も母親に編み直されて、両方とも髪の量が多いために太めの編み方にはなっているが、かねてからあこがれていた少女のようなおさげの姿になった自分を鏡で見て魅入ってしまう感じだった。もちろん、こうしたおさげは初めてだった。

「ママ、なんだか女の子みたいにきれいになったみたい」

「ほほほほ、由美男ちゃんったら、おとなしいから本当の女の子よりも女らしく見えそうね。今度、このかっこうでママのつとめている学校に来るといいわ。由美男ちゃんの獲物になりそうな長い髪の女の子がいっぱいいるわよ」

「ええ?獲物って?」

「由美男ちゃんの誕生日のために用意しているものよ。うふふふ、今から準備に入るわね。今日は十八歳になるんだから、いままでの一番の儀式をあなたにこれからママがしてあげるわ」

 母親は、頭にまとめていた髪止めをとつぜんはずして、由美男より長い、床下までとどくぐらいある黒髪をばさっとおろし始めた。髪をおろした姿をほとんど見たことがなく、しかも床にとどくぐらいまで伸びていたのを初めて見たので、もともと女性に対してはヌード写真より長い髪の毛にこうふんしてしまう由美男は、この時母親に対してもこうふんしはじめていた。

「はっ、ぼくの股にママの手が…」

「さあ、おまえにたっぷりと、女の味をみせてあげるわよ」

 母親が、由美男の着ていた寝間着の上から、ぼっきした由美男の性器のあるところに片手を近づけていた。

「やだ、ママ。なにするの?」

「うふふふふ、ママの髪の毛をおろした姿見ておちんちん立つなんて、由美男ちゃんもいやらしいわねえ」

 母親は、由美男のぼっきした性器に近づくあたりで、はいていた寝間着の、いわゆる社会の窓にあるボタンをはずして、そこから片手をつっこんで性器をまさぐりながらまた、片手で由美男の三つ編みの髪の毛が垂れ下がっているかたほうの肩をおさえつけ始めた。

「ママ、びっくりした。どうしてこんないやらしいことするの?」

「そういえば、パパも朝になったら帰ってくるけど、由美男ちゃんがこんなに髪の毛が長くなったのを見たらびっくりするでしょう。パパも長い髪の毛が好きでママと結婚したようなものだからね」

「ママ、こうふんしちゃうから、へんなところさわるのやめて」

「うふふふふ。パパもママの髪の毛を見てよくこうふんするのよ。うふふふ」

 由美男は鏡を見ると、母親の顔がとつぜん不気味に笑うようになっていた。そして、母親の目が光りだし、口から牙がはえてきて由美男のおさげを編んだはえぎわに近づいてきた。

「ママ、いったい急に、どうしたの?」

「ほほほほ。この誕生日に由美男ちゃんも…ママの…なか…ま…に…な…る…の…よ」

「ママ、えっ?」

「うっふふふ。この日を…待って…た…の…よ」

 母親はずっと以前から吸血鬼になっていたのである。由美男の前に垂れた長い太めに編まれた左側の髪の毛を自分の首で押し退けながら由美男の首に左側からかみつき始めた。

「痛いっ!ママ、やめて」

「うふふふふ。うふふふふ。由美男ちゃんのおちんちん、おっきくなってきたわ。うふふふ。うふふふふ」

「ああ…あ…あ…」

「ほほほほほ、ほほほほほ、由美男ちゃんもママに似て、けっこういやらしいことがわかるわ」

「う…う…ああ…」

 母親に噛みつかれながら、由美男はもだえ続けていた。吸血鬼の牙にはまた強力な毒があって、噛まれると想像を絶するような痛みを感じ、気持ちもおかしくなって、噛みつかれた相手の思い通りに動くような心になってしまうという。由美男もこうして母親と同じ吸血鬼になってゆくのである。また、母親に寝間着の社会の窓からパンツの穴もまさぐられ、とうとう自分の性器を握られてしまっていた。由美男の気はますます変になっていた。

「うふふふふ、うふふふふ、髪の毛を三つ編みしている子にこんなおおきなおちんちんがあるなんて、由美男ちゃんはおんな男ね」

「ああっ、ああっ」

「いひひひひ、いひひひひ、おまえも、吸血鬼に、な…る…の…よ」

「あーっ!」

 とうとう、由美男の精液もぶちゃーと飛び出してしまい、もういっぽうのおさげ髪もひっぱられたため、由美男は逃げようとしても逃げられなくなってしまった。

「おほほほほ。由美男ちゃんって、こんなに出しちゃうのね」

「ううっ」

「由美男ちゃんも、ママの学校にいる女の子の血を吸って、仲間を、ふ…や…す…の…よ」

「ママ、うっ…」

「くくくく」

「ママ…。ああん…」

 また首すじをがぶっとやられて由美男は気絶し、首を後ろにもたげた。由美男の首からは大量の鮮血がしたたり落ち、母親は息つぎを何度もしながら息子の血をくりかえし吸い続けていた。母親の口元にも吸いきれなかった血がよだれのようにしたたり落ちていた。

 母親が血を吸いつくすと、まもなく由美男が目をさまし、首を起こした。由美男の三つ編みにしていた長いふたつのおさげ髪も、ずるずるっとへびがはうように引きずっていた。

「さあ、由美男ちゃん、鏡を見るのよ」

 由美男は言われたように、鏡を見た。口を開くと、両側からとがった牙がはえていた。そして、自分の三つ編みの髪の毛をなでて不気味にしゃべりだした。

「うう、血、血がほしい」

「うふふふふ。由美男ちゃんもこれで吸血鬼よ」

 母親も由美男の三つ編みの髪の毛の、耳元の編んだ根元のあたりから肩にかかるあたりをなで始めながら不気味に笑っていた。

 こうして由美男も、恐ろしい吸血鬼となってしまったのであった。

< つづく >

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