不倶戴天 第1話

第1話・~恨み骨髄に徹す~

 親に捨てられた2人の学生生活は悲惨なものだった。
 数々の虐め・・・親戚の家族からの虐待・・・
 それでも2人は互いを支えに耐え続けた・・・

 が・・・・事件は起きた・・・・・

 龍正12歳の春・・・

「おい!お前親に捨てられたんだってなあ?」
 帰り道に柄の悪い4人に囲まれた龍正。
(またか・・・いつもの事だ)
「ああ。そうだ。やるんならさっさとやったらどうだ」

「へ、お前みたいな貧乏人は俺たちと対等にするんじゃねえよ!」
 4人組は龍正のバッグを取り上げ、遠くに投げた。
(ったく・・・面倒な事を)
 苛められるのにも慣れたのか、そう思っていた龍正はまだ甘かった。
 -ドスッ-
「かはっ」
 4人は苦しむ龍正を見て笑い蹴り始める。
(くそっ・・・こういう輩共が一番厄介だ・・・)
「まだまだ!」
 -バキッ-
(く、耐えるんだ・・・大切な物を失う苦しみに比べたらこんなもの・・・)

 出口の無い迷宮・・・まさしくそんな表現がふさわしいだろう。
 しかし、出口は現れるのだ・・お前が吹っ切れる事で・・・そして・・・全てを失う事で・・・・

 数日後、敬吾が病院に入院した。龍正は敬吾が受けた暴行の数々に絶句した・・・
「敬吾!どうしてだ!誰にやられた!」
「心配しないで、龍兄・・・か、階段から・・・落ちたんだよ・・・」
(敬吾!俺はお前を守ってやれなかった・・・何の為に俺は今まで耐えてきたんだ!)

 そこへ親戚のおばさんがあらわれ、金がかかるだのドジだのとさんざん暴言を吐いて去っていった。
 頭を下げておばさんを見送った龍正。
 そのとき、6年ぶりに能力を使って敬吾から記憶を読み取っていた。
(また使わせてもらうよ・・・「ライブラリー」発動!)
 ちなみにこのネーミングは、龍正が作者の為にとっさに考えた、とても安易な物である。
 何故なら、文面では発動のタイミングが伝わりにくいからだ。

 敬吾の図書館に入った龍正は、久しぶりの図書館を見渡した。
「背が伸びたからか?行動範囲がすごく増えたな。今まで分からなかった分野も今なら分かる。でもまだまだ高いんだな・・・先が見えない」
 棚は高く聳え立っている。

 敬吾のここ数日の記憶を見つけたが、手の届く位置ではなかった。
「無理か・・・脚立でもないのか?・・・まてよ?いくら背が伸びたって全部届くわけ無いじゃないか。ということは高い位置の本でも普通に取れるんじゃ・・・」

 龍正は本に手を伸ばし、「取りたい!」と強く念じた。
 すると本が棚から落ちた。
「っと。まだまだ新しい発見がありそうだが、今日はそんな暇は無いぞ」

 翌日の放課後、龍正は敬吾に暴行した2人を屋上に呼び出していた。
「お前達が敬吾に執拗な虐めを繰り返していたのは知っている。それを今とやかく言うつもりは無いが・・・暴行を受けて全治3ヶ月となれば別だ。今回の事に関して、敬吾に謝罪してくれ」
 2人の片方が答える
「やだなぁ。俺たちが暴行したって言うんですか?違いますよぉ」

 しばらく間をおいて再び答える
「・・・あいつ口を割ったんですか?あれほど口止めしたのに・・・でもさすがにやりすぎたと思いましたよ。いつものように遊んでいたら血を吐いて倒れちゃったんだから・・・そうか、バレてるなら殺しちゃおうかな?」
 龍正は内心は怒りに震えながらも、冷静を装ってポケットに手を突っ込んだ。
 父が残していったライター。親戚の家では自分の物など買えるはずも無い。
(クソ親父に頼る事になるとはな・・・さて、上手くいくかどうか)

 さっきの一人が言う。
「僕は柳川財閥の御曹司だ。あんたなんか足元にも及ばないよ」
 龍正も言い返す
「勿論。手を出すつもりは無いんで」
(手を出すのは貴様の心だ!「ライブラリー」発動!)

 図書館に入った龍正の手には、父の捨てていったライターが握られていた。
「やったぞ!まさかうまくいくとは思わなかったぜ。物を持ちながらだと図書館に持ち込めるのか!」
 正確には現実の龍正も持っている。
 そして龍正は記憶の本がある棚に火をつけて回った。
「こいつの記憶など!燃え尽きてしまえ!どうなるかは分からんが!貴様が実験台第1号だ!」

 御曹司が突然頭を抱えてわめきながら暴れだした。
「ぐわああっ!!ひぃぃっ!なんだあぁぁっ!?これはあぁぁぉぉっ!!」
 もう一人が近寄ると、御曹司によって突き飛ばされた。
 笑いながら御曹司を見る龍正。
 そして同時に、燃えて灰になる本を見ている龍正。
 彼の中でリミッターが一つ外れた。

「ははははは!・・・どうした?俺はなんにもしてねぇぜ?」
 御曹司は心を無くしたように倒れていた。
(凄まじい!記憶を弄るのには時間がかかるが、これなら火をつける時間だけで十分だ。あとは勝手に消滅してくれる・・・証拠を残さず人を廃人に出来る!そうか!この能力は復讐の為にあるのか!・・・これからは敬吾の敵は俺が一人残らず廃人にしてやる!)
 またリミッターが外れた。

 龍正はもう一人の方をじっと睨みつける。
「ひっ、やめろ!来るな!悪かった!もうしないから!」
「・・・まあいい。この方が虐めも減るだろう」
 もう一人は御曹司を置いて逃げ帰った。
「あ~あ。この御曹司君は誰が処理すんのさ・・・知らねぇ」

 逃げた子供は錯乱していた。
「あ、あいつは化け物だ・・・消してやる・・・この俺がヒーローになるんだ!はははははっ!」
 その子供はそれから学校を休んだ・・・
 家では「自分は敵を殺す主人公だ」とイメージしているに違いない。

 数日後、敬吾が退院した。
 帰りたい気持ちとは裏腹にいつものように虐めを受けて、夜遅くに帰路についた龍正の目に飛び込んできたのは、黒い煙と大量の野次馬だった。
(なんだ?・・・あの方角は・・・まさかっ!)

(そんなことあるわけねえよな?相手は10歳のガキだぞ?放火なんて真似・・・)

 龍正の不安は的中した・・・

 親戚の家は全焼し、龍正以外は全員・・・そう、敬吾も亡くなった・・・

 龍正の耳には野次馬の声がどこか遠くで聞こえていた・・・

 龍正の心には、弟の命を奪った奴への強い憎しみと、自分を散々利用した親戚のおばさんの一家が死んだ事への喜びが混在していた。
「あのガキしか居ねぇ!あの時逃がしてなければ敬吾は!いや、柳川への復讐などしなければ!こんな事が無い様に、敬吾に復讐の目が向かないように!俺自身に手を出す奴には復讐しなかったんだ!それなのに!・・・たった一度の復讐が裏目に出るなんて・・・ははっ・・・こんな運の悪い男居るのか?・・・俺のすることはことごとく無駄だ!」

 龍正の目には、かつての自分が見えた。
(俺にはもう失うものは何も無い・・・俺に勝負を挑んだことを後悔するが良い!)
 かつての自分が崩れ去る・・・ついに吹っ切れたのだ・・・
 そして未来は変化する・・・・・・
 いや、すでに能力によって導かれていたのかもしれない。

 野次馬の中には一人逃げた子供が口の端を吊り上げて傍観していた。

 龍正は姿を消した・・・もう頼る人など居ない。
 いや、もう誰も必要ない。能力さえあれば・・・

 龍正は夜の街中を一人で歩いていた。その狙いはちゃんとある。
「なあボウズ。お前が持ってる金貸してくれよ」
(現れた。7人組か!結構持ってそうだな)
 こうやって絡んでくる連中をあぶりだしていたのだ。

「ふふ・・・金はあなたがくれるんですよ」
「はぁ?おい皆、こいつちょっと拉致ろうぜ」
「・・・ふっ・・・といっても俺が勝手に貰うんですがね」

 悲鳴が7つ・・・

「全部で80はあるかな。あんたらずいぶん悪い事やってるんだねぇ。おかげで俺はいい思いが出来たわけだ。俺のために生きていてありがとう・・・ククク・・・」
 龍正は廃人と化した7人を踏みつけながら去っていった。

「安いアパートに豪華な外食。とりあえず生活ラインは確保できた。さて・・・本当の復讐をガキに見せてやる」

 数日後の早朝、弟の墓の前で龍正は手を合わせていた。
 龍正の心を表すような真新しい黒い服のまま、学校へと向かった・・・

 まだ早い教室に独り、窓側に寄りかかる龍正。しかも土足で。
 誰も居ないと思ったのか、勢い良く開いた扉とともに、学級委員の女の子が入ってきた。
(気の強そうな目をしている・・・屈服させるか)
「っ!?だ、誰!?」

 龍正が居たのは自分の教室ではなく、敬吾の教室。
「ああ。俺は敬吾の兄の龍正だ」
「あ、お兄さんですか。敬吾君、かわいそうに・・・」
(かわいそう・・・か。上手い芝居だ。普通の人なら信じてしまうだろうな。だが俺はなぁ、敬吾の記憶を見て全部知ってるんだよ・・・貴様も別グループの主犯格の一人だってことをな!・・・・・さあ、復讐の始まりだ・・・「ライブラリー」発動!)

 委員の女の子の図書館に入った龍正。
「いろいろ試したい事もあるんだ。今までは意味がわからなかったけど・・・例えばこっちの棚の本・・・」
 とりあえず彼女が植村由紀だという名前を知り、龍正が入った棚は「反射」の分類。
「書き換えられて反射と言ったら・・・あの反射だよな?」
 そう。例えるなら「パブロフの犬」。音を聴けばよだれが出る・・・
 ・・・これって利用できないか?

「放火の可能性もあるってテレビで言ってましたけど、どうなったんですか?」
(どうせあんたがやったんじゃないの?あんただけ無事なんて怪しいわ)
「うん。放火だと思う。火の気の無いところが火元だったし・・・」

(・・・そうだ、なんでこの人学校にこの服で来てるのかしら)
「あれ?でもなんで制服ではなく黒服なんですか?」
(黒服・・・なんだっけ?何か変な気持ち・・・)
「うん?なんでだろうね?」
「なんでだろうねって・・・面白い人ですね」

 その頃龍正は「状態」や「過去」の本も必死で調整していた。
 だが、無理に変えることは出来ない。特に記憶に関しては拒否反応を示す。
 それは自分の母親をもって立証済みだ。

(そうだ、私・・・黒服の先輩が現れたら付き合いたいと思ってたんだ・・・っけ?)
 -ドクンッ-
 由紀の顔は赤くなり、心臓の鼓動はみるみる加速していく。
(あ・・・やっぱりそうなの?こんなに胸がドキドキしてるもん・・・)

(そしていつも黒服の先輩と夢でいちゃついてたんだわ・・・多分)

(そしてわたしはキスをするのが大好きなの・・・きっと)
「あの・・・先輩・・・キスして欲しいです・・」
 -チュッ-
 軽い口付け・・・勿論龍正にとっては初だ。
(きゃっ・・・キスしちゃった・・・次は・・・次は?・・・?・・・)

 龍正の予想とは反して、由紀はディープもセックスも知らなかった。
(まじかよ・・女って早く覚えるんじゃないのか?)
 まじめだった龍正はそこら辺の知識には疎い・・・

(記憶に1から書き込むか・・・でも・・・)
 そう、自分が知らんのに教えられるか馬鹿者。
(馬鹿ってなんだよ!ってやべっ!もう20分経ってる!そろそろ人が来るかも・・・名残惜しいがお前は廃人だ)
 由紀は性行為について知らないおかげで交わりは防げた・・・
 が、廃人と化し心は死んだ・・・

 数人組で来ても、火を付けるだけなので時間は要らなかった。
(こいつらは全員共犯者だ。よってたかって敬吾を!)
 お情けか、虐めのレベルによって記憶を燃やす量を変えた。
 レベルの低かった子供は、今年の記憶ぐらいしか燃やされていない。

 そして例の子供が自慢げな顔で教室にやって来た。
 自分はラスボスを倒した正義のヒーロー気取りか?
 正義か・・・この話も後でしよう。

「お~っ・・・す・・・・?・!??」
 意思の無い顔で机に座る皆は不気味なものだ。まして自分が化け物と認めた男が目の前に居る。
 -キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン-
「やはりお前は時間ぎりぎりに来るんだな?おかげで皆呆けちまったぜ?」
 龍正の表情を見た放火犯は、自分の敗北を悟った。
(ああ・・・俺は終わった・・・)

「ふん。終わらせるしかないな。敬吾の記憶だと、担任は3分遅れてくる。じゃあな」
(ぐわああぁぁっ!!)
 龍正は声を出せなくしてから本を燃やした・・・

「敬吾・・・お前がどう思うとも俺は自分のやり方を曲げない・・・俺は俺の正義を貫く」
 敬吾は放火犯も机に座らせ、来るはずの人物を待っていた・・・・・

< つづく >

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